説明

多板クラッチ装置及びクラッチディスク組立体

【課題】 高負荷用に強化された多板クラッチ装置の操作性及び静粛性を向上させるとともに、摩擦プレート取付部周辺の構造を簡単にする。
【解決手段】 摩擦連結部40は、ダンパー機構30の外周側に連結されたリング部材44と、リング部材44の外周側に配置されリング部材44に対して相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合した複数の第1摩擦プレート41と、複数の第1摩擦プレート同士の間に配置され、クラッチカバー組立体5に対して相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合した第2摩擦プレート42とを有している。複数の第1摩擦プレートは、少なくとも1つがカーボンコンポジット材で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多板クラッチ装置及びクラッチディスク組立体、特に、高負荷用に強化された多板クラッチ装置及びクラッチディスク組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レース用自動車などに使用される多板クラッチ装置は、高負荷での使用や耐久性を重視して設計されている。この種の多板クラッチ装置は、エンジン側のフライホイールに近接して配置されたクラッチディスク組立体と、フライホイールに固定され、クラッチディスク組立体をフライホイールへ押圧するためのプレッシャープレートを有するクラッチカバー組立体とを備えている。さらにクラッチディスク組立体は、外周側に環状の摩擦連結部を備えており、摩擦連結部は複数の第1摩擦プレートと、複数の第1摩擦プレート同士の間に配置された第2摩擦プレートとを有している。第1及び第2摩擦プレートがフライホイールとプレッシャープレートとの間に狭持されると、クラッチディスク組立体を介してトランスミッション入力シャフトへトルクが直接伝達される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
クラッチ装置のトルク伝達容量は、プレッシャープレートへの付勢力、摩擦プレートの径(クラッチの有効半径)、摩擦プレートの材質(摩擦係数)、及び摩擦面の数により決定される。例えば、付勢力や摩擦係数を大きくしたり摩擦面の数を増やしたりすることで、摩擦抵抗が大きくなりトルク伝達容量も大きくなる。また、クラッチの有効半径を大きくすることで、トルク伝達容量が大きくなる。しかし、付勢力、クラッチの有効半径、及び摩擦面の数については構造上制限があるため、これらの要素でトルク伝達容量を大きくするには限界がある。一方、摩擦プレートの材質を変更することで摩擦係数は高くすることができ、また軽量化や耐熱性を考慮した材質にすることで操作性や耐久性の向上等の効果も期待できるため、従来から様々な材質の摩擦プレートが開発されている。
【0004】
レース用自動車等の多板クラッチ装置の摩擦プレートの材質としては、例えば炭素を主成分とする複合材料(カーボンコンポジット材)が知られている。カーボンコンポジット材により構成される摩擦プレートは、一般的にカーボン製摩擦プレートと称されることもある。カーボンコンポジット材の特徴は、まず、従来の摩擦材(例えば、金属繊維を含む摩擦材)に比べて摩擦係数の大きいものがある。そのため、高摩擦係数のカーボンコンポジット材を採用した場合、摩擦面で発生する摩擦抵抗が大きくなり、トルク伝達容量も従来の摩擦材に比べて大きくなる。次に、カーボンコンポジット材は、従来の摩擦材に比べて重量が軽く、回転運動により発生する慣性力が小さくなるため、シフトチェンジの際に回転数の同期をとりやすくなりシフトチェンジ時の操作性が向上する。さらに、カーボンコンポジット材は、従来の摩擦材に比べて耐熱性が高く変形が少ないため、耐久性も向上する。このように、摩擦材としてカーボンコンポジット材を採用することで、レース用多板クラッチ装置は高負荷での使用が可能となり耐久性も向上する。
【特許文献1】特開2003−90355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなレース用自動車の多板クラッチ装置は、高負荷用に強化することを重視している反面、クラッチ連結及び解除時の操作性や静粛性は考慮されていない。例えば、摩擦プレートの摩擦係数が高い場合は、クラッチ連結時にトルクが急激に伝達されるため、半クラッチ状態のペダルストロークの幅が極めて狭くなったり、あるいはトランスミッションの寿命を短くする。また、エンジンの回転変動がトランスミッションやディファレンシャルへ直接伝達されるため、いわゆる歯打ち音が発生する。
【0006】
また、歯打ち音は、クラッチディスク組立体からも発生する場合がある。具体的には、クラッチディスク組立体は、フライホイールに固定される第1筒状部と、第1筒状部の内周側に配置された第2筒状部を有しシャフトに連結されるハブフランジと、第1筒状部及び第2筒状部にそれぞれ係合する摩擦プレートとしてのドライブプレート及びドリブンプレートとから構成される。このクラッチディスク組立体は、摩擦プレートと出力側の部材とが歯車の噛み合いによって結合されており、摩擦プレートが軸方向に移動可能となっている(例えば、特許文献1参照)。この摩擦プレートと出力側の部材とが歯車の噛み合いによって結合されているので、エンジンの回転変動により、この部分での歯打ち音も生じる。また、このような構造を有するクラッチディスク組立体は、摩擦プレートの軸方向の移動を規制するための機構が必要になり、摩擦プレートの取付部周辺の構造が複雑になる。
【0007】
以上に述べたように、レース用多板クラッチ装置は、操作性、静粛性(振動吸収性)において欠点を有している。しかし、これらの欠点は、レース用多板クラッチ装置として問題とならない。なぜなら、レース用多板クラッチ装置を操作するレースドライバーは一般ドライバーに比べて操作技術のレベルが高く、またレース場では歯打ち音等の騒音を低減させる必要性に乏しいためである。また、構造の複雑化も、レース用として高負荷に対応していれば特に問題とならない。
【0008】
一方、乗用自動車のクラッチ装置として、レース用多板クラッチ装置のように高負荷用に強化されたものを望む声も少なくない。高負荷仕様のクラッチ装置は、トルク伝達容量が大きくなるため高出力のエンジンにも対応可能となり、様々な場面で従来の乗用自動車用クラッチ装置に比べて高い性能を発揮し得る。また、高負荷仕様のクラッチ装置は、高耐久性であるため部品の取り替え周期も長くなり、メンテナンス費用を低減することができる。また、複雑であった構造が簡単になれば、クラッチ装置のコストダウンが図れ、レース用だけでなく乗用自動車用としても採用しやすくなる。
【0009】
以上のように、高負荷用に強化された多板クラッチ装置は、乗用自動車に搭載するメリットが大きいため、乗用自動車用に操作性、静粛性、及び振動吸収性を改善することが求められている。また、摩擦プレートの取付部周辺の構造を簡単にすることも求められている。
【0010】
本発明の課題は、高負荷用に強化された多板クラッチ装置の操作性及び静粛性を向上させることにある。
本発明の別の課題は、摩擦プレート取付部周辺の構造を簡単にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の多板クラッチ装置は、エンジン側の入力回転体からの動力を出力回転体に伝達及び遮断するためのもので、出力回転体に連結され入力回転体に近接して配置されたクラッチディスク組立体と、入力回転体に連結されクラッチディスク組立体を入力回転体へ押圧するためのプレッシャープレートを有するクラッチカバー組立体とを備えている。クラッチディスク組立体は、出力回転体に連結されたハブと、ハブの外周側に配置され、入力回転体とプレッシャープレートとに狭持されるための摩擦連結部と、ハブと摩擦連結部とを回転方向に弾性的に連結するダンパー機構とを備えている。摩擦連結部は、ダンパー機構の外周側に連結されたリング部材と、リング部材の外周側に配置され、リング部材に対して相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合した複数の第1摩擦プレートと、複数の摩擦プレート同士の間に配置され、クラッチカバー組立体に対して相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合した第2摩擦プレートとを有している。クラッチカバー組立体は、プレッシャープレートを付勢するための第1付勢部材と、入力回転体と出力回転体との間において動力伝達に必要な第1摩擦プレートへの押圧荷重よりも小さい弾性反力を有する第2付勢部材とをさらに有している。複数の第1摩擦プレートは、少なくとも1つがカーボンコンポジット材で構成されている。
【0012】
この装置では、クラッチディスク組立体がダンパー機構を備えているため、第1摩擦プレートとして摩擦係数の高いカーボンコンポジット材を採用しても、クラッチ連結時の衝撃及び歯打ち音等の騒音を吸収することができる。したがって、この多板クラッチ装置では、高負荷用に強化しつつ操作性及び静粛性を向上させることができる。
【0013】
また、多板クラッチ装置は、特にレース用として用いた場合は、第1摩擦プレート等の摩擦部材の温度を高くして摩擦係数を高めるために、例えば半クラッチ状態を保持することがある。しかし、これにより摩擦部材だけでなく周辺の部材の温度も摩擦熱により上昇する。周辺部材は、温度上昇により軸方向に熱膨張するため、相対的に第1付勢部材の付勢力が増加する。その結果、クラッチペダルの踏み込み量を一定に保持しているにもかかわらず、クラッチトルクが急激に立ち上がるという現象が生じる。これにより、クラッチトルクがブレーキの抑えを超え、ドライバーの意に反して車両が発進したり、ブレーキにより車両が発進しない場合には、第1及び第2摩擦プレート等に過度の負荷がかかり異常摩耗等するという問題が発生する。
【0014】
この装置では、動力伝達に必要な第1摩擦プレートへの押圧荷重よりも小さい弾性反力を有する第2付勢部材を有しているため、半クラッチ状態のときに周辺部材が摩擦熱により軸方向に熱膨張しても、第2付勢部材が熱膨張による変形を吸収することができる。これにより、この装置では、半クラッチを保持しても、クラッチトルクが急激に立ち上がることはなく、ドライバーの意に反する車両の発進を防止することや第1及び第2摩擦プレート等の異常摩耗を抑えることができる。
【0015】
請求項2に記載の多板クラッチ装置は、請求項1において、第2付勢部材が第1付勢部材とプレッシャープレートとの間に配置されている。
この装置では、第2付勢部材が第1付勢部材とプレッシャープレートとの間に配置されているため、例えば半クラッチ状態のときにプレッシャープレートが摩擦熱により軸方向に熱膨張しても、第2付勢部材が熱膨張による変形を吸収することができる。これにより、この装置では、半クラッチを保持しても、クラッチトルクが急激に立ち上がることはなく、ドライバーの意に反する車両の発進を防止することや第1及び第2摩擦プレート等の異常摩耗を抑えることができる。
【0016】
請求項3に記載の多板クラッチ装置は、請求項1または2において、入力回転体とプレッシャープレートと第2摩擦プレートとは、少なくともいずれか1つは主成分が鉄系の材料から構成されている。
【0017】
この装置では、第1摩擦プレートと摩擦係合する部材の少なくともいずれか1つが鉄系の材料から構成されるため、カーボンコンポジット材と鉄系のスチール材とが摩擦係合することとなる。前述のように、カーボンコンポジット材と鉄系のスチール材との摩擦係数は、温度によって変化する。具体的には、カーボンコンポジット材と鉄系のスチール材とを摺動させた場合、摩擦面の温度が高くなると摩擦係数も高くなり、摩擦面の温度が低くなると摩擦係数も低くなる。これにより、この装置では、様々なクラッチ特性を得ることができる。また、この装置では、従来の摩擦材に比べて大きい摩擦係数を得られるため、高負荷にも対応可能である。
【0018】
請求項4に記載の多板クラッチ装置は、請求項1から3のいずれかにおいて、第1付勢部材に係合し、第1付勢部材を軸方向に弾性変形させるレリーズ装置をさらに備えている。レリーズ装置は、軸方向入力回転体側へ移動することで、第1付勢部材のプレッシャープレートに対する付勢力を解除する。
【0019】
この装置は、レリーズ装置が軸方向入力回転体側へ移動することで、付勢力を解除、すなわちクラッチ連結を解除する。これにより、この装置では、いわゆるプッシュタイプの多板クラッチ装置に採用可能となる。
【0020】
請求項5に記載の多板クラッチ装置は、請求項1から3のいずれかにおいて、第1付勢部材に係合し、第1付勢部材を軸方向に弾性変形させるレリーズ装置をさらに備えている。レリーズ装置は、軸方向入力回転体側と反対側へ移動することで、第1付勢部材のプレッシャープレートに対する付勢力を解除する。
【0021】
この装置は、レリーズ装置が軸方向入力回転体側と反対側へ移動することで、付勢力を解除、すなわちクラッチ連結を解除する。これにより、この装置では、いわゆるプルタイプの多板クラッチ装置に採用可能となる。
【0022】
請求項6に記載の多板クラッチ装置は、請求項1から5のいずれかにおいて、ハブが全周にわたり半径方向外方へ突出したフランジ部と、フランジ部の一部が切り欠かれ形成された複数の収容部を有している。ダンパー機構は、収容部に収容された複数の弾性部材と、フランジ部を軸方向に挟み込んだ状態でフランジ部に対して相対回転可能に配置され、弾性部材と対応する位置に窓孔部が設けられた一対の連結プレートとを有している。少なくともいずれか一方の連結プレートとフランジ部との間には、両部材間に作用する軸方向荷重を受けるための環状の摩擦部材を有する。
【0023】
この装置では、ダンパー機構が以上のような構造を備えているため、弾性部材の剛性、数量、及び配置を変更することで、様々な捩り剛性のダンパー機構を得ることができる。したがって、摩擦材としてカーボンコンポジット材を採用した場合でも、衝撃及び騒音の吸収が可能となり、より確実に操作性及び静粛性を向上させることができる。
【0024】
また、この装置では、連結プレートとフランジ部との間に摩擦部材を有しているため、両部材間に軸方向荷重が作用しても、両部材の軸方向の隙間を一定に保つことができ、両部材が接触するのを防止することができる。また、摩擦部材を有しているため、連結プレートとフランジ部とが相対回転する際に、両部材間にヒステリシストルクが発生するため、捩り振動をより効果的に吸収することができる。
【0025】
請求項7に記載の多板クラッチ装置は、請求項6において、少なくともいずれか一方の連結プレートとフランジ部との間には、両部材間に軸方向の付勢力を与えるための環状の第3付勢部材を有する。
【0026】
この装置では、連結プレートとフランジ部との間に第3付勢部材を有しているため、両部材の軸方向の相対位置が安定する。また、この装置では、摩擦部材に対してフランジ部を軸方向へ付勢することができるため、両部材間の軸方向の相対位置がより安定する。また、第3付勢部材を有しているため、摩擦部材によりヒステリシストルクを確実に発生させることができ、第3付勢部材の付勢力の設定によりヒステリシストルクを調整することができる。
【0027】
請求項8に記載の多板クラッチ装置は、請求項7において、第3付勢部材が軸方向へ弾性変形可能な皿ばねにより構成される。
この装置では、第3付勢部材が皿ばねにより構成されるため、軸方向の隙間寸法を短縮しつつ、所望の付勢力を確保することができる。
【0028】
請求項9に記載の多板クラッチ装置は、請求項7において、第3付勢部材が軸方向へ弾性変形可能なウェーブスプリングにより構成される。
この装置では、第3付勢部材が皿ばねにより構成されるため、軸方向の隙間寸法を短縮しつつ、所望の付勢力を確保することができる。
【0029】
請求項10に記載のクラッチディスク組立体は、エンジン側のフライホイールからの動力をトランスミッションのインプットシャフトに伝達及び遮断するためのものであって、カーボンコンポジット製摩擦プレートと、クラッチディスク本体と、複数の固定具とを備えている。カーボンコンポジット製摩擦プレートはフライホイールに押圧される。クラッチディスク本体は、外周に摩擦プレートの内周部が連結される円板状入力部と、トランスミッションのインプットシャフトに連結される出力部とを有している。複数の固定具は、円板状入力部の外周部と摩擦プレートの内周部とを直接的に連結する。摩擦プレートは、固定具が挿入される切欠きを有している。固定具は、第1固定具と、第2固定具とから構成される。第1固定具は、摩擦プレートの切欠きに挿入される胴部を有している。第2固定具は、第1固定具を軸方向に貫通する軸部と、軸部の一端部に形成され摩擦プレートと軸方向に係合するつば部と、軸部の他端部に形成され円板状入力部と軸方向に係合する固定部とを有している。
【0030】
この装置では、エンジン側の動力はカーボンコンポジット製摩擦プレート及びクラッチディスク本体を介してトランスミッションに伝達される。このとき、カーボンコンポジット製摩擦プレートとクラッチディスク本体の円板状入力部とが固定具によって直接的に連結されているので、摩擦プレートの軸方向の移動を規制する機構が簡素化され、摩擦プレートの取付部周辺の構造が簡単になる。また、歯車の噛み合いによる連結を用いていないので、従来装置における摩擦プレートとクラッチディスク本体の結合部における歯打ち音がなくなる。
【0031】
また、この装置では、第1固定具が胴部を有していることにより、胴部の長さをコントロールすることによって摩擦プレートとクラッチディスク本体との結合関係を調整できる。すなわち、第1固定具の胴部の長さと摩擦プレートの厚みとを等しくすることにより、摩擦プレートとクラッチディスク本体との固定が、互いに移動不能な完全固定となり、また、胴部の長さを摩擦プレートの厚みよりも長くすることによって、両者の固定が、軸方向に自由度を持った固定となる。また、第1固定具の胴部が摩擦プレートの切欠きに挿入されているため、第2固定具の軸部、つば部、及び固定部により円板状入力部に対する摩擦プレートの相対回転を規制することができる。さらに、第2固定部がつば部及び固定部を有しているため、円板状入力部と摩擦プレートとの軸方向の相対移動を規制することができる。
【0032】
請求項11に記載のクラッチディスク組立体は、エンジン側のフライホイールからの動力をトランスミッションのインプットシャフトに伝達及び遮断するためのものであって、カーボンコンポジット製摩擦プレートと、クラッチディスク本体と、複数の固定具とを備えている。カーボンコンポジット製摩擦プレートはフライホイールに押圧される。クラッチディスク本体は、外周に摩擦プレートの内周部が連結される円板状入力部と、トランスミッションのインプットシャフトに連結される出力部とを有している。複数の固定具は、円板状入力部の外周部と摩擦プレートの内周部とを直接的に連結する。摩擦プレートは、円板状入力部の外周部を挟み込むよう軸方向に2枚配置されており、固定具が挿入される切欠きを有している。固定具は、第1固定具と、第2固定具とから構成される。第1固定具は、摩擦プレートの切欠きに挿入される胴部を有している。第2固定具は、第1固定具及び円板状入力部を軸方向に貫通する軸部と、軸部の一端部に形成され一方の摩擦プレートと軸方向に係合するつば部と、軸部の他端部に形成され他方の摩擦プレートと軸方向に係合する固定部とを有している。
【0033】
この装置では、エンジン側の動力はカーボンコンポジット製摩擦プレート及びクラッチディスク本体を介してトランスミッションに伝達される。このとき、カーボンコンポジット製摩擦プレートとクラッチディスク本体の円板状入力部とが固定具によって直接的に連結されているので、摩擦プレートの軸方向の移動を規制する機構が簡素化され、摩擦プレートの取付部周辺の構造が簡単になる。また、歯車の噛み合いによる連結を用いていないので、従来装置における摩擦プレートとクラッチディスク本体の結合部における歯打ち音がなくなる。
【0034】
また、この装置では、第1固定具が胴部を有していることにより、胴部の長さをコントロールすることによって2枚の摩擦プレートとクラッチディスク本体との結合関係を調整できる。すなわち、第1固定具の胴部の長さと摩擦プレートの厚みとを等しくすることにより、摩擦プレートとクラッチディスク本体との固定が、互いに移動不能な完全固定となり、また、胴部の長さを摩擦プレートの厚みよりも長くすることによって、両者の固定が、軸方向に自由度を持った固定となる。また、第1固定具の胴部が摩擦プレートの切欠きに挿入されているため、軸部、つば部、及び固定部により円板状入力部に対する摩擦プレートの相対回転を規制することができる。さらに、第2固定具が軸部、つば部、及び固定部を有しているため、円板状入力部と2枚の摩擦プレートとの軸方向の相対移動を規制することができる。
【0035】
請求項12に記載のクラッチディスク組立体は、請求項10または11において、第2固定具はリベットであり、固定部はかしめ固定されている。
この場合、第2固定具がリベットであるため、第1及び第2固定具の取付が容易となる。
【0036】
請求項13に記載のクラッチディスク組立体は、エンジン側のフライホイールからの動力をトランスミッションのインプットシャフトに伝達及び遮断するためのものであって、カーボンコンポジット製摩擦プレートと、クラッチディスク本体と、複数の固定具とを備えている。カーボンコンポジット製摩擦プレートはフライホイールに押圧される。クラッチディスク本体は、外周に摩擦プレートの内周部が連結される円板状入力部と、トランスミッションのインプットシャフトに連結される出力部とを有している。複数の固定具は、円板状入力部の外周部と摩擦プレートの内周部とを直接的に連結する。摩擦プレートは、固定具が挿入される切欠きを有している。固定具は、第1固定具と、第2固定具とから構成される。第1固定具は、摩擦プレートの切欠きに挿入され摩擦プレートの厚みに対応した厚みを有し端面の一部が円板状入力部の側面に当接する胴部と、円板状入力部に固定される固定部とを有している。第2固定具は、摩擦プレートと軸方向に係合するつば部と、つば部と第1固定具とを連結する連結部とを有している。
【0037】
この装置では、エンジン側の動力はカーボンコンポジット製摩擦プレート及びクラッチディスク本体を介してトランスミッションに伝達される。このとき、カーボンコンポジット製摩擦プレートとクラッチディスク本体の円板状入力部とが固定具によって直接的に連結されているので、摩擦プレートの軸方向の移動を規制する機構が簡素化され、摩擦プレートの取付部周辺の構造が簡単になる。また、歯車の噛み合いによる連結を用いていないので、従来装置における摩擦プレートとクラッチディスク本体の結合部における歯打ち音がなくなる。
【0038】
また、この装置では、第1固定具が胴部を有していることにより、胴部の長さをコントロールすることによって摩擦プレートとクラッチディスク本体との結合関係を調整できる。すなわち、第1固定具の胴部の長さと摩擦プレートの厚みとを等しくすることにより、摩擦プレートとクラッチディスク本体との固定が、互いに移動不能な完全固定となり、また、胴部の長さを摩擦プレートの厚みよりも長くすることによって、両者の固定が、軸方向に自由度を持った固定となる。また、第1固定具の胴部が摩擦プレートの切欠きに挿入されているため、軸部、つば部、及び固定部により円板状入力部に対する摩擦プレートの相対回転を規制することができる。さらに、第1固定具が固定部を、第2固定具がつば部及び連結部をそれぞれ有しているため、円板状入力部と摩擦プレートとの軸方向の相対移動を規制することができる。
【0039】
請求項14に記載のクラッチディスク組立体は、エンジン側のフライホイールからの動力をトランスミッションのインプットシャフトに伝達及び遮断するためのものであって、カーボンコンポジット製摩擦プレートと、クラッチディスク本体と、複数の固定具とを備えている。カーボンコンポジット製摩擦プレートはフライホイールに押圧される。クラッチディスク本体は、外周に摩擦プレートの内周部が連結される円板状入力部と、トランスミッションのインプットシャフトに連結される出力部とを有している。複数の固定具は、円板状入力部の外周部と摩擦プレートの内周部とを直接的に連結する。摩擦プレートは、固定具が挿入される切欠きを有している。固定具は、第1固定具と、第2固定具とから構成される。第1固定具は、摩擦プレートの切欠きに挿入される胴部を有している。第2固定具は、摩擦プレートと軸方向に係合するつば部と、第1固定具を軸方向に貫通するとともにつば部と第1固定具とを連結する連結部と、連結部のつば部と逆側の端部に形成され第1固定具と円板状入力部とを連結する固定部とを有している。
【0040】
この装置では、エンジン側の動力はカーボンコンポジット製摩擦プレート及びクラッチディスク本体を介してトランスミッションに伝達される。このとき、カーボンコンポジット製摩擦プレートとクラッチディスク本体の円板状入力部とが固定具によって直接的に連結されているので、摩擦プレートの軸方向の移動を規制する機構が簡素化され、摩擦プレートの取付部周辺の構造が簡単になる。また、歯車の噛み合いによる連結を用いていないので、従来装置における摩擦プレートとクラッチディスク本体の結合部における歯打ち音がなくなる。
【0041】
また、この装置では、第1固定具が胴部を有していることにより、胴部の長さをコントロールすることによって摩擦プレートとクラッチディスク本体との結合関係を調整できる。すなわち、第1固定具の胴部の長さと摩擦プレートの厚みとを等しくすることにより、摩擦プレートとクラッチディスク本体との固定が、互いに移動不能な完全固定となり、また、胴部の長さを摩擦プレートの厚みよりも長くすることによって、両者の固定が、軸方向に自由度を持った固定となる。また、第1固定具の胴部が摩擦プレートの切欠きに挿入されているため、つば部、連結部、及び固定部により円板状入力部に対する摩擦プレートの相対回転を規制することができる。さらに、第1及び第2固定具により、円板状入力部と摩擦プレートとの軸方向の相対移動を規制することができる。
【0042】
請求項15に記載のクラッチディスク組立体は、請求項10から14のいずれかにおいて、固定具が摩擦プレートとつば部及び固定部の少なくとも一方との間に挟み込まれるよう配置された環状部材をさらに有している。
【0043】
この装置では、固定具が環状部材を有しているため、つば部の外径が切欠きの円周方向の幅に比べて小さい場合でも、円板状入力部に対する摩擦プレートの軸方向の相対移動を確実に規制することができる。
【0044】
請求項16に記載のクラッチディスク組立体は、請求項15において、環状部材の外径が摩擦プレートの切欠きの円周方向の幅よりも大きい。
この装置では、環状部材の外径が切欠きの円周方向の幅よりも大きいため、円板状入力部に対する摩擦プレートの軸方向の相対移動をより確実に規制することができる。
【0045】
請求項17に記載のクラッチディスク組立体は、請求項10から16のいずれかにおいて、複数の固定具を連結するための環状の連結部材をさらに有している。連結部材は、摩擦プレートとつば部との間に挟み込まれるよう配置されている。
【0046】
この装置では、連結部材により固定具が連結されているため、複数の固定具の相対位置が安定する。また、連結部材が摩擦プレートとつば部との間に挟み込まれているため、円板状入力部に対する摩擦プレートの軸方向の相対移動を確実に規制することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る多板クラッチ装置では、高負荷用に強化された多板クラッチ装置の操作性及び静粛性を向上させることができる。
本発明に係るクラッチディスク組立体では、摩擦プレート取付部周辺の構造を簡単にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
A.第1実施形態
1.多板クラッチ装置の構造
図1に本発明の一実施形態としての多板クラッチ装置の縦断面図、図2にクラッチディスク組立体の横断面図を示す。本実施形態では、プルタイプの乾式多板クラッチ装置について記載する。多板クラッチ装置1は、エンジンのクランクシャフト2に連結されたフライホイール3(入力回転体)からの動力をトランスミッション入力シャフト4(出力回転体)に伝達及び遮断するためのもので、フライホイール3とトランスミッション入力シャフト4との間に配置されている。図1において、O−Oはフライホイール3、トランスミッション入力シャフト4、及び多板クラッチ装置1の回転軸線を示す。
【0049】
多板クラッチ装置1は、主にクラッチカバー組立体5と、クラッチディスク組立体6とから構成される。クラッチカバー組立体5は、カバー部材11と、クラッチカバー10と、ダイヤフラムスプリング12と、プレッシャープレート7とから構成される。カバー部材11は、フライホイール3とクラッチカバー10とを連結するための部材であり、フライホイール3の外周側に複数配置されている。カバー部材11は、ボルト部11aを有しており、ナット11bによりフライホイール3に取り付けられている。カバー部材11は、後述する第2摩擦プレート42の切欠部42aと係合している。クラッチカバー10は環状の部材であり、カバー部材11にボルト11cにより取り付けられている。つまり、フライホイール3とクラッチカバー10とは、カバー部材11を介して相対回転不能に固定されている。
【0050】
ダイヤフラムスプリング12は、プレッシャープレート7を軸方向へ付勢するためのもので、弾性環状部12aと、レバー部12bとを有している。弾性環状部12aは、ダイヤフラムスプリング12の外周部分であり、プレッシャープレート7と軸方向に当接する部分である。レバー部12bは、弾性環状部12aから半径方向内方へ延びた複数の舌状部分であり、先端部が図示しないレリーズ装置と連結されている。ダイヤフラムスプリング12は、レリーズ装置の軸方向への移動により、軸方向へ弾性変形が可能となっている。
【0051】
プレッシャープレート7は、後述するクラッチディスク組立体6の摩擦連結部40をフライホイール3側へ押圧するためのもので、フライホイール3とクラッチカバー組立体5との間に配置された環状の部材である。また、プレッシャープレート7とダイヤフラムスプリング12との間には、環状のクッショニングプレート80が配置されている。具体的には、クッショニングプレート80は、例えば軸方向に弾性変形可能な皿ばねであり、ダイヤフラムスプリング12側に突出部81を有している。また、クッショニングプレート80は、プレッシャープレート7の内周側突出部7c及び外周側突出部7bに当接しており、ダイヤフラムスプリング12の軸方向の弾性変形により外周側突出部7bと着脱可能となっている。このクッショニングプレート80の弾性反力は、プレッシャープレート7の押圧荷重よりも小さく設定されている。したがって、例えば半クラッチ状態のときにプレッシャープレート7が摩擦熱により軸方向に熱膨張しても、クッショニングプレート80が熱膨張による変形を吸収することができる。これにより、半クラッチを保持しても、クラッチトルクが急激に立ち上がることはなく、ドライバーの意に反する車両の発進を防止することや摩擦プレート等の異常摩耗を抑えることができる。プレッシャープレート7は、以上に述べたクッショニングプレート80を介して、ダイヤフラムスプリング12の付勢力により軸方向へ移動可能となっている。
【0052】
クラッチディスク組立体6は、フライホイール3と摩擦係合することで動力の伝達及び解除をするためのもので、フライホイール3とプレッシャープレート7との間に配置されている。以下、クラッチディスク組立体6の構造について、詳細を説明する。
【0053】
2.クラッチディスク組立体の構造
クラッチディスク組立体6は、自動車のクラッチ装置、特にクラッチサイズに比較して高い伝達トルクが要求される自動車の多板クラッチ装置1に使用されるもので、スプラインハブ20と、ダンパー機構30と、摩擦連結部40とから構成される。本実施形態では、後述する摩擦プレートとリング部材とが歯車形式により連結されているものを示す。以下に、各部の構造について、詳細に説明する。
【0054】
(1)スプラインハブ
スプラインハブ20は、クラッチディスク組立体6をトランスミッション入力シャフト4に固定するためのもので、ボス部21と、フランジ部22とから構成される。ボス部21は、内周面にスプライン孔21aを有した筒状の部材であり、トランスミッション入力シャフト4のスプライン部4aと相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合している。フランジ部22は、ボス部21の外周側全周にわたり半径方向外方へ突出した概ね円板状の部材である。フランジ部22には、後述するトーションスプリング32を収容するための収容部22aが複数形成されている。また、フランジ部22は、収容部22aに対応した位置に半径方向外方へ突出した第2係合部22bを有している。
【0055】
(2)ダンパー機構
ダンパー機構30は、摩擦連結部40から伝達される衝撃や振動を吸収するためのもので、トーションスプリング32と、クラッチプレート35及びリテーニングプレート36(一対の連結プレート)と、フリクションワッシャ33と、ウェーブスプリング34とから構成される。トーションスプリング32は、フランジ部22とクラッチプレート35及びリテーニングプレート36との間の回転方向の振動を吸収するためのもので、フランジ部22の収容部22aに回転方向へ伸縮自在に収容されている。本実施形態では、トーションスプリング32を回転方向に6本配置している。
【0056】
クラッチプレート35及びリテーニングプレート36は、一対の環状の部材であり、フランジ部22を軸方向に挟み込んだ状態でスプラインハブ20に対して相対回転可能に配置されている。クラッチプレート35及びリテーニングプレート36には、トーションスプリング32に対応する位置に、それぞれ切り欠きにより形成された窓孔部35a、36aが設けられている。収容部22a及び窓孔部35a、36aの回転方向端は、トーションスプリング32の端部と回転方向に係合している。そのため、スプラインハブ20とクラッチプレート35及びリテーニングプレート36とが相対回転すると、トーションスプリング32が回転方向に圧縮される。フリクションワッシャ33、ウェーブスプリング34は、フランジ部22とクラッチプレート35及びリテーニングプレート36とが接触して発生する摺動抵抗(ヒステリシストルク)を安定させるためのもので、フランジ部22とクラッチプレート35及びリテーニングプレート36との間にそれぞれ配置された環状の部材である。
【0057】
一般的に、ダンパー機構の吸収性能は、トーションスプリングの弾性係数、ストローク、本数、及び半径方向の位置等により決定される。例えば、トーションスプリングの弾性係数を大きくすると、ダンパー機構の捩り剛性も高くなるため、クラッチ連結時の衝撃を吸収できる反面、小さな捩り振動を効果的に吸収することができない。また、トーションスプリングの弾性係数を低くすると、ダンパー機構の捩り剛性も低くなるため、エンジンの回転変動等の小さな捩り振動を効果的に吸収できる反面、クラッチ連結時の衝撃を吸収することができない。したがって、クラッチ連結時の衝撃や幅広い捩り振動を吸収できるよう、ダンパー機構は低い捩り剛性と高い捩り剛性とが備わっているのが好ましい。
【0058】
特に、本実施形態のように摩擦材としてカーボンコンポジット材を採用する場合、従来に比べて摩擦係数が大きくクラッチ連結時の衝撃が大きくなるため、ダンパー機構に低い捩り剛性と高い捩り剛性とが備わっているのが効果的である。したがって、本実施形態のダンパー機構30は、2段階の捩り剛性を持たせている。
【0059】
具体的には、フランジ部22の収容部22aは、トーションスプリング32と同様、6カ所設けられている。そのうち3カ所の収容部22aは、回転方向長さを若干長くし、収容部22aの回転方向端とトーションスプリング32の端部との間に隙間を設けている。そうすることで、摩擦連結部40とスプラインハブ20とが相対回転する際に、まず3本のトーションスプリング32が圧縮され始め、所定の相対回転に達すると残り3本のトーションスプリング32も圧縮され始める。これにより、ダンパー機構30は、トーションスプリング32が3本及び6本の2段階の捩り剛性を容易に得ることができる。
【0060】
(3)摩擦連結部
摩擦連結部40は、フライホイール3及びプレッシャープレート7と摩擦係合するためのもので、リング部材44と、ストップピン45(固定部材)と、第1摩擦プレート41と、第2摩擦プレート42とから構成される。
【0061】
1)リング部材
リング部材44は、ダンパー機構30と第1摩擦プレート41とを連結するためのものである。リング部材44は、ダンパー機構30の外周側、より具体的にはフランジ部22の外周側に配置された環状の部材であり、クラッチプレート35とリテーニングプレート36とに一部が挟み込まれた状態でストップピン45により固定されている。
【0062】
リング部材44は、後述する摩擦プレートとダンパー機構30とを相対回転不能に固定するための部材で、第1係合部44aと、外歯44bと、突起部44cとを有している。第1係合部44aは、リング部材44の内周側から半径方向内方へ突出した複数の突起である。第1係合部44aは、フランジ部22の第2係合部22b同士の間に配置されており、第1係合部44aと第2係合部22bとの間には回転方向に隙間が設けられている。第1係合部44aの位置は、ストップピン45の位置に対応している。
【0063】
外歯44bは、リング部材44の外周側全周にわたり形成された半径方向外方へ突出する複数の突起であり、後述する第1摩擦プレートが係合する部分である。突起部44cは、複数の外歯44bからさらに半径方向外方へ突出した部分であり、一対の第1摩擦プレート41同士の間に配置されている。
【0064】
2)ストップピン
図3にストップピン45の断面図を示す。ストップピン45は、リベット形式を採用しており、胴部45aと、頭部45bと、段付き部45cとから構成される。胴部45aは、クラッチプレート35、リテーニングプレート36及びリング部材44を軸方向へ貫通する部分であり、円柱形状を有している。頭部45bは、クラッチプレート35、リテーニングプレート36をそれぞれリング部材44側へ締め付けるための部分である。頭部45bは、胴部45aの両端に設けられており、胴部45aより外径寸法が大きい。段付き部45cは、クラッチプレート35の孔35bを貫通する部分であり、胴部45aと一方の頭部45bとの間に設けられている。段付き部45cは、胴部45aより外径寸法が大きく、頭部45bより外径寸法が小さい。
【0065】
通常のリベットは、一方の頭部が形成されていない状態で部材の孔に挿入され、挿入する側と反対側に突出した胴部をかしめることで頭部を形成し部材同士を連結する。その際、かしめる側の胴部は作用する力により変形し外径が大きくなるため、リベットの外周面が孔の内周面と当接する。しかし、このストップピン45は、段付き部45cが設けられているため、段付き部45cの精度を高めることでかしめる側と反対側においてもストップピン45の外周面と孔35bの内周面との隙間が減るため、締結強度が向上する。したがって、ダンパー機構30の強度が高まり、ダンパー機構30が高負荷用として対応可能となる。
【0066】
また、ストップピン45の段付き部45cの形状を変更したストップピン55においても同様の効果が得られる。図4にストップピン55の断面図を示す。ストップピン55は、ストップピン45の段付き部45cが、胴部側から頭部側へ向かって徐々に外径が大きくなるテーパ部55cとなっている。これにより、前述のストップピン45と同様、テーパ部55cの精度を高めることで締結強度が向上する。したがって、ダンパー機構30の強度が高まるため、ダンパー機構30が高負荷用として対応可能となる。
【0067】
3)摩擦プレート
第1摩擦プレート41は、図1に示すように、フライホイール3、プレッシャープレート7、及び第2摩擦プレート42と摩擦係合するためのもので、ダンパー機構30の外周側に配置された環状の部材である。本実施形態では、第1摩擦プレート41が軸方向に2枚配置されたものを記載する。第1摩擦プレート41は、内周側全周にわたり形成された複数の突起である内歯41aを有している。内歯41aは、リング部材44の外歯44bと係合しており、内歯41a及び外歯44bにより第1摩擦プレート41とリング部材44とは相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能となっている。
【0068】
第2摩擦プレート42は、第1摩擦プレート41と摩擦係合するためのもので、一対の第1摩擦プレート41の間に配置された環状の部材である。本実施形態では、第1摩擦プレート41が2枚であるため、第2摩擦プレート42は1枚となる。第2摩擦プレート42は、外周側全周にわたり形成された複数の切欠部42aを有している。切欠部42aは、クラッチカバー組立体5のカバー部材11と係合しているため、第2摩擦プレート42とクラッチカバー組立体5とは相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合している。
【0069】
なお、プレッシャープレート7の外周側にもカバー部材11に係合する切欠部7aが形成されているため、プレッシャープレート7とクラッチカバー組立体5とは相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合している。
【0070】
ここで、本実施形態における各部の材質について説明する。第1及び第2摩擦プレート41、42、フライホイール3、及びプレッシャープレート7は、カーボンコンポジット材を採用している。カーボンコンポジット材の摩擦係数は、従来の摩擦材の摩擦係数に比べて大きな材質もあり、異なる材質との間においては温度により大きく変動する傾向にある。一方、カーボンコンポジット材同士の摩擦係数は、温度による変動が少なく安定している。したがって、摩擦係合する全ての材質をカーボンコンポジット材にすることで、安定した高い摩擦係数を得ることができ、多板クラッチ装置1を高負荷用として確実に強化することができる。
【0071】
3.動作
次に、多板クラッチ装置1の動作について説明する。クラッチ連結時においては、ドライバーのクラッチペダル操作により、レリーズ装置が軸方向フライホイール3側へ移動し、ダイヤフラムスプリング12の弾性環状部12aがプレッシャープレート7を軸方向フライホイール3側へ付勢する。そうすると、プレッシャープレート7が摩擦連結部40側へ押圧され、第1及び第2摩擦プレート41、42が、回転するプレッシャープレート7とフライホイール3との間に狭持され、各接触面において摩擦抵抗が発生する。これにより、フライホイール3に入力されたトルクが第1摩擦プレート41、リング部材44、クラッチプレート35、及びリテーニングプレート36に伝達される。
【0072】
クラッチプレート35及びリテーニングプレート36が入力されたトルクにより回転すると、停止しているスプラインハブ20と相対回転する。前述のように、フランジ部22の収容部22aは、3カ所は回転方向の長さを長くとっているため、まず3本のトーションスプリング32が収容部22aと窓孔部35a、36aとの回転方向端の間で圧縮される。これにより、この多板クラッチ装置1は、クラッチ連結時の小さい捩り振動を吸収することができる。
【0073】
また、クラッチプレート35及びリテーニングプレート36とスプラインハブ20とがさらに相対回転すると、残りの3本のトーションスプリング32が収容部22aと窓孔部35a、36aとの回転方向端の間で圧縮される。これにより、合計6本のトーションスプリング32が圧縮されるため、この多板クラッチ装置1はクラッチ連結時の衝撃や大きな捩り振動を吸収することができる。
【0074】
クラッチプレート35及びリテーニングプレート36とスプラインハブ20とがさらに相対回転すると、リング部材44の第1係合部44aとフランジ部22の第2係合部22bとが当接し、エンジンのトルクがトランスミッション入力シャフト4へ直接伝達されることとなり、多板クラッチ装置1のクラッチ連結動作が完了
する。クラッチ解除動作は、レリーズ装置をペダル操作により軸方向トランスミッション側へ移動することで行われる。
【0075】
このように、ダンパー機構30に2段階の捩り剛性を持たせることで、クラッチ連結時の衝撃及び振動を効果的に吸収することができるため、クラッチ連結時のクラッチ操作が難しい高摩擦係数のカーボンコンポジット材を採用した多板クラッチ装置1においても、操作が容易となり操作性が向上する。
【0076】
また、クラッチ連結後の定速走行時にエンジンの回転変動が発生した場合、トーションスプリング32の伸縮によりその回転変動が直接トランスミッションやディファレンシャルへ伝達されないため、歯車部分からの歯打ち音の発生を抑制することでき、静粛性が向上する。
【0077】
また、以上の実施形態はプルタイプで記載しているが、図5に示すようにプッシュタイプでもよい。
B.第2実施形態
前述の実施形態では、ダンパー機構30により多板クラッチ装置1の静粛性を向上させているが、以下のような実施形態によりさらに歯打ち音の発生を抑制することが可能となる。
【0078】
1.クラッチディスク組立体
図6及び図7に本実施形態が採用されたクラッチディスク組立体106を示す。このクラッチディスク組立体106は、多板クラッチ装置1に使用されるもので、エンジン側のフライホイール(図示せず)からトランスミッション入力シャフト(図示せず)にトルクを伝達するための装置である。図6及び図7において、O−Oはクラッチディスク組立体106の回転軸線である。
【0079】
このクラッチディスク組立体106は、図6及び図7に示すように第1摩擦プレート141とリング部材144との連結部分に特徴を有している。具体的には、このクラッチディスク組立体106の第1摩擦プレート141は、固定具160によりリング部材144に対して、相対回転及び軸方向の相対移動を規制された状態で直接連結されている。
【0080】
図8に固定具160周辺の構造図を示す。第1摩擦プレート141の内周縁には、図8に示すように円周方向に所定の等間隔で複数の切欠き105が形成されている。そして、切欠き105は、図8に示すように、内周縁から外周側に向かって所定の深さで、かつ所定の幅で形成されており、その1対の側面105a,105bは放射線Pに対して互いに平行になっている。リング部材144には、全周にわたり円板状の外周固定部144aが形成されている。そして、2枚の第1摩擦プレート141は、その内周部で外周固定部144aを挟み込むように配置されている。また、外周固定部144aの外周側には、第2摩擦プレート142が配置されている。
【0081】
2.固定具
固定具160は、第1固定具161と、第2固定具162と、ワッシャ163とから構成される。第1固定具161は、外周固定部144aの軸方向両側に一対として配置されており、第1摩擦プレート141の切欠き105に挿入される概ね円筒状の胴部167を有している。第2固定具162は、リベットであり、軸部164と、つば部165と、固定部166とから構成される。軸部164は、第1固定具161及び外周固定部144aを軸方向に貫通する部分である。つば部165は、軸部164の一端部に形成されている。固定部166は、軸部164の他端部に形成されている。つば部165及び固定部166は、軸部164と比較してそれぞれ大径に形成されており、さらに大径を有するワッシャ163がつば部165及び固定部166と胴部167との間にそれぞれ挟み込まれている。固定部166は、リベットのかしめる側に相当するため、最終的に固定部166をかしめることで、胴部167及びワッシャ163は外周固定部144aに固定される。これにより、第1摩擦プレート141は、リング部材144を介してダンパー機構30に連結される。
【0082】
ここで、各部材の寸法関係について説明する。第1固定具161の胴部167の幅(1対の平坦面167a、167b間の長さ)は、第1摩擦プレート141の切欠き105の円周方向の幅と比較して狭く設定されており、切欠き105内に所定の隙間を持って挿入されている。そして、平坦面167a、167bは、互いに平行な面により構成されている。これにより、切欠き105と第1固定具161の胴部167とが点接触ではなく面接触になるため、面圧が小さくなり第1摩擦プレート141の摩耗を抑えることができる。また、平坦面167a、167bと側面105a、105bとの間には、隙間が確保されているため、複数配置された第1固定具161と切欠き105との寸法の管理、製造、及び組立を容易にすることができる。
【0083】
胴部167の長さは、第1摩擦プレート141の厚みよりも長く設定されており、第1摩擦プレート141は軸方向に自由度を持った状態でリング部材144に固定される。この場合は、第1摩擦プレート141がカーボンコンポジット製、固定具160及びクラッチプレート135がそれぞれ鉄系の材料で形成され、互いの熱膨張係数が異なり高温になって熱膨張の影響が無視できないような場合に有効である。また、第1摩擦プレート141をリング部材144に対して軸方向に自由度をもたせた状態で連結しているため、クラッチ連結解除時において、第1及び第2摩擦プレート141、142同士の摩擦係合を解除するのが容易となる。
【0084】
また、外周固定部144aの厚みは、第2摩擦プレート142の厚みよりも小さく設定されている。したがって、クラッチ連結時において、2枚の第1摩擦プレート141がフライホイール(図示せず)とプレッシャープレート(図示せず)との間に狭持された場合に、外周固定部144aが第1摩擦プレート141と第2摩擦プレート142との摩擦係合を阻害しない。
【0085】
つば部165及び固定部166は、胴部167と同程度または胴部167よりもさらに小径に形成されている。そして、つば部165及び固定部166と第1摩擦プレート141との間には、両部分165、166に比べて径の大きいワッシャ163が設けられている。また、ワッシャ163の外径は、切欠き105の円周方向の幅よりも大きくなるよう設定されている。これにより、つば部165及び固定部166の外径を大きく設定しなくても、第1摩擦プレート141の軸方向の相対移動を確実に規制される。
【0086】
以上に述べた実施形態では、第1摩擦プレート141が固定具160により直接的に連結されているため、第1摩擦プレート141の軸方向の移動を規制する機構が簡素化され、第1摩擦プレート141の取付部周辺の構造が簡単になる。また、歯車の噛み合いによる連結を用いていないので、従来装置における第1摩擦プレート141とリング部材144との結合部における歯打ち音がより低減される。
【0087】
C.第3実施形態
前述の第2実施形態は、摩擦プレートが一対の第1摩擦プレート141と第2摩擦プレート142とから構成される多板クラッチ装置1について記載しているが、以下に示すように単板式のクラッチ装置においても適用可能である。
【0088】
図9及び図10に本実施形態が採用されたクラッチディスク組立体206を示す。図9及び図10において、O−Oはクラッチディスク組立体206の回転軸線である。
このクラッチディスク組立体206は、主に、エンジン側のフライホイールに押圧されるカーボンコンポジット製の摩擦プレート241と、この摩擦プレート241が固定されたダンパー機構230と、摩擦プレート241とダンパー機構230とを連結する固定具260とを有している。固定具260周辺以外の構造は、前述の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0089】
固定具260は、リベットにより構成される。具体的には、固定具260は、摩擦プレート241の切欠き205とクラッチプレート235の孔235aとに挿入されて、クラッチプレート235の外周に摩擦プレート241を直接連結するものである。
【0090】
図11及び図12に組立後の固定具260を示し、図12に組立前(かしめる前)の固定具260を示している。これらの図に示すように、固定具260は、つば部265と、胴部267と、固定部266とを有している。
【0091】
つば部265は、他の部分に比較して大径に形成されており、胴部267側の面が摩擦プレート241の側面に当接している。なお、このつば部265は摩擦プレート241の摩擦面よりフライホイール側に突出しているが、フライホイールの内周端よりはさらに内周側に位置するように配置されている。
【0092】
胴部267は、つば部265と同径で連続して形成された部分の一部に1対の対向する平坦面267a、267bを形成してなるものであり、摩擦プレート241の切欠き205に挿入される。この胴部267の幅(1対の平坦面267a、267b間の長さ)は、摩擦プレート241の切欠き205の幅に比較して狭く設定されており、切欠き205内に所定の隙間を持って挿入されている。また、胴部267の長さは、第2実施形態の場合とは異なり、摩擦プレート241の厚みと実質的に等しく設定しても良いし、また摩擦プレート241の厚みより長めに設定しても良い。胴部267の長さを、摩擦プレート241の厚みと実質的に等しく設定した場合は、摩擦プレート241はクラッチプレート235に対して移動不能な完全固定となり、また、摩擦プレート241の厚みよりも長く設定した場合は、両者の固定が、軸方向に自由度を持った固定となる。この場合は、摩擦プレート241がカーボンコンポジット製であり、固定具260及びクラッチプレート235がそれぞれ鉄系の材料で形成され、互いの熱膨張係数が異なるので、高温になって熱膨張の影響が無視できないような場合に有効である。
【0093】
固定部266は、胴部267よりもさらに小径に形成されており、クラッチプレート235の孔235aに挿入されている。そして、この固定部266の端部をかしめることによって、摩擦プレート241とクラッチプレート235とが互いに固定され、摩擦プレート241が軸方向に移動するのが規制される。
【0094】
D.第4実施形態
前述の第3実施形態では、固定具260がリベットにより構成されているが、以下のような実施形態でもよい。
【0095】
図14に本実施形態の固定具360周辺の構造図を示す。この固定具360は、第1固定具361と、第2固定具362とから構成される。図15に第1固定具361の詳細図を示す。第1固定具361は、摩擦プレート341の切欠き305に挿入される概ね筒状の胴部367を有している。胴部367に、切欠き305の側面305a、305bに対応する平坦面365a、365bが形成されている。第1固定具361は、図14に示すように、第2固定具362によりクラッチプレート335に対して固定されている。第2固定具362は、リベットであり、第1固定具361を貫通する軸部364と、軸部364の両端に形成されたつば部365及び固定部366とから構成される。
【0096】
つば部365は、切欠き305の円周方向の幅よりも外径が大きく、胴部367側の面が摩擦プレート341の側面に当接している。固定部366は、胴部367よりもさらに小径に形成されており、クラッチプレート335の孔335aに挿入されている。この固定部366の端部をかしめることによって、第1固定具361がクラッチプレート335に固定される。胴部367の長さは、第3実施形態と同様に摩擦プレート341の厚みに合わせて設定可能であるため、胴部367の長さを調整して摩擦プレート341をクラッチプレート335に軸方向に相対移動可能または不能に連結することが可能となる。以上に述べた固定具360により、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0097】
また、図16に示すように、つば部365と摩擦プレート341との間にワッシャ363を挟み込んでもよい。これにより、つば部365の径をより小さくできる。
さらに、図17に示すように、ワッシャ363を設ける代わりに、連結部材370を設けてもよい。具体的には、連結部材370は、環状の部材であり、円周方向に複数配置された固定具360を連結するためのものである。連結部材370は、固定具360に対応する位置に連結孔371を有しており、第2固定具362の軸部364が貫通している。そして、胴部367とつば部365との間に、連結部材370は挟み込まれている。これにより、複数の固定具360の相対位置が安定するとともに、外径の大きいワッシャを設けることなく摩擦プレート341のクラッチプレート335に対する軸方向の相対移動を確実に規制することができる。
【0098】
E.第5実施形態
前述の第4実施形態では、第2固定具362がリベットにより構成されているが、以下のような実施形態でもよい。
【0099】
図18に本実施形態の固定具460を示す。この固定具460は、第1固定具461と、第2固定具462と、ワッシャ463とから構成される。図19に第1固定具461の詳細図を示す。第1固定具461は、一部にリベットの構成を有しており、摩擦プレート441の切欠き405に挿入される概ね筒状の胴部467と、胴部467の一端部に形成された固定部466とを有している。胴部467には、切欠き405の側面405a、405bに対応する平坦面467a、467bが形成されている。固定部466は、胴部467よりもさらに小径に形成されており、クラッチプレート435の孔435aに挿入されている。図19に示す固定部466は、かしめる前の状態を示している。この固定部466の端部をかしめることによって、図18に示すように、胴部467はクラッチプレート435に対して固定される。
【0100】
第2固定具462は、いわゆるねじであり、つば部465と、連結部468とを有している。つば部465は、胴部467と同程度の径を有しており、第2固定具462を工具により第1固定具に対してねじ込むための孔465aが形成されている。本実施形態では、孔465aは六角孔となっている。連結部468は、第1固定具461とつば部465とを連結する部分であり、胴部467のねじ孔465eに螺合している。そして、胴部467とつば部465との間には環状のワッシャ463が挟み込まれている。ワッシャ463の外径は、切欠き405の円周方向の幅よりも大きく設定されている。以上に述べた固定具460により、第3及び第4実施形態と同様の効果が得られる。
【0101】
また、図20に示すように、ワッシャ463を設ける代わりに、第4実施形態と同様に連結部材470を設けてもよい。これにより、複数の固定具460の相対位置が安定するとともに、外径の大きいワッシャを設けることなく摩擦プレート441のクラッチプレート435に対する軸方向の相対移動を確実に規制することができる。
【0102】
F.第6実施形態
前述の第5実施形態では、第1固定具461をリベットとして記載しているが、以下のような実施形態でもよい。
【0103】
図21に本実施形態の固定具560を示す。この固定具560は、第1固定具561と、第2固定具562と、ワッシャ563とから構成される。図22に第1固定具561の詳細図を示す。第1固定具561は、摩擦プレート541の切欠き505に挿入される概ね筒状の胴部567を有している。胴部567には、切欠き505の側面505a、505bに対応する平坦面567a、567bが形成されている。
【0104】
第2固定具562は、いわゆるねじであり、つば部565と、連結部568と、固定部566とを有している。つば部565は、胴部567と同程度の径を有しており、第2固定具562をねじ込むための孔565aが形成されている。本実施形態では、孔565aは六角孔となっている。連結部568及び固定部566は、共に外周側にねじが形成されている。連結部568は、第1固定具561とつば部565とを連結しており、胴部567のねじ孔567eに螺合している。固定部566は、クラッチプレート535と胴部567とを固定するための部分であり、クラッチプレート535の孔535aに螺合している。そして、胴部567とつば部565との間には環状のワッシャ563が挟み込まれている。ワッシャ563の外径は、切欠き505の円周方向の幅よりも大きく設定されている。以上に述べた固定具560により、第3〜第5実施形態と同様の効果が得られる。
【0105】
また、図23に示すように、ワッシャ563を設ける代わりに、第4及び第5実施形態と同様に連結部材570を設けてもよい。これにより、複数の固定具560の相対位置が安定するとともに、外径の大きいワッシャを設けることなく摩擦プレート541のクラッチプレート535に対する軸方向の相対移動を確実に規制することができる。
【0106】
G.その他の実施形態
1.多板クラッチ装置の形式
前述の実施形態は、乾式クラッチ装置として記載したが、これに限定されない。
【0107】
2.ダンパー機構
前述の実施形態では、ダンパー機構の捩り剛性を2段階として記載したが、さらに1段特定や多段階の捩り剛性をもたせてもよく、本実施形態に限定されない。また、捩り剛性を2段階とするために、フランジ部22の収容部22aの回転方向長さを2種類としたが、クラッチプレート35及びリテーニングプレート36の窓孔部35a及び36aの回転方向長さを2種類とすることで同様の作用効果を得ることができる。
【0108】
3.摩擦材
前述の第1実施形態では、フライホイール3、プレッシャープレート7、及び第2摩擦プレート42の材質をカーボンコンポジット材として記載したが、スチール材などを採用してもよい。なお、前述のように、カーボンコンポジット材とそれ以外(例えばスチール材)との摩擦係数は、温度により変動する。摩擦係数は、温度が高くなると大きくなり、温度が低くなると小さくなる。したがって、乗用自動車として街中を走行する場合には、それほど温度も高くならないため、摩擦係数は従来の摩擦材と同程度となる。しかし、半クラッチ状態でエンジンの回転数を上げて故意に摩擦を発生させた場合、摩擦面で発生する摩擦熱により温度が高くなり摩擦係数が大きくなる。その結果、温度が低い場合よりもトルク伝達容量が大きくなるため、レース用多板クラッチ装置と同様に高負荷、高耐久性を実現できる。また、エンジンのトルクが過大となり摩擦面が滑る場合にも、摩擦係数が大きくなりトルク伝達容量も大きくなるため、摩擦面の滑りがなくなりトルク伝達が回復する。
【0109】
4.第1固定具の形状
前述の実施形態(第4及び第6実施形態)では、第1固定具361、561の胴部367、567は概ね円筒状を有しており、円筒状部材の外周面を一部平面加工して平坦面367a、367b、567a、567bを形成している。しかし、図24に示すように角材から製作した第1固定具391、591のような形状でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】第1実施形態の多板クラッチ装置の縦断面図。
【図2】クラッチディスク組立体の横断面図。
【図3】ストップピン45の断面図。
【図4】ストップピン55の断面図。
【図5】プッシュタイプの場合の多板クラッチ装置の縦断面図。
【図6】第2実施形態のクラッチディスク組立体の縦断面図。
【図7】前記クラッチディスク組立体の正面部分図。
【図8】固定具160周辺の構造図。
【図9】第3実施形態のクラッチディスク組立体の縦断面図。
【図10】前記クラッチディスク組立体の正面部分図。
【図11】摩擦プレートとクラッチプレートとの結合部分を示す図。
【図12】かしめ後のリベットの斜視図。
【図13】かしめ前のリベット単体の斜視図。
【図14】第4実施形態の固定具360周辺の構造図。
【図15】第1固定具361の詳細図。
【図16】第4実施形態の変形例としての固定具360周辺の構造図。
【図17】第4実施形態の変形例としての固定具360周辺の構造図。
【図18】第5実施形態の固定具460周辺の構造図。
【図19】第1固定具461の詳細図。
【図20】第5実施形態の変形例としての固定具460周辺の構造図。
【図21】第6実施形態の固定具560周辺の構造図。
【図22】第1固定具561の詳細図。
【図23】第7実施形態の変形例としての固定具560周辺の構造図。
【図24】第1固定具の変形例。
【符号の説明】
【0111】
1 多板クラッチ装置
3 フライホイール(入力回転体)
4 トランスミッション入力シャフト(出力回転体)
5 クラッチカバー組立体
6 クラッチディスク組立体
7 ダイヤフラムスプリング(第1付勢部材)
20 スプラインハブ
22 フランジ部
22a 収容部
22b 第2係合部
30 ダンパー機構
31a 窓孔部
31b 孔
32 トーションスプリング
33 フリクションワッシャ(摩擦部材)
34 ウェーブスプリング(第3付勢部材)
40 摩擦連結部
41、141 第1摩擦プレート
241、341、441、541 摩擦プレート
42、142 第2摩擦プレート
44 リング部材
44a 第1係合部
44c 突起部
45、55 ストップピン
80 クッショニングプレート(第2付勢部材)
160、260、360、460、560 固定具
161、361、461、561 第1固定具
162、362、462、562 第2固定具
165、265、365、465、565 つば部
166、266、366、366、566 固定部
167、267、367、367、567 胴部
468、568 連結部
370、470、570 連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側の入力回転体からの動力を出力回転体に伝達及び遮断するための多板クラッチ装置であって、
前記出力回転体に連結され、前記入力回転体に近接して配置されたクラッチディスク組立体と、
前記入力回転体に連結され、前記クラッチディスク組立体を前記入力回転体へ押圧するためのプレッシャープレートを有するクラッチカバー組立体とを備え、
前記クラッチディスク組立体は、前記出力回転体に連結されたハブと、前記ハブの外周側に配置され、前記入力回転体と前記プレッシャープレートとに狭持されるための摩擦連結部と、前記ハブと前記摩擦連結部とを回転方向に弾性的に連結するダンパー機構とを有し、
前記摩擦連結部は、前記ダンパー機構の外周側に連結されたリング部材と、前記リング部材の外周側に配置され、前記リング部材に対して相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合した複数の第1摩擦プレートと、前記複数の第1摩擦プレート同士の間に配置され、前記クラッチカバー組立体に対して相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に係合した第2摩擦プレートとを有し、
前記クラッチカバー組立体は、前記プレッシャープレートを付勢するための第1付勢部材と、前記入力回転体と前記出力回転体との間において動力伝達に必要な前記第1摩擦プレートへの押圧荷重よりも小さい弾性反力を有する第2付勢部材とをさらに有し、
前記複数の第1摩擦プレートは、少なくとも1つがカーボンコンポジット材で構成される、
多板クラッチ装置。
【請求項2】
前記第2付勢部材は、前記第1付勢部材と前記プレッシャープレートとの間に配置される、
請求項1に記載の多板クラッチ装置。
【請求項3】
前記入力回転体と前記プレッシャープレートと前記第2摩擦プレートとは、少なくともいずれか1つは主成分が鉄系の材料から構成される、
請求項1または2に記載の多板クラッチ装置。
【請求項4】
前記第1付勢部材に係合し、前記第1付勢部材を軸方向に弾性変形させるレリーズ装置をさらに備え、
前記レリーズ装置は、軸方向前記入力回転体側へ移動することで、前記第1付勢部材の前記プレッシャープレートに対する付勢力を解除する、
請求項1から3のいずれかに記載の多板クラッチ装置。
【請求項5】
前記第1付勢部材に係合し、前記第1付勢部材を軸方向に弾性変形させるレリーズ装置をさらに備え、
前記レリーズ装置は、軸方向前記入力回転体側と反対側へ移動することで、前記第1付勢部材の前記プレッシャープレートに対する付勢力を解除する、
請求項1から3のいずれかに記載の多板クラッチ装置。
【請求項6】
前記ハブは、全周にわたり半径方向外方へ突出したフランジ部と、前記フランジ部の一部が切り欠かれ形成された複数の収容部を有し、
前記ダンパー機構は、前記収容部に収容された複数の弾性部材と、前記フランジ部を軸方向に挟み込んだ状態で前記フランジ部に対して相対回転可能に配置され、前記弾性部材と対応する位置に窓孔部が設けられた一対の連結プレートとを有し、
少なくともいずれか一方の前記連結プレートと前記フランジ部との間には、前記両部材間に作用する軸方向荷重を受けるための環状の摩擦部材を有する、
請求項1から5のいずれかに記載の多板クラッチ装置。
【請求項7】
少なくともいずれか一方の前記連結プレートと前記フランジ部との間には、前記両部材間に軸方向の付勢力を与えるための環状の第3付勢部材を有する、
請求項6に記載の多板クラッチ装置。
【請求項8】
前記第3付勢部材は、軸方向へ弾性変形可能な皿ばねにより構成される、
請求項7に記載の多板クラッチ装置。
【請求項9】
前記第3付勢部材は、軸方向へ弾性変形可能なウェーブスプリングにより構成される、
請求項7に記載の多板クラッチ装置。
【請求項10】
エンジン側のフライホイールからの動力をトランスミッションのインプットシャフトに伝達及び遮断するためのクラッチディスク組立体であって、
前記フライホイールに押圧されるカーボン製摩擦プレートと、
外周に前記摩擦プレートの内周部が連結される円板状入力部と、前記トランスミッションのインプットシャフトに連結される出力部とを有するクラッチディスク本体と、
前記円板状入力部の外周部と前記摩擦プレートの内周部とを直接的に連結する複数の固定具とを備え、
前記摩擦プレートは前記固定具が挿入される切欠きを有しており、
前記固定具は、前記摩擦プレートの切欠きに挿入される胴部を有する第1固定具と、前記第1固定具を軸方向に貫通する軸部と、前記軸部の一端部に形成され前記摩擦プレートと軸方向に係合するつば部と、前記軸部の他端部に形成され前記円板状入力部と軸方向に係合する固定部とを有する第2固定具とから構成される、クラッチディスク組立体。
【請求項11】
エンジン側のフライホイールからの動力をトランスミッションのインプットシャフトに伝達及び遮断するためのクラッチディスク組立体であって、
前記フライホイールに押圧されるカーボン製摩擦プレートと、
外周に前記摩擦プレートの内周部が連結される円板状入力部と、前記トランスミッションのインプットシャフトに連結される出力部とを有するクラッチディスク本体と、
前記円板状入力部の外周部と前記摩擦プレートの内周部とを直接的に連結する複数の固定具とを備え、
前記摩擦プレートは、前記円板状入力部の外周部を挟み込むよう軸方向に2枚配置され、前記固定具が挿入される切欠きを有しており、
前記固定具は、前記摩擦プレートの切欠きに挿入される胴部を有する第1固定具と、前記第1固定具及び円板状入力部を軸方向に貫通する軸部と、前記軸部の一端部に形成され一方の前記摩擦プレートと軸方向に係合するつば部と、前記軸部の他端部に形成され他方の前記摩擦プレートと軸方向に係合する固定部とを有する第2固定具とから構成される、クラッチディスク組立体。
【請求項12】
前記第2固定具はリベットであり、前記固定部はかしめ固定されている、請求項10または11に記載のクラッチディスク組立体。
【請求項13】
エンジン側のフライホイールからの動力をトランスミッションのインプットシャフトに伝達及び遮断するためのクラッチディスク組立体であって、
前記フライホイールに押圧されるカーボン製摩擦プレートと、
外周に前記摩擦プレートの内周部が連結される円板状入力部と、前記トランスミッションのインプットシャフトに連結される出力部とを有するクラッチディスク本体と、
前記円板状入力部の外周部と前記摩擦プレートの内周部とを直接的に連結する複数の固定具とを備え、
前記摩擦プレートは前記固定具が挿入される切欠きを有しており、
前記固定具は、前記摩擦プレートの切欠きに挿入され、前記摩擦プレートの厚みに対応した厚みを有し端面の一部が前記円板状入力部の側面に当接する胴部と、前記円板状入力部に固定される固定部とを有する第1固定具と、前記摩擦プレートと軸方向に係合するつば部と、前記つば部と前記第1固定具とを連結する連結部とを有する第2固定具とから構成される、クラッチディスク組立体。
【請求項14】
エンジン側のフライホイールからの動力をトランスミッションのインプットシャフトに伝達及び遮断するためのクラッチディスク組立体であって、
前記フライホイールに押圧されるカーボン製摩擦プレートと、
外周に前記摩擦プレートの内周部が連結される円板状入力部と、前記トランスミッションのインプットシャフトに連結される出力部とを有するクラッチディスク本体と、
前記円板状入力部の外周部と前記摩擦プレートの内周部とを直接的に連結する複数の固定具とを備え、
前記摩擦プレートは前記固定具が挿入される切欠きを有しており、
前記固定具は、前記摩擦プレートの切欠きに挿入される胴部を有する第1固定具と、
前記摩擦プレートと軸方向に係合するつば部と、前記第1固定具を軸方向に貫通するとともに前記つば部と前記第1固定具とを連結する連結部と、前記連結部のつば部と逆側の端部に形成され前記第1固定具と前記円板状入力部とを連結する固定部とを有する第2固定具とから構成される、クラッチディスク組立体。
【請求項15】
前記固定具は、前記摩擦プレートと前記つば部及び固定部の少なくとも一方との間に挟み込まれるよう配置された環状部材をさらに有する、
請求項10から14のいずれかに記載のクラッチディスク組立体。
【請求項16】
前記環状部材は、外径が前記摩擦プレートの切欠きの円周方向の幅よりも大きい、
請求項15に記載のクラッチディスク組立体。
【請求項17】
前記複数の固定具を連結するための環状の連結部材をさらに有し、
前記連結部材は、前記摩擦プレートと前記つば部との間に挟み込まれるよう配置された、
請求項10から16のいずれかに記載のクラッチディスク組立体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2006−242303(P2006−242303A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59861(P2005−59861)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000149033)株式会社エクセディ (270)
【Fターム(参考)】