説明

多層導電膜及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 パッシベーション性に優れ、Agの反射特性を損なわず、適度な導電性を有し、かつこの上に積層される材料へのキャリアの注入を阻害しない、酸化物薄膜を設けた多層導電膜を提供する。
【解決手段】 銀系金属材料からなる薄膜の少なくとも一方の面上に、下記A群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物から形成された薄膜(透明酸化物薄膜1)、及び、該透明酸化物薄膜1の上に、下記A群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物と、下記B群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物とからなる混合物から形成された薄膜(透明酸化物薄膜2)を有することを特徴とする多層導電膜。 A群:インジウム、錫、及び亜鉛 B群:マグネシウム、シリコン、チタン、バナジウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ガリウム、ゲルマニウム・・等

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に特定の高抵抗層を有する透明電極膜に関する。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」と略記する)のように、キャリアの注入を制御する必要がある素子の電極膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイに代わる表示装置として、有機EL素子が注目されている。有機EL素子は自発光型であるため視野角が広く、消費電力が低いという特性を有し、実用化に向けて開発が進められている。有機EL素子の構成は、陽極/発光層/陰極の積層を基本とし、ガラス板等を用いた基板上に、透明陽極を形成する方式が通常採用されている。この場合、発光は基板(陽極)側に取出される。
【0003】
ところで、近年以下の理由で、陰極を透明にして発光を陰極側に取出す試みがなされている。
(ア)陽極を透明とすれば、全体として透明な発光素子ができる。
(イ)透明な発光素子の背景色として任意な色が採用でき、発光時以外にもカラフルなディスプレイとすることができ、装飾性が改良される。また、背景色として黒を採用した場合には、発光時のコントラストが向上する。
(ウ)カラーフィルターや色変換層を用いる場合には、発光素子の陰極側にこれらを置くことができる。このため、これらの層を考慮することなく素子を製造することができる。その利点として、例えば、陽極を形成する際に基板温度を高くすることができ、これにより陽極の抵抗値を下げることができる。
【0004】
陰極を透明とすることにより、前記のような利点が得られるため、透明陰極を用いた有機EL素子を作製する試みがなされている。特許文献1には、透明導電層よりなる第一の電極層と、超薄膜の電子注入金属層及びその上に形成される透明導電層よりなる第二の電極層を設けた、透明な有機EL素子が開示されている。
【0005】
また、陽極を反射金属とした場合は陰極からの光取出し効率が大幅に向上し、高輝度のディスプレイが実現できる。金属の中では、Agの反射率が最も高いため、反射陽極として用いるには最も優れた材料である。しかしながらAgは酸化、凝集、拡散しやすい材料であり、通常このまま薄膜として使用することはできない。従って、Agに少量の金属を固溶させる方法があるが、これを酸化物薄膜でコーティングするとより効果的である。ここで用いられるコーティング材料としては(1)パッシベーション性に優れていることはもちろん、(2)Agの反射特性を損なわないこと、(3)適度な導電性を有し、かつ、この上に積層させる材料へのキャリアの注入を阻害しないこと、が挙げられる。
【0006】
これらの条件を同時に満足する材料の候補として、透明性導電材料のITO、ZnO、IZO、AZO(ZnO:Al)等が挙げられる。これらはいずれも透明で適度な導電性を有しており、本発明が目的とする構成の材料として適用可能である。ところが、これを有機EL素子の陽極側に使用した場合、正孔の注入という点では、酸化亜鉛又は酸化亜鉛をベースに構成される透明電極(ZnO、AZO)では仕事関数が小さいため、注入効率が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、ITO(4.9eV)やIZO(5.1eV)を使用すれば比較的仕事関数が高く、正孔注入性の点で一定の注入効率を確保することができる。しかしながら、ITOは通常結晶で用いられることから、粒界を通して水分が通過し、Agの経時劣化を招くという問題がある。よって、上述(1)〜(3)の条件を全て満足する材料としてはIZOが有望である。
【0008】
ところが、近年有機EL素子の駆動電圧の低下や輝度の向上に対しての要望はさらに大きくなり、ITOやIZOにNi(非特許文献1)、Hf(非特許文献2)、Si、Ce等の第三元素を添加し、仕事関数を大きくすることで、これらの性能を向上させる技術が知られている。ところが、これら第三元素を添加した場合、パッシベーション性が犠牲になることがあり、反射陽極金属を保護することは困難であった。
【特許文献1】特開平08−185984号公報
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,85,840(2004)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,85,2092(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、パッシベーション性に優れ、Agの反射特性を損なわず、適度な導電性を有し、かつこの上に積層される材料へのキャリアの注入を阻害しない、酸化物薄膜を設けた多層導電膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ね、反射陽極金属である銀系薄膜上に、特定の金属元素の酸化物からなる第一の透明酸化物薄膜を設け、さらにその上に特定の金属元素の酸化物からなる第二の透明酸化物薄膜を設けることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下の多層導電膜及び有機エレクトロルミネッセンス素子等が提供される。
[1]銀系金属材料からなる薄膜の少なくとも一方の面上に、下記A群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物から形成された薄膜(透明酸化物薄膜1)、及び、該透明酸化物薄膜1の上に、下記A群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物と、下記B群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物とからなる混合物から形成された薄膜(透明酸化物薄膜2)を有することを特徴とする多層導電膜。
A群:インジウム、錫、及び亜鉛
B群:マグネシウム、シリコン、チタン、バナジウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、アンチモン、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマス、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、及びイッテルビウム
[2]前記銀系金属材料が、銀元素と銀元素のマイグレーションを防止する異種元素との合金であることを特徴とする、上記[1]に記載の多層導電膜。
[3]前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中のインジウム含有量が、50〜95原子%の範囲内であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の多層導電膜。
[4]前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物1中のインジウム含有量が、80〜90原子%の範囲内であることを特徴とする、上記[3]に記載の多層導電膜。
[5]前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する前記透明酸化物薄膜1中の亜鉛含有量が、1〜60原子%の範囲内であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の多層導電膜。
[6]前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中の亜鉛含有量が、5〜20原子%の範囲内であることを特徴とする、上記[5]に記載の多層導電膜。
[7]前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中の錫の含有量が、3〜60原子%の範囲内であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の多層導電膜。
[8]前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中の錫の含有量が、5〜20原子%の範囲内であることを特徴とする、上記[7]に記載の多層導電膜。
[9]前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中のインジウム含有量が80〜90原子%の範囲内であり、亜鉛含有量が10〜20原子%の範囲内であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の多層導電膜。
[10]前記透明酸化物薄膜2中の全金属元素に対する前記A群の金属元素含有量が70〜99原子%の範囲内であり、B群の金属元素含有量が1〜30原子%の範囲内であることを特徴とする、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の多層導電膜。
[11]陰極と陽極との間に、有機発光層を含む有機層が介在してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、上記[1]〜[10]のいずれか1項に記載の多層導電膜を陽極に用いたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
[12]上記[11]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を画素に利用した表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パッシベーション性に優れ、Agの反射特性を損なわず、適度な導電性を有し、かつこの上に積層される材料へのキャリアの注入を阻害しない、酸化物薄膜を設けた多層導電膜が提供できる。
本発明によれば、上記多層導電膜を陽極に用いることにより、全体が透明であり、背景色として任意の色を採用することができ、さらには、発光素子の陰極側にカラーフィルターや色変換層を設けることができるため素子製造工程において、陽極形成時に基板温度を高くすることができるため陽極の抵抗値の低い有機エレクトロルミネッセンス素子が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.多層導電膜
本発明の多層導電膜は、銀系金属材料からなる薄膜の少なくとも一方の面上に、下記A群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物から形成された薄膜(透明酸化物薄膜1)、及び、該透明酸化物薄膜1の上に、下記A群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物と、下記B群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物とからなる混合物から形成された薄膜(透明酸化物薄膜2)を有することを特徴とする。
ここで、A群及びB群は以下の金属元素からなる。
A群・・・インジウム、錫、亜鉛
B群・・・マグネシウム、シリコン、チタン、バナジウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、アンチモン、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマス、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム
【0014】
上記銀系金属材料とは、銀元素のみからなる材料の他、銀元素に、銀元素のマイグレーションを防止する異種元素を少量添加した合金からなる材料が挙げられ、例えば、銀−金−銅、銀−パラジウム−銅等の合金材料が挙げられる。本発明で用いる銀系金属材料としては、銀元素と銀元素のマイグレーションを防止する異種元素との合金が好ましい。
ここで、マイグレーションとは、電極材料が通電されることにより、接触している材料の吸湿や水の吸着に伴い、金属がそれらの表面又は内部に移行する現象をいう。
銀元素のマイグレーションを防止できる異種元素としては、例えば、鉛、パラジウム、銅、金、インジウム、マグネシウム、亜鉛、ネオジウム、ロジウム、白金、シリコン等が挙げられる。
【0015】
銀系金属材料からなる薄膜の厚さは、通常10〜400nm、好ましくは100〜300nm、より好ましくは150〜250nmである。銀系金属材料からなる薄膜の厚さが10nm未満では、反射膜としての機能が損なわれ、400nmを超えると、工程上無駄である。
【0016】
銀系金属材料からなる薄膜は、有機EL素子の陽極として用いられる場合、後述する有機発光層から陽極側への発光を陰極側に反射する反射陽極として機能する。この機能により、陰極側からの光取り出し効率が向上し、高輝度のディスプレイを構成することが可能となる。
【0017】
次に透明酸化物薄膜1について説明する。この透明酸化物薄膜1の役割は、銀の反射特性を損なわず、一定以上の導電性を保有し、かつ、パッシベーション性を有すことである。
【0018】
透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中のインジウムの含有量は50〜95原子%の範囲内であることが好ましい。インジウムのより好ましい含有量は80〜90原子%の範囲内である。インジウムの割合をこの範囲内とする理由は、透明酸化物薄膜1の安定した非晶質構造を実現するためである。上記範囲よりインジウムが多くても、少なくても、加熱等のプロセスによって薄膜が結晶化しやすくなり、粒界ができる。粒界ができると、これに沿って水分等が浸透しやすくなり本発明に求められるパッシベーション性が阻害される。
【0019】
亜鉛の含有量についてもインジウムと同様の理由から、透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中の亜鉛の含有量は1〜60原子%の範囲内であることが好ましく、5〜20原子%の範囲内であることがより好ましい。
【0020】
錫の含有量についても同様に、透明酸化物薄膜1の中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中の錫の含有量は3〜60原子%の範囲内であることが好ましく、5〜20原子%の範囲内であることがより好ましい。
【0021】
透明酸化物薄膜1の膜厚は、通常10〜300nm、好ましくは20〜100nmである。透明酸化物薄膜1の膜厚が10nm未満では、本発明に求められるパッシベーション性が阻害され、300nmを超えると、吸収係数の小さな透明酸化物においても、吸収係数×膜厚で与えられる吸光度が大きくなり、透明性が損なわれるからである。
【0022】
また、透明酸化物薄膜1が亜鉛を含まない場合、安定した非晶質構造を得るためには、透明酸化物薄膜1の膜厚を50nm以下とすることが好ましい。亜鉛を含まない透明酸化物薄膜1の膜厚が50nmを超えると粒界ができやすくなり、パッシベーション性が損なわれることがある。
【0023】
次に透明酸化物薄膜2について説明する。この透明酸化物薄膜2の役割は、銀の反射特性を損なわず、一定以上の導電性を保有するところまでは、透明酸化物薄膜1の役割と同じであるが、パッシベーション性は求められず、仕事関数が5.3eV以上を示すことが必要である。そのための組成としてA群金属元素の酸化物の含有量が70〜99原子%の範囲内、B群金属元素の酸化物の含有量が1〜30原子%の範囲内であることが好ましい。透明性と高仕事関数を両立させるためには、A群、B群の金属元素組成がそれぞれ上記範囲内であることが好ましい。具体的には、B群金属元素が30原子%を超えると透明性が損なわれることがあり、1%を下回ると仕事関数の上昇効果が減少することがある。
【0024】
本発明の多層導電膜から構成される電極は、可視域の光線を効率よく反射し、表面の仕事関数が高いため有機層への正孔注入性にすぐれ、経時変化も少ないため、有機EL素子の反射陽極として最適である。
【0025】
本発明の多層導電膜を製造するには、通常、ガラス等の透明基板上に、上記銀系金属材料を、スパッタリング法等の手段により製膜して銀系金属材料からなる薄膜を形成し、その上に、透明酸化物薄膜1を構成する材料をターゲットとしたスパッタリング法等の手段により製膜して透明酸化物薄膜1を形成し、さらにこの上に、透明酸化物薄膜2を構成する材料をターゲットとしてスパッタリング法等の手段により製膜して透明酸化物薄膜2を形成する。
【0026】
本発明の多層導電膜の製造は、上記方法に限らず、公知の如何なる方法も適用できる。例えば、メタルターゲットを用いた反応性スパッタリング、酸化物タブレットを用いたパルスレーザーデポジション(PLD)等の方法を用いることができる。
【0027】
2.有機EL素子
本発明の有機EL素子は、陰極と陽極との間に、有機発光層を含む有機層が介在してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、上記本発明の多層導電膜を陽極に用いたことを特徴とする。即ち、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、反射陽極と、透明陰極と、両者の間に保持された有機層とからなり、有機層は陽極から供給される正孔と陰極から供給される電子との再結合によって発光する有機発光層を含んでいる。
【0028】
本発明の有機EL素子は、陽極として本発明の多層導電膜を用いる以外は公知の如何なる方法で製造してもよく、例えば、真空蒸着、スピンコート、バーコート、ドクターブレード、インクジェット等の方法が挙げられる。
【0029】
本発明の有機EL素子をカラーディスプレイに用いる場合、有機EL素子の陰極側にカラーフィルターや色変換層を設けることができるため、カラーフィルターや色変換層への熱の影響を考慮することなく有機EL素子を製造することができる。つまり、陽極形成時に基板温度を高くすることができ、これにより陽極の抵抗値をより低くすることが可能となる。
【0030】
3.表示装置
本発明の表示装置は、有機エレクトロルミネッセンス素子を画素に利用したことを特徴とする。即ち、本発明の表示装置は、基本的に、画素を選択するための走査線と、画素を駆動するための輝度情報を与えるデータ線とがマトリクス状に配設され、各画素は、供給される電流量に応じて発光する有機エレクトロルミネッセンス素子と、走査線によって制御されかつデータ線から与えられた輝度情報を画素に書き込む機能を有する第一の能動素子と、該書き込まれた輝度情報に応じて該有機エレクトロルミネッセンス素子に供給する電流量を制御する機能を有する第二の能動素子とを含み、各画素への輝度情報の書き込みは、走査線が選択された状態で、データ線に輝度情報に応じた電気信号を印加することによって行われ、各画素に書き込まれた輝度情報は走査線が非選択となった後も各画素に保持され、各画素の有機エレクトロルミネッセンス素子は保持された輝度情報に応じた輝度で発光を維持可能である。
【0031】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の有機EL素子の基本的な構成を示す断面図である。図示するように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(1)は、ガラス基板(10)と、反射陽極(A)と、透明陰極(K)と、両者の間に保持された有機層(100)とからなる。反射陽極(A)は、ガラス基板(10)上に設けられた反射金属層(11)を含み、その上に透明酸化物層1(12)と透明酸化物層2(13)とを含んでいる。有機層(100)は、反射陽極(A)から供給される正孔と陰極(K)から供給される電子との再結合によって発光する有機発光層(103)を含んでいる。さらに、正孔注入層(101)と正孔輸送層(102)を含んでいる。陰極(K)は極薄の電子注入金属層(201)と透明導電層(202)の積層構造である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例をもって、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1
(1)多層導電膜の作製
ガラス基板上に陽極Aとして銀を主成分とし、パラジウムと銅を含有した合金(Ag:Pd:Cu=98:1:1)を膜厚200nmでスパッタリングにより成膜した。次に、この銀を主成分とする薄膜上に、IZO(In:ZnO=90:10wt%)をターゲットとしたスパッタリング法により30nmの薄膜(透明酸化物層1)を積層した。さらにこの上にIZOにCeを添加したターゲット(In:ZnO:MgO=85:10:5)を用いて20nmの薄膜(透明酸化物層2)を積層した。
【0033】
(2)多層導電膜の評価
上記のようにして得られたガラス/(Ag:Pd:Cu)/IZO/(IZO+Mg)構造積層体について下記評価を行い、表1に示した。
(a)陽極の反射率
波長550nmでの反射率を測定したところ、90%であった。
(b)仕事関数
この積層体の仕事関数をAC−1(理研計器社製)を用いて測定したところ、5.6eVを示した。
(c)耐湿熱変化
この積層体を温度90℃、湿度85%の雰囲気で1000時間放置し、銀薄膜の表面の劣化を目視で確認したが、変化は認められなかった。
(d)電極膜評価
耐湿熱試験終了後の反射率測定と目視検査を行い、下記基準に基づいて評価した。
◎:反射率80%以上、外観変化なし
○:反射率70〜80%、外観変化なし
×:反射率70%未満、外観変化あり
【0034】
(3)有機EL素子の作製
上記(1)で作製した多層導電膜(電極膜)を陽極として有機EL素子を作製した。有機EL素子の作製にあたっては、青色の有機EL素子を、真空状態を保持したまま、下記の通り一連の工程で形成した。
第1の正孔注入層:4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]−トリフェニルアミン(以下MTDATAと略す。);蒸着速度:0.1〜0.3nm/s、膜厚:60nmで形成
第2の正孔注入層:4,4’−トリス[N−(3−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(以下NPDと略す);蒸着速度:0.1〜0.3nm/s、膜厚:20nmで形成
発光層(発光材料ホスト/ドーパント):発光材料ホスト:4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(以下DPVBiと略す。)、膜厚:40nm、蒸着速度:0.4nm/s;ドーパント:4,4’−ビス(2−(4−(N、N−ジ−p−トリル)フェニル)ビニル)ビフェニル(以下、DTAVBiと略す。)、蒸着速度:0.01nm/s、ドーパント濃度:2.5重量%で形成
電子輸送層:トリス(8−キノリノール)アルミニウム(以下Alqと略す。);蒸着速度:0.1〜0.3nm/s、膜厚:20nmで形成
陰極:Al/Liの合金材料(Li濃度10原子%);蒸着速度:0.5〜1.0nm/s膜厚:3nmで形成
【0035】
陰極として、Mg:Agの合金からなる極薄の電子注入金属層を膜厚10nmで形成し、さらに重ねて透明導電層を200nm成膜した。
【0036】
(4)有機EL素子の評価
上記のように形成された有機EL素子の性能を下記項目について評価し、結果を表1に示した。
(e)初期輝度
上記のように形成された有機EL素子の陽極−陰極間に25mA/cmの電流を印加したときの陰極側からの発光輝度(cd/m)を測定したところ、930cd/mが観測された。陽極方向に向かった発光の相当量が反射されて逆進し、陰極側から放射されたことがわかる。良好なキャリア注入特性及び発光特性を確認することができた。また、発光面にダークスポットは見られなかった。
【0037】
(f)半減寿命
作製した有機EL素子を初期1,000nitで直流定電流駆動した場合に、輝度が半減するまでの時間、即ち、半減時間を測定したところ、2,250時間であった。
(g)EL素子評価
作製した有機EL素子を、下記基準に基づいて評価した。
◎:初期輝度≧720cd/m、かつ半減寿命≧1000時間
○:初期輝度≧400cd/m、かつ半減寿命≧300時間
×:初期輝度<400cd/m、かつ半減寿命<300時間
【0038】
実施例2〜35及び比較例1、2
実施例1(1)において、下記表1に示す材料、構成を用いて多層導電膜を作製した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0039】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【0040】
表1の結果から、透明酸化物薄膜2を設けないと、陽極の反射率は高いものの、仕事関数が低く、有機EL素子としたときの初期輝度が低く、半減寿命も短いことがわかる(比較例1)。
また、透明酸化物薄膜1を設けないと、仕事関数は高いものの、陽極の反射率が低く、耐湿熱変化が生じ、さらに有機EL素子としたときの初期輝度が極端に低下し、及び半減寿命が極端に短くなることがわかる(比較例2)。
比較例1、2に対し、透明酸化物薄膜1及び2を設けた実施例では、電極膜としても、EL素子としてもバランスの良い特性を示すことがわかる。
【0041】
反射金属として銀元素のみを用いた場合(実施例17)に比べ、銀元素と銀元素のマイグレーションを防止する異種元素を含む合金を用いた場合の方が、陽極の反射率が高く、有機EL素子としたときの初期輝度や半減寿命も優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の多層導電膜を陽極に用いた有機EL素子は、陰極側から効率よく発光を取り出すことができるため、高輝度のディスプレイを実現できる。
また、本発明の有機EL素子を用いてカラーディスプレイを製造する場合、カラーフィルターや色変換層への熱の影響を考慮する必要がないため、陽極の抵抗値を低くすることができ、駆動電圧の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の有機EL素子の基本的な構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 有機EL素子
A 反射陽極
10 ガラス基板
11 反射金属層
12 透明酸化物層1
13 透明酸化物層2
100 有機層
101 正孔注入層
102 正孔輸送層
103 有機発光層
K 陰極
201 電子注入金属層
202 透明導電層
300 発光
301 反射光


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀系金属材料からなる薄膜の少なくとも一方の面上に、下記A群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物から形成された薄膜(透明酸化物薄膜1)、及び、該透明酸化物薄膜1の上に、下記A群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物と、下記B群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物とからなる混合物から形成された薄膜(透明酸化物薄膜2)を有することを特徴とする多層導電膜。
A群:インジウム、錫、及び亜鉛
B群:マグネシウム、シリコン、チタン、バナジウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、アンチモン、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマス、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、及びイッテルビウム
【請求項2】
前記銀系金属材料が、銀元素と銀元素のマイグレーションを防止する異種元素との合金であることを特徴とする、請求項1に記載の多層導電膜。
【請求項3】
前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中のインジウム含有量が、50〜95原子%の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層導電膜。
【請求項4】
前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物1中のインジウム含有量が、80〜90原子%の範囲内であることを特徴とする、請求項3に記載の多層導電膜。
【請求項5】
前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する前記透明酸化物薄膜1中の亜鉛含有量が、1〜60原子%の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層導電膜。
【請求項6】
前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中の亜鉛含有量が、5〜20原子%の範囲内であることを特徴とする、請求項5に記載の多層導電膜。
【請求項7】
前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中の錫の含有量が、3〜60原子%の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層導電膜。
【請求項8】
前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中の錫の含有量が、5〜20原子%の範囲内であることを特徴とする、請求項7に記載の多層導電膜。
【請求項9】
前記透明酸化物薄膜1中の全金属元素に対する透明酸化物薄膜1中のインジウム含有量が80〜90原子%の範囲内であり、亜鉛含有量が10〜20原子%の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層導電膜。
【請求項10】
前記透明酸化物薄膜2中の全金属元素に対する前記A群の金属元素含有量が70〜99原子%の範囲内であり、B群の金属元素含有量が1〜30原子%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多層導電膜。
【請求項11】
陰極と陽極との間に、有機発光層を含む有機層が介在してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の多層導電膜を陽極に用いたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を画素に利用した表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−244850(P2006−244850A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58697(P2005−58697)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】