変速伝動装置
【課題】大型化を抑制や回避しやすい変速伝動装置を提供する。
【解決手段】エンジン駆動力を入力する入力軸22と、入力軸22によって駆動される油圧式無段変速機30と、入力軸22の駆動力と油圧式無段変速機30の出力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部40と、走行装置に出力する出力回転体24とを設けてある。遊星伝動部40及び出力回転体24を、油圧式無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に配置してある。入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から遊星伝動部40に駆動力を入力するように構成してある。
【解決手段】エンジン駆動力を入力する入力軸22と、入力軸22によって駆動される油圧式無段変速機30と、入力軸22の駆動力と油圧式無段変速機30の出力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部40と、走行装置に出力する出力回転体24とを設けてある。遊星伝動部40及び出力回転体24を、油圧式無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に配置してある。入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から遊星伝動部40に駆動力を入力するように構成してある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン駆動力を入力する入力軸と、前記入力軸によって駆動される油圧式無段変速機と、前記入力軸の駆動力と前記油圧式無段変速機の出力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部と、走行装置に出力する出力回転体とを設けた変速伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載された変速伝動装置があった。特許文献1に記載されたものでは、無段変速部(油圧式無段変速機)の油圧ポンプを貫通するポンプ軸を備え、ポンプ軸の無段変速部から一方に突出する側にエンジンからの駆動力を入力し、ポンプ軸の無段変速部から他方に突出する側から複合型遊星伝動部にポンプ軸の駆動力を伝達して、無段変速部をエンジン駆動力によって駆動し、エンジン駆動力と無段変速部による出力とを複合型遊星伝動部によって合成するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−215499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の技術を採用した場合、ポンプ軸のエンジン駆動力を入力する部位から遊星伝動部に出力する部位までの距離が両部位の間に位置する油圧ポンプのために長くなり、遊星伝動部の駆動負荷に起因するポンプ軸の歪みが発生しにくいようにポンプ軸の強度アップを図る必要が生じ、ポンプ軸の強度アップのため、大径のポンプ軸を備えるなど大型の油圧式無段変速機を採用する必要があった。
【0005】
本発明の目的は、大型化を抑制や回避しやすい変速伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本第1発明は、エンジン駆動力を入力する入力軸と、前記入力軸によって駆動される油圧式無段変速機と、前記入力軸の駆動力と前記油圧式無段変速機の出力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部と、走行装置に出力する出力回転体とを設けた変速伝動装置において、
前記遊星伝動部及び前記出力回転体を、前記油圧式無段変速機に対して前記入力軸のエンジン連結側が位置する側と同じ側に配置するとともに、前記入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から前記遊星伝動部に駆動力を入力するように構成してある。
【0007】
本第1発明の構成によると、遊星伝動部及び出力回転体を、油圧式無段変速機に対して入力軸のエンジン連結側が位置する側と同じ側に配置するとともに、入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から遊星伝動部に駆動力を入力するから、入力軸から遊星伝動部に至る伝動構造を伝動距離が極力短い簡単なものに済ませることができる。入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から遊星伝動部に駆動力を入力するから、入力軸のエンジン駆動力を入力する部位から遊星伝動部に出力する部位までの距離を極力小にでき、遊星伝動部の駆動負荷に起因する入力軸の歪みを発生しにくくして入力軸の大型化を抑制や回避でき、かつ遊星伝動部の駆動負荷をポンプ軸に掛かりにくくでき、ポンプ軸の大型化を抑制や回避して油圧式無段変速機の大型化を抑制や回避できる。
【0008】
従って、入力軸から遊星伝動部に伝動する伝動構造の面においても、入力軸及び油圧式無段変速機の面においても大型化を抑制や回避したコンパクトな状態に得ることができる。
【0009】
本第2発明は、前記入力軸を前記油圧式無段変速機のポンプ軸に対して同軸芯状に配置した状態で前記ポンプ軸に一体回転自在に連結し、前記遊星伝動部のサンギヤ及び前記出力回転体を、前記油圧式無段変速機のモータ軸芯に対して同軸芯状に位置する回転軸芯まわりに回転自在に支持してある。
【0010】
本第2発明の構成によると、入力軸とポンプ軸を同軸芯状態に配置したコンパクトな連動構造で入力軸による油圧式無段変速機の駆動を可能にできる。さらに、サンギヤ、出力回転体及びモータ軸を同軸芯状に配置したコンパクトな連動構造で油圧式無段変速機から遊星伝動部に伝動できるとともに遊星伝動部から出力回転体に伝動できる。
【0011】
従って、入力軸による油圧式無段変速機の駆動の面からも、油圧式無段変速機から遊星伝動部への伝動や遊星伝動部から出力回転体への伝動の面からもコンパクトに得ることができる。
【0012】
本第3発明は、前記遊星伝動部を前記入力軸に対する連動入り状態と連動切り状態に切り換える入力側クラッチ機構を設け、前記出力回転体を前記油圧式無段変速機のモータ軸に対する連動入り状態と連動切り状態に切り換える出力側クラッチ機構を設けてある。
【0013】
本第3発明の構成によると、遊星伝動部を入力軸に対する連動切り状態に切り換え、出力回転体をモータ軸に対する連動入り状態に切り換えることにより、入力軸によって入力されるエンジン駆動力が油圧式無段変速機によって変速した後に出力回転体から出力されるようにHSTモード伝動による変速を行なわせることができる。遊星伝動部を入力軸に対する連動入り状態に切り換え、出力回転体をモータ軸に対する連動切り状態に切り換えることにより、入力軸によって入力されるエンジン駆動力が遊星伝動部に伝達され、エンジン駆動力と油圧式無段変速機による出力とが遊星伝動部によって合成して合成駆動力が出力回転体から出力されるようにHMTモード伝動による変速を行なわせることができる。
【0014】
従って、HSTモード伝動による出力を行なわせて、油圧式無段変速機の変速操作を行なうだけで操作簡単に走行の停止や前後進切換えを行なえるようにでき、HMTモード伝動による出力を行なわせて、伝動効率のよい状態で変速走行を行なえるようにできる。
【0015】
本第4発明は、前記油圧式無段変速機に作動油を供給するチャージポンプを、前記入力軸のエンジン連結側と油圧無段変速機連結側との間に装備してある。
【0016】
本第4発明の構成によると、チャージポンプの駆動負荷を入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間に掛かって、油圧式無段変速機のポンプ軸に掛かり難くできる。
【0017】
従って、チャージポンプを入力軸の駆動力によって駆動するものでありながら、油圧式無段変速機のポンプ軸の大型化を抑制して、油圧式無段変速機を有利に得ることができる。
【0018】
本第5発明は、前記油圧式無段変速機に作動油を供給するチャージポンプを、前記入力軸のエンジン連結側と前記入力側クラッチ機構との間に装備してある。
【0019】
入力軸のエンジン連結側と入力側クラッチ機構の間にあっては、油圧式無段変速機が無くてポンプ設置スペースを確保しやすいのであり、本第5発明の構成によると、ポンプ設置スペースを確保しやすい部位にチャージポンプをコンパクトに装備できる。
【0020】
従って、チャージポンプを入力軸の駆動力によって駆動するものでありながら、チャージポンプをコンパクトに装備した簡素なものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】コンバインの全体を示す側面図である。
【図2】伝動構造を示す概略正面図である。
【図3】HMTモード伝動での変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図4】HSTモード伝動での変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図5】入力側クラッチ機構及び出力側クラッチ機構の操作状態と、伝動切換えクラッチ機構の操作状態と、変速伝動装置の伝動形態との関係を示す説明図である。
【図6】油圧式無段変速機の変速状態と変速伝動装置の出力速度との関係を示す説明図である。
【図7】変速操作装置を示すブロック図である。
【図8】第1の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図9】油圧式無段変速機、前進クラッチ、後進クラッチ及び出力側のクラッチ機構の操作状態と変速伝動装置の伝動形態との関係を示す説明図である。
【図10】第1の別実施構造を備えた変速伝動装置の出力速度を示す説明図である。
【図11】第1の別実施構造を備えた変速伝動装置を変速操作する変速操作装置を示すブロック図である。
【図12】第2の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図13】第3の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図14】第4の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図15】第5の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図16】第6の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明に係る変速伝動装置をコンバインに装備した場合について説明する。
図1に示すように、コンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1によって自走するように構成され、かつ乗用型の運転部2を装備された走行機体と、走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り部4と、機体フレーム3の後部側に刈取り部4の後方に配置して設けられた脱穀装置5と、機体フレーム3の後部側に脱穀装置5の横側方に配置して設けられた穀粒タンク6とを備えて構成してあり、稲、麦などの収穫作業を行う。
【0023】
すなわち、刈取り部4は、機体フレーム3の前部から前方向きに上下揺動自在に延出する刈取り部フレーム4aを備え、この刈取り部フレーム4aが昇降シリンダ7によって揺動操作されることにより、刈取り部4の前端部に設けられた分草具4bが地面近くに下降した下降作業位置と、分草具4bが地面から高く上昇した上昇非作業位置とに昇降する。刈取り部4を下降作業位置に下降させて走行機体を走行させると、刈取り部4は、分草具4bによって刈取対象の植立穀稈を引起し経路に導入し、引起し経路に導入した植立穀稈を引起し装置4cによって引起しながらバリカン型の刈取装置4dによって刈取り、刈取り穀稈を供給装置4eによって脱穀装置5に供給する。脱穀装置5は、供給装置4eからの刈取り穀稈の株元側を脱穀フィードチェーン5aによって挟持して機体後方向きに搬送し、刈取り穀稈の穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理し、脱穀穀粒を穀粒タンク6に送り込む。
【0024】
運転部2に備えられた運転座席2aの下方にエンジン8を設け、エンジン8が出力する駆動力を、機体フレーム3の前端部に設けたミッションケース11を備えた伝動構造10によって左右一対の走行装置1,1に伝達するように構成してある。
【0025】
図2は、伝動構造10の概略構造を示す正面図である。この図に示すように、伝動構造10は、エンジン8の出力軸8aからのエンジン駆動力を、伝動ベルト12aが備えられた伝動機構12を介してミッションケース11の上端部の横側に設けられた変速伝動装置20に入力し、この変速伝動装置20の出力を、ミッションケース11に内装された走行ミッション13に入力して走行ミッション13が備える左右一対の操向クラッチ機構14,14の左側の操向クラッチ機構14から左側の走行装置1の駆動軸1aに伝達し、右側の操向クラッチ機構14から右側の走行装置1の駆動軸1aに伝達する。
【0026】
伝動構造10は、ミッションケース11に内装された刈取りミッション15を備え、変速伝動装置20の出力を、刈取りミッション15に入力して刈取り出力軸16から刈取り部4の駆動軸4fに伝達する。
【0027】
変速伝動装置20について説明する。
図3,4に示すように、変速伝動装置20は、ミッションケース11の上端側に横側部が連結される変速ケース21を備えた遊星変速部20Aと、変速ケース21のミッションケース11に連結する側とは反対側の横側部にケーシング31が連結された油圧式無段変速機30とを備えて構成してある。
【0028】
変速ケース21は、遊星伝動部40及び伝動機構50を収容する主ケース部21aと、入力軸22及び伝動軸23と油圧式無段変速機30の連結部を収容し、かつ変速ケース21とケーシング31のポートブロック34を連結する連結ケース部21bとを備えて構成してある。変速ケース21は、主ケース部21aの出力回転体24が位置する下部側面の横外側に膨出形成された膨出部分21cでミッションケース11に連結される。連結ケース部21bの走行機体上下方向での大きさが主ケース部21aの走行機体上下方向での大きさよりも小になっている。主ケース部21aを、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、ケーシング31を、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、遊星変速部20Aと油圧式無段変速機30が機体横方向に並びながら、変速伝動装置20全体としての機体横方向幅が小となり、変速伝動装置20は、横外側に突出しないように走行機体の左右方向ではコンパクトな状態でミッションケース11の横側部に連結されている。さらに、ケーシング31の下部側面には下端側ほど機体内側に傾斜する傾斜面31Aが形成され、この傾斜面31Aにモータ軸33aのベアリングを支持する膨出部31Bが形成されて、変速伝動装置20の更なるコンパクト化が図られている。また、ケーシング31の上面には上向きにオイルフィルタ20Fが配置され、オイルフィルタ20Fの横外側への突出を回避して更なるコンパクトが図られている。
【0029】
遊星変速部20Aは、変速ケース21の上端側に回転自在に支持された機体横向きの入力軸22と、変速ケース21の下端側に入力軸22と平行又はほぼ平行に回転自在に支持された伝動軸23及び回転軸型の出力回転体24と、伝動軸23に支持された遊星伝動部40と、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41とに亘って設けた伝動機構50とを備えている。
【0030】
入力軸22は、油圧式無段変速機30のポンプ軸32aに対して同軸芯状に並ぶよう配置されている。入力軸22は、変速ケース21から横外側に突出している側で伝動機構12を介してエンジン8の出力軸8aに連結するように構成され、エンジン8に連結される側とは反対側でジョイント22aを介して油圧式無段変速機30のポンプ軸32aに一体回転自在に連結されており、伝動機構12を介してエンジン駆動力を入力し、エンジン駆動力によって駆動されて油圧式無段変速機30の油圧ポンプ32を駆動する。
【0031】
出力回転体24は、油圧式無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に油圧式無段変速機30のモータ軸33aと同軸芯状に並ぶように配置されている。出力回転体24は、変速ケース21から横外側に突出している側で走行ミッション11の入力部に連動するよう構成されており、遊星伝動部40及び油圧式無段変速機30からの駆動力を走行ミッション13を介して左右一対の走行装置1,1に出力する。
【0032】
油圧式無段変速機30は、ケーシング31の上端側にポンプ軸32aが回転自在に支持されている油圧ポンプ32と、ケーシング31の下端側にモータ軸33aが回転自在に支持されている油圧モータ33とを備えて構成してある。油圧ポンプ32は、可変容量形のアキシャルプランジャポンプによって構成し、油圧モータ33は、アキシャルプランジャモータによって構成してある。油圧モータ33は、油圧ポンプ32によって吐出され、ポートブロック34の内部に形成された油路を介して供給される圧油によって駆動される。油圧式無段変速機30には、ポンプ軸32aの端部に装備されたチャージポンプ90によって補充用の作動油が供給される。チャージポンプ90は、ポンプ軸32aに一体回転自在に取り付けられたロータ90a、及びケーシング31に脱着自在に連結されたポンプケーシング90bを備えている。
【0033】
したがって、油圧式無段変速機30は、油圧ポンプ32が備える斜板32bの角度変更操作が行なわれることにより、前進伝動状態と後進伝動状態と中立状態とに切り換わる。油圧式無段変速機30は、前進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を前進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、後進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を後進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、前進伝動状態と後進伝動状態のいずれにおいても、エンジン駆動力を無段階に変速して出力する。油圧式無段変速機30は、中立状態に切換え操作されると、モータ軸33aからの出力を停止する。
【0034】
遊星伝動部40は、油圧式無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に、モータ軸33aと出力回転体24の間に位置する状態で配置されている。遊星伝動部40は、伝動軸23に支持されるサンギヤ42と、サンギヤ42に噛合う複数個の遊星ギヤ43と、各遊星ギヤ43に噛合うリングギヤ44と、複数個の遊星ギヤ43を回転自在に支持するキャリヤ41とを備えている。キャリヤ41は、遊星ギヤ43を延出端部で回転自在に支持するアーム部41aと、複数本のアーム部41aの基端側が連結している筒軸部41bとを備え、筒軸部41bで伝動軸23にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0035】
伝動軸23とモータ軸33aとは、ジョイント23aを介して一体回転自在に連結し、伝動軸23とサンギヤ42とは、スプライン構造を介して一体回転自在に連結しており、サンギヤ42は、モータ軸33aに対して一体回転自在に連動している。
【0036】
リングギヤ44と出力回転体24とは、伝動軸23に対してこれの軸芯方向に並んで相対回転自在に外嵌した環状の遊星側連動体26及び環状の出力側連動体27によって一体回転自在に連動している。すなわち、遊星側連動体26は、遊星側連動体26の外周部から放射状にかつ一体回転自在に延出する複数本の係合アーム部26aを備えている。複数本の係合アーム部26aは、リングギヤ44の複数箇所に係合しており、遊星側連動体26は、リングギヤ44に対して一体回転自在に連動している。出力側連動体27は、遊星側連動体26に対して係合爪27aによって一体回転自在に係合し、出力回転体24に対してスプライン構造によって一体回転自在に係合しており、遊星側連動体26と出力回転体24とを一体回転自在に連結している。遊星側連動体26は、伝動軸23にベアリングを介して相対回転自在に支持されている。出力側連動体27は、変速ケース21にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0037】
伝動機構50は、キャリヤ41の筒軸部41bに一体回転自在に設けられたキャリヤ41の入力ギヤ41cに噛合う状態で入力軸22にニードルベアリングを介して相対回転自在に支持された伝動ギヤ52と、伝動ギヤ52と入力軸22に亘って設けた入力側クラッチ機構55とを備えて構成してある。
【0038】
入力側クラッチ機構55は、入力軸22に一体回転及び摺動操作自在に支持されたクラッチ体56と、クラッチ体56の一端側と伝動ギヤ52の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体57とを備えて構成してある。クラッチ体56は、クラッチ体56の端部に内嵌された油圧ピストン58によって摺動操作される。クラッチ機構本体57は、クラッチ体56に設けた噛合い爪と伝動ギヤ52に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0039】
入力側クラッチ機構50は、クラッチ機構本体57が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52を一体回転自在に連動させるように入り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41を入力軸22に対する連動入り状態に切り換える。
【0040】
入力側クラッチ機構50は、クラッチ機構本体57が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52の連動を絶つように切り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41を入力軸22に対する連動切り状態に切り換える。
【0041】
したがって、遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構50が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸22のエンジン連結側と無段変速機連結側との間に位置する部位から入力軸22の駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力する。遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構50が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22に対する連動を絶たれた状態になる。
【0042】
遊星伝動部40のサンギヤ42と遊星側連動体26とに亘り、伝動軸23に外嵌されたクラッチ体61を備えた出力側クラッチ機構60を設けてある。
【0043】
クラッチ体61は、クラッチ体61の内周側に形成してある油室に圧油が供給されることにより、入り付勢ばね62に抗してサンギヤ42に向けて摺動操作されて切り位置に切り換わり、油室から圧油が排出されることにより、入り付勢ばね62によって遊星側連動体26に向けて摺動操作されて入り位置に切り換わる。クラッチ体61は、入り位置に切り換わると、クラッチ体61に設けてあるクラッチ爪61aと遊星側連動体26に設けてあるクラッチ爪とが係合して、遊星側連動体26に対して一体回転自在に連結する。クラッチ体61は、サンギヤ42に対して係合爪61bによって一体回転自在に係合した状態を維持しながら摺動操作され、サンギヤ42に対する係合状態を維持しながら入り位置になる。クラッチ体61は、切り位置に切り換わると、クラッチ爪61aによる遊星側連動体26に対する係合を解除する。
【0044】
したがって、出力側クラッチ機構60は、クラッチ体61が切り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26の連動を絶つことで、モータ軸33aの出力回転体24に対する連動を絶ち、この状態において遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24が一体回転自在に連動する第1伝動状態を現出し、遊星伝動部40の合成駆動力の出力回転体24からの出力を可能にする。
【0045】
出力側クラッチ機構60は、クラッチ体61が入り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26を一体回転自在に連動させることで、モータ軸33aを出力回転体24に一体回転自在に連動させる第2伝動状態を現出し、油圧無段変速機30による出力の出力回転体24からの出力を可能し、かつ、サンギヤ42と伝動軸23が一体回転自在に連動し、リングギヤ44と遊星側連動体26が一体回転自在に連動していることにより、遊星ギヤ43の自転が発生しないように、サンギヤ42と遊星ギヤ43とリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転することを可能にする。
【0046】
出力側クラッチ機構60は、遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24とを連動状態に維持しながら、遊星伝動部40のサンギヤ43と出力回転体24とを連動入り状態と連動切り状態に切換える。
【0047】
したがって、遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22の駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力し、油圧無段変速機30のモータ軸33aからの出力を伝動軸23を介してサンギヤ42に入力し、入力軸22の駆動力と油圧無段変速機30の出力とを合成して合成駆動力を発生させ、発生させた合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に出力する。
【0048】
入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60を備えて、伝動切換えクラッチ機構70を構成してある。伝動切換えクラッチ機構70は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッキ機構60が切換え操作されることにより、単独伝動状態と合成伝動状態とに切り換わる。
【0049】
図5は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の操作状態と、伝動切換えクラッチ機構70の操作状態と、変速伝動装置20の伝動形態との関係を示す説明図である。図5に示す「切」は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の切り状態を示し、「入」は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の入り状態を示す。この図に示すように、伝動切換えクラッチ機構70は、入力側クラッチ機構55が切り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が入り状態に切換え操作されると、単独伝動状態に切り換わり、入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が切り状態に切換え操作されると、合成伝動状態に切り換わる。
【0050】
図3は、HMTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、伝動切換えクラッチ機構70は、合成伝動状態に切り換わると、入力軸22の駆動力と油圧式無段変速機30の出力とが遊星伝動部40によって合成され、遊星伝動部40による合成駆動力が出力回転体24に伝達されるHMTモード伝動を変速伝動装置20に現出させる。変速伝動装置20は、HMTモード伝動の状態になると、入力軸22に入力されたエンジン駆動力を油圧式無段変速機30及び遊星伝動部40の両方によって変速し、変速後の駆動力をリングギヤ44から出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0051】
図4は、HSTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、伝動切換えクラッチ機構70は、単独伝動状態に切り換わると、油圧式無段変速機30の出力が遊星伝動部40による変速を受けないで単独で出力回転体24に伝達されるHSTモード伝動を変速伝動装置20に現出させる。変速伝動装置20は、HSTモード伝動の状態になると、エンジン駆動力を、油圧式無段変速機30と遊星伝動部40のうちの遊星伝動部40による変速を行なわず、油圧式無段変速機30だけによる変速を行い、変速後の駆動力をモータ軸33aから伝動軸23、サンギヤ42、クラッチ体61、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達し、出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0052】
伝動切換えクラッチ機構70は、変速伝動装置20をHSTモード伝動の状態に操作した場合、入力軸22から遊星伝動部40のキャリヤ41への伝動が絶たれた状態にあり、サンギヤ42が伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあり、リングギヤ44が遊星側連動体26、クラッチ体61、サンギヤ42及び伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあることから、遊星伝動部40のサンギヤ42、遊星ギヤ43及びリングギヤ44をモータ軸33aと一体回転するよう操作することになり、変速伝動装置20は、HSTモード伝動を現出する状態に操作された場合、遊星ギヤ43の自転を発生させず、すなわちサンギヤ42と遊星ギヤ43の相対回転及び遊星ギヤ43とリングギヤ44の相対回転を発生させずに、油圧無段変速機30のモータ軸33aの出力を出力回転体24に伝達する。
【0053】
図6は、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態における油圧式無段変速機30の変速状態と変速伝動装置20の出力回転体24による出力速度との関係を示す説明図である。図6の横軸は、油圧式無段変速機30の変速状態を示し、「n」は、油圧式無段変速機30の中立位置を示し、「−max」は、油圧式無段変速機30の後進伝動状態での最高速位置を示し、「+max」は、油圧式無段変速機30の前進伝動状態での最高速位置を示す。図6の縦軸は、出力回転体24による出力速度を示す。図6に示す実線R及び実線FLは、入力側クラッチ機構55が切り状態に、出力側クラッチ機構60が入り状態に操作された場合、すなわち変速伝動装置20がHSTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。図6に示す実線FHは、入力側クラッチ機構55が入り状態に、出力側クラッチ機構60が切り状態に操作された場合、すなわち変速伝動装置20がHMTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。
【0054】
実線R及び実線FLで示すように、入力側クラッチ機構55が切り状態に維持され、出力側クラッチ機構60が入り状態に維持された状態において、油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に操作されると、出力速度が後進の最高速度「RVH」になる。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」から中立位置「n」に向けて変速操作されるに伴い、後進の出力速度が無段階に減速していく。油圧式無段変速機30が中立位置「n」に至ると、出力速度が零「0」になる。油圧式無段変速機30が中立位置「n」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力速度が無段階に増速していく。油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、出力速度が前進の中間速度「FVM」になる。
【0055】
実線FHで示すように、油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、入力側クラッチ機構55が切り状態から入り状態に切換え制御され、出力側クラッチ機構60が入り状態から切り状態に切換え制御され、入力側クラッチ機構55が入り状態に維持され、出力側クラッチ機構60が切り状態に維持された状態において、油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力速度が無段階に増速していく。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、前進の出力速度が最高速度「FVH」になる。
【0056】
図6に示す「N」は、実線FHを油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」を超えて出力回転が零「0」となる点まで延長したときの横軸の値を示す。油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」の横軸の値を1とすると、N=1.6〜2.2となる。つまり、N=1.6〜2.2となるように、油圧式無段変速機30における油圧ポンプ32及び油圧モータ33の容量、並びに遊星伝動部40の伝動ギヤ比を設定してある。
【0057】
図7は、変速伝動装置20を変速操作する変速操作装置71を示すブロック図である。この図に示すように、変速操作装置71は、油圧式無段変速機30の変速操作部30a、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の操作部55a,60aに連係された制御装置72と、制御装置72に連係された変速検出センサ73、エンジン回転数センサ74、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76とを備えている。
【0058】
変速操作部30aは、油圧式無断変速機30における油圧ポンプ32の斜板32bの角度変更操作を行なう電動アクチュエータ又は油圧アクチュエータによって構成してある。入力側クラッチ機構55の操作部55aは、入力軸22の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン58に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン58を操作してクラッチ体56を摺動操作することにより、入力側クラッチ機構55を切り換え操作する。出力側クラッチ機構60の操作部60aは、伝動軸23の内部に形成された操作油路を介してクラッチ体61の油室に接続された操作弁によって構成してあり、クラッチ体61の油室に対する操作油の供給及び排出を行なうことにより、クラッチ体61を摺動操作して出力側クラッチ機構60を切り換え操作する。
【0059】
変速検出センサ73は、変速レバー77の操作位置を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。エンジン回転数センサ74は、エンジン8の回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。変速機出力回転数センサ75は、油圧式無段変速機30の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。出力回転数センサ76は、変速伝動装置20の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。
【0060】
制御装置72は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、変速制御手段78を備えている。変速制御手段78は、変速検出センサ73及び変速機出力回転数センサ75による検出情報を基に、油圧式無段変速機30の変速状態が変速レバー77の操作位置に対応したものになるように、変速操作部30aを操作して油圧式無段変速機30を変速制御する。
【0061】
変速制御手段78は、油圧式無段変速機30を変速制御するに加え、エンジン回転数センサ74による検出情報を基に、アクセルセットされたエンジン8の回転数を検出し、この検出結果、変速検出センサ73、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76による検出情報を基に、図5,6に示す如く変速伝動装置20がHSTモード伝動及びHMTモード伝動を現出して伝動するように、操作部55a及び操作部60aを操作して入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60を所定のタイミングで切り換え制御する。
【0062】
〔別実施構造〕
図8は、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41とに亘って設けた前後進切換え機構80を備えている。
【0063】
第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間であって、入力軸22のエンジン連結側と前進クラッチ82との間に装備したチャージポンプ90を備え、このチャージポンプ90によって油圧式無段変速機30に補充用の作動油が供給される。チャージポンプ90は、入力軸22に一体回転自在に連結したロータ90a、及び変速ケース21に脱着自在に取り付けたポンプケーシング90bを備えている。
【0064】
前後進切換え機構80は、入力軸22にニードルベアリングを介して回転自在に支持される前進伝動ギヤ81と、前進伝動ギヤ81と入力軸22に亘って設けた前進クラッチ82と、入力軸22と平行又はほぼ平行な配置で変速ケース21に回転自在に支持された後進伝動軸83と、入力軸22に一体回転自在に支持された伝動ギヤ84に噛合った状態で後進伝動軸83に相対回転支持された逆転用の入力ギヤ85と、入力ギヤ85と後進伝動軸83に亘って設けた後進クラッチ86と、後進伝動軸83に一体回転自在に設けた後進伝動ギヤ87とを備えて構成してある。
【0065】
前進伝動ギヤ81及び後進伝動ギヤ87は、キャリヤ41の筒軸部41bに一体回転自在に設けられたキャリヤ41の入力ギヤ41cに噛合っている。入力ギヤ85及び伝動ギヤ84は、遊星伝動部40に対して前進伝動ギヤ81及び後進伝動ギヤ87が位置する側とは反対側に位置している。前進伝動ギヤ81及び後進伝動ギヤ87は、サンギヤ42に対して入力ギヤ85及び伝動ギヤ84が位置する側とは反対側に位置する遊星伝動部40の入力ギヤ41cに噛合っている。
【0066】
前進クラッチ82は、入力軸22に一体回転及び摺動操作自在に支持された前進クラッチ体82aと、前進クラッチ体82aの一端側と前進伝動ギヤ81の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体82bとを備えて構成してある。前進クラッチ体82aは、前進クラッチ体82aの端部に内嵌された油圧ピストン88によって摺動操作される。クラッチ機構本体82bは、前進クラッチ体82aに設けた噛合い爪と前進伝動ギヤ81に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0067】
後進クラッチ86は、後進伝動軸83に一体回転及び摺動操作自在に支持された後進クラッチ体86aと、後進クラッチ体86aの一端側と入力ギヤ85の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体86bとを備えて構成してある。後進クラッチ体86aは、後進クラッチ体86aの端部に内嵌された油圧ピストン89によって摺動操作される。クラッチ機構本体86bは、後進クラッチ体86aに設けた噛合い爪と入力ギヤ85に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0068】
前後進切換え機構80は、前進クラッチ82が入り状態に切換え操作され、後進クラッチ86が切り状態に切換え操作されることにより、前進伝動状態になり、入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間に位置する前進クラッチ体82aから入力軸22の駆動力を入力し、入力軸22の駆動力を前進駆動力に変換して前進伝動ギヤ81からキャリヤ41に伝達する。
【0069】
前後進切換え機構80は、前進クラッチ82が切り状態に切換え操作され、後進クラッチ86が入り状態に切換え操作されることにより、後進伝動状態になり、入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間に位置する伝動ギヤ84から入力軸22の駆動力を入力し、入力軸22の駆動力を後進駆動力に変換して後進伝動ギヤ87から遊星伝動部40のキャリヤ41に伝達する。
【0070】
前後進切換え機構80は、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に切換え操作されることにより、中立状態になり、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41との連動を絶つ。
【0071】
図9は、油圧式無段変速機30、前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60の操作状態と変速伝動装置20の伝動形態との関係を示す説明図である。図9に示す「前進」は、油圧式無段変速機30の前進伝動状態を示し、「後進」は、油圧式無段変速機30の後進伝動状態を示す。図9に示す「切」は、前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60の切り状態を示し、「入」は、前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60の入り状態を示す。
【0072】
変速伝動装置20は、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に切換え制御されると、HSTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、HSTモード伝動の状態になると、入力軸22に入力されたエンジン駆動力を遊星伝動部40に伝達せず、入力軸22に入力されたエンジン駆動力を油圧式無段変速機30によって変速し、変速後の駆動力をモータ軸33aから伝動軸23、サンギヤ42、クラッチ体61、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0073】
変速伝動装置20は、前進クラッチ82が入り状態に切換え制御され、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構80が切り状態に切換え制御されると、前進側のHMTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、前進側のHMTモード伝動になると、入力軸20によって入力されたエンジン駆動力を前後進切換え機構80によって前進駆動力に変換して遊星伝動部40に伝達し、遊星伝動部40によって前後進切換え機構80からの前進駆動力と油圧式無段変速機30のモータ軸33aからの出力とを合成して前進側の合成駆動力を発生させ、発生した前進側の合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0074】
変速伝動装置20は、後進クラッチ86が入り状態に切換え制御され、前進クラッチ82及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御されると、後進側のHMTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、後進側のHMTモード伝動になると、入力軸20によって入力されたエンジン駆動力を前後進切換え機構80によって後進駆動力に変換して遊星伝動部40に伝達し、遊星伝動部40によって前後進切換え機構80からの後進駆動力と油圧式無段変速機30のモータ軸33aからの出力とを合成して後進側の合成駆動力を発生させ、発生した後進側の合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0075】
図10は、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20の出力速度を示す説明図であり、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態における油圧式無段変速機30の変速状態と変速伝動装置20の出力回転体24による出力速度との関係を示す説明図である。図10の横軸は、油圧式無段変速機30の変速状態を示し、「n」は、油圧式無段変速機30の中立位置を示し、「−max」は、油圧式無段変速機30の後進伝動状態での最高速位置を示し、「+max」は、油圧式無段変速機30の前進伝動状態での最高速位置を示す。図10の縦軸は、出力回転体24による出力速度を示す。図10に示す実線RL及び実線FLは、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切リ状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20がHSTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。図10に示す実線FM,FHは、前進クラッチ82が入り状態に切り換え制御され、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20が前進側のHMTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。図10に示す実線RM,RHは、後進クラッチ86が入り状態に切り換え制御され、前進クラッチ82及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20が後進側のHMTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。
【0076】
図9に示すように、かつ図10の実線FLで示すように、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に制御された状態において、油圧式無段変速機30が中立位置「n」に操作されると、出力が零「0」になる。
【0077】
前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されると、前進駆動力が出力される。前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力が無段階に増速する。油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、出力速度が前進の中間速度「FV1」になる。
【0078】
図9に示すように、かつ図10の実線FM,FHで示すように、油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、前進クラッチ82が入り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御され、前進クラッチ82が入り状態に維持されながら、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に維持されながら、油圧無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力が中間速度「FV1」から無段階に増速する。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、出力が前進の最高速度「FV2」になる。
【0079】
図9に示すように、かつ図10の実線RLで示すように、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されると、後進駆動力が出力される。前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されるに伴い、後進の出力が無段階に増速する。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、出力速度が後進の中間速度「RV1」になる。
【0080】
図9に示すように、かつ図10の実線RM,RHで示すように、油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、後進クラッチ86が入り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構80が切り状態に切換え制御され、後進クラッチ86が入り状態に維持されながら、前進クラッチ82及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に維持されながら、油圧無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されるに伴い、後進の出力が中間速度「RV1」から無段階に増速する。油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、出力が後進の最高速度「RV2」になる。
【0081】
図10に示す「N」は、実線FH,FMを油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」を超えて出力回転が零「0」となる点まで延長したときの横軸の値を示す。油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」の横軸の値を1とすると、N=1.6〜2.2となる。つまり、N=1.6〜2.2となるように、油圧式無段変速機30における油圧ポンプ32及び油圧モータ33の容量、並びに遊星伝動部40の伝動ギヤ比を設定してある。
【0082】
図11は、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20を変速操作する変速操作装置91を示すブロック図である。この図に示すように、変速操作装置91は、油圧式無段変速機30の変速操作部30a、並びに前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60の操作部82c,86c,60aに連係された制御装置72と、制御装置72に連係された変速検出センサ73、エンジン回転数センサ74、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76とを備えている。
【0083】
変速操作部30aは、油圧式無断変速機30における油圧ポンプ32の斜板32bの角度変更操作を行なう電動アクチュエータ又は油圧アクチュエータによって構成してある。前進クラッチ82の操作部82cは、入力軸22の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン88に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン88を操作して前進クラッチ体82aを摺動操作することにより、前進クラッチ82を切り換え操作する。後進クラッチ86の操作部86cは、後進伝動軸83の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン89に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン89を操作して後進クラッチ体86aを摺動操作することにより、後進クラッチ86を切り換え操作する。出力側のクラッチ機構60の操作部60aは、伝動軸23の内部に形成された操作油路を介してクラッチ体61の油室に接続された操作弁によって構成してあり、クラッチ体61の油室に対する操作油の供給及び排出を行なうことにより、クラッチ体61を摺動操作して出力側のクラッチ機構60を切り換え操作する。
【0084】
変速検出センサ73は、変速レバー77の操作位置を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。エンジン回転数センサ74は、エンジン8の回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。変速機出力回転数センサ75は、油圧式無段変速機30の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。出力回転数線さ76は、変速伝動装置20の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。
【0085】
制御装置72は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、変速制御手段78を備えている。変速制御手段78は、変速検出センサ73及び変速機出力回転数センサ75による検出情報を基に、油圧式無段変速機30の変速状態が変速レバー77の操作位置に対応したものになるように、変速操作部30aを操作して油圧式無段変速機30を変速制御する。
【0086】
変速制御手段78は、油圧式無段変速機30を変速制御するに加え、エンジン回転数センサ74による検出情報を基に、アクセルセットされたエンジン8の回転数を検出し、この検出結果、変速検出センサ73、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76による検出情報を基に、図9,10に示す如く変速伝動装置20がHSTモード伝動、前進側のHMTモード伝動及び後進側のHMTモード伝動を現出して伝動するように、操作部82c、操作部86c及び操作部60aを操作して前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60を所定のタイミングで切り換え制御する。
【0087】
図12は、第2の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第2の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、油圧式無段変速機30に補充用の作動油を供給するチャージポンプ90を、入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間であって、入力軸22のエンジン連結側と入力側クラッチ機構55との間に装備してある。チャージポンプ90は、入力軸22に一体回転自在に連結したロータ90a、及び変速ケース21に脱着自在に連結されたポンプケーシング90bを備えている。
【0088】
図13は、第3の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第3の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、油圧式無段変速機30を、可変容量型の油圧ポンプ32と可変容量型の油圧モータ33を備えて構成してある。
【0089】
図14は、第4の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第4の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、出力側クラッチ機構60を、伝動軸23に一体回転自在に設けた支持体63と遊星側連動体26に設けたクラッチボディ部とに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部64を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この出力側クラッチ機構60は、摩擦クラッチ部64がサンギヤ42に支持された油圧ピストン65によって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、モータ軸33aと出力回転体24を連動入り状態と連動切り状態に切換え操作する。
【0090】
図15は、第5別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第5の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、入力側クラッチ機構55を、伝動ギヤ52に一体回転自在に設けた支持部と入力軸22に一体回転自在に設けたクラッチボディ部59aとに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部59を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この入力側クラッチ機構55は、摩擦クラッチ部59がクラッチボディ部59aに内装された油圧ピストン59bによって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52を連動入り状態と連動切る状態に切換え操作する。
【0091】
図16は、第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、出力側クラッチ機構60を、伝動軸23に一体回転自在に設けた支持部66と出力側連動体27に一体回転自在に連結されたクラッチボディ67aとに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部67を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この出力側クラッチ機構60は、摩擦クラッチ部67がクラッチボディ67aに内装された油圧ピストン67bによって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、モータ軸33aと出力回転体24を連動入り状態と連動切り状態に切換え操作する。
【0092】
第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、リングギヤ44とモータ軸33aとを連動入り状態と連動切り状態に切換え自在な摩擦クラッチ機構79を備え、HSTモード伝動においてサンギヤ42、遊星ギヤ43及びリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転する状態と、HSTモード伝動においてリングギヤ44が回転自在な状態とに切換え自在になっている。
【0093】
〔別実施例〕
(1)上記した実施例では、入力軸22の駆動力を遊星伝動部40のキャリヤ41に入力し、遊星伝動部40のリングギヤ44の駆動力を出力回転体24に伝達するよう構成した例を示したが、入力軸22の駆動力を遊星伝動部40のリングギヤ44に入力し、遊星伝動部40のキャリヤ41の駆動力を出力回転体24に伝達するよう構成して実施してもよい。
【0094】
(2)上記した実施例では、入力軸22をポンプ軸32aと別体に形成してポンプ軸32aにジョイント22aを介して連結し、伝動軸23をモータ軸33aと別体に形成してモータ軸33aにジョイント23aを介して連結した例を示したが、入力軸22をポンプ軸32aに一体形成し、伝動軸23をモータ軸33aに一体形成して実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、コンバインの他、田植機、運搬車など各種の車両に利用できる。
【符号の説明】
【0096】
1 走行装置
22 入力軸
24 出力回転体
30 油圧式無段変速機
32a ポンプ軸
33a モータ軸
40 遊星伝動部
42 サンギヤ
55 入力側クラッチ機構
60 出力側クラッチ機構
90 チャージポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン駆動力を入力する入力軸と、前記入力軸によって駆動される油圧式無段変速機と、前記入力軸の駆動力と前記油圧式無段変速機の出力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部と、走行装置に出力する出力回転体とを設けた変速伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載された変速伝動装置があった。特許文献1に記載されたものでは、無段変速部(油圧式無段変速機)の油圧ポンプを貫通するポンプ軸を備え、ポンプ軸の無段変速部から一方に突出する側にエンジンからの駆動力を入力し、ポンプ軸の無段変速部から他方に突出する側から複合型遊星伝動部にポンプ軸の駆動力を伝達して、無段変速部をエンジン駆動力によって駆動し、エンジン駆動力と無段変速部による出力とを複合型遊星伝動部によって合成するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−215499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の技術を採用した場合、ポンプ軸のエンジン駆動力を入力する部位から遊星伝動部に出力する部位までの距離が両部位の間に位置する油圧ポンプのために長くなり、遊星伝動部の駆動負荷に起因するポンプ軸の歪みが発生しにくいようにポンプ軸の強度アップを図る必要が生じ、ポンプ軸の強度アップのため、大径のポンプ軸を備えるなど大型の油圧式無段変速機を採用する必要があった。
【0005】
本発明の目的は、大型化を抑制や回避しやすい変速伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本第1発明は、エンジン駆動力を入力する入力軸と、前記入力軸によって駆動される油圧式無段変速機と、前記入力軸の駆動力と前記油圧式無段変速機の出力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部と、走行装置に出力する出力回転体とを設けた変速伝動装置において、
前記遊星伝動部及び前記出力回転体を、前記油圧式無段変速機に対して前記入力軸のエンジン連結側が位置する側と同じ側に配置するとともに、前記入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から前記遊星伝動部に駆動力を入力するように構成してある。
【0007】
本第1発明の構成によると、遊星伝動部及び出力回転体を、油圧式無段変速機に対して入力軸のエンジン連結側が位置する側と同じ側に配置するとともに、入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から遊星伝動部に駆動力を入力するから、入力軸から遊星伝動部に至る伝動構造を伝動距離が極力短い簡単なものに済ませることができる。入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から遊星伝動部に駆動力を入力するから、入力軸のエンジン駆動力を入力する部位から遊星伝動部に出力する部位までの距離を極力小にでき、遊星伝動部の駆動負荷に起因する入力軸の歪みを発生しにくくして入力軸の大型化を抑制や回避でき、かつ遊星伝動部の駆動負荷をポンプ軸に掛かりにくくでき、ポンプ軸の大型化を抑制や回避して油圧式無段変速機の大型化を抑制や回避できる。
【0008】
従って、入力軸から遊星伝動部に伝動する伝動構造の面においても、入力軸及び油圧式無段変速機の面においても大型化を抑制や回避したコンパクトな状態に得ることができる。
【0009】
本第2発明は、前記入力軸を前記油圧式無段変速機のポンプ軸に対して同軸芯状に配置した状態で前記ポンプ軸に一体回転自在に連結し、前記遊星伝動部のサンギヤ及び前記出力回転体を、前記油圧式無段変速機のモータ軸芯に対して同軸芯状に位置する回転軸芯まわりに回転自在に支持してある。
【0010】
本第2発明の構成によると、入力軸とポンプ軸を同軸芯状態に配置したコンパクトな連動構造で入力軸による油圧式無段変速機の駆動を可能にできる。さらに、サンギヤ、出力回転体及びモータ軸を同軸芯状に配置したコンパクトな連動構造で油圧式無段変速機から遊星伝動部に伝動できるとともに遊星伝動部から出力回転体に伝動できる。
【0011】
従って、入力軸による油圧式無段変速機の駆動の面からも、油圧式無段変速機から遊星伝動部への伝動や遊星伝動部から出力回転体への伝動の面からもコンパクトに得ることができる。
【0012】
本第3発明は、前記遊星伝動部を前記入力軸に対する連動入り状態と連動切り状態に切り換える入力側クラッチ機構を設け、前記出力回転体を前記油圧式無段変速機のモータ軸に対する連動入り状態と連動切り状態に切り換える出力側クラッチ機構を設けてある。
【0013】
本第3発明の構成によると、遊星伝動部を入力軸に対する連動切り状態に切り換え、出力回転体をモータ軸に対する連動入り状態に切り換えることにより、入力軸によって入力されるエンジン駆動力が油圧式無段変速機によって変速した後に出力回転体から出力されるようにHSTモード伝動による変速を行なわせることができる。遊星伝動部を入力軸に対する連動入り状態に切り換え、出力回転体をモータ軸に対する連動切り状態に切り換えることにより、入力軸によって入力されるエンジン駆動力が遊星伝動部に伝達され、エンジン駆動力と油圧式無段変速機による出力とが遊星伝動部によって合成して合成駆動力が出力回転体から出力されるようにHMTモード伝動による変速を行なわせることができる。
【0014】
従って、HSTモード伝動による出力を行なわせて、油圧式無段変速機の変速操作を行なうだけで操作簡単に走行の停止や前後進切換えを行なえるようにでき、HMTモード伝動による出力を行なわせて、伝動効率のよい状態で変速走行を行なえるようにできる。
【0015】
本第4発明は、前記油圧式無段変速機に作動油を供給するチャージポンプを、前記入力軸のエンジン連結側と油圧無段変速機連結側との間に装備してある。
【0016】
本第4発明の構成によると、チャージポンプの駆動負荷を入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間に掛かって、油圧式無段変速機のポンプ軸に掛かり難くできる。
【0017】
従って、チャージポンプを入力軸の駆動力によって駆動するものでありながら、油圧式無段変速機のポンプ軸の大型化を抑制して、油圧式無段変速機を有利に得ることができる。
【0018】
本第5発明は、前記油圧式無段変速機に作動油を供給するチャージポンプを、前記入力軸のエンジン連結側と前記入力側クラッチ機構との間に装備してある。
【0019】
入力軸のエンジン連結側と入力側クラッチ機構の間にあっては、油圧式無段変速機が無くてポンプ設置スペースを確保しやすいのであり、本第5発明の構成によると、ポンプ設置スペースを確保しやすい部位にチャージポンプをコンパクトに装備できる。
【0020】
従って、チャージポンプを入力軸の駆動力によって駆動するものでありながら、チャージポンプをコンパクトに装備した簡素なものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】コンバインの全体を示す側面図である。
【図2】伝動構造を示す概略正面図である。
【図3】HMTモード伝動での変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図4】HSTモード伝動での変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図5】入力側クラッチ機構及び出力側クラッチ機構の操作状態と、伝動切換えクラッチ機構の操作状態と、変速伝動装置の伝動形態との関係を示す説明図である。
【図6】油圧式無段変速機の変速状態と変速伝動装置の出力速度との関係を示す説明図である。
【図7】変速操作装置を示すブロック図である。
【図8】第1の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図9】油圧式無段変速機、前進クラッチ、後進クラッチ及び出力側のクラッチ機構の操作状態と変速伝動装置の伝動形態との関係を示す説明図である。
【図10】第1の別実施構造を備えた変速伝動装置の出力速度を示す説明図である。
【図11】第1の別実施構造を備えた変速伝動装置を変速操作する変速操作装置を示すブロック図である。
【図12】第2の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図13】第3の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図14】第4の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図15】第5の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【図16】第6の別実施構造を備えた変速伝動装置を示す縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明に係る変速伝動装置をコンバインに装備した場合について説明する。
図1に示すように、コンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1によって自走するように構成され、かつ乗用型の運転部2を装備された走行機体と、走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り部4と、機体フレーム3の後部側に刈取り部4の後方に配置して設けられた脱穀装置5と、機体フレーム3の後部側に脱穀装置5の横側方に配置して設けられた穀粒タンク6とを備えて構成してあり、稲、麦などの収穫作業を行う。
【0023】
すなわち、刈取り部4は、機体フレーム3の前部から前方向きに上下揺動自在に延出する刈取り部フレーム4aを備え、この刈取り部フレーム4aが昇降シリンダ7によって揺動操作されることにより、刈取り部4の前端部に設けられた分草具4bが地面近くに下降した下降作業位置と、分草具4bが地面から高く上昇した上昇非作業位置とに昇降する。刈取り部4を下降作業位置に下降させて走行機体を走行させると、刈取り部4は、分草具4bによって刈取対象の植立穀稈を引起し経路に導入し、引起し経路に導入した植立穀稈を引起し装置4cによって引起しながらバリカン型の刈取装置4dによって刈取り、刈取り穀稈を供給装置4eによって脱穀装置5に供給する。脱穀装置5は、供給装置4eからの刈取り穀稈の株元側を脱穀フィードチェーン5aによって挟持して機体後方向きに搬送し、刈取り穀稈の穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理し、脱穀穀粒を穀粒タンク6に送り込む。
【0024】
運転部2に備えられた運転座席2aの下方にエンジン8を設け、エンジン8が出力する駆動力を、機体フレーム3の前端部に設けたミッションケース11を備えた伝動構造10によって左右一対の走行装置1,1に伝達するように構成してある。
【0025】
図2は、伝動構造10の概略構造を示す正面図である。この図に示すように、伝動構造10は、エンジン8の出力軸8aからのエンジン駆動力を、伝動ベルト12aが備えられた伝動機構12を介してミッションケース11の上端部の横側に設けられた変速伝動装置20に入力し、この変速伝動装置20の出力を、ミッションケース11に内装された走行ミッション13に入力して走行ミッション13が備える左右一対の操向クラッチ機構14,14の左側の操向クラッチ機構14から左側の走行装置1の駆動軸1aに伝達し、右側の操向クラッチ機構14から右側の走行装置1の駆動軸1aに伝達する。
【0026】
伝動構造10は、ミッションケース11に内装された刈取りミッション15を備え、変速伝動装置20の出力を、刈取りミッション15に入力して刈取り出力軸16から刈取り部4の駆動軸4fに伝達する。
【0027】
変速伝動装置20について説明する。
図3,4に示すように、変速伝動装置20は、ミッションケース11の上端側に横側部が連結される変速ケース21を備えた遊星変速部20Aと、変速ケース21のミッションケース11に連結する側とは反対側の横側部にケーシング31が連結された油圧式無段変速機30とを備えて構成してある。
【0028】
変速ケース21は、遊星伝動部40及び伝動機構50を収容する主ケース部21aと、入力軸22及び伝動軸23と油圧式無段変速機30の連結部を収容し、かつ変速ケース21とケーシング31のポートブロック34を連結する連結ケース部21bとを備えて構成してある。変速ケース21は、主ケース部21aの出力回転体24が位置する下部側面の横外側に膨出形成された膨出部分21cでミッションケース11に連結される。連結ケース部21bの走行機体上下方向での大きさが主ケース部21aの走行機体上下方向での大きさよりも小になっている。主ケース部21aを、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、ケーシング31を、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、遊星変速部20Aと油圧式無段変速機30が機体横方向に並びながら、変速伝動装置20全体としての機体横方向幅が小となり、変速伝動装置20は、横外側に突出しないように走行機体の左右方向ではコンパクトな状態でミッションケース11の横側部に連結されている。さらに、ケーシング31の下部側面には下端側ほど機体内側に傾斜する傾斜面31Aが形成され、この傾斜面31Aにモータ軸33aのベアリングを支持する膨出部31Bが形成されて、変速伝動装置20の更なるコンパクト化が図られている。また、ケーシング31の上面には上向きにオイルフィルタ20Fが配置され、オイルフィルタ20Fの横外側への突出を回避して更なるコンパクトが図られている。
【0029】
遊星変速部20Aは、変速ケース21の上端側に回転自在に支持された機体横向きの入力軸22と、変速ケース21の下端側に入力軸22と平行又はほぼ平行に回転自在に支持された伝動軸23及び回転軸型の出力回転体24と、伝動軸23に支持された遊星伝動部40と、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41とに亘って設けた伝動機構50とを備えている。
【0030】
入力軸22は、油圧式無段変速機30のポンプ軸32aに対して同軸芯状に並ぶよう配置されている。入力軸22は、変速ケース21から横外側に突出している側で伝動機構12を介してエンジン8の出力軸8aに連結するように構成され、エンジン8に連結される側とは反対側でジョイント22aを介して油圧式無段変速機30のポンプ軸32aに一体回転自在に連結されており、伝動機構12を介してエンジン駆動力を入力し、エンジン駆動力によって駆動されて油圧式無段変速機30の油圧ポンプ32を駆動する。
【0031】
出力回転体24は、油圧式無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に油圧式無段変速機30のモータ軸33aと同軸芯状に並ぶように配置されている。出力回転体24は、変速ケース21から横外側に突出している側で走行ミッション11の入力部に連動するよう構成されており、遊星伝動部40及び油圧式無段変速機30からの駆動力を走行ミッション13を介して左右一対の走行装置1,1に出力する。
【0032】
油圧式無段変速機30は、ケーシング31の上端側にポンプ軸32aが回転自在に支持されている油圧ポンプ32と、ケーシング31の下端側にモータ軸33aが回転自在に支持されている油圧モータ33とを備えて構成してある。油圧ポンプ32は、可変容量形のアキシャルプランジャポンプによって構成し、油圧モータ33は、アキシャルプランジャモータによって構成してある。油圧モータ33は、油圧ポンプ32によって吐出され、ポートブロック34の内部に形成された油路を介して供給される圧油によって駆動される。油圧式無段変速機30には、ポンプ軸32aの端部に装備されたチャージポンプ90によって補充用の作動油が供給される。チャージポンプ90は、ポンプ軸32aに一体回転自在に取り付けられたロータ90a、及びケーシング31に脱着自在に連結されたポンプケーシング90bを備えている。
【0033】
したがって、油圧式無段変速機30は、油圧ポンプ32が備える斜板32bの角度変更操作が行なわれることにより、前進伝動状態と後進伝動状態と中立状態とに切り換わる。油圧式無段変速機30は、前進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を前進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、後進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を後進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、前進伝動状態と後進伝動状態のいずれにおいても、エンジン駆動力を無段階に変速して出力する。油圧式無段変速機30は、中立状態に切換え操作されると、モータ軸33aからの出力を停止する。
【0034】
遊星伝動部40は、油圧式無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に、モータ軸33aと出力回転体24の間に位置する状態で配置されている。遊星伝動部40は、伝動軸23に支持されるサンギヤ42と、サンギヤ42に噛合う複数個の遊星ギヤ43と、各遊星ギヤ43に噛合うリングギヤ44と、複数個の遊星ギヤ43を回転自在に支持するキャリヤ41とを備えている。キャリヤ41は、遊星ギヤ43を延出端部で回転自在に支持するアーム部41aと、複数本のアーム部41aの基端側が連結している筒軸部41bとを備え、筒軸部41bで伝動軸23にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0035】
伝動軸23とモータ軸33aとは、ジョイント23aを介して一体回転自在に連結し、伝動軸23とサンギヤ42とは、スプライン構造を介して一体回転自在に連結しており、サンギヤ42は、モータ軸33aに対して一体回転自在に連動している。
【0036】
リングギヤ44と出力回転体24とは、伝動軸23に対してこれの軸芯方向に並んで相対回転自在に外嵌した環状の遊星側連動体26及び環状の出力側連動体27によって一体回転自在に連動している。すなわち、遊星側連動体26は、遊星側連動体26の外周部から放射状にかつ一体回転自在に延出する複数本の係合アーム部26aを備えている。複数本の係合アーム部26aは、リングギヤ44の複数箇所に係合しており、遊星側連動体26は、リングギヤ44に対して一体回転自在に連動している。出力側連動体27は、遊星側連動体26に対して係合爪27aによって一体回転自在に係合し、出力回転体24に対してスプライン構造によって一体回転自在に係合しており、遊星側連動体26と出力回転体24とを一体回転自在に連結している。遊星側連動体26は、伝動軸23にベアリングを介して相対回転自在に支持されている。出力側連動体27は、変速ケース21にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0037】
伝動機構50は、キャリヤ41の筒軸部41bに一体回転自在に設けられたキャリヤ41の入力ギヤ41cに噛合う状態で入力軸22にニードルベアリングを介して相対回転自在に支持された伝動ギヤ52と、伝動ギヤ52と入力軸22に亘って設けた入力側クラッチ機構55とを備えて構成してある。
【0038】
入力側クラッチ機構55は、入力軸22に一体回転及び摺動操作自在に支持されたクラッチ体56と、クラッチ体56の一端側と伝動ギヤ52の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体57とを備えて構成してある。クラッチ体56は、クラッチ体56の端部に内嵌された油圧ピストン58によって摺動操作される。クラッチ機構本体57は、クラッチ体56に設けた噛合い爪と伝動ギヤ52に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0039】
入力側クラッチ機構50は、クラッチ機構本体57が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52を一体回転自在に連動させるように入り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41を入力軸22に対する連動入り状態に切り換える。
【0040】
入力側クラッチ機構50は、クラッチ機構本体57が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52の連動を絶つように切り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41を入力軸22に対する連動切り状態に切り換える。
【0041】
したがって、遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構50が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸22のエンジン連結側と無段変速機連結側との間に位置する部位から入力軸22の駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力する。遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構50が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22に対する連動を絶たれた状態になる。
【0042】
遊星伝動部40のサンギヤ42と遊星側連動体26とに亘り、伝動軸23に外嵌されたクラッチ体61を備えた出力側クラッチ機構60を設けてある。
【0043】
クラッチ体61は、クラッチ体61の内周側に形成してある油室に圧油が供給されることにより、入り付勢ばね62に抗してサンギヤ42に向けて摺動操作されて切り位置に切り換わり、油室から圧油が排出されることにより、入り付勢ばね62によって遊星側連動体26に向けて摺動操作されて入り位置に切り換わる。クラッチ体61は、入り位置に切り換わると、クラッチ体61に設けてあるクラッチ爪61aと遊星側連動体26に設けてあるクラッチ爪とが係合して、遊星側連動体26に対して一体回転自在に連結する。クラッチ体61は、サンギヤ42に対して係合爪61bによって一体回転自在に係合した状態を維持しながら摺動操作され、サンギヤ42に対する係合状態を維持しながら入り位置になる。クラッチ体61は、切り位置に切り換わると、クラッチ爪61aによる遊星側連動体26に対する係合を解除する。
【0044】
したがって、出力側クラッチ機構60は、クラッチ体61が切り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26の連動を絶つことで、モータ軸33aの出力回転体24に対する連動を絶ち、この状態において遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24が一体回転自在に連動する第1伝動状態を現出し、遊星伝動部40の合成駆動力の出力回転体24からの出力を可能にする。
【0045】
出力側クラッチ機構60は、クラッチ体61が入り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26を一体回転自在に連動させることで、モータ軸33aを出力回転体24に一体回転自在に連動させる第2伝動状態を現出し、油圧無段変速機30による出力の出力回転体24からの出力を可能し、かつ、サンギヤ42と伝動軸23が一体回転自在に連動し、リングギヤ44と遊星側連動体26が一体回転自在に連動していることにより、遊星ギヤ43の自転が発生しないように、サンギヤ42と遊星ギヤ43とリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転することを可能にする。
【0046】
出力側クラッチ機構60は、遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24とを連動状態に維持しながら、遊星伝動部40のサンギヤ43と出力回転体24とを連動入り状態と連動切り状態に切換える。
【0047】
したがって、遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22の駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力し、油圧無段変速機30のモータ軸33aからの出力を伝動軸23を介してサンギヤ42に入力し、入力軸22の駆動力と油圧無段変速機30の出力とを合成して合成駆動力を発生させ、発生させた合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に出力する。
【0048】
入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60を備えて、伝動切換えクラッチ機構70を構成してある。伝動切換えクラッチ機構70は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッキ機構60が切換え操作されることにより、単独伝動状態と合成伝動状態とに切り換わる。
【0049】
図5は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の操作状態と、伝動切換えクラッチ機構70の操作状態と、変速伝動装置20の伝動形態との関係を示す説明図である。図5に示す「切」は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の切り状態を示し、「入」は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の入り状態を示す。この図に示すように、伝動切換えクラッチ機構70は、入力側クラッチ機構55が切り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が入り状態に切換え操作されると、単独伝動状態に切り換わり、入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が切り状態に切換え操作されると、合成伝動状態に切り換わる。
【0050】
図3は、HMTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、伝動切換えクラッチ機構70は、合成伝動状態に切り換わると、入力軸22の駆動力と油圧式無段変速機30の出力とが遊星伝動部40によって合成され、遊星伝動部40による合成駆動力が出力回転体24に伝達されるHMTモード伝動を変速伝動装置20に現出させる。変速伝動装置20は、HMTモード伝動の状態になると、入力軸22に入力されたエンジン駆動力を油圧式無段変速機30及び遊星伝動部40の両方によって変速し、変速後の駆動力をリングギヤ44から出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0051】
図4は、HSTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、伝動切換えクラッチ機構70は、単独伝動状態に切り換わると、油圧式無段変速機30の出力が遊星伝動部40による変速を受けないで単独で出力回転体24に伝達されるHSTモード伝動を変速伝動装置20に現出させる。変速伝動装置20は、HSTモード伝動の状態になると、エンジン駆動力を、油圧式無段変速機30と遊星伝動部40のうちの遊星伝動部40による変速を行なわず、油圧式無段変速機30だけによる変速を行い、変速後の駆動力をモータ軸33aから伝動軸23、サンギヤ42、クラッチ体61、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達し、出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0052】
伝動切換えクラッチ機構70は、変速伝動装置20をHSTモード伝動の状態に操作した場合、入力軸22から遊星伝動部40のキャリヤ41への伝動が絶たれた状態にあり、サンギヤ42が伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあり、リングギヤ44が遊星側連動体26、クラッチ体61、サンギヤ42及び伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあることから、遊星伝動部40のサンギヤ42、遊星ギヤ43及びリングギヤ44をモータ軸33aと一体回転するよう操作することになり、変速伝動装置20は、HSTモード伝動を現出する状態に操作された場合、遊星ギヤ43の自転を発生させず、すなわちサンギヤ42と遊星ギヤ43の相対回転及び遊星ギヤ43とリングギヤ44の相対回転を発生させずに、油圧無段変速機30のモータ軸33aの出力を出力回転体24に伝達する。
【0053】
図6は、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態における油圧式無段変速機30の変速状態と変速伝動装置20の出力回転体24による出力速度との関係を示す説明図である。図6の横軸は、油圧式無段変速機30の変速状態を示し、「n」は、油圧式無段変速機30の中立位置を示し、「−max」は、油圧式無段変速機30の後進伝動状態での最高速位置を示し、「+max」は、油圧式無段変速機30の前進伝動状態での最高速位置を示す。図6の縦軸は、出力回転体24による出力速度を示す。図6に示す実線R及び実線FLは、入力側クラッチ機構55が切り状態に、出力側クラッチ機構60が入り状態に操作された場合、すなわち変速伝動装置20がHSTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。図6に示す実線FHは、入力側クラッチ機構55が入り状態に、出力側クラッチ機構60が切り状態に操作された場合、すなわち変速伝動装置20がHMTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。
【0054】
実線R及び実線FLで示すように、入力側クラッチ機構55が切り状態に維持され、出力側クラッチ機構60が入り状態に維持された状態において、油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に操作されると、出力速度が後進の最高速度「RVH」になる。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」から中立位置「n」に向けて変速操作されるに伴い、後進の出力速度が無段階に減速していく。油圧式無段変速機30が中立位置「n」に至ると、出力速度が零「0」になる。油圧式無段変速機30が中立位置「n」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力速度が無段階に増速していく。油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、出力速度が前進の中間速度「FVM」になる。
【0055】
実線FHで示すように、油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、入力側クラッチ機構55が切り状態から入り状態に切換え制御され、出力側クラッチ機構60が入り状態から切り状態に切換え制御され、入力側クラッチ機構55が入り状態に維持され、出力側クラッチ機構60が切り状態に維持された状態において、油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力速度が無段階に増速していく。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、前進の出力速度が最高速度「FVH」になる。
【0056】
図6に示す「N」は、実線FHを油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」を超えて出力回転が零「0」となる点まで延長したときの横軸の値を示す。油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」の横軸の値を1とすると、N=1.6〜2.2となる。つまり、N=1.6〜2.2となるように、油圧式無段変速機30における油圧ポンプ32及び油圧モータ33の容量、並びに遊星伝動部40の伝動ギヤ比を設定してある。
【0057】
図7は、変速伝動装置20を変速操作する変速操作装置71を示すブロック図である。この図に示すように、変速操作装置71は、油圧式無段変速機30の変速操作部30a、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の操作部55a,60aに連係された制御装置72と、制御装置72に連係された変速検出センサ73、エンジン回転数センサ74、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76とを備えている。
【0058】
変速操作部30aは、油圧式無断変速機30における油圧ポンプ32の斜板32bの角度変更操作を行なう電動アクチュエータ又は油圧アクチュエータによって構成してある。入力側クラッチ機構55の操作部55aは、入力軸22の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン58に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン58を操作してクラッチ体56を摺動操作することにより、入力側クラッチ機構55を切り換え操作する。出力側クラッチ機構60の操作部60aは、伝動軸23の内部に形成された操作油路を介してクラッチ体61の油室に接続された操作弁によって構成してあり、クラッチ体61の油室に対する操作油の供給及び排出を行なうことにより、クラッチ体61を摺動操作して出力側クラッチ機構60を切り換え操作する。
【0059】
変速検出センサ73は、変速レバー77の操作位置を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。エンジン回転数センサ74は、エンジン8の回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。変速機出力回転数センサ75は、油圧式無段変速機30の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。出力回転数センサ76は、変速伝動装置20の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。
【0060】
制御装置72は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、変速制御手段78を備えている。変速制御手段78は、変速検出センサ73及び変速機出力回転数センサ75による検出情報を基に、油圧式無段変速機30の変速状態が変速レバー77の操作位置に対応したものになるように、変速操作部30aを操作して油圧式無段変速機30を変速制御する。
【0061】
変速制御手段78は、油圧式無段変速機30を変速制御するに加え、エンジン回転数センサ74による検出情報を基に、アクセルセットされたエンジン8の回転数を検出し、この検出結果、変速検出センサ73、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76による検出情報を基に、図5,6に示す如く変速伝動装置20がHSTモード伝動及びHMTモード伝動を現出して伝動するように、操作部55a及び操作部60aを操作して入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60を所定のタイミングで切り換え制御する。
【0062】
〔別実施構造〕
図8は、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41とに亘って設けた前後進切換え機構80を備えている。
【0063】
第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間であって、入力軸22のエンジン連結側と前進クラッチ82との間に装備したチャージポンプ90を備え、このチャージポンプ90によって油圧式無段変速機30に補充用の作動油が供給される。チャージポンプ90は、入力軸22に一体回転自在に連結したロータ90a、及び変速ケース21に脱着自在に取り付けたポンプケーシング90bを備えている。
【0064】
前後進切換え機構80は、入力軸22にニードルベアリングを介して回転自在に支持される前進伝動ギヤ81と、前進伝動ギヤ81と入力軸22に亘って設けた前進クラッチ82と、入力軸22と平行又はほぼ平行な配置で変速ケース21に回転自在に支持された後進伝動軸83と、入力軸22に一体回転自在に支持された伝動ギヤ84に噛合った状態で後進伝動軸83に相対回転支持された逆転用の入力ギヤ85と、入力ギヤ85と後進伝動軸83に亘って設けた後進クラッチ86と、後進伝動軸83に一体回転自在に設けた後進伝動ギヤ87とを備えて構成してある。
【0065】
前進伝動ギヤ81及び後進伝動ギヤ87は、キャリヤ41の筒軸部41bに一体回転自在に設けられたキャリヤ41の入力ギヤ41cに噛合っている。入力ギヤ85及び伝動ギヤ84は、遊星伝動部40に対して前進伝動ギヤ81及び後進伝動ギヤ87が位置する側とは反対側に位置している。前進伝動ギヤ81及び後進伝動ギヤ87は、サンギヤ42に対して入力ギヤ85及び伝動ギヤ84が位置する側とは反対側に位置する遊星伝動部40の入力ギヤ41cに噛合っている。
【0066】
前進クラッチ82は、入力軸22に一体回転及び摺動操作自在に支持された前進クラッチ体82aと、前進クラッチ体82aの一端側と前進伝動ギヤ81の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体82bとを備えて構成してある。前進クラッチ体82aは、前進クラッチ体82aの端部に内嵌された油圧ピストン88によって摺動操作される。クラッチ機構本体82bは、前進クラッチ体82aに設けた噛合い爪と前進伝動ギヤ81に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0067】
後進クラッチ86は、後進伝動軸83に一体回転及び摺動操作自在に支持された後進クラッチ体86aと、後進クラッチ体86aの一端側と入力ギヤ85の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体86bとを備えて構成してある。後進クラッチ体86aは、後進クラッチ体86aの端部に内嵌された油圧ピストン89によって摺動操作される。クラッチ機構本体86bは、後進クラッチ体86aに設けた噛合い爪と入力ギヤ85に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0068】
前後進切換え機構80は、前進クラッチ82が入り状態に切換え操作され、後進クラッチ86が切り状態に切換え操作されることにより、前進伝動状態になり、入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間に位置する前進クラッチ体82aから入力軸22の駆動力を入力し、入力軸22の駆動力を前進駆動力に変換して前進伝動ギヤ81からキャリヤ41に伝達する。
【0069】
前後進切換え機構80は、前進クラッチ82が切り状態に切換え操作され、後進クラッチ86が入り状態に切換え操作されることにより、後進伝動状態になり、入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間に位置する伝動ギヤ84から入力軸22の駆動力を入力し、入力軸22の駆動力を後進駆動力に変換して後進伝動ギヤ87から遊星伝動部40のキャリヤ41に伝達する。
【0070】
前後進切換え機構80は、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に切換え操作されることにより、中立状態になり、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41との連動を絶つ。
【0071】
図9は、油圧式無段変速機30、前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60の操作状態と変速伝動装置20の伝動形態との関係を示す説明図である。図9に示す「前進」は、油圧式無段変速機30の前進伝動状態を示し、「後進」は、油圧式無段変速機30の後進伝動状態を示す。図9に示す「切」は、前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60の切り状態を示し、「入」は、前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60の入り状態を示す。
【0072】
変速伝動装置20は、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に切換え制御されると、HSTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、HSTモード伝動の状態になると、入力軸22に入力されたエンジン駆動力を遊星伝動部40に伝達せず、入力軸22に入力されたエンジン駆動力を油圧式無段変速機30によって変速し、変速後の駆動力をモータ軸33aから伝動軸23、サンギヤ42、クラッチ体61、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0073】
変速伝動装置20は、前進クラッチ82が入り状態に切換え制御され、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構80が切り状態に切換え制御されると、前進側のHMTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、前進側のHMTモード伝動になると、入力軸20によって入力されたエンジン駆動力を前後進切換え機構80によって前進駆動力に変換して遊星伝動部40に伝達し、遊星伝動部40によって前後進切換え機構80からの前進駆動力と油圧式無段変速機30のモータ軸33aからの出力とを合成して前進側の合成駆動力を発生させ、発生した前進側の合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0074】
変速伝動装置20は、後進クラッチ86が入り状態に切換え制御され、前進クラッチ82及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御されると、後進側のHMTモード伝動を現出する状態になる。変速伝動装置20は、後進側のHMTモード伝動になると、入力軸20によって入力されたエンジン駆動力を前後進切換え機構80によって後進駆動力に変換して遊星伝動部40に伝達し、遊星伝動部40によって前後進切換え機構80からの後進駆動力と油圧式無段変速機30のモータ軸33aからの出力とを合成して後進側の合成駆動力を発生させ、発生した後進側の合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から左右一対の走行装置1,1に伝達する。
【0075】
図10は、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20の出力速度を示す説明図であり、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態における油圧式無段変速機30の変速状態と変速伝動装置20の出力回転体24による出力速度との関係を示す説明図である。図10の横軸は、油圧式無段変速機30の変速状態を示し、「n」は、油圧式無段変速機30の中立位置を示し、「−max」は、油圧式無段変速機30の後進伝動状態での最高速位置を示し、「+max」は、油圧式無段変速機30の前進伝動状態での最高速位置を示す。図10の縦軸は、出力回転体24による出力速度を示す。図10に示す実線RL及び実線FLは、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切リ状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20がHSTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。図10に示す実線FM,FHは、前進クラッチ82が入り状態に切り換え制御され、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20が前進側のHMTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。図10に示す実線RM,RHは、後進クラッチ86が入り状態に切り換え制御され、前進クラッチ82及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御された場合、すなわち変速伝動装置20が後進側のHMTモード伝動の状態に操作された場合における出力速度の変化を示す。
【0076】
図9に示すように、かつ図10の実線FLで示すように、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に制御され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に制御された状態において、油圧式無段変速機30が中立位置「n」に操作されると、出力が零「0」になる。
【0077】
前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されると、前進駆動力が出力される。前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力が無段階に増速する。油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、出力速度が前進の中間速度「FV1」になる。
【0078】
図9に示すように、かつ図10の実線FM,FHで示すように、油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、前進クラッチ82が入り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構60が切り状態に切換え制御され、前進クラッチ82が入り状態に維持されながら、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に維持されながら、油圧無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されるに伴い、前進の出力が中間速度「FV1」から無段階に増速する。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、出力が前進の最高速度「FV2」になる。
【0079】
図9に示すように、かつ図10の実線RLで示すように、前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されると、後進駆動力が出力される。前進クラッチ82及び後進クラッチ86が切り状態に維持され、出力側のクラッチ機構60が入り状態に維持されながら、油圧式無段変速機30が中立位置「n」から後進伝動状態の最高速位置「−max」に向けて変速操作されるに伴い、後進の出力が無段階に増速する。油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、出力速度が後進の中間速度「RV1」になる。
【0080】
図9に示すように、かつ図10の実線RM,RHで示すように、油圧式無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」に至ると、後進クラッチ86が入り状態に切換え制御され、出力側のクラッチ機構80が切り状態に切換え制御され、後進クラッチ86が入り状態に維持されながら、前進クラッチ82及び出力側のクラッチ機構60が切り状態に維持されながら、油圧無段変速機30が後進伝動状態の最高速位置「−max」から前進伝動状態の最高速位置「+max」に向けて変速操作されるに伴い、後進の出力が中間速度「RV1」から無段階に増速する。油圧式無段変速機30が前進伝動状態の最高速位置「+max」に至ると、出力が後進の最高速度「RV2」になる。
【0081】
図10に示す「N」は、実線FH,FMを油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」を超えて出力回転が零「0」となる点まで延長したときの横軸の値を示す。油圧式無段変速機30の前進側の最高速位置「+max」の横軸の値を1とすると、N=1.6〜2.2となる。つまり、N=1.6〜2.2となるように、油圧式無段変速機30における油圧ポンプ32及び油圧モータ33の容量、並びに遊星伝動部40の伝動ギヤ比を設定してある。
【0082】
図11は、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20を変速操作する変速操作装置91を示すブロック図である。この図に示すように、変速操作装置91は、油圧式無段変速機30の変速操作部30a、並びに前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60の操作部82c,86c,60aに連係された制御装置72と、制御装置72に連係された変速検出センサ73、エンジン回転数センサ74、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76とを備えている。
【0083】
変速操作部30aは、油圧式無断変速機30における油圧ポンプ32の斜板32bの角度変更操作を行なう電動アクチュエータ又は油圧アクチュエータによって構成してある。前進クラッチ82の操作部82cは、入力軸22の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン88に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン88を操作して前進クラッチ体82aを摺動操作することにより、前進クラッチ82を切り換え操作する。後進クラッチ86の操作部86cは、後進伝動軸83の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン89に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン89を操作して後進クラッチ体86aを摺動操作することにより、後進クラッチ86を切り換え操作する。出力側のクラッチ機構60の操作部60aは、伝動軸23の内部に形成された操作油路を介してクラッチ体61の油室に接続された操作弁によって構成してあり、クラッチ体61の油室に対する操作油の供給及び排出を行なうことにより、クラッチ体61を摺動操作して出力側のクラッチ機構60を切り換え操作する。
【0084】
変速検出センサ73は、変速レバー77の操作位置を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。エンジン回転数センサ74は、エンジン8の回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。変速機出力回転数センサ75は、油圧式無段変速機30の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。出力回転数線さ76は、変速伝動装置20の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。
【0085】
制御装置72は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、変速制御手段78を備えている。変速制御手段78は、変速検出センサ73及び変速機出力回転数センサ75による検出情報を基に、油圧式無段変速機30の変速状態が変速レバー77の操作位置に対応したものになるように、変速操作部30aを操作して油圧式無段変速機30を変速制御する。
【0086】
変速制御手段78は、油圧式無段変速機30を変速制御するに加え、エンジン回転数センサ74による検出情報を基に、アクセルセットされたエンジン8の回転数を検出し、この検出結果、変速検出センサ73、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76による検出情報を基に、図9,10に示す如く変速伝動装置20がHSTモード伝動、前進側のHMTモード伝動及び後進側のHMTモード伝動を現出して伝動するように、操作部82c、操作部86c及び操作部60aを操作して前進クラッチ82、後進クラッチ86及び出力側のクラッチ機構60を所定のタイミングで切り換え制御する。
【0087】
図12は、第2の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第2の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、油圧式無段変速機30に補充用の作動油を供給するチャージポンプ90を、入力軸22のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間であって、入力軸22のエンジン連結側と入力側クラッチ機構55との間に装備してある。チャージポンプ90は、入力軸22に一体回転自在に連結したロータ90a、及び変速ケース21に脱着自在に連結されたポンプケーシング90bを備えている。
【0088】
図13は、第3の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第3の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、油圧式無段変速機30を、可変容量型の油圧ポンプ32と可変容量型の油圧モータ33を備えて構成してある。
【0089】
図14は、第4の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第4の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、出力側クラッチ機構60を、伝動軸23に一体回転自在に設けた支持体63と遊星側連動体26に設けたクラッチボディ部とに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部64を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この出力側クラッチ機構60は、摩擦クラッチ部64がサンギヤ42に支持された油圧ピストン65によって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、モータ軸33aと出力回転体24を連動入り状態と連動切り状態に切換え操作する。
【0090】
図15は、第5別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第5の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、入力側クラッチ機構55を、伝動ギヤ52に一体回転自在に設けた支持部と入力軸22に一体回転自在に設けたクラッチボディ部59aとに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部59を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この入力側クラッチ機構55は、摩擦クラッチ部59がクラッチボディ部59aに内装された油圧ピストン59bによって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52を連動入り状態と連動切る状態に切換え操作する。
【0091】
図16は、第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、出力側クラッチ機構60を、伝動軸23に一体回転自在に設けた支持部66と出力側連動体27に一体回転自在に連結されたクラッチボディ67aとに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部67を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この出力側クラッチ機構60は、摩擦クラッチ部67がクラッチボディ67aに内装された油圧ピストン67bによって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、モータ軸33aと出力回転体24を連動入り状態と連動切り状態に切換え操作する。
【0092】
第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、リングギヤ44とモータ軸33aとを連動入り状態と連動切り状態に切換え自在な摩擦クラッチ機構79を備え、HSTモード伝動においてサンギヤ42、遊星ギヤ43及びリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転する状態と、HSTモード伝動においてリングギヤ44が回転自在な状態とに切換え自在になっている。
【0093】
〔別実施例〕
(1)上記した実施例では、入力軸22の駆動力を遊星伝動部40のキャリヤ41に入力し、遊星伝動部40のリングギヤ44の駆動力を出力回転体24に伝達するよう構成した例を示したが、入力軸22の駆動力を遊星伝動部40のリングギヤ44に入力し、遊星伝動部40のキャリヤ41の駆動力を出力回転体24に伝達するよう構成して実施してもよい。
【0094】
(2)上記した実施例では、入力軸22をポンプ軸32aと別体に形成してポンプ軸32aにジョイント22aを介して連結し、伝動軸23をモータ軸33aと別体に形成してモータ軸33aにジョイント23aを介して連結した例を示したが、入力軸22をポンプ軸32aに一体形成し、伝動軸23をモータ軸33aに一体形成して実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、コンバインの他、田植機、運搬車など各種の車両に利用できる。
【符号の説明】
【0096】
1 走行装置
22 入力軸
24 出力回転体
30 油圧式無段変速機
32a ポンプ軸
33a モータ軸
40 遊星伝動部
42 サンギヤ
55 入力側クラッチ機構
60 出力側クラッチ機構
90 チャージポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン駆動力を入力する入力軸と、前記入力軸によって駆動される油圧式無段変速機と、前記入力軸の駆動力と前記油圧式無段変速機の出力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部と、走行装置に出力する出力回転体とを設けた変速伝動装置であって、
前記遊星伝動部及び前記出力回転体を、前記油圧式無段変速機に対して前記入力軸のエンジン連結側が位置する側と同じ側に配置するとともに、前記入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から前記遊星伝動部に駆動力を入力するように構成してある変速伝動装置。
【請求項2】
前記入力軸を前記油圧式無段変速機のポンプ軸に対して同軸芯状に配置した状態で前記ポンプ軸に一体回転自在に連結し、
前記遊星伝動部のサンギヤ及び前記出力回転体を、前記油圧式無段変速機のモータ軸芯に対して同軸芯状に位置する回転軸芯まわりに回転自在に支持してある請求項1記載の変速伝動装置。
【請求項3】
前記遊星伝動部を前記入力軸に対する連動入り状態と連動切り状態に切り換える入力側クラッチ機構を設け、前記出力回転体を前記油圧式無段変速機のモータ軸に対する連動入り状態と連動切り状態に切り換える出力側クラッチ機構を設けてある請求項1又は2記載の変速伝動装置。
【請求項4】
前記油圧式無段変速機に作動油を供給するチャージポンプを、前記入力軸のエンジン連結側と油圧無段変速機連結側との間に装備してある請求項1〜3のいずれか一項に記載の変速伝動装置。
【請求項5】
前記油圧式無段変速機に作動油を供給するチャージポンプを、前記入力軸のエンジン連結側と前記入力側クラッチ機構との間に装備してある請求項3記載の変速伝動装置。
【請求項1】
エンジン駆動力を入力する入力軸と、前記入力軸によって駆動される油圧式無段変速機と、前記入力軸の駆動力と前記油圧式無段変速機の出力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部と、走行装置に出力する出力回転体とを設けた変速伝動装置であって、
前記遊星伝動部及び前記出力回転体を、前記油圧式無段変速機に対して前記入力軸のエンジン連結側が位置する側と同じ側に配置するとともに、前記入力軸のエンジン連結側と油圧式無段変速機連結側との間の部位から前記遊星伝動部に駆動力を入力するように構成してある変速伝動装置。
【請求項2】
前記入力軸を前記油圧式無段変速機のポンプ軸に対して同軸芯状に配置した状態で前記ポンプ軸に一体回転自在に連結し、
前記遊星伝動部のサンギヤ及び前記出力回転体を、前記油圧式無段変速機のモータ軸芯に対して同軸芯状に位置する回転軸芯まわりに回転自在に支持してある請求項1記載の変速伝動装置。
【請求項3】
前記遊星伝動部を前記入力軸に対する連動入り状態と連動切り状態に切り換える入力側クラッチ機構を設け、前記出力回転体を前記油圧式無段変速機のモータ軸に対する連動入り状態と連動切り状態に切り換える出力側クラッチ機構を設けてある請求項1又は2記載の変速伝動装置。
【請求項4】
前記油圧式無段変速機に作動油を供給するチャージポンプを、前記入力軸のエンジン連結側と油圧無段変速機連結側との間に装備してある請求項1〜3のいずれか一項に記載の変速伝動装置。
【請求項5】
前記油圧式無段変速機に作動油を供給するチャージポンプを、前記入力軸のエンジン連結側と前記入力側クラッチ機構との間に装備してある請求項3記載の変速伝動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−211671(P2012−211671A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78544(P2011−78544)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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