説明

多元素同時レートモニターシステム、多元素同時レートモニター方法、成膜装置及び成膜方法

【課題】CIGSなどの多元素膜を真空蒸着する際に多元素膜の組成を一定に制御する。
【解決手段】光透過性の第1の窓10aと第2の窓10bを有する成膜チャンバー10内における多元素膜の成膜対象の基板14と多元素膜形成用の複数個の蒸着源(13a〜13d)の間の空間に、第1の窓から所定の波長域の連続光を入射する光源16と、第2の窓から開口部と基板の間の空間を通過した連続光を受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る分光部17と、2次元画像信号を画像処理して原子吸光スペクトルを得て多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする信号処理部18を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多元素同時レートモニターシステム、多元素同時レートモニター方法、成膜装置及び成膜方法に関し、特に、太陽電池を構成するCIGS(Cu(In,Ga)Se)膜を形成するための多元素同時レートモニターシステム及び多元素同時レートモニター方法と、それを用いた成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光を吸収して光起電力効果により電力を得る太陽電池を構成する光吸収膜は、一般に、シリコン系材料と非シリコン系材料に大別される。
シリコン系材料としては、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン及びアモルファスシリコンなどが知られている。
一方、非シリコン系材料としては、例えば、GaAs、CIS(CuInSe)、CIGS(Cu(In,Ga)Se)及び有機系材料などが知られている。
【0003】
CIGS膜は、例えば、CIS膜のInの一部をGaに置換した組成であり、Cu(In1−x,Ga)Seと表記される。
CIGS膜は、光吸収率及び発電効率が高く、従来の光吸収膜より薄膜化することが可能であり、また、組成によって光吸収波長領域を制御できるという利点があり、将来的に量産化が期待されている。
CIGS膜としては、Cu(In,Ga)Seの組成は太陽電池の発電効率に大きく影響することが知られている。
【0004】
CIGS膜の形成方法としては、例えばセレン化法が知られている。セレン化法では、例えば、スパッタリング法などによりプレカーサーとなるCIG(Cu(In,Ga))膜を形成し、CIG膜をHSe雰囲気中で熱処理してCIG膜をセレン化し、CIGS膜を得る。
また、1つの真空チャンバー内でCu、In、Ga及びSeの四元素を別々の蒸着源からそれぞれ真空蒸着させる四元素同時蒸着法も知られている。
【0005】
上記のセレン化法は、HSeの取り扱いが難しいので、大量及び大面積成膜を実現するのは困難である。
【0006】
一方、四元同時蒸着法は、HSeを取り扱わないで済むが、Cu(In,Ga)Seの組成、換言すればCu、In、Ga及びSeの各元素の成膜速度を同時に制御することが難しいという課題がある。
【0007】
特にCIGS膜の形成においては、Cu/(In+Ga)あるいはGa/(In+Ga)などの組成比が太陽電池の発電効率に大きく影響するので、CIGS膜の組成の制御が重要である。
例えば、CIGS膜を連続的に真空蒸着させるような場合、水晶膜厚計などを用いるとその部分での成膜がなされないので連続蒸着とならず、水晶膜厚計などを用いることができない。このため、連続的に真空蒸着する場合、組成を制御することがさらに困難となっていた。
【0008】
CIGS系材料を用いた太陽電池としては、例えば特許文献1などに記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−222750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする課題は、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、多元素膜の組成を一定に制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の多元素同時レートモニターシステムは、光透過性の第1の窓と第2の窓を有する成膜チャンバー内における多元素膜の成膜対象の基板と多元素膜形成用の複数個の蒸着源の間の空間に、前記第1の窓から所定の波長域の連続光を入射する光源と、前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る分光部と、前記2次元画像信号を画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする信号処理部とを有する。
【0012】
上記の本発明の多元素同時レートモニターシステムは、光源と、分光部と信号処理部を有する。
光源は、光透過性の第1の窓と第2の窓を有する成膜チャンバー内における多元素膜の成膜対象の基板と多元素膜形成用の複数個の蒸着源の間の空間に、第1の窓から所定の波長域の連続光を入射する。
分光部は、第2の窓から開口部と基板の間の空間を通過した連続光を受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る。
信号処理部は、2次元画像信号を画像処理して原子吸光スペクトルを得て多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする。
【0013】
上記の本発明の多元素同時レートモニターシステムは、好適には、前記分光部が、前記連続光を受光して1次元的に分光するプリズムと、前記1次元的に分光された光を2次元的に分光する回折格子を有する。
【0014】
上記の本発明の多元素同時レートモニターシステムは、好適には、前記分光部が、前記固体撮像素子により前記2次元的に分光された前記連続光を受光面で受光し、2次元的画像信号を生成する固体撮像素子を有し、前記各元素に対応する原子吸光を分離可能な分解能を有する。
【0015】
上記の本発明の多元素同時レートモニターシステムは、好適には、前記信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う。
【0016】
上記の本発明の多元素同時レートモニターシステムは、好適には、前記信号処理部が、前記原子吸光スペクトルから信号処理を行って前記蒸着源を制御する制御信号を出力する。
【0017】
また、本発明の成膜装置は、光透過性の第1の窓と第2の窓を有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバーと、前記成膜チャンバー内に設けられ、内部に真空蒸着材料が収容され、所定の温度への加熱時に気化する前記真空蒸着材料を開口部から噴き出す多元素膜形成用の複数個の蒸着源と、蒸着対象である基板を前記開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送する基板保持搬送部と、前記第1の窓から前記開口部と前記基板の間の空間に所定の波長域の連続光を入射する光源と、前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る分光部と、前記2次元画像信号を画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする信号処理部とを有し、前記蒸着源からの前記真空蒸着材料から多元素膜を前記第1の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する。
【0018】
上記の本発明の成膜装置は、光透過性の第1の窓と第2の窓を有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバーと、前記成膜チャンバー内に設けられ、内部に真空蒸着材料が収容され、所定の温度への加熱時に気化する前記真空蒸着材料を開口部から噴き出す多元素膜形成用の複数個の蒸着源と、蒸着対象である基板を前記開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送する基板保持搬送部と、前記第1の窓から前記開口部と前記基板の間の空間に所定の波長域の連続光を入射する光源と、前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る分光部と、前記2次元画像信号を画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする信号処理部とを有し、前記蒸着源からの前記真空蒸着材料から多元素膜を前記第1の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する。
【0019】
上記の本発明の成膜装置は、光透過性の第1の窓と第2の窓を有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー内に、内部に真空蒸着材料が収容され、所定の温度への加熱時に気化する真空蒸着材料を開口部から噴き出す多元素膜形成用の複数個の蒸着源が設けられている。
また、蒸着対象である基板を開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送する基板保持搬送部が設けられている。
また、第1の窓から開口部と基板の間の空間に所定の波長域の連続光を入射する光源が設けられ、第2の窓から開口部と基板の間の空間を通過した連続光を受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る分光部が設けられている。
また、2次元画像信号を画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする信号処理部が設けられている。
上記の構成により、蒸着源からの真空蒸着材料から多元素膜を第1の方向に搬送される基板上に連続蒸着する。
【0020】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記分光部が、前記連続光を受光して1次元的に分光するプリズムと、前記1次元的に分光された光を2次元的に分光する回折格子を有する。
【0021】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記分光部が、前記固体撮像素子により前記2次元的に分光された前記連続光を受光面で受光し、2次元的画像信号を生成する固体撮像素子を有し、前記各元素に対応する原子吸光を分離可能な分解能を有する。
【0022】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う。
【0023】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記信号処理部が、前記原子吸光スペクトルから信号処理を行って前記蒸着源を制御する制御信号を出力する。
【0024】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を有し、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着する。
【0025】
また、本発明の多元素同時レートモニター方法は、光透過性の第1の窓と第2の窓を有する成膜チャンバー内における多元素膜の成膜対象の基板と多元素膜形成用の複数個の蒸着源の間の空間に、光源からの所定の波長域の連続光を前記第1の窓から入射する工程と、前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を分光部により受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る工程と、前記2次元画像信号を信号処理部により画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする工程とを有する。
【0026】
上記の本発明の多元素同時レートモニター方法は、光透過性の第1の窓と第2の窓を有する成膜チャンバー内における多元素膜の成膜対象の基板と多元素膜形成用の複数個の蒸着源の間の空間に、光源からの所定の波長域の連続光を第1の窓から入射する。
次に、第2の窓から開口部と基板の間の空間を通過した連続光を分光部により受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る。
次に、2次元画像信号を信号処理部により画像処理して原子吸光スペクトルを得て多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする。
【0027】
上記の本発明の多元素同時レートモニター方法は、好適には、前記分光部としてプリズムと回折格子を有する分光部を用い、前記2次元画像信号を得る工程において、前記プリズムにより前記連続光を受光して1次元的に分光し、前記回折格子により前記1次元的に分光された光を2次元的に分光する。
【0028】
上記の本発明の多元素同時レートモニター方法は、好適には、前記分光部として受光面を有する固体撮像素子を有する分光部を用い、前記2次元画像信号を得る工程において、前記受光面で前記2次元的に分光された前記連続光を受光し、2次元的画像信号を生成し、前記各元素に対応する原子吸光を分離する。
【0029】
上記の本発明の多元素同時レートモニター方法は、好適には、前記原子吸光スペクトルを得る工程において、前記信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う。
【0030】
上記の本発明の多元素同時レートモニター方法は、好適には、前記原子吸光スペクトルを得る工程の後に、前記信号処理部が前記原子吸光スペクトルから信号処理を行って前記蒸着源を制御する制御信号を出力する工程をさらに有する。
【0031】
また、本発明の成膜方法は、光透過性の第1の窓と第2の窓を有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー内に設けられた、開口部を有する多元素膜形成用の複数個の蒸着源の内部に、所定の温度への加熱時に気化して前記開口部から噴き出す真空蒸着材料を収容する工程と、前記成膜チャンバーの内部を所定の圧力に減圧する工程と、前記蒸着源を所定の温度に加熱して前記真空蒸着材料を気化させ、前記開口部から噴き出させる工程と、蒸着対象である基板を前記開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送する工程と、光源からの所定の波長域の連続光を前記第1の窓から前記開口部と前記基板の間の空間に入射する工程と、前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を分光部により受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る工程と、前記2次元画像信号を信号処理部で画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする工程とを有し、前記蒸着源からの前記真空蒸着材料から多元素膜を前記第1の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する。
【0032】
上記の本発明の成膜方法は、まず、光透過性の第1の窓と第2の窓を有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー内に設けられた、開口部を有する多元素膜形成用の複数個の蒸着源の内部に、所定の温度への加熱時に気化して開口部から噴き出す真空蒸着材料を収容する。
次に、成膜チャンバーの内部を所定の圧力に減圧し、蒸着源を所定の温度に加熱して真空蒸着材料を気化させ、開口部から噴き出させる。さらに、蒸着対象である基板を開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送する。
このとき、光源からの所定の波長域の連続光を第1の窓から開口部と基板の間の空間に入射し、第2の窓から開口部と基板の間の空間を通過した連続光を分光部により受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る。さらに、2次元画像信号を信号処理部で画像処理して原子吸光スペクトルを得て多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする。
上記により、蒸着源からの真空蒸着材料から多元素膜を第1の方向に搬送される基板上に連続蒸着する。
【0033】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記分光部としてプリズムと回折格子を有する分光部を用い、前記2次元画像信号を得る工程において、前記プリズムにより前記連続光を受光して1次元的に分光し、前記回折格子により前記1次元的に分光された光を2次元的に分光する。
【0034】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記分光部として受光面を有する固体撮像素子を有する分光部を用い、前記2次元画像信号を得る工程において、前記受光面で前記2次元的に分光された前記連続光を受光し、2次元的画像信号を生成し、前記各元素に対応する原子吸光を分離する。
【0035】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記原子吸光スペクトルを得る工程において、前記信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う。
【0036】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記原子吸光スペクトルを得る工程の後に、前記信号処理部が前記原子吸光スペクトルから信号処理を行って前記蒸着源を制御する制御信号を出力する工程をさらに有する。
【0037】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を設けて、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着する。
【発明の効果】
【0038】
本発明の多元素同時レートモニターシステムによれば、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、多元素のレートを同時にモニターでき、これによって多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0039】
本発明の成膜装置によれば、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0040】
本発明の多元素同時レートモニター方法によれば、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、多元素のレートを同時にモニターでき、これによって多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0041】
本発明の成膜方法によれば、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置の模式構成図である。
【図2】図2は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置における分光部及び信号処理部の模式構成図である。
【図3】図3(a)は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置において測定される蒸着源を加熱しないときのスペクトルの模式図であり、図3(b)は蒸着源を加熱して蒸着処理を行っているときのスペクトルの模式図である。
【図4】図4は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置の蒸着源の斜視図である。
【図5】図5(a)は図4中のX−X’における模式断面図であり、図5(b)は、図5(a)の変形例である。
【図6】図6(a)は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置の蒸着源のタンク部、中間ノズル及びトップノズルの等価回路図であり、図6(b)及び図6(c)はタンク部の等価回路図である。
【図7】図7は本発明の第2実施形態に係る太陽電池パネルの模式断面図である。
【図8】図8は実施例1に係る原子吸光スペクトルの時間変化を示すグラフである。
【図9】図9は実施例2に係る原子吸光強度と成膜速度の関係を示すグラフであり、真空蒸着装置で連続成膜するときの較正曲線となるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明の多元素同時レートモニターシステム、多元素同時レートモニター方法及びそれを用いた成膜装置並びに成膜方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0044】
<第1実施形態>
[真空蒸着装置の構成]
本実施形態は、太陽電池パネルを構成するCIGS膜などの多元素膜を真空蒸着するための成膜装置に用いられる多元素同時レートモニターシステム、多元素同時レートモニター方法、並びにそれを用いた成膜装置である真空蒸着装置及び成膜方法であり、CIGS膜などの多元素膜である光吸収膜の製造装置に適用できる。
【0045】
図1は、本実施形態に係る真空蒸着装置の模式構成図である。
例えば、成膜チャンバー10に、排気管11及び真空ポンプ12が接続されており、内部が所定の圧力に減圧可能となっている。真空蒸着による成膜時における成膜チャンバー10内の背圧は、例えば10−3〜10−4Pa程度である。
【0046】
例えば、真空チャンバー10の内部に、蒸着源(ルツボ)が設けられている。本実施形態では、多元素膜形成用の複数個の蒸着源(13a〜13d)が設けられており、光吸収膜であるCIGS膜を形成する場合には、例えばそれぞれCu、In、Ga及びSeの各蒸着源とする。
【0047】
蒸着源(13a〜13d)は、例えば、内部に真空蒸着材料が収容され、所定の温度へ加熱されたときに気化する真空蒸着材料を気化して蒸着源に設けられた後述の開口部から噴き出すことができる。
【0048】
例えば、成膜チャンバー10内において、蒸着対象である基板14を蒸着源の開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送する基板保持搬送部が設けられている。
基板14は、例えばポリマーなどからなる可撓性基板であり、ロール状に保持可能である。この場合、基板保持搬送部は、巻き出しロール15a、巻き取りロール15b、第1搬送ロール15c,第2搬送ロール15dにより実現できる。
あるいは、保持搬送部が連続搬送可能に設けられていれば、青板ガラスなどのガラス基板なども適用可能である。
【0049】
蒸着源から気化した真空蒸着材料を噴き出しながら、第1の方向に基板が搬送されることにより、蒸着源からの真空蒸着材料を第1の方向に搬送される基板上に連続蒸着することができる。
【0050】
本実施形態の真空蒸着装置においては、例えば、成膜チャンバー10には、所定の位置に光透過性の第1の窓10aと第2の窓10bが設けられている。第1の窓10aと第2の窓10bは、後述の原子吸光スペクトル測定のための光に対して光学的に透明である材料であれば良く、例えば石英などから構成される。
【0051】
また、本実施形態の真空蒸着装置は、例えば、光源16、分光部17及び信号処理部18を有する。
光源16は、第1の窓10aから蒸着源(13a〜13d)の開口部と基板14の間の空間に所定の波長域の連続光を入射するように設けられている。連続光は、原子吸光スペクトル測定のために用いられる。
【0052】
原子吸光スペクトルにおいて、例えば、Cuは324.8nm、Inは303.9nm、Ga294.4nm、Seは196.0nmに吸収を持つ。従って、Cu、In、Ga及びSeを蒸着させる場合には、上記の波長をカバーする領域の連続光を出射できる光源を用いる。
連続光の光源16としては、例えばキセノンランプを用いることができる。キセノンランプは、例えば185nm〜2000nmの波長領域の連続光を出射できる。
【0053】
図2は本実施形態の真空蒸着装置における分光部17及び信号処理部18の模式構成図である。
分光部17は、第2の窓10bから蒸着源(13a〜13d)の開口部と基板14の間の空間を通過した連続光LTを受光して2次元的に分光して、2次元画像信号SSを得る。
分光部17は、石英などの窓部材20及びレンズ21、プリズム22、回折格子23及び固体撮像素子24などを有する。プリズム22は、連続光を受光して1次元的に分光する。回折格子23は、プリズム22によって1次元的に分光された光の光軸をずらして2次元的に分光する。即ち、分光部17は、いわゆるエシェル分光器に相当する。エシェル分光器は、例えば2pmまで分解能があり、各元素に対応する原子吸光を分離可能な分解能を有しており、原子吸光を精密に測定することができる。
【0054】
また、分光部17は受光面24aを有する固体撮像素子24を有し、2次元的に分光された連続光LTを受光面24aで受光し、2次元画像信号SSを生成する。
固体撮像装置としては、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサあるいはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Silicon transistor)イメージセンサなどを用いることができる。固体撮像装置としては、上記の高い分解能を有するエシェル分光器により各元素に対応する原子吸光を分離して2次元画像信号SSを生成できるように、高い画素数及び/または分解能を有するものとする。
上記の構成の分光部17により、第2の窓10bから蒸着源(13a〜13d)の開口部と基板14の間の空間を通過した連続光LTを受光して2次元的に分光して、2次元画像信号SSを得ることができる。
【0055】
信号処理部18は、2次元画像信号SSを画像処理して原子吸光スペクトルを得る。
図3(a)は、蒸着源を加熱しないときのスペクトルであり、即ち、光源16の光をそのまま分光したスペクトルの模式図である。図3(b)は蒸着源を加熱して蒸着処理を行っているときのスペクトルの模式図である。蒸着源から蒸発して噴き出された原子による原子吸光がスペクトル上にディップ状のピークとなって出現する。図3(b)においては、4元素に対応して4本の原子吸光のピーク(A,A,A,A)がある場合を示している。
【0056】
上記で求められた原子吸光スペクトルにおいて、各元素に対応する原子吸光値から、光の照射領域の各元素の濃度、即ち各元素のレートを求めることができる。
上記の光源、分光部及び信号処理部から、成膜チャンバーにおける多元素のレートを同時にモニターできる多元素同時レートモニターシステムが構成されている。
【0057】
上記で得られたレートを各元素の成膜速度に換算できる。例えば、各元素に対する原子吸光値と成膜速度の関係を示す較正曲線を予め準備しておくことで、製造時の原子吸光値から各元素の成膜速度を直接算出することができる。
各元素の成膜速度から、真空蒸着によって成膜される多元素膜の組成比が得られる。
【0058】
上記の原子吸光スペクトルにおいて、原子による吸収のない点PCBを適当に選択してバックグラウンドの較正を行うことができる。
連続光源を用いているので、吸収のない点PCBは適宜選択することができる。
【0059】
従来方法での真空蒸着装置内の気体の原子吸光係数を求めるには、目的元素の輝線スペクトルを放出する中空陰極ランプ(HCL:Hollow Cathode Lamp)を各元素に対して用いる必要があり、さらにバックグラウンドの較正用の光源も必要であった。
本実施形態においては、連続光の光源と2次元的に分光して面で受光するCCDなどの固体撮像素子を有するエシェル分光器を組み合わせることで、多元素の原子吸光係数を波長スキャンすることなく同時に測定することができる。
【0060】
また、例えば、信号処理部18が、原子吸光スペクトルから信号処理を行って、蒸着源を制御する制御信号CSを出力する。
例えば、成膜しようとする組成からずれてしまっている場合に、蒸着源の加熱温度を調節することで、目的とする組成に修正して成膜することができる。
【0061】
図4は、本実施形態に係る蒸着源の斜視図である。ここでは、蒸着源の外部を被覆する断熱部とともに図示している。
図5(a)は図4中のX−X’における模式断面図である。
蒸着源13は、例えば、内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部30と、タンク部30上に配置され、第2の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部Aを有するノズル部(31,32)を有する。第2の方向は、例えば、基板の搬送方向である第1の方向に直交する方向である。また、上述の蒸着源(13a〜13d)の開口部は、上記の第1開口部Aに相当する。
本実施形態においては、例えば、ノズル部は中間ノズル31とトップノズル32から構成されている。中間ノズル31はタンク部30の開口を一旦狭めた後に再び開口幅を広げ、トップノズルが中間ノズルの開口幅を再び狭めるような構成となっている。
【0062】
また、例えば、少なくとも第1開口部Aを露出させる第2開口部Bを有して、タンク部30及びノズル部(31,32)の外壁を覆うように、断熱部34が形成されている。
【0063】
上記の構成の蒸着源は、タンク部30とノズル部(31,32)が所定の温度へ加熱されたときに気化する真空蒸着材料が第1開口部Aから噴き出すことができる。
【0064】
タンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32は、例えば通電により自身が発熱する材料からなる。例えば、それぞれ冷間静水圧プレス(CIP:Cold Isostatic Pressing)により形成されたカーボン(以下CIPカーボンとも称する)から構成される。
通電により自身が発熱する材料からなるタンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32は、熱伝導によらず真空蒸着材料を加熱して溶融できるので、タンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32を通電させる電力により真空蒸着材料の気化を制御でき、成膜処理を安定化させることができる。
【0065】
真空蒸着材料を気化させて第1開口部Aから噴き出すために、例えば、タンク部30が第1の温度へ、中間ノズル31及びトップノズル32からなるノズル部が第1の温度より高い第2の温度へ加熱される。第1の温度及び第2の温度は、真空蒸着材料の融点及び蒸気圧などに応じて適宜選択され、例えば、第2の温度は、第1の温度より10〜100℃程度高く設定される。
【0066】
上記のように蒸着源を構成するタンク部とノズル部に温度勾配が設定されていることから、CIGS膜などの多元素膜を真空蒸着する際に、蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制することができる。これにより、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
特に、Cuは気化させるために1400℃以上に加熱する必要があるが、ノズル近傍で冷却されてノズルに固化しやすい。本実施形態では、タンク部とノズル部に温度勾配によりノズル部での冷却を抑制し、安定した真空蒸着を実現できる。
【0067】
タンク部30の内部には、必要に応じて、内部タンク33が設けられる。あるいは、タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されている。内部タンク33は、例えば接続部35などによりノズル部の中間ノズル31に接続して設けられる。
内部タンク33あるいは被覆膜は、例えば、焼結BN(焼結された窒化ホウ素)、PBN(CVD(Chemical Vapor Deposition)法による熱分解で形成された窒化ホウ素)、Mo、CIPカーボンなどで構成される。
上記の内部タンク33あるいは被覆膜の材料は、コスト、寿命、内部タンクの大きさ、加工性、真空蒸着材料との反応性及び相性の各特性から適宜選択される。
上記の内部タンク33あるいは被覆膜の材料の各特性を表1にまとめて示す。表1中、◎は特に好ましく、○は好ましく、×は好ましくなく、△は○と×の間の評価である。
【0068】
【表1】

【0069】
例えばCuの蒸着源の場合、内部タンク33としてはCuとの反応性が低いPBNあるいはMoなどからなるものを用いるのが好ましい。あるいは、タンク部30の内壁をPBNあるいはMoなどからなる被覆膜で被覆すれば、内部タンク33は不要となる。
【0070】
また、例えば、第1開口部Aの部分のノズル部(トップノズル32)が断熱部34の外壁表面と同一の面まで突出して形成されていることが好ましい。
ノズル部(トップノズル32)が断熱部34から露出していることで、真空蒸着材料の蒸気のノズル部近傍での冷却を抑制してノズル部から噴き出すことができる。
【0071】
図5(b)は、図5(a)に対して、タンク部30の底部30aが厚く形成された変形例である。
【0072】
通電により自身が発熱する材料からなるタンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32は、それぞれ電気抵抗素子として捉えることができる。
図6(a)は、タンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32を、それぞれ電気抵抗素子とした場合の等価回路図である。
例えば、中間ノズル31とトップノズル32を並列に接続することができる。
【0073】
図5(b)は、図5(a)の構成に対してタンク部30の底部30aが厚く形成されており、これは、図5(a)の構成に対してタンク部の底部及び側部の各部分の断面積比が変更されたことに相当する。電気抵抗素子としては、断面積が大きいほど抵抗値が下がるため、上記のようにタンク部30の底部30aを厚くすることでタンク部30のトータルの電気抵抗値を低減することができる。
例えば、タンク部30の底部と側部の各部分の断面積比を変更することで、図6(b)あるいは図6(c)に示す回路構成とすることができ、タンク部30全体の抵抗値を調節することができる。
【0074】
断熱部34に設けられる第2開口部Bは、蒸着源からみると放熱部となる。このため、第2開口部Bの面積はタンク部30及びノズル部(31,32)の温度の保持に大きな影響を与える。
タンク部を第1の温度に、ノズル部を第2の温度に保持するように、タンク部及びノズル部の断面積と第2開口部Bの面積の比率及びタンク部とノズル部に通電される電流の大きさが設定される。
例えば、タンク部及びノズル部の断面積:第2開口部Bの面積が、3:1〜4:1となるように設定される。
【0075】
第1開口部Aは第2の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の形状であり、蒸着源は上記の第2の方向に延伸した形状のリニア(線形)蒸着源となっている。
例えば、幅Wは200mm、高さHは200mm、長さLは1mである。
【0076】
一方で、図1に示すように、成膜チャンバー10内において、蒸着対象である基板14は、蒸着源(13a〜13d)の開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送される。
【0077】
上記のような第2の方向に延伸するスリット状の開口部を有するリニア蒸着源に対して、第2の方向と直行する第1の方向に基板が搬送されることにより、蒸着源からの真空蒸着材料を第1の方向に搬送される基板上に連続蒸着することができる。
【0078】
本実施形態の真空蒸着装置は、例えば蒸着源を複数個有し、多元素膜を真空蒸着することができる。
例えば蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を有し、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着することができる。
【0079】
本実施形態の真空蒸着装置によれば、成膜チャンバー内の蒸着源と基板の間の空間を通過した光の原子吸光スペクトルを測定しながら成膜できるので、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0080】
また、本実施形態の真空蒸着装置は太陽電池パネルの光吸収膜の製造装置に適用でき、成膜チャンバー内の蒸着源と基板の間の空間を通過した光の原子吸光スペクトルを測定しながら成膜できるので、CIGS膜などの多元素膜からなる光吸収膜を連続的に真空蒸着する際に、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0081】
[真空蒸着方法]
次に、本実施形態に係る多元素同時レートモニター方法及び成膜方法について、図1,2,4及び5を参照して説明する。
本実施形態に係る多元素同時レートモニター方法及び成膜方法は、上述の本実施形態に係る真空蒸着装置を用いて行う。
まず、例えば、光透過性の第1の窓10aと第2の窓10bを有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー10内に設けられた蒸着源(13a〜13d)に真空蒸着材料を収容する。
【0082】
ここで、蒸着源(13a〜13d)は、例えば、タンク部30と、タンク部30上に配置され、第2の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部Aを有するノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)を有する構成である。この場合、上記の真空蒸着材料は、タンク部30内に収容する。また、例えば、少なくとも第1開口部Aを露出させる第2開口部Bを有してタンク部30とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)の外壁を覆うように断熱部34が設けられている。蒸着源(13a〜13d)のタンク部30に収容された真空蒸着材料は、例えば、タンク部30及びノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)が所定の温度へ加熱されたときに気化して、第1開口部Aから噴き出す構成である。
【0083】
次に、例えば、成膜チャンバー10の内部を所定の圧力に減圧する。
【0084】
次に、例えば、タンク部30を第1の温度に、ノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)を第1の温度より高い第2の温度に加熱して真空蒸着材料を気化させ、第1開口部Aから噴き出させる。
【0085】
次に、蒸着対象である基板14を第1開口部Aに対向するように保持して第2の方向と直交する第1の方向に搬送する。
【0086】
ここで、例えば、光源16からの所定の波長域の連続光LTを第1の窓10aから第1開口部Aと基板14の間の空間に入射する。
次に、例えば、第2の窓10bから第1開口部Aと基板14の間の空間を通過した連続光LTを分光部17により受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る。
次に、例えば、2次元画像信号を信号処理部で画像処理して原子吸光スペクトルを得て、多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする。
【0087】
上記のようにして、蒸着源からの真空蒸着材料を第1の方向に搬送される基板14上に連続蒸着する。
【0088】
また、上記において、好ましくは、分光部17として、プリズム22と回折格子23を有する分光部を用いる。このとき、2次元画像信号を得る工程において、プリズム22により連続光LTを受光して1次元的に分光し、回折格子22により1次元的に分光された光を2次元的に分光する。
【0089】
また、好ましくは、分光部17として、受光面24aを有する固体撮像素子24を有する分光部を用いる。このとき、2次元画像信号を得る工程において、受光面24aで2次元的に分光された連続光LTを受光し、2次元的画像信号SSを生成し、各元素に対応する原子吸光を分離する。
【0090】
また、上記において、好ましくは、原子吸光スペクトルを得る工程において、信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う。
【0091】
また、好ましくは、原子吸光スペクトルを得る工程の後に、信号処理部18が原子吸光スペクトルから信号処理を行って蒸着源を制御する制御信号CSを出力する。
【0092】
また、上記において、好ましくは、蒸着源を複数個設けて、多元素膜を真空蒸着する。
例えば、蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を設けて、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着することができる。
【0093】
上記において、好ましくは、タンク部30とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)として、冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱するタンク部とノズル部を用いる。
【0094】
また、上記において、好ましくは、タンク部30として、内部に内部タンク33が設けられたタンク部30、または、タンク部30の内壁を被覆する被覆膜が形成されているタンク部30を用いる。
【0095】
また、上記において、好ましくは、ノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)として、第1開口部Aの部分のノズル部(トップノズル32)が断熱部34の外壁表面と同一の面まで突出して形成されたノズル部を用いる。
さらに、タンク部30の第1の温度とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)の第2の温度を保持するように、タンク部30及びノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)の断面積と第2開口部Bの面積の比率を設定したタンク部とノズル部を用い、タンク部30とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)を加熱する工程において、タンク部30とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)に通電する電流の大きさを設定する。
【0096】
本実施形態の多元素同時レートモニター方法及び成膜方法によれば、成膜チャンバー内の蒸着源と基板の間の空間を通過した光の原子吸光スペクトルを測定しながら成膜できるので、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、多元素のレートを同時にモニターでき、これによって多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0097】
<第2実施形態>
本実施形態は、CIGS膜を有する太陽電池パネルである。CIGS膜は、第1実施形態の真空蒸着装置及び方法により形成される。
図7は、本実施形態に係る太陽電池パネルの模式断面図である。
例えば、ポリマーなどからなる可撓性基板あるいは青板ガラスなどのガラス基板からなる基板1上に、例えば0.5〜2.0μm程度の膜厚のMoからなる裏面電極2が形成されている。
【0098】
裏面電極2の一部を除く上層に、例えば0.5〜5.0μm程度の膜厚のCIGS膜などの光吸収膜3、数10nm程度の膜厚のCdSなどからなる第1バッファ層4、数10nm〜0.5μm程度の膜厚のZnOなどからなる第2バッファ層5、0.1〜2.0μm程度の膜厚のZnO:AlあるいはITO(酸化インジウムスズ)などからなる光透過性の表面電極6が積層されている。
表面電極6の一部を除く上面に、MgFなどからなる反射防止膜7が形成されている。
【0099】
表面電極6の反射防止膜7が形成されている領域を除く上層に、Alなどからなる表面取り出し電極8が形成されている。
また、裏面電極2の光吸収膜3より上層の膜が積層されている領域を除く上層に、Alなどからなる裏面取り出し電極9が形成されている。
上記のようにして、太陽電池パネルが構成されている。
【0100】
上記の太陽電池パネルは、光吸収膜が太陽光を吸収して光起電力効果によりキャリアを生成する。得られたキャリアを上記の各層を経て表面取り出し電極8及び裏面取り出し電極9から取り出すことで、電極として利用することができる。
【0101】
上記の太陽電離パネルを構成する光吸収膜3であるCIGS膜は、第1実施形態に係る真空蒸着装置を用いて製造することができる。
【0102】
<実施例1>
上記の第1実施形態に従って、基板上にCuの1元素を真空蒸着で成膜したときの原子吸光スペクトルを測定した。
【0103】
結果を図8に示す。図8のX軸は波長に相当する画素番号であり、Y軸は光信号の強度であり、Z軸は時間である。即ち、原子吸光スペクトルの時間変化を示している。
図8に見られるように、スペクトル上にCuの吸収のするピークP(ディップ)が観測された。
ピークPの大きさから、成膜チャンバー内の蒸着源と基板の間の空間におけるCuの濃度を求めることができ、これを各元素の成膜速度に換算できる。
【0104】
上記のように、本実施例によれば、成膜チャンバー内の蒸着源と基板の間の空間を通過した光の原子吸光スペクトルを測定しながら成膜できるので、Cu膜を安定に制御して成膜することができた。
【0105】
<実施例2>
上記の第1実施形態に従って、基板上にCuの1元素を真空蒸着で成膜したときの原子吸光スペクトルのピーク強度に対応する原子吸光強度を測定し、そのときに実際に成膜された膜から成膜速度を測定した。
【0106】
結果を図9に示す。図9の縦軸は原子吸光強度の相対値であり、原子吸光スペクトルのピーク強度に対応する。横軸は成膜速度の相対値である。
図9では、2回の異なる実験であるa(◆)とb(◇)を重ねて表示している。
原子吸光強度と成膜速度に明確な相関関係が存在し、2回の実験での再現性も高い。これにより、これを較正曲線として用い、製造時のCuの原子吸光値からCuの成膜速度を直接算出することができる。
同様にして、In,Ga,Seについても較正曲線を予め準備しておくことで、製造時の原子吸光値から各元素の成膜速度を直接算出することができる。
【0107】
上記のように、本実施例によれば、成膜チャンバー内の蒸着源と基板の間の空間を通過した光の原子吸光スペクトルを測定して成膜速度を検知しながら成膜でき、Cu膜を安定に制御して成膜することができた。
【0108】
本発明は上記の説明に限定されない。
例えば、光源はキセノンランプ以外の連続光源を用いることが可能である。分光部としてもプリズム及び回折格子の他に種々の光学素子を有する分光器を採用できる。
信号処理部から蒸着源への制御信号によるフィードバックは必ずしも行わなくてよい。
また、基板は可撓性基板だけでなく、ガラス基板などにも対応できる。
また、太陽電池パネルの光吸収膜だけでなく、種々の組成膜、特に多元素膜の製造に適用できる。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0109】
1…基板
2…裏面電極
3…光吸収膜
4…第1バッファ膜
5…第2バッファ膜
6…表面電極
7…反射防止膜
8…表面取り出し電極
9…裏面取り出し電極
10…成膜チャンバー
10a…第1の窓
10b…第2の窓
11…排気管
12…真空ポンプ
13,13a〜13d…蒸着源
14…基板
15a…巻き出しロール
15b…巻き取りロール
15c,15d…ロール
16…光源
17…分光部
18…信号処理部
20…窓部材
21…レンズ
22…プリズム
23…回折格子
24…固体撮像素子
24a…受光面
30…タンク部
31…中間ノズル
32…トップノズル
33…内部タンク
34…断熱部
35…接続部
A…第1開口部
B…第2開口部
CS…制御信号
LT…連続光
P…ピーク
CB…吸収のない点
SS…2次元画像信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の第1の窓と第2の窓を有する成膜チャンバー内における多元素膜の成膜対象の基板と多元素膜形成用の複数個の蒸着源の間の空間に、前記第1の窓から所定の波長域の連続光を入射する光源と、
前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る分光部と、
前記2次元画像信号を画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする信号処理部と
を有する多元素同時レートモニターシステム。
【請求項2】
前記分光部が、前記連続光を受光して1次元的に分光するプリズムと、前記1次元的に分光された光を2次元的に分光する回折格子を有する
請求項1に記載の多元素同時レートモニターシステム。
【請求項3】
前記分光部が、前記固体撮像素子により前記2次元的に分光された前記連続光を受光面で受光し、2次元的画像信号を生成する固体撮像素子を有し、前記各元素に対応する原子吸光を分離可能な分解能を有する
請求項1または2に記載の多元素同時レートモニターシステム。
【請求項4】
前記信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う
請求項1〜3のいずれかに記載の多元素同時レートモニターシステム。
【請求項5】
前記信号処理部が、前記原子吸光スペクトルから信号処理を行って前記蒸着源を制御する制御信号を出力する
請求項1〜4のいずれかに記載の多元素同時レートモニターシステム。
【請求項6】
光透過性の第1の窓と第2の窓を有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバーと、
前記成膜チャンバー内に設けられ、内部に真空蒸着材料が収容され、所定の温度への加熱時に気化する前記真空蒸着材料を開口部から噴き出す多元素膜形成用の複数個の蒸着源と、
蒸着対象である基板を前記開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送する基板保持搬送部と、
前記第1の窓から前記開口部と前記基板の間の空間に所定の波長域の連続光を入射する光源と、
前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る分光部と、
前記2次元画像信号を画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする信号処理部と
を有し、
前記蒸着源からの前記真空蒸着材料から多元素膜を前記第1の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する
成膜装置。
【請求項7】
前記分光部が、前記連続光を受光して1次元的に分光するプリズムと、前記1次元的に分光された光を2次元的に分光する回折格子を有する
請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記分光部が、前記固体撮像素子により前記2次元的に分光された前記連続光を受光面で受光し、2次元的画像信号を生成する固体撮像素子を有し、前記各元素に対応する原子吸光を分離可能な分解能を有する
請求項6または7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う
請求項6〜8のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
前記信号処理部が、前記原子吸光スペクトルから信号処理を行って前記蒸着源を制御する制御信号を出力する
請求項6〜9のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項11】
前記蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を有し、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着する
請求項6〜10のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項12】
光透過性の第1の窓と第2の窓を有する成膜チャンバー内における多元素膜の成膜対象の基板と多元素膜形成用の複数個の蒸着源の間の空間に、光源からの所定の波長域の連続光を前記第1の窓から入射する工程と、
前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を分光部により受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る工程と、
前記2次元画像信号を信号処理部により画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする工程と
を有する多元素同時レートモニター方法。
【請求項13】
前記分光部としてプリズムと回折格子を有する分光部を用い、
前記2次元画像信号を得る工程において、前記プリズムにより前記連続光を受光して1次元的に分光し、前記回折格子により前記1次元的に分光された光を2次元的に分光する
請求項12に記載の多元素同時レートモニター方法。
【請求項14】
前記分光部として受光面を有する固体撮像素子を有する分光部を用い、
前記2次元画像信号を得る工程において、前記受光面で前記2次元的に分光された前記連続光を受光し、2次元的画像信号を生成し、前記各元素に対応する原子吸光を分離する
請求項12または13に記載の多元素同時レートモニター方法。
【請求項15】
前記原子吸光スペクトルを得る工程において、前記信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う
請求項12〜14のいずれかに記載の多元素同時レートモニター方法。
【請求項16】
前記原子吸光スペクトルを得る工程の後に、前記信号処理部が前記原子吸光スペクトルから信号処理を行って前記蒸着源を制御する制御信号を出力する工程をさらに有する
請求項12〜15のいずれかに記載の多元素同時レートモニター方法。
【請求項17】
光透過性の第1の窓と第2の窓を有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー内に設けられた、開口部を有する多元素膜形成用の複数個の蒸着源の内部に、所定の温度への加熱時に気化して前記開口部から噴き出す真空蒸着材料を収容する工程と、
前記成膜チャンバーの内部を所定の圧力に減圧する工程と、
前記蒸着源を所定の温度に加熱して前記真空蒸着材料を気化させ、前記開口部から噴き出させる工程と、
蒸着対象である基板を前記開口部に対向するように保持して第1の方向に搬送する工程と、
光源からの所定の波長域の連続光を前記第1の窓から前記開口部と前記基板の間の空間に入射する工程と、
前記第2の窓から前記開口部と前記基板の間の空間を通過した前記連続光を分光部により受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る工程と、
前記2次元画像信号を信号処理部で画像処理して原子吸光スペクトルを得て前記多元素膜を構成する各元素の原子のレートをモニターする工程と
を有し、
前記蒸着源からの前記真空蒸着材料から多元素膜を前記第1の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する
成膜方法。
【請求項18】
前記分光部としてプリズムと回折格子を有する分光部を用い、
前記2次元画像信号を得る工程において、前記プリズムにより前記連続光を受光して1次元的に分光し、前記回折格子により前記1次元的に分光された光を2次元的に分光する
請求項17に記載の成膜方法。
【請求項19】
前記分光部として受光面を有する固体撮像素子を有する分光部を用い、
前記2次元画像信号を得る工程において、前記受光面で前記2次元的に分光された前記連続光を受光し、2次元的画像信号を生成し、前記各元素に対応する原子吸光を分離する
請求項17または18に記載の成膜方法。
【請求項20】
前記原子吸光スペクトルを得る工程において、前記信号処理部が、原子による吸収のない点を選択してバックグラウンドの較正を行う
請求項17〜19のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項21】
前記原子吸光スペクトルを得る工程の後に、前記信号処理部が前記原子吸光スペクトルから信号処理を行って前記蒸着源を制御する制御信号を出力する工程をさらに有する
請求項17〜20のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項22】
前記蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を設けて、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着する
請求項17〜21のいずれかに記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−60866(P2011−60866A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206452(P2009−206452)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(300075751)株式会社オプトラン (15)
【Fターム(参考)】