説明

多光子励起測定装置

【課題】化学成分の識別を可能とする多光子励起測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の多光子励起測定装置は、高輝度の光パルスによる多光子吸収現象を用いて試料の測定を行う多光子励起測定装置であって、波長の異なる複数の光パルスを出射する多波長光源と、前記多波長光源にて発生した前記波長の異なる複数の光パルスの光路を前記試料内で重ねて、重なった位置を試料内で走査する走査光学系と、前記光パルスの照射により前記試料から発生する多光子励起にともなう信号光を検出する検出器と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーク光強度の高い超短パルス光を試料に照射して、多光子吸収現象を用いて試料を測定する多光子励起測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡で蛍光観察を行う手段として、特許文献1に示すように特定のある波長の超短パルス光による多光子励起を利用した蛍光観察法が知られている。
【0003】
多光子励起では、吸収波長のほぼ整数倍の波長を持つ光線を同時に蛍光体に照射することにより、本来の吸収波長と同等な励起現象が引き起こされる。多光子励起で用いられる励起光は一般に赤外光であり、紫外光や可視光の励起現象を計測する目的で用いられる。
【0004】
一般に波長が長い光のほうが散乱しにくいという性質(レイリー散乱)を持つため、生体試料のような散乱性試料では、多光子励起を利用した方が試料のより深くまで光を入射させることが出来る。このことは、通常の可視光では観察することができなかった生体の深部まで観察することが可能になることを意味する。しかも、赤外光は紫外光や可視光よりも光毒性が低いので、生体試料をできる限り傷つけないで形態観察することができる。
【0005】
例えばセロトニンという脳内物質は、紫外線領域に吸収波長を持つ自家蛍光特性を有する。しかしながら、紫外光は脳内の深部にまで到達することができず、また光毒性も強い。このような状況下で多光子励起レーザー走査型顕微鏡は有効に働く。紫外光と赤外光は波長が3倍程度離れているので、3光子励起を行えば赤外光を使ってセロトニンを励起できる。
【0006】
以上のように多光子励起を利用した蛍光観察は大きなメリットを持っており、現在の形態観察において非常に有効な手段となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−008989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の顕微鏡は、ある特定の波長の光のみを用いた単一波長による多光子励起を応用したものである。そのため、いくつかの分子の吸収帯の波長領域が重複してしまうと、試料の化学成分の同定(機能観察)までは不可能である。
【0009】
そこで本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、より多くの化学成分の識別を可能とする多光子励起測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多光子励起測定装置は、高輝度の光パルスによる多光子吸収現象を用いて試料の測定を行う多光子励起測定装置であって、波長の異なる複数の光パルスを出射する多波長光源と、多波長光源にて発生した波長の異なる複数の光パルスの光路を試料内で重ねて、重なった位置を試料内で走査する走査光学系と、光パルスの照射により試料から発生する多光子励起にともなう信号光を検出する検出器を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の顕微鏡によれば、複数の波長の光による分子の吸収像、あるいは蛍光像を観察することにより、より多くの分子の区別が可能となる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1、及び、第2の実施形態に係る多光子励起測定装置の要部の構成を示す図
【図2】図1に示した多波長光源の一例の要部構成を示す図
【図3】本発明の第1、及び、第2の実施形態に係る別の多光子励起測定装置の要部の構成を示す図
【図4】本発明の第3の実施形態に係る多光子励起測定装置の要部の構成を示す図
【図5】本発明の第3の実施形態に係る多光子励起測定装置の要部の構成を示す図
【図6】多波長光源から発生する複数の光パルスのスペクトル分布を示す図
【図7】本発明の第4の実施形態に係る多光子励起測定装置の要部の構成を示す図
【図8】図7に示した円筒ビーム形成器の要部の構成を示す図
【図9】図7に示した多波長光源の一例の要部構成を示す図
【図10】図7に示した多波長励起測定装置内の面Cにおける光プロファイルを示す図
【図11】蒸留水の透過スペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における多光子励起測定装置の概略構成を示す図である。この多光子励起測定装置100は複数の波長の光を出射する多波長光源101と、レーザー走査光学ユニット102と、光ファイバ103とを有する。多波長光源101から発振した光パルスは、光ファイバ103を通してレーザー走査光学ユニット102に入射され、、試料104に集光する。ここで、光ファイバ103は、光ファイバコネクタ105、106によって、それぞれ多波長光源101、レーザー走査光学ユニット102と接続される。
【0015】
試料104は、例えばシトクロムC(タンパク質)が生細胞内に存在するミトコンドリアであり、試料104に集光された光パルスは、シトクロムCでの多光子吸収により強い共鳴ラマン散乱を示す。
【0016】
図2は、図1に示した多波長光源101の一例の部分構成を示す図である。この多波長光源101は、パルスジェネレータ201、202、半導体レーザー203、204、ファイバ増幅器205、206、パルス幅圧縮機207、208、反射ミラー209、ダイクロイックプリズム210、及び光ファイバコネクタ105を有する。パルスジェネレータ201、202は、共に数ns以下の電気パルスを発生し、この電気パルスにより、それぞれ半導体レーザー203、204に電流を注入する。
【0017】
半導体レーザー203、204は、パルスジェネレータ201、202からの電気パルスにより注入される電流によって、利得が瞬間的に発生又は消滅する、いわゆるゲインスイッチ動作をする。これにより半導体レーザー203、205は、短波長から長波長へと時間的にチャープした数十ピコ秒幅の光パルスを発生する。半導体レーザー203、204は、例えば、面発光レーザー(VCSEL)、量子井戸分布帰還型レーザーダイオード(QWDFBLD)、量子ドット分布帰還型レーザーダイオード(QDDFBLD)などが使用可能であるが、本実施の形態ではVCSELを使用する。また、光パルスの波長は、試料104の多光子吸収により共鳴ラマン散乱光が発生する波長であればよい。例えば、可視から近赤外光、赤外光が使用可能であるが、ここでは、半導体レーザー203から1064nm帯、半導体レーザー204から1100nm帯の近赤外光が発振することとする。
【0018】
半導体レーザー203,204から発生した光パルスは、ファイバ増幅器205,206にて増幅する。ファイバ増幅器205,206は、ファイバレーザーまたは、半導体レーザーで励起され、被励起媒質として、Nd,Yb,Tm,Erなどをドープしたシングルクラッド、または、ダブルクラッドの光ファイバ、あるいは、断面に空隙がある光ファイバを用いる。ここで、被励起媒質としてYbがドープされたシングルクラッド光ファイバを用いる。
【0019】
ファイバ増幅器205,206によって、半導体レーザー203,204にて発振した光パルスは平均出力が数十mWから数Wの光パルスに増幅する。
【0020】
増幅後の1064nm帯、1100nm帯の二つの光パルスは、例えば、1100nm帯の光パルスを反射ミラー209で、1064nm帯の光パルスに光路が直行する用に反射させる。そして、二つの光パルスの光路が直行する部分に設置した、1064nm帯の光を透過し、1100nm帯の光を反射するダイクロイックプリズム210を用いて、2つの光パルスの光路を同一伝搬路に合成する。合成された光パルスは、光ファイバコネクタ105を経て多波長光源101から出射する。
【0021】
光ファイバコネクタ105は、SC型、FC型、ST型、MU型、LC型の各種コネクタが使用可能であるが、本実施の形態では、FC型を用いる。
【0022】
多波長光源101より出射した光パルスは、図1に示すように光ファイバ103を伝搬し、光ファイバコネクタ106を介して、レーザー走査光学ユニット102に入射する。ここで、光ファイバコネクタ106も光ファイバコネクタ105と同様にFC型を用いる。
【0023】
レーザー走査光学ユニット102内に入射した光パルスは、自由空間に出射され、二次元走査ミラー107に入射する。ここで、走査ミラーは、光パルスの走査方向を変化させ、光の伝播角度が操作される。二次元走査ミラー107は、例えば、互いに直行する2本の軸周りに揺動可能な2枚のガル場のミラーで構成される。
【0024】
二次元走査ミラー107を経た光パルスは、瞳投影レンズ108により集光されて中間像として結像された後、結像レンズ109により平行光とされ、ダイクロイックミラー110と透過して、対物レンズ111により試料104に集光される。これにより、試料104に含まれるシトクロムCが多光子励起されて、ラマン散乱光が発せられる。試料104から発せられた光は、対物レンズ111を経て、特定波長帯の光(波長帯は、試料104に集光される光パルスとの波長とは異なる)を反射するダイクロイックミラー110に入射する。この光は試料104に集光させる光パルスの波長と異なるため、ダイクロイックミラー110で反射され、集光レンズ112により検出器113に集光されて、電気信号に変換される。
【0025】
また、検出器113は回折光学素子やプリズムなどの波長分離手段を備えた、いわゆる分光光度計であることがより望ましい。これにより、シトクロムCの分布画像がより正確に得られる。
【0026】
光パルスの集光位置は、二次元走査ミラー107によって、試料104内をXY方向に走査される。ここで、光パルスの試料104上での集光位置の座標と、検出器113により検出された電気信号とを対応づけて記憶することにより、2次元的な多光子励起ラマン散乱画像を得ることができる。例えば、二次元走査ミラーをMEMSで構成する場合は、MEMSに設けられたそれぞれの電極へ印加した電圧量から、二次元走査ミラーの角度や光の走査角度(もしくは試料104での集光位置の座標)を算出することができる。
【0027】
また、集光位置をZ方向に変化させる手段を備えることが、より望ましく、例えば、対物レンズ111をPZTやKTNを用いた可変焦点レンズとすることで3次元的な多光子励起ラマン散乱画像を高速に取得することが可能となる。
【0028】
本発明では、既述のように、1064nm帯と1100nm帯の光パルスを試料104入射させる。これにより、それぞれ2光子励起によって、532nm帯と550nm帯の可視光による励起と同様の効果を与えることとなる。
【0029】
ここで、酸化型タンパク質と還元型タンパク質は、ラマン散乱の波長依存特性が異なっている。例えば、酸化型タンパク質は入射波長が増大するにつれて増加する特性を示し、還元型タンパク質は入射波長が増大するにつれて減少する特性を示す。増加、及び減少の特性は上述のものに限られず、逆になっていても良いが、いずれにせよ酸化型タンパク質と還元型タンパク質は、532nm帯の光励起によるラマン散乱と、550nm帯の光励起によるラマン散乱スペクトルが異なり、また、ラマン散乱量と波長の関係式は異なる式で表される。なお、物質のスペクトル特性を示す式は物質に応じて予め決定されている。
【0030】
ここで、532nm帯のラマン散乱量と、550nm帯のラマン散乱量には、それぞれ酸化型タンパク質のラマン散乱と還元型タンパク質のラマン散乱量が含まれている。この532nm帯のラマン散乱量と550nm帯のラマン散乱量の値、及び酸化型タンパク質と還元型タンパク質のラマン散乱特性の波長依存性(ラマン散乱スペクトルの関係式)を用いて、酸化型タンパク質及び還元型タンパク質の、532nm帯及び550nm帯のラマン散乱量をそれぞれ算出することができる。これにより、異なる物質のラマン散乱スペクトルの波長領域が重複している場合にも、各波長帯における特定物質のラマン散乱量を算出することができる。
【0031】
以上のように、複数波長のラマン散乱光の光量比較により多変量解析による成分分析が可能になる。
【0032】
また、上述のように試料104上での光パルスの集光位置の座標が検出器113により検出された電気信号を対応づけて記憶されおり、画像化を行うことで各物質の濃度分布を画像化することができる。
【0033】
上記構成により、酸化型タンパク質と還元型タンパク質を識別し、それぞれの濃度分布を画像化すること(機能観察)が可能となる。
【0034】
また、本発明の多光子励起測定装置では、試料の観察部分(光パルス集光位置)以外の部分に対して低侵襲であり、安価に(共焦点光学系を必要とせず)、光伝搬方向(光軸方向)の解像度を高めることが可能となる。
【0035】
また、本実施の形態において、1064nm帯の光パルスと1100nm帯の光パルスの発振を同期させて、且つ、集光位置を一致させて、試料104に照射することで、二つの光の相互作用による多光子吸収現象が引き起こされる。すなわち、和周波である541nm帯の可視光励起によるラマン散乱画像を得ることも可能となる。
【0036】
ここで、和周波は2波長の光パルスの集光点を含むごく限られた領域にのみ発生する。そのため、和周波と同じ周波数を有する単一波長の光パルスを試料104に入射した場合と比較すると、和周派が発生する場合の方が、ラマン散乱が発生する領域が限定される。そのため、複数波長の光パルスを入射させて和周波を発生させることで、測定の分解能をより向上させることができる。
【0037】
このように、波長の異なる二つの光パルスが重なり合うことで引き起こされる2光子吸収、言い換えると、エネルギーが異なる二つの光子が出合って引き起こす2光子吸収を、以降、本明細書では『和光子吸収』とし、それによる励起を『和光子励起』とする。
【0038】
また、試料内で発生するラマン散乱光は、試料内で偏光方向が回転し、試料入射前の光パルスと異なる偏光成分を含むため、ダイクロイックミラー110の代わりに偏光分離ミラーを用いてもよい。ダイクロイックミラーを用いることで、全ての偏光成分のラマン散乱光の出力を求めることが可能となる。その結果、より高精度な機能画像観察が可能となる。一方、偏光分離ミラーを用いる場合は、ミラーの固定角度尤度がより広くなり、対振動性や耐熱性に優れた顕微鏡となる。本発明では、複数の波長の光パルスを試料に照射し、それらのラマン散乱光を計測する必要があり、偏光分離ミラーを用いることによる耐振動性や耐熱性の向上の効果が大きい。
【0039】
なお、本実施の形態は2光子吸収をベースに説明したが、3光子吸収以上の多光子吸収であってもよい。また、本実施の形態は2つの異なる波長の光を用いて説明したが、多波長光源101は3つ以上の波長の光を使用するものであってもよい。
【0040】
(実施の形態2)
本実施の形態1では、1030nm帯、1064nm帯、1100nm帯などの赤外光(光パルス)をミトコンドリア(試料)に照射し、試料内のシトクロムCによって発生したラマン散乱光を計測する例について示した。しかし、本発明の多光子励起測定装置は、任意の試料(材料)に対して、その試料が異なる光学特性を示す複数の異なる波長の光を照射することで同様の効果を得ることが可能となる。
【0041】
例えば、本実施の形態では、1400nm帯と1867nm帯の波長の光パルスを発振する図2と同様の構成の多波長光源を用い、人体を試料とする図1と同様の構成の多光子励起測定装置について説明する。本実施の形態では、人体内部のヘモグロビン濃度分布(形態画像)と、ヘモグロビンの酸素化の割合(機能画像)の両方を取得することが可能となる。
【0042】
より詳細には下記に示す。
【0043】
本実施の形態により、1400nm帯と1867nm帯の二つの光の2光子吸収を利用して700nm帯と933nm帯の二つの波長の吸光度を求めることが可能となる。また更に、1400nm帯と1867nm帯の和光子吸収を利用して800nm帯の吸光度を求めることが可能となる。また、波長800nm帯の酸素化ヘモグロビン(Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(HbO)の吸光度は等しく、700nm帯の吸光度は脱酸素化ヘモグロビンの方が高く、933nm帯の吸光度は酸素化ヘモグロビンの方が高い。このため、少なくとも800nm帯の波長の吸光度を求めることで、酸素化ヘモグロビン(Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(HbO)の総和であるヘモグロビンの濃度が求められる。
【0044】
更に、700nm帯、933nm帯のうち、何れかの吸光度を計測し、800nm帯の吸光度と比較することで、酸素化ヘモグロビン(Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(HbO)それぞれの濃度を算出することができる。これにより、ヘモグロビンの酸素化の割合を求めることが可能となる。
【0045】
例えば、酸素化ヘモグロビンの濃度をx、脱酸素化ヘモグロビンの濃度をyとするとし、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンの濃度に対する800nmの光の吸光度の関数をfとし、脱酸素化ヘモグロビンの濃度に対する700nmの光の吸光度の関数をgとし、脱酸素化ヘモグロビンの濃度に対する700nmの光の吸光度の関数をhとすると、
f(x+y)=(800nmの吸光度)
g(x)+h(y)=(700nmの吸光度)
として連立方程式を解くことで、ヘモグロビンの酸素化の割合を求めることが可能になる。
【0046】
なお、上述の例では800nm帯の吸光度を利用したが、700nm帯、933nm帯で得られた吸光度量を使用して、酸素化ヘモグロビン(Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(HbO)の各濃度を算出してもよい。また、ヘモグロビン濃度の総和を求める差異に800nm帯の吸光度を利用したが、700nm帯、933nm帯の吸光度量を利用して得られた酸素化ヘモグロビン(Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(HbO)のそれぞれの濃度からヘモグロビンの総和を算出しても良い。
【0047】
本発明では直接700nm帯、800nm帯、933nm帯の光を生体に照射する場合に比べて、多光子励起現象を用いることで、より生体の透過率が高い長波長の赤外光を用いることが可能であり、生体のより深い部分のヘモグロビン濃度や酸素化の割合を調べることが可能となるため望ましい。
【0048】
また、本実施の形態では、実施の形態1と同様に、試料に光パルスを照射し、返ってきた光の出力を計測する構成をとってもよいが、試料に入射させる光パルスと試料から返ってきた光の波長は同じであり、ダイクロイックミラー110の変わりに偏光分離ミラーを用いることが望ましい。これによって、試料から返ってきた光を検出器113に導き、試料内での減衰量(吸光度)が求められる。
【0049】
また、図3に示すように、レーザー走査光学ユニット102からダイクロイックミラー110を省いたレーザー走査光学ユニット302を用いて、試料104に光パルスを照射し、レーザー走査光学ユニット302と反対側に検出器303を備える多光子励起測定装置300としてもよい。この構成により、より正確に吸光度を調べることが可能となり、より正確なヘモグロビン濃度分布や酸素化割合を求めることが可能となる(より高精度な機能画像観察が可能となる)ため望ましい。
【0050】
また、試料104と検出器の間には集光レンズ301を設置することで、更に測定の精度が向上するため望ましい。
【0051】
なお、図1の構成では、光の透過率が低い試料や散乱が多い試料においても機能画像観察が可能となる。そのため、観察可能な資料の種類は図3の構成より多くすることができるというメリットを有している。
【0052】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3における多光子励起測定装置の概略構成を示す図である。この多光子励起測定装置400は、図1に示す多光子励起測定装置100と同様に、多波長光源101にて発振した波長の異なる二つの光パルスを、光ファイバ103を通してレーザー走査光学ユニットに入射させて、試料104(シトクロムCを生細胞内に含んだミトコンドリア)に照射する構成となる。
【0053】
ただし、本実施形態に示すレーザー走査光学ユニット402では、入射した光パルスは自由空間に出射され、回折格子401に入射する。ここで、回折格子401は二つの波長の異なる光パルスを、その波長に応じて反射角が異なるように回折するため、例えば、図4の点線と破線で示すように光路が分離される。波長によって光路が分離された二つの波長の光パルスは共に、対物レンズ404により試料104内に入射する。対物レンズ404は、光路が分離された2つの光パルスを試料内で再び重ねあわせるように設計されており、光パルスは試料104内で同じ位置に集光される。この対物レンズは、例えば、回折格子から対物レンズまでの距離をaとし、対物レンズと資料内の集光位置までの距離をbとし、対物レンズの焦点距離をfとすると、
1/f = 1/a + 1/b
の関係になるようなfの対物レンズを選択すればよい。
【0054】
これにより、試料104に含まれるシトクロムCが多光子励起されて、ラマン散乱光が発せられる。
【0055】
二つの光パルスが重なる(交わる)位置では、実施の形態1と同様に、それぞれの光パルスの2光子吸収(励起)と共に、二つの波長の異なる光パルスの和光子吸収(励起)現象が発生し、そこで発生するラマン散乱光を検出器113にて電気信号に変換する。
【0056】
本実施の形態では、対物レンズ404がXY方向に並進運動することで、二つの波長の異なる光パルスの重なる位置は、試料104内をXY方向に走査する。
【0057】
また、検出器113も回折光学素子やプリズムなどの波長分離手段を備えた、いわゆる分光光度計であることがより望ましい。これにより、シトクロムCの分布画像がより正確に得られる。
【0058】
光パルスの試料104上での交わる位置の座標と、検出器113により検出されたラマン散乱光のスペクトルとを対応づけて記憶することにより、2次元的な多光子励起ラマン散乱画像を得ることができる。これにより、ミトコンドリア中におけるシトクロムCの濃度分布を観測することができる。
【0059】
また、本実施の形態では、回折格子401の格子面上に二つの光パルスの焦点が位置するように集光レンズ403を備えることが望ましい。
【0060】
これによって、試料104内で二つの光パルスが交わる位置とそれぞれの光パルスの焦点の位置が一致するため、より強い多光子励起現象が発生し、よりノイズの少ないシトクロムCの濃度分布画像を取得することが可能となる。
【0061】
本実施の形態では、波長の異なる二つの光パルスの光路が異なるため、交わる部分のみで和光子励起現象が発生する。このため、和光子励起によるラマン散乱スペクトルを計測することによって、散乱スペクトルの観測点を増加させることが出来る。また、和周派の発生領域が集光点付近に限定されるため、和周派を発生させて散乱スペクトルを計測することで、より高分解能のシトクロムC濃度分布画像が得られる。
【0062】
本実施の形態では、実施の形態1と同様に、1064nm帯と1100nm帯の光パルスを試料104入射させることで、532nm帯、541nm帯、550nm帯の可視光による励起と同様の効果を与えることとなる。1064nm帯の光パルスで励起した場合と、1100nm帯の光パルスで励起した場合の、ラマン散乱画像を比較することで、酸化型タンパク質と還元型タンパク質を識別し、それぞれの濃度分布を画像化すること(機能観察)が可能となる。
【0063】
また、本実施の形態の多光子励起測定装置も、試料の観察部分(光パルス集光位置)以外の部分に対して低侵襲であり、安価に(共焦点光学系を必要とせず)、光伝搬方向(光軸方向)の解像度を高めることが可能となる。
【0064】
また、本実施の形態では、光ファイバ103を通してレーザー走査光学ユニット402に入射した光パルスを集光レンズ403に通して、2次元走査回折格子401の反射面で集光させることが望ましい。
【0065】
これによって、2次元走査回折格子401の反射面をより小さくすることが可能となり、より低コストで、より低消費電力の2次元走査が可能となる。
【0066】
また、試料104内における二つの光パルスがそれぞれの集光位置で重なるため、より高コントラストな機能画像が得られる。
【0067】
また、対物レンズ404の手前の光パルス光路に略垂直な二面(A面、B面)において、A面とB面での二つの光パルスのビーム径の拡大率と、二つの光パルス光路の間隔の拡大率がほぼ一致することが望ましい。なお、ビーム径の拡大率とは、B面でのビーム径÷A面でのビーム径を意味する。これによって、試料104内において、二つの光パルスはそれぞれの集光位置で重なる。つまり、最も光強度が高い位置で和光子吸収(和光子励起)を行うことが可能となり、得られるラマン散乱スペクトルも強くなる。その結果、より高コントラストな機能画像が得られる。
【0068】
また、本実施の形態は、図5に示す構成を採用しても良い。すなわち、試料104内にて発生したラマン散乱光を、試料104に入射させた光パルス光路を逆走させて、対物レンズ404からレーザー走査光学ユニット内に再び取り込み、回折格子401で反射させる。多光子励起測定装置500は、その後ダイクロイックミラー110を用いて試料104に入射する前の光パルスと試料104で反射した光の光路を分離し、検出器113に入射させるレーザー走査光学ユニット501を備えたとしてもよい。
【0069】
図4の構成のほうが、より多くの試料からの光を受光することが可能となり、電気ノイズが少なく、より正確(再現性が高い)シトクロムCの濃度分布、酸化/還元の割合の画像が得られるため望ましい。しかし、図5の構成では、より正確に分光光度を計測することが可能となり、成分分析の正確性が増すため望ましい。
【0070】
また、言うまでもなく、本実施の形態の光学構成を実施の形態2と同様に、生体内のヘモグロビンの濃度や酸素化の割合を調べる多光子励起測定装置として用いてもよく、更に、別の試料の機能画像観察や形態画像観察に用いてもよい。
【0071】
本実施の形態の多光子励起測定装置では、実施の形態1、2に示すように二つの波長の光パルスが同光路の構成に比べて、Z方向の解像度が高くなるため望ましい。また、実施の形態1,2の構成の多光子励起測定装置は、より光学系が単純で安価な構成とすることが可能となるため望ましい。
【0072】
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4における多光子励起測定装置の概略構成を示す図である。この多光子励起測定装置700は、多波長光源701にて発振した波長の異なる二つの光パルスを、それぞれ別の光ファイバ103、703を通してレーザー走査光学ユニット702に入射させて、試料104(シトクロムCを生細胞内に含んだミトコンドリア)に照射する構成となる。
【0073】
ここで、光ファイバ103は、光ファイバコネクタ105、106によって、それぞれ多波長光源101、レーザー走査光学ユニット702と接続される。
【0074】
試料104は、シトクロムC(タンパク質)が生細胞内に存在するミトコンドリアであり、試料104に集光された光パルスは、シトクロムCでの多光子吸収により強い共鳴ラマン散乱を示す。
【0075】
図9は、図7に示した多波長光源701の一例の部分構成を示す図である。この多波長光源701は、パルスジェネレータ201、202、半導体レーザー203、204、ファイバ増幅器205、206、パルス幅圧縮機207、208、及び、光ファイバコネクタ105、705を有する。
【0076】
パルスジェネレータ201、202は、共に数ns以下の電気パルスを発生し、この電気パルスにより、それぞれ半導体レーザー203、204に電流を注入する。
【0077】
半導体レーザー203、204は、パルスジェネレータ201、202からの電気パルスにより注入される電流によって利得が瞬間的に発生消滅する、いわゆるゲインスイッチ動作し、これにより短波長から長波長へと時間的にチャープした数十ピコ秒幅の光パルスを発生する。半導体レーザー203、204は、例えば、面発光レーザー(VCSEL)、量子井戸分布帰還型レーザーダイオード(QWDFBLD)、量子ドット分布帰還型レーザーダイオード(QDDFBLD)などが使用可能であるが、本実施の形態ではVCSELを使用する。また、光パルスの波長は、試料104の多光子吸収により共鳴ラマン散乱する波長であればよく、可視から近赤外光、赤外光が使用可能である。ここでは、半導体レーザー203から1064nm帯、半導体レーザー204から1100nm帯の近赤外光が発振することとする。
【0078】
半導体レーザー203,204から発生した光パルスは、ファイバ増幅器205,206にて増幅する。ファイバ増幅器205、206は、ファイバレーザーまたは、半導体レーザーで励起される。ファイバレーザー中の被励起媒質として、Nd,Yb,Tm,Erなどをドープしたシングルクラッド、または、ダブルクラッドの光ファイバ、あるいは、断面に空隙がある光ファイバを用いる。ここで、被励起媒質としてYbがドープされたシングルクラッド光ファイバを用い、波長940nmの半導体レーザーを用いて励起する。
【0079】
ここで、ファイバ増幅器205,206によって、半導体レーザー203,204にて発振した光パルスは平均出力が数十mWから数Wの光パルスに増幅する。
【0080】
増幅後の1064nm帯、1100nm帯の二つの光パルスは、それぞれ、光ファイバコネクタ105、705を経て多波長光源701から出射する。
【0081】
光ファイバコネクタ705も、本実施の形態では、FC型とする。
【0082】
多波長光源701より出射した光パルスは、図7に示すように光ファイバ103、703を伝搬し、光ファイバコネクタ106、706を介して、レーザー走査光学ユニット702に入射する。ここで、光ファイバコネクタ706も光ファイバコネクタ705と同様にFC型を用いる。
【0083】
本実施形態に示すレーザー走査光学ユニット702では、入射した2つの光パルスはともに自由空間に放出され、コリメートレンズ707,708を通して平行光となる。
【0084】
その後、多波長光源701にて発振した波長の異なる二つの光パルスのうち、片方(ここでは1100nm帯の光パルスとする)を円筒ビーム形成器704に入射する。ここで、円筒ビーム形成器704は図8に示すように、向かい合った一対のアキシコレンズ(円錐レンズ)801、802で構成され、アキシコレンズ801の平面側から入射したガウシアンビーム803を円筒ビーム804に変換する構成となる。
【0085】
円筒ビーム形成器704から出射した1100nm帯の光パルスは図7に示すように、反射ミラー209とダイクロイックプリズム210で反射させて、円筒ビーム形成器704に入射させなかった、もう一方の光パルス(1064nm帯の光パルス)と同一伝搬路に重ねあわされる。
【0086】
光路が一致した二つの波長の異なる光パルスは、二次元走査ミラー107に入射する。ここで、伝播角度が走査される。
【0087】
二次元走査ミラー107を経た光パルスは、瞳投影レンズ108により集光されて中間像として結像された後、結像レンズ109により平行光とされ、対物レンズ111により試料104に集光される。これにより、試料104に含まれるシトクロムCが多光子励起されて、ラマン散乱光が発せられる。
【0088】
ここで、対物レンズ111直後の面Cにおける、光パルスのプロファイル(光強度分布)を図10に示す。1064nm帯の光パルスのプロファイル1001は光軸を中心としてガウシアン分布を示す。また、1100nm帯の光パルスのプロファイル1002も同様に光軸を中心とするが、円環状の光強度分布を示す。また、図10では、1100nm帯の光強度のうち、1100nm帯の光の最高強度のe^-2以上の光強度の部分を斜線部で示している。また、1064nm帯の光強度のうち、1064nm帯の光の最高強度のe^-2以上の光強度の部分を斜線部で示している。
【0089】
1100nm帯の光パルスのプロファイル1002において、内径a、外径bは、円筒ビーム形成器704におけるアキシコレンズ801とアキシコレンズ802の間隔を広げることで拡大することが可能である。1100nm帯の光パルスのプロファイル1002における内径aが1064nm帯の光パルスのビーム径(光強度が最も高い位置の光強度のe-2倍の部分と光軸との距離)より大きくなるように二つのアキシコレンズを配置することで、二つの光パルスのプロファイルの重なりを抑制することが可能となる。このように、対物レンズ直後の面Cにおける二つの光パルスのプロファイルの重なりを無くすと、1100nm帯の光パルスの集光位置以外で、二つの光パルスのプロファイルの重なりが無くなる。ただし、1100nm帯の光パルスのプロファイルも集光位置では光軸中真付近にピーク光強度を持つ1ピークのプロファイルとなる。つまり、1100nm帯の光パルスと1064nm帯の光パルスは、1100nm帯の光パルスの集光位置でのみ重なり合うこととなる。
【0090】
このため、1100nm帯の光パルスの集光位置でのみ、和光子励起によるラマン散乱光が発生する。そのため、測定の分解能を向上させることが可能になる。
【0091】
この和光子励起によるラマン散乱光は、試料104後方の集光レンズ301により検出器303に集光されて、電気信号に変換される。二次元走査ミラー107によって、光パルスの集光位置は試料104内をXY方向に走査され、光パルスの試料104上での集光位置の座標と、検出器113により検出された電気信号とを対応づけて記憶することにより、2次元的な和光子励起ラマン散乱画像を得ることができる。
【0092】
本発明では、既述のように、1064nm帯と1100nm帯の光パルスを試料104入射させる。これにより、それぞれ2光子励起によって、532nm帯と550nm帯の可視光による励起と同様の効果を与えることとなる。
【0093】
酸化型タンパク質と還元型タンパク質は、532nm帯の光励起によるラマン散乱と、550nm帯の光励起によるラマン散乱スペクトルが異なるため、上記構成により、酸化型タンパク質と還元型タンパク質を識別し、それぞれの濃度分布を画像化すること(機能観察)が可能となる。
【0094】
また、本発明の多光子励起測定装置では、試料の観察部分(光パルス集光位置)以外の部分に対して低侵襲であり、安価に(共焦点光学系を必要とせず)、光伝搬方向(光軸方向)の解像度を高めることが可能となる。
【0095】
また、実施の形態1と同様に、二つの異なる波長の光が重なり合う集光位置においては、541nm帯の光励起によるラマン散乱スペクトル画像を得ることも可能となる。
【0096】
また、本実施の形態では、検出器303にピンホールを備え、共焦点光学系を採用することにより、1064nm帯と1100nm帯の光パルスの集光位置で発生したラマン散乱光のみを計測することが可能となる。
【0097】
これにより、同位置における、532nm,541nm,550nmの三つの波長の光の吸光度を比較することが可能となるため望ましい。
【0098】
以上、実施の形態1から4では、波長の異なる光を発振する複数のパルス光源を備えた多波長光源の例を示したが、波長可変の一つのパルス光源を備えた多波長光源を用いた場合であっても、複数の波長の多光子吸収率を計測することが可能となる。つまり、形態画像観察だけでなく機能画像観察が可能な多光子励起測定装置となる。
【0099】
しかし、実施の形態1から4に示したように、本発明の多光子励起測定装置では、複数のパルス光源を備えた多波長光源を用い、波長の異なる複数の光を同時に発振することで、それぞれの2光子吸収、3光子吸収…現象だけでなく、和光子吸収現象を利用することが可能となるためより多くの波長の多光子吸収率を計測することが可能となるため望ましい。
【0100】
更に、実施の形態3、4に示すように波長の異なる複数の光の光路を変えて、ある一部分でのみ重ならせる構成とすることによって、解像度を高めることも可能となる。
【0101】
また、本発明の実施の形態1から4について、Z方向の解像度は実施の形態1、2 < 実施の形態4 < 実施の形態3 であり、光学系部分の価格についても、実施の形態1、2 < 実施の形態4 < 実施の形態3 となるため、用途に応じて適した実施の形態を用いることが望ましい。
【0102】
また、実施の形態1から4について、共通して下記のことが言える。
【0103】
まず、言うまでもなく多波長光源101の代わりに、任意の波長の光パルスを発振する多波長光源を用いることにより、任意の波長励起の光学特性画像を得ることが可能となる。
【0104】
例えば、試料がミトコンドリア内のシトクロムCであって、試料のラマン散乱スペクトルを観察する場合は、図2における半導体レーザー201の代わりに1030nm帯の光パルスを発振する半導体レーザーを用いてもよい。試料に1030nm帯と1100nm帯の光パルスを照射することが可能となり、1030nm帯と1100nm帯のそれぞれの光パルスの2光子励起と1030nm帯と1100nm帯の和光子励起により、515nm帯、532nm帯、550nm帯の三つの波長の可視光励起によるラマン散乱画像を得ることが可能となる。
【0105】
シトクロムCは515nm帯の光パルス励起によるラマン散乱による強いラマンピーク(753,1127,1314,1583cm−1)が観察されるため望ましい。上述の1064nm帯と1100nm帯の二つの波長の光パルスを照射する構成に比べて、より正確にシトクロムCの分布画像観察(形態画像観察)が可能となる。この特徴は、1045nm未満の波長の光パルスと1045nmより長波長の光パルスをシトクロムCに照射するすべての本発明の構成に適用可能となる。
【0106】
また、1080nm未満の波長の光パルスと1080nmより長波長の光パルスを照射する構成では、シトクロムCの酸化/還元の比率をより正確に求めることが可能となるため望ましい。
【0107】
また、実施の形態1から4では、半導体レーザーとファイバーアンプからなる多波長光源を用いたが、一般的に多光子励起測定装置に用いられるチタンサファイアレーザー光源などを用いてもよい。
【0108】
また、YbやNdなどの希土類を添加したYAG、YVOなどのレーザー媒質を用いたQスイッチ短パルス固体レーザーを用いてもよい。
【0109】
ただし、半導体レーザーとファイバーアンプからなるパルス光源を用いることによって、より安価に様々な波長の光パルス発振が可能となるため望ましく、より多種類の化学物質の同定が可能となる。
【0110】
また、チタンサファイアレーザー光源や、Qスイッチ短パルス固体レーザーを用いることによって、より高ピークの光パルスを試料に照射することが可能となるため、化学物質の濃度計測精度が向上するため望ましい。
【0111】
また、試料が生体の場合には、生体への光透過特性に優れているクロム・フォルステライトレーザー光源などのファイバレーザーを用いることで、より生体の深部まで高精度に形態画像観察や機能画像観察が可能となるため望ましい。
【0112】
また、実施の形態1から4に示す多光子励起測定装置において、3つ以上の波長が異なる光パルスを試料に照射することが望ましく、更に、形態画像の正確性と機能画像のコントラストが向上する。
【0113】
ただし、試料に照射する光パルスのスペクトルは、図6に示すように、最も短波長のものから、それぞれ、中心波長をλ、λ…λ、λn+1とし、波長の半値全幅をΔλ、Δλ…Δλ、Δλn+1とすると、少なくとも一つのn(nは自然数)に対して下記の数式1を満たすことが望ましい。
【0114】
【数1】

【0115】
これにより、隣り合う波長の光のm光子励起(mは2以上の自然数)による光学特性の切り分けの精度が大きく向上するため、得られる機能画像の高コントラスト化が可能となる。
【0116】
また、より望ましくは、少なくとも一つの波長に対して数式2を満たすことが望ましい。
【0117】
【数2】

【0118】
これにより、隣り合う波長の光の和光子励起による光学特性の切り分け精度も大きく向上するため、得られる機能画像の更なる高コントラスト化が可能となる。
【0119】
また、試料がシトクロムCを含む場合には、
(1)1045nmより短波長
(2)1045nmより長波長で1080nmより短波長
(3)1080nmより長波長
の三つの波長領域の光パルスを少なくとも一つづつ含むことで、形態画像の正確性と機能画像のコントラストが共に最も高くなるため望ましい。
【0120】
多波長光源からの波長に関係なく、複数波長の光短パルスを試料に照射する多光子励起測定装置において、波長が異なる複数の光パルスを同時に試料に照射する場合と、別々に試料に照射する場合に、試料から出射する光(実施の形態1ではラマン散乱光。蛍光などの場合も同様。)を計測し、比較することが望ましい。これにより、更に高コントラストな機能画像観察が可能となる。
【0121】
例えば、実施の形態1を例にとると、まず、1064nm帯、1100nm帯の光パルスをそれぞれ別々(のタイミングで)に試料104に照射し、532nm帯、550nm帯の可視光励起によるラマン散乱画像を取得する。次に、1064nm帯、1100nm帯の光パルスを同時に試料104に照射し、541nm帯の可視光励起によるラマン散乱画像を取得する。
【0122】
これにより、より正確に、532nm帯、541nm帯、550nm帯、それぞれの波長によるラマン散乱光の切り分けができる。つまり、より正確なそれぞれの波長のラマン散乱画像を取得することが可能となり、機能画像観察の正確性(再現性)を高めることが可能となる。図示しないが、各光パルスの発振タイミングを制御するタイミング制御手段を備えていてもよい。
【0123】
また、更に望ましくは、複数波長の光パルスの光強度をそれぞれ独立に変えて試料に照射し、試料から出射する光を計測して比較することが望ましく、これによって、2光子励起による光学特性と3光子励起による光学特性(ラマン散乱、吸光特性、蛍光特性)、さらに多光子励起による光学特性を切り分けることが可能となる。
【0124】
例えば、ラマン散乱光を計測する場合は、2光子励起によるラマン散乱、3光子励起によるラマン散乱、更に、高次のラマン散乱の切り分けが可能となるため、より高コントラストの機能画像観察が可能となる。また、同様に、蛍光とラマン散乱の切り分けも可能となるため、更に、機能画像のコントラスト向上に繋がる。
【0125】
また、同様に、二つの波長の光パルスのパルス波形を変形させる手段を備えることが望ましい。パルス波形を変形させ、且つ、二つの光パルス発振のタイミングを調節することにより、二つの光パルス光路が重なり合う位置におけるそれぞれの光パルスの2光子吸収、3光子吸収、和光子吸収の吸収率を任意に調節することが可能となり、機能画像のコントラスト向上が可能となる。
【0126】
また、増幅後の二つの波長の光パルス(実施の形態1の一つ目の例では、1064nm帯、1100nm帯の二つの光パルス)光路に、それぞれ、図2に示すようなパルス幅圧縮機207、208を設置し、より短パルス化してもよい。試料105内の対抗し励起現象が、より顕著に起こるため、より高精度な機能画像観察が可能となる。パルス幅圧縮機207、208について、詳細を図示しないが、波長分散特性を示す光ファイバや、回折格子とミラーを組み合わせて、波長によって光路長が異なる分散補償手段などを用いることが可能となる。半導体レーザーをゲインスイッチ動作させて発生させる光パルスは、短波長から長波長へと時間的にチャープした波長特性を示すため、上述のように、波長によって光学距離が異なる構成のパルス幅圧縮機を用いて、パルス幅の圧縮が可能となるため望ましい。より安価な多波長光源が可能となる。
【0127】
また、ファイバ増幅器205、206は、複数のファイバ増幅器を直列に繋いだ多段増幅器であってもよい。ファイバ増幅器1段ごとの増幅率は1000倍以下が望ましく、これによって、ノイズが少なく、高効率な光パルス増幅が可能となるため、より正確な形態画像が得られる。
【0128】
また、一段ごとの増幅率は50倍以上が望ましく、より安価に、検体の多光子励起が可能となる。
【0129】
また、生体内のヘモグロビン濃度や酸素化割合を求める応用の場合は、水に吸収が少ない波長の光を用いることが望ましい。図11には、セル長1cmの蒸留水の透過スペクトルを示す。図11に示すように、波長1440nm以下の光パルスと波長1625nm以上の光パルスを用いて、生体に照射することが望ましい。これにより生体内のより深い位置のヘモグロビン濃度や酸素化割合を求めることが可能となる。
【0130】
また、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンは、800nm付近の光に対して吸光度が等しい。このため、800nm付近の光の吸光度と800nm帯より短波の吸光度、800nm帯より長波の吸光度を求めることが望ましい。つまり、二つの波長の異なる光パルスによる和光子励起によって800nmの波長の光の吸光度を求める構成とすることが望ましく、多波長光源にて生成する二つの光パルスの波長をλ1[nm]、λ2[nm]とすると、下記条件(1)〜(3)をすべて満たすことが望ましく、それによって、ヘモグロビンの酸素化割合をより正確に計測することが可能となる。
【0131】
(1)λ1 < 1440
(2)1625 < λ2 < 1925
(3)λ1 = (λ3*λ2)/(λ2−λ3)
ここで、λ3は800nmに略同一であって、790nmから810nmの範囲において、略同一とみなし、同様の効果を得る。
【0132】
また、(2)と(3)の条件を満たすために、
(4)1340 < λ1
も満たすことが必要となる。
【0133】
また、(3)は
(3)´790 <(λ1*λ2)/(λ1+λ2)< 810と
透過である。
【0134】
また、本発明の多光子励起測定装置では、顕著な多光子吸収を発生させることで、高精度な多光子励起を発生させることが可能となり、形態画像観察に用いる場合に解像度を向上させることが可能となる。このため、検体内の線形吸収による吸光エネルギーに対して、多光子吸収による吸光エネルギーがある程度大きいことが望ましい。
【0135】
少なくとも多光子吸収による吸光エネルギーが、線形吸収による吸光エネルギーの10%以上であることがのぞましい。
【0136】
また、和光子吸収による総吸光エネルギーは、重なり合った複数の光パルスの光強度に比例し、各光パルスの吸光エネルギー比は、各光パルスの波長に逆比例する。
【0137】
このため、パルス幅が同程度で、光強度が大きな光パルスと光強度が小さな光パルスを重ねた場合、光強度が小さな光パルスのほうが多光子吸収による光吸収率が高くなる。つまり、試料から出た後の光強度が小さいほうの光パルス出力をモニターしながら、両光パルスの重なり具合を調整する(発振タイミングを調節する)ことで、より顕著に多光子吸収による吸光度を求めることが可能となり、高コントラストな機能性画像が得られるため望ましい。
【0138】
そのため、実施の形態1から4の成分濃度計において、波長の異なる二つの光パルスを試料に照射し、試料内で重なり合うようにそれぞれの光パルスの光路、発振のタイミングを調整する場合において、二つの光パルスの光強度に差があることが望ましい。
【0139】
より望ましくは、波長が短い方の光パルスの光強度が小さいことが望ましい。
【0140】
また、波長の異なる複数の光パルスを試料に照射する構成の場合も同様のことが言える。
【0141】
また、光強度が小さい方の光パルスをSC(スーパーコンティニューム)光源やSLD、フェムト秒OPOなどの広帯域パルス光源を用いて発振させることが望ましく、より様々な波長の吸光度をより高精度に計測することが可能となるめ、望ましい。これにより、更に、高精度な機能性画像が得られる。
【0142】
また、実施の形態1から4において、少なくとも一つの光パルスが波長可変光源から生成されていることがより望ましく、より高感度でより高精度に複数の波長の光吸光度を計測することが可能となる。これにより、より光が届き難い、散乱体や透過率が低い試料の奥深い位置まで高精度に機能性画像を得ることが可能となる。
【0143】
また、実施の形態1から4では、シトクロムCやヘモグロビンを含む生体を対象の試料とした多光子励起測定装置について示したが、本発明の多光子励起測定装置の応用範囲はこれらに限らず、様々な用途において同様の効果を発揮する。
【0144】
例えば、体内の血糖値などを計測する成分濃度計として用いることも可能となる。例えば、血糖値を計測する場合、波長3〜4μm帯の遠赤外光の光パルスを人体に照射することで、グルコースの分子振動による基準振動にあたる光吸収特性と、倍音などの光吸収特性の両方を観察することが可能となり、より高精度な成分濃度計測が可能となるため望ましい。
【0145】
また、2〜1μm帯の近赤外光の光パルスを用いることで、分子振動の倍音と、電子振動による光吸収特性の両方を応用した成分濃度計測が可能となるため、より高精度な血糖値計測が可能となるため望ましい。
【0146】
また、本発明の多光子励起測定装置は、半導体材料など他の試料を多光子励起(非線形励起)して計測する計測装置としても応用することが可能である。
【0147】
また、本発明の多光子励起測定装置は波長の異なる複数の光パルスを同時に発振させて、その和光子励起による物質の蛍光を利用した蛍光顕微鏡として用いる場合、多波長光源からの光パルス出力を可変にしておくことが望ましい。
【0148】
これにより、過飽和吸収や蛍光の非線形現象を利用した物質の同定が可能となり、より多くの物質の濃度(分布)を計測することが可能となる。
【0149】
なお、上記の実施形態では、多光子励起測定装置を、複数の物質の濃度分布を算出するために使用する例を説明した。しかしながら、物質の濃度を算出しない場合(すなわちスペクトルを観測するのみ)でも、測定できる観測点を従来の測定装置よりも増加させることができる。これにより測定精度をより向上させることができるという特有の効果を奏することができる。
【0150】
また、複数の物質を含む試料を測定する場合に、各物質の吸収スペクトルの重複が少ない2つの波長帯域を用いて測定を行うことで、その後の演算を行うことなく、各物質の濃度を求めることができる。例えば、物質Aでラマン散乱が発生する波長λ1(また、物質Bではラマン散乱がおきにくい波長)と、物質Bでラマン散乱が発生する波長λ2(また、物質Aではラマン散乱が起きにくい波長)を用いて測定を行うことで、一度の測定で2つの異なる物質の濃度を算出することができる。
【0151】
また、λ1とλ2の和周波が、物質A及び物質Bの何れかのラマン散乱が発生する波長帯に存在する場合には、この和周派の波長領域で得られた測定結果を用いることで、物質Aまたは物質Bの測定点を増加させることができる。したがって、測定精度をより向上させることができる。
【0152】
以上のように、本発明の多光子励起測定装置は、得られた測定スペクトルの使用方法が特定の目的に限定されるものではなく、また得られた測定スペクトルを用いた演算方法も、ある特定の方法に限られるものではない。
【0153】
以上、本発明の測定装置について示したが、本明細書にて示した構成は一例であって、本発明の主旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明に係る多光子励起測定装置は、上記実施の形態で説明した生細胞を計測する多光子励起レーザー走査型顕微鏡に限らず、半導体材料など他の試料を多光子励起(非線形励起)して計測する計測装置にも適用可能である。
【0155】
また、物質の構造を観察するだけでなく、化学物質の同定をも可能とする測定装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0156】
100 多光子励起測定装置
101 多波長光源
102 レーザー走査光学ユニット
103 シングルモード光ファイバ
104 試料
105 光ファイバコネクタ
106 光ファイバコネクタ
107 二次元走査ミラー
108 瞳投影レンズ
109 結像レンズ
110 ダイクロイックミラー
111 対物レンズ
112 集光レンズ
113 検出器
201 パルスジェネレータ
202 パルスジェネレータ
203 半導体レーザー
204 半導体レーザー
205 ファイバ増幅器
206 ファイバ増幅器
207 パルス幅圧縮機
208 パルス幅圧縮機
209 反射ミラー
210 ダイクロイックプリズム
300 多光子励起測定装置
301 集光レンズ
302 レーザー走査光学ユニット
303 検出器
400 多光子励起測定装置
401 回折格子
402 レーザー走査光学ユニット
403 集光レンズ
404 対物レンズ
500 多光子励起測定装置
501 レーザー走査光学ユニット
700 多光子励起測定装置
702 レーザー走査光学ユニット
703 光ファイバ
704 円筒ビーム形成器
705 光ファイバコネクタ
706 光ファイバコネクタ
707 コリメートレンズ
708 コリメートレンズ
801 アキシコレンズ
802 アキシコレンズ
803 ガウシアンビーム
804 円筒ビーム
1001 1064nm帯の光パルスのプロファイル
1002 1100nm帯の光パルスのプロファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルスによる多光子吸収現象を用いて試料の測定を行う多光子励起測定装置であって、
波長の異なる複数の光パルスを出射する多波長光源と、
前記多波長光源にて発生した前記波長の異なる複数の光パルスの光路を前記試料内で重ねて、重なった位置を試料内で走査する走査光学系と、
前記光パルスの照射により前記試料から発生する多光子励起にともなう信号光を検出する検出器と、
を有することを特徴とする多光子励起測定装置。
【請求項2】
前記波長の異なる複数の光パルスのうち少なくとも一つの光パルスの光路を、前記多波長光源から前記光パルスが出射された後に別の少なくとも一つの光パルスの光路と分離し、
前記試料内で再び重なり合わせることを特徴とする請求項1に記載の多光子励起測定装置。
【請求項3】
前記波長の異なる複数の光パルスのうち少なくとも一つの光パルスを円筒ビームに変換する手段と、
前記試料内において前記円筒ビームを集光する集光光学系と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の多光子励起測定装置。
【請求項4】
前記波長の異なる複数の光パルスのうち少なくとも二つの光パルスが重なり合う位置において、前記少なくとも二つの光パルスが集光するように光学系が設計されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の多光子励起測定装置。
【請求項5】
前記波長の異なる複数の光パルスを発振するタイミングを変化させるタイミング制御手段をそなえ、
前記タイミング制御手段は
前記波長の異なる複数の光パルスの光路が、前記試料内で同時に重なり合う位置に集光するように少なくとも複数の波長の異なる光パルスを発振し、前記複数の波長の光が集光するタイミングとは異なるタイミングで、前記複数の波長の異なる光パルスのうち少なくとも一部の光パルスが前記試料内で集光するように前記光パルスを発振させることを特徴とする請求項1に記載の多光子励起測定装置。
【請求項6】
前記複数の波長の光が前記試料内に同時に重なり合うように集光した場合に得られた信号光と、前記少なくとも一部の光パルスが前記試料内に集光した場合に得られた信号光を比較することを特徴とする請求項6に記載の多光子励起測定装置。
【請求項7】
前記光パルスを円筒ビームに変換する手段は、一組の円錐レンズを含み、前記円筒ビームを集光する集光光学系から出射する光の強度分布を、それぞれの光パルスで異ならせることを特徴とする請求項3に記載の多光子励起測定装置。
【請求項8】
前記多波長光源は、1045nmより短波長の光パルスと、1045nmより長波長の光パルスを少なくとも発振し、前記1045nmより短波長の光パルスを前記試料に照射して得られた信号と、前記1045nmより長波長の光パルスを前記試料に照射して得られた信号と、前記1045nmより短波長の光パルスと前記1045nmより長波長の光パルスの和周波波長で得られた信号と、を用いて、前記試料内の酸化型タンパク質と還元型タンパク質の濃度分布を求めることを特徴とする請求項1に記載の多光子励起測定装置。
【請求項9】
前記多波長光源から、
波長λ1、λ2の光パルスであって
790nm <(λ1*λ2)/(λ1+λ2)< 810nm
を満たす光パルスを発振し、
前記試料内の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの濃度分布を求めることを特徴とする請求項1に記載の多光子励起測定装置。
【請求項10】
前記λ1、λ2は、それぞれ
1340nm < λ1 < 1440nm
1625nm < λ2 < 1925nm
を満たすことを特徴とする請求項7に記載の多光子励起測定装置。
【請求項11】
前記多波長光源にて発生させる前記波長の異なる複数の光パルスのスペクトルについて、最も短波長のものから、それぞれ、中心波長をλ、λ…λ、λn+1とし、波長の半値全幅をΔλ、Δλ…Δλ、Δλn+1とし、
少なくとも一つのn(nは自然数)に対して
λn+1−λ> Δλn+1 Δλ
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の多光子励起測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−112863(P2012−112863A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263367(P2010−263367)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】