説明

塗装方法及び塗装システム

【課題】水系中塗り塗料と水系上塗り塗料とをウェットオンウェットで塗装したのちこれらを同時に硬化させる場合に、中塗り塗膜層と上塗り塗膜層との混層を防止して上塗り塗膜の平滑性を確保できる塗装方法を提供する。
【解決手段】水平部と垂直部とを有する被塗物に水系中塗り塗料を塗装したのち、ウェットオンウェットで水系上塗り塗料を塗装し、これにより形成される中塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを同じ工程で硬化させる塗装方法であって、被塗物の水平部に中塗り塗料を塗装する水平部中塗り塗装工程51と、被塗物の垂直部に中塗り塗料を塗装する垂直部中塗り塗装工程52とを含み、水平部中塗り塗装工程において、中塗り塗料を、塗装ブースの一般湿度より高い湿度雰囲気で前記被塗物に塗着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディ等に適用して好ましい塗装方法に関し、特に水系中塗り塗料と水系上塗り塗料とをウェットオンウェットで塗装し、これを同時に硬化させる塗装方法及び塗装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディの塗装系は、エポキシ系樹脂を主成分とする電着塗料と、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂又はアルキド樹脂を主成分とする中塗り塗料と、同じくポリエステル系塗料、アクリル樹脂又はアルキド樹脂を主成分とする上塗り塗料の3種の塗料を用い、電着塗装(下塗り塗装)を施したのちこれを焼き付け、硬化した電着塗膜の上に中塗り塗装を施したのちこれを焼き付け、硬化した中塗り塗膜の上に上塗り塗装を施したのちこれを焼き付けることで完成する、いわゆる3コート3ベーク系の塗装方法が採用されている。
【0003】
ところが、こうした3コート3ベーク塗装系では、電着塗装工程、中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程のそれぞれに乾燥炉が必要とされるので、乾燥炉を設置するための広い工程スペースが必要となり、また乾燥炉で消費されるエネルギが自動車の生産コストに反映するといった問題があった。
【0004】
そこで、これら3つの工程に設けられた乾燥炉を2つ以下に減じて上記問題を解決するために、中塗り塗料と上塗り塗料とをウェットオンウェットで塗装したのち、これらを同時に一つの乾燥炉で焼き付け硬化させることが検討されている(特許文献1参照)。
【0005】
ところで、こうした工程短縮化の課題とは別に、環境対策の観点から有機溶剤系塗料を水系塗料に変更することが検討、実用化されている。特に、溶剤分が多い(樹脂固形分が小さい)上塗りベース塗料を水系塗料に切り替えると環境対策効果が大きいので、上塗りベース塗料を始めとして、次に中塗り塗料の水系化が検討されている。この種の水系塗料は、未硬化塗膜からの水分蒸発速度が有機溶剤系塗料に比べて遅いので、未硬化状態の中塗り塗膜の表面に上塗り塗料を塗布したときに、上塗り塗料中に含まれる水分が中塗り塗膜中に移行し、中塗り塗膜と上塗り塗膜の境界部分が混合され(この現象を混層ともいう。)、その結果、鮮映性に代表される上塗り塗膜の平滑性が低下するといった問題があった。
【0006】
また、中塗り塗装と上塗り塗装とをウェットオンウェットで塗装し、これらを同時に焼き付ける塗装系では、中塗り塗膜による電着塗膜の表面凹凸の隠蔽性が3コート3ベーク塗装系に比べて低いという問題があった。これは、3コート3ベーク塗装系では、中塗り塗膜を焼付け硬化させる際の熱フローにより表面の平滑化が期待できるのに対し、中塗り塗装と上塗り塗装とをウェットオンウェットで行う塗装系では、焼付け硬化させる際に上塗り塗膜が形成されているので、中塗り塗膜の熱フローによる平滑化が期待できないからである。この結果、上塗り塗膜の平滑性が低下するといった問題があった。
【特許文献1】特開2002−153805号公報
【発明の開示】
【0007】
本発明は、水系中塗り塗料と水系上塗り塗料とをウェットオンウェットで塗装したのちこれらを同時に硬化させる場合に、中塗り塗膜層と上塗り塗膜層との混層を防止して上塗り塗膜の平滑性を確保できる塗装方法及び塗装システムを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の塗装方法は、水平部と垂直部とを有する被塗物に水系中塗り塗料を塗装したのち、ウェットオンウェットで水系上塗り塗料を塗装し、これにより形成される中塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを同じ工程で硬化させる塗装方法であって、前記被塗物の水平部に中塗り塗料を塗装する水平部中塗り塗装工程と、前記被塗物の垂直部に中塗り塗料を塗装する垂直部中塗り塗装工程とを含み、前記水平部中塗り塗装工程において、前記中塗り塗料を、塗装ブースの一般湿度より高い湿度雰囲気で前記被塗物に塗着させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の塗装システムは、水平部と垂直部とを有する被塗物に水系中塗り塗料を塗装したのち、ウェットオンウェットで水系上塗り塗料を塗装し、これにより形成される中塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを同じ工程で硬化させる塗装システムであって、前記被塗物の水平部に中塗り塗料を塗装する水平部中塗り塗装手段と、前記被塗物の垂直部に中塗り塗料を塗装する垂直部中塗り塗装手段とを含み、前記水平部中塗り塗装手段は、前記中塗り塗料を、塗装ブースの一般湿度より高い湿度雰囲気で前記被塗物に塗着させることを特徴とする。
【0009】
本発明では、特に被塗物の水平部に中塗り塗料を塗装する際に、塗着時の湿度雰囲気を塗装ブースの一般湿度より高い雰囲気中で実施する。ここで、塗装ブースの一般湿度とは、塗装ブースの主たる部位、特に被塗物周辺の湿度を意味する。
【0010】
中塗り塗料の塗着時の湿度雰囲気を高くすることで、塗装ガンから噴霧されてから塗着する直後までの間、すなわち塗粒が飛行している間の溶剤の蒸発が抑制され、これにより塗着粘度を通常よりも低く維持することができる。そして、塗着粘度が低いと未硬化塗膜のフロー性が発揮され、これにより下地隠蔽性が向上する。これに対して、塗着後は塗装ブースの一般湿度雰囲気に曝されるので、好適に溶剤分が蒸発し、これにより上塗り塗膜層との混層が防止され、上塗り塗膜層の鮮映性が向上する。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る自動車ボディの塗装方法を示す工程図、図2は本発明の実施形態に係る自動車ボディの塗装方法により形成される積層塗膜を示す断面図、図3は本発明の実施形態に係る自動車ボディの塗装方法を実施する塗装工程全体の一例を示す平面図、図4は本発明の実施形態に係る自動車ボディの塗装方法を実施する中上塗り工程の一例を示す平面図、図5は本発明の実施形態に係る垂直部中塗り手段の一例を示す図、図6は本発明の実施形態に係る水平部中塗り手段の一例を示す図である。
【0012】
本発明に係る自動車ボディの塗装方法は、中塗り塗料と上塗り塗料とをウェットオンウェットで塗装し、これにより形成された未硬化の中塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを同じ乾燥炉で同時に硬化させる工程を有する塗装方法であればよい。代表的な実施形態を以下に説明するが、本発明に係る自動車ボディの塗装方法はこれらの実施形態にのみ限定される趣旨ではなく、したがって、これらの実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0013】
なお本明細書において、被塗物に塗布する材料を塗料といい、この塗料を塗布することにより被塗物表面に形成される層であって硬化前を未硬化塗膜層、硬化後を硬化塗膜層、これら未硬化塗膜層及び硬化塗膜層を総称して塗膜層という。
【0014】
本実施形態に係る積層塗膜は、図2に示すように被塗物である自動車ボディ101(図4においてはBで表す。)の表面に形成された電着塗膜層102と、この電着塗膜層102の表面に形成された中塗り塗膜層103と、この中塗り塗膜層103の表面に形成されたベース塗膜層104と、このベース塗膜層104の表面に形成されたクリヤ塗膜層105とから構成されている。
【0015】
被塗物である自動車ボディ101としては、鋼板やアルミニウム板などの各種金属材料製部材のほか、プラスチック製部材も適用することができ、自動車ボディの外板や内板が塗装対象部位となる。この自動車ボディを図1に示す前処理工程1に搬入し、ここでアルカリ洗浄液などを用いて自動車ボディに付着した油分を脱脂洗浄したのち、自動車ボディの表面にリン酸亜鉛の化成皮膜を形成する。
【0016】
次いで、化成皮膜が形成された自動車ボディは、図1に示す電着塗料塗布工程2に搬入され、ここでカチオン型電着塗料又はアニオン型電着塗料が満たされた電着槽に自動車ボディを浸漬し、自動車ボディと電着塗料との間に所定の電圧を印加することで、電気泳動作用により未硬化の電着塗膜層102が自動車ボディ101の表面に形成される。続く電着水洗工程3では、自動車ボディの表面に付着した余分な電着塗料を、工業用水や純水を用いてスプレーやディッピングすることで洗い流すとともに、洗い流された電着塗料を回収して再利用する。
【0017】
次いで、電着水洗工程3を終了した自動車ボディを、電着硬化工程4である電着乾燥炉に搬入し、たとえば160℃〜180℃で15分〜30分焼き付けることで硬化した電着塗膜層102が得られる。自動車ボディの仕様や部位によっても相違するが、電着塗膜層102の膜厚はたとえば10〜40μmである。
【0018】
中塗り塗膜層103は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂などを主成分とし、これに着色材、添加剤を添加してなる熱硬化型塗料又は常温硬化型塗料もしくは2液硬化型塗料であって、水を溶剤とする水系塗料である。そして、この塗料を水で希釈したものを、図1に示す水平部中塗り塗布工程51及び垂直部中塗り塗布工程52においてスプレー塗装ガンや回転霧化式塗装ガンなどの塗装機を用いて電着塗膜層102の表面に塗装する。
【0019】
特に本例の水平部中塗り塗布工程51では、自動車ボディの主として水平部(フード、ルーフ、トランクリッドなど)に中塗り塗料を塗装し、垂直部中塗り塗布工程52では、自動車ボディの主として垂直部(フェンダ、ドア、クォータなど)に中塗り塗料を塗装する。ここで、水平部中塗り塗装工程51で塗装する中塗り塗料は、塗装ブースの一般湿度より高い湿度雰囲気で水平部に塗着させる一方で、垂直部中塗り塗装工程52で塗装する中塗り塗料は、塗装ブースの一般湿度以下の湿度雰囲気で垂直部に塗着させる。なお、塗装ブースの一般湿度とは、塗装ブースの主たる部位である被塗物周辺の平均湿度を意味する。
【0020】
換言すれば、塗装前の調合された状態では水平部中塗り塗装工程51で使用する中塗り塗料も垂直部中塗り塗装工程52で使用する中塗り塗料も同じ塗料希釈率(塗料固形分が同じ)であるが、塗装ガンから噴霧されてから被塗物に塗着するまでの雰囲気の湿度を、水平部中塗り塗装工程51では塗装ブースの湿度より、たとえば20ポイント以下の範囲で高く設定する。すなわち、塗装ブースの一般湿度が70%RHであれば、水平部中塗り塗装工程51における塗粒の飛行中の湿度雰囲気をたとえば80%RHとする。具体的には、垂直部中塗り塗布工程で塗装される中塗り塗料と同じ中塗り塗料に対して、水平部中塗り塗装工程51の回転霧化式ベル型塗装ガンのシェーピングエアー湿度を塗装ブースの一般湿度より高くなるように設定する。
【0021】
これに対して、垂直部中塗り塗装工程52においては、塗装ブースの一般湿度が70%RHであれば、塗粒の飛行中の湿度雰囲気は70%RH以下、たとえば50%RHとする。
【0022】
これは以下の理由による。すなわち、図8は従来の3コート2ベーク塗装系の鮮映性と従来の3コート3ベーク塗装系の鮮映性とを比較したグラフであるが、同図に示す結果から、中塗り塗料と上塗り塗料とをウェットオンウェットで塗装すると、被塗物の垂直部に比べて水平部における鮮映性の低下が著しいことが理解される。また、図9は中塗り塗着粘度と鮮映性との関係を確認した実験結果の一例であるが、同図に示す結果から、中塗り塗着粘度が小さいほど塗着時の塗膜のフロー性が高くなるので下地隠蔽性が高まり、その結果、鮮映性が高くなって上塗り塗膜層の平滑性が良好となることが理解される。ただし、塗着粘度が低くなるとタレの発生が懸念される。
【0023】
本例では、自動車ボディの水平部は垂直部に比べてタレの発生が少なく、また中塗り・上塗りウェットオンウェット化にともなう鮮映性の低下が顕著であることに着目し、水平部中塗り塗装工程51では、鮮映性が0.8を超える範囲、たとえば中塗り塗着粘度が160〜180Pa・sとなるようにシェーピングエアーの湿度を調整することで塗着粘度を低くする一方で、垂直部中塗り塗装工程52ではシェーピングエアーの湿度を塗装ブースの湿度以下にすることでタレの発生を抑制する。
【0024】
図6にこの水平部中塗り手段(中塗り塗装装置)の一例を示す。図5は垂直部中塗り手段(中塗り塗装装置)の一例を示す図であり、調合された中塗り塗料を塗料タンク522に収容し、塗料配管を介して塗料ポンプ523にて回転霧化式ベル型塗装ガン521へ圧送する。この塗装ガン521へは、シェーピングエアー源524からエアー配管を介してシェーピングエアーを供給し、その供給量は流量調節弁525にて調整される。
【0025】
これに対して、図6に示す水平部中塗り手段は、図5に示す塗料タンク522に収容された中塗り塗料と同じ条件で調合された中塗り塗料を塗料タンク512に収容し、塗料配管を介して塗料ポンプ513にて回転霧化式ベル型塗装ガン511へ圧送するとともに、この塗装ガン511へは、シェーピングエアー源514からエアー配管を介してシェーピングエアーを供給し、その供給量は流量調節弁515にて調整する。そして、このエアー配管の途中に加湿器516を接続し、シェーピングエアーの湿度を制御する。また、加湿器516との接続部の下流側のエアー配管に湿度センサ517を設けるとともに、塗装ブースに一般湿度を検出する湿度センサ518を設け、これら湿度センサ517,518の出力信号を加湿器516のコントローラに送出する。そして、塗装ガン511に供給されるシェーピングエアーの湿度が塗装ブースの一般湿度より所定値だけフィードバック制御する。たとえば、塗装ブースの相対湿度より高く、20ポイント以下の相対湿度のシェーピングエアーを塗装ガン511へ供給する。
【0026】
図7(A)は、水平部中塗り手段の塗装ガン511を拡大して示す図であり、ベルカップ511Aの先端から吐出した塗粒はエアー吹出リング511Bから吹き出されたシェーピングエアーによって被塗物方向に運ばれ、同図(B)に示すように被塗物に塗着するが、このベルカップ511Aから被塗物までの飛行期間中、塗粒は常にシェーピングエアーの雰囲気中にあることになる。したがって、シェーピングエアーの湿度雰囲気で塗着することになる。
【0027】
図1および図2に戻り、水平部中塗り塗布工程51及び垂直部中塗り塗布工程52にて中塗り塗膜層103を形成したら、この塗膜層に含まれた溶剤分を蒸発させるために自動車ボディを加熱する(中塗りプレヒート工程53)。この中塗りプレヒート工程53では、ランプや熱風送風機などの熱源を用いて自動車ボディの水平部や垂直部を、中塗り塗料の硬化温度より低い温度で加熱する。
【0028】
中塗りプレヒート工程53における加熱条件は特に限定されないが、たとえば中塗り塗膜層103の塗着固形分が所定値(たとえば80重量%)に達するまでとしたり、中塗り塗着膜粘度が所定値(たとえば600〜800Pa・s前後)になるまでとしたりする。
【0029】
図4は、本実施形態に係る中上塗り塗装ブース5A及び中上塗り乾燥炉62を示す平面図であり、被塗物である自動車ボディBは図の左からブース5A内に搬入され、フロアコンベアCによって図の右方向に定速で搬送される。中上塗りブース5Aと中上塗り乾燥炉62との間の61は中塗り塗料及び上塗り塗料を塗布した後のセッティング室である。
【0030】
中上塗り塗装ブース5Aの入口にはボディBのワイピングを行うための準備室が設けられ、その次に、ボディBの主として水平部を塗装するためのレシプロ塗装機51AとボディBの主として垂直部を塗装するための左右一対のレシプロ塗装機52Aとを有する中塗り塗装機が設けられている。各レシプロ塗装機の先端には、上述した回転霧化式塗装ガンが装着され、ここからボディBに向かって中塗り塗料が噴霧されるが、レシプロ塗装機51Aには図6に示す中塗り手段が設けられ、レシプロ塗装機52Aには図5に示す中塗り手段が設けられている。
【0031】
そして、この中塗り塗装機の後に中塗りプレヒート工程53でボディを加熱するためのランプ又は熱風送風機53Aが設けられている。なお、中塗りプレヒート工程53に代えて1〜2分程度のフラッシュオフをおくことで中塗りベース塗膜層103に含まれた溶剤分を蒸発させることもできる。
【0032】
図1および図2に戻り、中塗りプレヒート工程を終了したら、次の上塗りベース塗布工程54にてボディの内外板に上塗りベース塗料を塗布する。上塗りベース塗料は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂などを主成分とし、これに着色材、光輝材、各種添加剤を添加してなる熱硬化型塗料又は常温硬化型塗料もしくは2液硬化型塗料であって、水系塗料である。そして、この塗料を水で希釈したものを、図1に示す上塗りベース塗布工程54においてスプレー塗装ガンや回転霧化式塗装ガンなどの塗装機を用いて中塗り塗膜層103の表面に塗装する。これにより上塗りベース塗膜層104が形成される。自動車ボディ101の仕様や部位によっても相違するが、上塗りベース塗膜層104の膜厚はたとえば10〜30μmである。
【0033】
上塗りベース塗布工程54は、図4に示すようにボディBの主として水平部を塗装するためのレシプロ塗装機とボディBの主として垂直部を塗装するための左右一対のレシプロ塗装機とを有する上塗り塗装機54Aを2ステージ配設することで構成することができる。なお、上塗り塗膜がソリッド系塗膜である場合にはこの上塗りベース塗布工程54の塗装機54Aは回送となる。
【0034】
上塗りベース塗料を塗布したら、上塗りプレヒート工程55で上塗りベース塗膜層104に含まれた溶剤分を蒸発させるために自動車ボディを加熱する。この上塗りプレヒート工程55では、ランプや熱風送風機などの熱源を用いて自動車ボディの水平部や垂直部を、上塗りベース塗料の硬化温度より低い温度で加熱する。なお、上塗りプレヒート工程55に代えて1〜2分程度のフラッシュオフをおくことで上塗りベース塗膜層104に含まれた溶剤分を蒸発させることもできる。
【0035】
次のクリヤ塗布工程56ではボディの内外板にクリヤ塗料を塗布する。クリヤ塗料は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂などを主成分とし、これに各種添加剤を添加してなる熱硬化型塗料又は常温硬化型塗料もしくは2液硬化型塗料であって、この塗料を溶剤で希釈したものを、図1に示すクリヤ塗布工程56においてスプレー塗装ガンや回転霧化式塗装ガンなどの塗装機を用いて上塗りベース塗膜層104の表面に塗装する。これにより透明のクリヤ塗膜層105が形成される。自動車ボディ101の仕様や部位によっても相違するが、クリヤ塗膜層105の膜厚はたとえば10〜40μmである。なお、本発明に係るクリヤ塗料は水系塗料及び有機溶剤系塗料の何れをも用いることができる。
【0036】
クリヤ塗布工程56は、図4に示すようにボディBの主として水平部を塗装するためのレシプロ塗装機とボディBの主として垂直部を塗装するための左右一対のレシプロ塗装機とを有する上塗り塗装機56Aを2ステージ配設することで構成することができる。
【0037】
クリヤ塗料を塗布したら、セッティング室61を通過させることで数分の静置を経たのちボディを中上塗り硬化工程6(図4に示す中・上塗り乾燥炉62)に搬入し、先に塗布して形成した中塗り塗膜層103、上塗りベース塗膜層104及びクリヤ塗膜層105を、同時に、たとえば120℃〜160℃で10分〜30分焼き付ける。
【0038】
以上により、自動車ボディ101の表面に、電着塗膜層102、中塗り塗膜層103、上塗りベース塗膜層104及びクリヤ塗膜層105の各硬化塗膜が形成される。
【実施例】
【0039】
以下、本発明をさらに具体化して説明する。
【0040】
実施例1
板厚0.75mm,大きさ70mm×150mmのダル鋼鈑テストピースに、脱脂洗浄およびリン酸亜鉛化成被膜処理を施し、これを水洗したのち、カチオン電着塗料(関西ペイント社製NT−100B)を400Vの電圧で3分間電着塗装した。これを水洗したのち170℃×30分保持の条件で焼き付けた。電着膜厚は20μmであった。
【0041】
この電着塗膜の上に、ポリエステルメラミン系中塗り塗料(塗料固形分48%、日本油脂BASFコーティングス社製アクアGXシーラー)を、テストピースを水平に維持した状態で、回転霧化式ベル型塗装ガン(サメス社製PPH607)を用いてシェーピングエアーの湿度を80%RHに調整し、乾燥膜厚で30μmとなるように塗装した。このときの塗装ブースの温度は24℃、湿度は70%RHであった。このとき別に用意したテストピースを用いて、塗着1分後の塗膜固形分、塗膜粘度を測定した。
【0042】
2分のフラッシュオフの後、中塗り塗膜の上に、アクリルメラミン系上塗りベース塗料(塗料固形分20%、日本ペイント社製スーパーラックM180)と溶剤系酸アクリル・エポキシ系クリヤ塗料(塗料固形分51%、日本ペイント社製マックフローO−590)をウェットオンウェットで塗装し、中塗り塗膜層、上塗りベース塗膜層及クリヤ塗膜層を140℃×30分保持で同時に焼き付けた。ベース塗膜の膜厚は15μm、クリヤ塗膜の膜厚は40μmであった。
【0043】
得られた塗板の鮮映性をPGD計(財団法人日本色彩研究所製PGD−TV)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0044】
実施例2
中塗り塗料、上塗りベース塗料及びクリヤ塗料を塗装する際にテストピースを垂直(鉛直)に配置し、中塗り塗料を塗装する際のシェーピングエアーの湿度を50%RHとした以外は、実施例1と同じ条件で塗装した。この結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
中塗り塗料を塗装する際のシェーピングエアーの湿度を50%RHとした以外は、実施例1と同じ条件で塗装した。この結果を表1に示す。
【表1】

【0046】
この結果から明らかなように、シェーピングエアーを塗装ブースの湿度より加湿して水平部に塗装した実施例1の塗膜は、比較例1に比べて0.90ときわめて良好な鮮映性を示した。また、シェーピングエアーを塗装ブースの湿度より除湿して垂直部に塗装した実施例2の塗膜にはタレは発見されず、また鮮映性も良好な値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る自動車ボディの塗装方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施形態に係る自動車ボディの塗装方法により形成される積層塗膜を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る自動車ボディの塗装方法を実施する塗装工程全体の一例を示す平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る自動車ボディの塗装方法を実施する中上塗り工程の一例を示す平面図である。
【図5】本発明に係る垂直部中塗り手段の一例を示す図である。
【図6】本発明に係る水平部中塗り手段の一例を示す図である。
【図7】本発明に係る塗装ガンの一例を示す図である。
【図8】従来の3コート2ベーク塗装系の鮮映性と従来の3コート3ベーク塗装系の鮮映性とを比較したグラフである。
【図9】中塗り塗着膜粘度と鮮映性との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1…前処理工程
2…電着塗料塗布工程
3…電着水洗工程
4…電着硬化工程
5…中上塗り塗装工程
51…水平部中塗り塗布工程
52…垂直部中塗り塗布工程
53…中塗りプレヒート工程
54…上塗りベース塗布工程
55…上塗りプレヒート工程
56…クリヤ塗布工程
6…中上塗り硬化工程
101,B…自動車ボディ
102…電着塗膜層
103…中塗り塗膜層
104…ベース塗膜層
105…クリヤ塗膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平部と垂直部とを有する被塗物に水系中塗り塗料を塗装したのち、ウェットオンウェットで水系上塗り塗料を塗装し、これにより形成される中塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを同じ工程で硬化させる塗装方法であって、
前記被塗物の水平部に中塗り塗料を塗装する水平部中塗り塗装工程と、
前記被塗物の垂直部に中塗り塗料を塗装する垂直部中塗り塗装工程とを含み、
前記水平部中塗り塗装工程において、前記中塗り塗料を、塗装ブースの一般湿度より高い湿度雰囲気で前記被塗物に塗着させることを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記水平部中塗り塗装工程において、回転霧化式ベル型塗装ガンを用いて前記中塗り塗料を塗装するとともに、前記回転霧化式ベル型塗装ガンのシェーピングエアーの湿度を前記塗装ブースの一般湿度より高くすることを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
前記シェーピングエアーの湿度を前記塗装ブースの一般相対湿度より高く、かつ20ポイント以下にすることを特徴とする請求項2記載の塗装方法。
【請求項4】
前記シェーピングエアーの相対湿度を70〜90%の範囲内にて、前記塗装ブースの一般相対湿度に応じて制御することを特徴とする請求項2又は3記載の塗装方法。
【請求項5】
前記垂直部中塗り塗装工程において、前記中塗り塗料を、塗装ブースの一般湿度以下の湿度雰囲気で前記被塗物に塗着させることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の塗装方法。
【請求項6】
前記水平部中塗り塗装工程及び前記垂直部中塗り塗装工程にて形成された中塗り塗膜層に含まれた水分を蒸発させる中塗りプレヒート工程を有することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の塗装方法。
【請求項7】
水平部と垂直部とを有する被塗物に水系中塗り塗料を塗装したのち、ウェットオンウェットで水系上塗り塗料を塗装し、これにより形成される中塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを同じ工程で硬化させる塗装システムであって、
前記被塗物の水平部に中塗り塗料を塗装する水平部中塗り塗装手段と、
前記被塗物の垂直部に中塗り塗料を塗装する垂直部中塗り塗装手段とを含み、
前記水平部中塗り塗装手段は、前記中塗り塗料を、塗装ブースの一般湿度より高い湿度雰囲気で前記被塗物に塗着させることを特徴とする塗装システム。
【請求項8】
前記水平部中塗り塗装手段は、回転霧化式ベル型塗装ガンを含み、当該回転霧化式ベル型塗装ガンのシェーピングエアーの湿度は、前記塗装ブースの一般湿度より高いことを特徴とする請求項7記載の塗装システム。
【請求項9】
前記シェーピングエアーの湿度は、前記塗装ブースの一般相対湿度より高く、かつ20ポイント以下であることを特徴とする請求項8記載の塗装システム。
【請求項10】
前記シェーピングエアーの相対湿度を70〜90%の範囲内にて、前記塗装ブースの一般相対湿度に応じて制御する湿度制御手段を有することを特徴とする請求項8又は9記載の塗装システム。
【請求項11】
前記垂直部中塗り塗装手段は、前記中塗り塗料を、塗装ブースの一般湿度以下の湿度雰囲気で前記被塗物に塗着させることを特徴とする請求項7〜10の何れかに記載の塗装システム。
【請求項12】
前記水平部中塗り塗装手段及び前記垂直部中塗り塗装手段により形成された中塗り塗膜層に含まれた水分を蒸発させる中塗りプレヒート手段を有することを特徴とする請求項7〜11の何れかに記載の塗装システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−181499(P2006−181499A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378893(P2004−378893)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】