説明

壁面に固着したスラグの除去方法及び二次燃焼炉

【課題】 シャフト炉式ガス化溶融炉とこれに連接した二次燃焼炉を有する塵芥の処理装置においては、二次燃焼炉の内壁面に付着した溶融スラグは、シュート部内壁面を流下して水面に達し、凝固して内壁面から分離するが、分離せずに固着することがある。シュレッダーダストを処理すると多くのスラグミストが発生して溶融スラグが多くなり、大きなスラグ塊が形成されることがある。このスラグ塊は二次燃焼炉の下部を閉塞することがある。
【解決手段】 溶融スラグが凝固する壁面位置近傍で、壁面側からスラグ塊qに融点降下剤を投射する壁面に固着したスラグの除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵芥を炉内で燃焼及びガス化した時に壁面に固着するスラグを除去する方法に係わり、特に壁面に固着して成長したスラグ塊を除去するのに好適な方法およびその方法を実施する二次燃焼炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より塵芥をストーカー炉や流動床炉で焼却処理して、その焼却灰を埋め立て処分することが一般的に行なわれていた。しかし最近埋め立て処分する際に焼却灰の容積が未だ充分に減少していないこと、焼却灰を埋め立て処分するに際に飛散して周囲の環境に悪影響を及ぼすこと等から、焼却灰を溶融スラグ化してそれを埋め立て処分することが推奨されている。塵芥を溶融処理する方法としては、従来の焼却炉から排出された焼却灰を別途の溶融炉で溶融スラグ化するものと、塵芥を一つの炉内で溶融スラグ化までするものがある。
【0003】
本願出願人は、塵芥を一つの炉内で溶融スラグ化まで行なう塵芥の処理装置を、例えば特許文献1で提案している。この塵芥の処理装置は、シャフト炉式ガス化溶融炉とこれに連接した二次燃焼炉を有している。ガス化溶融炉では、投入された廃棄物は酸素比を抑制された雰囲気中で加熱されて可燃性ガスと固形カーボンに熱分解され、固形カーボンは高温炉床部において燃焼し、残った焼却灰は加熱されて溶融スラグとして炉底部から排出される。可燃性ガスは二次燃焼炉に導入されて高温燃焼されるが、可燃性ガスに含まれていた固形分は溶融してスラグミストとなり、二次燃焼炉壁に付着して流下し炉底部から排出される。
【0004】
二次燃焼炉における可燃性ガスの燃焼概要を図5に示す。ガス化溶融炉で生成した可燃性ガスgは、ガス化溶融炉からダスト、固形カーボン、焼却灰等の比重の小さい粒子状固形分oを伴って二次燃焼炉の本体部1に旋回流を形成する方向に導入される。本体部1の導入口近傍に設けた空気供給口(図示省略)から空気の供給を受けた可燃性ガスgは燃焼して1200〜1300℃の燃焼ガスhとなる。燃焼ガスhは絞り部1aを介して接続するシュート部2に導入される。粒子状固形分oに含まれる可燃成分は燃焼し、残った灰分は溶融してスラグミストとなる。旋回流の効果により本体部1の内壁面に付着したスラグミストは、溶融スラグpとなって絞り部1aを経てシュート部2を流下していく。シュート部2は下端が開放され、下端部は水槽3に貯留された水4に没して水封されている。シュート部2の内壁面と水面4aとでスラグ分離室2aが構成されている。シュート部2の内壁面を流下した溶融スラグpは、水面4aによって捕捉されて水槽3内に沈み分離回収される。燃焼ガスhの流れに乗ってスラグ分離室2aまで達したスラグミストも、水面4aで捕捉され分離回収される。水槽3内のスラグは搬送装置によって排出される。スラグミストを分離した後の燃焼ガスhは、水面4aより上昇した位置においてスラグ分離室2aに連接する煙道5を通って後続の排ガス処理設備6に導入され、熱回収や無害化処理を施された後大気中に放出される。二次燃焼炉の内壁面は耐火材で構成されている。
【特許文献1】特開2001−289418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次燃焼炉の内壁面に付着した溶融スラグpは、シュート部2内壁面を流下して水面4aに達し、凝固して内壁面から分離するが、分離せずに固着することがある。都市ゴミ等の一般廃棄物を対象とした場合、溶融スラグpの量は少なく、固着したスラグで焼却処理が支障をきたすことはほとんどない。しかし、廃車や廃家電品のシュレッダーダストのように細断された樹脂、紙、繊維等を多く含む廃棄物では、多くのスラグミストが発生して溶融スラグpが多くなり、固着したスラグは後続の溶融スラグpが次々に合わさって成長し、スラグ塊qが形成されることが多い。スラグ塊qは大きくなると自重等で崩壊して落下することはあるが、そのまま成長して二次燃焼炉10の下部を閉塞することがある。このため、固着したスラグは廃棄物処理設備に支障が生じる前に除去されなければならないが、これを自動的に適切に行なう手段が見当らない。
【0006】
したがって本発明の目的は、炉壁に固着したスラグ、特にスラグ塊を除去するのに好適な方法及びその方法を実施する二次燃焼炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、まず二次燃焼炉における溶融スラグの固着現象について解析した。図6は、図5における二次燃焼炉の絞り部1a、スラグ分離室2a、煙道5の内部表面温度をシミュレーションで求めた結果である。全体的には1300℃以上でありスラグは溶融状態が保たれ壁面を流下すると考えられるが、水面4aの真上で且つ点線より下に1300℃以下の温度領域がある。スラグの溶融温度はその成分により異なるため1100〜1500℃程度の範囲がある。したがって溶融スラグはその成分によっては水面4aに達する前に溶融温度以下になりそこで凝固することが考えられる。図7は燃焼ガスの絞り部1a、スラグ分離室2a、煙道5における内部表面流速をシミュレーションで求めた結果である。絞り部1aとスラグ分離室2aでは流速は斜め下方向であり二次燃焼炉の旋回流の影響が残っているが全体としては澱みなく下方向に向かって流れている。水面4aの真上では斜め上方向の流れや渦流が発生しており流れが澱んでいることがわかる。この結果より、スラグの固着は水面4aの真上近傍の壁面で生じることが予想され、実際のスラグ塊形成箇所はこの位置とよく一致することが確認された。これより、二次燃焼炉に形成されるスラグ塊の位置は規定することができることがわかり、本発明に想到した。
【0008】
本発明の壁面に固着したスラグの除去方法は、スラグが凝固する壁面位置近傍で、壁面側からスラグに融点降下剤を投射することを特徴としている。
また、本発明の壁面に固着したスラグの除去方法は、壁面に固着したスラグ塊の付け根近傍に壁面側から融点降下剤を投射し、スラグ塊の付け根を溶融させて該スラグ塊を崩落させることを特徴としている。ほとんどのスラグ塊は付け根の一部が溶解されると自重で崩落する。
前記発明において、融点降下剤の投射は、スラグ塊がある程度大きい場合には、スラグ塊が固着した箇所の上流側と下流側との差圧で、或いは差圧が所定値となった時からの時間で、又は水槽から搬出されるスラグ量が所定値となった時からの時間で制御することができる。また、タイマー設定だけで融点降下剤を投射してもよい。この場合、設定時間を投射周期が短くなるようにすれば、スラグ塊がまだ小さい時でも、さらにはスラグが凝固し始めて完全には固着していないような時でも除去することができる。
【0009】
本発明の二次燃焼炉は、廃棄物を焼却するガス化溶融炉から導入された可燃性ガスを燃焼する二次燃焼炉において、炉底部を水封する水槽の水面に近傍した炉壁面に融点降下剤投入口を設けたことを特徴としている。
なお、前記融点降下剤投入口は、溶融スラグが凝固する壁面位置に設けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、壁面に固着した除去すべきスラグに、直接的にかつ所定タイミングで融点降下剤を作用させるので、確実かつ迅速にスラグを除去することができ、融点降下材の無駄使いも防止できる。また、スラグが固着していない炉壁面には融点降下剤をほとんど付着させないので、炉壁の耐火材を無用に損傷させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の二次燃焼炉10とこれに係わるガス化溶融炉20の概略図を図1に示す。ガス化溶融炉20は、炉底部にコークス層21が形成され、上部からゴミとコークスと石灰石が投入されゴミ層22が形成される。ゴミ層22中のゴミは炉底部から上がってくる高温ガスにより加熱、乾燥、熱分解され可燃性ガスと固形カーボンに分解される。固形カーボンとコークスと石灰石は炉底部のコークス層21に達し、固形カーボンは燃焼し灰分を主成分とする残渣はコークス層21の高温により溶融スラグとなり炉底部の出滓口から排出される。ゴミ層とコークス層には羽口から支燃性ガス(例えば空気)が酸素比1未満で吹き込まれ、支燃性ガスは上向流となりコークスを燃焼させゴミ層と熱交換し可燃性ガスとなって二次燃焼炉へ導入される。
【0012】
可燃性ガスはガス化溶融炉20内のダストを同伴しているため二次燃焼炉10にはダストも持ち込まれる。本発明の二次燃焼炉10は、基本的には前述した図5のものと同様の構造であり、同じ部分は同一の符号で示す。可燃性ガスは二次燃焼炉10の上部で接線方向に導入され旋回流を形成し、そこに支燃性ガス(例えば空気)が酸素比1以上で供給されて1200℃程度の温度で燃焼する。ダストは溶融して溶融スラグpとなって流下し、絞り部1a及びシュート部2の内壁面を経てスラグ回収水槽3に捕捉され水中に沈む。二次燃焼炉10の下端部はスラグ回収水槽3の水面下に没しており、燃焼ガスhは外部に漏れることなく、連接した煙道5を通って後続の排ガス処理設備に排出される。スラグ回収水槽3には搬送コンベヤ7が設けられており水中に沈んだスラグを排出する。
【0013】
シュート部2のスラグ回収水槽3の水面4aに近い内壁面は、上部の内壁面に比して低温となるため、比較的融点の高い溶融スラグpは内壁面を流下するにしたがって凝固して壁面に固着してしまう。固着部では溶融スラグpが次々に凝固して成長し壁面にスラグ塊qが形成される。スラグ塊qが形成される壁面位置はほぼ規定できることから、本発明の二次燃焼炉10は、この壁面位置の周方向に複数の融点降下剤供給口11を設け、ここから融点降下剤mをスラグ塊qに向けて投射するようにしたものである。
【0014】
図3はスラグ塊qが除去される過程を模式的に示した図である。
融点降下剤mは、融点降下剤供給口11からスラグ塊qの付け根R部分に向けて投射される。融点降下剤mが付着した部分の融点が固着している壁面温度より下がると、その部分が溶融して固着力が低下する。このため、スラグ塊qは自重Wによって付け根R部分から剥離するように崩落するのである。融点降下剤供給口11は、スラグ塊qの付け根の高さ範囲H内に設けるのが望ましいが、予め規定したスラグ塊形成位置における付け根Rの上方であれば多少範囲外であってもよい。これにより、スラグ塊qが規定位置より多少上方に形成されても、融点降下剤mは付け根Rの範囲に投射され、また、多少下方に形成されても、融点降下剤mは融点降下剤供給口11周辺のスラグを溶解して一緒に壁面を流下しスラグ塊qの付け根R部分に達するので、スラグ塊qを崩落させることができる。
【0015】
上述したように、融点降下剤供給口11をシュート部2の水面4a近傍に設け、融点降下剤mをこの部分の壁面に形成されるスラグ塊qの付け根Rに直接作用させるが、これは、融点降下剤mは濃度が高いと耐火材に悪影響を与えるため、できるだけ他の壁面に付着したり流下しないようにするためである。図4は、壁面を構成する耐火材と同じものに穴を穿つて(a)、融点降下剤を3%程度含むスラグを装入して高温保持炉で溶融させた試験結果である(b)。周りに溶融スラグpによる耐火物の変性域sが形成され、変性域sの厚さtは融点降下剤の濃度や温度が高くなるにつれて大きくなり耐火材の寿命を短くすることがわかる。実際に、融点降下剤mの粉体を、ガス化溶融炉20から供給し可燃性ガスの流れに乗せて二次燃焼炉10へ供給したり、二次燃焼炉10において支燃性ガスに混入したり、別途供給口を設けて供給したりすると、融点降下剤mは旋回流により壁面に付着して溶融スラグpと混合して流下しスラグ塊qに達するが、融点降下剤濃度によっては耐火材に流下した跡が溝状に残ってしまう。
【0016】
本発明のスラグ塊の除去方法を図1、2をもとに説明する。
図2に、二次燃焼炉におけるスラグ搬出量Q、スラグ塊q前後位置の二次燃焼炉底部差圧ΔP(=P−P)、スラグ塊上流側近傍の二次燃焼炉下部温度Tの経時変化を示す。スラグ正常搬出期間Tにおいてはスラグ塊は形成されずにスラグの搬出量Qは比較的安定しており、二次燃焼炉底部差圧ΔPは非常に小さな値である。緩成長期間Tg1においては、スラグ塊が徐々に成長を始めるためスラグ搬出量Qが低下しΔPが上昇し始める。Tにおけるスラグ通常搬出量Qとの差ΔQはスラグ塊の成長速度にほぼ等しいと考えられる。急成長期間Tg2においては、壁面を流下する溶融スラグのほとんどがスラグ塊の成長に使われるためQはほぼ零となり、炉底の有効内径dは急速に小さくなり、ΔPは急上昇する。
【0017】
これより、差圧ΔPが予め設定した閾値Pに達した時に融点降下剤mを投入するとよい。スラグ塊qは融点降下作用により一部が溶融した時点で壁面との固着力が弱まって崩落し水槽3に落下する。この時、ほぼ零であったスラグ搬出量Qは大きなピークを記録する。Tはスラグ塊除去期間であり、融点降下剤m投入後短時間でスラグ塊が除去されていることがわかる。この後は再びスラグ正常搬出期間Tに戻り、QはQをΔPは非常に小さな値をそれぞれ回復する。なお、融点降下剤を投入するタイミングを、前記差圧ΔPの閾値Pによる設定に代えて、差圧ΔPの変化開始点からの時間T、或いはスラグの搬出量Qがほぼ零となってからの時間Tg2で設定するようにしても良い。
【0018】
このように、スラグ塊qが所定の大きさに成長した時にだけ、スラグ塊qに融点降下剤mを直接投射するので、融点降下剤mの使用量を少なくすることができる。このため、スラグ塊qが形成されていない壁面に作用する融点降下剤mは少なくすることができ耐火材の損傷防止に有効であるだけでなく、排ガスに乗って後段のボイラー、空気予熱器、排ガス冷却塔などの排ガス処理設備に運ばれ、ダストとして堆積される量も減少させることができる。
【0019】
以上、壁面に固着したスラグがある程度の大きさに成長したスラグ塊qを除去する場合について説明したが、固着したスラグがまだ小さなスラグ塊のうちに溶融して除去したり、スラグが凝固する固着位置近傍で、凝固しつつある溶融スラグを溶融状態に戻して壁面を流下させるようにして除去することもできる。この場合、スラグ搬出量Qや二次燃焼炉底部圧力Pを計測して投入タイミングを規定することは難しいが、タイマー設定により所定の周期で融点降下剤を投入するようにすればよい。この場合、融点降下剤mの投入制御システムは簡単となるが、融点降下剤mは前述した場合より頻繁に投射することになり消費量は増える。
【0020】
融点降下剤mには、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなど、アルカリ金属酸化物,アルカリ土類金属酸化物,アルカリ土類金属炭酸塩,アルカリ金属炭酸塩またはこれらの混合物を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の二次燃焼炉とこれに係わるガス化溶融炉の概略図である。
【図2】二次燃焼炉におけるスラグ塊除去前後のスラグ搬出量、差圧の変化を示す図である。
【図3】スラグ塊の除去メカニズムを模式的に示した図である。
【図4】融点降下剤の影響を示す図である。
【図5】従来の二次燃焼炉である。
【図6】上記二次燃焼炉底部の温度分布の解析結果である。
【図7】上記二次燃焼炉底部の排ガス流速の解析結果である。
【符号の説明】
【0022】
1 二次燃焼炉本体部
1a 二次燃焼炉絞り部
2 二次燃焼炉シュート部
2a 二次燃焼炉スラグ分離室
3 水槽
4 水
4a 水面
5 煙道
6 排ガス処理設備
10 本発明の二次燃焼炉
11 融点降下剤供給口
g 可燃性ガス
h 燃焼ガス
m 融点降下剤
o 粒子状固形分
p 溶融スラグ
q スラグ塊
s 変性域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグが凝固する壁面位置近傍で、壁面側からスラグに融点降下剤を投射することを特徴とする壁面に固着したスラグの除去方法。
【請求項2】
壁面に固着したスラグ塊の付け根近傍に壁面側から融点降下剤を投射し、スラグ塊の付け根を溶融させて該スラグ塊を崩落させることを特徴とする壁面に固着したスラグの除去方法。
【請求項3】
スラグが固着した箇所の上流側と下流側との差圧が予め設定した閾値に達したら融点降下剤を装入することを特徴とする請求項1又は2記載の壁面に固着したスラグの除去方法。
【請求項4】
廃棄物を焼却するガス化溶融炉から導入された可燃性ガスを燃焼する二次燃焼炉において、炉底部を水封する水槽の水面に近傍した炉壁面に融点降下剤投入口を設けたことを特徴とする二次燃焼炉。
【請求項5】
前記融点降下剤投入口は、溶融スラグが凝固する壁面位置に設けられていることを特徴とする請求項4記載の二次燃焼炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−85561(P2007−85561A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271175(P2005−271175)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】