説明

塗膜乾燥装置

【課題】 乾燥後の塗膜の厚みにバラツキが少なく、しかも乾燥後の塗膜表面の性状に欠陥となる変形が生じることのない塗膜乾燥方法を提供する
【解決手段】 合成樹脂材料を主原料とするフィルム状基板FS1上に揮発性溶剤を含む塗膜材料を塗布して形成した塗膜を赤外線を用いて加熱乾燥させる。複数本のガイドローラRは、両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る長さ寸法W1を有している。表面側赤外線照射装置34及び裏面側赤外線照射装置35は、それぞれ搬送方向D1に所定の間隔をあけて配置され幅方向D2に延びる5枚の赤外線ヒータHをそれぞれ備えている。赤外線ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状基板の表面に塗布された塗膜を乾燥する塗膜乾燥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層構造製品の一種であるホログラフィックディスプレイフィルムを製造する場合には、フィルム状基板の表面上に塗膜材料が塗布されて形成された塗膜を加熱乾燥させる。特開平7−84504号公報(特許文献1)や、特開2004−29476号公報(特許文献2)には、ホログラムディスプレイ素子等の積層構造製品の構成に関する技術が示されている。そして積層構造製品を製造する場合に用いる積層技術に関連しては、例えば、特開2007−815号公報(特許文献3)に、走行するフィルムに塗膜PFを形成し、塗膜PFが半乾燥状態のときに、そのフィルムを基板に貼り付け、その後フィルムと基板を切断する装置が開示されている。
【0003】
さらに特開平5−185009号公報(特許文献4)には、塗膜を波長の異なる2種類の赤外線を用いて乾燥させる技術が開示されている。この技術では、塗膜を形成した母材の片側(塗膜側)に塗膜に対する赤外線透過率が高く且つ母材の吸収率の高い領域の赤外線を発生する赤外線ランプを配置する。そして母材を間にしてこの赤外線ランプと対向する位置に赤外線ランプから照射された赤外線を反射する反射面を配置する。そして母材の搬送方向に間隔をあけて並ぶ複数の反射面の間に、塗膜の内部を加熱できる波長を有する遠赤外線ランプを配置して塗膜を乾燥する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平7−84504号公報
【特許文献2】特開2004−29476号公報
【特許文献3】特開2007−815号公報
【特許文献4】特開平5−185009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホログラフィックディスプレイフィルム等で用いられる塗膜については、乾燥後の厚みの均一性が製品の性能を大きく左右する。そのため乾燥後の塗膜の厚み誤差は、できるだけ小さいことが望まれる。光重合性材料と揮発性溶剤とからなる塗膜材料を塗布して形成される塗膜の乾燥では、揮発性溶剤の揮発量が異なると、乾燥後の塗膜の厚みに大きなバラツキが発生する。そこでできるだけ塗膜を均一に加熱することが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、基板ガイド機構によりガイドされて乾燥炉内を搬送されるフィルム状基板上の塗膜をフィルム状基板の搬送方向及び幅方向のいずれにおいても、ほぼ均等に加熱することができる塗膜乾燥装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、合成樹脂材料を主原料として形成されたフィルム状基板の表面上に、光重合性材料と揮発性溶剤とからなる塗膜材料を塗布して形成した塗膜を加熱乾燥させる塗膜乾燥装置を対象とする。本発明の塗膜乾燥装置は、入口と出口とを有する乾燥炉と、乾燥炉内に配置されて、入口から乾燥炉内に搬入されたフィルム状基板が出口から搬出されるまでフィルム状基板をガイドする基板ガイド機構とを備えている。基板ガイド機構は、フィルム状基板の搬送方向に所定の間隔を開けて配置され、搬送方向と直交する幅方向に延びてフィルム状基板の裏面と接触する複数本のガイドローラを備えている。また塗膜乾燥装置は、乾燥炉内に配置されて、フィルム状基板の表面と所定の間隔を開けて配置された表面側赤外線照射装置と、乾燥炉内に配置されて、フィルム状基板の裏面と所定の間隔を開けて配置された裏面側赤外線照射装置とを備えている。これら表面側赤外線照射装置及び裏面側赤外線照射装置は、それぞれ基板の搬送方向に所定の間隔をあけて配置され幅方向に延びる複数の赤外線ヒータを備えている。本発明においては、特に、複数本のガイドローラとして、両端部がフィルム状基板の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る長さ寸法を有しているものを用いる。また複数本の赤外線ヒータとしては、赤外線放射面の幅方向の両端部がフィルム状基板の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法を有しているものを用いる。
【0007】
搬送乾燥中にフィルム状基板が大きく撓んだり、歪むと、乾燥後の塗膜の厚み寸法にバラツキが生じる。そのため本発明では、基板をガイドする基板ガイド機構として、フィルム状基板に無理な力を加えることなく、しかもフィルム状基板を大きく撓ませずにフィルム状基板を搬送するために、フィルム状基板の裏面と接触する複数のガイドローラを備えたガイド機構を採用する。しかしながらこのような複数のガイドローラを備えたガイド機構を用いると、ガイドローラとフィルム状基板の接触状況の相違によって、特に、塗膜の幅方向の厚み寸法にバラツキが生じる。また赤外線ヒータを用いて塗膜を乾燥する場合でも、赤外線ヒータからの赤外線の照射状況の相違によって、特に、塗膜の幅方向に測定した厚み寸法にバラツキが生じる。特に、塗膜の幅方向両端領域において、乾燥後の塗膜に厚み寸法のバラツキが生じ易い。発明者は、その原因が、ガイド機構によってガイドされながら搬送されるフィルム状基板が、搬送方向と直交する幅方向に揺れながら搬送され、フィルム状基板の裏面とガイドローラとの接触状況及び赤外線ヒータとフィルム状基板の対向状況にバラツキが発生し、これらのバラツキが塗膜の幅方向両端領域における塗膜の加熱状態のバラツキを生じさせることを突き止めた。そこで本発明のように、複数本のガイドローラとして、両端部がフィルム状基板の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る長さ寸法を有しているものを用いると、フィルム状基板が幅方向に揺れた場合であって、確実にガイドローラをフィルム状基板の裏面に対して幅方向全体に接触させることができる。その結果、ガイドローラとフィルム状基板の裏面との間の幅方向の接触状況をほぼ同じ状態とすることができる。また複数本の赤外線ヒータとして、赤外線放射面の幅方向の両端部がフィルム状基板の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法を有しているものを用いると、フィルム状基板が幅方向に揺れた場合であっても、フィルム状基板に対して幅方向全体に赤外線をほぼ均等に照射することができるので、幅方向両端領域における塗膜の加熱温度のバラツキを小さくすることができる。また本発明では、塗膜が存在しないフィルム状基板の裏面側からも赤外線ヒータにより赤外線を照射するため、加熱時間を短縮できるだけでなく、フィルム状基板の裏面側に配置されたガイドローラの熱的影響を実質的に無くすことができる。その結果、本発明によれば、フィルム状基板の幅方向における乾燥後の塗膜の厚み寸法のバラツキの発生を極力小さくすることができる。
【0008】
なお赤外線ヒータから照射される赤外線の波長は、光重合材料を重合させず、しかも塗膜の内部から塗膜を加熱して溶剤を塗膜中から揮発させることができる波長にする。このようにすれば、乾燥後の塗膜の内部に気泡等が残るのを防止することができる。
【0009】
また表面側赤外線照射装置の複数の赤外線ヒータと裏面側赤外線照射装置の複数の赤外線ヒータとは、フィルム状基板を間に介して完全に対向するように配置された面状赤外線ヒータであるのが好ましい。このような面状赤外線ヒータであれば、加熱むらの発生を防止することができる。ここで完全に対向するとは、同じ形状寸法の赤外線ヒータが平行に並んで対向することを意味する。面状赤外線ヒータとは、赤外線放射面が平面的に広がるものであれば、ヒータの素体それ自体の形状は任意である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図面を参照して、本発明の塗膜乾燥装置の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、ホログラフィックディスプレイ素子を製造する積層構造製品の製造装置で使用する乾燥装置に、本発明の塗膜乾燥装置を適用した構成を示すブロック図である。図2(A)乃至(F)は、図1の製造装置における製造過程において得られる製造物を説明するための概略図である。
【0011】
この積層構造製品の製造装置では、まず厚みが約100μmの透明ポリカーボネートフィルムの両面にそれぞれ厚み4μmのアクリル系UV系硬化樹脂による保護層が形成されたフィルム(以下合成樹脂材料を主原料として形成されたフィルム状基板と言う)をロール状に巻回したフィルムロール1から、フィルム状基板FS1を引き出して塗膜形成装置2に供給する。塗膜形成装置2は、フィルム状基板FS1の表面上に光重合性材料と揮発性溶剤とを含むホログラム記録材料(以下塗膜材料と言う)を塗布して塗膜PFを形成する。ホログラム記録材料は、光重合可能な化合物(アクリル系やスチレン系モノマー)、光重合開始剤、光重合開始剤を活性化させる増感色素、及び揮発性溶剤である。
【0012】
塗膜形成装置2の構成は任意であるが、塗膜PFの膜厚ができるだけ均一になるように塗膜材料を塗布できるものが好ましい。本実施の形態では、塗膜PFの厚みが約75μmになるように、塗膜形成装置2は、フィルム状基板FS1上にホログラム記録材料(塗膜材料)を塗布している。図2(A)は、フィルム状基板FS1上に未乾燥の塗膜PFが形成された状態を概略的に示す。
【0013】
次に塗膜乾燥装置3は、フィルム状基板FS1の表面上に形成された塗膜PFから揮発性溶剤を揮発させ且つ塗膜PFの表面部に接着力を残す程度まで乾燥させる。本例のように、未乾燥状態の塗膜PFが揮発性溶剤を含んでいる場合に、早期に塗膜PFの表面が乾燥すると、揮発した揮発性溶剤が塗膜PFの表面に孔を形成して表面に凹凸ができることがある。またこのような場合には、塗膜PFの内部にボイドが形成されてしまうこともある。したがって塗膜乾燥装置3は、塗膜PFの内部から加熱して塗膜PFの内部の揮発性溶剤がすべて揮発するまでは、塗膜PFの表面部を乾燥させないものを選ぶ必要がある。
【0014】
図3は、本発明の塗膜乾燥装置の一例を一部断面にして示した図である。図4は、赤外線ヒータとガイドローラの構成を説明するために用いる模式図である。図3及び図4において、符号31で示した部材は、乾燥炉である。乾燥炉31は、フィルム状基板FS1を受け入れる入口32と、フィルム状基板FS1を送り出す出口33とを備えている。乾燥炉31内には、基板ガイド機構30によってガイドされるフィルム状基板FS1が通過する経路の上側領域に、この経路に沿って3台の表面側赤外線照射装置34が配置されている。またこの経路の下側領域には、この経路に沿って3台の裏面側赤外線照射装置35が配置されている。基板ガイド機構30は、入口32から乾燥炉31内に搬入されたフィルム状基板FS1が出口33から搬出されるまでフィルム状基板FS1をガイドするために、複数本のガイドローラRを備えている。複数本のガイドローラRはフィルム状基板FS1の搬送方向(図4のD1)に所定の一定間隔を開けて配置されている。複数本のガイドローラRは、搬送方向D1と直交する幅方向D2に延びてフィルム状基板FS1の裏面と接触する。特に本実施の形態では、複数本のガイドローラRは、両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る長さ寸法W1を有している。
【0015】
また表面側赤外線照射装置34及び裏面側赤外線照射装置35は、それぞれ搬送方向D1に所定の間隔をあけて配置され幅方向D2に延びる5枚の赤外線ヒータHをそれぞれ備えている。これらの赤外線ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有している。
【0016】
このように基板ガイド機構30の複数本のガイドローラRとして、両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る長さ寸法W1を有しているものを用いると、フィルム状基板FS1が幅方向に揺れた場合であって、確実にガイドローラRをフィルム状基板FS1の裏面に対して幅方向全体に接触させることができる。その結果、ガイドローラRとフィルム状基板FS1の裏面との間の幅方向の接触状況をほぼ同じ状態とすることができる。また表面側赤外線照射装置34及び裏面側赤外線照射装置35で用いる赤外線ヒータHとして、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有しているものを用いると、フィルム状基板FS1が幅方向に揺れた場合であっても、フィルム状基板FS1に対して幅方向全体に赤外線をほぼ均等に照射することができるので、幅方向両端領域における塗膜の加熱温度のバラツキを小さくすることができる。また塗膜が存在しないフィルム状基板の裏面側からも赤外線ヒータHにより赤外線を照射するため、加熱時間を短縮できるだけでなく、フィルム状基板FS1の裏面側に配置されたガイドローラRの熱的影響を実質的に無くすことができる。その結果、フィルム状基板FS1の幅方向における乾燥後の塗膜の厚み寸法のバラツキの発生を極力小さくすることができる。
【0017】
なおこの例では、表面側赤外線照射装置34の複数の赤外線ヒータHと裏面側赤外線照射装置35の複数の赤外線ヒータHとは、フィルム状基板FS1を間に介して完全に対向するように配置された面状赤外線ヒータである。面状赤外線ヒータを用いると、加熱むらの発生を防止することができる。なお面状赤外線ヒータとしては、赤外線放射面が平面的に広がるものであれば、ヒータの素体それ自体の形状は任意である。
【0018】
また乾燥炉31の底壁部36には、2つの排気筒37の一端が開口している。また乾燥炉31の入口32側には、ガス漏れ防止室38が配置され、このガス漏れ防止室38にも排気筒37の一端が開口している。さらに乾燥炉31の出口33側には、ガス漏れ防止室39が配置され、このガス漏れ防止室39にも排気筒37の一端が開口している。排気筒37は、ダクト40を介して誘引送風機41に接続され、誘引送風機41は排気通路を通して、乾燥炉31内に発生する揮発成分を含むガスを排出する。このような排気構造は、乾燥炉31内に循環するガス流路を形成することがないので、搬送されるフィルム状基板FS1が揺動するのを防止して、安定した乾燥を提供することができる。
【0019】
本実施の形態では、表面側赤外線照射装置34及び35から塗膜に照射する赤外線の波長を、塗膜中の光重合材料を重合させず、しかも塗膜の内部から塗膜を加熱して揮発性溶媒を塗膜中から揮発させることができる波長に定めている。フィルム状基板の裏面に照射する赤外線の波長は、5.6μm〜1,000μmである。このような乾燥装置3を使用した結果、本実施の形態では、未乾燥の塗膜PFの厚み約75μmを、約35μmまで薄くすることができた。また乾燥した塗膜PF′の表面には、粘着力が残っていた。さらに塗膜PF′の表面に凹凸が形成されたり、塗膜中にボイドが残ったりすることはなかった。さらにフィルム状基板FS1の熱膨張・収縮によって塗膜中に発生する可能性のあるストレスの影響は、全く見受けられなかった。図2(B)は、乾燥により厚みが減少した塗膜PF′の状況を概略的に示している。
【0020】
次に、フィルム状基板貼り合わせ装置4は、表面に接着力が残る程度に乾燥した塗膜PF′を間に挟むように別のフィルム状基板FS2を塗膜PF′上に貼り合わせる。別のフィルム状基板FS2は、前述のフィルム状基板FS1と同じ材質のものであり、フィルム状基板FS1と同様にフィルムロール5から引き出されて使用される。図2(C)は、と膜PF′の上に別のフィルム状基板FS2が貼り合わされて構成されたフィルム積層体FLの構成を概略的に示している。なおフィルム状基板貼り合わせ装置4の内部には、複数のローラとガイドが配置されており、二枚のフィルム状基板FS1及びFS2は、厚み方向に加圧された状態で、次の流出防止処理装置6へと搬送される。
【0021】
流出防止処理装置6は、フィルム積層体FL中の塗膜PF′が流出しないようにするための流出防止処理を行う。本実施の形態で製造するホログラフィックディスプレイ素子では、塗膜PF′が感光性を有する。そこで本実施の形態では、図2(D)に示すように、塗膜PF′に対してホログラフィックディスプレイ素子として使用する領域R2の周囲を囲む領域R1に内部に配置した露光装置から光重合性材料を感光させる光を照射する。本実施の形態では、近紫外光〜可視光の領域の波長を持つ光を照射する。具体的には、緑色のLED光、レーザー光、高圧水銀灯等の光を利用することができる。なお必要な部分だけ露光するためには、フィルム積層体FLの一方の側面に領域R1のみに光を照射するマスクを用いて光の照射を行う。なお領域R1は環状を呈しているため、複数種類のマスクと複数回の照射を用いて必要な露光を行うことになる。図2(D)に示すように、本実施の形態では、フィルム状基板FS1の幅方向両側に非塗布領域R3を残すように、塗膜PF′が形成されている。これは、塗布した塗膜材料が搬送中に横方向に流れて、フィルム状基板FS1の上から流れ落ちるのを防止するためである。図2(D)のように塗膜PF′のうち領域R1に光を照射すると、光が当たった塗膜PF部分だけが固化して堰部を形成することになる。その結果、領域R2内の塗膜が流出する(移動する)のを有効に防止できる。またこのようにすると固化した塗膜PF部分(R1の領域の固化部分)は、二枚のフィルム状基板を接合する接合手段としても機能する。
【0022】
なお塗膜が光重合性材料を含んでいない場合には、塗膜PF′を間隔を開けてフィルム状基板に形成し、別のフィルム状基板を塗膜PF′の上に重ねた後に、塗膜PF′の周囲で対向する2枚のフィルム状基板の部分を熱溶着技術を用いて接合するようにすれば、塗膜PF′の流出を防止することができる。なお流出防止処理装置6において、使用する流出防止処理技術は、塗膜の材料及びフィルム状基板の材質に応じて任意に定めればよい。
【0023】
流出防止処理装置6から出たフィルム積層体FLは、検査装置7の内部に入る。検査装置7では、フィルム積層体FL中の塗膜PF′の状態(欠陥の有無)を検査する。検査装置7は、塗膜PF′に欠陥があることを検出すると、欠陥のある積層構造製品が製造されていることを示す警報信号ASを出力する機能を有している。本実施の形態では、警報信号ASが切断装置10内のマーキング装置8に入力されるとともに、塗膜形成装置2,乾燥装置3,フィルム状基板貼り合わせ装置4、流出防止装置6に警報信号ASが入力されている。警報信号ASが検査装置7から出力されると、本実施の形態では、マーキング装置8が積層構造製品LGに欠陥があることを示す表示を切断前のフィルム積層体FLに付す[図2(E)及び(F)参照]。その後切断機9によりフィルム積層体FLを切断して積層構造製品LGを製造する。
【0024】
本例では、マーキン装置8として、レーザーマーキング装置を用いている。マーキン装置8による表示態様は、文字、色、記号等いかなる表示態様であってもよい。例えば図2(E)の例では、帯状の色をこの表示としてフィルム状基板FS2の一辺に添って表示している。また図2(F)の例では、フィルム状基板FS2の上に文字「O」で表示している。マーキング機能を備えたものを用いるのが好ましい。このようにすると、切断装置10から出てくる積層構造製品LGに欠陥があることを示す表示があるか否かを見るだけで、良品と不良品の区別が付くので良品と不良品の区分けを簡単に行うことができる。
【0025】
検査装置7の構成は任意である。例えば、赤外線を利用した画像認識測定器や、フィルム積層体FLの厚みを測定する厚み測定器等種々の測定器を利用することができる。検査装置7は、使用する測定器の測定結果を総合的に判断して、塗膜PF′に欠陥があるか否かを判定する。塗膜の欠陥とは、領域R2内の塗膜に凹部や空洞が存在している場合や、領域R2内の塗膜に何らかの原因で光重合した部分が存在する場合や、領域R1の塗膜が固化していない場合や、塗膜の量が少ないまたは多すぎる場合(領域の厚みが薄すぎたり、厚すぎたりする場合)等である。
【0026】
検査装置7が警報信号を出力した場合には、原則的に、製造を停止せずに、欠陥の原因となっている装置(1乃至6)の調整をし直す。ホログラフィックディスプレイ素子を製造する場合には、塗膜形成装置2から切断装置10までの作業ラインを遮光状態にしなければならない。そのため作業状況を目視により確認できない。そこで本実施の形態では、検査装置7が、塗膜形成装置2、乾燥装置3、フィルム状基板貼り合わせ装置4及び流出防止処理装置6のいずれが欠陥の発生原因であるのかを示す情報ISを警報信号ASに含めて出力する。予め製品の製造に関して、試験やシミュレーションを行っておくことにより、検査装置7内の測定器の出力と欠陥の発生原因との関係を事前に知ることができる。このような関係を予め知っていれば、検査装置7内の測定器の出力に基づいて、欠陥の発生原因を特定することと、発生原因を除去するための情報を、容易に特定することができる。そこで本例では、検査装置7で使用するコンピュータを利用して、欠陥の発生原因に関する情報ISを警報信号ASに含めて出力するようにしている。
【0027】
塗膜形成装置2、乾燥装置3、フィルム状基板貼り合わせ装置4及び流出防止処理装置6の各設備には、検査装置7から提供される情報ISに基づいて、欠陥の発生原因を除去するために、欠陥の発生を解消するために必要な自動調整を実施する自動調整機能を備えている。例えば、塗膜形成装置2は塗膜の厚みを情報ISに基づいて自動調整する機能を有している。また乾燥装置3は、情報ISに基づいて赤外線照射装置の出力を自動調整する機能を有している。さらにフィルム状基板張り合わせ装置4は、情報ISに基づいてフィルム状基板FS2の張力を自動調整したり、搬送ローラによる加圧力を自動調整する機能を有している。さらに流出防止処理装置6は、情報ISに基づいて、露光装置の出力を自動調整する機能を有している。なお各設備が自動調整機能を有していない場合でも、検査装置7から提供される情報ISを表示する情報表示装置(ランプ、表示画面)を各設備に設けておけば、情報表示装置から提供される情報に基づいて、操作員がマニュアルで各設備の調整を行うことができる。本実施の形態のように、塗膜形成装置2、乾燥装置3、フィルム状基板貼り合わせ装置4及び流出防止処理装置6のすべてが、自動調整機能を備えているのが好ましい。しかし最も高い確率で、調整ずれが発生する装置が自動調整機能を備えているだけでも、十分に効果はある。したがって塗膜形成装置2、乾燥装置3、フィルム状基板貼り合わせ装置4及び流出防止処理装置6の少なくとも一つの装置が、警告信号ASに含まれる情報ISに基づいて、欠陥の発生を解消するために必要な自動調整を実施する自動調整機能を備えていれば、操作員の手を煩わせる率は大幅に減る。
【0028】
本例では、切断機9による切断作業の前にマーキング装置8によりマーキングを行っている。しかし切断機9で切断を行った後にマーキング装置によりマーキングを行ってもいのは勿論である。マーキングは、印刷でもよいが、切断機9による切断の際に特定の形状の切り込みを入れて、切り込み自体をマーキングとしてもよい。その場合には、切断機9がマーキング装置の機能を備えていることになる。
【0029】
また検査装置7が塗膜の欠陥を検出して、警報信号ASを出力した場合には、警報信号ASが出力された後に切断された積層構造製品LGを、例外なく、不良品であるとみなして、排除するような仕分け装置を切断装置の後に設置してもよい。塗膜に多少の欠陥があっても、精度の低い製品として販売が可能な製品は多々ある。したがって不良品または欠陥品と判断しても、用途によっては、十分に使用可能な製品もあるため、製品へのマーキングは、十分に意味を持つ。
【0030】
図2(E)及び(F)に示した積層構造製品LGは、流出防止処理装置内に設けた露光装置による光の照射により、固化した領域R1のうち、フィルム積層体FLの幅方向に延びる部分を分割線PLに添って二分割することができ、しかもフィルム積層体FLの長手方向に延び且つ幅方向に対向する領域R1の二つの辺に添って切断を行える切断刃型を用いてフィルム積層体FLを所定の寸法に切断して製造されている。なお積層構造製品LGの形状は任意であり、切断機も種々の切断機を用いることができる。例えば、切断機としてレーザー切断機を用いてもよいのは勿論である。
【0031】
上記例では、ホログラフィックディスプレイ素子を製造する場合に、本発明を適用したが、その他の積層構造製品を製造する場合にも、本発明の製造装置を適用することができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ホログラフィックディスプレイ素子を製造する場合に、用いる積層構造製品の製造装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】(A)乃至(F)は、図1の製造装置における製造過程において得られる製造物を説明するための概略図である。
【図3】本発明の塗膜乾燥装置の実施の形態の一例を一部断面にして示した図である。
【図4】赤外線ヒータとガイドローラの構成を説明するために用いる模式図である。
【符号の説明】
【0033】
1 フィルムロール
2 塗膜形成装置
3 塗膜乾燥装置
4 フィルム状基板貼り合わせ装置
5 フィルムロール
6 流出防止処理装置
7 検査装置
8 マーキング装置
9 切断機
10 切断装置
30 基板ガイド機構
31 乾燥炉
34 表面側赤外線照射装置
35 裏面側赤外線照射装置
H 赤外線ヒータ
R ガイドローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂材料を主原料として形成されたフィルム状基板の表面上に、光重合性材料と揮発性溶剤とからなる塗膜材料を塗布して形成した塗膜を加熱乾燥させる塗膜乾燥装置であって、
入口と出口とを有する乾燥炉と、
前記乾燥炉内に配置されて、前記入口から前記乾燥炉内に搬入された前記フィルム状基板が前記出口から搬出されるまで前記フィルム状基板をガイドする基板ガイド機構と、
前記乾燥炉内に配置されて、前記フィルム状基板の表面と所定の間隔を開けて配置された表面側赤外線照射装置と、
前記乾燥炉内に配置されて、前記フィルム状基板の裏面と所定の間隔を開けて配置された裏面側赤外線照射装置とを備え、
前記基板ガイド機構は前記フィルム状基板の搬送方向に所定の間隔を開けて配置され、前記搬送方向と直交する幅方向に延びて前記フィルム状基板の前記裏面と接触する複数本のガイドローラを備えており、
前記表面側赤外線照射装置及び前記裏面側赤外線照射装置は、それぞれ前記搬送方向に所定の間隔をあけて配置され前記幅方向に延びる複数の赤外線ヒータを備えており、
前記複数本のガイドローラは、両端部が前記フィルム状基板の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る長さ寸法を有しており、
前記複数本の赤外線ヒータは、赤外線放射面の前記幅方向の両端部が前記フィルム状基板の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法を有していることを特徴とする塗膜乾燥装置。
【請求項2】
前記赤外線ヒータから照射される赤外線の波長は、前記光重合材料を重合させず、しかも前記塗膜の内部から前記塗膜を加熱して前記溶剤を前記塗膜中から揮発させることができる波長である請求項1に記載の塗膜乾燥装置。
【請求項3】
前記表面側赤外線照射装置の前記複数の赤外線ヒータと前記裏面側赤外線照射装置の前記複数の赤外線ヒータとは、前記フィルム状基板を間に介して完全に対向するように配置された面状赤外線ヒータである請求項2に記載の塗膜乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−63268(P2009−63268A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233442(P2007−233442)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(000138473)株式会社ユーシン精機 (117)
【Fターム(参考)】