説明

型押し具

【課題】 簡単で、費用効率の高いナノメータレンジの型押し具を提供する。
【解決手段】 型押し具(1)の型押し面(2)は、陽極酸化によって生じた開口中空チャンバ(4)を有する陽極酸化表面層又は被覆層(6)によって形成されており、中空チャンバ(4)は、10〜500nmの平均直径(D)の開口面積を有し、且つ、不規則に配列されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、構築された型押し面を有する型押し具、構築された型押し面を有する型押し具を製造する方法、加工物の表面を構築する方法、及び陽極酸化による開口中空チャンバを具備する表面層の使用に関する。
【0002】
型押しは、加工物にレリーフのような又は構築した表面を製造するための非切断製造方法を構成する。型彫りされ又は構築された型押し面を有する型押し具は、これに使用される。前記型押し面は、加工物の構成される表面に所定の型押し力でプレスされ、又はこれにロールされるので、加工物は、型押し具又は型押し面において塑造され且つ窪んで形成される。かなりの型押し力が使用されることにより、型押し具及び型押し面は、通常金属で作られる。
【0003】
大変精密に構築され、又は浮き彫りにされた型押し面を有する型押し具を製造するには、大変費用がかかる。いわゆる「モスアイ構造」―均等に配置された鶏卵箱のような突起―又はナノメータレンジの精密な溝を形成するために、2つの干渉するレーザー光線を介して感光性物質に照射するために、周期的な明暗度調整による照明パターンを使用することは、経験から公知である。前記照射物質が発展した後、周期的な表面構造は、結果として、種々のレプリカ作成方法を用いる他の材質に、また最終的にはニッケルに、例えば、電気鋳造法によって鋳造される。この種の製造方法は、大変高価であり、均一な表面を構築するためにのみ適している。
【0004】
本発明において、ナノメータレンジは、1000nmより小さい、特に500nmより小さい構造幅を有する型彫り又は構造化を意味することは言うまでもない。前記構造幅は、突起のような個々の構造化要素が繰返されることによる寸法、すなわち、例えば、お互いに隣接する突起又はお互いの窪みの平均距離を示す。
【0005】
前記ナノメータレンジにおいて、型押し具の型押し面を構築するためのリトグラフ法は、制限された方法においてのみ使用することができる。ここで可視光線の波長だけですでに400nm〜750nmあることが示されるべきである。各場合において、リトグラフ法は、大変高価である。
【0006】
独国特許第19727132号は、電解研摩による型押し具の製造を開示する。電解研摩の間、型押し具の金属製の型押し面は電解液で処理され、そこでは、速く流れる電解液内でアノードであり、型押し面の金属は、カソードに対して最小の間隔で配され、表面電極において溶解する。前記金属又は型押し面は、カソードの形状によって決定される構造を有し、これによって、前記カソードは、電気化学的に形成された容器を形成する。また、独国特許第19727132号は、要求された型押し構造のネガ形状を与える被覆表面を有する円筒状の回転電極の使用を提供する。ここでもまた、著しい費用が必要であり、ナノメータレンジで構造化することは、少なくとも部分的にのみ可能である。
【0007】
本発明の目的は、型押し具、ナノメータレンジでの構造化を簡単に且つ費用効果の高いものの提供を可能にするものである。
【0008】
上記目的は、請求項1に記載の型押し具によって達成される。
【0009】
本発明の本質的な概念は、型押し具の型押し面として、多孔性の酸化層、そして特に陽極酸化を介して形成され且つ開口中空チャンバを具備する表面層を使用することである。これは、いくつかの利点を導く。
【0010】
第1に、酸化層、特に好ましく設けられた酸化アルミニウムは、相対的に硬い。頻繁にかかる大変高い型押し力に関して、これは、種々の材質の加工物を型押しすることができ、且つ型押し具の長い金型寿命を達成できるということについて利点を有する。
【0011】
第2に、型のない酸化は大変簡単であり、且つ実現するための費用効率が高い。特に、中空チャンバを製造することは、いわば、使用されるカソードの形状及び配置と無関係なので、模型又はネガ形式は、電解研摩でのように、要求されない。
【0012】
第3に、陽極酸化による開口中空チャンバの提供された型のない形成は、ナノメータレンジで製造される構成を大変簡単に且つ高い費用効率で行うことができる。特に、500nm以下、さらに100nm以下の構造幅が可能となる。
【0013】
第4に、進行状態の選択により、中空チャンバの―規則的又は不規則な―配置及び表面密度は、要求されるように変化させることができる。
【0014】
第5に、同じく単に進行状態を変化させることによって―特に、酸化の間の電圧の変更によって―中空チャンバの形状及びこれによる型押し面の構造を調節し且つ変更することができる。
【0015】
第6に、陽極酸化表面層は、直接的に、これによりさらなる成形作業なしに、型押し具の型押し面として使用することができる。
【0016】
本発明のさらなる利点、特性、特徴及び目的は、図面を参照して好ましい具体例の下記する記載から明らかになるだろう。唯一の図面は、提案された型押し具及びそれによって構築された加工物の概略断面図を示している。
【0017】
高度に簡略化された断面図において、図面は、構築され、すなわち、型彫り又は浮き彫りのような型押し面2を有する提案された型押し具1を示す。前記型押し面2は、陽極酸化によって形成された開口中空チャンバ4を具備する表面層3のフラット側面によって形成される。
【0018】
図示された例において、表面層は、型押し具1の支持部5に設けられる。例えば、表面層3は、プラズマコーティングによって支持部5に設けられる。しかし、表面層3は、また支持部5によって直接的に形成されることもでき、この場合は、支持部5の表面領域となる。
【0019】
また、表面層3は、他の方法を用いて、支持部5に被覆することもできることは言うまでもない。
【0020】
図示された例において、表面層3は、特にプラズマコーティングによって支持部5に形成され、好ましくは金属、特に鉄又は鋼から作られる支持部5に対して良好に接着するアルミニウムからなることが好ましい。
【0021】
表面層3は、図示された例において少なくとも部分的に、被覆層6の深さまで陽極酸化され、これによって中空チャンバ4が表面層3に形成される。前記中空チャンバ4はすぐに形成され、且つ/又は、いかなる型又はパターンなしに、いわゆる中空チャンバ4の配置、分布、形状等は―電解研摩に対抗するものとして―酸化に使用されるカソード(図示しない)の表面形状及び近接と、少なくとも本質的に無関係である。さらに、この発明によれば、「バルブ効果」、すなわち表面層3の酸化又は陽極酸化の間生じる中空チャンバ4の自由な構成が―少なくとも、特にいわゆるバルブ金属において―用いられる。中空チャンバ4のこの直接的な又は不確定な構成は、さらなる(前又は後の)構成、又は型押し面2の構造化、又はネガ形式による中空チャンバ4を妨げない。
【0022】
前記表面層3がいかに完全に、又はいかに深く酸化されるかにより、又は前記表面層3が支持部5によって直接的に形成されるかどうかにより、表面層3は、酸化した被覆層6に対応することができる。この場合、例えば、図示された例においては、アルミニウムからなり且つ被覆層6及び支持部5の間の大変良い粘着を増進する中間層7を、省略することができる。
【0023】
例えば、別の例によれば、コートされない支持部5は、多孔性酸化層又は中空チャンバ4の構成によって型押し面2を形成するその表面上に陽極酸化される。例えば、これは、鉄又は鋼、特にステンレス鋼から作られる支持部5について可能となる。そして、この場合、表面層3は、いわゆる酸化層である被覆層6に対応する。
【0024】
アルミニウム及び鉄又は鋼、特にステンレス鋼は、特に好ましい材料としてすでに名前があがっており、陽極酸化表面層3又は被覆層6を形成するのに、少なくとも実質的に使用されていた。しかしながら、例えば他の弁金属と同様に珪素やチタンも使用することができる。
【0025】
図示した例において、寸法の比率は、真実の尺度を示していない。
【0026】
型押し具1又はその型押し面2は、ナノメータレンジ、特に30nm〜600nm、好ましくは50〜200nmの構成幅Sを有することが好ましい。
【0027】
前記中空チャンバ4又はそれらの開口部は、実質的には10〜500nm、好ましくは、15〜200nm、特に20〜100nmの平均直径Dを有する。
【0028】
図示した例において、前記中空チャンバ4は、実質的には縦長に形成され、その深さTは、上述した平均直径Dの少なくとも約0.5倍、特に平均直径Dの約1.0倍〜10倍であることが好ましい。
【0029】
ここで、前記中空チャンバ4は、少なくとも実質的に形状において同様に形成される。特に、前記中空チャンバ4は、実質的に円筒形状に形成される。しかし、前記中空チャンバ4は、その形状からはずれる形状を示してもよく、例えばそれらは実質的に円錐形状に形成される。
【0030】
一般的に、前記中空チャンバ4は、その深さT、形状及び/又は直径において異なる断面を有してもよい。これに加えて、前記中空チャンバ4は、例えば粗い構造として実質的に円錐形状に形成され、且つ、それらの壁部に沿って多くの精密な窪み(小さな中空チャンバ)を具備し、各々の場合において精密な構造を形成する。
【0031】
前記中空チャンバ4は、前記表面層3の表面にわたって、又は型押し面2にわたって、少なくとも実質的に均一に分配されることが好ましい。しかしながら、不均一な分配もまた可能である。
【0032】
前記中空チャンバ又はそれらの開口部は、109〜1011/cm2の表面密度で、型押し面2全体に分配されることが好ましい。図示された例において、表面密度は、型押し面2にわたって実質的に一定である。しかし、表面密度は、要求されるように型押し面2において部分的に変化させることもできる。
【0033】
前記中空チャンバ4の開口部の面積は、最大で、前記型押し面の延長面積の最大50%であることが好ましい。これによって、型押し面2又は表面層3/被覆層6の十分に高い安定性又は負荷容量が、型押しの間に上昇する高い押圧力に関して達成される。
【0034】
一般的に、中空チャンバ4の形状、配置、表面密度等は、陽極酸化の間の進行状態の対応する選択によって制御される。例えば、定電位状態下のアルミニウムの酸化―少なくとも実質的には定電圧―では、前記中空チャンバ4の少なくとも実質的に平滑な断面が、それらの深さT、すなわち少なくとも実質的に円筒形状にわたって達成される。したがって、前記中空チャンバ4の形状は、電圧を変化させることによって影響される。例えば、定電流―すなわち少なくとも実質的に一定の電流での―酸化は、前記中空チャンバ4の円錐形状又は丘状形を導くので、ある種の「モスアイ構造」のようなものが、この方法で形成される。前記中空チャンバ4の表面密度、いわゆる表面上の前記型押し面2の表面単位における中空チャンバの数は、とりわけ酸化の間の電圧及び電流に依存する。
【0035】
要求されるように、中空チャンバ4は、それらの形状、深さ及び/若しくは型押し面2の表面密度において、特に部分的に変化させることができ、且つ/又は、型押し面2においてのみ部分的に形成することができる。
【0036】
そしてまた、もし要求されるならば、型押し面2は、酸化―中空チャンバ4の形成―の前及び/若しくは後で、例えばリトグラフ工程、エッチング及び/若しくは、好ましくは他の材料剥離法によって改造され、型押し面2に、通路、リッジ、中空チャンバのある領域又はないの領域、大きい表面突出又は窪み等の形状において、粗い構造を形成する。
【0037】
特に酸化物質の部分的エッチングによるケミカルサイジングもまた、型押し面2又は中空チャンバ4を改造するために実行することができる。この方法において、型押し面2の延長面積に対する中空チャンバ4の開口面積の表面比率を、変更又は増加することができる。型押し面2又は中空チャンバ4の他の改造もまた、反応時間及び強さによって左右される。
【0038】
また、提示された解決手段の特別な利点は、型押し面2が、曲がった形―例えば円筒形状に―または湾曲されて―例えば凸レンズ状又は半球状に形成されることである。特に、型押し面2は、実際的にいかなる形状をも有するすることができる。これにより、従来技術と比べて、型押し面2又は表面層3/被覆層6の表面は、少なくとも実質的に平らである必要はない。
【0039】
図はまた、同様に、高度に簡略され、寸法が真実でない断面概略図において、既に型押しされた状態において、いわゆる型押し具1によってすでに構築された表面を有する加工物8を示す。型押しは、構築される加工物8の表面9に対して、対応する型押し力でプレスされる型押し具1によって特に行われるために、加工物8の材質は、中空チャンバ4内に少なくとも部分的に流れ込む。ここで、加工物8は、図面に概略的に示されたように、一体鋳造法で形成される必要はない。その代わりとして、加工物8は、表面9を形成し且つ型押し具1によって浮き彫りのような方法で構築され又は形成される、ここで図示されない、別のタイプの表面層又は表面コーティング等を提示することもできる。
【0040】
型押しのような浮き彫り加工の代わりに、型押し具1は、型押し面2及び/若しくは構築される表面9の対応する形状/形態で巻出しされることができる。例によれば、型押し面2及び/若しくは構築される面9は、屈曲した形に―例えば、円筒形に―又は湾曲した形に形成され、表面9を構築するために相互に巻き出すことができる。
【0041】
また、型押し工程及びロール型押し工程は共に、提案された解決手段で実現される。
【0042】
さらにまた、提案された解決手段は、型押しと同様にクローズドダイコイニング又はコイニングに用いることができる。前記加工物8の対応する接合面又は対応するカウンタツールは、明確化の目的のために図示されない。
【0043】
提案された型押し具1は、加工物8又はその表面9を大変精密な構造にする。もし、必要ならば、加工物8又はその表面9は、最初に―任意に慣習的な方法において製造された―粗く構築された型押し具で、そしてそれから、より精密に構成された提案された型押し具で、型彫りされ又は繰り返して構築される。より小さい型押し力が、特に精密な型押し具1を使用する第2の型押し作業の間及び/若しくは中間工程において用いられ、表面9が硬化され、第1の型押しで製造された粗い構成を十分に中和せずに、両方の型押し具の粗い構造及び精密な構造から重ね合わせを達成する。これによって、例えば、加工物8の表面9に、10〜400nmのオーダーの比較的小さい突起を各々が有する0.1〜50μmのオーダーの比較的大きな突出部を形成することができる。
【0044】
大変容易で且つ費用効率の良い提案された解決手段は、表面9を大変精密な構造にすることができる。したがって、応用の大変広範な領域がある。例えば、そのような特別に大変精密な構造化は、非反射層において、構築された表面の放射状態を変更するために、感覚分析において、触媒作用において、自己浄化表面において、また表面の湿潤化改善等において用いることができるものである。特に、提案された解決手段は、また上述した目的のために提案された型押し具1の使用によって構築された構造化表面9を有する加工物8の使用にまで拡張される。
【0045】
特に、提案された解決手段は、合成物質の型押し―例えば、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、テフロン(登録商標)等、金属―例えば、金、銀、プラチナ、鉛、イジウム、亜鉛等、ポリマーコーティング―例えば、ペイント、染料等、及び無機のコーティング系等に適している。
【0046】
一般的用語において表現すると、本願発明の本質的な様相は、底型又は上型として、陽極酸化によって形成された中空チャンバを有する表面層を使用し、ナノメータレンジで表面を構築することができるということである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、提案された型押し具及びそれで構築された加工物の概略断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 押し出し具
2 型押し面
3 表面層
4 中空チャンバ
5 支持部
6 被覆層
7 中空層
8 加工物
9 表面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
型押し面を有する型押し具であって、
前記型押し面は、陽極酸化によって生じた開口中空チャンバを有する陽極酸化表面層又は被覆層によって形成されており、
前記中空チャンバは、10〜500nmの平均直径(D)の開口面積を有し、且つ、不規則に配列されている、型押し具。


【図1】
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【公開番号】特開2008−248388(P2008−248388A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95737(P2008−95737)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【分割の表示】特願2001−580058(P2001−580058)の分割
【原出願日】平成13年4月25日(2001.4.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】