説明

変速機

【課題】変速機の部品点数の削減及び小型化を図りながら、多段化及び高効率化を実現する。
【解決手段】平行軸式の変速機1において、出力軸Cは、変速用歯車組GT1,GT2を介して入力軸M及び中間軸Sからの駆動力が伝達される外側の第1出力軸CXと、当該第1出力軸CXに対して同心軸上の内側に設けた第2出力軸CYとを有する二軸構造であり、第1出力軸CXと第2出力軸CYとの間に遊星歯車機構PTを設けた。これにより、変速用歯車組GT1,GT2で設定された各変速段の変速比に加えて、当該変速比を遊星歯車機構PTで減速又は増速した変速比を出力することで、変速用歯車組GT1,GT2で得られる変速段数に対して倍の変速段数が得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに搭載される変速機に関し、詳細には、軸数及び歯車数を少なく抑えて構成を簡素化しながらも、多段の変速段数を有する平行軸式の自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される変速機として、例えば、特許文献1に示すような平行軸式の自動変速機がある。平行軸式の自動変速機は、互いに平行に設置した複数の軸上に互いに噛合するギヤを配置し、軸とギヤとの連結及び解除を行うことにより、軸間に形成される動力伝達経路を切り替えてギヤ比に応じた所望の変速比が得られるように構成されている。なお、このような平行軸式の自動変速機には、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)などと呼ばれるいわゆるセミオートマチック型のトランスミッションも含まれる。
【0003】
そして、このような平行軸式の自動変速機あるいはDCTでは、燃費効率の向上を図るためには、変速段数の多段化が有効である。しかしながら、横置き配置エンジン用の変速機などでは、軸方向の全長の制約もあり、部品点数や重量の増加にもつながるため、現状では6〜8速段が限界となっている。また、エンジンと電動機を併用するハイブリッド駆動装置では、容量の大きな電動機を配置しながら、変速機と電動機を含めた全体の寸法を小さく抑える必要がある。そのため、変速段数を少なく抑えたり、ハイブリッド専用の駆動装置を採用したりすることで、変速機構の小型化を図る必要がある。しかしながら、変速段数を少なく抑えると、駆動力の伝達効率の低下や、単位重量あたりの製造コストの増加が問題となる。
【0004】
さらに、自動変速機やDCTでは、変速段数を少なくすると、エンジン本来の駆動力によって得られる走行効率が低下するため、ハイブリッド化による燃費の改善効果が減少するという問題がある。また、ハイブリッド用の駆動装置とエンジン専用の駆動装置とを別設計にすると、それぞれの駆動装置が異なる構造となるため、並立生産を行う必要がある。そうすると、製造コストの面で不利になってしまう。
【0005】
そこで、特許文献2に記載のように、変速機に電動機を搭載したハイブリッド駆動装置を構成する場合、従来構造の自動変速機にそのまま電動機を付加することも考えられる。しかしながら、特許文献2に記載の従来技術では、変速段数の少ない構造であっても、変速機内には、電動機を追加する十分な空きスペースがない。そのため、変速機の外部に電動機を設置するしかなく、その場合、電動機の出力を入力軸に伝えるためのギヤ列が追加されることで、変速機の構成の複雑化や部品点数の増加につながる。また、電動機を変速機の外部に設置すると、車体の外観を含むレイアウトに大きな制約を受けてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−54958号公報
【特許文献2】特開2009−1234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の平行軸式の変速機と比べて少ない部品点数と小さな外形寸法でありながら、変速段の多段化及び高効率化を図ることができるとともに、電動機を内部に設置して小型のハイブリッド駆動装置を構成できる変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる変速機は、互いに平行に設置した入力軸(M)、中間軸(S)、アイドル軸(L)、出力軸(C)を備え、
出力軸(C)は、入力軸(M)及び中間軸(S)からの駆動力が伝達される第1出力軸(CX)と、第1出力軸(CX)に対して同心軸上に設けた第2出力軸(CY)とを有する二軸構造であり、
入力軸(M)上で相対回転不能に設けた駆動歯車(GV)と、アイドル軸(L)上で相対回転不能又は断続自在に設けられて駆動歯車(GV)と噛合するアイドル歯車(GL)と、中間軸(S)上で相対回転不能に設けられてアイドル歯車(GL)と噛合する従動歯車(GN)と、を有する歯車組(G1)と、
入力軸(M)上に設けた第1変速用駆動歯車(GTV2又はGTV4)および中間軸(S)上に設けた第2変速用駆動歯車(GTV1又はGTV3)と、第1出力軸(CX)上で相対回転不能かつ第1、第2変速用駆動歯車(GTV1,GTV2、又はGTV3,GTV4)の両方と噛合する変速用従動歯車(GTN1又はGTN2)と、入力軸(M)に対する第1変速用駆動歯車(GTV2又はGTV4)の断続、及び中間軸(S)に対する第2変速用駆動歯車(GTV1又はGTV2)の断続を切り替える変速用クラッチ(C2,C4、又はC1,C3)と、からなる変速用歯車組(GT1,GT2)と、を備え、
第1出力軸(C1)と第2出力軸(C2)との間には、第1出力軸(C1)に連結された第1要素(PS)と、第2出力軸(C2)に連結された第2要素(PC)と、固定側の部材(K)に対して固定可能な第3要素(PR)とで構成された遊星歯車機構(PT)が設けられており、
変速用歯車組(GT1,GT2)で設定された各変速段の変速比に加えて、当該変速比を遊星歯車機構(PT)で減速又は増速した変速比を出力することで、変速用歯車組(GT1,GT2)で得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるように構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる変速機によれば、変速用歯車組を介して入力軸及び中間軸からの駆動力が伝達される第1出力軸と、当該第1出力軸に対して同心軸上に設けた第2出力軸とを有する二軸構造の出力軸と、第1出力軸と第2出力軸との間に設けた遊星歯車機構とを備え、変速用歯車組で設定された各変速段の変速比に加えて、当該変速比を遊星歯車機構で減速又は増速した変速比を出力することで、変速用歯車組で得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるようにした。これにより、従来の平行軸式の自動変速機と比較して、軸数及び歯車数を少なく抑えることで、大幅に軽量かつコンパクトでありながら、変速段数の多段化による燃費効率の良い変速機を実現できる。この点を具体例で示すと、特許文献1に記載の平行軸式の自動変速機では、軸数=6、歯車数=15で6速段の変速機を構成していたのに対して、本発明の後述する実施形態にかかる変速機では、軸数=4、歯車数=10の骨格に遊星歯車機構を加えたもので、8速段の変速機を構成できる。なお、ここでの軸数は、リバース(後進)軸を含む数であり、歯車数は、出力軸上に設けたファイナルギヤを除く数である。
【0010】
また、本発明の変速機では、変速用歯車組で得られる各変速段のギヤ比に対して、遊星歯車機構により増速又は減速したギヤ比を加えることで、倍の変速段数を得ている。そのため、例えば、後述する実施形態のように、変速用歯車組で得られる各変速段のギヤ比に対して、遊星歯車機構で減速したギヤ比を得る場合、遊星歯車機構での減速が無い高速側の変速段は、低速側の変速段に比べて減速比が少ない。したがって、歯車と軸の強度、剛性の面で軽量コンパクトな設計が可能となる。また、高速側の変速段では、遊星歯車機構は減速の無い直結状態となるため、駆動力の伝達効率が低下せずに済む。一方、遊星歯車機構で減速された低速側の変速段でも、変速用歯車組では、高速側の変速段と同じギヤ段を使用でき、高負荷領域に有利な遊星歯車機構によって減速比が確保される。したがって、軽量かつコンパクトな構造でありながら、低速側と高速側の全体で多段の変速段を有する変速機となる。よって、横置き配置のエンジンを備えた車両などにも搭載可能でありながら、変速段数の多段化で燃費効率の良い変速機となる。
【0011】
また、上記の効果によって、従来の平行軸式の変速機と比較して、大幅に少ない部品点数と短い全長による外形のコンパクト化及び軽量化と、多段化及び高効率化との両方を実現できる。さらに、トルクコンバータなどを付随することで車両の発進商品性を高めた変速機に本発明を適用しても、コンパクト化及び軽量化が可能となる。
【0012】
また、上記の変速機では、変速用従動ギヤ(GTN1又はGTN2)に対して直接噛合している後進用駆動ギヤ(GR)と、アイドル軸(L)に対するアイドル歯車(GL)の断続を切り替える第1後進切替用クラッチ(CR1)とアイドル軸(L)に対する後進用駆動ギヤ(GR)の断続を切り替える第2後進切替用クラッチ(CR2)との少なくともいずれかと、をさらに備えてよい。このように、後進用駆動ギヤをアイドル軸に対して断続するように設置すれば、後進段設定用の軸(リバース軸)を別途に設けずに済むので、変速機の軸数を少なく抑えることができる。また、後進段を設定するための機構を簡単かつコンパクトな構成にできる。
【0013】
上記の変速機では、さらに、入力軸(M)上で駆動ギヤ(GV)及び変速用歯車組(GT1,GT2)よりも駆動源(EG)に近い位置に電動機(MOT)を取り付けるとよい。この場合、電動機(MOT)は、ロータ(MR)とステータ(MS)を有し、ロータ(MR)が入力軸(M)と同心軸上で一体に回転するように取り付けるとよい。さらにこの場合、入力軸(M)上に設けた駆動源(EG)からの駆動力を断続するための主クラッチ(CM)を備え、電動機(MOT)のロータ(MR)は、主クラッチ(CH)における入力軸(M)側に固定された部材(CA)に取り付けるとよい。
あるいは、上記の変速機では、入力軸(M)と平行に設置したモータ軸(P)と、該モータ軸(P)に取り付けた電動機(MOT)と、モータ軸(P)上で相対回転不能に設置されて動力伝達用歯車組(G1)が有するいずれかの歯車(GL)と噛合するモータ駆動歯車(GP)と、を備えてもよい。
これらの場合、上記の電動機(MOT)は、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータであってよい。
【0014】
本発明の変速機は、上記のような電動機を備えることで、従来の平行軸式の変速機、あるいはエンジンなどの駆動源専用の変速機と同様の全長スペースで、かつ同一の骨格をそのまま流用しながらも、変速機の内部に電動機を設置することができる。したがって、エンジンなど駆動源の駆動力と電動機の駆動力との両方を用いることができるので、電動機の駆動力のみのいわゆるEV走行、エンジンなど駆動源の電動機によるアシスト走行、回生走行、エンジンなど駆動源の停止時における電動機によるエアコンプレッサの作動など、高い商品性を有するハイブリッド駆動を行うことが可能となる。したがって、軽量かつコンパクトな構成でありながら、変速段の多段化と電動機による駆動力の補助とによって、高効率かつ低燃費を実現可能なハイブリッド駆動装置を提供できる。
【0015】
また、上記の変速機では、入力軸(M)と平行に設置したエアコン軸(Q)と、該エアコン軸(Q)の回転で駆動するエアコンプレッサ(AC)と、エアコン軸(Q)に対して相対回転不能に設置されて動力伝達用歯車組(G1)が有するいずれかの歯車(GL)と噛合するエアコン駆動用歯車(GQ)とを備えるとよい。これによれば、エンジンなど駆動源の停止時に、電動機だけでエアコンプレッサを作動することができる。したがって、エンジンなど駆動源を停止したまま車室内の冷暖房などを行うことができる。また、この場合、モータ軸(Q)とエアコン軸(P)とを共通の軸としてもよい。これによれば、変速機が備える軸数を少なく抑えることができるので、変速機の構成の簡素化、軽量化を図ることができる。
【0016】
また、上記の変速機では、第1、第2クラッチ(CH,CL)及び変速用クラッチ(C1〜C4)の少なくともいずれかを作動するためのオイルポンプ(OP)を備え、オイルポンプ(OP)は、アイドル軸(L)の回転で動作するように構成してよい。これによれば、エンジンなど駆動源が停止した状態でも、電動機のみでオイルポンプを駆動できるので、各クラッチを作動して発進及び変速に必要な変速段の設定を行うことが可能となる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態の対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる変速機によれば、従来の平行軸式の変速機と比べて少ない部品点数及びコンパクトな外形寸法でありながら、変速段の多段化及び高効率化を図ることができる。また、変速機の内部に電動機を設置してなる小型のハイブリッド駆動装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図2】第1実施形態の変速機で各変速段を設定するための各クラッチの係合・解除状態を示す一覧表である。
【図3(a)】1速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図3(b)】2速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図3(c)】3速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図3(d)】4速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図3(e)】5速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図3(f)】6速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図3(g)】7速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図3(h)】8速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図3(i)】後進段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図5】第2実施形態の変速機で各変速段を設定するための各クラッチの係合・解除状態を示す一覧表である。
【図6】第2実施形態の変速機における駆動力伝達経路を示すスケルトン図であり、(a)は、EV走行における発進(EV発進)時の駆動力伝達経路、(b)は、電動機でエアコンプレッサを駆動する際の駆動力伝達経路を示している。
【図7】本発明の第3実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図8】本発明の第4実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる変速機の全体構成例を示すスケルトン図である。図1に示す変速機1は、互いに平行に設けた入力軸M、アイドル軸L、中間軸S、出力軸Cを有する平行軸式の自動変速機である。入力軸Mは、エンジンEGのクランクシャフトCSに対してトルクコンバータTCを介して連結されている。
【0020】
出力軸Cは、後述する第1、第2変速用歯車組GT1,GT2を介して入力軸M及び中間軸Sからの駆動力が伝達される中空筒状の第1出力軸CXと、第1出力軸CXに対して同心軸上の内側に設けた第2出力軸CYとを有する二重構造である。第1出力軸CXには、第1変速用歯車組GT1を構成する第1変速用従動ギヤGTN1、及び第2変速用歯車組GT2を構成する第2変速用従動ギヤGTN2が設けられている。また、第2出力軸CYには、図示しないディファレンシャル機構に駆動力を伝達するためのファイナルギヤFGが設けられている。
【0021】
また、入力軸Mとアイドル軸Lと中間軸Sとの間には、動力伝達用歯車組G1が設けられている。動力伝達用歯車組G1は、入力軸M上で相対回転不能に(固定して)設けた駆動ギヤGVと、中間軸S上で相対回転不能に設けた従動ギヤGNと、アイドル軸L上に設けたアイドルギヤGLとを備えて構成されている。アイドルギヤGLは、第1後進切替用クラッチCR1によって、アイドル軸Lに対する相対回転の可能・不能を切替自在(断続自在)となっている。そして、アイドル軸Lに固定したアイドルギヤGLは、入力軸Mと中間軸Sにそれぞれ固定した駆動ギヤGVと従動ギヤGNの両方と噛合している。これにより、入力軸Mと中間軸Sを定回転比で駆動するようになっている。
【0022】
また、入力軸M及び中間軸Sと、出力軸Cとの間には、変速段の設定を行うための変速機構部GTが設けられている。変速機構部GTは、第1変速用歯車組GT1と、第2変速用歯車組GT2とからなる二組の変速用歯車組を備えている。
【0023】
第1変速用歯車組GT1は、中間軸S上で相対回転可能に設けた1−5速駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)GTV1と、入力軸M上で相対回転可能に設けた2−6速駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)GTV2と、第1出力軸CX上で相対回転不能に設けた第1変速用従動ギヤ(変速用従動歯車)GTN1とを備えており、2−6速駆動ギヤGTV2と1−5速駆動ギヤGTV1の両方が第1変速用従動ギヤGTN1に噛合している。そして、中間軸S上には、中間軸Sに対する1−5速駆動ギヤGTV1の断続を切り替える1−5変速用クラッチC1が設置されており、入力軸M上には、入力軸Mに対する2−6速駆動ギヤGTV2の断続を切り替える2−6変速用クラッチC2が設置されている。1−5変速用クラッチC1と2−6変速用クラッチC2は、いずれも一般に知られた油圧作動型の摩擦式クラッチである。
【0024】
第2変速用歯車組GT2は、中間軸S上で相対回転可能に設けた3−7速駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)GTV3と、入力軸M上で相対回転可能に設けた4−8速駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)GTV4と、第1出力軸CX上で相対回転不能に設けた第2変速用従動ギヤ(変速用従動歯車)GTN2とを備えており、3−7速駆動ギヤGTV3と4−8速駆動ギヤGTV4の両方が第2変速用従動ギヤGTN2に噛合している。そして、中間軸S上には、中間軸Sに対する3−7速駆動ギヤGTV3の断続を切り替えるための3−7変速用クラッチC3が設置されており、入力軸M上には、入力軸Mに対する4−8速駆動ギヤGTV4の断続を切り替えるための4−8変速用クラッチC4が設置されている。3−7変速用クラッチC3と4−8変速用クラッチC4は、いずれも一般に知られた油圧作動型の摩擦式クラッチである。
【0025】
すなわち、変速機構部GTは、2組の前進用ギヤ列である第1変速用歯車組GT1と、第2変速用歯車組GT2とを有している。そして、第1変速用歯車組GT1は、中間軸S及び入力軸Mにそれぞれ変速用クラッチC1,C2で断続自在に配置した2つの駆動ギヤGTV1,GTV2が、出力軸Cに固定した1つの従動ギヤGTN1を共用して噛合う構成であり、第2変速用歯車組GT2は、中間軸S及び入力軸Mにそれぞれ変速用クラッチC3,C4で断続自在に配置した2つの駆動ギヤGTV3,GTV4が出力軸Cに固定した1つの従動ギヤGTN2を共用して噛合う構成である。
【0026】
また、変速機1には、アイドル軸L上で相対回転可能に設けた後進用駆動ギヤGRと、アイドル軸Lに対する後進用駆動ギヤGRの断続を切り替えるための第2後進切替用クラッチCR2とが設けられている。後進用駆動ギヤGRは、第1変速用従動ギヤGTN1と第2変速用従動ギヤGTN2のいずれかに対して直接に噛合している。
【0027】
そして、第1出力軸CXと第2出力軸CYとの間には、遊星歯車機構PTが設けられている。遊星歯車機構PTは、第1出力軸CXに連結(固定)されたサンギヤ(第1要素)PSと、第2出力軸CYに連結(固定)されたキャリア(第2要素)PCと、変速機1のケーシング(固定側の部材)Kに対して固定可能なリングギヤ(第3要素)PRとを備えて構成されている。
【0028】
また、第1出力軸CXと遊星歯車機構PTのキャリアPCとの断続を切り替えるための第1クラッチCHと、遊星歯車機構PTのリングギヤPRとケーシングKなどの固定側部材との断続を切り替えるための第2クラッチCLとが設けられている。第1クラッチCHは、第1出力軸CXに固定された第1変速用従動ギヤGTN1と、遊星歯車機構PTのキャリアPCとの間に設置されている。ここでの第1クラッチCHは、滑らかな係合よりもむしろ断続の切り替えを主体とした動作を行う機構であることが望ましい。第1クラッチCHは、具体的には、湿式クラッチなどであってよい。また、第2クラッチCLは、ワンウェイクラッチ(ブレーキ)であり、解放状態において、リングギヤPRの一方向への回転が許容され、係合状態において、リングギヤPRのケーシングKに対する固定が行われるようになっている。
【0029】
上記の変速機1の構成を各軸上の構成要素で整理すると、入力軸M上には、駆動源であるエンジンEGに近い側から、動力伝達用歯車組G1の駆動ギヤGV、第2変速用歯車組GT2の4−8速駆動ギヤGTV4、4−8変速用クラッチC4、2−6変速用クラッチC2、第1変速用歯車組GT1の2−6速駆動ギヤGTV2がこの順で設けられている。また、中間軸S上には、エンジンEGに近い側から、動力伝達用歯車組G1の従動ギヤGN、第2変速用歯車組GT2の3−7速駆動ギヤGTV3、3−7変速用クラッチC3、1−5変速用クラッチC1、第1変速用歯車組GT1の1−5速駆動ギヤGTV1がこの順で設けられている。また、アイドル軸L上には、エンジンEGに近い側から、動力伝達用歯車組G1のアイドルギヤGL及び第1後進切替用クラッチCR1、後進用駆動ギヤGR及び第2後進切替用クラッチCR2がこの順で設けられている。また、出力軸C(第1出力軸CX及び第2出力軸CY)上には、エンジンEGに近い側から、ファイナルギヤFG、第2変速用歯車組GT2の第2変速用従動ギヤGTN2、第1変速用歯車組GT1の第1変速用従動ギヤGTN1、遊星歯車機構PTがこの順で設けられている。
【0030】
図2は、変速機1において各変速段を設定するための各クラッチ(第1、第2クラッチCH,CL、変速用クラッチC1〜C4)の係合・解放(接続・切断)状態を示す一覧表である。なお、表中の1,2,3,4,L,H,R1/2は、それぞれ1−5変速用クラッチC1、2−6変速用クラッチC2、3−7変速用クラッチC3、4−8変速用クラッチC4、第2クラッチCL、第1クラッチCH、第1及び第2後進切替用クラッチCR1,CR2を示している。また、●印は、各クラッチが係合状態にあることを示しており、空欄は、解放状態にあることを示している。また、○印は、第2クラッチCLが係合し、かつワンウェイ機構が作動した状態を示している。また、図3(a)乃至(i)は、各変速段での動力伝達経路を示した変速機1のスケルトン図である。図3(a)乃至(i)では、係合しているクラッチを網掛けで図示しており、かつ、変速機1内の動力伝達経路を太線の矢印で図示している。なお、同図(a),(c),(e),(g)に示す※印は、アイドルギヤGLから従動ギヤGNへの駆動力の伝達経路を示している。
【0031】
上記構成の変速機1では、第1、第2クラッチCH,CLと4個の変速用クラッチC1〜C4とを選択的に係合させることにより、前進8速(LOW〜8TH)および後進1速(RVS)の変速段を設定することができる。以下、各変速段の設定について順に説明する。
【0032】
まず、1速段(LOW)を設定にするには、1−5変速用クラッチC1を係合させる。このとき、第1クラッチCHが解放されていることで、第2クラッチCLのワンウェイ機構が作動する。これにより、遊星歯車機構PTのリングギヤPRが固定される。したがって、変速機構部GTで得られるギヤ比に対して、遊星歯車機構PTによって減速されたギヤ比で駆動力が伝達される。それと同時に、変速機構部GTでは、1−5変速用クラッチC1の係合で、1−5速駆動ギヤGTV1が中間軸Sに対して相対回転不能となる。したがって、図3(a)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→駆動ギヤGV→アイドルギヤGL→従動ギヤGN→中間軸S→1−5速駆動ギヤGTV1→第1変速用従動ギヤGTN1→第1出力軸CX→遊星歯車機構PTのサンギヤPS→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。なお、第2クラッチCLでは、加速時にのみワンウェイ機構が作動し、減速時には、ワンウェイ機構が作動せず第2クラッチCLの係合によってトルク伝達が行われる。
【0033】
2速段(2ND)を設定にするには、2−6変速用クラッチC2を係合させる。この場合、第1クラッチCHが解放されており、第2クラッチCLが係合していることで、遊星歯車機構PTのリングギヤPRが固定される。また、2−6変速用クラッチC2の係合で、2−6速駆動ギヤGTV2が入力軸Mに対して相対回転不能となる。したがって、図3(b)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→2−6速駆動ギヤGTV2→第1変速用従動ギヤGTN1→第1出力軸CX→遊星歯車機構PTのサンギヤPS→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。
【0034】
3速段(3ND)を設定にするには、3−7変速用クラッチC3を係合させる。この場合も、第1クラッチCHが解放されおり、第2クラッチCLが係合していることで、遊星歯車機構PTのリングギヤPRが固定される。また、3−7変速用クラッチC3の係合で、3−7速駆動ギヤGTV3が中間軸Sに対して相対回転不能となる。したがって、図3(c)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→駆動ギヤGV→アイドルギヤGL→従動ギヤGN→中間軸S→3−7速駆動ギヤGTV3→第2変速用従動ギヤGTN2→第1出力軸CX→遊星歯車機構PTのサンギヤPS→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。
【0035】
4速段(4TH)を設定にするには、4−8変速用クラッチC4を係合させる。この場合も、第1クラッチCHが解放されており、第2クラッチCLが係合していることで、遊星歯車機構PTのリングギヤPRが固定される。また、4−8変速用クラッチC2の係合で、4−8速駆動ギヤGTV4が入力軸Mに対して相対回転不能となる。したがって、図3(d)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→4−8速駆動ギヤGTV4→第2変速用従動ギヤGTN2→第1出力軸CX→遊星歯車機構PTのサンギヤPS→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。
【0036】
5速段(5TH)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ1−5変速用クラッチC1を係合させる。第1クラッチCHの係合で、遊星歯車機構PTのキャリアPCが第1変速用従動ギヤGTN1及び第1出力軸CXに対して固定される。したがって、この場合は、遊星歯車機構PTによる減速は行われず、変速機構部GTで得られるギヤ比がそのまま出力される。また、1−5変速用クラッチC1の係合で、1−5速駆動ギヤGTV1が中間軸Sに対して相対回転不能となる。したがって、図3(e)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→駆動ギヤGV→アイドルギヤGL→従動ギヤGN→中間軸S→1−5速駆動ギヤGTV1→第1変速用従動ギヤGTN1→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。
【0037】
6速段(6TH)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ2−6変速用クラッチC2を係合させる。この場合も、第1クラッチCHの係合で、遊星歯車機構PTのキャリアPCが第1変速用従動ギヤGTN1及び第1出力軸CXに対して固定される。また、2−6変速用クラッチC2の係合で、2−6速駆動ギヤGTV2が入力軸Mに対して相対回転不能となる。したがって、図3(f)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→2−6速駆動ギヤGTV2→第1変速用従動ギヤGTN1→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。
【0038】
7速段(7TH)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ3−7変速用クラッチC3を係合させる。この場合も、第1クラッチCHの係合で、遊星歯車機構PTのキャリアPCが第1変速用従動ギヤGTN1及び第1出力軸CXに対して固定される。また、3−7変速用クラッチC3の係合で、3−7速駆動ギヤGTV3が中間軸Sに対して相対回転不能となる。したがって、図3(g)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→駆動ギヤGV→アイドルギヤGL→従動ギヤGN→中間軸S→3−7速駆動ギヤGTV3→第2変速用従動ギヤGTN2→第1出力軸CX→第1変速用従動ギヤGTN1→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。
【0039】
8速段(8TH)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ4−8変速用クラッチC4を係合させる。この場合も、第1クラッチCHの係合で、遊星歯車機構PTのキャリアPCが第1変速用従動ギヤGTN1及び第1出力軸CXに対して固定される。また、4−8変速用クラッチC4の係合で、4−8速駆動ギヤGTV4が入力軸Mに対して相対回転不能となる。したがって、図3(h)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→4−8速駆動ギヤGTV4→第2変速用従動ギヤGTN2→第1出力軸CX→第1変速用従動ギヤGTN1→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。
【0040】
後進段(RVS)を設定にするには、第2クラッチCLを係合させ、かつ、第1及び第2後進切替用クラッチCR1,CR2を係合させる。第1後進切替用クラッチCR1の係合で、アイドルギヤGLがアイドル軸Lに対して相対回転不能となり、かつ、第2後進切替用クラッチCR2の係合で、後進用駆動ギヤGRがアイドル軸Lに対して相対回転不能となる。したがって、図3(i)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、入力軸M→駆動ギヤGV→アイドルギヤGL→アイドル軸L→後進用駆動ギヤGR→第1変速用従動ギヤGTN1→第1出力軸CX→遊星歯車機構PTのサンギヤPS→遊星歯車機構PTのキャリアPC→第2出力軸CYの経路で伝達される。この際、第2クラッチCLの係合でリングギヤPRが固定されているので、第1出力軸CX及び遊星歯車機構PTのサンギヤPSは、後進用駆動ギヤGRからの駆動力の伝達によって、前進段の設定時とは逆向きに回転する。こうして、前進段の設定時とは逆回転の駆動力が出力軸Cに伝達される。
【0041】
なお、第1、第1クラッチCH,CL、変速用クラッチC1〜C4をすべて解放すれば、ニュートラル(N)の状態となる。これにより、入力軸Mに入力された駆動力が出力軸Cに伝達されない。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の変速機1は、互いに平行に設置した入力軸M、中間軸S、アイドル軸L、出力軸Cを備えている。そして、出力軸Cは、入力軸M及び中間軸Sからの駆動力が伝達される外側の第1出力軸CXと、第1出力軸CXに対して同心軸上の内側に設けた第2出力軸CYとを有する二重構造である。また、入力軸M上で相対回転不能に設けた駆動ギヤGVと、アイドル軸L上で断続自在に設けられて駆動ギヤGVと噛合するアイドルギヤGLと、中間軸S上で相対回転不能に設けられてアイドルギヤGLと噛合する従動ギヤGNと、を有する動力伝達用歯車組G1を備えている。
【0043】
さらに、変速機1は、二組の変速用歯車組GT1,GT2を有してなる変速機構部GTを備えている。第1変速用歯車組GT1は、中間軸S上に設けた変速用駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)GTV1と、入力軸M上に設けた変速用駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)GTV2と、出力軸C上で相対回転不能に設けた変速用従動ギヤGTN1とを備えている。変速用従動ギヤGTN1は、変速用駆動ギヤGTV1,GTV2の両方と噛合している。そして、中間軸Sに対する変速用駆動ギヤGTV1の断続を切り替える変速用クラッチC1と、入力軸Mに対する変速用駆動ギヤGTV2の断続を切り替える変速用クラッチC2とを備えている。また、第2変速用歯車組GT2は、中間軸S上に設けた変速用駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)GTV3と、入力軸M上に設けた変速用駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)GTV4と、出力軸C上で相対回転不能に設けた変速用従動ギヤGTN2とを備えている。変速用従動ギアGTN2は、変速用駆動ギヤGTV3,GTV4の両方と噛合している。そして、中間軸Sに対する変速用駆動ギヤGTV3の断続を切り替える変速用クラッチC3と、入力軸Mに対する変速用駆動ギヤGTV4の断続を切り替える変速用クラッチC4とを備えている。
【0044】
そして、第1出力軸CXと第2出力軸CYとの間には、第1出力軸CXに連結されたサンギヤ(第1要素)PSと、第2出力軸CYに連結されたキャリア(第2要素)PCと、変速機1のケーシング(固定側の部材)Kに対して固定可能なリングギヤ(第3要素)PRとで構成された遊星歯車機構PTが設けられている。
【0045】
上記構成の変速機1において、第1、第2変速用歯車組GT1,GT2で設定された各変速段に対して、第1、第2クラッチCH,CLの断続を選択的に掛け合わせることで、変速用歯車組GTで設定された各変速段の変速比に加えて、当該変速比を遊星歯車機構PTで減速した変速比を出力することができる。これにより、変速用歯車組GTで得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるように構成している。
【0046】
したがって、本実施形態の変速機1は、従来の平行軸式の自動変速機と比較して、軽量・コンパクト化を図りながら、変速段の多段化によって燃費効率の良い変速機となる。すなわち、例えば、特許文献1に記載の平行軸式の自動変速機では、軸数=6、歯車数=15で6速段の変速機を構成していたのに対して、本実施形態の変速機1では、軸数=4、歯車数=10の骨格に遊星歯車機構PTを加えたもので、8速段の変速機を構成している。なお、ここでの軸数は、リバース(後進)軸を含む数であり、歯車数は、出力軸C上に設けたファイナルギヤFGを除く数である。
【0047】
また、本発実施形態の変速機1では、二組の変速用歯車組GT1,GT2を有する変速機構部GTで設定される4段の変速段に対して、第1、第2クラッチCH,CLの断続を掛け合わせることで、倍の変速段数である8段の変速段を設定するようになっている。そして、本実施形態のように、変速用歯車組GT1,GT2で得られる各変速段のギヤ比に対して、遊星歯車機構PTで減速したギヤ比を得る場合、遊星歯車機構PTでの減速が無い高速側の変速段である5〜8速段は、低速側の変速段である1〜4速段に比べて減速比が少ない。したがって、各ギヤと軸の強度、剛性の面で軽量コンパクトな設計が可能となる。また、高速側の5〜8速段では、変速機構部GTの下流側(出力側)の遊星歯車機構PTは、減速の無い直結状態となるため、駆動力の伝達効率が低下せずに済む。一方、遊星歯車機構PTで減速された低速側の1〜4速段でも、変速用歯車組GT1,GT2では、高速側の4〜8速段と同じギヤ段を使用でき、高負荷領域に有利な遊星歯車機構PTによって減速比が確保される。したがって、軽量かつコンパクトな構造でありながら、低速側と高速側の全体で多段の変速段を有する変速機となる。よって、横置き配置のエンジンを備えた車両などにも搭載可能でありながら、変速段数の多段化で燃費効率の良い変速機1となる。
【0048】
また、本実施形態の変速機1では、後進用駆動ギヤGRをアイドル軸L上に設けており、アイドル軸Lに対して断続可能に設置している。したがって、後進段設定用の軸(リバース軸)を別途に設けずに済むので、変速機1の軸数及びギヤ数を少なく抑えることが可能となる。また、後進段を設定するための機構を簡単かつコンパクトな構成にできる。
【0049】
また、上記の効果によって、従来の平行軸式の変速機と比較して、少ない部品点数と短い全長による外形のコンパクト化及び軽量化と、変速段数の多段化及び高効率化との両方を実現できる。さらに、変速機1がトルクコンバータを付随することで車両の発進商品性を高めた変速機である場合にも、コンパクト化及び軽量化が可能となる。
【0050】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。この点は、他の実施形態においても同様である。
【0051】
図4は、第2実施形態にかかる変速機1−2を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−2は、入力軸Mにおける駆動ギヤGVよりも上流側、すなわち駆動ギヤGVとトーションダンパーTDとの間に設置したメインクラッチ(主クラッチ)CMを備えている。メインクラッチCMは、入力軸Mに対するエンジンEGからの駆動力の入力の有無を切り替える機構であって、トーションダンパーTDから下流側に延びるシャフトTSに固定されたクラッチディスク(入力側部材)CBと、変速機1−2の入力軸Mに固定されたクラッチドラム(出力側部材)CAとを備えている。
【0052】
また、本実施形態の変速機1−2は、メインクラッチCMに取り付けた電動機MOTを備えている。電動機MOTは、ステータMSと、該ステータMSに対して同芯軸上の内側で回転自在に設置されたロータMRとを備えている。そして、電動機MOTのロータMRが、メインクラッチCMのクラッチドラムCAに固定されている。ロータMRは、円筒形の部品であり、クラッチドラムCAに対して同芯上の外側に配置されており、クラッチドラムCAの回転外周面に固定されている。また、電動機MOTは、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータである。
【0053】
また、本実施形態の変速機1−2は、入力軸Mと平行に設置したエアコン軸Qと、エアコン軸Qの回転で駆動するエアコンプレッサACと、エアコン軸Qに相対回転不能に設置されたエアコン駆動ギヤGQとを備えている。エアコン駆動ギヤGQは、アイドルギヤGLと噛合している。
【0054】
また、本実施形態の変速機1−2は、第1、第2クラッチCH,CL及び変速用クラッチC1〜C4の少なくともいずれかを作動するためのオイルポンプ(油圧ポンプ)OPを備えている。また、オイルポンプOPは、アキュームレータ(蓄圧装置)Aを備えている。オイルポンプOPは、アイドル軸Lの回転で動作するように構成されており、図示しない油圧供給ラインを通じて、第1、第2クラッチCH,CL、変速用クラッチC1〜C4、メインクラッチCMを作動するための作動油を供給するようになっている。なお、アキュームレータAは、設置を省略することも可能である。
【0055】
なお、本実施形態では、第1実施形態でアイドル軸LとアイドルギヤGLの間に設けていた第1後進切替用クラッチCR1が省略されており、アイドルギヤGLは、アイドル軸Lに対して相対回転不能に設置されている。
【0056】
図5は、変速機1−2において各変速段を設定するための各クラッチ(第1、第2クラッチCH,CL、変速用クラッチC1〜C4、後進切替用クラッチCRの係合・解放(接続・切断)状態を示す一覧表で、(a)は、エンジンEGの駆動力を用いて走行する場合の係合表であり、(b)は、電動機MOTの駆動力のみで走行する場合(EV走行)の係合表である。表中のEは、メインクラッチCMを示しおり、Rは、後進切替用クラッチCRを示している。また、図6は、駆動力伝達経路を示した変速機1−2のスケルトン図であり、同図(a)は、EV走行における発進(EV発進)時の動力伝達経路を示している。また、同図(b)は、電動機MOTでエアコンプレッサACを駆動する際の動力伝達経路を示している。なお、図6(a)では、エアコンプレッサAP及びエアコン軸Qは、図示を省略している。
【0057】
変速機1−2では、エンジンEGの駆動力を出力軸Cに伝達する場合、図5(a)に示すように、第1実施形態の変速機1における各変速段の設定に加えて、メインクラッチCMを係合させておく。これにより、エンジンEGからの駆動力が入力軸Mに伝達される。なお、エンジンEGの駆動力を電動機MOTの駆動力で補助するアシスト走行を行う場合も、同様の設定でよい。
【0058】
一方、変速機1−2では、エンジンEGの駆動力を入力軸Mに伝達せず、電動機MOTの駆動力のみを入力軸Mに伝達してEV走行を行うことができる。この場合は、図5(b)に示すように、メインクラッチCMを解放しておく。これにより、エンジンEGからの駆動力が入力軸M側に伝達されず、入力軸Mが電動機MOTの駆動力のみで駆動される。この場合は、図6(a)に示すように、電動機MOTからの駆動力がメインクラッチCMのクラッチドラムCAを介して入力軸Mに伝達される。それ以降の動力伝達経路は、第1実施形態の変速機1と同じである。なお、1速段以外の変速段についても、電動機MOTからメインクラッチCMを介して入力軸Mに動力が伝達される点を除いた他の動力伝達経路は、第1実施形態の変速機1と同じである。したがって、ここでは、他の変速段の図示及び詳細な説明は省略する。
【0059】
また、本実施形態の変速機1−2では、アイドル軸Lの回転で動作するオイルポンプOP及びアキュームレータAが設けられている。したがって、EV発進時には、図6(a)に示すように、アキュームレータAに蓄圧された油圧で1−5変速用クラッチC1を係合させることができる。このように、エンジンEGが停止した状態で1速段を設定でき、車両の発進制御を行うことが可能となる。
【0060】
本実施形態の変速機1−2によれば、電動機MOTをモータとして機能させることで、入力軸Mに対して電動機MOTの駆動力を付与できる。これにより、エンジンEGの停止時に電動機MOTの駆動力のみで出力軸Cに駆動力を伝達できる。したがって、車両のEV走行が可能となる。また、電動機MOTでエンジンEGの駆動力を補助するアシスト走行が可能となる。さらに、電動機MOTをジェネレータとして機能させることで、入力軸Mの回転による回生や発電を行うことが可能となる。
【0061】
また、本実施形態の変速機1−2では、上記の電動機MOTを備えたことで、従来の平行軸式の変速機、あるいはエンジン専用の変速機と同様の全長スペースで、かつ同一の骨格をそのまま流用しながらも、変速機1の内部に電動機MOTを設置することができる。したがって、電動機MOTの駆動力のみのいわゆるEV走行、エンジンEGの駆動力の電動機MOTによるアシスト、回生など、高い商品性を有するハイブリッド駆動を行うことが可能となる。したがって、軽量かつコンパクトな構成でありながら、変速段の多段化及び電動機MOTによる駆動力の補助で、高効率かつ低燃費を実現可能なハイブリッド駆動装置となる。
【0062】
また、本実施形態の変速機1−2では、アイドルギヤGLに噛合うエアコン駆動ギヤGQによって、エアコンプレッサACを駆動するようになっている。したがって、エンジンEGを停止した状態で、メインクラッチCMを解放すれば、図6(b)に示すように、電動機MOTの駆動力が、入力軸M→駆動ギヤGV→アイドルギヤGL→エアコン駆動ギヤGQ→エアコン軸Q→エアコンプレッサACの経路で伝達される。これにより、電動機MOTの駆動のみでエアコンプレッサACを作動することが可能である。したがって、エンジンEGの停止時にもエアコンプレッサACを作動でき、車室内の冷暖房などを行うことができる。
【0063】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図7は、第3実施形態にかかる変速機1−3を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−3は、第2実施形態の変速機1−2と比較して、電動機MOTの設置位置が異なっている。すなわち、本実施形態の変速機1−2では、電動機MOTがアイドル軸Lに取り付けられている。電動機MOTは、ステータMSと、該ステータMSに対して同芯軸上の内側で回転自在に設置されたロータMRとを備えている。そして、電動機MOTのロータMRが、アイドル軸Lに固定されており、該アイドル軸Lと同芯上で一体回転するように構成されている。また、本実施形態の変速機1−3では、メインクラッチCMがトーションダンパーTDの内側に設置されている。その他の構成は、第2実施形態の変速機1−2と同じである。
【0064】
本実施形態の変速機1−3によれば、アイドル軸Lに固定したアイドルギヤGLを介して電動機MOTの駆動力を動力伝達用歯車組G1及び入力軸Mに付加するようになっている。したがって、電動機MOTをモータとして機能させることで、入力軸Mに対して駆動力を付与できる。これにより、エンジンEGの停止時に電動機MOTの駆動力を出力軸Cに伝達できる。したがって、車両のEV走行が可能となる。また、電動機MOTの駆動でエンジンEGの駆動力を補助することができるので、アシスト走行が可能となる。さらに、電動機MOTをジェネレータとして機能させることで、動力伝達用歯車組G1又はアイドル軸Lの回転による回生や発電を行うことが可能となる。また、本実施形態においても、アイドル軸L上にオイルポンプOPを設置している。したがって、エンジンEGが停止した状態で、電動機MOTによってオイルポンプOPを駆動することができる。これにより、電動機MOTの駆動力だけで車両を発進(EV発進)させることができる。
【0065】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図8は、第4実施形態にかかる変速機1−4を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−4は、第2実施形態の変速機1−2と比較して、電動機MOTの配置が異なっている。すなわち、本実施形態の変速機1−4は、入力軸Mと平行に設置したエアコン/モータ軸Uと、エアコン/モータ軸Uの回転で駆動するエアコンプレッサACと、エアコン/モータ軸Uに取り付けた電動機MOTと、エアコン/モータ軸Uに相対回転不能に設置されたエアコン/モータ駆動ギヤGUとを備えている。電動機MOTは、ステータMSとロータMRを備えており、ロータMRがエアコン/モータ軸Uに固定されて、一体に回転するようになっている。エアコン/モータ駆動ギヤGUは、アイドルギヤGLと噛合している。
【0066】
本実施形態の変速機1−4は、第2実施形態の変速機1−2が備えるエアコン軸Qをモータ軸と共通の軸であるエアコン/モータ軸Uで置き換えた構成である。これにより、変速機1内にエアコンプレッサACと電動機MOTの両方を設置しながらも、全体の部品点数を少なく抑えることができる。したがって、変速機1−4の外形寸法の小型化、部品点数の削減による軽量化を図ることができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記の各実施形態の変速機1〜1−4では、変速機構部GTで得られるギヤ比に対して、遊星歯車機構PTによって減速されたギヤ比が出力される場合を説明したが、これ以外にも、変速機構部GTで得られるギヤ比に対して、遊星歯車機構PTによって増速されたギヤ比が出力されるように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
1〜1−4 変速機
L アイドル軸
M 入力軸
S 中間軸
C 出力軸
CX 第1出力軸
CY 第2出力軸
C1 1−5変速用クラッチ
C2 2−6変速用クラッチ
C3 3−7変速用クラッチ
C4 4−8変速用クラッチ
CH 第1クラッチ
CL 第2クラッチ(ワンウェイクラッチ(ブレーキ))
CM メインクラッチ(主クラッチ)
CR1 第1後進切替用クラッチ
CR2 第2後進切替用クラッチ
EG エンジン(駆動源)
G1 動力伝達用歯車組
GV 駆動ギヤ
GN 従動ギヤ
GL アイドルギヤ
GU モータ駆動ギヤ
GQ エアコン駆動ギヤ
GR 後進用駆動ギヤ
GT 変速機構部
GT1 変速用歯車組
GT2 変速用歯車組
GTN1 第1変速用従動ギヤ
GTN2 第2変速用従動ギヤ
GTV1 1−5速駆動ギヤ
GTV2 2−6速駆動ギヤ
GTV3 3−7速駆動ギヤ
GTV4 4−8速駆動ギヤ
MOT 電動機
MR ロータ
MS ステータ
PT 遊星歯車機構
PS サンギヤ(第1要素)
PC キャリア(第2要素)
PR リングギヤ(第3要素)
OP オイルポンプ
AC エアコンプレッサ
Q エアコン軸
U モータ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に設置した入力軸、中間軸、アイドル軸、出力軸を備え、
前記出力軸は、前記入力軸及び前記中間軸からの駆動力が伝達される第1出力軸と、前記第1出力軸に対して同心軸上に設けた第2出力軸とを有する二軸構造であり、
前記入力軸上で相対回転不能に設けた駆動歯車と、前記アイドル軸上で相対回転不能又は断続自在に設けられて前記駆動歯車と噛合するアイドル歯車と、前記中間軸上で相対回転不能に設けられて前記アイドル歯車と噛合する従動歯車と、を有する動力伝達用歯車組と、
前記入力軸上に設けた第1変速用駆動歯車および前記中間軸上に設けた第2変速用駆動歯車と、前記第1出力軸上で相対回転不能かつ前記第1、第2変速用駆動歯車の両方と噛合する変速用従動歯車と、前記入力軸に対する前記第1変速用駆動歯車の断続、及び前記中間軸に対する前記第2変速用駆動歯車の断続を切り替える変速用クラッチと、からなる変速用歯車組と、を備え、
前記第1出力軸と前記第2出力軸との間には、前記第1出力軸に連結された第1要素と、前記第2出力軸に連結された第2要素と、固定側の部材に対して固定可能な第3要素とで構成された遊星歯車機構が設けられており、
前記変速用歯車組で設定された各変速段の変速比に加えて、当該変速比を前記遊星歯車機構で減速又は増速した変速比を出力することで、前記変速用歯車組で得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるように構成した
ことを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記第2出力軸と前記遊星歯車機構の前記第2要素との断続を切り替える第1クラッチと、
前記遊星歯車機構の前記第3要素と前記固定側の部材との断続を切り替える第2クラッチと、を備え、
前記倍の変速段数は、前記変速用歯車組で設定された各変速段に対して、前記第1、第2クラッチの断続を選択的に掛け合わせることで得られる
ことを特徴とする請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
前記変速用従動歯車に対して直接噛合している後進用駆動ギヤと、
前記アイドル軸に対する前記アイドル歯車の断続を切り替える第1後進切替用クラッチと、前記アイドル軸に対する前記後進用駆動ギヤの断続を切り替える第2後進切替用クラッチとの少なくともいずれかと、を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の変速機。
【請求項4】
前記入力軸上で、前記駆動ギヤ及び前記変速用歯車組よりも前記駆動源に近い位置に取り付けた電動機を備え、
前記電動機は、ロータとステータを有し、前記ロータが前記入力軸と同心軸上で一体に回転するように取り付けられている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項5】
前記入力軸上に設けた前記駆動源からの駆動力を断続するための主クラッチを備え、
前記電動機の前記ロータは、前記主クラッチにおける前記入力軸側に固定された部材に取り付けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の変速機。
【請求項6】
前記入力軸と平行に設置したモータ軸と、該モータ軸に取り付けた電動機と、前記モータ軸上で相対回転不能に設置されて前記動力伝達用歯車組が有するいずれかの歯車と噛合するモータ駆動歯車と、を備える
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項7】
前記電動機は、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータである
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項8】
前記入力軸と平行に設置したエアコン軸と、該エアコン軸の回転で駆動するエアコンプレッサと、前記エアコン軸に対して相対回転不能に設置されて前記動力伝達用歯車組が有するいずれかの歯車に噛合するエアコン駆動歯車と、を備える
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の変速機。
【請求項9】
前記モータ軸と前記エアコン軸とは、共通の軸である
ことを特徴とする請求項8に記載の変速機。
【請求項10】
前記第1、第2クラッチ、前記変速用クラッチ、前記主クラッチの少なくともいずれかを作動するためのオイルポンプを備え、
前記オイルポンプは、前記アイドル軸の回転で動作するように構成した
ことを特徴とする請求項4乃至9のいずれか1項に記載の変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図3(d)】
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【図3(e)】
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【図3(f)】
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【図3(g)】
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【図3(h)】
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【図3(i)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−133041(P2011−133041A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293495(P2009−293495)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】