変形解析モデルを作成する装置と方法
【課題】 変形解析時の計算負荷が小さい変形解析モデルを実現する。
【解決手段】 本発明は、基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する装置に具現化される。この装置は、主に、流動解析手段と第1節点移動手段と節点結合手段を備えている。流動解析手段は、基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する。第1節点移動手段は、流動解析手段によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる。節点結合手段は、表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する。
【解決手段】 本発明は、基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する装置に具現化される。この装置は、主に、流動解析手段と第1節点移動手段と節点結合手段を備えている。流動解析手段は、基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する。第1節点移動手段は、流動解析手段によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる。節点結合手段は、表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形解析モデルを作成する技術に関する。特に、基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、基材層(コア層)と表皮層(スキン層)の二層構造を有する射出成形品の射出成形プロセスを解析する技術が開示されている。この技術では、基材層と表皮層のそれぞれを複数層のシェルメッシュで表現し、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層や表皮層の充填領域を算出している。この技術によれば、三次元のソリッドモデルを用いる必要がないので、成形型内の流動解析を比較的に簡単に行うことができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−6219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出成形品の成形条件を検証する際には、上記した成形型内の流動解析に加えて、射出成形品の射出成形プロセス後における収縮や反りをシミュレートする変形解析を行う必要がある。射出成形品の変形解析を行う場合、流動解析で用いたシェルメッシュをそのまま用いても、正確な変形解析を行うことは難しい。その一方において、流動解析で判明した射出成形品の二層構造を厳密に考慮したソリッドモデルを用いると、計算負荷が極めて大きくなってしまう。
本発明は、上記の課題を解決する。即ち、本発明は、必要とされる計算負荷を抑制しつつ、射出成形品の成形後における変形解析を正確に行うことを可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する装置に具現化される。この装置は、主に、流動解析手段と第1節点移動手段と節点結合手段を備えている。流動解析手段は、基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する。第1節点移動手段は、流動解析手段によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる。節点結合手段は、流動解析手段によって移動された表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する。
【0006】
この装置で作成される変形解析モデルは、シェルメッシュで構成されている。そのことから、この変形解析モデルを用いると、射出成形品の変形解析を比較的に小さな計算負荷で行うことができる。ここで、作成された変形解析モデルでは、流動解析の結果に応じてメッシュ節点が変位されており、表皮層や基材層の板厚分布が正しく再現されている。そのことから、射出成形品の変形解析を正確に行うことができる。シェルメッシュで作成された変形解析モデルであれば、ソリッドモデルで作成された変形解析モデルと比較して、変形解析時の計算負荷を顕著に低減することができる。
【0007】
上記した装置では、第1節点移動手段によるメッシュ節点の移動量δと、流動解析手段によって算出された表皮層の板厚tuと、表皮層の板厚の設計値tu0との間に、表皮層から基材層への向き正として、δ=tu/2−tu0/2の関係が成立することが好ましい。
上記の条件を満たす構成であると、流動解析で得られた表皮層や基材層の板厚分布を、変形解析モデルに忠実に反映させることができる。
【0008】
本発明に係る上記の装置は、重心算出手段と第2節点移動手段をさらに備えることが好ましい。この場合、重心算出手段は、流動解析手段によって算出された表皮層及び基材層の板厚を用い、表皮層と基材層の全体の板厚方向における重心位置を算出するものであり、第2節点移動手段は、重心算出手段によって算出された重心位置の設計値に対する偏差に応じて、基材層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させるものであることが好ましい。
この構成によると、表皮層と基材層を構成する各材料の密度(比重)の差を、変形解析モデルに反映させることができる。即ち、表皮層と基材層を構成する各材料の密度が大きく異なる場合でも、射出成形品を正確に表現する変形解析モデルを作成することができる。
【0009】
上記した装置では、第2節点移動手段によるメッシュ節点の移動量γと、重心算出手段によって算出された重心位置xと、当該重心位置の設計値x0との間に、表皮層から基材層への向き正として、γ=x0−xの関係が成立することが好ましい。
上記の条件を満たす構成であると、表皮層と基材層を構成する各材料の密度の差を、変形解析モデルに忠実に反映させることができる。
【0010】
本発明により、基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する方法が提供される。この方法は、基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する流動解析工程を備える。この方法はまた、流動解析工程によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる第1節点移動工程を備える。この方法はさらに、流動解析工程によって移動された表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する節点結合工程を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、射出成形品の成形条件を検証する作業を正確かつ短時間で行うことが可能となり、射出成形品の開発コストや開発期間を圧縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施する好適な実施形態を列記する。
(形態1) 変形解析モデルを作成する装置は、コンピュータを用いて構成することが好ましい。
(形態2) 変形解析モデルを作成する装置は、基材層のシェルメッシュを記述するデータと、表皮層のシェルメッシュを記述するデータを記憶する手段を備えることが好ましい。
【実施例】
【0013】
本発明を実施した実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施例の変形解析モデル作成装置10(以下、単にモデル作成装置10と記す)の構成を示すブロック図である。図2は、モデル作成装置10が実行する動作の流れを示すフローチャートである。ここで、モデル作成装置10は、汎用のコンピュータと、そのコンピュータにインストールされたプログラムによって構成されている。
モデル作成装置10は、射出成形品100の変形解析モデル101を作成する装置である(図9参照)。モデル作成装置10で作成した変形解析モデル101は、射出成形品100の射出成形プロセス後における収縮や反りをシミュレートする変形解析に用いられる。この変形解析により、射出成形品100の射出成形プロセス後における変形が推定され、金型形状、材料温度、射出圧力といった射出成形プロセスの各種条件が検証される。
【0014】
モデル作成装置10の構成及び動作を説明するに先立ち、図10、図11を参照して、モデル作成装置10で取り扱う射出成形品100について説明しておく。
図10に、モデル作成装置10で取り扱う射出成形品100を例示する。図11に示すように、モデル作成装置10では、主に、基材層102と表皮層106の二層構造を有する射出成形品100を取り扱う。ここで、図中の寸法tL0は、基材層102の設計寸法を示しており、図中の寸法tU0は、表皮層106の設計寸法を示している。また、図中の点G0は、基材層102と表皮層106の全体の板厚方向(図中上下方向)における設計上の重心を示しており、図中の寸法x0は、基材層102の下面102aから重心G0までの距離(重心位置)を示している。この重心位置x0は、基材層102及び表皮層106の各板厚tL0、tU0と各密度ρL・ρUを用い、下記式によって計算することができる。
x0=(2・ρL・tL0+ρU・tL0+ρL・tU0)/(ρL+ρU)
【0015】
図11は、射出成形品100の射出成形プロセスを模式的に示している。射出成形品100の射出成形プロセスでは、図11(a)に示す第1射出工程と、図11(b)に示す第2射出工程が実施される。第1射出工程では、下型112及び上型114からなる成形型110内に、基材層102を形成する樹脂材料が充填される。次いで、第2射出工程では、成形型110の上型114を変更した上で、成形型110内に表皮層106を形成する樹脂材料が充填される。ここで、基材層102を形成する樹脂材料と、表皮層106を形成する樹脂材料は、互いに異なる種類の樹脂材料であり、その密度(比重)も互いに異なる。第1射出工程で成形された基材層102は、第2射出工程の段階で未硬化の状態となっているので、第2射出工程においてその板厚が変化する。その結果、図11(c)に示すように、実際の射出成形品100では、基材層102の板厚tL及び表皮層106の板厚tUが、面方向において変化することとなり、それぞれの設計値tL0、tU0に対して偏差を持つことになる。
【0016】
射出成形品100の変形解析を正確に行うためには、このような板厚tL、tUの分布を正しく表現する変形解析モデル101を作成する必要がある。例えば変形解析モデル101をソリッドモデル(三次元モデル)で作成すれば、変形解析モデル101に板厚tL、tUの分布を正確に表現することができる。しかしながら、変形解析モデル101をソリッドモデルで作成すると、変形解析時における計算負荷は極めて大きくなってしまう。この問題に対して、本実施例のモデル作成装置10では、詳しくは後述するように、射出成形品100の板厚分布を表現する変形解析モデル101を、シェルメッシュ(二次元モデル)によって作成することができる。そのことから、変形解析時の計算負荷を顕著に低減することを可能とする。
【0017】
次に、図1を参照して、モデル作成装置10の構成について説明する。図1に示すように、モデル作成装置10は、機能的に、データ記憶部20と、データ処理部30を備えている。データ記憶部20及びデータ処理部30は、コンピュータの記憶装置や中央処理装置(CPU)といったハードウエアと、記憶装置に記憶されている各種のソフトウエアによって構成されている。
【0018】
データ記憶部20は、データ処理部30が用いる各種のデータを記憶する。データ記憶部20は、例えば、基材層シェルメッシュデータ22と、表皮層シェルメッシュデータ24を記憶することができる。基材層シェルメッシュデータ22は、射出成形品100の基材層102を表現する基材層シェルメッシュ104(例えば図3参照)を記述するデータである。表皮層シェルメッシュデータ24は、射出成形品100の表皮層106を表現する表皮層シェルメッシュ108(例えば図4参照)を記述するデータである。基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24は、外部のメッシュ作成装置によって作成され、作業者によってモデル作成装置10に入力される。データ記憶部20に記憶された基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24は、データ処理部30による変形解析モデル101の作成処理に用いられる。
データ記憶部20は、さらに、変形解析モデルデータ28を記憶することができる。変形解析モデルデータ28は、データ処理部30によって作成された変形解析モデル101を記述するデータである。変形解析モデルデータ28は、データ処理部30によって作成され、データ記憶部20に記憶される。
【0019】
データ処理部30は、機能的に、流動解析部32と、第1節点移動部34と、重心算出部36と、第2節点移動部38と、節点結合部40を備えている。データ処理部30の各部の機能については、後段において図2のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。ここでは、各部の機能を詳細に説明するのに先立ち、各部の機能についてその概要を説明しておく。
流動解析部32は、図3、図4、図5に示すように、基材層シェルメッシュ104と表皮層シェルメッシュ108を用い、射出成形プロセス時における成形型110内の流動解析を実行して、基材層102と表皮層106の各位置における板厚tL、tU(板厚分布)を算出することができる。
第1節点移動部34は、図6に示すように、流動解析部32によって算出された表皮層106の板厚tUの設計値tU0に対する偏差に応じて、表皮層シェルメッシュ108の各メッシュ節点108aを板厚方向に移動させることができる。
【0020】
重心算出部36は、図7に示すように、流動解析部32によって算出された基材層102及び表皮層106の板厚tL、tUを用い、基材層102と表皮層106の全体の板厚方向における重心位置xを算出することができる。また、重心算出部36は、算出した重心位置xの設計値x0に対する偏差γを算出することができる。ここで、重心位置x、x0は、基材層102の下面102aから重心G、G0までの距離を示す。
第2節点移動部38は、図8に示すように、重心算出部36によって算出された重心位置xの設計値x0に対する偏差γに応じて、基材層シェルメッシュ104の各メッシュ節点104aを板厚方向に移動させることができる。
節点結合部40は、図9に示すように、表皮層シェルメッシュ108の各メッシュ節点108aを、板厚方向に隣接する基材層シェルメッシュ104のメッシュ節点104aに結合することができる。この節点結合部40による結合処理の結果、射出成形品100の変形解析モデル101が作成される。
【0021】
次に、図2に示すフローチャートに沿って、モデル作成装置10が変形解析モデル101を作成する際に実行する処理を詳細に説明していく。
先ず、図2のステップS2では、モデル作成装置10に、基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24を入力する。入力する基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24は、射出成形品100の形状(厳密には、成形型110のキャビティの形状)に基づいて、例えば外部のメッシュ作成装置を用いて作成すればよい。ここで、基材層102と表皮層106の二次元形状が同一である場合は、基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24は共通化することもできる。
【0022】
次に、ステップS4では、図3に示すように、基材層102の射出成形を行う第1射出工程の流動解析が実行される。この第1射出工程の流動解析は、データ処理部30の流動解析部32によって行われる。流動解析部32は、基材層シェルメッシュデータ22に記述された基材層シェルメッシュ104を用い、予め設定された解析条件に基づいて、成形型110内の流動解析を実行する。ここで、基材層シェルメッシュ104は、基材層102の板厚方向中央に配置されている。
次に、ステップS6では、図4に示すように、表皮層106の射出成形を行う第2射出工程の流動解析が実行される。この第1射出工程の流動解析についても、流動解析部32によって行われる。流動解析部32は、基材層シェルメッシュデータ22に記述された基材層シェルメッシュ104と、表皮層シェルメッシュデータ24に記述された表皮層シェルメッシュ108を用い、予め設定された解析条件に基づいて、成形型110内の流動解析を実行する。このとき、表皮層シェルメッシュ108は、表皮層106の板厚方向中央に配置されている。この流動解析により、基材層102及び表皮層106の各位置における板厚tL、tU(板厚分布)が算出される(図5参照)。なお、基材層102及び表皮層106の板厚tL、tUは、熱及び剛性の釣り合いによって算出される。
【0023】
次に、ステップS8では、図6に示すように、表皮層シェルメッシュ108のメッシュ節点108aを、板厚方向に移動させるオフセット処理が実行される。このオフセット処理は、データ処理部30の第1節点移動部34によって行われる。先にも説明したように、第1節点移動部34は、表皮層シェルメッシュ108の各メッシュ節点108aを、表皮層106の板厚tUの設計値tU0に対する偏差に応じて、板厚方向に移動させる。このとき、本実施例では、各メッシュ節点108aが表皮層106の板厚方向中央に維持されるように、各メッシュ節点108aの移動量δを下記式によって定める。
δ=tU/2−tU0/2
ここで、上記式の移動量δは、表皮層106から基材層102への向き正としている。即ち、算出された板厚tUが設計値tU0よりも大きい範囲では、メッシュ節点108aが基材層シェルメッシュ104に向けて(図内の下方に)移動され、算出された板厚tUが設計値tU0よりも小さい範囲では、その逆向き(図内の上方に)に移動される。なお、偏差tU−tU0に対するメッシュ節点108aの移動量δの関係は、上記した関係のみに限定されず、経験等に基づいて適宜調整することができる。このステップS8の処理により、基材層102及び表皮層106の実際の板厚tL、tUが考慮される。
【0024】
次に、ステップS10では、図7に示すように、基材層102と表皮層106の全体の板厚方向における重心位置xが算出される。この算出処理は、データ処理部30の重心算出部36によって行われる。また、重心算出部36は、算出した重心位置xを用いて、その設計値x0に対する偏差γを算出する。ここで、重心位置xは、基材層102及び表皮層106の各板厚tL、tUと各密度ρL、ρUを用いて、下記式によって算出することができる。
x=(2・ρL・tL+ρU・tL+ρL・tU)/(ρL+ρU)
なお、基材層102及び表皮層106の各板厚tL、tUが面方向において変動することから、重心位置x及びその偏差γについても面方向において変動する。従って、このステップS10では、面方向の各位置について重心位置x及びその偏差γが算出される。即ち、重心位置x及びその偏差γの分布が計算される。
【0025】
次に、ステップS12では、図8に示すように、基材層シェルメッシュ104のメッシュ節点104aを、板厚方向に移動させるオフセット処理が実行される。このオフセット処理は、データ処理部30の第2節点移動部38によって行われる。第2節点移動部38は、先にも説明したように、基材層シェルメッシュ104の各メッシュ節点104aを、重心位置xの設計値x0に対する偏差γに応じて、板厚方向に移動させる。詳しくは、基材層102から表皮層106への向き正として、各メッシュ節点108aを、その位置における偏差γ=x−x0だけ移動させる。即ち、算出された重心位置xが設計値x0よりも大きい(表皮層106側に位置する)範囲では、メッシュ節点104aが表皮層シェルメッシュ108に向けて(図内の上方に)移動され、算出された重心位置xが設計値x0よりも小さい(基材層102側に位置する)範囲では、その逆向き(図内の下方に)に移動される。このステップS12の処理により、基材層102及び表皮層106の重心位置xが考慮され、基材層102及び表皮層106の密度ρL、ρUの差が反映される。
【0026】
次に、ステップS14では、図9に示すように、基材層シェルメッシュ104と表皮層シェルメッシュ108を互いに結合する処理が実行される。この結合処理は、データ処理部30の節点結合部40によって行われる。節点結合部40は、表皮層シェルメッシュ108の各メッシュ節点108aを、板厚方向に隣接する基材層シェルメッシュ104のメッシュ節点104aに結合し、両シェルメッシュ104、106を一体化する。それにより、射出成形品100の変形解析モデル101が完成する。メッシュ節点104a、108aを互いに結合する結合要素(結合条件)109には、適宜、剛性要素、弾性要素、粘弾性要素等を用いることができる。
最後に、ステップS16では、作成された変形解析モデル101がデータ化され、変形解析モデルデータ28がデータ記憶部20に記憶される。データ記憶部20に記憶された変形解析モデル101は、図示しないデータ出力装置(例えば記録メディアドライブ装置)を用いて、適宜出力させることができる。
【0027】
以上のように、本実施例のモデル作成装置10では、二層構造を有する射出成形品100の変形解析モデル101を、二次元のシェルメッシュ104、108を用いて作成することができる。変形解析モデル101がシェルメッシュ104、108の集合で構成されていることから、それを用いた変形解析の計算負荷は比較的に小さく、短時間で行うことができる。
また、モデル作成装置10で作成される変形解析モデル101では、基材層102及び表皮層106の実際の板厚tL、tUに応じて、表皮層シェルメッシュ108のシェル節点108aが板厚方向にオフセットされている。それにより、変形解析モデル101では、基材層102及び表皮層106の実際の板厚tL、tUが考慮されており、射出成形品100の変形解析を正確に実行することが可能となっている。
さらに、モデル作成装置10で作成される変形解析モデル101では、基材層102及び表皮層106の全体の重心位置xに応じて、基材層シェルメッシュ104のシェル節点104aが板厚方向にオフセットされている。それにより、変形解析モデル101では、基材層102及び表皮層106の密度ρL、ρUの差が考慮されており、射出成形品100の変形解析をさらに正確に実行することが可能となっている。
【0028】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、第1移動節点移動部34によるオフセット処理(ステップS8)では、表皮層シェルメッシュ108のメッシュ節点108aだけでなく、基材層シェルメッシュ104のメッシュ節点104aをさらに移動させてもよい。
また、第2節点移動部38によるオフセット処理(ステップS12)は、必ずしも必要でなく、例えば基材層102と表皮層106の密度ρL、ρUの差が無視できる場合には、省略することもできる。
【0029】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】変形解析モデル作成装置の構成を示すブロック図。
【図2】変形解析モデルを作成する処理の流れを示すフローチャート。
【図3】第1射出工程の流動解析を模式的に示す図。
【図4】第2射出工程の流動解析を模式的に示す図。
【図5】流動解析が完了した状態を示す図。
【図6】表皮層シェルメッシュのオフセット処理を模式的に示す図。
【図7】重心位置の算出処理を模式的に示す図。
【図8】基材層シェルメッシュのオフセット処理を模式的に示す図。
【図9】変形解析モデルを模式的に示す図。
【図10】変形解析モデルを作成する対象となる射出成形品の一例を示す図。
【図11】図1に例示する射出成形品の射出成形プロセスを模式的に示す図。
【符号の説明】
【0031】
10:モデル作成装置
20:データ記憶部
22:基材層シェルメッシュデータ
24:表皮層シェルメッシュデータ
28:変形解析モデルデータ
30:データ処理部
32:流動解析部
34:第1節点移動部
36:重心算出部
38:第2節点移動部
40:節点結合部
100:射出成形品
101:変形解析モデル
102:基材層
104:基材層シェルメッシュ
104a:基材層シェルメッシュのメッシュ節点
106:表皮層
108:表皮層シェルメッシュ
108a:表皮層シェルメッシュのメッシュ節点
110:成形型
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形解析モデルを作成する技術に関する。特に、基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、基材層(コア層)と表皮層(スキン層)の二層構造を有する射出成形品の射出成形プロセスを解析する技術が開示されている。この技術では、基材層と表皮層のそれぞれを複数層のシェルメッシュで表現し、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層や表皮層の充填領域を算出している。この技術によれば、三次元のソリッドモデルを用いる必要がないので、成形型内の流動解析を比較的に簡単に行うことができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−6219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出成形品の成形条件を検証する際には、上記した成形型内の流動解析に加えて、射出成形品の射出成形プロセス後における収縮や反りをシミュレートする変形解析を行う必要がある。射出成形品の変形解析を行う場合、流動解析で用いたシェルメッシュをそのまま用いても、正確な変形解析を行うことは難しい。その一方において、流動解析で判明した射出成形品の二層構造を厳密に考慮したソリッドモデルを用いると、計算負荷が極めて大きくなってしまう。
本発明は、上記の課題を解決する。即ち、本発明は、必要とされる計算負荷を抑制しつつ、射出成形品の成形後における変形解析を正確に行うことを可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する装置に具現化される。この装置は、主に、流動解析手段と第1節点移動手段と節点結合手段を備えている。流動解析手段は、基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する。第1節点移動手段は、流動解析手段によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる。節点結合手段は、流動解析手段によって移動された表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する。
【0006】
この装置で作成される変形解析モデルは、シェルメッシュで構成されている。そのことから、この変形解析モデルを用いると、射出成形品の変形解析を比較的に小さな計算負荷で行うことができる。ここで、作成された変形解析モデルでは、流動解析の結果に応じてメッシュ節点が変位されており、表皮層や基材層の板厚分布が正しく再現されている。そのことから、射出成形品の変形解析を正確に行うことができる。シェルメッシュで作成された変形解析モデルであれば、ソリッドモデルで作成された変形解析モデルと比較して、変形解析時の計算負荷を顕著に低減することができる。
【0007】
上記した装置では、第1節点移動手段によるメッシュ節点の移動量δと、流動解析手段によって算出された表皮層の板厚tuと、表皮層の板厚の設計値tu0との間に、表皮層から基材層への向き正として、δ=tu/2−tu0/2の関係が成立することが好ましい。
上記の条件を満たす構成であると、流動解析で得られた表皮層や基材層の板厚分布を、変形解析モデルに忠実に反映させることができる。
【0008】
本発明に係る上記の装置は、重心算出手段と第2節点移動手段をさらに備えることが好ましい。この場合、重心算出手段は、流動解析手段によって算出された表皮層及び基材層の板厚を用い、表皮層と基材層の全体の板厚方向における重心位置を算出するものであり、第2節点移動手段は、重心算出手段によって算出された重心位置の設計値に対する偏差に応じて、基材層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させるものであることが好ましい。
この構成によると、表皮層と基材層を構成する各材料の密度(比重)の差を、変形解析モデルに反映させることができる。即ち、表皮層と基材層を構成する各材料の密度が大きく異なる場合でも、射出成形品を正確に表現する変形解析モデルを作成することができる。
【0009】
上記した装置では、第2節点移動手段によるメッシュ節点の移動量γと、重心算出手段によって算出された重心位置xと、当該重心位置の設計値x0との間に、表皮層から基材層への向き正として、γ=x0−xの関係が成立することが好ましい。
上記の条件を満たす構成であると、表皮層と基材層を構成する各材料の密度の差を、変形解析モデルに忠実に反映させることができる。
【0010】
本発明により、基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する方法が提供される。この方法は、基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する流動解析工程を備える。この方法はまた、流動解析工程によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる第1節点移動工程を備える。この方法はさらに、流動解析工程によって移動された表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する節点結合工程を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、射出成形品の成形条件を検証する作業を正確かつ短時間で行うことが可能となり、射出成形品の開発コストや開発期間を圧縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施する好適な実施形態を列記する。
(形態1) 変形解析モデルを作成する装置は、コンピュータを用いて構成することが好ましい。
(形態2) 変形解析モデルを作成する装置は、基材層のシェルメッシュを記述するデータと、表皮層のシェルメッシュを記述するデータを記憶する手段を備えることが好ましい。
【実施例】
【0013】
本発明を実施した実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施例の変形解析モデル作成装置10(以下、単にモデル作成装置10と記す)の構成を示すブロック図である。図2は、モデル作成装置10が実行する動作の流れを示すフローチャートである。ここで、モデル作成装置10は、汎用のコンピュータと、そのコンピュータにインストールされたプログラムによって構成されている。
モデル作成装置10は、射出成形品100の変形解析モデル101を作成する装置である(図9参照)。モデル作成装置10で作成した変形解析モデル101は、射出成形品100の射出成形プロセス後における収縮や反りをシミュレートする変形解析に用いられる。この変形解析により、射出成形品100の射出成形プロセス後における変形が推定され、金型形状、材料温度、射出圧力といった射出成形プロセスの各種条件が検証される。
【0014】
モデル作成装置10の構成及び動作を説明するに先立ち、図10、図11を参照して、モデル作成装置10で取り扱う射出成形品100について説明しておく。
図10に、モデル作成装置10で取り扱う射出成形品100を例示する。図11に示すように、モデル作成装置10では、主に、基材層102と表皮層106の二層構造を有する射出成形品100を取り扱う。ここで、図中の寸法tL0は、基材層102の設計寸法を示しており、図中の寸法tU0は、表皮層106の設計寸法を示している。また、図中の点G0は、基材層102と表皮層106の全体の板厚方向(図中上下方向)における設計上の重心を示しており、図中の寸法x0は、基材層102の下面102aから重心G0までの距離(重心位置)を示している。この重心位置x0は、基材層102及び表皮層106の各板厚tL0、tU0と各密度ρL・ρUを用い、下記式によって計算することができる。
x0=(2・ρL・tL0+ρU・tL0+ρL・tU0)/(ρL+ρU)
【0015】
図11は、射出成形品100の射出成形プロセスを模式的に示している。射出成形品100の射出成形プロセスでは、図11(a)に示す第1射出工程と、図11(b)に示す第2射出工程が実施される。第1射出工程では、下型112及び上型114からなる成形型110内に、基材層102を形成する樹脂材料が充填される。次いで、第2射出工程では、成形型110の上型114を変更した上で、成形型110内に表皮層106を形成する樹脂材料が充填される。ここで、基材層102を形成する樹脂材料と、表皮層106を形成する樹脂材料は、互いに異なる種類の樹脂材料であり、その密度(比重)も互いに異なる。第1射出工程で成形された基材層102は、第2射出工程の段階で未硬化の状態となっているので、第2射出工程においてその板厚が変化する。その結果、図11(c)に示すように、実際の射出成形品100では、基材層102の板厚tL及び表皮層106の板厚tUが、面方向において変化することとなり、それぞれの設計値tL0、tU0に対して偏差を持つことになる。
【0016】
射出成形品100の変形解析を正確に行うためには、このような板厚tL、tUの分布を正しく表現する変形解析モデル101を作成する必要がある。例えば変形解析モデル101をソリッドモデル(三次元モデル)で作成すれば、変形解析モデル101に板厚tL、tUの分布を正確に表現することができる。しかしながら、変形解析モデル101をソリッドモデルで作成すると、変形解析時における計算負荷は極めて大きくなってしまう。この問題に対して、本実施例のモデル作成装置10では、詳しくは後述するように、射出成形品100の板厚分布を表現する変形解析モデル101を、シェルメッシュ(二次元モデル)によって作成することができる。そのことから、変形解析時の計算負荷を顕著に低減することを可能とする。
【0017】
次に、図1を参照して、モデル作成装置10の構成について説明する。図1に示すように、モデル作成装置10は、機能的に、データ記憶部20と、データ処理部30を備えている。データ記憶部20及びデータ処理部30は、コンピュータの記憶装置や中央処理装置(CPU)といったハードウエアと、記憶装置に記憶されている各種のソフトウエアによって構成されている。
【0018】
データ記憶部20は、データ処理部30が用いる各種のデータを記憶する。データ記憶部20は、例えば、基材層シェルメッシュデータ22と、表皮層シェルメッシュデータ24を記憶することができる。基材層シェルメッシュデータ22は、射出成形品100の基材層102を表現する基材層シェルメッシュ104(例えば図3参照)を記述するデータである。表皮層シェルメッシュデータ24は、射出成形品100の表皮層106を表現する表皮層シェルメッシュ108(例えば図4参照)を記述するデータである。基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24は、外部のメッシュ作成装置によって作成され、作業者によってモデル作成装置10に入力される。データ記憶部20に記憶された基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24は、データ処理部30による変形解析モデル101の作成処理に用いられる。
データ記憶部20は、さらに、変形解析モデルデータ28を記憶することができる。変形解析モデルデータ28は、データ処理部30によって作成された変形解析モデル101を記述するデータである。変形解析モデルデータ28は、データ処理部30によって作成され、データ記憶部20に記憶される。
【0019】
データ処理部30は、機能的に、流動解析部32と、第1節点移動部34と、重心算出部36と、第2節点移動部38と、節点結合部40を備えている。データ処理部30の各部の機能については、後段において図2のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。ここでは、各部の機能を詳細に説明するのに先立ち、各部の機能についてその概要を説明しておく。
流動解析部32は、図3、図4、図5に示すように、基材層シェルメッシュ104と表皮層シェルメッシュ108を用い、射出成形プロセス時における成形型110内の流動解析を実行して、基材層102と表皮層106の各位置における板厚tL、tU(板厚分布)を算出することができる。
第1節点移動部34は、図6に示すように、流動解析部32によって算出された表皮層106の板厚tUの設計値tU0に対する偏差に応じて、表皮層シェルメッシュ108の各メッシュ節点108aを板厚方向に移動させることができる。
【0020】
重心算出部36は、図7に示すように、流動解析部32によって算出された基材層102及び表皮層106の板厚tL、tUを用い、基材層102と表皮層106の全体の板厚方向における重心位置xを算出することができる。また、重心算出部36は、算出した重心位置xの設計値x0に対する偏差γを算出することができる。ここで、重心位置x、x0は、基材層102の下面102aから重心G、G0までの距離を示す。
第2節点移動部38は、図8に示すように、重心算出部36によって算出された重心位置xの設計値x0に対する偏差γに応じて、基材層シェルメッシュ104の各メッシュ節点104aを板厚方向に移動させることができる。
節点結合部40は、図9に示すように、表皮層シェルメッシュ108の各メッシュ節点108aを、板厚方向に隣接する基材層シェルメッシュ104のメッシュ節点104aに結合することができる。この節点結合部40による結合処理の結果、射出成形品100の変形解析モデル101が作成される。
【0021】
次に、図2に示すフローチャートに沿って、モデル作成装置10が変形解析モデル101を作成する際に実行する処理を詳細に説明していく。
先ず、図2のステップS2では、モデル作成装置10に、基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24を入力する。入力する基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24は、射出成形品100の形状(厳密には、成形型110のキャビティの形状)に基づいて、例えば外部のメッシュ作成装置を用いて作成すればよい。ここで、基材層102と表皮層106の二次元形状が同一である場合は、基材層シェルメッシュデータ22及び表皮層シェルメッシュデータ24は共通化することもできる。
【0022】
次に、ステップS4では、図3に示すように、基材層102の射出成形を行う第1射出工程の流動解析が実行される。この第1射出工程の流動解析は、データ処理部30の流動解析部32によって行われる。流動解析部32は、基材層シェルメッシュデータ22に記述された基材層シェルメッシュ104を用い、予め設定された解析条件に基づいて、成形型110内の流動解析を実行する。ここで、基材層シェルメッシュ104は、基材層102の板厚方向中央に配置されている。
次に、ステップS6では、図4に示すように、表皮層106の射出成形を行う第2射出工程の流動解析が実行される。この第1射出工程の流動解析についても、流動解析部32によって行われる。流動解析部32は、基材層シェルメッシュデータ22に記述された基材層シェルメッシュ104と、表皮層シェルメッシュデータ24に記述された表皮層シェルメッシュ108を用い、予め設定された解析条件に基づいて、成形型110内の流動解析を実行する。このとき、表皮層シェルメッシュ108は、表皮層106の板厚方向中央に配置されている。この流動解析により、基材層102及び表皮層106の各位置における板厚tL、tU(板厚分布)が算出される(図5参照)。なお、基材層102及び表皮層106の板厚tL、tUは、熱及び剛性の釣り合いによって算出される。
【0023】
次に、ステップS8では、図6に示すように、表皮層シェルメッシュ108のメッシュ節点108aを、板厚方向に移動させるオフセット処理が実行される。このオフセット処理は、データ処理部30の第1節点移動部34によって行われる。先にも説明したように、第1節点移動部34は、表皮層シェルメッシュ108の各メッシュ節点108aを、表皮層106の板厚tUの設計値tU0に対する偏差に応じて、板厚方向に移動させる。このとき、本実施例では、各メッシュ節点108aが表皮層106の板厚方向中央に維持されるように、各メッシュ節点108aの移動量δを下記式によって定める。
δ=tU/2−tU0/2
ここで、上記式の移動量δは、表皮層106から基材層102への向き正としている。即ち、算出された板厚tUが設計値tU0よりも大きい範囲では、メッシュ節点108aが基材層シェルメッシュ104に向けて(図内の下方に)移動され、算出された板厚tUが設計値tU0よりも小さい範囲では、その逆向き(図内の上方に)に移動される。なお、偏差tU−tU0に対するメッシュ節点108aの移動量δの関係は、上記した関係のみに限定されず、経験等に基づいて適宜調整することができる。このステップS8の処理により、基材層102及び表皮層106の実際の板厚tL、tUが考慮される。
【0024】
次に、ステップS10では、図7に示すように、基材層102と表皮層106の全体の板厚方向における重心位置xが算出される。この算出処理は、データ処理部30の重心算出部36によって行われる。また、重心算出部36は、算出した重心位置xを用いて、その設計値x0に対する偏差γを算出する。ここで、重心位置xは、基材層102及び表皮層106の各板厚tL、tUと各密度ρL、ρUを用いて、下記式によって算出することができる。
x=(2・ρL・tL+ρU・tL+ρL・tU)/(ρL+ρU)
なお、基材層102及び表皮層106の各板厚tL、tUが面方向において変動することから、重心位置x及びその偏差γについても面方向において変動する。従って、このステップS10では、面方向の各位置について重心位置x及びその偏差γが算出される。即ち、重心位置x及びその偏差γの分布が計算される。
【0025】
次に、ステップS12では、図8に示すように、基材層シェルメッシュ104のメッシュ節点104aを、板厚方向に移動させるオフセット処理が実行される。このオフセット処理は、データ処理部30の第2節点移動部38によって行われる。第2節点移動部38は、先にも説明したように、基材層シェルメッシュ104の各メッシュ節点104aを、重心位置xの設計値x0に対する偏差γに応じて、板厚方向に移動させる。詳しくは、基材層102から表皮層106への向き正として、各メッシュ節点108aを、その位置における偏差γ=x−x0だけ移動させる。即ち、算出された重心位置xが設計値x0よりも大きい(表皮層106側に位置する)範囲では、メッシュ節点104aが表皮層シェルメッシュ108に向けて(図内の上方に)移動され、算出された重心位置xが設計値x0よりも小さい(基材層102側に位置する)範囲では、その逆向き(図内の下方に)に移動される。このステップS12の処理により、基材層102及び表皮層106の重心位置xが考慮され、基材層102及び表皮層106の密度ρL、ρUの差が反映される。
【0026】
次に、ステップS14では、図9に示すように、基材層シェルメッシュ104と表皮層シェルメッシュ108を互いに結合する処理が実行される。この結合処理は、データ処理部30の節点結合部40によって行われる。節点結合部40は、表皮層シェルメッシュ108の各メッシュ節点108aを、板厚方向に隣接する基材層シェルメッシュ104のメッシュ節点104aに結合し、両シェルメッシュ104、106を一体化する。それにより、射出成形品100の変形解析モデル101が完成する。メッシュ節点104a、108aを互いに結合する結合要素(結合条件)109には、適宜、剛性要素、弾性要素、粘弾性要素等を用いることができる。
最後に、ステップS16では、作成された変形解析モデル101がデータ化され、変形解析モデルデータ28がデータ記憶部20に記憶される。データ記憶部20に記憶された変形解析モデル101は、図示しないデータ出力装置(例えば記録メディアドライブ装置)を用いて、適宜出力させることができる。
【0027】
以上のように、本実施例のモデル作成装置10では、二層構造を有する射出成形品100の変形解析モデル101を、二次元のシェルメッシュ104、108を用いて作成することができる。変形解析モデル101がシェルメッシュ104、108の集合で構成されていることから、それを用いた変形解析の計算負荷は比較的に小さく、短時間で行うことができる。
また、モデル作成装置10で作成される変形解析モデル101では、基材層102及び表皮層106の実際の板厚tL、tUに応じて、表皮層シェルメッシュ108のシェル節点108aが板厚方向にオフセットされている。それにより、変形解析モデル101では、基材層102及び表皮層106の実際の板厚tL、tUが考慮されており、射出成形品100の変形解析を正確に実行することが可能となっている。
さらに、モデル作成装置10で作成される変形解析モデル101では、基材層102及び表皮層106の全体の重心位置xに応じて、基材層シェルメッシュ104のシェル節点104aが板厚方向にオフセットされている。それにより、変形解析モデル101では、基材層102及び表皮層106の密度ρL、ρUの差が考慮されており、射出成形品100の変形解析をさらに正確に実行することが可能となっている。
【0028】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、第1移動節点移動部34によるオフセット処理(ステップS8)では、表皮層シェルメッシュ108のメッシュ節点108aだけでなく、基材層シェルメッシュ104のメッシュ節点104aをさらに移動させてもよい。
また、第2節点移動部38によるオフセット処理(ステップS12)は、必ずしも必要でなく、例えば基材層102と表皮層106の密度ρL、ρUの差が無視できる場合には、省略することもできる。
【0029】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】変形解析モデル作成装置の構成を示すブロック図。
【図2】変形解析モデルを作成する処理の流れを示すフローチャート。
【図3】第1射出工程の流動解析を模式的に示す図。
【図4】第2射出工程の流動解析を模式的に示す図。
【図5】流動解析が完了した状態を示す図。
【図6】表皮層シェルメッシュのオフセット処理を模式的に示す図。
【図7】重心位置の算出処理を模式的に示す図。
【図8】基材層シェルメッシュのオフセット処理を模式的に示す図。
【図9】変形解析モデルを模式的に示す図。
【図10】変形解析モデルを作成する対象となる射出成形品の一例を示す図。
【図11】図1に例示する射出成形品の射出成形プロセスを模式的に示す図。
【符号の説明】
【0031】
10:モデル作成装置
20:データ記憶部
22:基材層シェルメッシュデータ
24:表皮層シェルメッシュデータ
28:変形解析モデルデータ
30:データ処理部
32:流動解析部
34:第1節点移動部
36:重心算出部
38:第2節点移動部
40:節点結合部
100:射出成形品
101:変形解析モデル
102:基材層
104:基材層シェルメッシュ
104a:基材層シェルメッシュのメッシュ節点
106:表皮層
108:表皮層シェルメッシュ
108a:表皮層シェルメッシュのメッシュ節点
110:成形型
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する装置あり、
基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する流動解析手段と、
流動解析手段によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる第1節点移動手段と、
流動解析手段によって移動された表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する節点結合手段と、
を備える変形解析モデルを作成する装置。
【請求項2】
第1節点移動手段によるメッシュ節点の移動量δと、流動解析手段によって算出された表皮層の板厚tUと、表皮層の板厚の設計値tU0との間には、表皮層から基材層への向き正としたときに、δ=tU/2−tU0/2の関係が成立することを特徴とする請求項1に記載の変形解析モデルを作成する装置。
【請求項3】
流動解析手段によって算出された基材層及び表皮層の板厚を用い、基材層と表皮層の全体の板厚方向における重心位置を算出する重心算出手段と、
重心算出手段によって算出された重心位置の設計値に対する偏差に応じて、基材層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる第2節点移動手段と、
をさらに備える請求項1又は2に記載の変形解析モデルを作成する装置。
【請求項4】
第2節点移動手段によるメッシュ節点の移動量γと、重心算出手段によって算出された重心位置xと、当該重心位置の設計値x0との間には、基材層から表皮層への向き正としたときに、γ=x−x0の関係が成立することを特徴とする請求項3に記載の変形解析モデルを作成する装置。
【請求項5】
基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する方法であり、
基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する流動解析工程と、
流動解析工程によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる第1節点移動工程と、
流動解析工程によって移動された表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する節点結合工程と、
を備える変形解析モデルを作成する方法。
【請求項1】
基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する装置あり、
基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する流動解析手段と、
流動解析手段によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる第1節点移動手段と、
流動解析手段によって移動された表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する節点結合手段と、
を備える変形解析モデルを作成する装置。
【請求項2】
第1節点移動手段によるメッシュ節点の移動量δと、流動解析手段によって算出された表皮層の板厚tUと、表皮層の板厚の設計値tU0との間には、表皮層から基材層への向き正としたときに、δ=tU/2−tU0/2の関係が成立することを特徴とする請求項1に記載の変形解析モデルを作成する装置。
【請求項3】
流動解析手段によって算出された基材層及び表皮層の板厚を用い、基材層と表皮層の全体の板厚方向における重心位置を算出する重心算出手段と、
重心算出手段によって算出された重心位置の設計値に対する偏差に応じて、基材層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる第2節点移動手段と、
をさらに備える請求項1又は2に記載の変形解析モデルを作成する装置。
【請求項4】
第2節点移動手段によるメッシュ節点の移動量γと、重心算出手段によって算出された重心位置xと、当該重心位置の設計値x0との間には、基材層から表皮層への向き正としたときに、γ=x−x0の関係が成立することを特徴とする請求項3に記載の変形解析モデルを作成する装置。
【請求項5】
基材層と表皮層の二層構造を有する射出成形品の変形解析モデルを作成する方法であり、
基材層と表皮層のそれぞれのシェルメッシュを用い、射出成形時における成形型内の流動解析を実行して、基材層と表皮層の板厚分布を算出する流動解析工程と、
流動解析工程によって算出された表皮層の板厚の設計値に対する偏差に応じて、表皮層の各メッシュ節点を板厚方向に移動させる第1節点移動工程と、
流動解析工程によって移動された表皮層の各メッシュ節点を、板厚方向に隣接する基材層のメッシュ節点に結合する節点結合工程と、
を備える変形解析モデルを作成する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−113609(P2010−113609A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286953(P2008−286953)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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