説明

圧電素子、インクジェットヘッド、画像形成装置、圧電素子及びインクジェットヘッドの製造方法

【課題】圧電体膜を用いた圧電素子に係わり、特に、駆動電圧を高くすることなく大きな撓み変形が得られる圧電素子を提供する。
【解決手段】
圧電素子を、櫛形形状の導電性弾性板2と、導電性弾性板2の各櫛歯部に設けた圧電素子セグメント1a〜eと、により構成し、圧電素子セグメントを。、櫛歯部の一方の面に順次形成した第1の圧電体膜3及び第1の電極5と、他方の面に順次形成した第1の圧電体膜4と分極方向が同じ第2の圧電体膜及4び第2の電極6と、により構成し、第1の電極5及び第2の電極6の接続点と、導電性弾性板2と、の間に電圧を印加することにより第1の圧電体膜3と第2の圧電体膜4が同方向に撓み変形して大きな撓み変動が起こるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電体膜を用いた圧電素子に関し、特に、大きな撓み変形が得られる圧電素子、これらを用いたインクジェットヘッド、画像形成装置、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインクジェットヘッドは、圧電素子によりインク滴を吐出するための圧力を発生する複数の圧力室と各圧力室にインクを供給する共通インク室と、各圧力室に連通するノズルから構成される。圧電素子の材料(圧電体材料)は主として、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が用いられている。
従来はPZTのグリーンシートを圧力室の形状に合わせて切断したものを積層し、これを焼結することにより圧電素子を作成し、振動板面に圧電素子を貼り付ける方式が用いられてきた。
その後、プロセスの簡略化と高密度配列を目的として複数の圧力室を形成したヘッド基板に振動板を形成し、成膜技術によりこの振動板の表面全体にわたって圧電体膜を形成し、この圧電体膜をリソグラフィ法により圧力室に対応する形状に切り分けて圧力室ごとに独立した圧電素子を形成することにより、圧電定数d31に基づく撓み変形を利用したベンドタイプのインクジェットヘッドを形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
ところで、インクジェット技術が産業用途分野でも利用されるようになり、インクも従来の低粘度インクだけでなく、高粘度インクも使用されるようになってきた。このためインクの吐出力の向上が望まれる。しかしながら、圧電体膜は圧電体のバルクに比べて圧電定数d31は約1/2に低下するため、圧電体膜を用いた圧電素子の変位量が小さくなるという問題がある。さらに、圧電体として用いられるPZTには酸化鉛が重量にして70%程度含まれるため、環境保全の観点から、PZTを非鉛系の圧電体材料に変更することが望まれている。しかし、非鉛系の圧電体材料を用いた圧電体膜の圧電定数d31はPZTを用いた圧電体膜の1/2以下と小さい。
このような背景のもと、非鉛系の圧電体層を積層することにより圧電素子駆動時の変位量を確保し、インクジェットヘッドのインク吐出力を向上する方法が提案されている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2で提案された圧電体膜を積層する構成では、圧電素子の駆動電圧が高くなるという問題と隣接ノズルの圧電素子の影響(クロストーク)を受けるという問題がある。
図9を用いて、従来の、圧電体膜を積層した圧電素子を用いたインクジェットヘッドにおける問題点を説明する。
図9(a)は圧電体膜を積層したタイプのインクジェットヘッドの断面を示す図である。
図に示すインクジェットヘッドは、複数のノズル111(a〜e)を有するノズルプレート115、隔壁112で囲まれた複数個の圧力室113(a〜e)から構成される圧力室基板110、その上部の振動板114の表面に形成された圧電素子100から構成される。
圧電素子100は、複数の圧電素子セグメント100a〜eからなっており、振動板114の表面に順に、各セグメントに共通の第1電極101、圧電体膜102、セグメント毎に有する第2電極103(a〜e)、圧電体膜104(a〜e)そして第3電極105(a〜e)が形成された2層の圧電体層からなる。
圧電素子セグメントの代表例として100aを取り上げて説明する。
第3電極105a、圧電体膜104a、第2電極103aがエッチングにより各圧力室に対応して分割されているが、圧電体膜102と第1電極101は分割されることなく、前記複数の圧力室上部の振動板114面上に配置されている。これは圧電材料、特に非鉛系圧電体材料はエッチング速度が遅いため量産性を考慮し、分割を上の層の第3電極105、圧電体膜104、第2電極103のみとしたためである。
【0005】
図9(b)は圧電素子への駆動電源への接続形態を示す図であり、圧電素子セグメント100bに注目して記載されている。
第1電極101を共通電極とし、分割された第3電極群105a、105b、105c、105d、105eからそれぞれ、FPC(Flexible Printed Circuits:フレキシブルプリント基板)130を介して、それぞれ駆動電圧源131a、131b、131c、131d、131eに接続される。
この構成においては、下記の問題点がある。
(1)圧電素子の変位量および変位圧力は圧電体膜に印加される電圧に比例する。しかし、圧電体膜が2層シリーズに積層されているため、圧電素子の駆動電圧をV0とすると、各圧電体膜の一層あたりの印加電圧はV0/2に低下する。このため、各層への印加電圧をV0とするには電源電圧を2V0にする必要があり、ドライバーICは高電圧タイプとなり、高圧電源と含めコストアップになる。
(2)ノズル密度が高くなると、圧電素子セグメントのピッチWpは短くなり、おのずと隣接する圧電素子セグメント間の距離Wkは狭くなる。圧電素子セグメント100aに着目すると、隣接セグメント間の圧電体膜102の領域に斜め電界Eが働くため、この領域で撓み変形が生じ、この影響が隣接する圧力室113bに干渉して、ノズル111bからもインク滴120bが吐出するという異常吐出の現象が発生する危険がある。
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、各圧電素子セグメントの駆動電圧を高くすることなく大きな変位量が得られる圧電素子を提供するとともに、隣接するノズルへの干渉の無い吐出特性に優れたインクジェットヘッド、及び、これを搭載したインクジェット装置及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、櫛形形状の導電性弾性板と、該導電性弾性板の各櫛歯部に設けた圧電素子セグメントと、を備え、各圧電素子セグメントは、前記櫛歯部の一方の面に順次形成した第1の圧電体膜及び第1の電極と、前記櫛歯部の他方の面に順次形成した前記第1の圧電体膜と分極方向が同じ第2の圧電体膜及び第2の電極と、から構成され、各圧電素子セグメントにおいて、前記第1の電極及び前記第2の電極の接続点と、前記導電性弾性板と、の間に電圧を印加することにより、前記第1の圧電体膜と前記第2の圧電体膜が同方向に撓み変形する圧電素子を特徴とする。
また、請求項2の発明は、前記導電性弾性板は立方晶系の金属薄板、前記圧電体膜はチタン酸ビスマスナトリウム系あるいはアルカリニオブ系、チタン酸バリウム等の非鉛系の圧電体材料により形成される請求項1記載の圧電素子を特徴とする。
【0007】
また、請求項3の発明は、前記導電性弾性板の材料は白金、ルテニウム、イリジウム、銅、金、銀、アルミニウム、ニッケル、ステンレスから選択される請求項2記載の圧電素子を特徴とする。
また、請求項4の発明は、複数のノズルを有するノズルプレートと、該ノズルに対応する複数の個別圧力室を有する圧力室基板と、該圧力室基板に設けた振動板と、該振動板に接合した請求項1乃至3の何れか一項記載の圧電素子と、を備え、前記圧電素子の各圧電素子セグメントにおいて、前記第1の電極及び前記第2の電極の接続点に電圧を印加して前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜を前記振動板方向に撓み変形させ、該変形により各圧力室内のインクを加圧することによりインク滴を対応する各ノズルから吐出させるインクジェットヘッドを特徴とする。
【0008】
また、請求項5の発明は、請求項4記載のインクジェットヘッドを備える画像形成装置を特徴とする。
また、請求項6の発明は、櫛形形状の導電性弾性板と、該導電性弾性板の各櫛歯部に設けた圧電素子セグメントと、を有する圧電素子の製造方法であって、導電性弾性板の両面に、前記圧電素子セグメントを構成する圧電体膜及び電極を順次形成する工程と、前記圧電体膜及び前記電極を、前記導電性弾性板が両面で櫛形形状に露出するようにドライエッチングする工程と、前記導電性弾性板を、前記櫛形形状の櫛歯部分の領域及び前記櫛歯を連結する部分の少なくとも一部をウェットエッチングにより除去する工程と、を備えた圧電素子の製造方法を特徴とする。
【0009】
また、請求項7の発明は、櫛形形状の導電性弾性板と、該導電性弾性板の各櫛歯部に設けた圧電素子セグメントと、を有する圧電素子の製造方法であって、櫛形形状に形成した導電性弾性板における各櫛歯部の両面に、前記圧電素子セグメントを構成する圧電体膜及び電極を順次形成する圧電素子の製造方法を特徴とする。
また、請求項8の発明は、シリコン単結晶あるいはガラスからなる圧力室基板の一方の面に振動板を形成する振動板形成工程と、前記圧力室基板を他方の面からエッチングすることにより、インクを充填するための複数の圧力室を形成する圧力室形成工程と、前記振動板の、前記圧力室とは逆の面に、前記複数の圧力室に対応する複数の圧電素子セグメントを有する圧電素子を接合する工程と、前記圧力室基板のエッチングをされた側にノズルプレートを接合する工程と、を有し、前記圧電素子が、請求項6又は7記載の製造方法によって製造されるインクジェットヘッドの製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧電素子は前述のように圧電体膜は2層であるが、各圧電体膜は導電性弾性板の両面に形成され、各圧電体膜の表面に形成された電極と前記導電性弾性板の間に電圧を印加する圧電素子構成のため、印加した駆動電圧がそのまま各圧電体膜に印加される。この結果、駆動電圧値は1層の場合と同じでありながら、大きな変位量の圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の圧電素子の構造の一例を示す図。
【図2】本発明の圧電素子の製造法を説明する図(その1)。
【図3】本発明の圧電素子の製造法を説明する図(その2)。
【図4】本発明の圧電素子に振動板を接着して構成したアクチュエータを示す図。
【図5】本発明の圧電素子を用いたインクジェットヘッドの構成を示す図。
【図6】本発明のインクジェットヘッドの圧電素子と駆動電源の接続状態を示す図。
【図7】本発明のインクジェットヘッドの別の実施例を示す図。
【図8】本発明のインクジェットヘッドを用いた画像形成装置を説明する図。
【図9】従来の、圧電体膜を積層した圧電素子を用いたインクジェットヘッドを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の圧電素子の構造の一例を示す図である。
図1に示すように、本発明の圧電素子1は、複数個の圧電素子セグメント、例えば1a、1b、1c、1d、1eから構成されている。ここでは、5つのセグメントからなる例を示しているが、この個数に限定されないことは言うまでもない。
図1の圧電素子1は、導電性弾性板2の両側に圧電体膜3、4を設け、さらにそれらの面上に電極5、6を設けた構成となっている。すなわち、導電性弾性板2の両側に圧電体膜3及び電極5、圧電体膜4及び電極6を順次形成した構成である。
例えば圧電素子セグメント1aに着目すれば、導電性弾性板2aの両側に圧電体膜3a、4aを設け、さらにそれらの面上に電極5a、6aを設けている。
各圧電素子セグメントは長さLs、幅Wsで、厚みtは電極5、6の厚み、圧電体膜3、4の厚み及び導電性弾性板2の厚みの総和である。
【0013】
導電性弾性板2は櫛形形状で、櫛歯部2a、2b、2c、2d、2eが複数個の圧電素子セグメント群(1a、1b、1c、1d、1e)に対応し、それぞれが領域2kの部分でつながっている。領域2kは、2a、2b、2c、2d、2eの領域を電気的に接続する目的で設けられたものであり、その幅Ldは、各圧電素子セグメントの変形が干渉しない程度に小さいことが望ましい。これにより、各圧電素子セグメントは、それぞれの電極5、6に印加される電圧によって独立したたわみ変形を生じる。
導電性弾性板2としては、立方晶の結晶構造を持つ、厚み1μmの白金箔を用いた。圧電体膜3、4は導電性弾性板2の両面にアルカリニオブ酸塩系の非鉛圧電体をスパッタリング法で形成したもので、厚みはそれぞれ1μmである。圧電体膜の圧電定数d31は50×10―12(m/V)と、非鉛系の圧電体膜としては高い値が得られた。ちなみに、導電性弾性板材料としてFe42−Niや燐青銅を用いた場合には配向性が悪く、圧電定数d31は上記値の数分の一と小さい。電極5、6はPFマグネトロンスパッタリング法で形成したものである。なお、材料としては白金に限らずニッケル等の材料を用いることができる。
本実施例では、圧電体膜としてアルカリニオブ酸塩系の材料について説明したが、チタン酸ビスマスナトリウム系、チタン酸バリウムを用いても良い。
【0014】
次に、かかる圧電素子の製造方法を説明する。
図2は本発明の圧電素子の製造法を説明する図である。
図2(a)に示すように長方形状の導電性弾性板2(白金製)の片方の面に、ビスマス、ナトリウム、チタンをそれぞれ含有する金属化合物を溶媒に溶解させた溶液をスピンコート法により塗布後、約150℃で乾燥し、さらに300〜400℃で脱脂することを5回繰り返して片面に厚み1μmのチタン酸ビスマスナトリウム系圧電膜を形成した。次に、もう片方の面に同様の工程で厚み1μmの圧電膜を形成した。その後、酸素雰囲気中で600〜750℃の温度で熱処理を行い結晶化を行った。
次に、図2(b)に示すように圧電体膜3、4の表面に厚み0.1μmの白金電極5、6をスパッタ法により形成した。
さらに、図2(c)に示すようにドライエッチングにより、電極5、6、圧電体膜3、4を圧電素子セグメント形状にエッチングした。
次に、図2(d)に示すように、導電性弾性板2を王水等のエッチング液を用い、共通電極部2kと各圧電素子セグメント形状の櫛歯部2a、2b、2c、2d、2eを残してエッチングし除去した。これにより図1に示すような圧電素子セグメント1a、1b、1c、1d、1eを有する圧電素子が得られた。圧電体膜のトータル厚みは2μmであるが、実際のエッチング厚みは1μmであるため、従来の積層構造の圧電体膜(2μm)よりもエッチング時間を短くすることができる。
本実施例ではチタン酸ビスマスナトリウム系の圧電膜を用いた圧電素子について説明したが、アルカリニオブ酸塩系、チタン酸バリウムを用いても良い。
【0015】
図3は本発明の圧電素子の製造法の別の実施例を示す図である。
図3(a)に示すようにプレス等の機械加工法やエッチング法により、厚み2μmの櫛形形状の導電性弾性板2(白金製)を形成する。
次に、図3(b)に示すように、櫛歯部2a、2b、2c、2d、2eの両面にスパッタリング法により、厚み2μmのアルカリニオブ酸塩系の圧電体膜3、4を形成した。
次に、図3(c)に示すように、両圧電体膜3、4面に白金電極膜5(a〜e)、6(a〜e)をスパッタリング法により形成した。これにより図1に示す本発明の素子が得られた。
【0016】
図4は、本発明の圧電素子に振動板を接着して構成したアクチュエータを示す図である。
図4にしたがって、本発明の圧電素子の動作を説明する。
圧電素子1を図4(a)に示すように、表面にアルミニウム、ニッケル、銅等の導電膜8が形成された振動板7に、導電性接着層15により接着することにより振動板に撓み変形を生じさせるアクチュエータとなる。電源23の電圧V0を20Vとすると、圧電体膜3、4には、それぞれ20Vが印加され、その時の振動板7の変位量は600nmとなった。
導電性弾性板2の図中上側の面には圧電体膜3が、さらに圧電体膜3の表面には電極膜5が形成され、導電性弾性板2の図中下側の面には圧電体膜4が形成され、さらに圧電体膜4の表面に電極膜6が形成されている。
圧電体膜の厚みは0.5〜10μm、好ましくは1μmから5μmである。圧電素子1は表面にストライプ状の導電膜8が形成された絶縁性の振動板7の表面に導電性接着層15により接着されている。振動板は絶縁材料であっても、金属薄板の両面を絶縁処理したものでもよい。振動板の厚みは1〜数μmが望ましい。符号21、22はそれぞれ、圧電体膜3、4の分極方向であり、両分極方向を共に下向きとした。圧電膜はスパッタリング法、CVD法、溶液塗布法等によって導電性弾性板2の表面に、また、電極はPFマグネトロンスパッタリング法で圧電体膜3、4の表面に形成することができる。圧電素子の電極膜5と6を接続して同一端子、導電性弾性板2を、もう一方の端子として、直流電源23にスイッチSを介して接続する。ここで、直流電源23の電圧値はV0である。スイッチSが開放された状態では圧電素子1、振動板7とも平坦である。
【0017】
図4(b)はスイッチSを閉じて直流電圧V0を圧電素子に印加した時の撓み変形状態を示したものである。圧電体膜3、4にそれぞれ電圧V0が印加される。圧電体膜3では分極方向22と電界方向24が同方向であるため圧電体は長手方向に対して収縮、一方、圧電体膜4では逆に分極方向21と電界方向25が逆方向であるため長手方向に対して伸張する。この結果、圧電素子1は下を凸にして変形する。この結果、圧電素子1と接着された振動板7は電源をオン−オフすることにより、撓み変形を繰り返す。
【0018】
以上、述べたように本発明の圧電素子1は図9(b)に示した従来の構成の圧電素子の場合と異なり、各圧電体膜に電圧V0が印加され、電源電圧を2V0に増加させることなく、大きな変位量を得ることができる。上述のように、圧電体膜の材料としては、環境保全の観点から、鉛を含まない非鉛系の圧電体、例えばチタン酸ビスマスナトリウム系{(Bi,Na,Ba)TiO3}やアルカリニオブ系{(Na,K,Li)NbO3}、チタン酸バリウム{BaTiO3}を使用することができる。非鉛系圧電体材料膜はPZT薄膜に比べて結晶の配向が難しいため、導電性弾性板2の材料として白金、ルテニウム、イリジウム、銅、金、銀、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等の立方晶系の材料を用いることが望ましい。すなわち、立方晶材料である導電性弾性板の表面に圧電体の薄膜を形成すると、導電性弾性板の結晶構造が、上記圧電体膜の結晶構造に影響を与え、圧電体膜の結晶の配向性が向上する。なお、この配向規制力のおよぶ範囲は1〜数μmである。このため、本発明のように立方晶系の材料を用いた導電性弾性板の両面に1〜数μm厚の圧電体膜を形成すると配向規制力は圧電体膜内に充分作用するため、良好は結晶配向が得られる。
【0019】
図5は本発明の圧電素子を用いたインクジェットヘッドの構成を示す図である。
図5(a)は、本発明のインクジェットヘッドの分解斜視図である。
符号1は本発明の圧電素子、符号7は振動板であり、表面に複数個のストライプ形状の導電膜8a、8b、8c、8d、8eが形成されている。符号9は圧力室基板でシリコン単結晶基板のエッチング加工によって形成されたもので、隔壁12により区画された複数個の圧力室10と共通インク室11を有する。13は複数個のノズル14が形成されたノズルプレートである。上記の各圧電素子セグメント、各圧力室、各ノズルが、それぞれ対応するように組み立てられる。
組立時の位置精度は、あらかじめ位置合わせ用のピン穴(図示せず)を各構成部材に設けておくことにより確保することができる。
また、本発明の圧電素子1は、圧力室基板の複数の個別圧力室に対応して、複数の圧電素子セグメントに分割されており、また、各圧電素子セグメントは、独立して撓み動作を行うため、隣接するノズルへの干渉が無い優れた吐出性能を有するインクジェットヘッドを提供することができる。
【0020】
図5(b)はインクジェットヘッドの断面構造を示す図である。
図に示すように、圧電体膜3、4は各圧力室に対応して分割されている。
圧電素子1の電極6と振動板7の表面に形成された導電膜8を導電性接着層15により電気的かつ機械的に接着している。各圧力室の幅Wp、長さLpと圧電素子セグメントの幅Ws、Lsとの間には、Wp>Ws、Lp>Lsの関係がある。
なお、図5のインクジェットヘッドの製造方法は、例えば以下の通りである。
【0021】
図5(a)において、図1の場合と同様に、圧電素子1の圧電体膜3、4の厚みはそれぞれ1μm、各圧電素子セグメントの寸法Wsは60μm、長さLsは1.5mm、Ldは0.5mmである。これはノズルピッチが85μmの300npi(ノズル/インチ)のインクジェットヘッドとするためである。この図では振動板7と圧力室基板9が別体に記載しているが、実際は一体構造であり、1枚のシリコン基板(厚み200μm)の上側の面を熱酸化することにより絶縁膜SiO2を形成した後に、下側の面から異方性エッチングすることにより圧力室10と共通インク室11を形成した。エッチングされずに残された部分が隔壁12となり、絶縁膜SiO2の部分が振動板7となる。振動板7の厚みは1μmで、その表面にアルミニウム、ニッケル、銅あるいは白金等により導電膜8a、8b、8c、8d、8eを形成した。圧電素子セグメント1a、1b、1c、1d、1eをそれぞれ、導電性接着層(図示せず)により、導電膜8a、8b、8c、8d、8eに接着した。
この導電膜8は、圧電素子1の下電極6の電極引き出し機能と振動板の機能を有する。導電膜の幅WLと圧電素子の電極の幅WSについては、WL≧WSの関係が望ましい。WLをWSよりも多少拡げておくことにより、圧電素子1を振動板7に接着する際に位置合わせ精度の裕度を向上することができる。ノズルプレート13には、ニッケルやステンレスの薄板(厚み数十〜数百μm)に穴加工によりノズル14(a〜e)を形成する。ニッケル材の場合は電鋳法、ステンレスの場合にはプレス加工により行うことができる。
なお、ノズルプレート13は圧力室基板9に絶縁性接着剤を用いて貼り合わせる。
【0022】
図6は本発明のインクジェットヘッドの圧電素子と駆動電源の接続状態を示す図である。
複数の圧電素子セグメントのうちの1aを代表例として説明する。圧電素子セグメント1aの電極5aと導電膜8aをリード線16aで接続して同電位とする。
図には示されていないが、複数の圧電素子セグメントの信号電極端子である導電膜8a、8b、8c、8d、8eからFPC18を用いて、各駆動電源19a、19b、19c、19d、19eの高電圧端子に接続する。一方、導電性弾性板の2kの部分からリード線17により各駆動電源の共通端子(通常、アース電位)と接続する。電極5aと導電性弾性板2aで挟まれた圧電体膜3aと電極6aと導電性弾性板2aで挟まれた圧電体膜4aに、それぞれ、電圧V0(但し、電界方向は逆方向)が印加され、図4(b)に示すような下に凸となる大きなたわみ変形が発生し、高粘度インクであっても、圧力室10a内のインクは加圧されノズル14aから、インク滴20aが安定に吐出される。
【0023】
本実施例はシリコン単結晶基板を用いた場合について説明したが、ガラス基板をエッチング加工することにより、圧力室基板を作成することができる。
さらに、本発明のインクジェットヘッドの吐出性能を説明する。駆動電圧V0を20Vとした時、圧電体膜3、圧電体膜4にそれぞれ20Vが印加され、それぞれ撓み変形を生じる。このときの振動板の最大変位は600nmである。一方、図9(a)に示す従来のインクジェットヘッドでは駆動電圧V0が同じ20Vの時、各圧電体膜3、4に印加される電圧はそれぞれ10Vであるため、振動板7の最大変位も約300nmに低下する。
すなわち、振動板が圧力室のインクを押し出す力も本発明のインクジェットは、従来ヘッドの2倍と大きくなる。さらに、圧電素子が圧力室基板の複数の個別圧力室に対応して複数の圧電素子セグメントに分割されているため、選択された圧電素子セグメントの撓み変形が隣接する圧力室に影響をおよぼすという問題は生じない。この結果、圧電定数の小さい非鉛系の圧電体材料を用いても吐出性能に優れたインクジェットヘッドを実現できる。また、圧電体のトータル厚みは2μmであるが、導電性弾性板の両面の圧電体膜(1μm厚)を個別に加工できるため、エッチング加工速度が遅い非鉛系圧電体であっても、従来の積層構造に比べて加工に要する時間が短く、生産性にも優れる。
従来のインクジェットヘッド製造法では圧力室基板/振動板上に、圧電体膜を直接形成していく方法であるため、圧電体素子製造工程において不良が生じると、圧力室基板/振動板および圧電体素子のいずれも不良品となる。しかし、本発明では圧力室基板/振動板と、圧電素子は別体で形成されるため、一方が不良になっても、もう一方を活かすことができる効果もある。
【0024】
図7(a)は本発明のインクジェットヘッドの別の実施例を示す図である。図5(b)のインクジェットヘッドとの違いは、圧電素子1の電極6を省略したもので、導電性接着層15が電極6を兼用する構成である。これにより電極6を形成する工程を省略できるため、インクジェットヘッドの製造コストの低減を図ることができる。
図7(b)は本発明のインクジェットヘッドのさらに別の実施例を示す図である。本発明のインクジェットヘッドの実施例である図5(b)との違いは、圧電素子の電極6および振動板7の表面に形成していた導電膜8を省略したもので、導電性接着層15を圧電体膜4面より少しはみ出させることにより、はみ出した領域で電極5との間で接続をとる。これにより、導電性接着層15が電極6および導電膜8を兼用する構成となる。これにより電極6および導電膜8を形成する工程を省略できるため、インクジェットヘッドの製造コストのさらなる低減を図ることができる。
【0025】
図8は本発明のインクジェットヘッドを用いた画像形成装置(インクジェット装置)を説明する図である。
図8(a)は複数個のインクジェットヘッド(26a、26b、26c、26d、26e、26f)をヘッド取り付け基板27に千鳥配置したラインヘッド28の構成を示す。
インクジェットヘッド26a、26c、26eで一列のノズル列、インクジェットヘッド26b、26d、26fで一列のノズル列を形成し、両列のヘッドの駆動タイミングをずらすことにより、一列のライン記録が可能となる。
図8(b)はラインヘッドを用いた高速連帳カラーインクジェットプリンタの構成を示す。
ラインヘッド28a、28b、28c、28dは、それぞれ、黒画像、シアン画像、マゼンタ画像、イエロー画像形成用ラインヘッドである。ロール紙等の記録媒体29が給紙装置30から引き出され、ラインヘッド群の下を通過時に4色のインク滴が記録媒体上に吐出されてカラー画像が形成され、定着装置31を通過後、巻き取り装置32により巻き取られる。
ここで、定着装置31はインクが水性インクの場合にはロールヒータや熱風乾燥機や、インクがUVインクの場合には紫外線照射装置(ランプ、UV−LED)を意味する。
カラー印刷対応ライン記録インクジェット装置では、4個のラインヘッドを配置するため、装置に占めるヘッドの容積が大きく装置の小型化が難しいという問題があったが、本発明のインイッジェットヘッドは圧電体膜を用いた薄型のヘッドであるため、装置の小型化を図ることができる。なお、図8(b)では省略したが、ラインヘッド28aの上流側に用紙の表面処理液塗布装置を設けても良い。
なお、用紙の搬送系をカット紙対応に変更すれば、カット紙にも対応できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0026】
1 圧電素子、1a〜e 圧電素子セグメント、2 導電性弾性板、2k 共通電極部、
3(a〜e) 圧電体膜、4(a〜e) 圧電体膜、5(a〜e) 電極、6(a〜e) 電極、7 振動板、8(a〜e) 導電膜、9 圧力室基板、10 圧力室基板、10a〜e 圧力室、11 共通インク室、12 隔壁、13 ノズルプレート、14 ノズル、15 導電性接着層、16a リード線、17 リード線、19a〜e 各駆動電源、20a インク滴、21、22 分極方向、23 直流電源、26a〜f インクジェットヘッド、27 基板、28、28a〜d ラインヘッド、29 記録媒体、30 給紙装置、31 定着装置、32 装置、100 圧電素子、100a〜e 圧電素子セグメント、100、101 電極、102 圧電体膜、103 電極、103a 電極、104 圧電体膜、104a 圧電体膜、105 電極、105a 電極、110 圧力室基板、111 ノズル、111b ノズル、112 隔壁、113 圧力室、113b 圧力室、114 振動板、115 ノズルプレート、120b インク滴、
131a 駆動電圧源、E 電界方向、
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開平5−286131号公報
【特許文献2】特開2007−266346公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
櫛形形状の導電性弾性板と、該導電性弾性板の各櫛歯部に設けた圧電素子セグメントと、を備え、
各圧電素子セグメントは、前記櫛歯部の一方の面に順次形成した第1の圧電体膜及び第1の電極と、前記櫛歯部の他方の面に順次形成した前記第1の圧電体膜と分極方向が同じ第2の圧電体膜及び第2の電極と、から構成され、
各圧電素子セグメントにおいて、前記第1の電極及び前記第2の電極の接続点と、前記導電性弾性板と、の間に電圧を印加することにより、前記第1の圧電体膜と前記第2の圧電体膜が同方向に撓み変形することを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記導電性弾性板は立方晶系の金属薄板、前記圧電体膜はチタン酸ビスマスナトリウム系あるいはアルカリニオブ系、チタン酸バリウム等の非鉛系の圧電体材料により形成されることを特徴とする請求項1記載の圧電素子。
【請求項3】
前記導電性弾性板の材料は白金、ルテニウム、イリジウム、銅、金、銀、アルミニウム、ニッケル、ステンレスから選択されることを特徴とする請求項2記載の圧電素子。
【請求項4】
複数のノズルを有するノズルプレートと、該ノズルに対応する複数の個別圧力室を有する圧力室基板と、該圧力室基板に設けた振動板と、該振動板に接合した請求項1乃至3の何れか一項記載の圧電素子と、を備え、
前記圧電素子の各圧電素子セグメントにおいて、前記第1の電極及び前記第2の電極の接続点に電圧を印加して前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜を前記振動板方向に撓み変形させ、該変形により各圧力室内のインクを加圧することによりインク滴を対応する各ノズルから吐出させることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項5】
請求項4記載のインクジェットヘッドを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
櫛形形状の導電性弾性板と、該導電性弾性板の各櫛歯部に設けた圧電素子セグメントと、を有する圧電素子の製造方法であって、
導電性弾性板の両面に、前記圧電素子セグメントを構成する圧電体膜及び電極を順次形成する工程と、
前記圧電体膜及び前記電極を、前記導電性弾性板が両面で櫛形形状に露出するようにドライエッチングする工程と、
前記導電性弾性板を、前記櫛形形状の櫛歯部分の領域及び前記櫛歯を連結する部分の少なくとも一部をウェットエッチングにより除去する工程と、を備えたことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項7】
櫛形形状の導電性弾性板と、該導電性弾性板の各櫛歯部に設けた圧電素子セグメントと、を有する圧電素子の製造方法であって、
櫛形形状に形成した導電性弾性板における各櫛歯部の両面に、前記圧電素子セグメントを構成する圧電体膜及び電極を順次形成することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項8】
シリコン単結晶あるいはガラスからなる圧力室基板の一方の面に振動板を形成する振動板形成工程と、
前記圧力室基板を他方の面からエッチングすることにより、インクを充填するための複数の圧力室を形成する圧力室形成工程と、
前記振動板の、前記圧力室とは逆の面に、前記複数の圧力室に対応する複数の圧電素子セグメントを有する圧電素子を接合する工程と、
前記圧力室基板のエッチングをされた側にノズルプレートを接合する工程と、
を有し、前記圧電素子が、請求項6又は7記載の製造方法によって製造されることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−167702(P2010−167702A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12980(P2009−12980)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】