説明

塗工装置、及び塗工方法

【課題】シート材に液状剤を塗布した際、シート材上に発生する泡を確実に取り除くことが可能な塗工装置、及び塗工方法を提供する。
【解決手段】搬送中のフィルムFに液状材を塗布する塗工装置であって、フィルムFの搬送方向と垂直な幅方向に沿って形成された吐出口21を有するダイヘッド2と、このダイヘッド2を挟んで搬送方向の下流側に配置され、フィルムFに空気を吹き付ける空気供給具と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材に液状剤を塗布する塗工装置、塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体高分子形燃料電池の製造においては、電解質膜上に印刷等によって触媒層を形成する方法がとられていた。しかしながら、この方法では、電解質膜が触媒層を形成するためのインクにより膨潤してしまい、均一な触媒層を形成することが困難であるという問題があった。これを解決するため、特許文献1に記載の方法では、フィルム上に触媒層を形成したものを準備し、これを熱間プレス等により電解質上に転写する方法を提案している。
【特許文献1】特開平10−64574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のようなフィルムに触媒層を形成するには、通常、フィルム上に液状の触媒層用材料を塗布し、乾燥したものを転写フィルムに用いるのが一般的である。しかしながら、フィルム上に触媒層を塗布する際には、塗布された触媒層用材料に泡が発生することがあった。このような泡がフィルム上に残ると、見た目が悪くなったり、触媒層用材料としての性能が低下するという問題があった。これに対して、フィルムに塗布する前の触媒層用材料を脱泡することも考えられるが、ダイヘッドからの吐出時に泡が形成されることもあり、確実に泡を取り除くことはできなかった。
【0004】
なお、上記のような問題は、フィルムに触媒層用材料を塗布する場合にのみ生じ得る問題ではなく、フィルムのようなシート材に対して液状剤を塗布する方法全般に起こりうる問題である。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、シート材に液状剤を塗布した際、シート材上に発生する泡を確実に取り除くことが可能な塗工装置、及び塗工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シート材に液状剤を塗布する塗工装置であって、上記問題を解決するためになされたものであり、シート材の搬送方向と垂直な幅方向に沿って形成された吐出口を有するダイヘッドと、前記ダイヘッドを挟んで前記搬送方向の下流側に配置され、塗布された液状剤に空気を吹き付ける空気供給手段と、を備えている。
【0007】
この装置によれば、ダイヘッドの下流側に空気を吹き付ける空気供給手段が設けられている。これにより、シート材上に発生する泡に対して、空気を吹き付けることができるため、シート材上の泡を潰すことができ、確実に除去することができる。
【0008】
空気供給手段は、種々の構成を採ることができる。例えば、ダイヘッドの吐出口の近傍で、幅方向に空気を吐出するように構成することができる。通常、泡は、ダイヘッドの吐出口に沿って形成されることが多いため、シート材の幅方向端部から幅方向に空気を吹き付けることで、泡を確実に除去することができる。
【0009】
あるいは、空気供給手段を、シート材の搬送方向下流側から上流側のダイヘッドの吐出工近傍へ向けて空気を吐出するように構成することもできる。この場合、空気がシート材の幅方向全体にわたって吹き付けるように構成することが好ましい。
【0010】
上記空気供給手段では、空気の吐出方向と、シート材とのなす角が60度以下であることが好ましい。これは、シート材の搬送方向を考慮すると、空気の吹きつけ方向が60度より大きくなると、泡に対して空気を効率よく吹き付けることができないおそれがあることによる。また、ダイヘッド先端の角度によっては、シート材に対して空気を確実に吹き付けることができないことにもよる。
【0011】
また、空気供給手段から吐出される空気の風速が、3〜110m/秒であることが好ましい。3m/秒より小さいと、泡を確実に除去することができない一方、110m/秒より大きいと、塗布された液状剤やシート材が空気によって乱れ、シート材の品質低下のおそれがある。また、このような観点から、空気の風速は、5〜20m/秒であることがさらに好ましい。
【0012】
また、本発明に係る塗工方法は、上記問題を解決するためになされたものであり、所定の方向に搬送されるシート材に対し、当該搬送方向に垂直な幅方向に延びる吐出口を有するダイヘッドから液状剤を塗布するステップと、液状剤が塗布されたシート材に空気を吹き付けるステップと、を備えている。空気の吹きつけ方法については、上述したものを適用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シート材に液状剤を塗布した際、シート材上に発生する泡を確実に取り除くことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る塗工装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る塗工装置の概略構成を示す斜視図、図2は図1の側面図である。ここでは、固体高分子形燃料電池に用いる触媒層が一方面に形成されたフィルムを作製する場合を例にして説明する。
【0015】
図1及び図2に示すように、この塗工装置は、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルム(シート材)に対して液状の触媒層用材料(液状剤)を塗工する装置である。触媒用材料は、固体高分子形燃料電池として公知のものを用いる。これらの図では塗工装置の一部を示しており、フィルムFの進行方向を180℃変換する搬送ローラ1を備えている。すなわち、図2の左から右に向かって搬送されたフィルムFは、搬送ローラ1の下から上に向かって巻回された後、右から左に向かって搬送されていく。そして、搬送ローラ1の上方に、フィルムFへ液状剤を塗布するダイヘッド2が設けられている。また、図1に示すように、ダイヘッド2の近傍には、フィルムFに空気を吹き付ける空気供給具3(空気供給手段)が設けられている。
【0016】
ダイヘッド2は、フィルムFの幅方向に延びる直線状の吐出口21を有しており、この吐出口21がダイヘッド2の下端部に形成され、フィルムFと対向するように配置されている。これにより、吐出口21から吐出される触媒層用材料がフィルムFの幅方向に塗布されるようになっている。空気供給具3は、ダイヘッド2よりも下流側に配置され、フィルムFの幅方向に延びる管状部材31を備えている。この管状部材31は、フィルム幅とほぼ同じ長さに構成されており、一端が閉じられるとともに、他端から図示を省略するコンプレッサによって空気が注入されている。また、管状部材31の外周面には、フィルム側に向く複数の排出口が長手方向に沿って形成されている。より詳細には、図2に示すように、管状部材31は、フィルムFのやや上方に配置され、排出口がダイヘッド2の下端、つまり触媒層用材料が塗布される位置へ向くように形成されている。このとき排出口からの空気の排出方向Xと、フィルムFの搬送方向とがなす角αは、60度以下にすることが好ましく、45度以下にすることがさらに好ましい。また、吹き付けられる空気は、風速が3〜110m/秒であることが好ましく、風速が5〜20m/秒であることがさらに好ましい。
【0017】
次に、上記のように構成された塗工装置の動作について説明する。まず、フィルムFを搬送しつつ、ダイヘッド2から触媒層用材料を吐出し、フィルムF上に触媒層用材料を塗布していく。このとき、フィルムF上に塗布された触媒層用材料の表面には、泡が生じることがある。そこで、ダイヘッド2より下流側に配置された空気供給具3からは、フィルムFに向けて空気が吹き付けられる。この空気によって泡が潰され、触媒層用材料から泡を除去していく。その後、フィルムFは、乾燥炉(図示省略)を通過しながら乾燥された後、巻き取りローラ(図示省略)によって巻き取られていく。
【0018】
以上のように、本実施形態によれば、ダイヘッド2の下流側に空気を吹き付ける空気供給具3が設けられているため、フィルムF上に発生する泡に対して、空気を吹き付けることができる。そのため、触媒層用材料に発生する泡を確実に除去することができ、高品質の触媒層用材料を製造することができる。
【0019】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、空気供給具については、触媒層用材料に空気を吹き付けることができるのであれば、種々の構成が可能である。例えば、図3に示すように、管状部材31に、フィルムFの搬送方向とは反対側に延びる複数の枝管32を設け、ここから空気を排出するようにすることができる。各枝管32は、ダイヘッド2の下端に向けて延びており、これによって空気の吹きつけ方向を正確にコントロールすることができる。
【0020】
また、図4に示すように、フィルムFの幅方向の端部から空気を吹き付けることもできる。この例では、両端が開口した管状部材31を用いており、一端に図示を省略するコンプレッサが取り付けられ、他端から空気が吹き出すようになっている。管状部材31は、ダイヘッド2の搬送方向下流側でフィルムFとほぼ同じ高さに配置され、その他端が幅方向を向いている。すなわち、管状部材31の他端から排出された空気がフィルムFの幅方向に向かって吹き付けられるようになっている。このような配置であっても、塗布された触媒層用材料上に幅方向にわたって空気を吹き付けることができる。
【0021】
また、上記ダイヘッド及び空気供給具は、塗工装置上の種々の位置に配置することができる。例えば、図5に示すように、ダイヘッド2を、搬送ローラ1表面における上下方向の中間地点に配置し、触媒層用材料が水平方向に吐出されるようにすることもできる。この場合も上述したのと同様に、空気供給具3はダイヘッド2の上流側に配置される。また、ダイヘッド2及び空気供給具3の配設位置は特には限定されず、上述したような、搬送ローラ1によってフィルムFの搬送方向が変更されるような位置だけでなく、搬送されているフィルム上のいずれの位置にダイヘッド2及び空気供給具3を配置することができる。
【0022】
また、上記した例では、フィルムに触媒層用材料を塗布する場合を挙げているが、これに限定されるものではなく、本発明は、シート材に液状剤を塗布する塗工装置全般に適用することができる。シート材、液状材は特には限定されない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1として、以下の塗工装置、フィルム、及び触媒層用材料を用いた。ここで用いられる導電性材料は、触媒層用材料を擬似的に模したものである。
ダイヘッド
図1に示すようなダイヘッドを用いた。塗工幅120mm,吐出口の幅0.2mmである。
空気供給具
図1に示すように、内径4mmのチューブを用い、フィルムの幅方向端部から空気を吹き付けるようにした。
フィルム
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製)を用いた。
導電性材料
カーボンブラック1重量部(ライオン社製「ケッチェンブラック」) 、ポリビニルピロリドン樹脂(IPS社製)0.5重量部、及びイソプロピルアルコール12.5重量部を混合して作製した。粘度はせん断速度10[1/s]の時にせん断粘度0.1〜100[P]であった。また、この流体は、カルーモデルにあてはめた時、無限大粘度0.01〜0.1、n値0.1〜0.5、λ100〜200であった。
【0024】
そして、フィルムを0.5m/秒で搬送しつつ、ダイヘッドで導電性材料を塗工した。このとき、導電性材料は乾燥時に20.0g/mとなるように塗布した。そして、ダイヘッドの幅方向端部から約15Paの圧力で空気を吐出した。このときの風速は、7m/秒であった。導電性材料が塗布された後のフィルムは、100℃の乾燥炉で10分間乾燥した。
【0025】
(実施例2)
上記実施例を同一の塗工装置を用い、ダイヘッドの幅方向端部から風速22m/秒で空気を吐出した。また、フィルム、導電性材料も同様のものを用いた。
【0026】
(比較例1)
空気供給具を使用せず、その他の構成は上記実施例と同一の塗工装置を用いた。また、フィルム、導電性材料も同様のものを用いた。
【0027】
(比較例2)
空気供給具を使用せず、その他の構成は上記実施例と同一の塗工装置を用いた。また、フィルム、導電性材料も同様のものを用いた。但し、導電性材料は、作成後、デシケーターの中に入れ、デシケーター内部を真空ポンプで引き約10分真空状態して泡を取り除いた。
【0028】
以上の装置を用いた結果、実施例1では、フィルム上に泡が残っていなかった。また、実施例2では塗工面にわずかであるが風を当てた跡が付いたものの、泡は残っていなかった。しかし、比較例1、2では、フィルム上に泡が残っていた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る塗工装置の一実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1の塗工装置の側面図である。
【図3】図1の塗工装置の他の例を示す側面図である。
【図4】図1の塗工装置の他の例を示す平面図である。
【図5】図1の塗工装置の他の例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
2 ダイヘッド
21 吐出口
3 空気供給具(空気供給手段)
F フィルム(シート材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送中のシート材に液状剤を塗布する塗工装置であって、
シート材の搬送方向と垂直な幅方向に沿って形成された吐出口を有するダイヘッドと、
前記ダイヘッドを挟んで前記搬送方向の下流側に配置され、塗布された液状剤に空気を吹き付ける空気供給手段と、
を備えている塗工装置。
【請求項2】
前記空気供給手段は、前記ダイヘッドの吐出口の近傍で、前記幅方向に空気を吐出するように構成されている、請求項1に記載の塗工装置。
【請求項3】
前記空気供給手段は、シート材の搬送方向下流側から前記ダイヘッドの吐出口近傍へ向けて空気を吐出するように構成されている、請求項1に記載の塗工装置。
【請求項4】
前記空気供給手段における空気の吐出方向と、シート材とのなす角が60度以下である、請求項3に記載の塗工装置。
【請求項5】
前記空気供給手段から吐出される空気の風速が、3〜110m/秒である、請求項1から4に記載の塗工装置。
【請求項6】
前記空気供給手段から吐出される空気の風速が、5〜20m/秒である、請求項5に記載の塗工装置。
【請求項7】
所定の方向に搬送されるシート材に対し、当該搬送方向に垂直な幅方向に延びる吐出口を有するダイヘッドから液状剤を塗布するステップと、
液状剤が塗布されたシート材に空気を吹き付けるステップと、
を備えている塗工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−246465(P2008−246465A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95237(P2007−95237)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】