説明

多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法及びその装置

【課題】多層型パワーモジュールの放熱性能検査を、簡単かつ正確に行う。
【解決手段】過渡熱抵抗測定器26によって、検査対象の多層型パワーモジュール20に通電し、通電前後で変化する素子10のしきい値電圧(Vth)を通電時間(T)に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後の前記しきい値電圧の変化量(ΔVth)を求める。そして、判定手段28では、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)において生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVthn+1−ΔVthn)を、当該特定の二つの通電時間の差(Tn+1 −Tn)で除した算出値を、検査対象の多層型パワーモジュール20を構成する複数の部材のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握するための判断資料として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、図7(a)に示されるように、BJT、IGBT、P−MOSFET等のパワー半導体素子10(以下、単に「素子」という。)を、はんだ(本説明では「第1はんだ」という。)12を用いて絶縁基板14に接合し、更に、絶縁基板14に対し、はんだ(本説明では「第2はんだ」という。)16を用いて放熱板18を接合した構造を有する、多層型パワーモジュール20が、自動車用モータの動力制御装置等に広く用いられている。この多層型パワーモジュール20の各構成部材、例えば、第1はんだ12や第2はんだ16に、ボイド等の放熱性能を阻害する欠陥が存在すると、通電により発熱する素子10の放熱が不十分となり、素子10の性能を低下させる原因となる。よって、多層型パワーモジュール20の品質を保証する上で、放熱性能検査は欠かせないものである。
そこで、エックス線Xを多層型パワーモジュール20の上方から照射して欠陥を投影することで、ボイド等の放熱性能を阻害する欠陥の有無を把握する、非破壊検査方法が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−12932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の、エックス線を用いた非破壊検査方法は以下のような問題があった。例えば、図7(a)に示されるように、第1はんだ12には欠陥としてボイド12aが存在し、第2はんだ16には欠陥としてボイド16a、16b、16cが存在する場合において、エックス線照射より得られる投影画像は、図7(b)に示されるように、第1はんだ12のボイド12aと、第2はんだ16のボイド16a、16b、16cとが二次元画像上に重なって現れてしまう。このため、各ボイドが、第1はんだ12内の欠陥であるのか、第2はんだ16内の欠陥であるのかを判別することが不可能である。従って、正確な欠陥検査をするためには、素子10を第1はんだ12で絶縁基板14に固定した半完成品22の状態でエックス線投影画像を撮影し、第1はんだ14の欠陥検査を行い、かかる検査で良品と判断されたものに対し、第2はんだ16を用いて放熱板18を接合し、再度、完成した多層型パワーモジュール20のエックス線投影画像を撮影し、第2はんだ16の欠陥検査を行う必要があった。
【0005】
このように、従来のエックス線を用いた非破壊検査方法は、正確な検査結果を得るためには、複数の検査工程が必要とされるものであり、絶縁基板14等、他の構成部材に対しても欠陥検査を実施するような場合には、検査工程が更に増加するといったことが問題となっていた。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多層型パワーモジュールの放熱性能検査を、簡単かつ正確に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明に係る多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法は、素子に複数の部材を多層に接合した多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法であって、検査対象の多層型パワーモジュールに通電し、通電前後で変化する前記素子のしきい値電圧(Vth)を通電時間(T)に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後の前記しきい値電圧の変化量(ΔVth)を求め、特定の二つの通電時間(T1、T2)において生じた前記しきい値電圧の変化量の差(ΔVth2−ΔVth1)を、前記特定の二つの通電時間の差(T2 −T1)で除した算出値から、前記検査対象の多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握することを特徴とするものである。
【0007】
本発明は、検査対象の多層型パワーモジュールに通電し、通電前後で変化する素子のしきい値電圧を通電時間に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後のしきい値電圧の変化量(ΔVth)を求めるといった過渡熱抵抗測定を、特定の二つの通電時間(T1、T2)にて実施する。そして、特定の二つの通電時間において生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVth2−ΔVth1)を、当該特定の二つの通電時間の差(T2 −T1)で除した算出値を、検査対象の多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握するための判断資料として用いる。
すなわち、通電により生じる素子の熱は、時間の経過と共に多層型パワーモジュールを構成する各部材へと熱伝導される。この際、各部材の放熱性能が低いほど、熱伝導される前後の素子のしきい値電圧の変化量は増大する傾向がある。そこで、特定の二つの通電時間において生じたしきい値電圧の変化量の差を、当該特定の二つの通電時間の差で除することで、特定の通電時間の間(すなわち、特定の部材に熱伝導された時)に生じた、単位時間あたりのしきい値電圧の変化量を求め、この算出値を、放熱性欠陥の有無についての客観的判断資料として用いることができる。そして、前記算出値の大小に基づき、多層型パワーモジュールを構成する特定の部材における放熱性欠陥の有無を、非破壊で検査することができる。
しかも、特定の通電時間の間に生じた、単位時間あたりのしきい値電圧の変化量の差を算出値することで、特定の通電時間以外で生じた単位時間あたりのしきい値電圧の変化量の差、すなわち、放熱性欠陥の有無を調べようとする一つの部材以外の部材の、放熱性欠陥の影響を排除することが可能となり、各部材の放熱性欠陥の有無を、正確に把握することが可能となる。
【0008】
本発明においては、検査対象の多層型パワーモジュールに係る前記算出値を、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較することにより、前記検査対象の多層型パワーモジュールを構成する特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握することが望ましい。
本発明では、検査対象の多層型パワーモジュールに対し、特定の二つの通電時間にて過渡熱抵抗測定を実施し、特定の二つの通電時間において生じたしきい値電圧の変化量の差を、当該特定の二つの通電時間の差で除した算出値を、予め求められた特定の部材に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた特定の部材に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較する。そして、これらの予め求められた算出値との大小関係から、検査対象の多層型パワーモジュールに係る特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握することができる。
【0009】
又、本発明において、前記多層型パワーモジュールを構成する複数の部材の各々について、放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値を予め求めておくことが望ましい。
本発明によれば、検査対象の多層型パワーモジュールに対し、特定の二つの通電時間にて過渡熱抵抗測定を実施する。そして、特定の二つの通電時間において生じたしきい値電圧の変化量の差を、当該特定の二つの通電時間の差で除した算出値を、予め求められた各部材毎の算出値と比較する。そして、これらの予め求められた算出値との大小関係から、検査対象の多層型パワーモジュールに係る各部材の、放熱性欠陥の有無を把握することができる。
【0010】
又、本発明において、前記多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、前記素子からより遠方に積層された部材の放熱性欠陥の有無を把握する際に、熱伝導時間を考慮して、前記特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)をより長く設定することが望ましい。
多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、素子から遠方に積層された部材ほど、素子の熱が伝達されるまでに要する時間はより長くなる。従って、素子から遠方に積層された部材による、放熱性欠陥の影響(熱伝導される前後の素子のしきい値電圧の変化量の増大)は、通電開始からより長い時間経過の後に現れる。この点を考慮して、検査対象の多層型パワーモジュールに対し、特定の二つの通電時間にて過渡熱抵抗測定を実施する際の通電時間を、より長く設定することで、各部材の放熱性欠陥の有無を、把握することができる。
【0011】
又、上記課題を解決するための、本発明に係る多層型パワーモジュールの放熱性能検査装置は、素子に複数の部材を多層に接合した多層型パワーモジュールの放熱性能検査装置であって、検査対象の多層型パワーモジュールに通電し、通電前後で変化する前記素子のしきい値電圧(Vth)を通電時間(T)に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後の前記しきい値電圧の変化量(ΔVth)を求める過渡熱抵抗測定器と、特定の二つの通電時間(T1、T2)において生じた前記しきい値電圧の変化量の差(ΔVth2−ΔVth1)を、前記特定の二つの通電時間の差(T2 −T1)で除した算出値から、前記検査対象の多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握する判定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明においては、過渡熱抵抗測定器によって、検査対象の多層型パワーモジュールに通電し、通電前後で変化する前記素子のしきい値電圧を通電時間に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後のしきい値電圧の変化量(ΔVth)を求める。そして、判定手段では、特定の二つの通電時間(T1、T2)において生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVth2−ΔVth1)を、当該特定の二つの通電時間の差(T2 −T1)で除した算出値を、検査対象の多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握するための判断資料として用いる。
すなわち、通電により生じる素子の熱は、時間の経過と共に多層型パワーモジュールを構成する各部材へと熱伝導される。この際、各部材の放熱性能が低いほど、熱伝導される前後の素子のしきい値電圧の変化量は増大する傾向がある。そこで、判定手段により、特定の二つの通電時間において生じたしきい値電圧の変化量の差を、当該特定の二つの通電時間の差で除することで、特定の通電時間の間(すなわち、特定の部材に熱伝導された時)に生じた、単位時間あたりのしきい値電圧の変化量を求め、この算出値を、放熱性欠陥の有無についての客観的判断資料として用いることができる。そして、前記算出値の大小に基づき、多層型パワーモジュールを構成する特定の部材における放熱性欠陥の有無を、非破壊で検査することができる。
しかも、特定の通電時間の間に生じた、単位時間あたりのしきい値電圧の変化量の差を算出値することで、特定の通電時間以外で生じた単位時間あたりのしきい値電圧の変化量の差、すなわち、放熱性欠陥の有無を調べようとする一つの部材以外の部材の、放熱性欠陥の影響を排除することが可能となり、各部材の放熱性欠陥の有無を、正確に把握することが可能となる。
【0013】
又、本発明において、前記判定手段には、検査対象の多層型パワーモジュールに係る前記算出値を、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較することにより、前記検査対象の多層型パワーモジュールを構成する特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握する、比較判定ロジックが含まれることが望ましい。
本発明によれば、過渡熱抵抗測定器により、検査対象の多層型パワーモジュールに対し、特定の二つの通電時間にて過渡熱抵抗測定を実施する。そして、判定手段において、比較判定ロジックに沿って、特定の二つの通電時間において生じたしきい値電圧の変化量の差を、当該特定の二つの通電時間の差で除した算出値を、予め求められた特定の部材に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた特定の部材に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較する。そして、これらの予め求められた算出値との大小関係から、検査対象の多層型パワーモジュールに係る特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握することができる。
【0014】
又、本発明において、前記判定手段には、前記多層型パワーモジュールを構成する複数の部材の各々について、放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値が記憶されていることが望ましい。
本発明によれば、過渡熱抵抗測定器によって、検査対象の多層型パワーモジュールに対し、特定の二つの通電時間にて過渡熱抵抗測定を実施する。そして、特定の二つの通電時間において生じたしきい値電圧の変化量の差を、当該特定の二つの通電時間の差で除した算出値を、判定手段に記憶された、予め求められた各部材毎の算出値と比較する。そして、これらの予め求められた算出値との大小関係から、検査対象の多層型パワーモジュールに係る各部材の、放熱性欠陥の有無を把握することができる。
【0015】
又、本発明において、前記判定手段には、前記多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、前記素子からより遠方に積層された部材の放熱性欠陥の有無を把握する際に、熱伝導時間を考慮して、前記特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)をより長く設定する制御ロジックが含まれることが望ましい。
多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、素子から遠方に積層された部材ほど、素子の熱が伝達されるまでに要する時間はより長くなる。従って、素子から遠方に積層された部材による、放熱性欠陥の影響(熱伝導される前後の素子のしきい値電圧の変化量の増大)は、通電開始からより長い時間経過の後に現れる。この点を考慮して、検査対象の多層型パワーモジュールに対し、特定の二つの通電時間にて過渡熱抵抗測定を実施する際の通電時間を、より長く設定することで、各部材の放熱性欠陥の有無を、把握することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明はこのように構成したので、多層型パワーモジュールの放熱性能検査を、簡単かつ正確に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分には同一符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0018】
図1には、本発明の実施の形態に係る、多層型パワーモジュール20と、その放熱性能検査装置24を模式的に示している。多層型パワーモジュール20は、素子10を、第1はんだ12を用いて絶縁基板14に接合し、更に、絶縁基板14に対し、第2はんだ16を用いて放熱板18を接合した構造を有している。
又、放熱性能検査装置24は、過渡熱抵抗測定器26と、放熱性欠陥の有無を把握する判定手段28とを備えている。過渡熱抵抗測定器26は、検査対象の多層型パワーモジュール20に通電し、通電前後で変化する素子10のしきい値電圧(Vth)を通電時間(T)に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後の前記しきい値電圧の変化量(ΔVth)を求めることが可能である。又、過渡熱抵抗測定器26は、多層型パワーモジュール20を測定スロットにセットすることで、絶縁基板14の端子に電気的に接触して、多層型パワーモジュール20に対し通電を行うことが可能となっている。しかも、BJT、IGBT、P−MOSFET等様々なパワー半導体素子の過渡熱抵抗測定を行うことが可能であり、BJTの場合はベース・エミッタ間電圧、IGBTの場合はゲート・エミッタ間電圧、P−MOSFETの場合はゲート・ソース間電圧を、しきい値電圧として測定する。
【0019】
一方、判定手段28は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機により構成され、特定の二つの通電時間(T1、T2)において生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVth2−ΔVth1)を、特定の二つの通電時間の差(T2 −T1)で除した算出値Ca(すなわち、特定の通電時間の間に生じた、単位時間あたりのしきい値電圧の変化量。)から、検査対象の多層型パワーモジュール20を構成する複数の部材12、14、16、18のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握するものである。
又、判定手段28には、検査対象の多層型パワーモジュール20に係る算出値Caを、予め求められた特定の部材(12、14、16、18のいずれか)に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた特定の部材(12、14、16、18のいずれか)に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較することにより、検査対象の多層型パワーモジュールを構成する特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握する、比較判定ロジックが含まれている。
【0020】
しかも、判定手段28には、多層型パワーモジュール20を構成する複数の部材(12、14、16、18)の各々について、放熱性欠陥がない場合の算出値、並びに、放熱性欠陥があると判断される場合の算出値が記憶されている。
更に、判定手段28には、多層型パワーモジュール20を構成する複数の部材(12、14、16、18)のうち、素子10からより遠方に積層された部材の放熱性欠陥の有無を把握する際に、熱伝導時間を考慮して、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)をより長く設定する制御ロジックが含まれている。
なお、多層型パワーモジュール20を構成する複数の部材のうち、素子から遠方に積層された部材ほど、素子10の熱が伝達されるまでに要する時間はより長くなるが、図1には、模式的に、通電開始からの時間T1、T2、T3、T4(T1<T2<T3<T4)における、素子10の熱の到達地点を点線で示している。
【0021】
さて、図4、図5には、一例として、素子10がIGBTである多層型パワーモジュール20の、第1はんだ12についての放熱性欠陥を検査する検査手順が示されている。なお、図4には、検査手順の各ステップが括弧付き符号で示されている。
【0022】
(10)まず、過渡熱抵抗測定器26の測定スロットに、検査対象の多層型パワーモジュール20をセットする。そして、通電前のしきい値電圧(ゲート・エミッタ間の電圧)Vthを測定する。
(20)検査対象の多層型パワーモジュール20に第1の特定時間T1(例えば10ms)だけ通電し、素子10を発熱させる。
(30)通電停止後に、再びしきい値電圧Vthを測定する。
(40)そして、第1の特定時間において生じた、通電前後のしきい値電圧の変化量(ΔVth1)を求める(例えば100mV)。
【0023】
(50)続いて、再び検査対象の多層型パワーモジュール20の通電前のしきい値電圧Vthを測定する。この際、測定前に最初の通電時の熱が除去されるための冷却時間を設けることが望ましい。
(60)検査対象の多層型パワーモジュール20に第2の特定時間T2(例えば20ms)だけ通電し、素子10を発熱させる。
(70)通電停止後に、再びしきい値電圧Vthを測定する。
(80)そして、第2の特定時間において生じた、通電前後のしきい値電圧の変化量(ΔVth2)を求める(例えば200mV)。
(90)さらに、判定手段28では、特定の二つの通電時間(T1、T2)において生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVth2−ΔVth1)を、特定の二つの通電時間の差(T2 −T1)で除した値Caを算出する(上記の例では、(200mV−100mV)/(20ms−10ms)=10(mv/ms))。なお、第1、第2の通電時間は、多層型パワーモジュール20を構成する各構成部材への、素子10からの熱伝導時間を考慮して決められるものであり、上記の例では、第1はんだ12の欠陥を把握するに適した通電時間である。
そして、(算出値Ca)=(ΔVth2−ΔVth1)/(T2 −T1)を、予め求められた第1はんだ12に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた第1はんだ12に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較する。
(100)そして、検査対象の多層型パワーモジュール20に係る算出値が、予め求められた二つの算出値の間の値である場合には、放熱性欠陥(例えばボイド12a)は存在しないと判断される。一方、検査対象の多層型パワーモジュール20に係る算出値が、予め放熱性欠陥があると判断される場合の当該算出値以上である場合には、放熱性欠陥があると判断される。
【0024】
なお、予め第1はんだ12に係る放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め第1はんだ12に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値を求める際に、素子10の熱が第1はんだ12へと伝わり、図5のグラフの傾きが変化することから、第1はんだ12の放熱性欠陥の判断をするに適した二つの特定時間T1、T2を、予め定めることが可能である。
【0025】
図5(a)には、(10)〜(100)の各ステップにより得られた、検査対象の多層型パワーモジュール20の、通電時間Tと、二つの通電時間T1、T2において生じたしきい値電圧の変化量の差ΔVth2−ΔVth1との関係が示されている。図中の曲線Nは、パワーモジュール20を構成する何れの部材にも放熱性欠陥がない場合を示すノミナル値であり、放熱性欠陥の良否判断における下限値である。又、曲線12(NG)は、予め求められた、第1はんだ12に放熱性欠陥があると判断される場合のしきい値電圧の変化量の差を表している。
よって、二つの特定時間(T1=10ms、T2=20ms)の間(T2−T1)に生じた単位時間あたりのしきい値電圧の変化量の差Caが曲線12(NG)以上となれば、第1はんだ12に放熱性欠陥があると判断される。一方、検査対象の多層型パワーモジュール20のしきい値電圧の変化量の差が、曲線12(OK)のごとく、ノミナル値Nと曲線12(NG)との間にある場合には、第1はんだ12の放熱性欠陥の良否判断はOKと判断される。
【0026】
又、本発明の実施の形態では、上記と同様の手順により、第2はんだ16の放熱性欠陥の良否判断を行うことも可能である。この場合には、ステップ(20)において、検査対象の多層型パワーモジュール20に第1の特定時間T3(例えば50ms)だけ通電し、素子10を発熱させる。又、ステップ(60)において、検査対象の多層型パワーモジュール20に第2の特定時間T4(例えば70ms)だけ通電し、素子10を発熱させる。
その他の手順は、第2はんだ16の放熱性欠陥の良否判断を行う場合と同様である。
【0027】
図5(b)は、図5(a)に連続するグラフであり、通電時間Tが図5(a)よりも長い範囲を示している。すなわち、図5(b)には、(10)〜(100)の各ステップにより得られた、検査対象の多層型パワーモジュール20の、通電時間Tと、二つの通電時間T3、T4において生じたしきい値電圧の変化量の差ΔVth4−ΔVth3との関係が示されている。そして、曲線16(NG)は、予め求められた、第2はんだ16に放熱性欠陥があると判断される場合のしきい値電圧の変化量の差を表している。
よって、二つの特定時間(T4=50ms、T3=70ms)の間(T4−T3)に生じた単位時間あたりのしきい値電圧の変化量の差Caが曲線16NG以上となれば、第2はんだ16に放熱性欠陥があると判断される。一方、一方、検査対象の多層型パワーモジュール20のしきい値電圧の変化量の差が、曲線16(OK)のごとく、ノミナル値Nと曲線16(NG)との間にある場合には、第2はんだ16の放熱性欠陥の良否判断はOKと判断される。
【0028】
なお、予め第2はんだ16に係る放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値を測定によって求める際に、素子10の熱が第2はんだ16へと伝わり、図5のグラフの傾きが変化することから、第2はんだ16の放熱性欠陥の判断をするに適した二つの特定時間T3、T4を、予め定めることが可能である。
かかるグラフの傾きの変化は、連続するグラフを二つに別けて示した図5(a)及び図5(b)において、図5(a)では第1はんだ12に係る曲線12(OK)、12(NG)が、第2はんだ16に係る曲線16(OK)、16(NG)と比較して大きな値となっているのに対し、図6(b)では逆の関係になっていることによって現れている。
【0029】
更に、本発明の実施の形態によれば、図2に示されるように、より多層型のパワーモジュール30の、各構成部品の放熱性欠陥の良否判断を行うことも可能である。図2の例では、素子10を、第1はんだ12を用いて絶縁基板14に接合し、絶縁基板14に対し、第2はんだ16を用いて部材32を接合し、部材32に対して、第3はんだ34を用いて部材36を接合した構造を有している。そして、第3はんだ34にボイド34aが存在し、部材36に不純物36aが混入しているような場合であっても、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)を、各部材へと熱伝導される時間帯に合わせて設定することで、夫々の部材の放熱性欠陥の良否判断を行うことが可能となる。
なお、図2には、通電開始からの時間T1、T2、T3、T4、T5、T6(T1<T2<T3<T4<T5<T6)における、素子10の熱の到達地点を、模式的に点線で示している。
【0030】
図6には、より多層型のパワーモジュール30の、各構成部品の放熱性欠陥の良否判断を行うために、図4のフローチャートを一般化して示している。具体的には、多層型パワーモジュール20を構成する複数の部材への熱伝導時間を考慮して、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)を徐々に長く設定するようにして、ステップ(10)〜(40)を複数回繰り返し、判定手段28において、ステップ(95)のごとく、第2はんだ16への熱伝導時間に該当する二つの通電時間において生じたしきい値電圧の差を、その特定の二つの通電時間の差で除した値を算出することで、第3はんだ34や、部材36の放熱性欠陥の良否判断を行うことができる。
【0031】
さらには、図3に示される多層型パワーモジュール38のように、素子10一方の面を、第1はんだ12を用いて放熱板18に接合し、素子10の他方の面に第2はんだ16を用いて電極40を接合し、更に、電極40に対し第3はんだ34を用いて放熱板40を接合したような構造においても、部材の各々について、放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値を予め求めておくことで、図6の手順に基づき、電極40に欠陥40aが存在することによる放熱性欠陥や、放熱板42に欠陥42aが存在することによる放熱性欠陥を、把握することが可能となる。
【0032】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。まず、過渡熱抵抗測定器26によって、検査対象の多層型パワーモジュール20、30、38に通電し、通電前後で変化する素子10のしきい値電圧(Vth)を通電時間(T)に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後の前記しきい値電圧の変化量(ΔVth)を求める。そして、判定手段28では、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)において生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVthn+1−ΔVthn)を、当該特定の二つの通電時間の差(Tn+1 −Tn)で除した算出値を、検査対象の多層型パワーモジュール20、30、38を構成する複数の部材のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握するための判断資料として用いる。
【0033】
すなわち、通電により生じる素子10の熱は、時間の経過と共に多層型パワーモジュール20、30、38を構成する各部材へと熱伝導される。この際、各部材の放熱性能が低いほど、熱伝導される前後の素子のしきい値電圧の変化量は増大する傾向がある。そこで、判定手段28により、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)において生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVthn+1−ΔVthn)を、当該特定の二つの通電時間の差(Tn+1−Tn)で除することで、特定の通電時間の間に生じた、単位時間あたりのしきい値電圧の変化量を求め、この算出値Caを、放熱性欠陥の有無についての客観的判断資料として用いることができる。そして、算出値Caの大小に基づき、多層型パワーモジュール20、30、38を構成する特定の部材における放熱性欠陥の有無を、非破壊で検査することができる。
しかも、特定の通電時間の間に生じた、単位時間あたりのしきい値電圧の変化量の差を算出値することで、特定の通電時間以外で生じた単位時間あたりのしきい値電圧の変化量の差、すなわち、放熱性欠陥の有無を調べようとする一つの部材以外の部材の、放熱性欠陥の影響を排除することが可能となり、各部材の放熱性欠陥の有無を、正確に把握することが可能となる。
【0034】
又、過渡熱抵抗測定器26により、検査対象の多層型パワーモジュール20、30、38に対し、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)にて過渡熱抵抗測定を実施し、判定手段28において、比較判定ロジックに沿って、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)において生じたしきい値電圧の変化量の差を、特定の二つの通電時間の差(Tn+1−Tn)で除した算出値Caを求め、予め求められた特定の部材に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた特定の部材に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較している(ステップ(90)、(95))。そして、これらの予め求められた算出値との大小関係から、検査対象の多層型パワーモジュール20、30、38に係る特定の部材(第1はんだ12、第2はんだ14等)の、放熱性欠陥の有無を把握することができる。
【0035】
更に、過渡熱抵抗測定器26によって、検査対象の多層型パワーモジュール20、30、38に対し、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)にて過渡熱抵抗測定を実施し、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)において生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVthn+1−ΔVthn)を、当該特定の二つの通電時間の差(Tn+1−Tn)で除した算出値を、判定手段28に記憶された、予め求められた各部材毎の算出値と比較する。そして、これらの予め求められた算出値との大小関係から(ステップ(95))、検査対象の多層型パワーモジュールに係る各部材の、放熱性欠陥の有無を把握することができる。
【0036】
しかも、多層型パワーモジュール20、30、38を構成する複数の部材のうち、素子から遠方に積層された部材ほど、素子の熱が伝達されるまでに要する時間はより長くなる。従って、素子から遠方に積層された部材による、放熱性欠陥の影響(通電前後の素子のしきい値電圧の変化量の増大)は、素子の近くに積層された部材よりも、通電開始からより長い時間経過の後に現れる。この点を考慮して、検査対象の多層型パワーモジュール20、30、38に対し、特定の二つの通電時間(Tn、Tn+1)にて過渡熱抵抗測定を実施し、その際に生じたしきい値電圧の変化量の差(ΔVthn+1−ΔVthn)を、当該特定の二つの通電時間の差(Tn+1−Tn)で除した算出値を求める際の、通電時間を、より長く設定することで、各部材の放熱性欠陥の有無を、把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る、多層型パワーモジュールと、その放熱性能検査装置を模式的に示したものである。
【図2】本発明に係る、放熱性能検査の対象となるより多層型のパワーモジュールの模式図である。
【図3】本発明に係る、放熱性能検査の対象となる更に別の多層型パワーモジュールの模式図である。
【図4】素子がIGBTである多層型パワーモジュールの、第1はんだについての放熱性欠陥を検査する場合の検査手順を例示するフローチャートである。
【図5】(a)には、検査対象の多層型パワーモジュールの、第1はんだに係る放熱性欠陥の判断に係る時間帯のしきい値電圧の変化量の差を表すグラフが、(b)には、同第2はんだに係る放熱性欠陥の判断に係る時間帯のしきい値電圧の変化量の差を表すグラフが示されている。
【図6】図4のフローチャートを一般化したものである。
【図7】従来の多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法を示す模式図であり、(a)は多層型パワーモジュールの断面図、(b)は(a)の多層型パワーモジュールにエックス線を照射することにより得られる投影画像である。
【符号の説明】
【0038】
10:パワー半導体素子、12:第1はんだ、12a:ボイド、14:絶縁基板、16:第2はんだ、16a:ボイド、 18、42:放熱板、 20、30、37:多層型パワーモジュール、24:放熱性の検査装置、26:過渡熱抵抗測定器、28:判定手段、32:部材、34:第3はんだ、34a:ボイド、36:部材、36a:不純物、40:電極、40a:欠陥


【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子に複数の部材を多層に接合した多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法であって、
検査対象の多層型パワーモジュールに通電し、通電前後で変化する前記素子のしきい値電圧を通電時間に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後の前記しきい値電圧の変化量を求め、特定の二つの通電時間において生じた前記しきい値電圧の変化量の差を、前記特定の二つの通電時間の差で除した算出値から、前記検査対象の多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握することを特徴とする多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法。
【請求項2】
検査対象の多層型パワーモジュールに係る前記算出値を、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較することにより、前記検査対象の多層型パワーモジュールを構成する特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握することを特徴とする請求項1記載の多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法。
【請求項3】
前記多層型パワーモジュールを構成する複数の部材の各々について、放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値を予め求めておくことを特徴とする1又は2記載の多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法。
【請求項4】
前記多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、前記素子からより遠方に積層された部材の放熱性欠陥の有無を把握する際に、熱伝導時間を考慮して、前記特定の二つの通電時間をより長く設定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法。
【請求項5】
素子に複数の部材を多層に接合した多層型パワーモジュールの放熱性能検査装置であって、
検査対象の多層型パワーモジュールに通電し、通電前後で変化する前記素子のしきい値電圧を通電時間に関連付けて測定し、通電時間毎に通電前後の前記しきい値電圧の変化量を求める過渡熱抵抗測定器と、
特定の二つの通電時間において生じた前記しきい値電圧の変化量の差を、前記特定の二つの通電時間の差で除した算出値から、前記検査対象の多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握する判定手段とを備えることを特徴とする多層型パワーモジュールの放熱性能検査装置。
【請求項6】
前記判定手段には、検査対象の多層型パワーモジュールに係る前記算出値を、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、予め求められた前記特定の部材に放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値と比較することにより、前記検査対象の多層型パワーモジュールを構成する特定の部材の、放熱性欠陥の有無を把握する、比較判定ロジックが含まれることを特徴とする請求項5記載の多層型パワーモジュールの放熱性能検査装置。
【請求項7】
前記判定手段には、前記多層型パワーモジュールを構成する複数の部材の各々について、放熱性欠陥がない場合の前記算出値、並びに、放熱性欠陥があると判断される場合の前記算出値が記憶されていることを特徴とする5又は6記載の多層型パワーモジュールの放熱性能検査装置。
【請求項8】
前記判定手段には、前記多層型パワーモジュールを構成する複数の部材のうち、前記素子からより遠方に積層された部材の放熱性欠陥の有無を把握する際に、熱伝導時間を考慮して、前記特定の二つの通電時間をより長く設定する制御ロジックが含まれることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項記載の多層型パワーモジュールの放熱性能検査方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−39406(P2008−39406A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209777(P2006−209777)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】