説明

在来軸組木造建築物の耐力壁構造

【課題】 在来軸組木造建築物の柱間に構造用合板を止め付けることにより壁倍率を高めた耐力壁構造として、特殊な構造用面材を用いることなく、一般的な構造用合板により大きな壁倍率が得られ、筋交いが不要で、施工性にも優れた耐力壁構造を提供する。
【解決手段】 筋交いを用いることなく、厚さ9mm以上の構造用合板6の外周部を、柱1、土台2、梁3等の軸組材に対し100mm以下の間隔で、材料規格SWCH18Aまたはこれと同等以上の品質を有するビス7により止め付け、壁倍率を4.0以上となるようにする。軸組材どうしの接合部は補強金物8で補強し、必要な強度を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、在来軸組木造建築物を、リフォームに際し、耐震補強するための耐力壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木造建築物の代表的な構造形式としては、在来軸組工法による構造と、ツーバイフォー工法による構造がある。
【0003】
ツーバイフォー工法が面的な抵抗機構を有するのに対し、在来軸組工法は柱や梁などの軸組材による線的な抵抗機構によるものであり、開口部の自由度の面では在来軸組工法が勝っているが、地震に対しては一般的にツーバイフォー工法が有利であるとされている。
【0004】
また、耐震基準の改正に伴い、既存の木造建築については耐震補強が必要となっている。在来軸組工法の建築物において、従来は柱と梁などで囲まれる部分に筋交いを入れて補強していたが、構造用合板などの構造用面材による壁補強が認められ、高い壁倍率を実現するためには筋交いと構造用面材を併用するのが一般的である。
【0005】
従来、在来軸組木造建築物の耐力壁については、厚さ7.5mm以上の構造用合板をN50のくぎで15cm以下の間隔でくぎ打ちすることで、壁倍率2.5が得られるとされている。また、筋交いによる補強では、所定の筋交いを取り付けることで、壁倍率2.0が得られとされている。
【0006】
従って、壁倍率4.5を確保しようとすると、上記構造用合板の壁倍率2.5に、筋交いによる壁倍率2.0を加えることで、壁倍率4.5となり、すなわち筋交いが不可欠であった。
【0007】
しかしながら、筋交いによる補強は筋交いの端部を柱と梁などの接合部に取り付ける場合、強固に固定する必要があり、またこの接合部に応力が集中するため、その部分の補強が必要となる。このような仕口部の補強や筋交いの固定に関しては各種建築金物が開発されているが、狭い仕口部のみでの取付け、補強には限度があり、取付け作業が煩雑となり、取付金具、補強金物などのコストも嵩むという問題がある。
【0008】
これに対し、特許文献1には、在来の木造住宅における構造用木製合板あるいは構造用木製パネル等に替えて繊維補強モルタル合成板を採用することにより、耐用年数増加、耐震性向上、および耐火性能の向上を図った技術が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、在来工法で施工された木造建築物の耐震補強に関し、構造用面材として、構造用合板の表裏面にMDF(中質繊維板)を一体に積層して強度を高めた板状部材を用い、軸組にビスで止め付けることで、壁倍率を3.56倍としたとする技術が記載されている。なお、その場合のビス間隔は150mm程度とされている。
【0010】
また、特許文献3には、耐力壁を構成する土台の上面と構造用合板の下端面との間に、床面材が配置可能な隙間を設け、土台の上面に、床面材の端縁部分を載置できるようにし、床面材を支持するための床受部材を土台に設ける必要がなくし、床の構築作業を容易にし、構造用合板および床面材の両方に接合される受材を設け、受材を介して構造用合板と床面材とを連結し、かつ梁および土台の中間部分どうしを連結する間柱を設け、この間柱で枠材を補強し、これにより、3倍率以上の耐力を耐力壁に確保するという技術が記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開平11−107366号公報
【特許文献2】特開2000−291130号公報
【特許文献3】特開2006−090036号公報
【特許文献4】特開2006−037394号公報
【特許文献5】特開2002−061316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のように、従来の在来軸組木造建築物の耐震補強において、壁倍率4.5以上の大きな壁倍率を確保しようとすると、筋交いが不可欠であり、接合部の補強等も含め、施工が煩雑で、コストも嵩むという問題があった。
【0013】
また、特許文献1や特許文献2記載の技術は、構造用面材の改良により、壁倍率の向上を図ったものであるが、構造用面材としてのコストが嵩む上、得られる壁倍率は十分でなく、より大きな壁倍率を確保するためには筋交いが必要となる。
【0014】
特許文献3記載のものは、従来の耐震補強構造とは構造が異なり、施工が煩雑となる上、やはり得られる壁倍率は十分でなく、より大きな壁倍率を確保するためには筋交いが必要となる。
【0015】
これに対し、本願の発明者は、上述のような課題の解決を図るべく、検討を重ねた結果、所定以上の厚さの構造用合板を、所定以上の材質および引抜き抵抗を有するビスで、従来一般的な止付け間隔より短い間隔で止め付けることで、筋交いを用いることなく、壁倍率を4.5以上とする耐震補強が可能であることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、在来軸組木造建築物の耐震補強において、特殊な構造用面材を用いることなく、一般的な構造用合板により大きな壁倍率が得られ、筋交いが不要で、施工性にも優れた耐力壁構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願の請求項1に係る発明は、在来軸組木造建築物の柱間に構造用合板を止め付けることにより壁倍率を高めた耐力壁構造において、厚さ9mm以上の構造用合板の外周部を軸組材に対し100mm以下の間隔で、材料規格SWCH18Aまたはこれと同等以上の品質を有するビスにより止め付けることで、筋交いを用いることなく、壁倍率を4.0以上としたことを特徴とするものである。
【0018】
構造用合板自体は、市販の一般的な構造用合板を用いることができるが、基準にある厚さ7.5mmでは不十分であり、本発明では厚さ9mm以上のものを用いることで、壁倍率を4.0以上、通常は4.5以上とすることが可能となる。厚さの上限は特に定めないが、厚すぎても耐震強度への寄与がそれほどでない反面、ビスによる止付けが困難となるので、15mm以下が望ましい。
【0019】
市販の構造用合板の寸法としては、例えば900mm×1800mm、910mm×1820〜2730mm等があるが、寸法に関しては補強の対象となる軸組の寸法等に応じて使用しやすいものを選択することができる。構造用合板の強度等に関しては、1級、2級の区別があるが、1級のものが好ましい。
【0020】
構造用合板の軸組への止付け間隔は、基準にある150mmでは不十分であり、本発明では構造用合板の外周部の止付け間隔を100mm以下とする。また、丸くぎは引抜き力の作用で止付けが緩み、本発明の条件である壁倍率4.0あるいは4.5が確保できないので、緩みが生じ難いビスを用いる。外周部以外を軸組内の間柱その他の縦材、胴つなぎ等の横材に止め付ける部分については、必ずしも止付け間隔を100mm以下としなくてもよい。
【0021】
また、本発明では、壁倍率4.0あるいは4.5を確保する上で、ビスのネジ部による引抜き抵抗が不可欠な要素となっているが、引抜き抵抗に見合う材質的な強度が要求されるため、材料規格SWCH18Aまたはこれと同等以上の品質を有するビスを用いることとした。また、ビスは割れが生じたりするなど軸組材を傷めないようにしなければならないが、比較的短いビスでも必要な止付け強度を得るためにもこのような品質のものが条件となる。
【0022】
ビスによる構造用合板の軸組への止付けは、直接、柱等の軸組材に止め付ける場合と、柱等に沿わせた受材を介して止め付ける場合とがある。
【0023】
以上の条件のもとに、軸組材の接合部に補強金物を取り付けることで、筋交いを設けることなく、壁倍率4.0あるいは4.5が可能となる。補強金物は従来から各種のものが用いられているが、必要な強度が確保でき、かつコンパクトで、構造用合板を軸組材に止め付ける作業の支障にならないものを選択すればよい。
【0024】
請求項2は、請求項1に係る在来軸組木造建築物の耐力壁構造において、前記ビスは、先端側に先端ネジが形成され、頭部の付根部に首部ネジが形成され、前記首部ネジの長さが前記先端ネジの長さより短く、かつ前記首部ネジのネジピッチが前記先端ネジのネジピッチより小さいものであることを特徴とするものである。
【0025】
上述のように、本発明では従来の丸くぎでは不十分であり、ビスを用いるが、首部ネジのネジピッチが前記先端ネジのネジピッチより小さいものを用いることで、構造用合板の軸組材等への止付けにおいて、軸組材等に割れなどが生じるのを防止することができ、かつ構造用合板を確実に止め付けることができる。
【0026】
このようなビスは、例えば、特許文献4(特開2006−037394号公報)などにも記載されている。
【0027】
請求項3は、請求項1または2に係る在来軸組木造建築物の耐力壁構造において、前記軸組材と前記構造用合板との間に、テープ状に成形した粘弾性体を介在させてあることを特徴とするものである。
【0028】
テープ状に成形した粘弾性体としては、例えば、特許文献5(特開2002−061316号公報)などにも記載されたものがあり、市販のものとしてはアイディールブレーン社製の商品名「制震テープ」などがある。
【0029】
テープ状に成形した粘弾性体は、構造用合板を止め付ける前に、軸組材の表面に貼り、その上からビスで構造用合板を止め付けることで、地震の際にエネルギー吸収効果が発揮され、耐震性がさらに向上する。特に大きい地震において、エネルギー吸収効果、変形抑制効果が高い。
【0030】
請求項4は、請求項1、2または3に係る在来軸組木造建築物の耐力壁構造において、軸組材どうしの接合部を補強金物で補強してあることを特徴とするものである。
【0031】
前述のように、補強金物は従来から各種のものが用いられており、耐震補強おいて実質的には必須のものであるが、必要な強度が確保でき、かつコンパクトで、構造用合板を軸組材に止め付ける作業の支障にならないものを選択すればよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の耐力壁構造によれば、在来軸組木造建築物の耐震補強において、筋交いを用いることなく、また特殊な構造用面材を用いることなく、4.0以上、実質的には4.5以上の大きな壁倍率が得られ、構造が簡素化されるため、材料加工も容易で、施工性にも優れ、所要の強度を備えた耐力壁を低コストで実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図2は、本発明との比較のために、壁倍率を4.5倍とする場合の従来例を示したものである。この例は、左右の柱1と下側の土台2と上側の梁3とで構成される在来軸組木造建築物の軸組について、筋交い19と隅角部などに取り付けた補強金物18等により、壁倍率2.0を確保し、さらに構造用合板16などの構造用面材をくぎ17で取り付けることで、壁倍率2.5を確保し、これらの足し合わせにより、壁倍率4.5とするものである。
【0034】
この場合、厚さ7.5mm以上の構造用合板16を、150mm以下の間隔Pでくぎ打ちして止め付けることとされている。
【0035】
しかしながら、図2に示すように、筋交い19を配置するに当たり、間柱4や胴つなぎ5との取り合い、柱梁接合部に対する固定、補強金物18等との取り合い(実際にはさらに幾つかの異なる補強金物を併用する場合が普通である。)など、加工面および施工面において煩雑な作業が必要である。
【0036】
これに対し、図1は、本発明の耐力壁構造を示したもので、筋交いを用いずに壁倍率を4.5以上とすることができる。図3および図4は、それぞれ図1の実施形態に使用されるビス7と補強金物8の一形態を示したものである。
【0037】
すなわち、本発明では、それ自体は一般的な厚さ9mm以上の構造用合板6を用い、その外周部を柱1、土台2、梁3などの軸組材に対し、100mm以下の間隔でビス7により止め付ける。なお、図示した例は、従来例を示した図2の場合と同様、900mm×1800mmの構造用合板6と900mm×900mmの構造用合板6を縦に取り付けた場合であるが、構造用合板6の大きさについて特に制限はなく。例えば、市販の900mm×2700mmあるいは910mm×2730mmの構造用合板を用いた形での壁補強も可能である。
【0038】
ビス7は、通常用いられているくぎの材質に比べ、強度の高いものを用い、材料規格SWCH18Aまたはこれと同等以上の品質を有するビスとする。
【0039】
図3に示したビス7は、市販の材料規格SWCH18Aのものであり、先端側に先端ネジ7bが形成され、頭部7aの付根部に首部ネジ7cが形成され、首部ネジ7cの長さが前記先端ネジの長さより短く、かつ首部ネジ7cのネジピッチp2が前記先端ネジ7bのネジピッチp1より小さくなっている。また、頭部7aの裏側、すなわち付根部に複数の突起7dが形成され、止付けの際、構造用合板6の表面に食い込み、ビス7の緩みを防止することができる。
【0040】
このようなビス7の使用により、構造用合板6の軸組材等への止付けにおいて、軸組材等に割れが生じ難く、かつ構造用合板6を軸組材等にしっかり止め付けることができる。
【0041】
図4に示した補強金物8は、板状の柱側接合部8aが板状の梁または土台側接合部8bより長いL形の補強金物であり、柱1と土台2または梁3との仕口部の内側に沿わせ、ビス孔8eにビスを通して取り付ける構造のものである。
【0042】
この図4の補強金物8は、板状の柱側接合部8aと板状の梁または土台側接合部8bの交わる隅角部8c部分について板材を面外方向に湾曲加工した補剛部8dを形成することで、柱1と土台2または梁3との仕口部の内側にコンパクトに納まる高強度の補強金物としたものであり、軸組材について特別な加工が不要であり、構造用合板6の止付けも支障なく行うことができる。
【0043】
なお、以上は最良の形態を例示したものであり、ビス7や補強金物の形態等、上記のものに限定されず、また、必要に応じ、従来使用されている各種補強金物を併用することができる。
【0044】
図5は、本発明の耐力壁の試験結果を示したもので、厚さ9mmの構造用合板の外周部を軸組材に対し100mm以下の間隔で、材料規格SWCH18Aのビスにより止め付けた試験体(筋交いなし)について試験を行い、縦軸を荷重によるモーメントM(kN・m)、横軸を変形角γ(×1000rad)で示したものである。
【0045】
表1は、試験結果に基づき、壁倍率を算定した際の耐力算定表である。この場合の壁倍率は、a,b,c,dの最小の値である4.54と算定される。
【0046】
【表1】

【0047】
図6は、本発明の耐力壁構造において、柱1、土台2、梁3などの軸組材と構造用合板6との間に、テープ状に成形した粘弾性体21を介在させる場合の粘弾性体21の配置例を一部切り欠いて概略的に示したものである。
【0048】
テープ状に成形した粘弾性体21は、前述したように市販のものなどを利用することができ、一般の粘着性テープを貼るのと同様に簡単に貼り付けることができる。
【0049】
中小の地震では、軸組みの変形に対し、主として構造用合板6およびそれを止め付けるビス7が抵抗するが、大きな地震に対しては粘弾性体21による減衰力の寄与が大きくなり、粘弾性体21によるエネルギー吸収と変形抑制効果が効いてくる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の耐力壁構造の概要を示す正面図である。
【図2】従来の筋交いを用いた耐力壁構造の概要を示す正面図である。
【図3】本発明で使用するビスの一形態例を示したもので、(a)はビスを寝かせた状態の正面図、(b)は左側面図(ビス頭部)、(c)は右側面図(ビス先端部)である。
【図4】本発明で使用する補強金物の一形態例を示したもので、(a)は補強金物を軸組の下部に使用した状態での平面図、(b)は壁面外方向から見た正面図、(c)は右側面図(壁面内方向から見た図)である。
【図5】本発明の耐力壁の試験結果を示すグラフである。
【図6】本発明の耐力壁構造において、軸組材と構造用合板との間に、テープ状に成形した粘弾性体を介在させる場合の粘弾性体の配置例を概略的に示した正面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…柱、2…土台、3…梁、4…間柱、5…胴つなぎ、6…構造用合板、7…ビス、7a…頭部、7b…先端ネジ、7c…首部ネジ、7d…突起、8…補強金物、8a…柱側接合部、8b…梁または土台側接合部、8c…隅角部、8d…補剛部、8e…ビス孔、
16…構造用合板、17…くぎ、18…補強金物、19…筋交い、
21…テープ状の粘弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
在来軸組木造建築物の柱間に構造用合板を止め付けることにより壁倍率を高めた耐力壁構造において、厚さ9mm以上の構造用合板の外周部を軸組材に対し100mm以下の間隔で、材料規格SWCH18Aまたはこれと同等以上の品質を有するビスにより止め付けることで、筋交いを用いることなく、壁倍率を4.0以上としたことを特徴とする在来軸組木造建築物の耐力壁構造。
【請求項2】
前記ビスは、先端側に先端ネジが形成され、頭部の付根部に首部ネジが形成され、前記首部ネジの長さが前記先端ネジの長さより短く、かつ前記首部ネジのネジピッチが前記先端ネジのネジピッチより小さいものであることを特徴とする請求項1記載の在来軸組木造建築物の耐力壁構造。
【請求項3】
前記軸組材と前記構造用合板との間に、テープ状に成形した粘弾性体を介在させてあることを特徴とする請求項1または2記載の在来軸組木造建築物の耐力壁構造。
【請求項4】
軸組材どうしの接合部を補強金物で補強してあることを特徴とする請求項1、2または3記載の在来軸組木造建築物の耐力壁構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−308820(P2008−308820A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155038(P2007−155038)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(592040826)住友不動産株式会社 (94)
【Fターム(参考)】