多孔質シリカ膜およびその製造方法
【課題】低屈折率でそれを長期に維持可能であり、高硬度でかつ被コーティング材料への膜の密着性に優れる多孔質シリカ膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】膜の表面および内部に存在する細孔が直径2nm以下のミクロ孔のみであって、鉛筆硬度が5H以上であり、分光エリプソメータを用いて波長655nmの光を膜表面に対して入射角75度にて入射させた際の屈折率が1.33以下である多孔質シリカ膜であり、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる工程を含む方法により製造する。
【解決手段】膜の表面および内部に存在する細孔が直径2nm以下のミクロ孔のみであって、鉛筆硬度が5H以上であり、分光エリプソメータを用いて波長655nmの光を膜表面に対して入射角75度にて入射させた際の屈折率が1.33以下である多孔質シリカ膜であり、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる工程を含む方法により製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリカ膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低屈折率材料は、光学機器、ディスプレイ、太陽電池等において入射光の界面での反射による光損失や、それによる透過光の減少を低減するための反射防止コーティング材料に用いられている。低屈折率材料としては、屈折率約1.38を有するフッ化マグネシウムが良く知られており、反射防止膜として蒸着により成膜されている。
【0003】
近年、反射防止特性のさらなる向上を目的として、より低屈折率の材料が要求されてきており、多孔性のシリカ材料が注目されている(例えば、特許文献1,2参照)。ローレンス−ローレンツによる空隙率および屈折率の関係式によれば、材料の多孔質化によりその材料の屈折率の低下を期待することができる。
【0004】
特許文献1に開示される多孔質化の技術の一つは、コーティング膜に分散させるシリカ無機微粒子として、その内部が多孔質または空洞を有する形態の粒子を用いるというものである。また、特許文献2に開示される多孔質化の技術は、ガラス材料の成形用原料の調製時に細孔形成剤(鋳型)としてポリプロピレングリコール等の有機物質を導入した後、加熱により当該有機物質を揮発または分解させて、細孔を形成するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−265530号公報(段落0050〜段落0053等)
【特許文献2】特開2006−036598号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多孔質の低屈折率材料は、その細孔に大気中の汚れが吸着しやすく屈折率の上昇が起きやすい。当該汚れの吸着を防止するため、封止コーティングを施すこともできるが、その封止コーティング材料が細孔に浸透しやすく、期待されるほどの低屈折率が得られないという問題がある。その問題を解決するために、より空隙率を上げることも考えられるが、空隙率が上昇すると低屈折率材料自体の硬度が低下するので、好ましくない。汚れが吸着するという問題が生じる主な原因は、細孔の径が比較的大きいことにあると考えられる。
【0007】
そこで、より微細な細孔を有する低屈折率の膜を形成する必要があるが、先に紹介した従来の技術によって製造される膜には、次のような問題がある。特許文献1に開示される膜は、多孔質のシリカ粒子を含むため、その粒子による光の散乱が起きやすく、透過率の低下(透明度の低下)が生じやすい。加えて、その粒子が膜と被コーティング材料との界面に露出することにより両者の密着性が低下しやすい。また、特許文献2に開示される膜を製造するためには、その製造過程において有機物質を揮発または分解するために極めて高い温度まで加熱する必要がある。このため、被コーティング材料の熱的劣化が生じやすい。また、細孔の大きさは、有機物質の粒子径およびその揮発若しくは分解の程度によって決まる。有機物質としてナノ粒子を選択したとしても、当該粒子の凝集を防止することは難しいため、微細な細孔で、かつその細孔径が揃った膜を製造することは極めて難しい。
【0008】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、低屈折率でそれを長期に維持可能であり、高硬度でかつ被コーティング材料への膜の密着性に優れる多孔質シリカ膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の多孔質シリカ膜は、膜の表面および内部に存在する細孔が直径2nm以下のミクロ孔のみであって、鉛筆硬度が5H以上である。
【0010】
また、本発明の多孔質シリカ膜は、ミクロ孔の平均直径が1.0nm以下である。
【0011】
また、本発明の多孔質シリカ膜は、分光エリプソメータを用いて波長655nmの光を膜表面に対して入射角75度にて入射させた際の屈折率が1.33以下である。
【0012】
また、本発明の多孔質シリカ膜は、前記屈折率が1.30以下である。
【0013】
また、本発明の多孔質シリカ膜の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程と、上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触させて膜を洗浄する洗浄工程と、上記洗浄工程後に250〜800℃の範囲で加熱する加熱工程とを含む。
【0014】
また、本発明の多孔質シリカ膜の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程と、上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触して膜を洗浄する洗浄工程と、上記洗浄工程後に、脱水性の有機溶媒に上記膜を接触せしめる脱水工程と、上記脱水工程後に25〜200℃の範囲で上記膜を加熱する加熱工程とを含む。
【0015】
また、本発明の多孔質シリカ膜の製造方法は、脱水性の有機溶媒としてエタノール、アセトン、若しくはアセトニトリルを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低屈折率でそれを長期に維持可能であり、高硬度でかつ被コーティング材料への膜の密着性に優れる多孔質シリカ膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施の形態に係る多孔質シリカ膜の製造方法の一例(第一の製造方法)の大まかな流れを示すフローチャートである。
【図2】図2は、図1に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施の形態に係る多孔質シリカ膜の製造方法の一例(第二の製造方法)の大まかな流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、図3に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実験例2にて作製した多孔質シリカ膜の表面のSEM写真である。
【図6】図6は、実験例2にて作製した多孔質シリカ膜の断面のSEM写真である。
【図7】図7は、実験例2にて作製した多孔質シリカ膜のSPM像である。
【図8】図8は、図7に示すSPM像の特定の断面像である。
【図9】図9は、実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)のTG−DTAチャートである。
【図10】図10は、実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)のTG−DTAチャートである。
【図11】図11は、実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)および実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、各種溶媒(メタノール、エタノールおよび1−プロパノール)を用いて作製した各多孔質シリカ膜(実験例2、実験例10および実験例17)の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【図13】図13は、実験例2および実験例10にて作製した各多孔質シリカ膜について、MP法により求めた細孔径の分布を示す図である。
【図14】図14は、実験例17にて作製した多孔質シリカ膜について、BJH法により求めた細孔径の分布を示す図である。
【図15】図15は、各種溶媒を用いたコーティング溶液から作製した各多孔質シリカ膜(実験例1〜7、実験例9〜22)の加熱温度と、波長655nmの入射光を用いたときの屈折率との関係を示すグラフである。
【図16】図16は、メタノールを溶媒として用いたコーティング用溶液を25℃で24時間乾燥して得られた粉末を、80℃のイオン交換水にて2時間洗浄処理を行った後、200℃および300℃でそれぞれ加熱した各粉末の赤外吸収スペクトルのグラフである。
【図17】図17は、実験例23にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理有り)、実験例24にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理なし)および実験例25にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理なし)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図18】図18は、実験例26〜28にて得られた多孔質シリカ膜(実験例26:アセトンを用いて脱水処理、実験例27:エタノールを用いて脱水処理、実験例28:アセトニトリルを用いて脱水処理)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図19】図19は、実験例29にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してエタノールを用いて脱水処理したもの)、実験例30にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してアセトンを用いて脱水処理したもの)、実験例31にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してアセトニトリルを用いて脱水処理したもの)、実験例32にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、25℃で乾燥しただけのもの)および実験例33にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、200℃で乾燥しただけのもの)を測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の多孔質シリカ膜およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0019】
1.多孔質シリカ膜
本実施の形態に係る多孔質シリカ膜は、膜の表面および内部に存在する細孔が直径2nm以下のミクロ孔のみであって、鉛筆硬度が5H以上であるシリカの膜である。ここで、「シリカ膜」とは、シリカを主成分とする膜若しくは膜の積層体をいい、シリカ以外の副成分の種類や各副成分の割合、膜の厚さの大小は問わない。また、「直径」は、当該細孔の開口面を、その面積と同じ面積の円に換算したときの直径を意味する。また、「鉛筆硬度」は、JIS K5600−5−4にしたがって測定される硬度をいう。「ミクロ孔」は、直径2nm以下の孔をいう。多孔質シリカ膜に分散する多数のミクロ孔の平均直径は、1.0nm以下であるのが好ましい。
【0020】
本実施の形態に係る多孔質シリカ膜において、分光エリプソメータを用いて波長655nmの光を膜表面に対して入射角75度にて入射させた際の屈折率は、1.33以下であるのが好ましく、特に1.30以下であるのが好ましく、さらには、1.25以下であるのが好ましい。波長655nmの光の光源は、好適には、Xeランプ光源である。
【0021】
2.多孔質シリカ膜の製造方法
【0022】
2.1 第一の製造方法
図1は、本実施の形態に係る多孔質シリカ膜の製造方法の一例(第一の製造方法)の大まかな流れを示すフローチャートである。
【0023】
図1に示すように、多孔質シリカ膜の第一の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程(ステップS100)と、上記反応工程(ステップS100)によって得られる溶液(コーティング用溶液)を基板に供給して膜を形成する膜形成工程(ステップS200)と、上記膜形成工程(ステップS200)によって得られる膜を80℃以上の水に接触させて当該膜を洗浄する洗浄工程(ステップS300)と、上記洗浄工程(ステップS300)後に250〜800℃の範囲で加熱する加熱工程(ステップS400)と、を含む。
【0024】
図2は、図1に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0025】
多孔質シリカ膜の第一の製造方法は、テトラアルキルオルソシリケートと溶媒とを混合する第一の混合工程(ステップS110)と、ヒドロキシケトン誘導体、水および溶媒とを混合する第二の混合工程(ステップS120)と、第一の混合工程(ステップS110)により作製したテトラアルキルオルソシリケート溶液と第二の混合工程(ステップS120)により作製したヒドロキシケトン誘導体溶液とを混合して両溶液を反応させる反応工程(ステップS130)と、当該反応工程(ステップS130)後に、反応後の溶液を静置する静置工程(ステップS140)と、当該静置工程(ステップS140)後のコーティング用溶液を基板にコーティングするコーティング工程(ステップS210)と、当該コーティング工程(ステップS210)後の膜を乾燥する乾燥工程(ステップS220)と、前述の洗浄工程(ステップS300)と、前述の加熱工程(ステップS400)と、を含む。第一の混合工程(ステップS110)、第二の混合工程(ステップS120)、反応工程(ステップS130)および静置工程(ステップS140)は、図1に示す反応工程(ステップS100)を具体的に細分化した工程である。コーティング工程(ステップS210)および乾燥工程(ステップS220)は、図1に示す膜形成工程(ステップS200)を具体的に細分化した工程である。
【0026】
次に、図2に示すフローチャートに基づいて、各工程の詳細を説明する。
【0027】
(1)反応工程(ステップS100)
(1.a)第一の混合工程(ステップS110)
混合対象のテトラアルキルオルソシリケートは、一般式がSi(OR)4で表わされるシラン化合物である(式中のORは、アルコキシ基である)。アルコキシ基としては、直鎖、分岐及び環状のいずれの官能基であっても良く、炭素数は、1〜20、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜4である。テトラアルキルオルソシリケートとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等を挙げることができる。これらのテトラアルキルオルソシリケートの内で、好適には、テトラメチルオルソシリケート(テトラメトキシシラン)を用いることができる。また、これらのテトラアルキルオルソシリケートの内の1種のみ、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
テトラアルキルオルソシリケートと混合する溶媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;エチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールアセテートなどのアセテート類;トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの芳香族あるいは脂肪族炭化水素のほか、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。上記溶媒としては、上記の一種のみを、あるいは上記の2種以上を混合したものを用いても良い。この実施の形態では、比較的低温にてミクロ孔から成る高硬度の低屈折率膜を得やすいメタノールあるいはエタノールを用いるのがより好ましい。
【0029】
上記溶媒の量は、ステップS110およびS120にて用いられる各溶媒の総量に対してテトラアルキルオルソシリケートが0.2〜1.0mol/Lとなるような量が好ましく、特に0.3〜0.7mol/Lとなるような量が好ましく、さらには0.4〜0.6mol/Lになるような量が好ましい。例えば、ステップS110とステップS120で、同じ量の溶媒を用いる場合、ステップS110において用いる溶媒の量を、テトラアルキルオルソシリケートが0.4〜2.0mol/Lとなるような量、特に0.6〜1.4mol/Lとなるような量、さらには0.8〜1.2mol/Lになるような量とするのが好ましい。
【0030】
溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合方法は、攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、容器に入れた溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合溶液を掻き混ぜる方法、容器に入れた前述の混合溶液内に攪拌子を入れて当該容器をマグネチックスターラー上に載せて攪拌子を回転させる方法、前述の混合溶液を入れた容器を、水を入れた超音波振動機内に漬けて振動攪拌させる方法などを採用することができる。ただし、溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合方法は、前述の例示に限定されず、公知のいかなる混合方法をも含む。
【0031】
混合時の温度は、溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、メタノールあるいはエタノールを溶媒として選択する場合には、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0032】
(1.b)第二の混合工程(ステップS120)
ヒドロキシケトン誘導体としては、ヒドロキシアセトン、アセトイン、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン、およびフルクトースなどを使用でき、特に、ヒドロキシアセトンが好ましい。ヒドロキシケトン誘導体は、テトラアルキルオルソシリケート1モルに対して、0.3〜3.0モル、特に0.5〜2.0モル、さらには0.8〜1.2モルの範囲とするのが好ましい。
【0033】
溶媒は、ステップS110で用いられる溶媒と同様のものを使用することができる。ステップS120で用いられる溶媒は、ステップS110で用いられる溶媒と異なる種類の溶媒であっても良いが、ステップS110で用いられる溶媒と同種の溶媒であるのが好ましい。溶媒の量は、既述のように、ステップS110およびS120にて用いられる各溶媒の総量に対してテトラアルキルオルソシリケートが0.2〜1.0mol/Lとなるような量が好ましく、特に0.3〜0.7mol/Lとなるような量が好ましく、さらには0.4〜0.6mol/Lになるような量が好ましい。
【0034】
水は、不純物(水素イオン、水酸イオン以外のイオンなども不純物に含まれる)の少ないイオン交換水であるのが好ましい。水の量は、テトラアルキルオルソシリケートあるいはヒドロキシケトン誘導体1モルに対して2〜10モル、特に3〜7モル、さらには4〜6モルの範囲とするのが好ましい。
【0035】
溶媒、水およびヒドロキシケトン誘導体の混合方法は、ステップS110の混合方法と同様の方法の他、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、メタノールあるいはエタノールを溶媒として選択する場合には、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0036】
(1.c)反応工程(ステップS130)
反応工程は、ステップS110にて混合した溶液とステップS120にて混合した溶液とを混合して、テトラアルキルオルソシリケートの加水分解および縮合重合を促進させ、ゾル溶液を得る工程である。反応工程における混合方法は、ステップS110およびS120の混合方法と同様の方法の他、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、ステップS110およびS120と同様、溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、メタノールあるいはエタノールを溶媒として選択する場合には、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、8〜72時間、特に12〜48時間、さらには18〜36時間が好ましい。
【0037】
(1.d)静置工程(ステップS140)
静置工程は、テトラアルキルオルソシリケートの加水分解および縮合重合を十分に起こすようにするための工程である。静置時の温度は、前述の加水分解および縮合重合を完全ならしめる温度を選択するのが好ましい。例えば、テトラアルキルオルソシリケートとしてテトラメトキシシランを用いる場合には、静置時の温度としては、20〜55℃、さらには、35〜45℃が好ましい。また、静置する時間は、24〜168時間、特に48〜144時間、さらには72〜120時間とするのが好ましい。
【0038】
上記のステップS110〜S140を経て、反応工程(ステップS100)が終了し、コーティング用のゾル溶液が出来上がる。
【0039】
(2)膜形成工程(ステップS200)
(2.a)コーティング工程(ステップS210)
コーティング用のゾル溶液(以後、「コーティング用溶液」という。)を塗布する基板は、特にその材質を問わないが、その後の工程にて250℃以上の温度で加熱することを考慮すると、ガラス、セラミックス、金属などが好ましい。さらに、平滑な基板を用いる必要がある場合には、特に、半導体用のSi基板が好ましい。コーティング工程は、コーティング用溶液を基板上に塗布する工程であり、公知のいずれのコート方法をも採用できる。例えば、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法の他、転写法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの各種印刷法も採用可能である。この実施の形態では、簡便かつ均一な膜厚の膜を形成できるスピンコート法を好適に使用することができる。
【0040】
コーティング工程にてスピンコート法を使用する場合、基板の回転数および回転時間を、所望の膜厚に応じてそれぞれ決定するのが好ましい。例えば、膜厚60〜150nmの膜を形成するためには、60秒回転させる場合には、基板を1000〜5000rpmで回転するのが好ましい。また、膜厚は、コーティング用溶液中の溶媒の種類や液温および溶液の粘度により変化しやすい。例えば、基板を60秒回転させて膜厚60〜150nmの膜を形成するためには、溶媒にメタノールを用いた場合、エタノールを用いた場合には、それぞれ1800〜2300rpmおよび2100〜2800rpmで基板を回転するのが好ましい。その際の溶液の温度は10〜30℃が好ましく、その際の溶液の粘度は2.0〜3.0mPa・sであることが好ましい。
【0041】
(2.b)乾燥工程(ステップS220)
乾燥工程は、膜中の溶媒および水を低減する工程であり、スピンコートにより得られた膜の状態に応じて、乾燥温度および乾燥時間を決定するのが好ましい。なるべく、低温で長時間乾燥する方が好ましい傾向がある。標準的な乾燥温度と乾燥時間を例示すれば、15〜35℃、好ましくは20〜28℃にて、12〜48時間、好ましくは18〜36時間、乾燥する。
【0042】
(3)洗浄工程(ステップS300)
洗浄工程は、基板に形成された膜を水で洗浄し、膜内の有機物等を除去する工程および、膜の硬度を向上させる工程である。水温は、0℃以上であれば良いが、40〜95℃、特に70〜90℃、さらには75〜85℃の範囲が好ましい。洗浄効果を高め、かつ膜の剥離若しくは破壊を有効に防ぐことができるからである。洗浄は、ディッピング、シャワー、流水式等のいかなる方法も採用できる。この実施の形態では、簡便かつ洗浄効果の高いディッピングを採用するのが好ましい。洗浄時間は、30〜240分、特に60〜180分、さらには90〜150分が好ましい。
【0043】
(4)加熱工程(ステップS400)
加熱方法は、基板に形成された膜の内部に含まれる水等を除去する工程および膜の硬度を向上させる工程である。加熱する温度に応じて、乾燥機、電熱炉等を適宜選択できる。加熱温度は、250〜800℃、特に300〜700℃の範囲で、より低温とするのが好ましい。ただし、1−プロパノールを溶媒に用いる場合には、700〜800℃で加熱するのが好ましい。膜の硬度を高める必要からである。加熱時間は、吸着水および残存する有機物をできるだけ除去するのに十分な時間であれば特に限定されるものではないが、例示するならば、15〜240分、特に30〜180分、さらには60〜150分が好ましい。
【0044】
以上、図2に基づく各工程のフローについて説明したが、第一の製造方法は、図2に示すフローに限定されるものではなく、図1に示す各工程を有していればよい。例えば、第一の混合工程(ステップS110)と第二の混合工程(ステップS120)を行わずに、その代わりに、テトラアルキルオルソシリケート、溶媒、ヒドロキシケトン誘導体および水を全て混合する一つの工程を導入しても良い。また、2つの混合工程を行う場合であっても、上述の第一の混合工程(ステップS110)および第二の混合工程(ステップS120)における各混合対象を変えることもできる。例えば、第二の混合工程(ステップS120)において、ヒドロキシケトン誘導体と水のみを混合しても良い。さらに、第三の混合工程を導入しても良い。また、静置工程(ステップS140)を行わずに、反応工程(ステップS130)に続いてコーティング工程(ステップS210)を行うようにしても良い。乾燥工程(ステップS220)は、必須の工程ではなく、短時間で自然乾燥する状況であれば、コーティング工程(ステップS210)に続いて洗浄工程(ステップS300)を行うようにしても良い。
【0045】
2.2 第二の製造方法
図3は、本実施の形態に係る多孔質シリカ膜の製造方法の一例(第二の製造方法)の大まかな流れを示すフローチャートである。
【0046】
図3に示すように、多孔質シリカ膜の第二の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程(ステップS100)と、上記反応工程(ステップS100)によって得られる溶液(コーティング用溶液)を基板に供給して膜を形成する膜形成工程(ステップS200)と、上記膜形成工程(ステップS200)後に、形成した膜を80℃以上の水に接触させて当該膜を洗浄する洗浄工程(ステップS300)と、脱水性の溶媒に上記膜を接触せしめる脱水工程(ステップS500)と、上記膜を加熱する加熱工程(ステップS600)と、を含む。
【0047】
図4は、図3に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0048】
多孔質シリカ膜の第二の製造方法は、テトラアルキルオルソシリケートと溶媒とを混合する第一の混合工程(ステップS110)と、ヒドロキシケトン誘導体、水および溶媒とを混合する第二の混合工程(ステップS120)と、第一の混合工程(ステップS110)により作製したテトラアルキルオルソシリケート溶液と第二の混合工程(ステップS120)により作製したヒドロキシケトン誘導体溶液とを混合して両溶液を反応させる反応工程(ステップS130)と、当該反応工程(ステップS130)後に、反応後の溶液を静置する静置工程(ステップS140)と、当該静置工程(ステップS140)後のコーティング用溶液を基板にコーティングするコーティング工程(ステップS210)と、当該コーティング工程(ステップS210)後の膜を乾燥する乾燥工程(ステップS220)と、前述の洗浄工程(ステップS300)と、前述の脱水性溶媒と接触させる脱水工程(ステップS500)と、前述の加熱工程(ステップS600)と、を含む。第一の混合工程(ステップS110)、第二の混合工程(ステップS120)、反応工程(ステップS130)および静置工程(ステップS140)は、図3に示す反応工程(ステップS100)を具体的に細分化した工程である。コーティング工程(ステップS210)および乾燥工程(ステップS220)は、図3に示す膜形成工程(ステップS200)を具体的に細分化した工程である。
【0049】
次に、図4に示すフローチャートに基づいて、各工程の詳細を説明する。ただし、ステップS110〜ステップS220までの各工程は、図2に基づいて説明した第一の製造方法の同番号の各ステップと共通するので、これらの工程の説明の大部分を省略し、ステップS500以降の各ステップについて、主に説明する。
【0050】
(1)反応工程(ステップS100)
第一の製造方法における反応工程(ステップS100)と同じ内容である。
【0051】
(2)膜形成工程(ステップS200)
次の工程である加熱工程にて100℃以下で加熱する場合において、基板として樹脂製の基板を用いることができる点のみが第一の製造方法と異なり、その他は第一の製造方法と同じ内容である。
【0052】
(3)洗浄工程(ステップS300)
第一の製造方法における洗浄工程(ステップS300)と同じ内容である。
【0053】
(4)脱水工程(ステップS500)
脱水性溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類の他、アセトン、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類が好ましい。この実施の形態では、特に、アセトン、エタノールあるいはアセトニトリルを特に好適に使用できる。脱水性溶媒と接触させる部分は、基板も含めた全体、または基板にコートした膜の表面だけでも良い。接触時間は、特に限定されないが、例示するならば、6〜42時間、特に12〜36時間、さらには18〜30時間が好ましい。脱水性溶媒の温度は、それ自体が激しく揮発しない程度の温度であれば、特に限定されないが、10〜30℃の範囲が好ましい。脱水性溶媒と膜の接触方法は、公知のいかなる方法でも良く、この実施の形態では、脱水性溶媒に膜付きの基板全体を浸漬させる方法を好適に用いることができる。
【0054】
(5)加熱工程(ステップS600)
加熱方法は、加熱する温度に応じて、乾燥機、電熱炉等を選択できる。加熱温度は、用いる基板が変性しない程度の温度であり、かつ脱水性有機溶媒が有効に除去できる温度が好ましい。加熱時間は、有機物をできるだけ除去するのに十分な時間であれば特に限定されるものではないが、例示するならば、15〜240分、特に、30〜180分、さらには60〜150分が好ましい。
【0055】
以上、図4に基づく各工程のフローについて説明したが、第二の製造方法は、図4に示すフローに限定されるものではなく、図3に示す各工程を有していればよい。例えば、第一の製造方法と同様、第一の混合工程(ステップS110)と第二の混合工程(ステップS120)を変更しても良い。また、第一の製造方法と同様、静置工程(ステップS140)を行わずに、反応工程(ステップS130)に続いてコーティング工程(ステップS210)を行うようにしても良い。乾燥工程(ステップS220)は、必須の工程ではない。
【実施例】
【0056】
1.洗浄処理の効果検討
1.1 実験方法
(1)コーティング用溶液の作製
50mLビーカー(ビーカーA)に、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS)0.0125モルおよびメタノール10mLを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌は、攪拌子を投入し、KOMET社製の攪拌機(型式:VARIOMAG POLY15)を用いた。一方、別の50mLビーカー(ビーカーB)に、ヒドロキシアセトン(Hydroxyacetone: HA)0.0125モルとイオン交換水1.125mLとメタノール10mLを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用いた。別の50mLビーカー(ビーカーC)を用意し、各ビーカーA,Bの攪拌後の内容物を投入し、25℃で約24時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用いた。その後、ビーカーCの内容物の攪拌を停止し、40℃にて96時間、ビーカーCを静置した。この一連の処理を経て、コーティング用溶液の作製を完了した。
【0057】
(2)多孔質シリカ膜の作製
次に、縦25.4mm×横25.4mm×厚さ1mmの角形のシリコン基板を用意すると共に、MIKASA社製のスピンコータ(型式:SPINCOATER 1H−D7)の回転板にそのシリコン基板を固定した。シリコン基板の回転数が2000rpmになるようにスピンコータの回転数をセットし、回転板の回転を始動した。回転しているシリコン基板上に、コーティング用溶液を、60秒間供給してシリコン基板の表面に膜を形成し、その後、回転板の回転を停止させた。次に、表面に膜を形成したシリコン基板を、25℃で、約24時間、乾燥させた。次に、100mLビーカー(ビーカーD)に乾燥後のシリコン基板を入れて約20℃のイオン交換水を入れた。それをウォーターバスに設置し、80℃に加熱、保持した状態とし、2時間静置することによって、膜の洗浄処理を行った。洗浄処理の間、シリコン基板表面の膜は完全にイオン交換水中に存在するようにした。洗浄後、ビーカーDからシリコン基板を取り出し、200℃にて加熱した(実験例1)。同様に、洗浄後の複数のシリコン基板を、300℃(実験例2)、400℃(実験例3)、500℃(実験例4)、600℃(実験例5)、700℃(実験例6)および800℃(実験例7)の各温度にて2時間加熱した。加熱は、シリコン基板を電熱炉に設置し、目的の温度まで10℃/minの速度で昇温し、各温度で2時間保持することにより行った。また、比較のため、シリコン基板表面の膜の洗浄処理を行わずに、300℃にて加熱したサンプルも用意した(実験例8)。この一連の処理を経て、多孔質シリカ膜の作製を完了した。
【0058】
次に、コーティング用溶液の作製工程に使用する溶媒として、メタノールに代えてエタノールを用い、前述の各工程を経て、シリコン基板上に多孔質シリカ膜を形成した。ただし、エタノールを溶媒に用いた場合には、膜形成工程において、シリコン基板の回転数が2500rpmになるようにスピンコータの回転数をセットした。その他の条件は、メタノールを溶媒に用いた場合と同様の条件とした。シリコン基板を洗浄処理した後の加熱温度は、200℃(実験例9)、300℃(実験例10)、400℃(実験例11)、500℃(実験例12)、600℃(実験例13)、700℃(実験例14)および800℃(実験例15)の7種とした。
【0059】
また、コーティング用溶液の作製工程に使用する溶媒として1−プロパノールを用い、前述の各工程を経て、シリコン基板上に多孔質シリカ膜を形成した。ただし、1−プロパノールを溶媒に用いた場合には、膜形成工程において、シリコン基板の回転数が3000rpmになるようにスピンコータの回転数をセットした。その他の条件は、メタノールあるいはエタノールを溶媒に用いた場合と同様の条件とした。シリコン基板を洗浄処理した後の加熱温度は、200℃(実験例16)、300℃(実験例17)、400℃(実験例18)、500℃(実験例19)、600℃(実験例20)、700℃(実験例21)および800℃(実験例22)の7種とした。
【0060】
1.2 分析方法
基板上に形成した多孔質シリカ膜の屈折率は、株式会社堀場ジョバンイボン製の分光エリプソメータ(型式:UVISEL M200−VIS−AGMS−SD)を用いて測定した。屈折率は、Xeランプ光源からの光を入射角75度にて照射する条件にて測定した(波長は可変)。代表的な屈折率は、波長655nmの光を照射して測定したときの値とした。
【0061】
多孔質シリカ膜の硬度は、鉛筆硬度測定法(JIS K5600−5−4)に基づいて測定した。測定に用いた鉛筆硬度測定計は、株式会社安田精機製作所製(No.553−S)とした。
【0062】
多孔質シリカ膜の比表面積および細孔容積の各測定には、マイクロメリティクス・インスツルメント・コーポレーション製の窒素吸脱着測定装置(型式:ASAP2010)を用いた。
【0063】
多孔質シリカ膜の昇温時の重量変化および吸熱・発熱反応の評価には、株式会社理学製の示差走査熱重量分析装置(型式:Thermoplus TG−8120)を用いた。重量変化の測定条件は、昇温速度5℃/min、純空気(Pure−Air)雰囲気とした。
【0064】
多孔質シリカ膜の表面および断面の各形態の観察には、株式会社日立製作所製の高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡(HRFE-SEM、型式:S−5000)およびセイコーインスツルメント株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(SPM、型式:SPM400)を用いた。HRFE−SEMによる観察は、膜の表面にPt−Pd蒸着をしてから行った。また、SPMによる観察は、走査範囲を20ミクロン×20ミクロンの領域とし、タッピングモードにて行った。
【0065】
各温度で加熱後の多孔質シリカ膜を構成する物質の推定は、コーティング用溶液を乾燥して得られた粉末を各温度で加熱し、加熱後の赤外吸収スペクトルを分析することにより行った。分析装置には、パーキンエルマー社製のSPECTRUM ONE(A)を用いた。
【0066】
1.3 実験結果
図5および図6に、実験例2にて作製した多孔質シリカ膜の表面および断面の各SEM写真を示す。また、図7に実験例2にて作製した多孔質シリカ膜の20ミクロン×20ミクロンの領域のSPM像を、図8に図7に示すSPM像の特定断面像を示す。図8では、下側の凹凸領域が膜断面であり、横軸が長さ方向(μm)を、縦軸が高さ方向(nm)を、それぞれ示す。
【0067】
図5〜図8に示すように、多孔質シリカ膜は、その表面が極めて平滑であることがわかった。SPMを用いた測定によると、多孔質シリカ膜の平均表面粗さ(Ra)は1.4nm、最大高低差(Rmax)は5nmであった。また、図6に示すように、この多孔質シリカ膜の膜厚は、90〜100nmであった。このように、この多孔質シリカ膜は、非常に平滑であり(最大高低差は膜厚の5%以下である)、表面での光の散乱は生じにくいものと考えられる。
【0068】
図9および図10に、それぞれ、実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)および実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)の各TG−DTAチャートを示す。各図の横軸は温度(℃)を、左縦軸は重量変化(%)を、右縦軸は熱流量(μV)を、それぞれ示す。
【0069】
実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)は、図9に示すように、室温から100℃までの間に大きく重量減少があり、その後、600℃まで昇温しても大きな重量減少および発熱は見られなかった。一方、実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)は、図10に示すように、室温から400℃までの昇温中に重量が徐々に減少し、400〜600℃になると大きな重量減少がない状態になった。170℃前後、250℃前後および420℃前後の発熱部分は、それぞれ、HAの酸化、CH3Oの酸化脱離およびCの酸化脱離によるものと考えられる。これらの結果から、水を用いて膜の洗浄処理を行う工程を経ることにより、膜内の有機物等を有効に除去できると考えられる。
【0070】
図11に、実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)および実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示す。また、表1に、波長655nmの入射光を用いて測定したときの各膜の屈折率を比較して示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1および図11の結果に示すように、洗浄を行った多孔質シリカ膜(実験例2)の屈折率は、洗浄を行わなかった多孔質シリカ膜(実験例8)の屈折率よりも低かった。この結果から、洗浄工程を経ることにより、屈折率のより低い多孔質シリカ膜が得られることがわかった。
【0073】
図12に、各種溶媒(メタノール、エタノールおよび1−プロパノール)を用いて作製した各多孔質シリカ膜(実験例2、実験例10および実験例17)の窒素吸脱着等温線を示す。図12の横軸は相対圧を、縦軸は吸着量(cm3/g)を、それぞれ示す。
【0074】
図12に示すように、メタノールを溶媒に用いた実験例2の膜およびエタノールを溶媒に用いた実験例10の膜は、いずれも、相対圧0.3以上で飽和吸着しているI型の吸脱着等温線を示した。この型の場合、窒素分子がラングミュア(Langmuir)吸着(単層での吸着)していると判断できる。一方、1−プロパノールを溶媒に用いた実験例17の膜は、IV型の吸脱着等温線を示した。この型の場合、窒素分子が多層で吸着していると判断できる。
【0075】
図13および図14は、実験例2、実験例10および実験例17にて作製した各多孔質シリカ膜について、それぞれ、MP法およびBJH法により求めた細孔径の分布を示す図である。各図の横軸は細孔径(nm)を、縦軸は細孔容積(cm3/g)を、それぞれ示す。
【0076】
ここで、MP法およびBJH法について簡単に説明する。MP法は、窒素吸脱着等温線がI型である場合に適する細孔径算出法であり、図12の実験例2(溶媒:メタノール)および実験例10(溶媒:エタノール)にてそれぞれ作製した多孔質シリカ膜の細孔径を求めるのに有効である。MP法は、得られた窒素吸脱着等温線からラングミュア法によって相対圧(P/P0)をx座標とし、(P/P0)/Vをy座標とする点をx−y平面上にプロットし、各プロットした点を通る最近接線(直線)の切片と傾きを求め、当該切片と当該傾きから細孔の容積および面積を求める方法である。
【0077】
一方、BJH法は、窒素分子が多層吸着して細孔を満たしていると仮定して細孔径を算出する方法であり、図12の実験例17(溶媒:1−プロパノール)のようにIV型の窒素吸脱着等温線を示す多孔質シリカ膜の細孔径を求めるのに有効である。BJH法は、得られた窒素吸脱着等温線からBET法によって相対圧(P/P0)をx座標とし、(P/P0)/Vをy座標とする点をx−y平面上にプロットし、各プロットした点を通る最近接線(直線)の切片と傾きを求め、当該切片と当該傾きから細孔の容積および面積を求める方法である。すなわち、ラングミュア法ではなく、BET法によりプロットする点で、BJH法はMP法と異なる。I型の窒素吸脱着等温線を示す実験例2および実験例10にBJH法を適用しても、各プロットした点を通る線の直線性はMP法よりも低く、正確な細孔径は得にくい。同様に、IV型の窒素吸脱着等温線を示す実験例17にMP法を適用しても、各点を通る線の直線性はBJH法よりも低く、正確な細孔径は得にくい。すなわち、I型にはMP法を、IV型にはBJH法をそれぞれ用いて細孔径を算出するのが適切である。
【0078】
図13および図14に示す細孔径分布から明らかなように、実験例2(溶媒:メタノール)および実験例10(溶媒:エタノール)にてそれぞれ作製した各多孔質シリカ膜の細孔は、ともに、2nm以下の径を有する孔(ミクロ孔という)のみであった。実験例2で得られた細孔の平均径は0.80nm、実験例10で得られた細孔の平均径は0.92nmであった。一方、実験例17(溶媒:1−プロパノール)にて作製した多孔質シリカ膜の細孔は、2nmを超える径を有する孔(メソ孔という)も含んでいた。この結果から、ミクロ孔のみを有する多孔質シリカ膜を作製するためのコーティング用溶液の調製には、メタノールあるいはエタノールの方が適していると考えられる。
【0079】
図15に、各種溶媒を用いたコーティング用溶液から作製した各多孔質シリカ膜(実験例1〜7、実験例9〜22)の加熱温度と、波長655nmの入射光を用いたときの屈折率との関係を示す。図15では、未加熱の状態の膜(加熱温度25℃に相当)の屈折率もプロットしている。各種溶媒を用いた膜とも、300〜700℃で最も屈折率が低く、1.30であった。いずれの膜でも、200℃以下では、屈折率が未だ十分に低下しないことがわかった。また、溶媒にエタノールおよび1−プロパノールを用いた場合には、800℃において屈折率が1.30であったが、溶媒にメタノールを用いた場合には、800℃において屈折率が1.34と、前二者の溶媒を用いたものよりも高かった。
【0080】
図16に、メタノールを溶媒として用いたコーティング用溶液を25℃で24時間乾燥して得られた粉末を、80℃のイオン交換水にて2時間洗浄処理を行った後、200℃および300℃でそれぞれ加熱した各粉末の赤外吸収スペクトルのグラフを示す。
【0081】
図16に示すように、加熱温度200℃では、960cm−1のバンドにSi−OHが、1720cm−1のバンドにC=Oが確認されたが、加熱温度300℃では、Si−OHが無くなり、1100cm−1のバンドにSi−O−Siの伸縮振動を示すピークの強度が高くなった。また、C=Oも無くなった。この結果から、加熱温度が200℃から300℃に上がる過程で、水酸基の脱水縮合とHAの酸化脱離が起きていると考えられる。
【0082】
表2に、各種溶媒を用いたコーティング溶液から作製した各多孔質シリカ膜(実験例1〜7、実験例9〜22)の加熱温度と、波長655nmの入射光を用いたときの屈折率および鉛筆硬度の関係を比較して示す。表2では、未加熱の状態の膜(未加熱膜1〜3、加熱温度25℃の欄に記載)の屈折率および鉛筆硬度も示している。
【0083】
【表2】
【0084】
屈折率については、図16に基づいて既に述べたとおりである。鉛筆硬度については、有機物の除去および膜硬度の向上工程である温水での洗浄工程を行ったものの鉛筆硬度が3Hであるのに対し、行わないものはBまたは2Bであった。メタノールあるいはエタノールを溶媒として用いて作製した多孔質シリカ膜は、加熱温度が200〜800℃において鉛筆硬度5H以上の硬度を有していた。一方、1−プロパノールを溶媒として用いて作製した多孔質シリカ膜は、700℃および800℃において鉛筆硬度6H以上の硬度を有していた。しかし、600℃以下の加熱温度で作製した多孔質シリカ膜は、鉛筆硬度4H以下の硬度しかなく、メタノールあるいはエタノールを溶媒に用いたものよりも低い硬度であった。
【0085】
2.脱水性溶媒を用いた脱水処理の効果検討
2.1 実験方法
(1)コーティング用溶液の作製
50mLビーカー(ビーカーA)に、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS)0.0125モルおよびメタノール10mLを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌には、KOMET社製の攪拌機(型式:VARIOMAG POLY15)を用いた。一方、別の50mLビーカー(ビーカーB)に、ヒドロキシアセトン(Hydroxyacetone: HA)0.0125モルとイオン交換水1.125mLとメタノール10mLを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用いた。別の50mLビーカー(ビーカーC)を用意し、各ビーカーA,Bの攪拌後の内容物を投入し、25℃で約24時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用いた。その後、ビーカーCの内容物の攪拌を停止し、40℃にて96時間、ビーカーCを静置した。この一連の処理を経て、コーティング用溶液の作製を完了した。
【0086】
(2)多孔質シリカ膜の作製
次に、縦25.4mm×横25.4mm×厚さ1mmの角形のシリコン基板を用意すると共に、MIKASA社製のスピンコータ(型式:SPINCOATER 1H−D7)の回転板にそのシリコン基板を固定した。シリコン基板の回転数が2000rpmになるようにスピンコータの回転数をセットし、回転板の回転を始動した。回転しているシリコン基板上に、コーティング用溶液を、60秒間供給してシリコン基板表面に膜を形成し、その後、回転板の回転を停止させた。次に、表面に膜を形成したシリコン基板を、25℃で、約24時間、乾燥させた。次に、表面に膜を形成したシリコン基板の80℃の温水による洗浄を2時間行い、25℃で約24時間乾燥した。次に、脱水性溶媒としてアセトンを入れた20mLビーカー(ビーカーD)を用意し、25℃で保持した状態のアセトン中に、シリコン基板を浸漬した。浸漬してから1日後に、シリコン基板をアセトン中から取り出し、100℃にて2時間加熱した。加熱は、100℃に保持した乾燥機にシリコン基板を入れて2時間保持することにより行った(実験例23)。脱水処理の効果を確認するため、比較として、スピンコート後に乾燥して25℃に保持した状態の多孔質シリカ膜付きのシリコン基板(実験例24)およびその乾燥後に100℃で2時間加熱した多孔質シリカ膜付きのシリコン基板(実験例25)も用意した。この一連の処理を経て、多孔質シリカ膜の作製を完了した。
【0087】
さらに、脱水性溶媒として、アセトン以外に、エタノールおよびアセトニトリルを候補に加え、脱水性溶媒の違いによる効果を確認する目的で、表面に膜を形成したシリコン基板を複数用意し、25℃で、約24時間乾燥した後、80℃の温水による洗浄を2時間行い、25℃で約24時間乾燥した。これと併行して、3個のビーカーDを用意し、各ビーカーDに、アセトン、エタノールおよびアセトニトリルをそれぞれ入れた。次に、シリコン基板を、それぞれ、アセトンを入れたビーカーD、エタノールを入れたビーカーDおよびアセトニトリルを入れたビーカーDにそれぞれ入れて浸漬させた。浸漬してから1日後に各シリコンを各ビーカーDから取り出し、80℃にて2時間乾燥した。乾燥は、80℃に保持した乾燥機に、シリコン基板を2時間入れる方法により行った(アセトン浸漬:実験例26、エタノール浸漬:実験例27、アセトニトリル浸漬:実験例28)。
【0088】
また、コーティング用溶液の作製工程に使用する溶媒として、メタノールに代えてエタノールを用い、前述の各工程を経て、シリコン基板上に多孔質シリカ膜を形成した。エタノールを溶媒に用いた場合には、膜形成工程において、シリコン基板の回転数が2500rpmになるようにスピンコータの回転数をセットした。スピンコートにより得られた膜付きのシリコン基板を25℃で約24時間乾燥した後、80℃の温水による洗浄を2時間行い、25℃で約24時間乾燥したものを25℃のエタノール、25℃のアセトンおよび25℃のアセトニトリル中にてそれぞれ脱水処理を行った。脱水処理は、エタノールを入れたビーカーDおよびアセトンを入れたビーカーDを用意し、それぞれのビーカーDに各シリコン基板を浸漬させる方法により行った。浸漬時間は、前述と同じ時間とした。脱水処理の後の各シリコン基板は、それぞれ、80℃で2時間乾燥した(エタノール浸漬:実験例29、アセトン浸漬:実験例30、アセトニトリル浸漬:実施例31)。乾燥は、80℃に保持された乾燥機に各シリコン基板を2時間入れる方法により行った。また、スピンコート後に乾燥して25℃に保持した状態の多孔質シリカ膜付きのシリコン基板(実験例32)およびその乾燥後に200℃で2時間加熱した多孔質シリカ膜付きのシリコン基板(実験例33)も用意した。この一連の処理を経て、多孔質シリカ膜の作製を完了した。
【0089】
2.2 分析方法
分析は、前述の「1.2 分析方法」と同様の方法により行った。
【0090】
2.3 実験結果
図17に、実験例23にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理有り)、実験例24にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理なし)および実験例25にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理なし)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示す。また、表3に、波長655nmの入射光を用いて測定したときの各膜の屈折率を比較して示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3および図17の結果に示すように、脱水処理を行った多孔質シリカ膜(実験例23)の屈折率は、脱水処理を行わなかった多孔質シリカ膜(実験例24および実験例25)の屈折率よりも低かった。この結果から、脱水処理工程を経ることにより、屈折率のより低い多孔質シリカ膜が得られることがわかった。
【0093】
図18に、実験例26〜28にて得られた多孔質シリカ膜(実験例26:アセトンを用いて脱水処理、実験例27:エタノールを用いて脱水処理、実験例28:アセトニトリルを用いて脱水処理)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示す。比較に、実験例25にて得られた膜の屈折率の変化も示す。また、表4に、波長655nmの入射光を用いて測定したときの実験例26〜28にて得られた各膜の屈折率および鉛筆硬度を比較して示す。
【0094】
【表4】
【0095】
表4および図18の結果に示すように、3種のいずれの脱水性溶媒を用いた場合でも低屈折率の多孔質シリカ膜が得られたが、特に、アセトンおよびエタノールを用いた場合の方が、アセトニトリルを用いた場合よりも低い屈折率の膜が得られた。
【0096】
図19に、実験例29にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してエタノールを用いて脱水処理したもの)、実験例30にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してアセトンを用いて脱水処理したもの)、実験例31にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してアセトニトリルを用いて脱水処理したもの)、実験例32にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、25℃で乾燥しただけのもの)および実験例33にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、200℃で乾燥しただけのもの)を測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示す。また、表5に、波長655nmの入射光を用いて測定したときの各膜の屈折率および鉛筆硬度を比較して示す。
【0097】
【表5】
【0098】
表5および図19の結果に示すように、エタノール溶媒を用いてコーティング用溶液を作製した場合でも、前述のメタノール溶媒を使用した場合と同様に、脱水工程を行った膜の方が、当該工程を行わなかった膜に比べて、より低い屈折率を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、例えば、光学機器、ディスプレイ、太陽電池などの反射による光損失や透過光の減少を低減する低屈折率膜として利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリカ膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低屈折率材料は、光学機器、ディスプレイ、太陽電池等において入射光の界面での反射による光損失や、それによる透過光の減少を低減するための反射防止コーティング材料に用いられている。低屈折率材料としては、屈折率約1.38を有するフッ化マグネシウムが良く知られており、反射防止膜として蒸着により成膜されている。
【0003】
近年、反射防止特性のさらなる向上を目的として、より低屈折率の材料が要求されてきており、多孔性のシリカ材料が注目されている(例えば、特許文献1,2参照)。ローレンス−ローレンツによる空隙率および屈折率の関係式によれば、材料の多孔質化によりその材料の屈折率の低下を期待することができる。
【0004】
特許文献1に開示される多孔質化の技術の一つは、コーティング膜に分散させるシリカ無機微粒子として、その内部が多孔質または空洞を有する形態の粒子を用いるというものである。また、特許文献2に開示される多孔質化の技術は、ガラス材料の成形用原料の調製時に細孔形成剤(鋳型)としてポリプロピレングリコール等の有機物質を導入した後、加熱により当該有機物質を揮発または分解させて、細孔を形成するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−265530号公報(段落0050〜段落0053等)
【特許文献2】特開2006−036598号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多孔質の低屈折率材料は、その細孔に大気中の汚れが吸着しやすく屈折率の上昇が起きやすい。当該汚れの吸着を防止するため、封止コーティングを施すこともできるが、その封止コーティング材料が細孔に浸透しやすく、期待されるほどの低屈折率が得られないという問題がある。その問題を解決するために、より空隙率を上げることも考えられるが、空隙率が上昇すると低屈折率材料自体の硬度が低下するので、好ましくない。汚れが吸着するという問題が生じる主な原因は、細孔の径が比較的大きいことにあると考えられる。
【0007】
そこで、より微細な細孔を有する低屈折率の膜を形成する必要があるが、先に紹介した従来の技術によって製造される膜には、次のような問題がある。特許文献1に開示される膜は、多孔質のシリカ粒子を含むため、その粒子による光の散乱が起きやすく、透過率の低下(透明度の低下)が生じやすい。加えて、その粒子が膜と被コーティング材料との界面に露出することにより両者の密着性が低下しやすい。また、特許文献2に開示される膜を製造するためには、その製造過程において有機物質を揮発または分解するために極めて高い温度まで加熱する必要がある。このため、被コーティング材料の熱的劣化が生じやすい。また、細孔の大きさは、有機物質の粒子径およびその揮発若しくは分解の程度によって決まる。有機物質としてナノ粒子を選択したとしても、当該粒子の凝集を防止することは難しいため、微細な細孔で、かつその細孔径が揃った膜を製造することは極めて難しい。
【0008】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、低屈折率でそれを長期に維持可能であり、高硬度でかつ被コーティング材料への膜の密着性に優れる多孔質シリカ膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の多孔質シリカ膜は、膜の表面および内部に存在する細孔が直径2nm以下のミクロ孔のみであって、鉛筆硬度が5H以上である。
【0010】
また、本発明の多孔質シリカ膜は、ミクロ孔の平均直径が1.0nm以下である。
【0011】
また、本発明の多孔質シリカ膜は、分光エリプソメータを用いて波長655nmの光を膜表面に対して入射角75度にて入射させた際の屈折率が1.33以下である。
【0012】
また、本発明の多孔質シリカ膜は、前記屈折率が1.30以下である。
【0013】
また、本発明の多孔質シリカ膜の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程と、上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触させて膜を洗浄する洗浄工程と、上記洗浄工程後に250〜800℃の範囲で加熱する加熱工程とを含む。
【0014】
また、本発明の多孔質シリカ膜の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程と、上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触して膜を洗浄する洗浄工程と、上記洗浄工程後に、脱水性の有機溶媒に上記膜を接触せしめる脱水工程と、上記脱水工程後に25〜200℃の範囲で上記膜を加熱する加熱工程とを含む。
【0015】
また、本発明の多孔質シリカ膜の製造方法は、脱水性の有機溶媒としてエタノール、アセトン、若しくはアセトニトリルを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低屈折率でそれを長期に維持可能であり、高硬度でかつ被コーティング材料への膜の密着性に優れる多孔質シリカ膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施の形態に係る多孔質シリカ膜の製造方法の一例(第一の製造方法)の大まかな流れを示すフローチャートである。
【図2】図2は、図1に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施の形態に係る多孔質シリカ膜の製造方法の一例(第二の製造方法)の大まかな流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、図3に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実験例2にて作製した多孔質シリカ膜の表面のSEM写真である。
【図6】図6は、実験例2にて作製した多孔質シリカ膜の断面のSEM写真である。
【図7】図7は、実験例2にて作製した多孔質シリカ膜のSPM像である。
【図8】図8は、図7に示すSPM像の特定の断面像である。
【図9】図9は、実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)のTG−DTAチャートである。
【図10】図10は、実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)のTG−DTAチャートである。
【図11】図11は、実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)および実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、各種溶媒(メタノール、エタノールおよび1−プロパノール)を用いて作製した各多孔質シリカ膜(実験例2、実験例10および実験例17)の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【図13】図13は、実験例2および実験例10にて作製した各多孔質シリカ膜について、MP法により求めた細孔径の分布を示す図である。
【図14】図14は、実験例17にて作製した多孔質シリカ膜について、BJH法により求めた細孔径の分布を示す図である。
【図15】図15は、各種溶媒を用いたコーティング溶液から作製した各多孔質シリカ膜(実験例1〜7、実験例9〜22)の加熱温度と、波長655nmの入射光を用いたときの屈折率との関係を示すグラフである。
【図16】図16は、メタノールを溶媒として用いたコーティング用溶液を25℃で24時間乾燥して得られた粉末を、80℃のイオン交換水にて2時間洗浄処理を行った後、200℃および300℃でそれぞれ加熱した各粉末の赤外吸収スペクトルのグラフである。
【図17】図17は、実験例23にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理有り)、実験例24にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理なし)および実験例25にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理なし)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図18】図18は、実験例26〜28にて得られた多孔質シリカ膜(実験例26:アセトンを用いて脱水処理、実験例27:エタノールを用いて脱水処理、実験例28:アセトニトリルを用いて脱水処理)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図19】図19は、実験例29にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してエタノールを用いて脱水処理したもの)、実験例30にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してアセトンを用いて脱水処理したもの)、実験例31にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してアセトニトリルを用いて脱水処理したもの)、実験例32にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、25℃で乾燥しただけのもの)および実験例33にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、200℃で乾燥しただけのもの)を測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の多孔質シリカ膜およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0019】
1.多孔質シリカ膜
本実施の形態に係る多孔質シリカ膜は、膜の表面および内部に存在する細孔が直径2nm以下のミクロ孔のみであって、鉛筆硬度が5H以上であるシリカの膜である。ここで、「シリカ膜」とは、シリカを主成分とする膜若しくは膜の積層体をいい、シリカ以外の副成分の種類や各副成分の割合、膜の厚さの大小は問わない。また、「直径」は、当該細孔の開口面を、その面積と同じ面積の円に換算したときの直径を意味する。また、「鉛筆硬度」は、JIS K5600−5−4にしたがって測定される硬度をいう。「ミクロ孔」は、直径2nm以下の孔をいう。多孔質シリカ膜に分散する多数のミクロ孔の平均直径は、1.0nm以下であるのが好ましい。
【0020】
本実施の形態に係る多孔質シリカ膜において、分光エリプソメータを用いて波長655nmの光を膜表面に対して入射角75度にて入射させた際の屈折率は、1.33以下であるのが好ましく、特に1.30以下であるのが好ましく、さらには、1.25以下であるのが好ましい。波長655nmの光の光源は、好適には、Xeランプ光源である。
【0021】
2.多孔質シリカ膜の製造方法
【0022】
2.1 第一の製造方法
図1は、本実施の形態に係る多孔質シリカ膜の製造方法の一例(第一の製造方法)の大まかな流れを示すフローチャートである。
【0023】
図1に示すように、多孔質シリカ膜の第一の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程(ステップS100)と、上記反応工程(ステップS100)によって得られる溶液(コーティング用溶液)を基板に供給して膜を形成する膜形成工程(ステップS200)と、上記膜形成工程(ステップS200)によって得られる膜を80℃以上の水に接触させて当該膜を洗浄する洗浄工程(ステップS300)と、上記洗浄工程(ステップS300)後に250〜800℃の範囲で加熱する加熱工程(ステップS400)と、を含む。
【0024】
図2は、図1に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0025】
多孔質シリカ膜の第一の製造方法は、テトラアルキルオルソシリケートと溶媒とを混合する第一の混合工程(ステップS110)と、ヒドロキシケトン誘導体、水および溶媒とを混合する第二の混合工程(ステップS120)と、第一の混合工程(ステップS110)により作製したテトラアルキルオルソシリケート溶液と第二の混合工程(ステップS120)により作製したヒドロキシケトン誘導体溶液とを混合して両溶液を反応させる反応工程(ステップS130)と、当該反応工程(ステップS130)後に、反応後の溶液を静置する静置工程(ステップS140)と、当該静置工程(ステップS140)後のコーティング用溶液を基板にコーティングするコーティング工程(ステップS210)と、当該コーティング工程(ステップS210)後の膜を乾燥する乾燥工程(ステップS220)と、前述の洗浄工程(ステップS300)と、前述の加熱工程(ステップS400)と、を含む。第一の混合工程(ステップS110)、第二の混合工程(ステップS120)、反応工程(ステップS130)および静置工程(ステップS140)は、図1に示す反応工程(ステップS100)を具体的に細分化した工程である。コーティング工程(ステップS210)および乾燥工程(ステップS220)は、図1に示す膜形成工程(ステップS200)を具体的に細分化した工程である。
【0026】
次に、図2に示すフローチャートに基づいて、各工程の詳細を説明する。
【0027】
(1)反応工程(ステップS100)
(1.a)第一の混合工程(ステップS110)
混合対象のテトラアルキルオルソシリケートは、一般式がSi(OR)4で表わされるシラン化合物である(式中のORは、アルコキシ基である)。アルコキシ基としては、直鎖、分岐及び環状のいずれの官能基であっても良く、炭素数は、1〜20、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜4である。テトラアルキルオルソシリケートとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等を挙げることができる。これらのテトラアルキルオルソシリケートの内で、好適には、テトラメチルオルソシリケート(テトラメトキシシラン)を用いることができる。また、これらのテトラアルキルオルソシリケートの内の1種のみ、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
テトラアルキルオルソシリケートと混合する溶媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;エチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールアセテートなどのアセテート類;トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの芳香族あるいは脂肪族炭化水素のほか、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。上記溶媒としては、上記の一種のみを、あるいは上記の2種以上を混合したものを用いても良い。この実施の形態では、比較的低温にてミクロ孔から成る高硬度の低屈折率膜を得やすいメタノールあるいはエタノールを用いるのがより好ましい。
【0029】
上記溶媒の量は、ステップS110およびS120にて用いられる各溶媒の総量に対してテトラアルキルオルソシリケートが0.2〜1.0mol/Lとなるような量が好ましく、特に0.3〜0.7mol/Lとなるような量が好ましく、さらには0.4〜0.6mol/Lになるような量が好ましい。例えば、ステップS110とステップS120で、同じ量の溶媒を用いる場合、ステップS110において用いる溶媒の量を、テトラアルキルオルソシリケートが0.4〜2.0mol/Lとなるような量、特に0.6〜1.4mol/Lとなるような量、さらには0.8〜1.2mol/Lになるような量とするのが好ましい。
【0030】
溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合方法は、攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、容器に入れた溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合溶液を掻き混ぜる方法、容器に入れた前述の混合溶液内に攪拌子を入れて当該容器をマグネチックスターラー上に載せて攪拌子を回転させる方法、前述の混合溶液を入れた容器を、水を入れた超音波振動機内に漬けて振動攪拌させる方法などを採用することができる。ただし、溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合方法は、前述の例示に限定されず、公知のいかなる混合方法をも含む。
【0031】
混合時の温度は、溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、メタノールあるいはエタノールを溶媒として選択する場合には、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0032】
(1.b)第二の混合工程(ステップS120)
ヒドロキシケトン誘導体としては、ヒドロキシアセトン、アセトイン、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン、およびフルクトースなどを使用でき、特に、ヒドロキシアセトンが好ましい。ヒドロキシケトン誘導体は、テトラアルキルオルソシリケート1モルに対して、0.3〜3.0モル、特に0.5〜2.0モル、さらには0.8〜1.2モルの範囲とするのが好ましい。
【0033】
溶媒は、ステップS110で用いられる溶媒と同様のものを使用することができる。ステップS120で用いられる溶媒は、ステップS110で用いられる溶媒と異なる種類の溶媒であっても良いが、ステップS110で用いられる溶媒と同種の溶媒であるのが好ましい。溶媒の量は、既述のように、ステップS110およびS120にて用いられる各溶媒の総量に対してテトラアルキルオルソシリケートが0.2〜1.0mol/Lとなるような量が好ましく、特に0.3〜0.7mol/Lとなるような量が好ましく、さらには0.4〜0.6mol/Lになるような量が好ましい。
【0034】
水は、不純物(水素イオン、水酸イオン以外のイオンなども不純物に含まれる)の少ないイオン交換水であるのが好ましい。水の量は、テトラアルキルオルソシリケートあるいはヒドロキシケトン誘導体1モルに対して2〜10モル、特に3〜7モル、さらには4〜6モルの範囲とするのが好ましい。
【0035】
溶媒、水およびヒドロキシケトン誘導体の混合方法は、ステップS110の混合方法と同様の方法の他、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、メタノールあるいはエタノールを溶媒として選択する場合には、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0036】
(1.c)反応工程(ステップS130)
反応工程は、ステップS110にて混合した溶液とステップS120にて混合した溶液とを混合して、テトラアルキルオルソシリケートの加水分解および縮合重合を促進させ、ゾル溶液を得る工程である。反応工程における混合方法は、ステップS110およびS120の混合方法と同様の方法の他、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、ステップS110およびS120と同様、溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、メタノールあるいはエタノールを溶媒として選択する場合には、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、8〜72時間、特に12〜48時間、さらには18〜36時間が好ましい。
【0037】
(1.d)静置工程(ステップS140)
静置工程は、テトラアルキルオルソシリケートの加水分解および縮合重合を十分に起こすようにするための工程である。静置時の温度は、前述の加水分解および縮合重合を完全ならしめる温度を選択するのが好ましい。例えば、テトラアルキルオルソシリケートとしてテトラメトキシシランを用いる場合には、静置時の温度としては、20〜55℃、さらには、35〜45℃が好ましい。また、静置する時間は、24〜168時間、特に48〜144時間、さらには72〜120時間とするのが好ましい。
【0038】
上記のステップS110〜S140を経て、反応工程(ステップS100)が終了し、コーティング用のゾル溶液が出来上がる。
【0039】
(2)膜形成工程(ステップS200)
(2.a)コーティング工程(ステップS210)
コーティング用のゾル溶液(以後、「コーティング用溶液」という。)を塗布する基板は、特にその材質を問わないが、その後の工程にて250℃以上の温度で加熱することを考慮すると、ガラス、セラミックス、金属などが好ましい。さらに、平滑な基板を用いる必要がある場合には、特に、半導体用のSi基板が好ましい。コーティング工程は、コーティング用溶液を基板上に塗布する工程であり、公知のいずれのコート方法をも採用できる。例えば、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法の他、転写法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの各種印刷法も採用可能である。この実施の形態では、簡便かつ均一な膜厚の膜を形成できるスピンコート法を好適に使用することができる。
【0040】
コーティング工程にてスピンコート法を使用する場合、基板の回転数および回転時間を、所望の膜厚に応じてそれぞれ決定するのが好ましい。例えば、膜厚60〜150nmの膜を形成するためには、60秒回転させる場合には、基板を1000〜5000rpmで回転するのが好ましい。また、膜厚は、コーティング用溶液中の溶媒の種類や液温および溶液の粘度により変化しやすい。例えば、基板を60秒回転させて膜厚60〜150nmの膜を形成するためには、溶媒にメタノールを用いた場合、エタノールを用いた場合には、それぞれ1800〜2300rpmおよび2100〜2800rpmで基板を回転するのが好ましい。その際の溶液の温度は10〜30℃が好ましく、その際の溶液の粘度は2.0〜3.0mPa・sであることが好ましい。
【0041】
(2.b)乾燥工程(ステップS220)
乾燥工程は、膜中の溶媒および水を低減する工程であり、スピンコートにより得られた膜の状態に応じて、乾燥温度および乾燥時間を決定するのが好ましい。なるべく、低温で長時間乾燥する方が好ましい傾向がある。標準的な乾燥温度と乾燥時間を例示すれば、15〜35℃、好ましくは20〜28℃にて、12〜48時間、好ましくは18〜36時間、乾燥する。
【0042】
(3)洗浄工程(ステップS300)
洗浄工程は、基板に形成された膜を水で洗浄し、膜内の有機物等を除去する工程および、膜の硬度を向上させる工程である。水温は、0℃以上であれば良いが、40〜95℃、特に70〜90℃、さらには75〜85℃の範囲が好ましい。洗浄効果を高め、かつ膜の剥離若しくは破壊を有効に防ぐことができるからである。洗浄は、ディッピング、シャワー、流水式等のいかなる方法も採用できる。この実施の形態では、簡便かつ洗浄効果の高いディッピングを採用するのが好ましい。洗浄時間は、30〜240分、特に60〜180分、さらには90〜150分が好ましい。
【0043】
(4)加熱工程(ステップS400)
加熱方法は、基板に形成された膜の内部に含まれる水等を除去する工程および膜の硬度を向上させる工程である。加熱する温度に応じて、乾燥機、電熱炉等を適宜選択できる。加熱温度は、250〜800℃、特に300〜700℃の範囲で、より低温とするのが好ましい。ただし、1−プロパノールを溶媒に用いる場合には、700〜800℃で加熱するのが好ましい。膜の硬度を高める必要からである。加熱時間は、吸着水および残存する有機物をできるだけ除去するのに十分な時間であれば特に限定されるものではないが、例示するならば、15〜240分、特に30〜180分、さらには60〜150分が好ましい。
【0044】
以上、図2に基づく各工程のフローについて説明したが、第一の製造方法は、図2に示すフローに限定されるものではなく、図1に示す各工程を有していればよい。例えば、第一の混合工程(ステップS110)と第二の混合工程(ステップS120)を行わずに、その代わりに、テトラアルキルオルソシリケート、溶媒、ヒドロキシケトン誘導体および水を全て混合する一つの工程を導入しても良い。また、2つの混合工程を行う場合であっても、上述の第一の混合工程(ステップS110)および第二の混合工程(ステップS120)における各混合対象を変えることもできる。例えば、第二の混合工程(ステップS120)において、ヒドロキシケトン誘導体と水のみを混合しても良い。さらに、第三の混合工程を導入しても良い。また、静置工程(ステップS140)を行わずに、反応工程(ステップS130)に続いてコーティング工程(ステップS210)を行うようにしても良い。乾燥工程(ステップS220)は、必須の工程ではなく、短時間で自然乾燥する状況であれば、コーティング工程(ステップS210)に続いて洗浄工程(ステップS300)を行うようにしても良い。
【0045】
2.2 第二の製造方法
図3は、本実施の形態に係る多孔質シリカ膜の製造方法の一例(第二の製造方法)の大まかな流れを示すフローチャートである。
【0046】
図3に示すように、多孔質シリカ膜の第二の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程(ステップS100)と、上記反応工程(ステップS100)によって得られる溶液(コーティング用溶液)を基板に供給して膜を形成する膜形成工程(ステップS200)と、上記膜形成工程(ステップS200)後に、形成した膜を80℃以上の水に接触させて当該膜を洗浄する洗浄工程(ステップS300)と、脱水性の溶媒に上記膜を接触せしめる脱水工程(ステップS500)と、上記膜を加熱する加熱工程(ステップS600)と、を含む。
【0047】
図4は、図3に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0048】
多孔質シリカ膜の第二の製造方法は、テトラアルキルオルソシリケートと溶媒とを混合する第一の混合工程(ステップS110)と、ヒドロキシケトン誘導体、水および溶媒とを混合する第二の混合工程(ステップS120)と、第一の混合工程(ステップS110)により作製したテトラアルキルオルソシリケート溶液と第二の混合工程(ステップS120)により作製したヒドロキシケトン誘導体溶液とを混合して両溶液を反応させる反応工程(ステップS130)と、当該反応工程(ステップS130)後に、反応後の溶液を静置する静置工程(ステップS140)と、当該静置工程(ステップS140)後のコーティング用溶液を基板にコーティングするコーティング工程(ステップS210)と、当該コーティング工程(ステップS210)後の膜を乾燥する乾燥工程(ステップS220)と、前述の洗浄工程(ステップS300)と、前述の脱水性溶媒と接触させる脱水工程(ステップS500)と、前述の加熱工程(ステップS600)と、を含む。第一の混合工程(ステップS110)、第二の混合工程(ステップS120)、反応工程(ステップS130)および静置工程(ステップS140)は、図3に示す反応工程(ステップS100)を具体的に細分化した工程である。コーティング工程(ステップS210)および乾燥工程(ステップS220)は、図3に示す膜形成工程(ステップS200)を具体的に細分化した工程である。
【0049】
次に、図4に示すフローチャートに基づいて、各工程の詳細を説明する。ただし、ステップS110〜ステップS220までの各工程は、図2に基づいて説明した第一の製造方法の同番号の各ステップと共通するので、これらの工程の説明の大部分を省略し、ステップS500以降の各ステップについて、主に説明する。
【0050】
(1)反応工程(ステップS100)
第一の製造方法における反応工程(ステップS100)と同じ内容である。
【0051】
(2)膜形成工程(ステップS200)
次の工程である加熱工程にて100℃以下で加熱する場合において、基板として樹脂製の基板を用いることができる点のみが第一の製造方法と異なり、その他は第一の製造方法と同じ内容である。
【0052】
(3)洗浄工程(ステップS300)
第一の製造方法における洗浄工程(ステップS300)と同じ内容である。
【0053】
(4)脱水工程(ステップS500)
脱水性溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類の他、アセトン、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類が好ましい。この実施の形態では、特に、アセトン、エタノールあるいはアセトニトリルを特に好適に使用できる。脱水性溶媒と接触させる部分は、基板も含めた全体、または基板にコートした膜の表面だけでも良い。接触時間は、特に限定されないが、例示するならば、6〜42時間、特に12〜36時間、さらには18〜30時間が好ましい。脱水性溶媒の温度は、それ自体が激しく揮発しない程度の温度であれば、特に限定されないが、10〜30℃の範囲が好ましい。脱水性溶媒と膜の接触方法は、公知のいかなる方法でも良く、この実施の形態では、脱水性溶媒に膜付きの基板全体を浸漬させる方法を好適に用いることができる。
【0054】
(5)加熱工程(ステップS600)
加熱方法は、加熱する温度に応じて、乾燥機、電熱炉等を選択できる。加熱温度は、用いる基板が変性しない程度の温度であり、かつ脱水性有機溶媒が有効に除去できる温度が好ましい。加熱時間は、有機物をできるだけ除去するのに十分な時間であれば特に限定されるものではないが、例示するならば、15〜240分、特に、30〜180分、さらには60〜150分が好ましい。
【0055】
以上、図4に基づく各工程のフローについて説明したが、第二の製造方法は、図4に示すフローに限定されるものではなく、図3に示す各工程を有していればよい。例えば、第一の製造方法と同様、第一の混合工程(ステップS110)と第二の混合工程(ステップS120)を変更しても良い。また、第一の製造方法と同様、静置工程(ステップS140)を行わずに、反応工程(ステップS130)に続いてコーティング工程(ステップS210)を行うようにしても良い。乾燥工程(ステップS220)は、必須の工程ではない。
【実施例】
【0056】
1.洗浄処理の効果検討
1.1 実験方法
(1)コーティング用溶液の作製
50mLビーカー(ビーカーA)に、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS)0.0125モルおよびメタノール10mLを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌は、攪拌子を投入し、KOMET社製の攪拌機(型式:VARIOMAG POLY15)を用いた。一方、別の50mLビーカー(ビーカーB)に、ヒドロキシアセトン(Hydroxyacetone: HA)0.0125モルとイオン交換水1.125mLとメタノール10mLを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用いた。別の50mLビーカー(ビーカーC)を用意し、各ビーカーA,Bの攪拌後の内容物を投入し、25℃で約24時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用いた。その後、ビーカーCの内容物の攪拌を停止し、40℃にて96時間、ビーカーCを静置した。この一連の処理を経て、コーティング用溶液の作製を完了した。
【0057】
(2)多孔質シリカ膜の作製
次に、縦25.4mm×横25.4mm×厚さ1mmの角形のシリコン基板を用意すると共に、MIKASA社製のスピンコータ(型式:SPINCOATER 1H−D7)の回転板にそのシリコン基板を固定した。シリコン基板の回転数が2000rpmになるようにスピンコータの回転数をセットし、回転板の回転を始動した。回転しているシリコン基板上に、コーティング用溶液を、60秒間供給してシリコン基板の表面に膜を形成し、その後、回転板の回転を停止させた。次に、表面に膜を形成したシリコン基板を、25℃で、約24時間、乾燥させた。次に、100mLビーカー(ビーカーD)に乾燥後のシリコン基板を入れて約20℃のイオン交換水を入れた。それをウォーターバスに設置し、80℃に加熱、保持した状態とし、2時間静置することによって、膜の洗浄処理を行った。洗浄処理の間、シリコン基板表面の膜は完全にイオン交換水中に存在するようにした。洗浄後、ビーカーDからシリコン基板を取り出し、200℃にて加熱した(実験例1)。同様に、洗浄後の複数のシリコン基板を、300℃(実験例2)、400℃(実験例3)、500℃(実験例4)、600℃(実験例5)、700℃(実験例6)および800℃(実験例7)の各温度にて2時間加熱した。加熱は、シリコン基板を電熱炉に設置し、目的の温度まで10℃/minの速度で昇温し、各温度で2時間保持することにより行った。また、比較のため、シリコン基板表面の膜の洗浄処理を行わずに、300℃にて加熱したサンプルも用意した(実験例8)。この一連の処理を経て、多孔質シリカ膜の作製を完了した。
【0058】
次に、コーティング用溶液の作製工程に使用する溶媒として、メタノールに代えてエタノールを用い、前述の各工程を経て、シリコン基板上に多孔質シリカ膜を形成した。ただし、エタノールを溶媒に用いた場合には、膜形成工程において、シリコン基板の回転数が2500rpmになるようにスピンコータの回転数をセットした。その他の条件は、メタノールを溶媒に用いた場合と同様の条件とした。シリコン基板を洗浄処理した後の加熱温度は、200℃(実験例9)、300℃(実験例10)、400℃(実験例11)、500℃(実験例12)、600℃(実験例13)、700℃(実験例14)および800℃(実験例15)の7種とした。
【0059】
また、コーティング用溶液の作製工程に使用する溶媒として1−プロパノールを用い、前述の各工程を経て、シリコン基板上に多孔質シリカ膜を形成した。ただし、1−プロパノールを溶媒に用いた場合には、膜形成工程において、シリコン基板の回転数が3000rpmになるようにスピンコータの回転数をセットした。その他の条件は、メタノールあるいはエタノールを溶媒に用いた場合と同様の条件とした。シリコン基板を洗浄処理した後の加熱温度は、200℃(実験例16)、300℃(実験例17)、400℃(実験例18)、500℃(実験例19)、600℃(実験例20)、700℃(実験例21)および800℃(実験例22)の7種とした。
【0060】
1.2 分析方法
基板上に形成した多孔質シリカ膜の屈折率は、株式会社堀場ジョバンイボン製の分光エリプソメータ(型式:UVISEL M200−VIS−AGMS−SD)を用いて測定した。屈折率は、Xeランプ光源からの光を入射角75度にて照射する条件にて測定した(波長は可変)。代表的な屈折率は、波長655nmの光を照射して測定したときの値とした。
【0061】
多孔質シリカ膜の硬度は、鉛筆硬度測定法(JIS K5600−5−4)に基づいて測定した。測定に用いた鉛筆硬度測定計は、株式会社安田精機製作所製(No.553−S)とした。
【0062】
多孔質シリカ膜の比表面積および細孔容積の各測定には、マイクロメリティクス・インスツルメント・コーポレーション製の窒素吸脱着測定装置(型式:ASAP2010)を用いた。
【0063】
多孔質シリカ膜の昇温時の重量変化および吸熱・発熱反応の評価には、株式会社理学製の示差走査熱重量分析装置(型式:Thermoplus TG−8120)を用いた。重量変化の測定条件は、昇温速度5℃/min、純空気(Pure−Air)雰囲気とした。
【0064】
多孔質シリカ膜の表面および断面の各形態の観察には、株式会社日立製作所製の高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡(HRFE-SEM、型式:S−5000)およびセイコーインスツルメント株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(SPM、型式:SPM400)を用いた。HRFE−SEMによる観察は、膜の表面にPt−Pd蒸着をしてから行った。また、SPMによる観察は、走査範囲を20ミクロン×20ミクロンの領域とし、タッピングモードにて行った。
【0065】
各温度で加熱後の多孔質シリカ膜を構成する物質の推定は、コーティング用溶液を乾燥して得られた粉末を各温度で加熱し、加熱後の赤外吸収スペクトルを分析することにより行った。分析装置には、パーキンエルマー社製のSPECTRUM ONE(A)を用いた。
【0066】
1.3 実験結果
図5および図6に、実験例2にて作製した多孔質シリカ膜の表面および断面の各SEM写真を示す。また、図7に実験例2にて作製した多孔質シリカ膜の20ミクロン×20ミクロンの領域のSPM像を、図8に図7に示すSPM像の特定断面像を示す。図8では、下側の凹凸領域が膜断面であり、横軸が長さ方向(μm)を、縦軸が高さ方向(nm)を、それぞれ示す。
【0067】
図5〜図8に示すように、多孔質シリカ膜は、その表面が極めて平滑であることがわかった。SPMを用いた測定によると、多孔質シリカ膜の平均表面粗さ(Ra)は1.4nm、最大高低差(Rmax)は5nmであった。また、図6に示すように、この多孔質シリカ膜の膜厚は、90〜100nmであった。このように、この多孔質シリカ膜は、非常に平滑であり(最大高低差は膜厚の5%以下である)、表面での光の散乱は生じにくいものと考えられる。
【0068】
図9および図10に、それぞれ、実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)および実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)の各TG−DTAチャートを示す。各図の横軸は温度(℃)を、左縦軸は重量変化(%)を、右縦軸は熱流量(μV)を、それぞれ示す。
【0069】
実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)は、図9に示すように、室温から100℃までの間に大きく重量減少があり、その後、600℃まで昇温しても大きな重量減少および発熱は見られなかった。一方、実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)は、図10に示すように、室温から400℃までの昇温中に重量が徐々に減少し、400〜600℃になると大きな重量減少がない状態になった。170℃前後、250℃前後および420℃前後の発熱部分は、それぞれ、HAの酸化、CH3Oの酸化脱離およびCの酸化脱離によるものと考えられる。これらの結果から、水を用いて膜の洗浄処理を行う工程を経ることにより、膜内の有機物等を有効に除去できると考えられる。
【0070】
図11に、実験例2にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理有り)および実験例8にて得られた多孔質シリカ膜(洗浄処理なし)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示す。また、表1に、波長655nmの入射光を用いて測定したときの各膜の屈折率を比較して示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1および図11の結果に示すように、洗浄を行った多孔質シリカ膜(実験例2)の屈折率は、洗浄を行わなかった多孔質シリカ膜(実験例8)の屈折率よりも低かった。この結果から、洗浄工程を経ることにより、屈折率のより低い多孔質シリカ膜が得られることがわかった。
【0073】
図12に、各種溶媒(メタノール、エタノールおよび1−プロパノール)を用いて作製した各多孔質シリカ膜(実験例2、実験例10および実験例17)の窒素吸脱着等温線を示す。図12の横軸は相対圧を、縦軸は吸着量(cm3/g)を、それぞれ示す。
【0074】
図12に示すように、メタノールを溶媒に用いた実験例2の膜およびエタノールを溶媒に用いた実験例10の膜は、いずれも、相対圧0.3以上で飽和吸着しているI型の吸脱着等温線を示した。この型の場合、窒素分子がラングミュア(Langmuir)吸着(単層での吸着)していると判断できる。一方、1−プロパノールを溶媒に用いた実験例17の膜は、IV型の吸脱着等温線を示した。この型の場合、窒素分子が多層で吸着していると判断できる。
【0075】
図13および図14は、実験例2、実験例10および実験例17にて作製した各多孔質シリカ膜について、それぞれ、MP法およびBJH法により求めた細孔径の分布を示す図である。各図の横軸は細孔径(nm)を、縦軸は細孔容積(cm3/g)を、それぞれ示す。
【0076】
ここで、MP法およびBJH法について簡単に説明する。MP法は、窒素吸脱着等温線がI型である場合に適する細孔径算出法であり、図12の実験例2(溶媒:メタノール)および実験例10(溶媒:エタノール)にてそれぞれ作製した多孔質シリカ膜の細孔径を求めるのに有効である。MP法は、得られた窒素吸脱着等温線からラングミュア法によって相対圧(P/P0)をx座標とし、(P/P0)/Vをy座標とする点をx−y平面上にプロットし、各プロットした点を通る最近接線(直線)の切片と傾きを求め、当該切片と当該傾きから細孔の容積および面積を求める方法である。
【0077】
一方、BJH法は、窒素分子が多層吸着して細孔を満たしていると仮定して細孔径を算出する方法であり、図12の実験例17(溶媒:1−プロパノール)のようにIV型の窒素吸脱着等温線を示す多孔質シリカ膜の細孔径を求めるのに有効である。BJH法は、得られた窒素吸脱着等温線からBET法によって相対圧(P/P0)をx座標とし、(P/P0)/Vをy座標とする点をx−y平面上にプロットし、各プロットした点を通る最近接線(直線)の切片と傾きを求め、当該切片と当該傾きから細孔の容積および面積を求める方法である。すなわち、ラングミュア法ではなく、BET法によりプロットする点で、BJH法はMP法と異なる。I型の窒素吸脱着等温線を示す実験例2および実験例10にBJH法を適用しても、各プロットした点を通る線の直線性はMP法よりも低く、正確な細孔径は得にくい。同様に、IV型の窒素吸脱着等温線を示す実験例17にMP法を適用しても、各点を通る線の直線性はBJH法よりも低く、正確な細孔径は得にくい。すなわち、I型にはMP法を、IV型にはBJH法をそれぞれ用いて細孔径を算出するのが適切である。
【0078】
図13および図14に示す細孔径分布から明らかなように、実験例2(溶媒:メタノール)および実験例10(溶媒:エタノール)にてそれぞれ作製した各多孔質シリカ膜の細孔は、ともに、2nm以下の径を有する孔(ミクロ孔という)のみであった。実験例2で得られた細孔の平均径は0.80nm、実験例10で得られた細孔の平均径は0.92nmであった。一方、実験例17(溶媒:1−プロパノール)にて作製した多孔質シリカ膜の細孔は、2nmを超える径を有する孔(メソ孔という)も含んでいた。この結果から、ミクロ孔のみを有する多孔質シリカ膜を作製するためのコーティング用溶液の調製には、メタノールあるいはエタノールの方が適していると考えられる。
【0079】
図15に、各種溶媒を用いたコーティング用溶液から作製した各多孔質シリカ膜(実験例1〜7、実験例9〜22)の加熱温度と、波長655nmの入射光を用いたときの屈折率との関係を示す。図15では、未加熱の状態の膜(加熱温度25℃に相当)の屈折率もプロットしている。各種溶媒を用いた膜とも、300〜700℃で最も屈折率が低く、1.30であった。いずれの膜でも、200℃以下では、屈折率が未だ十分に低下しないことがわかった。また、溶媒にエタノールおよび1−プロパノールを用いた場合には、800℃において屈折率が1.30であったが、溶媒にメタノールを用いた場合には、800℃において屈折率が1.34と、前二者の溶媒を用いたものよりも高かった。
【0080】
図16に、メタノールを溶媒として用いたコーティング用溶液を25℃で24時間乾燥して得られた粉末を、80℃のイオン交換水にて2時間洗浄処理を行った後、200℃および300℃でそれぞれ加熱した各粉末の赤外吸収スペクトルのグラフを示す。
【0081】
図16に示すように、加熱温度200℃では、960cm−1のバンドにSi−OHが、1720cm−1のバンドにC=Oが確認されたが、加熱温度300℃では、Si−OHが無くなり、1100cm−1のバンドにSi−O−Siの伸縮振動を示すピークの強度が高くなった。また、C=Oも無くなった。この結果から、加熱温度が200℃から300℃に上がる過程で、水酸基の脱水縮合とHAの酸化脱離が起きていると考えられる。
【0082】
表2に、各種溶媒を用いたコーティング溶液から作製した各多孔質シリカ膜(実験例1〜7、実験例9〜22)の加熱温度と、波長655nmの入射光を用いたときの屈折率および鉛筆硬度の関係を比較して示す。表2では、未加熱の状態の膜(未加熱膜1〜3、加熱温度25℃の欄に記載)の屈折率および鉛筆硬度も示している。
【0083】
【表2】
【0084】
屈折率については、図16に基づいて既に述べたとおりである。鉛筆硬度については、有機物の除去および膜硬度の向上工程である温水での洗浄工程を行ったものの鉛筆硬度が3Hであるのに対し、行わないものはBまたは2Bであった。メタノールあるいはエタノールを溶媒として用いて作製した多孔質シリカ膜は、加熱温度が200〜800℃において鉛筆硬度5H以上の硬度を有していた。一方、1−プロパノールを溶媒として用いて作製した多孔質シリカ膜は、700℃および800℃において鉛筆硬度6H以上の硬度を有していた。しかし、600℃以下の加熱温度で作製した多孔質シリカ膜は、鉛筆硬度4H以下の硬度しかなく、メタノールあるいはエタノールを溶媒に用いたものよりも低い硬度であった。
【0085】
2.脱水性溶媒を用いた脱水処理の効果検討
2.1 実験方法
(1)コーティング用溶液の作製
50mLビーカー(ビーカーA)に、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS)0.0125モルおよびメタノール10mLを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌には、KOMET社製の攪拌機(型式:VARIOMAG POLY15)を用いた。一方、別の50mLビーカー(ビーカーB)に、ヒドロキシアセトン(Hydroxyacetone: HA)0.0125モルとイオン交換水1.125mLとメタノール10mLを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用いた。別の50mLビーカー(ビーカーC)を用意し、各ビーカーA,Bの攪拌後の内容物を投入し、25℃で約24時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用いた。その後、ビーカーCの内容物の攪拌を停止し、40℃にて96時間、ビーカーCを静置した。この一連の処理を経て、コーティング用溶液の作製を完了した。
【0086】
(2)多孔質シリカ膜の作製
次に、縦25.4mm×横25.4mm×厚さ1mmの角形のシリコン基板を用意すると共に、MIKASA社製のスピンコータ(型式:SPINCOATER 1H−D7)の回転板にそのシリコン基板を固定した。シリコン基板の回転数が2000rpmになるようにスピンコータの回転数をセットし、回転板の回転を始動した。回転しているシリコン基板上に、コーティング用溶液を、60秒間供給してシリコン基板表面に膜を形成し、その後、回転板の回転を停止させた。次に、表面に膜を形成したシリコン基板を、25℃で、約24時間、乾燥させた。次に、表面に膜を形成したシリコン基板の80℃の温水による洗浄を2時間行い、25℃で約24時間乾燥した。次に、脱水性溶媒としてアセトンを入れた20mLビーカー(ビーカーD)を用意し、25℃で保持した状態のアセトン中に、シリコン基板を浸漬した。浸漬してから1日後に、シリコン基板をアセトン中から取り出し、100℃にて2時間加熱した。加熱は、100℃に保持した乾燥機にシリコン基板を入れて2時間保持することにより行った(実験例23)。脱水処理の効果を確認するため、比較として、スピンコート後に乾燥して25℃に保持した状態の多孔質シリカ膜付きのシリコン基板(実験例24)およびその乾燥後に100℃で2時間加熱した多孔質シリカ膜付きのシリコン基板(実験例25)も用意した。この一連の処理を経て、多孔質シリカ膜の作製を完了した。
【0087】
さらに、脱水性溶媒として、アセトン以外に、エタノールおよびアセトニトリルを候補に加え、脱水性溶媒の違いによる効果を確認する目的で、表面に膜を形成したシリコン基板を複数用意し、25℃で、約24時間乾燥した後、80℃の温水による洗浄を2時間行い、25℃で約24時間乾燥した。これと併行して、3個のビーカーDを用意し、各ビーカーDに、アセトン、エタノールおよびアセトニトリルをそれぞれ入れた。次に、シリコン基板を、それぞれ、アセトンを入れたビーカーD、エタノールを入れたビーカーDおよびアセトニトリルを入れたビーカーDにそれぞれ入れて浸漬させた。浸漬してから1日後に各シリコンを各ビーカーDから取り出し、80℃にて2時間乾燥した。乾燥は、80℃に保持した乾燥機に、シリコン基板を2時間入れる方法により行った(アセトン浸漬:実験例26、エタノール浸漬:実験例27、アセトニトリル浸漬:実験例28)。
【0088】
また、コーティング用溶液の作製工程に使用する溶媒として、メタノールに代えてエタノールを用い、前述の各工程を経て、シリコン基板上に多孔質シリカ膜を形成した。エタノールを溶媒に用いた場合には、膜形成工程において、シリコン基板の回転数が2500rpmになるようにスピンコータの回転数をセットした。スピンコートにより得られた膜付きのシリコン基板を25℃で約24時間乾燥した後、80℃の温水による洗浄を2時間行い、25℃で約24時間乾燥したものを25℃のエタノール、25℃のアセトンおよび25℃のアセトニトリル中にてそれぞれ脱水処理を行った。脱水処理は、エタノールを入れたビーカーDおよびアセトンを入れたビーカーDを用意し、それぞれのビーカーDに各シリコン基板を浸漬させる方法により行った。浸漬時間は、前述と同じ時間とした。脱水処理の後の各シリコン基板は、それぞれ、80℃で2時間乾燥した(エタノール浸漬:実験例29、アセトン浸漬:実験例30、アセトニトリル浸漬:実施例31)。乾燥は、80℃に保持された乾燥機に各シリコン基板を2時間入れる方法により行った。また、スピンコート後に乾燥して25℃に保持した状態の多孔質シリカ膜付きのシリコン基板(実験例32)およびその乾燥後に200℃で2時間加熱した多孔質シリカ膜付きのシリコン基板(実験例33)も用意した。この一連の処理を経て、多孔質シリカ膜の作製を完了した。
【0089】
2.2 分析方法
分析は、前述の「1.2 分析方法」と同様の方法により行った。
【0090】
2.3 実験結果
図17に、実験例23にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理有り)、実験例24にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理なし)および実験例25にて得られた多孔質シリカ膜(脱水処理なし)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示す。また、表3に、波長655nmの入射光を用いて測定したときの各膜の屈折率を比較して示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3および図17の結果に示すように、脱水処理を行った多孔質シリカ膜(実験例23)の屈折率は、脱水処理を行わなかった多孔質シリカ膜(実験例24および実験例25)の屈折率よりも低かった。この結果から、脱水処理工程を経ることにより、屈折率のより低い多孔質シリカ膜が得られることがわかった。
【0093】
図18に、実験例26〜28にて得られた多孔質シリカ膜(実験例26:アセトンを用いて脱水処理、実験例27:エタノールを用いて脱水処理、実験例28:アセトニトリルを用いて脱水処理)の加熱工程後に測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示す。比較に、実験例25にて得られた膜の屈折率の変化も示す。また、表4に、波長655nmの入射光を用いて測定したときの実験例26〜28にて得られた各膜の屈折率および鉛筆硬度を比較して示す。
【0094】
【表4】
【0095】
表4および図18の結果に示すように、3種のいずれの脱水性溶媒を用いた場合でも低屈折率の多孔質シリカ膜が得られたが、特に、アセトンおよびエタノールを用いた場合の方が、アセトニトリルを用いた場合よりも低い屈折率の膜が得られた。
【0096】
図19に、実験例29にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してエタノールを用いて脱水処理したもの)、実験例30にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してアセトンを用いて脱水処理したもの)、実験例31にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、コーティング膜に対してアセトニトリルを用いて脱水処理したもの)、実験例32にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、25℃で乾燥しただけのもの)および実験例33にて得られた多孔質シリカ膜(エタノール溶媒を用いたコーティング用溶液を使用し、200℃で乾燥しただけのもの)を測定した、入射光の波長に対する屈折率の変化を示す。また、表5に、波長655nmの入射光を用いて測定したときの各膜の屈折率および鉛筆硬度を比較して示す。
【0097】
【表5】
【0098】
表5および図19の結果に示すように、エタノール溶媒を用いてコーティング用溶液を作製した場合でも、前述のメタノール溶媒を使用した場合と同様に、脱水工程を行った膜の方が、当該工程を行わなかった膜に比べて、より低い屈折率を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、例えば、光学機器、ディスプレイ、太陽電池などの反射による光損失や透過光の減少を低減する低屈折率膜として利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜の表面および内部に存在する細孔が直径2nm以下のミクロ孔のみであって、鉛筆硬度が5H以上であることを特徴とする多孔質シリカ膜。
【請求項2】
前記ミクロ孔の平均直径が1.0nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質シリカ膜。
【請求項3】
分光エリプソメータを用いて波長655nmの光を膜表面に対して入射角75度にて入射させた際の屈折率が1.33以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質シリカ膜。
【請求項4】
前記屈折率が1.30以下であることを特徴とする請求項3に記載の多孔質シリカ膜。
【請求項5】
少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程と、
上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、
上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触して膜を洗浄する洗浄工程と、
上記洗浄工程後に250〜800℃の範囲で加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とする多孔質シリカ膜の製造方法。
【請求項6】
少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程と、
上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、
上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触して膜を洗浄する洗浄工程と、
上記洗浄工程後に、脱水性の有機溶媒に上記膜を接触せしめる脱水工程と、
上記脱水工程後に25〜200℃の範囲で上記膜を加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とする多孔質シリカ膜の製造方法。
【請求項7】
前記脱水性の有機溶媒は、エタノール、アセトン若しくはアセトニトリルを含むことを特徴とする請求項6に記載の多孔質シリカ膜の製造方法。
【請求項1】
膜の表面および内部に存在する細孔が直径2nm以下のミクロ孔のみであって、鉛筆硬度が5H以上であることを特徴とする多孔質シリカ膜。
【請求項2】
前記ミクロ孔の平均直径が1.0nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質シリカ膜。
【請求項3】
分光エリプソメータを用いて波長655nmの光を膜表面に対して入射角75度にて入射させた際の屈折率が1.33以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質シリカ膜。
【請求項4】
前記屈折率が1.30以下であることを特徴とする請求項3に記載の多孔質シリカ膜。
【請求項5】
少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程と、
上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、
上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触して膜を洗浄する洗浄工程と、
上記洗浄工程後に250〜800℃の範囲で加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とする多孔質シリカ膜の製造方法。
【請求項6】
少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、メタノール若しくはエタノール、ヒドロキシケトン誘導体および水を混和して反応させる反応工程と、
上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、
上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触して膜を洗浄する洗浄工程と、
上記洗浄工程後に、脱水性の有機溶媒に上記膜を接触せしめる脱水工程と、
上記脱水工程後に25〜200℃の範囲で上記膜を加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とする多孔質シリカ膜の製造方法。
【請求項7】
前記脱水性の有機溶媒は、エタノール、アセトン若しくはアセトニトリルを含むことを特徴とする請求項6に記載の多孔質シリカ膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2010−189212(P2010−189212A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34054(P2009−34054)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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