説明

変位情報導出装置、乗員拘束システム、車両、変位情報導出方法

【課題】 車両構成部材の車両衝突時における変位に関する情報の検出に関し、当該検出特性向上を図るのに有効な技術を提供する。
【解決手段】 車両に搭載される衝突検出装置130は、車両衝突に伴ってコイルセンサ131側へと変位するとともに、当該コイルセンサ131のセンサ表面と対向状に延在する延在面を有する金属製の検出対象物を備える構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両構成部材の変位に関する情報を導出す技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両事故の際の衝突発生を検出する種々の車両衝突センサが知られている。例えば、下記特許文献1には、車両側面衝突の際、車両側面ドアが一定値をこえる衝撃を受けたときに、2つの導電体の絶縁が解除されて互いに導通する構成を用いることによって、当該車両側面ドアの衝突発生を電気信号として検知しようとする構成が開示されている。
【特許文献1】特開平5−45372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車両事故の際、エアバッグなどの乗員拘束システムによって車両乗員を拘束する構成においては、乗員拘束性向上を図る技術に対する要請が高くなってきており、そのためには、車両衝突発生を迅速かつ確実に検出するべく検出特性向上を図るのに有効なセンサを構築する要請が高い。
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、車両構成部材の車両衝突時における変位に関する情報の検出に関し、当該検出特性向上を図るのに有効な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明が構成される。本発明は、典型的には自動車において車両構成部材の変位に関する情報を導出する技術に対し適用することができるが、自動車以外の車両において、車両構成部材の変位に関する情報を導出する技術に対しても同様に、本発明を適用することが可能である。ここでいう「車両」には、自動車、航空機、船舶、電車、バス、トラック等の各種の車両が包含される。
【0005】
(本発明の第1発明)
前記課題を解決する本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの変位情報導出装置である。
請求項1に記載のこの変位情報導出装置は、車両衝突により変位する検出対象物に関する情報を検出する装置として構成されるものであって、検出対象物、コイル、コイルセンサ、導出部を少なくとも備える。ここでいう「車両衝突」には、車両の側面衝突、正面衝突、背面衝突、横転などが広く包含される。
【0006】
本発明の検出対象物は、車両構成部材として構成される金属製の部材であり、その全部または一部が、例えば鋼、銅、アルミニウム、フェライトなどを含む、導電体ないし磁性体として構成される。この検出対象物に対し、本発明のコイルが対向状に配置される。この検出対象物は、コイルに専用に設けられたものであってもよいし、或いは車両に既存の構成部材を兼用化したものであってもよい。
【0007】
本発明のコイルセンサは、コイルへの交流電流の通電によって、検出対象物に対し交流磁界を付与するとともに、当該通電時におけるインピーダンス(「交流インピーダンス」ともいう)を検出する機能を有する。すなわち、このコイルセンサは、コイルへの交流電流の通電によって、検出対象物に対し交流磁界を付与する励磁領域と、通電時におけるインピーダンスをコイルを介して検出する検出領域とが兼用化されたコイルセンサとして構成される。従って、本発明のコイル自体が、励磁領域及び検出領域を有する実質的なコイルセンサを構成する。
【0008】
具体的には、コイルに交流電流が通電され、その周辺の車両構成部材に交流磁場が与えられると、電磁誘導の法則によって当該車両構成部材に渦電流が発生する。この渦電流によっても磁界を生じ、その磁界の一部がコイルにも錯交する。結局、コイルには、交流電源から流した電流による磁束に、車両構成部材に流れた渦電流による磁束が加算され、これらの磁束によってコイルに誘起電圧が発生することとなる。コイルに流した電流に対しコイルに生じた電圧の比がコイルの交流インピーダンスとなるため、結果としてコイル(コイルセンサ)に車両構成部材を近接させることによってコイルの交流インピーダンスが変化することとなる。このときのコイルの交流インピーダンスを、連続的或いは一定時間毎にコイルを介して検出することによって、交流インピーダンスの変化が検出される。
【0009】
本発明の導出部は、車両衝突の際、検出対象物がコイルセンサへ向けて変位したときに検出されるインピーダンスの変化に基づいて、当該検出対象物の変位に関する情報を導出する機能を有する。これにより、車両衝突の際の検出対象物の変位に関する情報が、導出部によって導出されることとなる。具体的には、記憶機能及び演算機能を有する導出部が、交流インピーダンスの変化と、検出対象物の変位に関する情報との相関を予め記憶しておき、コイルセンサを介して実際に検出した交流インピーダンスの変化をこの相関にあてはめる演算を行うことによって、検出対象物の実際の変位に関する情報を導出する構成を用いることができる。なお、ここでいう「検出対象物の変位に関する情報」としては、検出対象物の変位距離、変位速度、変位加速度などが挙げられる。更に、車両衝突によって変位する変位部材の動作が、この検出対象物の動作と相関がある場合には、この検出対象物の変位に関する情報を用いて変位部材の情報を導出することもできる。
【0010】
本発明では、特に、前記の検出対象物は、車両衝突による車両構成部材の変位に伴ってコイルセンサ側へと変位するとともに、当該コイルセンサのセンサ表面と対向状に延在する延在面を有する構成とされる。検出対象物の延在面の形状に関しては、平坦面、段差面、曲面などを適宜用いることができる。ここで、車両衝突により変位する「車両構成部材」としては、車両の外郭を形成する外部パネル(ドアパネル(ドアスキン)、フロントパネル、リアパネル、ボンネットパネル、トランクパネルなど)などが挙げられる。また、本発明において、検出対象物は、車両衝突によって変位する車両構成部材とは別体として設けられてもよいし、当該車両構成部材と一体状に設けられてもよいし、或いは当該車両構成部材自体によって構成されてもよい。
【0011】
ここで、コイルセンサを用いて、ドアアウタパネルやドアビームのような車両構成部材を直接的に検出する場合には、当該車両構成部材の表面形状によってコイルセンサの検出特性が変化することが知られている。従って、コイルセンサの設置場所によって検出特性を変える必要があり、コイルセンサの検出特性向上及び汎用性向上を図るのに限界がある。そこで、本発明では、車両衝突により変位するコイルセンサに対し専用の検出対象物を設定するとともに、その検出対象物にセンサ表面と対向状に延在する延在面を設け、当該延在面をコイルセンサによって直接的に検出するように構成したのである。
【0012】
このような構成によれば、コイルセンサの設置場所に影響されることなく、金属製の検出対象物とコイルセンサとの間の距離に対する交流インピーダンスの変化が概ね一定となるような直線化(線形化)された検出特性を得ることができ、検出対象物の変位に関する情報の検出特性向上を図ることが可能となる。
【0013】
なお、本発明において導出部によって導出された、検出対象物の変位に関する情報は、車両衝突の際に車両乗員の拘束を行うべく作動するエアバッグ装置やシートベルト装置などの乗員拘束装置の制御、車両衝突の報知などを行うべく表示出力や音声出力を行う報知装置の制御、またその他の制御対象の制御に適宜用いられる。典型的には、検出対象物の変位に関する情報に基づいて、車両衝突が実際に発生したと判定した場合に、エアバッグ装置やシートベルト装置に制御信号が出力される構成を採用し得る。
【0014】
(本発明の第2発明)
前記課題を解決する本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの変位情報導出装置である。
請求項2に記載のこの変位情報導出装置では、請求項1に記載の検出対象物は、車両構成部材側に止着された構成であり、車両衝突の際、当該車両構成部材と一体状にコイルセンサ側へと変位する構成とされる。
このような構成によれば、コイルセンサによって検出される検出対象物を車両構成部材側に止着したうえで、当該検出対象物の変位に関する情報の検出特性向上を図ることが可能となる。
【0015】
(本発明の第3発明)
前記課題を解決する本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの変位情報導出装置である。
請求項3に記載のこの変位情報導出装置では、請求項1に記載の検出対象物は、車両構成部材とコイルセンサとの間において、弾性変形が可能な弾性体を介してコイルセンサ側に止着された構成とされる。そして、車両衝突の際、車両構成部材のコイルセンサ側への変位に伴って当該車両構成部材によって押圧され、弾性体の弾性付勢力に抗してコイルに近接する構成になっている。この弾性体としては、スポンジ材料やウレタン材料などの弾性素材を用いるのが好ましい。
このような構成によれば、コイルセンサによって検出される検出対象物をコイルセンサ側に止着したうえで、当該検出対象物の変位に関する情報の検出特性向上を図ることが可能となる。
【0016】
(本発明の第4発明)
前記課題を解決する本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの変位情報導出装置である。
請求項4に記載のこの変位情報導出装置では、請求項3に記載の弾性体は、検出対象物がコイルセンサに近接する際、当該検出対象物の延在面とコイルセンサのセンサ表面とが平行状となるように弾性変形する構成とされる。
このような構成によれば、検出対象物とコイルセンサの間の距離に対する交流インピーダンスの変化が一義的に定まることとなり、検出対象物の変位に関する情報の更なる検出特性向上を図ることが可能となる。
【0017】
(本発明の第5発明)
前記課題を解決する本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの乗員拘束システムである。
請求項5に記載のこの乗員拘束システムは、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の変位情報導出装置、乗員拘束装置、制御装置を少なくとも備える。
本発明の乗員拘束装置は、車両衝突の際に車両乗員を拘束するべく作動する手段として構成される。ここでいう「乗員拘束装置」には、エアバッグ装置(エアバッグモジュール)やシートベルト装置などの乗員拘束デバイスが包含される。
本発明の制御装置は、導出部にて導出された情報、すなわち検出対象物の変位に関する情報に基づいて、乗員拘束装置を制御する機能を少なくとも有する装置として構成される。典型的には、検出対象物の変位に関する情報に基づいて、車両衝突が実際に発生したと判定した場合に、エアバッグ装置やシートベルト装置に制御信号が出力される構成を採用し得る。また、検出対象物の変位に関する情報に基づいて、衝突発生時における衝突エネルギーを推定し、エアバッグ装置やシートベルト装置における乗員拘束態様を可変とする構成を採用し得る。なお、この制御装置は、当該乗員拘束装置の制御専用として構成されてもよいし、或いは車両のエンジン走行系統や電装系統を駆動制御する手段と兼用とされてもよい。
このような構成によれば、変位情報導出装置によって得られた、検出対象物の変位に関する精度の高い情報を用いて乗員拘束装置が制御されることとなり、これによって車両乗員の拘束徹底が図られる。
【0018】
(本発明の第6発明)
前記課題を解決する本発明の第6発明は、請求項6に記載されたとおりの乗員拘束システムである。
請求項6に記載のこの乗員拘束システムでは、請求項5に記載の変位情報導出装置のコイルは、車両構成部材としての車両ドアのドアアウタパネルに対して対向状に配置される構成とされる。また、請求項5に記載の乗員拘束装置は、車両側面衝突の際、制御装置により制御されることによって車両乗員を拘束する構成とされる。この場合、乗員拘束装置としてエアバッグ装置を用いる場合には、エアバッグがシート、ピラー、上部ルーフレールなどに収容される形態のエアバッグ装置を採用することができる。このような構成によれば、特に車両側面衝突の際の車両乗員の拘束徹底が図られる。
【0019】
(本発明の第7発明)
前記課題を解決する本発明の第7発明は、請求項7に記載されたとおりの車両である。
請求項7に記載のこの車両は、エンジン走行系統、電装系統、駆動制御装置、検出対象物、センサ装置、制御信号出力装置を少なくとも備える車両である。
エンジン走行系統は、エンジン及び車両の走行に関与する系統として構成される。電装系統は、車両に使われる電機部品に関与する系統として構成される。駆動制御装置は、エンジン走行系統及び電装系統の駆動制御を行う機能を有する装置として構成される。検出対象物は、車両衝突により変位する金属製の部材として構成される。この検出対象物は、金属製の部材であり、その全部または一部が、例えば鋼、銅、アルミニウム、フェライトなどを含む、導電体ないし磁性体として構成される。センサ装置は、車両構成部材の変位に関する情報を導出する機能を有する装置として構成される。
【0020】
本発明では、このセンサ装置が、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の変位情報導出装置によって構成される。制御信号出力装置は、センサ装置にて導出された情報に基づいて、制御対象に制御信号を出力する機能を有する装置として構成される。ここでいう「制御対象」には、車両衝突の際に車両乗員の拘束を行うべく作動するエアバッグ装置やシートベルト装置などの乗員拘束装置、車両衝突の報知などを行うべく表示出力や音声出力を行う報知装置などの制御対象が包含される。この制御信号出力装置は、制御対象の制御の専用に設けられてもよいし、エンジン走行系統及び電装系統の駆動制御を行う駆動制御装置と兼用とされてもよい。
このような構成によれば、変位情報導出装置によって得られた、車両構成部材の変位に関する精度の高い情報を、車両に関する種々の制御対象の制御に用いる車両が提供されることとなる。
【0021】
(本発明の第8発明)
前記課題を解決する本発明の第8発明は、請求項8に記載されたとおりの変位情報導出方法である。
請求項8に記載のこの変位情報導出方法では、車両構成部材として構成され、車両衝突に伴ってコイルセンサ側へと変位するとともに、当該コイルセンサのセンサ表面と対向状に延在する延在面を有する金属製の検出対象物につき、当該検出対象物に対して対向状に配置されるコイルセンサを用いる。そして、コイルセンサのコイルへの交流電流の通電によって、検出対象物に対し交流磁界を付与し、当該通電時におけるインピーダンスをコイルを介して検出するとともに、車両衝突の際、検出対象物が前記コイルセンサへ向けて変位したときのインピーダンスの変化をコイルを介して検出する。これによって、検出対象物とコイルセンサとの間の距離に対するインピーダンスの変化に関する検出特性を得るとともに、当該検出特性に基づいて検出対象物の変位に関する情報を導出する。この方法に際し、実質的に請求項1に記載の変位情報導出装置を用いることができる。
従って、このような方法によれば、車両構成部材の車両衝突時における変位に関する情報の検出特性向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、特に金属製の検出対象物に対して対向状に配置されるコイルへの交流電流の通電によって、検出対象物に対し交流磁界を付与するとともに、当該通電時におけるインピーダンスを検出するコイルセンサの構成につき、検出対象物に、コイルセンサのセンサ表面と対向状に延在する延在面を設ける構成を採用することによって、検出対象物の変位に関する情報の検出特性向上を図ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図1〜図9を参照しながら本発明における「乗員拘束システム」の一実施の形態である乗員拘束システム100について説明する。本実施の形態は、乗員拘束を行う乗員拘束システムとして、展開膨張が可能なエアバッグを用いたエアバッグモジュールを採用している。なお、本実施の形態では、車両室内の右側の車両シート上の車両乗員(運転者)に対し使用されるエアバッグモジュールを記載しているが、本実施の形態のこのエアバッグモジュールの構成は、運転席、助手席、後部座席等のいずれの車両シート上の車両乗員に対しても同様に適用可能である。
【0024】
本実施の形態の乗員拘束システム100が、自車両200に搭載された様子が図1に模式的に示される。詳細については後述するが、この乗員拘束システム100を構成する衝突検出装置130は、本実施の形態では、車両乗員Cが乗降する際に開閉する車両ドアに装着されている。この乗員拘束システム100の衝突検出装置130に加え、更にトリム、ピラー等、車体側部材に、別の検出装置や、乗員拘束システムを装着するように構成することもできる。
【0025】
図1に示すように、本発明における「車両」としての自車両200には、当該車両を構成する多数の車両構成部材、エンジン及び車両の走行に関与する系統であるエンジン走行系統、車両に使われる電機部品に関与する系統である電装系統、エンジン走行系統及び電装系統の駆動制御を行う駆動制御手段等を備える。特に本実施の形態では、この自車両200に乗員拘束システム100が搭載されている。
この乗員拘束システム100は、自車両200の側面衝突(例えば、別車両210による側面衝突)時や横転時のような車両事故の際、車両シート上の車両乗員Cの保護を行う機能を有する装置として構成される。この乗員拘束システム100は、エアバッグモジュール110、制御ユニット(ECU)120、衝突検出装置130を少なくとも備える。
【0026】
エアバッグモジュール110は、特に図示しないものの、エアバッグ及びガス供給装置を少なくとも備える。当該エアバッグは、膨張及び収縮が可能であり、車両事故発生時において、ガス供給装置からのガス供給によって乗員拘束領域に展開膨張する構成とされる。このエアバッグモジュール110が、本発明における「乗員拘束装置」、「制御対象」に対応している。
【0027】
制御ユニット120は、特に図示しないものの、CPU(演算処理装置)、入出力装置、記憶装置、駆動装置、周辺装置等によって構成されている。本実施の形態では、この制御ユニット120が、エアバッグモジュール110と電気的に接続されており、これらの間で検出信号および制御信号のやりとりを行う構成になっている。具体的には、制御ユニット120には、衝突検出装置130によって検出された検出情報(検出信号)が入力信号として入力されるようになっている。そして、制御ユニット120は、衝突検出装置130からの入力信号に基づいて、エアバッグモジュール110に制御信号の出力を行うようになっている。この制御ユニット120が本発明における「制御装置」、「制御信号出力装置」に対応している。
なお、この制御ユニット120は、乗員拘束システム100のみの制御を行う構成であってもよいし、乗員拘束システム100に加え、当該乗員拘束システム100の制御以外に、他の車両構成部材に関する制御や、車両全体の制御をあわせて行う構成であってもよい。
【0028】
ここで、図1中の衝突検出装置130の駆動回路が図2に示される。
図2に示すように、衝突検出装置130は、コイルセンサ131、交流電源装置135、電流計136、電流出力部137、電圧出力部138、後述する保持部材134及び金属板139を少なくとも備える。コイルセンサ131は、センサハウジング132内に円形状に複数回巻かれたコイル133を収容する構成とされる。このコイル133が、本発明における「コイル」に対応しており、コイルセンサ131が、本発明における「コイルセンサ」に対応している。交流電源装置135は、制御ユニット120からの制御信号に基づいて、コイルセンサ131のコイル133に交流電流を流すための装置である。電流計136は、コイル133に流れる電流を検出する機能を有する。電流出力部137は、コイル133に流れる電流変化に関する情報(位相及び振幅)を検出する機能を有し、電圧出力部138は、コイル133における電圧変化に関する情報(位相及び振幅)を検出する機能を有する。
この衝突検出装置130が、本発明における「変位情報導出装置」、「センサ装置」に対応している。
【0029】
上記構成の衝突検出装置130において、交流電源装置135の駆動によってコイル133に交流電流が通電され、その周辺の金属体(導電体ないし磁性体)に交流磁場が与えられると、電磁誘導の法則によって金属体に渦電流が発生する。この渦電流によっても磁界を生じ、その磁界の一部がコイル133にも錯交する。結局、コイル133には、交流電源装置135で流した電流による磁束に、金属体に流れた渦電流による磁束が加算され、これらの磁束によってコイル133に誘起電圧が発生することとなる。コイル133に流した電流に対しコイル133に生じた電圧の比がコイル133の交流インピーダンスとなるため、結果としてコイル133に金属体を近接させることによってコイル133の交流インピーダンスが変化することとなる。このときのコイル133の交流インピーダンスを、連続的或いは一定時間毎にコイル133を介して検出することによって、交流インピーダンスの変化が検出される。従って、本実施の形態では、コイル133自体が、励磁領域及び検出領域を有する実質的なコイルセンサ131を構成し、検出領域によって検出された交流インピーダンスの変化が、結果として電流出力部137及び電圧出力部138を介して検出されるようになっている。
【0030】
上記構成の衝突検出装置130のコイルセンサ131及びその周辺要素の第1の態様が図3を用いて説明される。図3は、車両ドア10の断面構造を示す図であって、コイルセンサ131及びその周辺要素の第1の態様を示す図である。
図3に示すように、車両乗員Cの乗降に用いる車両ドア10において、車両の外側壁を構成する金属板状のドアアウタパネル(「ドアスキン」ともいう)12と、車両の内側壁を構成するドアインナパネル14との間に形成(区画)される空間部16に、コイルセンサ131が装着される。具体的には、ドアインナパネル14の空間部16側にブラケット18が設けられ、このブラケット18にコイルセンサ131が保持される構成になっている。更に、センサハウジング132のセンサ表面132aに保持部材134を介して金属板139が保持される構成になっている。また、図3に示す状態では、コイルセンサ131は、金属板139及びドアアウタパネル12に対して対向状に配置され、且つコイル133のコイル延在面ないしコイル平面(実質的にはセンサハウジング132のセンサ表面132a)が、金属板139の延在方向と平行状に配置される。
【0031】
保持部材134は、スポンジ材料やウレタン材料などの弾性素材を用いて構成されている。この保持部材134が、本発明における弾性体に相当する。また、金属板139は、コイルセンサ131の検出対象物であり、ドアアウタパネル12と同様に、例えば鋼、アルミニウム、フェライトなどを含む、導電体ないし磁性体として構成される。特に、アルミニウムは導電性が高く、コイルセンサ131によって大きな渦電流が流れるため、アルミニウムを含む金属を用いて金属板139を構成することによって、検出感度を向上させるのに有利である。この金属板139及び後述する金属板140が、本発明における「金属製の検出対象物」に対応している。
【0032】
ここで、コイルセンサ131の動作及び作用を図3に加え、図4を参照しながら説明する。図4は、車両ドア10の断面構造を示す図であって、自車両200の側面衝突によって車両ドア10のドアアウタパネル12が変位する際のコイルセンサ131の動作を説明する図である。
【0033】
いま、車両衝突(図1中における自車両200への別車両210の側面衝突)によって、図3中に示す車両ドア10のドアアウタパネル12が側方(図3中の右側)から衝撃を受け、コイルセンサ131へ向けて変位(「変形」ないし「移動」ともいう)する場合について考える。この場合、図3中に示すドアアウタパネル12は、例えば図4に示す状態に至る。
【0034】
図4に示す状態は、ドアアウタパネル12が二点鎖線で示す位置から実線で示す位置まで変位し、ドアアウタパネル12の各部位のうち、コイルセンサ131に対向する部位が金属板139を車内方向(図中の左方向)へと押圧し、保持部材134を押し潰した状態である。この状態では、コイルセンサ131の検出対象物である金属板139は、その平坦状の延在面(「平坦面」或いは「対向面」ともいう)が、コイル延在面(センサ表面132a)と平行状となる。また、特に図示しないものの、図3に示す状態からこの図4に示す状態に至る過程では、ドアアウタパネル12からの押圧力によって、このドアアウタパネル12及び金属板139がコイルセンサ131(コイル133)側へと一体状に変位する。このとき、金属板139は保持部材134を押し潰しつつ変位し、金属板139の延在面とコイル延在面との平行関係は維持される。この作用は、コイルセンサ131と金属板139との間に介在する保持部材134の全体の硬さや局所的な硬さなどを適宜調整することによって得られることとなる。また、ドアアウタパネル12が金属板139を押圧しているときは、これらドアアウタパネル12及び金属板139が一体状に変位することとなる。なお、金属板139の延在面とコイル延在面との平行関係を維持するべく、更に金属板139のドアアウタパネル12側に、別の弾性部材を介在させた構成を用いることもできる。
【0035】
図3に示す状態から第4に示す状態に至るまでドアアウタパネル12が変位するとき、コイルセンサ131を介して連続的ないし一定時間毎に検出された交流インピーダンスの変化は、制御ユニット120において処理され、この交流インピーダンスの変化情報に基づいて、金属板139或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報が導出されることとなる。
具体的には、制御ユニット120が、交流インピーダンスの変化と、金属板139或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報との相関を予め記憶しており、検出した交流インピーダンスの変化をこの相関にあてはめることによって、金属板139或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報が導出される。この変位に関する情報としては、変位距離、変位速度、変位加速度などを適宜用いることができる。なお、ドアアウタパネル12が金属板139を押圧しているときは、これらドアアウタパネル12及び金属板139が一体状に変位するため、コイルセンサ131によって検出されるこれらドアアウタパネル12及び金属板139の変位に関する情報は実質的に一致する。金属板139の変位に関する情報を導出するこの制御ユニット120によって、本発明における「導出部」が構成される。
【0036】
更に、金属板139或いはドアアウタパネル12の変位に関し導出された情報に基づいて、自車両200の側面衝突に関する情報が導出され、側面衝突に関するこの情報に基づいてエアバッグモジュール110が制御される。側面衝突に関するこの情報としては、側面衝突が実際に発生したか否かの情報をはじめ、側面衝突発生時における衝突エネルギーなどの情報を適宜用いることができる。この制御によりエアバッグモジュール110のエアバッグが展開膨張し、当該エアバッグが、車両乗員(図1中の車両乗員C)の側部(頭部、首部、肩部、胸部、腹部、膝部、下肢部など)に作用する衝撃力を緩和しつつ乗員拘束を行う。
なお、自車両200の衝突に関する情報の導出においては、コイルセンサ131による検出情報に加え、更にその他のセンサにより検出情報を用いることもできる。その他のセンサとして、例えば、自車両200に作用する3軸(X軸、Y軸、Z軸)方向の加速度を検出する加速度センサを用いることができる。
【0037】
ここで、従来構成のコイルセンサを用いて、ドアアウタパネル12や円筒状ないし円柱状のドアビームのような車両構成部材を直接的に検出する場合には、当該車両構成部材の表面形状によってコイルセンサの検出特性が変化することが知られている。従って、コイルセンサの設置場所によって検出特性を変える必要があり、コイルセンサの検出特性向上及び汎用性向上を図るのに限界がある。そこで、本発明者は、車両衝突により変位するコイルセンサに対し専用の検出対象物を設定するとともに、その検出対象物にコイル表面と対向状に延在する延在面を設け、当該延在面をコイルセンサによって直接的に検出する構成を採用することとした。
【0038】
これにより、図3に示す第1の態様を用いた場合、コイルセンサ131の設置場所に影響されることなく、コイルセンサ131の検出対象物である金属板139とコイルセンサ131との間の距離に対する交流インピーダンスの変化が概ね一定となるような検出特性を得ることができる。特に、コイルセンサ131の検出対象物である金属板139の平坦状の延在面とコイル延在面との平行関係を維持することによって、金属板139とコイルセンサ131との間の距離に対する交流インピーダンスの変化が一義的に定まることとなる。従って、金属板139或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報の検出特性向上を図ることが可能となる。
【0039】
なお、図3に示すコイルセンサ131及びその周辺要素の第1の態様にかえて、図5〜図9に示す別の態様を採用することもできる。図5に示す第2の態様及び図6に示す第3の態様では、図3に示す第1の態様と同様に、金属板135をコイルセンサ131側に保持する構成としているのに対し、図7に示す第4の態様、図8に示す第5の態様、及び図9に示す第6の態様では、金属板135をドアアウタパネル12側に保持する構成としている。従って、第1〜第3の態様が請求項3に記載の態様に相当し、第4〜第6の態様が請求項2に記載の態様に相当する。
図5〜図9では、図3に示す要素と同一の要素には同一の符号を付すものとし、当該要素についての詳細な説明は省略する。
【0040】
(第2の態様)
図5に示すコイルセンサ131及びその周辺要素の第2の態様では、ドアアウタパネル12の内周面12aに、円筒状ないし円柱状のドアビーム(「補強ビーム」ともいう)19が止着された構成になっている。そして、金属板139は、センサハウジング132のセンサ表面132aに保持部材134を介して保持されるとともに、保持部材134の各部位のうちドアビーム19に対向する位置に止着されている。
【0041】
図5に示すこの第2の態様において、自車両200が側面衝突した場合には、ドアアウタパネル12からの押圧力によって、ドアビーム19が金属板139を押圧し、更にこの金属板139が保持部材134を押し潰しつつ変位する。この変位の過程においては、保持部材134の作用によって、金属板139の延在面とコイル延在面との平行関係が維持される。
【0042】
図5に示す第2の態様を用いる場合も、図3に示す第1の態様と同様に、金属板139とコイルセンサ131との間の距離に対する交流インピーダンスの変化が概ね一定となるような検出特性を得ることができる。かくして、コイルセンサ131を介して連続的ないし一定時間毎に検出された交流インピーダンスの変化は、制御ユニット120において処理され、この交流インピーダンスの変化情報に基づいて、金属板139、ドアビーム19或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報が導出されることとなる。この場合、制御ユニット120が、交流インピーダンスの変化と、金属板139、ドアビーム19或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報との相関を予め記憶しており、検出した交流インピーダンスの変化をこの相関にあてはめることによって、金属板139、ドアビーム19或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報が導出される。なお、ドアアウタパネル12がドアビーム19を介して金属板139を押圧しているときは、これらドアアウタパネル12、ドアビーム19及び金属板139が一体状に変位するため、コイルセンサ131によって検出されるこれらドアアウタパネル12、ドアビーム19及び金属板139の変位に関する情報は実質的に一致する。
【0043】
(第3の態様)
図6に示すコイルセンサ131及びその周辺要素の第3の態様では、図5に示す第2の態様において、保持部材134の各部位のうちドアビーム19に対向する位置に止着された金属板139の下方に、更に同種の金属板140を取り付けた構成とされる。また、この金属板140のドアアウタパネル12側には、保持部材134と同種の素材からなる緩衝部材141が止着されている。
【0044】
図6に示すこの第2の態様において、自車両200が側面衝突した場合には、ドアアウタパネル12からの押圧力によって、ドアビーム19が金属板139を押圧し、更にこの金属板139が保持部材134を押し潰しつつ変位する。この変位の過程においては、保持部材134の作用によって、コイルセンサ131の検出対象物である金属板139の延在面とコイル延在面との平行関係が維持される。同時に、ドアアウタパネル12からの押圧力は、緩衝部材141によってバランス化されて金属板140に作用し、この金属板140が保持部材134を押し潰しつつ変位する。この変位の過程においては、保持部材134の作用によって、コイルセンサ131の検出対象物である金属板140の平坦状の延在面とコイル延在面との平行関係が維持される。
【0045】
図6に示す第3の態様を用いる場合も、図5に示す第2の態様と同様に、コイルセンサ131の検出対象物である金属板139,140とコイルセンサ131との間の距離に対する交流インピーダンスの変化が概ね一定となるような検出特性を得ることができる。かくして、コイルセンサ131を介して連続的ないし一定時間毎に検出された交流インピーダンスの変化は、制御ユニット120において処理され、この交流インピーダンスの変化情報に基づいて、金属板139,140、ドアビーム19或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報が導出されることとなる。この場合、制御ユニット120が、交流インピーダンスの変化と、金属板139,140、ドアビーム19或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報との相関を予め記憶しており、検出した交流インピーダンスの変化をこの相関にあてはめることによって、金属板139,140、ドアビーム19或いはドアアウタパネル12の変位に関する情報が導出される。なお、ドアアウタパネル12或いはドアビーム19が金属板139,140を押圧しているときは、これらドアアウタパネル12、ドアビーム19及び金属板139,140が一体状に変位するため、コイルセンサ131によって検出されるこれらドアアウタパネル12、ドアビーム19及び金属板139,140の変位に関する情報は実質的に一致する。
【0046】
(第4の態様)
図7に示すコイルセンサ131及びその周辺要素の第4の態様では、図5に示す第2の態様において、保持部材134を省略したうえで、コイルセンサ131側に止着されていた金属板139を、ドアアウタパネル12側に止着するように変更した構成とされる。本構成では、ドアアウタパネル12からの押圧力によって、このドアアウタパネル12及び金属板139がコイルセンサ131(コイル133)側へと一体状に変位する。従って、本構成は、第2の態様と実質的に同様の作用効果を奏する。特には、保持部材134のような部材を省略することによって、構成の簡素化を図ることが可能となる。
【0047】
(第5の態様)
図8に示すコイルセンサ131及びその周辺要素の第5の態様では、図6に示す第3の態様において、保持部材134を省略したうえで、コイルセンサ131側に止着されていた金属板139及び金属板140を、一体状の金属板139としてドアアウタパネル12側に止着するように変更した構成とされる。本構成では、ドアアウタパネル12からの押圧力によって、このドアアウタパネル12及び金属板139がコイルセンサ131(コイル133)側へと一体状に変位する。従って、本構成は、第3の態様と実質的に同様の作用効果を奏する。特には、保持部材134のような部材を省略することによって、構成の簡素化を図ることが可能となる。
【0048】
(第6の態様)
図9に示すコイルセンサ131及びその周辺要素の第6の態様では、図8に示す第5の態様において、金属板139の延在面の形状を工夫した構成とされる。すなわち、この金属板139は、平坦状に形成された第1延在面139a及び第2延在面139bを有するとともに、第1延在面139aが第2延在面139bよりもコイルセンサ131側へと近接して配置される。本構成では、ドアアウタパネル12からの押圧力によって、このドアアウタパネル12及び金属板139(第1延在面139aが第2延在面139b)がコイルセンサ131(コイル133)側へと一体状に変位する。本構成により、第5の態様と実質的に同様の作用効果を奏するうえに、金属板139と検出領域との間の距離に対する交流インピーダンスの変化が概ね一定となるように直線化(線形化)された検出特性を得ることが可能となる。
【0049】
以上のように、本実施の形態によれば、金属板139,140、ドアビーム19、ドアアウタパネル12の変位に関する情報の検出特性向上を図る衝突検出装置130及び衝突検出方法を提供することができる。具体的には、コイルセンサ131の設置場所に影響されることなく、金属板139,140とコイルセンサ131との間の距離に対する交流インピーダンスの変化が概ね一定となるような検出特性を得ることができ、また金属板139,140とコイルセンサ131の間の距離に対する交流インピーダンスの変化を一義的に定めることができる。
また、本実施の形態によれば、衝突検出装置130によって得られた、金属板139,140、ドアビーム19、ドアアウタパネル12の変位に関する精度の高い情報を用いてエアバッグモジュール110が制御されることとなり、これによって車両乗員の拘束徹底が図られる。
また、本実施の形態によれば、衝突検出装置130によって得られた、金属板139,140、ドアビーム19、ドアアウタパネル12の変位に関する精度の高い情報を、車両に関する種々の制御対象の制御に用いる車両200が提供されることとなる。
【0050】
(他の実施の形態)
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0051】
上記実施の形態では、コイルセンサ131によって検出される金属板139,140を設ける場合について記載したが、本発明では、平坦状の延在面を有する検出対象物を、既存の車両構成部材自体を用いて構成することができる。例えば、ドアアウタパネル12の内周面12aやドアビーム19の一部を平坦状にした構成を採用することができる。
【0052】
また、上記実施の形態では、コイルセンサ131の検出対象物が、コイルセンサ131のセンサ表面に対向状に延在する延在面を平坦面とした構成について記載したが、本発明では、コイルセンサのセンサ表面に対向状に延在する延在面を平坦面以外の構成、例えば曲面、段差面を有する構成とすることもできる。ここで、図10及び図11には、別の実施の形態の金属板を用いた場合の構成が示される。
【0053】
図10に示す金属板239は、その中央部分がコイルセンサ131側へと突出した円錐台形状を有し、センサハウジング132のセンサ表面132aに保持部材134を介して保持される構成になっている。すなわち、この金属板239は、コイルセンサ131のセンサ表面に対向状に延在する延在面が凸面とされる。この金属板239が、本発明における「金属製の検出対象物」に対応している。このような構成においては、自車両200の側面衝突の際、ドアアウタパネル12からの押圧力によって、このドアアウタパネル12及び金属板239がコイルセンサ131(コイル133)側へと一体状に変位する。金属板239は、保持部材134を押し潰しつつ、例えば図10中の実線で示す位置から破線で示す位置まで変位し、このときの金属板239の変位に関する情報が制御ユニット120によって導出される。なお、図10に示す金属板239の形状に関連して、当該金属板239の形状を円錐台形状以外の形状、例えば円柱形状、角柱台形状、円弧形状、段付き形状などとすることもできる。
【0054】
図11に示す金属板339は、その中央部分がコイルセンサ131側へと突出した湾曲状の板片として構成され、ドアアウタパネル12側のドアビーム19に保持される構成になっている。すなわち、この金属板339は、コイルセンサ131のセンサ表面に対向状に延在する延在面が湾曲面とされる。この金属板339が、本発明における「金属製の検出対象物」に対応している。このような構成においては、自車両200の側面衝突の際、ドアアウタパネル12からの押圧力によって、このドアアウタパネル12及び金属板339がコイルセンサ131(コイル133)側へと一体状に変位する。金属板339は、例えば図11中の実線で示す位置から破線で示す位置まで変位し、このときの金属板339の変位に関する情報が制御ユニット120によって導出される。
【0055】
コイルセンサ131によって検出される検出対象物として、図11に示す金属板339のような湾曲面を有する部材を用いることによって、金属板の検出特性に関し更なる効果的な特性を得ることが可能となる。平面を有する金属板を用いる場合であっても、金属板と検出領域との間の距離に対する交流インピーダンスの変化が概ね直線化(線形化)された検出特性を得ることができるが、湾曲面を有する金属板を用いることによって、交流インピーダンスの変化の直線化の度合いをより高めることが可能となる。ここで、平面を有する金属板(以下、「平板」という)を用いる場合、及び湾曲面を有する金属板(以下、「湾曲板A」という)を用いる場合、更には湾曲面を有する金属板(以下、「湾曲板B」という)であって湾曲面の曲率が異なる場合の作用効果を、図12〜図15を参照しつつ具体的に説明する。
【0056】
図12には、平板を、コイルとの間の距離d=d1、d2(<d1)、d3(<d2)の順でコイルに近づける様子が示される。また、図13には、湾曲板Aを、コイルとの間の距離d=d1、d2(<d1)、d3(<d2)の順でコイルに近づける様子が示される。また、図14には、図13に示す湾曲板Aよりも曲率が小さい湾曲面を有する湾曲板Bを、コイルとの間の距離d=d1、d2(<d1)、d3(<d2)の順でコイルに近づける様子が示される。
【0057】
図12〜図14を比較することにより、金属板をコイルに近づける過程において、金属板の形状によって金属板とコイルとの間の磁束の交錯範囲(磁束密度が高い範囲)に差が生じることがわかる。具体的には、平板の場合には、コイルとの距離が近づくほどに磁束の交錯範囲が急激に増加して交流インピーダンスも急増する。これに対し、湾曲板A及び湾曲板Bの場合には、距離d=d3の位置では、金属板の先端部分はコイルの磁界の影響の及ぶ範囲から遠ざかっていくこととなる。これにより、距離dがd2からd3に至る領域にあっては、平板の場合よりも交流インピーダンスの増加が抑えられ、交流インピーダンスの変化の直線化の度合いがより高まることとなる。例えば、平板の場合の交流インピーダンスの増加率は、距離d2の位置よりも距離d3の位置の方が大きくなるのに対し、湾曲板A及び湾曲板Bの場合の交流インピーダンスの増加率は、距離d2の位置と距離d3の位置とで概ね合致することとなる。また、湾曲板を用いる場合にあっては、湾曲面の曲率が異なる湾曲板を適宜選択することによって、交流インピーダンスの変化の態様を調整することが可能となる。これらの結果は、平板、湾曲板A、湾曲板Bを用いる場合の、金属板とコイルとの間の距離によるQ値及びI値の変化の様子として、図15が参照される。ここで、Q値は検出時におけるコイルに流れる電流及び電圧の位相関係を反映する値として規定され、I値は検出時における振幅情報を反映する値として規定される。
【0058】
また、上記実施の形態では、側面衝突の発生を検出する技術に適用する衝突検出装置130について記載したが、本発明では、当該衝突検出装置130の構成を、車両の各種の衝突発生を検出する技術に適用することができる。その場合、本実施の形態のように、車両ドア10に搭載したコイルセンサ131の設置箇所は、車両の衝突の態様に応じて適宜設定することができる。
【0059】
また、上記実施の形態では、ドアアウタパネル12の変位に関する情報を、車両衝突の際に車両乗員の拘束を行うべく作動するエアバッグモジュール110の制御に用いる場合について記載したが、本発明では、ドアアウタパネル12の変位に関する情報を、やシートベルト装置などの乗員拘束装置の制御や、車両衝突の報知などを行うべく表示出力や音声出力を行う報知装置の制御などに用いることもできる。
【0060】
また、上記実施の形態では、車両の側面衝突を検出する衝突検出装置130について記載したが、側面衝突以外の前面衝突(フルラップ衝突、オフセット衝突、ポール正面衝突、斜め衝突など)、後面衝突、横転などにおいて車両衝突を検出する技術に対し、本発明を適用することもできる。
【0061】
また、上記実施の形態では、自動車に装着される乗員拘束システムの構成について記載したが、自動車をはじめ、航空機、船舶、電車、バス、トラック等の各種の車両に装着される乗員拘束システムの構成に対し本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施の形態の乗員拘束システム100が、自車両200に搭載された様子を模式的に示す図である。
【図2】図1中の衝突検出装置130の駆動回路を示す図である。
【図3】本実施の形態の車両ドア10の断面構造を示す図であって、コイルセンサ131及びその周辺要素の第1の態様を示す図である。
【図4】本実施の形態の車両ドア10の断面構造を示す図であって、自車両200の側面衝突によって車両ドア10のドアアウタパネル12が変形する際のコイルセンサ131の動作を説明する図である。
【図5】本実施の形態の車両ドア10の断面構造を示す図であって、コイルセンサ131及びその周辺要素の第2の態様を示す図である。
【図6】本実施の形態の車両ドア10の断面構造を示す図であって、コイルセンサ131及びその周辺要素の第3の態様を示す図である。
【図7】本実施の形態の車両ドア10の断面構造を示す図であって、コイルセンサ131及びその周辺要素の第4の態様を示す図である。
【図8】本実施の形態の車両ドア10の断面構造を示す図であって、コイルセンサ131及びその周辺要素の第5の態様を示す図である。
【図9】本実施の形態の車両ドア10の断面構造を示す図であって、コイルセンサ131及びその周辺要素の第6の態様を示す図である。
【図10】別の実施の形態の金属板239を用いた場合の構成を示す図である。
【図11】別の実施の形態の金属板339を用いた場合の構成を示す図である。
【図12】平板を、コイルとの間の距離d=d1、d2(<d1)、d3(<d2)の順でコイルに近づける様子を示す図である。
【図13】湾曲板Aを、コイルとの間の距離d=d1、d2(<d1)、d3(<d2)の順でコイルに近づける様子を示す図である。
【図14】図13に示す湾曲板Aよりも曲率が小さい湾曲面を有する湾曲板Bを、コイルとの間の距離d=d1、d2(<d1)、d3(<d2)の順でコイルに近づける様子を示す図である。
【図15】平板、湾曲板A、湾曲板Bを用いる場合の、金属板とコイルとの間の距離によるQ値及びI値の変化の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
10…車両ドア
12…ドアアウタパネル
12a…内周面
14…ドアインナパネル
16…空間部
18…ブラケット
19…ドアビーム
100…乗員拘束システム
110…エアバッグモジュール
120…制御ユニット(ECU)
130…衝突検出装置
131…コイルセンサ
132…センサハウジング
132a…センサ表面
133…コイル
134…保持部材
135…交流電源装置
136…電流計
137…電流出力部
138…電圧出力部
139,140,239,339…金属板
139a…第1延在面
139b…第2延在面
141…緩衝部材
200…自車両
210…別車両
C…車両乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両構成部材として構成される金属製の検出対象物と、
前記検出対象物に対して対向状に配置されるコイルと、
前記コイルへの交流電流の通電によって、前記検出対象物に対し交流磁界を付与するとともに、当該通電時におけるインピーダンスを前記コイルを介して検出するコイルセンサと、
車両衝突の際、前記検出対象物が前記コイルセンサへ向けて変位したときに検出されるインピーダンスの変化に基づいて、当該検出対象物の変位に関する情報を導出する導出部と、
を備える変位情報導出装置であって、
前記検出対象物は、車両衝突による車両構成部材の変位に伴ってコイルセンサ側へと変位するとともに、当該コイルセンサのセンサ表面と対向状に延在する延在面を有する構成であることを特徴とする変位情報導出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変位情報導出装置であって、
前記検出対象物は、車両構成部材側に止着された構成であり、車両衝突の際、当該車両構成部材と一体状にコイルセンサ側へと変位する構成であることを特徴とする変位情報導出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の変位情報導出装置であって、
前記検出対象物は、前記車両構成部材と前記コイルセンサとの間において、弾性変形が可能な弾性体を介してコイルセンサ側に止着された構成であり、車両衝突の際、前記車両構成部材のコイルセンサ側への変位に伴って当該車両構成部材によって押圧され、前記弾性体の弾性付勢力に抗して前記コイルに近接する構成であることを特徴とする変位情報導出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の変位情報導出装置であって、
前記弾性体は、前記検出対象物が前記コイルセンサに近接する際、当該検出対象物の延在面と前記コイルセンサのセンサ表面とが平行状となるように弾性変形する構成であることを特徴とする変位情報導出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の変位情報導出装置と、
車両衝突の際、車両乗員を拘束する乗員拘束装置と、
前記導出部にて導出された情報に基づいて、前記乗員拘束装置を制御する制御装置と、
を備える構成であることを特徴とする乗員拘束システム。
【請求項6】
請求項5に記載の乗員拘束システムであって、
前記変位情報導出装置のコイルは、前記車両構成部材としての車両ドアのドアアウタパネルに対して対向状に配置され、
前記乗員拘束装置は、車両側面衝突の際、前記制御装置により制御されることによって車両乗員を拘束する構成とされることを特徴とする乗員拘束システム。
【請求項7】
エンジン走行系統と、
電装系統と、
前記エンジン走行系統及び電装系統の駆動制御を行う駆動制御装置と、
車両衝突により変位する金属製の検出対象物と、
前記検出対象物の変位に関する情報を導出するセンサ装置と、
前記センサ装置にて導出された情報に基づいて、制御対象に制御信号を出力する制御信号出力装置と、
を備える車両であって、
前記センサ装置は、請求項1〜4のいずれかに記載の変位情報導出装置によって構成されていることを特徴とする車両。
【請求項8】
車両構成部材として構成され、車両衝突に伴ってコイルセンサ側へと変位するとともに、当該コイルセンサのセンサ表面と対向状に延在する延在面を有する金属製の検出対象物につき、当該検出対象物に対して対向状に配置されるコイルセンサを用い、
前記コイルセンサのコイルへの交流電流の通電によって、前記検出対象物に対し交流磁界を付与し、当該通電時におけるインピーダンスを前記コイルを介して検出するとともに、車両衝突の際、前記検出対象物が前記コイルセンサへ向けて変位したときのインピーダンスの変化を前記コイルを介して検出し、
これによって、前記検出対象物と前記コイルセンサとの間の距離に対するインピーダンスの変化に関する検出特性を得るとともに、当該検出特性に基づいて前記検出対象物の変位に関する情報を導出することを特徴とする変位情報導出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2008−37181(P2008−37181A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211331(P2006−211331)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】