説明

塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネル

【課題】耐塩酸性に優れる塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネル等を提供する。
【解決手段】鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、塩基性顔料を含有しない下塗り塗膜を形成し、この下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が30μm以下である耐塩酸性に優れた塗装鋼板であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系めっき層およびクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に特定の皮膜構造を持つ下塗り塗膜と、上塗り塗膜を形成した、耐塩酸性に優れる塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネルに関するものである。本発明の塗装鋼板は、例えば液晶テレビやプラズマテレビのような薄型テレビ用パネルで代表されるAV機器などの素材として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
通常、プレコート鋼板では、外面側下塗り塗料に主として変性ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂を使用することで、下地鋼板との密着性、耐食性などを確保し、また、外面側上塗り塗料にポリエステル系、アクリル系塗料などを使用することで、主として耐汚染性、意匠性、耐傷付き性、バリア性などを付与している。
【0003】
また、プレコート鋼板には、高硬度、高加工性、耐汚染性、耐薬品性、耐水性、耐食性などの多くの性能が要求される。なかでも塗装・焼付けを行った後にプレス加工が施されるプレコート鋼板にとって、加工性、特にプレス加工性は非常に重要な性能である。ここでいうプレス加工性とは、平らな金属板から種々の形状に加工していく際の折曲げ、絞り、切断などの工程において塗膜の損傷が少ないことを指し、比較的温和な曲げ加工などの加工においては、塗膜自身の伸びや柔軟性の程度が大きいほど加工性は良好となるが、絞り加工のような厳しいプレス加工では塗膜の伸びや柔軟性のみならず、変形や加工時の応力に耐え得る強度と耐傷付き性も重要となってくる。
【0004】
このようなプレコート鋼板の要求特性に対して、例えば、特許文献1では、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂(硬化剤)、防錆顔料、有機高分子微粒子などを配合した塗料を塗装することにより、1コートで加工性、耐食性、密着性、耐衝撃性、対スクラッチ性、意匠性を満足させる塗装鋼板が提案されている。
【特許文献1】特開平9−111183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された塗装鋼板は、化成皮膜としてクロムを含有するクロメート系皮膜を用いることを想定しており、これは環境上好ましくなく、また、下塗り塗膜中に添加されている防錆顔料や着色顔料は塩基性であることから、塩酸等の酸と接触した場合の耐性が不十分であることも問題となっている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、上記のような従来技術の課題を解決し、鋼板の両面に、亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、特定の皮膜構造を有する下塗り塗膜と、上塗り塗膜を形成することで、従来の性能を維持しつつ、耐塩酸性に優れた塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決して優れた性能の塗膜の塗装鋼板を得るために検討を重ねた結果、鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、塩基性顔料を含有しない下塗り塗膜を形成し、この下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成することにより、従来の性能を維持しつつ、耐塩酸性に優れた塗装鋼板が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、塩基性顔料を含有しない下塗り塗膜を形成し、この下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が30μm以下であることを特徴とする耐塩酸性に優れた塗装鋼板。
【0009】
(2)前記下塗り塗膜は、エポキシ変性ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびウレタン樹脂の中から選択される少なくとも1種を含有する上記(1)記載の塗装鋼板。
【0010】
(3)前記下塗り塗膜の膜厚は、0.5〜5μmであることを特徴とする上記(1)または(2)項記載の塗装鋼板。
【0011】
(4)前記上塗り塗膜の膜厚は、0.5〜15μmであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の塗装鋼板。
【0012】
(5)前記鋼板の他方の面は、導電荷重が500g以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の塗装鋼板。
【0013】
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1項記載の塗装鋼板を用い、該塗装鋼板の前記一方の面が凸表面になるようにプレス加工を施して形成してなる加工品。
【0014】
(7)上記(1)〜(5)のいずれか1項記載の塗装鋼板を用い、該塗装鋼板の前記一方の面が外部に露出する凸表面になるようにプレス加工を施して形成してなる薄型テレビ用パネル。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、塩基性顔料を含有しない下塗り塗膜を形成し、この下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚を30μm以下とすることで、従来の性能を維持しつつ、耐塩酸性に優れた塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネルを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の構成と限定理由を説明する。
本発明の塗装鋼板は、鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、塩基性顔料を含有しない下塗り塗膜を形成し、この下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が30μm以下であることを特徴とする耐塩酸性に優れた塗装鋼板である。
【0017】
(亜鉛系めっき)
本発明の塗装鋼板の下地鋼板となる亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(例えば、溶融亜鉛−55質量%アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−5質量%アルミニウム合金めっき鋼板)、鉄−亜鉛合金めっき鋼板、ニッケル−亜鉛合金めっき鋼板、黒色化処理後のニッケル−亜鉛合金めっき鋼板などの各種亜鉛系めっき鋼板を用いることができる。
【0018】
(化成皮膜)
亜鉛系めっき層を有するめっき鋼板の両面に化成皮膜を形成する。化成皮膜は、環境の観点よりクロムを含有しない化成皮膜とする。この化成皮膜は、主としてめっき層と下塗り塗膜との密着性向上のために形成される。密着性を向上するものであればどのようなものでも支障はないが、密着性だけでなく耐食性を向上できるものがより好ましい。密着性と耐食性の点からシリカ微粒子を含有し、耐食性の点からリン酸及び/又はリン酸化合物を含有することが好ましい。シリカ微粒子は、湿式シリカ、乾式シリカのいずれを用いても構わないが、密着性向上効果の大きいシリカ微粒子、特に乾式シリカが含有されることが好ましい。リン酸やリン酸化合物は、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸など、これらの金属塩や化合物などのうちから選ばれる1種以上を含有すれば良い。さらに、アクリル樹脂などの樹脂、シランカップリング剤などの一種以上を添加しても良い。
【0019】
(下塗り塗膜)
下塗り塗膜は、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、上塗り塗膜の下層として形成される。前記下塗り塗膜は、塩基性顔料を含有しない下塗り塗膜である必要がある。
【0020】
従来の塗装鋼板は、下塗り塗膜中に、例えば、TiO2、Caイオン交換SiO2、Mgイオン交換SiO2、トリポリリン酸Al及びMg処理トリポリリン酸Al等の塩基性顔料を含有しているが、本発明者らは、下塗り塗膜中に塩基性顔料を含有させると、これらが塩酸等の酸に接触した際に、中和反応を起こして溶解する結果、下塗り塗膜の劣化が生じることを見出し、下塗り塗膜として、これら塩基性顔料を含有しない組成をもつ塗膜を用いることで、耐塩酸性に優れた塗装鋼板を完成するに至った。
【0021】
また、前記下塗り塗膜は、エポキシ変性ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びウレタン樹脂の中から選択される少なくとも1種を含有することが、下地鋼板との密着性、耐食性等を確保する上で好ましい。
【0022】
さらに、下塗り塗膜の膜厚は、0.5〜5μmの範囲であることが好ましい。下塗り塗膜の膜厚が0.5μm未満だと、耐食性と化成皮膜との密着性が不十分となるからであり、前記膜厚が5μmを超えると、塗装作業の合理化や省資源化の観点から不利となるからである。
【0023】
(上塗り塗膜)
上塗り塗膜は、前記下塗り塗膜上に形成される。前記上塗り塗膜に含有される有機樹脂としては、ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるが、特に、主として耐汚染性、意匠性、耐傷付き性、バリア性等を付与する点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂を使用することが好ましい。さらに、前記有機樹脂を硬化させるためにメラミン樹脂、尿素またはイソシアネートなどの架橋剤を用いることが、加工性と耐薬品性のバランスの点で好ましい。また、架橋剤は、有機樹脂との合計を100質量部として、1〜50質量部とすることが好ましい。
【0024】
また、前記上塗り塗膜の膜厚は、0.5〜15μmであることが好ましい。膜厚が0.5μm未満または15μm超えの場合、意匠性と耐食性が不十分となるからである。
【0025】
なお、前記下塗り塗膜と前記上塗り塗膜の合計膜厚は30μm以下とする必要がある。従来の塗装鋼板のように塗膜が厚い場合に適用しても構わないが、特に、下塗り塗膜と上塗り塗膜の総膜厚が30μm以下と薄い場合に、上述したような効果が顕著であり、省資源の観点からも有益であるためである。より好ましくは、10μm以下である。上塗り塗膜、下塗り塗膜及び後述する有機樹脂層の膜厚は、断面を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、1視野につき任意の3箇所の膜厚を求め、少なくとも5視野を観察し、合計15箇所以上の平均値とする。
【0026】
また、本発明の塗装鋼板を、例えば薄型テレビ用パネルとして使用する場合には、プレス加工したパネルの内面になる塗装鋼板の裏面は、溶接や電磁波シールド等の必要性から導電性を有することが必要となる。
【0027】
かかる場合には、鋼板の他方の面にも、上述のクロムを含有しない化成処理皮膜を形成することで、従来のクロメート皮膜と同程度の耐食性と密着性を有するとともに、優れた導電性も有すること、具体的には、導電荷重を500g以下とすることが、電磁波シールド性の点で好ましい。さらに好ましいのは、300g以下とすることである。導電荷重は表面抵抗が10-4Ω以下となる最小荷重である。
【0028】
耐食性の要求度がそれほど高くない用途には、この他方の面はクロムを含有しない化成皮膜だけを形成し、特に電磁波シールド性に優れた塗装鋼板として提供できる。
【0029】
また、耐食性の要求度が高い用途には、この他方の面は、化成皮膜の上に有機樹脂層を設けて耐食性を向上させることが好ましい。有機樹脂層の有機樹脂種としてはエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。有機樹脂層はCaイオン交換シリカを含有することがさらに優れた耐食性を得るために好ましい。
【0030】
有機樹脂層の膜厚が0.1μm未満では耐食性に不利となり、また1μm超えでは電磁波シールド性に不利となるので、0.1〜1μmが好ましい。
【0031】
上述の塗装鋼板は、深絞り加工、張り出し加工、曲げ加工のうちのいずれか1以上のプレス加工が施され、さらに電磁波シールド性が要求される電子機器及び家電製品等の用途で使用される部材に好適である。例えばプラズマディスプレーパネルや液晶テレビなどの薄型TVの背面パネルに使用すると、大型のパネルであっても優れた電磁波シールド性が発現される。
【0032】
次に、本発明の塗装鋼板の製造方法について説明すると、本発明の塗装鋼板は、被塗装鋼板である亜鉛系めっき鋼板の両面に先に述べた化成処理を施した後、下塗り塗料を片面または必要に応じて両面に塗布、加熱して、下塗り塗膜を形成した後、前記鋼板の一方の面に、上塗り塗料を塗布、加熱することにより製造される。
【0033】
塗料の塗布方法は特に限定しないが、好ましくはロールコーター塗装で塗布するのがよい。塗料の塗布後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により加熱処理を施し、樹脂を架橋させて硬化させた下塗り塗膜と上塗り塗膜を得る。加熱条件は温度170〜250℃(到達板温)で、時間20〜90秒の処理を行うことが好ましく、これによって下塗り塗膜と上塗り塗膜を形成し、塗装鋼板を製造する。
【0034】
ここで、加熱温度が170℃未満では架橋反応が十分に進まないため、十分な塗膜性能が得られない。一方、加熱温度が250℃を超えると熱による塗膜の劣化が起こり、意匠性が低下し、さらに塗装作業の合理化や省資源化の観点から好ましくない。また、処理時間が20秒未満では架橋反応が十分に進まないため、十分な塗膜性能が得られない。一方、処理時間が90秒を超えると製造コスト面で不利となる。本発明の塗装鋼板は、さらに塗装鋼板裏面(他方の面)の耐食性を高める目的で、前記した有機樹脂層用の塗料を鋼板の他方の面にも同様の方法で塗装するのが好ましい。
【0035】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0036】
本発明の実施例について説明する。
【0037】
(実施例1〜10及び比較例1〜5)
塗装用亜鉛系めっき鋼板として、各々板厚0.5mmの電気亜鉛めっき鋼板(めっき種記号:EG)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(Fe含有率:10質量%、めっき種記号:GA)、溶融亜鉛めっき鋼板(めっき種記号:GI)、溶融Zn−Alめっき鋼板(Al含有率:4.5質量%、めっき種記号:GF)、黒色化電気亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板(Ni含有率:12質量%、めっき種記号:EZNB)及び溶融Zn−Alめっき鋼板(Al含有率:55質量%、めっき種記号:GL)を準備した。めっき鋼板のめっき付着量を表1に示す。なお、鋼板の一方の面(オモテ面)と他方の面(ウラ面)のめっき付着量、及びめっき組成は同一とした。準備しためっき鋼板に脱脂処理を行った後、以下の(I)〜(IV)の処理工程を行い、塗装鋼板を作製した。
【0038】
(I)オモテ面に化成処理液を塗布し、加熱20秒後に到達板温100℃となるように加熱し、表3に示すオモテ面の化成皮膜を形成した。
(II)次に、ウラ面に化成処理液を塗布した後、オモテ面に下塗り塗料を塗布し、加熱30秒後に到達板温が210℃となる加熱処理を行い、表3に示す組成のウラ面の化成皮膜と、表4に示すオモテ面の下塗り塗膜を形成した。
(III)その後、オモテ面に上塗り塗膜として表1に示す組成となるように上塗り塗料を塗布し、ウラ面に必要に応じて表5の組成となるように防錆顔料を添加した有機樹脂塗料を塗布した後、加熱開始から50秒後に到達板温が230℃となる加熱処理を行い、表1と表2に示すオモテ面の上塗り塗膜とウラ面の有機樹脂層を形成した。
【0039】
作製した塗装鋼板のオモテ面、ウラ面の化成皮膜、下塗り塗膜、上塗り塗膜及び有機樹脂層の構成を表1及び表2に示す。
【0040】
以上のようにして得られた塗装鋼板について各種試験を行った。本実施例で行った試験の評価方法を以下に示す。
【0041】
<オモテ面の評価>
(1)光沢度
正反射光沢度計を用いて、JIS K 5600−4−7:1999に規定される60度鏡面光沢度を測定した。
○:20%未満
△:20%以上〜40%未満
×:40%以上
【0042】
(2)鉛筆硬度
三菱鉛筆ユニを使用し、JIS K 5600-5-4:1999に準拠して、試験面に対して約45度の角度で鉛筆を持ち、前方に約1cm/sで約1cm押し出して引っかく。1回引っかくごとに鉛筆の芯先端を研いで同一硬度の鉛筆で5回くり返す。5回のうち3回以上傷付きなしの鉛筆の硬度の最大値で評価を行った。
○:2H
△:H
×:F以下
【0043】
(3)プレス加工性
試験片を100mmφで打ち抜き、ポンチ径50mmφ、ポンチ肩R:4mm、ダイ径:70mmφ、ダイ肩R:4mm、しわ押さえ圧:5ton、オモテ面がポンチ側となるようにして円錐台成形を行った。破断時の成形高さで以下のように評価した。
○:16mm以上
△:14mm超16mm未満
×:14mm以下
【0044】
(4)曲げ加工性
試験片のオモテ面を外側、ウラ面を内側にしてウラ面同士を合わせるように曲げ加工する。その際、ウラ面間に試験片と同板厚の鋼板を1枚、2枚、3枚・・・とウラ面間の距離を変化させて挟み曲げ径Rを変化させて密着曲げ加工する。曲げられた試験片のオモテ面側にクラックが入らない最大板厚枚数で以下のように評価した。
オモテ面側にクラックが入らない最大板厚枚数
○:0〜1枚
△:2〜3枚
×:4枚以上
【0045】
(5)加工後塗膜密着性
前記曲げ加工性の評価に用いた試験片(ウラ面間の距離:1枚)の折り曲げ部分にニチバン(株)製セロハン粘着テープを貼り付け、これを引き剥がした後の剥離状態を評価した。
○:異常なし
×:塗膜剥離あり
【0046】
(6)耐溶剤性
20℃において、キシレンを浸したガーゼを塗膜面に1kg/cm2の荷重をかけて往復させた。下地金属面が見えるまでの往復回数を測定した。
○:100回を超えても下地めっき面が見えない場合
△:下地めっき面が見えない最大回数が100回以下50回超の場合
×:下地めっき面が見えない最大回数が50回以下の場合
【0047】
(7)耐侯性
JIS B 7753-1993に従ってサンシャインカーボンアーク灯式促進耐候性試験機で288時間の試験を行った後、試験面の60度鏡面光沢度を測定し、試験後の試験前に対する光沢度保持率(%)により評価した。その評価基準は以下の通りである。
○:60%以上
×:60%未満
【0048】
(8)耐汚染性
試験片表面にマジックインキ(登録商標)(赤と黒)を塗布し、24時間放置し、エチルアルコールを含浸させた布で拭き取った後の目視による外観で評価した。
○:インキ残存なし
×:インキ残存あり
【0049】
(9)耐塩酸性
30℃、5質量%HCl水溶液に裏面と端面をシールした試験片を24時間浸漬した後、ニチバン(株)製のセロハン粘着テープを貼り付け、これを引き剥がした後の塗膜残存面積率を評価した。
○:塗膜剥離なし
×:塗膜剥離あり
【0050】
<ウラ面の評価>
(10)導電性
低抵抗測定装置(ロレスタGP:三菱化学(株)製:ESPプローブ)を用い、塗装板
のウラ面の表面抵抗値を測定した。その時、プローブ先端にかかる荷重を20g/sで増
加させ、表面抵抗が10−4Ω以下になった時の荷重値で以下のように評価した。
表面抵抗が10−4Ω以下になった時の荷重値
☆:10点測定の平均荷重が200g以下
◎:10点測定の平均荷重が200g超300g以下
○:10点測定の平均荷重が300g超500g以下
△:10点測定の平均荷重が500g超700g以下
×:10点測定の平均荷重が700g超
【0051】
上記各試験の評価結果を表7に示す。
これによれば、実施例1〜10の塗装鋼板は、いずれも優れた耐塩酸性を有しており、また、曲げ加工性、プレス加工性、塗装表面外観、鉛筆硬度、加工後塗膜密着性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性、耐候性、及び導電性についても従来の塗装鋼板と同程度の性能を有していることがわかる。また、短時間で加熱処理を行っても十分な性能が得られており、製造の際の高速操業に非常に適していることがわかる。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、塩基性顔料を含有しない下塗り塗膜を形成し、この下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が30μm以下とすることで耐塩酸性に優れた塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネルを提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、塩基性顔料を含有しない下塗り塗膜を形成し、この下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が30μm以下であることを特徴とする耐塩酸性に優れた塗装鋼板。
【請求項2】
前記下塗り塗膜は、エポキシ変性ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびウレタン樹脂の中から選択される少なくとも1種を含有する請求項1記載の塗装鋼板。
【請求項3】
前記下塗り塗膜の膜厚は、0.5〜5μmであることを特徴とする請求項1または2記載の塗装鋼板。
【請求項4】
前記上塗り塗膜の膜厚は、0.5〜15μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の塗装鋼板。
【請求項5】
前記鋼板の他方の面は、導電荷重が500g以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の塗装鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の塗装鋼板を用い、該塗装鋼板の前記一方の面が凸表面になるようにプレス加工を施して形成してなる加工品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の塗装鋼板を用い、該塗装鋼板の前記一方の面が外部に露出する凸表面になるようにプレス加工を施して形成してなる薄型テレビ用パネル。

【公開番号】特開2008−49658(P2008−49658A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230563(P2006−230563)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】