変位測定装置
【課題】共振器の可動側反射面の変位量を高精度に取得できる変位測定装置を提供する。
【解決手段】一定の波長可変幅を有する2つの測定用レーザ光源10、11と、ファブリーペロー共振器12と、共振器からのレーザ光出力を検出する光検出器18、19と、光検出器の値に基づき共振器長Lの変位量に追従するように測定用レーザ光源10、11の周波数を該共振器12の共振周波数にロックする波長制御手段20と、測定用レーザ光の周波数の変化量を検出する周波数検出手段50とを備える。波長制御手段20は、所定の共振周波数に測定用レーザ光源10の周波数をロックする第1ロック手段62と、測定用レーザ光源10の波長可変幅内で、ロック状態が解除されている他の測定用レーザ光源11の周波数を、第1ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数にロックする第2ロック手段とを含む。
【解決手段】一定の波長可変幅を有する2つの測定用レーザ光源10、11と、ファブリーペロー共振器12と、共振器からのレーザ光出力を検出する光検出器18、19と、光検出器の値に基づき共振器長Lの変位量に追従するように測定用レーザ光源10、11の周波数を該共振器12の共振周波数にロックする波長制御手段20と、測定用レーザ光の周波数の変化量を検出する周波数検出手段50とを備える。波長制御手段20は、所定の共振周波数に測定用レーザ光源10の周波数をロックする第1ロック手段62と、測定用レーザ光源10の波長可変幅内で、ロック状態が解除されている他の測定用レーザ光源11の周波数を、第1ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数にロックする第2ロック手段とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側の反射鏡および可動側の反射鏡を有するファブリ−ペロー共振器を用いた変位測定装置に関する。具体的には、本発明の変位測定装置は、共振器の可動側の反射鏡の変位量を高精度に検出することができ、その反射鏡の変位量に基づき各種測長機器の校正、評価を行うことができる装置である。
【背景技術】
【0002】
<測長機器の高性能化>
近年、固体スケール、静電容量型センサ、レーザ変位計等の各種測長機器の高性能化が進んでいる。例えば、固体スケールは、スケールピッチの微細化や電気的分割数の向上などにより、ピコメートルオーダの分解能を有するものが出現している。しかし、これらの機器の取り付け作業や信号調整には熟練を要するため、測長機器の性能を最大限に発揮させることが困難となっていた(「牧野内ほか:スキャン光学エンコーダに関する一研究,精密光学会誌,Vol.75,No.10,2009」)。従って、測長機器の高性能化に伴い、これらをピコメートルの精度で校正あるいは性能評価できる装置が求められていた。
【0003】
<レーザ干渉測長計による性能評価>
従来の測長機器を性能評価する装置としてレーザ干渉測長計が広く用いられている。
レーザ干渉測長計は、レーザ光源から出力されたレーザ光を2つに分割するとともに、それぞれ異なる光路を通過させた後に干渉させるレーザ干渉器の技術を応用し、レーザ干渉器がレーザ光を干渉させて生成した干渉縞に基づき、精密な長さを測定するものである。具体的には、レーザ干渉器の可動鏡を測定対象として、可動鏡の変位量を干渉縞の明暗の変化に置き換え、これを電気的にカウントすることで、変位量を精度よく取得する。
レーザ干渉測長計は、本質的に高感度な測定装置であり、測長機器の評価装置に限らず、工作機械や測定機などに組込まれるなど、各種産業分野で幅広く用いられている。
【0004】
従来のレーザ干渉測長計は、固体スケールなどと比較して、アライメントを自由に行うことができ、アッベ誤差を低減できる利点がある。しかし、測定範囲が数μm程度の微小領域においては、内挿誤差の影響などが無視できなくなる。内挿誤差とは、基準となるレーザ光の波長より小さな長さを測定する際の内挿補正により生じる誤差であり、この誤差により、サブナノメートルの測定精度を実現するのは容易ではない。このため、使用するレーザ光の波長を短くしたり、レーザ干渉測長計と測定対象となる移動用の反射鏡との往復回数を増やす光路長増倍法を用いたりすることが行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−288071号公報
【特許文献2】特開平11−125504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
<内挿誤差の軽減対策における課題>
レーザ干渉測長計で用いるレーザ光としては、通常、可視域の光が用いられている。高分解能化や内挿誤差低減のためには、より短い波長が有利になるが、可視域よりも短波長となる紫外域やX線領域の光を用いた場合、光源の安定性、光学部品の入手性、装置の大型化、安全性などの課題が生じ、実現は容易ではない。
また、特許文献1の光路長を増倍する方法は、見かけ上レーザ光の波長が短くなるため、高精度な測定が期待できる。しかし、光学系が複雑化する、光学素子内を光が何往復もすることで光量が低下する、迷光や漏れ光の影響が生じる、測定における最高移動速度が低下する、などの課題から、光路長の増倍によって得られる改善効果には限度があった。
【0007】
<内挿補正を行う必要の無い測長システム>
このような現状に対して、波長可変レーザ光源を用いて、測定対象となる可動鏡の変位量に対応して測定用レーザ光の波長を変化させ、その波長変化量を基に可動鏡の変位量を測定する測長システムが研究されてきている(「Banh・星野・石下・小林・明田川:周波数可変レーザを用いたピコメートル干渉測長法の開発−第5 報:空気の屈折率変動計測とその補正,2008 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,F02,pp.441-442」,「Youich Bitou:High-accuracy displacement metrology and control using a dual Fabry-Perot cavity with an optical frequency comb generator, Precision Engineering 33, pp.187-193, 2009」)。
【0008】
上記の測長システムは、一定の波長可変幅を有する測定用レーザ光源と、ファブリーペロー共振器と、光検出器と、波長制御手段と、周波数検出手段とを備え、ファブリーペロー共振器の可動側反射面の変位量を測定するシステムであり、可動側反射面の変位量に基づいて各種測長機器を評価するようになっている。
ファブリーペロー共振器は、固定側の反射面および可動側の反射面を有し、該一対の反射面間で前記測定用レーザ光源からの測定用レーザ光を共振させて、両反射面の間隔長で定まる共振周波数のレーザ光を出力する。
光検出器は、前記共振器からのレーザ光出力を検出する。
波長制御手段は、前記光検出器の値に基づき、前記共振器の可動側反射面の変位量に追従するように測定用レーザ光源の波長を変化させて、前記共振器の共振周波数に対する測定用レーザ光の周波数のロック状態を維持する。
周波数検出手段は、前記波長制御手段によって制御される測定用レーザ光の周波数の変化量を検出する。この周波数変化量に基づいて、可動側反射面の変位量が算出されるようになっている(例えば、特許文献2参照)。
上記の測長システムを用いれば、干渉信号の内挿補正を行う必要が無く、サブナノメートル精度の測長が期待できる。
【0009】
しかしながら、特許文献2の測長システムでは、レーザ光の波長可変幅の制約を受けてしまい、測定可能な可動鏡の変位範囲が制限されていた。
測定可能な可動鏡の変位範囲を広げるため、広範囲に波長を変えられる波長可変レーザを使用することが考えられる。その場合、使用できるレーザ光が制限される、レーザ光源のビームの指向安定性の影響によって測定精度が低下する、光学部品の分散の影響などによって測定精度が低下する、光学部品などを特殊コーティングするなど光学部品に高い性能を付与するための処理が要求される、などと言った新たな課題や要求が生じてしまう。
また、上記の測長システムでは、波長可変レーザの周波数安定化、もしくは波長可変レーザの周波数の精密な測定が必要となる。そのため、測定範囲を広げるために広範囲に波長を変えられる波長可変レーザを使用すると、周波数安定化やレーザ周波数の高精度測定が難しくなってしまう。
【0010】
このように、内挿補正を行う必要の無い測長システムでは、測定精度の向上と測定範囲の拡大とを両立させることが容易でなかった。
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、サブナノメートルの精度での測定が可能で、かつ、広い範囲を測定できる変位測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、波長可変レーザ光源を複数台用いて、変位量に応じて測定する波長可変レーザ光源の波長を順次切り替えれば、単一の波長可変レーザ光源において制限された測定範囲を拡大することができ、同時に共振器を用いたサブナノメートル精度の測定が可能になることに着目した。
【0012】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明にかかる変位測定装置は、一定の波長可変幅を有する測定用レーザ光源と、共振器と、光検出器と、周波数検出手段とを備える。
前記共振器は、固定側の反射面および可動側の反射面を有し、該一対の反射面間で前記測定用レーザ光源からの測定用レーザ光を共振させて、両反射面の間隔長で定まる共振周波数のレーザ光を出力する。
前記光検出器は、前記共振器からのレーザ光出力を検出する。
前記波長制御手段は、前記光検出器の値に基づき、前記共振器の可動側反射面の変位量に追従するように測定用レーザ光源の波長を変化させて、該測定用レーザ光の周波数を前記共振器の共振周波数に合わせてロック状態にする。
前記周波数検出手段は、前記波長制御手段により制御された測定用レーザ光の周波数の変化量を検出する。この周波数検出手段の検出値に基づいて共振器の可動側反射面の変位量を取得する。
前記測定用レーザ光源は、それぞれ一定の波長可変幅を有する複数の測定用レーザ光源からなり、それぞれ前記共振器に向けて測定用レーザ光を発振する。
そして、前記波長制御手段は、前記間隔長に対して複数存在する共振周波数の中から1つの共振周波数にいずれかの測定用レーザ光源の周波数をロックする第1ロック手段と、
この第1ロック手段でロック中の測定用レーザ光源の波長可変幅内で、ロック状態が解除されている他の測定用レーザ光源の周波数を、第1ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数にロックする第2ロック手段と、を含み、
1つの測定用レーザ光源の波長可変幅で測定可能な前記可動側反射面の変位範囲よりも広い変位量の測定可能範囲を有することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、それぞれ一定の波長可変幅を有する複数の測定用レーザ光源を用いるとともに、波長制御手段に第1ロック手段および第2ロック手段を設けたので、測長範囲が1つの測定用レーザ光源の波長可変幅では足りない場合であっても、以下のようにして全測長範囲を測定できる。すなわち、第1ロック手段が、1つ目の測定用レーザ光の周波数を所定の共振周波数にロックしてその波長可変幅内での測長を行う。そして、1つ目の測定用レーザ光の波長可変範囲の限界に達する前に、第2ロック手段が2つ目の測定用レーザ光の周波数を異なる共振周波数にロックして測長を継続する。このようにすれば、1つの測定用レーザ光源の波長可変幅で測定可能な変位量より大きい変位量が測定できる。
【0014】
ここで、前記第1ロック手段は、前記第2ロック手段でのロック後に、該第1ロック手段でのロックを解除するとともに、第2ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数に再ロックし、
前記第2ロック手段は、前記第1ロック手段での再ロック後、該第2ロック手段でのロックを解除するように構成されることが好ましい。
このような構成によれば、例えば2台の測定用レーザ光源を用いる場合、1番目の測定用レーザ光による測定が測定可能範囲の限界に達する前に、2番目の測定用レーザ光に切り替えることができ、さらに2番目の測定用レーザ光による測定が測定可能範囲の限界に達する前に、1番目の測定用レーザ光に切り替えるという動作が可能となる。このような動作を繰り返すことで、より広い変位量を測定することができる。
【0015】
また、前記周波数検出手段は、周波数が安定化されたレーザ光を発振する基準レーザ光源と、該基準用レーザ光と前記測定用レーザ光とのビート周波数を検出するビート周波数検出器と、を有し、前記基準レーザ光の波長とのビート周波数の変化量から前記測定用レーザ光の周波数の変化量を取得することが好ましい。
このような構成によれば、共振器長の変化量の測定で必要となる測定用レーザ光の周波数およびその変化量を高精度に求めることができる。
さらに、測定用レーザ光の導光路にはファラデーローテータを用いたサーキュレータが配置されており、前記サーキュレータは、共振器へ入出力する2つの測定用レーザ光の光路を結合および分離することが好ましい。
このような構成によれば、2つの測定用レーザ光の偏光状態を変えて共振器に入出力することができ、2つの測定用レーザ光の結合および分離を確実に行うことができる。
【0016】
また、2つの測定用レーザ光の周波数差を検出して、該周波数差から前記共振器の間隔長を取得する周波数差検出手段を備えることが好ましい。
このような構成によれば、2つの測定用レーザ光を同時にロックさせている間、共振器の間隔長を常に測定することができ、共振器の間隔長を固定しておく必要がない。
また、共振器は、両反射鏡間の光路を真空に保つ真空部を有することが好ましい。
このような構成によれば、空気屈折率の影響が無くなり、空気屈折率の測定が不要であることや、レーザ周波数差による空気屈折率の差などが無視できるようになり、より高い精度で測定できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のサブナノメートル精度の測定法と比較して、測定精度の改善と測定範囲の拡大の両立ができる。すなわち、測定用レーザ光の波長可変幅が小さくても測定可能となるので、レーザ光源のビームの指向安定性の影響が改善される、光学部品の分散の影響が改善される、などの点から測定精度が改善できる。必要に応じて測定用光路を真空化することで、空気屈折率の影響を受けず、高精度な測定が可能となる。さらに、測長を行なう上では、共振器の絶対長を求める必要があるが、これは2つの測定用レーザ光によって高精度かつリアルタイムで測定できる。
【0018】
また、測定用レーザ光の波長可変幅や、測定用レーザ光に対する周波数測定範囲などによって測定範囲が制限されにくくなり、ファブリ−ペロー共振器の共振器長可変範囲限界まで測定範囲を拡大することができる。測定用レーザ光の波長可変量を低減できるため、測定用レーザ光は必ずしも大きな波長可変量を持つ必要は無く、レーザの選定やシステム設計の自由度が増す。また、測定用レーザ光の波長可変量を低減できることで、測定用レーザ光と基準レーザ光とのビート計測における周波数差が少なくなる。このため、測定用レーザ光の周波数測定のための光学系や電気系の設計がより簡単になる。この他、光学部品類のコーティングはより簡単になる。これらのことは、装置の低コスト化にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ファブリ−ペロー共振器を有する測長システムの基本構成図である。
【図2】ファブリ−ペロー共振器の反射率を示す図である。
【図3】ファブリ−ペロー共振器の反射光強度を示す図である。
【図4】ファブリ−ペロー共振器の反射光強度の一次微分信号を示す図である。
【図5】本発明の変位測定装置の全体構成図である。
【図6】本発明の変位測定装置の全体構成の概略図である。
【図7】前記変位測定装置における測定用レーザ光の光路を示す図であり、(A)は測定用レーザ光源からファブリ−ペロー共振器までの光路図、(B)はファブリ−ペロー共振器から光検出器までの光路図である。
【図8】共振器の間隔長を連続的に変化させている時のファブリ−ペロー共振器への測定用レーザ光のロック動作の説明図である。
【図9】2つの測定用レーザ光による測長法を説明するための図である。
【図10】測定用レーザ間の周波数差の間接測定の説明図である。
【図11】測定用レーザ間の周波数差の直接測定の説明図である。
【図12】本発明の変形例である変位測定装置の全体構成図である。
【図13】本発明の別の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る変位測定装置(以下、測長システムとも言う。)について説明する。図1は、ファブリ−ペロー共振器を有する測長システムの基本構成図である。まず、同図を用いて測長システムの基本構成について説明する。説明で用いる各変数を次のように定義する。
n :空気の屈折率
L :共振器の対向する反射面の間隔長
(共振器の幾何学的距離である。以下、共振器長とも呼ぶ。)
ΔL:共振器長の変化量
f :レーザ光の周波数
Δf:レーザ光の周波数の変化量
N :次数(整数以外も含む)
c :真空中の光速度
λ0:レーザ光源からのレーザ光の真空中での波長
r :共振器反射鏡の振幅反射係数
R :共振器反射鏡の反射率(R=r2)
【0021】
<測長システムの基本構成>
図1に示すように、測長システムの基本構成は、測定用レーザ光源10、ファブリ−ペロー共振器12、アクチュエータ制御手段14、ビームスプリッタ16、光検出器18および波長制御手段20を有して構成される。
測定用レーザ光源10は、一定の波長可変幅を有し、ファブリ−ペロー共振器12へ向けて測定用レーザ光を発振する波長可変レーザ光源である。
【0022】
ビームスプリッタ16は、測定用レーザ光源10とファブリ−ペロー共振器12との間に配置され、測定用レーザ光を透過して共振器12へ導光する。ファブリ−ペロー共振器12には、ビームスプリッタ16を透過した測定用レーザ光が入射する。
ファブリ−ペロー共振器12は、筒状の共振器本体22と、この本体22の筒部の一端の開口部に固定された反射鏡24と、他端の開口部に支持されたアクチュエータ32と、このアクチュエータ32によって筒部の軸方向に移動自在に支持された反射鏡26と、を有する。本体22は、固定側の反射鏡24へ測定用レーザ光が入射できる姿勢で配置されている。入射した測定用レーザ光は、反射鏡24の固定側反射面(凹面)28と、反射鏡26の可動側反射面(平面)30との間を多数回往復する。すなわち、両反射面28、30の間隔長(共振器長L)で定まる共振周波数に測定用レーザ光の周波数を合わせれば、対向する一対の反射面28、30間で測定用レーザ光を共振させることができる。この共振器本体22は、両反射面28、30間の光路を真空に保つ真空部を有する。
【0023】
また、レーザ光の一部を透過する固定側反射鏡24により、共振器長Lで定まる共振周波数のレーザ光が固定側反射鏡24から出力される。なお、共振器12に内蔵されたピエゾ素子からなるアクチュエータ32は、両反射面28、30間の光路を遮らないようにするため中空状に形成されている。アクチュエータ制御手段14がアクチュエータ32の駆動によって、可動側反射鏡26が所定の変位範囲を移動する。この可動側反射鏡26の可動側反射面30の変位量、つまり共振器長の変化量ΔLが、本発明の変位測定の対象となる。
【0024】
固定側反射鏡24から出力されたレーザ光はビームスプリッタ16で反射し、光検出器18で受光される。この光検出器16は、共振器12からのレーザ光出力を検出するものである。
【0025】
<ファブリ−ペロー共振器の特性>
ここで、高精度測定のベースとなるファブリ−ペロー共振器12の特性について説明する。ファブリ−ペロー共振器12にレーザ光を入射した場合にファブリ−ペロー共振器12から得られる反射率および透過率をRNおよびTNとすると、反射率RN、透過率TNは次式(1)、式(2)で与えられる。
【0026】
【数1】
ここで、Fは共振器の分解能を決める一要素であり、δは位相差であり、それぞれ次式(3)で与えられる。特にFの平方根に(π/2)を乗じた値はフィネス( Fines)と呼ばれ、次式(4)で示される。
【0027】
【数2】
【0028】
式(3)より反射率Rが大きいとF値も大きくなる。よって、式(1)、(2)より高反射率の反射鏡24、26を用いれば、ファブリ−ペロー共振器12の反射率RNおよび透過率TNは、位相差δがπの整数倍の時に鋭い変化を示す特性になることが判る(例えば図2参照)。位相差δがπの整数倍であるという条件を式(3)に基づき、次式(5)のように表す。また、式(5)を変形すれば、式(6)が得られる。
【0029】
【数3】
【0030】
可動側反射鏡26を移動させて任意の共振器長Lが与えられた時、上式を満たすレーザ波長λ0の光に対して共振器12の反射率RNが最小となる(共振器12の透過率TNは最大となる)。反射率RNの場合について、その特性の例を図2に示す。
ここでは、共振器12からの出力レーザ光が、固定側反射鏡28からレーザ光源10側に出射する場合、その出力レーザ光を反射光と呼ぶ。また、可動側反射鏡30から出力レーザ光が出射する場合、その出力レーザ光を透過光と呼ぶ。本実施形態では共振器12からの反射光を用いて測長を行う場合を示すが、共振器12からの透過光を用いても同様の測長が可能である。
式(5)を満たす場合のレーザ光の周波数fを共振周波数(対応する波長は共振波長)と呼ぶ。レーザ光の周波数fが次式(7)を満足する値に調整されると、共振器12でレーザ光が共振する。また、式(7)に示されるように共振器長Lが一定の場合、共振器長Lで定まる共振周波数は複数存在し、隣接する共振周波数の間隔は次式(8)で表され、これを自由スペクトル間隔fFSRと呼ぶ。
【0031】
【数4】
【0032】
より一般的な場合、つまり共振状態から外れる周波数fを含めて考えると、共振器長Lは、次数Nを用いて、次式(9)と書ける。ここで、次数Nは整数以外の場合も含まれる。
【0033】
【数5】
【0034】
各種因子がファブリ−ペロー共振器長Lの変化に与える影響ついて考えるため、この共振器長Lを微分する。共振器長Lを微分したものを次式(10)で示すことができる。
【0035】
【数6】
【0036】
なお、式(10)中のδL、δf、δnおよびδNで示される「δ」は、共振器長L、レーザ光の周波数f、空気屈折率nおよび次数Nの各変化分を示すものであり、前述の位相差δとは異なる。以下、式(12)まで同じである。
式(10)より、共振器長の変化分δLは、周波数の変化分δf、屈折率の変化分δnおよび次数の変化分δN(各変化分は、いずれも相対値である。)の影響を受ける。ここで、共振器長Lが変化した際に、次数の変化分δNを打ち消すようにレーザ光の周波数(波長)を制御すると、δNはゼロとなり、式(10)は次式(11)となる。次数の変化分δNを打ち消すように周波数制御するとは、例えば、レーザ光の周波数fを共振器長Lの変化に応じて変わる共振周波数に常に一致させるように、周波数fを制御することを言う。このレーザ光の周波数制御は、図1で示す測定用レーザ光の波長制御手段20により実行される。
【0037】
【数7】
【0038】
<共振器長の変化分δL>
式(11)を用いれば、共振器長L、レーザ光の周波数fおよびその変化分δf、空気屈折率nおよびその変化分δnを測定することによって、共振器長の変化分δLを高精度に求めることができる。
まず、共振器長Lを測定するには、例えば共振器長Lを固定した状態でレーザ光の周波数fを変化させ、その際の次数Nの変化をカウントする。この次数Nの変化を基にして式(9)から共振器長Lが得られる。
また、レーザ光の周波数fおよびその変化分δfは、例えば、測定用レーザ光と、絶対波長が値付けられた周波数安定化レーザ光源からの基準レーザ光とのビート周波数を測定することで求められる。
【0039】
共振器長の変化分δLを上記の方法で測定すれば、通常のレーザ干渉測長計で問題となる干渉信号に対する内挿補正を行う必要がないので、内挿誤差の影響を受けない高精度な測定が可能となる。
さらに、光路を真空化すると、式(11)は、次式(12)となり、空気屈折率nの影響がなくなり、より高精度な測定ができる。
【0040】
【数8】
【0041】
<可動側反射鏡の変位量ΔL>
本発明の測長システムでは、共振器12の可動側反射鏡26の移動範囲が、各種測長機器の測定範囲と同等となるように設定されるため、共振器長Lの変位量ΔLは非常に大きくなる。従って、大変位(ΔL)の測長時にはL/fの変化分を考慮し、次式(13)のように共振器長の変化分δLに対する積分を行なえば良い。
【0042】
【数9】
【0043】
<周波数ロック(波長制御)>
ここからは、測定用レーザ光の周波数制御について説明する。
図3は測定用レーザ光の周波数f(波長)を変化させた場合の、ファブリ−ペロー共振器12より得られる反射光強度の変化を示す。式(7)を満足する周波数fの前後で、反射光強度が鋭く変化する。反射光強度が最小となる周波数は、共振器12の共振周波数に一致する。図中のf1、f2、f3は共振器長Lに対して複数存在する共振周波数を示す。
一方、式(9)より分かるように、測定用レーザ光の周波数fを固定した状態で、共振器長Lを変化させた場合、共振器12の反射光強度は次数Nの変化と同時に変化する。
従って、次数Nの変化が生じないようにレーザ光の周波数fを制御するには、図3に示す反射光強度が常に最小となるようにすれば良い。すなわち、レーザ光の周波数fをいずれか一つの共振周波数に合うように周波数制御(ロック)すれば良い。
【0044】
周波数のロック性能を高めるには、図3(または図2)に示す周波数f(位相差δ)の変化に対する反射光強度(反射率RN)の変化特性がより鋭くなるように、共振器の反射鏡24、26の反射率Rを高くしたり、各種共振器内の損失を減らしたりすると良い。つまり、式(4)のフィネスを高めることが有効である。また、測定用レーザ光に位相変調を与える変調器を設けておき、ファブリ−ペロー共振器12より得られる反射光を、その変調信号と同期して検波する検波器を用いれば、検波器によって反射光の微分信号が得られるため(図4)。この微分信号のゼロクロス点にレーザ光の周波数fをロックさせるのが有効である。測定用レーザ光の周波数fに位相変調を与えるには、測定用レーザ光源10の外部にEOMなどの変調器を設ける方法や、測定用レーザ光源10内に共振器長Lを可変にするPZTなどの素子を設けるなどの方法が挙げられる。
【0045】
<測長方法>
従って、図1の測長システムを用いた可動側反射面30の変位量ΔLの基本的な測定方法は、以下のようになる。
(1)まず、可動側反射鏡26を初期位置(任意の位置で構わない。)に合わせて、測定用レーザ光源10に任意の波長のレーザ光を発振させる。また、光検出器18にファブリーペロー共振器12からの出力レーザ光を検出させる。
(2)波長制御手段20は、光検出器18の検出値(反射光強度)に基づいて、共振器12で測定用レーザ光が共振するように、測定用レーザ光源10の波長(周波数f)を調整する。
(3)アクチュエータ制御手段14がアクチュエータ32を駆動して、可動側反射鏡26を変位させる。すると、共振器長Lが変化し共振周波数も変わる。波長制御手段20は、共振器12の共振状態を維持するように、測定用レーザ光源10の波長λを共振器長Lの変化量ΔLに追従させる。すなわち、波長制御手段20は、光検出器18の検出値に基づいて、測定用レーザ光が共振器長Lで定まる共振周波数で常に共振するように、波長可変レーザ光10の波長やアクチュエータ32の変位量を制御する。
【0046】
(4)また、図1では省略したが、次の方法で共振器長Lを測定する。まず、共振器12の共振器長Lを固定した状態でレーザ光の周波数fを変化させて、その際の次数Nの変化をカウントする。この次数Nの変化を基にして式(9)から共振器長Lを得る。
(5)また、測定用レーザ光の周波数fおよびその変化分δfを、例えば、測定用レーザ光と基準レーザ光とのビート周波数を測定することによって取得する。
(6)以上の測定で得られた共振器長L、周波数fおよびその変化分δfの測定値に基づき、式(13)で示す積分を演算して、可動側反射面30の変位量ΔLを算出する。
このようにして、ファブリーペロー共振器12の可動側反射鏡26がアクチュエータ32によって変位した量(ΔL)を、共振器12を利用して高精度に測定することができる。
【0047】
<変位センサなどの評価方法>
以上の測長システムを用いれば、変位センサなどの測長機器を高精度に評価、校正することができる。
すなわち、図1のように、共振器12の可動側反射鏡26の対面(可動側反射面30の反対側の面)に、変位センサなどの評価対象機器34を配置する。
前述の方法で、可動側反射鏡26の変位量ΔLを測長システムにより測定するとともに、変位センサでも可動側反射鏡26の変位量ΔLを測定する。変位センサが非接触式の測長機器である場合には、反射鏡26に両面反射鏡などを用いれば良い。
測長システムと評価対象の機器とによって同時にファブリーペロー共振器の可動側反射鏡26の変位量ΔLを測定し、その測定結果を比較することで、評価対象機器34の評価や校正ができる。
【0048】
<本発明の測長システムの構成>
前述の基本構成を備えた従来の測長システムは、単一の測定用レーザ光を用いたものであった。そのため、測定用レーザ光源10の波長可変量を大きくすることで、測定範囲を広くしていた。その場合、大きな波長変化(周波数変化)を伴うため、レーザ光の周波数fの測定が困難になったり、測定精度が低下したりするなどの課題があった。
【0049】
これに対して本発明の測長システムは、前述の基本構成をベースにして、2つの測定用レーザ光源と1つの基準レーザ光源(周波数安定化レーザ光源)とを利用することで、測定精度と測定範囲とを向上させたことに特徴がある。
2つの測定用レーザ光を用いることで、常にいずれかのレーザ光の周波数fを共振器12の共振周波数にロックさせることが可能となり、広範囲の測定を可能にした。これによって周波数測定における課題や、分散の影響の課題を解決できる。
【0050】
本実施形態における測長システム100の装置構成を図5、図6に示す。この測長システム100は、2つの測定用レーザ光を用いて測長を行なうとともに、測定用レーザ光の周波数fを、基準レーザ光とのビート周波数を計測することで、それぞれ測定する。
【0051】
具体的には、測長システム100は、2つの測定用レーザ光源10、11、ファブリ−ペロー共振器12、2つの光検出器18、19、導光手段40および周波数検出手段50を有して構成される。
2つの測定用レーザ光源10、11は、それぞれ一定の波長可変幅を有する。
周波数検出手段50は、測定用レーザ光と基準レーザ光とのビート周波数を検出して、それぞれの測定用レーザ光の周波数変化量Δfを検出するためのものであり、周波数安定化レーザ光を発振する基準レーザ光源52と、ビート周波数測定用の導光路と、光検出器54、55を有する。光検出器(PD)54は測定用レーザ光源10からの測定用レーザ光と基準レーザ光との干渉光強度を検出し、両レーザ光のビート周波数を出力する。光検出器(PD)55は測定用レーザ光源11からの測定用レーザ光と基準レーザ光との干渉光強度を検出し、両レーザ光のビート周波数を出力する。
また、図6に示すように、2つの光検出器18、19からの信号は、波長制御手段20に設けられた第1ロック手段62、第2ロック手段64に送られる。第1ロック手段62は、測定用レーザ光源10の波長を制御し、第2ロック手段64は、測定用レーザ光源11の波長を制御する。
以下、測定方法を説明する。
【0052】
<測長方法>
測定用レーザ光源10による測長方法
測定用レーザ光源10から出射されたレーザ光を図5中、実線で示す。このレーザ光は、測定用レーザ光源10→ISO→λ/2→PBS42→FR44→λ/2→PBS46→ファブリ−ペロー共振器12の順番でファブリ−ペロー共振器12に入射する。
ファブリ−ペロー共振器12内で、レーザ光は、反射鏡24、26間で複数回往復し、その一部が左端の反射鏡24から出射される。このレーザ光(同図中、実線で示す。)は、ファブリ−ペロー共振器12→PBS46→λ/2→FR44→PBS42→PD18の順番で光検出器(PD)18に入射する。
なお、ISOは光アイソレータであり、光源からの光(順方向の光)を透過させ、逆方向の光を透過させない光デバイスである。また、PBSは偏光ビームスプリッタであり、内部の反射面で入射光をP偏光とS偏光に分離するものである。FRはファラデーローテータであり、レーザ光の偏光方向を45°回転させるものである。
PD18より得られる信号は、ファブリ−ペロー共振器12の反射率に依存した信号である。信号は波長制御手段20の第1ロック手段62に送られ、測定用レーザ光源10の波長制御に用いられる。
【0053】
測定用レーザ光源11による測長方法
測定用レーザ光源11から出射されたレーザ光を図5中、破線で示す。このレーザ光は、は、測定用レーザ光源11→ISO→λ/2→PBS43→FR45→λ/2→PBS46→ファブリ−ペロー共振器12の順番でファブリ−ペロー共振器12に入射する。
ファブリ−ペロー共振器12内で、レーザ光は、反射鏡24、26間で複数回往復し、その一部が左端の反射鏡24から出射される。このレーザ光(同図中、破線で示す。)は、ファブリ−ペロー共振器12→PBS46→λ/2→FR45→PBS43→PD19の順番で光検出器(PD)19に入射する。
このPD19より得られる信号は、ファブリ−ペロー共振器の反射率に依存した信号である。信号は波長制御手段20の第2ロック手段64に送られ、測定用レーザ光源11の波長制御に用いられる。
【0054】
測定用レーザ光源10のレーザ光と基準レーザ光とのビート周波数計測
測定用レーザ光源10より出射されたレーザ光(図5中、実線で示す。)は、測定用レーザ光源10→ISO→λ/2→PBS42→反射鏡48→PBS56→P板→PD54の順番で光検出器(PD)54に入射する。
基準レーザ光源52より出射したレーザ光を図5中、点線で示す。このレーザ光は、基準レーザ光源52→ISO→λ/2→BS→反射鏡58→λ/2→PBS56→P板→PD54の順番で光検出器(PD)54に入射する。
このPD54より得られる信号は、この2つのレーザ光の周波数のビート信号であり、周波数カウンタなどで信号を測定することで両レーザ光間の周波数差が判明する。従って、測定用レーザ光源10のレーザ光の周波数fは、基準レーザ光の周波数と、検出した周波数差とから判明する。
【0055】
測定用レーザ光源11のレーザ光と基準レーザ光とのビート周波数計測
測定用レーザ光源11より出射されたレーザ光(図5中、破線で示す。)は、測定用レーザ光源11→ISO→λ/2→PBS43→PBS60→P板→PD55の順番で光検出器(PD)55に入射する。
基準レーザ光源52より出射したレーザ光(図5中、点線で示す。)は、基準レーザ光源52→ISO→λ/2→BS→PBS60→P板→PD55の順番で光検出器(PD)55に入射する。
このPD55より得られる信号は、この2つのレーザ光の周波数のビート信号であり、周波数カウンタなどで信号を測定することで両レーザ光間の周波数差が判明する。従って、測定用レーザ光源11のレーザ光の周波数fは、基準レーザ光の周波数と、検出した周波数差とから判明する。
【0056】
周波数ロック
図示を略するが、測定用レーザ光源10、11のレーザ光には、変調器や共振器内PZTによって、位相変調を与える。ファブリ−ペロー共振器12より得られる反射光をPD18、19によって測定する際に、この変調信号と同期検波をすることで、反射光の微分信号を得る。第1ロック手段62、第2ロック手段64は、PD18、19からの微分信号のゼロクロス点に、測定用レーザ光源10、11の周波数fをロックするようにする。測長の開始時点では、第1ロック手段62が、共振器長Lに対して複数存在する共振周波数の中から1つの共振周波数に測定用レーザ光源10の周波数fをロックする。
必要に応じてファブリ−ペロー共振器12内を真空光路とすることで、空気屈折率nの変動の影響を低減することができる。
【0057】
測定用レーザ光の結合、分離
2つの測定用レーザ光の導光路40には、ファラデーローテータ(FR)44、45を用いて構成された光サーキュレータが配置されている。測定用レーザ光源10および測定用レーザ光源11からの各測定用レーザ光を偏光させることによって、2つの測定用レーザ光を結合および分離する構成としている。図7は、測定用レーザ光源11の測定用レーザ光の光学系の詳細を示す。なお、測定用レーザ光源10の測定用レーザ光の光学系についても同様である。この構成では、ファブリ−ペロー共振器12の手前にあるPBS46に十分な消光比のものを用いることで、測定用レーザ光源10、11からの各測定用レーザ光のクロストークを著しく低減することができ、確実に2つの測定用レーザ光の結合と分離が行われて、測定性能を高めることができる。
【0058】
測定用レーザ光の切り替えのタイミング
図5、図6に示す測長システム100において特徴的なことは、測長のタイムスケジュールの中に、2つの測定用レーザ光源10、11からの測定用レーザ光を2つ同時に測長に用いるゾーン1と、一方のみを測長に用いるゾーン2とを設け、常に少なくともいずれかの測定用レーザ光を共振器12の共振周波数にロックさせることにある。測長の過程で、一方の測定用レーザ光の波長可変幅が不足した場合には、ロックを解除してレーザ光の波長の引き戻しを行い、共振周波数への再ロック動作を行う。一方の測定用レーザ光による測長が中断している間、もう一方の測定用レーザ光のみによる測長を行っている。2台の測定用レーザ光源10、11の測定領域同士にオーバーラップ(ゾーン1に相当する。)を設けることで、2つのレーザ光による測定結果を誤差無く接合し、共振器長Lの連続的な変化に対して測長を行ない続けることができる。これによって、共振器長Lの可変範囲によって定まる限界の長さまで、測定範囲を容易に拡大することができる。
2つの測定用レーザ光を用いた具体的な測定方法を図8および図9に示す。
【0059】
ゾーン1)2波長を共振周波数にロックさせる範囲
図8に示すように、第1ロック手段62、第2ロック手段64が2つの測定用レーザ光1、2について、各レーザ光の波長を調整して、共振器12の隣り合う共振周波数(図中のf1、f2)にそれぞれ波長をロックする。また、ファブリ−ペロー共振器長Lの変化に波長を追従させて、各レーザ光のロック状態を維持する。この2つのレーザ光によって、ファブリ−ペロー共振器長Lの変化を測長する。測長については式(11)〜(13)などに基づいて行われる。
【0060】
ゾーン2)1波長のみを共振周波数にロックさせる範囲
ファブリ−ペロー共振器長Lが増加した際に、一方のレーザ光1の周波数fがその周波数可変範囲(波長可変幅)の限界付近に到達した場合、まず第1ロック手段62がそのレーザ光1のロックを解除する。周波数可変範囲限界は、測定用レーザ光自体の周波数可変範囲、ビート周波数の周波数測定範囲などによって決まる。
次に、第1ロック手段62は、解除したレーザ光1の周波数fを、共振器12の異なる共振周波数に再ロックする。この間、その測定用レーザ光1による測長は中断するため、もう一方の測定用レーザ光2のみによる測長を行なう。
【0061】
例えば、図8に示すように、共振周波数f1にロックされた測定用レーザ光1が、その周波数可変範囲限界の付近に到達した場合、第1ロック手段62は、共振周波数f1に対するレーザ光1の周波数のロックを一時解除する。そして、その測定用レーザ光1の周波数を制御して、他方の測定用レーザ光2の周波数(共振周波数f2にロック中)を通り越した隣の共振周波数f3にレーザ光1の周波数を再ロックする。レーザ光1のロックを外している最中は、レーザ光1による測長はできないため、第2ロック手段64が測定用レーザ光2の周波数制御を行って、レーザ光2のみによる測長を続ける。測定用レーザ光2が、その周波数可変範囲限界付近に到達した場合には、第2ロック手段64が第1ロック手段62と同様に動作する。このようにして、常に少なくとも一方の測定用レーザ光による測定を行って、共振器長Lの連続的な変化を測長することができる。
【0062】
以上の説明によれば、共振器長Lの測定範囲を拡張するには、波長制御手段20に少なくとも以下のような第1ロック手段62と第2ロック手段64とを設ければよい。まず、第1ロック手段62が測定用レーザ光源10の周波数を所定の共振周波数f1にロックし、その周波数可変範囲内で測長を行う。第2ロック手段64は、第1ロック手段62でロック中の測定用レーザ光源10の周波数可変範囲内で、ロック状態が解除されている他の測定用レーザ光源11の周波数を、第1ロック手段62でロックされた共振周波数f1よりも大きいまたは小さい別の共振周波数f2にロックする。共振器長Lが増加する場合には、小さい方の共振周波数にロックし、共振器長Lが減少する場合には、大きい方の共振周波数にロックすればよい。このようにすれば、1つの測定用レーザ光源10の周波数可変範囲で測定可能な共振器長Lの変位範囲よりも広い変位量を測定することができる。
【0063】
さらに、第1ロック手段62は、第2ロック手段64でのロック後に、該第1ロック手段62でのロックを解除するとともに、第2ロック手段64でロックされた共振周波数f2よりも大きい(または小さい)方の別の共振周波数f3に再ロックすれば、より広い変位量を測定できる。
また、第2ロック手段64は、第1ロック手段62での再ロック後、該第2ロック手段64でのロックを解除する。さらに、第2ロック手段64は、第1ロック手段62でロックされた共振周波数f3よりも大きい(または小さい)方の別の共振周波数に再ロックするという動作を繰り返すことで、より広い変位量を測定することができる。
【0064】
2つの測定用レーザ光による測定値の接続
図9は、共振器長Lが増加する際に、2つの測定用レーザ光1、2によって共振器長Lを測定する方法について示す。上述のように、2つのレーザ光1、2によって同時に測長を行なっているゾーン1と、一方のレーザ光のみで測長を行なっているゾーン2とがある。共振器長Lの連続的な測定は、ロック中のいずれか一方のレーザ光による測定値を時間的に接続させることで行う。
2つのレーザ光1、2の周波数によって同時に測定しているゾーン1を設けていることで、連続的な測定が実施できる。この接続は、コンピュータ上の演算によって、容易に実行できる。
【0065】
なお、2つの測定用レーザ光1、2の周波数を共振器12の隣り合う共振周波数f1、f2へロックすると説明したが、必ずしもこれに限定されない。複数個先の共振周波数へロックするなど、周波数の可変範囲や、自由スペクトル間隔などを考慮して、適切な共振器の共振周波数へロックすれば良い。
【0066】
<共振器の絶対長の測定>
共振器長Lの変位量を測定する際に、共振器長Lの絶対長を求める必要がある。本実施形態では、次の方法により、その絶対長を求める。
【0067】
方法1:1つの測定用レーザ光を用いる方法
共振器12の絶対長を測定するには、共振器長Lを固定し、その状態でレーザ光の周波数fを変化させる方法が従来から用いられている。この場合、式(5)に基づき、位相δが変化するため、ファブリ−ペロー共振器12から得られる反射光は、図3で示したように光強度が変化する。このため、周波数変化量Δfを与えた場合に、この光強度の次数変化量ΔNを求めることで、式(9)は、次式(14)と書け、Δf、ΔN、nを測定することで、共振器の絶対長Lを求めることができる。
【0068】
【数10】
【0069】
光路が真空化されている場合には、nを測定する必要は無く、安定な測定ができる。本方式もこの方法によって共振器の絶対長を求めることができる。しかし、共振器長Lを固定した静的な状態でしか実施できない、レーザ周波数を変化させている間に共振器長が熱膨張などによって変化して誤差になるなどの課題がある。
【0070】
方法2:2つの測定用レーザ光を用いる方法
2つの測定用レーザ光をそれぞれ異なる共振周波数へ同時にロックさせ、その際の2つのレーザ光の周波数差を求める周波数差検出手段を用いることで、共振器の絶対長を求めることができる。この周波数差検出手段を用いれば、2つのレーザ光を同時にロックさせている間、共振器の絶対長を常に測定することができ、方法1のように共振器を固定しておく必要は必ずしも無い。
2つの測定用レーザ光の周波数差は、個々の測定用レーザ光を基準レーザ光とビート測定しているため(図5)、得られる2つのビート周波数から求めることができる。測定用レーザ光1および測定用レーザ光2について、それぞれ基準レーザ光とのビート周波数f1beat、f2beatを測定する。この際に、測定用レーザ光1と測定用レーザ光2との周波数差fdは、一例として次式(15)によって求めることができる(図10参照)。
【0071】
【数11】
【0072】
ただし、測定用レーザ光1の周波数をf1、測定用レーザ光2の周波数をf2 、基準レーザ光の周波数をfrとする。f1,f2 > fr 以外の場合についても同様に求めることができる。
測定用レーザ光1と測定用レーザ光2と、基準レーザ光との周波数の大小は、測定用レーザ光1や測定用レーザ光2の周波数を変化させた場合のビート周波数の変化方向から判断できる。この測定では、基準レーザ光の周波数は相殺するため、基準レーザ光の周波数安定度の影響は問題になりにくい。
【0073】
この他、図11に示すように、2つの測定用レーザ光同士のビート計測を直接行ない、2つの測定用レーザ光間の周波数差を求めることもできる。この場合には、ビート周波数を検出するための検出系が新たに必要になるが(システム構成は図示略)、基準レーザ光を介す必要はないため、より簡便な処理法で実施できる。
【0074】
次に、2つの測定用レーザの周波数差から、共振器長Lを求める方法を示す。2つの測定用レーザ光を、共振器12の異なる共振周波数にそれぞれロックした場合、適当な数mとlとを用いて、2つのレーザ周波数は次式(16)、(17)のように書ける。
【0075】
【数12】
【0076】
ここで、簡単のため屈折率に関しては同じとしている。両者の差を取ると、共振器長Lは次式(18)と求められる。
【0077】
【数13】
【0078】
ここで、lは共振器長Lの概略値と周波数差 f2 − f1 から容易に推定することができる。特に l = 1 の場合は、隣同士の共振周波数にロックすることを意味しており次式(19)と書ける。
【0079】
【数14】
【0080】
光路を真空化する場合、空気屈折率nの影響が無くなり、空気屈折率nの測定が不要であることや、レーザ周波数差による空気屈折率nの差などが無視できるようになり、高精度測定には有利である。
【0081】
<実施形態の効果>
従来のサブナノメートル精度の測定法と比較して、測定精度の改善と測定範囲の拡大の両立ができる。
(1)測定精度の改善
測定用レーザ光の波長可変幅が小さくても測定可能となるので、レーザ光源のビームの指向安定性の影響が改善される、光学部品の分散の影響が改善される、などの点から測定精度が改善できる。必要に応じて測定用光路を真空化することで、空気屈折率の影響を受けず、高精度な測定が可能となる。さらに、測長を行なう上では、共振器の絶対長を求める必要があるが、これは2つの測定用レーザ光によって高精度かつリアルタイムで測定できる。
【0082】
(2)測定範囲の拡大
測定用レーザ光の波長可変幅や、測定用レーザ光に対する周波数測定範囲などによって測定範囲が制限されにくくなり、ファブリ−ペロー共振器の共振器長可変範囲限界まで測定範囲を拡大することができる。測定用レーザ光の波長可変量を低減できるため、測定用レーザ光は必ずしも大きな波長可変量を持つ必要は無く、レーザの選定やシステム設計の自由度が増す。また、測定用レーザ光の波長可変量を低減できることで、測定用レーザ光と基準レーザ光とのビート計測における周波数差が少なくなる。このため、測定用レーザ光の周波数測定のための光学系や電気系の設計がより簡単になる。この他、光学部品類のコーティングはより簡単になる。これらのことは、装置の低コスト化にも有利である。
【0083】
<変形例>
測定用レーザ光の結合および分離について、上述の例では、ファラデーローテータ(FR)44、45を用いた構成を示したが、図12のように、共振器と共振器の手前のPBSとの間にλ/4板(1/4波長板)47を配置する構成によっても実現できる。この構成では、λ/4板47の不完全性による影響、測定用レーザ光源10、11への戻り光などが生じる点では不利になる可能性があるが、ファラデーローテータを使用しない点でより安価となる。
【0084】
また、前記実施形態では、図8のように、レーザ1の周波数を共振周波数にロックする際、レーザ2のロック周波数とは異なる共振周波数(f3)にロックすると説明をした。本発明ではこれに限られず、レーザ2のロック周波数と同じ共振周波数(f2)にロックしてもよい。例えば、図13のように、複数のレーザ光源の周波数を、それぞれ同一の共振周波数にロックする場合と、それぞれ異なる共振周波数にロックする場合とを組み合わせて、測長を行うことができる。図13に示す動作では、第1光源(レーザ1)と第2光源(レーザ2)が、異なる周波数可変範囲を有し、一部の周波数可変範囲は重複しているとする。
まず、図中のゾーン1で、レーザ1を共振周波数f1にロックして測長を進める。ゾーン2で、レーザ1と同一の共振周波数f1にレーザ2をロックして、2台の光源で測長を行う。そして、ゾーン3では、レーザ1をアンロックにしてレーザ2だけで測長を進める。ここで、レーザ1の周波数をその周波数可変範囲に存在する別の共振周波数f4にロックする。ゾーン4では、2台の光源で測長を進める。このようなゾーン1からゾーン4の動作を繰り返すことによって、1台の光源での測長範囲よりも、2台の光源での測長範囲を広げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
高精度変位測定装置や高精度変位校正装置に適用できる。すなわち、固体スケールやレーザ干渉計をはじめとする各種測長機器の高精度評価(ノイズ、非線形性、繰り返し性など)や校正などに使用することができる。この他、ピエゾ素子を始めとする微小変位発生デバイスの評価などにも使用できる。
【符号の説明】
【0086】
10、11 測定用レーザ光源
28 固定側の反射面
30 可動側の反射面
12 共振器
18、19 光検出器
20 波長制御手段
44、45 ファラデーローテータ(FR)
50 周波数検出手段
54、55 光検出器(ビート周波数検出器)
62 第1ロック手段
64 第2ロック手段
100 測長システム(変位測定装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側の反射鏡および可動側の反射鏡を有するファブリ−ペロー共振器を用いた変位測定装置に関する。具体的には、本発明の変位測定装置は、共振器の可動側の反射鏡の変位量を高精度に検出することができ、その反射鏡の変位量に基づき各種測長機器の校正、評価を行うことができる装置である。
【背景技術】
【0002】
<測長機器の高性能化>
近年、固体スケール、静電容量型センサ、レーザ変位計等の各種測長機器の高性能化が進んでいる。例えば、固体スケールは、スケールピッチの微細化や電気的分割数の向上などにより、ピコメートルオーダの分解能を有するものが出現している。しかし、これらの機器の取り付け作業や信号調整には熟練を要するため、測長機器の性能を最大限に発揮させることが困難となっていた(「牧野内ほか:スキャン光学エンコーダに関する一研究,精密光学会誌,Vol.75,No.10,2009」)。従って、測長機器の高性能化に伴い、これらをピコメートルの精度で校正あるいは性能評価できる装置が求められていた。
【0003】
<レーザ干渉測長計による性能評価>
従来の測長機器を性能評価する装置としてレーザ干渉測長計が広く用いられている。
レーザ干渉測長計は、レーザ光源から出力されたレーザ光を2つに分割するとともに、それぞれ異なる光路を通過させた後に干渉させるレーザ干渉器の技術を応用し、レーザ干渉器がレーザ光を干渉させて生成した干渉縞に基づき、精密な長さを測定するものである。具体的には、レーザ干渉器の可動鏡を測定対象として、可動鏡の変位量を干渉縞の明暗の変化に置き換え、これを電気的にカウントすることで、変位量を精度よく取得する。
レーザ干渉測長計は、本質的に高感度な測定装置であり、測長機器の評価装置に限らず、工作機械や測定機などに組込まれるなど、各種産業分野で幅広く用いられている。
【0004】
従来のレーザ干渉測長計は、固体スケールなどと比較して、アライメントを自由に行うことができ、アッベ誤差を低減できる利点がある。しかし、測定範囲が数μm程度の微小領域においては、内挿誤差の影響などが無視できなくなる。内挿誤差とは、基準となるレーザ光の波長より小さな長さを測定する際の内挿補正により生じる誤差であり、この誤差により、サブナノメートルの測定精度を実現するのは容易ではない。このため、使用するレーザ光の波長を短くしたり、レーザ干渉測長計と測定対象となる移動用の反射鏡との往復回数を増やす光路長増倍法を用いたりすることが行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−288071号公報
【特許文献2】特開平11−125504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
<内挿誤差の軽減対策における課題>
レーザ干渉測長計で用いるレーザ光としては、通常、可視域の光が用いられている。高分解能化や内挿誤差低減のためには、より短い波長が有利になるが、可視域よりも短波長となる紫外域やX線領域の光を用いた場合、光源の安定性、光学部品の入手性、装置の大型化、安全性などの課題が生じ、実現は容易ではない。
また、特許文献1の光路長を増倍する方法は、見かけ上レーザ光の波長が短くなるため、高精度な測定が期待できる。しかし、光学系が複雑化する、光学素子内を光が何往復もすることで光量が低下する、迷光や漏れ光の影響が生じる、測定における最高移動速度が低下する、などの課題から、光路長の増倍によって得られる改善効果には限度があった。
【0007】
<内挿補正を行う必要の無い測長システム>
このような現状に対して、波長可変レーザ光源を用いて、測定対象となる可動鏡の変位量に対応して測定用レーザ光の波長を変化させ、その波長変化量を基に可動鏡の変位量を測定する測長システムが研究されてきている(「Banh・星野・石下・小林・明田川:周波数可変レーザを用いたピコメートル干渉測長法の開発−第5 報:空気の屈折率変動計測とその補正,2008 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,F02,pp.441-442」,「Youich Bitou:High-accuracy displacement metrology and control using a dual Fabry-Perot cavity with an optical frequency comb generator, Precision Engineering 33, pp.187-193, 2009」)。
【0008】
上記の測長システムは、一定の波長可変幅を有する測定用レーザ光源と、ファブリーペロー共振器と、光検出器と、波長制御手段と、周波数検出手段とを備え、ファブリーペロー共振器の可動側反射面の変位量を測定するシステムであり、可動側反射面の変位量に基づいて各種測長機器を評価するようになっている。
ファブリーペロー共振器は、固定側の反射面および可動側の反射面を有し、該一対の反射面間で前記測定用レーザ光源からの測定用レーザ光を共振させて、両反射面の間隔長で定まる共振周波数のレーザ光を出力する。
光検出器は、前記共振器からのレーザ光出力を検出する。
波長制御手段は、前記光検出器の値に基づき、前記共振器の可動側反射面の変位量に追従するように測定用レーザ光源の波長を変化させて、前記共振器の共振周波数に対する測定用レーザ光の周波数のロック状態を維持する。
周波数検出手段は、前記波長制御手段によって制御される測定用レーザ光の周波数の変化量を検出する。この周波数変化量に基づいて、可動側反射面の変位量が算出されるようになっている(例えば、特許文献2参照)。
上記の測長システムを用いれば、干渉信号の内挿補正を行う必要が無く、サブナノメートル精度の測長が期待できる。
【0009】
しかしながら、特許文献2の測長システムでは、レーザ光の波長可変幅の制約を受けてしまい、測定可能な可動鏡の変位範囲が制限されていた。
測定可能な可動鏡の変位範囲を広げるため、広範囲に波長を変えられる波長可変レーザを使用することが考えられる。その場合、使用できるレーザ光が制限される、レーザ光源のビームの指向安定性の影響によって測定精度が低下する、光学部品の分散の影響などによって測定精度が低下する、光学部品などを特殊コーティングするなど光学部品に高い性能を付与するための処理が要求される、などと言った新たな課題や要求が生じてしまう。
また、上記の測長システムでは、波長可変レーザの周波数安定化、もしくは波長可変レーザの周波数の精密な測定が必要となる。そのため、測定範囲を広げるために広範囲に波長を変えられる波長可変レーザを使用すると、周波数安定化やレーザ周波数の高精度測定が難しくなってしまう。
【0010】
このように、内挿補正を行う必要の無い測長システムでは、測定精度の向上と測定範囲の拡大とを両立させることが容易でなかった。
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、サブナノメートルの精度での測定が可能で、かつ、広い範囲を測定できる変位測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、波長可変レーザ光源を複数台用いて、変位量に応じて測定する波長可変レーザ光源の波長を順次切り替えれば、単一の波長可変レーザ光源において制限された測定範囲を拡大することができ、同時に共振器を用いたサブナノメートル精度の測定が可能になることに着目した。
【0012】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明にかかる変位測定装置は、一定の波長可変幅を有する測定用レーザ光源と、共振器と、光検出器と、周波数検出手段とを備える。
前記共振器は、固定側の反射面および可動側の反射面を有し、該一対の反射面間で前記測定用レーザ光源からの測定用レーザ光を共振させて、両反射面の間隔長で定まる共振周波数のレーザ光を出力する。
前記光検出器は、前記共振器からのレーザ光出力を検出する。
前記波長制御手段は、前記光検出器の値に基づき、前記共振器の可動側反射面の変位量に追従するように測定用レーザ光源の波長を変化させて、該測定用レーザ光の周波数を前記共振器の共振周波数に合わせてロック状態にする。
前記周波数検出手段は、前記波長制御手段により制御された測定用レーザ光の周波数の変化量を検出する。この周波数検出手段の検出値に基づいて共振器の可動側反射面の変位量を取得する。
前記測定用レーザ光源は、それぞれ一定の波長可変幅を有する複数の測定用レーザ光源からなり、それぞれ前記共振器に向けて測定用レーザ光を発振する。
そして、前記波長制御手段は、前記間隔長に対して複数存在する共振周波数の中から1つの共振周波数にいずれかの測定用レーザ光源の周波数をロックする第1ロック手段と、
この第1ロック手段でロック中の測定用レーザ光源の波長可変幅内で、ロック状態が解除されている他の測定用レーザ光源の周波数を、第1ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数にロックする第2ロック手段と、を含み、
1つの測定用レーザ光源の波長可変幅で測定可能な前記可動側反射面の変位範囲よりも広い変位量の測定可能範囲を有することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、それぞれ一定の波長可変幅を有する複数の測定用レーザ光源を用いるとともに、波長制御手段に第1ロック手段および第2ロック手段を設けたので、測長範囲が1つの測定用レーザ光源の波長可変幅では足りない場合であっても、以下のようにして全測長範囲を測定できる。すなわち、第1ロック手段が、1つ目の測定用レーザ光の周波数を所定の共振周波数にロックしてその波長可変幅内での測長を行う。そして、1つ目の測定用レーザ光の波長可変範囲の限界に達する前に、第2ロック手段が2つ目の測定用レーザ光の周波数を異なる共振周波数にロックして測長を継続する。このようにすれば、1つの測定用レーザ光源の波長可変幅で測定可能な変位量より大きい変位量が測定できる。
【0014】
ここで、前記第1ロック手段は、前記第2ロック手段でのロック後に、該第1ロック手段でのロックを解除するとともに、第2ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数に再ロックし、
前記第2ロック手段は、前記第1ロック手段での再ロック後、該第2ロック手段でのロックを解除するように構成されることが好ましい。
このような構成によれば、例えば2台の測定用レーザ光源を用いる場合、1番目の測定用レーザ光による測定が測定可能範囲の限界に達する前に、2番目の測定用レーザ光に切り替えることができ、さらに2番目の測定用レーザ光による測定が測定可能範囲の限界に達する前に、1番目の測定用レーザ光に切り替えるという動作が可能となる。このような動作を繰り返すことで、より広い変位量を測定することができる。
【0015】
また、前記周波数検出手段は、周波数が安定化されたレーザ光を発振する基準レーザ光源と、該基準用レーザ光と前記測定用レーザ光とのビート周波数を検出するビート周波数検出器と、を有し、前記基準レーザ光の波長とのビート周波数の変化量から前記測定用レーザ光の周波数の変化量を取得することが好ましい。
このような構成によれば、共振器長の変化量の測定で必要となる測定用レーザ光の周波数およびその変化量を高精度に求めることができる。
さらに、測定用レーザ光の導光路にはファラデーローテータを用いたサーキュレータが配置されており、前記サーキュレータは、共振器へ入出力する2つの測定用レーザ光の光路を結合および分離することが好ましい。
このような構成によれば、2つの測定用レーザ光の偏光状態を変えて共振器に入出力することができ、2つの測定用レーザ光の結合および分離を確実に行うことができる。
【0016】
また、2つの測定用レーザ光の周波数差を検出して、該周波数差から前記共振器の間隔長を取得する周波数差検出手段を備えることが好ましい。
このような構成によれば、2つの測定用レーザ光を同時にロックさせている間、共振器の間隔長を常に測定することができ、共振器の間隔長を固定しておく必要がない。
また、共振器は、両反射鏡間の光路を真空に保つ真空部を有することが好ましい。
このような構成によれば、空気屈折率の影響が無くなり、空気屈折率の測定が不要であることや、レーザ周波数差による空気屈折率の差などが無視できるようになり、より高い精度で測定できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のサブナノメートル精度の測定法と比較して、測定精度の改善と測定範囲の拡大の両立ができる。すなわち、測定用レーザ光の波長可変幅が小さくても測定可能となるので、レーザ光源のビームの指向安定性の影響が改善される、光学部品の分散の影響が改善される、などの点から測定精度が改善できる。必要に応じて測定用光路を真空化することで、空気屈折率の影響を受けず、高精度な測定が可能となる。さらに、測長を行なう上では、共振器の絶対長を求める必要があるが、これは2つの測定用レーザ光によって高精度かつリアルタイムで測定できる。
【0018】
また、測定用レーザ光の波長可変幅や、測定用レーザ光に対する周波数測定範囲などによって測定範囲が制限されにくくなり、ファブリ−ペロー共振器の共振器長可変範囲限界まで測定範囲を拡大することができる。測定用レーザ光の波長可変量を低減できるため、測定用レーザ光は必ずしも大きな波長可変量を持つ必要は無く、レーザの選定やシステム設計の自由度が増す。また、測定用レーザ光の波長可変量を低減できることで、測定用レーザ光と基準レーザ光とのビート計測における周波数差が少なくなる。このため、測定用レーザ光の周波数測定のための光学系や電気系の設計がより簡単になる。この他、光学部品類のコーティングはより簡単になる。これらのことは、装置の低コスト化にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ファブリ−ペロー共振器を有する測長システムの基本構成図である。
【図2】ファブリ−ペロー共振器の反射率を示す図である。
【図3】ファブリ−ペロー共振器の反射光強度を示す図である。
【図4】ファブリ−ペロー共振器の反射光強度の一次微分信号を示す図である。
【図5】本発明の変位測定装置の全体構成図である。
【図6】本発明の変位測定装置の全体構成の概略図である。
【図7】前記変位測定装置における測定用レーザ光の光路を示す図であり、(A)は測定用レーザ光源からファブリ−ペロー共振器までの光路図、(B)はファブリ−ペロー共振器から光検出器までの光路図である。
【図8】共振器の間隔長を連続的に変化させている時のファブリ−ペロー共振器への測定用レーザ光のロック動作の説明図である。
【図9】2つの測定用レーザ光による測長法を説明するための図である。
【図10】測定用レーザ間の周波数差の間接測定の説明図である。
【図11】測定用レーザ間の周波数差の直接測定の説明図である。
【図12】本発明の変形例である変位測定装置の全体構成図である。
【図13】本発明の別の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る変位測定装置(以下、測長システムとも言う。)について説明する。図1は、ファブリ−ペロー共振器を有する測長システムの基本構成図である。まず、同図を用いて測長システムの基本構成について説明する。説明で用いる各変数を次のように定義する。
n :空気の屈折率
L :共振器の対向する反射面の間隔長
(共振器の幾何学的距離である。以下、共振器長とも呼ぶ。)
ΔL:共振器長の変化量
f :レーザ光の周波数
Δf:レーザ光の周波数の変化量
N :次数(整数以外も含む)
c :真空中の光速度
λ0:レーザ光源からのレーザ光の真空中での波長
r :共振器反射鏡の振幅反射係数
R :共振器反射鏡の反射率(R=r2)
【0021】
<測長システムの基本構成>
図1に示すように、測長システムの基本構成は、測定用レーザ光源10、ファブリ−ペロー共振器12、アクチュエータ制御手段14、ビームスプリッタ16、光検出器18および波長制御手段20を有して構成される。
測定用レーザ光源10は、一定の波長可変幅を有し、ファブリ−ペロー共振器12へ向けて測定用レーザ光を発振する波長可変レーザ光源である。
【0022】
ビームスプリッタ16は、測定用レーザ光源10とファブリ−ペロー共振器12との間に配置され、測定用レーザ光を透過して共振器12へ導光する。ファブリ−ペロー共振器12には、ビームスプリッタ16を透過した測定用レーザ光が入射する。
ファブリ−ペロー共振器12は、筒状の共振器本体22と、この本体22の筒部の一端の開口部に固定された反射鏡24と、他端の開口部に支持されたアクチュエータ32と、このアクチュエータ32によって筒部の軸方向に移動自在に支持された反射鏡26と、を有する。本体22は、固定側の反射鏡24へ測定用レーザ光が入射できる姿勢で配置されている。入射した測定用レーザ光は、反射鏡24の固定側反射面(凹面)28と、反射鏡26の可動側反射面(平面)30との間を多数回往復する。すなわち、両反射面28、30の間隔長(共振器長L)で定まる共振周波数に測定用レーザ光の周波数を合わせれば、対向する一対の反射面28、30間で測定用レーザ光を共振させることができる。この共振器本体22は、両反射面28、30間の光路を真空に保つ真空部を有する。
【0023】
また、レーザ光の一部を透過する固定側反射鏡24により、共振器長Lで定まる共振周波数のレーザ光が固定側反射鏡24から出力される。なお、共振器12に内蔵されたピエゾ素子からなるアクチュエータ32は、両反射面28、30間の光路を遮らないようにするため中空状に形成されている。アクチュエータ制御手段14がアクチュエータ32の駆動によって、可動側反射鏡26が所定の変位範囲を移動する。この可動側反射鏡26の可動側反射面30の変位量、つまり共振器長の変化量ΔLが、本発明の変位測定の対象となる。
【0024】
固定側反射鏡24から出力されたレーザ光はビームスプリッタ16で反射し、光検出器18で受光される。この光検出器16は、共振器12からのレーザ光出力を検出するものである。
【0025】
<ファブリ−ペロー共振器の特性>
ここで、高精度測定のベースとなるファブリ−ペロー共振器12の特性について説明する。ファブリ−ペロー共振器12にレーザ光を入射した場合にファブリ−ペロー共振器12から得られる反射率および透過率をRNおよびTNとすると、反射率RN、透過率TNは次式(1)、式(2)で与えられる。
【0026】
【数1】
ここで、Fは共振器の分解能を決める一要素であり、δは位相差であり、それぞれ次式(3)で与えられる。特にFの平方根に(π/2)を乗じた値はフィネス( Fines)と呼ばれ、次式(4)で示される。
【0027】
【数2】
【0028】
式(3)より反射率Rが大きいとF値も大きくなる。よって、式(1)、(2)より高反射率の反射鏡24、26を用いれば、ファブリ−ペロー共振器12の反射率RNおよび透過率TNは、位相差δがπの整数倍の時に鋭い変化を示す特性になることが判る(例えば図2参照)。位相差δがπの整数倍であるという条件を式(3)に基づき、次式(5)のように表す。また、式(5)を変形すれば、式(6)が得られる。
【0029】
【数3】
【0030】
可動側反射鏡26を移動させて任意の共振器長Lが与えられた時、上式を満たすレーザ波長λ0の光に対して共振器12の反射率RNが最小となる(共振器12の透過率TNは最大となる)。反射率RNの場合について、その特性の例を図2に示す。
ここでは、共振器12からの出力レーザ光が、固定側反射鏡28からレーザ光源10側に出射する場合、その出力レーザ光を反射光と呼ぶ。また、可動側反射鏡30から出力レーザ光が出射する場合、その出力レーザ光を透過光と呼ぶ。本実施形態では共振器12からの反射光を用いて測長を行う場合を示すが、共振器12からの透過光を用いても同様の測長が可能である。
式(5)を満たす場合のレーザ光の周波数fを共振周波数(対応する波長は共振波長)と呼ぶ。レーザ光の周波数fが次式(7)を満足する値に調整されると、共振器12でレーザ光が共振する。また、式(7)に示されるように共振器長Lが一定の場合、共振器長Lで定まる共振周波数は複数存在し、隣接する共振周波数の間隔は次式(8)で表され、これを自由スペクトル間隔fFSRと呼ぶ。
【0031】
【数4】
【0032】
より一般的な場合、つまり共振状態から外れる周波数fを含めて考えると、共振器長Lは、次数Nを用いて、次式(9)と書ける。ここで、次数Nは整数以外の場合も含まれる。
【0033】
【数5】
【0034】
各種因子がファブリ−ペロー共振器長Lの変化に与える影響ついて考えるため、この共振器長Lを微分する。共振器長Lを微分したものを次式(10)で示すことができる。
【0035】
【数6】
【0036】
なお、式(10)中のδL、δf、δnおよびδNで示される「δ」は、共振器長L、レーザ光の周波数f、空気屈折率nおよび次数Nの各変化分を示すものであり、前述の位相差δとは異なる。以下、式(12)まで同じである。
式(10)より、共振器長の変化分δLは、周波数の変化分δf、屈折率の変化分δnおよび次数の変化分δN(各変化分は、いずれも相対値である。)の影響を受ける。ここで、共振器長Lが変化した際に、次数の変化分δNを打ち消すようにレーザ光の周波数(波長)を制御すると、δNはゼロとなり、式(10)は次式(11)となる。次数の変化分δNを打ち消すように周波数制御するとは、例えば、レーザ光の周波数fを共振器長Lの変化に応じて変わる共振周波数に常に一致させるように、周波数fを制御することを言う。このレーザ光の周波数制御は、図1で示す測定用レーザ光の波長制御手段20により実行される。
【0037】
【数7】
【0038】
<共振器長の変化分δL>
式(11)を用いれば、共振器長L、レーザ光の周波数fおよびその変化分δf、空気屈折率nおよびその変化分δnを測定することによって、共振器長の変化分δLを高精度に求めることができる。
まず、共振器長Lを測定するには、例えば共振器長Lを固定した状態でレーザ光の周波数fを変化させ、その際の次数Nの変化をカウントする。この次数Nの変化を基にして式(9)から共振器長Lが得られる。
また、レーザ光の周波数fおよびその変化分δfは、例えば、測定用レーザ光と、絶対波長が値付けられた周波数安定化レーザ光源からの基準レーザ光とのビート周波数を測定することで求められる。
【0039】
共振器長の変化分δLを上記の方法で測定すれば、通常のレーザ干渉測長計で問題となる干渉信号に対する内挿補正を行う必要がないので、内挿誤差の影響を受けない高精度な測定が可能となる。
さらに、光路を真空化すると、式(11)は、次式(12)となり、空気屈折率nの影響がなくなり、より高精度な測定ができる。
【0040】
【数8】
【0041】
<可動側反射鏡の変位量ΔL>
本発明の測長システムでは、共振器12の可動側反射鏡26の移動範囲が、各種測長機器の測定範囲と同等となるように設定されるため、共振器長Lの変位量ΔLは非常に大きくなる。従って、大変位(ΔL)の測長時にはL/fの変化分を考慮し、次式(13)のように共振器長の変化分δLに対する積分を行なえば良い。
【0042】
【数9】
【0043】
<周波数ロック(波長制御)>
ここからは、測定用レーザ光の周波数制御について説明する。
図3は測定用レーザ光の周波数f(波長)を変化させた場合の、ファブリ−ペロー共振器12より得られる反射光強度の変化を示す。式(7)を満足する周波数fの前後で、反射光強度が鋭く変化する。反射光強度が最小となる周波数は、共振器12の共振周波数に一致する。図中のf1、f2、f3は共振器長Lに対して複数存在する共振周波数を示す。
一方、式(9)より分かるように、測定用レーザ光の周波数fを固定した状態で、共振器長Lを変化させた場合、共振器12の反射光強度は次数Nの変化と同時に変化する。
従って、次数Nの変化が生じないようにレーザ光の周波数fを制御するには、図3に示す反射光強度が常に最小となるようにすれば良い。すなわち、レーザ光の周波数fをいずれか一つの共振周波数に合うように周波数制御(ロック)すれば良い。
【0044】
周波数のロック性能を高めるには、図3(または図2)に示す周波数f(位相差δ)の変化に対する反射光強度(反射率RN)の変化特性がより鋭くなるように、共振器の反射鏡24、26の反射率Rを高くしたり、各種共振器内の損失を減らしたりすると良い。つまり、式(4)のフィネスを高めることが有効である。また、測定用レーザ光に位相変調を与える変調器を設けておき、ファブリ−ペロー共振器12より得られる反射光を、その変調信号と同期して検波する検波器を用いれば、検波器によって反射光の微分信号が得られるため(図4)。この微分信号のゼロクロス点にレーザ光の周波数fをロックさせるのが有効である。測定用レーザ光の周波数fに位相変調を与えるには、測定用レーザ光源10の外部にEOMなどの変調器を設ける方法や、測定用レーザ光源10内に共振器長Lを可変にするPZTなどの素子を設けるなどの方法が挙げられる。
【0045】
<測長方法>
従って、図1の測長システムを用いた可動側反射面30の変位量ΔLの基本的な測定方法は、以下のようになる。
(1)まず、可動側反射鏡26を初期位置(任意の位置で構わない。)に合わせて、測定用レーザ光源10に任意の波長のレーザ光を発振させる。また、光検出器18にファブリーペロー共振器12からの出力レーザ光を検出させる。
(2)波長制御手段20は、光検出器18の検出値(反射光強度)に基づいて、共振器12で測定用レーザ光が共振するように、測定用レーザ光源10の波長(周波数f)を調整する。
(3)アクチュエータ制御手段14がアクチュエータ32を駆動して、可動側反射鏡26を変位させる。すると、共振器長Lが変化し共振周波数も変わる。波長制御手段20は、共振器12の共振状態を維持するように、測定用レーザ光源10の波長λを共振器長Lの変化量ΔLに追従させる。すなわち、波長制御手段20は、光検出器18の検出値に基づいて、測定用レーザ光が共振器長Lで定まる共振周波数で常に共振するように、波長可変レーザ光10の波長やアクチュエータ32の変位量を制御する。
【0046】
(4)また、図1では省略したが、次の方法で共振器長Lを測定する。まず、共振器12の共振器長Lを固定した状態でレーザ光の周波数fを変化させて、その際の次数Nの変化をカウントする。この次数Nの変化を基にして式(9)から共振器長Lを得る。
(5)また、測定用レーザ光の周波数fおよびその変化分δfを、例えば、測定用レーザ光と基準レーザ光とのビート周波数を測定することによって取得する。
(6)以上の測定で得られた共振器長L、周波数fおよびその変化分δfの測定値に基づき、式(13)で示す積分を演算して、可動側反射面30の変位量ΔLを算出する。
このようにして、ファブリーペロー共振器12の可動側反射鏡26がアクチュエータ32によって変位した量(ΔL)を、共振器12を利用して高精度に測定することができる。
【0047】
<変位センサなどの評価方法>
以上の測長システムを用いれば、変位センサなどの測長機器を高精度に評価、校正することができる。
すなわち、図1のように、共振器12の可動側反射鏡26の対面(可動側反射面30の反対側の面)に、変位センサなどの評価対象機器34を配置する。
前述の方法で、可動側反射鏡26の変位量ΔLを測長システムにより測定するとともに、変位センサでも可動側反射鏡26の変位量ΔLを測定する。変位センサが非接触式の測長機器である場合には、反射鏡26に両面反射鏡などを用いれば良い。
測長システムと評価対象の機器とによって同時にファブリーペロー共振器の可動側反射鏡26の変位量ΔLを測定し、その測定結果を比較することで、評価対象機器34の評価や校正ができる。
【0048】
<本発明の測長システムの構成>
前述の基本構成を備えた従来の測長システムは、単一の測定用レーザ光を用いたものであった。そのため、測定用レーザ光源10の波長可変量を大きくすることで、測定範囲を広くしていた。その場合、大きな波長変化(周波数変化)を伴うため、レーザ光の周波数fの測定が困難になったり、測定精度が低下したりするなどの課題があった。
【0049】
これに対して本発明の測長システムは、前述の基本構成をベースにして、2つの測定用レーザ光源と1つの基準レーザ光源(周波数安定化レーザ光源)とを利用することで、測定精度と測定範囲とを向上させたことに特徴がある。
2つの測定用レーザ光を用いることで、常にいずれかのレーザ光の周波数fを共振器12の共振周波数にロックさせることが可能となり、広範囲の測定を可能にした。これによって周波数測定における課題や、分散の影響の課題を解決できる。
【0050】
本実施形態における測長システム100の装置構成を図5、図6に示す。この測長システム100は、2つの測定用レーザ光を用いて測長を行なうとともに、測定用レーザ光の周波数fを、基準レーザ光とのビート周波数を計測することで、それぞれ測定する。
【0051】
具体的には、測長システム100は、2つの測定用レーザ光源10、11、ファブリ−ペロー共振器12、2つの光検出器18、19、導光手段40および周波数検出手段50を有して構成される。
2つの測定用レーザ光源10、11は、それぞれ一定の波長可変幅を有する。
周波数検出手段50は、測定用レーザ光と基準レーザ光とのビート周波数を検出して、それぞれの測定用レーザ光の周波数変化量Δfを検出するためのものであり、周波数安定化レーザ光を発振する基準レーザ光源52と、ビート周波数測定用の導光路と、光検出器54、55を有する。光検出器(PD)54は測定用レーザ光源10からの測定用レーザ光と基準レーザ光との干渉光強度を検出し、両レーザ光のビート周波数を出力する。光検出器(PD)55は測定用レーザ光源11からの測定用レーザ光と基準レーザ光との干渉光強度を検出し、両レーザ光のビート周波数を出力する。
また、図6に示すように、2つの光検出器18、19からの信号は、波長制御手段20に設けられた第1ロック手段62、第2ロック手段64に送られる。第1ロック手段62は、測定用レーザ光源10の波長を制御し、第2ロック手段64は、測定用レーザ光源11の波長を制御する。
以下、測定方法を説明する。
【0052】
<測長方法>
測定用レーザ光源10による測長方法
測定用レーザ光源10から出射されたレーザ光を図5中、実線で示す。このレーザ光は、測定用レーザ光源10→ISO→λ/2→PBS42→FR44→λ/2→PBS46→ファブリ−ペロー共振器12の順番でファブリ−ペロー共振器12に入射する。
ファブリ−ペロー共振器12内で、レーザ光は、反射鏡24、26間で複数回往復し、その一部が左端の反射鏡24から出射される。このレーザ光(同図中、実線で示す。)は、ファブリ−ペロー共振器12→PBS46→λ/2→FR44→PBS42→PD18の順番で光検出器(PD)18に入射する。
なお、ISOは光アイソレータであり、光源からの光(順方向の光)を透過させ、逆方向の光を透過させない光デバイスである。また、PBSは偏光ビームスプリッタであり、内部の反射面で入射光をP偏光とS偏光に分離するものである。FRはファラデーローテータであり、レーザ光の偏光方向を45°回転させるものである。
PD18より得られる信号は、ファブリ−ペロー共振器12の反射率に依存した信号である。信号は波長制御手段20の第1ロック手段62に送られ、測定用レーザ光源10の波長制御に用いられる。
【0053】
測定用レーザ光源11による測長方法
測定用レーザ光源11から出射されたレーザ光を図5中、破線で示す。このレーザ光は、は、測定用レーザ光源11→ISO→λ/2→PBS43→FR45→λ/2→PBS46→ファブリ−ペロー共振器12の順番でファブリ−ペロー共振器12に入射する。
ファブリ−ペロー共振器12内で、レーザ光は、反射鏡24、26間で複数回往復し、その一部が左端の反射鏡24から出射される。このレーザ光(同図中、破線で示す。)は、ファブリ−ペロー共振器12→PBS46→λ/2→FR45→PBS43→PD19の順番で光検出器(PD)19に入射する。
このPD19より得られる信号は、ファブリ−ペロー共振器の反射率に依存した信号である。信号は波長制御手段20の第2ロック手段64に送られ、測定用レーザ光源11の波長制御に用いられる。
【0054】
測定用レーザ光源10のレーザ光と基準レーザ光とのビート周波数計測
測定用レーザ光源10より出射されたレーザ光(図5中、実線で示す。)は、測定用レーザ光源10→ISO→λ/2→PBS42→反射鏡48→PBS56→P板→PD54の順番で光検出器(PD)54に入射する。
基準レーザ光源52より出射したレーザ光を図5中、点線で示す。このレーザ光は、基準レーザ光源52→ISO→λ/2→BS→反射鏡58→λ/2→PBS56→P板→PD54の順番で光検出器(PD)54に入射する。
このPD54より得られる信号は、この2つのレーザ光の周波数のビート信号であり、周波数カウンタなどで信号を測定することで両レーザ光間の周波数差が判明する。従って、測定用レーザ光源10のレーザ光の周波数fは、基準レーザ光の周波数と、検出した周波数差とから判明する。
【0055】
測定用レーザ光源11のレーザ光と基準レーザ光とのビート周波数計測
測定用レーザ光源11より出射されたレーザ光(図5中、破線で示す。)は、測定用レーザ光源11→ISO→λ/2→PBS43→PBS60→P板→PD55の順番で光検出器(PD)55に入射する。
基準レーザ光源52より出射したレーザ光(図5中、点線で示す。)は、基準レーザ光源52→ISO→λ/2→BS→PBS60→P板→PD55の順番で光検出器(PD)55に入射する。
このPD55より得られる信号は、この2つのレーザ光の周波数のビート信号であり、周波数カウンタなどで信号を測定することで両レーザ光間の周波数差が判明する。従って、測定用レーザ光源11のレーザ光の周波数fは、基準レーザ光の周波数と、検出した周波数差とから判明する。
【0056】
周波数ロック
図示を略するが、測定用レーザ光源10、11のレーザ光には、変調器や共振器内PZTによって、位相変調を与える。ファブリ−ペロー共振器12より得られる反射光をPD18、19によって測定する際に、この変調信号と同期検波をすることで、反射光の微分信号を得る。第1ロック手段62、第2ロック手段64は、PD18、19からの微分信号のゼロクロス点に、測定用レーザ光源10、11の周波数fをロックするようにする。測長の開始時点では、第1ロック手段62が、共振器長Lに対して複数存在する共振周波数の中から1つの共振周波数に測定用レーザ光源10の周波数fをロックする。
必要に応じてファブリ−ペロー共振器12内を真空光路とすることで、空気屈折率nの変動の影響を低減することができる。
【0057】
測定用レーザ光の結合、分離
2つの測定用レーザ光の導光路40には、ファラデーローテータ(FR)44、45を用いて構成された光サーキュレータが配置されている。測定用レーザ光源10および測定用レーザ光源11からの各測定用レーザ光を偏光させることによって、2つの測定用レーザ光を結合および分離する構成としている。図7は、測定用レーザ光源11の測定用レーザ光の光学系の詳細を示す。なお、測定用レーザ光源10の測定用レーザ光の光学系についても同様である。この構成では、ファブリ−ペロー共振器12の手前にあるPBS46に十分な消光比のものを用いることで、測定用レーザ光源10、11からの各測定用レーザ光のクロストークを著しく低減することができ、確実に2つの測定用レーザ光の結合と分離が行われて、測定性能を高めることができる。
【0058】
測定用レーザ光の切り替えのタイミング
図5、図6に示す測長システム100において特徴的なことは、測長のタイムスケジュールの中に、2つの測定用レーザ光源10、11からの測定用レーザ光を2つ同時に測長に用いるゾーン1と、一方のみを測長に用いるゾーン2とを設け、常に少なくともいずれかの測定用レーザ光を共振器12の共振周波数にロックさせることにある。測長の過程で、一方の測定用レーザ光の波長可変幅が不足した場合には、ロックを解除してレーザ光の波長の引き戻しを行い、共振周波数への再ロック動作を行う。一方の測定用レーザ光による測長が中断している間、もう一方の測定用レーザ光のみによる測長を行っている。2台の測定用レーザ光源10、11の測定領域同士にオーバーラップ(ゾーン1に相当する。)を設けることで、2つのレーザ光による測定結果を誤差無く接合し、共振器長Lの連続的な変化に対して測長を行ない続けることができる。これによって、共振器長Lの可変範囲によって定まる限界の長さまで、測定範囲を容易に拡大することができる。
2つの測定用レーザ光を用いた具体的な測定方法を図8および図9に示す。
【0059】
ゾーン1)2波長を共振周波数にロックさせる範囲
図8に示すように、第1ロック手段62、第2ロック手段64が2つの測定用レーザ光1、2について、各レーザ光の波長を調整して、共振器12の隣り合う共振周波数(図中のf1、f2)にそれぞれ波長をロックする。また、ファブリ−ペロー共振器長Lの変化に波長を追従させて、各レーザ光のロック状態を維持する。この2つのレーザ光によって、ファブリ−ペロー共振器長Lの変化を測長する。測長については式(11)〜(13)などに基づいて行われる。
【0060】
ゾーン2)1波長のみを共振周波数にロックさせる範囲
ファブリ−ペロー共振器長Lが増加した際に、一方のレーザ光1の周波数fがその周波数可変範囲(波長可変幅)の限界付近に到達した場合、まず第1ロック手段62がそのレーザ光1のロックを解除する。周波数可変範囲限界は、測定用レーザ光自体の周波数可変範囲、ビート周波数の周波数測定範囲などによって決まる。
次に、第1ロック手段62は、解除したレーザ光1の周波数fを、共振器12の異なる共振周波数に再ロックする。この間、その測定用レーザ光1による測長は中断するため、もう一方の測定用レーザ光2のみによる測長を行なう。
【0061】
例えば、図8に示すように、共振周波数f1にロックされた測定用レーザ光1が、その周波数可変範囲限界の付近に到達した場合、第1ロック手段62は、共振周波数f1に対するレーザ光1の周波数のロックを一時解除する。そして、その測定用レーザ光1の周波数を制御して、他方の測定用レーザ光2の周波数(共振周波数f2にロック中)を通り越した隣の共振周波数f3にレーザ光1の周波数を再ロックする。レーザ光1のロックを外している最中は、レーザ光1による測長はできないため、第2ロック手段64が測定用レーザ光2の周波数制御を行って、レーザ光2のみによる測長を続ける。測定用レーザ光2が、その周波数可変範囲限界付近に到達した場合には、第2ロック手段64が第1ロック手段62と同様に動作する。このようにして、常に少なくとも一方の測定用レーザ光による測定を行って、共振器長Lの連続的な変化を測長することができる。
【0062】
以上の説明によれば、共振器長Lの測定範囲を拡張するには、波長制御手段20に少なくとも以下のような第1ロック手段62と第2ロック手段64とを設ければよい。まず、第1ロック手段62が測定用レーザ光源10の周波数を所定の共振周波数f1にロックし、その周波数可変範囲内で測長を行う。第2ロック手段64は、第1ロック手段62でロック中の測定用レーザ光源10の周波数可変範囲内で、ロック状態が解除されている他の測定用レーザ光源11の周波数を、第1ロック手段62でロックされた共振周波数f1よりも大きいまたは小さい別の共振周波数f2にロックする。共振器長Lが増加する場合には、小さい方の共振周波数にロックし、共振器長Lが減少する場合には、大きい方の共振周波数にロックすればよい。このようにすれば、1つの測定用レーザ光源10の周波数可変範囲で測定可能な共振器長Lの変位範囲よりも広い変位量を測定することができる。
【0063】
さらに、第1ロック手段62は、第2ロック手段64でのロック後に、該第1ロック手段62でのロックを解除するとともに、第2ロック手段64でロックされた共振周波数f2よりも大きい(または小さい)方の別の共振周波数f3に再ロックすれば、より広い変位量を測定できる。
また、第2ロック手段64は、第1ロック手段62での再ロック後、該第2ロック手段64でのロックを解除する。さらに、第2ロック手段64は、第1ロック手段62でロックされた共振周波数f3よりも大きい(または小さい)方の別の共振周波数に再ロックするという動作を繰り返すことで、より広い変位量を測定することができる。
【0064】
2つの測定用レーザ光による測定値の接続
図9は、共振器長Lが増加する際に、2つの測定用レーザ光1、2によって共振器長Lを測定する方法について示す。上述のように、2つのレーザ光1、2によって同時に測長を行なっているゾーン1と、一方のレーザ光のみで測長を行なっているゾーン2とがある。共振器長Lの連続的な測定は、ロック中のいずれか一方のレーザ光による測定値を時間的に接続させることで行う。
2つのレーザ光1、2の周波数によって同時に測定しているゾーン1を設けていることで、連続的な測定が実施できる。この接続は、コンピュータ上の演算によって、容易に実行できる。
【0065】
なお、2つの測定用レーザ光1、2の周波数を共振器12の隣り合う共振周波数f1、f2へロックすると説明したが、必ずしもこれに限定されない。複数個先の共振周波数へロックするなど、周波数の可変範囲や、自由スペクトル間隔などを考慮して、適切な共振器の共振周波数へロックすれば良い。
【0066】
<共振器の絶対長の測定>
共振器長Lの変位量を測定する際に、共振器長Lの絶対長を求める必要がある。本実施形態では、次の方法により、その絶対長を求める。
【0067】
方法1:1つの測定用レーザ光を用いる方法
共振器12の絶対長を測定するには、共振器長Lを固定し、その状態でレーザ光の周波数fを変化させる方法が従来から用いられている。この場合、式(5)に基づき、位相δが変化するため、ファブリ−ペロー共振器12から得られる反射光は、図3で示したように光強度が変化する。このため、周波数変化量Δfを与えた場合に、この光強度の次数変化量ΔNを求めることで、式(9)は、次式(14)と書け、Δf、ΔN、nを測定することで、共振器の絶対長Lを求めることができる。
【0068】
【数10】
【0069】
光路が真空化されている場合には、nを測定する必要は無く、安定な測定ができる。本方式もこの方法によって共振器の絶対長を求めることができる。しかし、共振器長Lを固定した静的な状態でしか実施できない、レーザ周波数を変化させている間に共振器長が熱膨張などによって変化して誤差になるなどの課題がある。
【0070】
方法2:2つの測定用レーザ光を用いる方法
2つの測定用レーザ光をそれぞれ異なる共振周波数へ同時にロックさせ、その際の2つのレーザ光の周波数差を求める周波数差検出手段を用いることで、共振器の絶対長を求めることができる。この周波数差検出手段を用いれば、2つのレーザ光を同時にロックさせている間、共振器の絶対長を常に測定することができ、方法1のように共振器を固定しておく必要は必ずしも無い。
2つの測定用レーザ光の周波数差は、個々の測定用レーザ光を基準レーザ光とビート測定しているため(図5)、得られる2つのビート周波数から求めることができる。測定用レーザ光1および測定用レーザ光2について、それぞれ基準レーザ光とのビート周波数f1beat、f2beatを測定する。この際に、測定用レーザ光1と測定用レーザ光2との周波数差fdは、一例として次式(15)によって求めることができる(図10参照)。
【0071】
【数11】
【0072】
ただし、測定用レーザ光1の周波数をf1、測定用レーザ光2の周波数をf2 、基準レーザ光の周波数をfrとする。f1,f2 > fr 以外の場合についても同様に求めることができる。
測定用レーザ光1と測定用レーザ光2と、基準レーザ光との周波数の大小は、測定用レーザ光1や測定用レーザ光2の周波数を変化させた場合のビート周波数の変化方向から判断できる。この測定では、基準レーザ光の周波数は相殺するため、基準レーザ光の周波数安定度の影響は問題になりにくい。
【0073】
この他、図11に示すように、2つの測定用レーザ光同士のビート計測を直接行ない、2つの測定用レーザ光間の周波数差を求めることもできる。この場合には、ビート周波数を検出するための検出系が新たに必要になるが(システム構成は図示略)、基準レーザ光を介す必要はないため、より簡便な処理法で実施できる。
【0074】
次に、2つの測定用レーザの周波数差から、共振器長Lを求める方法を示す。2つの測定用レーザ光を、共振器12の異なる共振周波数にそれぞれロックした場合、適当な数mとlとを用いて、2つのレーザ周波数は次式(16)、(17)のように書ける。
【0075】
【数12】
【0076】
ここで、簡単のため屈折率に関しては同じとしている。両者の差を取ると、共振器長Lは次式(18)と求められる。
【0077】
【数13】
【0078】
ここで、lは共振器長Lの概略値と周波数差 f2 − f1 から容易に推定することができる。特に l = 1 の場合は、隣同士の共振周波数にロックすることを意味しており次式(19)と書ける。
【0079】
【数14】
【0080】
光路を真空化する場合、空気屈折率nの影響が無くなり、空気屈折率nの測定が不要であることや、レーザ周波数差による空気屈折率nの差などが無視できるようになり、高精度測定には有利である。
【0081】
<実施形態の効果>
従来のサブナノメートル精度の測定法と比較して、測定精度の改善と測定範囲の拡大の両立ができる。
(1)測定精度の改善
測定用レーザ光の波長可変幅が小さくても測定可能となるので、レーザ光源のビームの指向安定性の影響が改善される、光学部品の分散の影響が改善される、などの点から測定精度が改善できる。必要に応じて測定用光路を真空化することで、空気屈折率の影響を受けず、高精度な測定が可能となる。さらに、測長を行なう上では、共振器の絶対長を求める必要があるが、これは2つの測定用レーザ光によって高精度かつリアルタイムで測定できる。
【0082】
(2)測定範囲の拡大
測定用レーザ光の波長可変幅や、測定用レーザ光に対する周波数測定範囲などによって測定範囲が制限されにくくなり、ファブリ−ペロー共振器の共振器長可変範囲限界まで測定範囲を拡大することができる。測定用レーザ光の波長可変量を低減できるため、測定用レーザ光は必ずしも大きな波長可変量を持つ必要は無く、レーザの選定やシステム設計の自由度が増す。また、測定用レーザ光の波長可変量を低減できることで、測定用レーザ光と基準レーザ光とのビート計測における周波数差が少なくなる。このため、測定用レーザ光の周波数測定のための光学系や電気系の設計がより簡単になる。この他、光学部品類のコーティングはより簡単になる。これらのことは、装置の低コスト化にも有利である。
【0083】
<変形例>
測定用レーザ光の結合および分離について、上述の例では、ファラデーローテータ(FR)44、45を用いた構成を示したが、図12のように、共振器と共振器の手前のPBSとの間にλ/4板(1/4波長板)47を配置する構成によっても実現できる。この構成では、λ/4板47の不完全性による影響、測定用レーザ光源10、11への戻り光などが生じる点では不利になる可能性があるが、ファラデーローテータを使用しない点でより安価となる。
【0084】
また、前記実施形態では、図8のように、レーザ1の周波数を共振周波数にロックする際、レーザ2のロック周波数とは異なる共振周波数(f3)にロックすると説明をした。本発明ではこれに限られず、レーザ2のロック周波数と同じ共振周波数(f2)にロックしてもよい。例えば、図13のように、複数のレーザ光源の周波数を、それぞれ同一の共振周波数にロックする場合と、それぞれ異なる共振周波数にロックする場合とを組み合わせて、測長を行うことができる。図13に示す動作では、第1光源(レーザ1)と第2光源(レーザ2)が、異なる周波数可変範囲を有し、一部の周波数可変範囲は重複しているとする。
まず、図中のゾーン1で、レーザ1を共振周波数f1にロックして測長を進める。ゾーン2で、レーザ1と同一の共振周波数f1にレーザ2をロックして、2台の光源で測長を行う。そして、ゾーン3では、レーザ1をアンロックにしてレーザ2だけで測長を進める。ここで、レーザ1の周波数をその周波数可変範囲に存在する別の共振周波数f4にロックする。ゾーン4では、2台の光源で測長を進める。このようなゾーン1からゾーン4の動作を繰り返すことによって、1台の光源での測長範囲よりも、2台の光源での測長範囲を広げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
高精度変位測定装置や高精度変位校正装置に適用できる。すなわち、固体スケールやレーザ干渉計をはじめとする各種測長機器の高精度評価(ノイズ、非線形性、繰り返し性など)や校正などに使用することができる。この他、ピエゾ素子を始めとする微小変位発生デバイスの評価などにも使用できる。
【符号の説明】
【0086】
10、11 測定用レーザ光源
28 固定側の反射面
30 可動側の反射面
12 共振器
18、19 光検出器
20 波長制御手段
44、45 ファラデーローテータ(FR)
50 周波数検出手段
54、55 光検出器(ビート周波数検出器)
62 第1ロック手段
64 第2ロック手段
100 測長システム(変位測定装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の波長可変幅を有する測定用レーザ光源と、
固定側の反射面および可動側の反射面を有し、該一対の反射面間で前記測定用レーザ光源からの測定用レーザ光を共振させて、両反射面の間隔長で定まる共振周波数のレーザ光を出力する共振器と、
前記共振器からのレーザ光出力を検出する光検出器と、
前記光検出器の値に基づき、前記共振器の可動側反射面の変位量に追従するように測定用レーザ光源の波長を変化させて、該測定用レーザ光の周波数を前記共振器の共振周波数に合わせてロック状態にする波長制御手段と、
前記波長制御手段により制御された測定用レーザ光の周波数の変化量を検出する周波数検出手段と、
を備え、前記周波数検出手段の検出値に基づいて共振器の可動側反射面の変位量を取得する変位測定装置であって、
前記測定用レーザ光源は、それぞれ一定の波長可変幅を有する複数の測定用レーザ光源からなり、それぞれ前記共振器に向けて測定用レーザ光を発振し、
前記波長制御手段は、
前記間隔長に対して複数存在する共振周波数の中から1つの共振周波数にいずれかの測定用レーザ光源の周波数をロックする第1ロック手段と、
この第1ロック手段でロック中の測定用レーザ光源の波長可変幅内で、ロック状態が解除されている他の測定用レーザ光源の周波数を、第1ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数にロックする第2ロック手段と、を含み、
1つの測定用レーザ光源の波長可変幅で測定可能な前記可動側反射面の変位範囲よりも広い変位量の測定可能範囲を有することを特徴とする変位測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の変位測定装置において、前記周波数検出手段は、
前記第1ロック手段は、前記第2ロック手段でのロック後に、該第1ロック手段でのロックを解除するとともに、第2ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数に再ロックし、
前記第2ロック手段は、前記第1ロック手段での再ロック後、該第2ロック手段でのロックを解除するように構成されることを特徴とする変位測定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の変位測定装置において、
前記周波数検出手段は、周波数が安定化されたレーザ光を発振する基準レーザ光源と、該基準用レーザ光と前記測定用レーザ光とのビート周波数を検出するビート周波数検出器と、を有し、前記基準レーザ光の波長とのビート周波数の変化量から前記測定用レーザ光の周波数の変化量を取得することを特徴とする変位測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の変位測定装置において、測定用レーザ光の導光路にはファラデーローテータを用いたサーキュレータが配置されており、前記サーキュレータは、共振器へ入出力する2つの測定用レーザ光の光路を結合および分離することを特徴とする変位測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の変位測定装置において、
2つの測定用レーザ光の周波数差を検出して、該周波数差から前記共振器の間隔長を取得する周波数差検出手段を備えることを特徴とする変位測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の変位測定装置において、前記共振器は、両反射鏡間の光路を真空に保つ真空部を有することを特徴とする変位測定装置。
【請求項1】
一定の波長可変幅を有する測定用レーザ光源と、
固定側の反射面および可動側の反射面を有し、該一対の反射面間で前記測定用レーザ光源からの測定用レーザ光を共振させて、両反射面の間隔長で定まる共振周波数のレーザ光を出力する共振器と、
前記共振器からのレーザ光出力を検出する光検出器と、
前記光検出器の値に基づき、前記共振器の可動側反射面の変位量に追従するように測定用レーザ光源の波長を変化させて、該測定用レーザ光の周波数を前記共振器の共振周波数に合わせてロック状態にする波長制御手段と、
前記波長制御手段により制御された測定用レーザ光の周波数の変化量を検出する周波数検出手段と、
を備え、前記周波数検出手段の検出値に基づいて共振器の可動側反射面の変位量を取得する変位測定装置であって、
前記測定用レーザ光源は、それぞれ一定の波長可変幅を有する複数の測定用レーザ光源からなり、それぞれ前記共振器に向けて測定用レーザ光を発振し、
前記波長制御手段は、
前記間隔長に対して複数存在する共振周波数の中から1つの共振周波数にいずれかの測定用レーザ光源の周波数をロックする第1ロック手段と、
この第1ロック手段でロック中の測定用レーザ光源の波長可変幅内で、ロック状態が解除されている他の測定用レーザ光源の周波数を、第1ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数にロックする第2ロック手段と、を含み、
1つの測定用レーザ光源の波長可変幅で測定可能な前記可動側反射面の変位範囲よりも広い変位量の測定可能範囲を有することを特徴とする変位測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の変位測定装置において、前記周波数検出手段は、
前記第1ロック手段は、前記第2ロック手段でのロック後に、該第1ロック手段でのロックを解除するとともに、第2ロック手段でロックされた共振周波数よりも大きいまたは小さい別の共振周波数に再ロックし、
前記第2ロック手段は、前記第1ロック手段での再ロック後、該第2ロック手段でのロックを解除するように構成されることを特徴とする変位測定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の変位測定装置において、
前記周波数検出手段は、周波数が安定化されたレーザ光を発振する基準レーザ光源と、該基準用レーザ光と前記測定用レーザ光とのビート周波数を検出するビート周波数検出器と、を有し、前記基準レーザ光の波長とのビート周波数の変化量から前記測定用レーザ光の周波数の変化量を取得することを特徴とする変位測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の変位測定装置において、測定用レーザ光の導光路にはファラデーローテータを用いたサーキュレータが配置されており、前記サーキュレータは、共振器へ入出力する2つの測定用レーザ光の光路を結合および分離することを特徴とする変位測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の変位測定装置において、
2つの測定用レーザ光の周波数差を検出して、該周波数差から前記共振器の間隔長を取得する周波数差検出手段を備えることを特徴とする変位測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の変位測定装置において、前記共振器は、両反射鏡間の光路を真空に保つ真空部を有することを特徴とする変位測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−88274(P2012−88274A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237438(P2010−237438)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】
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