説明

基板ステージ、熱処理装置および基板ステージの製造方法

【課題】高い耐摩耗性を有するとともに、剥離帯電が生じない基板ステージを提供する。
【解決手段】ステージ本体11に形成された基板Wを載置するための載置面12に、エンボス加工によって所定のエンボス形状Eを形成した上で、陽極酸化処理によってアモルファス状態のアルミナ皮膜Aを形成する。アモルファス構造のアルミナ皮膜Aは、緻密かつ強固である。このため、高い耐摩耗性を有するとともに、剥離帯電をほぼ防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体基板、液晶表示装置用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、光ディスク用基板等(以下、単に「基板」という)を載置するためのステージ、それを用いた熱処理装置および基板を載置するためのステージの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に対して各種の処理を行う基板処理装置(例えば、熱処理装置、洗浄処理装置、現像処理装置等)においては、被処理基板を載置するためのステージが必要とされる。特に、熱処理装置において用いられるステージは、熱伝導率が良好な金属、例えばアルミニウムを用いて形成されることが多い。しかしながら、アルミニウム製のステージは次のような欠点を有していた。
【0003】
第1の欠点は、耐摩耗性が乏しいという点である。すなわち、アルミニウムは比較的柔らかい材質であるため、載置面にアルミニウムが露出した状態でステージの使用を続けると、基板を反復して載置するにつれてその載置面が容易に摩耗してしまうのである。この結果、アルミニウム製のステージは、耐久性に乏しいものとなってしまっていた。また、ステージ自体が摩耗することによってステージが汚染物質の発生源となってしまうという問題も生じていた。
【0004】
第2の欠点は、剥離帯電が顕著に発生する点である。剥離帯電とは、ガラス等の絶縁材料からなる基板を導電性材料である金属製のステージから剥離するときに、基板に負の電荷(もしくは正の電荷)が発生してしまう現象である。基板上に発生したこの負電荷(もしくは正電荷)は、基板表面に形成された素子の破壊や汚染物質の吸着等の原因となるため、剥離帯電の防止はアルミニウム製のステージにおける重要な課題となっていた。なお、基板が負に帯電するか正に帯電するかはステージの材料との組み合わせ、すなわち帯電列によって決まる。
【0005】
アルミニウム製のステージの有する上記の欠点を解消すべく、各種の技術が考案されている。
【0006】
例えば、基板とステージとの接触面積を段階的に減らすことによって、剥離時に生じる静電気を抑制する技術が考案されている。ここでは、ステージの載置面を分割し、各部分を順に基板より剥離する構成によって、基板の段階的剥離を実現している(特許文献1参照)。
【0007】
また例えば、アルミニウム製のステージ表面に絶縁体であるアルミナ(Al23)の皮膜を生成することによってステージの耐摩耗性を向上させるとともに剥離帯電を防止する技術が考案されている。例えば、酸化アルミニウム粒子を亜音速程度で被膜位置に向けて噴射することによって、当該位置に微細な結晶子の接合物として堆積させることによって多結晶構造を有するアルミナの薄膜を生成する技術が考案されている(特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平11−251257号公報
【特許文献2】特開2002−190512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来行われていた各技術においては、基板ステージの耐摩耗性の向上および剥離帯電の低減という各点について一応の効果は得られるものの、いずれの技術においても、十分な効果を得ることはできていなかった。
【0010】
特許文献1に記載の技術では、基板とステージとの剥離を段階的に行うことによって、剥離を一度に行う場合に比べて剥離帯電を相対的に低減している。しかしながら、剥離帯電を完全に防止することはできなかった。
【0011】
また、特許文献2に記載の技術によると、粒界層の影響を低減する工夫がなされているものの、多結晶構造である限りその影響が全くないとは言い切れなかった。すなわち、多結晶構造のアルミナ皮膜の場合、ステージの使用を重ねるにつれて、個々の結晶粒の間の境界(粒界)に空隙が生じ、割れを発生させる原因となる。特に、熱的衝撃を受けた場合、このような割れは顕著に生じてしまい、ついには皮膜の剥離に至ってしまう。さらに、この空隙より基板とステージのアルミニウム領域とが導通可能となってしまうことによって、剥離帯電の防止効果も失われてしまう。
【0012】
この発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、高い耐摩耗性を有するとともに、剥離帯電が生じない基板ステージを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、基板を載置する基板ステージであって、ステージ本体と、前記ステージ本体の基板の載置面の所定位置に形成された貫通孔と、前記貫通孔を減圧する減圧手段と、前記載置面に、陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの皮膜と、を有する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の基板ステージであって、前記アルミナの皮膜が、剥離帯電防止用の皮膜である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の基板ステージであって、前記アルミナの皮膜が、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成される。
【0016】
請求項4に記載の発明は、基板を載置する基板ステージであって、ステージ本体と、前記ステージ本体の基板の載置面に、陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの剥離帯電防止用皮膜と、を有する。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の基板ステージであって、前記剥離帯電防止用皮膜が、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成される。
【0018】
請求項6に記載の発明は、基板を載置する基板ステージであって、ステージ本体と、前記ステージ本体の基板の載置面に、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの皮膜と、を有する。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれかに記載の基板ステージであって、前記載置面にエンボス形状が形成されている。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の基板ステージであって、前記エンボス形状における頂上面の総面積が、前記載置面の全面積の50%未満である。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載の基板ステージであって、前記エンボス形状における頂上面の形状が円形である。
【0022】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の基板ステージであって、前記円形の直径が5mm未満である。
【0023】
請求項11に記載の発明は、請求項7から10のいずれかに記載の基板ステージであって、前記エンボス形状の凸部の高さが100μm未満である。
【0024】
請求項12に記載の発明は、請求項1から11のいずれかに記載の基板ステージであって、前記ステージ本体が純アルミニウムまたはアルミニウム合金によって形成されている。
【0025】
請求項13に記載の発明は、請求項1から12のいずれかに記載の基板ステージであって、前記陽極酸化が、前記電解液中で、前記ステージ本体に所定の電圧を印加することによって行われ、前記所定の電圧が50V以上200V以下である。
【0026】
請求項14に記載の発明は、請求項1から13のいずれかに記載の基板ステージであって、前記電解液が、濃度が0.1〜10%のカルボン酸の溶液である。
【0027】
請求項15に記載の発明は、基板を冷却あるいは加熱するための熱処理装置であって、請求項1から14のいずれかに記載の基板ステージを備える。
【0028】
請求項16に記載の発明は、基板の載置面の所定位置に形成された貫通孔と、前記貫通孔を減圧する減圧手段とを備え、前記載置面に基板を載置して基板を保持する真空吸着方式の基板ステージの製造方法であって、前記載置面に、陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの皮膜を形成する工程、を有する。
【0029】
請求項17に記載の発明は、請求項16に記載の基板ステージの製造方法であって、前記アルミナの皮膜が、剥離帯電防止用の皮膜である。
【0030】
請求項18に記載の発明は、請求項16または17に記載の基板ステージの製造方法であって、前記アルミナの皮膜が、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成される。
【0031】
請求項19に記載の発明は、基板を載置する基板ステージの製造方法であって、ステージ本体の基板の載置面に、陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの剥離帯電防止用皮膜を形成する工程、を有する。
【0032】
請求項20に記載の発明は、請求項19に記載の基板ステージの製造方法であって、前記剥離帯電防止用皮膜が、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成される。
【0033】
請求項21に記載の発明は、基板を載置する基板ステージの製造方法であって、ステージ本体の基板の載置面に、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの皮膜を形成する工程、を有する。
【0034】
請求項22に記載の発明は、請求項16から21のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、前記アルミナ皮膜が形成される前の前記載置面に、エンボス加工によりエンボス形状を形成する工程、を有する。
【0035】
請求項23に記載の発明は、請求項22に記載の基板ステージの製造方法であって、前記エンボス形状における頂上面の総面積が、前記載置面の全面積の50%未満である。
【0036】
請求項24に記載の発明は、請求項22または23に記載の基板ステージの製造方法であって、前記エンボス形状における頂上面の形状が円形である。
【0037】
請求項25に記載の発明は、請求項24に記載の基板ステージの製造方法であって、前記円形の直径が5mm未満である。
【0038】
請求項26に記載の発明は、請求項22から25のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、前記エンボス形状の凸部の高さが100μm未満である。
【0039】
請求項27に記載の発明は、請求項16から26のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、前記ステージ本体が純アルミニウムまたはアルミニウム合金によって形成されている。
【0040】
請求項28に記載の発明は、請求項16から27のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、前記陽極酸化が、前記電解液中で、前記ステージ本体に所定の電圧を印加することによって行われ、前記所定の電圧が50V以上200V以下である。
【0041】
請求項29に記載の発明は、請求項16から28のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、前記電解液が、濃度が0.1〜10%のカルボン酸の溶液である。
【発明の効果】
【0042】
請求項1から14に記載の発明では、ステージ本体に形成された基板の載置面にアモルファス状態のアルミナの皮膜が形成されている。アモルファス状態のアルミナ皮膜は、緻密かつ強固であるため、高い耐摩耗性を有するとともに、剥離帯電を防止することができる。
【0043】
特に請求項7から11に記載の発明では、エンボス形状が形成された載置面に、アモルファス状態のアルミナの皮膜が形成されている。このため、剥離帯電を防止しつつ、良好な温度分布を得ることができる。
【0044】
請求項15に記載の発明では、ステージ本体にアモルファス状態のアルミナの皮膜が形成された基板ステージを備える。このため、基板の冷却処理あるいは加熱処理において剥離帯電の発生を防止することができる。特に、請求項2から6のいずれかに記載の基板ステージを備える熱処理装置においては、基板ステージにおいて良好な温度分布を得ることができるので、基板を均質に加熱あるいは冷却することができる。
【0045】
請求項16から29に記載の発明では、ステージ本体に形成された基板の載置面にアモルファス状態のアルミナの皮膜が形成された基板ステージを製造することができる。アモルファス状態のアルミナ皮膜は、緻密かつ強固であるため、高い耐摩耗性を有するとともに、剥離帯電を防止することができる基板ステージが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
〈1.基板保持装置〉
図1,図2,図3を参照しながら、この発明に係る基板ステージ10を用いて構成された基板保持装置1の構成について説明する。図1はこの発明に係る基板保持装置1の概略斜視図である。図2は図1に示す基板保持装置1の横断面図である。図3は、基板ステージ10の一部拡大図である。
【0047】
基板保持装置1は、各種の基板処理装置(例えば、基板を加熱、冷却する熱処理装置、基板に対する薬液や洗浄液等の塗布処理を行う現像処理装置や洗浄処理装置、基板を各処理装置間で搬送する基板搬送装置)において被処理基板を保持するための装置として用いることができる。
【0048】
図1を参照する。基板保持装置1は、基板ステージ10と、基板昇降機構20と、基板固定機構30とを有している。
【0049】
基板ステージ10は、直方体状に形成されたアルミニウム製、具体的には純アルミニウムまたはアルミニウム合金の板であるステージ本体11を有している。アルミニウム合金としては、Al−Mg合金が好ましく、さらに好ましくはAl−Mg−Zr合金が使用され、以下の実施例でステージ本体11はAl−Mg−Zr合金製である。ステージ本体11は、基板Wを載置するための載置面12を有している。また、図1においてはその図示を簡略化しているが、この載置面12には、その全面にわたって、図2、図3に示すようなエンボス形状Eがエンボス加工によって形成されるとともに、アモルファス状態のアルミナ皮膜Aが形成されている。エンボス加工形状Eとアルミナ皮膜Aとについては後に説明する。
【0050】
載置面12は、載置される基板Wの大きさよりも若干大きい面積を有する平面である。載置面12の所定位置には、ピン孔および吸引孔として機能する貫通孔13が所定数個形成されている。貫通孔13はステージ本体11を貫通して形成された孔である。
【0051】
基板昇降機構20は、基板Wを載置面12に載置するとともに載置面12より離間させるための機能部であり、所定数個のリフトピン21と、リフトピン駆動部22とを有している。
【0052】
リフトピン21は、図2に示すように、貫通孔13のそれぞれに下部から貫入されたピンである。リフトピン21は、その上端が載置面12と同一水平位置(もしくは載置面12よりも下方の位置)にある格納位置P1(図2の実線位置)と、その上端が載置面12よりも突出する突出位置P2(図2の仮想線位置)との間で昇降可能である。
【0053】
リフトピン駆動部22は、各リフトピン21を同期して昇降させるための駆動部である。リフトピン駆動部22が、各リフトピン21を突出位置P2から格納位置P1に移動させることによって、基板Wを載置面12に載置することができる(矢印AR210)。また、リフトピン駆動部22が、各リフトピン21を格納位置P1から突出位置P2に移動させることによって、基板Wを載置面12より離間することができる(矢印AR210)。
【0054】
基板固定機構30は、載置面12に載置された基板Wを固定するための機能部であり、吸着配管31と、真空ポンプ32と、開閉弁33と、を有している。
【0055】
吸着配管31は、先端が貫通孔13のそれぞれに連通するとともに、末端に真空ポンプ32が接続された配管である。また、吸着配管31の途中には、開閉弁33が配置されている。
【0056】
開閉弁33を開位置に置くとともに真空ポンプ32を駆動すると、貫通孔13内が減圧される。これによって、載置面12に載置された基板Wを固定吸着することができる。
【0057】
なお、基板ステージ10内に、冷却管路を蛇行状態で埋設するとともに、当該冷却管路内に冷媒等を循環移動させることによって、基板ステージ10をコールドプレートとして機能させてもよい。同様に、基板ステージ10を加熱するヒータ等の加熱手段をさらに備えることによって、基板ステージ10をホットプレートとして機能させてもよい。
【0058】
また、上記においては、貫通孔13をピン孔および吸引孔として機能させる構成としていたが、ピン孔として機能する貫通孔と吸引孔として機能する貫通孔とを別に設ける構成としてもよい。
【0059】
また、上記においては、ステージ本体11は、Al−Mg−Zr合金によって形成されているとしたが、その他の材質、例えば、アルミナ(アルミナオキサイド(Al23))によって形成してもよい。
【0060】
〈2.載置面の表面処理〉
この実施の形態に係る基板ステージ10の載置面12には、図2、図3に示すように、エンボス加工によって所定のエンボス形状Eが形成されるとともに、アモルファス状態のアルミナ皮膜Aが形成されている。図4は、載置面12の加工の処理手順を示すフローチャートである。
【0061】
はじめに、載置面12にエンボス加工を施して所定のエンボス形状Eを形成する(ステップS1)。このエンボス加工の表面処理は、載置面12の表面の粗さがμmレベルで制御可能な精密機械加工によって行うことが望ましい。
【0062】
続いて、エンボス加工が施された載置面12に対して、陽極酸化処理によってアモルファス状態のアルミナ皮膜Aを形成する(ステップS2)。
【0063】
以下において、ステップS1において形成されるエンボス形状EおよびステップS2において行われる陽極酸化処理について説明する。
【0064】
〈2−1.エンボス形状〉
エンボス形状Eは、図2、図3に示す通り、頂上面Tが平坦な凸部121が所定のパターンで配置されるとともに、各凸部121の上端が同一水平面に位置するように形成されたものである。つまり、このようなエンボス形状が形成された載置面12に基板Wが載置されるので、凸部の頂上面Tが基板Wとの接触面となる。
【0065】
このエンボス形状においては、載置面12の全面積に対して、頂上面Tの総面積が占める割合が50%未満(好ましくは20%)となるように構成されている。
【0066】
また、凸部121の高さH(すなわち、凹凸の高低差)は、100μm未満(好ましくは30μm)である。
【0067】
また、頂上面Tの形状は略円形であり、その直径φは5mm未満(好ましくは2mm)である。
【0068】
〈2−2.アモルファス状態のアルミナ皮膜A〉
次に、アモルファス状態のアルミナ皮膜Aを生成するための陽極酸化処理の条件について説明する。
【0069】
アモルファス状態の酸化アルミニウムの皮膜(すなわちアルミナ皮膜A)は、所定の電解液中で、陽極であるステージ本体11に一定電圧を印加して陽極酸化することによって形成される。この陽極酸化処理の具体的な条件は次の通りである。
【0070】
1.所定の電解液(化成液)として中性溶液を用いる。より具体的には、pHが5より大きく9より小さい値(5<pH<9)の溶液を用いる。さらに具体的には、0.1〜10%の濃度のカルボン酸の溶液を用いる。このカルボン酸の溶液は、非水溶媒を含有するものであることが望ましい。なお、非水溶媒としては、水酸基を有する溶媒(例えば、アルコール、有機溶媒)等を用いることが好ましい。
【0071】
2.一定電圧として、50〜200Vを印加する。
【0072】
この条件下でステージ本体11を陽極酸化して、載置面12に、数百nmの厚みを有する緻密なアルミナ皮膜Aを形成する(図5(a)参照)。このアルミナ皮膜Aはアモルファス構造をとっている。
【0073】
なお、ここで形成されるアルミナ皮膜Aの厚さは数百nm程度であり、先述のエンボス形状Eに対して十分に薄い。したがって、アルミナ皮膜Aの形成がエンボス形状Eに与える影響は無視できる。
【0074】
〈3.効果〉
〔絶縁体の皮膜〕
基板ステージ10には、載置面12に絶縁体であるアルミナの皮膜Aが形成されている。このため、基板ステージ10においては、ステージ本体11の表面であるAl−Mg−Zr合金が露出されている状態に比べて耐摩耗性を向上させることができる。また、下記に説明するように、剥離帯電を抑制する効果を得ることができる。
【0075】
導電性の材質(例えばアルミニウム)が露出した基板ステージにおいては、基板の一部分がステージから剥離する際に、静電現象によって、基板に負電荷が、ステージに正電荷が、それぞれ発生する。ここでは、ステージ表面に導電性材料が露出しているため、ステージ上に生じた正電荷はそのままアースに逃げてしまい、ステージは常に電荷供給能力が高い状態に保たれる。このため、基板の別の部分がステージから剥離する際にも、やはり剥離帯電によって基板に負電荷が発生し続けることになる。一方、絶縁体であるアルミナ皮膜Aで覆われた基板ステージ10においても、基板の一部分がステージから剥離する際に、基板とステージとにそれぞれ電荷が発生する。しかし、ここでは、ステージ表面に絶縁体層が形成されているため、ステージ上に生じた正電荷はアースに逃げることができず、ステージは電荷供給能力が低い状態に保たれる。このため、基板の各部分が順にステージから剥離していくにつれてステージより剥離された基板が負の静電気を帯びることが防止される。
【0076】
以上の通り、基板ステージ10においては、載置面12が絶縁物であるアルミナ皮膜Aによって覆われているために、剥離帯電現象が防止される。剥離後の基板に電荷の偏りが生じることがないので、基板表面に形成された素子の破壊や、汚染物質の吸着等も生じない。
【0077】
〔アモルファス構造〕
また、基板ステージ10には、載置面12にアモルファス状態のアルミナ皮膜Aが形成されている。このアルミナ皮膜Aは、極薄で緻密な層であるとともに、ピンホール等も存在しない。このため、基板ステージ10においては、高い耐摩耗性を得るとともに、剥離帯電をほぼ防止することができる。
【0078】
例えば、従来の陽極酸化によって得られるアルミナ皮膜(以下、「多孔質アルミナ皮膜P」という)においては、ポーラス層が形成されるが、アルミナ皮膜Aにおいてはポーラス層が形成されない。ただし、従来の陽極酸化処理(アルマイト処理)は、一般に以下の条件で行われるものである。
【0079】
1.所定の電解液(化成液)として酸性溶液を用いる。より具体的には、弱酸性の硫酸水溶液(さらに具体的には、10〜20%の濃度の硫酸水溶液)や、弱酸性のシュウ酸水溶液(さらに具体的には、1〜10%の濃度のシュウ酸水溶液)を用いる。
【0080】
2.一定電圧として、10〜50Vを印加する。
【0081】
図5は、アモルファス状態のアルミナ皮膜A(図5(a))と多孔質アルミナ皮膜P(図5(b))とのそれぞれの皮膜構造の様子を模式的に示した図である。図5に示す通り、アルミナ皮膜Aは数百nm程度のバリア層を有するのに対し、多孔質アルミナ皮膜Pは、バリア層の下に、ポーラス層を有する2層構造を有し、その膜厚は数十μm程度となっている。
【0082】
図5(b)に示すように、多孔質アルミナ皮膜Pは、酸性の電解液中で陽極酸化されて形成されるため、電解液である酸性溶液の溶解作用によって無数の孔Poが形成されてしまう。この孔Poより、基板とステージのAl−Mg−Zr合金領域とが容易に導通可能となってしまう(つまり、ステージ上に生じた正電荷が孔Poを通じてアースに逃げてしまう)ため、剥離帯電が生じやすい。一方、アモルファス状態のアルミナ皮膜Aは、溶解作用のない中性の電解液中で陽極酸化されて形成されるため、多孔質アルミナ皮膜Pのように孔Poが形成されることもなく、欠陥のないアモルファス構造が形成される。したがって、アルミナ皮膜Aにおいては、剥離帯電をほぼ防止することができる。また、欠陥のないアモルファス構造が形成されることによって優れた耐摩耗性を得ることができる。
【0083】
また、当然のことながら、アモルファス構造(すなわち非結晶状態)を有するアルミナ皮膜Aには、熱的衝撃を受けて空隙の原因となりうる粒界が存在せず、緻密で強固である。したがって、アルミナ皮膜Aは、結晶構造を有する多孔質アルミナ皮膜Pに比べて、優れた耐摩耗性を有するとともに、高い剥離帯電の抑制効果も得ることができる。
【0084】
また、アルミナ皮膜Aの膜厚は数百nm程度であるのに対し、多孔質アルミナ皮膜Pの膜厚は数十μm程度である。換言すると、基板ステージ10においては、数百nm程度の厚さのアルミナ皮膜Aでもって、上記の各効果を得ることができる。つまり、アルミナ皮膜Aにおいては、多孔質アルミナ皮膜Pに比べて形成する皮膜の膜厚を薄くすることができるので、皮膜が形成されることによる基板ステージ10の熱伝導率への影響を小さくすることができる。
【0085】
〔エンボス加工〕
さらに、基板ステージ10には、載置面12にエンボス形状Eが形成されている。
【0086】
剥離帯電は基板と載置面12との接触面積にも依存するものであるところ、本発明者の検討によれば、載置面12に上記の通りのエンボス形状を形成することによって、剥離帯電が適切に防止されることが確認されている。
【0087】
また、本発明者の検討によれば、載置面12に上記の通りのエンボス形状を形成することによって、±1.6℃を超える温度分布が生じないこと(すなわち、熱的な不均質が生じないこと)、また、真空吸着時の応力集中にも問題がないことがともに確認されている。すなわち、このようなエンボス形状が形成された基板ステージ10をコールドプレート、ホットプレートとして用いた場合、載置面12に載置された基板を均質に熱処理することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】この発明に係る基板保持装置1の概略斜視図である。
【図2】基板保持装置1の断面図である。
【図3】基板ステージ10の一部拡大図である。
【図4】載置面12の加工の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】アモルファス構造のアルミナ皮膜Aと多孔質型のアルミナ皮膜Pとのそれぞれの皮膜構造の様子を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0089】
1 基板保持装置
10 基板ステージ
11 ステージ本体
12 載置面
13 貫通孔
20 基板昇降機構
30 基板固定機構
E エンボス形状
A アルミナ皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置する基板ステージであって、
ステージ本体と、
前記ステージ本体の基板の載置面の所定位置に形成された貫通孔と、
前記貫通孔を減圧する減圧手段と、
前記載置面に、陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの皮膜と、
を有することを特徴とする基板ステージ。
【請求項2】
請求項1に記載の基板ステージであって、
前記アルミナの皮膜が、剥離帯電防止用の皮膜であることを特徴とする基板ステージ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の基板ステージであって、
前記アルミナの皮膜が、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成されることを特徴とする基板ステージ。
【請求項4】
基板を載置する基板ステージであって、
ステージ本体と、
前記ステージ本体の基板の載置面に、陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの剥離帯電防止用皮膜と、
を有することを特徴とする基板ステージ。
【請求項5】
請求項4に記載の基板ステージであって、
前記剥離帯電防止用皮膜が、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成されることを特徴とする基板ステージ。
【請求項6】
基板を載置する基板ステージであって、
ステージ本体と、
前記ステージ本体の基板の載置面に、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの皮膜と、
を有することを特徴とする基板ステージ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の基板ステージであって、
前記載置面にエンボス形状が形成されていることを特徴とする基板ステージ。
【請求項8】
請求項7に記載の基板ステージであって、
前記エンボス形状における頂上面の総面積が、前記載置面の全面積の50%未満であることを特徴とする基板ステージ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の基板ステージであって、
前記エンボス形状における頂上面の形状が円形であることを特徴とする基板ステージ。
【請求項10】
請求項9に記載の基板ステージであって、
前記円形の直径が5mm未満であることを特徴とする基板ステージ。
【請求項11】
請求項7から10のいずれかに記載の基板ステージであって、
前記エンボス形状の凸部の高さが100μm未満であることを特徴とする基板ステージ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の基板ステージであって、
前記ステージ本体が純アルミニウムまたはアルミニウム合金によって形成されていることを特徴とする基板ステージ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の基板ステージであって、
前記陽極酸化が、前記電解液中で、前記ステージ本体に所定の電圧を印加することによって行われ、
前記所定の電圧が50V以上200V以下であることを特徴とする基板ステージ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の基板ステージであって、
前記電解液が、濃度が0.1〜10%のカルボン酸の溶液であることを特徴とする基板ステージ。
【請求項15】
基板を冷却あるいは加熱するための熱処理装置であって、
請求項1から14のいずれかに記載の基板ステージを備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項16】
基板の載置面の所定位置に形成された貫通孔と、前記貫通孔を減圧する減圧手段とを備え、前記載置面に基板を載置して基板を保持する真空吸着方式の基板ステージの製造方法であって、
前記載置面に、陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの皮膜を形成する工程、
を有することを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の基板ステージの製造方法であって、
前記アルミナの皮膜が、剥離帯電防止用の皮膜であることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項18】
請求項16または17に記載の基板ステージの製造方法であって、
前記アルミナの皮膜が、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成されることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項19】
基板を載置する基板ステージの製造方法であって、
ステージ本体の基板の載置面に、陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの剥離帯電防止用皮膜を形成する工程、
を有することを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の基板ステージの製造方法であって、
前記剥離帯電防止用皮膜が、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成されることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項21】
基板を載置する基板ステージの製造方法であって、
ステージ本体の基板の載置面に、非水溶媒を含有する中性の電解液(ただし、5<pH<9)を用いた陽極酸化により形成された、100nmオーダーの厚みを有するアモルファス状態のアルミナの皮膜を形成する工程、
を有することを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項22】
請求項16から21のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、
前記アルミナ皮膜が形成される前の前記載置面に、エンボス加工によりエンボス形状を形成する工程、
を有することを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項23】
請求項22に記載の基板ステージの製造方法であって、
前記エンボス形状における頂上面の総面積が、前記載置面の全面積の50%未満であることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項24】
請求項22または23に記載の基板ステージの製造方法であって、
前記エンボス形状における頂上面の形状が円形であることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の基板ステージの製造方法であって、
前記円形の直径が5mm未満であることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項26】
請求項22から25のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、
前記エンボス形状の凸部の高さが100μm未満であることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項27】
請求項16から26のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、
前記ステージ本体が純アルミニウムまたはアルミニウム合金によって形成されていることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項28】
請求項16から27のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、
前記陽極酸化が、前記電解液中で、前記ステージ本体に所定の電圧を印加することによって行われ、
前記所定の電圧が50V以上200V以下であることを特徴とする基板ステージの製造方法。
【請求項29】
請求項16から28のいずれかに記載の基板ステージの製造方法であって、
前記電解液が、濃度が0.1〜10%のカルボン酸の溶液であることを特徴とする基板ステージの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−306213(P2008−306213A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224581(P2008−224581)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【分割の表示】特願2006−203729(P2006−203729)の分割
【原出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(502266320)株式会社フューチャービジョン (73)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】