説明

多層プリント配線板

【課題】 少ない検出部で、エッチング加工による内層パターンの仕上り状態に影響を受けることなく層間接続用ビアに対する内層パターンずれが、許容範囲内であるか否かを電気的に検査することが可能な多層プリント配線板を提供することを目的とする。
【解決手段】 多層プリント配線板の表層面に円形のランドと、前記ランドから多層プリント配線板の内層面に通じる円形のマイクロビアと、多層プリント配線板の内層パターンのずれが許容範囲内の場合には、前記多層プリント配線板の内層面に設けられ、前記マイクロビアと電気的に導通するスペースを介して相対する1対の導体部を備える検査用パターンを、有することを特徴とする多層プリント配線板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層プリント配線板の製造において、層間接続用ビアに対して内層パターンのずれ(以下、内層パターンずれとも称す)が生じる場合がある。これは、内層パターンのランド(以下、内層ランドと称す)に層間接続する層間接続用ビアを形成するとき、加工装置の精度や、プリント配線板の伸縮などの要因によって、この層間接続用ビアが内層ランドに対してずれてしまう、いわゆる「内層ランド落ち」と呼ばれる不良である。
【0003】
このような不良は、例えばビルドアップ多層プリント配線板においては、内層ランドに対して層間接続用ビアがずれると、電気的な不良を生じる。従って、ビルドアップ多層プリント配線板の品質を確保するために、製造工程においては、その内層パターンずれが許容範囲内であるか否かを正確に検査することが求められている。
【0004】
また、層間接続にスルーホールを用いた多層プリント配線板においても、内層ランドに対してスルーホールがずれると、スルーホールと内層ランド面との接続面積が減少し電気的な不良を生じるおそれがある。従って、上記と同様に、多層プリント配線板の品質を確保するために製造工程においてその内層パターンずれが許容範囲内であるか否かを正確に検査することが求められている。
【0005】
特許文献1には、内層パターンずれを電気的に検出することができるビルドアップ多層プリント配線板が開示されている。このビルドアップ多層プリント配線板は、内層に検査用マイクロビアより所定量大きいクリアランスのある検査用パターンを設けることで、電気的な検査を可能としたものである。
すなわち、内層パターンずれが許容値より小さければ、その検査用マイクロビアと検査用パターンは断線した状態となる。反対に、内層パターンずれが許容値より大きければ、その検査用マイクロビアと検査用パターンが導通した状態となる。このように、検査用マイクロビアと検査用パターンとの導通状態を調べることで、内層パターンずれが許容範囲内であるか否かの電気的な検査を可能としている。
【0006】
また、特許文献2には、内層パターンずれが許容範囲内である場合には、検査用マイクロビアに電気的に接続され、許容範囲外である場合には、前記検査用マイクロビアから外れる検査用パターンとしたプリント配線板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−100845
【特許文献2】特開2008−166424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された方法では、内層パターンの加工ばらつきの影響を受けるという欠点を有している。
すなわち、内層パターンは一様な銅面から不要部分をエッチングによって除去して形成されるが、このエッチングは銅面の厚みのばらつきや使用する装置状態などの影響で形成されるパターンの幅にばらつきが生じる。つまり、内層パターンのエッチングによる仕上りが狙いより大きい(幅が広い)場合は、製品内の内層ランドは狙いより大きく仕上るが、内層の検査用パターンのクリアランスは狙いより小さく仕上る。この場合、特許文献1の方法では、内層ランド落ちが発生していないにも関わらず、検査用マイクロビアと内層の検査用パターンは電気的に短絡することがあり、良品を不良品として過剰検出してしまうという欠点がある。
【0009】
一方、内層パターンのエッチングによる仕上りが狙いより小さい(幅が狭い)場合は、製品内の内層ランドは狙いより小さく仕上るが、内層の検査用パターンのクリアランスは狙いより大きく仕上る。この場合、内層ランド落ちが発生しているにも関わらず、検査用マイクロビアと内層の検査用パターンは電気的に短絡していないことがあり、不良を見逃す場合がある。そこで、この見逃しを避けるため、内層の検査用パターンのクリアランスの設計値を小さくすることが考えられるが、小さく設定すると過剰検出が発生する割合が高くなってしまうという欠点がある。
【0010】
特許文献2では、上記の問題は生じないが、例えばX方向の+側、−側、Y方向の+側、−側のずれを検出するためにパターンが90度ずつ異なる4つ(0°、90°、180°、270°の方向)の検出部が必要な技術であり、斜め45度の方向の検出をするためには、更に4つ(45°、135°、225°、315°の方向)の検出部が必要となり、最低8つの検出部を形成する必要がある。
【0011】
このような状況の中、本発明は、少ない検出部で、エッチング加工による内層パターンの仕上り状態に影響を受けることなく層間接続用ビアに対する内層パターンずれが、許容範囲内であるか否かを電気的に検査することが可能な多層プリント配線板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の発明は、多層プリント配線板の表層面に円形のランドと、そのランドから多層プリント配線板の内層面に通じる円形のマイクロビアと、多層プリント配線板の内層パターンのずれが許容範囲内の場合には、多層プリント配線板の内層面に設けられ、マイクロビアと電気的に導通するスペースを介して相対する1対の導体部を備える検査用パターンを有する多層プリント配線板である。
【0013】
本発明の第2の発明は、第1の発明における1対の導体部と多層プリント配線板のX軸方向との成す角度が異なる少なくとも2組以上の検査用パターンを備えている多層プリント配線板である。
【0014】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明における検査用パターンが、内層パターンのずれが無い場合、スペースを介して相対する1対の導体部が形成するスペースの中心線が、マイクロビアの中心を通るように、スペースを介して相対する1対の導体部が形成されている多層プリント配線板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、多層プリント配線板を製造するにあたり、エッチング加工による内層パターンの仕上り状態に影響を受けることなく、内層ずれが許容範囲内であるか否かを電気的に検査することが可能となり、過剰検出による良品の出荷停止および見逃しによる不良品の出荷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】内層パターンのずれの無い理想的な状態における検査用パターン、及び製品部の一例としての層間接続用ビア部を示す図で、(a)は表層面の平面図、(b)は内層面の平面図、(c)は断面図で、(d)は多層プリント配線板のX軸方向(実線矢印)と1対の導体部の相対方向(破線矢印)とが成す角度が、図1の場合は角度=0°で、平行であることを示す図である。
【図2】マイクロビアと内層のずれが所定量以上の時の状態を示す図で、(a)は表層面の平面図、(b)は内層面の平面図、(c)は断面図である。
【図3】実施例1に用いた検査用パターンを90°ずつ変えて、2つ繋いだ状態を示す図で、(a)は製品部に「ずれ」無し、(b)は製品部に「45°許容量ずれ」有り、(c)は製品部に「0°許容量ずれ」有り、(d)は製品部に「90°許容量ずれ」有りの場合を示す図である。
【図4】実施例2に用いた検査用パターンを60°ずつ変えて、3つ繋いだ状態を示す図で、(a)は製品部に「ずれ」無し、(b)は製品部に「30°許容量ずれ」有り、(c)は製品部に「0°許容量ずれ」有り、(d)は製品部に「60°許容量ずれ」有りの場合を示す図である。ある。
【図5】実施例3に用いた検査用パターンを45°ずつ変えて、4つ繋いだ状態を示す図で、(a)は製品部に「ずれ」無し、(b)は製品部に「22.5°許容量ずれ」有り、(c)は製品部に「0°許容量ずれ」有り、(d)は製品部に「45°許容量ずれ」有りの場合を示す図である。ある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
多層プリント配線板における層間接続用ビアと内層パターンのずれを検出するための検査用パターンについて説明する。
図1は、内層パターンずれが無い理想的な状態での検査用パターン、及び製品部の一例として層間接続用ビア部について、(a)表層面、(b)内層面、及び(c)断面を示している。図1における製品部のマイクロビア部において、11は製品の表層面ランド、12は製品の層間接続用ビア、15は製品の内層面ランドを示している。
図2は、内層パターンのずれが許容量以上の状態での検査用パターン、及び製品部の一例としての層間接続用ビア部について、(a)表層面、(b)内層面、及び(c)断面を示している。図2における検査用パターンにおいて、6で示す部位は「ずれ」により断線した状態を示すもので、また製品のマイクロビア部において、16は製品の内層ランド落ちを示している。
【0018】
図1、図2に示す検査用パターンは、多層プリント配線板のX軸方向の内層パターンずれを検査する角度=0°の場合の検査用パターンで、所定のスペースaを有する1対の導体部3と、検査用のマイクロビア2と、表層面ランド1から成る。1対の導体部3からは表層のチェックランド(図示せず)へ接続する配線4がつながっている。なお、この角度は、図1(d)に示すような多層プリント配線板のX軸方向(実線矢印)と1対の導体部の相対方向(破線矢印)とが成す角度で、図1の場合は角度=0°で、平行である。
そして、X軸方向とY軸方向の内層パターンずれを検査するために少なくとも2組の検査用パターンを形成する。なお、Y軸方向は、角度=90°の検査用パターンとなる。
【0019】
ここで、従来では導体部3のスペースをaとし、マイクロビア2の直径をbとし、製品の層間接続用ビアと内層ランドのずれ許容量をcとして、検査用パターンを形成する場合、下記(1)式に示す関係となるように導体部3のスペースaを設定する。
【0020】
【数1】

【0021】
しかし、斜め45°方向(あるいは135°方向)の内層パターンずれが生じた場合、c×21/2を超えて内層パターンずれが生じないと断線しない(不良として検出できない)ことになってしまう。
そのため本発明では、0°と90°の中央である45°方向の未検出を防止するため、下記(2)式を用いて、θ/2=90°/2=45°として導体部3のスペースaを設定する。なお、角度θは、一対の導体部3、3が多層プリント配線板のX軸と成す角度が異なる検査用パターンの組合せにおける角度差を示すものである。
【0022】
【数2】

【0023】
本発明は、導体部3がスペースを介した1対の形態で形成されるために、1組で+側と−側の内層パターンずれを検査することが可能で、さらに少なくとも2組の角度の異なる導体部を形成するので、その2組の角度の中央の角度方向の内層パターンずれを検出するようにスペースaを設定することで、内層パターンずれの未検出を防ぐものである。
【0024】
また、本発明では0°以上、180°未満の異なる角度の導体部を備える少なくとも2組の検査用パターンを形成するが、全方向の内層パターンずれを検査するために、先に説明した「0°」と「90°」だけでなく、「0°」、「60°」、「120°」の場合では、「0°」と「60°」の中央である30°方向の未検出を防止するスペースaも設定することになる。
このように、2組のパターンの中央の角度方向を考慮してスペースa設定することで、少ない検査用パターンの組数で検査をすることが可能となる。
【0025】
そして、このように形成された検査用パターンは、内層面のエッチングの仕上りにばらつきが生じ、製品のずれ許容量cが変化した場合であっても、検査用パターンの「(b−a)/2」で示される値も同じ距離変化するので、内層面のエッチングの仕上りばらつきに影響されないこととなる。
すなわち、配線4を表層面のチェックランドまで接続し、導通状態を電気的に検査することで、製品である層間接続用ビア12と内層面ランド部15のずれの良否判定ができることになる。さらに、上記の検査用パターンを2組以上、形成するスペースaの角度を変えて組み合わせることで、全方向のずれを検査することも可能となる。
【0026】
この検査用パターンの組を増やして、検査用パターンの角度を小さくするほどスペースaを狭くして過剰検出を少なくすることができるので、ずれの許容値cの距離によって組数を設定することになる。
ずれの許容値cが大きい時は、位置ずれがランド一杯まで到る確立は低いので、多層プリント配線板のX軸方向、Y軸方向の2組で検査が可能であり、ずれの許容値cが小さい時は、位置ずれがランド一杯まで到る確立が高くなるので、3組以上にして、検査用パターンの導体部のスペースaを狭くして、過剰検出を少なくするようにする。
例えば、ずれの許容量cが100μm以上の場合は、X軸方向、Y軸方向の2組とし、ずれの許容値cが100μm未満の場合は、図4、図5のように3組以上の検査パターンを形成する。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
実施例1として、図3に示す検査用パターンを90°変えて2つ繋いだ例を示す。
このとき、両側のチェックランド導通する条件下で、マイクロビアと内層面パターンのずれが最大となる状態は、図3の(b)の場合が一例となる。この例ではマイクロビアが内層面パターンに対して斜め45°方向にずれている。
すなわち、マイクロビアと内層面パターンの全方向のずれの許容量をc以内としたい時は、検査用パターンのスペースaとマイクロビアの直径bを、下記(3)式となるように選択する。
そして、両側のチェックランドの導通状態を電気的に検査し、導通があればマイクロビアと内層面パターンの全方向のずれ量はc以内で、許容量の範囲であるといえる。
【0029】
【数3】

【実施例2】
【0030】
次に、実施例2として、図4に示す検査用パターンを60°ずつ変えて3つ繋いだ例を示す。
このとき、両側のチェックランドが導通する条件下で、マイクロビアと内層面パターンのずれが最大となる状態は、図4(b)の場合が一例となる。この例ではマイクロビアが内層面パターンに対して斜め30°方向にずれている。
すなわち、マイクロビアと内層面パターンの全方向のずれ量の許容量をc以内としたい時は、検査用パターンのスペースaとマイクロビアの直径bを、下記式(4)となるように選択する。そして、両側のチェックランドの導通状態を電気的に検査し、導通があればマイクロビアと内層面パターンの全方向のずれ量は、c以内となり、許容量の範囲内であるといえる。
【0031】
【数4】

【実施例3】
【0032】
次に、実施例3として、図5に示す検査用パターンを45°ずつ変えて、4つ繋いだ例を示す。
このとき、両側のチェックランドが導通する条件下で、マイクロビアと内層面パターンのずれが最大となる状態は、図5(b)の場合が一例となる。この例ではマイクロビアが内層面パターンに対して斜め22.5°方向にずれている。
すなわち、マイクロビアと内層面パターンの全方向のずれ量の許容量をc以内としたい時は、検査用パターンのスペースaとマイクロビアの直径bを、下記式(5)となるように選択する。そして、両側のチェックランドの導通状態を電気的に検査し、導通があればマイクロビアと内層面パターンの全方向のずれ量は、c以内となり、許容量の範囲内にあるといえる。
【0033】
【数5】

【0034】
実施例1〜3に示したように、マイクロビアと内層面パターンのずれの方向によっては、マイクロビアと内層のずれが許容量c以内であっても断線となって不良と判断される場合があるが、組み合わせる検査パターンの数を増やし角度差を小さくすることによって、過剰検出を少なくするものである。
【0035】
表1に、図3、図4、図5で示した実施例の検査パターンの組合せ角度の差θと、「(b−a)/2」の値との関係をまとめて示す。また、実施例で用いた検査用パターンを含めた代表的な検査用パターンの数値例を表2に示す。
実施例におけるマイクロビアと、ずれの許容量cは、以下の値を設定した。
・マイクロビア:b=φ250μm
・ずれの許容量:c=75μm
なお、これらの実施例では、マイクロビアの直径bを250μm、マイクロビアと内層ランドのずれ許容量cを75μmとした時の「(b−a)/2」の値を示す。この「(b−a)/2」の値が、c=75μmの値に近いほど、過剰検出は少ないことになる。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
以上、多層プリント配線板への適用について説明したが、ビルドアップ多層プリント配線板の内層面と別の内層面を接続する層間接続用ビアについても適用可能であることは明らかである。また、スルーホールを用いる多層プリント配線板の、スルーホールと内層各層とのずれの検査についても適用可能である。
【0039】
本発明の検査用パターンの利用法としては、多層プリント配線板における製造段階での積層板(いわゆるワーク)の周辺部に複数個配置して、表層面のパターン形成後の途中工程でテスターなどを用いて電気的な検査を行うことや、プリント配線板としての製品形態であるシート状態の捨て板部分に配置して、電気検査工程でシートの良否を判定することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 検査用パターン:表層面ランド
2 検査用パターン:マイクロビア
3 検査用パターン:内層面のスペースaを有する1対の導体部
4 検査用パターン:表層のチェックランドへ接続する配線
6 「ずれ」により断線した状態
11 製品の表層面ランド
12 製品の層間接続用ビア
15 製品の内層面ランド
16 製品の内層ランド落ち
a 検査用パターンの導体部のスペース(間隔)
b 検査用パターンのマイクロビアの直径
c 製品のずれの許容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層プリント配線板の表層面に円形のランドと、
前記ランドから多層プリント配線板の内層面に通じる円形のマイクロビアと、
多層プリント配線板の内層パターンのずれが許容範囲内の場合には、前記多層プリント配線板の内層面に設けられ、前記マイクロビアと電気的に導通するスペースを介して相対する1対の導体部を備える検査用パターンを、
有することを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】
前記スペースを介して相対する1対の導体部と、多層プリント配線板のX軸方向との成す角度が、異なる少なくとも2組以上の検査用パターンを備えていることを特徴とする請求項1に記載の多層プリント配線板。
【請求項3】
前記検査用パターンが、内層パターンのずれが無い場合、前記スペースを介して相対する1対の導体部が形成するスペースの中心線が、前記マイクロビアの中心を通るように前記スペースを介して相対する1対の導体部が形成されている検査用パターンであることを特徴とする請求項1または2に記載の多層プリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−114341(P2012−114341A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263645(P2010−263645)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(593215380)株式会社伸光製作所 (15)
【Fターム(参考)】