説明

基板上の異物検査方法および異物検査装置

【課題】基板表面の印刷物の位置の変化や濃淡などの影響を低減して、基板上の異物の有無を高精度に判定する異物検査方法を提供する。
【解決手段】撮像部と画像データ演算部とを備える基板検査装置を用いた基板上の異物検査方法であって、良品基板の参照画像データ上で印刷領域を抽出する工程S1と、印刷領域を所定量だけ膨張させて膨張領域を演算する工程S3と、検査基板の検査画像データ上で印刷物が占めると推定できかつ膨張領域に含まれる印刷推定領域を抽出する工程S4と、参照画像データの印刷領域ならびに検査画像データの印刷推定領域に中間色を上書き補正して補正後参照画像データならびに補正後検査画像データとする工程S5と、補正後参照画像データと補正後検査画像データとを相互に比較して輝度情報に一定以上の差がある輝度差異領域を特定する工程S6と、輝度差異領域に基づいて検査基板上の異物の有無を判定する工程S7と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板生産工程内で基板上の異物の有無を検査する異物検査方法および異物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の電子部品が実装された基板を生産する設備として、クリーム半田印刷装置、電子部品実装機、リフロー装置、検査装置などがあり、これらを基板搬送装置で連結して基板生産ラインを構築する場合が多い。このうち検査装置は、基板生産ラインの最後に配置されて完成基板の良否を検査するだけでなく、適宜生産ラインの途中に配置されて生産途中の基板状態を確認する用途にも用いられる。検査方法としては、基板上の検査領域を撮影して得た画像データに所定の演算処理を施して、電子部品の実装位置や姿勢などの実装状態や、基板上の異物の有無などを判定する画像判定法が主流になっている。特に、特定電子部品を覆うシールドケースを実装するような場合には、完成基板検査では特定電子部品の実装状態やシールドケース内への異物の混入を検査できないので、基板生産ラインの途中で検査を行うことになる。
【0003】
上記の画像判定法で異物の有無を判定する場合に、基板表面の印刷物により判定精度が低下しあるいは誤判定を招くおそれがある。印刷物は、後のメンテナンス用として、基板の素地色と対照的な視認性の良い色でシルクスクリーン印刷されている場合が多い。例えば、緑色や茶色の基板上に明るい白色や黄色で部品配置を示す枠や部品番号、部品略号などが印刷される場合が多い。このような印刷物は、性能面の必要性から厳密な位置精度を確保している配線パターンと異なり、目視の補助に過ぎないため位置精度が確保されていない。つまり、印刷物の位置が基板上で微妙に変化することがあり、また濃淡のばらつきが生じる場合もある。これら印刷物の位置の変化や濃淡のばらつきは、異物として判定されるおそれを含んでいる。また、実装済みの電子部品にも実装位置のずれなどが生じる場合があり、異物判定に影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
この種の画像判定法を用いた検査装置で判定精度を向上する技術の例が特許文献1および2に開示されている。特許文献1のパターン検査装置は、検査パターン画像をそれぞれ異なる閾値で二値化することによりシルク印刷、ソルダレジスト、および配線の各パターンを抽出し、シルク印刷およびソルダレジストの領域を第1の所定画素数膨張させ次いで第2の所定画素数収縮させ、膨張および収縮で残った欠陥画素を求め、配線パターンについては所定の特徴抽出パターンとの比較で欠陥画素を検出している。そして、それぞれの欠陥画素を集計して良否を判別している。これにより、それぞれのパターンにあった精度で独立して検査し、誤報を少なくできるとされている。
【0005】
また、特許文献2の検出装置は、撮像手段が獲得した検体基板画像と基準基板の保存画像との差分画像処理を行い、差分画像上の異同箇所から定型パタンのずれに基づく異同箇所を除去し、実装異常箇所を抽出する画像抽出手段を備えている。さらに、定型パタンには回路パタン(配線パターン)とシルク印刷パタンがあり、前者は高精度であるが後者は精度がたいへん低く、後者への対応として複数の画素に亘る連続パタンを検出する画像処理アルゴリズムを備えている。つまり、複数画素にまたがる連続パタンを実装品質と無関係な箇所として除外している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−86919号公報
【特許文献2】特開2004−296564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1のパターン検査装置の実施形態には、シルク印刷の領域を3画素膨張させ次いで4画収縮させることにより孤立した検出点を消滅させることができると記載されているが、印刷物の位置の変化には必ずしも有効とならない。つまり、印刷物が所定位置からずれていると異物と誤判定してしまうおそれは解消されない。また、特許文献2の検出装置では、複数画素にまたがる連続パタンを実装品質と無関係な印刷物などとして除外し、実装品質に関係する部品の有無、間違いや、位置のずれ、半田の状態などを判定している。しかしながら、この方法では、基板上の異物を印刷物と誤判定して除外し看過してしまうおそれを解消できない。
【0008】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、基板表面の印刷物の位置の変化や濃淡などの影響を低減して、基板上の異物の有無を高精度に判定できる基板上の異物検査方法および異物検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する請求項1に係る基板上の異物検査方法の発明は、少なくとも一部の電子部品が実装された基板上の検査領域を撮影して輝度情報を含む画像データを得る撮像部と、前記画像データに演算処理を施すことにより前記基板上の異物の有無を判定する画像データ演算部とを備える基板検査装置を用いた基板上の異物検査方法であって、基準となる良品基板上の検査領域を撮影して参照画像データを得、前記輝度情報の差異に基づいて前記参照画像データ上で印刷物が占めると推定できる印刷領域を抽出する印刷領域抽出工程と、前記参照画像データ上で前記印刷領域を所定量だけ膨張させて膨張領域を演算する膨張領域演算工程と、検査対象となる検査基板上の検査領域を撮影して検査画像データを得、前記輝度情報の差異に基づいて前記検査画像データ上で印刷物が占めると推定できかつ対応する前記参照画像データの前記膨張領域に含まれる印刷推定領域を抽出する印刷推定領域抽出工程と、前記参照画像データの前記印刷領域ならびに前記検査画像データの前記印刷推定領域に、前記輝度情報が中程度の中間色を上書き補正して、補正後参照画像データならびに補正後検査画像データとする印刷除去補正工程と、前記補正後参照画像データと前記補正後検査画像データとを相互に比較して、前記輝度情報に一定以上の差がある輝度差異領域を特定する輝度差異領域特定工程と、前記輝度差異領域に基づいて前記検査基板上の異物の有無を判定する異物判定工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記印刷除去補正工程で用いる前記中間色は、前記参照画像データ上の前記印刷領域を除いた領域の前記輝度情報の平均値で示される中間色、あるいは前記良品基板の素地色であることを特徴とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1において、前記印刷除去補正工程で用いる前記中間色は、異なる輝度情報を有する複数の中間色とされていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記輝度情報は、白色光の輝度量、または赤色光、緑色光、および青色光のいずれかの輝度量、または赤色光、緑色光、および青色光の各輝度量に所定の重み付けをして加算した加重平均輝度量であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記異物判定工程で、前記輝度差異領域が有っても所定の除外条件を満たす場合にノイズとして破棄し、前記除外条件を満たさない輝度差異領域がある場合に異物有りと判定することを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記印刷領域抽出工程に先立ち、前記基板検査装置に前記電子部品の実装位置と外観寸法のデータを予め設定し、前記電子部品を実装する領域を所定量だけ膨張させて部品膨張領域を得、該部品膨張領域を前記良品基板上および前記検査基板上の前記検査領域からそれぞれ除外する部品領域除外工程を有することを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する請求項7に係る基板上の異物検査装置の発明は、少なくとも一部の電子部品が実装された基板上の検査領域を撮影して輝度情報を含む画像データを得る撮像部と、前記画像データに演算処理を施すことにより前記基板上の異物の有無を判定する画像データ演算部とを備える基板上の異物検査装置であって、基準となる良品基板上の検査領域を撮影して参照画像データを得、前記輝度情報の差異に基づいて前記参照画像データ上で印刷物が占めると推定できる印刷領域を抽出する印刷領域抽出手段と、前記印刷領域を所定量だけ膨張させて膨張領域を演算する膨張領域演算手段と、検査対象となる検査基板上の検査領域を撮影して検査画像データを得、前記輝度情報の差異に基づいて前記検査画像データ上で印刷物が占めると推定できかつ対応する前記参照画像データの前記膨張領域に含まれる印刷推定領域を抽出する印刷推定領域抽出手段と、前記参照画像データの前記印刷領域ならびに前記検査画像データの前記印刷推定領域に、前記輝度情報が中程度の中間色を上書き補正して、補正後参照画像データならびに補正後検査画像データとする印刷補正手段と、前記補正後参照画像データと前記補正後検査画像データとを相互に比較して、前記輝度情報に一定以上の差がある輝度差異領域を特定する輝度差異領域特定手段と、前記輝度差異領域に基づいて前記検査基板上の異物の有無を判定する異物判定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る基板上の異物検査方法の発明では、基準となる良品基板の参照画像データから輝度情報の差異に基づいて印刷領域を抽出し、所定量だけ膨張させて膨張領域を演算する。また、検査対象となる検査基板の検査画像データから輝度情報の差異と前記膨張領域に基づいて印刷推定領域を抽出する。そして、印刷領域ならびに印刷推定領域に中間色を上書き補正して補正後参照画像データならびに補正後検査画像データとし、補正後の両データを相互に比較して、輝度情報に一定以上の差がある輝度差異領域を特定する。これにより、基板表面の印刷物の位置の変化や濃淡などの影響が無い条件で補正後の両データを比較できるので、輝度差異領域は異物の存在を明瞭に示し、基板上の異物の有無を高精度に判定できる。
【0017】
請求項2に係る発明では、印刷除去補正工程で用いる中間色は、参照画像データ上の印刷領域を除いた領域の輝度情報の平均値で示される中間色、あるいは良品基板の素地色とされている。これにより、印刷領域ならびに印刷推定領域は、誤判定が生じにくい中間色に補正され、基板上の異物の判定精度が一層向上する。
【0018】
請求項3に係る発明では、印刷除去補正工程で用いる中間色は異なる輝度情報を有する複数の中間色とされている。これにより、基板の素地色と異なりながらも明瞭に印刷物と判定できない領域をグレーゾーンとして扱い誤判定を防止できる。例えば、検査基板上に印刷物の淡い領域があって印刷物と基板素地の中間的な輝度情報を有するときに、この領域を第2中間色で上書き補正することで、輝度差異領域に特定されず異物と誤判定されないようにすることができる。
【0019】
請求項4に係る発明では、輝度情報は、白色光の輝度量、または赤色光、緑色光、および青色光のいずれかの輝度量、または赤色光、緑色光、および青色光の各輝度量に所定の重み付けをして加算した加重平均輝度量とされている。輝度情報の色は、基板の素地色および印刷色と想定される異物の色に対応して適宜選択できる。例えば、光の三原色を含んだ白色光の濃淡情報で十分に異物を判別できれば最も簡易である。また、基板の素地色が緑色である場合に、緑色光にゼロの重み付けをして赤色光と青色光の加重平均輝度量を用いれば、基板素地の輝度量が極端に小さくなり、異物が明瞭に浮かび上がる。このように、輝度情報の色を適宜選択することにより、基板上の異物の判定精度が一層向上する。
【0020】
請求項5に係る発明では、異物判定工程で、輝度差異領域が有っても所定の除外条件を満たす場合にノイズとして破棄し、除外条件を満たさない輝度差異領域がある場合に異物有りと判定する。例えば、輝度差異領域が所定の面積未満であることや、所定の幅未満であることを除外条件とする。これにより、偶発的な輝度量の誤計測値や電子部品のエッジ部による反射などの影響を除去して誤判定を回避でき、基板上の異物の判定精度が一層向上する。
【0021】
請求項6に係る発明では、印刷領域抽出工程に先立ち、電子部品を実装する領域を所定量だけ膨張させた部品膨張領域を良品基板上および検査基板上の検査領域からそれぞれ除外する。これにより、電子部品の実装位置の変化の影響を除外でき、基板上の異物の判定精度が一層向上する。
【0022】
請求項7に係る基板上の異物検査装置の発明は、印刷領域抽出手段、膨張領域演算手段、印刷推定領域抽出手段、印刷補正手段、輝度差異領域特定手段、および異物判定手段の各機能手段を有している。本発明は、基板上の異物検査装置としても実現でき、請求項1の基板上の異物検査方法と同様の効果が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の基板上の異物検査方法に用いる基板検査装置の構成の概要を説明するブロック図である。
【図2】図1中の撮像部の構成を模式的に説明する図である。
【図3】実施形態の基板上の異物検査方法のフローチャートを説明する図である。
【図4】印刷領域抽出工程で得た参照画像データの一例を示す図である。
【図5】図4の参照画像データ上で抽出した印刷領域を示す図である。
【図6】図5の印刷領域に基づいて膨張領域演算工程で演算した膨張領域を示す図である。
【図7】印刷推定領域抽出工程で得た検査画像データの一例を示す図である。
【図8】図7の検査画像データ上で抽出した印刷推定領域を示す図である。
【図9】印刷除去補正工程で、図4の参照画像データの印刷領域に中間色を上書き補正して得た補正後参照画像データを示す図である。
【図10】印刷除去補正工程で、図7の検査画像データの印刷推定領域に中間色を上書き補正して得た補正後検査画像データを示す図である。
【図11】図9の補正後参照画像データと図10の補正後検査画像データとを相互に比較して得られた輝度差異領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態の基板上の異物検査方法について、図1〜図11を参考にして説明する。まず、実施形態の基板上の異物検査方法に用いる基板検査装置1について説明する。図1は、基板検査装置1の構成の概要を説明するブロック図である。図示されるように、基板検査装置1は、基板上の検査領域を撮影して画像データを得る撮像部2と、画像データに演算処理を施すことにより基板上の異物の有無を判定する画像データ演算部7とを備えている。画像データ演算部7は、CPU71、プログラムメモリ72、およびデータメモリ73を備えている。CPU71は、プログラムメモリ72に記憶されているプログラムによって動作し、データメモリ73に記憶されている各種情報を参照しながら、後述の各工程を制御および実行する。
【0025】
図2は、図1中の撮像部2の構成を模式的に説明する図である。撮像部2は、カメラ3を基板Kに対して相対移動させ、基板K上の検査領域を撮影して輝度情報を含む画像データを得るものである。図示されるように、撮像部2は、カメラ3、左右一対の側射用光源41、42、落射用光源5、およびハーフミラー6で構成されている。カメラ3は、少なくとも一部の電子部品Pが実装された基板Kの上方に配置され、基板K上の検査領域を上方から撮影する。カメラ3は、検査領域を例えば二次元格子状の多数の画素に分け、各画素の輝度量を求めて画像データとし、画像データ演算部7に送出するようになっている。輝度量は、例えば、0〜255ディジットのディジタル値で表現され、数値が大きいほど高輝度(濃淡では白色)、小さいほど低輝度(濃淡では黒色)であることを意味する。
【0026】
側射用光源41、42は、基板Kの斜め上方に配置され、図中の矢印L1、L2で示されるように基板Kの斜め上方から光を照射する。落射用光源5は、図中の矢印L3、L4で示されるように、ハーフミラー6を介して基板Kの真上から垂直に光を照射する。落射用光源5は、ハーフミラー6に向かい水平方向に光を照射するように配置されている。ハーフミラー6は、カメラ3と基板Kの間に45°傾斜して配置されている。ハーフミラー6は、落射用光源5から水平方向に照射された光(L3)を垂直方向下向きに反射する(L4)とともに、基板Kからの反射光をカメラ3に透過する(L5)。
【0027】
ここで、カメラ3による撮影時に基板Kを照射する側射用光源41、42および落射用光源5は、白色光の光源でもよく、光の三原色、すなわち赤色光、緑色光、および青色光のいずれかの光源でもよい。また、カメラ3は、白色光の輝度量すなわち濃淡画像を得る白黒カメラでも、三原色の各輝度量を得るカラーカメラのいずれであってもよい。また、カラーカメラを用いたときに、画像データ演算部7で三原色の各輝度量を加重平均して加重平均輝度量を求めたり、濃淡画像に変換したりしてもよい。カメラ3および各光源41、42、5が扱う色は、検査対象となる検査基板の種類に応じて予め定めておく。また、後述するように、印刷領域を抽出する際の印刷輝度量範囲、および輝度差異領域を特定する際の輝度差分量についても、検査基板の種類および想定される異物を考慮して予め定めておく。
【0028】
次に、本発明の実施形態の基板上の異物検査方法について説明する。図3は、実施形態の基板上の異物検査方法のフローチャートを説明する図である。図示されるように、異物検査方法は、印刷領域抽出工程S1、中間色演算工程S2、膨張領域演算工程S3、印刷推定領域抽出工程S4、印刷除去補正工程S5、輝度差異領域特定工程S6、および異物判定工程S7を有している。本実施形態では、基板素地が低輝度で印刷が高輝度である場合を例示し、検査領域は基板の表面全域とする。以下、各工程S1〜S7について順次説明する。
【0029】
印刷領域抽出工程S1では、まず基準となる良品基板上の検査領域を撮影して多数の画素の輝度量で表される参照画像データSGDを得る。基準となる良品基板には、検査対象と同一種類で印刷位置や印刷濃度などの印刷状態がばらつき範囲の中庸にあり、かつ電子部品の実装状態も良好であることが確認されている基板を用いる。図4は、印刷領域抽出工程S1で得た参照画像データSGDの一例を示す図である。図4の参照画像データSGDでは、画素ごとに多少のばらつきは有るものの、検査領域内で輝度量は大きく3段階に分かれている。すなわち、輝度量が最も大きな第1領域R1は印刷領域に相当し、部品配置を示す枠および部品符号「4」「6」「VCC」「R1」「LED1」が離散して検出されている。輝度量が2番目に大きな第2領域R2は電子部品が実装されている部分に相当し、長方形、台形、および円形で離散的に検出されている。残された輝度量が最も小さな第3領域R3は基板素地部分に相当する。この時点で、画像データ演算部7は、参照画像データの各画素の輝度量を認識しているが、第1〜第3の各領域R1〜R3を特定して区分している訳ではない。
【0030】
印刷領域抽出工程S1では、さらに、輝度情報の差異に基づいて参照画像データSGD上で印刷物が占めると推定できる印刷領域を抽出する。このとき、印刷物と推定できる印刷輝度量範囲を予め設定しておき、印刷輝度量範囲に含まれる輝度量を有する画素を抽出して印刷領域とする。印刷輝度量範囲は、例えば緑色や茶色の基板上に高輝度の白色や黄色で印刷が施されている場合には、所定の輝度閾値以上に設定することができる。逆に、明るい基板上に黒色などの暗色で印刷が施されている場合、印刷輝度量範囲は所定の輝度閾値以下に設定することができる。図5は、図4の参照画像データSGD上で抽出した印刷領域を示す図である。図4中の第1領域R1と第2領域R2とを分ける輝度閾値が設定されることにより、画像データ演算部7は第1領域R1を印刷領域R1として認識し、第2および第3領域R2、R3と区別して抽出できる。
【0031】
中間色演算工程S2では、参照画像データSGD上の印刷領域R1を除いた領域の輝度情報の平均値で示される中間色を演算する。つまり、図4の第2領域R2および第3領域R3に属する各画素の輝度量の平均値を求め、この平均値を中間色の輝度量とする。
【0032】
膨張領域演算工程S3では、印刷領域抽出工程S1で抽出した印刷領域R1を所定量だけ膨張させて膨張領域R4を演算する。膨張させる所定量は、基板K上で印刷位置が変化し得る量よりも大きめに設定する。膨張領域R4の演算は、参照画像データSGD上で二次元方向に行う。例えば、多数の画素が二次元格子状に配列されており、所定量を2画素に設定すると、3列で直線状に並ぶ画素からなる印刷領域R1から演算される膨張領域R4は、幅が両側に2画素ずつ拡がって7画素の幅を有する細長い長方形領域になる。また、孤立した1個の画素からなる印刷領域R1を仮想すると、膨張領域R4は縦横各5画素の正方形領域になる。図6は、図5の印刷領域R1に基づいて膨張領域演算工程S3で演算した膨張領域R4を示す図である。図示される膨張領域R4では、図5の印刷領域R1の枠の幅が拡がり、部品符号の文字は塊状に大きくなっている。
【0033】
なお、孤立した1個の画素からなる印刷領域R1を仮想したとき、膨張領域R4が直径5画素の円形領域となるように所定距離だけ膨張させるようにしてもよい。
【0034】
印刷推定領域抽出工程S4では、まず検査対象となる検査基板上の検査領域を撮影して多数の画素の輝度量で表される検査画像データKGDを得る。検査基板上の検査領域は当然ながら良品基板の検査領域に対応して一致しており、検査画像データKGDのデータ構造も参照画像データSGDのそれに一致している。図7は、印刷推定領域抽出工程S4で得た検査画像データKGDの一例を示す図である。図7の検査画像データKGDには、検査基板上に比較的明るい色の異物Zが載った場合が例示されている。
【0035】
図7の検査画像データKGDでは、画素ごとに多少のばらつきは有るものの、検査領域内で輝度量は大きく4段階に分かれている。すなわち、輝度量が最も大きな第1領域R11は印刷領域に相当し、部品配置を示す枠および部品符号「4」「6」[VCC]「R1」「LED1」が離散して検出されている。ただし、枠の中央に電子部品が実装されておらず、第1領域R11の位置が図5の印刷領域R1と比較して全体的に図中の左上方にわずかにずれている。輝度量が第1領域R11よりも少し小さく2番目に大きな第2領域R12は異物Zが存在する領域であり、長方形でその中央部分が第1領域R11を横切って検出されている。輝度量が3番目に大きな第3領域R13は電子部品が実装されている部分に相当し、長方形、台形、および円形で離散的に検出されている。残された輝度量が最も小さな第4領域R14は基板素地部分に相当する。この時点で、画像データ演算部7は、検査画像データの各画素の輝度量を認識しているが、第1〜第4領域R11〜R14を特定して区分している訳ではない。
【0036】
印刷推定領域抽出工程S4では、さらに、輝度情報の差異に基づいて検査画像データKGD上で印刷物が占めると推定できかつ対応する参照画像データSGDの膨張領域R4に含まれる印刷推定領域R5を抽出する。印刷物と推定できる印刷輝度量範囲は、印刷領域抽出工程S1のときと同じ範囲に設定する。図8は、図7の検査画像データKGD上で抽出した印刷推定領域R5を示す図である。
【0037】
図8で、第1領域R11の各画素の輝度量は印刷輝度量範囲にあり、かつ、図中の左上方にわずかにずれていても膨張領域R4内に含まれる。したがって、画像データ演算部7は第1領域R11を印刷推定領域R5として認識する。また、第2領域R12の各画素の輝度量は印刷輝度量範囲にあり、かつ、第2領域R12の中央部分R121が図6の膨張領域R4内に含まれる。したがって、画像データ演算部7は、第2領域R12の中央部分R121を印刷推定領域R5として認識する。また、画像データ演算部7は、第2領域R12の両側部分R122は膨張領域R4内に含まれないことから印刷推定領域R5でないと認識する。さらに、画像データ演算部7は、第3領域R13および第4領域R14の各画素の輝度量が印刷輝度量範囲にないので、印刷推定領域R5でないと認識する。
【0038】
印刷除去補正工程S5では、参照画像データの印刷領域R1ならびに検査画像データの印刷推定領域R5に、中間色演算工程S2で演算した中間色を上書き補正して、補正後参照画像データHSDならびに補正後検査画像データHKDとする。図9は、印刷除去補正工程S5で、図4の参照画像データSGDの印刷領域(=第1領域)R1に中間色を上書き補正して得た補正後参照画像データHSDを示す図である。画像データ演算部7が上書き補正を行うと、元々印刷が施されていた輝度量の大きな第1領域R1が消失する。
【0039】
図10は、印刷除去補正工程で、図7の検査画像データKGDの印刷推定領域R5に中間色を上書き補正して得た補正後検査画像データHKDを示す図である。画像データ演算部7が上書き補正を行うと、元々印刷が施されていた輝度量の大きな第1領域R11が消失する。画像データ演算部7は、異物Zが存在する第2領域R12の中央部分R121を印刷推定領域R5と認識しているので、中間色で上書き補正する。また、画像データ演算部7は、第2領域R12の両側部分R122は印刷推定領域R5でないことから、上書き補正を行わずに元の2番目の輝度量を保持する。
【0040】
輝度差異領域特定工程S6では、補正後参照画像データHSDと補正後検査画像データHKDとを相互に比較して、輝度情報に一定以上の差がある輝度差異領域R6を特定する。つまり、補正後参照画像データHSDと補正後検査画像データHKDの対応する画素の輝度量を相互に比較し、予め定めた輝度差分量以上の差がある画素を輝度差異領域R6とする。図11は、図9の補正後参照画像データHSDと図10の補正後検査画像データHKDとを相互に比較して得られた輝度差異領域R6を示す図である。画像データ演算部7は、補正後検査画像データHKDで2番目の輝度量が保持されている第2領域R12の両側部分R122が補正後参照画像データと輝度差分量以上の差を有しているので、輝度差異領域R6と特定する。
【0041】
異物判定工程S7では、輝度差異領域R6に基づいて検査基板上の異物の有無を判定する。ここで、輝度差異領域が有っても所定の除外条件を満たす場合にノイズとして破棄し、除外条件を満たさない輝度差異領域がある場合に異物有りと判定する。本実施形態では、輝度差異領域を構成する連続した画素数が所定数未満であること、および輝度差異領域の最大幅の画素数が所定数未満であることを除外条件とする。図11に例示されるように、輝度差異領域が複数箇所に分かれているときには、各箇所について除外条件を満たすか否かを判定する。図11に示される2箇所の輝度差異領域R6はそれぞれ、構成画素数が多数で最大幅も広いことから除外条件を満たさず、画像データ演算部7は異物有りと正しく判定する。
【0042】
仮に、偶発的な輝度量の誤計測が発生して微小な輝度差異領域が特定された場合、輝度差異領域の構成画素数が所定数未満である除外条件を満たすので、画像データ演算部7は微小な輝度差異領域をノイズとして破棄する。また、仮に、電子部品のエッジ部による反射の影響により細長い輝度差異領域が特定された場合、構成画素数が多くとも輝度差異領域の最大幅の画素数が所定数未満である除外条件を満たすので、画像データ演算部7は細長い輝度差異領域をノイズとして破棄する。このように、除外条件を設定することにより誤判定が回避され、基板上の異物の判定精度が一層向上する。
【0043】
また、上述では異物Zと印刷物とを印刷輝度量範囲で区別できないものとして説明しているが、区別できる場合は異物Zの判定は一層容易になる。なぜなら、印刷推定領域抽出工程S4で異物Zが占める第2領域R12全体が印刷推定領域R5から除外されて、印刷除去補正工程S5による中間色の上書き補正が行われず、補正後検査画像データHKD上に異物Zの形状がそのまま残るからである。
【0044】
検査基板上に異物がない場合、印刷推定領域抽出工程S4で実際の印刷を抽出し、印刷除去補正工程S5で中間色を上書き補正して補正後検査画像データとする。したがって、検査基板で印刷のずれが生じていても、膨張領域R4の範囲内であれば中間色の上書き補正により、印刷に相当する輝度量の領域は消失する。また、検査基板に印刷の淡い部分があり基板素地に近い輝度量を有していても、参照基板の当該部分が中間色に上書き補正されているため、誤って異物と判定することはない。これにより、基板表面の印刷物の位置の変化や濃淡などの影響をなくした条件で補正後参照画像データおよび補正後検査画像データを比較できる。したがって、輝度差異領域は異物の存在を明瞭に示し、基板上の異物の有無を高精度に判定できる。
【0045】
また、印刷領域を検査領域から除外する方法と異なり、印刷領域上に載っている異物も輝度量が異なれば検出できる。さらに、中間色演算工程S2で求めた最も誤判定が生じにくい中間色を用いて印刷領域ならびに印刷推定領域を上書き補正するので、基板上の異物の判定精度が一層向上する。また、基板の種類と想定される異物に応じて輝度量の色を適宜選択することができ、印刷位置が変化し得る量に応じて膨張させる所定量を定めることができるので、基板上の異物の判定精度が一層向上する。
【0046】
なお、印刷領域抽出工程に先立ち、電子部品を実装する領域を所定量だけ膨張させた部品膨張領域を良品基板上および検査基板上の検査領域からそれぞれ除外するようにしてもよい。これにより、電子部品の実装位置の変化の影響を除外でき、基板上の異物の判定精度が一層向上する。また、基板生産ラインの途中で、検査基板の一部分を検査領域として検査を行うようにしてもよい。本発明は、その他様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1:基板検査装置 2:撮像部 3:カメラ 41、42:側射用光源
5:落射用光源 6:ハーフミラー 7:画像データ演算部
K:基板 Z:異物
SGD:参照画像データ HSD:補正後参照画像データ
KGD:検査画像データ HKD:補正後検査画像データ
R1:印刷領域 R4:膨張領域 R5:印刷推定領域 R6:輝度差異領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の電子部品が実装された基板上の検査領域を撮影して輝度情報を含む画像データを得る撮像部と、前記画像データに演算処理を施すことにより前記基板上の異物の有無を判定する画像データ演算部とを備える基板検査装置を用いた基板上の異物検査方法であって、
基準となる良品基板上の検査領域を撮影して参照画像データを得、前記輝度情報の差異に基づいて前記参照画像データ上で印刷物が占めると推定できる印刷領域を抽出する印刷領域抽出工程と、
前記参照画像データ上で前記印刷領域を所定量だけ膨張させて膨張領域を演算する膨張領域演算工程と、
検査対象となる検査基板上の検査領域を撮影して検査画像データを得、前記輝度情報の差異に基づいて前記検査画像データ上で印刷物が占めると推定できかつ対応する前記参照画像データの前記膨張領域に含まれる印刷推定領域を抽出する印刷推定領域抽出工程と、
前記参照画像データの前記印刷領域ならびに前記検査画像データの前記印刷推定領域に、前記輝度情報が中程度の中間色を上書き補正して、補正後参照画像データならびに補正後検査画像データとする印刷除去補正工程と、
前記補正後参照画像データと前記補正後検査画像データとを相互に比較して、前記輝度情報に一定以上の差がある輝度差異領域を特定する輝度差異領域特定工程と、
前記輝度差異領域に基づいて前記検査基板上の異物の有無を判定する異物判定工程と、
を有することを特徴とする基板上の異物検査方法。
【請求項2】
請求項1において、前記印刷除去補正工程で用いる前記中間色は、前記参照画像データ上の前記印刷領域を除いた領域の前記輝度情報の平均値で示される中間色、あるいは前記良品基板の素地色であることを特徴とする基板上の異物検査方法。
【請求項3】
請求項1において、前記印刷除去補正工程で用いる前記中間色は、異なる輝度情報を有する複数の中間色とされていることを特徴とする基板上の異物検査方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、前記輝度情報は、白色光の輝度量、または赤色光、緑色光、および青色光のいずれかの輝度量、または赤色光、緑色光、および青色光の各輝度量に所定の重み付けをして加算した加重平均輝度量であることを特徴とする基板上の異物検査方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、前記異物判定工程で、前記輝度差異領域が有っても所定の除外条件を満たす場合にノイズとして破棄し、前記除外条件を満たさない輝度差異領域がある場合に異物有りと判定することを特徴とする基板上の異物検査方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、前記印刷領域抽出工程に先立ち、
前記基板検査装置に前記電子部品の実装位置と外観寸法のデータを予め設定し、前記電子部品を実装する領域を所定量だけ膨張させて部品膨張領域を得、該部品膨張領域を前記良品基板上および前記検査基板上の前記検査領域からそれぞれ除外する部品領域除外工程を有することを特徴とする基板上の異物検査方法。
【請求項7】
少なくとも一部の電子部品が実装された基板上の検査領域を撮影して輝度情報を含む画像データを得る撮像部と、前記画像データに演算処理を施すことにより前記基板上の異物の有無を判定する画像データ演算部とを備える基板上の異物検査装置であって、
基準となる良品基板上の検査領域を撮影して参照画像データを得、前記輝度情報の差異に基づいて前記参照画像データ上で印刷物が占めると推定できる印刷領域を抽出する印刷領域抽出手段と、
前記印刷領域を所定量だけ膨張させて膨張領域を演算する膨張領域演算手段と、
検査対象となる検査基板上の検査領域を撮影して検査画像データを得、前記輝度情報の差異に基づいて前記検査画像データ上で印刷物が占めると推定できかつ対応する前記参照画像データの前記膨張領域に含まれる印刷推定領域を抽出する印刷推定領域抽出手段と、
前記参照画像データの前記印刷領域ならびに前記検査画像データの前記印刷推定領域に、前記輝度情報が中程度の中間色を上書き補正して、補正後参照画像データならびに補正後検査画像データとする印刷補正手段と、
前記補正後参照画像データと前記補正後検査画像データとを相互に比較して、前記輝度情報に一定以上の差がある輝度差異領域を特定する輝度差異領域特定手段と、
前記輝度差異領域に基づいて前記検査基板上の異物の有無を判定する異物判定手段と、
を有することを特徴とする基板上の異物検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−112669(P2012−112669A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259325(P2010−259325)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000237271)富士機械製造株式会社 (775)
【Fターム(参考)】