説明

塗膜付き金属箔の製造方法及び塗布装置

【課題】金属箔上に均一な厚さの塗膜を形成する。また、金属箔上に塗膜を断続的に形成する場合において、非塗布領域に不所望な塗料が付着するのを防止する。
【解決手段】帯状の金属箔10をバックアップロール30で支持しながら走行させ、金属箔のバックアップロールとは反対側の面に塗料25を塗布する。このとき、金属箔がバックアップロールの外周面に接触し始める地点Pを含み、且つ、地点Pよりも金属箔の走行方向の上流側の金属箔とバックアップロールの外周面とで形成された空間を減圧しながら塗料を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔に塗料を塗布する工程を備えた塗膜付き金属箔の製造方法に関する。また、本発明は、金属箔に塗料を塗布するための塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン二次電池に代表される非水二次電池は、正極と負極とをセパレータを介して巻回して製造される。正極及び負極のそれぞれは、集電体としての金属箔に活物質含有塗料を塗布したものである。金属箔への活物質含有塗料の塗布方法としては、図5に示すように、矢印111の向きに走行する帯状の金属箔110上に、ダイコータ120のスロット121から塗料125を吐出して塗布するダイコータ法が用いられることが多い。金属箔110の支持方式としては、金属箔110をダイコータ120との間に挟むように、ダイコータ120に対向して配置されたバックアップロール130で金属箔110を支持するバックアップロール支持方式が一般的である。活物質含有塗料を塗布した後、当該塗料を乾燥させ、金属箔を、幅方向に多条にスリットし、更に長手方向に所定長さに裁断することにより正極及び負極が得られる。
【0003】
リチウムイオン二次電池に使用される正極及び負極では、集電体の長手方向の終端に、活物質含有塗料が塗布されない非塗布領域を形成することが知られている(例えば特許文献1参照)。図5に示す塗布方法においてこの非塗布領域を形成するためには、例えばダイコータ120からの塗料の吐出を間欠的に行うことにより可能である。図6は、このようにして活物質含有塗料からなる塗膜126が断続的に形成された集電体としての金属箔110の、その長手方向に沿った断面図である。塗膜126は一定周期で形成され、隣り合う塗膜126間に非塗布領域128が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−218079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5に示すバックアップロール支持方式により金属箔110上に活物質含有塗料125を塗布すると、塗膜126の厚みが局所的に所望する厚みより薄くなったり、更には局所的に塗膜126が形成されない未塗布部分が発生したりするという課題がある(この課題を「塗膜の厚み不良」という)。
【0006】
また、図6に示すように塗膜126を断続的に形成すると、図7に示すように非塗布領域128に不所望な活物質含有塗料129が付着するという課題がある(この課題を「不所望付着」という)。
【0007】
そこで、本発明の第1の目的は、金属箔上に均一な厚さの塗膜を形成することにある。また、本発明の第2の目的は、金属箔上に塗膜を断続的に形成する場合において、非塗布領域に不所望な塗料が付着するのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塗膜付き金属箔の製造方法は、帯状の金属箔をバックアップロールで支持しながら走行させ、前記金属箔の前記バックアップロールとは反対側の面に塗料を塗布する工程を含む塗膜付き金属箔の製造方法であって、前記金属箔が前記バックアップロールの外周面に接触し始める地点を含み、且つ、前記地点よりも前記金属箔の走行方向の上流側の前記金属箔と前記バックアップロールの外周面とで形成された空間を減圧しながら、前記塗料を塗布することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の塗布装置は、帯状の金属箔を支持しながら走行させるバックアップロールと、前記バックアップロールと対向して配置され、前記金属箔の前記バックアップロールとは反対側の面に塗料を塗布するコータと、前記バックアップロールよりも前記金属箔の走行方向の上流側に配置された減圧装置とを備え、前記減圧装置は、前記金属箔が前記バックアップロールの外周面に接触し始める地点を含み、且つ、前記地点よりも前記金属箔の走行方向の上流側の前記金属箔と前記バックアップロールの外周面とで形成された空間を減圧することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属箔がバックアップロールの外周面に接触し始める地点を含み、且つ、当該地点よりも金属箔の走行方向の上流側の金属箔とバックアップロールの外周面とで形成された空間を減圧装置で減圧するので、金属箔をバックアップロールの外周面に密着させることができる。従って、金属箔が弛みを有していても金属箔とダイコータのリップ先端との間の間隔(コーティングギャップ)を所望する値に一定に維持することができる。その結果、塗膜の厚み不良の発生を抑えることができる。また、非塗布領域を形成する場合には、不所望付着の発生を抑えることができる。本発明は、金属箔が幅700mmを越える広幅で、塗膜が厚み100μm以下の薄膜である場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る塗布装置の概略構成を示した断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態2に係る塗布装置の概略構成を示した断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態1に係る塗布装置を用いて塗布膜付き金属箔を製造した実施例1において、減圧装置の吸引圧力と不所望付着の発生確率との関係を示した図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態1に係る塗布装置を用いて塗布膜付き金属箔を製造した実施例2において、金属箔に印加する応力及び減圧装置の吸引圧力を変えたときの不所望付着の発生状況を示した図である。
【図5】図5は、従来のバックアップロール支持方式による塗料の塗布方法を示した図である。
【図6】図6は、活物質含有塗料からなる塗膜が長手方向に断続的に形成された金属箔の、その長手方向に沿った断面図である。
【図7】図7は、非塗布領域に不所望な活物質含有塗料が付着した金属箔の、その長手方向に沿った断面図である。
【図8】図8Aは金属箔のロール状の巻回体から巻き出された金属箔の外観形状を示した斜視図、図8Bは図8Aのように架け渡された金属箔の幅方向に沿って測定した上下方向変位の一例を示した図である。
【図9】図9Aはバックアップロールで支持された金属箔に対するダイコータ法による塗料の塗布方法を示した拡大断面図、図9Bはバックアップロールで支持された金属箔に対するダイコータ法による塗料の塗布方法において非塗布領域を形成している状態を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、帯状の金属箔をバックアップロールで支持し連続走行させながら金属箔のバックアップロールとは反対側の面に塗料を塗布したときに生じる上記の課題(即ち、塗膜の厚み不良及び不所望付着)の発生原因について鋭意検討した結果、これらの課題は金属箔に塗料を塗布するコータ(例えばダイコータ)と金属箔との間隔(これを「コーティングギャップ」という)が一定に維持されていないことに起因することを見出した。更に、コーティングギャップが一定に維持されないという課題は、塗布対象物が金属箔である場合に特に発生しやすいことを見出した。これについて、説明する。
【0013】
一般に、塗料塗布前の帯状の金属箔はロール状に巻回した巻回体として供給される。図8Aは、金属箔110のロール状の巻回体112から帯状の金属箔110を巻き出し、金属箔110の長手方向が水平方向と平行になるように金属箔110を支持ロール115に架け渡した状態を示した斜視図である。図8Bは、図8Aの架け渡された金属箔110の幅方向に平行な二点鎖線7Bに沿って測定した金属箔110の上下方向変位量の一例を示した図である。上下方向変位量は、金属箔110に、応力が3.2N/mm2となるように、長手方向に張力T(図8A参照)を印加した状態で測定したものである。図8Bに示されているように、金属箔110の幅方向の両端部分に比べて中央部分が下降している。なお、上下方向変位量は金属箔110ごとに異なり、また、金属箔110の下降する部分は、図8Bのように常に幅方向の中央部分であるとは限らず、金属箔110によっては例えば幅方向の一方の端部である場合もある。このような金属箔110の上下方向変位は、金属箔110に局所的な弛みが生じていることに起因する。金属箔110は樹脂フィルムなどに比べて弾性係数が大きいので、金属箔110に印加する張力Tを大きくしても、上述した上下方向変位を解消することは困難である。
【0014】
図9Aは、バックアップロール130で支持された金属箔110にダイコータ120を用いて塗料125を塗布している状態を示した拡大断面図である。金属箔110の被塗布面とダイコータ120のリップ先端122との間隔(即ち、コーティングギャップ)Gは例えば20μm〜200μm程度である。このとき、金属箔110が図8Bに示したような弛みを有していると、バックアップロールロール130上で金属箔110にシワが入ったり、バックアップロール130よりも上流側で金属箔110が振動したりすることにより、金属箔110がバックアップロール130から局所的に浮き上がり、コーティングギャップGが狭くなることがある。その結果、金属箔110に形成される塗膜の厚みが局所的に薄くなったり、未塗布部分が形成されたりする等の塗膜の厚み不良が発生するのである。
【0015】
図9Bは、図9Aの塗布方法において、金属箔110上に非塗布領域を形成している状態を示した拡大断面図である。非塗布領域の形成は、ダイコータ120からの塗料125の吐出を停止することで可能である。塗料125の吐出を停止してもダイコータ120のリップ先端122には塗料125aが付着していることがある。このとき、金属箔110が図8Bに示したような弛みを有していると、図9Aで説明したのと同様に金属箔110がバックアップロール130から局所的に浮き上がり、コーティングギャップGが狭くなることがある。その結果、リップ先端122に付着した塗料125aが金属箔110の非塗布領域に付着して不所望付着が発生するのである。
【0016】
金属箔110の走行速度が大きくなると、バックアップロール130よりも上流側での金属箔110の振動振幅は大きくなり、また、金属箔110に随伴する気流は多くなる。従って、金属箔110とバックアップロール130との間に空気を巻き込みやすくなるので、金属箔110のバックアップロール130からの浮き上がり量が更に大きくなる。その結果、コーティングギャップGが不安定となり更に狭くなりやすくなるので、塗膜の厚み不良や不所望付着は更に発生しやすくなる。
【0017】
図8Bに示したような金属箔110の弛みは、一般に金属箔110の幅が大きくなるほど大きくなる。従って、金属箔110の幅が大きいほど、塗膜の厚み不良や不所望付着は発生しやすい。
【0018】
本発明は、バックアップロール130からの金属箔110の浮き上がりを防止することで上記の課題を解決する。
【0019】
本発明の塗膜付き金属箔の製造方法は、帯状の金属箔をバックアップロールで支持しながら走行させ、前記金属箔の前記バックアップロールとは反対側の面に塗料を塗布する工程を含む塗膜付き金属箔の製造方法であって、前記金属箔が前記バックアップロールの外周面に接触し始める地点を含み、且つ、前記地点よりも前記金属箔の走行方向の上流側の前記金属箔と前記バックアップロールの外周面とで形成された空間を減圧しながら、前記塗料を塗布することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の塗布装置は、帯状の金属箔を支持しながら走行させるバックアップロールと、前記バックアップロールと対向して配置され、前記金属箔の前記バックアップロールとは反対側の面に塗料を塗布するコータと、前記バックアップロールよりも前記金属箔の走行方向の上流側に配置された減圧装置とを備え、前記減圧装置は、前記金属箔が前記バックアップロールの外周面に接触し始める地点を含み、且つ、前記地点よりも前記金属箔の走行方向の上流側の前記金属箔と前記バックアップロールの外周面とで形成された空間を減圧することを特徴とする。
【0021】
上記の本発明の製造方法において、前記塗料をダイコータのスロットから吐出させ前記金属箔に塗布することが好ましい。また、上記の本発明の製造装置において、前記コータが、塗料を吐出するスロットを備えたダイコータであることが好ましい。このようにダイコータ法を用いることにより、ダイコータの上流側に設けられる定流量ポンプの吐出量や流量調整バルブの開度等を調整するという簡単な操作を行うだけで、ダイコータのスロットから吐出される塗料の流量を変えることができるので、塗膜の厚みや非塗布領域の形成/非形成を容易に制御することができる。また、塗料はダイコータから吐出されるまでは外気にさらされることがほとんどないので、溶媒の蒸発による塗料の濃度変化が生じにくく、バラツキの少ない塗膜を得ることができる。
【0022】
上記の本発明の製造方法において、前記塗料を前記金属箔に断続的に塗布してもよい。また、上記の本発明の製造装置は、前記塗料を前記金属箔に断続的に塗布することができるように構成されていてもよい。これにより、例えばリチウムイオン二次電池の正極及び負極を効率よく製造することができる。
【0023】
上記の本発明の製造方法において、粘着性を有する外周面を備えた粘着ロールを前記バックアップロールの外周面に接触させることが好ましい。また、上記の本発明の製造装置は、粘着性を有する外周面を有し、前記バックアップロールの外周面に接触して前記バックアップロールとともに回転する粘着ロールを更に備えることが好ましい。これにより、バックアップロールの外周面に付着した異物を粘着ロールに粘着させて取り除くことができるので、バックアップロールの外周面は常に清浄に保たれる。その結果、バックアップロールからの金属箔の浮き上がりを更に少なくすることができるので、塗膜の厚み不良や不所望付着を更に改善することができる。
【0024】
上記の本発明の製造方法において、前記金属箔が二次電池の電極に使用される集電体であることが好ましい。また、前記塗料が二次電池の電極に使用される活物質又は絶縁材料を含むことが好ましい。これにより、二次電池用の正極及び負極を、安定した品質で効率よく生産することができる。
【0025】
以下、本発明を好適な実施形態及び実施例を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態及び実施例に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の好適な実施形態の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の部材を備え得る。また、以下の各図中の部材の寸法は、実際の部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る塗布装置の概略構成を示した断面図である。所定の張力が印加された帯状の金属箔10が、バックアップロール30よって支持されながら矢印11の向きに連続走行する。ダイコータ20がバックアップロール30と対向して配置されている。ダイコータ20は、塗料を案内するスロット21を有し、その金属箔10に対向するリップ先端22の開口からから塗料25を吐出する。塗料25は、金属箔10のバックアップロール30に支持される面とは反対側の面に塗布される。金属箔10上に塗布された塗料25を公知の方法で乾燥させることにより塗膜付き金属箔を製造することができる。リップ先端22とバックアップロール30との間隔は、金属箔10の幅方向(図1の紙面に垂直方向)において一定である。
【0027】
スロット21からの塗料25の吐出を間欠的に行うことにより、塗料25を断続的に塗布することができ、金属箔10の長手方向において塗膜が形成されていない非塗布領域(図6参照)を形成することができる。
【0028】
バックアップロール30よりも金属箔10の走行方向11の上流側であって、金属箔10よりもバックアップロール30側に減圧装置40が設けられている。減圧装置40は、減圧室41と、減圧室41内の空気を排気するための排気口42と、減圧室41と連通した開口43とを備えている。排気口42は真空ポンプ等の公知の排気装置(図示せず)に接続されている。開口43は、金属箔10及びバックアップロール30に向かって開口している。金属箔10の幅方向において、開口43の開口幅は金属箔10の幅とほぼ同じである。減圧装置40は、金属箔10がバックアップロール30の外周面に接触し始める地点Pを含み、且つ、地点Pよりも金属箔10の走行方向11の上流側の金属箔10とバックアップロール30の外周面とで形成された空間48(バックアップロール30の回転軸と平行な方向から見たとき、地点Pを頂点とする略楔状断面形状を有する空間)を所定の減圧状態に維持する。開口43のバックアップロール30とは反対側の端縁にはサポートロール44が設けられている。サポートロール44は、減圧室41内に引き込まれる金属箔10と接触して回転する。
【0029】
本実施形態によれば、金属箔10がバックアップロール30の外周面に接触し始める地点P及びその近傍の空間48を減圧装置40で減圧するので、金属箔10に随伴して金属箔10とバックアップロール30との間に巻き込まれる空気を少なくし、金属箔10をバックアップロール30の外周面に密着させることができる。従って、金属箔10が図8Bに示したような弛みを有していても、金属箔10とダイコータ20のリップ先端22との間の間隔(即ち、コーティングギャップ)を所望する値に一定に維持することが可能となる。その結果、塗膜の厚み不良の発生を抑えることができる。また、非塗布領域を形成する場合には、不所望付着の発生を抑えることができる。更に、本実施形態の上記の効果は、金属箔10の走行速度が大きくなっても、また、金属箔の幅が大きくなっても、同様に得ることができる。
【0030】
また、サポートロール44は、バックアップロール30よりも上流側での金属箔10の振動を抑え、金属箔10の走行を安定させることができるので、塗膜の厚み不良や不所望付着の更なる改善に貢献する。また、金属箔10が減圧室41の開口の端縁に接触して傷付くのを防止することもできる。但し、サポートロール44を省略することは可能である。
【0031】
減圧室41の圧力は、金属箔10の物性、寸法、走行速度、印加される張力(応力)などに応じて適宜変更することができる。一般には排気口42からの吸引圧力は0.6kPa以上、更に0.7kPa以上、特に0.8kPa以上が好ましい。
【0032】
本発明において、金属箔10や塗料25の材料に特に制限はなく、生産しようとする製品に応じて適宜選択することができる。以下に、リチウムイオン二次電池を製造する場合を例に説明する。
【0033】
リチウムイオン二次電池においては、金属箔10は正極又は負極の集電体となる。金属箔10の材料としては、化学的に安定な電子伝導体であれば特に限定されないが、正極の集電体としては例えばアルミニウム箔を用いることができ、負極の集電体としては例えば銅箔やニッケル箔を用いることができる。金属箔10の厚みは特に制限はないが、一般に10〜30μm程度が好ましい。
【0034】
塗料25としては、正極用又は負極用の活物質を含有する公知の塗料を用いることができる。正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であれば特に限定されないが、例えば、LiCoO2等のリチウムコバルト酸化物、LiMn24等のリチウムマンガン酸化物、LiNiO2等のリチウムニッケル酸化物等を用いることができる。正極活物質用の塗料は、上記の正極活物質に公知の正極用導電助剤及び正極用バインダ等を混合させた混合物に、溶剤を加えて十分に混練して得ることができる。負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であれば特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、又は塊状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等の人造黒鉛等の炭素材料を用いることができる。負極活物質用の塗料は、上記の負極活物質に公知の負極用導電助剤及び負極用バインダ等を混合させた混合物に、溶剤を加えて十分に混練して得ることができる。
【0035】
また、塗料25が絶縁材料を含有していてもよい。これにより、正極(または負極)活物質塗膜の金属箔10の長手方向における終端に絶縁塗膜が形成された正極(または負極)を製造することができる。絶縁塗膜の形成に本実施形態を適用することにより、絶縁塗膜の厚み不良や絶縁塗膜用塗料の不所望付着を改善することができる。絶縁材料としては例えばポリイミド樹脂を用いることができる。
【0036】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2に係る塗布装置の概略構成を示した断面図である。図2において、図1に示した実施形態1の塗布装置を構成する部材と同一の部材には同じ符号を付してそれらについて説明を省略する。本実施形態2の、実施形態1と異なる点について説明する。
【0037】
本実施形態では、バックアップロール30の外周面に接触してバックアップロール30とともに回転する粘着ロール50が更に設けられている。粘着ロール50の回転軸はバックアップロール30の回転軸と平行である。粘着ロール50の外周面は粘着性を有している。このため、バックアップロール30の外周面に付着した塗料片や金属箔の削れ粉等の異物は粘着ロール50に付着され、バックアップロール30の外周面は常に清浄に保たれる。
【0038】
バックアップロール30の外周面に異物が付着していると、当該異物によって金属箔10がバックアップロール30から局所的に浮き上がり、コーティングギャップG(図9A及び図9Bを参照)が狭くなる。その結果、塗膜の厚み不良や不所望付着が発生する可能性がある。
【0039】
本実施形態のように、粘着ロール50によってバックアップロール30の外周面から異物を除去することによって、バックアップロール30からの金属箔10の局所的な浮き上がりをさらに防止することができるので、塗膜の厚み不良や不所望付着の発生を更に抑えることができる。
【0040】
本実施形態は、微小な異物までもが問題となる場合、例えばコーティングギャップを狭くして、薄い塗膜を形成する場合に特に効果的である。
【0041】
粘着ロール50としては、異物除去性能を有するものであれば特に制限はないが、例えばその外周面がブチル系ゴムやシリコン系ゴムなどの粘着性を有するゴムで被覆された公知のゴムロールを用いることができる。粘着ロール50とバックアップロール30との接触面積を拡大させるために、粘着ロール50の外周面は、バックアップロール30との接触領域でバックアップロール30の外周面に沿って凹状に変形するように、適度な柔軟性(弾性)を有していることが好ましい。
【0042】
塗料を塗布しているとき、粘着ロール50を常時バックアップロール30に接触させることが好ましいが、間欠的に接触させることもできる。また、塗料を塗布する直前のみ接触させてもよい。
【0043】
上記の実施形態1,2は例示であって、本発明はこれらに限定されず、適宜変更することができる。
【0044】
例えば、上記の実施形態1,2では、塗料をダイコータ20で塗布したが、塗料の塗布方法はこのようなダイコート法に限定されない。例えばリバースコート法、グラビアコート法、コンマリバースコート法、コンマダイレクトコート法、バーコート法など、バックアップロールで金属箔を支持した状態で、金属箔のバックアップロールとは反対側の面に塗料を塗布する各種塗布方法に本発明を適用することができる。
【0045】
上記の実施形態1,2では、非塗布領域を形成するために塗料の供給を中断したが、非塗布領域を形成する方法はこれに限定されない。例えば、金属箔とコータ(実施形態1,2ではダイコータ20)との間隔(即ち、コーティングギャップ)を拡大することにより非塗布領域を形成してもよい。
【0046】
上記の実施形態1,2では、バックアップロール及びコータ(実施形態1,2ではダイコータ20)は、金属箔10を上下方向に挟むように配置されていたが、これらの配置は任意に変更することができる。
【0047】
塗膜と塗膜との間の非塗布領域に、当該塗膜とは異なる材料からなる塗膜を形成してもよい。
【0048】
本発明は、帯状の金属箔上に塗膜を断続的に形成する場合に限定されず、連続的に形成する場合にも適用することができる。この場合には非塗布領域は形成されないので不所望付着という課題は発生しないが、塗膜の厚み不良という課題を改善することができる。
【0049】
本発明によって得られた塗膜付き金属箔は、リチウムイオン二次電池の正極及び負極に限定されず、多様な分野に使用することができる。
【0050】
本発明の金属箔は、図8Bに例示したような弛みを有する金属箔である必要はなく、このような弛みを実質的に有しない金属箔であってもよい。弛みを有しない金属箔であっても、金属箔に空気が随伴して金属箔とバックアップロールとの間に空気層が形成されて、コーティングギャップが狭くなる場合がある。本発明は、このような場合にも上述した効果を奏する。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
実施形態1(図1参照)で説明した塗布装置を用いて、帯状の金属箔10の片面に塗料25を断続的に塗布した。金属箔10として厚さ15μm、幅1000mmの、特に大きな弛みを有するアルミニウム箔を用いた。塗料25としてリチウムイオン二次電池の正極活物質含有塗料として一般的な塗料を用いた。金属箔10に長手方向に480Nの張力をかけながら16m/分で連続的に走行させた。ダイコータ20のリップ先端22とバックアップロール30との間の間隔を140μmとした。ダイコータ20からの塗料25の吐出/停止を繰り返すことにより、金属箔10の長手方向に、長さ350mmの塗膜、長さ20mmの非塗布領域を交互に形成した。塗布した塗料25を公知の方法で乾燥させて、塗布膜付き金属箔を得た。
【0052】
減圧装置40の排気口42からの吸引圧力を0.00、0.17、0.20、0.22、0.60、0.68kPaの6通りに変えた。それぞれの吸引圧力下で得られた塗布膜付き金属箔について、連続する10個の非塗布領域のうち目視にて塗料が付着していると認められる非塗布領域の数を数え、その割合を不所望付着の発生確率(%)として求めた。結果を図3に示す。
【0053】
図3に示されているように、不所望付着の発生確率は、減圧装置40の吸引圧力が大きくなるほど低減した。本実施例の条件では、吸引圧力が0.68kPaのとき不所望付着が発生しなかった。
【0054】
(実施例2)
厚さ15μm、幅1000mmで、弛みが実施例1より相対的に小さな金属箔10の片面に、実施例1と同様にして塗布膜付き金属箔を製造した。但し、本実施例では、減圧装置40の排気口42からの吸引圧力を0.00kPa及び0.68kPaの2通りに変え、それぞれの吸引圧力において、金属箔10に印加する引っ張り応力を0〜25N/mm2の間で変更した。各条件で得られた塗布膜付き金属箔について非塗布領域への塗料の付着の有無(即ち、不所望付着の発生の有無)を調べた。結果を図4に示す。
【0055】
図4に示されているように、不所望付着の発生の有無は、吸引圧力と金属箔への印加応力とによって影響を受けた。そして、不所望付着を発生させないためには、吸引圧力が0.00kPaのときは金属箔10に16N/mm2以上の応力を印加する必要があるのに対して、吸引圧力が0.68kPaのときは金属箔10に10N/mm2以上の応力を印加すれば十分であった。
【0056】
金属箔は弾性係数が小さいので、大きな応力を印加してもその弛みを解消することは困難であり、応力が大きすぎると金属箔が破断してしまうことがある。図4に示されているように、減圧装置40を用いることにより、不所望付着が発生する、金属箔への印加応力の下限値を低下させることができる。従って、不所望付着の発生と金属箔の破断とをともに防止することができる条件範囲を拡大することができる。
【0057】
なお、図4に示された不所望付着が発生しないための吸引圧力及び応力の数値範囲は一例に過ぎない。これらの数値範囲は、金属箔や塗布条件などが異なれば図4と異なるものとなることは容易に推測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の利用分野は特に制限はなく、バックアップロールで支持されながら走行する金属箔に塗料を塗布するあらゆる用途に利用することができる。特に、リチウムイオン二次電池の正極及び負極の製造に好ましく利用することができる。本発明は、金属箔の走行速度が速くなっても、また、金属箔の幅が大きくなっても、塗布厚み不良や不所望付着の発生を抑制することができるので、塗膜付き金属箔の生産性を向上させることができ、その工業的価値は大きい。
【符号の説明】
【0059】
10 金属箔
20 ダイコータ(コータ)
21 スロット
25 塗料
30 バックアップロール
40 減圧装置
50 粘着ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の金属箔をバックアップロールで支持しながら走行させ、前記金属箔の前記バックアップロールとは反対側の面に塗料を塗布する工程を含む塗膜付き金属箔の製造方法であって、
前記金属箔が前記バックアップロールの外周面に接触し始める地点を含み、且つ、前記地点よりも前記金属箔の走行方向の上流側の前記金属箔と前記バックアップロールの外周面とで形成された空間を減圧しながら、前記塗料を塗布することを特徴とする塗膜付き金属箔の製造方法。
【請求項2】
前記塗料をダイコータのスロットから吐出させ前記金属箔に塗布する請求項1に記載の塗膜付き金属箔の製造方法。
【請求項3】
前記塗料を前記金属箔に断続的に塗布する請求項1又は2に記載の塗膜付き金属箔の製造方法。
【請求項4】
粘着性を有する外周面を備えた粘着ロールを前記バックアップロールの外周面に接触させる請求項1〜3のいずれかに記載の塗膜付き金属箔の製造方法。
【請求項5】
前記金属箔が二次電池の電極に使用される集電体であり、前記塗料が二次電池の電極に使用される活物質又は絶縁材料を含む請求項1〜4のいずれかに記載の塗膜付き金属箔の製造方法。
【請求項6】
帯状の金属箔を支持しながら走行させるバックアップロールと、
前記バックアップロールと対向して配置され、前記金属箔の前記バックアップロールとは反対側の面に塗料を塗布するコータと、
前記バックアップロールよりも前記金属箔の走行方向の上流側に配置された減圧装置と
を備え、
前記減圧装置は、前記金属箔が前記バックアップロールの外周面に接触し始める地点を含み、且つ、前記地点よりも前記金属箔の走行方向の上流側の前記金属箔と前記バックアップロールの外周面とで形成された空間を減圧することを特徴とする塗布装置。
【請求項7】
前記コータが、塗料を吐出するスロットを備えたダイコータである請求項6に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記塗料を前記金属箔に断続的に塗布することができる請求項6又は7に記載の塗布装置。
【請求項9】
粘着性を有する外周面を有し、前記バックアップロールの外周面に接触して前記バックアップロールとともに回転する粘着ロールを更に備える請求項6〜8のいずれかに記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−204565(P2011−204565A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72390(P2010−72390)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】