説明

塗布膜の乾燥方法および装置

【課題】連続走行する帯状可撓性支持体に各種液状組成物を塗布して形成した塗布膜面の乾燥において、乾燥ムラを抑制し、且つ効率良く乾燥する。
【解決手段】連続走行する帯状可撓性支持体12に塗布手段16で各種液状組成物を塗布した塗布直後の走行位置の塗布面側に、塗布液中の溶媒を凝縮、回収させるドライヤ18を配設し、該ドライヤ18の後の走行位置に通風乾燥手段を配設して、塗布膜を乾燥させるようにした。凝縮された溶媒を塗布面より上側で回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布膜の乾燥方法および装置に係り、特に、連続走行する帯状可撓性支持体に各種液状組成物を塗布して形成した長尺で広幅な塗布膜面を乾燥する乾燥方法および装置に関する。
【0002】
この技術は、光学補償シート等の光学的機能性フイルムシート、感光材料用のフイルムの溶剤下塗り、熱現像感光材料、ナノ粒子等の微細構造粒子を含む機能性フイルム、写真用フィルム、写真用印画紙、磁気記録テープ、接着テープ、感圧記録紙、オフセット版材、電池、等の製造、等に使用される。
【背景技術】
【0003】
連続走行する帯状可撓性支持体に各種液状組成物を塗布して形成した長尺で広幅な塗布膜面を乾燥する乾燥方法および装置については、非特許文献1に非塗布面側をロールで支持し、塗布面側にエア・ノズルから風を吹いて乾燥させる乾燥方法や、塗布面、非塗布面ともにエア・ノズルから風を吹いて、支持体を浮上させた状態、すなわち支持体がロール等に接触しないで乾燥させる非接触式のエア・フローティング乾燥方法について記されている。この非接触式の乾燥方法については、スペースを効率良く利用し、かつ効率良く乾燥させる方法として特許文献1に開示されているような弦巻き型の乾燥装置を用いた乾燥方法等がある。
【0004】
通常これらの風を吹かせて乾燥させる方法(以下、通風乾燥方法という)では、調湿した風を塗布面に吹きつけることにより、塗布面中に含まれる溶媒を蒸発させて乾燥させている。この通風乾燥方法は乾燥効率に優れるものの、塗布面に直接または多孔板、整流板等を介して風をあてるために、この風によって塗布面が乱れて塗布層の厚さが不均一となってムラを生じたり、対流によって塗布面での溶媒の蒸発速度が不均一になったりし、いわゆるユズ肌(非特許文献2参照) 等が発生して、均一な塗布層が得られないという問題があった。
【0005】
特に、塗布液中に有機溶剤を含む場合には、このようなムラの発生は顕著である。この理由は、乾燥初期には塗布膜中に有機溶剤が十分に含まれた状態であり、この段階で有機溶剤の蒸発分布が生じると、その結果、塗布膜面に温度分布、表面張力分布を生じ、塗布膜面内で、いわゆるマランゴニー対流等の流動が起きることによる。このようなムラの発生は重大な塗布欠陥となる。
【0006】
塗布膜内に液晶を含む場合には、上記の乾燥ムラのみならず、吹きつける風によって塗布膜面の液晶の配向にズレが生じる等の問題もあった。
【0007】
これらの問題点を解決する方法として、特許文献2に塗布直後に乾燥ドライヤを設ける構成が示されている。ここでは、乾燥ドライヤを分割し、分割された部分に支持体の幅方向の一方端側から他方端側へ風速を制御しながら送風し乾燥させることにより、ムラの発生を抑える方法が開示されている。特許文献3には、同様の目的で乾燥ドライヤを分割するかわりに金網を設置する方法が開示されている。
【0008】
また特許文献2には、塗布液を高濃度化したり、塗布液に増粘剤を添加したりすることにより、塗布液の粘度を増加させ、これにより塗布直後の塗布膜面の乾燥風による流動を抑制する方法や、高沸点溶液を用いることにより、塗布直後の塗膜面の乾燥風による流動が発生してもレベリング効果によってムラの発生を防止する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら特許文献2、特許文献3の方法では、乾燥ドライヤ外からの不均一な風の流入抑止には効果があるものの、塗布膜面を乱さないように風速を制御しようとすると、風速を大きく下げる必要がある。その結果、乾燥速度が大幅に低下し、それに対処するべく乾燥ドライヤの長さを長くする必要がある。そのため、塗布効率が悪くなる。また、それでも風の影響を完全になくすことは困難である。
【0010】
また、塗布液を増粘させたり、高沸点溶液を使用する方法は、特許文献2で述べられているように、高速塗布適性をなくしたり、乾燥時間の増大をもたらしたりし、生産効率が極端に悪くなるという問題があった。
【0011】
このように、通風乾燥方法、特に塗布液に有機溶剤を含む場合の通風乾燥方法では、乾燥の初期において塗布面の乾燥の不均一を招くため、風を吹きつけないで乾燥させる方法が、特許文献4、特許文献5、特許文献6等に開示されている。
【0012】
すなわち、特許文献4には、風を吹かないで、塗布液中の溶媒を蒸発させ回収し乾燥させる方法が開示されている。この方法は、ケーシング上部に支持体の入口、出口を設け、ケーシング内では非塗布面を加熱して塗布面からの溶媒の蒸発を促進し、塗布面側に設置した凝縮板に結露させる方法で溶媒を凝縮させて溶媒を回収し塗布膜を乾燥する方法である。
【0013】
また、特許文献5には、水平に走行する支持体の上部でドラムを使って溶媒を回収する方法が開示されている。さらに、特許文献6では、特許文献5のレイアウトの改良方法についての提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公昭48−42903号公報
【特許文献2】特開2001-170547号公報
【特許文献3】特開平9−73016号公報
【特許文献4】英国特許公開第1401041号明細書
【特許文献5】米国特許第5168639号明細書
【特許文献6】米国特許第5694701号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】E.B.Gutoff、E.D.Cohen 著の『Coating and Drying Defects』(Wiley-Intersciece, John Wiley & Sons, Inc)
【非特許文献2】尾崎勇次著、『コーティング工学』、pp293 〜294 、朝倉書店、1971年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、特許文献4では、支持体の入口、出口がケーシング上部に限定されているために、装置のレイアウトにおいて制約が大きく、既存の塗布工程に組み込むのが難しい。また、Fig.5 に示される実施例では、塗布後回収ドライヤに入るまでに一定以上の距離が必要なことや回収ドライヤに入る前にベースを反転する必要があるため、塗布直後のムラを効率良く抑えることが困難である。
【0017】
特許文献5では、塗布面から凝縮・溶剤回収ドラムまでの距離が塗布方向で変化することから、乾燥速度をケーシング内の全領域に亘って均一にコントロールすることが難しく、またケーシング入口、出口付近では塗布面と凝縮・冷却ドラムとの距離が不必要に離れてしまうため、自然対流の発生によって別の塗布ムラを生じてしまう。
【0018】
特許文献5のレイアウトの改良方法では、塗布装置から凝縮・溶剤回収装置までの距離を接近させる構成を採ることが困難であり、塗布ムラ対策には不十分であった。
【0019】
また、上記従来の溶剤の凝縮・回収方法においては、凝縮・回収装置における凝縮器、加熱装置等の設置位置、設定温度等を一定とし、装置内で均一に蒸発・回収させようとする。そのため、装置内での全域にわたって同一の乾燥速度に設定するには便利であるが、乾燥の初期、中期、後期の各段階で最適な条件を選んで乾燥させることが出来ない。すなわち、塗布ムラ抑制のための最適条件のコントロール、細かな乾燥膜質とする制御、等が困難であり、また、工程全体に亘り乾燥を効率化することが困難であった。
【0020】
たとえば、乾燥速度を大きくするには、装置の凝縮面と塗布膜との距離を小さくする必要があるが、設定した距離精度の影響を受けやすい。また、距離精度を向上させた場合、一般的に装置の製造コストが飛躍的に高くなり、望ましくない。
【0021】
また、乾燥初期のみ早く均一に乾燥させたい場合に、従来の方法では、凝縮・回収ゾーン全長にわたって、装置の凝縮面と塗布膜との距離を小さくするようにしていたため、装置全体での寸法精度を上げる必要があり、相当なコストの上昇となっていた。
【0022】
一方、乾燥初期の乾燥速度を低く抑える場合には、凝縮・回収ゾーン全体の乾燥効率を下げる必要がある。この場合、凝縮・回収ゾーン全長を長くしなければならないという問題があった。
【0023】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、連続走行する帯状可撓性支持体に各種液状組成物を塗布して形成した長尺で広幅な塗布膜面において、塗布直後に発生する乾燥ムラを抑制し、かつ効率良く乾燥させる塗布膜の乾燥方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、前記目的を達成するために、走行する帯状可撓性支持体に塗布液を塗布手段により塗布し、塗布直後の走行位置に塗布液中の溶媒を凝縮、回収させるドライヤを配設する塗布膜の乾燥方法において、前記ドライヤには前記帯状可撓性支持体と所定距離をおいて略平行に複数の板状部材である凝縮板を配設するとともに、該凝縮板と帯状可撓性支持体との距離を帯状可撓性支持体の走行方向で下流側が該帯状可撓性支持体の塗布膜から離れるよう階段状に変化させることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、連続走行する帯状可撓性支持体に各種液状組成物を塗布して形成した長尺で広幅な塗布膜面を乾燥させる方法において、塗布手段の直後に塗布液の溶媒を凝縮・回収するドライヤを配設し、かつ、そのドライヤには帯状可撓性支持体と所定距離をおいて略平行に板状部材である凝縮板を配設するとともに、凝縮板と帯状可撓性支持体との距離を帯状可撓性支持体の走行方向で下流側が該帯状可撓性支持体の塗布膜から離れるよう階段状に変化させることにより、塗布直後に発生しやすい乾燥ムラを抑制し、かつ効率良く乾燥させることができる。
【0026】
特に、塗布液中に有機溶剤が含まれている場合、または、塗布液の溶媒が全て有機溶剤で構成されている場合に効果が大きい。
【0027】
また、本発明は、前記塗布液には有機溶剤を3質量%以上含有することを特徴とする。この場合にも本発明を適用することにより、塗布直後に発生する乾燥ムラを抑制し、かつ効率良く乾燥させることができる。
【0028】
なお、有機溶剤とは、物質を溶解する性質をもつ有機化合物を意味し、トルエン、キシレン、スチレン等の芳香族炭化水素類、クロルベンゼン、オルトージクロルベンゼン等の塩化芳香族炭化水素類、モノクロルメタン等のメタン誘導体、モノクロルエタン等のエタン誘導体等を含む塩化脂肪族炭化水素類、メタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、エチルエーテル、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、ノルマルヘキサン等の脂肪族炭化水素類、脂肪族または芳香族炭化水素の混合物等が該当する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の塗布膜の乾燥方法および装置によれば、連続走行する帯状可撓性支持体に各種液状組成物を塗布して形成した長尺で広幅な塗布膜面において、塗布直後に発生する乾燥ムラを抑制しかつ効率よく均一に塗布膜を乾燥できる。
【0030】
また、塗布、乾燥工程のレイアウトを大きく変更することなく、さらに、塗布液の物性や溶媒の種類等に制約されないので、塗布液処方手段の柔軟な設計が可能である。また、省エネルギー化、コストダウンにも効果がある。
【0031】
さらに、塗布膜内の流動を防止でき、また、乾燥中に形成される塗布膜中の高分子、粒子のネットワークの構造を非常に細かく、しかも均一に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10の一例を示す概念図
【図2】本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10の他の例を示す概念図
【図3】本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10のさらに他の例を示す概念図
【図4】本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10のさらに他の例を示す概念図
【図5】本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10のさらに他の例を示す概念図
【図6】本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10のさらに他の例を示す概念図
【図7】本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10のさらに他の例を示す概念図
【図8】本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10のさらに他の例を示す概念図
【図9】本発明の塗布膜の乾燥装置を光学補償シートの製造ラインに適用した例を示す概念図
【図10】本発明の塗布膜の乾燥装置を感光用セルロースアセテートフィルムの製造ラインに適用した例を示す概念図
【図11】従来例である通風乾燥タイプの乾燥器を感光用セルロースアセテートフィルムの製造ラインに適用した例を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面に従って本発明に係る塗布膜の乾燥方法および装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0034】
図1〜8は、本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10の各例をそれぞれ示す概念図である。
【0035】
図示されるように、塗布・乾燥ライン10は、主として、ロール状に巻回された帯状可撓性支持体12を送り出す送り出し装置(図示略)、帯状可撓性支持体12に塗布液を塗布する塗布手段16、帯状可撓性支持体12に塗布形成された塗布膜の塗布液中の溶媒を凝縮、回収させるドライヤ18からなる乾燥装置、および塗布・乾燥により製造された製品を巻き取る巻き取り装置(図示略)と、帯状可撓性支持体12が走行する搬送経路を形成する多数のガイドローラ22、22…とで形成される。
【0036】
帯状可撓性支持体12としては、ポリエチレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセテート)等の樹脂フィルム、紙、金属箔等を使用できる。
【0037】
塗布手段16は、各種方式のものが使用できる。たとえば、スロット・ダイコータ(図1、図5、図7参照)、ワイヤーバーコータ(図2、図4、図8参照)、ロールコータ、グラビアコータ(図6参照)、スライドホッパ塗布方式(図3参照)、カーテン塗布方式、等が使用できる。
【0038】
なお、塗布手段16は、図1、図3、図5、図7に示されるように塗布面が水平方向に対して上側になるような構成であってもよいし、図2、図4、図6、図8に示されるように水平方向に対して下側になるような構成であってもよい。また、水平方向に対して傾斜するような構成であってもよい。
【0039】
図9に示されているように、塗布手段16の前段に除塵設備70を設置したり、帯状可撓性支持体12の表面に前処理等を施してもよい。ゴミ等の殆どない高い品質が求められる光学性フイルム等では、これらを同時に採用することで、高品質な塗布、乾燥膜を得ることができる。
【0040】
ドライヤ18は、帯状可撓性支持体12と所定距離をおいて略平行に設けられる板状部材である凝縮板20と、凝縮板20の前後辺から下方に垂設される側面板等とで構成される。これにより、塗布膜の塗布液中の溶媒が揮発した際に、揮発した溶媒が凝縮板20に凝縮し回収される構成となっている。
【0041】
凝縮板20の溶媒を凝縮させる面に用いる材質は、金属、プラスチック、木材等、特に限定はされないが、塗布液中に有機溶剤が含まれる場合には、その有機溶剤に対して耐性のある材料を使用するか、または表面にコーティングを施すことが望ましい。
【0042】
ドライヤ18において、凝縮板30に凝縮した溶媒を回収させる手段は、たとえば、凝縮板30の凝縮面に溝を設け、毛管力を利用して溶媒を回収させる。溝の方向は、帯状可撓性支持体12の走行方向であってもよく、これに直交する方向であってもよい。凝縮板30が傾斜している場合には、溶媒を回収させやすい方向に溝を設ければよい。
【0043】
図10に示される例において、凝縮板20右端の下方には凝縮した溶媒を回収するための樋20aが設けられており、樋20aを経て溶媒が回収される。
【0044】
ドライヤ18に板状部材である凝縮板20を採用する構成以外に、同様な機能を奏する構成、たとえば、多孔板、網、簀の子、ロール等を使用する構成も採用できる。また、US5694701に示されるような回収装置と併用してもよい。
【0045】
ドライヤ18には、帯状可撓性支持体12と所定距離をおいて略平行に板状部材である凝縮板20が配設されており、凝縮板20と帯状可撓性支持体12との距離を帯状可撓性支持体の走行方向で変化できる構成となっている。
【0046】
凝縮板20と帯状可撓性支持体12との距離を帯状可撓性支持体の走行方向で変化させる構成としては、図1、図2に示されるように、複数の凝縮板20、20、20を配設するとともに、凝縮板20と帯状可撓性支持体12との距離を階段状に変化させる構成であっても、凝縮板20を帯状可撓性支持体12の走行方向に向かって所定角度傾斜させ、凝縮板20と帯状可撓性支持体12との距離を帯状可撓性支持体12の走行方向でテーパ状に変化させる構成(図示略)であってもよい。この場合、凝縮板20を帯状可撓性支持体12の走行方向に向かって傾斜させる角度は、水平に対し30度以下が好ましく、20度以下がより好ましい。
【0047】
また、上記と同様の効果を奏すべく、ドライヤ18には帯状可撓性支持体12の走行方向に沿って複数の凝縮板20、20、20を配設するとともに、凝縮板20、20同士を離して配設する構成、または、図7に示されるように、凝縮板20、20同士の間に仕切り板28、28、28を配設する構成、さらには、複数の箱状のドライヤ18、18、18にそれぞれ凝縮板20、20、20を設け、箱状のドライヤ18、18同士を密着させる構成、または、ドライヤ18、18同士を離して配する構成のいずれも採り得る。
【0048】
ドライヤ18および凝縮板20は、必ずしも図1、図2等に示されるような直線状である必要はなく、たとえば、図5、図7に示されるような円弧状のドライヤ18および凝縮板20であってもよい。また、大きなドラムを設け、それ凝縮板を配設してもよい。
【0049】
なお、図5、図7に示される例では、円弧状のドライヤ18および凝縮板20を塗布手段16に近づけて溶媒の回収効率の向上を図っている。
【0050】
ドライヤ18は、塗布液を塗布した直後の自然対流の発生による塗布膜の乾燥ムラを防止するため、塗布手段16のできるだけ近くに配設することが好ましい。具体的には、ドライヤ18の入口が塗布手段16から5m以内の位置になるように配設することが好ましく、ドライヤ18の入口が塗布手段16から2m以内の位置になるように配設することがより好ましく、ドライヤ18の入口が塗布手段16から0.7m以内の位置になるように配設することが最も好ましい。
【0051】
同様の理由で、帯状可撓性支持体12の走行速度は、帯状可撓性支持体12が塗布手段16による塗布後30秒以内にドライヤ18に到達する速度であることが好ましく、帯状可撓性支持体12が塗布手段16による塗布後20秒以内にドライヤ18に到達する速度であることがより好ましい。
【0052】
塗布液の塗布量および塗布膜厚さは、大きい程塗布膜内部での流動が起きやすいことよりムラが発生しやすいが、本発明によれば、塗布量および塗布膜厚さが大きい場合でも十分な効果が得られる。塗布膜の厚さが0.001〜0.08mmであれば、ムラなくかつ効率よく乾燥することができる。
【0053】
帯状可撓性支持体12の走行速度が大きすぎると、同伴風によって塗布膜近傍の境界層が乱され、塗布膜に悪影響を及ぼす。したがって、帯状可撓性支持体12の走行速度は1〜100m/分に設定することが好ましく、5〜80m/分に設定することがより好ましい。
【0054】
塗布液中の溶媒の蒸発、凝縮を促進させるため、帯状可撓性支持体12および/または塗布膜を加熱するか、凝縮板20を冷却するか、またはその両手段を採用することが好ましい。たとえば、ドライヤに冷却手段(図示略)を配し、また、帯状可撓性支持体12を挟んでドライヤ18の反対側に加熱手段24、24を配する(図4、図6、図8参照)。
【0055】
いずれの場合も、塗布膜の乾燥速度を制御するために、温度管理されていることが望ましい。凝縮板20は、温度コントロールできるようにし、冷却したい場合には、冷却するための設備を設置する必要がある。冷却には、冷媒等を使った水冷式の熱交換器方式のもの、風を使った空冷式、電気を用いた方式、たとえばペルチェ素子を使用した方式、等を用いることができる。
【0056】
帯状可撓性支持体12もしくは塗布膜、またはその両方を加熱したい場合には、反塗布膜側にヒータを配設して加熱することができる。また、昇温可能な搬送ロール(加熱ロール)を配設して加熱することもできる。その他、赤外線ヒータ、マイクロ波加熱手段等を用いて加熱してもよい。
【0057】
帯状可撓性支持体12、塗布膜、凝縮板20の温度を決定する際、注意しなければならないのは、蒸発させた溶媒が凝縮板20以外の場所、たとえば、搬送ロールの表面等に結露しないようにしなければならないことである。このため、たとえば、凝縮板20以外の部分の温度を凝縮板20の温度よりも高くしておくことによりこの種の結露を回避することができる。
【0058】
塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離(間隔)は、所望の塗布膜の乾燥速度を考慮した上で、適当な距離に調整する必要がある。距離を短くすると乾燥速度が上がる一方、設定した距離精度の影響を受けやすい。一方、距離を大きくすると乾燥速度が大幅に低下するのみならず、熱による自然対流が起きて乾燥ムラを引き起こす。塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離は、0.1〜200mmが好ましく、0.5〜100mmがより好ましい。
【0059】
また、加熱手段24、24の設定温度を帯状可撓性支持体12の走行方向で変化させる構成も採り得る。たとえば、図4、図6等において、帯状可撓性支持体12の走行方向で上流側の加熱手段24の設定温度を下流側の加熱手段24の設定温度より低くする。このように設定することにより、乾燥ムラをさらに抑制することもできる。
【0060】
同様に、ドライヤ18の冷却手段の設定温度を帯状可撓性支持体の走行方向で変化させる構成も採り得る。図4、図6等において、帯状可撓性支持体12の走行方向で上流側のドライヤ18の冷却手段の設定温度を下流側の冷却手段の設定温度と異ならせる。なお、図4、図6の構成では、複数の凝縮板20、20、20を配設するとともに、凝縮板20と帯状可撓性支持体12との距離を階段状に変化させる構成と組み合わされている。
【0061】
その他、加熱手段24、24の設定温度を階段状に変化させる構成、ドライヤ18の冷却手段の設定温度を階段状に変化させる構成、または、これらを組み合わせた構成等、各種の態様が採り得る。
【0062】
なお、本発明の塗布膜の乾燥方法および装置が適用される乾燥装置を組み込んだ塗布・乾燥ライン10に使用されている送り出し装置、ガイドローラ22、巻き取り装置等には慣用の部材を使用しており、それらの説明は省略する。
【0063】
以上に詳述した本発明の塗布膜の乾燥装置によれば、塗布直後の塗布膜に発生するムラを抑制しかつ効率よく均一に塗布膜を乾燥できる。また、塗布、乾燥工程のレイアウトを大きく変更することなく、さらに、塗布液の物性や溶媒の種類等に制約されないので、塗布液処方手段の柔軟な設計が可能である。
【0064】
すなわち、たとえば既存の通風乾燥装置を含む塗布・乾燥装置の塗布部と通風乾燥装置との間に溶媒を凝縮・回収するドライヤを増設するだけで、本発明の装置と同様の形態とでき、その結果、低コストで装置改造ができる。
【0065】
また、本発明の塗布膜の乾燥装置によれば、省エネルギー化、コストダウンにも効果がある。すなわち、塗布・乾燥ラインで発生する蒸発気体のうち 水以外の溶媒はそのまま大気へ放出できないので、蒸発気体を液化して回収する必要があり、そのための溶剤ガス回収設備が必要である。ところが、塗布・乾燥ライン10では、塗布液の一部を凝縮・回収するドライヤにより溶媒を液体の状態で直接回収できるため、溶剤ガス回収設備の負荷を減らすことができる。
【0066】
本発明の塗布膜の乾燥装置を通風乾燥装置と併用した場合には、風を吹くための送風設備を大幅に削減できる。そのため、空調設備費等のコストも大幅に削減できる、また、設備を非常にコンパクトにできる。
【0067】
また、本発明の塗布膜の乾燥装置を用いると、乾燥初期において非常に均一な乾燥が可能なため、次のような予期しなかった効果が得られることがわかった。すなわち、従来の通風乾燥装置では、塗布膜を乱す影響を完全には抑えられないため、塗布膜内に流動を生じていたが、本発明の装置を用いると、それらの流動を防止でき、また、乾燥中に形成される塗布膜中の高分子、粒子のネットワークの構造を非常に細かく、しかも均一に形成できることがわかった。
【0068】
これにより、単に塗布膜を均一に乾燥させるだけのみならず、塗布膜の構造が細かくなることにより、たとえば、光学フイルムの場合、新たな付加機能を追加できることにもつながる。
【0069】
また、本発明の塗布膜の乾燥装置は、たとえば、ナノ粒子等が含まれる機能性膜の乾燥等にも非常に適しているといえる。
【0070】
本発明の塗布膜の乾燥装置は、塗布液に高分子や粒子等の固形分が溶解または分散されたものに適用した場合でも、同様の効果が得られる。むしろ、粒子等が含まれる系では、乾燥ムラの発生が塗布膜中の粒子の分散分布にも大きく影響する。したがって、この系に本システムを使用することは好ましい。
【0071】
[実施例]
[実施例1]
図9に示される光学補償シートの製造ラインにおける塗布層の乾燥工程に、塗布液中の溶媒を凝縮、回収させるドライヤ18を配設して、光学補償シートを製造する上での好適なドライヤの構造および溶媒の凝縮、回収条件を検討した。
【0072】
図9に示されるように、光学補償シートの製造ラインは、たとえば下記の工程により行われる。
1)透明フィルム12の送出工程50;
2)透明フィルムの表面に配向膜形成用樹脂を含む塗布液を塗布、乾燥する配向膜形成用樹脂層の形成工程52;
3)表面に配向膜形成用樹層が形成された透明フィルム上に、樹脂層の表面にラビング処理を施し透明フィルム上に配向膜を形成するラビング工程54;
4)液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液を、配向膜上に塗布する液晶性ディスコティック化合物の塗布工程16;
5)該塗布膜を乾燥して該塗布膜中の溶媒を蒸発させる乾燥工程18;
6)該塗布膜をディスコティックネマティック相形成温度に加熱して、ディスコティックネマティック相の液晶層を形成する液晶層形成工程58;
7)該液晶層を固化する(すなわち、液晶層形成後急冷して固化させるか、または、架橋性官能基を有する液晶性ディスコティック化合物を使用した場合、液晶層を光照射(または加熱)により架橋させる)工程60;
8)該配向膜および液晶層が形成された透明フィルムを巻き取る巻取り工程24。
【0073】
なお、図9において、62は乾燥ゾーンを、64は検査装置を、66は保護フィルムを、68はラミネート機を、70は徐塵設備をそれぞれ示す。
【0074】
光学補償シートの製造方法は、図3に示されるように長尺状透明フィルムを送り出す工程から、得られた光学補償シートを巻き取る工程まで一貫して連続的に行なった。トリアセチルセルロース(フジタック、富士写真フィルム(株)製、厚さ:100μm、幅:500mm)の長尺状のフィルムの一方の側に、長鎖アルキル変成ポバール(MP−203、クラレ(株)製)5重量%溶液を塗布し、90℃で4分間乾燥させた後、ラビング処理を行って膜厚2.0μmの配向膜形成用樹脂層を形成した。フィルムの搬送速度は、20m/分であった。
【0075】
上記トリアセチルセルロースフィルムは、フィルム面内の直交する二方向の屈折率をnx、ny、厚さ方向の屈折率をnz、そしてフィルムの厚さをdとしたとき、(nx−ny)×d=16nm、{(nx−ny)/2−nz}×d=75nmであった。また、上記配向膜形成用樹脂層の形成は、塗布・乾燥装置を用いて行なった。
【0076】
続いて、得られた樹脂層を有するフィルムを、連続して20m/分で搬送しながら、樹脂層表面にラビング処理を施した。ラビング処理は、ラビングローラの回転数を300rpmにて行い、次いで得られた配向膜の除塵を行った。
【0077】
次いで、得られた配向膜を有するフィルムを、連続して20m/分の速度で搬送しながら、配向膜上に、ディスコティック化合物TE−8の(3)とTE−8の(5)の重量比で4:1の混合物に、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)を上記混合物に対して1重量%添加した混合物の10重量%メチルエチルケトン溶液(塗布液)を、ワイヤーバー塗布機にて、塗布速度を20m/分、塗布量を5cc/m2で塗布し、次いで乾燥および加熱ゾーンを通過させた。乾燥ゾーンには風を送り、加熱ゾーンは130℃に調整した。塗布後3秒後に乾燥ゾーンに入り、3秒後に加熱ゾーンに入った。加熱ゾーンは約3分で通過した。
【0078】
続いて、この配向膜および液晶層が塗布されフィルムを、連続して20m/分で搬送しながら、液晶層の表面に紫外線ランプにより紫外線を照射した。すなわち、上記加熱ゾーンを通過したフィルムは、紫外線照射装置(紫外線ランプ:出力160W/cm、発光長1.6m)により、照度600mWの紫外線を4秒間照射し、液晶層を架橋させた。
【0079】
上記の工程により、6種類の条件で試験を行った。以下に、その条件および結果を記す。
【0080】
(試験1)
ヒータ温度を85℃、凝縮板温度を25℃とした。ドライヤ18は、入口が塗布手段16から500mmの位置となるように配した。塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離は3mmとした。
【0081】
その結果、塗布膜を完全に乾燥させるのに6mの走行距離を要した。塗布膜品質に問題は生じなかった。
【0082】
(試験2)
ヒータ温度を85℃、凝縮板温度を25℃とした。ドライヤ18は、入口が塗布手段16から500mmの位置となるように配した。塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離は0.5mmとした。
【0083】
その結果、塗布膜を乾燥させるのに1mの走行距離を要した。塗布膜には幅方向に乾燥ムラを生じ、また、配向不良も発生した。
【0084】
(試験3)
ヒータ温度を85℃、凝縮板温度を25℃とした。ドライヤ18は、入口が塗布手段16から500mmの位置となるように配した。凝縮板20は3個のゾーンに分割した。また、3個の凝縮板20は、いずれも走行方向の下流側が塗布膜から離れるような5度の傾斜角度をもって配した。塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離は、3個の凝縮板20の走行方向の下流側に向かって、それぞれ、3mm、1.5mm、0.5mmとした。
【0085】
その結果、塗布膜を完全に乾燥させるのに1.8mの走行距離を要した。塗布膜品質に問題は生じなかった。すなわち、この条件では、工程長さの短縮と良好な塗布膜品質の両立が可能であった。
【0086】
(試験4)
ヒータ温度を60℃、凝縮板温度を25℃とした。ドライヤ18は、入口が塗布手段16から500mmの位置となるように配した。塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離は1mmとした。
【0087】
その結果、塗布膜を完全に乾燥させるのに5mの走行距離を要した。塗布膜品質に問題は生じなかった。
【0088】
(試験5)
ヒータ温度を60℃、凝縮板温度を15℃とした。ドライヤ18は、入口が塗布手段16から500mmの位置となるように配した。塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離は1mmとした。
【0089】
その結果、塗布膜を完全に乾燥させるのに2mの走行距離を要した。塗布膜には幅方向に乾燥ムラを生じ、また、配向不良も発生した。
【0090】
(試験6)
ヒータ温度を60℃とした。ドライヤ18は、入口が塗布手段16から500mmの位置となるように配した。凝縮板20は3個のゾーンに分割した。また、3個の凝縮板20の凝縮板温度は、走行方向の下流側に向かって、それぞれ25℃、20℃、15℃とした。塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離は1mmとした。
【0091】
その結果、塗布膜を完全に乾燥させるのに0.8mの走行距離を要した。塗布膜品質に問題は生じなかった。すなわち、この条件では、工程長さの短縮と良好な塗布膜品質の両立が可能であった。
【0092】
[実施例2]
感光用セルロースアセテートフィルムの製造ラインにおける下塗り塗布後の乾燥工程において、本発明における塗布液中の溶媒を凝縮、回収させるドライヤを配設した場合と、従来の通風乾燥タイプの乾燥器を配設した場合とを比較した。
【0093】
図10に示される、本発明におけるドライヤを使用した製造ラインにおいて、セルロースアセテートドープが流延ダイから流延ドラム面上に流延され、それによって形成されたフィルムが剥ぎ取りローラで剥ぎ取られ、前乾燥工程のロール間を走行する間に熱風により乾燥される。
【0094】
次いで、写真感光材料用下塗りを行い、さらにドライヤ18で乾燥させる。残留溶媒が約10%以下となった時点で、幅規制装置(図示略)に導き幅方向に2〜6%延伸させ、さらに緊張状態のまま冷却した後に巻き取られる。
【0095】
ドライヤ18の凝縮板20は2個のゾーンに分割した。また、2個の凝縮板20は、いずれも走行方向の下流側が塗布膜から離れるような傾斜角度をもって配した。塗布膜の表面とドライヤ18の凝縮板20表面との距離は、走行方向の下流側に向かって、上流側の凝縮板20の入口側で0.8mm、出口側で2mmとし、下流側の凝縮板20の入口側で0.8mm、出口側で2mmとした。
【0096】
また、上流側の凝縮板20の長さを2m、下流側の凝縮板20の長さを4mとした。凝縮板20の設定温度は、いずれも15℃とした。
【0097】
製造した製品の表面性状は良好であった。
【0098】
図11に示される、従来の通風乾燥タイプの乾燥器を使用した製造ラインにおいて、下塗り塗布乾燥工程の装置は、通常の通風乾燥タイプの乾燥器である。製造ラインのその他の部分は図10に示される構成同様であり、説明を省略する。
【0099】
製造した製品の表面性状は、下塗りでの乾燥ムラを生じ不良となった。
【0100】
[実施例3]
熱現像感光材料の製造ラインの乾燥工程に、凝縮・回収するドライヤ(前段側)と通風乾燥手段(後段側)とを組み合わせた乾燥手段を配設した場合の実施例と、従来の通風乾燥タイプの乾燥手段のみを配設した場合の比較例とを対比した。
【0101】
帯状可撓性支持体に塗布する熱現像感光材料用の塗布液は次のように調製した。
【0102】
1)ハロゲン化銀粒子の調製
水700mリットルにフタル化ゼラチン22gおよび臭化カリウム30mgを溶解して温度35℃にてPHを5に調整した後、硝酸銀18.6gを含む水溶液159mリットルと臭化カリウムと沃化カリウムとを92:8のモル比で含む水溶液をpAg7.7に保ちながらコントロールダブルジェット法で10分間かけて添加した。ついで、硝酸銀55.4gを含む水溶液476mリットルと六塩化イリジウム酸第二カリウムを10.5μモル/リットルと、臭化カリウムを1モル/リットルで含む水溶液pAg7.7に保ちながらコントロールダブルジェット法で30分間かけて添加した。その後、PHを下げて凝集沈降させ脱塩処理をし、フェノキシエタノール0.11gを加え、PH5.9,pAg8.2に調整し、沃臭化銀粒子(沃素含量コア8モル%、平均2モル%、平均サイズ0.05μm、投影面積変動係数8%、(100)面比率90%の立方体粒子)を調製した。
【0103】
こうして得たハロゲン化銀粒子を60℃に昇温して銀1モル当たりチオ硫酸ナトリウム85μモルと、2,3,4,5,6 ペンタフルオロフェニルジフェニルフォスフィンセレニドを11μモル、15μモルのテルル化合物、塩化金酸3.6μモル、チオシアン酸280μモルを添加し、120分間熟成した後、30℃に急冷してハロゲン化銀乳剤を得た。
【0104】
2)有機酸銀乳剤の調製
ステアリン酸1.3g、アラキジン酸0.5g、ベヘン酸8.5g、蒸留水300mリットルを、90℃で40分間混合し、激しく攪拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液31.1mリットルを15分かけて添加した後、30℃に昇温した。次に、1Nのリン酸水溶液7mリットルを添加し、より激しく攪拌しながらN−ブロモスクシンイミド0.012gを添加した後、あらかじめ調製したハロゲン化銀粒子をハロゲン化銀量が2.5mモルになるように添加した。さらに、1Nの硝酸銀水溶液25mリットルを25分かけて添加し、そのまま90分間攪拌し続けた。その後、吸引ろ過で固形分をろ別し、固形分をろ過水の伝導度が30μS・cmになるまで水洗いした。こうして得られた固形分にポリ酢酸ビニルの1.2重量%の酢酸ブチル溶液37gを加えて攪拌し、攪拌を止めて放置し、油層と水層に分離させ、含まれる塩とともに水層を除去し、油層を得た。次に、この油層にポリビニルブチラールの2.5重量%2−ブタノン溶液20gを添加し攪拌した。さらに、過臭化ピリジニウム0.1mモルと、臭化カルシウム二水和物0.18mモルを0.7gメタノールとともに添加した後、2−ブタノン40gとポリビニルチラールの7.8gを添加し、ホモジナイザで分散し、有機酸銀塩乳剤(平均短径0.04μm、平均長径1μm、変動係数30%の針状粒子)を得た。
【0105】
3)乳剤層塗布液の調製
上記で得た有機酸銀塩に銀1モル当たり以下の量になるように各薬品を添加した。25℃でフェニルチオスルホン酸ナトリウム10mg、68mgの色素1、30mgの色素2、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール2g、4−クロロベンゾフェノン−2−カルボン酸21.5gと、2−ブタノン580g、ジメチルホルムアミド220gを攪拌しながら添加し、3時間放置した。ついで、5−トリブロモメチルスルフォニル−2−メチルチアジアゾール8g、2−トリブロモメチルスルフォニルベンゾチアゾール6g、4,6−ジトリクロロメチル−2−フェニルトリアジン5g、ジスルフィド化合物2g、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,5,5トリメチルヘキサン160g、テトラクロロフタル酸5g、1.1gのフッ素系界面活性剤、2−ブタノン590g、メチルイソブチルケトン10gを攪拌しながら添加した。
【0106】
上記の如く調製した乳剤層塗布液を青色染料で色味付けした175μmのポリエチレンテレフタレート支持体(帯状可撓性支持体)に、銀が2.3g/cm2 になるように塗布した。そして、塗布後、実施例の場合には凝縮・回収するドライヤ(前段側)と通風乾燥手段(後段側)とで乾燥させた後、紫外線照射して熱現像感光材料を得た。一方、比較例の場合には塗布膜を通風乾燥タイプの乾燥器のみで乾燥した後、紫外線照射して熱現像感光材料を得た。
【0107】
実施例の方法で製造した製品の表面性状は良好であった。一方、比較例の方法で製造した製品の表面性状は、風ムラの影響を受け不良となった。
【0108】
[実施例4]
ハードコートフィルムの製造ラインの乾燥工程に、凝縮・回収するドライヤ(前段側)と通風乾燥手段(後段側)とを組み合わせた乾燥手段を配設した場合の実施例と、従来の通風乾燥タイプの乾燥手段のみを配設した場合の比較例とを対比した。
【0109】
帯状可撓性支持体に塗布するハードコート塗布液は次のように調製した。
1)無機粒子分散液(M−1)の調製
セラミックコートがなされた容器に、以下の各試薬を以下の配合量で配合して混合液を調製した。
【0110】
・シクロヘキサン…337g
・リン酸基含有メタアクリレート(PM−2:日本化薬製)…31g
・アルミナ(AKP−G015:住友化学工業製、粒径15nm)…92g
得られた混合液をサンドミル(1/4Gのサンドミル)にて1600rpm、10時間微細分散した。メディアとしては1mmφのジルコニアビーズを1400g用いた。分散後、ジルコニアビーズを分離し、表面修飾した無機粒子分散液(M−1)を得た。
【0111】
2)活性エネルギー線硬化層用塗布液の調製
表面処理したアルミナ微粒子の43重量%シクロヘキサン分散液(M−1)116gに、メタノール97g、イソプロパノール163g、およびメチルイソブチルケトン163gを加えた。この混合液にジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物(DPHA、日本化薬製)200gを加えて溶解した。さらに、光重合開始剤(イルガキュア184、チバガイギー社製)7.5gを加えて溶解した。この混合物を30分間攪拌した後、孔径1μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して活性エネルギー線硬化層用塗布液を調製した。
【0112】
3)帯状可撓性支持体(基材フィルム)をグロー放電処理した後、アルミナを含有した活性エネルギー線硬化層用塗布液が乾燥膜厚が8μmになるようにワイヤーバー塗布手段により塗布した。そして、塗布後、実施例の場合には凝縮・回収するドライヤ(前段側)と通風乾燥手段(後段側)とで乾燥させた後、紫外線照射して硬化層を得た。一方、比較例の場合には塗布膜を通風乾燥タイプの乾燥器のみで乾燥した後、紫外線照射して硬化層を得た。
【0113】
次に、厚膜ハードコートフィルムの製造ラインの乾燥工程に、凝縮・回収するドライヤ(前段側)と通風乾燥手段(後段側)とを組み合わせた乾燥手段を配設した場合の実施例と、従来の通風乾燥タイプの乾燥手段のみを配設した場合の比較例とを対比した。
【0114】
帯状可撓性支持体に塗布する厚膜ハードコート塗布液は次のように調製した。
【0115】
1)開環重合性基含有化合物(K−1)の調製
メチルエチルケトン(MEK)275mリットルを窒素気流下で、60℃で1時間攪拌した後、重合開始剤(V−65:和光純薬製)0.5gをMEK8.3mリットルに溶解したものを全量添加した重合開始剤添加溶液を調製した。その後、グリシジルメタクリレート50gを2時間かけて滴下し、滴下終了後、調製しておいた重合開始剤添加溶液を添加し、2時間反応させた。その後、反応温度を80℃として2時間反応させ、反応終了後、室温まで冷却させた。得られた反応溶液をヘキサン10リットルに、1時間かけて滴下し、沈殿物を35℃、8時間減圧乾燥して開環重合性基含有化合物(K−1)を得た。
【0116】
2)硬化性組成物の調製
トリメチロールプロパントリアクリレート(エチレン性不飽和基含有化合物)75部と、前記調製した開環重合性基含有化合物(K−1)25部と、ラジカル重合開始剤(イルガキュア184、チバガイギー社製)と、カチオン重合開始剤(UVI−6990:ユニオンカーバイド日本社製)を、メチルイソブチルケトン/メチルエチルケトン(1/5)混合溶液40部に溶解後、30分攪拌し、硬化性組成物を得た。なお、重合開始剤は、エチレン性不飽和基含有化合物と開環重合性基含有化合物との総質量に対し、ラジカル重合開始剤と、カチオン重合開始剤とを2.9重量%ずつ添加した。
【0117】
3)透明な帯状可撓性支持体(透明基材フィルム)として、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルムをグロー放電処理した後、上記調製した硬化性組成物をエクストルージョン型の塗布方法により塗布した。そして、塗布後、実施例の場合には凝縮・回収するドライヤ(前段側)と通風乾燥手段(後段側)とで乾燥させた後、紫外線照射し、さらに120℃で10分加熱することにより厚膜ハードコートフィルムを得た。一方、比較例の場合には塗布膜を通風乾燥タイプの乾燥器のみで乾燥した後、紫外線照射し、さらに120℃で10分加熱することにより厚膜ハードコートフィルムを得た。なお、乾燥は120℃で2分、紫外線照射は750mj/cm2 の条件で行った。
【0118】
実施例の方法で製造した製品の表面性状は良好であった。一方、比較例の方法で製造した製品の表面性状は、風ムラの影響と思われる厚さムラを生じ不良となった。
【符号の説明】
【0119】
10…塗布・乾燥ライン、12…帯状可撓性支持体、16…塗布手段、18…ドライヤ、20…凝縮板、22…ガイドローラ、24…加熱手段、28…仕切り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する帯状可撓性支持体に塗布液を塗布手段により塗布し、塗布直後の走行位置に塗布液中の溶媒を凝縮、回収させるドライヤを配設する塗布膜の乾燥方法において、
前記ドライヤには前記帯状可撓性支持体と所定距離をおいて略平行に複数の板状部材である凝縮板を配設するとともに、該凝縮板と帯状可撓性支持体との距離を帯状可撓性支持体の走行方向で下流側が該帯状可撓性支持体の塗布膜から離れるよう階段状に変化させることを特徴とする塗布膜の乾燥方法。
【請求項2】
前記ドライヤには帯状可撓性支持体の走行方向に沿って複数の凝縮板を配設するとともに、凝縮板同士を離して配設するまたは凝縮板同士の間に仕切り板を配設する請求項1に記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項3】
前記塗布液には有機溶剤を3質量%以上含有する請求項1または2に記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項4】
前記塗布手段と前記ドライヤとの距離が5m以下である請求項1〜3のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項5】
前記塗布手段と前記ドライヤとの距離が0.7m以下である請求項1〜4のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項6】
前記帯状可撓性支持体の走行速度は、帯状可撓性支持体が前記塗布手段による塗布後30秒以内に前記ドライヤに到達する速度である請求項1〜5のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項7】
前記帯状可撓性支持体の走行速度は、帯状可撓性支持体が前記塗布手段による塗布後20秒以内に前記ドライヤに到達する速度である請求項1〜6のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項8】
前記塗布膜の厚さが0.001〜0.08mmである請求項1〜7のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項9】
前記帯状可撓性支持体の走行速度が1〜100m/分である請求項1〜8のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項10】
前記帯状可撓性支持体の走行速度が5〜80m/分である請求項1〜9のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項11】
前記ドライヤに冷却手段を配した請求項1〜10のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項12】
前記帯状可撓性支持体を挟んで前記ドライヤの反対側に加熱手段を配した請求項1〜11のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項13】
前記加熱手段には加熱ロールを使用した請求項12に記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項14】
前記加熱手段には赤外線ヒータまたはマイクロ波加熱手段を使用した請求項12に記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項15】
前記塗布膜の表面と前記ドライヤの表面との距離が0.01〜200mmである請求項1〜14のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項16】
前記塗布膜の表面と前記ドライヤの表面との距離が0.01〜100mmである請求項1〜15のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項17】
前記加熱手段の設定温度を帯状可撓性支持体の走行方向で変化させる請求項12〜16のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項18】
前記ドライヤの冷却手段の設定温度を帯状可撓性支持体の走行方向で変化させる請求項11〜17のいずれかに記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項19】
前記加熱手段の設定温度を階段状に変化させる請求項17に記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項20】
前記ドライヤの冷却手段の設定温度を階段状に変化させる請求項18に記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項21】
走行する帯状可撓性支持体に塗布液を塗布する塗布手段に続きその後段に配設され、塗布された塗布液中の溶媒を凝縮、回収させるドライヤからなる塗布膜の乾燥装置において、
前記ドライヤには前記帯状可撓性支持体と所定距離をおいて略平行に複数の板状部材である凝縮板を配設するとともに、該凝縮板と帯状可撓性支持体との距離を帯状可撓性支持体の走行方向で下流側が該帯状可撓性支持体の塗布膜から離れるよう階段状に変化させることを特徴とする塗布膜の乾燥装置。
【請求項22】
前記帯状可撓性支持体を挟んで前記ドライヤの反対側には加熱手段が配されており、該加熱手段の設定温度が帯状可撓性支持体の走行方向で変化され得るようになっている請求項21に記載の塗布膜の乾燥装置。
【請求項23】
前記ドライヤには冷却手段が配されており、該冷却手段の設定温度が帯状可撓性支持体の走行方向で変化され得るようになっている請求項21または22に記載の塗布膜の乾燥装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−25244(P2011−25244A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202283(P2010−202283)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【分割の表示】特願2001−297402(P2001−297402)の分割
【原出願日】平成13年9月27日(2001.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】