説明

基板熱処理炉

【課題】加熱処理によって排出される熱風に含まれる有機物を高い効率にて分解することができる基板熱処理炉を提供する。
【解決手段】炉体本体部10の内部に熱風を吹き出すことによりガラス基板Wの加熱処理が進行する。炉体本体部10から排出された熱風は循環経路20を経由して再び炉体本体部10に帰還する。その経路途中において、熱風の一部は排気ライン23に排出される。排気ライン23には、メタルフィルタに触媒を担持して構成される触媒フィルタ部71が設けられている。これにより、排気される熱風と触媒との接触効率が高くなり、有機物の分解効率を高めることができる。また、パーティクル状の有機物をも捕集することが可能となり、トータルとしての有機物の分解効率を高いものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置用ガラス基板、PDP(プラズマディスプレイパネル)用ガラス基板や半導体ウェハー等の薄板状電子部品用基板(以下、単に「基板」と称する)を加熱処理する基板熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーフィルタの製造工程の一つにカラーインクをインクジェットで着弾させたガラス基板を焼成する工程がある。この焼成工程は、所定の焼成温度に昇温した焼成炉中にて大気雰囲気下でガラス基板を所定時間保持することによって進行する。また、ガラス基板上に金属配線を形成する場合には、同様の焼成炉中にて窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下でガラス基板を焼成する。いずれの焼成処理工程においても、ガラス基板上のカラーインク等の被焼成物に含まれる有機溶剤が揮発或いは酸化・熱分解することによって多くの有機物が発生して雰囲気中に拡散する。
【0003】
このため、焼成処理中は絶えず清浄な熱風を焼成炉に送風するとともに、排気も継続して行って焼成炉中に有機物が滞留しないようにしている。焼成炉から排気された有機物を多量に含む気体をそのまま外気に放出することはできないため、スクラバー等によって排気中の有機物を捕集する処理がなされていた。
【0004】
一方、省エネルギーの観点から、焼成炉から排気される熱風と焼成炉に新たに供給する気体との間で熱交換を行う試みもなされてきた。すなわち、焼成炉からの排気をスクラバーで処理すると持ち去られる熱エネルギー量が非常に多くなってエネルギー効率が悪いため、排気される気体と新たに供給する気体とを熱交換器に導入し、それらの間で熱交換を行わせることによって焼成炉からの排熱を回収するという試みである。
【0005】
焼成炉から排気された気体をそのまま熱交換器に導入すると、熱交換器内の構造物に有機物が付着して目詰まりを生じるため、排気気体を触媒処理して有機物を分解した後に熱交換器に導くことが必要となる。炉から排出された排ガスを触媒処理した後に熱交換器に導く技術については、例えば特許文献1にも開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−201271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来にあっては、排気ライン中の通気抵抗を低減するため、触媒を格子状の板状部材として形成しており、排気気体と触媒との接触効率が低く、分解効率を低下させることとなっていた。特に、パーティクル状態で通過する有機物や昇華物が固形化した物質については分解することが極めて困難であった。また、排気の温度低下によっても分解効率が低下していた。このため、結果的にトータルとしての有機物の分解効率は低いものとならざるを得なかった。
【0008】
従って、ガラス基板の焼成炉から排気された気体を触媒処理しても有機物を十分に取り除くことができず、その結果比較的短時間で付着物によって熱交換器が詰まり、結局長時間の連続運転が出来ないために装置稼働率が低くなって経済的ではなかった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、加熱処理によって排出される熱風に含まれる有機物を高い効率にて分解することができる基板熱処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板を加熱処理する基板熱処理炉において、内部に基板を収容する炉体本体部と、前記炉体本体部から排出された熱風の少なくとも一部を前記熱風より温度の低い部分に導出する導出部と、前記導出部に設けられ、触媒を担持するフィルタと、を備え、前記導出部に導出される前記熱風に含まれる有機物を前記フィルタによって分解することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る基板熱処理炉において、前記フィルタはメタルフィルタであり、前記フィルタおよび前記フィルタに導入される熱風の少なくとも一方を加熱する加熱手段を付設することを特徴とする。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明に係る基板熱処理炉において、前記加熱手段は、前記フィルタおよび前記フィルタに導入される熱風の少なくとも一方を200℃乃至400℃に加熱することを特徴とする。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの発明に係る基板熱処理炉において、少なくとも前記炉体本体部を囲う筐体を備え、当該筐体外に前記フィルタが設置されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5の発明は、請求項1の発明に係る基板熱処理炉において、少なくとも前記炉体本体部および前記フィルタを囲う筐体を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6の発明は、請求項1の発明に係る基板熱処理炉において、前記触媒は光触媒を含むことを特徴とする。
【0016】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係る基板熱処理炉において、前記光触媒はチタン酸化物を含むことを特徴とする。
【0017】
また、請求項8の発明は、請求項7の発明に係る基板熱処理炉において、前記光触媒に光を照射する光照射手段をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項9の発明は、請求項1の発明に係る基板熱処理炉において、前記触媒は白金を含むことを特徴とする。
【0019】
また、請求項10の発明は、請求項1から請求項9のいずれかの発明に係る基板熱処理炉において、前記炉体本体部から排出された熱風を循環させて前記炉体本体部に再度供給する循環経路と、前記循環経路に設けられて熱風を循環させる循環ファンと、前記循環経路に設けられて熱風を加熱する炉体用加熱手段と、前記循環経路に設けられて熱風を通過させるメインフィルタ部と、を備え、前記導出部は前記循環経路から分岐されることを特徴とする。
【0020】
また、請求項11の発明は、請求項10の発明に係る基板熱処理炉において、前記循環経路の途中に並列に設けられ、二酸化炭素および/または水分を吸着する2つの吸着塔と、前記2つの吸着塔のうちのいずれか一方を熱風が通過するように、熱風の流路を択一的に切り換える切換手段と、前記2つの吸着塔に交互に熱風が通過するように、前記切換手段を制御する切換制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、請求項12の発明は、請求項10または請求項11の発明に係る基板熱処理炉において、前記メインフィルタ部の熱風出口を前記炉体本体部の熱風供給口に接続したことを特徴とする。
【0022】
また、請求項13の発明は、請求項10から請求項12のいずれかの発明に係る基板熱処理炉において、前記循環経路に加熱した外気を供給する外気供給手段をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
また、請求項14の発明は、請求項10から請求項13のいずれかの発明に係る基板熱処理炉において、前記循環経路から熱風の10乃至15%を前記導出部に導き、当該熱風の残部を前記炉体本体部に導くことを特徴とする。
【0024】
また、請求項15の発明は、請求項1から請求項14のいずれかに記載の基板熱処理炉において、前記基板は被焼成膜を有し、前記炉体本体部の内部にて当該被焼成膜の焼成を行うことを特徴とする。
【0025】
また、請求項16の発明は、請求項15の発明に係る基板熱処理炉において、前記被焼成膜は、レジストコーティング膜、有機物コーティング膜またはインクジェット塗布膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱風の一部を導出する導出部に触媒を担持するフィルタを備えるため、排気される熱風と触媒との接触効率が高くなるとともに、パーティクル状の有機物をも捕集することが可能となり、加熱処理によって排出される熱風に含まれる有機物を高い効率にて分解することができる。
【0027】
特に、請求項2の発明によれば、フィルタおよびフィルタに導入される熱風の少なくとも一方を加熱する加熱手段を付設するため、フィルタによる有機物の分解効率をさらに高めることができる。
【0028】
また、特に、請求項4の発明によれば、炉体本体部を囲う筐体の外にフィルタが設置されているため、フィルタのメンテナンスが容易である。
【0029】
また、特に、請求項5の発明によれば、炉体本体部およびフィルタを囲う筐体を備えるため、炉体本体部からの熱によりフィルタを加熱することができ、特段のフィルタ用再加熱手段が不要となる。
【0030】
また、特に、請求項6の発明によれば、フィルタに担持される触媒が光触媒を含むため、フィルタ上に残留する有機物をも完全に分解することができる。
【0031】
また、特に、請求項11の発明によれば、循環経路の途中に2つの吸着塔を並列に設け、それらに交互に熱風が通過するようにしているため、加熱処理によって生じた二酸化炭素および/または水分を熱風から除去することができ、基板熱処理炉を長時間連続して稼働させることができる。
【0032】
また、特に、請求項14の発明によれば、循環経路から熱風の10乃至15%を導出部に導くため、循環される熱風の雰囲気を十分に管理しつつも、新たな外気導入に伴うランニングコストの上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明に係る基板熱処理炉の要部構成を示す図である。この基板熱処理炉は、インクジェット塗布膜等の被焼成膜が形成された角型のガラス基板Wを加熱処理して塗布膜の焼成処理を行う熱風炉である。基板熱処理炉は、ガラス基板Wを内部に収容して加熱処理を行う炉体本体部10、熱風を循環する循環経路20、熱風中に含まれる水分および二酸化炭素を吸着する吸着塔30、循環ファン40、メインヒータ50、メインフィルタ60、排気ライン23に設けられた触媒ユニット70および熱交換器80を備える。また、本実施形態の基板熱処理炉には制御部90が設けられている。また、図1に示す構成においては、炉体本体部10、循環経路20、吸着塔30、バタフライダンパ31a,31b,32a,32b、循環ファン40、メインヒータ50およびメインフィルタ60が筐体Aに囲われており、触媒ユニット70は筐体Aの外部に設置されている。
【0035】
炉体本体部10は、ガラス基板Wを多段(本実施形態では40段)に収容可能な筐体である。炉体本体部10の内側は、略四角柱形状の熱処理空間とされている。炉体本体部10の内壁面には図示を省略する多数のフォークが内設されている。各フォークは、炉体本体部10の内壁面から熱処理空間に向けて水平方向に沿って延設されている。水平方向に沿って並んだ複数本のフォークでもって1段の棚が構成されており、そのような棚が40段形成されている。各段の棚には1枚のガラス基板Wを水平姿勢にて載置することが可能である。
【0036】
炉体本体部10の正面側(図1の紙面左側)には、ルーバタイプのシャッター11が設けられている。シャッター11は、複数個のルーバを多段に積層して構成されている。各ルーバには図示を省略する昇降駆動機構が付設されており、ルーバごとに昇降可能とされている。図外の搬送ロボットが炉体本体部10に対してガラス基板Wの搬出入を行うときには、搬出入先の棚に対向する部位のみをアクセス用開口とするように、当該棚とほぼ同じ高さ位置のルーバが上昇する。このようにすれば、ガラス基板Wの搬出入時の開口を必要最小限として、搬出入に伴う熱エネルギーの漏出を最小限に抑制することができる。なお、シャッター11の比較的下部のルーバを駆動するときには、当該ルーバよりも上段のルーバも連動して駆動することとなるため、下部のルーバ程大きな出力の得られる駆動機構を設けておく必要がある。
【0037】
炉体本体部10の側面には、内部の熱処理空間に熱風を供給するための供給口12および熱風を排気するための排気口14が相対向して設けられている。すなわち、炉体本体部10の一方側面から供給された熱風がガラス基板Wの面に沿って水平方向に熱処理空間内を流れて反対側側面へと流れ込むのである。供給口12および排気口14は、炉体本体部10の内壁面のうち少なくともガラス基板Wを収容する多段の棚全体に対応する高さ位置に設けられている。このため、炉体本体部10に収容されている複数枚のガラス基板Wには均一に熱風を供給して均質な焼成処理を行うことができる。
【0038】
循環経路20は、炉体本体部10の排気口14と供給口12とを連通し、炉体本体部10から排出された熱風を循環させて炉体本体部10に再度供給する気体通過可能な流路である。循環経路20には、吸着塔30、循環ファン40およびメインヒータ50が介設されている。本実施形態においては、循環経路20の上流側から順に吸着塔30、循環ファン40、メインヒータ50が設けられている。なお、循環経路20の上流側とは炉体本体部10の排気口14に近い側であり、逆に下流側とは供給口12に近い側である。
【0039】
また、循環経路20から分岐されて排気ライン23および給気ライン26が形成されている。排気ライン23は循環経路20から熱風の一部を排出するための気体配管経路であり、給気ライン26は排出した熱風に相当する量の新鮮な外気(空気)を吸入して循環経路20に供給するための気体配管経路である。排気ライン23および給気ライン26は、それぞれ循環経路20におけるメインヒータ50よりも下流部分および循環ファン40よりも上流部分から分岐されている。
【0040】
また、本実施形態においては、2つの吸着塔30,30が循環経路20の途中に並列に設けられている。すなわち、循環経路20の一部において2つの流路に分岐されており、その分岐された2つの流路のそれぞれに吸着塔30が設けられている。各吸着塔30は、二酸化炭素(CO2)および水分(H2O)を吸着する吸着剤(本実施形態では活性炭)を内部に充填している。循環経路20を流れる熱風が吸着塔30を通過することによって、熱風から二酸化炭素および水分が除去される。
【0041】
2つの吸着塔30,30は択一的に使用されるものである。すなわち、分岐された2つの流路のうちの一方のみが選択的に開放されており、循環経路20を流れる熱風は2つの吸着塔30のうちのいずれか一方のみを通過することとなる。このような流路の切り換えは4つのバタフライダンパ31a,31b,32a,32bによって実行される。バタフライダンパ31a,31bを開放し、バタフライダンパ32a,32bを閉鎖しているときには図1の紙面上側の吸着塔30のみが選択的に使用されることとなる。逆に、バタフライダンパ32a,32bを開放し、バタフライダンパ31a,31bを閉鎖しているときには図1の紙面下側の吸着塔30のみが選択的に使用されることとなる。
【0042】
循環ファン40は、図示を省略するモータと旋回翼とを備えており、モータが旋回翼を回転させることによって循環経路20中に上流側から下流側へと向かう循環気流(つまり、排気口14から供給口12へと向かう気流)を生じさせる。
【0043】
メインヒータ50は、通電によって発熱することにより循環経路20を流れる熱風を加熱する。メインフィルタ60は、循環経路20の終点、すなわち炉体本体部10の供給口12の上流側直近に設けられている。よって、メインフィルタ60の熱風出口は炉体本体部10の供給口12に接続されることとなる。メインフィルタ60は、例えば耐熱HEPAフィルタによって構成され、循環経路20を経由して送風されてきた熱風を通過させ、熱風中に含まれるパーティクルを取り除いて清浄な熱風とする。
【0044】
本実施形態においては、循環経路20の循環ファン40によって送り出された気体がメインヒータ50によって加熱された後にメインフィルタ60によって浄化されて供給口12から炉体本体部10内部の熱処理空間に供給されることとなる。そして、炉体本体部10の排気口14から排出された熱風は、吸着塔30によって二酸化炭素および水分が除かれた後、再び循環ファン40によって循環経路20の下流側に送り出される。
【0045】
ところで、ガラス基板Wを加熱するとガラス基板W上の被焼成膜(インクジェット塗布膜等)に含まれる有機溶剤が揮発或いは酸化・熱分解することによって多くの有機物が発生する。炉体本体部10の内部空間には絶えず熱風の気流が形成されているため、ガラス基板Wから遊離した有機物は気流とともに排気口14から循環経路20へと流れ込む。基板熱処理炉の熱風循環システムを完全に閉じた系にすると、多量の有機物によって新たな有機物の焼成が抑制されたり、メインフィルタ60が急速に目詰まりして劣化したりするため、本実施形態では給気ライン26から循環経路20に新たな気体の供給を行うとともに、排気ライン23を介して循環経路20からの排気を行うようにしている。なお、熱風中には、有機物の他、二酸化炭素や水分もわずかながら発生するのである。
【0046】
排気ライン(導出部)23は、循環経路20のメインヒータ50よりも下流側に接続されている。また、排気ライン23の他端は熱交換器80に連通接続されている。排気ライン23の経路途中には流量調整バルブ24および触媒ユニット70が介挿されている。流量調整バルブ24は、排気ライン23を流れる排気流量を調整する。
【0047】
一方、給気ライン26は、循環経路20の循環ファン40よりも上流側(吸着塔30と循環ファン40との間)に接続されている。給気ライン26の他端も熱交換器80に連通接続されている。給気ライン26の経路途中には流量調整バルブ27が介挿されている。流量調整バルブ27は、給気ライン26を流れる排気流量を調整する。
【0048】
熱交換器80は、気体−気体間の熱交換を行う機器であり、例えば回転する蓄熱体に給気と排気とを交互に通過させて熱交換を行う蓄熱式熱交換器等を使用することができる。本実施形態の熱交換器80は、排気ライン23を流れる熱排気から給気ライン26によって吸入される新たな気体に熱を移動させることにより熱回収を行う。熱交換器80は、或いは、交互に気体が流れる多段プレート式熱交換器などの圧損の少ないものでも良い。
【0049】
触媒ユニット70は、触媒フィルタ部71、再加熱ヒータ72および光源73を備える。触媒フィルタ部71は、金属製のメッシュ(本実施形態ではステンレス製のメッシュ)にて構成されるメタルフィルタに触媒として機能する白金(Pt)または白金ロジウム(Pt−Rh)の粒子を担持させたものである。また、本実施形態においては、担持した触媒の一部に光触媒として機能する酸化チタン(TiO2)を混入している。触媒フィルタ部71は、熱排気中に含まれる有機物を分解するための触媒としての機能とパーティクルを取り除くフィルタとしての機能とを兼ね備える。なお、メタルフィルタと触媒層との間にアルミナ(Al23)や酸化クロム(Cr23)の中間層を形成するようにしても良い。このようなセラミックの中間層を設けることによって、ステンレスの耐久性や耐熱性を向上することができ、メタルフィルタの寿命を延長することが可能である。
【0050】
再加熱ヒータ72は、通電によって発熱することにより触媒ユニット70を通過する熱排気を加熱する熱源である。触媒ユニット70においては、再加熱ヒータ72および触媒フィルタ部71が排気ライン23の上流側からこの順番で連続して配置されている。よって、再加熱ヒータ72によって加熱された熱排気は直ちに触媒フィルタ部71に流入することとなる。また、光源73は、触媒フィルタ部71に光を照射する。触媒フィルタ部71に担持されている光触媒は光源73からの光を受けることによって触媒作用を示す。
【0051】
基板熱処理炉に設けられている制御部90のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部90は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用アプリケーションやデータなどを記憶しておく磁気ディスク等を備えている。制御部90は、4つのバタフライダンパ31a,31b,32a,32bのそれぞれと電気的に接続されており、それらの動作を制御する。また、制御部90は、基板焼成炉の全体の各動作機構(循環ファン40、メインヒータ50、再加熱ヒータ72、光源73、流量調整バルブ24,27およびシャッター11の昇降駆動機構など)の動作も制御する。
【0052】
次に、上記構成を有する基板熱処理炉における動作内容について説明する。まず、加熱処理中においては、図外の搬送ロボットが一定間隔でガラス基板Wを順次炉体本体部10に搬入して所定の段の棚に渡す。棚を構成するフォークに載置されたガラス基板Wは供給口12からの熱風によって焼成温度にまで昇温する。そして、炉体本体部10内にて所定の焼成時間が経過したガラス基板Wは当該搬送ロボットによって搬出される。
【0053】
本実施形態においては、インクジェット塗布膜等の被焼成膜を上面に形成した角型のガラス基板Wを加熱処理して当該被焼成膜の焼成処理を行っている。被焼成膜としては、インクジェット塗布膜に限定されるものではなく、レジストコーティング膜や有機物コーティング膜であっても良い。被焼成膜がいずれであっても、ガラス基板W上の被焼成膜に含まれる有機溶剤が揮発或いは酸化することによって多くの有機物が発生して炉体本体部10内の雰囲気中に放散する。また、焼成処理によって水分や二酸化炭素もわずかながら発生する。そして、有機物等を含んだ熱雰囲気は炉体本体部10の排気口14から熱風として排出される。排気口14から排出された熱風は循環ファン40によって循環経路20内を循環され、メインヒータ50によって加熱された後、メインフィルタ60を経て再び供給口12から炉体本体部10の内部に供給される。
【0054】
循環経路20内を循環する熱風に含まれるパーティクル等はメインフィルタ60によって補足されることとなる。また、循環経路20の途中には、2つの吸着塔30が並列に設けられており、それらのうちのいずれか一方のみを熱風が通過するように、熱風の流路は4つのバタフライダンパ31a,31b,32a,32bによって択一的に切り換えられる。吸着塔30では、焼成時に発生した熱風中に含まれる水分および二酸化炭素が吸着除去される。メインフィルタ60によってパーティクル等が除去され、吸着塔30によって水分および二酸化炭素が除去されることにより、循環経路20内を循環する熱風を清浄なものとすることができ、炉体本体部10の内部に焼成処理に適した雰囲気を安定して形成することができる。
【0055】
熱風が通過している方の吸着塔30においては、徐々に活性炭の吸着能が低下してくるため、十分に水分および二酸化炭素が吸着除去できなくなる。このため、適当なタイミングにて使用する吸着塔30を切り換える。すなわち、2つの吸着塔30に交互に熱風が通過するように、制御部90が4つのバタフライダンパ31a,31b,32a,32bの開閉を制御する。使用する吸着塔30を切り換えるタイミングとしては、吸着塔30の稼働時間が所定時間を経過した時点で切り換えるようにしても良いし、また熱風中に含有される水蒸気または二酸化炭素の濃度が所定値を超えた時点で切り換えるようにしても良い。
【0056】
使用する吸着塔30の切り換えが実行された後、それまで使用されていた吸着塔30の再生処理を行う。再生処理としては、例えば吸着塔30に再生用のヒータを設け、それによって活性炭を加熱して吸着した水および二酸化炭素を離脱させて吸着能を回復させるようにすれば良い。このときのヒータの温度制御を制御部90によって自動で行うようにしても良い。また、再生処理としては吸着塔30の活性炭を単に新しいものに交換する形態であっても良い。なお、このヒータや必要な外気流通手段であるファンや再生用流路は図示していない。
【0057】
やがて、再生処理が終了して吸着能が回復した吸着塔30を熱風が通過するように、再び4つのバタフライダンパ31a,31b,32a,32bが切り換えられる。そして、もう一方の吸着塔30の再処理が同様にして行われる。このようにすれば、基板熱処理炉を停止することなく連続して稼働させることが可能となる。
【0058】
また、循環経路20内を循環される熱風の一部は排気ライン23へと流入して外部に排出される。本実施形態においては、制御部90が流量調整バルブ24,27を調整することによって、循環経路20を循環する熱風のうち10乃至15%が排気ライン23に導かれ、残りは炉体本体部10へと導かれる。排気ライン23から排出する熱風が10%未満であると、メインフィルタ60や吸着塔30のみでは循環経路20内を循環される熱風の雰囲気を十分に管理することができず、また15%を超えると給気ライン26からの新たな外気導入に伴うランニングコストが高くなる。
【0059】
排気ライン23に流入した熱風は再加熱ヒータ72によって再加熱される。本実施形態においては、排気ライン23に導出された熱風を再加熱ヒータ72が200℃乃至400℃に再加熱する。そして、その再加熱された熱風が触媒フィルタ部71を通過する。ここで、熱風を加熱する代わりに、または熱風の加熱に加えて、触媒フィルタ部71を200℃〜400℃に加熱しても良い。この場合、触媒フィルタ部71を誘導加熱、ランプ加熱または抵抗加熱などによって加熱すれば良い。
【0060】
排気ライン23に導出された熱風が触媒フィルタ部71を通過することによって、熱風中に含まれる有機物の加熱分解と酸化分解とが同時に生じる。具体的には、有機物が酸化されて水と二酸化炭素とに分解される。本実施形態においては、金属製のメッシュにて構成されるメタルフィルタに触媒を担持しているため、排気される熱風と触媒との接触効率が高くなり、有機物の分解効率を高いものとすることができる。また、熱風中にパーティクル状態で通過する有機物や昇華物が固形化した物質が含まれていたとしても、触媒フィルタ部71をメタルフィルタにて構成しているため、そのような物質も触媒フィルタ部71によって捕集されることとなる。
【0061】
さらに、再加熱ヒータ72によって200℃乃至400℃に再加熱された熱風が触媒フィルタ部71に流入するため、触媒フィルタ部71の触媒温度も高温となり、熱風中に含まれる有機物が高い効率にて分解されることとなる。すなわち、再加熱ヒータ72と触媒フィルタ部71とを上流側から連続して配置することによって、再加熱ヒータ72から触媒フィルタ部71までの熱風の温度低下を最小限に抑制し、触媒フィルタ部71の分解効率を最大限高めているのである。
【0062】
触媒フィルタ部71を通過して有機物が取り除かれた熱風は熱交換器80に流入する。一方、排気ライン23を経て排出される熱風を補うべく、給気ライン26からは新たな気体の供給を行う。この新たに供給される気体も熱交換器80を通過する。熱交換器80においては、排気ライン23から排出される熱風と給気ライン26を経て新たに供給される気体との間で熱交換が実行される。これにより、排出気体の温度が低下するとともに、給気気体が加熱されてその温度が上昇する。このときに、排気ライン23から排出される熱風に含まれる有機物のほとんどが分解されているため、熱交換器80内の構造物への有機物の付着は非常に少なく、熱交換器80の目詰まりを防止することができ、熱交換器80を長期間安定して稼働させることができる。
【0063】
熱交換器80を通過して温度が低下した排出気体は外部の排熱ダクト等に放出される。この排気気流にも有機物がほとんど含まれていないことは勿論である。一方、熱交換器80を通過して温度が上昇した給気気体は流量調整バルブ27を通過して循環経路20に流れ込む。新たに供給される気体はメインヒータ50よりも上流側に流れ込むため、炉体本体部10に供給される熱風の温度を低下させるおそれはなく、メインヒータ50によって加熱された後に供給口12から炉体本体部10の内部に供給されることとなる。このように、熱交換器80を使用して給気気体と排気気体との間の熱交換を行うことができれば、基板熱処理炉におけるエネルギー効率を高くすることができる。
【0064】
以上のように、本実施形態においては、メタルフィルタに触媒を担持した触媒フィルタ部71を排気ライン23に設けているため、従来に比較して排気される熱風と触媒との接触効率が高くなり、有機物の分解効率を高めることができる。また、パーティクル状の有機物をも捕集することが可能となり、トータルとしての有機物の分解効率を高いものとすることができる。さらには、触媒フィルタ部71に流入する熱風を再加熱ヒータ72によって200℃乃至400℃に再加熱しているため、有機物の分解効率をさらに高め、排気ライン23から排出される熱風に含まれる有機物を確実に分解できるようにしている。また、筐体Aの外部に触媒ユニット70を設置しているため、触媒フィルタ部71を含む触媒ユニット70のメンテナンスが容易となる。
【0065】
また、本実施形態の触媒ユニット70には光源73を備え、触媒フィルタ部71に担持した触媒の一部に光触媒を含ませている。適当なタイミングにて光源73から触媒フィルタ部71に光を照射すれば、触媒フィルタ部71の光触媒が光を受けることによって触媒作用を示し、一部メタルフィルタ上に残留付着していた有機物を効率良く分解することができる。すなわち、光源73から触媒フィルタ部71に光を照射することによって一種のクリーニング処理を実行することができる。なお、光源73を設けることなく、室内照明器具などからの光を利用して触媒フィルタ部71に触媒作用を生じさせても良い。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、熱交換器80を備えて熱排気と新たに供給する外気との間の熱交換を行うようにしていたが、熱交換器80を備えていない排気ラインに触媒ユニット70を設けるようにしても良い。このようにしても、加熱処理によって排出される熱風に含まれる有機物を高い効率にて分解することができる。要するに、炉体本体部10から排出された熱風の少なくとも一部を当該熱風よりも温度の低い部分に導出する導出部に触媒を担持するメタルフィルタを配置すれば、排出される熱風に含まれる有機物を高い効率にて分解することができる。
【0067】
また、触媒フィルタ部71に担持される触媒を全て光触媒としてもよい。この場合、排気ライン23から熱風の排出を行うときには常に光源73から触媒フィルタ部71に光を照射する。
【0068】
また、触媒フィルタ部71のメタルフィルタに代えて焼結セラミックスのフィルタに触媒を担持するようにしても良い。
【0069】
また、上記実施形態においては、吸着塔30の吸着剤として活性炭を使用していたが、これに限定されるものではなく、二酸化炭素および/または水分を吸着する素材であれば良く、例えばシリカゲルやゼオライトを使用するようにしても良い。
【0070】
また、熱交換器80は、蓄熱式熱交換器に限定されるものではなく、給排気が交互に通過する流路を持つプレート式熱交換器等であってもよい。
【0071】
また、基板焼成炉の炉体本体部10に収容可能なガラス基板Wの枚数は40枚に限定されるものではなく任意の数とすることができる。
【0072】
また、図2に示すように、炉体本体部10、吸着塔30、循環ファン40、メインヒータ50、メインフィルタ60とともに、触媒ユニット70を共通の筐体Bで囲うようにしても良い。このようにすれば、炉体本体部10からの熱によって触媒フィルタ部71を加熱することができるため、再加熱ヒータ72が不要となる。なお、図2における残余の構成は図1と同様である。
【0073】
また、本発明に係る基板熱処理炉によって焼成処理の対象となる基板はガラス基板Wに限定されるものではなく、半導体ウェハであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る基板熱処理炉の要部構成を示す図である。
【図2】基板熱処理炉の要部構成の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
10 炉体本体部
20 循環経路
23 排気ライン
24,27 流量調整バルブ
26 給気ライン
30 吸着塔
31a,31b,32a,32b バタフライダンパ
40 循環ファン
50 メインヒータ
60 メインフィルタ
70 触媒ユニット
71 触媒フィルタ部
72 再加熱ヒータ
73 光源
80 熱交換器
90 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を加熱処理する基板熱処理炉であって、
内部に基板を収容する炉体本体部と、
前記炉体本体部から排出された熱風の少なくとも一部を前記熱風より温度の低い部分に導出する導出部と、
前記導出部に設けられ、触媒を担持するフィルタと、
を備え、
前記導出部に導出される前記熱風に含まれる有機物を前記フィルタによって分解することを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項2】
請求項1記載の基板熱処理炉において、
前記フィルタはメタルフィルタであり、
前記フィルタおよび前記フィルタに導入される熱風の少なくとも一方を加熱する加熱手段を付設することを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項3】
請求項2記載の基板熱処理炉において、
前記加熱手段は、前記フィルタおよび前記フィルタに導入される熱風の少なくとも一方を200℃乃至400℃に加熱することを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の基板熱処理炉において、
少なくとも前記炉体本体部を囲う筐体を備え、当該筐体外に前記フィルタが設置されていることを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項5】
請求項1記載の基板熱処理炉において、
少なくとも前記炉体本体部および前記フィルタを囲う筐体を備えることを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項6】
請求項1記載の基板熱処理炉において、
前記触媒は光触媒を含むことを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項7】
請求項6記載の基板熱処理炉において、
前記光触媒はチタン酸化物を含むことを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項8】
請求項7記載の基板熱処理炉において、
前記光触媒に光を照射する光照射手段をさらに備えることを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項9】
請求項1記載の基板熱処理炉において、
前記触媒は白金を含むことを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の基板熱処理炉において、
前記炉体本体部から排出された熱風を循環させて前記炉体本体部に再度供給する循環経路と、
前記循環経路に設けられて熱風を循環させる循環ファンと、
前記循環経路に設けられて熱風を加熱する炉体用加熱手段と、
前記循環経路に設けられて熱風を通過させるメインフィルタ部と、
を備え、
前記導出部は前記循環経路から分岐されることを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項11】
請求項10記載の基板熱処理炉において、
前記循環経路の途中に並列に設けられ、二酸化炭素および/または水分を吸着する2つの吸着塔と、
前記2つの吸着塔のうちのいずれか一方を熱風が通過するように、熱風の流路を択一的に切り換える切換手段と、
前記2つの吸着塔に交互に熱風が通過するように、前記切換手段を制御する切換制御手段と、
を備えることを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の基板熱処理炉において、
前記メインフィルタ部の熱風出口を前記炉体本体部の熱風供給口に接続したことを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項13】
請求項10から請求項12のいずれかに記載の基板熱処理炉において、
前記循環経路に加熱した外気を供給する外気供給手段をさらに備えることを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項14】
請求項10から請求項13のいずれかに記載の基板熱処理炉において、
前記循環経路から熱風の10乃至15%を前記導出部に導き、当該熱風の残部を前記炉体本体部に導くことを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれかに記載の基板熱処理炉において、
前記基板は被焼成膜を有し、
前記炉体本体部の内部にて当該被焼成膜の焼成を行うことを特徴とする基板熱処理炉。
【請求項16】
請求項15記載の基板熱処理炉において、
前記被焼成膜は、レジストコーティング膜、有機物コーティング膜またはインクジェット塗布膜であることを特徴とする基板熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−74724(P2009−74724A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242576(P2007−242576)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(502266320)株式会社フューチャービジョン (73)
【Fターム(参考)】