多層外科的プロテーゼ
本発明は、少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を備える多層シート構造を有するプロテーゼに関する。同じく開示されるのは、プロテーゼの製造方法、及びプロテーゼを患者に植込むことによって患者を処置する方法である。プロテーゼは、ヘルニア修復、腹壁、横隔膜、及び胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系における欠陥の補正、及び外傷により損傷した脾臓、肝臓、又は腎臓のような器官の修復に用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、外科用途のためのプロテーゼの分野、プロテーゼの製造方法、及びプロテーゼを患者に植込むことによって患者を処置する方法に関する。より詳細には、本発明は、多層シート構造を有するプロテーゼ、及びヘルニア修復、腹壁、横隔膜、及び胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系における欠陥の補正、及び外傷により損傷した脾臓、肝臓、又は腎臓のような器官の修復における、多層シート構造を有するプロテーゼの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腹壁修復、特にヘルニア修復は、米国において最も一般的な外科手術である。ヘルニアは、腹壁の内側層が弱くなり、次いで膨らみ又は裂けて、該弱くなった領域を通して腹部内面(abdomen lining)が飛び出てバルーン状の嚢を形成するときに起こる。腸又は腹部組織が、嚢の中に入り込み、痛みと損傷のリスクを引き起こす。小さいヘルニアは、縫合で修復することができるが、より大きいヘルニアは、メッシュプロテーゼを腹膜(筋及び脂肪層から身体器官を分離する膜)の中に外科的に挿入し、これを縫合又はタックで定位置に取り付けることによって処置される。プロテーゼは、普通は、バルーン嚢を防止するべく弱くなった腹壁を補強するために腹腔内の場所に挿入される。図1は、ヘルニア欠陥と、ヘルニア欠陥を矯正するためのメッシュの位置づけの例を示す。
【0003】
同様のメッシュプロテーゼは、通例、いくつかの壁又は横隔膜の解剖学的欠陥の修復、いくつかの管腔における又は尿生殖器系における欠陥の補正、及び外傷により損傷した内部器官のような器官の修復を含む他の外科的処置にも用いられる。これにより、こうしたメッシュプロテーゼによって、弱くなった壁を補強する又は補完することができる。時には、プロテーゼは、補強部材として働くように器官の周りに巻きつけられる。すべてのこうしたプロテーゼは、普通は、織られた又は編まれた繊維又はフィラメントのメッシュ生地のようなテキスタイル材料(textile material)から作製される。この数十年間に、メッシュ生地のための種々の異なる材料が提案されている。
【0004】
ポリプロピレン(PP)材料は、1960年代からヘルニア修復のためのメッシュに広く用いられている。途中で漸進的技術革命が導入された。しかしながら、今日まで、ポリプロピレンは、不満足なままであった。ポリプロピレンは、不十分な引張強さ及び伸びを有し、時間と共にその強度及び可撓性を大幅に減少させるポリプロピレン材料の微小クラックの形成に起因する顕著なエージング作用に悩まされる。植込みの過程で、ポリプロピレンはまた、或る程度の収縮を示す。ポリプロピレンはまた、結果として頻繁な、顕著な、且つ容認できない結合組織の接着をもたらし、これは必然的に炎症を招く。組織の結合度は、炎症の度合いと直接相関する。炎症応答が高い場合、これは、結果として、硬い瘢痕プレートの形成をもたらす場合がある。結合組織の接着はまた、患者におけるひどい不快、さらには医学的外傷さえも引き起こすことがあり、メッシュの早過ぎる外科的取替えの必要性につながることがある。図2は、そのために付加的な外科的処置が必要であったポリプロピレンメッシュを取り囲むこうした広範な内臓の接着の例を示す。
【0005】
1990年代初期に、腹部の創傷を閉じるときに内臓から組織を分離するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料が導入された。PTFEは、腹腔鏡下腹側/切開創修復手順を腹部内で行うことを可能にする技術としてさらに採用された。ヘルニア修復に用いられるPTFE材料に関連した材料及び性能の問題があった。ほとんどのPTFE材料は、押し出されてシートにされる。これらのPTFEシートは、患者の身体の中に植込まれていた、すなわち、植込み後の漿液腫の形成、感染、及びシートの収縮があった。PTFEシートは、植込み後10〜14日間で平均して34%収縮することが広く知られている。これらの患者の多くは、これらの合併症により植込まれたプロテーゼを除去するために付加的な手術を受けなければならなかった。
【0006】
最近では、PVDFが、十分に生体適合性となるとともに、一般に、時間と共にエージング及び変化しないことが示されている高い強度及び可撓性をもつことが示されている。これはまた、用いられたときに時間と共にほとんど収縮せず、組織の接着問題が顕著により小さい。したがって、これは、外科用途のためのテキスタイルベースのメッシュに適した材料として提案されている。
【0007】
上記のシート様材料での経験に照らして、ほとんどの現在のヘルニアメッシュは、メッシュに織られたフィラメントから作製される。織ることによって容易に生産されるが、こうしたプロセスは、メッシュの設計の可能性を制限する。例えば、ヒトの腹部の解剖学的特徴に基づき、最適に適合するメッシュは、他の垂直方向よりも一方向により高い度合いの伸長及び可撓性を有するべきである。これは、フィラメントを織るプロセスを用いて容易に達成されない。また、伸長されるときに、こうしたフィラメントを織ったメッシュは、そのオープンセル又は孔(フィラメント間のスペース)の孔径の減少を経験するであろう。こうした孔径の減少はまた、内臓組織の接着のおそれを有害に増加させるであろうことが知られている。しかしながら、織られたメッシュのこれらの欠点にもかかわらず、ヘルニア修復に関連して用いられる一般的なプロテーゼは、メッシュ生地のような異なるテキスタイル材料で作製される。こうしたメッシュ生地の例は、特許文献1で開示される。種々の合成繊維から構成された、編まれた及び織られた生地と外科的修復における生地の使用もまた公知である(例えば特許文献2)。
【0008】
ヘルニア修復のためのプロテーゼのような現在のプロテーゼにおいて未だ解決されていない2つの重要な問題がある。1つは、プロテーゼへの望ましくない内臓組織の接着、すなわち、外科的手順への応答として生じるプロテーゼへの腹部内の器官の接着及びプロテーゼによって腹膜に引き起こされる炎症である。上記で説明したヘルニアメッシュのような既存のプロテーゼでの発生頻度は非常に高く、結果としてひどい連続する痛み、非移動性、及び腸に関連する問題をもたらす。この接着現象のために、おおよそ30%を上回る患者が再手術を必要とする。他の重要な問題は、現在のプロテーゼの機械的挙動が、結果として乏しい可撓性及び強度をもたらすポリマーの膨潤及び/又はエージングのために、時間と共に悪く変化することである。時間と共に、プロテーゼは硬くなり、もはやあらゆる方向への腹壁の動きに従って撓まず、非常に乏しい固定及び応従性をもたらす。しばしば、プロテーゼが完全に壊れ、緊急の外科的取替えを必要とすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0250147号明細書
【特許文献2】米国特許第3,054,406号明細書
【特許文献3】国際公開第97/47254号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、上記に説明された問題点のいくつかを解決するプロテーゼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、多層シート構造を有するプロテーゼが提供される。多層シート構造は、少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を備える。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、多層シート構造を有するプロテーゼの製造方法が提供される。方法は、多層構造をもたらすために少なくとも2つの連続するフィルム層を形成することを含む。
【0013】
別の態様において、本発明は、シート様の外科的プロテーゼを必要とする患者、又は、ヘルニア修復、腹壁、横隔膜、又は胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系における欠陥の補正、若しくは外傷により損傷した脾臓、肝臓、又は腎臓などのような器官の修復を必要とする患者を処置する方法を提供する。方法は、本発明のプロテーゼを、これを必要とする患者に植込むことを含む。
【0014】
さらなる実施形態は従属請求項において説明される。本発明のさらなる態様及び特徴はまた、本発明の特定の実施形態及び限定ではない例の以下の説明から並びに添付の図面から明らかとなるであろう。例示された実施形態と図面は、例証する目的のためにのみ設計されたものであって、本発明を限定する定義として意図されたものではないことが理解される。
【0015】
本発明は、詳細な説明を参照しながら限定ではない実施形態及び付属の図面と併せて考察したときに良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】メッシュ様のプロテーゼを用いることによるヘルニア欠陥及びヘルニア修復の例証であり、図1aは弱くなった腹壁に起因するヘルニア欠陥を示す図であり、図1bは腹膜の中に位置付けられ且つ取り付けられた、挿入されたメッシュを示す図であり、図1cは腹膜を閉じる前の分解図である。
【図2】内臓上に接着した2つのメッシュの写真を示す図である。
【図3】多孔性層10と補強層20とを備える本発明の二層プロテーゼの横断面図である。
【図4】多孔性層10と補強層20と接着防止コーティング層30とを備える本発明の三層プロテーゼの横断面図である。
【図5】両側が薬剤放出層40及び薬剤放出層42でコーティングされた図4で例証されたプロテーゼを示す図である。
【図6】多孔性層10と補強層20との間に位置し又は配置される2つの記憶効果を提供する層50及び層52を備えるプロテーゼの別の実施形態を示す図である。
【図7】プロテーゼを貫通して延在するテーパしていない貫通穴を有する図3に示されたプロテーゼの実施形態の横断面図である。
【図8】プロテーゼを貫通して延在するテーパした貫通穴を有する図3に示されたプロテーゼの別の実施形態の横断面図である。
【図9】プロテーゼの多孔性層を貫通して延在する貫通穴を有する図3に示されたプロテーゼのさらなる実施形態の斜視図である。
【図10】プロテーゼの多孔性層を貫通して延在する貫通穴を有する図3に示されたプロテーゼの別の実施形態の斜視図である。
【図11a】粗くされた表面を有する図3に示されたプロテーゼの異なる実施形態の横断面図である。
【図11b】テーパした孔の形態を有する図3に示されたプロテーゼの異なる実施形態の横断面図である。
【図11c】嚢様の孔構造を有する図3に示されたプロテーゼの異なる実施形態の横断面図である。
【図12a】異方性の孔形状を有するプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図12b】異方性の孔形状を有するプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図12c】異方性の孔形状を有するプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図13a】異方性の孔構造を有する本発明のプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図13b】異方性の孔構造を有する本発明のプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図14】表面層にウェル又はポット穴60の形態の孔を有する本発明のプロテーゼの代替的な実施形態の多孔性層10の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1の態様に係る新規なプロテーゼは、少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を備える多層シート構造を有する。
【0018】
本発明で用いられる場合の「プロテーゼ」という用語は、互いの上に重ねられた又は配置された、シート様の形式の少なくとも2つの層、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上の連続する層で作製された実質的に平坦なシートとすることができるあらゆるシート様構造を意味する。こうした実質的に平坦なシートは、各シートが特定の厚さを有していても、しばしば二次元構造と呼ばれる。しかしながら、シートの厚さは、普通は小さく、一般に三次元とは考えられない。したがって、本明細書で言及されるプロテーゼの主構造を定義するのに用いられる場合のシートという用語は、実質的に平面(二次元)内に延在する形状を有する本体、例えばパッチ又はホイルと定義される。それにもかかわらず、シート構造は、二次元のものに限定されず、プロテーゼの少なくとも主本体(本体全体の55%、60%、65%、70%、75%、80%、又はそれ以上のような約50%以上)がシート様の構造を有する場合に、複雑な形状をもつ三次元サブ構造を有する本体もまた、プロテーゼという用語の定義内に含まれる。例えば、三次元サブ構造は、同じ又は任意の異なる材料で作製された多層シート上のプラグを備えることができる。こうしたプラグは、例えば、閉じられるべき創傷又は欠陥が何らかの合成材料なしに閉じるのに広すぎる場合又はギャップを閉じるのに十分なだけの組織が存在しない場合に、2つの組織の間のギャップを埋めるのに用いられてもよい。こうした三次元サブ構造の別の例は、例えば、血管又は精索をプロテーゼに接着しないように隔離する瘻孔又は障壁のような人工開口部であってもよい。さらなる例は、長いまっすぐな針を用いて皮膚及びヘルニア嚢を通して腹部の正中でのプロテーゼの位置付けを容易にするために、突出するガイドコーンとすることができる。
【0019】
プロテーゼは、外科医が外科的プロテーゼの形状を当該解剖学的部位に合うように操作し且つ該部位に縫合し又はステープルで留めることを可能にするために、比較的平坦な(すなわち実質的に二次元に延在する)且つ十分に曲げやすいものである限り、あらゆる適切な形状を有するように構成されてもよい。プロテーゼの外形及びサイズは、当業者には明らかとなるように外科用途に従って変化してもよい。プロテーゼは、予め形状設定することができ、又は外科的手順の間に外科医が形状設定することができる。植込みの間に十分に成形可能となるために、プロテーゼは、プロテーゼのその縦軸(この点での縦軸は、主軸又は主要な縦方向の延長を意味する)に沿って実質的に可撓性とすることができる。四角形様の外形のプロテーゼの事例では、四角形の本体がx-y平面内に延在する場合、縦軸は、例えばx軸又はy軸とすることができる。
【0020】
本明細書に記載のプロテーゼは、これを必要とする哺乳類(ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラットなどのような)への植込みのために用いることができる。特に、プロテーゼは、あらゆる壁の欠陥又は損傷した器官を処置するために用いることができるが、これに限定されない。壁の欠陥の種々の例は、ヘルニア欠陥、腹壁、横隔膜及び/又は胸壁の解剖学的欠陥、又は尿生殖器系における欠陥である。例えばシート様のプロテーゼを損傷した器官の周りに巻きつけること又は損傷した器官を補強するためにこれを損傷した器官の壁の中に植込むことによって処置することができる損傷した器官の種々の例は、脾臓、肝臓、腎臓、肺、膀胱、又は心臓のような内部器官、若しくは胃又は腸のような腸管の器官を含む。本明細書に記載のプロテーゼの例証となる例は、心臓パッチ、結腸パッチ、血管パッチのような血管プロテーゼ、縫合パッチ又はメッシュのような創傷治癒のためのパッチ、ヘルニアパッチ、口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、直腸、及び肛門のためのプロテーゼのような胃腸プロテーゼ、泌尿生殖器系のためのパッチなどである。
【0021】
この文脈において、「連続するポリマーフィルム層」という用語は、特に、連続するフィルムの形態のポリマー材料から作製された層のことを指す。こうした連続するフィルムは、ポリマーフィルムが一体に形成され又は成形される、すなわち一体型のフィルムに形成される限り、あらゆる公知の方法によって作製することができる。言い換えれば、本明細書で用いられる連続するポリマーフィルム層は、普通は、液体又はペースト様のポリマー材料から作製され、その後、特定の形態の連続するポリマーフィルムを生成するために該材料が硬化される。本明細書に記載の連続するフィルム層とは対照的に、織られた又は編まれたポリマー繊維の層で作製された、織られた又は編まれたテキスタイルメッシュ(すなわち、再び形状設定された又は変形された繊維)は、上記で定義されたような「連続する」ポリマーフィルム構造を有さない。理由は、こうしたテキスタイル層が、互いの間に固体/固体境界を有するいくつかの区別されるフィラメント又は繊維を該層内に含むためである。したがって、それらは連続する一体に形成されたポリマーフィルムを形成しない。それにもかかわらず、例えば鋳造、成形などによるポリマーフィルム層の製造中、若しくは多孔性構造又はメッシュ様の構造を形成するために所望の領域での硬化されたポリマー材料の例えば機械的摩耗、切断などによるその製造後のいずれかで用意される孔又は貫通穴をポリマーフィルムが備えることができることは、本発明で定義される場合の「連続する」という用語の意味の範疇にある。
【0022】
多層シート構造の層の各々の層厚さは、層の各々のそれぞれの機械的特性又は物理的特性を考慮して特異的に調整することができる。しかしながら、層の各々の厚さは、一般に、マイクロメートル範囲内であり、例えば、厚さは、約1μm〜約5000μmの範囲内である。層は、約5000μm、4500μm、4000μm、3500μm、3000μm、2500μm、2000μm、1500μm、1000μm、750μm、500μm、400μm、又は300μmよりも厚くあるべきでないが、しかしながら、プロテーゼは、それぞれの処置方法の適用又は本発明のプロテーゼの適用のために十分なだけの可撓性を提供するために本質的にシート様の形状を有するべきである。特に、多層プロテーゼの全厚が厚くなり過ぎる場合、可撓性が一般に非常に低くなって、プロテーゼが組織と共に柔軟に且つ弾性的に伸長することができながら周囲組織に充分に固定することはできないであろう。層の各々の下限は、本発明のプロテーゼに十分な破裂強度を提供するために約1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、又は100μmであるべきである。各層は、上述の範囲内の厚さを有することができ、又はこの範囲内で変化する厚さを有することができる。
【0023】
ポリマー材料は、例えば生体適合性及び/又は生体吸収性ポリマー材料のオリゴマー(例えば、通例モノマーと呼ばれる2〜5〜10〜約25コピー(copies)までの1つ又は複数の構成単位)若しくはホモポリマー及び/又はコポリマー(例えば、通例モノマーと呼ばれる約25〜50〜100〜250〜500〜約1000、又はそれ以上のコピーまでの1つ又は複数の構成単位)を含むあらゆるポリマー材料とすることができる。ポリマーは、例えば、数ある中でも、線状、環状、及び分岐から選択されてもよい、樹枝状アーキテクチャを含む1つ又は複数のアーキテクチャをとってもよい。コポリマーが用いられる場合、少なくとも2つの構成単位をランダムに、周期的に、又はブロック様などに配置することができる。
【0024】
本明細書で定義される場合の「生体適合性」ポリマー材料は、生物学的組織への最小限の毒性又は刺激をもつポリマー材料のことを指す。したがって、これは悪影響なしに身体によって十分に許容される。こうした生体適合性ポリマー材料は、長期の使用にわたって生体安定性の成分、すなわち、プロテーゼが身体内に植込まれたまま残ることを意図される期間にわたって本質的にそのままである成分とすることができる。「生体吸収性」ポリマー材料は、例えば成分の溶解、化学分解などのためにプロテーゼが身体内に残ることを意図される期間にわたってそのままではないものと定義される。言い換えれば、生体吸収性材料は、インビボでの生物学的処理を直ちに受けやすい。これは、生きている生物又はこの一部(例えば、バクテリア作用又は酵素作用)によって、若しくは可視光のような放射線、水分、高い温度及び/又は空気などへの露出のような環境の影響によって分解することができる。生体吸収性材料の分解は、結果として、低分子量の化合物のような一次分解生成物の形成をもたらす場合があり、これは、次いで、生きている生物の作用を通じてさらに崩壊する。この文脈において、「生体吸収性材料」という用語は、特に、生理的代謝プロセスによって局部的な領域から完全に除去することができる材料のことを指す。生体吸収性化合物は、細胞によって取り込まれたときに、細胞への顕著な有毒な影響なしに細胞が再使用する又は廃棄することのいずれかが可能であるように、リソソームのような細胞機構によって又は加水分解によって成分に分解することができる。生分解プロセスの例は、酵素加水分解及び非酵素加水分解、酸化、並びに還元を含む。非酵素加水分解のための適切な条件は、例えば、リソソーム(すなわち細胞内の小器官)の或る温度及びpHにおける水への生体吸収性材料の露出を含む。分解フラグメントは、典型的に、器官又は細胞のオーバーロード若しくはインビボでのこうしたオーバーロード又は他の悪影響に起因する病理学的プロセスを誘発しない又は僅かに誘発する。
【0025】
本明細書に記載のプロテーゼの多孔性層に用いることができる生体適合性ポリマー材料は、特に制約されず、プロテーゼに適した当技術分野では公知のあらゆる生体適合性材料を用いることができる。生体適合性ポリマー材料の例は、付加重合又は縮合重合のいずれかに起因するオリゴマー、ホモポリマー、及びコポリマーを含む合成ポリマーを含むことができるがこれに限定されない。適切な付加重合体の種々の例は、メチルセリレート(methyl cerylate)、メチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、ヒドロキシアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリルアクリレート、グリセリルメタクリレート、メタクリルアミド、及びエタクリルアミドから重合されたもののようなアクリル;スチレン、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、及び酢酸ビニルのようなビニル;エチレン、プロピレン、及びテトラフルオロエチレンで形成されたポリマー、若しくはこれらの任意のポリマー混合物、コポリマー、又は誘導体を含むがこれらに限定されない。縮合重合体の種々の例は、ポリカプロラクタム又はポリラウリルラクタムのようなナイロン;ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、及びポリ(エチレンテレフタレート)を含むがこれらに限定されない。こうした生体適合性ポリマー材料の例証となる例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、並びにp-ジオキサノン、炭酸トリメチレン(1,3-ジオキサン-2-オン)、及びこれらのアルキル誘導体、バレロラクトン、ブチロラクトン、デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシ吉草酸、1,5-ジオキセパン-2-オン、1,4-ジオキセパン-2-オン、6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オンのポリマー又はコポリマー、若しくはこれらの任意のポリマー混合物を含むがこれらに限定されない。
【0026】
生体吸収性ポリマー材料の種々の例は当該技術分野では公知であり、そのうちのいずれかが、一般に、本明細書に記載のポリマーコーティングに用いるのに適している。生体吸収性と考えられる生体吸収性ポリマー材料の例は、ポリジオキサノン、ポリグルコネート、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、多糖類、セルロース誘導体、ヒアルロン酸ベースのポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリ酸無水物、ポリリン酸エステル、ポリ(アミノ酸)、脂肪族ポリエステル、生分解性ポリエーテル、ポリ(アミノ酸)、PEO/PLAデキストランのようなコポリ(エーテル-エステル)、ポリアルキレン、ポリオキサレート、ポリアミド、ポリケタール、ポリ(イミノカーボネート)、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、アミド基を含有するポリオキサエステル、ポリ(無水物)、ポリシアノアクリレート、ポリ(アルキルシアノアクリレート)、ポリ(フマル酸プロピレン)のようなポリ(フマル酸アルキル)、ポリホスファゼン、ポリカーボネート、キトサン、デンプン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリノゲン、フィブリン、セルロース、アルギン酸塩、多糖類、アミラーゼのような天然由来の生分解性ポリマー、若しくは任意のこれらのポリマー混合物、コポリマー、又は誘導体を含むがこれらに限定されない。ポリオルトエステルの例は、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-コ-グリコラクチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(エチレングリコリド)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、コハク酸ポリエチレン又はポリブチレンジグリコレートのようなポリアルキレンポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシブチレート/ポリヒドロキシ吉草酸コポリマー、ポリヒドロキシアルコエート(polyhydroxyalkoate)、ポリ酸無水物、脂肪族ポリカーボネート、ポリ(ε-カプロラクトン)のようなポリカプロラクトン、生分解性ポリアミド、生分解性脂肪族ポリエステル、及び/又はこれらのコポリマーを含む。生分解性ポリマーの例証となる例は、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)のようなポリラクチド、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン(PCL)とポリ乳酸(PLA)とのコポリマー、又はポリ(ラクチド)とポリ(グリコリド)とのコポリマー(PLGA)を含むがこれらに限定されない。用いることができるコポリマーのより具体的な例は、コポリマー組成物に基づき約5%〜50%、10%〜50%、15%〜50%、又は20%〜50%、若しくはおおよそ20%、25%、30%、35%、又は50%のグリコリド含有量を有するポリ(ラクチド)とポリ(グリコリド)とのコポリマー(PLGA)を含むがこれらに限定されない。上述の生体吸収性ポリマー材料の各々は、身体内での特徴的な分解速度を有する。例えば、PGAとポリジオキサノンは、比較的速く生体吸収される材料であり、普通は数週間〜数ヶ月の範囲内で分解する。PLLAとポリカプロラクトンは、比較的ゆっくり生体吸収される材料の例であり、普通は数ヶ月〜数年の範囲内で分解する。したがって、当業者は、プロテーゼの所望の用途に適した所望の分解速度をもつ適切な生体吸収性材料を選択することができるであろう。
【0027】
いくつかの実施形態において、多孔性層は、本明細書に記載のプロテーゼの多層シート構造における層のうちの1つとして提供することができる。多孔性層は、生体適合性材料又は生体吸収性材料のような上述のポリマー材料のいずれか1つで作製することができる。「多孔性構造」は、少なくとも層の外側部分又は表面領域内に孔を有する若しくは層全体内に孔を有する層のことを指す。「孔」は、「ウェル」又は「ポット穴」とも呼ばれる、層の表面領域におけるあらゆる規則的な形状又は不規則な形状にされた孔(例えば、短いチャネル又はキャビティ(例えば、約10μm〜約500μmの、しかし少なくとも約10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、75μm、又は100μmの、且つ約200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、又は500μm以下の深さを有する)若しくは層内の球状又は非球状の形状にされた穴)を意味する。表面層のこうした孔又はキャビティは、結果として、所謂「粗い」表面をもたらす。粗くされた表面(roughed surface)は、表面テクスチャが本明細書で定義されるような孔からなることを意味する。「孔」という用語はまた、貫通穴(例えば、上記で定義されたのと同じ深さを有するが、多孔性層の全体を貫通して延在する)のことを指す。こうした貫通穴は、多孔性層の上面からその内側部分まで一様な(例えば、立方体様の又は柱様の構造を有する)、テーパした(例えば、規則的な又は不規則な円錐形の形状若しくは階段状にテーパした形状を有する)、又は不規則な(例えば、曲がった又は蛇行した形状を有する)様式で延在することができる。加えて、貫通穴はまた、多孔性層を貫通して延在するだけでなく、2つ以上の層を貫通して、例えばプロテーゼのすべての層を貫通して延在してもよい。これは、孔が、多孔性層内にのみ延在する、又はプロテーゼの全体を貫通して延びて、これによりプロテーゼ内にマイクロチャネルを形成する貫通穴であってもよいことを意味する。一般に、孔又は貫通穴の延在する方向は、シートの平面の広がりに対して実質的に垂直である。貫通穴がプロテーゼの上面からプロテーゼの反対側の表面まで延在する事例において、プロテーゼは、時には有孔シート又はメッシュ様のシートと呼ばれる。
【0028】
孔又は貫通穴の境界を定める壁は、少なくとも1対の対向する横側表面と、随意的に下側表面とによって画定される。「表面」という用語は、あらゆる所望の幾何学的形状であってもよい、平坦な又は湾曲した領域のことを指すと理解されてもよい。孔又は貫通穴の少なくとも一部又は全体の2つの対向する横側表面の間の距離は、マイクロメートル範囲内である。本明細書で用いられる場合のマイクロメートル範囲という用語は、約1μmから10000μmまでの間の範囲のことを指す。孔の表面は、それらがその中に所望のタイプの細胞又は組織が成長することを可能にする限り、あらゆる所望の内部表面特徴及びあらゆる所望の材料のものであってもよい。特定の表面特徴の種々の実施形態は、1つ又は複数の段差、凹部、反転部、膨らみ、溝、又はストライエーションを含む。しかしながら、いくつかの実施形態において、表面は、例えば、少なくとも本質的に直線形の表面を有するものを含む少なくとも実質的に平坦な又は少なくとも本質的に平らになった、あらゆる一様なトポロジーのものとすることができる。
【0029】
そのうえ、孔の表面の異なる領域は、例えば、孔が多層構造の2つ以上の異なるポリマーフィルム層内に延在する場合に、異なる表面特徴を提供し、異なる材料を含む、又は異なる材料からなってもよい。これは、組織が孔の中に又は孔を通して成長する傾向を1つの孔又は貫通穴内で異なるように調整することができるようにする。
【0030】
本発明によれば、孔又は貫通穴は、組織が孔の中に又は孔を通して成長することができる限り、直線形の形状、曲がった形状、又は蛇行した(若しくは他の状態で曲がりくねった)形状を含むあらゆる所望の形状を有してもよく、且つ、1つ又は複数の曲がり、ねじれ、又は分岐を含んでもよい。典型的な実施形態において、孔又は貫通穴は、1つの縦軸を有する。孔は、多角形、立方体(例えば長方形の、ひし形様の、又は四角形のプロフィールをもつ)又は代替的に円形様の構造のような規則的なプロフィール、若しくは所望の不規則な断面及び/又は回旋状の断面を有するあらゆる他の適切な不規則なプロフィールといったあらゆる所望のプロフィールの断面を有してもよい。いくつかの実施形態において、孔の不規則なプロフィールは、織る又は編むことによって用意することはできないが、スタンピング、研削、レーザ切断などのような機械的摩耗又は切断法を用いることによって製造することができるプロフィールである。本発明との関連において、非円形の又は左右対称の形状のようなこうした不規則な形状は、孔又は貫通穴の「異方性の形状」とも呼ばれる。この文脈における「異方性の」はまた、孔の形状が不規則である、例えば、非円形又は左右対称である、若しくは平面図又はその断面のいずれかにおいて層内の孔構造が不規則である(すなわち、例えば、種々の孔の形状又は種々の孔径をもつ孔若しくは一様に分布していない孔で形成された左右対称の構造)ことを意味する。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態において、孔は、腹部組織へのプロテーゼの固定を可能にするための手段として機能する。この固定効果は、多孔性層又はプロテーゼの孔の中への組織の強化された浸透、該孔「の中への成長」、又は該孔「を通した成長」からもたらされる。加えて、多孔性表面はまた、より高い表面積及び流体保持能力により高い摩擦又は湿潤性を提供することができる。いくつかの実施形態において、例えば粗化された(roughened)型での鋳造によって用意することができる粗くされた表面の摩擦は、例えば孔又は多孔性層の表面を改質するための処理によって適切に改善することができる。こうした処理は、機械的手段、熱手段、電気手段、又は化学的手段のような種々の手段を含んでもよい。層の所望の表面摩擦及び/又は表面粗さを調整するのに適した機械的処理の種々の例は、プラズマ処理、サンドブラスト処理、エンボス加工処理(例えば、成形可能なペーストを印刷することによる)、又はサイジング(若しくは「コイニング」)処理を含むがこれらに限定されない。電気処理の例としてコロナ処理又は放電機械加工を挙げることができる。化学処理の種々の例は、プラズマ重合コーティング、溶液コーティング、又は化学エッチングを含む。湿潤性を増加させるための化学表面処理の例証となる例として、例えば、親水性のポリマーでコーティングすることによって又は例えばトリス(ヒドロキシメチル)アクリルアミノメタン(THAM)のような界面活性剤若しくはショ糖エステルで処理することによってあらゆる疎水性の表面の表面特性を親水性にするための処理が言及される。化学表面処理のさらなる例は、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピル(aminoproyl)トリエトキシシランポリジメチルシロキサンのようなシラン、ポリ(メチルメタクリレート)又はポリ(エチルメタクリレート)のようなポリアクリレート、若しくは他の生体適合性モノマーとのコポリマー、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、又はポリ(乳酸-コ-グリコール酸)のような生体吸収性ポリマー、内皮細胞増殖因子(例えば血小板由来ECGF、ECGF-β、ECGF-2a、又はECGF-2b)を含む表面への内皮細胞の接着(adhesion)又は付加を促進する又は助長する接着促進分子、ペプチド、ポリペプチド、糖蛋白、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テネイシン、コラーゲン、ゼラチン、ポリリシン、合成ペプチド、望ましくはアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)、アルギニン-グルタミン酸-アスパラギン酸-バリン(REDV)、及びチロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン(YIGSR)のようなそれらのアミノ酸配列中に約3〜約30のアミノ酸残基を有する接着ペプチドといった細胞表面タンパク質のようなタンパク質などに露出する又はこれらでコーティングすることを含むがこれに限定されない。
【0032】
孔は、それらのサイズが、プロテーゼが患者に挿入された後の治癒プロセスの間に組織が孔に浸透する、孔「の中に成長する」、又はプロテーゼ「を通して成長する」ことを可能にする限り、あらゆる孔径を有することができる。いくつかの実施形態において、多孔性層の孔の平均孔径は、約0.5mm〜約5mmであり、両端の値も含まれる。平均孔径は、植込み部位及び腹部組織の孔の中への浸透、孔の中への成長又は孔を通した成長の率に依存する。特に、平均孔径の下限は、約0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、又は1.5mmとすることができる。平均孔径の上限は、約2.6mm、2.7mm、2.8mm、2.9mm、3.0mm、3.5mm、4.0mm、4.5mmのような約2.5mmから5mmまでの間のあらゆる値に調整することができる。「平均孔径」という用語は、それぞれの多孔性層内のすべての孔の幅又は直径の平均値を意味する。この点で、平均孔径を測定するための方法は、当技術分野では公知である。例証となる例は、光学顕微鏡法又は走査電子顕微鏡法であるが、本発明はこれらに限定されない。
【0033】
いくつかの実施形態において、多層構造を有するプロテーゼは、多孔性層を支持する付加的な連続するポリマーフィルム層を有する。図3では、こうした二層プロテーゼの例証となる実施形態がその横断面図で示される。層10は、上記で説明した多孔性層であり、その上に補強層とも呼ばれる第2の層20が提供される。補強層20は、一般に、それぞれの補強作用をプロテーゼに提供し、したがって、多層構造の他の層のいずれも十分な補強作用を有さない場合に、組織を補強すること若しくは組織又は壁の欠陥を閉じることを可能にする。この層は、プロテーゼが患者への挿入後に壊れない又は裂けないことを保証し且つ組織を補強する又は閉じることを可能にするのに十分なだけの破裂強度のようなそれぞれの物理的特性を材料が有する限り、あらゆるポリマー材料で作製することができる。例証となる例は、上記で説明した生体適合性又は生体吸収性ポリマー材料を含むがこれに限定されない。多孔性層とは反対側のプロテーゼの表面、すなわち内臓器官に面する表面が補強層として用いられるいくつかの実施形態において、層はまた、内臓組織へのプロテーゼのあらゆる接着を回避するために、内臓組織に対する接着防止効果を提供することができる。この内臓組織に対する接着防止効果は、例えば、支持層の表面の相対的な滑らかさ、すなわち、本質的な孔又はサブマイクロメートル範囲内の孔を有さないこと、又は接着防止特性を有する特定のポリマー材料を含むことのいずれかによって提供することができる。
【0034】
上記に照らして、プロテーゼが二層構造で作製される事例において、プロテーゼは、一般に、多孔性層の外側が腹壁に面し、他の側、すなわち上述の補強層の側が内臓器官に面するように、患者(一般に哺乳類)の身体の中に植込まれる。したがって、プロテーゼの多層構造は、第1の層の多孔性構造により腹部組織への良好な固定を可能にすることができ、一方、内臓部分に面する第2の表面はプロテーゼへの内臓組織の接着を防止する。いくつかの実施形態において、腹部組織への固定効果は、上記でより詳細に解説されたような高い摩擦又は高い湿潤性を有する表面を備えた多孔性層を提供することによって改善することができる。代替的な実施形態において、しかしながら、表面は、それぞれの特性、すなわち、高い表面摩擦及び/又は粗さ若しくは高い湿潤性などによる腹部組織への良好な固定効果を提供する、付加的な層でコーティングすることができる。
【0035】
本発明のプロテーゼは、いくつかの実施形態において、腹部組織への固定特性を可能にする上記で説明した第1の層と上記で説明した第2の補強層に加えて、内臓組織に対する接着防止効果を有する付加的なポリマーフィルム層を備える。図4は、多孔性層10、補強層20、及び接着防止コーティング層30を備えるこうした三層プロテーゼの例証となる実施形態の横断面図を示す。層30が層20の全体を覆う図4に示された例証となる実施形態とは対照的に、接着防止コーティング層30は、周囲の器官又は組織に対する障壁として、接着防止効果が必要とされるプロテーゼの一方又は両方の外面の一部として提供することができる。
【0036】
「接着防止コーティング層」という用語は、プロテーゼ上の内臓組織のような器官又は組織へのプロテーゼの取り付けが望まれない場合に、この付加的な層がこれらの器官又は組織のあらゆる接着を防止するのに十分なだけの接着防止効果をプロテーゼに提供することを意味する。したがって、内臓組織への接着が望まれない場合、例えばヘルニア修復などにおいて、この層は、前述の二層の実施形態と同様に身体内の内臓組織に面する側に提供される。接着防止コーティング層は、一般に、材料特性、層の表面構造、又は添加剤、フィラー、安定薬、接着防止薬などのような層の付加的な成分が内臓組織に対する接着防止効果を提供する限り、他の二層と同じポリマー材料で作製することができる。接着防止層に用いられるべきポリマーの種々の例は上記で与えられる。
【0037】
ポリマー材料に加えて、接着防止コーティング層は、一般的な添加剤又はフィラー材料、安定薬、若しくは接着防止薬のような添加剤を備えてもよい。薬剤が生体適合性である、すなわち例えば無毒である又は刺激のないものである限り、この分野では公知のあらゆる接着防止薬を用いることができる。接着防止コーティング層に用いることができる接着防止薬の例証となる例は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、コラーゲン、コラーゲン(collage)/キトサン混合物、オメガ-3脂肪酸、ヒアルロン酸、酸化再生セルロース、デキストラン、ペクチン、ゼラチン、多糖類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポロキサマーのような生体適合性の界面活性剤、及びこれらの材料からの誘導体及び/又は混合物を含むがこれらに限定されない。コラーゲンとCMCは、接着防止薬として用いる前に架橋させることができる。
【0038】
他の例証となる実施形態において、二層又は三層構造(或いは3つ、4つ、又はそれ以上の異なる層を備えた多層構造)を有する上記で説明したプロテーゼは、少なくとも1つ、2つ、又は3つの薬剤放出層で構築される。これは、多孔性層10及び/又は補強層20及び/又は接着防止コーティング層30が1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含んでもよいことを意味する。代替的な実施形態において、上記で説明したプロテーゼは、該プロテーゼの一方又は両方の最外層上に、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含む付加的なポリマー薬剤放出層がコーティングされる。1つ又は複数の他の層が薬剤を担持する場合に、2つの付加的な薬剤放出層を提供することもできる。図5は、両側が薬剤放出層40及び42でコーティングされた図4に示されたプロテーゼの例証となる実施形態を示す。
【0039】
この点で、付加的な薬剤放出層40及び42は、材料が薬剤放出特性を有する限り、多層構造の他の層のために上記で定義されたようなあらゆる生体適合性又は生分解性ポリマー材料で作製されてもよい。例えば、ポリマーコーティングは、例えば薬剤の溶離又は拡散速度を調整することによって薬剤の溶離を制御することができる。薬剤の放出はまた、ポリマーコーティングの制御された分解によって達成されてもよい。生体吸収性ポリマー材料がコーティングされる場合、ポリマーコーティングは、インビボでのポリマー化合物の分解反応に関連することがあるあらゆる悪影響を回避するために、薬剤溶出後に身体内で生物分解されるべきである。したがって、これらの特定の実施形態において、上記で定義されたような生体吸収性ポリマー材料は、薬剤放出層40及び薬剤放出層42のために用いられるべきである。加えて、各薬剤放出層の表面は、下にある層と同様の機能を有するようにするために、多孔性層10又は接着防止コーティング層30と同様の様式で表面処理されてもよい。これは、最も外側の薬剤放出層の一方又は両方が分解する場合に、下にある層が、それぞれの上に重なる層と同様の固定又は接着防止効果を有することを意味する。したがって、プロテーゼのそれぞれの表面の固定効果又は接着防止効果は、薬剤放出層の分解によって本質的に変化しないであろう。
【0040】
本発明との関連での「薬剤」という用語は、一般に、薬剤含有ポリマー層を提供するために上述の薬剤放出層のいずれかのポリマー組成物中に混合する若しくはポリマー層中に含浸させる又は組み入れることができる治療薬又は医薬品を意味する。薬剤含有コーティングにおける薬剤は、植込み可能なプロテーゼのための薬剤含有層に用いるのに適したあらゆる治療薬又は医薬品とすることができる。種々の例は、副腎皮質ステロイド(コルチゾール、コルチゾン、コルチコステロン、ブデノシド、エストロゲン、スルファサラジン、メサラミン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、6-α-メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、及びデキサメタゾン)、非ステロイド系薬(サリチル酸誘導体、例えばアスピリンのような)のような抗炎症薬;パラセタモール(アセトアミノフェン)、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)(例えばアスピリン、イブプロフェン、及びナプロキセンのようなサリチレート)、麻薬(例えばモルヒネ)、麻薬特性をもつ合成ドラッグ(例えばトラマドール)のような鎮痛薬;免疫抑制又は免疫除去薬(シクロスポリン、タクロリムス(FK-506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチルのような);血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF、PDGF、TGF-β)といった血管新生薬のような創傷治癒又は瘢痕形成防止薬;内皮細胞増殖因子(例えば、血小板由来ECGF、ECGF-β、ECGF-2a、又はECGF-2b)を含む表面への内皮細胞の接着又は付加を促進する又は助長する接着促進薬;トリクロサン又はセファロスポリン、若しくはマガイニン、アミノグリコシド、又はニトロフラントインといった抗菌ペプチドのような抗菌薬;細胞毒薬、細胞増殖抑制薬、又は細胞増殖影響因子;血管拡張薬又は内因性血管作用機構を妨害する薬剤;ビンカアルカロイド(例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、及びビノレルビン)のような天然物、パクリタキセル、エピジポドフィロトキシン(例えばエトポシド、テニポシド)、抗生物質(ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン、及びイダルビシン)、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)及びマイトマイシン、酵素(L-アスパラギンを全身的に代謝し、且つ個々のアスパラギンを合成する能力をもたない細胞を奪うL-アスパラギナーゼ)を含む抗増殖性物質/抗有糸分裂薬のような抗再狭窄薬;ナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミド及び類似体、メルファラン、クロラムブシルのような)、エチレンイミン、及びメチルメラミン(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、スルホン酸アルキル-ブスルファン、ニトロソウレア(nirosoureas)(カルムスチン(BCNU)及び類似体、ストレプトゾシン)、トラゼン-ダカルバジニン(DTIC)のような抗増殖性物質/抗有糸分裂アルキル化薬;葉酸類似体(メトトレキサート)、ピリミジン類似体(フルオロウラシル、フロクスウリジン、及びシタラビン)、プリン類似体及び関連する阻害薬(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン、及び2-クロロデオキシアデノシン{クラドリビン})のような抗増殖性物質/抗有糸分裂代謝拮抗薬;白金配位錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトーテン、アミノグルテチミド;ホルモン(例えばエストロゲン);抗凝固薬(ヘパリン、合成ヘパリン塩、及び他のトロンビン阻害薬);線維素溶解薬(組織プラスミノゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、及びウロキナーゼのような);抗血小板薬(アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブのような);抗遊走薬;抗分泌薬(ブレベルジンのような);para-アミノフェノール誘導体(例えばアセトアミノフェン);インドール及びインデン酢酸(インドメタシン、スリンダク、及びエトダラク(etodalac)のような)、ヘテロアリール酢酸(トルメチン、ジクロフェナク、及びケトロラクのような)、アリールプロピオン酸(イブプロフェン及び誘導体のような)、アントラニル酸(メフェナム酸及びメクロフェナム酸のような)、エノール酸(ピロキシカム、テノキシカム、フェニルブタゾン、及びオキシフェンタトラゾンのような)、ナブメトン、金化合物(オーラノフィン、オーロチオグルコース、チオリンゴ酸金ナトリウムのような);一酸化窒素供与体;アンチセンスオリゴヌクレオチド及びそれらの組合せを含むがこれらに限定されない。
【0041】
いくつかの実施形態において、薬剤は、抗体又はその抗体結合フラグメント、抗菌増殖因子のような増殖因子、及び/又は心血管治療用タンパク質から選択されるタンパク質である。プロテーゼに用いられてもよい薬剤の別の例は、抗炎症薬、鎮痛薬、抗菌薬、創傷治癒薬又は瘢痕形成防止薬、及び/又は抗再狭窄薬又は免疫抑制薬から選択された小さな化学分子である。
【0042】
この文脈において、コーティングの層の1つ又は複数中に組み入れられるべき薬剤(治療的又は薬学的活性薬)は、小さい有機又は化学分子、タンパク質、又はタンパク質のフラグメント、ペプチド、若しくはDNA又はRNAのような核酸、或いはそれらの任意の組合せとすることができることに留意されたい。本明細書で用いられる場合の「小さな化学分子」という用語は、典型的に、随意的に1つ又は2つの金属原子を含むことができる、100から2000ダルトンまでの間、又は100から1000ダルトンまでの間の範囲内の分子量を有する、少なくとも2つの炭素原子、しかし好ましくは7又は12以下の回転可能な炭素結合を含む有機分子を表す。本明細書で用いられる場合の「ペプチド」という用語は、典型的に、2〜約40、2〜約30、2〜約20、2〜約15、又は2〜約10のアミノ酸残基を含むジペプチド又はオリゴペプチドのことを指す。ペプチドは、天然由来のペプチド又は合成ペプチドであってもよく、他に20の天然由来のL-アミノ酸、D-アミノ酸、天然由来でないアミノ酸及び/又はアミノ酸類似体を含んでもよい。合成ペプチドの具体例は、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)、アルギニン-グルタミン酸-アスパラギン酸-バリン(REDV)、及びチロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン(YIGSR)である。ここでの「タンパク質」は、40超のアミノ酸残基を含むあらゆる天然由来のポリペプチドを意味する。タンパク質は、全長型タンパク又は欠損型(truncated form)、例えば、活性フラグメントとすることができる。タンパク質の例証となる例は、選択された細胞受容体に対する抗体、その抗体結合フラグメント、又は抗体様の特性をもつ他の結合タンパク質(例えば、アフィボディ(affibodies)又は「Anticalins(登録商標)」として知られるリポカリン突然変異タンパク質);阻害抗体、増殖因子に対して向けられた抗体、増殖因子と細胞毒素とからなる二官能分子、抗体と細胞毒素とからなる二官能分子のような血管増殖阻害薬;VEGF(血管内皮増殖因子)のような増殖因子及び信号伝達のための同様の因子、心血管治療用タンパク質、又は心臓ホルモン及びその活性フラグメント、若しくはこうした心臓ホルモンのプロホルモン又はプレプロホルモン(これらのホルモン又はプロホルモンは、それらが40未満のアミノ酸残基を有する場合の本明細書で定義されるようなペプチド、又はそれらのポリペプチド配列が40よりも多いアミノ酸残基を含有する場合のタンパク質のいずれかとすることができる)を含むがこれらに限定されない。心血管治療薬のさらなる例は、ペプチド又は一酸化窒素に対するDNAのようなDNAとすることができる。核酸分子の例は、センス又はアンチセンスDNA分子(標的遺伝子の発現が制御されるべきである場合)又は産生されるべき治療用活性タンパク質のコード配列(単独の又は例えば遺伝子治療ベクターのいずれかにおける)を含む。こうした事例において、核酸は、例えば特許文献3で説明されたように創傷治癒を促進するタンパク質をコードしてもよい。
【0043】
1つ又は複数のコーティング層中の薬剤の(若しくは2つ以上の薬剤が合わさった)量は制限されず、ポリマー層の物理的特性、特に、破裂強度、可撓性、ガラス転移温度、又は破断点伸びが悪影響を受けない限り、望むだけ多くすることができる。いくつかの実施形態において、薬剤の量は、薬剤を含有するポリマー層の乾燥重量に基づき約35wt%までであってもよい。薬剤は、薬剤を含有するポリマー層の乾燥重量に基づき0.1wt%〜35wt%、1wt%〜35wt%、若しくは1wt%〜10wt%、15wt%、20wt%、25wt%又は30wt%の量で存在してもよい。
【0044】
いくつかの実施形態において、プロテーゼは記憶効果特性を備える。記憶効果は、多層構造が所望の外形(すなわち、形状記憶効果を有する)に作り変わることを可能にする。材料は、例えば温度変化のような外部刺激によって誘発されて変形した状態(一時的な形状)からその元の(恒久的な)形状に戻る。この記憶効果は、例えば、最小限に侵襲的な(小さい切開部又は自然開口部を通した)植込み技術を用いることによって、外科的植込みの間に植込片を正しい位置に位置付けるのに用いることができる。プロテーゼは、その小さい一時的な形状で身体内の所望の部位に位置付けられ、これはその後、例えば温度上昇によって形状記憶が作用して、その恒久的な(大抵はより嵩張る)形状に作り変わる。したがって、切開部は、普通はより小さく作製することができ、又は最小にすることができる。加えて、例えば外科縫合において記憶効果プロテーゼが用いられるとき、用いられる材料の形状記憶特性は、自己調整する最適な張力で創傷を閉じることを可能にし、これは、きつ過ぎる縫合による組織損傷を回避し、治癒及び/又は再生を支援する。
【0045】
記憶効果特性は、前述のように層10、層20、層30、層40、又は層42のいずれかによって、又は多層構造の中に記憶効果を提供する2つの付加的な層(50、52)を付加することによって提供することができる。これにより、これらの層は、多層構造の2つの隣接する層として又は異なる部位に提供することができることは言うまでもない。図6に示される例示的な実施形態(これは種々の可能な実施形態のうちのほんの1つである)において、記憶効果を提供する2つの層50及び52は、例えば、多孔性層10と補強層20との間に配置され、これは同時に接着防止特性を有することができる。他の例において、両方の層は、例えば図4又は図5に示された3層又は5層のプロテーゼにおいて提供することができる。薬剤放出又は表面処理された最外層のそれぞれの特性を維持することができるように、記憶効果を提供する層50及び52は、普通は補強層の代わりに又は補強層に隣接して提供される。
【0046】
記憶効果を提供する層は、形状記憶ポリマー(SMP)のような十分な記憶効果を有するあらゆる材料とすることができる。SMPは、例えば温度変化のような外部刺激によって誘発される変形した状態(一時的な形状)からそれらの元の(恒久的な)形状に戻る能力を有するポリマー材料である。種々のSMPは、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンのポリマー又はコポリマーのような熱可塑性及び熱硬化性(架橋された)形状記憶ポリマーである。これらのポリマー及びコポリマーは、医療機器の技術分野において既知である。普通は、SMPは、いかなる有毒な又は刺激のある悪影響をも回避するために生体適合性であるべきである。
【0047】
記憶効果を有する二層構造の例証となる例は、それぞれ約50%のポリ(ラクチド)含有量とポリ(グリコリド)含有量とを有するポリ(ラクチド)・ポリ(グリコリド)コポリマー(PLGA)で作製された層50と、約75%のポリ(ラクチド)含有量と約25%のポリ(グリコリド)含有量とを有するポリ(ラクチド)・ポリ(グリコリド)コポリマー(PLGA)で作製された層52である。
【0048】
いくつかの実施形態において、多層シート構造を有するプロテーゼは、異方性の孔構造を有し、又は孔は、異方性の形状を有する。これらの異方性の構造は、本発明のプロテーゼを、該プロテーゼが挿入されるべき部位の異方性の性質に適合させることができるようにする。より詳細には、プロテーゼの可撓性及び破裂強度は、例えば周囲の筋腱膜の層又は周囲組織へのプロテーゼの改善された取り付け及び組み入れを得るために、特定の新規な異方性の孔構造によって十分に且つ様々に制御することができる。
【0049】
上述の利点を提供し且つ本発明の方法によって直ちに用意することができる例証となる異方性の構造が、図8、図9、及び図11〜図13に示される。
【0050】
図8は、プロテーゼのすべての層を貫通して延在するテーパした貫通穴(点線で示される)を有する図3に示されたプロテーゼ(二層プロテーゼ)の実施形態の横断面図である。こうした孔構造は、3つ、4つ、又はそれ以上の異なる層を備えたプロテーゼのような上記の多層構造のすべてに適用することができることは言うまでもない。こうした孔の断面の形状は、円形の形状、楕円形の形状、卵形の形状、多角形の形状(例えば、三角形、四角形、五角形、又はひし形様の形状)、非円形の断面形状又は左右対称の形状のようなあらゆる規則的な形状又は不規則な形状とすることができる。前述のように、壁の表面の構造はまた、表面摩擦を強化するために不規則な形状にすることができる。直線形の形状の貫通穴(点線で示される)を有する図7に示されたプロテーゼとは対照的に、孔の中への組織の浸透又は成長は、特定の異方性の孔の形状(テーパした形状、例えば円錐形又はピラミッド形の形状)によって制御することができる。これに加えて、補強層20の表面上の孔径は、あらゆる組織浸透を本質的に防止することができるように、サブマイクロメートル範囲に調整されてもよい。補強層20の表面上の小さい穴は、しかしながら、例えば薬剤の溶離を同時に可能にすることができる。
【0051】
図9は、図3に示されたプロテーゼ(二層構造を有する)のさらなる実施形態の斜視図である。この例示された実施形態において、孔は、プロテーゼの多孔性層のみを通した貫通穴として形成される。これはまた、例えば多孔性層10の中への腹部組織の成長を容易にし、一方、同時に、補強層20は、組織に対する遮断層又は障壁層として働く。この特定の実施形態において、孔は四角形様の形状を有する。
【0052】
図10は、同じくプロテーゼの多孔性層(10)のみを貫通して延在する貫通穴を有する、図3に示されたプロテーゼの別の実施形態の斜視図である。この実施形態において、孔は円筒形の形状を有する。
【0053】
ここでは、本発明のプロテーゼが図9及び図10に示された2つの例証となる例に限定されないことに留意されたい。孔を形成することができる種々の形状設計が当業者には公知である。こうした孔構造(多孔性層10内に延在するが、多層構造の1つ、2つ、又は3つ以上の層内にも延在することができる、又はプロテーゼを貫通して延在する貫通穴とすることができる)の例証となる種々の例が、例えば図11a、図11b、及び図11cに示される。表面領域のみにキャビティ又は凹部を有する図11aに示された粗くされた表面、例えば円錐形又はピラミッド形の形状を有する図11bに示されたテーパした孔の形態、又は図11cに示された嚢状の孔の形状のような各々の例証された実施形態が、例えば周囲の筋腱膜の層又は周囲組織へのプロテーゼのより良好な取り付け及び組み入れを保証するために、制御された異方性の孔構造を提供するのに適している。当業者であれば、ルーチン実験によって付加的な孔の異方性の孔形状を見出すことができる。
【0054】
図12a〜図12c及び図13a〜図13bは、改善された異方性の孔形状又は孔構造を有するプロテーゼのさらに例証となる実施形態を示す。図12a〜図12cは、異方性の孔形状を有するプロテーゼの種々の実施形態の平面図である。図13a〜図13bは、異方性の孔構造を有するプロテーゼの種々の実施形態の平面図である。例えば、図13aでは、プロテーゼの左側の孔は四角形の形状を有し、一方、右側の孔はひし形様の形状を有し、一方、縦軸は変化しない。同様に、図13bに示されたプロテーゼにおいて、孔の形状は、左側から右側へと変化する。この実施形態において、形状は、円形の形状から卵形の形状に変化する。当業者は、周囲組織の異方性の解剖学的性質をより良好にコピーする又は模擬するのに十分なだけの異方性を有する特定の制御された孔構造を設計するために、ルーチン実験によって同一平面上の孔の形状を変化させる又は異なる形状を混合するいくつかの可能性をもたらすことができる。
【0055】
これらのすべての孔の形状は、これらの特定の新規な異方性の孔の形状とプロテーゼの異方性に対するそれらの影響が外科的プロテーゼの技術分野において独自のものであるので、前述の従来技術で説明されたようないかなる織る又は編む技術によっても作製することはできないことに留意されたい。
【0056】
代替的な実施形態が図14に示される。この実施形態において、その表面層にウェル又はポット穴60の形態の孔を備える多孔性層10が示される。補強層20などのような他の層は、この図には示されない。多孔性層のフィルム厚さは、例えば、約500μmであり、ウェル又はポット穴60は、例えば、レーザ切断、エンボス加工、又はドリリングを用いることによって多孔性層の中に切り込むことができる。この場合、ウェル又はポット穴60は、穴60の深さが多孔性層の厚さよりも小さいので、多孔性層を貫通しない。図14に示された実施形態において、厚さは、例えば約300μmである。ウェル又はポット穴60が提供されないプロテーゼの他の部分に、前述のように多孔性層又はプロテーゼ全体を穿孔する貫通穴のような孔を提供することができる(図示せず)。したがって、この実施形態のプロテーゼは、2つの異なる孔、すなわち貫通穴及び穴60を有することができる。穴60、すなわちウェル又はポット穴は、例えば細胞再生を誘発するのに用いることができる。細胞再生を誘発するために、ウェル又はポット穴は、前述のように薬剤、タンパク質などのような添加剤を含有することができ、又はそれらは、単純に細胞再生のためのキャビティ部位として働くことができる。
【0057】
本発明の第2の態様において、多層シート構造を有するプロテーゼの製造方法が提供される。方法は、多層シート構造をもたらすために2つの連続するポリマーフィルム層を形成するステップを含む。
【0058】
この点で、プロテーゼのいずれの層も連続するフィルムの形態のポリマー材料から作製されることに留意されたい。そのうえ、連続するポリマーフィルム層は、普通は、液体又はペースト様のポリマー材料から作製され、その後、連続するポリマーフィルムを生成するために該材料が硬化される。いくつかの実施形態において、例えば、射出成形及び圧縮成形のような成形法、溶液コーティング、浸漬コーティング、又はスピンコーティングのようなコーティング法、溶液鋳造、及び/又はブロー押出し又はフィルム押出しのような押出し法によって少なくとも2つの層が形成される。
【0059】
鋳造方法が用いられる事例において、ポリマーフィルムは、孔のマトリクスパターンを有する特定の型を用いることによって、ポリマーフィルム層の製造中に孔又は貫通穴によって間抜きすることができる。例えば、粗化された型を用いることによって、粗くされた表面を提供することができる。同様に、メッシュ様の構造のようなあらゆる孔構造は、それぞれの二部品又は多部品の型が用いられる場合に射出成形技術によって容易に作製することができる。
【0060】
代替的な実施形態において、多層構造、又は1つ、2つ、又はそれ以上のこれらの層若しくは最外層の表面を処理するために、種々の機械的処理又は化学処理を用いることができる。機械的処理の例示的な実施形態は、スタンピング、研削、レーザ切断、放電機械加工、ドリリングなどのような機械的摩耗又は切断法である。これらの方法によって、所望の領域で処理されたそれぞれのポリマー層は、多孔性構造又はメッシュ状構造に容易に形成することができる。
【0061】
別の例示的な実施形態において、例えば粗化された型上に鋳造し、その後、その上に多層構造の他の層を重ねることによって用意することができる粗くされた表面の摩擦は、例えば、孔又は多孔性層の表面を改質するための処理によって適切に調整することができる。こうした処理は、機械的手段、熱手段、電気手段、又は化学手段のような種々の手段を含んでもよい。層の所望の表面摩擦及び/又は表面粗さを調整するのに適した機械的処理の種々の例は、プラズマ処理、サンドブラスト処理、エンボス加工処理、又はサイジング処理を含むがこれらに限定されない。化学処理の種々の例は、プラズマ重合コーティング又は溶液コーティング若しくは化学的エッチング処理を含む。例えば、湿潤能力を増加させるための化学表面処理の例証となる例として、親水性のポリマーでコーティングすることによって又は例えば界面活性剤で処理することによってあらゆる疎水性の表面の表面特性を親水性にするための処理を挙げることができる。
【0062】
上記で説明した溶媒鋳造多層フィルムプロセスは、フィルムがその製造後にレーザ切断されることになるので、現在のフィラメント織りメッシュプロセスの限界を克服する一助となる。レーザ切断は、腹壁の異方性の解剖学的性質と最適に合致するであろう異方性の設計を含む設計のすべての可能性を広げる。したがって、プロテーゼは、一般に、所望の異方性の特性を与えるように事前に計算的に解析された(例えば、一般に繰返しプロセスを用いる有限要素解析、FEA、すなわち一般に繰返しプロセスを用いることによる)設計を用いて、レーザ切断によって平坦な多層シートから切断される。同方法はまた、最小量の材料を用いる設計を達成するために用いることができる。したがって、材料コストを下げることができ、且つ製造プロセスをより費用効率の高いものにすることができる。加えて、所謂ハルステッドの原理に従えば、最小限の量の異物が患者に導入される程、患者はより良い。ヘルニア修復では、これは、恒久的な支持のために最適な強度をもつ最小限の量の材料を有することに等しい。この原理を用いて、上記で説明した方法によって孔の設計及びプロテーゼの厚さを満足に調整することができる。
【0063】
すべてのこれらの方法は、制御された孔構造の製作を容易にする。例えば、非円形の形状又は左右対称の形状のような不規則な形状を有する孔、若しくは異方性の構造をもつ孔構造をこれらの方法によって製造することができる。これらの方法によって規則的な孔構造を製造することもできることは言うまでもない。異なる孔の形状はプロテーゼに関して既に詳細に説明されているので、ここでは繰返さない。上述の方法のうちの1つを用いることによってそれぞれの形状をどのようにして生産するのかは、当業者には公知である。
【0064】
別の例示された実施形態において、多層構造の最外層は、無機又は有機微粒子及び/又は無機/有機複合粒子をポリマー混合物中に分散させ、次いで粗化された表面を得るためにそれぞれの層を成形することによって作製される。種々の例は、例えば、シリカ、チタニア、ベントナイト、粘土、又はこれらの混合物のような無機粒子、ポリマーフィルムのポリマーよりも高い融点を有するオリゴマー又はポリマーのような有機粒子、若しくはポリマーシェルを有し且つコア材料としてのシリカ又はチタニアの粒子のような無機/有機複合粒子を含む。したがって、改善された表面摩擦特性を有する粗くされた表面を提供することができる。必要であれば、得られた粗い表面は、表面の摩擦又は湿潤性をさらに改善するために前述のように後処理することができる。
【0065】
前述のように、方法は、例示的な実施形態において、それぞれのコーティングが望まれる場合に、プロテーゼの一方又は両方の外面の少なくとも一部上に接着防止コーティング層を形成することを含む。方法はまた、薬剤放出層又は記憶効果を提供する層を提供するステップを包含することができる。
【0066】
以下で、多層プロテーゼの製造方法の例証となる実施例が説明され、これらの実施例は、本発明をこれらの3つの実施形態に限定することを意図されない。すべての実施例において、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、多層プロテーゼのポリマー材料として用いられる。本出願人は、十分に生体適合性となることが示されているPVDFの多数の層を鋳造するこれらの新規な方法を開発した。PVDFは、より高い強度を有し、なおかつ良好な可撓性を保持する。これは、プロテーゼが現在のポリプロピレンメッシュプロテーゼよりも薄く作製されることを可能にする。これはまた、これらの特性を非常に良好に保持し、ポリプロピレンメッシュでは重要な問題であったクラックを、身体内に埋め込まれたときに時間と共に形成しない。これは加水分解への耐性が高く、最小限の収縮を有する。これは、従来のPTFEメッシュを上回るさらに強い改善である。
【0067】
(1)溶液鋳造:
この方法によれば、ポリマー材料を、最初に適切な溶媒中に溶かした。薬剤を含有するこれらの層において、鋳造する前に薬剤を最初にポリマー溶液中に溶かした。次いで、溶液を型上に適用し、その表面プロフィールが第1の層の表面粗さ又はプロフィールを決定した。型の外形はまた、フィルムが植込まれたときの最終的な所望の外形の形状であった。次いで、次の層が同様に堆積される前にすべての溶媒を放出するために層を注意深く乾燥させた。所望の数の層が達成されるまでこのプロセスを反復して繰返した。次いで、所望の形状のプロテーゼの形成を得るために、型上の1つ又は複数のポリマー層のガラス転移温度を上回る温度で多層フィルムの全体を熱処理した。次いで、外形設定されたフィルムを身体内に挿入する前に25℃以下で平らに広げて平坦なシートにした。次いで、フィルムは、身体内に位置付けられると37℃でその所望の外形設定された形状に戻ることになる。
【0068】
(2)浸漬コーティング:
型を制御された様式でポリマーの溶液中に垂直に浸漬コーティングし、これを型上のポリマー層コーティングと共に引き上げることによって多層フィルムを鋳造した。これらの層において、鋳造する前に薬剤を最初にポリマー溶液中に溶かした。次いで、第2の層を達成するために別のポリマー溶液中に浸漬コーティングする前に、すべての溶媒を放出するためにコーティングを乾燥させた。所望の層が得られるまでプロセスを反復して繰返した。型は、第1の層の表面粗さ又はプロフィールを決定する表面プロフィールを有した。型の外形は、フィルムの植込み後に得られる最終的な所望の外形の形状に似せた。次いで、所望の形状の形成を得るために型上の1つ又は複数のポリマー層のガラス転移温度を上回る温度で多層フィルムの全体を熱処理した。次いで、外形設定されたフィルムを身体内に挿入する前に25℃以下で平らに広げて平坦なシートにした。次いで、フィルムは、身体内に位置付けられると37℃でその所望の外形設定された形状に戻ることになる。
【0069】
(3)スピンコーティング:
スピンコーティングは、型上の均等なスパンコーティングを得るためにポリマー溶液を高速スピニング型上に一滴ずつ適用する方法を採用する。この方法は、所望のポリマー材料のために用いられた。薬剤を含有するこれらの層において、鋳造する前に薬剤を最初にポリマー溶液中に溶かした。型の外形はまた、フィルムの植込み後に得られた最終的な所望の外形の形状に似せた。次いで、同じ様式で前の層上に次の層が堆積される前にすべての溶媒を放出するために層を注意深く乾燥させた。所望の数の層が達成されるまでこのプロセスを反復して繰返した。次いで、所望の形状を得るために型上の1つ又は複数のポリマー層のガラス転移温度を上回る温度で多層フィルムの全体を熱処理した。次いで、外形設定されたフィルムを身体内に挿入する前に25℃以下で平らに広げて平坦なシートにした。次いで、フィルムは、身体内に位置付けられると37℃でその所望の外形にされた形状に戻ることになる。
【0070】
(4)代替的な製造方法:
同様のPVDFフィルムを、上記で説明した鋳造方法の代わりに成形法又は押出し法によって用意した。フィルムを成形した後で、レーザ切断又は機械的切断(例えば、ドリリング)を用いることによって特定の孔パターンを切断し、こうしてメッシュ様のフィルム構造体を提供した。
【0071】
このようにして得られたフィルム構造体を、次いで、薬学的活性薬を含有するカルボキシメチルセルロース(他の生分解性材料はまた、同じ様式で用いることもできる)で作製されたトップコーティングをその上に接着させることによってさらに処理した。接着特性を強化するために、付加的なフィルムの形態の接着促進剤として又はカルボキシメチルセルロースへの接着剤(adjective)としてPLGAのような生体適合性ポリマーを用いた。このようにして、多孔性PVDFフィルム層を備える多層フィルムプロテーゼが用意された。
【0072】
本発明の別の態様は、本発明によるプロテーゼを植込むことによって患者を処置する方法を指す。本発明の第3の態様による方法は、一般に、前に説明したような本発明のプロテーゼをヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラットなどのような哺乳類に植込むステップを包含する。
【0073】
いくつかの実施形態において、方法(又はプロテーゼ)は、あらゆる壁の欠陥又は損傷した器官を処置するために用いることができるがこれに限定されない。壁の欠陥の種々の例は、ヘルニア欠陥、腹壁、横隔膜及び/又は胸壁の解剖学的欠陥、又は尿生殖器系における欠陥である。例えばシート様のプロテーゼを損傷した器官の周りに巻くこと又はこれを補強するためにこれを損傷した器官の壁の中に植込むことによって処置することができる損傷した器官の種々の例は、脾臓、肝臓、腎臓、肺、膀胱、又は心臓のような内部器官、若しくは胃又は腸のような腸管の器官を含む。方法の例証となる例は、心臓パッチ、結腸パッチ、血管パッチのような血管プロテーゼ、縫合糸パッチ又はメッシュのような創傷治癒のためのパッチ、ヘルニアパッチ、口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、直腸、及び肛門のためのプロテーゼのような胃腸プロテーゼ、泌尿生殖器系のためのパッチなどのようなプロテーゼの植込みを含む。
【0074】
結論として、プロテーゼは、周囲組織に完全に応従して作製することができ、これらの組織に従って動くことが上記の説明によって示されている。加えて、プロテーゼは、周囲組織に充分に固定することができ、且つそれらの独自の孔構造、特に異方性の孔、又は異方性の孔構造により組織と共に柔軟に且つ弾性的に伸長することができる。したがって、新規なプロテーゼは、一般に良好に固定されない又は可撓性ではなく(いくつかのポリマーフィラメント又は繊維で作製された従来のヘルニアメッシュのような)したがって患者の腹部組織に対して痛々しく滑動する従来のプロテーゼのほとんどの欠点を克服することができる。この滑動は、一般に大きな不快と、腹部に対する外傷さえ引き起こす。
【0075】
加えて、本発明のプロテーゼは、多層構造の各層が内臓組織に面する層の接着防止特性のような異なる特性を備えるため、内臓との組織接着を生じさせない。内臓接着は、一般に、結果として手術後の痛み、腸閉塞、最も深刻にはフィステルの形成をもたらすため、本発明の新規なプロテーゼは、従来のプロテーゼのこれらの欠点を同時に克服する。
【0076】
そのうえ、本発明は、例えば、哺乳類の腹壁の補強若しくは壁又は器官における他の欠陥を修復するための新規な薬剤放出多層プロテーゼを提供する。内臓組織又は内部器官への意図せぬ接続を回避するために、プロテーゼの一方の側が非接着機能を備え、他方の側が組織又は器官表面へのプロテーゼの固定を促進するためにより高い摩擦及び接着機能を備えるプロテーゼが提供される。このプロテーゼはまた、腹壁、横隔膜、及び胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系における欠陥の補正、及び外傷により損傷した脾臓、肝臓、又は腎臓のような器官の修復を含む他の外科的手順に用いることもできる。
【符号の説明】
【0077】
10 多孔性層
20 補強層
30 接着防止コーティング層
40 薬剤放出層
42 薬剤放出層
50 記憶効果を提供する層
52 記憶効果を提供する層
60 ウェル又はポット穴
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、外科用途のためのプロテーゼの分野、プロテーゼの製造方法、及びプロテーゼを患者に植込むことによって患者を処置する方法に関する。より詳細には、本発明は、多層シート構造を有するプロテーゼ、及びヘルニア修復、腹壁、横隔膜、及び胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系における欠陥の補正、及び外傷により損傷した脾臓、肝臓、又は腎臓のような器官の修復における、多層シート構造を有するプロテーゼの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腹壁修復、特にヘルニア修復は、米国において最も一般的な外科手術である。ヘルニアは、腹壁の内側層が弱くなり、次いで膨らみ又は裂けて、該弱くなった領域を通して腹部内面(abdomen lining)が飛び出てバルーン状の嚢を形成するときに起こる。腸又は腹部組織が、嚢の中に入り込み、痛みと損傷のリスクを引き起こす。小さいヘルニアは、縫合で修復することができるが、より大きいヘルニアは、メッシュプロテーゼを腹膜(筋及び脂肪層から身体器官を分離する膜)の中に外科的に挿入し、これを縫合又はタックで定位置に取り付けることによって処置される。プロテーゼは、普通は、バルーン嚢を防止するべく弱くなった腹壁を補強するために腹腔内の場所に挿入される。図1は、ヘルニア欠陥と、ヘルニア欠陥を矯正するためのメッシュの位置づけの例を示す。
【0003】
同様のメッシュプロテーゼは、通例、いくつかの壁又は横隔膜の解剖学的欠陥の修復、いくつかの管腔における又は尿生殖器系における欠陥の補正、及び外傷により損傷した内部器官のような器官の修復を含む他の外科的処置にも用いられる。これにより、こうしたメッシュプロテーゼによって、弱くなった壁を補強する又は補完することができる。時には、プロテーゼは、補強部材として働くように器官の周りに巻きつけられる。すべてのこうしたプロテーゼは、普通は、織られた又は編まれた繊維又はフィラメントのメッシュ生地のようなテキスタイル材料(textile material)から作製される。この数十年間に、メッシュ生地のための種々の異なる材料が提案されている。
【0004】
ポリプロピレン(PP)材料は、1960年代からヘルニア修復のためのメッシュに広く用いられている。途中で漸進的技術革命が導入された。しかしながら、今日まで、ポリプロピレンは、不満足なままであった。ポリプロピレンは、不十分な引張強さ及び伸びを有し、時間と共にその強度及び可撓性を大幅に減少させるポリプロピレン材料の微小クラックの形成に起因する顕著なエージング作用に悩まされる。植込みの過程で、ポリプロピレンはまた、或る程度の収縮を示す。ポリプロピレンはまた、結果として頻繁な、顕著な、且つ容認できない結合組織の接着をもたらし、これは必然的に炎症を招く。組織の結合度は、炎症の度合いと直接相関する。炎症応答が高い場合、これは、結果として、硬い瘢痕プレートの形成をもたらす場合がある。結合組織の接着はまた、患者におけるひどい不快、さらには医学的外傷さえも引き起こすことがあり、メッシュの早過ぎる外科的取替えの必要性につながることがある。図2は、そのために付加的な外科的処置が必要であったポリプロピレンメッシュを取り囲むこうした広範な内臓の接着の例を示す。
【0005】
1990年代初期に、腹部の創傷を閉じるときに内臓から組織を分離するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料が導入された。PTFEは、腹腔鏡下腹側/切開創修復手順を腹部内で行うことを可能にする技術としてさらに採用された。ヘルニア修復に用いられるPTFE材料に関連した材料及び性能の問題があった。ほとんどのPTFE材料は、押し出されてシートにされる。これらのPTFEシートは、患者の身体の中に植込まれていた、すなわち、植込み後の漿液腫の形成、感染、及びシートの収縮があった。PTFEシートは、植込み後10〜14日間で平均して34%収縮することが広く知られている。これらの患者の多くは、これらの合併症により植込まれたプロテーゼを除去するために付加的な手術を受けなければならなかった。
【0006】
最近では、PVDFが、十分に生体適合性となるとともに、一般に、時間と共にエージング及び変化しないことが示されている高い強度及び可撓性をもつことが示されている。これはまた、用いられたときに時間と共にほとんど収縮せず、組織の接着問題が顕著により小さい。したがって、これは、外科用途のためのテキスタイルベースのメッシュに適した材料として提案されている。
【0007】
上記のシート様材料での経験に照らして、ほとんどの現在のヘルニアメッシュは、メッシュに織られたフィラメントから作製される。織ることによって容易に生産されるが、こうしたプロセスは、メッシュの設計の可能性を制限する。例えば、ヒトの腹部の解剖学的特徴に基づき、最適に適合するメッシュは、他の垂直方向よりも一方向により高い度合いの伸長及び可撓性を有するべきである。これは、フィラメントを織るプロセスを用いて容易に達成されない。また、伸長されるときに、こうしたフィラメントを織ったメッシュは、そのオープンセル又は孔(フィラメント間のスペース)の孔径の減少を経験するであろう。こうした孔径の減少はまた、内臓組織の接着のおそれを有害に増加させるであろうことが知られている。しかしながら、織られたメッシュのこれらの欠点にもかかわらず、ヘルニア修復に関連して用いられる一般的なプロテーゼは、メッシュ生地のような異なるテキスタイル材料で作製される。こうしたメッシュ生地の例は、特許文献1で開示される。種々の合成繊維から構成された、編まれた及び織られた生地と外科的修復における生地の使用もまた公知である(例えば特許文献2)。
【0008】
ヘルニア修復のためのプロテーゼのような現在のプロテーゼにおいて未だ解決されていない2つの重要な問題がある。1つは、プロテーゼへの望ましくない内臓組織の接着、すなわち、外科的手順への応答として生じるプロテーゼへの腹部内の器官の接着及びプロテーゼによって腹膜に引き起こされる炎症である。上記で説明したヘルニアメッシュのような既存のプロテーゼでの発生頻度は非常に高く、結果としてひどい連続する痛み、非移動性、及び腸に関連する問題をもたらす。この接着現象のために、おおよそ30%を上回る患者が再手術を必要とする。他の重要な問題は、現在のプロテーゼの機械的挙動が、結果として乏しい可撓性及び強度をもたらすポリマーの膨潤及び/又はエージングのために、時間と共に悪く変化することである。時間と共に、プロテーゼは硬くなり、もはやあらゆる方向への腹壁の動きに従って撓まず、非常に乏しい固定及び応従性をもたらす。しばしば、プロテーゼが完全に壊れ、緊急の外科的取替えを必要とすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0250147号明細書
【特許文献2】米国特許第3,054,406号明細書
【特許文献3】国際公開第97/47254号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、上記に説明された問題点のいくつかを解決するプロテーゼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、多層シート構造を有するプロテーゼが提供される。多層シート構造は、少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を備える。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、多層シート構造を有するプロテーゼの製造方法が提供される。方法は、多層構造をもたらすために少なくとも2つの連続するフィルム層を形成することを含む。
【0013】
別の態様において、本発明は、シート様の外科的プロテーゼを必要とする患者、又は、ヘルニア修復、腹壁、横隔膜、又は胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系における欠陥の補正、若しくは外傷により損傷した脾臓、肝臓、又は腎臓などのような器官の修復を必要とする患者を処置する方法を提供する。方法は、本発明のプロテーゼを、これを必要とする患者に植込むことを含む。
【0014】
さらなる実施形態は従属請求項において説明される。本発明のさらなる態様及び特徴はまた、本発明の特定の実施形態及び限定ではない例の以下の説明から並びに添付の図面から明らかとなるであろう。例示された実施形態と図面は、例証する目的のためにのみ設計されたものであって、本発明を限定する定義として意図されたものではないことが理解される。
【0015】
本発明は、詳細な説明を参照しながら限定ではない実施形態及び付属の図面と併せて考察したときに良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】メッシュ様のプロテーゼを用いることによるヘルニア欠陥及びヘルニア修復の例証であり、図1aは弱くなった腹壁に起因するヘルニア欠陥を示す図であり、図1bは腹膜の中に位置付けられ且つ取り付けられた、挿入されたメッシュを示す図であり、図1cは腹膜を閉じる前の分解図である。
【図2】内臓上に接着した2つのメッシュの写真を示す図である。
【図3】多孔性層10と補強層20とを備える本発明の二層プロテーゼの横断面図である。
【図4】多孔性層10と補強層20と接着防止コーティング層30とを備える本発明の三層プロテーゼの横断面図である。
【図5】両側が薬剤放出層40及び薬剤放出層42でコーティングされた図4で例証されたプロテーゼを示す図である。
【図6】多孔性層10と補強層20との間に位置し又は配置される2つの記憶効果を提供する層50及び層52を備えるプロテーゼの別の実施形態を示す図である。
【図7】プロテーゼを貫通して延在するテーパしていない貫通穴を有する図3に示されたプロテーゼの実施形態の横断面図である。
【図8】プロテーゼを貫通して延在するテーパした貫通穴を有する図3に示されたプロテーゼの別の実施形態の横断面図である。
【図9】プロテーゼの多孔性層を貫通して延在する貫通穴を有する図3に示されたプロテーゼのさらなる実施形態の斜視図である。
【図10】プロテーゼの多孔性層を貫通して延在する貫通穴を有する図3に示されたプロテーゼの別の実施形態の斜視図である。
【図11a】粗くされた表面を有する図3に示されたプロテーゼの異なる実施形態の横断面図である。
【図11b】テーパした孔の形態を有する図3に示されたプロテーゼの異なる実施形態の横断面図である。
【図11c】嚢様の孔構造を有する図3に示されたプロテーゼの異なる実施形態の横断面図である。
【図12a】異方性の孔形状を有するプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図12b】異方性の孔形状を有するプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図12c】異方性の孔形状を有するプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図13a】異方性の孔構造を有する本発明のプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図13b】異方性の孔構造を有する本発明のプロテーゼの実施形態の平面図である。
【図14】表面層にウェル又はポット穴60の形態の孔を有する本発明のプロテーゼの代替的な実施形態の多孔性層10の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1の態様に係る新規なプロテーゼは、少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を備える多層シート構造を有する。
【0018】
本発明で用いられる場合の「プロテーゼ」という用語は、互いの上に重ねられた又は配置された、シート様の形式の少なくとも2つの層、すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上の連続する層で作製された実質的に平坦なシートとすることができるあらゆるシート様構造を意味する。こうした実質的に平坦なシートは、各シートが特定の厚さを有していても、しばしば二次元構造と呼ばれる。しかしながら、シートの厚さは、普通は小さく、一般に三次元とは考えられない。したがって、本明細書で言及されるプロテーゼの主構造を定義するのに用いられる場合のシートという用語は、実質的に平面(二次元)内に延在する形状を有する本体、例えばパッチ又はホイルと定義される。それにもかかわらず、シート構造は、二次元のものに限定されず、プロテーゼの少なくとも主本体(本体全体の55%、60%、65%、70%、75%、80%、又はそれ以上のような約50%以上)がシート様の構造を有する場合に、複雑な形状をもつ三次元サブ構造を有する本体もまた、プロテーゼという用語の定義内に含まれる。例えば、三次元サブ構造は、同じ又は任意の異なる材料で作製された多層シート上のプラグを備えることができる。こうしたプラグは、例えば、閉じられるべき創傷又は欠陥が何らかの合成材料なしに閉じるのに広すぎる場合又はギャップを閉じるのに十分なだけの組織が存在しない場合に、2つの組織の間のギャップを埋めるのに用いられてもよい。こうした三次元サブ構造の別の例は、例えば、血管又は精索をプロテーゼに接着しないように隔離する瘻孔又は障壁のような人工開口部であってもよい。さらなる例は、長いまっすぐな針を用いて皮膚及びヘルニア嚢を通して腹部の正中でのプロテーゼの位置付けを容易にするために、突出するガイドコーンとすることができる。
【0019】
プロテーゼは、外科医が外科的プロテーゼの形状を当該解剖学的部位に合うように操作し且つ該部位に縫合し又はステープルで留めることを可能にするために、比較的平坦な(すなわち実質的に二次元に延在する)且つ十分に曲げやすいものである限り、あらゆる適切な形状を有するように構成されてもよい。プロテーゼの外形及びサイズは、当業者には明らかとなるように外科用途に従って変化してもよい。プロテーゼは、予め形状設定することができ、又は外科的手順の間に外科医が形状設定することができる。植込みの間に十分に成形可能となるために、プロテーゼは、プロテーゼのその縦軸(この点での縦軸は、主軸又は主要な縦方向の延長を意味する)に沿って実質的に可撓性とすることができる。四角形様の外形のプロテーゼの事例では、四角形の本体がx-y平面内に延在する場合、縦軸は、例えばx軸又はy軸とすることができる。
【0020】
本明細書に記載のプロテーゼは、これを必要とする哺乳類(ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラットなどのような)への植込みのために用いることができる。特に、プロテーゼは、あらゆる壁の欠陥又は損傷した器官を処置するために用いることができるが、これに限定されない。壁の欠陥の種々の例は、ヘルニア欠陥、腹壁、横隔膜及び/又は胸壁の解剖学的欠陥、又は尿生殖器系における欠陥である。例えばシート様のプロテーゼを損傷した器官の周りに巻きつけること又は損傷した器官を補強するためにこれを損傷した器官の壁の中に植込むことによって処置することができる損傷した器官の種々の例は、脾臓、肝臓、腎臓、肺、膀胱、又は心臓のような内部器官、若しくは胃又は腸のような腸管の器官を含む。本明細書に記載のプロテーゼの例証となる例は、心臓パッチ、結腸パッチ、血管パッチのような血管プロテーゼ、縫合パッチ又はメッシュのような創傷治癒のためのパッチ、ヘルニアパッチ、口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、直腸、及び肛門のためのプロテーゼのような胃腸プロテーゼ、泌尿生殖器系のためのパッチなどである。
【0021】
この文脈において、「連続するポリマーフィルム層」という用語は、特に、連続するフィルムの形態のポリマー材料から作製された層のことを指す。こうした連続するフィルムは、ポリマーフィルムが一体に形成され又は成形される、すなわち一体型のフィルムに形成される限り、あらゆる公知の方法によって作製することができる。言い換えれば、本明細書で用いられる連続するポリマーフィルム層は、普通は、液体又はペースト様のポリマー材料から作製され、その後、特定の形態の連続するポリマーフィルムを生成するために該材料が硬化される。本明細書に記載の連続するフィルム層とは対照的に、織られた又は編まれたポリマー繊維の層で作製された、織られた又は編まれたテキスタイルメッシュ(すなわち、再び形状設定された又は変形された繊維)は、上記で定義されたような「連続する」ポリマーフィルム構造を有さない。理由は、こうしたテキスタイル層が、互いの間に固体/固体境界を有するいくつかの区別されるフィラメント又は繊維を該層内に含むためである。したがって、それらは連続する一体に形成されたポリマーフィルムを形成しない。それにもかかわらず、例えば鋳造、成形などによるポリマーフィルム層の製造中、若しくは多孔性構造又はメッシュ様の構造を形成するために所望の領域での硬化されたポリマー材料の例えば機械的摩耗、切断などによるその製造後のいずれかで用意される孔又は貫通穴をポリマーフィルムが備えることができることは、本発明で定義される場合の「連続する」という用語の意味の範疇にある。
【0022】
多層シート構造の層の各々の層厚さは、層の各々のそれぞれの機械的特性又は物理的特性を考慮して特異的に調整することができる。しかしながら、層の各々の厚さは、一般に、マイクロメートル範囲内であり、例えば、厚さは、約1μm〜約5000μmの範囲内である。層は、約5000μm、4500μm、4000μm、3500μm、3000μm、2500μm、2000μm、1500μm、1000μm、750μm、500μm、400μm、又は300μmよりも厚くあるべきでないが、しかしながら、プロテーゼは、それぞれの処置方法の適用又は本発明のプロテーゼの適用のために十分なだけの可撓性を提供するために本質的にシート様の形状を有するべきである。特に、多層プロテーゼの全厚が厚くなり過ぎる場合、可撓性が一般に非常に低くなって、プロテーゼが組織と共に柔軟に且つ弾性的に伸長することができながら周囲組織に充分に固定することはできないであろう。層の各々の下限は、本発明のプロテーゼに十分な破裂強度を提供するために約1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、又は100μmであるべきである。各層は、上述の範囲内の厚さを有することができ、又はこの範囲内で変化する厚さを有することができる。
【0023】
ポリマー材料は、例えば生体適合性及び/又は生体吸収性ポリマー材料のオリゴマー(例えば、通例モノマーと呼ばれる2〜5〜10〜約25コピー(copies)までの1つ又は複数の構成単位)若しくはホモポリマー及び/又はコポリマー(例えば、通例モノマーと呼ばれる約25〜50〜100〜250〜500〜約1000、又はそれ以上のコピーまでの1つ又は複数の構成単位)を含むあらゆるポリマー材料とすることができる。ポリマーは、例えば、数ある中でも、線状、環状、及び分岐から選択されてもよい、樹枝状アーキテクチャを含む1つ又は複数のアーキテクチャをとってもよい。コポリマーが用いられる場合、少なくとも2つの構成単位をランダムに、周期的に、又はブロック様などに配置することができる。
【0024】
本明細書で定義される場合の「生体適合性」ポリマー材料は、生物学的組織への最小限の毒性又は刺激をもつポリマー材料のことを指す。したがって、これは悪影響なしに身体によって十分に許容される。こうした生体適合性ポリマー材料は、長期の使用にわたって生体安定性の成分、すなわち、プロテーゼが身体内に植込まれたまま残ることを意図される期間にわたって本質的にそのままである成分とすることができる。「生体吸収性」ポリマー材料は、例えば成分の溶解、化学分解などのためにプロテーゼが身体内に残ることを意図される期間にわたってそのままではないものと定義される。言い換えれば、生体吸収性材料は、インビボでの生物学的処理を直ちに受けやすい。これは、生きている生物又はこの一部(例えば、バクテリア作用又は酵素作用)によって、若しくは可視光のような放射線、水分、高い温度及び/又は空気などへの露出のような環境の影響によって分解することができる。生体吸収性材料の分解は、結果として、低分子量の化合物のような一次分解生成物の形成をもたらす場合があり、これは、次いで、生きている生物の作用を通じてさらに崩壊する。この文脈において、「生体吸収性材料」という用語は、特に、生理的代謝プロセスによって局部的な領域から完全に除去することができる材料のことを指す。生体吸収性化合物は、細胞によって取り込まれたときに、細胞への顕著な有毒な影響なしに細胞が再使用する又は廃棄することのいずれかが可能であるように、リソソームのような細胞機構によって又は加水分解によって成分に分解することができる。生分解プロセスの例は、酵素加水分解及び非酵素加水分解、酸化、並びに還元を含む。非酵素加水分解のための適切な条件は、例えば、リソソーム(すなわち細胞内の小器官)の或る温度及びpHにおける水への生体吸収性材料の露出を含む。分解フラグメントは、典型的に、器官又は細胞のオーバーロード若しくはインビボでのこうしたオーバーロード又は他の悪影響に起因する病理学的プロセスを誘発しない又は僅かに誘発する。
【0025】
本明細書に記載のプロテーゼの多孔性層に用いることができる生体適合性ポリマー材料は、特に制約されず、プロテーゼに適した当技術分野では公知のあらゆる生体適合性材料を用いることができる。生体適合性ポリマー材料の例は、付加重合又は縮合重合のいずれかに起因するオリゴマー、ホモポリマー、及びコポリマーを含む合成ポリマーを含むことができるがこれに限定されない。適切な付加重合体の種々の例は、メチルセリレート(methyl cerylate)、メチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、ヒドロキシアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリルアクリレート、グリセリルメタクリレート、メタクリルアミド、及びエタクリルアミドから重合されたもののようなアクリル;スチレン、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、及び酢酸ビニルのようなビニル;エチレン、プロピレン、及びテトラフルオロエチレンで形成されたポリマー、若しくはこれらの任意のポリマー混合物、コポリマー、又は誘導体を含むがこれらに限定されない。縮合重合体の種々の例は、ポリカプロラクタム又はポリラウリルラクタムのようなナイロン;ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、及びポリ(エチレンテレフタレート)を含むがこれらに限定されない。こうした生体適合性ポリマー材料の例証となる例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、並びにp-ジオキサノン、炭酸トリメチレン(1,3-ジオキサン-2-オン)、及びこれらのアルキル誘導体、バレロラクトン、ブチロラクトン、デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシ吉草酸、1,5-ジオキセパン-2-オン、1,4-ジオキセパン-2-オン、6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オンのポリマー又はコポリマー、若しくはこれらの任意のポリマー混合物を含むがこれらに限定されない。
【0026】
生体吸収性ポリマー材料の種々の例は当該技術分野では公知であり、そのうちのいずれかが、一般に、本明細書に記載のポリマーコーティングに用いるのに適している。生体吸収性と考えられる生体吸収性ポリマー材料の例は、ポリジオキサノン、ポリグルコネート、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、多糖類、セルロース誘導体、ヒアルロン酸ベースのポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリ酸無水物、ポリリン酸エステル、ポリ(アミノ酸)、脂肪族ポリエステル、生分解性ポリエーテル、ポリ(アミノ酸)、PEO/PLAデキストランのようなコポリ(エーテル-エステル)、ポリアルキレン、ポリオキサレート、ポリアミド、ポリケタール、ポリ(イミノカーボネート)、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、アミド基を含有するポリオキサエステル、ポリ(無水物)、ポリシアノアクリレート、ポリ(アルキルシアノアクリレート)、ポリ(フマル酸プロピレン)のようなポリ(フマル酸アルキル)、ポリホスファゼン、ポリカーボネート、キトサン、デンプン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリノゲン、フィブリン、セルロース、アルギン酸塩、多糖類、アミラーゼのような天然由来の生分解性ポリマー、若しくは任意のこれらのポリマー混合物、コポリマー、又は誘導体を含むがこれらに限定されない。ポリオルトエステルの例は、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-コ-グリコラクチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(エチレングリコリド)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、コハク酸ポリエチレン又はポリブチレンジグリコレートのようなポリアルキレンポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシブチレート/ポリヒドロキシ吉草酸コポリマー、ポリヒドロキシアルコエート(polyhydroxyalkoate)、ポリ酸無水物、脂肪族ポリカーボネート、ポリ(ε-カプロラクトン)のようなポリカプロラクトン、生分解性ポリアミド、生分解性脂肪族ポリエステル、及び/又はこれらのコポリマーを含む。生分解性ポリマーの例証となる例は、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)のようなポリラクチド、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン(PCL)とポリ乳酸(PLA)とのコポリマー、又はポリ(ラクチド)とポリ(グリコリド)とのコポリマー(PLGA)を含むがこれらに限定されない。用いることができるコポリマーのより具体的な例は、コポリマー組成物に基づき約5%〜50%、10%〜50%、15%〜50%、又は20%〜50%、若しくはおおよそ20%、25%、30%、35%、又は50%のグリコリド含有量を有するポリ(ラクチド)とポリ(グリコリド)とのコポリマー(PLGA)を含むがこれらに限定されない。上述の生体吸収性ポリマー材料の各々は、身体内での特徴的な分解速度を有する。例えば、PGAとポリジオキサノンは、比較的速く生体吸収される材料であり、普通は数週間〜数ヶ月の範囲内で分解する。PLLAとポリカプロラクトンは、比較的ゆっくり生体吸収される材料の例であり、普通は数ヶ月〜数年の範囲内で分解する。したがって、当業者は、プロテーゼの所望の用途に適した所望の分解速度をもつ適切な生体吸収性材料を選択することができるであろう。
【0027】
いくつかの実施形態において、多孔性層は、本明細書に記載のプロテーゼの多層シート構造における層のうちの1つとして提供することができる。多孔性層は、生体適合性材料又は生体吸収性材料のような上述のポリマー材料のいずれか1つで作製することができる。「多孔性構造」は、少なくとも層の外側部分又は表面領域内に孔を有する若しくは層全体内に孔を有する層のことを指す。「孔」は、「ウェル」又は「ポット穴」とも呼ばれる、層の表面領域におけるあらゆる規則的な形状又は不規則な形状にされた孔(例えば、短いチャネル又はキャビティ(例えば、約10μm〜約500μmの、しかし少なくとも約10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、75μm、又は100μmの、且つ約200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、又は500μm以下の深さを有する)若しくは層内の球状又は非球状の形状にされた穴)を意味する。表面層のこうした孔又はキャビティは、結果として、所謂「粗い」表面をもたらす。粗くされた表面(roughed surface)は、表面テクスチャが本明細書で定義されるような孔からなることを意味する。「孔」という用語はまた、貫通穴(例えば、上記で定義されたのと同じ深さを有するが、多孔性層の全体を貫通して延在する)のことを指す。こうした貫通穴は、多孔性層の上面からその内側部分まで一様な(例えば、立方体様の又は柱様の構造を有する)、テーパした(例えば、規則的な又は不規則な円錐形の形状若しくは階段状にテーパした形状を有する)、又は不規則な(例えば、曲がった又は蛇行した形状を有する)様式で延在することができる。加えて、貫通穴はまた、多孔性層を貫通して延在するだけでなく、2つ以上の層を貫通して、例えばプロテーゼのすべての層を貫通して延在してもよい。これは、孔が、多孔性層内にのみ延在する、又はプロテーゼの全体を貫通して延びて、これによりプロテーゼ内にマイクロチャネルを形成する貫通穴であってもよいことを意味する。一般に、孔又は貫通穴の延在する方向は、シートの平面の広がりに対して実質的に垂直である。貫通穴がプロテーゼの上面からプロテーゼの反対側の表面まで延在する事例において、プロテーゼは、時には有孔シート又はメッシュ様のシートと呼ばれる。
【0028】
孔又は貫通穴の境界を定める壁は、少なくとも1対の対向する横側表面と、随意的に下側表面とによって画定される。「表面」という用語は、あらゆる所望の幾何学的形状であってもよい、平坦な又は湾曲した領域のことを指すと理解されてもよい。孔又は貫通穴の少なくとも一部又は全体の2つの対向する横側表面の間の距離は、マイクロメートル範囲内である。本明細書で用いられる場合のマイクロメートル範囲という用語は、約1μmから10000μmまでの間の範囲のことを指す。孔の表面は、それらがその中に所望のタイプの細胞又は組織が成長することを可能にする限り、あらゆる所望の内部表面特徴及びあらゆる所望の材料のものであってもよい。特定の表面特徴の種々の実施形態は、1つ又は複数の段差、凹部、反転部、膨らみ、溝、又はストライエーションを含む。しかしながら、いくつかの実施形態において、表面は、例えば、少なくとも本質的に直線形の表面を有するものを含む少なくとも実質的に平坦な又は少なくとも本質的に平らになった、あらゆる一様なトポロジーのものとすることができる。
【0029】
そのうえ、孔の表面の異なる領域は、例えば、孔が多層構造の2つ以上の異なるポリマーフィルム層内に延在する場合に、異なる表面特徴を提供し、異なる材料を含む、又は異なる材料からなってもよい。これは、組織が孔の中に又は孔を通して成長する傾向を1つの孔又は貫通穴内で異なるように調整することができるようにする。
【0030】
本発明によれば、孔又は貫通穴は、組織が孔の中に又は孔を通して成長することができる限り、直線形の形状、曲がった形状、又は蛇行した(若しくは他の状態で曲がりくねった)形状を含むあらゆる所望の形状を有してもよく、且つ、1つ又は複数の曲がり、ねじれ、又は分岐を含んでもよい。典型的な実施形態において、孔又は貫通穴は、1つの縦軸を有する。孔は、多角形、立方体(例えば長方形の、ひし形様の、又は四角形のプロフィールをもつ)又は代替的に円形様の構造のような規則的なプロフィール、若しくは所望の不規則な断面及び/又は回旋状の断面を有するあらゆる他の適切な不規則なプロフィールといったあらゆる所望のプロフィールの断面を有してもよい。いくつかの実施形態において、孔の不規則なプロフィールは、織る又は編むことによって用意することはできないが、スタンピング、研削、レーザ切断などのような機械的摩耗又は切断法を用いることによって製造することができるプロフィールである。本発明との関連において、非円形の又は左右対称の形状のようなこうした不規則な形状は、孔又は貫通穴の「異方性の形状」とも呼ばれる。この文脈における「異方性の」はまた、孔の形状が不規則である、例えば、非円形又は左右対称である、若しくは平面図又はその断面のいずれかにおいて層内の孔構造が不規則である(すなわち、例えば、種々の孔の形状又は種々の孔径をもつ孔若しくは一様に分布していない孔で形成された左右対称の構造)ことを意味する。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態において、孔は、腹部組織へのプロテーゼの固定を可能にするための手段として機能する。この固定効果は、多孔性層又はプロテーゼの孔の中への組織の強化された浸透、該孔「の中への成長」、又は該孔「を通した成長」からもたらされる。加えて、多孔性表面はまた、より高い表面積及び流体保持能力により高い摩擦又は湿潤性を提供することができる。いくつかの実施形態において、例えば粗化された(roughened)型での鋳造によって用意することができる粗くされた表面の摩擦は、例えば孔又は多孔性層の表面を改質するための処理によって適切に改善することができる。こうした処理は、機械的手段、熱手段、電気手段、又は化学的手段のような種々の手段を含んでもよい。層の所望の表面摩擦及び/又は表面粗さを調整するのに適した機械的処理の種々の例は、プラズマ処理、サンドブラスト処理、エンボス加工処理(例えば、成形可能なペーストを印刷することによる)、又はサイジング(若しくは「コイニング」)処理を含むがこれらに限定されない。電気処理の例としてコロナ処理又は放電機械加工を挙げることができる。化学処理の種々の例は、プラズマ重合コーティング、溶液コーティング、又は化学エッチングを含む。湿潤性を増加させるための化学表面処理の例証となる例として、例えば、親水性のポリマーでコーティングすることによって又は例えばトリス(ヒドロキシメチル)アクリルアミノメタン(THAM)のような界面活性剤若しくはショ糖エステルで処理することによってあらゆる疎水性の表面の表面特性を親水性にするための処理が言及される。化学表面処理のさらなる例は、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピル(aminoproyl)トリエトキシシランポリジメチルシロキサンのようなシラン、ポリ(メチルメタクリレート)又はポリ(エチルメタクリレート)のようなポリアクリレート、若しくは他の生体適合性モノマーとのコポリマー、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、又はポリ(乳酸-コ-グリコール酸)のような生体吸収性ポリマー、内皮細胞増殖因子(例えば血小板由来ECGF、ECGF-β、ECGF-2a、又はECGF-2b)を含む表面への内皮細胞の接着(adhesion)又は付加を促進する又は助長する接着促進分子、ペプチド、ポリペプチド、糖蛋白、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テネイシン、コラーゲン、ゼラチン、ポリリシン、合成ペプチド、望ましくはアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)、アルギニン-グルタミン酸-アスパラギン酸-バリン(REDV)、及びチロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン(YIGSR)のようなそれらのアミノ酸配列中に約3〜約30のアミノ酸残基を有する接着ペプチドといった細胞表面タンパク質のようなタンパク質などに露出する又はこれらでコーティングすることを含むがこれに限定されない。
【0032】
孔は、それらのサイズが、プロテーゼが患者に挿入された後の治癒プロセスの間に組織が孔に浸透する、孔「の中に成長する」、又はプロテーゼ「を通して成長する」ことを可能にする限り、あらゆる孔径を有することができる。いくつかの実施形態において、多孔性層の孔の平均孔径は、約0.5mm〜約5mmであり、両端の値も含まれる。平均孔径は、植込み部位及び腹部組織の孔の中への浸透、孔の中への成長又は孔を通した成長の率に依存する。特に、平均孔径の下限は、約0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、又は1.5mmとすることができる。平均孔径の上限は、約2.6mm、2.7mm、2.8mm、2.9mm、3.0mm、3.5mm、4.0mm、4.5mmのような約2.5mmから5mmまでの間のあらゆる値に調整することができる。「平均孔径」という用語は、それぞれの多孔性層内のすべての孔の幅又は直径の平均値を意味する。この点で、平均孔径を測定するための方法は、当技術分野では公知である。例証となる例は、光学顕微鏡法又は走査電子顕微鏡法であるが、本発明はこれらに限定されない。
【0033】
いくつかの実施形態において、多層構造を有するプロテーゼは、多孔性層を支持する付加的な連続するポリマーフィルム層を有する。図3では、こうした二層プロテーゼの例証となる実施形態がその横断面図で示される。層10は、上記で説明した多孔性層であり、その上に補強層とも呼ばれる第2の層20が提供される。補強層20は、一般に、それぞれの補強作用をプロテーゼに提供し、したがって、多層構造の他の層のいずれも十分な補強作用を有さない場合に、組織を補強すること若しくは組織又は壁の欠陥を閉じることを可能にする。この層は、プロテーゼが患者への挿入後に壊れない又は裂けないことを保証し且つ組織を補強する又は閉じることを可能にするのに十分なだけの破裂強度のようなそれぞれの物理的特性を材料が有する限り、あらゆるポリマー材料で作製することができる。例証となる例は、上記で説明した生体適合性又は生体吸収性ポリマー材料を含むがこれに限定されない。多孔性層とは反対側のプロテーゼの表面、すなわち内臓器官に面する表面が補強層として用いられるいくつかの実施形態において、層はまた、内臓組織へのプロテーゼのあらゆる接着を回避するために、内臓組織に対する接着防止効果を提供することができる。この内臓組織に対する接着防止効果は、例えば、支持層の表面の相対的な滑らかさ、すなわち、本質的な孔又はサブマイクロメートル範囲内の孔を有さないこと、又は接着防止特性を有する特定のポリマー材料を含むことのいずれかによって提供することができる。
【0034】
上記に照らして、プロテーゼが二層構造で作製される事例において、プロテーゼは、一般に、多孔性層の外側が腹壁に面し、他の側、すなわち上述の補強層の側が内臓器官に面するように、患者(一般に哺乳類)の身体の中に植込まれる。したがって、プロテーゼの多層構造は、第1の層の多孔性構造により腹部組織への良好な固定を可能にすることができ、一方、内臓部分に面する第2の表面はプロテーゼへの内臓組織の接着を防止する。いくつかの実施形態において、腹部組織への固定効果は、上記でより詳細に解説されたような高い摩擦又は高い湿潤性を有する表面を備えた多孔性層を提供することによって改善することができる。代替的な実施形態において、しかしながら、表面は、それぞれの特性、すなわち、高い表面摩擦及び/又は粗さ若しくは高い湿潤性などによる腹部組織への良好な固定効果を提供する、付加的な層でコーティングすることができる。
【0035】
本発明のプロテーゼは、いくつかの実施形態において、腹部組織への固定特性を可能にする上記で説明した第1の層と上記で説明した第2の補強層に加えて、内臓組織に対する接着防止効果を有する付加的なポリマーフィルム層を備える。図4は、多孔性層10、補強層20、及び接着防止コーティング層30を備えるこうした三層プロテーゼの例証となる実施形態の横断面図を示す。層30が層20の全体を覆う図4に示された例証となる実施形態とは対照的に、接着防止コーティング層30は、周囲の器官又は組織に対する障壁として、接着防止効果が必要とされるプロテーゼの一方又は両方の外面の一部として提供することができる。
【0036】
「接着防止コーティング層」という用語は、プロテーゼ上の内臓組織のような器官又は組織へのプロテーゼの取り付けが望まれない場合に、この付加的な層がこれらの器官又は組織のあらゆる接着を防止するのに十分なだけの接着防止効果をプロテーゼに提供することを意味する。したがって、内臓組織への接着が望まれない場合、例えばヘルニア修復などにおいて、この層は、前述の二層の実施形態と同様に身体内の内臓組織に面する側に提供される。接着防止コーティング層は、一般に、材料特性、層の表面構造、又は添加剤、フィラー、安定薬、接着防止薬などのような層の付加的な成分が内臓組織に対する接着防止効果を提供する限り、他の二層と同じポリマー材料で作製することができる。接着防止層に用いられるべきポリマーの種々の例は上記で与えられる。
【0037】
ポリマー材料に加えて、接着防止コーティング層は、一般的な添加剤又はフィラー材料、安定薬、若しくは接着防止薬のような添加剤を備えてもよい。薬剤が生体適合性である、すなわち例えば無毒である又は刺激のないものである限り、この分野では公知のあらゆる接着防止薬を用いることができる。接着防止コーティング層に用いることができる接着防止薬の例証となる例は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、コラーゲン、コラーゲン(collage)/キトサン混合物、オメガ-3脂肪酸、ヒアルロン酸、酸化再生セルロース、デキストラン、ペクチン、ゼラチン、多糖類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポロキサマーのような生体適合性の界面活性剤、及びこれらの材料からの誘導体及び/又は混合物を含むがこれらに限定されない。コラーゲンとCMCは、接着防止薬として用いる前に架橋させることができる。
【0038】
他の例証となる実施形態において、二層又は三層構造(或いは3つ、4つ、又はそれ以上の異なる層を備えた多層構造)を有する上記で説明したプロテーゼは、少なくとも1つ、2つ、又は3つの薬剤放出層で構築される。これは、多孔性層10及び/又は補強層20及び/又は接着防止コーティング層30が1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含んでもよいことを意味する。代替的な実施形態において、上記で説明したプロテーゼは、該プロテーゼの一方又は両方の最外層上に、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含む付加的なポリマー薬剤放出層がコーティングされる。1つ又は複数の他の層が薬剤を担持する場合に、2つの付加的な薬剤放出層を提供することもできる。図5は、両側が薬剤放出層40及び42でコーティングされた図4に示されたプロテーゼの例証となる実施形態を示す。
【0039】
この点で、付加的な薬剤放出層40及び42は、材料が薬剤放出特性を有する限り、多層構造の他の層のために上記で定義されたようなあらゆる生体適合性又は生分解性ポリマー材料で作製されてもよい。例えば、ポリマーコーティングは、例えば薬剤の溶離又は拡散速度を調整することによって薬剤の溶離を制御することができる。薬剤の放出はまた、ポリマーコーティングの制御された分解によって達成されてもよい。生体吸収性ポリマー材料がコーティングされる場合、ポリマーコーティングは、インビボでのポリマー化合物の分解反応に関連することがあるあらゆる悪影響を回避するために、薬剤溶出後に身体内で生物分解されるべきである。したがって、これらの特定の実施形態において、上記で定義されたような生体吸収性ポリマー材料は、薬剤放出層40及び薬剤放出層42のために用いられるべきである。加えて、各薬剤放出層の表面は、下にある層と同様の機能を有するようにするために、多孔性層10又は接着防止コーティング層30と同様の様式で表面処理されてもよい。これは、最も外側の薬剤放出層の一方又は両方が分解する場合に、下にある層が、それぞれの上に重なる層と同様の固定又は接着防止効果を有することを意味する。したがって、プロテーゼのそれぞれの表面の固定効果又は接着防止効果は、薬剤放出層の分解によって本質的に変化しないであろう。
【0040】
本発明との関連での「薬剤」という用語は、一般に、薬剤含有ポリマー層を提供するために上述の薬剤放出層のいずれかのポリマー組成物中に混合する若しくはポリマー層中に含浸させる又は組み入れることができる治療薬又は医薬品を意味する。薬剤含有コーティングにおける薬剤は、植込み可能なプロテーゼのための薬剤含有層に用いるのに適したあらゆる治療薬又は医薬品とすることができる。種々の例は、副腎皮質ステロイド(コルチゾール、コルチゾン、コルチコステロン、ブデノシド、エストロゲン、スルファサラジン、メサラミン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、6-α-メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、及びデキサメタゾン)、非ステロイド系薬(サリチル酸誘導体、例えばアスピリンのような)のような抗炎症薬;パラセタモール(アセトアミノフェン)、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)(例えばアスピリン、イブプロフェン、及びナプロキセンのようなサリチレート)、麻薬(例えばモルヒネ)、麻薬特性をもつ合成ドラッグ(例えばトラマドール)のような鎮痛薬;免疫抑制又は免疫除去薬(シクロスポリン、タクロリムス(FK-506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチルのような);血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF、PDGF、TGF-β)といった血管新生薬のような創傷治癒又は瘢痕形成防止薬;内皮細胞増殖因子(例えば、血小板由来ECGF、ECGF-β、ECGF-2a、又はECGF-2b)を含む表面への内皮細胞の接着又は付加を促進する又は助長する接着促進薬;トリクロサン又はセファロスポリン、若しくはマガイニン、アミノグリコシド、又はニトロフラントインといった抗菌ペプチドのような抗菌薬;細胞毒薬、細胞増殖抑制薬、又は細胞増殖影響因子;血管拡張薬又は内因性血管作用機構を妨害する薬剤;ビンカアルカロイド(例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、及びビノレルビン)のような天然物、パクリタキセル、エピジポドフィロトキシン(例えばエトポシド、テニポシド)、抗生物質(ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン、及びイダルビシン)、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)及びマイトマイシン、酵素(L-アスパラギンを全身的に代謝し、且つ個々のアスパラギンを合成する能力をもたない細胞を奪うL-アスパラギナーゼ)を含む抗増殖性物質/抗有糸分裂薬のような抗再狭窄薬;ナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミド及び類似体、メルファラン、クロラムブシルのような)、エチレンイミン、及びメチルメラミン(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、スルホン酸アルキル-ブスルファン、ニトロソウレア(nirosoureas)(カルムスチン(BCNU)及び類似体、ストレプトゾシン)、トラゼン-ダカルバジニン(DTIC)のような抗増殖性物質/抗有糸分裂アルキル化薬;葉酸類似体(メトトレキサート)、ピリミジン類似体(フルオロウラシル、フロクスウリジン、及びシタラビン)、プリン類似体及び関連する阻害薬(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン、及び2-クロロデオキシアデノシン{クラドリビン})のような抗増殖性物質/抗有糸分裂代謝拮抗薬;白金配位錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトーテン、アミノグルテチミド;ホルモン(例えばエストロゲン);抗凝固薬(ヘパリン、合成ヘパリン塩、及び他のトロンビン阻害薬);線維素溶解薬(組織プラスミノゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、及びウロキナーゼのような);抗血小板薬(アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブのような);抗遊走薬;抗分泌薬(ブレベルジンのような);para-アミノフェノール誘導体(例えばアセトアミノフェン);インドール及びインデン酢酸(インドメタシン、スリンダク、及びエトダラク(etodalac)のような)、ヘテロアリール酢酸(トルメチン、ジクロフェナク、及びケトロラクのような)、アリールプロピオン酸(イブプロフェン及び誘導体のような)、アントラニル酸(メフェナム酸及びメクロフェナム酸のような)、エノール酸(ピロキシカム、テノキシカム、フェニルブタゾン、及びオキシフェンタトラゾンのような)、ナブメトン、金化合物(オーラノフィン、オーロチオグルコース、チオリンゴ酸金ナトリウムのような);一酸化窒素供与体;アンチセンスオリゴヌクレオチド及びそれらの組合せを含むがこれらに限定されない。
【0041】
いくつかの実施形態において、薬剤は、抗体又はその抗体結合フラグメント、抗菌増殖因子のような増殖因子、及び/又は心血管治療用タンパク質から選択されるタンパク質である。プロテーゼに用いられてもよい薬剤の別の例は、抗炎症薬、鎮痛薬、抗菌薬、創傷治癒薬又は瘢痕形成防止薬、及び/又は抗再狭窄薬又は免疫抑制薬から選択された小さな化学分子である。
【0042】
この文脈において、コーティングの層の1つ又は複数中に組み入れられるべき薬剤(治療的又は薬学的活性薬)は、小さい有機又は化学分子、タンパク質、又はタンパク質のフラグメント、ペプチド、若しくはDNA又はRNAのような核酸、或いはそれらの任意の組合せとすることができることに留意されたい。本明細書で用いられる場合の「小さな化学分子」という用語は、典型的に、随意的に1つ又は2つの金属原子を含むことができる、100から2000ダルトンまでの間、又は100から1000ダルトンまでの間の範囲内の分子量を有する、少なくとも2つの炭素原子、しかし好ましくは7又は12以下の回転可能な炭素結合を含む有機分子を表す。本明細書で用いられる場合の「ペプチド」という用語は、典型的に、2〜約40、2〜約30、2〜約20、2〜約15、又は2〜約10のアミノ酸残基を含むジペプチド又はオリゴペプチドのことを指す。ペプチドは、天然由来のペプチド又は合成ペプチドであってもよく、他に20の天然由来のL-アミノ酸、D-アミノ酸、天然由来でないアミノ酸及び/又はアミノ酸類似体を含んでもよい。合成ペプチドの具体例は、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)、アルギニン-グルタミン酸-アスパラギン酸-バリン(REDV)、及びチロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン(YIGSR)である。ここでの「タンパク質」は、40超のアミノ酸残基を含むあらゆる天然由来のポリペプチドを意味する。タンパク質は、全長型タンパク又は欠損型(truncated form)、例えば、活性フラグメントとすることができる。タンパク質の例証となる例は、選択された細胞受容体に対する抗体、その抗体結合フラグメント、又は抗体様の特性をもつ他の結合タンパク質(例えば、アフィボディ(affibodies)又は「Anticalins(登録商標)」として知られるリポカリン突然変異タンパク質);阻害抗体、増殖因子に対して向けられた抗体、増殖因子と細胞毒素とからなる二官能分子、抗体と細胞毒素とからなる二官能分子のような血管増殖阻害薬;VEGF(血管内皮増殖因子)のような増殖因子及び信号伝達のための同様の因子、心血管治療用タンパク質、又は心臓ホルモン及びその活性フラグメント、若しくはこうした心臓ホルモンのプロホルモン又はプレプロホルモン(これらのホルモン又はプロホルモンは、それらが40未満のアミノ酸残基を有する場合の本明細書で定義されるようなペプチド、又はそれらのポリペプチド配列が40よりも多いアミノ酸残基を含有する場合のタンパク質のいずれかとすることができる)を含むがこれらに限定されない。心血管治療薬のさらなる例は、ペプチド又は一酸化窒素に対するDNAのようなDNAとすることができる。核酸分子の例は、センス又はアンチセンスDNA分子(標的遺伝子の発現が制御されるべきである場合)又は産生されるべき治療用活性タンパク質のコード配列(単独の又は例えば遺伝子治療ベクターのいずれかにおける)を含む。こうした事例において、核酸は、例えば特許文献3で説明されたように創傷治癒を促進するタンパク質をコードしてもよい。
【0043】
1つ又は複数のコーティング層中の薬剤の(若しくは2つ以上の薬剤が合わさった)量は制限されず、ポリマー層の物理的特性、特に、破裂強度、可撓性、ガラス転移温度、又は破断点伸びが悪影響を受けない限り、望むだけ多くすることができる。いくつかの実施形態において、薬剤の量は、薬剤を含有するポリマー層の乾燥重量に基づき約35wt%までであってもよい。薬剤は、薬剤を含有するポリマー層の乾燥重量に基づき0.1wt%〜35wt%、1wt%〜35wt%、若しくは1wt%〜10wt%、15wt%、20wt%、25wt%又は30wt%の量で存在してもよい。
【0044】
いくつかの実施形態において、プロテーゼは記憶効果特性を備える。記憶効果は、多層構造が所望の外形(すなわち、形状記憶効果を有する)に作り変わることを可能にする。材料は、例えば温度変化のような外部刺激によって誘発されて変形した状態(一時的な形状)からその元の(恒久的な)形状に戻る。この記憶効果は、例えば、最小限に侵襲的な(小さい切開部又は自然開口部を通した)植込み技術を用いることによって、外科的植込みの間に植込片を正しい位置に位置付けるのに用いることができる。プロテーゼは、その小さい一時的な形状で身体内の所望の部位に位置付けられ、これはその後、例えば温度上昇によって形状記憶が作用して、その恒久的な(大抵はより嵩張る)形状に作り変わる。したがって、切開部は、普通はより小さく作製することができ、又は最小にすることができる。加えて、例えば外科縫合において記憶効果プロテーゼが用いられるとき、用いられる材料の形状記憶特性は、自己調整する最適な張力で創傷を閉じることを可能にし、これは、きつ過ぎる縫合による組織損傷を回避し、治癒及び/又は再生を支援する。
【0045】
記憶効果特性は、前述のように層10、層20、層30、層40、又は層42のいずれかによって、又は多層構造の中に記憶効果を提供する2つの付加的な層(50、52)を付加することによって提供することができる。これにより、これらの層は、多層構造の2つの隣接する層として又は異なる部位に提供することができることは言うまでもない。図6に示される例示的な実施形態(これは種々の可能な実施形態のうちのほんの1つである)において、記憶効果を提供する2つの層50及び52は、例えば、多孔性層10と補強層20との間に配置され、これは同時に接着防止特性を有することができる。他の例において、両方の層は、例えば図4又は図5に示された3層又は5層のプロテーゼにおいて提供することができる。薬剤放出又は表面処理された最外層のそれぞれの特性を維持することができるように、記憶効果を提供する層50及び52は、普通は補強層の代わりに又は補強層に隣接して提供される。
【0046】
記憶効果を提供する層は、形状記憶ポリマー(SMP)のような十分な記憶効果を有するあらゆる材料とすることができる。SMPは、例えば温度変化のような外部刺激によって誘発される変形した状態(一時的な形状)からそれらの元の(恒久的な)形状に戻る能力を有するポリマー材料である。種々のSMPは、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンのポリマー又はコポリマーのような熱可塑性及び熱硬化性(架橋された)形状記憶ポリマーである。これらのポリマー及びコポリマーは、医療機器の技術分野において既知である。普通は、SMPは、いかなる有毒な又は刺激のある悪影響をも回避するために生体適合性であるべきである。
【0047】
記憶効果を有する二層構造の例証となる例は、それぞれ約50%のポリ(ラクチド)含有量とポリ(グリコリド)含有量とを有するポリ(ラクチド)・ポリ(グリコリド)コポリマー(PLGA)で作製された層50と、約75%のポリ(ラクチド)含有量と約25%のポリ(グリコリド)含有量とを有するポリ(ラクチド)・ポリ(グリコリド)コポリマー(PLGA)で作製された層52である。
【0048】
いくつかの実施形態において、多層シート構造を有するプロテーゼは、異方性の孔構造を有し、又は孔は、異方性の形状を有する。これらの異方性の構造は、本発明のプロテーゼを、該プロテーゼが挿入されるべき部位の異方性の性質に適合させることができるようにする。より詳細には、プロテーゼの可撓性及び破裂強度は、例えば周囲の筋腱膜の層又は周囲組織へのプロテーゼの改善された取り付け及び組み入れを得るために、特定の新規な異方性の孔構造によって十分に且つ様々に制御することができる。
【0049】
上述の利点を提供し且つ本発明の方法によって直ちに用意することができる例証となる異方性の構造が、図8、図9、及び図11〜図13に示される。
【0050】
図8は、プロテーゼのすべての層を貫通して延在するテーパした貫通穴(点線で示される)を有する図3に示されたプロテーゼ(二層プロテーゼ)の実施形態の横断面図である。こうした孔構造は、3つ、4つ、又はそれ以上の異なる層を備えたプロテーゼのような上記の多層構造のすべてに適用することができることは言うまでもない。こうした孔の断面の形状は、円形の形状、楕円形の形状、卵形の形状、多角形の形状(例えば、三角形、四角形、五角形、又はひし形様の形状)、非円形の断面形状又は左右対称の形状のようなあらゆる規則的な形状又は不規則な形状とすることができる。前述のように、壁の表面の構造はまた、表面摩擦を強化するために不規則な形状にすることができる。直線形の形状の貫通穴(点線で示される)を有する図7に示されたプロテーゼとは対照的に、孔の中への組織の浸透又は成長は、特定の異方性の孔の形状(テーパした形状、例えば円錐形又はピラミッド形の形状)によって制御することができる。これに加えて、補強層20の表面上の孔径は、あらゆる組織浸透を本質的に防止することができるように、サブマイクロメートル範囲に調整されてもよい。補強層20の表面上の小さい穴は、しかしながら、例えば薬剤の溶離を同時に可能にすることができる。
【0051】
図9は、図3に示されたプロテーゼ(二層構造を有する)のさらなる実施形態の斜視図である。この例示された実施形態において、孔は、プロテーゼの多孔性層のみを通した貫通穴として形成される。これはまた、例えば多孔性層10の中への腹部組織の成長を容易にし、一方、同時に、補強層20は、組織に対する遮断層又は障壁層として働く。この特定の実施形態において、孔は四角形様の形状を有する。
【0052】
図10は、同じくプロテーゼの多孔性層(10)のみを貫通して延在する貫通穴を有する、図3に示されたプロテーゼの別の実施形態の斜視図である。この実施形態において、孔は円筒形の形状を有する。
【0053】
ここでは、本発明のプロテーゼが図9及び図10に示された2つの例証となる例に限定されないことに留意されたい。孔を形成することができる種々の形状設計が当業者には公知である。こうした孔構造(多孔性層10内に延在するが、多層構造の1つ、2つ、又は3つ以上の層内にも延在することができる、又はプロテーゼを貫通して延在する貫通穴とすることができる)の例証となる種々の例が、例えば図11a、図11b、及び図11cに示される。表面領域のみにキャビティ又は凹部を有する図11aに示された粗くされた表面、例えば円錐形又はピラミッド形の形状を有する図11bに示されたテーパした孔の形態、又は図11cに示された嚢状の孔の形状のような各々の例証された実施形態が、例えば周囲の筋腱膜の層又は周囲組織へのプロテーゼのより良好な取り付け及び組み入れを保証するために、制御された異方性の孔構造を提供するのに適している。当業者であれば、ルーチン実験によって付加的な孔の異方性の孔形状を見出すことができる。
【0054】
図12a〜図12c及び図13a〜図13bは、改善された異方性の孔形状又は孔構造を有するプロテーゼのさらに例証となる実施形態を示す。図12a〜図12cは、異方性の孔形状を有するプロテーゼの種々の実施形態の平面図である。図13a〜図13bは、異方性の孔構造を有するプロテーゼの種々の実施形態の平面図である。例えば、図13aでは、プロテーゼの左側の孔は四角形の形状を有し、一方、右側の孔はひし形様の形状を有し、一方、縦軸は変化しない。同様に、図13bに示されたプロテーゼにおいて、孔の形状は、左側から右側へと変化する。この実施形態において、形状は、円形の形状から卵形の形状に変化する。当業者は、周囲組織の異方性の解剖学的性質をより良好にコピーする又は模擬するのに十分なだけの異方性を有する特定の制御された孔構造を設計するために、ルーチン実験によって同一平面上の孔の形状を変化させる又は異なる形状を混合するいくつかの可能性をもたらすことができる。
【0055】
これらのすべての孔の形状は、これらの特定の新規な異方性の孔の形状とプロテーゼの異方性に対するそれらの影響が外科的プロテーゼの技術分野において独自のものであるので、前述の従来技術で説明されたようないかなる織る又は編む技術によっても作製することはできないことに留意されたい。
【0056】
代替的な実施形態が図14に示される。この実施形態において、その表面層にウェル又はポット穴60の形態の孔を備える多孔性層10が示される。補強層20などのような他の層は、この図には示されない。多孔性層のフィルム厚さは、例えば、約500μmであり、ウェル又はポット穴60は、例えば、レーザ切断、エンボス加工、又はドリリングを用いることによって多孔性層の中に切り込むことができる。この場合、ウェル又はポット穴60は、穴60の深さが多孔性層の厚さよりも小さいので、多孔性層を貫通しない。図14に示された実施形態において、厚さは、例えば約300μmである。ウェル又はポット穴60が提供されないプロテーゼの他の部分に、前述のように多孔性層又はプロテーゼ全体を穿孔する貫通穴のような孔を提供することができる(図示せず)。したがって、この実施形態のプロテーゼは、2つの異なる孔、すなわち貫通穴及び穴60を有することができる。穴60、すなわちウェル又はポット穴は、例えば細胞再生を誘発するのに用いることができる。細胞再生を誘発するために、ウェル又はポット穴は、前述のように薬剤、タンパク質などのような添加剤を含有することができ、又はそれらは、単純に細胞再生のためのキャビティ部位として働くことができる。
【0057】
本発明の第2の態様において、多層シート構造を有するプロテーゼの製造方法が提供される。方法は、多層シート構造をもたらすために2つの連続するポリマーフィルム層を形成するステップを含む。
【0058】
この点で、プロテーゼのいずれの層も連続するフィルムの形態のポリマー材料から作製されることに留意されたい。そのうえ、連続するポリマーフィルム層は、普通は、液体又はペースト様のポリマー材料から作製され、その後、連続するポリマーフィルムを生成するために該材料が硬化される。いくつかの実施形態において、例えば、射出成形及び圧縮成形のような成形法、溶液コーティング、浸漬コーティング、又はスピンコーティングのようなコーティング法、溶液鋳造、及び/又はブロー押出し又はフィルム押出しのような押出し法によって少なくとも2つの層が形成される。
【0059】
鋳造方法が用いられる事例において、ポリマーフィルムは、孔のマトリクスパターンを有する特定の型を用いることによって、ポリマーフィルム層の製造中に孔又は貫通穴によって間抜きすることができる。例えば、粗化された型を用いることによって、粗くされた表面を提供することができる。同様に、メッシュ様の構造のようなあらゆる孔構造は、それぞれの二部品又は多部品の型が用いられる場合に射出成形技術によって容易に作製することができる。
【0060】
代替的な実施形態において、多層構造、又は1つ、2つ、又はそれ以上のこれらの層若しくは最外層の表面を処理するために、種々の機械的処理又は化学処理を用いることができる。機械的処理の例示的な実施形態は、スタンピング、研削、レーザ切断、放電機械加工、ドリリングなどのような機械的摩耗又は切断法である。これらの方法によって、所望の領域で処理されたそれぞれのポリマー層は、多孔性構造又はメッシュ状構造に容易に形成することができる。
【0061】
別の例示的な実施形態において、例えば粗化された型上に鋳造し、その後、その上に多層構造の他の層を重ねることによって用意することができる粗くされた表面の摩擦は、例えば、孔又は多孔性層の表面を改質するための処理によって適切に調整することができる。こうした処理は、機械的手段、熱手段、電気手段、又は化学手段のような種々の手段を含んでもよい。層の所望の表面摩擦及び/又は表面粗さを調整するのに適した機械的処理の種々の例は、プラズマ処理、サンドブラスト処理、エンボス加工処理、又はサイジング処理を含むがこれらに限定されない。化学処理の種々の例は、プラズマ重合コーティング又は溶液コーティング若しくは化学的エッチング処理を含む。例えば、湿潤能力を増加させるための化学表面処理の例証となる例として、親水性のポリマーでコーティングすることによって又は例えば界面活性剤で処理することによってあらゆる疎水性の表面の表面特性を親水性にするための処理を挙げることができる。
【0062】
上記で説明した溶媒鋳造多層フィルムプロセスは、フィルムがその製造後にレーザ切断されることになるので、現在のフィラメント織りメッシュプロセスの限界を克服する一助となる。レーザ切断は、腹壁の異方性の解剖学的性質と最適に合致するであろう異方性の設計を含む設計のすべての可能性を広げる。したがって、プロテーゼは、一般に、所望の異方性の特性を与えるように事前に計算的に解析された(例えば、一般に繰返しプロセスを用いる有限要素解析、FEA、すなわち一般に繰返しプロセスを用いることによる)設計を用いて、レーザ切断によって平坦な多層シートから切断される。同方法はまた、最小量の材料を用いる設計を達成するために用いることができる。したがって、材料コストを下げることができ、且つ製造プロセスをより費用効率の高いものにすることができる。加えて、所謂ハルステッドの原理に従えば、最小限の量の異物が患者に導入される程、患者はより良い。ヘルニア修復では、これは、恒久的な支持のために最適な強度をもつ最小限の量の材料を有することに等しい。この原理を用いて、上記で説明した方法によって孔の設計及びプロテーゼの厚さを満足に調整することができる。
【0063】
すべてのこれらの方法は、制御された孔構造の製作を容易にする。例えば、非円形の形状又は左右対称の形状のような不規則な形状を有する孔、若しくは異方性の構造をもつ孔構造をこれらの方法によって製造することができる。これらの方法によって規則的な孔構造を製造することもできることは言うまでもない。異なる孔の形状はプロテーゼに関して既に詳細に説明されているので、ここでは繰返さない。上述の方法のうちの1つを用いることによってそれぞれの形状をどのようにして生産するのかは、当業者には公知である。
【0064】
別の例示された実施形態において、多層構造の最外層は、無機又は有機微粒子及び/又は無機/有機複合粒子をポリマー混合物中に分散させ、次いで粗化された表面を得るためにそれぞれの層を成形することによって作製される。種々の例は、例えば、シリカ、チタニア、ベントナイト、粘土、又はこれらの混合物のような無機粒子、ポリマーフィルムのポリマーよりも高い融点を有するオリゴマー又はポリマーのような有機粒子、若しくはポリマーシェルを有し且つコア材料としてのシリカ又はチタニアの粒子のような無機/有機複合粒子を含む。したがって、改善された表面摩擦特性を有する粗くされた表面を提供することができる。必要であれば、得られた粗い表面は、表面の摩擦又は湿潤性をさらに改善するために前述のように後処理することができる。
【0065】
前述のように、方法は、例示的な実施形態において、それぞれのコーティングが望まれる場合に、プロテーゼの一方又は両方の外面の少なくとも一部上に接着防止コーティング層を形成することを含む。方法はまた、薬剤放出層又は記憶効果を提供する層を提供するステップを包含することができる。
【0066】
以下で、多層プロテーゼの製造方法の例証となる実施例が説明され、これらの実施例は、本発明をこれらの3つの実施形態に限定することを意図されない。すべての実施例において、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、多層プロテーゼのポリマー材料として用いられる。本出願人は、十分に生体適合性となることが示されているPVDFの多数の層を鋳造するこれらの新規な方法を開発した。PVDFは、より高い強度を有し、なおかつ良好な可撓性を保持する。これは、プロテーゼが現在のポリプロピレンメッシュプロテーゼよりも薄く作製されることを可能にする。これはまた、これらの特性を非常に良好に保持し、ポリプロピレンメッシュでは重要な問題であったクラックを、身体内に埋め込まれたときに時間と共に形成しない。これは加水分解への耐性が高く、最小限の収縮を有する。これは、従来のPTFEメッシュを上回るさらに強い改善である。
【0067】
(1)溶液鋳造:
この方法によれば、ポリマー材料を、最初に適切な溶媒中に溶かした。薬剤を含有するこれらの層において、鋳造する前に薬剤を最初にポリマー溶液中に溶かした。次いで、溶液を型上に適用し、その表面プロフィールが第1の層の表面粗さ又はプロフィールを決定した。型の外形はまた、フィルムが植込まれたときの最終的な所望の外形の形状であった。次いで、次の層が同様に堆積される前にすべての溶媒を放出するために層を注意深く乾燥させた。所望の数の層が達成されるまでこのプロセスを反復して繰返した。次いで、所望の形状のプロテーゼの形成を得るために、型上の1つ又は複数のポリマー層のガラス転移温度を上回る温度で多層フィルムの全体を熱処理した。次いで、外形設定されたフィルムを身体内に挿入する前に25℃以下で平らに広げて平坦なシートにした。次いで、フィルムは、身体内に位置付けられると37℃でその所望の外形設定された形状に戻ることになる。
【0068】
(2)浸漬コーティング:
型を制御された様式でポリマーの溶液中に垂直に浸漬コーティングし、これを型上のポリマー層コーティングと共に引き上げることによって多層フィルムを鋳造した。これらの層において、鋳造する前に薬剤を最初にポリマー溶液中に溶かした。次いで、第2の層を達成するために別のポリマー溶液中に浸漬コーティングする前に、すべての溶媒を放出するためにコーティングを乾燥させた。所望の層が得られるまでプロセスを反復して繰返した。型は、第1の層の表面粗さ又はプロフィールを決定する表面プロフィールを有した。型の外形は、フィルムの植込み後に得られる最終的な所望の外形の形状に似せた。次いで、所望の形状の形成を得るために型上の1つ又は複数のポリマー層のガラス転移温度を上回る温度で多層フィルムの全体を熱処理した。次いで、外形設定されたフィルムを身体内に挿入する前に25℃以下で平らに広げて平坦なシートにした。次いで、フィルムは、身体内に位置付けられると37℃でその所望の外形設定された形状に戻ることになる。
【0069】
(3)スピンコーティング:
スピンコーティングは、型上の均等なスパンコーティングを得るためにポリマー溶液を高速スピニング型上に一滴ずつ適用する方法を採用する。この方法は、所望のポリマー材料のために用いられた。薬剤を含有するこれらの層において、鋳造する前に薬剤を最初にポリマー溶液中に溶かした。型の外形はまた、フィルムの植込み後に得られた最終的な所望の外形の形状に似せた。次いで、同じ様式で前の層上に次の層が堆積される前にすべての溶媒を放出するために層を注意深く乾燥させた。所望の数の層が達成されるまでこのプロセスを反復して繰返した。次いで、所望の形状を得るために型上の1つ又は複数のポリマー層のガラス転移温度を上回る温度で多層フィルムの全体を熱処理した。次いで、外形設定されたフィルムを身体内に挿入する前に25℃以下で平らに広げて平坦なシートにした。次いで、フィルムは、身体内に位置付けられると37℃でその所望の外形にされた形状に戻ることになる。
【0070】
(4)代替的な製造方法:
同様のPVDFフィルムを、上記で説明した鋳造方法の代わりに成形法又は押出し法によって用意した。フィルムを成形した後で、レーザ切断又は機械的切断(例えば、ドリリング)を用いることによって特定の孔パターンを切断し、こうしてメッシュ様のフィルム構造体を提供した。
【0071】
このようにして得られたフィルム構造体を、次いで、薬学的活性薬を含有するカルボキシメチルセルロース(他の生分解性材料はまた、同じ様式で用いることもできる)で作製されたトップコーティングをその上に接着させることによってさらに処理した。接着特性を強化するために、付加的なフィルムの形態の接着促進剤として又はカルボキシメチルセルロースへの接着剤(adjective)としてPLGAのような生体適合性ポリマーを用いた。このようにして、多孔性PVDFフィルム層を備える多層フィルムプロテーゼが用意された。
【0072】
本発明の別の態様は、本発明によるプロテーゼを植込むことによって患者を処置する方法を指す。本発明の第3の態様による方法は、一般に、前に説明したような本発明のプロテーゼをヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラットなどのような哺乳類に植込むステップを包含する。
【0073】
いくつかの実施形態において、方法(又はプロテーゼ)は、あらゆる壁の欠陥又は損傷した器官を処置するために用いることができるがこれに限定されない。壁の欠陥の種々の例は、ヘルニア欠陥、腹壁、横隔膜及び/又は胸壁の解剖学的欠陥、又は尿生殖器系における欠陥である。例えばシート様のプロテーゼを損傷した器官の周りに巻くこと又はこれを補強するためにこれを損傷した器官の壁の中に植込むことによって処置することができる損傷した器官の種々の例は、脾臓、肝臓、腎臓、肺、膀胱、又は心臓のような内部器官、若しくは胃又は腸のような腸管の器官を含む。方法の例証となる例は、心臓パッチ、結腸パッチ、血管パッチのような血管プロテーゼ、縫合糸パッチ又はメッシュのような創傷治癒のためのパッチ、ヘルニアパッチ、口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、直腸、及び肛門のためのプロテーゼのような胃腸プロテーゼ、泌尿生殖器系のためのパッチなどのようなプロテーゼの植込みを含む。
【0074】
結論として、プロテーゼは、周囲組織に完全に応従して作製することができ、これらの組織に従って動くことが上記の説明によって示されている。加えて、プロテーゼは、周囲組織に充分に固定することができ、且つそれらの独自の孔構造、特に異方性の孔、又は異方性の孔構造により組織と共に柔軟に且つ弾性的に伸長することができる。したがって、新規なプロテーゼは、一般に良好に固定されない又は可撓性ではなく(いくつかのポリマーフィラメント又は繊維で作製された従来のヘルニアメッシュのような)したがって患者の腹部組織に対して痛々しく滑動する従来のプロテーゼのほとんどの欠点を克服することができる。この滑動は、一般に大きな不快と、腹部に対する外傷さえ引き起こす。
【0075】
加えて、本発明のプロテーゼは、多層構造の各層が内臓組織に面する層の接着防止特性のような異なる特性を備えるため、内臓との組織接着を生じさせない。内臓接着は、一般に、結果として手術後の痛み、腸閉塞、最も深刻にはフィステルの形成をもたらすため、本発明の新規なプロテーゼは、従来のプロテーゼのこれらの欠点を同時に克服する。
【0076】
そのうえ、本発明は、例えば、哺乳類の腹壁の補強若しくは壁又は器官における他の欠陥を修復するための新規な薬剤放出多層プロテーゼを提供する。内臓組織又は内部器官への意図せぬ接続を回避するために、プロテーゼの一方の側が非接着機能を備え、他方の側が組織又は器官表面へのプロテーゼの固定を促進するためにより高い摩擦及び接着機能を備えるプロテーゼが提供される。このプロテーゼはまた、腹壁、横隔膜、及び胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系における欠陥の補正、及び外傷により損傷した脾臓、肝臓、又は腎臓のような器官の修復を含む他の外科的手順に用いることもできる。
【符号の説明】
【0077】
10 多孔性層
20 補強層
30 接着防止コーティング層
40 薬剤放出層
42 薬剤放出層
50 記憶効果を提供する層
52 記憶効果を提供する層
60 ウェル又はポット穴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を備える多層シート構造を有するプロテーゼ。
【請求項2】
前記多層構造の少なくとも1つの層が孔を有する多孔性層である、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項3】
前記孔が、前記多孔性層における貫通穴を形成するために前記多孔性層の1つの表面から前記多孔性層の第2の表面まで延在する、請求項2に記載のプロテーゼ。
【請求項4】
前記孔が、前記プロテーゼの前記多層構造における貫通穴を形成するために前記プロテーゼの1つの表面から前記プロテーゼの他の表面まで延在する、請求項2に記載のプロテーゼ。
【請求項5】
前記多孔性層が腹部組織への良好な固定を可能にするために高い摩擦を有する、請求項2から4のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項6】
前記多孔性層が腹部組織への固定を可能にするために高い湿潤能力を有する、請求項2から4のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項7】
前記多孔性層の表面とは反対側の表面が内臓組織に対する接着防止効果を有する、請求項2から6のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項8】
前記プロテーゼの一方又は両方の外面の少なくとも一部上の接着防止コーティング層を付加的に備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項9】
前記接着防止コーティング層が、生体適合性又は生体吸収性ポリマーを含む、請求項8に記載のプロテーゼ。
【請求項10】
前記接着防止コーティング層が接着防止薬を含む、請求項8又は請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項11】
前記接着防止薬が、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン、オメガ-3脂肪酸、ヒアルロン酸、酸化再生セルロース、ゼラチン、多糖類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポロキサマーのような生体適合性の界面活性剤、及びこれらの材料からの誘導体及び/又は混合物である、請求項10に記載のプロテーゼ。
【請求項12】
前記多層構造の前記層の各々が、生体適合性又は生体吸収性ポリマー材料を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項13】
前記生体適合性ポリマー材料が、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、並びにp-ジオキサノン、炭酸トリメチレン(1,3-ジオキサン-2-オン)、及びこれらのアルキル誘導体、バレロラクトン、ブチロラクトン、デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシ吉草酸、1,5-ジオキセパン-2-オン、1,4-ジオキセパン-2-オン、6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オンのポリマー又はコポリマー、若しくはこれらの任意のポリマー混合物のうちのいずれかである、請求項9又は請求項12に記載のプロテーゼ。
【請求項14】
前記生体吸収性ポリマー材料が、ポリグリコリド、ポリラクチド、及びポリ-コ-グリコラクチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(エチレングリコリド)、ポリエチレングリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)のようなポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリグルコネート、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、多糖類、セルロース誘導体、ヒアルロン酸ベースのポリマー、デンプン、ゼラチン、コラーゲン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ酸無水物、ポリリン酸エステル、ポリ(アミノ酸)、若しくはこれらの任意のポリマー混合物、コポリマー、又は誘導体のいずれかである、請求項9又は請求項12に記載のプロテーゼ。
【請求項15】
前記孔が約0.5mm〜5mmの平均孔径を有する、請求項2から14のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項16】
前記孔が約1mm〜4mmの平均孔径を有する、請求項2から14のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項17】
前記孔が規則的な形状又は不規則な形状を有する、請求項2から16のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項18】
規則的な形状を有する前記孔が、円形の形状、楕円形の形状、卵形の形状、若しくは三角形、四角形、五角形、又はひし形様の形状のような多角形の形状を有する、請求項17に記載のプロテーゼ。
【請求項19】
不規則な形状を有する前記孔が、異方性の孔構造を提供するために非円形の断面形状又は左右対称の形状を有する、請求項17に記載のプロテーゼ。
【請求項20】
前記多層構造における同一平面上の孔が、異方性の孔構造を提供するために異なる孔直径又は孔形状を有する、請求項17から19のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項21】
前記孔がその断面において異方性の形状を有する、請求項2から20のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項22】
前記孔の前記異方性の形状が、前記多孔性層の上面からその内側部分又は前記プロテーゼの反対側までテーパする、請求項21に記載のプロテーゼ。
【請求項23】
前記孔の前記異方性の孔構造又は前記異方性の形状が、前記プロテーゼが患者の中に挿入されるべき部位の異方性の解剖学的性質に適合される、請求項19から22のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項24】
前記多孔性層又は前記接着防止コーティング層のような前記多層構造の前記層のうちの1つ、2つ、又は3つ以上が、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含む、薬剤放出層である、請求項1から23のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項25】
前記プロテーゼの一方又は両方の最外層上に、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含む付加的なポリマー薬剤放出層をさらに含む、請求項1から23のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項26】
前記薬剤が、小さな化学分子、ペプチド、タンパク質、核酸、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項24又は請求項25に記載のプロテーゼ。
【請求項27】
前記タンパク質が、抗体又はその抗体結合フラグメント、抗菌増殖因子のような増殖因子、及び/又は心血管治療用タンパク質から選択される、請求項26に記載のプロテーゼ。
【請求項28】
前記小さな化学分子が、抗炎症薬、鎮痛薬、抗菌薬、創傷治癒薬又は瘢痕形成防止薬、及び/又は抗再狭窄薬又は免疫抑制薬から選択される、請求項26に記載のプロテーゼ。
【請求項29】
記憶効果特性を有する、請求項1から28のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項30】
その多層シート構造に前記記憶効果特性を提供する2つの付加的な層を備える、請求項29に記載のプロテーゼ。
【請求項31】
前記多層シート構造が、前記シート構造の長軸に沿って実質的に可撓性である、請求項1から30のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項32】
前記多層シート構造が少なくとも2つの異なる孔構造を備え、前記第1の孔構造が、多孔性層を通る又はプロテーゼを通る貫通穴を備え、前記第2の孔構造が、前記第1の孔構造が設けられない前記多孔性層の部分上に1つ又は複数のウェル又はポット穴を備え、前記ウェル又はポット穴の深さが前記多孔性層の厚さと同様に小さい、請求項1から31のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項33】
多層シート構造をもたらすために少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を形成するステップを含む、多層シート構造を有するプロテーゼの製造方法。
【請求項34】
前記少なくとも2つの層が、射出成形及び圧縮成形のような成形法、浸漬コーティング又はスピンコーティングのようなコーティング法、溶液鋳造、及び/又はブロー押出し又はフィルム押出しのような押出し法によって形成される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記多層シート構造の最外層が、粗くされた表面を得るために粗化された型上にポリマーを鋳造し、その上に付加的な層を形成し、次いで、その表面摩擦と湿潤能力を増加させるために前記多孔性層の前記粗くされた表面を機械的に又は化学的に処理することによって形成される、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記粗くされた表面の前記機械的処理が、プラズマ処理、サンドブラスト処理、エンボス加工処理、又はサイジング処理を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記粗くされた表面の前記化学処理が、エッチング処理若しくはプラズマ重合コーティング又は溶液コーティングのようなコーティングを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記多層構造の前記最外層が、無機又は有機微粒子、及び/又は無機/有機複合粒子をポリマー混合物中に分散させ、次いで粗化された表面を得るために前記それぞれの層を成形することによって作製される、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記無機粒子が、シリカ、チタニア、ベントナイト、粘土、又はこれらの混合物を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記有機粒子が、前記ポリマーフィルムのポリマーよりも高い融点を有するオリゴマー又はポリマーを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記無機/有機複合粒子が、コア及びポリマーシェルにおけるシリカ又はチタニアの粒子を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
孔パターンを有するマトリクスを用いることによって前記多層構造の1つ又は複数の層に孔が作製される、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項43】
最外層として固体層の形態の多孔性層が形成され、次いで、前記固体層から機械的処理によって前記多孔性構造体が形成される、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記機械的処理が、研削プロセス、レーザ切断プロセス、放電機械加工、スタンピング、又は機械的摩耗プロセスである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記プロテーゼの一方又は両方の外面の少なくとも一部上に接着防止コーティング層が形成される、請求項33から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記接着防止コーティング層が生体適合性又は生体吸収性ポリマーを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記接着防止コーティング層が接着防止薬を含む、請求項45又は請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記多層構造が、生体適合性又は生体吸収性ポリマー材料を含む少なくとも2つの層で作製される、請求項33から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記生体適合性ポリマー材料が、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、並びにp-ジオキサノン、炭酸トリメチレン、及びこれらのアルキル誘導体、バレロラクトン、ブチロラクトン、デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシ吉草酸、1,5-ジオキセパン-2-オン、1,4-ジオキセパン-2-オン、6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オンのポリマー又はコポリマー、若しくはこれらの任意のポリマー混合物のいずれかである、請求項46又は請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記生体吸収性ポリマー材料が、ポリグリコリド、ポリラクチド、及びポリ-コ-グリコラクチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(エチレングリコリド)、ポリエチレングリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)のようなポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリグルコネート、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、多糖類、セルロース誘導体、ヒアルロン酸ベースのポリマー、デンプン、ゼラチン、コラーゲン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ酸無水物、ポリリン酸エステル、ポリ(アミノ酸)、若しくは任意のポリマー混合物、コポリマー、又は誘導体のいずれかである、請求項46又は請求項48に記載の方法。
【請求項51】
少なくとも1つの層が、約0.5mm〜5mmの平均孔径を有する孔を備える、請求項33から50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
少なくとも1つの層が、約1mm〜4mmの平均孔径を有する孔を備える、請求項33から50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
少なくとも1つの層が、規則的な形状又は不規則な形状を有する孔を備える、請求項33から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
規則的な形状を有する前記孔が、円形の形状、楕円形の形状、卵形の形状、若しくは三角形、四角形、五角形、又はひし形様の形状のような多角形の形状を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
不規則な形状を有する前記孔が、異方性の孔構造を提供するために非円形の断面形状又は左右対称の形状を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記多層構造における同一平面上の孔が、異方性の孔構造を提供するために異なる孔直径又は孔形状を有する、請求項53から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
少なくとも1つの層が、その断面において異方性の形状を有する孔を備える、請求項33から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記孔の前記異方性の形状が、前記多孔性層の上面からその内側部分又は前記プロテーゼの反対側までテーパする、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記孔の前記異方性の孔構造又は前記異方性の形状が、前記プロテーゼが患者の中に挿入されるべき部位の異方性の解剖学的性質に適合される、請求項53から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記多孔性層又は前記接着防止コーティング層のような前記多層構造の前記層のうちの1つ、2つ、又は3つ以上が、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を、前記層を成形する前に前記それぞれの層中に付加することによって、又は前記成形された層に前記放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含浸することによって薬剤放出層として作製される、請求項33から59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記プロテーゼの一方又は両方の最外層上に、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含む付加的なポリマー薬剤放出層を形成するステップをさらに含む、請求項33から59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記多層シート構造における2つの層が記憶効果を提供するために形成される、請求項33から61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記2つの層が、前記プロテーゼの前記多層シート構造に前記記憶効果特性を提供する2つの付加的な層としてポリマー材料で形成される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
請求項1から32のいずれか一項に記載のプロテーゼを植込むことによって患者を処置する方法。
【請求項65】
前記プロテーゼが、腹壁ヘルニア欠陥を強化するために植込まれる、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記プロテーゼが、腹壁、横隔膜及び/又は胸壁の解剖学的欠陥を修復するために植込まれる、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記プロテーゼが、尿生殖器系における欠陥の補正のために植込まれる、請求項64に記載の方法。
【請求項68】
前記プロテーゼが、外傷により損傷した脾臓、肝臓、腎臓、肺、膀胱、又は心臓のような器官を修復するために植込まれる、請求項64に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を備える多層シート構造を有するプロテーゼ。
【請求項2】
前記多層構造の少なくとも1つの層が孔を有する多孔性層である、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項3】
前記孔が、前記多孔性層における貫通穴を形成するために前記多孔性層の1つの表面から前記多孔性層の第2の表面まで延在する、請求項2に記載のプロテーゼ。
【請求項4】
前記孔が、前記プロテーゼの前記多層構造における貫通穴を形成するために前記プロテーゼの1つの表面から前記プロテーゼの他の表面まで延在する、請求項2に記載のプロテーゼ。
【請求項5】
前記多孔性層が腹部組織への良好な固定を可能にするために高い摩擦を有する、請求項2から4のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項6】
前記多孔性層が腹部組織への固定を可能にするために高い湿潤能力を有する、請求項2から4のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項7】
前記多孔性層の表面とは反対側の表面が内臓組織に対する接着防止効果を有する、請求項2から6のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項8】
前記プロテーゼの一方又は両方の外面の少なくとも一部上の接着防止コーティング層を付加的に備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項9】
前記接着防止コーティング層が、生体適合性又は生体吸収性ポリマーを含む、請求項8に記載のプロテーゼ。
【請求項10】
前記接着防止コーティング層が接着防止薬を含む、請求項8又は請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項11】
前記接着防止薬が、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン、オメガ-3脂肪酸、ヒアルロン酸、酸化再生セルロース、ゼラチン、多糖類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポロキサマーのような生体適合性の界面活性剤、及びこれらの材料からの誘導体及び/又は混合物である、請求項10に記載のプロテーゼ。
【請求項12】
前記多層構造の前記層の各々が、生体適合性又は生体吸収性ポリマー材料を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項13】
前記生体適合性ポリマー材料が、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、並びにp-ジオキサノン、炭酸トリメチレン(1,3-ジオキサン-2-オン)、及びこれらのアルキル誘導体、バレロラクトン、ブチロラクトン、デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシ吉草酸、1,5-ジオキセパン-2-オン、1,4-ジオキセパン-2-オン、6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オンのポリマー又はコポリマー、若しくはこれらの任意のポリマー混合物のうちのいずれかである、請求項9又は請求項12に記載のプロテーゼ。
【請求項14】
前記生体吸収性ポリマー材料が、ポリグリコリド、ポリラクチド、及びポリ-コ-グリコラクチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(エチレングリコリド)、ポリエチレングリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)のようなポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリグルコネート、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、多糖類、セルロース誘導体、ヒアルロン酸ベースのポリマー、デンプン、ゼラチン、コラーゲン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ酸無水物、ポリリン酸エステル、ポリ(アミノ酸)、若しくはこれらの任意のポリマー混合物、コポリマー、又は誘導体のいずれかである、請求項9又は請求項12に記載のプロテーゼ。
【請求項15】
前記孔が約0.5mm〜5mmの平均孔径を有する、請求項2から14のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項16】
前記孔が約1mm〜4mmの平均孔径を有する、請求項2から14のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項17】
前記孔が規則的な形状又は不規則な形状を有する、請求項2から16のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項18】
規則的な形状を有する前記孔が、円形の形状、楕円形の形状、卵形の形状、若しくは三角形、四角形、五角形、又はひし形様の形状のような多角形の形状を有する、請求項17に記載のプロテーゼ。
【請求項19】
不規則な形状を有する前記孔が、異方性の孔構造を提供するために非円形の断面形状又は左右対称の形状を有する、請求項17に記載のプロテーゼ。
【請求項20】
前記多層構造における同一平面上の孔が、異方性の孔構造を提供するために異なる孔直径又は孔形状を有する、請求項17から19のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項21】
前記孔がその断面において異方性の形状を有する、請求項2から20のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項22】
前記孔の前記異方性の形状が、前記多孔性層の上面からその内側部分又は前記プロテーゼの反対側までテーパする、請求項21に記載のプロテーゼ。
【請求項23】
前記孔の前記異方性の孔構造又は前記異方性の形状が、前記プロテーゼが患者の中に挿入されるべき部位の異方性の解剖学的性質に適合される、請求項19から22のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項24】
前記多孔性層又は前記接着防止コーティング層のような前記多層構造の前記層のうちの1つ、2つ、又は3つ以上が、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含む、薬剤放出層である、請求項1から23のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項25】
前記プロテーゼの一方又は両方の最外層上に、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含む付加的なポリマー薬剤放出層をさらに含む、請求項1から23のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項26】
前記薬剤が、小さな化学分子、ペプチド、タンパク質、核酸、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項24又は請求項25に記載のプロテーゼ。
【請求項27】
前記タンパク質が、抗体又はその抗体結合フラグメント、抗菌増殖因子のような増殖因子、及び/又は心血管治療用タンパク質から選択される、請求項26に記載のプロテーゼ。
【請求項28】
前記小さな化学分子が、抗炎症薬、鎮痛薬、抗菌薬、創傷治癒薬又は瘢痕形成防止薬、及び/又は抗再狭窄薬又は免疫抑制薬から選択される、請求項26に記載のプロテーゼ。
【請求項29】
記憶効果特性を有する、請求項1から28のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項30】
その多層シート構造に前記記憶効果特性を提供する2つの付加的な層を備える、請求項29に記載のプロテーゼ。
【請求項31】
前記多層シート構造が、前記シート構造の長軸に沿って実質的に可撓性である、請求項1から30のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項32】
前記多層シート構造が少なくとも2つの異なる孔構造を備え、前記第1の孔構造が、多孔性層を通る又はプロテーゼを通る貫通穴を備え、前記第2の孔構造が、前記第1の孔構造が設けられない前記多孔性層の部分上に1つ又は複数のウェル又はポット穴を備え、前記ウェル又はポット穴の深さが前記多孔性層の厚さと同様に小さい、請求項1から31のいずれか一項に記載のプロテーゼ。
【請求項33】
多層シート構造をもたらすために少なくとも2つの連続するポリマーフィルム層を形成するステップを含む、多層シート構造を有するプロテーゼの製造方法。
【請求項34】
前記少なくとも2つの層が、射出成形及び圧縮成形のような成形法、浸漬コーティング又はスピンコーティングのようなコーティング法、溶液鋳造、及び/又はブロー押出し又はフィルム押出しのような押出し法によって形成される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記多層シート構造の最外層が、粗くされた表面を得るために粗化された型上にポリマーを鋳造し、その上に付加的な層を形成し、次いで、その表面摩擦と湿潤能力を増加させるために前記多孔性層の前記粗くされた表面を機械的に又は化学的に処理することによって形成される、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記粗くされた表面の前記機械的処理が、プラズマ処理、サンドブラスト処理、エンボス加工処理、又はサイジング処理を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記粗くされた表面の前記化学処理が、エッチング処理若しくはプラズマ重合コーティング又は溶液コーティングのようなコーティングを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記多層構造の前記最外層が、無機又は有機微粒子、及び/又は無機/有機複合粒子をポリマー混合物中に分散させ、次いで粗化された表面を得るために前記それぞれの層を成形することによって作製される、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記無機粒子が、シリカ、チタニア、ベントナイト、粘土、又はこれらの混合物を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記有機粒子が、前記ポリマーフィルムのポリマーよりも高い融点を有するオリゴマー又はポリマーを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記無機/有機複合粒子が、コア及びポリマーシェルにおけるシリカ又はチタニアの粒子を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
孔パターンを有するマトリクスを用いることによって前記多層構造の1つ又は複数の層に孔が作製される、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項43】
最外層として固体層の形態の多孔性層が形成され、次いで、前記固体層から機械的処理によって前記多孔性構造体が形成される、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記機械的処理が、研削プロセス、レーザ切断プロセス、放電機械加工、スタンピング、又は機械的摩耗プロセスである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記プロテーゼの一方又は両方の外面の少なくとも一部上に接着防止コーティング層が形成される、請求項33から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記接着防止コーティング層が生体適合性又は生体吸収性ポリマーを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記接着防止コーティング層が接着防止薬を含む、請求項45又は請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記多層構造が、生体適合性又は生体吸収性ポリマー材料を含む少なくとも2つの層で作製される、請求項33から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記生体適合性ポリマー材料が、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、並びにp-ジオキサノン、炭酸トリメチレン、及びこれらのアルキル誘導体、バレロラクトン、ブチロラクトン、デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシ吉草酸、1,5-ジオキセパン-2-オン、1,4-ジオキセパン-2-オン、6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オンのポリマー又はコポリマー、若しくはこれらの任意のポリマー混合物のいずれかである、請求項46又は請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記生体吸収性ポリマー材料が、ポリグリコリド、ポリラクチド、及びポリ-コ-グリコラクチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(エチレングリコリド)、ポリエチレングリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)のようなポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリグルコネート、ポリ乳酸-ポリエチレンオキシドコポリマー、多糖類、セルロース誘導体、ヒアルロン酸ベースのポリマー、デンプン、ゼラチン、コラーゲン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ酸無水物、ポリリン酸エステル、ポリ(アミノ酸)、若しくは任意のポリマー混合物、コポリマー、又は誘導体のいずれかである、請求項46又は請求項48に記載の方法。
【請求項51】
少なくとも1つの層が、約0.5mm〜5mmの平均孔径を有する孔を備える、請求項33から50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
少なくとも1つの層が、約1mm〜4mmの平均孔径を有する孔を備える、請求項33から50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
少なくとも1つの層が、規則的な形状又は不規則な形状を有する孔を備える、請求項33から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
規則的な形状を有する前記孔が、円形の形状、楕円形の形状、卵形の形状、若しくは三角形、四角形、五角形、又はひし形様の形状のような多角形の形状を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
不規則な形状を有する前記孔が、異方性の孔構造を提供するために非円形の断面形状又は左右対称の形状を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記多層構造における同一平面上の孔が、異方性の孔構造を提供するために異なる孔直径又は孔形状を有する、請求項53から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
少なくとも1つの層が、その断面において異方性の形状を有する孔を備える、請求項33から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記孔の前記異方性の形状が、前記多孔性層の上面からその内側部分又は前記プロテーゼの反対側までテーパする、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記孔の前記異方性の孔構造又は前記異方性の形状が、前記プロテーゼが患者の中に挿入されるべき部位の異方性の解剖学的性質に適合される、請求項53から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記多孔性層又は前記接着防止コーティング層のような前記多層構造の前記層のうちの1つ、2つ、又は3つ以上が、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を、前記層を成形する前に前記それぞれの層中に付加することによって、又は前記成形された層に前記放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含浸することによって薬剤放出層として作製される、請求項33から59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記プロテーゼの一方又は両方の最外層上に、1つ又は複数の放出可能な薬剤、治療薬、及び/又は薬学的に活性の物質を含む付加的なポリマー薬剤放出層を形成するステップをさらに含む、請求項33から59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記多層シート構造における2つの層が記憶効果を提供するために形成される、請求項33から61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記2つの層が、前記プロテーゼの前記多層シート構造に前記記憶効果特性を提供する2つの付加的な層としてポリマー材料で形成される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
請求項1から32のいずれか一項に記載のプロテーゼを植込むことによって患者を処置する方法。
【請求項65】
前記プロテーゼが、腹壁ヘルニア欠陥を強化するために植込まれる、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記プロテーゼが、腹壁、横隔膜及び/又は胸壁の解剖学的欠陥を修復するために植込まれる、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記プロテーゼが、尿生殖器系における欠陥の補正のために植込まれる、請求項64に記載の方法。
【請求項68】
前記プロテーゼが、外傷により損傷した脾臓、肝臓、腎臓、肺、膀胱、又は心臓のような器官を修復するために植込まれる、請求項64に記載の方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13a】
【図13b】
【図14】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13a】
【図13b】
【図14】
【図1】
【公表番号】特表2012−517319(P2012−517319A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550097(P2011−550097)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000046
【国際公開番号】WO2010/093333
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(506222889)ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティ (6)
【氏名又は名称原語表記】NANYANG TECHNOLOGICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】50 Nanyang Avenue, Singapore 639798 (SG)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000046
【国際公開番号】WO2010/093333
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(506222889)ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティ (6)
【氏名又は名称原語表記】NANYANG TECHNOLOGICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】50 Nanyang Avenue, Singapore 639798 (SG)
【Fターム(参考)】
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