説明

垂直磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】記録部とガードバンド部の間にできた遷移領域の記録層劣化を改善し、表面平坦化のために充填した非磁性充填層が記録部の記録層上に残らないようにしたパタン型の垂直磁気記録媒体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】垂直磁気記録媒体において、記録層の最上層に、パタン構造に追従した垂直磁化連続膜132を形成することにより、遷移領域22やガードバンド部23の記録層の特性を改善する。また、その製法において、垂直磁化連続膜132を非磁性充填層除去の際に一部除去することにより、非磁性充填層14が記録部21に残らないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体及びその製造方法に係り、特に、記録層にディスクリートパタンやビットパタンに代表されるパタン構造を有する垂直磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置を中心とした磁気記録装置は情報化社会の発展に伴い記録密度の向上が強く求められている。記録密度を高める技術として、従来の面内磁気記録方式にかわり、垂直磁気記録方式が広く用いられるようになった。垂直磁気記録方式は、記録媒体の磁化を媒体面に対して垂直に、かつ隣り合う記録ビット内の磁化が互いに反平行になるように記録ビットを形成する方式であり、磁化遷移領域での反磁界が小さいため面内磁気記録方式に比べて急峻な磁化遷移領域が形成され、高密度で磁化が安定する特徴がある。そして更なる高密度化には、反転領域そのものを無くしてしまうディスクリートトラック媒体やビットパタン媒体が有効である。従来の垂直磁気記録媒体に関しては、例えば特許文献1〜3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−201730号公報
【特許文献2】特開2005−135455号公報
【特許文献3】特開2008−135138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パタン媒体は、隣接する記録トラックまたはビットを物理的に分離し、記録時の書きにじみと、再生時の隣接信号の干渉とを抑制し、記録密度を大幅に増加することを可能とする。パタン媒体は大別して、基板に凹凸加工を施して、情報を磁気的に記録する記録部が凸に、隣接する記録部の間に設けられたガードバンド部が凹になるように、情報を記録する磁性部材の表面に段差を設ける所謂基板加工型パタン媒体と、ガードバンド部の磁性部材の一部、または全部を切削してガードバンド部への記録を不可能とする磁性膜加工型パタン媒体とに分けられる。
【0005】
基板加工型パタン媒体の技術として、例えば特許文献1には、エッチング法により基板に同心円状の凹凸を形成し、下地層としてCr、磁性層としてCo−Cr−Pt−Ta合金、第1の非磁性膜としてCr、第2の非磁性膜としてSiOを順次形成し、凹凸をもつ第2の非磁性膜の表面を、Crが表出するまで研磨、平滑加工することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法が開示されている。しかし、パタン媒体では磁気的遷移領域は無くせても作成方法上、構造的な遷移領域が存在する。基板加工型パタン媒体では、記録部とガードバンド部の境になる基板の凹凸に沿って形成された記録層の磁気異方性の向きが斜めを向いてしまい、記録再生特性が劣化する。
【0006】
磁性膜加工型パタン媒体の技術として、例えば特許文献2には、磁性部材でつくられた情報を磁気的に記録する記録部と、互いに隣接する記録部間に非磁性の材料でつくられたガードバンド部を備え、ガードバンド部材の下方領域には、磁性部材が存在しないか、記録トラック部をなす磁性部材の厚みとは異なる厚みの磁性部材が設けられることを特徴とする磁気ディスク媒体が開示されている。しかしながら、磁性膜加工型媒体では平坦な面に記録層を形成するため磁気異方性は垂直に揃っているが、垂直磁化膜をエッチングするのは難しく記録部とガードバンド部の境が斜めになり、記録層の薄くなった遷移領域ができる。
【0007】
元々、記録層は積層することにより最適な記録再生特性が得られるように磁気特性を制御しているので、記録層の一部が削れて薄くなった部分は記録再生特性が劣化する。特に垂直磁気記録媒体では、記録層の最上部に、反転磁界の分散と反転磁界を小さくする層を形成することにより高密度記録を可能にしている。このため、記録層の上部を失った部分は書き込み特性が悪化し正常に記録できずノイズの原因となる。下層部のみ残った領域は十分な保磁力が得られず弱い外部磁場で反転を繰り返しノイズの原因となる。ヘッドから遠ざかるほど信号強度は落ちるので特に記録層最上部を失った部分が記録再生特性劣化を引き起こす。
【0008】
特許文献3には、この遷移領域をリアクティブイオンエッチングにより変質させることにより磁気特性を向上する技術が示されている。しかし記録層にSiO2が含まれたグラニュラ構造になっている部分でしか効果を得られない。
【0009】
一方、磁気ディスク記録装置は磁気ヘッドを高速回転した磁気ディスク上に浮上させて記録再生を行う仕組みを用いている。本仕組みでは、磁気ヘッドが磁気ディスクの記録情報である記録ビットからの漏洩磁場を高効率に検出するために、磁気ヘッド中の磁気センサと磁気ディスクの記録層間の距離を小さくするほど効率が上がる。つまり、磁気ディスクの表面は平坦であるほど、記録層の上に形成された保護層などが薄いほど検出感度が上がり、記録密度を向上することができる。
【0010】
特許文献2には、パタン型媒体の製造方法において、記録層にパタンを形成する工程の後、ガードバンド部に非磁性材料を充填する工程と、媒体表面を平坦化する工程とを経て、保護膜を形成し、磁気ディスク表面の凹凸を小さくする技術が開示されている。これらの工程は記録、再生時に磁気ヘッドが媒体表面上で安定に浮上走行する上で有効である。上記の工程において、非磁性材料を充填する工程の後、記録トラック部の記録層の上部に形成される非磁性材料の余剰な層を除去し、かつ記録トラック部とガードバンド部との間に生じる段差を少なくし、媒体表面全体の面粗さを十分に小さくする必要がある。特に磁性層の上部に形成される余剰の層は、完全に除去しなければヘッドと記録層間の距離を広げて記録再生特性を劣化させる。しかし、記録層の一部まで除去してしまうと記録層の特性そのものが劣化してしまう。また、記録部の記録層の表面の非磁性な余剰な層を除去できても、ガードバンド部に充填した非磁性層の表面が記録部の記録層の表面より高くなると、ヘッドの浮上位置が高くなってしまうので避けなければならない。厳密に制御した非磁性層のエッチングを行う必要があるが、上記条件を満たすには記録層のエッチングレートが充填した非磁性層のエッチングレートより小さくなければ成り立たない。特許文献2には記録層がエッチングされないようにストップ層を記録層の上に設けることが記載されているが、ストップ層自体がスペーシングロスになる問題点がある。
【0011】
本発明の第1の目的は、記録部とガードバンド部の境の遷移領域で記録層が薄くなった部分の反転磁界分散と反転磁界を小さくして記録再生特性を改善することにより遷移領域からのノイズを小さくし、高記録密度のパタン型の垂直磁気記録媒体を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、ガードバンド部に非磁性体を充填した後に記録部の記録層上の余剰な層を完全に除去し、且つ表面平坦性に優れるパタン型の垂直磁気記録媒体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための一実施態様として、平坦な非磁性基板上に、少なくとも軟磁性下地層、中間層、及び垂直磁気記録層が順次形成されている磁気記録媒体において、記録部の間に設けられたガードバンド部の垂直磁気記録層の層厚t2と前記記録部の垂直磁気記録層の層厚t1との間に、3t1≧10t2の関係が成り立つように垂直磁気記録層に凹凸が形成されており、前記垂直磁気記録層の表層が、形状に追従した磁性連続膜層で構成されていることを特徴とする垂直磁気記録媒体とする。
【0014】
また、平坦な非磁性基板上に、少なくとも軟磁性下地層、非磁性中間層、第1記録層、および保護層を順次形成する工程と、前記保護層の上にレジストパタンを形成する工程と、前記レジストパタンを前記第1記録層へ転写して、凸部となる記録部、凹部となるガードバンド部、および前記記録部と前記ガードバンド部の間の傾斜部となる遷移領域を形成する工程と、残った前記レジストパタンと前記保護層を除去する工程と、その後、前記記録部、ガードバンド部、および前記記録部と前記ガードバンド部の間の遷移領域を有する前記非磁性基板上に第2記録層を形成する工程とを有し、前記ガードバンド部における前記第1記録層と前記第2記録層の合計層厚t2と、前記記録部における前記第1記録層と前記第2記録層の合計層厚t1との間に、3t1≧10t2の関係が成り立つことを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法とする。
【発明の効果】
【0015】
パタン媒体の記録部とガードバンド部の間の遷移領域のノイズを小さくできるので、高密度記録が可能なパタン型の垂直磁気記録媒体を提供することができる。また、媒体表面の平滑化処理後の記録部の記録層上に形成された余剰な層の除去が容易でヘッド−記録層間のスペーシングロスの少ない記録再生特性に優れた磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1(a)】発明の実施の形態に係る垂直磁気記録媒体の断面構造を模式的に示した図である。
【図1(b)】発明の実施の形態に係る垂直磁気記録媒体の断面構造を模式的に示した図である。
【図1(c)】発明の実施の形態に係る垂直磁気記録媒体の断面構造を模式的に示した図である。
【図2】発明の実施の形態に係る垂直磁気記録媒体の断面構造を模式的に示した図である。
【図3】発明の実施の形態に係る垂直磁気記録媒体の製造方法を示す工程図である。
【図4】第1の実施例及び比較例に係る垂直磁気記録媒体の磁化曲線を示す図である。
【図5】第2の実施例に係る垂直磁気記録媒体の記録再生特性図であって、ガードバンド部の記録層厚の記録部の記録層厚に対する割合と、ビット誤り率−4乗を達成するトラックピッチの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
垂直磁気記録媒体としては、非磁性基板上に、少なくとも軟磁性下地層を有する。軟磁性下地層の上には、記録層の結晶配向を揃えるための非磁性の中間層を設けることができる。中間層の上に、垂直磁気異方性を持った記録層が形成されている。記録層は、記録部の膜厚t1とガードバンド部の膜厚t2で異なる層厚3t1≧10t2を持っている。また、ガードバンド部下部の中間層の膜厚についても記録部の中間層の膜厚t11とガードバンド部の膜厚t12で異なる層厚t11>t12となっていても良い。記録層の最表層は、記録層と中間層の凹凸に沿って垂直異方性を持った連続膜の磁性膜で構成されている。記録層の上には、記録層の酸化を防ぐ保護層を形成することができる。
【0018】
また、ガードバンド部の記録層の上には、非磁性体を充填した層(非磁性充填層)を入れることが望ましい。また、記録部の表面よりガードバンド部の非磁性充填層の表面が同じか低くなっていることが望ましい。記録層の最表層に形成された記録層と中間層の凹凸に沿った磁性膜の内、記録部の記録部の最表層に形成された磁性膜の一部または全部は失われていても良い。本構成に置いても、記録部の記録層とガードバンド部の非磁性充填層の上に、記録層の酸化を防ぐ保護膜を形成することができる。
【0019】
また、垂直磁気記録媒体の製造方法としては、非磁性基板上に軟磁性下地層と中間層、垂直磁化膜の記録層、保護層を順次形成する工程と、表面にナノインプリントリソグラフィによりインプリントレジストパタンを形成する工程とインプリントレジストパタンをマスクとして記録層をエッチングする工程と、残ったレジストを除去する工程とパタン加工した記録層に沿って垂直磁気異方性を持った連続膜(垂直連続膜)を形成する工程と保護層と潤滑層を形成する工程を有する。
【0020】
また、パタン加工した記録層に沿って垂直連続膜を形成した後、ガードバンド部の溝に非磁性充填層を基板全面に形成する工程と、非磁性充填層の表面を平坦化する工程と、記録部の記録層の上の非磁性層が除去されるまで非磁性充填層をエッチングする工程と保護層と潤滑層を形成する工程を有する。
【0021】
図1(a)、図1(b)、図1(c)に本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の断面図を示す。表面粗さRaが1nm以下の平坦な非磁性基板10上に軟磁性下地層11と非磁性の中間層12と垂直磁気異方性を持ったパタン構造をした第一記録層131とパタン構造に沿って形成された第二記録層(垂直連続膜)132と保護層と潤滑層152を有する。図1(a)、図1(b)、図1(c)に示す通り、ガードバンド領域の第一記録層131と中間層12の除去量により3種類の形状が得られる。図1(a)はガードバンド部23の記録層が第一記録層131と第二記録層(垂直連続膜)132で構成されるもの、図1(b)、図1(c)はガードバンド部23の記録層が第二記録層(垂直連続膜)132で構成されるものであり図1(c)は、ガードバンド部23の中間層12の一部が除去されている。ガードバンド部23の記録層の厚さt2が記録部の記録層の厚さt1の30%以下であれば、ガードバンド部23からのノイズを小さくすることができる。本発明の実施形態では、遷移領域の構造が重要であり図1(a)〜図1(c)の構造において良好な記録再生特性を得ることができる。なお、符号21は記録部、符号22は遷移領域である。
【0022】
図1(a)、図1(b)、図1(c)に示す第一記録層131は、記録部21及び遷移領域22の記録層を担う層であり結晶粒間に酸化物が存在するグラニュラ構造、CoPt、FePtなどの人工格子構造、希土類−遷移金属合金構造などの垂直磁気異方性の大きく熱減磁特性に優れた膜を用いることができる。記録層131は上部に垂直磁気異方性を持った連続膜により図4の記録部の磁化曲線が示す通り適切な反転開始磁界を維持しながら保磁力を低減して記録特性を向上する多層構造を用いることができる。
【0023】
一方、第二記録層(垂直連続膜)132は、遷移領域において第一記録層131の上層が削れたことにより図4の比較例1の遷移領域の磁化曲線が示す通り記録特性及び熱減磁特性の劣化を改善するため、垂直磁気異方性を持った連続膜を用いることができる。遷移領域の磁化曲線は、第二記録層を形成することにより図4の実施例1の遷移領域の磁化曲線のように保磁力と反転開始磁界を記録部に近づけることができる。第二記録層(垂直連続膜)132は、第一記録層の薄く保磁力が小さくなった部分に最適化された層であるため、第一記録層上部の連続膜よりも強磁性元素の含有量が少ない飽和磁束密度の小さい膜を用いると良い。
【0024】
本発明の実施形態では、ガードバンド部23の記録層にできた溝に非磁性材料を充填して平坦で浮上性に優れた媒体としても良い。図2に実施形態の磁気記録媒体の断面図を示す。非磁性材料が充填された領域14はガードバンド部23及び遷移領域22の記録層の溝部分のみとなっていて、記録部21には、形成されていない。非磁性材料充填領域14の表面は、記録部21の記録層13の表面と同じか(例えば、符号31で示す距離)低くなっている。このような構造にすることにより、ヘッドと磁気記録媒体の記録層の距離を狭くすることができる。記録部21の記録層の表面は、第二記録層(垂直連続膜)132の一部が薄くなっている状態もしくは第一記録層131の最上部があらわになっている状態で良好な記録再生特性が得られる。そして上記構造の上に保護層と潤滑層152が形成されている。
【0025】
第二記録層(垂直連続膜)132の材料は、強磁性元素を主材料として、Cr、Pt、Ru、B等を添加して飽和磁束密度、磁気異方性を制御した垂直磁気異方性を持った連続膜を用いると良い。飽和磁束密度及び磁気異方性が第一記録層の最表層より小さくすることにより、第一記録層131が薄くなった遷移領域22の磁気特性の改善が効果的に行える。また、記録部21の表層に第二記録層(垂直連続膜)132の一部が形成されていても、記録部21の磁気特性がほとんど変化しないこと、記録層の最上層が第二記録層(垂直連続膜)132の表面になることからヘッド−記録層間距離が遠くならず記録再生特性に与える影響を小さくすることができる。
【0026】
第二記録層(垂直連続膜)132に、Ta、Si、Cの添加量の合計を10at%以上にすると第二記録層(垂直連続膜)132のArイオンを用いたエッチングレートを遅くすることができる。本現象により、後述する製造方法でガードバンド部23の非磁性充填層14の表面を、記録部21の記録層13の表面と同じか低くすることが容易となる。
【0027】
第二記録層(垂直連続膜)132に、Al、Si、Ti、Mo、Ruのうちひとつの元素の添加量を3at%以上にすると第二記録層(垂直連続膜)132がエッチングされた際に二次イオン質量分析計で容易に検出することができる。プラスイオンを用いた2次イオン質量分析で、2次イオン強度が高く腐食しにくい元素を添加すると容易に検出できる。本現象により、後述する製造方法で非磁性充填層14を削る際に、記録部21の表面を第二記録層(垂直連続膜)132とすることが容易となる。
【0028】
次に本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を図3に示す。
まず、図3(a)に示すように非磁性基板10上に軟磁性下地層11、非磁性の中間層12、第一記録層131、保護層151をスパッタ法等により順次形成する。
続いて、図3(b)に示すように、保護層151上にレジストパタン16を形成する。
続いて、図3(c)に示すように、Arイオン等の不活性ガスを用いたエッチングによりレジストパタン16を第一記録層131に転写する。
続いて、図3(d)に示すように、反応性イオンエッチングを用いて、残ったレジスト16と保護層151を除去する。この際、水素ガスを用いることにより記録層表面を変質させることなく除去することができる。
続いて、図3(e)に示すように、第二記録層(垂直連続膜)132をスパッタ等を用いて形成する。
続いて、保護層と潤滑層152を形成して図1に示すパタン型垂直磁気記録媒体が製造できる。
また、非磁性材料を溝に充填した垂直磁気記録媒体は図3(e)に示す第二記録層(垂直連続膜)132を形成した後、図3(f)に示すように非磁性材料を、スパッタ等を用いて記録層のパタンを覆うように非磁性充填層14を形成する。
続いて、図3(g)に示すように反応性イオンエッチングや不活性ガスを用いたイオンエッチングなどを用いて非磁性充填層14の表面を平坦にする。
続いて、図3(h)に示すように不活性ガスを用いたイオンエッチングにより非磁性充填層14を削り、記録部の表面に第二記録層(垂直連続膜)132を露にする。このとき、二次イオン質量分析計によりエッチングされた第二記録層内の元素を検出したところでエッチングを終了することでプロセスの終了制御が可能である。一度、プロセスの時間が分かれば同仕様の媒体を作成する場合、毎回元素を検出する必要はなく時間制御が可能である。
【0029】
続いて、図3(i)に示すように保護層と潤滑層152を形成して図2に示すパタン型磁気記録媒体が製造できる。
以下実施例により具体的に説明する。
【実施例1】
【0030】
図3に示した製造方法を用いてパタン型の垂直磁気記録媒体を作成した。なお、発明を実施するための形態に記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0031】
非磁性基板10として直径65mmのガラス基板を用いた。スパッタ装置を用いて、軟磁性下地層11、中間層12、第一記録層131、保護層151を順に形成した。中間層にはRu、第一記録層131には、下層を13nmのCoCrPt−SiO2グラニュラ膜と上層を5nmのCoCrPt連続膜とした2層構造を用いた。保護層151には4nmのスパッタCarbon(炭素)を用いた。次に、インプリント装置を用いて、インプリントレジストパタン16を形成した。レジストの総厚は70nmでパタンの高さが60nm、レジストの残渣が10nmとなるようにした。なお、レジストパタンは露光装置を用いてフォトリソグラフィーにより形成することもできるが、コスト的にはインプリント装置を用いたほうが有利である。
【0032】
次にリアクティブイオンエッチング装置を用いて、酸素ガス中で、エッチングを行い、ガードバンド部のレジスト残渣と保護層を除去し、記録部のレジストの高さが50nmとなるようにした。次に、イオンビームエッチング装置を用いて第一記録層131をレジスト16をマスクとしてArイオンビームでエッチングを行った。次に、リアクティブイオンエッチング装置を用いて、水素ガス中でエッチングを行い、残ったレジスト16と保護層151を除去した。次にスパッタ装置を用いて第二記録層(磁性連続膜)132となるCoCrPtTaAl合金を表面に3nm成膜した。次に、非磁性充填層14となるCrTi合金を30nm成膜した。本エッチングと成膜の工程は、真空搬送が可能な装置を用いて大気暴露することなく行った。
【0033】
次に、非磁性充填層14の表面をエッチング装置を用いて表面の凹凸を2nm以下に減少させた。次に、イオンビームエッチング装置を用いて非磁性充填層14をArイオンビームでエッチングを行い記録部の非磁性充填層14を除去した。2次イオン質量分析でAlの検出をプロセス中行い、検出量がバックグランドの5倍以上に増加したところでエッチングを終了した。次にスパッタ装置を用いて保護層と潤滑層152を形成した。
(比較例1)
次に、比較例として第二記録層(磁性連続膜)132を形成する工程を除いて、実施例1と同様にパタン型垂直磁気記録媒体を作成した。このとき、非磁性充填層14を除去するエッチング過程で2次イオン質量分析で第二記録層132がなくAlを検出できないのでCoを検出し、検出量がバックグランドの2倍以上に増加したところでエッチングを終了した。
【0034】
実施例1と比較例1の媒体について、表面の凹凸を原子間力顕微鏡を用いて評価した。実施例1の媒体では、記録部の高さがガードバンド部より1nm±1nm高かったのに対し、比較例1の媒体では、記録部の高さがガードバンド部に対して−1nm±2nmとなり、場所によって記録部より高いところと低いところができた。
【0035】
実施例1と比較例1の媒体について、X線反射率測定法を用いて記録部の記録層13の厚さを調べた。実施例1では、記録層13の厚さが19nm±1nmで、記録部の記録層の表面はすべて第二記録層(磁性連続膜)132が1〜2nm削られた上に保護層と潤滑層152が形成されていた。一方、比較例1の媒体では記録層13の厚さが16nm±2nmで、記録部の記録層の表面は第一記録層が0nm〜3nm削れた状態になっていて、一部では記録部の記録層13の上に非磁性充填層14が1nm残っている状態であった。
【0036】
実施例1と比較例1の媒体の磁気特性を記録部、ガードバンド部、遷移領域に分けてマイクロカー効果評価装置を用いて測定を行った結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1の媒体では、記録部、遷移領域の保磁力がそれぞれ4kOe±0.2kOe、3.8kOe±0.2kOeになっているのに対し比較例2の媒体では、記録部が5kOe±1kOe、遷移領域が2kOe±2kOeとなった。ガードバンド部では、ともに評価に値する信号が検出されなかった。
【0039】
実施例1と比較例1の媒体について、磁気ヘッドを用いて、記録再生特性を評価した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例1の垂直磁気記録媒体では比較例1の垂直磁気記録媒体と比較して記録特性、再生特性がともに優れており、本実施例の構造により記録再生特性の優れた垂直磁気記録媒体が作成可能であることを示している。
【0042】
以上述べたように、本実施例によれば、パタン媒体の記録部とガードバンド部の間の遷移領域のノイズを小さくできるので、高密度記録が可能なパタン型の垂直磁気記録媒体を提供することができる。また、媒体表面の平滑化処理後の記録部の記録層上に形成された余剰な層の除去が容易でヘッド−記録層間のスペーシングロスの少ない記録再生特性に優れた磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【実施例2】
【0043】
実施例1の媒体作成方法の内、イオンビームエッチング装置を用いて第一記録層131をレジストパタン16をマスクとしてArイオンビームでエッチングする時間を変更して、ガードバンド部の記録層の膜厚の異なる媒体を作成した。なお、発明を実施するための形態や実施例1に記載され、本実施例に未記載の事項は本実施例にも適用することができる。
【0044】
本垂直記録媒体のガードバンド部の記録層厚の記録部の記録層厚に対する割合とビット誤り率−4乗を達成するトラックピッチの関係(記録再生特性)を図5に示す。ガードバンド部の記録層厚を記録部の30%以下(ガードバンド部の垂直磁気記録層の層厚t2と前記記録部の垂直磁気記録層の層厚t1との間に、3t1≧10t2の関係が成り立つ)にすることによりガードバンド部からのノイズが低減され狭トラックピッチでも良好な記録再生特性が得られた。本発明の構造において、記録再生特性の優れた垂直磁気記録媒体が作成可能であることを示している。
【0045】
以上述べたように、本実施例によれば、パタン媒体の記録部とガードバンド部の間の遷移領域のノイズを小さくできるので、高密度記録が可能なパタン型の垂直磁気記録媒体を提供することができる。特に、ガードバンド部からのノイズ低減には、ガードバンド部の記録層厚を記録部の30%以下にすることが有効である。また、媒体表面の平滑化処理後の記録部の記録層上に形成された余剰な層の除去が容易でヘッド−記録層間のスペーシングロスの少ない記録再生特性に優れた磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
10…非磁性基板、11…軟磁性下地層、12…中間層、13…記録層、131…第一記録層、132…第二記録層、14…非磁性充填層、151…保護層、152…保護層と潤滑層、16…インプリントレジスト、21…記録部、22…遷移領域部、23…ガードバンド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な非磁性基板上に、少なくとも軟磁性下地層、中間層、及び垂直磁気記録層が順次形成されている磁気記録媒体において、
記録部の間に設けられたガードバンド部の垂直磁気記録層の層厚t2と前記記録部の垂直磁気記録層の層厚t1との間に、3t1≧10t2の関係が成り立つように垂直磁気記録層に凹凸が形成されており、
前記垂直磁気記録層の表層が、形状に追従した垂直磁気異方性を持った磁性連続膜層で構成されていることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記垂直磁気記録層の表層の形状に追従した磁性連続膜層は、Coを主成分とする垂直磁気異方性を持った膜であることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記ガードバンド部が形成された前記記録部よりも低い前記垂直磁気記録層の凹みに非磁性材料が充填された構造を有し、
前記垂直磁気記録層の表層に追従した磁性連続膜層は、Ta、Si、Cの内少なくとも1種類の元素が含み、Ta、Si、Cの合計含有量が10at%以上であることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記ガードバンド部が形成された前記記録部よりも低い前記垂直磁気記録層の凹みに非磁性材料が充填された構造を有し、
前記垂直磁気記録層の表層に追従した磁性連続膜層は、Ta、Si、Cの内少なくとも1種類の元素が含み、Ta、Si、Cの合計含有量が10at%以上であることを特徴とする請求項2記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記ガードバンド部が形成された前記記録部よりも低い前記垂直磁気記録層の凹みに非磁性材料が充填された構造を有し、
前記垂直磁気記録層の表層に追従した磁性連続膜層は、Al、Si、Ti、Mo、Ruの内、少なくとも1つの元素の含有量が3at%以上であることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記ガードバンド部が形成された前記記録部よりも低い前記垂直磁気記録層の凹みに非磁性材料が充填された構造を有し、
前記垂直磁気記録層の表層に追従した磁性連続膜層は、Al、Si、Ti、Mo、Ruの内、少なくとも1つの元素の含有量が3at%以上であることを特徴とする請求項2記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性連続膜層は、Al、Si、Ti、Mo、Ruの内、少なくとも1つの元素の含有量が3at%以上であることを特徴とする請求項3記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記磁性連続膜層は、Al、Si、Ti、Mo、Ruの内、少なくとも1つの元素の含有量が3at%以上であることを特徴とする請求項4記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
平坦な非磁性基板上に、少なくとも軟磁性下地層、非磁性中間層、及び垂直磁気記録層が順次形成されている磁気記録媒体において、
前記垂直磁気記録層は、記録部と、ガードバンド部と、前記記録部と前記ガードバンド部との間の遷移領域とを有し、
前記ガードバンド部の垂直磁気記録層の層厚t2と前記記録部の垂直磁気記録層の層厚t1との間に、3t1≧10t2の関係が成り立つように垂直磁気記録層に台形状の凹凸が形成されており、
前記垂直磁気記録層の表層が、形状に追従した磁性連続膜層で構成されていることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
平坦な非磁性基板上に、少なくとも軟磁性下地層、非磁性中間層、第1記録層、および保護層を順次形成する工程と、
前記保護層の上にレジストパタンを形成する工程と、
前記レジストパタンを前記第1記録層へ転写して、凸部となる記録部、凹部となるガードバンド部、および前記記録部と前記ガードバンド部の間の傾斜部となる遷移領域を形成する工程と、
残った前記レジストパタンと前記保護層を除去する工程と、
その後、前記記録部、ガードバンド部、および前記記録部と前記ガードバンド部の間の遷移領域を有する前記非磁性基板上に垂直磁気異方性を持った連続膜の第2記録層を形成する工程とを有し、
前記ガードバンド部における前記第1記録層と前記第2記録層の合計層厚t2と、前記記録部における前記第1記録層と前記第2記録層の合計層厚t1との間に、3t1≧10t2の関係が成り立つことを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
前記記録部、前記ガードバンド部および前記遷移領域を覆うように非磁性充填層を形成する工程と、
前記非磁性充填層をエッチングして前記非磁性充填層の表面を平坦化する工程と、
前記記録部の表面に前記第2記録層を露出させる工程と、を更に有することを特徴とする請求項10記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−141932(P2011−141932A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2126(P2010−2126)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】