説明

基板の製造方法および基板

【課題】反りの発生をより有効に回避できる、簡便な基板の製造方法およびその製造方法で得られる基板を提供すること。
【解決手段】(a)支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する、または、支持体上に粘着層を設けることで第1層を形成する工程と、
(b)前記第1層上にフィルムの貼合により、または、膜形成用組成物を用いて第2層を設ける工程と、
(c)前記工程(a)、工程(b)において膜形成用組成物を用いる場合には、前記第1層および/または前記第2層を硬化させる工程と、
(d)前記第2層上に素子を形成する工程と、
(e)素子が形成された積層体から支持体を取り除いて、少なくとも素子が形成された第2層を含む基板を得る工程と
をこの順で含み、
前記工程(c)の後の前記第1層および/または第2層が、特定の構造単位を有するポリイミド前駆体に由来するポリイミドを含む、
基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の製造方法および基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られる全芳香族ポリイミドは、分子の剛直性や、分子が共鳴安定化していること、強い化学結合を有すること等に起因して、優れた耐熱性、機械的特性を有しており、電気、電池、自動車および航空宇宙産業などの分野において、フィルム、コーティング剤、成型部品、絶縁材料として幅広く使用されている。
【0003】
例えば、ピロメリット酸二無水物と4,4'−オキシジアニリンとを重縮合させることで得られるポリイミド(ポリイミドフィルム)は、耐熱性および電気絶縁性に優れ、寸法安定性が高く、フレキシブルプリント基板などに利用される。
【0004】
具体的には、ポリイミドフィルムはピロメリット酸二無水物と4,4'−オキシジアニリンとを反応させて得られるポリアミック酸溶液から脱溶媒、熱イミド化工程を経ることで作製される。通常、ポリイミドフィルムは、ステンレスベルト等の比較的剛直な支持体上で成膜されることが一般的である。
【0005】
また、ピロメリット酸二無水物、4,4'−オキシジアニリンおよびp−フェニレンジアミンから合成されたポリイミドは熱的寸法安定性に優れることが開示されている(特許文献1および特許文献2)。
【0006】
さらに、寸法安定性を向上させたポリイミドフィルムとして、4,4'−オキシジフタル酸二無水物とピロメリット酸二無水物とを必須成分とするテトラカルボン酸二無水物、およびp−フェニレンジアミンと4,4'−オキシジアニリンとを含む芳香族ジアミンから得られたポリイミドフィルムが知られている(特許文献3)。
【0007】
特許文献4には、p−フェニレンジアミンおよびs−ビフェニルテトラカルボン酸無水物等から合成されたポリイミド前駆体を含むフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−131241号公報
【特許文献2】特開平1−131242号公報
【特許文献3】特開2009−518500号公報
【特許文献4】特開2010−202729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来のポリイミド(形成組成物)を用いて、シリコンウエハ、無アルカリガラスのような支持体上で成膜を行うと、成膜時の収縮変形に伴い、得られる基板またはフィルム自身に反りが生じる問題が指摘されている。このため、これらのポリイミド(形成組成物)から、平滑性、屈曲性、柔軟性、寸法安定性が要求される用途、特にフレキシブルプリント基板、フレキシブルディスプレイ基板等のフレキシブル基板を製造することは困難であった。
【0010】
さらに、従来のポリイミドフィルムの成膜を、シリコンウエハ、無アルカリガラス等の支持体上で行うと、得られるフィルムの支持体との密着性および剥離性を両立することが困難であり、改良手段の一つとして支持体とフィルム間に粘着層を設ける必要があった。しかし、支持体上に粘着層を設け、その上に従来のポリイミドからなる層(フィルム)を設け、該ポリイミドからなる層上に素子を形成することで得られる基板には、大きな反りが生じることがあった。
【0011】
本発明の目的は、反りの発生をより有効に回避できる、簡便な基板の製造方法およびその製造方法で得られる基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の製造方法で基板を製造することで、得られる基板の反りの発生をより有効に回避できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[13]を提供するものである。
【0014】
[1] (a)支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する、または、支持体上に粘着層を設けることで第1層を形成する工程と、
(b)前記第1層上にフィルムの貼合により、または、膜形成用組成物を用いて第2層を設ける工程と、
(c)前記工程(a)、工程(b)において膜形成用組成物を用いる場合には、前記第1層および/または前記第2層を硬化させる工程と、
(d)前記第2層上に素子を形成する工程と、
(e)素子が形成された積層体から支持体を取り除いて、少なくとも素子が形成された第2層を含む基板を得る工程と
をこの順で含み、
前記工程(c)後の前記第1層および/または第2層が、下記式(2)で表される構造単位を含み、かつ、下記式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体に由来するポリイミドを含む、
基板の製造方法。
【0015】
【化1】

(式(1)中、Rは独立に水素原子または一価の有機基を示し、R1は独立に二価の有機基を示し、R2は独立に四価の有機基を示し、nは正の整数を示す。)
【0016】
【化2】

(式(2)中、複数あるR5は各々独立に炭素数1〜20の一価の有機基を示し、mは3〜200の整数を示す。)
【0017】
[2] 前記式(1)において、R1は独立に下記式(3)で表される群より選ばれる基である、[1]に記載の基板の製造方法。
【0018】
【化3】

(式(3)中、R3は独立にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基もしくはシロキサン基を含む基、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基またはスルホ基を示し、このアルキル基およびアルキレン基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、Dは、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基またはシロキサン基を示し、a1は独立に1〜3の整数を示し、a2は独立に1または2を示し、a3は独立に1〜4の整数を示し、eは0〜3の整数を示す。)
【0019】
[3] 前記式(1)において、R2は独立に下記式(4)で表される群より選ばれる基である、[1]または[2]に記載の基板の製造方法。
【0020】
【化4】

(式(4)中、R4は独立に水素原子またはアルキル基を示し、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、Dは、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基またはシロキサン基を示し、bは独立に1または2を示し、cは独立に1〜3の整数を示し、fは0〜3の整数を示す。)
【0021】
[4] 前記ポリイミド前駆体中、前記式(2)で表される構造単位が5〜40質量%含まれる、[1]〜[3]のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0022】
[5] 前記式(2)において、複数あるR5の少なくとも1つがアリール基を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0023】
[6] 前記ポリイミド前駆体が、前記式(1)に含まれる構造単位の他に、該前駆体の主鎖に、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む単量体に由来する構造単位を、前記ポリイミド前駆体中、さらに0〜15質量%含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0024】
[7] 前記単量体が、下記式(5)または式(6)で表される化合物である、[6]に記載の基板の製造方法。
【0025】
【化5】

(式(5)および(6)中、Aは独立にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む基を示し、R6は独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはニトロ基を示し、アルキル基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、dは独立に1〜4の整数を示す。)
【0026】
[8] 前記ポリイミド前駆体の重量平均分子量が10000〜1000000である、[1]〜[7]のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0027】
[9] 前記工程(a)または工程(b)に用いられる膜形成用組成物の少なくとも一方が、前記ポリイミド前駆体および有機溶媒を含む組成物である、[1]〜[8]のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0028】
[10] 前記ポリイミド前駆体に由来するポリイミドの示差走査熱量測定(DSC、昇温速度20℃/分)で測定したガラス転移温度が350℃以上である、[1]〜[9]のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0029】
[11] 前記工程(c)を、200℃〜400℃の範囲、かつ、前記ポリイミド前駆体に由来するポリイミドのガラス転移温度以下で行う、[1]〜[10]のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0030】
[12] 前記支持体がシリコンウエハ、無アルカリガラス、金属板である、[1]〜[11]のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0031】
[13] [1]〜[12]のいずれかに記載の基板の製造方法により得られる基板。
【発明の効果】
【0032】
本発明の基板の製造方法によれば、反りの発生が少ない品質の高い基板を容易に製造することができる。
【0033】
前記第1層および/または第2層が、前記特定の構造単位を有するポリイミド前駆体に由来するポリイミドを含んでなることで、シリコンウエハ、無アルカリガラス、金属等の支持体上で層の形成を行っても、層の形成時の収縮変形に伴う、基板に生じ得る反りを抑制することができる。
【0034】
特に、前記第1層が、前記特定の構造単位を有するポリイミド前駆体に由来するポリイミドを含んでなる場合には、支持体としてシリコンウエハ、無アルカリガラスや金属板等を用いた場合であっても、該支持体との密着性と剥離性とを両立することが可能であり、粘着層の付着の無い、反りの発生が少ない基板を製造することができる。また、前記第1層の一部が付着等していないきれいな支持体が得られるため、該支持体を洗浄する等の必要がなく、新たな基板の製造の際に用いる支持体等として利用することができる。
【0035】
なお、本発明において、「密着性」とは、例えば、前記工程(c)や工程(d)において、支持体上に形成される支持体と第1層との層間および第1層と第2層との層間が剥離しにくい性質をいう。
【0036】
本発明において、「剥離性」とは、例えば、工程(e)において、剥離面に剥離痕が少なく、支持体と第1層との間、または、第1層と第2層との間で剥離できる性質をいう。
【発明を実施するための形態】
【0037】
≪基板の製造方法≫
本発明の基板の製造方法は、
(a)支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する、または、支持体上に粘着層を設けることで第1層を形成する工程と、
(b)前記第1層上にフィルムの貼合により、または、膜形成用組成物を用いて第2層を設ける工程と、
(c)前記工程(a)、工程(b)において膜形成用組成物を用いる場合には、前記第1層および/または前記第2層を硬化させる工程と、
(d)前記第2層上に素子を形成する工程と、
(e)素子が形成された積層体から支持体を取り除いて、少なくとも素子が形成された第2層を含む基板を得る工程と
をこの順で含み、
前記工程(c)後の前記第1層および/または第2層が、下記式(2)で表される構造単位を含み、かつ、下記式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体に由来するポリイミドを含むことを特徴とする。
【0038】
<ポリイミド>
前記工程(c)後の前記第1層および/または第2層は、下記式(2)で表される構造単位を含み、かつ、下記式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体に由来するポリイミドを含む。
【0039】
前記ポリイミドは、剛直な骨格部位と下記式(2)で表される構造単位(以下「構造単位(2)」ともいう。)を含む柔軟な骨格部位とを有し、該剛直な骨格部位が海部となり、柔軟な骨格部位が島部となるミクロ相分離構造を形成すると考えられる。ポリイミドが、このミクロ相分離構造を形成することにより、残留応力が低減された層が得られると考えられる。
なお、本発明において、ミクロ相分離とは、剛直な構造部位からなる海部に柔軟な骨格部位からなる島部が1ナノ〜1ミクロン程度のサイズ程度で分散していることをいう。
【0040】
【化6】

【0041】
前記式(1)中、Rは独立に水素原子または一価の有機基を示し、R1は独立に下記式(3)で表される群より選ばれる基を示し、R2は独立に下記式(4)で表される群より選ばれる基を示す。nは正の整数を示し、好ましくは1〜2500の整数である。
【0042】
【化7】

【0043】
前記式(2)中、複数あるR5は各々独立に炭素数1〜20の一価の有機基を示し、mは3〜200の整数を示す。
【0044】
前記式(1)中、Rにおける、一価の有機基としては、溶剤への溶解性向上や導入の容易さという観点から、炭素数1〜20の一価の有機基が好ましい。なお、「炭素数1〜20」は、「炭素数1以上、炭素数20以下」を示す。本発明における同様の記載は同様の意味を示す。
【0045】
前記Rにおける炭素数1〜20の一価の有機基としては、炭素数1〜20の一価の炭化水素基等を挙げることができる。
炭素数1〜20の炭化水素基としては、炭素数1〜20のアルキル基等が挙げられる。
【0046】
炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0047】
前記Rとしては、前駆体の合成やイミド化反応の容易さおよび脱離成分種が低分子でかつ分子量が小さいため、該前駆体をイミド化する際の重量ロスが小さいという観点から、水素原子であることが好ましい。
【0048】
前記式(1)中、R1における、二価の有機基としては、炭素数1〜40の二価の有機基が好ましい。
炭素数1〜40の二価の有機基としては、炭素数6〜40の二価の芳香族炭化水素基が好ましく、6〜20の二価の芳香族炭化水素基がより好ましい。前記脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基には、環構造を2以上含む場合、環同士が1個以上の結合を共有する多環式構造、スピロ炭化水素構造、およびビフェニルのように環と環とを単結合等の結合基で結合した構造等が含まれる。前記結合基としては、前記単結合の他にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基等が挙げられる。前記二価の有機基が水素原子を含む場合、任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい。
【0049】
前記二価の有機基としては、得られる層の耐熱性の向上や線膨張率を低くできるという観点から、下記式(3)で表される群より選ばれる基であることがより好ましい。また、R1における二価の有機基が、下記式(3)で表される群より選ばれる基であると、前記海部はより剛直な骨格を有する構造となる。よって、残留応力が小さく、反りの発生が抑制された層を得ることができるため好ましい。
【0050】
【化8】

【0051】
前記式(3)中、R3は独立にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基もしくはシロキサン基を含む基;水素原子;ハロゲン原子;アルキル基;ヒドロキシ基;ニトロ基;シアノ基;またはスルホ基を示し、このアルキレン基を含む基およびアルキル基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、Dは、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基またはシロキサン基を示し、a1は独立に1〜3の整数を示し、a2は1または2を示し、a3は独立に1〜4の整数を示し、eは0〜3の整数を示す。
【0052】
前記エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基もしくはシロキサン基を含む基としては、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基またはシロキサン基を含む炭素数1〜10の有機基が挙げられる。
【0053】
3としては、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基またはスルホ基が好ましく、水素原子またはアルキル基が好ましい。
【0054】
前記式(3)中、R3におけるアルキル基としては、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
これらのアルキル基における任意の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されてもよい。
【0055】
前記式(3)中、R3およびDにおけるアルキレン基としては、メチレン基または炭素数2〜20のアルキレン基等が挙げられ、このアルキレン基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい。
【0056】
前記炭素数2〜20のアルキレン基としては、炭素数2〜10のアルキレン基であることが好ましく、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、イソプロピリデン基、フルオレン基およびこれらのアルキレン基における任意の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換された基等が挙げられる。
【0057】
Dとしては、前記式(3)で表される基を含む、前記前駆体の原料となる化合物の入手性、得られる層の耐熱性の観点からスルフォニル基が好ましい。
【0058】
eは、0〜2の整数が好ましく、0または1がより好ましく、前記前駆体の溶解性、着色性の観点から、0がさらに好ましい。
【0059】
前記式(3)で表される基としては、例えば、以下(3−1)〜(3−3)で表される基等が挙げられる。
【0060】
【化9】

【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
前記式(3)で表される群より選ばれる基としては、下記式(3')で表される群より選ばれる基であることが、耐熱性、低線膨張率かつ残留応力が小さく、反りの発生が抑制された層、基板を得ることができるため好ましい。また、前記第1層が前記ポリイミドを含んでなる層である場合、前記R1が下記式(3')で表される群より選ばれる基であると、該第1層は、支持体との密着性および剥離性に優れる。
【0064】
【化12】

【0065】
前記式(3')中、R3は独立に前記式(3)中のR3と同義である。
【0066】
前記式(1)中、R2は独立に、四価の有機基を示し、四価の有機基としては、炭素数1〜40の四価の有機基が好ましい。
【0067】
炭素数1〜40の四価の有機基としては、炭素数3〜40の四価の脂環式炭化水素基または炭素数6〜40の四価の芳香族炭化水素基が好ましい。前記脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基には、環構造を2以上含む場合、環同士が1個以上の結合を共有する多環式構造、スピロ炭化水素構造、およびビフェニルのように環と環とを単結合等の結合基で結合した構造等が含まれる。前記結合基としては、前記単結合の他にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基等が挙げられる。
【0068】
2としては、得られる層の耐熱性を向上させ線膨張率を低くできるという観点から、下記式(4)で表される群より選ばれる基であることがより好ましく、下記式(4’)で表される群より選ばれる基であることがより好ましい。R2における四価の有機基が、下記式(4)で表される群より選ばれる基、特に下記式(4’)で表される群より選ばれる基であると、前記ポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、剛直な骨格を有する構造となり、ミクロ相分離構造を形成しやすくなるため、残留応力が小さく、反りの発生が抑制された層、基板を得ることができる等の点で好ましい。
【0069】
【化13】

【0070】
前記式(4)中、R4は独立に水素原子またはアルキル基を示し、アルキル基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、Dは、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基またはシロキサン基を示し、bは独立に1または2を示し、cは独立に1〜3の整数を示し、fは0〜3の整数を示す。
【0071】
前記式(4)中、R4におけるアルキル基としては、前記式(3)中、R3におけるアルキル基と同様の基等が挙げられ、R4としては水素原子が好ましい。
【0072】
Dとしては、スルフォニル基が好ましく、fは、0〜2の整数が好ましく、0または1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0073】
前記式(4)で表される群より選ばれる基は、下記式(4')で表される群より選ばれる基であることが、耐熱性、低線膨張性、残留応力が小さく、反りの発生が抑制された層、基板を得ることができるため好ましい。
【0074】
【化14】

【0075】
前記構造単位(1)には、構造単位(2)が含まれる。該構造単位(2)は、前記構造単位(1)中の複数あるR1およびR2からなる群より選ばれる少なくとも1つの基に含まれてもよく、前記構造単位(1)の末端に含まれてもよいが、複数あるR1およびR2からなる群より選ばれる少なくとも1つの基に含まれることが好ましい。なお、「複数あるR1およびR2からなる群より選ばれる少なくとも1つの基は、下記式(2)で表される構造単位を含む」とは、nが2以上の場合には、R1およびR2はそれぞれ2以上構造単位(1)中に存在するが、これらの複数あるR1およびR2のうち、少なくとも1つが下記式(2)で表される構造単位を含むことを意味する。
【0076】
前記ポリイミドは、構造単位(2)を含むため、残留応力が小さく、反りの発生が抑制された層、基板を得ることができる。
【0077】
【化15】

【0078】
前記式(2)中、複数あるR5は各々独立に炭素数1〜20の一価の有機基を示し、mは3〜200の整数を示す。
【0079】
前記式(2)中、R5における炭素数1〜20の一価の有機基としては、炭素数1〜20の一価の炭化水素基および炭素数1〜20の一価のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0080】
前記R5における炭素数1〜20の一価の炭化水素基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基等が挙げられる。
【0081】
前記炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0082】
前記炭素数3〜20のシクロアルキル基としては、炭素数3〜10のシクロアルキル基であることが好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0083】
前記炭素数6〜20のアリール基としては、炭素数6〜12のアリール基であることが好ましく、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0084】
前記R5における炭素数1〜20の一価のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、プロペニルオキシ基およびシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0085】
前記式(2)における複数あるR5の少なくとも1つは、アリール基を含むことが、前記柔軟な骨格部位からなる島部が前記剛直な構造部位からなる海部との親和性に優れ、1ナノ〜1ミクロン程度のサイズで(均一)分散(ミクロ相分離)しやすくなるため好ましい。より具体的には、複数あるR5は、炭素数1〜10のアルキル基および炭素数6〜12のアリール基であることが好ましい。この場合、構造単位(2)中の全てのR5のうち、炭素数1〜10のアルキル基のモル数(i)と炭素数6〜12のアリール基のモル数(ii)との比(但し、(i)+(ii)=100)は、好ましくは(i):(ii)=90〜0:10〜100であり、より好ましくは(i):(ii)=85〜15:15〜85であり、さらに好ましくは(i):(ii)=85〜65:15〜35である。構造単位(2)中の全てのR5のうち、アルキル基のモル数(i)とアリール基のモル数(ii)との比が前記範囲を外れると、前記ポリイミドがミクロ相分離構造を形成することができないおそれがある。アルキル基のモル数(i)とアリール基のモル数(ii)との比が前記範囲にあると、ミクロ相分離(構造単位(2)を含む骨格部位がナノ分散)可能となり、耐熱性、低線膨張係数および低残留応力、低そり性等を有する層、基板を得ることができる。
前記炭素数1〜10のアルキル基は、好ましくはメチル基であり、前記炭素数6〜12のアリール基は、好ましくはフェニル基である。
【0086】
前記ポリイミド前駆体全体を100質量%とした場合、前記構造単位(2)の含有量の下限は、好ましくは5質量%であり、より好ましくは8質量%であり、さらに好ましくは9質量%であり、前記構造単位(2)の含有量の上限は、好ましくは40質量%であり、より好ましくは30質量%であり、さらに好ましくは25質量%であり、特に好ましくは23質量%である。
【0087】
ポリイミド前駆体中に含まれる構造単位(2)の割合が前記範囲を超える場合であって、前記第1層が前記ポリイミドを含む層である場合、ガラス板等の支持体から、該第1層を剥離することが困難となる傾向がある。また、ポリイミド前駆体中に含まれる構造単位(2)の量が前記範囲を下回ると、前記ポリイミドを含む第1層および/または第2層の残留応力が高くなり、得られる基板に反りが発生するおそれがある。
【0088】
前記式(2)中のmは3〜200の整数であり、好ましくは10〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜100、特に好ましくは35〜80の整数である。mが2以下であると、前記ポリイミドがミクロ相分離構造を形成しにくくなる場合があり、mが200を超えると、構造単位(2)を含む骨格部位からなる島部の大きさが1μmを超え、得られる層の白濁化や機械強度が低下するなどの問題が生じる場合がある。
【0089】
前記ポリイミド前駆体は、該ポリイミド前駆体100質量%中、前記構造単位(1)を好ましくは60質量%以上、より好ましくは77質量%以上、さらに好ましくは79質量%、さらに好ましくは85〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは91〜100質量%、特に好ましくは92〜100質量%含む。ポリイミド前駆体中、前記構造単位(1)の割合が前記範囲にあると、残留応力が小さく、反りが生じにくい層、基板を得ることができる。
【0090】
なお、ポリイミド前駆体100質量%中、前記構造単位(1)を60質量%以上含むとは、構造単位−NH−R1−NH−、構造単位−NH−R1−NH2、構造単位−CO−R2(COOR)2−CO−、構造単位−CO−R2(COOR)2−COOH、構造単位(2)、および、構造単位−(Si(R52−O)m−Si(R52−R10−R11等のR1、R2および構造単位(2)を含む構造単位の合計が60質量%以上であることを意味する。(なお、R1、R2およびRは前記式(1)中のR1、R2およびRと同義であり、R5は前記式(2)中のR5と同義であり、R10およびR11は下記式(7')および(8')中のR10およびR11と同義である。)
【0091】
また、前記ポリイミド前駆体は、構造単位(1)の一部がイミド化していてもよい。
【0092】
前記ポリイミド前駆体は、所望の用途および層の形成条件等に応じて、前記式(1)に含まれる構造単位の他に、該前駆体の主鎖に、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む単量体(以下「単量体(I)」ともいう。)に由来する構造単位(以下「構造単位(5、6)」ともいう。)を含んでいてもよい。
前記アルキレン基としては、前記式(3)中、R3におけるアルキレン基と同様の基等が挙げられる。
【0093】
なお、「前記式(1)に含まれる構造単位」とは、構造単位−NH−R1−NH−、構造単位−NH−R1−NH2、構造単位−CO−R2(COOR)2−CO−、構造単位−CO−R2(COOR)2−COOH、構造単位(2)、および、構造単位−(Si(R52−O)m−Si(R52−R10−R11等のR1、R2および構造単位(2)を含む構造単位のことをいう(なお、R1、R2およびRは前記式(1)中のR1、R2およびRと同義であり、R5は前記式(2)中のR5と同義であり、R10およびR11は下記式(7')および(8')中のR10およびR11と同義である。)。
【0094】
構造単位(5、6)は、前記ポリイミド前駆体の主鎖に含まれる、前記構造単位(1)中のR1およびR2で表される基ならびに構造単位(2)を含まない、テトラカルボン酸二無水物およびこれらの誘導体またはイミノ形成化合物に由来する構造単位のことをいう。
【0095】
前記ポリイミド前駆体の主鎖とは、前記構造単位(1)のR1やR2が含まれる鎖を意味し、例えば、構造単位(1)における−COORは、主鎖ではなく、側鎖である。
【0096】
前記ポリイミド前駆体に構造単位(5、6)が含まれると、得られる層の線膨張係数が上昇し、所望に応じて伸ばすことが可能な層が得られる。
【0097】
前記ポリイミド前駆体は、構造単位(5、6)の含有量および/または構造単位(2)の含有量を増加させると線膨張係数は大きくなるため、前記第1層が前記ポリイミドを含む層である場合であって、前記支持体としてCuを含む支持体やSiを含む支持体上などを用いる場合には、これらの支持体に応じて構造単位(5、6)および/または構造単位(2)の配合量を変化させればよい。具体的には、Cuの線膨張係数は16.8ppm/Kであるため、Cuからなる支持体を用いる場合には、前記ポリイミド前駆体は、構造単位(5、6)を含むことが好ましく、Siの線膨張係数は3ppm/Kであるため、Siからなる支持体を用いる場合には、前記ポリイミド前駆体は、構造単位(5、6)を含まないことが好ましい。その他、クロムの線膨張係数は8.2ppm/K、ガラスの線膨張係数は9ppm/K、ステンレスSUS430の線膨張係数は10.4ppm/K、ニッケルの線膨張係数は12.8ppm/Kであるため、これらからなる支持体を用いる場合には、前記ポリイミド前駆体は、ポリイミド前駆体100質量%中、構造単位(5、6)を0〜15質量%含むことが好ましい。
素子として上記の材料を用いる場合も同様である。
【0098】
前記単量体(I)としては、下記式(5)で表される化合物(以下「化合物(5)」ともいう。)または式(6)で表される化合物(以下「化合物(6)」ともいう。)であることが好ましい。
【0099】
【化16】

【0100】
前記式(5)および(6)中、Aは独立にエーテル結合(−O−)、チオエーテル基(−S−)、ケトン基(−C(=O)−)、エステル結合(−COO−)、スルフォニル基(−SO2−)、アルキレン基(−R7−)、アミド基(−C(=O)−NR8−)およびシロキサン基(−Si(R92−O−Si(R92−)からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む基を示し、R6は独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはニトロ基を示し、アルキル基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、dは独立に1〜4の整数を示す。
【0101】
なお、前記R8およびR9は各々独立に水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を示し、このアルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい。前記R6、R8およびR9におけるアルキル基としては、前記式(3)中、R3におけるアルキル基と同様の基等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、塩素原子またはフッ素原子が好ましい。
【0102】
前記Aとしては、エーテル基が好ましく、前記R6としては水素原子が好ましい。
【0103】
前記式(5)および(6)中、Aにおけるアルキレン基(−R7−)としては、前記式(3)中、R3におけるアルキレン基と同様の基等が挙げられ、これらの中でも、メチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基およびフルオレン基が好ましい。
【0104】
前記化合物(5)および(6)としては、例えば、下記化合物群(5−1)〜(6−9)に記載の化合物が挙げられる。
【0105】
【化17】

【0106】
【化18】

【0107】
【化19】

【0108】
【化20】

【0109】
【化21】

【0110】
【化22】

【0111】
【化23】

【0112】
【化24】

【0113】
【化25】

【0114】
【化26】

【0115】
【化27】

【0116】
【化28】

【0117】
【化29】

【0118】
【化30】

【0119】
【化31】

【0120】
【化32】

【0121】
【化33】

【0122】
【化34】

【0123】
前記ポリイミド前駆体が構造単位(5、6)を含む場合、ポリイミド前駆体は、ポリイミド前駆体100質量%中、構造単位(5、6)を好ましくは0〜15質量%含み、より好ましくは0〜10質量%含み、さらに好ましくは0〜9質量%含み、特に好ましくは0〜8質量%含む。
【0124】
構造単位(5、6)の含有量が15質量%を超えると、前記剛直な構造部位の弾性率が低くなり、残留応力を前記柔軟な構造部位に移行させ難くなるため、得られる層、基板に反りが生じやすくなる場合がある。
【0125】
また、構造単位(5、6)の含有量が前記範囲にあると、反りの発生が抑制されたまま、伸びやすい層、基板を得ることができる。
【0126】
なお、前記ポリイミド前駆体が、構造単位(5、6)を含む場合、該構造単位(5、6)を含むポリイミド前駆体は、(i)前記式(1)におけるR1やR2に構造単位(5、6)が含まれる構造で表される場合、および、(ii)ポリイミド前駆体中の、構造単位(1)以外の部分に構造単位(5、6)が含まれる構造で表される場合がある。前記(i)の場合、前記ポリイミド前駆体が前記式(1)中のR1に化合物(5)に由来する構造単位を含むとすると、前記ポリイミド前駆体は、例えば下記式(5A)のように表される。この場合、「ポリイミド前駆体100質量%中、構造単位(5、6)を好ましくは0〜15質量%含む」とは、ポリイミド前駆体100質量%中、繰り返し単位n2中の2個の−NH−間にはさまれた構造(両端の−NH−を含む)で表される構造単位を0〜15質量%含むことを意味する。
【0127】
また、前記(i)の場合、構造単位(5、6)は、前記構造単位(1)中の複数あるR1およびR2からなる群より選ばれる少なくとも1つの基に含まれてもよく、前記構造単位(1)の末端に含まれてもよい。
【0128】
【化35】

【0129】
前記式(5A)中、R、R1およびR2は各々独立に前記式(1)中のR、R1およびR2と同義であり、A、R6およびdは各々独立に前記式(5)中のA、R6およびdと同義であり、n1+n2=nである。
【0130】
前記ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)は好ましくは10,000〜1,000,000であり、より好ましくは10000〜200000であり、さらに好ましくは20000〜150000である。数平均分子量(Mn)は5000〜500000、好ましくは5000〜400000、特に好ましくは10000〜300000である。
【0131】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量ないし数平均分子量が前記下限未満であると、得られる層の強度が低下してしまうことがある。さらに、得られる層の線膨張係数が必要以上に上がる場合がある。一方、ポリイミド前駆体の重量平均分子量ないし数平均分子量が前記上限を超える場合であって、前記膜形成用組成物として該前駆体を含む組成物を用いる場合には、該膜形成用組成物の粘度が上がる。このため、該膜形成用組成物を用いて層を形成する場合には、膜形成用組成物に配合できるポリイミド前駆体の量が少なくなるため、得られる層の平坦性等の層の厚み精度が悪化する場合がある。
【0132】
前記ポリイミド前駆体の分子量分布(Mw/Mn)は好ましくは1〜10、より好ましくは2〜5である。
【0133】
なお、前記重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、東ソー製HLC−8220型GPC装置を用いて測定した値である。
【0134】
前記ポリイミドは、示差走査熱量測定(DSC、昇温速度20℃/分)で測定したガラス転移温度が好ましくは350℃以上であり、より好ましくは400℃以上である。ポリイミドのガラス転移温度が前記範囲にあることで、得られる層、基板は、優れた耐熱性を示す。
【0135】
また、前記ポリイミドのイミド基濃度は、イミド化率が100モル%であると仮定した場合に、2.5〜7.5mmol/gであることが好ましく、3.0〜6.0mmol/gであることがより好ましく、3.5〜5.5mmol/gであることがさらに好ましい。
【0136】
〔ポリイミド前駆体の合成方法〕
前記構造単位(1)を有するポリイミド前駆体は、好ましくは、テトラカルボン酸二無水物およびこの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物を含む成分(以下「(A)成分」ともいう。)と、イミノ形成化合物を含む成分(以下「(B)成分」ともいう。)とを反応させることで得られる。但し、前記ポリイミドの合成の際には、前記構造単位(2)を含む化合物を用いることが好ましい。
この反応によれば、用いる原料化合物の構造に応じたポリイミド前駆体を得ることができ、また、用いる原料化合物の使用量に応じた量で該化合物に由来する構造単位を有するポリイミド前駆体を得ることができる。
【0137】
この場合、(A)成分として構造単位(2)を含むアシル化合物(以下「化合物(A−2)」ともいう。)を用いること、あるいは(B)成分として構造単位(2)を含むイミノ形成化合物(以下「化合物(B−2)」ともいう。)を用いることが好ましい。また、化合物(A−2)と化合物(B−2)とを両方用いることもできる。
【0138】
[(A)成分]
(A)成分は、テトラカルボン酸二無水物およびこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物である。好ましくは、前記化合物(A−2)、および化合物(A−2)以外のアシル化合物(A−1)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
【0139】
前記アシル化合物(A−1)としては、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環族テトラカルボン酸二無水物、前記化合物(6)およびこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物等が挙げられる。
【0140】
具体例としては、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族テトラカルボン酸二無水物あるいは脂環族テトラカルボン酸二無水物、およびこれらの反応性誘導体;
4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物、およびこれらの反応性誘導体を挙げることができる。
これらの化合物は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0141】
前記反応性誘導体としては、テトラカルボン酸、該テトラカルボン酸の酸エステル化物、該テトラカルボン酸の酸クロライドなどが挙げられる。
【0142】
これらのうち、得られる層の優れた透明性、必要により用いられる反応溶媒への化合物の良好な溶解性の観点からは、脂肪族テトラカルボン酸二無水物あるいは脂環族テトラカルボン酸二無水物が好適に用いられる。また、得られる層、基板の耐熱性、低線膨張係数(寸法安定性)、低吸水性の観点からは、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好適に用いられる。
【0143】
また、前記アシル化合物(A−1)としては、前記式(4)または式(4')で表される群より選ばれる基を有する化合物であることが、弾性率の高い前記海部中に前記柔軟な骨格部位を極めて小さな1ナノ〜1ミクロン程度のサイズで(均一)分散可能(ミクロ相分離構造)となり、層内部に発生しうる応力を前記柔軟な骨格部位で効率よく吸収することができるため、残留応力が小さく、反りの発生が抑制された層、基板を得る点からより好ましい。
【0144】
このような化合物として、具体的には、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(PMDAH)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物および下記群(4−1)で表わされる化合物等が挙げられ、これらの中でも芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、より好ましくはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であり、特に好ましくはピロメリット酸二無水物である。これらの化合物は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0145】
【化36】

【0146】
前記化合物(A−1)の配合量は特に制限されず、全アシル化合物((A)成分)の全量を100質量%とした場合に、100質量%であってもよいが、(A)成分に下記化合物(A−2)および/または化合物(6)が含まれる場合には、100質量%からこれらの化合物それぞれの好ましい配合量を引いた量で配合すればよい。
【0147】
前記化合物(A−2)としては、具体的には前記式(2)で表わされる構造単位を有するテトラカルボン酸二無水物およびこの反応性誘導体より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物等が挙げられ、好ましくは下記式(7)で表わされる化合物(以下「化合物(7)」ともいう。)、下記式(7')で表わされる化合物(以下「化合物(7')」ともいう。)、下記式(8)で表わされる化合物(以下「化合物(8)」ともいう。)および下記式(8')で表わされる化合物(以下「化合物(8')」ともいう。)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物等を挙げることができる。
【0148】
前記反応性誘導体としては、前記式(2)で表わされる構造単位を有するテトラカルボン酸、該テトラカルボン酸の酸エステル化物、該テトラカルボン酸の酸クロライドなどが挙げられる。
【0149】
なお、構造単位(2)が、前記構造単位(1)中の複数あるR2の少なくとも1つの基に含まれるポリイミド前駆体を合成したい場合には、化合物(7)および/または(8)を用いることが好ましく、前記構造単位(1)の末端に含まれるポリイミド前駆体を合成したい場合には、好ましくは化合物(7')および/または(8')を用いることが好ましい。
【0150】
【化37】

【0151】
前記式(7)、(7')、(8)および(8')中、R5およびmは各々独立に、前記式(2)中のR5およびmと同義である。R10は独立に単結合または炭素数1〜20の二価の有機基を示す。前記式(7')および(8')中、R11は独立に水素原子、または炭素数1〜20の一価の有機基を示し、この炭素数1〜20の一価の有機基としては、前記式(2)中、R5における炭素数1〜20の一価の有機基と同様の基等が挙げられる。
【0152】
前記R10における炭素数1〜20の二価の有機基としては、メチレン基、炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、または炭素数6〜20のアリーレン基等が挙げられる。
前記炭素数2〜20のアルキレン基としては、炭素数2〜10のアルキレン基であることが好ましく、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
前記炭素数3〜20のシクロアルキレン基としては、炭素数3〜10のシクロアルキレン基であることが好ましく、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基等が挙げられる。
前記炭素数6〜20のアリーレン基としては、炭素数6〜12のアリーレン基であることが好ましく、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0153】
前記化合物(A−2)としては、耐熱性(高ガラス転移温度)および耐水性に優れた層、基板を得る観点から数平均分子量が200〜10,000であることが好ましく、500〜10,000であることがより好ましく、特に好ましくは500〜6000である。アミン価は100〜5000であることが好ましく、より好ましくは250〜5,000、さらに好ましくは1000〜3000である。
【0154】
前記化合物(7)、(7')、(8)および(8')における重合度mは前記式(2)と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0155】
前記式(7)、(7')、(8)および(8')中、R5はメチル基またはフェニル基が好ましく、複数あるR5のうち、少なくとも1つはフェニル基が好ましい。複数あるR5のすべてがメチル基またはフェニル基であり、その少なくとも1つはメチル基であり、その少なくとも1つはフェニル基である場合、メチル基のモル%とフェニル基のモル%との比(メチル基のモル%+フェニル基のモル%=100)は、好ましくはメチル基:フェニル基=5〜95:95〜5であり、より好ましくはメチル基:フェニル基=15〜85:85〜15であり、さらに好ましくはメチル基:フェニル基=85〜65:15〜35である。前記式(7)、(7')、(8)および(8')中の少なくとも1つのR5がフェニル基でないと、前記海部と島部との相溶性が悪化して、島部の分散サイズが1ミクロンを超え、耐熱性、強度に劣る層、基板が得られる場合がある。
【0156】
前記化合物(A−2)としては、具体的には、ゲレスト社製 DMS−Z21(数平均分子量600〜800、アミン価300〜400、m=4〜7)などを挙げることができる。なお、化合物(A−2)は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0157】
前記(A)成分に前記化合物(A−2)が含まれる場合には、全原料化合物((A)成分+(B)成分)の全量を100質量%とした場合に、前記化合物(A−2)の配合量は、反りの発生しにくい層、基板を得る点から、好ましくは5〜40質量%であり、より好ましくは5〜23質量%であり、さらに好ましくは8〜22質量%であり、特に好ましくは9.5〜21質量%である。但し、前記化合物(A−2)の好ましい配合量は、ポリイミド前駆体を合成する際に、前記化合物(B−2)を用いない場合であり、ポリイミド前駆体を合成する際に、その原料として、化合物(A−2)および化合物(B−2)を用いる場合には、使用する化合物(A−2)および化合物(B−2)の合計量が前記化合物(A−2)の好ましい配合量と同程度になるようにすることが好ましい。
【0158】
また、前記(A)成分には、得られる層、基板の伸びを改良する点から、所望の用途に応じて、化合物(6)および/または下記式(6')で表わされる化合物(以下「化合物(6')」ともいう。)が含まれてもよい。なお、ポリイミド前駆体の主鎖(末端を除く)に構造単位(5、6)が含まれるポリイミド前駆体を合成したい場合には、化合物(6)を用いることが好ましく、ポリイミド前駆体の主鎖末端に構造単位(5、6)が含まれるポリイミド前駆体を合成したい場合には、好ましくは化合物(6')を用いることが好ましい。
【0159】
【化38】

【0160】
前記式(6')中、Aは前記式(5)および(6)中のAと同義であり、R12は、水素原子または炭素数1〜20の一価の有機基を示す。この炭素数1〜20の一価の有機基としては、前記式(2)中、R5における炭素数1〜20の一価の有機基と同様の基が挙げられる。
【0161】
前記(A)成分に前記化合物(6)および/または化合物(6')が含まれる場合には、全原料化合物((A)成分+(B)成分)の全量を100質量%とした場合に、前記化合物(6)および/または化合物(6')の配合量は、反りの発生しにくい層、基板を得る点から、好ましくは0〜15質量%であり、より好ましくは0〜10質量%であり、さらに好ましくは0〜9質量%であり、特に好ましくは0〜8質量%である。但し、前記化合物(6)および/または化合物(6')の好ましい配合量は、ポリイミド前駆体を合成する際に、前記化合物(5)および/または下記化合物(5')を用いない場合であり、ポリイミド前駆体を合成する際に、その原料として、化合物(6)および/または化合物(6')ならびに化合物(5)および/または化合物(5')を用いる場合には、使用する化合物(6)および/または化合物(6')ならびに化合物(5)および/または化合物(5')の合計量が前記化合物(6)および/または化合物(6')の好ましい配合量と同程度になるようにすることが好ましい。
【0162】
[(B)成分]
(B)成分は、イミノ形成化合物である。ここで、「イミノ形成化合物」とは、前記(A)成分と反応してイミノ(基)を形成する化合物をいい、具体的には、ジアミン化合物、ジイソシアネート化合物、ビス(トリアルキルシリル)アミノ化合物等を挙げることができる。
【0163】
(B)成分としては、好ましくは、前記化合物(B−2)、および化合物(B−2)以外のイミノ形成化合物(B−1)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
前記化合物(B−1)としては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物および前記化合物(5)等が挙げられる。
【0164】
前記化合物(B−1)としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(o−トリジン)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−トリジン)、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン、1,3−ビス[2−(4−アミノフェノキシエトキシ)]エタン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)フルオレン、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3、3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、2,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(P−TPEQ)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4―(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ベンジジン、3,3−ジメトキシ−4,4−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、o−トリジンスルホン等が挙げられる。これら芳香族ジアミンは、1種単独であるいは2種以上混合して用いることができる。
【0165】
前記脂肪族ジアミンとしては、炭素数2〜30の脂肪族ジアミン等が挙げられ、その具体例としては、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ヘプタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等のアルキレンジアミン;オキシジ(2−アミノエタン)、オキシジ(2−アミノプロパン)、2−(2−アミノエトキシ)エトキシアミノエタン等のオキシアルキレンジアミンが例示される。これら脂肪族ジアミンは、1種単独でまたは2種以上を混合してイミド化反応に供することができる。
【0166】
また、前記脂環族ジアミンとしては、分子内に少なくとも1個の脂環基を有するものを用いることができ、脂環基としては単環、多環、縮合環のいずれの基であってもよい。前記脂環族ジアミンとしては、炭素数4〜30の脂環族ジアミンが好適に用いられ、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルシクロヘキシルメタン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4’−ジアミノシクロヘキシル)プロパン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,3−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,7−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,3−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカン等が挙げられる。これら脂環族ジアミンは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0167】
また、前記化合物(B−1)としては、前記式(3)、(3−1)〜(3−3)および(3')で表わされる群より選ばれる基を有する化合物であることが、弾性率の高い前記海部中に前記柔軟な骨格部位を極めて小さな1ナノ〜1ミクロン程度のサイズで(均一)分散可能(ミクロ相分離構造)となり、層内部に発生しうる応力を前記柔軟な骨格部位で効率よく吸収することができるため、残留応力が小さく、反りの発生が抑制された層、基板を得る点から好ましい。このような化合物として、具体的には、p−フェニレンジアミン(PDA)、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、ベンジジン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(o−トリジン)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−トリジン,mTB)、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、3,3−ジメトキシ−4,4−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられ、これらの中でも2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニルが好ましい。
【0168】
前記化合物(B−1)の配合量は特に制限されず、全イミド形成化合物((B)成分)の全量を100質量%とした場合に、100質量%であってもよいが、(B)成分に下記化合物(B−2)および/または化合物(5)が含まれる場合には、100質量%からこれらの化合物それぞれの好ましい配合量を引いた量で配合すればよい。
【0169】
前記化合物(B−2)としては、構造単位(2)を含むイミノ形成化合物であれば特に制限されないが、好ましくは下記式(9)で表わされる化合物(以下「化合物(9)」ともいう。)および下記式(9')で表わされる化合物(以下「化合物(9')」ともいう。)等を挙げることができる。
【0170】
なお、構造単位(2)が、前記構造単位(1)中の複数あるR1およびR2からなる群より選ばれる少なくとも1つの基に含まれるポリイミド前駆体を合成したい場合には、化合物(9)を用いることが好ましく、前記構造単位(1)の末端に含まれるポリイミド前駆体を合成したい場合には、好ましくは化合物(9')を用いることが好ましい。
【0171】
【化39】

【0172】
前記式(9)および(9')中、R5およびmは各々独立に、前記式(2)中のR5およびmと同義であり、R10は各々独立に前記式(7)、(7’)、(8)および(8’)中のR10と同義であり、R11は各々独立に前記式(7')および(8')中のR11と同義である。
【0173】
前記化合物(B−2)としては、前記柔軟な骨格部位を前記剛直な骨格部位からなる海部にナノ〜ミクロン程度のサイズで微分散させることができ、耐熱性(高ガラス転移温度)および耐水性が優れた層、基板を得る観点から、数平均分子量が500〜12,000であることが好ましく、1,000〜8,000であることがより好ましく、3,000〜6,000であることがさらに好ましい。アミン価は250〜6,000であることが好ましく、500〜4,000であることがより好ましく、1,500〜3,000であることがさらに好ましい。
【0174】
前記式(9)および(9')における重合度mは前記式(2)と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0175】
前記式(9)および(9')中、R5はメチル基またはフェニル基が好ましく、複数あるR5のうち、少なくとも1つはフェニル基であることが好ましい。複数あるR5のすべてがメチル基またはフェニル基であり、その少なくとも1つはメチル基であり、その少なくとも1つはフェニル基である場合、メチル基のモル%とフェニル基のモル%との比(メチル基のモル%+フェニル基のモル%=100)は、好ましくはメチル基:フェニル基=5〜95:95〜5であり、より好ましくはメチル基:フェニル基=15〜85:85〜15であり、さらに好ましくはメチル基:フェニル基=85〜65:15〜35である。前記式(9)および(9')中の少なくとも1つのR5がフェニル基でないと、前記海部と島部との相溶性が悪化して、島部の分散サイズが1ミクロンを超え、耐熱性および強度に劣る層、基板が得られる場合がある。
【0176】
前記化合物(B−2)としては、具体的には、両末端アミノ変性メチルフェニルシリコーン(信越化学社製; X22−1660B−3(数平均分子量4,400 重合度m=41、フェニル基:メチル基=25:75mol%)、X22−9409(数平均分子量1,300))、両末端アミノ変性ジメチルシリコーン(信越化学社製; X22−161A(数平均分子量1,600、重合度m=20)、X22−161B(数平均分子量3,000、重合度m=39)、KF8012(数平均分子量4400、重合度m=58)、東レダウコーニング製;BY16−835U(数平均分子量900、重合度m=11))などが挙げられる。なお、前記イミノ形成化合物(B−2)は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、重合度mは例えば以下の式により算出することができる。(両末端がアミノプロピル基の場合、前記式(2)中のR5のすべてがメチル基またはフェニル基である化合物の場合)
m=(数平均分子量−両末端基(アミノプロピル基)の分子量116.2)/(74.15×メチル基のmol%×0.01+198.29×フェニル基のmol%×0.01)
【0177】
前記(B)成分に前記化合物(B−2)が含まれる場合には、全原料化合物((A)成分+(B)成分)の全量を100質量%とした場合に、前記化合物(B−2)の配合量は、基板との剥離性に優れ、反りの発生しにくい層、基板を得る点から、好ましくは5〜40質量%であり、より好ましくは5〜23質量%であり、さらに好ましくは8〜22質量%であり、特に好ましくは9.5〜21質量%である。但し、前記化合物(B−2)の好ましい配合量は、ポリイミド前駆体を合成する際に、前記化合物(A−2)を用いない場合の量である。
【0178】
また、前記(B)成分には、得られる層、基板の伸びを改良する点から、所望の用途に応じて、化合物(5)および/または下記式(5')で表わされる化合物(以下「化合物(5')」ともいう。)が含まれてもよい。なお、ポリイミド前駆体の主鎖(末端を除く)に構造単位(5、6)が含まれるポリイミド前駆体を合成したい場合には、化合物(5)を用いることが好ましく、ポリイミド前駆体の主鎖末端に構造単位(5、6)が含まれるポリイミド前駆体を合成したい場合には、好ましくは化合物(5')を用いることが好ましい。
【0179】
【化40】

【0180】
前記式(5')中、Aは前記式(5)および(6)中のAと同義であり、R12は、前記式(6')中のR12と同義である。
【0181】
前記(B)成分に前記化合物(5)および/または化合物(5')が含まれる場合には、全原料化合物((A)成分+(B)成分)の全量を100質量%とした場合に、前記化合物(5)および/または化合物(5')の配合量は、反りの発生しにくい層、基板を得る点から、好ましくは0〜15質量%であり、より好ましくは0〜10質量%であり、さらに好ましくは0〜9質量%であり、特に好ましくは0〜8質量%である。但し、前記化合物(5)および/または化合物(5')の好ましい配合量は、ポリイミド前駆体を合成する際に、前記化合物(6)および/または化合物(6')を用いない場合の量である。
【0182】
前記ポリイミド前駆体は、(A)成分と(B)成分とを、使用割合(仕込み量比)として、(A)成分と(B)成分とのモル比((A)成分/(B)成分)が0.8〜1.2となる範囲で反応させることが好ましく、0.90〜1.0となる範囲で反応させることがより好ましい。(A)成分と(B)成分とのモル比が、0.8当量未満、または1.2当量を超えると、分子量が低くなり前記ポリイミドを含む層を形成することが困難となることがある。
【0183】
前記(A)成分と(B)成分との反応は、通常、反応溶媒中で行う。前記反応溶媒としては、有機溶媒が挙げられ、該有機溶媒は脱水したものが好ましい。
前記有機溶媒としては、下記混合溶媒を用いることが、得られる層、基板の性質(ヘイズ、反り等)の点から好ましい。
【0184】
(A)成分と(B)成分とを反応させる具体的な方法としては、少なくとも1種の(B)イミノ形成化合物を有機溶媒に溶解させた後、得られた溶液に、少なくとも1種の(A)アシル化合物を添加し、0〜100℃の温度で、1〜60時間撹拌する方法等が挙げられる。
【0185】
なお、反応液中の(A)成分と(B)成分との合計量は、反応液全量の3〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜40質量%であり、特に好ましくは10〜30質量%である。
反応液中の(A)成分と(B)成分との合計量が前記範囲にあると、得られる組成物中のポリイミド前駆体の濃度が下記好ましい範囲にある組成物を得ることができるため好ましい。
【0186】
なお、前記ポリイミド前駆体は、部分的にイミド化された前駆体であってもよい。
【0187】
この部分的にイミド化された前駆体は、脱水剤を用いる方法(化学的部分イミド化)や、溶液で160〜220℃程度で熱処理する方法(熱的部分イミド化)で合成され、より低温での加熱によって部分環化を行うことができることなどから、化学イミド化などの化学的部分イミド化されたものが好ましい。
【0188】
前記脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物、もしくはこれらの化合物に対応する酸クロライド類、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物などが挙げられる。なお、化学的部分イミド化の際には、60〜120℃の温度で加熱することが好ましい。
【0189】
熱的部分イミド化の場合には、脱水反応で生じる水を系外に除去しながら行うことが好ましい。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いて水を共沸除去することが好ましい。
【0190】
また、部分イミド化の際には、必要に応じて、ピリジン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、イミダゾール等の塩基触媒を用いることができる。前記脱水剤または塩基触媒は、前記(A)成分1モルに対し、それぞれ0.1〜8モルの範囲で用いることが好ましい。
【0191】
なお、部分イミド化を行う場合には、部分イミド化は、前駆体中の−CO−NH−や−CO−OH等の環化反応に寄与する官能基100モル%の少なくとも一部、具体的にはアミック酸構造およびイミド環構造の合計100モル%中、イミド環構造の割合(以下「閉環率」ともいう。)が好ましくは5〜70モル%、より好ましくは10〜60モル%、特に好ましくは20〜50モル%となるように行われる。
【0192】
<基板の製造方法>
本発明に係る基板の製造方法は、下記工程(a)〜(e)をこの順で含む。
(a)支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する、または、支持体上に粘着層を設けることで第1層を形成する工程
(b)前記第1層上にフィルムの貼合により、または、膜形成用組成物を用いて第2層を設ける工程
(c)前記工程(a)、工程(b)において膜形成用組成物を用いる場合には、前記第1層および/または前記第2層を硬化させる工程
(d)前記第2層上に素子を形成する工程
(e)素子が形成された積層体から支持体を取り除いて、少なくとも素子が形成された第2層を含む基板を得る工程
【0193】
この方法で基板を製造することにより、反りの発生が少ない品質の高い基板を容易に製造することができる。
【0194】
[工程(a)]
前記工程(a)は、支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する、または、支持体上に粘着層を設けることで第1層を形成する工程である。
この第1層は、仮固定部材としての役割や、得られる基板のベース基材としての役割を果たす。
【0195】
1.支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する工程
前記膜形成用組成物としては、特に制限されないが、前記ポリイミド前駆体および有機溶媒を含むポリイミド系膜形成用組成物であることが好ましい。このようなポリアミド前駆体を含む組成物を用いることにより、支持体や第2層に対する密着性と剥離性とのバランス、および反りのない平滑性に優れた基板を得ることができる。
また、支持体としてシリコンウエハ、無アルカリガラスや金属板等を用いた場合であっても、該支持体との密着性と剥離性とを両立することが可能であり、粘着層または第1層の付着の無い、反りの発生が少ないきれいな基板を製造することができる。また、前記第1層の一部が付着等していないきれいな支持体が得られるため、該支持体を洗浄する等の必要がなく、新たな基板の製造の際に用いる支持体等として利用することができる。
【0196】
その他の膜形成用組成物としては、ポリアミド系、ポリベンゾオキサゾール前駆体系、ポリベンゾイミダゾール前駆体系組成物が挙げられる。
【0197】
1−1.ポリイミド系膜形成用組成物
前記ポリイミド系膜形成用組成物は、前記ポリイミド前駆体と有機溶媒とを含む。
なお、前記ポリイミド系膜形成用組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などの添加剤を配合してもよい。
前記ポリイミド系膜形成用組成物は、平滑性、屈曲性、柔軟性、寸法安定性が要求される用途、特にフレキシブルプリント基板、ディスプレイ基板等のフレキシブル基板の製造に適している。
【0198】
前記ポリイミド前駆体の合成方法において、反応溶媒として有機溶媒を用いた場合には、前記反応で得られたポリイミド前駆体と有機溶媒とを含む組成物は、そのまま前記ポリイミド系膜形成用組成物として使用することが好ましいが、前記ポリイミド系膜形成用組成物は、前記反応で得られたポリイミド前駆体を固体分として単離した後、下記有機溶媒に再溶解させることで得ることもできる。
【0199】
ポリイミド前駆体を単離する方法としては、ポリイミド前駆体および有機溶媒等を含む溶液を、メタノールやイソプロパノール等のポリイミド前駆体に対する貧溶媒に投じてポリイミド前駆体等を沈殿させ、濾過・洗浄・乾燥等によりポリイミド前駆体を固体分として分離する方法等が挙げられる。
【0200】
前記有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、N,N'−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、アセトニトリルおよびエチレングリコールモノエチルエーテル等の非プロトン系極性溶媒;クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール等のフェノール系溶媒;などが挙げられる。
【0201】
中でも、N,N'−ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、アセトニトリルおよびエチレングリコールモノエチルエーテルが好ましい。
【0202】
また、N,N'−ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドおよびエチレングリコールモノエチルエーテルから選ばれる少なくとも一種の溶媒を、用いる有機溶媒全量(100重量%)に対して50重量%以上、好ましくは70〜100重量%含むことが好ましい。
これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0203】
前記有機溶媒としては、アミド系溶媒とエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、ニトリル系溶媒およびエステル系溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種の非アミド系溶媒との混合溶媒を用いることが、得られる第1層の支持体や第2層に対する密着性、剥離性および残留応力等の点からより好ましい。また、前記混合溶媒を用いると、層形成時の乾燥速度が上がり、層の性質が低下せず、前記ポリイミドを含む層の生産性に優れ、前記ポリイミド前駆体の濃度の高い組成物を得ることができる。
【0204】
前記非アミド系溶媒としては、下記真空乾燥中に選択的に蒸発し、支持体上に形成された塗膜からほぼ完全に除去される溶媒であることが好ましく、沸点が40〜200℃の範囲にある溶媒が好ましく、100〜170℃の範囲にある溶媒がより好ましい。このような溶媒を用いると、ポリイミド系膜形成用組成物から第1層を形成する際の溶媒の除去が容易となるために、生産性に優れる組成物を得ることができる。本発明において、沸点とは、大気中、1atm下における沸点のことをいう。
【0205】
また、前記非アミド系溶媒としては、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒およびニトリル系溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を含むことが好ましいと考えられる。これらの溶媒は、比較的極性が高いため、保存安定性に優れる組成物を得ることができる傾向がある。
【0206】
前記エーテル系溶媒としては、炭素数3以上10以下のエーテル類であることが好ましく、炭素数3以上7以下のエーテル類であることがより好ましい。好ましいエーテル系溶媒としては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのモノもしくはジアルキルエーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などの環状エーテル類、アニソールなどの芳香族エーテル類等を挙げることができる。これらの中でもテトラヒドロフランが好ましい。
なお、これらエーテル系溶媒は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0207】
前記ケトン系溶媒としては、炭素数3以上10以下のケトン類であることが好ましく、沸点およびコストの点等から、炭素数3以上6以下のケトン類であることがより好ましい。好ましいケトン系溶媒としては、具体的には、アセトン(bp=57℃)メチルエチルケトン(bp=80℃)、メチル−n−プロピルケトン(bp=105℃)、メチル−iso−プロピルケトン(bp=116℃)、ジエチルケトン(bp=101℃)、メチル−n−ブチルケトン(bp=127℃)、メチル−iso−ブチルケトン(bp=118℃)、メチル−sec−ブチルケトン(bp=118℃)、メチル−tert−ブチルケトン(bp=116℃)などのジアルキルケトン類、シクロペンタノン(bp=130℃)、シクロヘキサノン(CHN,bp=156℃)、シクロヘプタノン(bp=185℃)などの環状ケトン類等を挙げることができる。これらの中でもシクロヘキサノンが、乾燥性、生産性等に優れる組成物を得ることができること、下記真空乾燥中に選択的に蒸発し、支持体上に形成された塗膜からほぼ完全に除去される溶媒であること等の点でから好ましい。
なお、これらケトン系溶媒は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0208】
前記ニトリル系溶媒としては、炭素数2以上10以下のニトリル類であることが好ましく、炭素数2以上7以下のニトリル類であることがより好ましい。好ましいニトリル系溶媒としては、アセトニトリル(bp=82℃)、プロパンニトリル(bp=97℃)、ブチロニトリル(bp=116℃)、イソブチロニトリル(bp=107℃)、バレロニトリル(bp=140℃)、イソバレロニトリル(bp=129℃)、ベンズニトリル(bp=191℃)等が挙げられる。これらの中でも、低沸点の点等から、アセトニトリルが好ましい。
なお、これらニトリル系溶媒は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0209】
前記エステル系溶媒としては、炭素数3以上10以下のエステル類であることが好ましく、炭素数3以上6以下のエステル類であることがより好ましい。好ましいエステル系溶媒としては、酢酸エチル(bp=77℃)、酢酸プロピル(bp=97℃)、酢酸−i−プロピル(bp=89℃)、酢酸ブチル(bp=126℃)、などのアルキルエステル類、β−プロピオラクトン(bp=155℃)、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル類等を挙げることができる。
なお、これらエステル系溶媒は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0210】
前記アミド系溶媒としては、炭素数3以上10以下のアミド類であることが好ましく、炭素数3以上6以下のアミド類であることがより好ましい。これらの中でも、工程(a)において、1次乾燥(溶媒の除去)、次いで、2次乾燥(イミド化)することで前記ポリイミドを含む層を得る場合、1次乾燥温度以上の沸点を有するアミド系溶媒が得られる層の平坦性等の点から好ましく、具体的には、沸点が200℃以上のアミド系溶媒が好ましい。
【0211】
好ましいアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアルキルアミド類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの環状アミド類等を挙げることができる。これらの中でも、N−メチル−2−ピロリドンおよびN,N−ジメチルアセトアミドが非アミド系溶媒を蒸発させた真空乾燥や1次乾燥(溶媒の除去)後に残存し、200℃〜500℃で行う2次乾燥(イミド化)の際に塗膜の表面の平滑性を維持できる蒸発速度で揮発することなどからより好ましく、環境汚染等を考慮すると、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
なお、これらアミド系溶媒は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0212】
前記混合溶媒は、乾燥性および生産性等の点から、N−メチル−2−ピロリドンとシクロヘキサノンとの混合溶媒、N,N−ジメチルアセトアミドとシクロヘキサノンとの混合溶媒、N−メチル−2−ピロリドンとアセトニトリルとの混合溶媒であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンとシクロヘキサノンとの混合溶媒が特に好ましい。
【0213】
前記混合溶媒は、混合溶媒100質量部に対して、前記アミド系溶媒を5〜95質量部含むことが好ましく、25〜95質量部含むことがより好ましく、得られる層の物性を考慮すると35〜65質量部含むことがさらに好ましい。
【0214】
さらに前記混合溶媒は、混合溶媒100質量部に対して、前記アミド系溶媒を40〜60質量部含むことが特に好ましく、混合溶媒中に前記アミド系溶媒がこの量で含まれていると、乾燥速度が速く、生産性に優れる組成物となるのみならず、さらに、白濁が起こりにくく、引張り強度等の層の性質および保存安定性等に優れ、支持体との密着・剥離性に優れる反りの生じにくい層を得ることができる。
アミド系溶媒の量が5質量部未満であると、前記ポリイミド前駆体が溶解せず、ポリイミド系膜形成用組成物を得ることができない場合があり、アミド系溶媒の量が95質量部を超えると、層を形成する際の乾燥速度が遅くなり、生産性が劣る場合がある。
【0215】
前記ポリイミド系膜形成用組成物の粘度は、用いるポリイミド前駆体の分子量や濃度にもよるが、通常、500〜50,000mPa・s、好ましくは1,000〜30,000mPa・sである。ポリイミド系膜形成用組成物の粘度が前記範囲にあると、層形成中の該組成物の支持体上への滞留性に優れ、層の厚みの調整が容易となるため、層の成形が容易となる。
なお、前記ポリイミド系膜形成用組成物の粘度は、E型粘度計(東機産業製、粘度計MODEL RE100)を用いて、大気中、25℃で測定した値である。
【0216】
前記ポリイミド系膜形成用組成物中のポリイミド前駆体の濃度は、組成物の粘度が前記範囲となるよう調整することが好ましく、ポリイミド前駆体の分子量にもよるが、通常、3〜60質量%、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは5〜35質量%、特に好ましくは5〜30質量%である。ポリイミド系膜形成用組成物中の前記ポリイミド前駆体の濃度が前記範囲にあると、厚膜化可能で、ピンホールが生じにくく、表面平滑性に優れる層を形成することができる。
【0217】
前記ポリイミド系膜形成用組成物の粘度および該組成物中の前駆体の濃度が前記範囲にあると、生産性等に優れるスリットコート法を用いて、該組成物を支持体上に塗布することができ、層の厚みの精度等に優れる層を生産性良く短時間で形成することができる。
【0218】
1−2.支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する方法
支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する方法としては、特に制限されない。以下、膜形成用組成物として、前記ポリイミド系膜形成用組成物を用いて第1層を形成する方法について説明する。
【0219】
前記第1層の形成方法としては、前記ポリイミド系膜形成用組成物を支持体上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記有機溶媒を除去する工程(1次乾燥)と、必要により、前記前駆体をイミド化する工程(2次乾燥)をこの順で含む方法等が挙げられる。
【0220】
得られる基板の反りをより抑制する等の点から、前記工程(a)では、前記前駆体をイミド化する工程を行わないことが好ましい。
つまり、工程(a)では、前記ポリイミド系膜形成用組成物を支持体上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発させる工程を行い、下記工程(b)を行うことで、第1層と第2層との密着性に優れ、反りが抑制された基板を得ることができる。この方法は、素子が形成された第2層と第1層とからなる基板を製造する際に好適な方法である。
【0221】
なお、下記工程(b)において、フィルムの貼合により第2層を設ける場合には、塗膜を形成した後、前記1次乾燥工程を行うことなく工程(b)を行ってもよい。
【0222】
前記ポリイミド系膜形成用組成物を支持体上に塗布して塗膜を形成する方法としては、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、スリットコート法、ディッピング法およびドクターブレード、ダイス、コーター、スプレー、ハケ、ロールなどを用いて塗布する方法等が挙げられる。なお、塗布の繰り返しにより塗膜の厚みや表面平滑性などを制御してもよい。これらの中でも、得られる層の平滑性、均一性、大面積化の点から、スリットコートやスピンコート法が好ましい。
【0223】
前記塗膜の厚さは、所望の用途に応じて適宜選択され、特に限定されないが、例えば0.5〜100μmであり、好ましくは0.5〜80μmであり、より好ましくは0.5〜50μmであり、さらに好ましくは0.5〜30μmであり、特に好ましくは0.5〜10μmである。
【0224】
前記支持体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ポリイミドフィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム等の樹脂製フィルム;ポリテトラフルオロエチレン製ベルト;シリコンウエハ;ガラスウエハ;ガラス板(石英、ソーダガラス、強化ガラス等);無アルカリガラス(板);および金属板(Cu板、SUS(Steel Use Stainless)板等)が挙げられる。
これらの中でも、素子形成時の寸法変化を低減することや第1層が前記ポリイミド系膜形成用組成物で形成される場合の該第1層との密着および剥離性の両立という観点からは、支持体は、シリコンウエハ、無アルカリガラスまたは金属板であることが好ましい。
特に、前記ポリイミド系膜形成用組成物は、これらの支持体との密着性および剥離性に優れるため、シリコンウエハ、ガラスウエハ、ガラス板、SUS板、およびCu板への薄膜形成が可能となる。
なお、無アルカリガラスとは、カリウムやナトリウムなどのアルカリ成分を含まないガラスのことである。
【0225】
本発明の基板の製造方法によれば、シリコンウエハや無アルカリガラス(板)や金属板等の支持体を用いて製造することができる。このような支持体は、加熱条件下で高寸法安定性を有するため、工程(a)や工程(c)において、熱をかけても、寸法変化が少ない。このため、該支持体上に設けられる第1層も寸法変化が少なくなり、素子を所望の位置に容易に形成することができる。
【0226】
また、このような支持体を用いることで、該支持体を取り除いた後の基板の反りを低減することができる。このため、このような支持体上で第1層を形成し、さらに素子を形成することが好ましい。
【0227】
また、塗膜から前記有機溶媒を除去する工程(1次乾燥)は、具体的には塗膜を真空乾燥や加熱することにより行うことができる。なお、この1次乾燥では、用いるポリイミド系膜形成用組成物に含まれる全ての溶媒を除去する必要はなく、例えば、ポリイミド系膜形成用組成物に前記混合溶媒が含まれる場合、1次乾燥後に該混合溶媒のうちの高沸点溶媒が塗膜中に残存していてもよい。
【0228】
前記加熱の条件は、溶媒が蒸発すればよく、溶媒の蒸発とともに前記ポリイミド前駆体が部分的にイミド化することが好ましく、用いる支持体やポリイミド前駆体に応じて適宜決めればよいが、例えば加熱温度が60℃〜350℃であることが好ましい。また、加熱時間としては、1分〜2時間であることが好ましい。
【0229】
なお、加熱は二段階以上で行ってもよい。具体的には、例えば、60〜250℃の温度で1分〜2時間乾燥後、100℃〜350℃、好ましくは100〜300℃、より好ましくは100〜250℃でさらに1分〜2時間加熱するなどである。また、必要に応じて、減圧下にて乾燥を行ってもよい。
【0230】
加熱雰囲気は、特に制限されないが、大気下または不活性ガス雰囲気下等であることが好ましく、不活性ガス雰囲気下であることが特に好ましい。不活性ガスとしては、着色性の観点から窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられるが、窒素であることが好ましい。
【0231】
なお、1次乾燥における部分イミド化は、アミック酸構造およびイミド環構造の合計100モル%中、イミド環構造の割合が、好ましくは0モル%以上、75モル%未満、さらに好ましくは0〜65モル%、特に好ましくは0〜60モル%となるように行われる。工程(a)における部分イミド化の程度が前記範囲にあることで、反りおよび残留応力が小さく、第1および第2層間の密着性の高い基板が得られるため好ましい。
【0232】
なお、前記工程(a)では、前記加熱を行う前または加熱の代わりに、真空乾燥を行うことにより、該塗膜中の有機溶媒を蒸発させて除去してもよい。該真空乾燥では、支持体上に形成された塗膜に熱風などを吹き付けることなく塗膜から溶媒を容易に除去することができるため、平坦性に優れる層を形成することができ、また、前記塗膜の表面から固定化されるので、平坦性に優れ、均一な層を再現性よく形成することができる。
【0233】
前記真空乾燥では、支持体付塗膜を入れた装置内の圧力(減圧度)が760mmHg以下、好ましくは100mmHg以下、より好ましくは50mmHg以下、特に好ましくは1mmHg以下になるまで、装置内の圧力を減少させることが望ましい。760mmHgを超えると、真空乾燥後の塗膜からさらに溶媒を除去させる際の蒸発速度が著しく遅くなり、生産性が悪化する場合がある。また、真空乾燥は、圧力が所定の値まで下がった時を0分とし、0〜60分、好ましくは0〜30分、より好ましくは0〜20分間行うことが望ましい。0分未満では乾燥が十分でなく、塗膜の表面から固定化されない(表面における流動性が高いままの状態が維持される)ことがあり、均一な層を得難い場合がある。一方、60分を越えると、層の生産性が悪化する場合がある。
【0234】
前記前駆体をイミド化する工程は、1次乾燥後の塗膜を、例えば160℃〜400℃で熱処理することにより脱水環化する(熱イミド化)ことで行うことができる。熱イミド化の温度としては、前記1次乾燥(有機溶媒を除去する)を加熱により行う際の温度よりも高い温度であり、得られる基板の支持体や第1層に対する剥離性の観点から200〜400℃であることが好ましく、250〜400℃であることがより好ましく、250〜350℃であることがさらに好ましい。さらに、熱イミド化の温度としては、得られる基板の支持体や第1層に対する剥離性の観点から、第1層のガラス転移温度以下であることが特に好ましい。
【0235】
なお、イミド化は、アミック酸構造およびイミド環構造の合計100モル%中、イミド環構造の割合が、好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上となるように行われる。イミド環構造の割合が75モル%未満であると、得られる第1層の吸水率が高くなることや、耐久性が低下することがある。
【0236】
前記前記ポリイミド系膜形成用組成物を用いて形成される第1層は、ガラス転移温度(Tg)が、350℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。このようなガラス転移温度を有することにより、優れた耐熱性を有する。
【0237】
前記膜形成用組成物を用いて形成された第1層の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは0.5〜40μm、特に好ましくは1〜35μmである。
【0238】
2.支持体上に粘着層を設けることで第1層を形成する工程
前記粘着層は、特に制限されないが、一般的なアクリル系、エポキシ系、シリコーン系、ポリイミド系、イソシアナート系粘着剤等を用いることで形成することができる。これらの中でも、得られる層、基板の耐熱性の点においては、シリコーン系、ポリイミド系粘着剤が優れており有効であり、好ましい。
【0239】
前記粘着層としては、本発明の基板の製造方法が工程(c)を含む場合、該工程(c)を行う温度以上の耐熱性を有する層であることが好ましい。
【0240】
シリコーン系粘着剤としては、特開2007-216615号公報、特開平07-052326号公報、または特開平03-200885号公報に記載の粘着剤等が挙げられる。
また、ポリイミド系粘着剤としては、特開2007-324612号公報の[0049]、[0050]に記載されている粘着剤等が挙げられる。
【0241】
支持体上に粘着層を設ける方法としては、特に制限されないが、前記粘着剤を支持体に塗布する方法が挙げられる。前記粘着剤を支持体に塗布する方法としては、前記ポリイミド系膜形成用組成物を支持体上に塗布して塗膜を形成する方法と同様の方法等が挙げられる。また、支持体としては、前記と同様の支持体が挙げられる。
【0242】
前記粘着層の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは0.1〜30μm、より好ましくは0.1〜25μm、特に好ましくは0.1〜20μmである。
【0243】
[工程(b)]
工程(b)では、前記第1層上にフィルムの貼合により、または、膜形成用組成物を用いて第2層を設ける。
なお、前記第2層は、1種の層からなってもよく、2種以上の層からなってもよい。前記第2層が2種以上の層からなる場合には、同一の層が2層以上積層されてもよく、異なる層が2層以上積層されてもよい。
【0244】
2種以上の第2層を形成するには、(i)2種類以上のフィルムまたは2枚以上の同種のフィルムを第1層上に貼合する方法、(ii)2種類以上の膜形成用組成物を用いて第2層を設ける方法、(iii)膜形成用組成物を用いて層を形成した後、同様の膜形成用組成物を用いて形成した層の上にさらに層を形成する方法、(iv)フィルムと膜形成用組成物とを用いて第2層を形成する方法等が挙げられる。
【0245】
前記フィルムを貼合する方法としては、特に制限されないが、前記第1層上にフィルムを乗せ、面内に均一な力がかかるように圧着する方法等が挙げられる。圧着方法として一般的なプレス、ロールプレスなどを用いることができる。この際、第2層のフィルム表面に傷等が生じないように接触部位の材質を考慮する必要がある。
【0246】
前記フィルムとしては、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、一般的にポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリエチレンテレフラレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、環状オレフィンポリマー等の樹脂からなるフィルムを用いることができ、特に耐熱性の高い、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)からなるフィルムを用いることが好ましい。
【0247】
前記樹脂からなるフィルムとしては、所望の樹脂製フィルムに対応する樹脂またはその前駆体および溶媒を含む組成物を用いて形成されるフィルムが挙げられ、好ましくは、前記ポリイミド系膜形成用組成物を用いて形成されたフィルムが挙げられる。
【0248】
該樹脂からなるフィルムの形成方法は、例えば、前記樹脂またはその前駆体を含む組成物を、前記樹脂製フィルム、ポリテトラフルオロエチレン製ベルト、シリコンウエハ、ガラスウエハ、ガラス板、無アルカリガラス(板)、金属板等の基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記溶媒を除去する工程(1次乾燥)と、前記1次乾燥後のフィルムを硬化させ基材付フィルムを形成する工程(2次乾燥)と、基材付フィルムから基材を剥離する工程とをこの順で含む方法等が挙げられる。
該塗膜を形成する工程、1次乾燥工程、2次乾燥工程は、前記ポリイミド系膜形成用組成物を用いて第1層を形成する方法に記載の工程と同様の方法で行うことができる。
【0249】
なお、前記樹脂からなるフィルムは、2次乾燥後のフィルムを用いることが好ましいが、2次乾燥前のフィルムであってもよい。つまり、前記2次乾燥工程は、下記工程(c)で行ってもよい。
【0250】
また、前記工程(b)に用いられ得る膜形成用組成物としては、特に制限されないが、前記ポリイミド系膜形成用組成物、ポリアミド系組成物、ポリベンゾオキサゾール前駆体系組成物、ポリベンゾイミダゾール前駆体系組成物等が挙げられる。
工程(b)に用いられ得る膜形成用組成物としては、工程(a)で用いられ得る膜形成用組成物と同様の組成物であってもよいし、異なる組成物であってもよい。ただし、工程(a)または工程(b)の少なくとも一方では、前記ポリイミド系膜形成用組成物を用いることが、反りが生じにくい基板を得る点で好ましい。
【0251】
前記膜形成用組成物を用いて第2層を設ける方法としては、前記膜形成用組成物を第1層上に塗布して塗膜を形成する工程と、必要により該塗膜から前記溶媒を除去する工程(1次乾燥)とを含む方法等が挙げられる。塗膜を形成する工程、および溶媒を除去する工程としては、前記支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する方法で挙げた、塗膜を形成する工程、および溶媒を除去する工程と同様の工程等が挙げられる。
【0252】
[工程(c)]
次いで、工程(c)では、前記工程(a)、工程(b)において膜形成用組成物を用いる場合には、前記第1層および/または前記第2層を硬化させる。
工程(c)後の前記第1層および/または第2層は、前記ポリイミド前駆体に由来するポリイミドを含む。
【0253】
前記第1層および/または第2層を形成する際に、膜形成用組成物を用いる場合には、工程(c)を設けることが好ましい。特に、前記ポリイミド系膜形成用組成物を用いて第1層を形成する場合には、工程(b)の後に工程(c)を設けることで、第1層と第2層との密着性に優れる基板を得ることができる。
【0254】
前記工程(c)は、例えば、第1層および/または第2層を加熱することで行うことができる。具体的には、例えば160℃〜400℃で熱処理する方法が挙げられる。第1層および/または第2層の形成に、前記ポリイミド系膜形成用組成物を用いる場合には、例えば160℃〜400℃で熱処理することにより脱水環化する(熱イミド化)ことが好ましい。熱イミド化の温度としては、前記工程(a)における乾燥(有機溶媒を蒸発させる)を加熱により行う際の温度よりも高い温度であり、得られる基板の剥離性の観点から200〜400℃であることが好ましく、250〜400℃であることがより好ましく、250〜350℃であることがさらに好ましい。さらに、熱イミド化の温度としては、剥離性の観点から、ポリイミドを含む層のガラス転移温度以下であることが特に好ましい。
【0255】
なお、イミド化は、アミック酸構造およびイミド環構造の合計100モル%中、イミド環構造の割合が、好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上となるように行われる。イミド環構造の割合が75モル%未満であると、ポリイミドを含む層の吸水率が高くなることや、線膨張率が上がったり、耐薬品性や耐久性が低下することがある。
【0256】
前記第2層の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜150μm、特に好ましくは10〜125μmである。前記第2層が複数の層からなる場合には、複数の層の合計の厚みが前記範囲にあることが好ましい。
【0257】
[工程(d)]
続いて、工程(d)では、前記工程(c)後の第2層上に、素子を形成する。形成する素子としては、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、薄膜トランジスタ(TFT)素子等の発光素子、金属配線、導電性樹脂配線、半導体集積回路等のモジュールなどが挙げられる。
【0258】
前記第2層上に有機EL素子、TFT素子等の発光素子などを形成した場合には、フレキシブルディスプレイ基板などとして用いることができる。また、金属配線、半導体集積回路等のモジュールを形成した場合には、フレキシブル配線用基板などとして用いることができる。
【0259】
TFT素子を形成する方法としては、例えば、以下の(i)〜(v)の工程を含む方法が挙げられる。
(i)前記第2層上にスパッタ法等で金属や金属酸化物などの膜を形成した後にエッチングするなどして、ゲート電極を設ける。スパッタ法等で金属や金属酸化物などの膜を形成する際の温度は、前記第2層、支持体や形成する素子に応じて適宜選択すればよいが、210℃〜400℃であることが好ましく、220〜370℃であることがより好ましく、230〜350℃であることが好ましい。
【0260】
(ii)次に、例えば、ゲート電極を設けた第2層上にプラズマCVD法等で窒化珪素膜等のゲート絶縁膜を形成する。(iii)さらに、ゲート絶縁膜上にプラズマCVD法などにより有機半導体などからなる活性層を形成する。プラズマCVD法等でゲート絶縁膜や有機半導体などの膜を形成する際の温度は、前記第2層、支持体や形成する素子に応じて適宜選択すればよいが、210℃〜400℃であることが好ましく、220〜370℃であることがより好ましく、230〜350℃であることが好ましい。(iv)次に活性層の上にスパッタ法などで金属や金属酸化物などの膜を形成した後にエッチングするなどして、ソース電極およびドレイン電極を設ける。(v)最後に必要に応じてプラズマCVD法等で窒化珪素膜等を形成し、保護膜とすることにより、第2層上にTFT素子を形成することができる。
【0261】
前記では、ボトムゲート型のTFT素子を説明したが、前記TFT素子はこの構造に限定されず、トップゲート型等であってもよい。
【0262】
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極は、導電性材料で形成されれば特に制限されない。導電性材料としては、金属や金属酸化物などを挙げることができる。
【0263】
金属の例としては、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、およびこれらの合金が挙げられ、金属酸化物の例としては、ITO、IZO、ZnOおよびIn23が挙げられる。このほかにも、前記第2層との接着性を考慮して、前記導電性材料として、導電性ポリマーを用いてもよい。
【0264】
これらの中でも金属酸化物を用いると、透明電極を形成することができるため好ましい。
【0265】
また、有機EL素子を形成する方法としては、例えば、前記第2層上に、第2層側から順に、絶縁層、第1の電極、有機半導体層、第2の電極および保護層を形成する方法が挙げられる。
【0266】
さらに、金属配線を形成する方法としては、例えば、ラミネート法、メタライジング法等により前記第2層上に銅層を設け、該銅層を公知の方法で処理することで金属配線を設けることができる。ラミネート法の場合には、例えば、前記第2層上に銅箔等の金属箔を熱プレスすることで、銅層を設けることができる。メタライジング法の場合には、例えば、蒸着法またはスパッタリング法によって、前記第2層と結合するNi系の金属からなるシード層を形成する。そして、湿式めっき法等により所定の膜厚の銅層を設けることができる。なお、メタライジング法を用いる場合には、金属との親和性を発現させるために予め前記第2層の表面改質を行っておくことも可能である。
【0267】
前記ポリイミドを含む第2層は、耐熱性に優れ、該層上に素子を形成する際に、所望の温度(特に高温)をかけることができるため、性能に優れる基板を得ることができる。
【0268】
[工程(e)]
次に、工程(e)では、素子が形成された積層体から前記支持体を取り除いて、少なくとも素子が形成された第2層を含む基板を得る。得られる基板は、少なくとも素子が形成された第2層を含めばよく、第1層および素子が形成された第2層を含む基板であってもよく、実質的に素子が形成された第2層からなる基板であってもよい。つまり、支持体を取り除く際には、素子が形成された積層体から、実質的に支持体のみを取り除いてもよく、支持体および第1層を取り除いてもよい。
【0269】
前記第1層が、前記ポリイミド系膜形成用組成物を用いて形成された層である場合、素子が形成された積層体から実質的に支持体のみを取り除くことが好ましい。前記ポリイミド系膜形成用組成物から得られた第1層は、支持体との剥離性に優れるため、容易に基板を支持体から全面剥離することができる。
【0270】
また、前記第1層が粘着層である場合、素子が形成された積層体から支持体および第1層を取り除くことが好ましい。
【0271】
剥離の方法としては、支持体の端部に予めマスキングテープを貼り付け、前記工程(a)から(d)を実施した後、マスキングテープをはがすことを起点として支持体を剥離する方法や、支持体と第1層の間、または第1層と第2層の間の端部に切り込みを入れて起点を作り剥離する方法、水やアルコールなどの溶剤に浸漬して剥離する方法等が挙げられる。剥離する際の温度は、通常0〜100℃であり、好ましくは10〜70℃であり、より好ましくは20〜50℃である。
【実施例】
【0272】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、本実施例および比較例で使用された化合物および部材の名称や製造元等を表1に示す。
【0273】
【表1】

【0274】
[ワニス1の調製]
温度計、窒素導入管および攪拌羽根付を備えた三口フラスコに、25℃、窒素気流下において、ジアミン化合物として、m−トリジン(mTB)21.34g(0.1005mol)および両末端アミノ変性側鎖フェニル・メチル型シリコーンX−22−1660B−3[6.735g(1.531mmol)]を仕込み、ワニス中のポリイミド前駆体の濃度が14.00質量%となるように、脱水N−メチル−2−ピロリドン(NMP)307.0gを加え、ジアミン化合物が完全に溶解するまで10分間攪拌した。次いで、酸無水物として、ピロメリット酸二無水物(PMDA)21.92g(0.1005mol)を加えた後、攪拌しながら60分間反応させた。
60分経過後、ポリエチレン製フィルター(ポアサイズ1μm)を用いて精密濾過行うことで、ポリイミド前駆体を含むワニス1を調製した(PMDAのモル数/(mTBのモル数+X−22−1660B−3のモル数)=0.985当量)。
【0275】
ワニス(膜形成用組成物)1の特性を表3に示す。NMRを用いて測定した結果、得られたワニス1中には、前記構造単位(2)を含み、前記構造単位(1)を有するポリイミド前駆体が含まれることが確認された。また、得られたワニス1の粘度は、16000mPa・sであった。
【0276】
[ワニス2の調製]
PMDA、mTBおよびX−22−1660B−3の使用量を表2に示すように変更し、NMP(307g)の代わりに、NMP(153g)およびシクロヘキサノン[CHN](153g)を用いた以外は[ワニス1の調製]と同様にして、ワニス2を調製した。ワニス2の特性を表3に示す。NMRを用いて測定した結果、得られたワニス2中には、前記構造単位(2)を含み、前記構造単位(1)を有するポリイミド前駆体が含まれることが確認された。
【0277】
[ワニス3の調製]
mTB(21.34g)およびX−22−1660B−3(6.735g)の代わりに、mTB(16.42g)、X−22−1660B−3(8.728g)および4,4'−ジアミノジフェニルエーテル[ODA](3.972g)を用い、PMDAの使用量を表2に示すように変更し、ワニス中のポリイミド前駆体の濃度が13質量%となるようにNMPを用いた以外は[ワニス1の調製]と同様にして、ワニス3を調製した。ワニス3の特性を表3に示す。NMRを用いて測定した結果、得られたワニス3中には、前記構造単位(2)を含み、前記構造単位(1)を有するポリイミド前駆体が含まれることが確認された。
【0278】
[ワニス4の調製]
温度計、窒素導入管および攪拌羽根付を備えた三口フラスコに、25℃、窒素気流下において、ジアミン化合物として、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)(30.85g)を仕込み、ワニス中のポリイミド前駆体の濃度が20質量%となるように、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)(200g)を加え、ジアミン化合物が完全に溶解するまで10分間攪拌した。次いで、酸無水物として、PMDA(9.834g)および4,4'−オキシジフタル酸無水物(ODPA)(9.3212g)を加え、攪拌しながら60分間反応させた。
60分経過後、ポリエチレン製フィルター(ポアサイズ1μm)を用いて精密濾過行うことで、ワニス4を調製した。ワニス4の特性を表3に示す。
【0279】
[ワニス5の調製]
温度計、窒素導入管および攪拌羽根付を備えた三口フラスコに、25℃、窒素気流下において、ジアミン化合物として、1,4−フェニレンジアミン(PDA)(13.44g)を仕込み、ワニス中のポリイミド前駆体の濃度が10質量%となるように、DMAc(450g)を加え、ジアミン化合物が完全に溶解するまで30分間攪拌した。次いで、酸無水物として、3,3',4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)(36.56g)を加え、攪拌しながら60分間反応させた。
60分経過後、ポリエチレン製フィルター(ポアサイズ1μm)を用いて精密濾過行うことで、ワニス5を調製した。ワニス5の特性を表3に示す。
【0280】
[測定条件・評価条件]
(ワニスの粘度)
E型粘度計(東機産業社製、MODEL RE11型)により、回転数0.7rpm、温度25℃条件下で、得られたワニス1〜5の粘度(mPa・s)を測定した。
【0281】
(ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn))
得られたワニス1〜5に含まれるポリイミド前駆体の、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を、下記条件でGPCを用いて測定した。また、得られたMwおよびMnから、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0282】
[GPC条件]
装置:HLC−8220型GPC装置(東ソー製)
カラム:TSK guardcolumn SuperH−L、TSK gel SuperH2000およびTSK gel SuperH4000(何れも東ソー製)の順で連結してなる連結カラム
溶媒:NMPと、臭化リチウムと燐酸とを含む溶媒(なお、臭化リチウムおよび燐酸は、それぞれ30mMおよび60mMの量で含まれる。)
測定温度:40℃
流速:0.5ml/分
【0283】
【表2】

【0284】
【表3】

【0285】
[実施例1]
支持体としての4インチシリコンウエハ上に、ワニス1(4mL)をスピンコート(ミカサ株式会社製、1H−D7型)により塗布(1500rpmで10秒)し、塗膜を形成した後に、ホットプレート上におき、昇温速度10℃/分で、70℃まで昇温し、70℃で20分間静置し、昇温速度10℃/分で、120℃まで昇温し、さらに120℃で20分間静置して(1次乾燥(溶媒除去工程))、第1層(10μm厚)を形成した。なお、1次乾燥後の第1層中のポリイミド前駆体のイミド化率は、30〜50%であり、熱イミド化反応は一部進行していた。
【0286】
さらに、得られた第1層付支持体の上に、ワニス1を(4mL)をスピンコート法により塗布(1500rpmで10秒)した。次いで、昇温速度10℃/分で、70℃まで昇温し、70℃で20分間静置し、昇温速度10℃/分で、120℃まで昇温し、さらに120℃で20分間静置し(1次乾燥)、さらに、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃、1時間静置した(2次乾燥(熱イミド化工程))後、室温まで冷却して、第2層(10μm厚)が形成された試験用積層体1を作製した。
【0287】
なお、2次乾燥後において、各層中のポリイミド前駆体のイミド化率は、ほぼ100%であり、熱イミド化反応がほぼ完全に進行していた。
【0288】
[実施例2]
第1層付支持体の第1層上に、ワニス1の代わりにワニス2を塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体2を作製した。
【0289】
[実施例3]
第1層付きの支持体の第1層上に、ワニス1の代わりにワニス3を塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体3を作製した。
【0290】
[実施例4]
第1層付きの支持体の第1層上に、ワニス1の代わりにワニス4を塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体4を作製した。
【0291】
[実施例5]
第1層付きの支持体の第1層上に、ワニス1の代わりにコンポラセンH851Dを塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体5を作製した。
【0292】
[実施例6]
第1層付きの支持体の第1層上に、ワニス1の代わりにワニス5を塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体6を作製した。
【0293】
[実施例7]
支持体としての4インチシリコンウエハ上に、ワニス1(4mL)をスピンコート(ミカサ株式会社製、1H−D7型)により塗布(1500rpmで10秒)し、塗膜を形成した後に、昇温速度10℃/分で70℃まで昇温し、70℃で20分間静置し、昇温速度10℃/分で120℃まで昇温し、120℃で20分間静置し(1次乾燥)、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃で1時間静置して(2次乾燥)第1層(10μm厚)を形成した。なお、第1層中のポリイミド前駆体のイミド化率は、ほぼ100%であり、熱イミド化反応がほぼ完全に進行していた。
【0294】
さらに、得られた第1層付支持体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体7を作製した。
【0295】
[実施例8]
実施例1において、第1層の形成にワニス1の代わりにワニス3を用いたこと、および第2層の形成に、ワニス1の代わりにワニス5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体8を作製した。
【0296】
[実施例9]
支持体として4インチシリコンウエハの代わりに4インチガラス板を用いたこと、および第2層の形成に、ワニス1の代わりにワニス5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体9を作製した。
【0297】
[実施例10]
支持体として4インチシリコンウエハの代わりにSUS306板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体10を作製した。
【0298】
[実施例11]
第1層の形成に、ワニス1の代わりにコンポラセンH851Dを塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、試験用積層体11を作製した。
【0299】
[実施例12]
支持体としての4インチシリコンウエハ上に、ワニス1(4mL)をスピンコート(ミカサ株式会社製、1H−D7型)により塗布(1500rpmで10秒)し、塗膜を形成した後に、kapton−H(フィルム)を貼合した。次いで、昇温速度10℃/分で、70℃まで昇温し、70℃で20分間静置し、昇温速度10℃/分で、120℃まで昇温し、さらに120℃で20分間静置し(1次乾燥)、さらに、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃、1時間静置した(2次乾燥(熱イミド化工程))後、室温まで冷却して、試験用積層体12作製した。
【0300】
[比較例1]
4インチシリコンウエハの代わりに4インチガラス板を用いたこと、第1層の形成に、ワニス1の代わりにワニス5を用いたこと、および第2層の形成に、kapton−H(フィルム)の貼合の代わりにUpilex−S(フィルム)を貼合したこと以外は実施例12と同様にして、試験用積層体1'を作製した。
【0301】
[比較例2]
4インチシリコンウエハの代わりに4インチガラス板を用いたこと、第1層の形成に、ワニス1の代わりにワニス5を用いたこと、および第2層の形成に、ワニス1の代わりにワニス5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、試験用積層体2'を作製した。
【0302】
[比較例3]
支持体としての4インチシリコンウエハ上に、ワニス5(4mL)をスピンコート(ミカサ株式会社製、1H−D7型)により塗布(1500rpmで10秒)し、塗膜を形成した後に、ホットプレート上におき、昇温速度10℃/分で、70℃まで昇温し、70℃で20分間静置し、昇温速度10℃/分で、120℃まで昇温し、さらに120℃で20分間静置して(1次乾燥(溶媒除去工程))、試験用積層体3'を作製した。
【0303】
[比較例4]
第1層の形成に、ワニス5の代わりにコンポラセンH851Dを用いたこと以外は、比較例3と同様にして、試験用積層体4'を作製した。
【0304】
[比較例5]
4インチシリコンウエハの代わりに4インチガラス板を用いたこと以外は、比較例3と同様にして、試験用積層体5'を作製した。
【0305】
[比較例6]
4インチシリコンウエハの代わりに4インチガラス板を用いたこと以外は、比較例4と同様にして、試験用積層体6'を作製した。
【0306】
(密着性)
各実施例または比較例で作製された試験用積層体を、室温から300℃まで1時間かけて昇温し、その後、30分で室温まで冷却する工程を、支持体と第1層との間の剥離、および第1層と第2層との間の剥離の有無を目視で観察しながら、10回(10サイクル)繰り返し、下記評価基準に基づいて試験用積層体の密着性を評価した。
なお、第2層が設けられていない積層体の場合は、支持体と第1層との間の剥離の有無のみを目視で観察した。
【0307】
[評価基準]
[◎]:上記工程を10回繰り返しても、支持体と第1層との間、および第1層と第2層との間の剥離が認められない。
[○]:上記工程を5回繰り返した時点では、支持体と第1層との間、および第1層と第2層との間の剥離が認められないものの、上記工程を6〜10回繰り返すと、支持体と第1層との間、および第1層と第2層との間の剥離が認められる。
[×]:上記工程を1〜5回繰り返した時点で、支持体と第1層との間、および第1層と第2層との間の剥離が認められる。
【0308】
(剥離性)
各実施例または比較例で作製された試験用積層体から支持体を、表4の「剥離面」で記載されているように支持体と第1層との間または第1層と第2層との間において剥離した。支持体および各層の剥離面を目視で観察し、下記評価基準に準じて試験用積層体の剥離性を評価した。
【0309】
[評価基準]
[◎]:全面剥離が可能で、剥離面に剥離痕が認められない。
[○]:全面剥離が可能であるが、剥離面に部分的に剥離痕が認められる。
[△]:剥離面に部分的に剥離ができなかった箇所が認められる。
[×]:全面剥離が不可能であった。
【0310】
(フィルムの反り)
各実施例または比較例で作製された試験用積層体から支持体を、表4の「剥離面」で記載されているように支持体と第1層との間または第1層と第2層との間において、剥離して、第1層からなる、または第1層および第2層からなるフィルム基板を得た。このフィルム基板を50mm×50mmの正方形状に切り出して、水平板上にフィルム基板を置いた。次いで、フィルムの各頂点と水平板との間に生じた隙間の距離(離間距離)を、4点測定し、得られた4点の離間距離の平均値を算出して、下記評価基準に基づいて試験用積層体のフィルムの反りの程度を評価した。
【0311】
[評価基準]
[◎]:離間距離の平均値が、1.0mm未満である。
[○]:離間距離の平均値が、1.0mm以上2.0mm未満である。
[△]:離間距離の平均値が、2.0mm以上3.0mm未満である。
[×]:離間距離の平均値が、3.0mm以上である。
【0312】
(ガラス転移温度(Tg))
各実施例または比較例で作製された試験用積層体から支持体を、表4の「剥離面」で記載されているように支持体と第1層との間または第1層と第2層との間において、剥離して、第1層からなる、または第1層および第2層からなるフィルムを得た。このフィルムを用いてポリイミドのガラス転移温度を、Rigaku社製8230型DSC測定装置(昇温速度:20℃/分)を用いて、測定した。
【0313】
(線膨張係数(CTE))
各実施例または比較例で作製された試験用積層体から支持体を、表4の「剥離面」で記載されているように支持体と第1層との間または第1層と第2層との間において、剥離して、第1層からなる、または第1層および第2層からなるフィルムを得た。得られたフィルムを、Seiko Instrument SSC/5200を用いて、6℃/分の昇温速度で、25℃から350℃まで温度を上昇させた。測定結果から100〜200℃における線膨張係数を算出した。
【0314】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)支持体上に膜形成用組成物を用いて第1層を形成する、または、支持体上に粘着層を設けることで第1層を形成する工程と、
(b)前記第1層上にフィルムの貼合により、または、膜形成用組成物を用いて第2層を設ける工程と、
(c)前記工程(a)、工程(b)において膜形成用組成物を用いる場合には、前記第1層および/または前記第2層を硬化させる工程と、
(d)前記第2層上に素子を形成する工程と、
(e)素子が形成された積層体から支持体を取り除いて、少なくとも素子が形成された第2層を含む基板を得る工程と
をこの順で含み、
前記工程(c)後の前記第1層および/または第2層が、下記式(2)で表される構造単位を含み、かつ、下記式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体に由来するポリイミドを含む、
基板の製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは独立に水素原子または一価の有機基を示し、R1は独立に二価の有機基を示し、R2は独立に四価の有機基を示し、nは正の整数を示す。)
【化2】

(式(2)中、複数あるR5は各々独立に炭素数1〜20の一価の有機基を示し、mは3〜200の整数を示す。)
【請求項2】
前記式(1)において、R1は独立に下記式(3)で表される群より選ばれる基である、請求項1に記載の基板の製造方法。
【化3】

(式(3)中、R3は独立にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基もしくはシロキサン基を含む基、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基またはスルホ基を示し、このアルキル基およびアルキレン基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、Dは、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基またはシロキサン基を示し、a1は独立に1〜3の整数を示し、a2は独立に1または2を示し、a3は独立に1〜4の整数を示し、eは0〜3の整数を示す。)
【請求項3】
前記式(1)において、R2は独立に下記式(4)で表される群より選ばれる基である、請求項1または2に記載の基板の製造方法。
【化4】

(式(4)中、R4は独立に水素原子またはアルキル基を示し、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、Dは、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基またはシロキサン基を示し、bは独立に1または2を示し、cは独立に1〜3の整数を示し、fは0〜3の整数を示す。)
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体中、前記式(2)で表される構造単位が5〜40質量%含まれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
前記式(2)において、複数あるR5の少なくとも1つがアリール基を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項6】
前記ポリイミド前駆体が、前記式(1)に含まれる構造単位の他に、該前駆体の主鎖に、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む単量体に由来する構造単位を、前記ポリイミド前駆体中、さらに0〜15質量%含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
前記単量体が、下記式(5)または式(6)で表される化合物である、請求項6に記載の基板の製造方法。
【化5】

(式(5)および(6)中、Aは独立にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む基を示し、R6は独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはニトロ基を示し、アルキル基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく、dは独立に1〜4の整数を示す。)
【請求項8】
前記ポリイミド前駆体の重量平均分子量が10000〜1000000である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)または工程(b)に用いられる膜形成用組成物の少なくとも一方が、前記ポリイミド前駆体および有機溶媒を含む組成物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項10】
前記ポリイミド前駆体に由来するポリイミドの示差走査熱量測定(DSC、昇温速度20℃/分)で測定したガラス転移温度が350℃以上である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項11】
前記工程(c)を、200℃〜400℃の範囲、かつ、前記ポリイミド前駆体に由来するポリイミドのガラス転移温度以下で行う、請求項1〜10のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項12】
前記支持体がシリコンウエハ、無アルカリガラス、金属板である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の基板の製造方法により得られる基板。

【公開番号】特開2013−80876(P2013−80876A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221180(P2011−221180)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】