説明

多層成形体からの熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の回収方法

【課題】熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体から、ドライプロセスによって、再利用可能な高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収する方法を提供する。
【解決手段】複数の固定刃を取り付けたハウジング内に、周縁部に一定間隔で複数の回転刃を取り付けたロータが収容された粉砕機を用いて、多層成形体を粉砕し、均一な大きさの粉砕物を得る工程1;傾斜させた網状のデッキを備えた乾式比重差選別機に該粉砕物を供給する工程2;並びに、該乾式比重差選別機を稼動して、層分離した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分を回収する工程3;を含む回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体から熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ドライプロセスによって、該多層成形体から、再利用可能な高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収することができる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記することがある)は、例えば、ブロー成形によりボトルに成形することができる。このボトル(以下、「PETボトル」と略記する)は、各種液体飲料用容器として汎用されている。PETは、酸素ガスバリア性や炭酸ガスバリア性などのガスバリア性が不十分である。そのため、PETボトルは、液体飲料の長期保存性の向上に対する要求性能を十分に満足させることが困難である上、ビールやその他の炭酸飲料用の容器として満足に用いることができない。
【0003】
上記問題は、PETに限らず、ポリエチレンナフタレートなど他の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂においても同様である。熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂製容器を液体飲料用容器以外の技術分野で用いる場合においても、内容物の保存性や変質防止性を高めるために、ガスバリア性の向上が求められている。熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、シートやフィルムとして、包装材料などの広範な技術分野で用いられているが、ガスバリア性が求められる用途に適用することが困難である。
【0004】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成形品のガスバリア性を向上させる方法として、ガスバリア性樹脂を複合化する方法が知られている。しかし、ポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデンなどの汎用のガスバリア性樹脂は、高湿度環境下でガスバリア性が低下したり、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の溶融成形条件下で熱劣化したりしやすいという問題があった。
【0005】
他方、ポリグリコール酸は、ガスバリア性に優れた生分解性樹脂材料であり、ボトルやフィルムなどの包装材料の分野において、ガスバリア性樹脂としての用途展開が図られている。具体的に、PETなどの熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂製のボトルやフィルムのガスバリア性を向上させるために、ポリグリコール酸を複合化する方法が提案されている。
【0006】
例えば、国際公開第03/037624号パンフレット(特許文献1)、特許第3997102号公報(特許文献2)、及び国際公開第2006/107099号パンフレット(特許文献3)には、ポリグリコール酸層を芯層とし、内外層に熱可塑性ポリエステル樹脂層を配置した層構成を有する多層ブロー成形容器が開示されている。特許文献1乃至3には、熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどの熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が示されている。
【0007】
特開平10−80990号公報(特許文献4)には、ポリグリコール酸フィルムの片面または両面に、熱可塑性樹脂フィルムが積層された層構成を有するガスバリア性複合フィルムが開示されている。特許文献4には、熱可塑性樹脂フィルムを形成する熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどの熱可塑性芳香族ポリエステルが例示されている。
【0008】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層とポリグリコール酸層とを複合化した多層容器や多層フィルムなどの多層成形体は、ガスバリア性、耐熱性、成形加工性、透明性、耐久性などに優れている。しかし、該多層成形体は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層中にポリグリコール酸層を有することから、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂のリサイクルが困難である。
【0009】
近年、環境保全と省資源の観点から、プラスチックをリサイクルする必要性が広く認識され、各界でのリサイクルへの取り組みと法整備が進められている。PETボトルは、大量生産され、各種液体飲料用容器として汎用されていることから、循環型経済社会を形成する上で、そのリサイクルが特に重要な課題となっている。使用済みPETボトルのリサイクルだけではなく、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂製品の生産工程での不良品の再利用も、省資源と生産コスト低減の観点から重要な課題である。
【0010】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体から熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収して再利用することは、リサイクルとしての観点のみならず、該多層成形体の用途展開を図る上でも重要な課題となっている。しかし、従来のPETボトルのような単層の成形体とは異なり、ポリグリコール酸層を複合化した多層成形体から、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層を分離して、再利用可能な高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収することは、極めて困難な課題であった。
【0011】
従来、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体から、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂をリサイクルする方法について、幾つかの提案がなされている。
【0012】
例えば、国際公開第03/097468号パンフレット(特許文献5)には、PET/ポリグリコール酸/PETの層構成を有するボトルを破砕した後、破砕物を、例えば80℃の温度に加熱した水酸化ナトリウム水溶液中に長時間にわたって浸漬した後、濾別し、水洗し、乾燥するリサイクル方法が開示されている。
【0013】
国際公開第2005/049710号パンフレット(特許文献6)には、PET/ポリグリコール酸/PETの層構成を有するボトルを破砕した後、破砕物を高温高湿環境下に長時間保持するか、または高温水中に長時間浸漬して、ポリグリコール酸層の水分量が0.5質量%以上となるように調整する方法が開示されている。ポリグリコール酸層の水分量を調整した後、該破砕物を、例えば85℃の温度に加熱した水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、濾別し、水洗し、乾燥する。
【0014】
特許文献5及び6に開示されている方法によれば、ポリグリコール酸を含まない熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収することができる。しかし、これらの方法では、多層成形体の破砕物を、高温に加熱した水酸化ナトリウム水溶液中に長時間にわたって浸漬して、ポリグリコール酸を加水分解処理する必要がある。そのため、リサイクル工程自体が危険かつ煩雑であり、処理時間が長く、廃液処理工程も必要となる。破砕物を高温水中に浸漬して、ポリグリコール酸層の水分量を増大させると、水酸化ナトリウム水溶液中での浸漬時間を短縮することができるが、高温水中での浸漬工程に長時間を必要とする。
【0015】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の解重合を利用したケミカルリサイクルによれば、PETボトルなどを原料モノマーに戻すことができる。しかし、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体にケミカルリサイクル法を適用すると、リサイクル処理にコストが嵩むことに加えて、ポリグリコール酸に起因する不純物の分離が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第03/037624号パンフレット
【特許文献2】特許第3997102号公報
【特許文献3】国際公開第2006/107099号パンフレット
【特許文献4】特開平10−80990号公報
【特許文献5】国際公開第03/097468号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2005/049710号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体から、ドライプロセスによって、再利用可能な高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収することができる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の回収方法を提供することにある。
【0018】
本発明者らは、水酸化ナトリウム水溶液を用いたウエットプロセスではなく、機械的な粉砕及び選別を基本とするドライプロセスによって、該多層成形体からリサイクル使用が可能な高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収する方法について、鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、該多層成形体を特定タイプの粉砕機で処理して、実質的に均一な大きさの粉砕物とし、次いで、該粉砕物を、特定タイプの乾式比重差選別機を用いて選別したところ、これらの処理工程中に粉砕物が層分離し、ポリグリコール酸成分(粉砕片)と熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分(粉砕片)とを精密に選別できることを見出した。
【0019】
本発明の方法により回収した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分は、ポリグリコール酸の含有量が少ない高純度品であり、そのままで、あるいは新しい熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂で希釈することにより、成形用の原料樹脂として再利用することが可能である。他方、本発明の方法により回収したポリグリコール酸成分は、そのままポリグリコール酸樹脂として再利用したり、解重合してモノマーのグリコリドに戻したりすることができる。ポリグリコール酸は、自然環境下で分解するため、回収したポリグリコール酸成分を土中に埋設したり、活性汚泥で処理したりして生分解させることもできる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体から熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収する方法において、
(1)複数の固定刃を取り付けたハウジング内に、周縁部に一定間隔で複数の回転刃を取り付けたロータが収容されており、該ロータの回転によって回転する各回転刃の先端と固定刃の先端との間で固体材料を切断することにより粉砕し、粉砕物を所定メッシュのスクリーンを通過させるように構成した粉砕機を用いて、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体を粉砕し、粉砕物を得る工程1;
(2)傾斜させた網状のデッキを備え、該デッキの下から風を吹き上げながら、該デッキを振動させることにより、該デッキ上の固体材料を比重差によって選別するように構成した乾式比重差選別機に、該粉砕物を供給する工程2;並びに、
(3)該乾式比重差選別機を稼動して、そのデッキ上で、該粉砕機での切断時の剪断力と該乾式比重差選別機のデッキ上での振動力とを含む機械的な外力によって、該粉砕物を熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分とポリグリコール酸成分とに層分離するとともに、相対的に高比重のポリグリコール酸成分を該デッキの下方部から回収し、かつ、相対的に低比重の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分を該デッキの上方部から回収する工程3;
を含むことを特徴とする多層成形体からの熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の回収方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体から、機械的な粉砕と乾式での層分離とを組み合わせたドライプロセスによって、再利用可能な高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収することができる。
【0022】
回収した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、純度が高いため、そのままで、あるいは新しい熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂で希釈することにより、成形用の原料樹脂として再利用することが可能である。他方、回収したポリグリコール酸成分は、例えば、解重合して、モノマーのグリコリドに戻すことができる。
【0023】
ポリグリコール酸は、環境に対する負荷が小さな生分解性プラスチックの代表的なものの1つである。ポリグリコール酸のガスバリア性などの特性を活かした多層成形体は、環境への負荷が小さなものである。しかも、本発明の回収方法によれば、該多層成形体から各樹脂成分を効率的に回収し、再利用することができる。したがって、本発明は、循環型システムを備えた環境にやさしい多層成形体の技術発展に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明で使用する粉砕機の一例の部分断面図である。
【図2】本発明で使用する乾式比重差選別機の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合成分とする非晶性ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ−1,4−シクロへキシレンジメチレンテレフタレート・イソフタレート共重合体(PCTA)、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。これらの中でも、入手の容易性や成形加工性などの観点から、PET及びPENが好ましく、PETがより好ましい。
【0026】
PETとしては、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーだけではなく、PETの酸成分の一部をイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸で置き換えたコポリエステル;PETのグリコール成分の一部をジエチレングリコールなどの特殊ジオールに置き換えたコポリエステルなども含まれる。これらのコポリエステル(CO−PET)において、イソフタル酸などの第三成分の共重合割合は、特に限定されないが、通常、2〜8モル%である。
【0027】
PETGは、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を共重合成分とする非晶性ポリエチレンテレフタレート共重合体である。より具体的に、PETGとは、PETを構成するグリコール成分であるエチレングリコールの一部を1,4−シクロヘキサンジメタノールに置き換えたコポリエステルである。グリコール成分中の1,4−シクロヘキサンジメタノールの割合は、通常、30〜35モル%である。PETGとしては、米国イーストマン・ケミカル社やスカイグリーン社などから製造販売されているものが好ましく用いられる。
【0028】
PCTAは、1,4−シクロヘキサンジメタノールと、テレフタル酸及びイソフタル酸との重縮合により得られる熱可塑性飽和コポリエステルである。PCTAとしては、米国イーストマン・ケミカル社の商品名コダール・サーメックス6761(KODAR THERMX 6761;登録商標)などが好適に用いられる。
【0029】
2.ポリグリコール酸
ポリグリコール酸は、式−[−O−CH−CO−]−で表わされる繰り返し単位を含有する単独重合体または共重合体である。ポリグリコール酸中の上記式で表わされる繰り返し単位の含有割合は、通常60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、その上限は、100質量%である。上記式で表わされる繰り返し単位の含有割合が低すぎると、ガスバリア性や耐熱性が低下する。
【0030】
ポリグリコール酸は、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコリドの開環重合などにより合成することができる。これらの中でも、グリコリドの開環重合法によれば、高分子量(高溶融粘度)のポリグリコール酸(「ポリグリコリド」ともいう)を容易に製造することができる。開環重合法では、グリコリドを、少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下に、約120℃から約250℃の温度に加熱して、開環重合を行う。開環重合は、塊状重合または溶液重合により行うことが好ましい。
【0031】
ポリグリコール酸共重合体を合成するには、コモノマーとして、例えば、シュウ酸エチレン、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、βーメチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなど)、トリメチレンカーボネート、及び1,3−ジオキサンなどの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオールと、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはそのアルキルエステルとの実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を用いて、共重合すればよい。これらのコモノマーの中でも、前記環状モノマーが好ましい。これらの環状モノマーは、グリコリドの開環重合条件下に開環共重合させることができる。
【0032】
コモノマーは、全仕込みモノマー量を基準として、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下の割合で使用する。コモノマーの使用割合が大きくなると、生成する重合体の結晶性が損なわれる。ポリグリコール酸は、結晶性が失われると、耐熱性、ガスバリヤー性、機械的強度などが低下する。
【0033】
3.多層成形体
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体としては、特に限定されず、例えば、多層容器(例えば、多層ボトル)、多層フィルム、多層シート、多層パイプ、その他の多層成形体を挙げることができる。本発明の回収方法は、液体飲料容器などとして使用済みの多層成形体に適用することができるが、それに限定されない。本発明の回収方法は、例えば、成形時の不良品、ブロー成形時の多層プリフォーム(多層パリソン)の不良品、多層フィルムまたは多層シート製造時の端部の切断物など、成形工程での不良品や各種リグラインドにも適用することができる。したがって、多層成形体には、成形工程での不良品も含まれるものとする。多層成形体が多層容器の場合、その形状は、ボトルだけではなく、任意の形状であってもよい。
【0034】
多層成形体の層構成としては、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂をPETで代表させ、ポリグリコール酸をPGAと略記すると、以下のような層構成を例示することができる。
【0035】
(1)PET/PGA
(2)PET/PGA/PET
(3)PET/PGA/PET/PGA
(4)PET/PGA/PET/PGA/PET
(5)PET/PGA/PET/PGA/PET/PGA/PET
【0036】
これらの多層成形体は、所望により、各層間に接着剤層を介在させることができる。多層容器の場合には、耐熱性や成形加工性の観点から、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層とポリグリコール酸層との間に接着剤層を介在させないものが好ましい。多層成形体は、他の樹脂層を含有するものであってもよいが、他の樹脂層の除去や選別が困難な場合には、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を効率的に回収する上で、他の樹脂層を含まないものであることが好ましい。
【0037】
多層成形体は、ポリエチレンテレフタレート層中に少なくとも1層のポリグリコール酸層を中間層として含有する多層ブロー成形容器またはそのプリフォームであることが好ましい。多層ブロー成形容器またはそのプリフォームは、「PET/PGA/PET」、及び「PET/PGA/PET/PGA/PET」の層構成を有するものが好ましいが、これらに限定されない。
【0038】
多層ボトルは、例えば、共押出した多層プリフォーム(多層パリソン)のダイレクトブロー成形法;共射出した多層プリフォームの延伸ブロー成形法などにより製造することができる。多層シート及び多層フィルムは、共押出法、ドライラミネート法、押出ラミネート法などにより製造することができる。延伸多層フィルムを製造するには、多層フィルムの延伸法、各延伸したフィルム同士のラミネート法などにより製造することができる。多層シート及び多層フィルムは、インフレーション法によっても製造することができる。多層パイプは、共押出法により製造することができる。
【0039】
本発明の回収方法に適用される多層成形体としては、ポリエチレンテレフタレート層中に少なくとも1層のポリグリコール酸層を中間層として含有する多層ブロー成形容器またはそのプリフォームが代表的なものである。
【0040】
多層成形体における熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂とポリグリコール酸との質量比は、通常99.5:0.5〜55:45の範囲内である。この質量比は、多層成形体の形状や使用目的によって適宜定めることができる。ポリグリコール酸層によるガスバリア性の向上を目的とする多層成形体では、この質量比は、ガスバリア性、機械的強度、耐熱性などをバランスさせる観点から、好ましくは99:1〜80:20、より好ましくは98.5:1.5〜90:10の範囲内である。ただし、本発明の回収方法は、これらの質量比の範囲外にある多層成形体にも適用することができる。
【0041】
多層成形体が多層シート、多層フィルム、及び多層パイプの場合には、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂とポリグリコール酸との所望の質量比の範囲内において、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層の厚み(複数層の場合は合計厚み)とポリグリコール酸層の厚み(複数層の場合は合計厚み)との比を任意に設定することができるが、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層よりポリグリコール酸層が薄いことが好ましい。多層成形体における熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層(A)とポリグリコール酸樹脂層(B)との厚み比(A/B)は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上である。熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分の層よりポリグリコール酸成分の層が厚いと、層分離が不十分になりやすい。
【0042】
多層成形体が多層ブロー成形ボトルなどの多層容器の場合、容器胴部(側壁)の全層厚みは、通常100μmから5mm、好ましくは150μmから3mm、より好ましくは300μmから2mmの範囲内である。多層容器の胴部における熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層の厚み(複数層の場合には合計厚み)は、通常50μmから4.5mm、好ましくは100μmから2.5mm、より好ましくは150μmから1mmの範囲内である。多層容器の胴部におけるポリグリコール酸層の厚み(複数層の場合は合計厚み)は、通常1〜200μm、好ましくは3〜100μmの範囲内である。
【0043】
多層ボトルなどの多層容器は、その開口端部(首部)を熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂単層とすることが好ましい。多層容器の底部は、一般に、厚みが大きいため、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂単層とすることができるが、ポリグリコール酸層からなる芯層を配置してもよい。
【0044】
多層成形体が、ブロー成形前のプリフォーム(パリソン)の場合には、その全層厚み及び各層厚みは、前記多層容器におけるよりも大きくなる。
【0045】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層は、それぞれ各種添加剤成分を含有するものであってもよい。添加剤成分としては、例えば、着色剤、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、滑剤などが挙げられる。
【0046】
4.回収方法
本発明の回収方法は、工程1として、複数の固定刃を取り付けたハウジング内に、周縁部に一定間隔で複数の回転刃を取り付けたロータが収容されており、該ロータの回転によって回転する各回転刃の先端と固定刃の先端との間で固体材料を切断することにより粉砕し、粉砕物を所定メッシュのスクリーンを通過させるように構成した粉砕機を用いて、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体を粉砕し、粉砕物を得る工程を含む。
【0047】
図1は、本発明で使用する粉砕機の一例の主要部を示す断面図である。ロータ11の周縁部には、複数の回転刃12を取り付けてある。回転刃の数は、通常、3または5若しくは7枚であるが、これらに限定されない。隔壁14,15などで構成されるハウジング(「カッターハウス」と呼ばれている)16内には、ロータ11が収容されている。このハウジング16内には、隔壁14,15に直接または固定用部材を介して、固定刃13が取り付けられている。固定刃の数は、通常2〜4枚の範囲内であるが、これらに限定されない。粉砕機は、複数の回転刃を取り付けたロータと複数の固定刃との組み合わせを並列的に複数組配置したものであってもよい。
【0048】
多層ボトルなどの多層成形体を粉砕機に供給し、ロータの回転によって回転する各回転刃の先端と固定刃の先端との間で切断することにより粉砕する。このような構造の粉砕機を用いて、多層成形体を切断することにより、一定の形状を有する粉砕物を得ることができる。粉砕物は、ロータの下方または下方から側部に掛けて配置した所定メッシュのスクリーンを通過させることにより、均一な大きさの粉砕物として得ることができる。
【0049】
ロータの回転によって回転する各回転刃の先端と固定刃の先端との間で切断され、所定メッシュのスクリーンを通過した粉砕物は、ペレットまたはフレークに類似した形状を有するものである。この粉砕物は、主としてスクリーンのメッシュにより画定される実質的に均一な大きさを有するものである。
【0050】
すなわち、本発明の工程1で得られる粉砕物は、周縁部に一定間隔で複数の回転刃を取り付けたロータの回転によって回転する各回転刃の先端と固定刃の先端との間で切断されたものであるため、粉末ではなく、一定の大きさを持つペレットまたはフレークに類似した形状を有するものである。切断後の粉砕物は、所定メッシュのスクリーンを通過するため、該メッシュの大きさに対応する実質的に均一な大きさを持つことになる。該粉砕機を用いると、ダストとなる粉末の生成を最小限に抑えた均一な大きさの粉砕物を得ることができる。
【0051】
工程1において、多層成形体をペレット状またはフレーク状の実質的に均一な大きさの粉砕物とすることにより、該粉砕物を乾式比重差選別機により、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分とポリグリコール酸成分とに選別することができる。
【0052】
工程1での切断による粉砕とスクリーンの通過によって、粉砕物中の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層とポリグリコール酸層とは、分離するが、この分離は未だ完全なものではなく、粉砕物は、一定の均一な大きさを有するものとして得られる。その後、粉砕物の乾式比重差選別機への供給やデッキ上での振動、デッキ上での風力などの機械的な外力によって、粉砕物の層分離がほぼ完全なものとなり、各成分の選別が可能となる。
【0053】
前記の構成を有する粉砕機としては、例えば、株式会社カワタ製の中型粉砕機ラピッド300、400、及び500シリーズを挙げることができる。ラピッド300シリーズの中型粉砕機は、ロータ径が260mmである。ラピッド400シリーズの中型粉砕機は、ロータ径が350mmである。ラピッド500シリーズの中型粉砕機は、ロータ径が450mmである。各ロータには、3枚または5枚の回転刃が均等の間隔で取り付けられている。固定刃の数は、2〜4枚の範囲内である。
【0054】
スクリーンのメッシュは、好ましくは4〜20mmφ、より好ましくは4〜12mmφの範囲内である。スクリーンのメッシュが小さすぎると、粉砕物が分離したとき、各成分を乾式比重差選別機を用いて、層分離により選別することが困難になる。スクリーンのメッシュが大きすぎると、粉砕物が大きくなるため、粉砕物の分離が不完全になり、層分離による選別が困難になる。
【0055】
特に、多層ブロー成形容器の場合には、開口部(首部)が熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層の単層構造となる。底部も熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層の単層構造であることも多い。単層構造部分がポリグリコール酸層に接しているため、大きな断片に切断し、大きなメッシュのスクリーンを通過させると、この接した部分を含む粉砕物が得られることになる。単層構造部分がポリグリコール酸層に接している断片は、分離することができない。したがって、スクリーンのメッシュを前記範囲内とし、該メッシュを持つスクリーンを通過し得る条件で切断による粉砕を行うことが、高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分を回収する上で好ましい。
【0056】
本発明の回収方法の工程2では、傾斜させた網状のデッキを備え、該デッキの下から風を吹き上げながら、該デッキを振動させることにより、該デッキ上の固体材料を比重差によって選別するように構成した乾式比重差選別機に、該粉砕物を供給する。
【0057】
本発明で使用する乾式比重差選別機は、傾斜させた網状のデッキを備え、該デッキの下から風を吹き上げながら、該デッキを振動させるように構成したものである。乾式比重差選別機のデッキ上に、比重の異なる混合物からなる固体材料を供給し、デッキを傾斜させかつ振動させることにより、重比重物は、デッキ上で振動しつつ上方部に移動し、軽比重物は、風力がデッキとの摩擦を少なくするので、デッキの下方部に移動する。この乾式比重差選別機は、風力による比重差選別機の一種である。
【0058】
図2に、本発明で使用する乾式比重差選別機の一例の断面略図を示す。この乾式比重差選別機は、網状のデッキ21(「デッキ網」ということがある)を備えている。このデッキ21は、図2に示されているように、傾斜して配置されている。デッキ21の上部に設けた投入口25から、粉砕物26を選別槽22内のデッキ21上に供給する。粉砕物を投入口25まで搬送するには、通常、傾斜スクリューコンベア(図示せず)が用いられる。
【0059】
デッキ21の角度は、通常9.0〜13.0度の範囲内で調整できるようになっている。本発明では、デッキ21の角度を任意に設定できるが、10.0〜12.0度の範囲内に調整することが、比重差による各成分の選別効率の観点から好ましい。
【0060】
デッキの型式としては、メッシュタイプ、鋸刃タイプ(例えば、1mmφまたは3mmφのホールを持つ鋸刃タイプ)、ルーパータイプ(多数の縦穴を有する網)などが挙げられる。層分離した各成分を効率的に分離するには、ルーパータイプ(例えば、12×2mmの縦穴を多数設けた網)のデッキを用いることが好ましい。
【0061】
該デッキ21は、電気的な振動装置(図示せず)によって振動するように構成されている。振動の制御は、インバータへの周波数(振動数)を、通常0〜80Hzの範囲内で調整することにより行う。本発明では、30〜70Hzの範囲内で運転することが好ましい。
【0062】
該デッキ21の下には、ブロワー31が配置されており、このブロワー31から風32を、該デッキ21の裏面全体に当たるように送る。風力は、ファン(図示せず)へのインバータの周波数を、通常0〜60Hzの範囲内で変動させることによって調整する。本発明では、周波数を20〜50Hzの範囲内とすることが好ましい。
【0063】
デッキ21の網目を通過する微粉状の粉砕物は、集塵排出口29から粉30として排出される。風力によってデッキ21上に浮遊する微粉末は、集塵口23からダスト24として排出される。排出された粉やダストは、集塵機(図示せず)などに集められる。
【0064】
デッキ21を傾斜させかつ振動させることにより、混合物中の高比重物は、デッキ21上で振動しつつ上方部に移動し、高比重物排出口27から高比重物28として排出される。他方、混合物中の低比重物は、風力がデッキ21との摩擦を少なくするので、デッキ21の下方部に移動し、低比重物排出口34から低比重物33として排出される。
【0065】
デッキ21の下方部近傍の上面には、遮蔽板(堰)を設けて、低比重物の排出量を制御することができる(図示せず)。このようなタイプの乾式比重差選別機としては、例えば、株式会社カワタ製風力選別機SH−2DKを挙げることができる。
【0066】
本発明の回収方法の工程3では、該乾式比重差選別機を稼動して、そのデッキ上で、該粉砕機での切断時の剪断力と該乾式比重差選別機のデッキ上での振動力とを含む機械的な外力によって、該粉砕物を熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分とポリグリコール酸成分とに層分離するとともに、相対的に高比重のポリグリコール酸成分を該デッキの下方部から回収し、かつ、相対的に低比重の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分を該デッキの上方部から回収する。
【0067】
多層成形体の粉砕物は、粉砕機での切断時の剪断力、スクリーンによる篩分などの機械的な外力を受けて、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層とポリグリコール酸層とに層分離する。しかし、スクリーンを通過した粉砕物は、実質的に均一な大きさを有する粉砕物としての形状を保持している。この粉砕物を乾式比重差選別機のデッキ上に供給し、振動と風力を与えると、該デッキ上でほぼ完全に層分離し、層分離した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分とポリグリコール酸成分とが選別される。
【0068】
ポリグリコール酸樹脂の比重は、例えば、単独重合体の場合、約1.60g/cmである。これに対して、ポリエチレンテレフタレートの比重は、1.38〜1.39g/cmである。このように、ポリグリコール酸と熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂との間には、比重差がある。しかし、この比重差は、それほど大きくないため、乾式比重差選別機による選別を行うには工夫を要する。該粉砕物が同じ形状であれば、通常、高比重樹脂は該デッキ上方から回収される。本願発明方法によれば、相対的に高比重のポリグリコール酸成分を該デッキの下方部から回収し、かつ、相対的に低比重の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分は該デッキの上方部から回収する。
【0069】
多層成形体は、各層が一体に成形されたものであるため、選別を行うには、先ず、各層を分離させる必要がある。本発明者らは、前記タイプの粉砕機を用いて多層成形体を粉砕することにより、粉砕機での切断時の剪断力、スクリーンによる篩分などの機械的な外力を受けて、粉砕物が熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層とポリグリコール酸層とに分離することを見出した。
【0070】
多層成形体を微粉末に粉砕したのでは、風力による乾式比重差選別機による選別は困難か、非効率である。他方、多層成形体を粉砕しても、粉砕物の大きさが実質的に均一でなければ、乾式比重差選別機を用いて選別しようとしても、比重の大小にかかわらず大きい断片の成分が高比重物中に混在することになる。
【0071】
そのため、本発明では、前記特定の構成を有する粉砕機を用いて、多層成形体を実質的に均一な大きさの粉砕物に粉砕している。微細に観察すれば、該粉砕物中の各成分(層分離した各成分)の大きさは、必ずしも均一ではないが、このことは、乾式比重差選別機による選別に重大な悪影響を及ぼすことがない。
【0072】
粉砕機による粉砕時に、粉砕物が分離しても、それだけでは、各成分の選別には不十分である。そこで、本発明では、特定の乾式比重差選別機を用いて、デッキ上での振動と風力とによって、ほぼ完全に分別可能な状態まで層分離させ、各成分を精密に選別している。
【0073】
本発明の回収方法によれば、多層成形物中に含まれるポリグリコール酸の全量を基準として、その90質量%以上、好ましくは93質量%以上、より好ましくは95質量%以上を比重差選別により除去した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分を回収することができる。この除去率の上限値は、通常99質量%、多くの場合98質量%である。
【0074】
本発明の回収方法によれば、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分中に含まれるポリグリコール酸量をグリコール酸量として定量したとき、残存グリコール酸量が通常5,000ppm以下、好ましくは4,000ppm以下、より好ましくは3,000ppm以下の高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分を回収することができる。残存グリコール酸量の下限値は、通常300ppm、多くの場合500ppmである。多層成形体中のポリグリコール酸の含有量が多い場合であっても、本発明の回収方法によれば、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分中に含まれるポリグリコール酸量が少ない高純度の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分を回収することができる。ポリグリコール酸量は、ポリグリコール酸を加水分解してグリコール酸に変換し、グリコール酸を高速液体クロマトグラフィにより測定する方法により定量することができる。
【0075】
このような純度の高い熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、そのままで再利用することができるが、新しい熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂で希釈すれば、ポリグリコール酸の含有量を更に低減することができる。この希釈物は、成形用樹脂原料として利用することができる。
【0076】
本発明の回収方法により回収した熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分は、必要に応じて、更なる精製を行なってもよく、その場合には、アルカリ水溶液または酸水溶液による洗浄法(例えば、特許文献5及び6に記載の方法)を適用することができる。このようなウエットプロセスを併用する場合でも、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分から除去すべきポリグリコール酸の含有量が微量であるため、洗浄条件を大幅に緩和することができる。
【0077】
他方、ポリグリコール酸成分は、解重合することにより、グリコリドに変換することができる。ポリグリコール酸成分は、活性汚泥で処理して、生分解させることもできる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について、実施例を挙げてより具体的に説明する。測定法は、次の通りである。
【0079】
(1)残存ポリグリコール酸の定量法
乾式比重差選別機により回収したポリエチレンテレフタレート成分(粉砕片)中に含まれる残存ポリグリコール酸量を、以下の手順により、グリコール酸量として定量した。残存ポリグリコール酸量は、同じ試料について、3回の測定値の平均値として求めた(n=3)。
【0080】
a)磁性撹拌子を入れた平底フラスコに、ポリエチレンテレフタレートの粉砕片20g、及び濃度15質量%のNaOH水溶液100mlを入れ、三方コックで栓をした。三方コックの一方を窒素風船(窒素ガスを充満したゴム風船)に、残りの一方を真空ポンプにつないだ。
【0081】
b)平底フラスコの内容物を撹拌しながら、真空ポンプによる脱気を行い、10分間おきに、窒素風船からの窒素ガスによる置換を計3回行った。
c)窒素ガス置換した状態で、撹拌することなく、内容物を室温で12時間放置した。
d)次いで、内容物を90℃に加熱して、4時間撹拌を行った。
e)内容物を室温にまで冷却した後、三方コックを外した。
【0082】
f)内容物を氷冷しながら、濃度35質量%のHClを46g加えて、反応を停止させた。
g)内容物を濾過して、沈殿物を除去した。
h)濾液に水を加えて、100倍(容量)に希釈した。
i)希釈した溶液について、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)用いてグリコール酸の定量を行った。
【0083】
<HPLC条件>
装置:SYSTEM CONTROLLER SCL−10A VP
LIQUID CHROMATOGRAPH LC−20A
COLOMN OVEN CTO−20A
UV/VIS DETECTOR SPD−20A; λ=210nm
(以上、いずれもSHIMADZU製)
カラム:Inert sil ODS−3V 250×4.6mm×直列2本カラム温度:40℃
移動相:0.1Mリン酸二水素アンモニウム+リン酸
流速:0.7ml/min
注入量:20μl
検出限界:0.1ppm
【0084】
[実施例1]
1.多層プリフォームの作製
ポリグリコール酸(PGA)として、温度270℃、剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が500Pa・sのホモポリマー(融点=221℃)を用いた。熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET;IV値=0.8dl/g、融点=252℃)を用いた。
【0085】
これらの樹脂を予備乾燥して十分に水分を除去した後、2種3層用共射出成形機を使用して、内外層側の射出シリンダ先端部温度280℃、中間層側射出シリンダ先端部温度255℃、合流するホットランナーブロック部温度をPET280〜290℃と、PGA255℃に設定し、逐次成形法により、開口端部がPET単層構造を有し、胴部及び底部では、中間層のPGA層がPET層に埋め込まれた多層の有底プリフォームを作製した。層構成は、PET/PGA/PETの3層構成とした。この多層プリフォームの重量は、約25gであり、ポリグリコール酸の含有量は、4質量%であった。
【0086】
この多層プリフォームは、例えば、コールドパリソン方式により、樹脂温度100℃で、延伸ブロー成形用金型キャビティ内で圧縮空気を吹き込み、延伸ブロー成形すれば、多層延伸ブロー成形容器に成形することができるものである。この実施例1では、多層成形体として、該多層プリフォームを用いた回収実験を行った。
【0087】
2.粉砕工程1
粉砕機として、株式会社カワタ製中型粉砕機ラピッド300−45(カッターハウス=450×260mm、ロータ径=260mm、モータ容量=7.5kW、回転刃=3枚、固定刃=4枚)を用いた。スクリーンとして、メッシュ=8mmφのスクリーンを用いた。
【0088】
この粉砕機に、前記の多層プリフォームを供給し、該ロータの回転によって回転する各回転刃の先端と固定刃の先端との間で多層プリフォームを切断することにより粉砕し、スクリーンを通過させて、均一な大きさの粉砕物を得た。この粉砕物の一部を取り出して観察したところ、PET層(1.7mm)とPGA層(0.15mm)とが層分離していることが分かった。
【0089】
3.乾式比重差選別機への供給工程
乾式比重差選別機として、図2に示す構造を持つ株式会社カワタ製風力選別機SH−2DKを使用した。網状のデッキとして、ルーパータイプ(12×2mmの縦穴を多数設けた網)のデッキを用いた。デッキの角度を11.2度に調整した。デッキの下方部近傍の上面には、高さを85mmに調整した遮蔽板(堰)を設けてある。該乾式比重差選別機を稼動させながら、そのデッキの中ほどに、前記工程1で得られた粉砕物を供給した。
【0090】
4.比重差選別工程3
デッキの振動は、インバータへの周波数(振動数)を55Hzに設定することにより調整した。ブロワーからの風力は、ファンへのインバータの周波数を31Hzに設定することにより調整した。
【0091】
デッキを傾斜させかつ振動させることにより、PET成分(粉砕片)とPGA成分(粉砕片)との層分離を完成させ、デッキ下方部からは高比重のPGA成分を排出させ、デッキ上方部からは低比重のPET成分を排出させた。微粉は、デッキ網を通過させて排出させた。このようにして、乾式比重差選別機により、PET成分(粉砕片)を回収した。
【0092】
5.分析結果
回収したPET成分(粉砕片)について、定量分析を行ったところ、グリコール酸(ポリグリコール酸の加水分解物)の含有量が2,636ppmであった。この測定値に基づいて、回収したPET成分に含まれるポリグリコール酸量を算出した結果、多層プリフォーム中に含まれていたポリグリコール酸全量の95質量%が除去されていることが分かった。このPET成分(粉砕片)は、純度が高く、例えば、新しいPETで希釈することにより、成形用の樹脂材料として十分に使用可能なものである。
【0093】
[実施例2]
多層プリフォームのポリグリコール酸含有量を2質量%〔PET層(1.7mm)とPGA層(0.08mm)〕としたこと以外は、実施例1と同様にして多層プリフォームを作製し、これを用いて回収実験を行った。回収したPET成分(粉砕片)について、定量分析を行ったところ、グリコール酸(ポリグリコール酸の加水分解物)の含有量が994ppmであった。この測定値に基づいて、回収したPET成分に含まれるポリグリコール酸量を算出した結果、多層プリフォーム中に含まれていたポリグリコール酸全量の96質量%が除去されていることが分かった。このPET成分(粉砕片)は、純度が高く、例えば、新しいPETで希釈することにより、成形用の樹脂材料として十分に使用可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の回収方法により得られた熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、成形用の原料樹脂として再利用することができる。本発明の回収方法により得られたポリグリコール酸は、再利用したり、グリコリドの製造用原料として使用したりすることができる。
【符号の説明】
【0095】
11 ロータ
12 回転刃
13 固定刃
14 隔壁
15 隔壁
16 ハウジング
21 網状のデッキ
22 選別槽
23 集塵口
24 ダスト
25 投入口
26 投入する粉砕物
27 高比重物排出口
28 高比重物
29 集塵排出口
30 粉
31 ブロワー
32 風
33 低比重物
34 低比重物排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体から熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂を回収する方法において、
(1)複数の固定刃を取り付けたハウジング内に、周縁部に一定間隔で複数の回転刃を取り付けたロータが収容されており、該ロータの回転によって回転する各回転刃の先端と固定刃の先端との間で固体材料を切断することにより粉砕し、粉砕物を所定メッシュのスクリーンを通過させるように構成した粉砕機を用いて、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層及びポリグリコール酸層を含有する多層成形体を粉砕し、粉砕物を得る工程1;
(2)傾斜させた網状のデッキを備え、該デッキの下から風を吹き上げながら、該デッキを振動させることにより、該デッキ上の固体材料を比重差によって選別するように構成した乾式比重差選別機に、該粉砕物を供給する工程2;並びに、
(3)該乾式比重差選別機を稼動して、そのデッキ上で、該粉砕機での切断時の剪断力と該乾式比重差選別機のデッキ上での振動力とを含む機械的な外力によって、該粉砕物を熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分とポリグリコール酸成分とに層分離するとともに、相対的に高比重のポリグリコール酸成分を該デッキの下方部から回収し、かつ、相対的に低比重の熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂成分を該デッキの上方部から回収する工程3;
を含むことを特徴とする多層成形体からの熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂の回収方法。
【請求項2】
該多層成形体が、ポリエチレンテレフタレート層中に少なくとも1層のポリグリコール酸層を中間層として含有する多層ブロー成形容器またはそのプリフォームである請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
該多層成形体が、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂層の厚みより薄い厚みのポリグリコール酸層を有するものである請求項1記載の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−173182(P2010−173182A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18587(P2009−18587)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】