説明

変速機の変速操作機構

【課題】 反転レバーを備えた変速機の変速操作機構において、リンク効率を向上させ、チェンジレバーの操作力を軽減することができる変速機の変速操作機構を提供する。
【解決手段】 反転レバー20とシフトフォーク40との接続部において、反転レバー側またはシフトフォーク側の何れか一方に、シフトフォークガイドロッド48の軸線方向と交差する方向に延びる溝部42を形成し、他方には摺動部材支持軸22に回動自在に支持されるとともに溝部42に嵌合する樹脂製の摺動部材25を設け、溝部42が金属製の一対の第1摺動面43を有するように構成し、摺動部材25が第1摺動面43の少なくとも一方と面接触しつつ摺動する一対の第2摺動面27を有するように構成し、反転レバー20とシフトフォーク40とを、第1摺動面43と第2摺動面27との当接面においてシフトフォーク40を移動させる力の伝達を行うように接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車等に搭載される変速機の変速操作機構に関し、特に、シフトロッドの動きをシフトフォークに逆方向に伝達する反転レバーを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速機の変速操作機構として、例えば一般的な手動変速機のように、チェンジレバーのシフト操作に応じて軸方向に移動するシフトロッドと、シフトロッドの移動にリンクして移動し、同期機構(ギヤを切換え後の回転速度に合わせてから切換える周知の機構)を操作するシフトフォークとを備えたものが広く知られている。多くの場合、シフトロッドの移動方向とシフトフォークの移動方向とが同じであり、これらは軸方向に一体移動するように構成されている。
【0003】
しかし、ギヤのレイアウトとシフトパターン(チェンジレバーの、どの位置を第何速に対応させるかというパターン)との関係上、シフトロッドの移動方向とは逆方向にシフトフォークを移動させる必要が生じる場合がある。そのような場合には、反転レバーを用いてシフトロッドの動きを逆方向にシフトフォークに伝達させる構造が知られている。具体的には、シフトロッドと略平行に設けられたシフトフォークガイドロッドにシフトフォークを支持させる。そして、変速機ケースに設けられた反転レバー支持軸に上記反転レバーを回動自在に支持させ、反転レバー支持軸を挟んで反転レバーの一端をシフトロッド側に接続し、他端をシフトフォーク側に接続する。この構成によれば、シフトロッドを移動させると反転レバーが回動し、反転レバー支持軸を挟んだ反対側に接続されたシフトフォークがシフトロッドと逆方向に移動する。すなわち、シフトロッドの動きをシフトフォークに逆方向に伝達させることができる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
反転レバーとシフトフォークとの接続部(力を伝達するポイント)付近において、反転レバー側の部材は反転レバー支持軸を中心とする円弧状軌跡を描き、シフトフォーク側の部材はシフトフォークガイドロッドに沿って直線状軌跡を描く。従って、上記接続部において、異なる軌跡を描く部材間の接続維持を図りつつ反転レバー側からシフトフォーク側に操作力を伝達する必要がある。
【0005】
例えば特許文献1に示される構造では、反転レバー(同文献ではシフトレバー)とシフトフォークとをカム機構で接続することにより、反転レバー回動中の接続維持を行っている。詳しくは、反転レバー側に長穴状のカム溝を設ける一方、シフトフォーク側には上記カム溝に係入されるロッド(軸線がカム溝の溝壁に平行)を設けている。そして、反転レバーが回動することによってカム溝の溝壁がロッドを径方向に押してシフトフォーク側に力を伝達しつつ、ロッドの外周面をカム溝壁に沿って摺動させることにより、ロッドが直線移動したときのカム溝壁とロッドとの接続維持が図られている。
【0006】
なお、このような構造を採る場合、ロッドとカム溝壁との接触形態は、理論的には線接触であり、実際には点接触に近い。その接触点には大きな面圧が作用するため、ロッドやカム溝壁(カム溝が設けられた部材)は鉄等の金属で構成される。
【特許文献1】実公平8−1325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されるような反転レバーを用いた変速操作機構は、反転レバーを用いないものに比べ、反転レバーという一種のリンク機構が付加されているため、リンク効率が低下するという問題がある。リンク効率の低下はチェンジレバーの操作力増大を招き、操作フィーリングを低下させる。
【0008】
また、通常は全部の変速段のうち、反転レバーが関与する変速段と関与しない(シフトロッドの移動方向とシフトフォークの移動方向が同じ)変速段とが混在しており、反転レバーが関与する変速段への切換え操作時のみ操作力が大となれば操作力の全体的なバランスが悪化する虞がある。この点でも操作フィーリングに対して不利となる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、反転レバーを備えた変速機の変速操作機構において、リンク効率を向上させ、チェンジレバーの操作力を軽減することができる変速機の変速操作機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の請求項1に係る発明は、チェンジレバーのシフト操作に応じて軸方向に移動するシフトロッドと、上記シフトロッドと略平行に設けられたシフトフォークガイドロッドと、上記シフトフォークガイドロッドに、その軸方向移動自在に支持されて同期機構を操作するシフトフォークと、変速機ケースに設けられた反転レバー支持軸に回動自在に設けられ、上記反転レバー支持軸を挟んで一端が上記シフトロッドに接続され、他端が上記シフトフォークに接続されることによって、上記シフトロッドの動きを上記シフトフォークに逆方向に伝達する反転レバーとを備えた変速機の変速操作機構において、上記反転レバーと上記シフトフォークとの接続部において、上記反転レバー側または上記シフトフォーク側の何れか一方に、上記シフトフォークガイドロッドの軸線方向と交差する方向に延びる溝部が形成されるとともに、他方には上記反転レバー支持軸に平行な摺動部材支持軸に回動自在に支持されるとともに上記溝部に嵌合する樹脂製の摺動部材が設けられ、上記溝部は、所定の間隔をもって互いに対向する金属製の一対の第1摺動面を有し、上記摺動部材は、上記シフトフォークの上記シフトフォークガイドロッドに沿った移動に伴って上記一対の第1摺動面の少なくとも一方と面接触しつつ摺動する一対の第2摺動面を有し、上記反転レバーと上記シフトフォークとが、上記第1摺動面と上記第2摺動面との当接面において上記シフトフォークを移動させる力の伝達を行うように接続されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の変速機の変速操作機構において、上記摺動部材の上記第2摺動面と隣接する摺動方向に向かう面と、上記溝部の上記第1摺動面とによって挟まれる空間側の挟み角が鈍角であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載の変速機の変速操作機構において、上記反転レバーは、上記反転レバー支持軸に、ニードルベアリングを介して軸支されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の変速機の変速操作機構において、上記シフトフォークガイドロッドの軸方向移動が規制されるとともに、上記シフトフォークガイドロッドによる上記シフトフォークの支持部における両者の境界部にシフトフォーク用ディテント部が設けられており、上記シフトフォーク用ディテント部は、上記シフトフォーク側と上記シフトフォークガイドロッド側の何れか一方の、所定の変速段位に相当する軸方向位置に設けられたディテント凹部と、他方に設けられて上記シフトフォークガイドロッドの径方向に移動自在かつ上記ディテント凹部に嵌脱自在とされるディテントボールと、該ディテントボールを上記ディテント凹部側に常時付勢するディテントスプリングとを含むことを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の変速機の変速操作機構において、当該変速機は、上記シフトロッドの下方に該シフトロッドと略平行に配設された入出力軸と、上記入出力軸の下方に該入出力軸と略平行に配設されたカウンタ軸とを備え、上記シフトフォークが操作する上記同期機構は、上記カウンタ軸に軸支されたギヤの切換えを行うものであり、上記シフトフォークガイドロッドは、上記カウンタ軸に軸支されたギヤの近傍であって、上記入出力軸との距離よりも上記カウンタ軸との距離の方が短いような位置に配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によると、反転レバーを備えた変速機の変速操作機構において、以下に述べるように反転レバーとシフトフォークとの接続部における摺動抵抗を低減することができるので、リンク効率を向上させ、チェンジレバーの操作力を軽減することができる。
【0016】
本発明の構成によれば、シフトロッドを移動させると反転レバーが回動し、反転レバー支持軸を挟んだ反対側に接続されたシフトフォークがシフトロッドと逆方向に移動する。すなわち、シフトロッドの動きをシフトフォークに逆方向に伝達する。
【0017】
そして、反転レバーとシフトフォークとの接続部において、反転レバー側またはシフトフォーク側の何れか一方に、シフトフォークガイドロッドの軸線方向と交差する方向に延びる溝部が形成され、他方には反転レバー支持軸に平行な摺動部材支持軸に回動自在に支持されるとともに上記溝部に嵌合する樹脂製の摺動部材が設けられている。
【0018】
従って、反転レバーとシフトフォークとの接続部において、反転レバー側の部材(例えば摺動部材)は反転レバー支持軸を中心とする円弧状の軌跡を描き、シフトフォーク側の部材(例えば溝部が形成された部材)はシフトフォークガイドロッドに沿った直線状の軌跡を描く。このとき、摺動部材が溝部に沿って移動することにより、反転レバー及びシフトフォークが円滑に動作し、かつ異なる軌跡を描く摺動部材と溝部との接続維持が図られる。なお、反転レバー側の部材に溝部を形成し、シフトフォーク側の部材を摺動部材としても良く、その場合も同様に反転レバー及びシフトフォークが円滑に動作し、かつ異なる軌跡を描く摺動部材と溝部との接続維持が図られる。
【0019】
さらに、溝部と摺動部材とは、溝部の第1摺動面(金属製)と摺動部材の第2摺動面(樹脂製)とで面接触しつつ摺動するように構成されている。しかも、摺動部材が摺動部材支持軸に回動自在に支持されているので、摺動部材の摺動によって溝部と摺動部材との相対位置が変化しても、摺動部材は常時上記面接触状態を維持するように摺動部材支持軸まわりを回動する。
【0020】
このように、溝部と摺動部材とが常時面接触するので、その接触面を介して確実な操作力の伝達がなされる。そして、溝部の第1摺動面と摺動部材の第2摺動面との摺動が金属面と樹脂面との摺動であることに加え、その面圧が面接触によって低減されるので、高い面圧での金属同士の摺動である上記従来技術に比べ、格段に摺動抵抗が低減される。
【0021】
なお、第1摺動面と第2摺動面との接触面積を適宜設定することにより、その面圧を充分低減することができるので、樹脂製の摺動部材の耐久性を適正に確保することができる。
【0022】
請求項2の発明によると、請求項1記載の変速機の変速操作機構において、摺動部材の第2摺動面と隣接する摺動方向に向かう面と、溝部の第1摺動面とによって挟まれる空間側の挟み角(以下単に挟み角ともいう)が鈍角なので、この挟み角が鋭角である場合(上記特許文献1に示されるような平面と円柱面との接触を含む)に比べ、摺動部材が摺動する際の切り粉等の異物の噛み込みを効果的に抑制することができる。すなわち、仮に挟み角が鋭角であった場合、摺動方向に向かう面が異物に当面したとき、摺動方向に向かう面が異物を第1摺動面側に寄せるように押すことになり、第1摺動面と摺動方向に向かう面とで異物を噛み込み易くなるが、本発明のように挟み角を鈍角とすることにより、たとえ摺動方向に向かう面が異物に当面しても、摺動方向に向かう面が異物を第1摺動面から遠ざけるように押すことになり、異物を噛み込み難くなるのである。
【0023】
請求項3の発明によると、請求項1または2記載の変速機の変速操作機構において、反転レバーが、反転レバー支持軸まわりをニードルベアリングを介して回動するので、例えば単にブッシュ等を介して回動するものに比べ、格段に回動抵抗を低減することができる。これによってリンク効率が一層向上し、更なるチェンジレバー操作力の軽減を図ることができる。
【0024】
請求項4の発明によると、以下に詳述するように、シフト操作において運転者に安定感や吸い込み感を与え、又はそれらを高めることができ、操作フィーリングを更に向上させることができる。
【0025】
本発明の構成によると、ディテントボールにはディテントスプリングの付勢力が常時作用している。換言すればディテントスプリングには常時ポテンシャルエネルギーが蓄積されている。そして、ディテントボールがディテント凹部と係合するとき、その最深部に嵌合した状態におけるディテントスプリングのポテンシャルエネルギーが最小となり、最も安定した状態となる。従って、ディテントボールがディテント凹部の最深部から軸方向に少しずれる(但しディテント凹部から完全に脱しない範囲で)と、ディテントボールとディテント凹部との間に、上記安定状態に復帰する方向の力(復元力)が作用する。この復元力によってディテントボールが設けられている部材またはディテント凹部が設けられている部材のうち軸方向移動自在とされている方、すなわちシフトフォークが上記安定状態に向かう方向に移動し、その安定状態を維持する。
【0026】
従って、所定の変速段位(中立位置も含む)に相当する位置で上記安定状態となるように設定することにより、一旦その変速段位に切り換わった後は、上記復元力によって、走行中の振動や、運転者がチェンジレバーに軽く手をかけた程度の軽い力ではシフトフォークの位置がずれないようにすることができる。また運転者がチェンジレバーを僅かに動かした後、操作を中断した場合、自動的に元の位置に復帰させることができる。このような作用は運転者に、確実かつ安定的に当該変速段位が維持されているという感覚(安定感)を与える。
【0027】
一方、シフトフォークを移動させてディテントボールとディテント凹部とを非係合状態から接近させて行き、ディテントボールがディテント凹部にさしかかった状態(ディテントボールがディテント凹部の最深部に至る前の浅い部分に係合している状態)にすると、ディテントボールとディテント凹部とを上記安定状態に向かわせる方向、すなわちシフトフォークの移動を助勢する方向に上記復元力が作用する。
【0028】
従って、所定の変速段位(中立位置も含む)に相当する位置で上記安定状態となるように設定することにより、シフトフォークをその変速段位付近まで移動させると、それ以降は、より軽い力で(または自動的に)シフトフォークを移動させることができる。
【0029】
この作用は運転者に、チェンジレバーを所定の変速段位方向に切換えようとして移動させると、あるポイント(ディテントボールとディテント凹部との係合が開始するポイント)を越えた後はチェンジレバーが移動方向に向かって自ら移動するような感覚(吸い込み感)を与える。
【0030】
なお、このシフトフォーク用ディテント部は、別途設けられたディテント部(例えばシフトロッドに設けられたシフトロッド用ディテント部など)と併用しても良い。その場合は、運転者に与える安定感や吸い込み感を、本発明のシフトフォーク用ディテント部によって一層高めることができる。
【0031】
請求項5の発明によると、請求項1乃至4の何れか1項に記載の変速機の変速操作機構を当該構成のような変速機に適用することにより、その効果を適正かつ顕著に奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0033】
図1は、本発明に係る変速機1の、一部切り欠きを有する外観正面図である。図2は、図1のII−II線断面図である。図3は、図1の部分拡大図であって、変速操作機構60の主要部を示す。
【0034】
図1に示すように、変速機1は入力軸6及び出力軸8が車両の前後方向(図1の紙面左右方向)に延びる、いわゆる縦置きの手動変速機である。変速機ケース2の上面の一部に開口部が設けられており、その開口部はトップカバー3で閉塞されている。変速機ケース2の後端付近から上方に、運転者が変速操作を行うためのチェンジレバー10が突設されている。
【0035】
変速機ケース2の内部にはギヤトレイン4が配設されている。ギヤトレイン4は、入出力軸6,8及びカウンタ軸7(図2には各軸の軸心を6c,7c,8cで示す)の何れかの軸に固設または相対回転可能に遊嵌合された複数のギヤからなる。そして、遊嵌合されている何れかのギヤを選択的に軸と一体回転させることにより動力伝達がなされるように構成されている。軸と一体回転させるギヤを切換えることにより、ギヤ比を変更し、変速させることができる。
【0036】
変速機1は、前進6段、後退1段の変速段を有しており、それぞれ所定のギヤを介して動力の伝達がなされるように構成されている。以下に、本発明の変速操作機構が用いられている第3速と第4速の変速段について詳細に説明する。
【0037】
図1に示すように、入力軸6に入力ギヤ9が固設されている。また出力軸8に第3速用ギヤ63と第4速用ギヤ64とが固設されている。一方、カウンタ軸7には入力ギヤ9cが固設され、さらに第3速用ギヤ63cと第4速用ギヤ64cとが遊嵌合されている。そして入力ギヤ9と入力ギヤ9c、第3速用ギヤ63と第3速用ギヤ63c、第4速用ギヤ64と第4速用ギヤ64cが、それぞれ常時噛合している。
【0038】
従って、第3速用ギヤ63cをカウンタ軸7と一体回転させるように切換えれば、入力軸6から入力された駆動力が入力ギヤ9,9c、カウンタ軸7及び第3速用ギヤ63,63cを介して出力軸8に伝達される。すなわち第3速状態となる。同様に、第4速用ギヤ64,64cをカウンタ軸7と一体回転させるように切換えれば第4速状態となる。
【0039】
カウンタ軸7に設けられた第3速用ギヤ63cと第4速用ギヤ64cとの間には図外の同期装置が設けられている。同期装置は周知の機構なので詳細な説明を省略するが、カウンタ軸7と同軸に設けられたスリーブ67(図2に示す)を第3速用ギヤ63c側に移動させることにより、第3速用ギヤ63cを、回転速度を合わせてカウンタ軸7に固定する。同様に、スリーブ67を第4速用ギヤ64c側に移動させることにより、第4速用ギヤ64cを、回転速度を合わせてカウンタ軸7に固定する。
【0040】
図1及び図2に示すように、第3速用ギヤ63c及び第4速用ギヤ64cの近傍かつカウンタ軸7の近傍(少なくとも入出力軸6,8よりもカウンタ軸7に近い位置)に、カウンタ軸7と平行にシフトフォークガイドロッド48が設けられており、そのシフトフォークガイドロッド48にシフトフォーク40が支持されている。すなわち、シフトフォーク40には前後方向に延びるガイドロッド挿通部45(図3に示す)が延設されており、これにシフトフォークガイドロッド48が挿通されている。シフトフォークガイドロッド48は変速機ケース2に固定されており、その軸方向の移動が規制されている。シフトフォーク40はシフトフォークガイドロッド48の軸方向、つまりカウンタ軸7と平行に移動自在とされている。
【0041】
シフトフォーク40は上記同期機構のスリーブ67を操作する鉄等の金属製部材であって、U字型に成形されたフォーク部47を有している。フォーク部47(図2に示す)の先端内側にはスリーブ嵌合部47aが形成され、スリーブ67の溝に嵌合している。この構造により、シフトフォーク40をシフトフォークガイドロッド48に沿って移動させると、同方向にスリーブ67が移動し、ギヤの切換えが行なわれる。
【0042】
次に、シフトフォーク40を移動させる変速操作機構60について説明する。図2に示すように、変速機ケース2内の上端付近、トップカバー3の内側に、4本のシフトロッド、すなわち第1シフトロッド14a,第2シフトロッド14b,第3シフトロッド14c,第4シフトロッド14dが設けられている(これらを総称するときはシフトロッド14という)。第1シフトロッド14aは第1速または第2速に切換えるため、第2シフトロッド14bは第3速または第4速に切換えるため、第3シフトロッド14cは第5速または第6速に切換えるため、第4シフトロッド14dは後退段に切換えるために設けられている。シフトロッド14は、図1に示すシフトロッド支持部材5によって入出力軸6,8及びカウンタ軸7と平行に、かつその軸方向に移動可能に支持されている。
【0043】
第1シフトロッド14a,第2シフトロッド14b,第3シフトロッド14cおよび第4シフトロッド14dの各後端側には、第1係合部材13a,第2係合部材13b,第3係合部材13cおよび第4係合部材13dが設けられている(これらを総称するときは係合部材13という)。係合部材13とチェンジレバー10とは、セレクトアーム12を介して、シフトロッド14と平行に設けられた1本のコントロールロッド11で接続されている。そして運転者がチェンジレバー10を左右方向(図2の紙面左右方向)に動かすセレクト操作によってコントロールロッド11が軸心まわりに回動し、セレクトアーム12が何れかの係合部材13と係合するように構成されている。またチェンジレバー10を前後方向に動かすシフト操作によって、コントロールロッド11を介して、セレクトアーム12が係合している係合部材13及びそれと一体のシフトロッド14を、チェンジレバー10のシフト方向と前後逆方向に移動させるように構成されている。
【0044】
なお、チェンジレバー10が中立位置にあるとき、遊嵌合されている何れのギヤも軸と一体化されておらず、入力軸6から出力軸8への動力伝達はなされない。このとき、セレクトアーム12は第2係合部材13bに係合し、第2シフトロッド14bを選択した状態となっている(図2に示す状態)。
【0045】
次に、第3速または第4速への切換えに関与する第2係合部材13bとシフトフォーク40との接続構造について説明する。
【0046】
図2及び図3に示すように、第2シフトロッド14bと一体の第2係合部材13bとシフトフォーク40とは、反転レバー20を介して接続されている。反転レバー20は第2係合部材13bの動き(=第2シフトロッド14bの動き)をシフトフォーク40に逆方向に伝達する部材である。
【0047】
反転レバー20は略上下方向に延びる金属製の板状体であって、その略中心部に、これを支持する反転レバー支持軸30が挿通され、エンドプレート34およびスナップリング35によって係止されている。反転レバー支持軸30は座金32及びナット33等によって変速機ケース2に固定されている。またオーリング31によって反転レバー支持軸30まわりの隙間がシールされている。
【0048】
反転レバー20は、ニードルベアリング36を介して反転レバー支持軸30に軸支されている。ニードルベアリング36は、ベアリング内輪部30a、ベアリング外輪部37及び複数の針状ころ38によって構成されている(各針状ころ38間の隙間を確保する保持器等を適宜設けても良い)。ベアリング内輪部30aは、反転レバー支持軸30の先端部に、その反転レバー支持軸30と同軸上に形成されている。ベアリング外輪部37は略円筒形の部材であり、反転レバー20に固着されている。各針状ころ38は、ベアリング内輪部30aとベアリング外輪部37との間の環状隙間に、その軸線が反転レバー支持軸30と平行になるように配設され、ベアリング内輪部30a及びベアリング外輪部37に摺接しつつ滑らかに転動する。従って、反転レバー20はニードルベアリング36によって格段に小さな回動抵抗で反転レバー支持軸30を中心に回動できるように構成されている。
【0049】
反転レバー20の上端付近には、反転レバー支持軸30に平行な上端側接続軸21が固設されている。上端側接続軸21は第2係合部材13bに回動自在かつ回動時の上下動自在に係合されている。
【0050】
反転レバー20の下端付近には、反転レバー支持軸30に平行な摺動部材支持軸22が固設されている。そして摺動部材支持軸22には、樹脂製で略矩形板状体の摺動部材25が嵌着されている。摺動部材25は、摺動部材支持軸22の外周面に面接触しつつ摺動することによって摺動部材支持軸22に対し回動自在となっている。
【0051】
一方、シフトフォーク40には上方に延びるシフトフォーク延設部41が形成されており、その上端付近に、上下方向に延びる溝部42が形成されている。溝部42は、所定の前後間隔(図3の紙面左右方向の間隔)をもって互いに対向する一対の第1摺動面43を有している。第1摺動面43はシフトフォーク40の材質と同じ金属製の面である。この溝部42に、上記摺動部材25が嵌設されている。
【0052】
図4は図3の部分拡大図であり、(a)は摺動部材25がシフトフォーク延設部41の溝部42に嵌合している状態を示し、(b)は(a)の変形例を示す。
【0053】
図4(a)に示すように、摺動部材25は溝部42に嵌設され、一対の第1摺動面43にそれぞれ上下摺動可能に当面する一対の第2摺動面27を有している。また、第2摺動面27と隣接する摺動方向に向かう面26(図4に示す上下の面)は、中央部の上下幅が狭くなるように傾斜した緩斜面になっている。従って、摺動部材25の正面視(図4に示す状態)四隅は直角よりもやや小さい鋭角となっている。換言すれば、摺動部材25の正面視四隅において、摺動方向に向かう面26と第1摺動面43とによって挟まれる空間側の挟み角θ1が鈍角となっている。
【0054】
図4(b)に示す摺動部材25aは、摺動部材25の変形例であって、摺動方向に向かう面26aは、前後両端付近のみ内側の上下幅が狭くなるように傾斜した緩斜面になっており、中央付近では略水平面となっている。この場合も、摺動部材25aの正面視四隅が鋭角となっており、摺動方向に向かう面26aと第1摺動面43とによって挟まれる空間側の挟み角θ2が鈍角となっている。
【0055】
次に、シフトフォーク用ディテント部50について説明する。図2に示すように、シフトフォーク用ディテント部50は、軸方向移動が規制されたシフトフォークガイドロッド48に設けられて上方に開口するディテント凹部51と、シフトフォークガイドロッド48の上方でシフトフォーク延設部41の内部に上下動自在に設けられたディテントボール52と、ディテントボール52をディテント凹部51側に(下向きに)常時付勢するディテントスプリング53とを主要な構成要素とする。
【0056】
ディテント凹部51はシフトフォークガイドロッド48の軸方向に設けられた3箇所の窪み51a,51b,51cから成り、前後の窪み51a,51cは比較的深いV字形の窪みであり、中央の窪み51bは比較的浅い円弧状の窪みである。前側の窪み51aは、ディテントボール52がこの窪みに嵌まり込んだ時、シフトフォーク40が第3速に相当する位置となるような位置に設けられている。同様に、中央の窪み51bおよび後側の窪み51cは、シフトフォーク40が中立位置および第4速位置に相当する位置となるような位置に設けられている。
【0057】
なお、第2シフトロッド14bの前端付近にも、シフトフォーク用ディテント部50と類似のシフトロッド用ディテント部18が設けられている。シフトロッド用ディテント部18は、第2シフトロッド14bに設けられて下方に開口するディテント凹部15と、第2シフトロッド14bの下方でシフトロッド支持部材5の内部に上下動自在に設けられたディテントボール16と、ディテントボール16をディテント凹部15側に(上向きに)常時付勢するディテントスプリング17とを主要な構成要素とする。
【0058】
ディテント凹部15は第2シフトロッド14bの軸方向に設けられた3箇所の窪み15a,15b,15cから成り、前後の窪み15a,15cは比較的深いV字形の窪みであり、中央の窪み15bは比較的浅い円弧状の窪みである。前側の窪み15aは、ディテントボール16がこれらの窪みに嵌まり込んだ時、シフトフォーク40が第3速に相当する位置となるような位置に設けられている。同様に、中央の窪み15bおよび後側の窪み15cは、シフトフォークが中立位置および第4速位置に相当する位置となるような位置に設けられている。なお特に図示しないが、シフトロッド用ディテント部18は、他のシフトロッド14a,14c,14dにも同様の軸方向位置に設けられている。
【0059】
次に、変速操作機構60の動作について、特に第3速または第4速への変速時を中心に、運転者によるチェンジレバー10の操作に対応させて説明する。前進6段変速の変速機1では、第3速ないし第4速への切換えが多用される。従って、これらの段位への切換えにおけるチェンジレバー10の操作フィーリングが特に重要視される。
【0060】
運転者が第4速への変速を意図したとき、チェンジレバー10を中立位置(第2シフトロッド14bが選択されている状態)から後方へ移動させる。するとコントロールロッド11は前方に移動する。それに伴い、セレクトアーム12に係合している第2係合部材13bおよびこれと一体の第2シフトロッド14bが前方に移動する(図3に矢印A1で示す)。
【0061】
第2係合部材13bおよび第2シフトロッド14bが前方に移動すると、第2係合部材13bに上端側接続軸21を介して係合している反転レバー20が反転レバー支持軸30を中心に、図3に矢印A2で示す左回りの方向に回動する。反転レバー20はニードルベアリング36を介して反転レバー支持軸30に軸支されているので、ブッシュ等のすべり軸受を用いる場合等に比べ、その回動抵抗は極めて小さい。
【0062】
図5は図3の部分模式図であって、反転レバー20が回動したときの各部の移動状態を示す。反転レバー20が矢印A2方向に回動すると、上端側接続軸21は前方やや下方に移動する(上端側接続軸21’で示す)。一方、反転レバー支持軸30を挟んで上端側接続軸21と反対側の摺動部材支持軸22は、後方やや上方に円弧状軌跡を描いて移動する(摺動部材支持軸22’で示す)。これに伴い、摺動部材支持軸22に軸支された摺動部材25も後方やや上方に移動する(摺動部材25’で示す)。
【0063】
一方、シフトフォーク40の動きがシフトフォークガイドロッド48によって前後方向のみに規制されている。従って、シフトフォーク延設部41及びこれに設けられた溝部42及び第1摺動面43は前後方向にのみ移動可動となっている。摺動部材25は溝部42に嵌設されているから、第2摺動面27も第1摺動面43に沿って上下方向を維持しつつ移動することになる。
【0064】
結局、摺動部材25は、摺動部材支持軸22に軸支された中心部は円弧状の軌跡を描くものの、第2摺動面27の方向を変えることなく、後方やや上方に平行移動することになる(図5に二点鎖線で示す摺動部材25’参照)。このような摺動部材25の動きは、摺動部材25が摺動部材支持軸22のまわりを矢印A2と反対方向(右回り)に摺動しつつ回動することによってなされる。
【0065】
こうして摺動部材25が後方やや上方に平行移動することにより、第1摺動面43が第2摺動面27に押され、シフトフォーク延設部41が直線状軌跡を描いて後方に移動する(矢印A3で示す)。移動後のシフトフォーク延設部41を二点鎖線のシフトフォーク延設部41’で示す。また、このときの摺動部材25とシフトフォーク延設部41との相対移動は、溝部42に沿った上下移動となる(矢印A4で示す)。
【0066】
このように、摺動部材25は反転レバー20からシフトフォーク延設部41へ力を伝達しつつ摺動部材支持軸22や第1摺動面43に対して摺動するが、摺動部材25が樹脂製なので各摺動は金属面と樹脂面との摺動となる。従って、金属同士の摺動である場合よりも摺動抵抗が小さい。しかもその接触形態が面接触なので、線接触あるいは点接触である場合よりも面圧が低く、これが摺動抵抗低減効果を一層高めている。
【0067】
こうして、シフトフォーク延設部41と一体のシフトフォーク40は後方に移動し、スリーブ67を後方に移動させる。すると、同期機構により第4速用ギヤ64cとカウンタ軸7とが一体化され、第4速への切換えが完了する。
【0068】
以上の操作を行うにあたり、運転者は直接同期機構を作動させる力(後述するディテント部において復元力に抗する力を含む)に相当する力よりも大きな力でチェンジレバー10を移動させる必要がある。それは、チェンジレバー10の操作力には、変速操作機構60の各部で生じる摺動抵抗や回動抵抗(これらの合計を以下総抵抗という)に相当する力が上乗せされるからである。この総抵抗が小さいほど変速操作機構60のリンク効率が高くなり、チェンジレバー10の操作力を軽減することができる。
【0069】
当実施形態では反転レバー20を用いているので、これを用いない場合に比べ、一般的に変速操作機構60の総抵抗が大きくなりがちである。しかし上述したように、反転レバー20の回動抵抗を大幅に低減し、また摺動部材25まわりの摺動抵抗も格段に低減している。つまり従来の反転レバーを用いた機構に比べ、大幅に総抵抗が低減されている。従って、リンク効率が向上し、チェンジレバー10の操作力が軽減する。こうして効果的に操作フィーリングの向上が図られている。
【0070】
また、反転レバー20を用いない他の変速段(詳細には説明しないが、例えば当実施形態の第1速または第2速)への切換えとの操作力の差を小さくし、全体的な操作力のバランスを適正化し易くなるという点でも、操作フィーリングの向上に貢献することができる。
【0071】
なお、第1摺動面43と第2摺動面27との接触面積を適宜設定することにより、その面圧を充分低減することができるので、樹脂製の摺動部材25の耐久性を適正に確保することができる。
【0072】
以上、中立状態から第4速状態に切換える場合について説明したが、第4速状態から中立状態に戻したり、中立状態から第3速状態に切換えたりする場合についても同様である。これらの場合は、第2シフトロッド14b,反転レバー20,摺動部材25,シフトフォーク40等の動作方向が上述の方向(矢印A1,A2,A3及びA4で示す方向)と逆になるが、リンク効率が向上し、操作力の軽減が図られる点では同じである。
【0073】
次に、シフトフォーク用ディテント部50の動作について説明する。チェンジレバー10が中立位置にあるとき、第2シフトロッド14b及びシフトフォーク40は図3に示す状態となっている。すなわちシフトフォーク用ディテント部50のディテントボール52がディテント凹部51の窪み51bに嵌まりこんでいる。
【0074】
ディテントボール52にはディテントスプリング53の付勢力が作用しており、ディテントスプリング53にポテンシャルエネルギーが蓄積された状態となっている。従って、ディテントボール52が窪み51bに係合するとき、図3に示すように窪み51bの最深部に嵌合した状態でディテントスプリング53のポテンシャルエネルギーが最小となり、最も安定した状態となっている。
【0075】
従って、ディテントボール52が窪み51bの最深部から軸方向に少しずれる(すなわちシフトフォーク40が図3に示す状態から軸方向に少しずれる)と、ディテントボール52と窪み51bとの間に、上記安定状態に復帰する方向の力(復元力)が作用する。この復元力によってシフトフォーク40が図3に示す安定状態に復帰し、その安定状態を維持する。
【0076】
従って、シフトフォーク40が図3に示す中立位置にあるとき、上記復元力によって、走行中の振動や、運転者がチェンジレバー10に軽く手をかけた程度の軽い力ではシフトフォーク40の位置がずれない。また運転者がチェンジレバー10を僅かに動かした後、操作を中断した場合、自動的に元の位置に復帰する。このような作用は運転者に、確実かつ安定的に中立位置が維持されているという感覚(安定感)を与える。
【0077】
但し、窪み51bは浅い円弧状の窪みなので、その復元力は比較的弱い。つまり、運転者がチェンジレバー10を第3速側または第4速側に移動させる際の操作力が重くなりすぎない程度に調整されている。
【0078】
運転者が、図3に示す中立位置からチェンジレバー10を第4速側に移動させると、第2シフトロッド14bが前方に移動し(矢印A1)、反転レバー20の反転作用によってシフトフォーク40が後方に移動する(矢印A3)。それに伴い、ディテントボール52が窪み51bを脱し、窪み51cにさしかかる。窪み51cは比較的深いV字形の窪みなので、ディテントボール52を、その最深部に嵌合させようとする大きな復元力が作用する。
【0079】
この復元力によって、シフトフォーク40の後方への移動が助勢される。その助勢により、運転者は、それ以前よりもより軽い力で(または自動的に)シフトフォーク40を後方に移動させることができる。
【0080】
この作用は運転者に、チェンジレバー10を第4速方向に切換えようとして移動させると、あるポイント(ディテントボール52と窪み51cとの係合が開始するポイント)を越えた後はチェンジレバー10が移動方向に向かって自ら移動するような感覚(吸い込み感)を与える。
【0081】
チェンジレバー10を第4速位置に完全に移動させると、ディテントボール52が窪み51cの最深部に嵌合し、その復元力によって、シフトフォーク40が第4速状態に安定的に維持される。従って上記中立位置にある場合と同様に運転者に安定感を与えることができるが、窪み51cが窪み51bよりも深い切り込みなので、作用する復元力も大きく、より大きな安定感を与えることができる。
【0082】
そして運転者が明確な意思をもって、復元力に抗する比較的大きな力でチェンジレバー10を中立位置に戻す操作を行ったときに、ディテントボール52が窪み51cから脱し、窪み51b側への嵌まり込みに移行する(中立位置への吸い込み)。
【0083】
以上、中立位置と第4速位置との切換えについて説明したが、中立位置と第3速位置との切換えも同様である。第3速ではディテントボール52が窪み51aの最深部に嵌合しており、その状態がディテントスプリング53のポテンシャルエネルギーを最小にする安定状態となる。
【0084】
なお、第2シフトロッド14bに設けられたシフトロッド用ディテント部18によってもシフトフォーク用ディテント部50と同様の作用が得られる。すなわち、ディテント凹部51に対応するディテント凹部15(第3速位置に相当する窪み15a,中立位置に相当する窪み15b及び第4速位置に相当する窪み15c)と、ディテントボール52に対応するディテントボール16と、ディテントスプリング53に対応するディテントスプリング17とによって適宜復元力を作用させ、シフトフォーク用ディテント部50と同様に操作時の安定感や吸い込み感を得ることができる。
【0085】
このような安定感や吸い込み感は、シフトフォーク用ディテント部50を設けず、シフトロッド用ディテント部18だけでもある程度得ることができる。しかし、当実施形態では反転レバー20を設けているため、第2シフトロッド14bに作用する復元力がシフトフォーク40に直接作用せず、シフトロッド用ディテント部18だけでは安定感や吸い込み感が不足しがちである。そこでシフトフォーク用ディテント部50を更に設けることにより、より確実な安定感や吸い込み感が得られ、反転レバー20を設けたことによる不利を払拭することができる。
【0086】
以上説明したように、当実施形態では、反転レバー20を設けることによってチェンジレバー10の操作力を軽減しつつ、さらにシフトフォーク用ディテント部50を設けることにより、運転者に与える安定感や吸い込み感を高めている。従って、チェンジレバー10の全体的な操作フィーリングが格段に高められている。
【0087】
次に、図6を参照して摺動部材25の耐異物噛み込み性(異物を噛み込み難い性質)について説明する。図6は、摺動部材25の耐異物噛み込み性の説明図であり、(a)は挟み角θ1が鈍角である当実施形態の場合を示し、(b)は比較例として挟み角θ3が鋭角である場合を示す。
【0088】
図6(a)は、摺動部材25の摺動方向に向かう面26と、溝部42を形成する第1摺動面43とに挟まれる挟み角θ1の近傍を拡大して示している。また、符号90は切り粉等の異物であり、ここでは塊状としている。実際の異物の形状には様々なものがあり、必ずしもこのような塊状であるとは限らないが、摺動部材25の耐異物噛み込み性を説明する上で異物90を便宜上このように表しても支障はない。
【0089】
摺動部材25が第1摺動面43に沿って摺動方向(矢印A4で示す)に移動するとき、その進路上に異物90があれば、摺動方向に向かう面26が異物90と当面する。その状態からさらに摺動部材25の移動が進行すると、異物90が摺動方向に向かう面26に押され、排除される。その排除力は異物90と摺動方向に向かう面26との接触面に垂直な方向(矢印A5で示す)に作用する。挟み角θ1が鈍角なので、矢印A5で示す排除力の方向は第1摺動面43から遠ざける方向となる。従って、摺動方向に向かう面26が二点鎖線で示す摺動方向に向かう面26’まで移動したとき、異物90は矢印A5の延長線上の位置(異物90’で示す)付近に移動していることが期待できる。つまり異物90が噛み込み難くなっており、耐異物噛み込み性が向上している。
【0090】
一方、図6(b)では、摺動部材25との比較例として摺動部材95を示している。摺動部材95は、摺動部材25と略同一の部材であるが、摺動部材95の摺動方向に向かう面96と第1摺動面43とに挟まれる挟み角θ3が鋭角である点が異なっている。
【0091】
この場合、異物90に作用する排除力は異物90と摺動方向に向かう面96との接触面に垂直な方向(矢印A6で示す)に作用する。挟み角θ3が鋭角なので、矢印A6で示す排除力の方向は第1摺動面43に寄せる方向となる。従って、摺動方向に向かう面96が二点鎖線で示す摺動方向に向かう面96’まで移動したとき、異物90は矢印A6の延長線上の位置(異物90’’で示す)付近に移動している可能性が高くなる。異物90’’は摺動方向に向かう面96’と第1摺動面43とに挟まれており、摺動部材95の移動を妨げる噛み込みに進展する虞がある。つまり挟み角θ3を鋭角にすると、当実施形態の構造よりも耐異物噛み込み性が低くなる。
【0092】
また、図6(b)には摺動部材95がピン等の円柱状である場合を、二点差線の摺動方向に向かう面97で示している。この場合、摺動方向に向かう面97と異物90との接触点における接線と第1摺動面43とのなす空間側の角として挟み角θ3を定義することができる。摺動方向に向かう面97が、第1摺動面43の近傍で、比較的小さな異物90と当面したとき、挟み角θ3が鋭角になるので、この場合も当実施形態の構造よりも耐異物噛み込み性が低いと言える。
【0093】
図6(b)との対比によって明らかなように、当実施形態の摺動部材25(25aも同様)は、挟み角θ1を鈍角にすることにより耐異物噛み込み性が高められ、異物を噛み込み難い形状となっている。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、この実施形態は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば上記実施形態では、反転レバー20とシフトフォーク40(より詳しくはシフトフォーク延設部41)との接合部において、摺動部材25を反転レバー20側に設け、溝部42をシフトフォーク延設部41側に設けているが、逆に摺動部材25をシフトフォーク延設部41側に設け、溝部42を反転レバー20側に設けても良い。
【0095】
また当実施形態ではシフトフォーク用ディテント部50の構成として、ディテント凹部51をシフトフォークガイドロッド48側に設け、ディテントボール52及びディテントスプリング53をシフトフォーク40側に設けているが、逆にディテント凹部51をシフトフォーク40側に設け、ディテントボール52及びディテントスプリング53をシフトフォークガイドロッド48側に設けても良い。但し当実施形態のようにすると、比較的大きなスペースを要するディテントボール52及びディテントスプリング53を、シフトフォーク延設部41を利用してコンパクトに収納できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施形態に係る変速機の、一部切り欠きを有する外観正面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1の部分拡大図であって、変速操作機構の主要部を示す。
【図4】図3の部分拡大図であり、(a)は摺動部材がシフトフォーク延設部の溝部に嵌合している状態を示し、(b)は(a)の変形例を示す。
【図5】図4の部分模式図であって、反転レバーが回動したときの各部の移動状態を示す。
【図6】摺動部材の耐異物噛み込み性の説明図であり、(a)は挟み角が鈍角である上記実施形態の場合を示し、(b)は比較例として挟み角が鋭角である場合を示す。
【符号の説明】
【0097】
1 変速機
2 変速機ケース
6 入力軸
7 カウンタ軸
8 出力軸
10 チェンジレバー
14 シフトロッド
14a〜14d 第1〜第4シフトロッド
20 反転レバー
22 摺動部材支持軸
25,25a 摺動部材
26,26a 摺動方向に向かう面
27,27a 第2摺動面
30 反転レバー支持軸
40 シフトフォーク
42 溝部
43 第1摺動面
48 シフトフォークガイドロッド
50 シフトフォーク用ディテント部
51 ディテント凹部
52 ディテントボール
53 ディテントスプリング
60 変速操作機構
θ1,θ2 挟み角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェンジレバーのシフト操作に応じて軸方向に移動するシフトロッドと、
上記シフトロッドと略平行に設けられたシフトフォークガイドロッドと、
上記シフトフォークガイドロッドに、その軸方向移動自在に支持されて同期機構を操作するシフトフォークと、
変速機ケースに設けられた反転レバー支持軸に回動自在に設けられ、上記反転レバー支持軸を挟んで一端が上記シフトロッドに接続され、他端が上記シフトフォークに接続されることによって、上記シフトロッドの動きを上記シフトフォークに逆方向に伝達する反転レバーとを備えた変速機の変速操作機構において、
上記反転レバーと上記シフトフォークとの接続部において、上記反転レバー側または上記シフトフォーク側の何れか一方に、上記シフトフォークガイドロッドの軸線方向と交差する方向に延びる溝部が形成されるとともに、他方には上記反転レバー支持軸に平行な摺動部材支持軸に回動自在に支持されるとともに上記溝部に嵌合する樹脂製の摺動部材が設けられ、
上記溝部は、所定の間隔をもって互いに対向する金属製の一対の第1摺動面を有し、
上記摺動部材は、上記シフトフォークの上記シフトフォークガイドロッドに沿った移動に伴って上記一対の第1摺動面の少なくとも一方と面接触しつつ摺動する一対の第2摺動面を有し、
上記反転レバーと上記シフトフォークとが、上記第1摺動面と上記第2摺動面との当接面において上記シフトフォークを移動させる力の伝達を行うように接続されていることを特徴とする変速機の変速操作機構。
【請求項2】
上記摺動部材の上記第2摺動面と隣接する摺動方向に向かう面と、上記溝部の上記第1摺動面とによって挟まれる空間側の挟み角が鈍角であることを特徴とする請求項1記載の変速機の変速操作機構。
【請求項3】
上記反転レバーは、上記反転レバー支持軸に、ニードルベアリングを介して軸支されていることを特徴とする請求項1または2記載の変速機の変速操作機構。
【請求項4】
上記シフトフォークガイドロッドの軸方向移動が規制されるとともに、上記シフトフォークガイドロッドによる上記シフトフォークの支持部における両者の境界部にシフトフォーク用ディテント部が設けられており、
上記シフトフォーク用ディテント部は、上記シフトフォーク側と上記シフトフォークガイドロッド側の何れか一方の、所定の変速段位に相当する軸方向位置に設けられたディテント凹部と、他方に設けられて上記シフトフォークガイドロッドの径方向に移動自在かつ上記ディテント凹部に嵌脱自在とされるディテントボールと、該ディテントボールを上記ディテント凹部側に常時付勢するディテントスプリングとを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の変速機の変速操作機構。
【請求項5】
当該変速機は、上記シフトロッドの下方に該シフトロッドと略平行に配設された入出力軸と、上記入出力軸の下方に該入出力軸と略平行に配設されたカウンタ軸とを備え、
上記シフトフォークが操作する上記同期機構は、上記カウンタ軸に軸支されたギヤの切換えを行うものであり、
上記シフトフォークガイドロッドは、上記カウンタ軸に軸支されたギヤの近傍であって、上記入出力軸との距離よりも上記カウンタ軸との距離の方が短いような位置に配設されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の変速機の変速操作機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−329404(P2006−329404A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157628(P2005−157628)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】