説明

多層成形品

【課題】 ポリアミド系樹脂を外層とする層間接着力に優れた多層成形体、特に、内層にフッ素系樹脂を用いた多層成形体を提供する。
【解決手段】 樹脂積層体から形成されている多層成形品であって、前記樹脂積層体は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と、前記層(A)と積層されている含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)とを有するものであり、前記ポリアミド系樹脂は、アミン価が10〜60当量/10gのものであり、前記含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有する含フッ素エチレン性重合体であり、前記多層成形品は、燃料配管用チューブ又はホースである
ことを特徴とする多層成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系樹脂と含フッ素エチレン性重合体とを積層してなる樹脂積層体から形成される多層成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系樹脂層と含フッ素エチレン性重合体層とを積層してなる樹脂積層体は、フッ素樹脂の持つ耐熱性、耐油・耐薬品性、薬液低透過性等の特性と、ポリアミド系樹脂の持つ高強度、高靱性、軽量で加工性に優れ、特に柔軟である等の特性を併せ持つ複合材料として期待されている。
しかしながら、ポリアミド系樹脂層と含フッ素エチレン性重合体等のフッ素樹脂からなる層とは、一般に、層間接着性が低く、従って、層間接着強度を高めるために様々の試みがなされてきた。例えば、特許文献1には、外層がポリアミド樹脂からなり、フッ素樹脂が内層として設けられた多層チューブが開示されている。上記公報では、ポリアミド樹脂層/フッ素樹脂層間の接着力を確保するために、放射線照射を施し、両層の分子間に架橋構造を導入することが提案されている。
【0003】
また、ポリアミド系樹脂と接着する樹脂層をフッ素樹脂とのブレンド物とする技術も開発された。例えば、特許文献2には、外層がポリアミド樹脂からなり、フッ素樹脂が内層として設けられた多層チューブにおいて、特定のポリアミド樹脂及びフッ素系樹脂の両者を含む樹脂組成物をポリアミド樹脂層と積層して、内層との接着層とすることが開示されている。この方法ではしかし、接着層を構成するポリアミド樹脂及びフッ素系樹脂は本来相溶性に劣り、成形条件によってそのモルホロジーが変化するため、これが接着層内の凝集力や他の層との接着力に影響する。従って、成形条件、使用温度等の環境によって接着力にばらつきが出易く、品質が安定しにくいという問題が発生する。しかも、これはフッ素樹脂そのものの接着性を高めるものではなく、あくまでブレンド物との接着性を利用するものであり、また、フッ素樹脂の代わりにブレンド物を使用することはフッ素樹脂の有する優れた特性を損なうことにもなる。
【0004】
これに対しては、フッ素樹脂そのものを改良することが考えられ、各種のフッ素樹脂材料が提案された。例えば、特許文献3には、ポリアミド樹脂と積層するフッ素樹脂としてカーボネート基及び/又はカルボン酸ハライド基を有する含フッ素ポリマーを使用した積層体が開示されている。
しかし、これらの技術はいずれもポリアミド系樹脂自体の改善を開示するものではなかった。従って、ポリアミド系樹脂とフッ素樹脂との層間接着力の更なる改善が、新たな技術的観点から求められている。
このように、外層にポリアミド系樹脂を設けることでチューブやホース、ボトル、タンク等の成形品に優れた機械特性、及び、熱や各種化学物質といった外的環境に対する高度な耐性を、付与することができ、しかも、最内層にフッ素系樹脂層を設けることでチューブやホース、ボトル、タンク等の耐油・耐薬品性や薬液低透過性を高いレベルで実現することができる成形品、特に、共押出し成形が可能であり、かつ、層間の接着力を飛躍的かつ安定的に向上させることができる優れた多層成形品が求められるところであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−8353号公報
【特許文献2】特開平7−53823号公報
【特許文献3】国際公開第99/45044号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、ポリアミド系樹脂と含フッ素エチレン性重合体をそれぞれ一つの構成層として有する層間接着力に優れた多層成形品、特に、外層にポリアミド系樹脂、内層にフッ素系樹脂を用いた多層成形品、及び、これを製造することができる樹脂積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題に対して、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定量のアミン価を有するポリアミド系樹脂を一つの構成層として用い、かつ、特定の含フッ素エチレン性重合体と積層することにより、ポリアミド系樹脂と含フッ素エチレン性重合体層間の接着力が飛躍的かつ安定的に向上することを見いだして本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、樹脂積層体から形成されている多層成形品であって、上記樹脂積層体は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と、上記層(A)と積層されている含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)とを有するものであり、上記ポリアミド系樹脂は、アミン価が10〜60当量/10gのものであり、上記含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有する含フッ素エチレン性重合体であり、上記多層成形品は、燃料配管用チューブ又はホースであることを特徴とする多層成形品である。
【0008】
本発明は、樹脂積層体から形成されている多層成形品であって、上記樹脂積層体は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と、上記層(A)と積層されている含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)とを有するものであり、上記ポリアミド系樹脂は、アミン価が10〜60当量/10gのものであり、上記含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有する含フッ素エチレン性重合体であり、上記多層成形品は、ボトル又はタンクであることを特徴とする多層成形品である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明における樹脂積層体は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と、上記層(A)と積層されている含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)とを有する。
以下、先ず、これらの層を構成するポリアミド系樹脂と含フッ素エチレン性重合体を順に詳述する。
【0010】
ポリアミド系樹脂
本発明におけるポリアミド系樹脂とは、分子内に繰り返し単位としてアミド結合−NHCO−を有する結晶性高分子をいう。このようなものとしては、例えば、アミド結合の過半が脂肪族、あるいは脂環族構造と結合している樹脂、所謂ナイロン樹脂を挙げることができる。具体的には、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン66/12、ナイロン46及びメタキシリレンジアミン/アジピン酸の重合体、並びに、これらのブレンド物等を挙げることができる。
【0011】
本発明におけるポリアミド系樹脂においては、アミド結合を繰り返し単位として有しない構造が一部にブロック又はグラフト結合されているものであってもよい。
このような樹脂としては、例えば、ナイロン6/ポリエステル共重合体、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、ナイロン12/ポリエステル共重合体、ナイロン12/ポリエーテル共重合体等の所謂ポリアミド樹脂エラストマー等を挙げることができる。これらのポリアミド樹脂エラストマーは、ナイロン樹脂オリゴマーとポリエステル樹脂オリゴマーあるいはポリエーテル樹脂オリゴマーとが、エステル結合又はエーテル結合を介してブロック共重合されたものである。上記ポリエステル樹脂オリゴマーとしては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート等を、ポリエーテル樹脂オリゴマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等をそれぞれ例示できる。特に好ましい態様としては、ナイロン6/ポリテトラメチレングリコール共重合体、ナイロン12/ポリテトラメチレングリコール共重合体等である。
【0012】
ところで、一般にポリアミド系樹脂は、成形時に加熱されることにより分解反応を容易に起こし、モノマー等の低分子量物が発生したり、ゲル化を引き起こすことから、これを抑制するために、また、酸化等による着色を抑制するために、通常、重合時にモノカルボン酸やその誘導体を添加して、所謂、末端封鎖を行ってアミン価を低下させることが広く行われている。従って、ポリアミド系樹脂はアミン価が一般に10当量/10g未満のものが広く使用されている。しかしながら、従来、ポリアミド系樹脂と含フッ素エチレン性重合体とを積層した場合に充分な接着力が得られない場合があった。この現象を検討したところ、意外にも、アミン価が10当量/10g未満のポリアミド系樹脂である場合には、該樹脂を使用して形成される層と、該層に接して積層される含フッ素エチレン性重合体層との接着力が不充分であること、しかしこのアミン価を大きくすると接着力が顕著に向上すること、が見いだされた。一方、この値が60当量/10gを超えると、成形体の機械特性に劣り、また、貯蔵中に着色し易くなりハンドリング性に劣ることも併せて見いだされた。従って、本発明においてポリアミド系樹脂のアミン価は、10〜60当量/10gである必要がある。好ましくは10〜50当量/10gであり、より好ましくは10〜35当量/10g、更に好ましくは15〜30当量/10gである。
【0013】
本発明においては、ポリアミド系樹脂は、酸価が80当量/10g以下であることが好ましい。80当量/10gを超えても、アミン価が上記範囲にあるかぎり充分な接着力が発現されるが、しかし、該樹脂の分子量が必ずしも充分でない場合があり、また、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を如何に最適化しても、強力な接着力が要求される場合に、必要な接着力が得られない問題が発生する可能性があり、酸価を80当量/10g以下とすることによりこのような問題を回避しうる。70当量/10g以下、更には60当量/10g以下、特に強力な接着力が要求される場合には40当量/10g以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明においてポリアミド系樹脂は、その融点が130℃以上となるように適宜、選択されることが好ましい。融点が130℃未満であると、形成される層の機械特性、耐熱性等に劣る場合がある。好ましくは、150〜300℃であり、更に好ましくは、150〜270℃である。
【0015】
本発明においてポリアミド系樹脂は、押出し成形やブロー成形に使用される場合には、相対粘度で表される分子量が1.8以上であることが好ましく、2.0以上であることが更に好ましい。1.8未満であると、これらの成形の際の成形性に劣り、得られた成形品の機械特性に劣る場合がある。一方、上限は、4.0以下であることが好ましい。4.0を超えると、樹脂の重合自体が困難であり、前述の成形の際の成形性も損なわれる場合がある。なお、上記相対粘度は、JIS K 6810に準じて測定される。
【0016】
本発明におけるポリアミド系樹脂としては、これをチューブ、ホース成形体に使用する場合等のように強靱性が要求される場合にあっては、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、又は、ナイロン12/ポリエーテル共重合体のいずれかを主成分(50重量%以上)として含むものを好適に使用することができる。これらのうち、ナイロン11、ナイロン12及びナイロン612が一層好ましい。
【0017】
本発明におけるポリアミド系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑剤や他の樹脂等を含んでいてもよい。上記可塑剤は、樹脂組成物を柔軟にし、特に樹脂積層体(例えば、チューブ又はホース)の低温機械特性を向上させることができる。また、他の樹脂を配合することで、例えば、樹脂積層体(例えば、チューブ又はホース)の耐衝撃性を向上させることができる。
【0018】
上記可塑剤としては特に限定されず、例えば、ヘキシレングリコール、グリセリン、β−ナフトール、ジベンジルフェノール、オクチルクレゾール、ビスフェノールA等のビスフェノール化合物、p−ヒドロキシ安息香酸オクチル、p−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシル、p−ヒドロキシ安息香酸へプチル、p−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、ε−カプロラクトン、フェノール類のリン酸エステル化合物、N−メチルベンゼンスルホンアミド、N−エチルベンゼンスルホンアミド、N−ブチルベンゼンスルホンアミド、トルエンスルホンアミド、N−エチルトルエンスルホンアミド、N−シクロヘキシルトルエンスルホンアミド等を挙げることができる。
【0019】
ポリアミド系樹脂に配合する上記他の樹脂としては、相溶性に優れるものが好ましく、例えば、エステル及び/又はカルボン酸変性オレフィン樹脂、アクリル樹脂(特に、グルタルイミド基を有するアクリル樹脂)、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリフェニレンオキサイド等を挙げることができる。
本発明におけるポリアミド系樹脂は、また、本発明の目的を損なわない範囲で、着色剤、各種添加剤等を含んでいてもよい。上記添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、強化剤(フィラー)等を挙げることができる。
本発明において、上記ポリアミド系樹脂からなる層(A)は、上述したポリアミド系樹脂及び必要に応じて配合される上記の各種成分からなる。
【0020】
含フッ素エチレン性重合体
本発明における含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有する含フッ素エチレン性重合体(以下、「本発明における含フッ素エチレン性重合体」ともいう)である。なお、本発明において、「カルボニル基」というときは、上記層(A)を構成するポリアミド系樹脂中のアミド基やアミノ基等の官能基と基本的に反応し得る−C(=O)−を有する官能基をいう。具体的には、カーボネート、カルボン酸ハライド、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、酸無水物、イソシアネート基等を挙げることができる。これに対して、アミド、イミド、ウレタン、ウレア基等は−C(=O)−を有する基であるが、これらは、カーボネート基を始めとする先に例示の基と異なり反応性に乏しく、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と充分な接着強度を発揮し得ず、それゆえ上記層(A)を構成するポリアミド系樹脂中の官能基と基本的に反応し得えないものであるということができる。従って、本発明において、カルボニル基というときは、少なくともアミド、イミド、ウレタン、ウレア基を含まない。本発明において上記カルボニル基としては、導入が容易であり、ポリアミド系樹脂との反応性の高いカーボネート基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸基、エステル基および酸無水物基が好ましい。更にはカーボネート基およびカルボン酸ハライド基が好ましい。
【0021】
本発明における含フッ素エチレン性重合体中のカルボニル基の数は、積層される相手材の種類、形状、接着の目的、用途、必要とされる接着力、該重合体の形態と接着方法などの違いにより適宜選択されうるが、カルボニル基の数が主鎖炭素数1×10個に対して合計3〜1000個であることが好ましい。上記カルボニル基の数が主鎖炭素数1×10個に対し、3個未満であると、充分な接着力が発現しない場合がある。また、1000個を超えると接着操作に伴い、カルボニル基の化学変化によって接着力を低下させる場合がある。より好ましくは3〜500個、更に好ましくは3〜300個、特に好ましくは5〜150個である。なお、含フッ素エチレン性重合体中のカルボニル基の含有量は、赤外吸収スペクトル分析により測定することができる。
【0022】
従って、本発明における含フッ素エチレン性重合体が、例えば、カーボネート基および/またはカルボン酸ハライド基を有するものである場合、カーボネート基を有する場合にあっては、そのカーボネート基の数が主鎖炭素数1×10個に対し3〜1000個であり、カルボン酸ハライド基を有する場合にあっては、そのカルボン酸ハライド基の数が主鎖炭素数1×10個に対し3〜1000個であり、カーボネート基とカルボン酸ハライド基の両方を有する場合にあっては、それらの基の合計数が主鎖炭素数1×10個に対し3〜1000個であるものが好ましい。上記カーボネート基および/またはカルボン酸ハライド基の数が主鎖炭素数1×10個に対し、3個未満であると、充分な接着力が発現しない場合がある。また、1000個を超えると接着操作に伴い、カーボネート基あるいはカルボン酸ハライド基の化学変化によって接着界面に出てくるガスの発生が悪影響を及ぼし、接着力を低下させる場合がある。耐熱性、耐薬品性の観点からより好ましくは、3〜500個、更に好ましくは3〜300個、特に好ましくは5〜150個である。なお、ポリアミド系樹脂との反応性に特に優れるカルボン酸ハライド基が、含フッ素エチレン性重合体中に、主鎖炭素数1×10個に対して10個以上、より好ましくは20個以上存在していれば、カルボニル基合計の含有量を主鎖炭素数1×10個に対して150個未満にしても、ポリアミド系樹脂からなる層(A)との優れた接着性を発現することができる。
【0023】
本発明における含フッ素エチレン性重合体中のカーボネート基とは、一般に−OC(=O)O−の結合を有する基であり、具体的には、−OC(=O)O−R基〔Rは有機基(例えば、C〜C20アルキル基(特にC〜C10アルキル基)、エーテル結合を有するC〜C20アルキル基など)又はVII族元素である。〕の構造のものである。カーボネート基の例は、−OC(=O)OCH、−OC(=O)OC、−OC(=O)OC17、−OC(=O)OCHCHCHOCHCHなどが好ましく挙げられる。
本発明における含フッ素エチレン性重合体中のカルボン酸ハライド基とは、具体的には−COY〔Yはハロゲン元素〕の構造のもので、−COF、−COClなどが例示される。
これらのカルボニル基を有する含フッ素エチレン性重合体はそれ自体、含フッ素樹脂がもつ耐薬品性、耐溶剤性、耐候性、防汚性、非粘着性などの優れた特性を維持することができ、成形後の積層体に含フッ素樹脂が有するこのような優れた特徴を低下させずに与えうる。
【0024】
本発明における含フッ素エチレン性重合体は、そのポリマー鎖にカルボニル基を含むが、上記カルボニル基がポリマー鎖に含有される態様は特に限定されず、例えば、カルボニル基又はカルボニル基を含有する官能基がポリマー鎖末端又は側鎖に結合していてよい。そのなかでも、ポリマー鎖末端にカルボニル基を有するものが、耐熱性、機械特性、耐薬品性を著しく低下させない理由で又は生産性、コスト面で有利である理由で好ましいものである。このうち、パーオキシカーボネートやパーオキシエステルのようなカルボニル基を含むか、或いはカルボニル基に変換できる官能基を有する重合開始剤を使用してポリマー鎖末端にカルボニル基を導入する方法は、導入が非常に容易で、しかも導入量の制御も容易なことから好ましい態様である。なお、本発明では、パーオキサイドに由来するカルボニル基とは、パーオキサイドに含まれる官能基から直接又は間接的に導かれるカルボニル基をいう。
なお、本発明における含フッ素エチレン性重合体においては、カルボニル基を含まない含フッ素エチレン性重合体が存在していても、重合体全体として主鎖炭素1×10個に対して合計で上述の範囲の数のカルボニル基を持っていればよい。
【0025】
本発明において、上記含フッ素エチレン性重合体の種類、構造は、目的、用途、使用方法により適宜選択されうるが、なかでも融点が160〜270℃であることが好ましく、このような重合体であれば、特に加熱溶融接着加工により積層化する場合、特にカルボニル基と相手材との接着性を充分に発揮でき、相手材と直接強固な接着力を与えうるので有利である。比較的耐熱性の低い有機材料との積層も可能となる点で、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは230℃以下、特に好ましくは210℃以下である。
【0026】
本発明における含フッ素エチレン性重合体の分子量については、該重合体が熱分解温度以下で成形でき、しかも得られた成形体が含フッ素エチレン性重合体本来の優れた機械特性、耐薬品性等を発現できるような範囲であることが好ましい。具体的には、メルトフローレート(MFR)を分子量の指標として、フッ素樹脂一般の成形温度範囲である約230〜350℃の範囲の任意の温度におけるMFRが0.5〜100g/10分であることが好ましい。
【0027】
本発明における含フッ素エチレン性重合体は、含フッ素エチレン性ポリマー鎖にカルボニル基又はカルボニル基含有官能基が結合されたものであるが、上記ポリマー鎖の構造は、一般に、少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体から誘導される繰り返し単位を有するホモポリマー鎖又はコポリマー鎖であり、含フッ素エチレン性単量体のみを重合してなるか、又は、含フッ素エチレン性単量体とフッ素原子を有さないエチレン性単量体を重合してなるポリマー鎖であってよい。
【0028】
上記含フッ素エチレン性単量体は、フッ素原子を有するオレフィン性不飽和単量体であり、具体的には、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、へキサフルオロプロピレン、へキサフルオロイソブテン、式(ii):
CH=CX(CF (ii)
(式中、XはH又はF、XはH、F又はCl、nは1〜10の整数である。)で示される単量体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類などである。
【0029】
上記フッ素原子を有さないエチレン性単量体は、耐熱性や耐薬品性などを低下させないためにも炭素数5以下のエチレン性単量体から選ばれることが好ましい。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどがあげられる。
含フッ素エチレン性単量体とフッ素原子を有さないエチレン性単量体とを使用する場合、その単量体組成は、含フッ素エチレン性単量体10〜100モル%(例えば30〜100モル%)とフッ素原子を有さないエチレン性単量体0〜90モル%(例えば0〜70モル%)の量比であってよい。
【0030】
本発明における含フッ素エチレン性重合体においては、含フッ素エチレン性単量体及びフッ素原子を有さないエチレン性単量体の種類、組合せ、組成比などを選ぶことによって重合体の融点またはガラス転移点を調整することができ、またさらに樹脂状のもの、エラストマー状のもののどちらにもなりうる。接着の目的や用途、積層体の目的や用途に応じて、含フッ素エチレン性重合体の性状は適宜選択できる。
【0031】
本発明における含フッ素エチレン性重合体としては、耐熱性、耐薬品性の面でテトラフルオロエチレン単位を必須成分とするカルボニル基含有含フッ素エチレン性重合体が、また、成形加工性の面でフッ化ビニリデン単位を必須成分とするカルボニル基含有含フッ素エチレン性共重合体が好ましい。
【0032】
本発明における含フッ素エチレン性重合体の好ましい具体例としては、含フッ素エチレン性重合体が本質的に下記の単量体を重合してなるカルボニル基含有含フッ素エチレン性共重合体(I)〜(V)等を挙げることができる:
(I)少なくとも、テトラフルオロエチレン及びエチレンを重合してなる共重合体、
(II)少なくとも、テトラフルオロエチレン及び一般式:
CF=CF−Rf
〔式中、RfはCF又はORf(Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す)を表す〕で表される化合物を重合してなる共重合体、
(III)少なくとも、フッ化ビニリデンを重合してなる共重合体、
(IV)少なくとも、下記a、b及びcを重合してなる共重合体、
a.テトラフルオロエチレン20〜90モル%
b.エチレン10〜80モル%
c.一般式
CF=CF−Rf
〔式中、RfはCF又はORf(Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す)を表す〕で表される化合物1〜70モル%、
並びに、
(V)少なくとも、下記d、e及びfを重合してなる共重合体。
d.フッ化ビニリデン15〜60モル%
e.テトラフルオロエチレン35〜80モル%
f.ヘキサフルオロプロピレン5〜30モル%
これら例示のカルボニル基含有含フッ素エチレン性重合体はいずれも、とくに耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、非粘着性に優れている点で好ましい。
【0033】
上記共重合体(I)として、例えば、カルボニル基を有する単量体を除いた(側鎖にカルボニル基含有官能基を有する場合)単量体全体に対し、テトラフルオロエチレン単位20〜90モル%(例えば20〜60モル%)、エチレン単位10〜80モル%(例えば20〜60モル%)及びこれらと共重合可能な単量体単位0〜70モル%とからなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体等があげられる。
【0034】
上記共重合可能な単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、式(ii):
CH=CX(CF (ii)
(式中、XはH又はF、XはH、F又はCl、nは1〜10の整数である。)で示される単量体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類、プロピレン等が挙げられ、通常これらの1種又は2種以上が用いられる。
このような含フッ素エチレン性重合体は、特に耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、非粘着性に優れている点で好ましい。
【0035】
これらのなかでも、上記共重合体(I)としては、例えば、
(I−1) テトラフルオロエチレン単位62〜80モル%、エチレン単位20〜38モル%、その他の単量体単位0〜10モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体、
(I−2) テトラフルオロエチレン単位20〜80モル%、エチレン単位10〜80モル%、へキサフルオロプロピレン単位0〜30モル%、その他の単量体単位0〜10モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体が、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体の優れた性能を維持し、融点も比較的低くすることができ、他材との接着性を最大限に発揮できる点で好ましい。
【0036】
上記共重合体(II)としては、例えば、
(II−1)テトラフルオロエチレン単位65〜95モル%、好ましくは75〜95モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位5〜35モル%、好ましくは5〜25モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体、
(II−2)テトラフルオロエチレン単位70〜97モル%、CF=CFORf(Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基)単位3〜30モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体、
(II−3)テトラフルオロエチレン単位、へキサフルオロプロピレン単位、CF=CFORf(Rfは上記と同じ)単位からなるポリマー鎖のカルボニル基を有する共重合体であって、へキサフルオロプロピレン単位とCF=CFORf単位の合計が5〜30モル%である共重合体などが好ましい。
上記(II−1)〜(II−3)は、パーフルオロ系共重合体でもあり、含フッ素ポリマーの中でも耐熱性、耐薬品性、撥水性、非粘着性、電気絶縁性などに最も優れている。
【0037】
上記共重合体(III)としては、例えば、カルボニル基を有する単量体を除いた(側鎖にカルボニル基含有官能基を有する場合)単量体全体に対し、フッ化ビニリデン単位15〜99モル%、テトラフルオロエチレン単位0〜80モル%、ヘキサフルオロプロピレン又はクロロトリフルオロエチレンのいずれか1種以上の単位0〜30モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体等が挙げられる。
【0038】
具体的には、例えば、
(III−1)フッ化ビニリデン単位30〜99モル%、テトラフルオロエチレン単位1〜70モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体、
(III−2)フッ化ビニリデン単位60〜90モル%、テトラフルオロエチレン単位0〜30モル%、クロロトリフルオロエチレン単位1〜20モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体、
(III−3)フッ化ビニリデン単位60〜99モル%、テトラフルオロエチレン単位0〜30モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位5〜30モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体、
(III−4)フッ化ビニリデン単位15〜60モル%、テトラフルオロエチレン単位35〜80モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位5〜30モル%からなるポリマー鎖のカルボニル基含有共重合体等が挙げられる。
【0039】
本発明における含フッ素エチレン性重合体の製造方法としては特に限定されず、カルボニル基を有するエチレン性単量体を、目的の含フッ素ポリマーに合わせた種類、配合の含フッ素及び/またはエチレン性単量体と共重合することにより得られる。カルボニル基を含有する好適なエチレン性単量体としては、パーフルオロアクリル酸(フルオライド)、1−フルオロアクリル酸(フルオライド)、アクリル酸フルオライド、1−トリフルオロメタクリル酸(フルオライド)、パーフルオロブテン酸等の含フッ素単量体、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸クロライド、ビニレンカーボネート等のフッ素を含まない単量体をそれぞれ例示できる。一方、ポリマー分子末端にカルボニル基を有する含フッ素エチレン性重合体を得るためには種々の方法を採用することができるが、パーオキサイド、特に、パーオキシカーボネートやパーオキシエステルを重合開始剤として用いる方法が、経済性の面、耐熱性、耐薬品性など品質面で好ましく採用できる。この方法によれば、パーオキサイドに由来するカルボニル基、例えば、パーオキシカーボネートに由来するカーボネート基、パーオキシエステルに由来するエステル基又はこれらの官能基を変換して得られるカルボン酸ハライド基及びカルボン酸基を、ポリマー鎖末端に導入することができる。これらの重合開始剤のうち、パーオキシカーボネートを用いた場合には、重合温度を低くすることができ、開始反応に副反応を伴わないことからより好ましい。
【0040】
上記パーオキシカーボネートとしては下記式(1)〜(4):
【0041】
【化1】

【0042】
〔式中、RおよびR′は、炭素数1〜15の直鎖状または分岐状の一価飽和炭化水素基、もしくは末端にアルコキシ基を含有する炭素数1〜15の直鎖状または分岐状の一価飽和炭化水素基、R′′は、炭素数1〜15の直鎖状または分岐状の二価飽和炭化水素基、もしくは末端にアルコキシ基を含有する炭素数1〜15の直鎖状または分岐状の二価飽和炭化水素基を表す。〕
で示される化合物が好ましく用いられる。
とりわけ、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートなどが好ましい。
パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等の開始剤の使用量は、目的とする重合体の種類(組成等)、分子量、重合条件、使用する開始剤の種類によって異なるが、重合で得られる重合体100重量部に対して0.05〜20重量部、特に0.1〜10重量部であることが好ましい。
【0043】
重合方法としては、工業的にはフッ素系溶媒を用い、重合開始剤としてパーオキシカーボネート等を使用した水性媒体中での懸濁重合が好ましいが、他の重合方法、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合等も採用できる。懸濁重合においては、水に加えてフッ素系溶媒を使用してよい。懸濁重合に用いるフッ素系溶媒としてはハイドロクロロフルオロアルカン類(例えば、CHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHCl)、クロロフルオロアルカン類(例えば、CFClCFClCFCF、CFCFClCFClCF)、パーフルオロアルカン類(例えば、パーフルオロシクロブタン、CFCFCFCF、CFCFCFCFCF、CFCFCFCFCFCF)が使用でき、なかでもパーフルオロアルカン類が好ましい。フッ素溶媒の使用量は、懸濁性、経済性の面から、水に対して10〜100重量%とするのが好ましい。
【0044】
重合温度は特に限定されず、0〜100℃でよい。重合圧力は、用いる溶媒の種類、量及び蒸気圧、重合温度等の他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常0〜9.8MPaGであってよい。
なお、分子量調整のために、通常の連鎖移動剤、例えば、イソペンタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコール;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素を用いることができる。また、末端のカーボネート基あるいはエステル基の含有量は、重合条件を調整することによってコントロールでき、パーオキシカーボネートあるいはパーオキシエステルの使用量、連鎖移動剤の使用量、重合温度などによってコントロールできる。
【0045】
ポリマー分子末端にカルボン酸ハライド基を有する含フッ素エチレン性重合体を得るためには種々の方法を採用できるが、例えば、上述のカーボネート基あるいはエステル基を末端に有する含フッ素エチレン性重合体を加熱させ、熱分解(脱炭酸)させることにより得ることができる。加熱温度は、カーボネート基あるいはエステル基の種類、含フッ素エチレン性重合体の種類によって異なるが、重合体自体が270℃以上、好ましくは280℃以上、特に好ましくは300℃以上になるように加熱するのが好ましく、加熱温度の上限は、含フッ素エチレン性重合体のカーボネート基あるいはエステル基以外の部位の熱分解温度以下にすることが好ましく、具体的には400℃以下、より好ましくは350℃以下である。
【0046】
本発明における含フッ素エチレン性重合体は、それ自体が有する接着性と耐熱性や耐薬品性などを損なわないため、単独で用いることが好ましいが、目的や用途に応じてその性能を損なわない範囲で、無機質粉末、ガラス繊維、炭素繊維、金属酸化物、あるいはカーボンなどの種々の充填剤を配合できる。また、充填剤以外に、顔料、紫外線吸収剤、その他任意の添加剤を混合できる。添加剤以外にまた他のフッ素樹脂や熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂、合成ゴムなどを配合することもでき、機械特性の改善、耐候性の改善、意匠性の付与、静電防止、成形性改善などが可能となる。特に、カーボンブラック、アセチレンブラック等の導電性材料を配合すると、燃料配管用チューブやホース等の静電荷蓄積防止に有利であるので好ましい。
【0047】
本発明における含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)は、上述の含フッ素エチレン性重合体及び必要に応じて配合されるその他の成分からなり、必要に応じて、上記含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)は、導電性のものである。なお、本発明でいう「導電性」とは、例えば、ガソリンのような引火性の流体が樹脂のような絶縁体と連続的に接触した場合に静電荷が蓄積して引火する可能性があるのであるが、この静電荷が蓄積しない程度の電気特性を有することをいい、例えば、SAEJ2260では表面抵抗が10Ω/□以下であると定められている。上記層(B)を導電性のものとする場合の上記導電性材料の配合割合は、上記層(B)を構成すべき組成物中20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下がより好ましい。下限は、上記した表面抵抗値を付与することができる量であればよい。
【0048】
本発明における樹脂積層体は、少なくとも、上記層(A)及び層(B)を接着状態に積層させて形成される。これには、上記層(A)と層(B)とを含む構成層を、逐次又は共押出し成形する製造方法、成形体の加熱圧着による製造方法等を適用することができ、上記層(A)と層(B)とを含む構成層の間の良好な接着状態が形成される。上記製造は、通常用いられる熱可塑性樹脂の成形機、例えば、射出成形機、圧縮成形機、ブロー成形機、押出し成形機等を使用することができ、シート状、チューブ状その他各種形状に製造可能である。多層チューブ、多層ホース、多層タンク等の多層成形品とする場合には、多層共押出し成形、多層ブロー成形、多層射出成形等の成形方法を適用することができる。このうち、チューブ、ホース、シート等の成形には、押出し成形、特に、多層共押出し成形が好ましく、円筒形状等の中空状物品の成形にはブロー成形を好適に使用できる。また、成形されたシートを他の基材と積層してライニング体を製造することもできる。
【0049】
成形条件としては、カルボニル基、特にカーボネート基の種類、含フッ素エチレン性重合体の種類によって異なるが、押出し又はブロー成形にあっては、シリンダー温度が200℃以上になるよう加熱することが適当である。加熱温度の上限は、含フッ素エチレン性重合体自体の熱分解による発泡等の悪影響を抑えられる温度以下にすることが好ましく、具体的には、400℃以下、特に好ましくは350℃以下である。
【0050】
また、成形品が複雑な形状のものである場合や、成形後に加熱曲げ加工をほどこして成形品とする場合には、成形品の残留歪みを消すために、上述の樹脂積層体を溶融押出しし、多層成形体を形成した後、形成された上記多層成形体を、上記成形体を構成する樹脂の融点のうち最も低い融点未満の温度で0.01〜10時間熱処理して目的の成形品とすることも可能である。この製造方法を採用することにより、残留歪みが解消し、また、層界面付近の未反応物が反応すると考えられ、これらが相まって多層成形品の接着強度を一層上昇させることができる。この熱処理は、60℃以上、更には80℃以上で行うことが好ましい。
【0051】
本発明においては、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)との層間初期接着力は、20N/cm以上とすることができる。
このとき、上記層(A)、層(B)は加熱により多少とも官能基の分解や反応が生じることがあるが、このような溶融押出し成形されたポリアミド系樹脂からなる層(A)と、溶融押出し成形された層(B)とを有する樹脂積層体もまた本発明における樹脂積層体である。
従って、例えば、上記含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)は、カーボネート基及び/又はカルボン酸ハライド基を有する含フッ素エチレン性重合体を溶融押出ししてなるものであってよく、これは、成形時若しくは経時の官能基の分解を考慮するなら、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)は、カーボネート基、カルボン酸ハライド基及びカルボン酸基からなる群から選択される少なくとも1種を有する含フッ素エチレン性重合体からなるものと等価である。
なお、本発明においては、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)は、厚さ0.5mm未満であってよい。燃料透過性が層(B)よりよいものを以下で述べる層(C)若しくは層(D)とする場合には、層(B)を薄くすることもできる。その範囲は、層(B)の厚みが層(C)の厚み、又は層(D)が更に積層されている場合には層(C)と層(D)との合計厚みの1.5倍未満であってよい。上記層(B)を中間接着層として機能させる場合には、従って、接着層を薄くすることができ、経済的にも有利である。
【0052】
本発明においては、上記含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)は更に、フッ素樹脂からなる層(C)と積層されていてもよい。上記フッ素樹脂からなる層(C)は、必要に応じて、導電性を付与するために導電性材料を含んでいてもよい。この場合、導電性材料の配合量は、導電性を付与することができる量であればよく、上述の配合割合であってよい。
【0053】
上記フッ素樹脂としては特に限定されず、溶融成形可能なフッ素樹脂であれば使用可能であり、例えば、テトラフルオロエチレン/フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)等を挙げることができる。また、上述の含フッ素エチレン性重合体であってもよい。
これらのうち、薬液低透過性を維持しながら柔軟性、低温耐衝撃性、耐熱性等に優れ、しかもポリアミド系樹脂との同時多層押出しにより燃料配管用チューブ、ホース等を作製するのに好適であるのは、メルトフローレートが230℃〜350℃の任意の温度において0.5〜100g/10分であるものである。
上記層(B)と上記層(C)におけるフッ素樹脂は、同一であっても異なっていてもよいが、接着性の観点からは同一種であることが好ましい。
【0054】
また、本発明においては、上記層(B)は更に、フッ素樹脂からなる層(C)のかわりにポリアミド系樹脂からなる層(A′)と積層されていてもよい。上記ポリアミド系樹脂からなる層(A′)は、必要に応じて、導電性を付与するために導電性材料を含んでいてもよい。この場合、ポリアミド系樹脂は、上記層(A)のものと同一であってもよく異なっていてもよい。
【0055】
本発明においては、フッ素樹脂からなる層(C)であって導電性材料を含まないものと、更に、導電性材料を含有する、フッ素樹脂からなる層(D)とを積層してもよい。この場合、導電性材料の配合量は、導電性を付与することができる量であればよく、上述の配合割合であってよい。上記層(D)を構成するフッ素樹脂としては上述のフッ素樹脂を使用することができ、上記層(C)と同一又は異なる種類のフッ素樹脂であってよい。
典型的には、本発明における樹脂積層体は、ポリアミド系樹脂を溶融押出ししてなる層(A)と、含フッ素エチレン性重合体を溶融押出ししてなり上記層(A)と積層されている層(B)とを有する樹脂積層体であって、上記層(A)は、アミン価が10〜60当量/10gのポリアミド系樹脂を溶融押出ししてなるものであり、上記層(B)は、カーボネート基及び/又はカルボン酸ハライド基を、主鎖炭素数1×10個に対して合計3〜1000個有し、かつ、融点が160〜270℃の含フッ素エチレン性重合体を溶融押出ししてなるものである。
【0056】
本発明の多層成形品は、上述した本発明における樹脂積層体から形成されている。
上記多層成形品は、例えば、
チューブ、ホース類:自動車燃料配管用チューブ又はホース等の燃料配管用チューブ又はホース、自動車のラジエーターホース、ブレーキホース、エアコンホース、電線被覆材、光ファイバー被覆材等
フィルム、シート類:ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン等の高度の耐薬品性が要求される摺動部材、農業用フィルム、ライニング、耐候性カバー、建築や家電分野等で使用されるラミネート鋼板等
ボトル又はタンク類:自動車のラジエータータンク、薬液ボトル、薬液タンク、バッグ、薬品容器、ガソリンタンク等
その他:キャブレターのフランジガスケット、燃料ポンプのOリング等の各種自動車用シール、化学薬品用ポンプや流量計のシール等の化学関係シール、油圧機器のシール等の各種機械関係シール等のほか、ベローズ、スペーサー類、ローラー、電子・電気部品等であってよい。
【0057】
これらのうち、好ましい態様としては、例えば、
(i)ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、導電性材料を含有していてもよい、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を内層とする少なくとも2層構造のチューブ又はホース、特に自動車燃料配管用若しくは薬液用チューブ又はホース、
(ii)ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を中間層とし、導電性材料を含んでいてもよい、フッ素樹脂からなる層(C)を内層とする少なくとも3層構造のチューブ又はホース、特に自動車燃料配管用若しくは薬液用チューブ又はホース、
(iii)ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を中間層とし、必要に応じて導電性材料を含んでいてもよい、ポリアミド系樹脂からなる層(A′)を内層とする少なくとも3層構造のチューブ又はホース、特に自動車燃料配管用チューブ又はホース、
(iv)ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を中間層とし、導電性材料を含まない、フッ素樹脂からなる層(C)を内層とし、導電性材料を含有する、フッ素樹脂からなる層(D)を最内層とする少なくとも4層構造のチューブ又はホース、特に自動車燃料配管用若しくは薬液用チューブ又はホース
等を挙げることができる。
【0058】
上記(i)、(ii)、(iii)、(iv)における態様は、燃料配管用チューブ又はホースに好適である。
なお、上記(i)、(ii)、(iv)の態様においては、耐燃料性の観点から、燃料と接する層は、特に導電性材料を配合する場合には、そのMFRが低く抑えられていることが好ましく、例えば、297℃で測定した場合100g/10分以下、好ましくは40g/10分以下であってよく、265℃で測定した場合50g/10分以下、好ましくは20g/10分以下であってよい。
また、上記(i)〜(iv)の態様において、取り付け性、衝撃吸収性等を目的としてポリアミド系樹脂からなる層(A)のみを、又は、全ての層を、蛇腹状若しくは渦巻き状等に加工してもよい。更に、例えば、コネクター等の必要な部品を付加したり、曲げ加工によりL字、U字の形状としたりできる。
【0059】
なお、本発明の多層成形品は、その最外層として保護、防汚、絶縁性、衝撃吸収性等を目的としたジャケット層を有していてもよい。上記ジャケット層は、例えば、樹脂、天然又は合成ゴム等を用いて、樹脂積層体と同時に共押出しされるか、又は、別工程で被覆して形成される。また、金属等で補強することも可能である。
【発明の効果】
【0060】
本発明は、上述の構成よりなるので、積層体の層間接着力、特に、ポリアミド系樹脂とフッ素樹脂間の接着力を飛躍的に向上させることができる。しかも、フッ素樹脂として特定の含フッ素エチレン性重合体を使用することにより、たとえ、内層にフッ素樹脂を使用しても、積層体全体の接着強度を飛躍的に改善することができる。従って、外層にポリアミド系樹脂を設けることで成形品に優れた機械特性、及び、熱や各種化学物質等の外的環境に対する高度な耐性を付与することができ、かつ、最内層にフッ素系樹脂層を設けることでフッ素樹脂の持つ耐熱性、耐油・耐薬品性、薬液低透過性を成形品に付与することができる。しかも、層間接着力を飛躍的かつ安定的に向上させることができる優れた成形品を共押出し成形で製造することができ、工業上極めて有利である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において、各種パラメーターの測定は以下のとおりに行った。
【0062】
(1)アミン価の測定
ポリアミド系樹脂1gをm−クレゾール50mlに加熱溶解し、これを1/10規定p−トルエンスルホン酸水溶液を用いて、チモールブルーを指示薬とし滴定し、ポリアミド系樹脂10gに存在するアミノ基量を求めた。
(2)酸価の測定
ポリアミド系樹脂1gをベンジルアルコール50mlに加熱溶解し、これを1/30規定水酸化ナトリウム/ベンジルアルコール溶液を用いて、フェノールフタレインを指示薬として滴定し、ポリアミド系樹脂10gに存在するカルボキシル基量を求めた。
(3)相対粘度の測定
JIS K 6810に準じて98%硫酸100mlにポリアミド系樹脂1gを溶解し、ウベローデ粘度管を用いて25℃で測定した。
(4)カーボネート基の個数の測定
得られた含フッ素エチレン性重合体の白色粉末又は溶融押出しペレットの切断片を室温にて圧縮成形し、厚さ0.05〜0.2mmの均一なフィルムを作成した。このフィルムの赤外吸収スペクトル分析によって、カーボネート基(−OC(=O)O−)のカルボニル基に由来するピークが1809cm−1(νC=O)の吸収波長に現れ、そのνC=Oピークの吸光度を測定した。下記式(1)によって主鎖炭素数10個当たりのカーボネート基の個数(N)を算出した。
N=500AW/εdf (1)
A:カーボネート基(−OC(=O)O−)のνC=Oピークの吸光度
ε:カーボネート基(−OC(=O)O−)のνC=Oピークのモル吸光度係数〔l・cm−1・mol−1〕。モデル化合物からε=170とした。
W:モノマー組成から計算される単量体の平均分子量
d:フィルムの密度〔g/cm
f:フィルムの厚さ〔mm〕
なお、赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FTIRスペクトロメーター1760X(パーキンエルマー社製)を用いて40回スキャンして行った。得られたIRスペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for Windows(登録商標) Ver. 1.4Cにて自動でベースラインを判定させ1809cm−1のピークの吸光度を測定した。また、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定した。
【0063】
(5)カルボン酸フルオライド基の個数の測定
上記(4)と同様にして得られたフィルムの赤外スペクトル分析により、カルボン酸フルオライド基(−C(=O)F)のカルボニル基に由来するピークが1880cm−1(νC=O)の吸収波長に現れ、そのνC=Oピークの吸光度を測定した。カルボン酸フルオライド基のνC=Oピークのモル吸光度係数〔l・cm−1・mol−1〕をモデル化合物によりε=600とした以外は、上記式(1)を用いて上述の(4)と同様にしてカルボン酸フルオライド基の個数を測定した。
【0064】
(6)その他のカルボニル基の個数の測定
上記(4)と同様にして得られたフィルムの赤外スペクトル分析により、カルボン酸基、エステル基、酸無水物基等のポリアミド系樹脂中のアミド基やアミノ基等の官能基と基本的に反応し得るその他のカルボニル基の個数も測定することができる。但し、これらのカルボニル基に由来するνC=Oピークのモル吸光度係数〔l・cm−1・mol−1〕はε=530とした以外は、上記式(1)を用いて上述の(4)と同様にしてその他のカルボニル基の個数を測定した。
(7)含フッ素エチレン性重合体の組成の測定
19F−NMR分析により測定した。
(8)融点(Tm)の測定
セイコー型DSC装置(セイコー電子社製)を用い、10℃/minの速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点(Tm)とした。
(9)MFR(Melt Flow Rate)の測定
メルトインデクサー(東洋精機製作所(株)社製)を用い、各種温度、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)に流出するポリマーの重量(g)を測定した。
【0065】
(10)多層チューブ内外面及びフィルムの外観
得られたチューブを半円形に切断し、チューブの内面及び外面の表面を、また、フィルムはそのままで、目視〜50倍の実体顕微鏡を用いて観察し、表面の荒れ、発泡等の発生状況を以下の基準に従って判断した。
○:外観の不具合が全く見られない
△:全表面の2%未満に何らかの不具合が発生している
×:全表面の2%以上に何らかの不具合が発生している
【0066】
(11)多層チューブの接着強度の測定
チューブから1cm幅のテストピースを切り取り、テンシロン万能試験機にて、25mm/minの速度で180°剥離試験を行い、伸び量−引っ張り強度グラフにおける極大5点平均を層間の接着強度として求めた。
(12)フィルムの接着力の評価
得られたフィルムを蒸留水に完全に浸漬して、密閉状態で加熱し、130℃で1時間保持した後に、室温まで冷却した。次に、このフィルムを60℃に制御したオーブン中で30分間保持して乾燥し、その後の外観、特に透明性を観察した。
(13)表面抵抗値の測定
SAE J2260記載の方法に準じて測定した。
【0067】
合成例1 ポリアミド系樹脂PA−A(ナイロン12)の合成
オートクレーブにω−ラウロラクタム20kg、蒸留水1kgを仕込み、窒素置換後に昇温し、280℃に到達した後にこの温度で系内を3.2MPaに5時間保ち、その後に徐々に放圧した。この間、ω−ラウロラクタムの水への溶解、溶融を待って攪拌を行った。そして、系が常圧に戻った後に、ステアリン酸100gを添加し、窒素気流下、260℃で更に5時間攪拌を続け、その後に払出し、水冷後、ペレタイザーにて白色のペレット(ポリアミド系樹脂PA−A)を得た。分析の結果、このペレットの融点は178℃、酸価は28当量/10g、アミン価は6.8当量/10g、相対粘度は3.0であった。
【0068】
合成例2 ポリアミド系樹脂PA−B(ナイロン12)の合成
ステアリン酸を添加せず窒素気流下での攪拌時間を4時間とすること以外は合成例1と同様にしてポリアミド系樹脂PA−Bを得、分析した。分析結果を表1に示した。
【0069】
合成例3 ポリアミド系樹脂PA−C(ナイロン11)の合成
オートクレーブに粉末状の11−アミノウンデカン酸20kg、蒸留水5kg、30%リン酸水溶液100gを仕込み、窒素置換後に密閉状態で昇温し、120℃で2時間保ち、その後更に昇温して系内を220℃、0.4MPaに2時間保ち、その後に徐々に放圧した。この間、11−アミノウンデカン酸の水への溶解、溶融を待って攪拌を行った。そして、系が常圧に戻った後に、ステアリン酸110gを添加し、窒素気流下、265℃で更に4時間攪拌を続け、その後に払出し、水冷後、ペレタイザーにて白色のペレット(ポリアミド系樹脂PA−C)を得た。分析の結果を表1に示した。
【0070】
合成例4 ポリアミド系樹脂PA−D(ナイロン11)の合成
ステアリン酸を添加せず窒素気流下での攪拌時間を3時間とすること以外は合成例3と同様にして、ペレット(ポリアミド系樹脂PA−D)を得た。分析の結果を表1に示した。
【0071】
合成例5 ポリアミド系樹脂PA−E(可塑剤含有ナイロン12)の合成
ポリアミド系樹脂PA−BとN−エチルトルエンスルホンアミドとを重量比95/5の割合でドライブレンドして、これを2軸押出し機(池貝鉄工所製、PCM−45)を用いて、260℃、吐出量350g/分で押出し、水冷後、ペレタイザーにて白色のペレット(ポリアミド系樹脂PA−E)を得た。
【0072】
合成例6 ポリアミド系樹脂PA−F(ナイロン6)の合成
オートクレーブにε−カプロラクタム20kg、蒸留水2kgを仕込み、窒素置換後に昇温し、120℃で保持してε−カプロラクタムの水への溶解及び融解を待って攪拌を開始し、更に220℃まで昇温し、この温度で系内を0.4MPaに5時間保った。その後、系を徐々に放圧しながら250℃まで昇温した。そして、系が常圧に戻った後に、窒素気流下、この温度で更に3時間攪拌を続け、払出し、水冷後、ペレタイザーにて白色のペレットを得た。次に、このペレットを80℃の蒸留水に12時間浸漬してモノマー等の低分子量物を抽出した。そして、ペレットを充分に乾燥し、次の操作に供した。乾燥後のペレット(ポリアミド系樹脂PA−F)の分析結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
合成例7 含フッ素エチレン性重合体F−Aの合成
オートクレーブに蒸留水380Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン75kg、ヘキサフルオロプロピレン155kg、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)0.5kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度200rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.7MPaまで圧入し、更に引き続いてエチレンを1.0MPaまで圧入し、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート2.4kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン=40.5/44.5/15.0モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を1.0MPaに保った。そして、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)についても合計量1.5kgを連続して仕込み、20時間、攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して200kgの粉末(含フッ素エチレン性重合体F−A)を得た。このものの分析結果を表2に示した。
【0075】
合成例8〜9及び15 含フッ素エチレン性重合体F−B〜F−C及びF−Kの合成
合成例7と同様にして、表2に示した配合で含フッ素エチレン性重合体F−B〜F−C及びF−Kをそれぞれ得た。これらの分析結果を表2に示した。
【0076】
合成例10 含フッ素エチレン性重合体F−D
オートクレーブに蒸留水400Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン320kg、ヘキサフルオロプロピレン80kg、テトラフルオロエチレン19kg、フッ化ビニリデン6kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度180rpmに保った。その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート5kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン=50/40/10モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を一定に保った。30時間、攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して200kgの粉末(含フッ素エチレン性重合体F−D)を得た。このものの分析結果を表2に示した。
【0077】
合成例11 含フッ素エチレン性重合体F−Eの合成
オートクレーブに蒸留水400Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン75kg、ヘキサフルオロプロピレン190kg、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)1.5kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度200rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.7MPaまで圧入し、更に引き続いてエチレンを1.0MPaまで圧入し、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート2.6kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン=40.5/42.5/17.0モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を1.0MPaに保って30時間攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して172kgの粉末を得た。次に、得られた粉末を単軸押出し機(田辺プラクティス機械社製、VS50−24)を用いてシリンダ温度320℃で押出してペレット(含フッ素エチレン性重合体F−E)を得た。このものの分析結果を表2に示した。
【0078】
合成例12 含フッ素エチレン性重合体F−Fの合成
合成例9で得られた含フッ素エチレン性重合体F−Cの粉末に導電性材料(アセチレンブラック)を重量比90/10の割合でドライブレンドし、これを2軸押出し機(池貝鉄工所製、PCM−45)を用いてシリンダ温度250℃で溶融混練した。得られたペレット(含フッ素エチレン性重合体F−F)の分析結果を表2に示した。
【0079】
合成例13 含フッ素エチレン性重合体F−Gの合成
合成例8で得られた含フッ素エチレン性重合体F−Bと導電性材料(アセチレンブラック)を重量比85/15の割合でドライブレンドし、シリンダ温度245℃とする以外は合成例12と同様にして溶融混練した。得られたペレット(含フッ素エチレン性重合体F−G)の分析結果を表2に示した。
【0080】
合成例14 含フッ素エチレン性重合体F−Hの合成
合成例8で得られた含フッ素エチレン性重合体F−Bの粉末9.5kg、28%アンモニア水700g及び蒸留水10Lをオートクレーブに仕込み、攪拌しながら系を加熱し、80℃に保って7時間攪拌を継続した。そして、内容物を水洗、乾燥処理して粉末9.2kgを得た。このような処理を施すことによって、該樹脂中に含有されている活性な官能基(カーボネート基とカルボン酸フルオライド基)を化学的にも熱的にも安定なアミド基に変換した。なお、この変換が定量的に進んだことは赤外スペクトル分析により確認した。処理後の樹脂の分析結果を表2に示した。また、合成例7〜13及び15に示した含フッ素エチレン性重合体(F−A〜F−G及びF−K)には、カーボネート基、カルボン酸フルオライド基以外のいかなるカルボニル基も認められなかった。なお、表2中、TFEはテトラフルオロエチレンを、Etはエチレンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VdFはフッ化ビニリデンを、HF−Paはパーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)を、それぞれ表す。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例1
マルチマニホールドダイを装着した3種3層のチューブ押出し装置を用いて、チューブの外層がポリアミド系樹脂PA−B、中間層が含フッ素エチレン性重合体F−A、内層が含フッ素エチレン性重合体F−Jとなるよう、中間層及び内層用の押出し機に含フッ素エチレン性重合体F−AとF−Jとを供給して外径8mm、内径6mmのチューブを連続して成形した。成形条件及び得られたチューブの評価結果を表3に示した。
【0083】
実施例2〜14及び比較例1〜6
表1及び表2に示した樹脂及び成形条件を用いたこと以外は実施例1と同様にして多層チューブを成形した。成形条件及び得られたチューブの評価結果を表3(実施例1〜14)及び表4(比較例1〜6)に示した。更に、実施例9については、得られたチューブを160℃で1時間熱処理した後、改めて接着強度を測定した結果、接着強度が35.1N/cmから37.6N/cmに向上した。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
比較例1〜6については、使用したポリアミド系樹脂のアミン価が低いため、これと含フッ素エチレン性重合体から形成される層との層間接着力が充分ではなかった。なお、表中、含フッ素エチレン性重合体F−Iは市販のETFE(ダイキン工業株式会社製ネオフロン(登録商標)ETFE EP−610)であり、F−Jは市販の導電性ETFE(ダイキン工業株式会社製ネオフロン(登録商標)ETFE EP−610AS)である。
【0087】
実施例15〜18及び比較例7〜8
マルチマニホールドダイを装着した2種2層、又は、4種4層のチューブ押出し装置を用いて外径8mm、内径6mmの多層チューブを成形した。成形条件及び得られたチューブの評価結果を表5に示した。このうち、比較例7〜8については、使用した含フッ素エチレン性重合体がアミド基以外のカルボニル基を有さないために、これとポリアミド系樹脂から形成される層との層間接着力が充分ではなかった。また、比較例8で各層の成形温度を上げてみたが、発泡等による外観不良を起こし、層間の接着力は却って低下した。
【0088】
【表5】

【0089】
実施例19〜21及び比較例9〜12
ポリアミド系樹脂及び含フッ素エチレン性重合体からそれぞれ形成される層の層間接着力の程度を更に詳細に調べるために、以下のような多層フィルムを成形し、その評価を行った。すなわち、フィードブロックタイプのコートハンガー型Tダイ(リップ間隙800μm、幅450mm)を装着した2種2層の押出し装置を用いて多層フィルムを押出しした。そして、これを20℃に制御されたキャスティングロールに密着させて冷却し、その後にフィルムの両端を固定して150℃の熱風で熱固定を行い、厚み100μmの多層フィルムを連続して巻き取った。成形条件及び得られたフィルムの評価結果を表6に示した。このうち、比較例9〜12は、層間接着力が充分でないことから、ポリアミド系樹脂層を通して進入した水蒸気が乾燥後にも層間に留まり、いずれの場合も白化を引き起こした。なお、これらの白化したフィルムは、いずれも手で容易に剥離することができ、剥離後に同様な乾燥処理を施すと透明に戻った。
【0090】
【表6】

【0091】
実施例22〜23及び比較例13 多層ブロー円筒の成形
ダイ径12mm、コア径8.5mmのダイを備えた2種2層の多層ブロー装置を用い、直径40mm、高さ300mmの円筒状の成形品を得た。成形条件及び得られた成形品の評価結果を表7に示した。なお、接着強度は、円筒側面長手方向で測定した。
【0092】
【表7】

【0093】
上述した実施例及び比較例から、本発明におけるポリアミド系樹脂からなる層(A)と含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を有する樹脂積層体は、外観の不具合もなく、しかも、層間の接着強度が飛躍的に向上していることが判った。しかし、カルボニル基としてはアミド基のみを有する含フッ素エチレン性重合体を使用した場合は、接着強度が極めて悪く、殆ど実用性を欠くことが明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、上述の構成よりなるので、積層体の層間接着力、特に、ポリアミド系樹脂とフッ素樹脂間の接着力を飛躍的に向上させることができる。しかも、フッ素樹脂として特定の含フッ素エチレン性重合体を使用することにより、たとえ、内層にフッ素樹脂を使用しても、積層体全体の接着強度を飛躍的に改善することができる。従って、外層にポリアミド系樹脂を設けることで成形品に優れた機械特性、及び、熱や各種化学物質等の外的環境に対する高度な耐性を付与することができ、かつ、最内層にフッ素系樹脂層を設けることでフッ素樹脂の持つ耐熱性、耐油・耐薬品性、薬液低透過性を成形品に付与することができる。しかも、層間接着力を飛躍的かつ安定的に向上させることができる優れた成形品を共押出し成形で製造することができ、工業上極めて有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂積層体から形成されている多層成形品であって、
前記樹脂積層体は、ポリアミド系樹脂からなる層(A)と、前記層(A)と積層されている含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)とを有するものであり、
前記ポリアミド系樹脂は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン66/12、ナイロン6/ポリエステル共重合体、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、ナイロン12/ポリエステル共重合体及びナイロン12/ポリエーテル共重合体、並びに、これらのブレンド物からなる群から選択された少なくとも1種であり、アミン価が23〜60当量/10g、酸価が40当量/10g以下のものであり、
前記含フッ素エチレン性重合体は、ポリマー鎖末端又は側鎖に、カーボネート基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸基、エステル基又は酸無水物基を有する含フッ素エチレン性重合体であり、
前記多層成形品は、燃料配管用チューブ又はホースである
ことを特徴とする多層成形品。
【請求項2】
ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を内層とする少なくとも2層構造である請求項1記載の多層成形品。
【請求項3】
ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を中間層とし、導電性材料を含んでいてもよい、フッ素樹脂からなる層(C)を内層とする少なくとも3層構造である請求項1記載の多層成形品。
【請求項4】
ポリアミド系樹脂からなる層(A)を外層とし、含フッ素エチレン性重合体からなる層(B)を中間層とし、導電性材料を含まない、フッ素樹脂からなる層(C)を内層とし、導電性材料を含有する、フッ素樹脂からなる層(D)を最内層とする少なくとも4層構造である請求項1記載の多層成形品。
【請求項5】
自動車燃料配管用である請求項1〜4の何れか1項に記載の多層成形品。
【請求項6】
層(A)と層(B)との層間初期接着力は、25.1N/cm以上である請求項1〜5の何れか1項に記載の多層成形品。

【公開番号】特開2011−42173(P2011−42173A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215625(P2010−215625)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2006−145462(P2006−145462)の分割
【原出願日】平成13年2月13日(2001.2.13)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】