説明

塩化ビニル系樹脂の回収方法及びその回収処理設備

【課題】 土壌物などの汚れが付着し、その除去が困難な塩化ビニル系樹脂を含有するシート状廃棄物を溶媒に溶解して塩化ビニル系樹脂を回収する場合の効率的な回収方法を提供する。
【解決手段】 シート状廃棄物を洗浄槽内に投入し温度40〜70℃の水を供給して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄されたシート状廃棄物を前記塩化ビニル系樹脂が溶解可能な溶媒に溶解し、塩化ビニル系樹脂含有溶液を得る溶解工程と、前記塩化ビニル系樹脂含有溶液から不溶物を分離する分離工程と、前記不溶物を除去した溶液から前記塩化ビニル系樹脂を回収する回収工程を備えるシート状廃棄物から塩化ビニル系樹脂を回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃棄物から塩化ビニル系樹脂を回収する方法及び回収処理設備に関し、詳しくは塩化ビニル系樹脂を含有するシート状廃棄物からの回収方法及び回収処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などの塩化ビニル系樹脂は加工性に優れると共に安価なポリマーであるので、ポリエステルやポリオレフィン(例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなど)等の他の汎用ポリマーと同様に様々な用途に使用されている。しかしながら、このような汎用ポリマーは、ライフサイクルの長い基素材分野だけでなく、日用品等の使用寿命の短い商品材料として大量生産され、従って大量廃棄に伴う環境汚染が問題となっている。
【0003】
塩化ビニル系樹脂を主成分とする廃棄物としては、例えば廃電線被覆、建築資材での壁紙など以外に、家庭用のレジャーシート、グランドシート、あるいはハウス栽培に用いられる農業用ビニールシート、建築工事現場での建築物のカバーシートなどが挙げられる。このような廃棄物の大部分は埋立てあるいは焼却などにより処理されているが、塩化ビニル系樹脂は自然界では分解することができず、また良く知られているように焼却によりダイオキシンを生成する原因物質のひとつであるため、環境への影響も考慮する必要がある。
【0004】
このため、塩化ビニル系樹脂を主成分とする廃棄物から塩化ビニル系樹脂を回収し再利用するための種々の回収方法が検討されている。例えば、粉砕、遠心分離などによる機械的な回収方法以外に、最近では廃棄物を塩化ビニル系樹脂が溶解可能な溶媒に溶解し、溶液から塩化ビニル系樹脂を回収する方法が検討されている(例えば、特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開平11−310660号公報
【特許文献2】特表2003−510436号公報
【特許文献3】特開2004−292549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような溶媒を用いた回収方法は安全性も高く高純度で塩化ビニル系樹脂を回収できるため好ましいが、廃棄物がシート状である場合には使用時に汚れが付着しやすく、特に農業用ビニールシートのようなものは屋外で使用されるものであるため土壌物の付着がひどく、付着物を簡単に除去することができない。このような付着物が存在すると回収される塩化ビニル系樹脂中に土壌物が混入し、塩化ビニル系樹脂の品質低下につながるという問題がある。このため溶解前に磁石などの磁気処理により付着物中の金属を除去することが考えられるが、非金属の土壌物は十分に除去することができない。また、溶媒を用いた回収方法では溶解処理時に生ずる不溶物を分離することが行われるが、過剰な付着物を有するシート状廃棄物では不溶物が大量に発生し分離工程で目詰まりなどを生じるため処理効率を低下させることとなる。さらに、溶解前に予めシート状廃棄物を洗浄処理することも考えられるが、単なる洗浄処理では付着力の弱い土壌物は除去できてもシートに強固に付着した土壌物は十分除去することが困難である。不純物量が少なく高純度の塩化ビニル系樹脂を回収しようとする場合、そのような除去され難い付着物が最終的な品質に大きく影響を与えることとなる。特に、塩化ビニル系樹脂を再生利用する場合、用途に応じて着色剤を添加し、着色後、製品として利用するが、土壌物が再利用品に混入した場合、再生品の見た目も悪く、着色剤を大量に添加する必要がある。そのため、再生品の用途が限定されるか、または、着色剤を大量に添加することによりコストが高くなるという問題があった。
【0006】
また、シート状廃棄物の場合チップ状で処理される廃電線被覆などと異なり、その嵩高さから溶媒への溶液濃度を高めることができず、溶液中でシート状廃棄物が凝集し溶解性が低下するなど廃棄物の処理効率が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は土壌物などの汚れが付着し、その除去が困難な塩化ビニル系樹脂を含有するシート状廃棄物を溶媒に溶解して塩化ビニル系樹脂を高純度で回収する場合の効率的な回収方法及び回収処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題を解決するための塩化ビニル系樹脂を含有するシート状廃棄物から塩化ビニル系樹脂を回収する方法とは、前記シート状廃棄物を洗浄槽内に投入し温度40〜70℃の水を供給して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄されたシート状廃棄物を前記塩化ビニル系樹脂が溶解可能な溶媒に溶解し、塩化ビニル系樹脂含有溶液を得る溶解工程と、前記塩化ビニル系樹脂含有溶液から不溶物を分離する分離工程と、前記不溶物を除去した溶液から前記塩化ビニル系樹脂を回収する回収工程を備えることを要旨とする。上記のような洗浄工程で予め処理されたシート状廃棄物は土壌物に由来する付着物を極めて低減することができる。このため溶媒に溶解した時に不溶物の混在を抑え、分離工程での効率化が図れるとともに、回収される塩化ビニル系樹脂の純度を上げることができる。
【0009】
また、本発明は前記洗浄工程後、溶解工程の前に、前記洗浄されたシート状廃棄物を冷却し、裁断する工程をさらに備えることが好ましい。このような冷却、裁断工程を設けることによりシート状廃棄物を小片のフラフとし、処理の効率化を図ることができる。
【0010】
また、本発明は前記洗浄工程後、溶解工程の前に、前記洗浄されたシート状廃棄物を加熱溶融した後、造粒して塩化ビニル系樹脂含有造粒物とする造粒工程をさらに備えることが好ましい。シート状廃棄物を加熱溶融し、造粒することにより、処理物の比重を大きくすることができ、処理効率を向上できる。また、造粒物とすることにより溶解工程での溶液濃度をシート状廃棄物に比較して上げることができ、シート状廃棄物では溶液中に10〜15重量%程度までしか溶解することができなかったのに対し、造粒物では20重量%以上での処理も可能となる。
【0011】
また、本発明は前記洗浄工程後、造粒工程前に、脱水工程をさらに備えることが好ましい。このような脱水工程を造粒前に設けることにより、造粒工程での加熱溶融を円滑に行うことができる。
【0012】
本発明の前記回収工程は前記不溶物を除去した溶液に熱水及び/またはスチーム(以下、単に「熱水等」ということがある)を接触させて塩化ビニル系樹脂を析出する工程を備えることが好ましい。このような回収工程により高純度で塩化ビニル系樹脂を回収することができる。
【0013】
また本発明の前記回収工程は前記不溶物を除去した溶液に塩化ビニル系樹脂の非溶媒を添加して塩化ビニル系樹脂を析出する工程を備えることが好ましい。このような回収工程によっても高純度で塩化ビニル系樹脂を回収することができる。
【0014】
また、本発明は上記回収方法を備えることを特徴とする塩化ビニル系樹脂回収処理設備である。本発明の回収処理設備によれば、シート状廃棄物から塩化ビニル系樹脂を高純度で、効率的に回収することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の回収方法によれば、土壌物などの汚れが付着しやすく、その除去が困難な塩化ビニル系樹脂を含有するシート状廃棄物を処理対象とする場合であっても、洗浄工程で40〜70℃の洗浄水で洗浄されるためシート状廃棄物が軟化し強固に付着した土壌物に由来する付着物を効率的に除去することができる。従って、このシート状廃棄物を溶解工程により回収する方法に用いることにより、不純物の少ない塩化ビニル系樹脂を効率的に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る発明の洗浄工程から回収工程を示すフロー図である。本発明において処理される、例えば塩化ビニル樹脂や塩化ビニリデン樹脂などの塩化ビニル系樹脂を主成分として含有する原料には農業用ビニールシート、建築現場用シートなどのシート状廃棄物が挙げられる。このようなシート状廃棄物は、土壌物などによる付着物が多量にシート表面あるいはシート内部に含有されており、そのまま溶媒に投入して溶解すると不溶物が大量に発生し、処理効率が極めて低下するとともに、回収される塩化ビニル系樹脂の純度が低下することとなる。このため、本発明では所定条件の洗浄工程を経て溶解処理される。このシート状廃棄物の大きさは特に限定されるものではないが、長尺のシートなどは余りに大きいと洗浄を効率的に行うことができず、また洗浄装置も大型化する。一方、シート状廃棄物が小さすぎると、加水と摩擦により洗浄作用が低下するおそれがあることから、予め100〜400mm四方程度の大きさまで裁断することが好ましい。この裁断は従来公知のシート裁断機を使用することができる。なお、付着物量が少ないシート状廃棄物であっても、本発明を使用することによりさらに回収される塩化ビニル系樹脂中の不純物量を低下するために好ましく使用できることができる。
【0017】
上記のようにして得られるシート状廃棄物を洗浄装置に投入して洗浄し、付着物の量を低減する。洗浄工程における条件としては特に温度の制御が付着物の除去量に大きく影響するため一定範囲に水温を制御することが肝要である。すなわち、農業用ビニールシートなどに使用されている塩化ビニル系樹脂は重合度が1,100〜1,300程度の塩化ビニル系樹脂であり、このような塩化ビニル系樹脂は40℃以上となると軟化してくる。この軟化によって表面に付着した土壌物だけでなく、内部に入り込んだ土壌物が水流により洗い流されやすくなり、多量の付着物を効率的に除去することができる。本発明者らの検討によれば、常温の水を用いた場合と比較して3倍量以上の付着物を除去する効果があることを確認している。一方、洗浄水の温度が余りに高くなりすぎるとシートが軟化し過ぎてしまい、付着物がシート内に取り込まれて除去量が減少することとなる。このため、洗浄に使用する水の温度は40〜70℃が好ましく、40〜60℃が最適である。
【0018】
また、洗浄工程での装置内のシート状廃棄物の滞留時間は10〜50秒で、水の量は廃棄物1t当たり0.1〜0.5t供給することが好ましい。滞留時間が10秒未満であったり、水の供給量が0.1t未満である場合は廃棄物と水との接触する時間が少なすぎ、また水が廃棄物全体に行き渡らず十分な洗浄が行えない傾向にある。一方、滞留時間を長時間とすることや、水量を多くすることにより除去量は増えていくが、余りに長時間としても洗浄効果にそれほど差がなく経済的でない。
【0019】
本発明の溶解処理により塩化ビニル系樹脂の回収処理を行う場合に、上記で得られる洗浄後のシート状廃棄物中の付着物の目安としては、廃棄物1t当たり0.05t以下とすることが好ましい。この程度まで付着物量を低減したシートであれば、後の処理工程における短縮化を十分に図れるとともに、回収される塩化ビニル系樹脂は土壌物による着色の弱い0.5重量%未満の不純物量まで減少できるため、再生塩化ビニル系樹脂として各種用途に使用することが可能となる。
【0020】
次に、上記のようにして得られる洗浄されたシート状廃棄物を溶解処理するが、予めシート状廃棄物を裁断して50mm四方以下のフラフとすることもできる。
【0021】
溶解処理にはシート中に含まれる塩化ビニル系樹脂が溶解可能な溶媒が用いられる。具体的には、例えば、極性溶媒、特にケトン類溶媒が好適に利用でき、これによってポリオレフイン類などのポリマーを含有する廃棄物からでも塩化ビニル系樹脂を選択溶解させることができる。しかも、ケトン類溶媒を用いると、高分子量の塩化ビニル系樹脂まで処理可能である。ケトン類溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。また、本発明においては塩化ビニル系樹脂の溶解性の高いテトラヒドロフランなどのエーテル類、N−メチルピロリドンなどの水溶性アミド化合物、γ−ブチロラクトンなどの水溶性ラクトン化合物も使用可能である。使用される溶媒は廃棄物中に含まれる塩化ビニル系樹脂の溶解性や、塩化ビニル系樹脂を回収処理する処理方法などによって適宜選択することができる。
【0022】
溶解処理時に溶媒を加熱する温度は使用する溶媒の種類によって異なるが、溶媒が揮発する温度未満であれば特に限定されず、安全に操業できる範囲で温度を制御すれば良い。なお溶解する方法としては特に限定されず、洗浄したシート状廃棄物を容器に予め投入し、そこへ溶媒を添加して加熱撹拌することもできるし、予め加熱した溶媒に廃棄物を混合して撹拌しても良い。
【0023】
次に、得られた溶液は塩化ビニル系樹脂などの溶解物と溶媒に不溶な不溶物に分離する。分離する手段は特に限定されず、スクリーン、遠心分離や沈澱法など公知の方法を利用することができる。
【0024】
不溶物を分離した溶液は次に回収工程に移送される。この回収工程においては従来から公知の回収方法を利用することができる。例えば、(a)溶液に熱水及び/またはスチームを接触させて溶媒を蒸発させながら塩化ビニル系樹脂を沈殿により析出させ回収する方法、(b)溶液を加熱して溶媒を蒸発させることにより塩化ビニル系樹脂を析出させ加熱溶融して回収する方法などを用いることができる。図1は上記のうち(a)の析出工程を備えた回収方法を利用するものであり、この方法によれば塩化ビニル系樹脂の回収と溶媒の蒸発を同時に行うことができるため好ましい。以下は、この回収方法に用いられる処理方法の一例である。なお、上記方法としては、例えば特開平11−310660号などに記載の方法を参考にすることができる。
【0025】
まず、不溶物を分離した溶液と熱水等を接触させると溶媒に対する塩化ビニル系樹脂の溶解度が極端に低下すると共に、溶液中の溶媒が揮発し、溶液から塩化ビニル系樹脂を順次粒子状の沈殿物として析出させることができる。そして、沈澱物を分離し粒子状の塩化ビニル系樹脂を含む溶液から残存溶剤を除去することにより塩化ビニル系樹脂を回収することができる。
【0026】
本発明では溶液と熱水等を接触させる方法は特に限定されるものではないが、熱水等を前記溶液に注入する方法が推奨される。この方法であれば、塩化ビニル系樹脂を溶解している溶液の注入量が一定でない場合や操業を突然停止した場合などでも、塩化ビニル系樹脂が一時的に析出しないという事態を招くに止まり、溶液注入量を厳密に制御することなく操業できる。
【0027】
本発明では前記溶液から析出した塩化ビニル系樹脂を残存溶剤などから分離することによって、塩化ビニル系樹脂を回収することができる。分離方法は、特に限定されず公知の方法が採用でき、例えば、スクリーンや遠心分離が例示できる。そして、分離された水は必要に応じて析出工程に戻すことができる。
【0028】
次に、本発明の目的を達成することのできる塩化ビニル系樹脂の回収処理設備の一形態について説明する。図2は本発明の洗浄工程において用いられる洗浄装置1の概略図であり、図3は洗浄されたシート状廃棄物を溶解し、溶液から塩化ビニル系樹脂を回収する溶解、分離、回収工程の各構成を示す概略図である。
【0029】
図2の洗浄装置1は外槽12と内槽13を備える2槽式の横置き洗浄装置であり、内槽13は効率的な洗浄が行えるよう縦方向に回転自在なドラムとなっている。また内槽13の内壁面には突起部14が形成されており、その突起部14は移送手段L1により投入口17から投入されたシート状廃棄物(図示せず)を排出口18へ内部を搬送するよう螺旋状に形成されている。
【0030】
内槽13の内部には水管15が導入され、配管L2から40〜70℃に制御された温水16を内部に供給する構造を有しており、この温水16により内槽13内を進むシート状廃棄物が洗浄される。そして図示はされていないが内槽13の壁面には多数の穴が穿設されており、温水16が洗浄装置の内部に供給され、シート状廃棄物を洗浄した後、壁面の穴から汚水が排水されるようになっている。この形態におけるドラムの回転速度は前述の滞留時間を確保するように適宜選択すれば良く、特に限定されるものではないが、通常10〜30rpmとすることが好ましい。なお、この形態では外槽12と内槽13の2槽構造としているが、必ずしも2槽にする必要はなく排水できる構造を有していれば1槽でもよい。また、洗浄装置は所定の滞留時間とすることができ、洗浄のための水を供給できる構造であれば特に限定されるものではない。
【0031】
上記の洗浄工程により洗浄されたシート状廃棄物は、次に溶解工程に搬送される。図3は、主として溶解装置2、分離装置3、析出装置4及びそれらの間に配置された移送ベルト、配管などから構成されている。
【0032】
上記の洗浄工程により洗浄されたシート状廃棄物は、水を除去した後、移送手段L3により溶解装置2に投入される。この溶解装置2は塩化ビニル系樹脂を溶解可能な溶媒を供給する配管L4、撹拌機21を備えている。そして、投入されたシート状廃棄物は溶媒と撹拌混合することにより塩化ビニル系樹脂が溶解しスラリー状の溶液22となる。この時溶解を促進するため溶解装置2はヒーターなどの加熱装置を備えているものが使用される。なお、溶液はさらにスタティックミキサーなどを用いて完全に塩化ビニル系樹脂を溶解させることもできる。
【0033】
次に、上記の溶液を配管L5を介して分離装置3に導入し、不溶物を配管L6から排出し、溶解物を配管L7により析出装置4に供給する。この分離装置には例えばスクリーンなどの分離装置を用いることができる。
【0034】
析出装置4は溶解装置2と同様に撹拌機41及び装置内に熱水等を供給する配管L8を備えている。この熱水等を溶液42内に供給することにより、溶媒が蒸発しつつ溶媒に対する塩化ビニル系樹脂の溶解量が下がるので粒子状の沈殿物が析出する。蒸発した溶媒は所望により配管L9を介して凝縮され、溶解装置2での溶媒として再利用される。
【0035】
析出した塩化ビニル系樹脂を含む溶液は配管L10を介してポンプ(図示せず)に送られ、さらに残存溶剤と塩化ビニル系樹脂に分離するための分離機43に導入される。この分離機43には例えばフィルターや遠心分離機などを用いることができる。残存溶剤は水を主成分とするものであるため配管L11を介して、所望により蒸留等を行った後、析出装置4で再利用される。
【0036】
そして、回収された塩化ビニル系樹脂は配管L12を介して移送され、必要により乾燥処理などを行い再生塩化ビニル系樹脂が得られる。
【0037】
以上の洗浄工程、溶解工程、分離工程及び回収工程の一連の工程によりシート状廃棄物に含まれる塩化ビニル系樹脂を高純度で効率的に回収することが可能となる。
【0038】
(実施の形態2)
本発明は実施の形態1において洗浄工程の後、溶解工程前に洗浄されたシート状廃棄物を冷却、裁断する工程を設けることも好ましい形態である。
【0039】
シート状廃棄物が大きな場合、溶解工程での取り扱いが煩雑で装置が大型化するため予めシート状廃棄物を裁断してさらに小片のフラフとすることが好ましい。また、後で述べる実施の形態3の造粒を行う場合にも、小片とした方が溶融が速やかとなるため好ましい。
【0040】
図4は本実施の形態のフローを示す図であり、冷却、裁断工程が洗浄工程の後に設けられている以外は、実施の形態1と同様である。このため、実施の形態1と同じ部分については説明を省略し、冷却、裁断工程について以下に述べる。
【0041】
洗浄工程での洗浄時にシート状廃棄物は温水で加熱され軟化しているため、小片のフラフを作製するのに直接破砕機に投入すると機械の噛み込みが生じやすい。例えば農業用ビニールシートでは30℃以上に加温されたシート状廃棄物の場合、破砕時に装置の噛み込みが確認された。このため、洗浄後に冷却を行うことにより農業用ビニールシートのような軟質の破砕しにくいシートであっても効率的に破砕することができる。この場合、洗浄後のシート状廃棄物を室温で放置することにより冷却することもできるが、処理速度の低下をもたらすため、洗浄工程後、空冷あるいは水冷により室温〜10℃程度まで冷却を行なうことが好ましい。
【0042】
次に、冷却されたシート状廃棄物を裁断する。裁断には通常のフラフを作製するのに用いられる破砕機を利用することができる。このフラフの大きさは50mm四方以下とすることが好ましい。なお、本裁断工程においても、シート状廃棄物に付着した土壌等の汚染物の除去を行い洗浄性を高めるために、加水を行いながら裁断を行うのが好ましい。
【0043】
(実施の形態3)
本発明は実施の形態1において洗浄工程の後、溶解工程前に洗浄されたシート状廃棄物を予め造粒することも好ましい形態である。このような造粒により、溶解工程ではシート状廃棄物のまま処理した場合、溶液濃度を15重量%までしか上げることができなかったが、造粒によって20重量%以上の濃度でも利用することができるようになり、さらに回収処理の効率化を図ることが可能となる。
【0044】
図5は本実施の形態のフローを示す図であり、シート状廃棄物を加熱溶融し、造粒する造粒工程が洗浄工程の後に設けられている以外は、実施の形態1と同様である。このため、実施の形態1と同じ部分については説明を省略し、造粒工程について以下に述べる。
【0045】
造粒工程では、まず洗浄されたシート状廃棄物を加熱溶融する。溶融温度は120〜150℃が好ましい。温度が余りに低いと溶融状態とならず均一な造粒物が得られにくくなる。一方、溶融温度が高すぎると塩化ビニル系樹脂の特質として分解が生じやすくなり、塩化水素ガスなどが発生するという問題がある。溶融時間は塩化ビニル系樹脂の種類にもよるが、1バッチ当たりの処理量が10〜30kgの場合、2〜20分とすることが好ましい。次に、溶融物を造粒するが、その際溶融状態から造粒し、さらにそれを冷却し、固化して塩化ビニル系樹脂含有造粒物とする。冷却条件としては2〜5分で60℃以下まで急冷することが好ましい。
【0046】
本発明のシート状廃棄物を溶融し、造粒する装置としては合成樹脂を通常製造する場合に用いられるヘンシェルミキサー、アドオンミキサー等を用いることができる。このような装置を用いると、同一ミキサー内で溶融及び造粒が可能となる。そして、造粒後にクーラーミキサーなどの冷却装置に供給し、冷却、固化することにより塩化ビニル系樹脂含有造粒物を得ることができる。
【0047】
本発明の塩化ビニル系樹脂含有造粒物は粒径が10mm以下で、みかけ比重が0.1g/cm以上、好ましくは0.3〜0.5g/cmとすることが望ましい。上記みかけ比重はJIS K 6720−2に記載の測定方法に従って測定したものである。このようなみかけ比重の造粒物とすることにより溶解工程において溶媒への溶解速度がシート状の場合と比較して遜色ない速度で溶解し、かつ、溶液濃度を20重量%以上とすることができる。従って、シート状の場合と比較して回収処理全体の処理効率を格段に上げることができる。なお、みかけ比重をさらに高くすれば溶解工程での溶液濃度を高めることができるが、造粒物を完全に溶解させるために長時間を要する傾向にある。
【0048】
(実施の形態4)
本発明は実施の形態3において、洗浄工程後、造粒工程前に脱水工程を設けることも好ましい形態である。このような脱水工程を造粒工程前に設けることにより、造粒のための加熱溶融を効率的に行うことができる。
【0049】
図6は本実施の形態のフローを示す図であり、洗浄工程後に脱水工程、造粒工程が設けられている以外は、実施の形態1と同様である。このため、実施の形態1及び3と同じ部分については説明を省略し、脱水工程について以下に述べる。
【0050】
脱水工程では、まず洗浄されたシート状廃棄物に付着した水を脱水機により脱水を行う。この際、脱水洗浄と脱水の2工程を行うことが好ましい。脱水洗浄を行うことにより、シート状廃棄物の付着物をさらに低減することができる。この洗浄には常温の水を用いることができる。脱水洗浄後の脱水工程では、例えば遠心脱水などにより水を除去することができる。このようにして得られるシート状廃棄物の水の量は、造粒工程での効率化を図るため、シート状廃棄物1t当たり0.1t以下とすることを目安とする。
【0051】
(実施の形態5)
本発明は実施の形態4において、実施の形態2の冷却、裁断工程を洗浄工程後、脱水工程前に行うことも好ましい形態である。このような冷却、裁断工程を経て作製されるフラフは脱水が容易であるとともに、造粒工程時の加熱溶融も容易に行うことができるため、さらに処理効率を向上することができる。そして、造粒工程により造粒された塩化ビニル系樹脂造粒物は溶解工程での溶媒への溶解速度がシート状やそれを小片に破砕したフラフと同程度に速く、また溶液濃度を20重量%以上まで向上することができるので、処理効率を格段に向上することができる。
【0052】
図7は本実施の形態のフローを示す図であり、洗浄工程後に冷却、裁断工程、脱水工程、造粒工程が設けられている以外は、実施の形態1と同様であり、各工程で使用される条件は上記の実施の形態1〜4と同様である。
【0053】
(実施の形態6)
本発明は実施の形態1において、回収工程で塩化ビニル系樹脂含有溶液に塩化ビニル系樹脂の非溶媒を接触させて溶液中で塩化ビニル系樹脂を析出させ、析出した塩化ビニル系樹脂を分離して回収する方法を用いることも好ましい形態である。実施の形態1では熱水等による回収工程を用いる場合については説明したが、このような回収工程によっても塩化ビニル系樹脂を高純度で回収することができる。
【0054】
図8は本実施の形態のフローを示す図であり、回収工程で熱水等の代わりに比較的温度の低い、例えば常温の非溶媒を用いて塩化ビニル系樹脂を沈殿させる以外は、実施の形態1と同様である。このため、実施の形態1と同じ部分については説明を省略し、回収工程について以下に述べる。
【0055】
本実施の形態の回収工程では塩化ビニル系樹脂を溶解しない非溶媒として、水や、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールを用いることができ、これらの中でも取り扱いが容易であり、かつ、コストの面から水が好ましい。なお、この実施の形態において塩化ビニル系樹脂を溶解するために用いられる溶媒としては、他の実施の形態と同様の溶媒を利用できる。
【0056】
このような非溶媒を不溶物を分離した塩化ビニル系樹脂含有溶液中に供給することにより溶媒に対する塩化ビニル系樹脂の溶解度が低下し、塊状の塩化ビニル系樹脂を沈殿物として析出させることができる。極力小さな塊状の塩化ビニル系樹脂を得たい場合は非溶媒の添加を撹拌下で行うことが好ましい。また、非溶媒を供給する際の溶液の温度としては、特に限定されず、常温で添加しても良い。
【0057】
本実施の形態では、実施の形態1と同様に沈澱物を分離し塊状の塩化ビニル系樹脂を含む溶液から残存溶剤を除去することにより塩化ビニル系樹脂を回収することができる。
【0058】
本実施の形態に用いられる回収処理設備としては、実施の形態1と同様の設備を使用することができるが、析出装置では溶媒を揮発しないため得られる塩化ビニル系樹脂を固液分離後、回収した塩化ビニル系樹脂を加熱することにより、塩化ビニル系樹脂中に残存している溶媒を蒸発除去させる装置を別途設ける必要がある。その際に、混練を行い、ペレット化を行っても良い。
【0059】
(その他の実施の形態)
上記で説明された各実施の形態はいずれも一例であり、上記実施の形態で説明されていない各形態を組み合わせた形態とすることもできる。また、本発明は以下の工程をさらに採用することもできる。
(1)磁気処理工程
本発明では溶解工程前に磁気処理工程を設けることも好ましい形態である。例えば、洗浄工程前に磁石などにより磁気処理工程を行い、シート状廃棄物から金属類を除去することができる。
(2)振動スクリーン工程
本発明ではさらに溶解工程前に振動スクリーン工程を設けることも好ましい形態である。例えば、洗浄工程前に振動スクリーンでシート状廃棄物を振動させて付着物を除去することもできる。
(3)前洗浄工程
本発明ではまた、上記洗浄工程の前に常温の水でシート状廃棄物を予め洗浄することも好ましい形態である。例えば、付着力の弱い土壌物を除去するため常温の水で予め洗浄することもできる。
【0060】
以下本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、下記実施例は単なる一例であり本発明を限定する性質のものでなく、前・後記の趣旨に基づき設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0061】
実施の形態5の処理工程を利用し、約100mm四方の大きさに裁断し、予備処理して予め付着力の弱い土壌物を除去した農業用ビニールシートの廃棄物(土壌物の付着量:廃棄物1t当たり約0.055t)から塩化ビニル樹脂(重合度:1,300)の回収処理を行った。各工程の処理条件は以下の通りである。
【0062】
(洗浄工程)
洗浄水の温度を表1に示す温度にそれぞれ変更し、滞留時間30秒、内槽の回転速度20rpm、水を0.3t/廃棄物1tの量で供給しながら洗浄を行なった。
【0063】
(冷却、裁断工程及び脱水工程)
洗浄工程で加温された各シート状廃棄物を室温まで冷却し、破砕機を用いて約30mm四方のフラフを作製し、常温の水を0.3t/廃棄物1tの量で供給しながら脱水洗浄を行い、さらに遠心脱水を行って水を除去した。
【0064】
(造粒工程)
次に、得られたフラフをヘンシェルミキサーに供給し、130〜140℃に加熱溶融して5〜10分撹拌した後造粒し、これをクーラーミキサーに供給して2分で50〜60℃まで冷却しながら塩化ビニル樹脂含有造粒物(粒径3.0mm、みかけ比重:0.3〜0.5g/cm)を作製した。
【0065】
(溶解工程)
上記で作製した塩化ビニル樹脂含有造粒物を溶解装置に投入し、溶液濃度が20重量%となるスラリー状の溶液を作製した。溶媒にはメチルエチルケトン(沸点:79.6℃)を用い、溶解は装置を70℃、0.5時間加熱撹拌して行った。
【0066】
(分離工程)
上記溶液をポンプで送りながら、100μmのナイロン製メッシュフィルタを使用して不溶物を除去した。
【0067】
(回収工程)
上記分離工程から得られた溶液をポンプで連続的に析出装置に送り、析出装置内に投入した。溶液を50〜60℃に加温しながらスチーム(100℃)を溶液中に供給し、メチルエチルケトンを蒸発させながら塩化ビニル樹脂を沈殿させた。得られた粒子状の沈殿物を含む溶液をさらに残存溶剤を除去するため遠心分離を行ない、乾燥させて塩化ビニル樹脂を回収した。
【0068】
表1に洗浄工程における温度ごとの付着物の除去量(洗浄工程前のシート状廃棄物に含まれる付着物の重量を基準とし、洗浄工程後の付着物の重量と比較したときの、その減少割合)、回収された塩化ビニル樹脂に含まれていた不純物量をまとめて示す。なお、本実施例においては、不純物量は回収した塩化ビニル樹脂を一旦溶剤に溶解させた後、さらに遠心分離法により分離し測定を行ったものである。
【0069】
【表1】

【0070】
上記表1に示すように、洗浄工程で40〜70℃、特に40〜60℃の温水で洗浄したシート状廃棄物は付着物が大量に除去されていることが分かる。また、そのシート状廃棄物を造粒して造粒物とし、これを溶解し、析出を行って回収された塩化ビニル樹脂は土壌物による着色の弱い不純物量が0.4重量%以下の純度の高い塩化ビニル樹脂が得られている。
【0071】
参考として予備処理だけを行い、洗浄工程により付着物を除去していないシート状廃棄物のまま溶解工程に供した場合、溶液中の汚れが激しく、またシート状廃棄物を15重量%以上溶媒に添加すると溶液中にシート状廃棄物が固形物として残存した。
【0072】
以上説明したように、本発明の洗浄工程あるいはそれととともに冷却、裁断工程、脱水工程及び造粒工程を行うことにより、溶解によりシート状廃棄物から塩化ビニル系樹脂を回収する場合に効率的な処理が可能となり、また付着物の量を極めて低減することができる。従って、本発明をシート状廃棄物からの塩化ビニル系樹脂の回収に利用すれば処理効率の向上が図れるとともに、高純度の塩化ビニル系樹脂を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1の各工程を示すフロー図である。
【図2】本発明の洗浄工程に使用される洗浄装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の溶解工程、分離工程及び回収工程の一構成例を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態2の各工程を示すフロー図である。
【図5】本発明の実施の形態3の各工程を示すフロー図である。
【図6】本発明の実施の形態4の各工程を示すフロー図である。
【図7】本発明の実施の形態5の各工程を示すフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態6の各工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0074】
1 洗浄装置
2 溶解装置
3 分離装置
4 析出装置
21 41 撹拌機
22 42 溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂を含有するシート状廃棄物から塩化ビニル系樹脂を回収する方法であって、
前記シート状廃棄物を洗浄槽内に投入し温度40〜70℃の水を供給して洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄されたシート状廃棄物を前記塩化ビニル系樹脂が溶解可能な溶媒に溶解し、塩化ビニル系樹脂含有溶液を得る溶解工程と、
前記塩化ビニル系樹脂含有溶液から不溶物を分離する分離工程と、
前記不溶物を除去した溶液から前記塩化ビニル系樹脂を回収する回収工程と、
を備える塩化ビニル系樹脂の回収方法。
【請求項2】
前記洗浄工程後、溶解工程の前に、前記洗浄されたシート状廃棄物を冷却し、裁断する工程を備える請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の回収方法。
【請求項3】
前記洗浄工程後、溶解工程の前に、前記洗浄されたシート状廃棄物を加熱溶融した後、造粒して塩化ビニル系樹脂含有造粒物とする造粒工程を備える請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の回収方法。
【請求項4】
前記洗浄工程後、造粒工程前に、脱水工程を備える請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂の回収方法。
【請求項5】
前記回収工程が、前記不溶物を除去した溶液に熱水及び/またはスチームを接触させて塩化ビニル系樹脂を析出する工程を備える請求項1〜4のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂の回収方法。
【請求項6】
前記回収工程が、前記不溶物を除去した溶液に塩化ビニル系樹脂の非溶媒を添加して塩化ビニル系樹脂を析出する工程を備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂の回収方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂の回収方法を備えることを特徴とする塩化ビニル系樹脂回収処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−274101(P2006−274101A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97121(P2005−97121)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】