説明

多核錯体、及びその縮合体

【課題】ユニークな触媒活性を有するのみならず、熱安定性に優れる多核錯体、特に過酸化水素分解触媒において、フリーラジカルの発生を抑制しつつ水と酸素に分解できる触媒能を有する不均一系触媒を提供する。
【解決手段】下記(i)、(ii)、(iii)等の要件を備える配位子Lを1つ以上と、複数の金属原子とを含む、多核錯体及び該錯体の縮合体を提供する。
(i) 下記式(1)で示される1価の基及び/又は下記式(2)で示される2価の基を有すること。


(ii) 金属原子と配位する配位原子を5個以上有すること。
(iii) 前記配位原子から選ばれる少なくとも1つの配位原子が2つの金属原子に配位すること、又は前記配位原子から選ばれ、それぞれ異なる金属原子に配位する2つの配位原子をAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が1以上4以下となる、AM1及びAM2の組合せを有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重縮合により縮合体を形成し得るシリル基を有する多核錯体、および該多核錯体を縮合して得られる縮合体に関する。さらにはレドックス触媒として好適な多核錯体又は該多核錯体の縮合体に関する。
【背景技術】
【0002】
多核錯体とは、非特許文献1に記載されるように、一つの錯体中に2つ以上の金属原子が中心原子として含まれるものを示し、複数ある金属原子間の相互作用に基づいた特異で多様な反応性を有するため、ユニークな反応を生じる触媒となりうる錯体であり、とりわけ、レドックス触媒等の電子移動を伴う化学反応に係る触媒として使用される(例えば、非特許文献2参照)。その一つの例として、過酸化水素をフリーラジカル(ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルオキシラジカル、等)の発生を抑制しつつ、過酸化水素を水と酸素とに分解する触媒(過酸化水素分解触媒)としてマンガン二核錯体を用いる例が知られている(非特許文献3)。
一方、多核金属錯体は触媒用途のみならず、センサーへの用途も見られ、例えば、アジドイオン検出剤として、クリプタントを大環状配位子として有し、銅イオンを2つ配位せしめた多核錯体をゾルゲル反応でキセロゲル化した錯体が用いられている(非特許文献4)。
【0003】
【非特許文献1】大木道則他編,「化学大辞典」,1338頁,東京化学同人,第1版(第7刷)2005年7月1日発行
【非特許文献2】小柳津研一、湯浅 真、表面 2003、41(3),22.
【非特許文献3】A. E. Boelrijk and G. C. Dismukes Inorg.Chem.,2000,39,3020.
【非特許文献4】Manuel G.Basallote et al.,Chem.Mater.,2003,15,2025
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献2で開示されている、マンガン二核錯体を過酸化水素分解触媒として溶媒が共存する反応系で用いた場合、溶媒によっては触媒が溶解するという問題点があり、反応系からの触媒分離回収や支持担体への複合化の観点から溶媒に不溶な不均一系触媒の開発が望まれていた。
また、非特許文献3のようにキセロゲル化した多核錯体は、レドックス触媒に用いられた例はなく、該キセロゲル化した多核錯体は、銅原子同士の配位構造が、レドックス触媒として用いると、不十分であることを本発明者らは見出した。
本発明の目的は、ユニークな触媒活性を有するのみならず、熱安定性に優れる多核錯体、特に過酸化水素分解触媒において、フリーラジカルの発生を抑制しつつ水と酸素に分解できる触媒能を有する不均一系触媒を提供し、さらに該触媒の前駆体である新規な多核錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意努力した結果、特定の配位子を有する多核錯体を縮合して得られる縮合体又は共縮合体が、レドックス触媒としての反応活性を落とすことなく、高い安定性を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]、[12]で示される多核錯体、下記[8]〜[11]で示される化合物、および下記[13]、[14]で示される縮合体、ならびに下記[15]、[16]で示される共縮合体、さらに下記[17]で示されるレドックス触媒を提供するものである。
【0006】
[1]分子内に、下記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の要件を備える配位子Lを1つ以上と、複数の金属原子とを含む、多核錯体
(i) 下記式(1)で示される1価の基及び/又は下記式(2)で示される2価の基を有すること。

[式中、R10及びR30は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表し、同一のSiに結合する複数のR10又はR30がある場合は、それらは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。R20及びR40は、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアシルオキシ基、又は-O-P(O)(OR50)2で表される基を表し(ここでR50は水素原子、1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、2つのR50は同じでも異なっていてもよい)、同一のSiに結合する複数のR20又はR40がある場合は、それらは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。nは1、2又は3であり、mは1又は2である。]
(ii) 金属原子と配位する配位原子を5個以上有すること。
(iii) 前記配位原子から選ばれる少なくとも1つの配位原子が2つの金属原子に配位した配位原子であること、又は前記配位原子から選ばれ、それぞれ異なる金属原子に配位する2つの配位原子をAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が1以上5以下となる、AM1及びAM2の組合せを有すること。
(iv) 配位子L自身が溶媒に可溶であること。
[2]配位子Lの配位原子が、窒素原子、酸素原子、リン原子又は硫黄原子である前記[1]に記載の多核錯体
[3]配位子Lの配位原子の中で少なくとも1つが、炭素−窒素二重結合上の窒素原子である前記[1]又は[2]に記載の多核錯体
[4]分子内に含まれる金属原子の総和が8以下である、前記[1]〜[3]の何れかに記載の多核錯体
[5]分子内に含まれる金属原子が、第一遷移元素系列の遷移金属原子である、[1]〜[4]の何れかに記載の多核錯体
[6]配位子Lが1つであり、且つ金属原子が2つである、[1]〜[5]の何れかに記載の多核錯体
[7]分子量が6000以下であることを特徴とする[1]〜[6]の何れかに記載の多核錯体
[8]下記式(3)で示される化合物

(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4(以下、Ar1〜Ar4のように表わすこともある)はそれぞれ独立に芳香族複素環基を表し、R1、R2、R3、R4及びR5(以下、R1〜R5のように表すこともある)は2価の基を表し、Z1、Z2はそれぞれ独立に窒素原子又は3価の基を表す。Ar1〜Ar4、R1〜R5の中で少なくも1つに下記の式(1)で示される1価の基及び/又は上記式(2)で示される2価の基を有する。)

[式中、R10及びR30は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表し、同一のSiに結合する複数のR10又はR30がある場合は、それらは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。R20及びR40は、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアシルオキシ基、又は-O-P(O)(OR50)2で表される基を表し(ここでR50は水素原子、1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、2つのR50は同じでも異なっていてもよい)、同一のSiに結合する複数のR20又はR40がある場合は、それらは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。nは1、2又は3であり、mは1又は2である。]
[9]下記式(4a)又は(5a)で示される、前記[8]記載の化合物

(式(4a)、(5a)中、R1〜R5は前記式(3)と同義である。X1、X2、X3及びX4(以下、X1〜X4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、窒素原子又はCHから選ばれる。Y1、Y2、Y3及びY4(以下、Y1〜Y4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基又は前記式(1)で表される基を含む基であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つは、前記の式(1)で表される基を含む基である。)
[10]下記式(4b)又は(5b)で示される、前記[9]記載の化合物

(式(4b)、(5b)中、X1〜X4、ならびにY1〜Y4は前記の式(4a)又は(5a)と同義である。Zは1もしくは2の整数を表す。N10、N20はR50と結合する窒素原子を表し、N30、N40、N50及びN60(以下、N30〜N60のように表すこともある)は、芳香族複素環基中の窒素原子を表す。R50は、N10とN20を結ぶ共有結合の最小値が2以上14以下である2価の基を表す。)
[11]下記式(4c)又は(5c)で示される、前記[10]記載の化合物

(式(4c)、(5c)中、X1〜X4、Y1〜Y4は前記の式(4a)又は(5a)と同義であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つは、前記の式(1)で表される基を含む基である。)
[12]前記の[8]〜[11]の何れかに記載の化合物を配位子Lとして有する、前記[1]〜[8]の何れかに記載の多核錯体
[13]前記の[1]〜[7]又は[12]に記載の多核錯体を縮合して得られる縮合体
[14]縮合に係る反応温度が150℃未満である[13]に記載の縮合体
[15]前記の[1]〜[7]又は[12]に記載の多核錯体を1種以上と、該多核錯体と共縮合しうるモノマーとを、共縮合して得られる共縮合体
[16]縮合に係る反応温度が150℃未満である[15]に記載の共縮合体
[17]前記の[1]〜[7]又は[12]の何れかに記載の多核錯体、[13]又は[14]に記載の縮合体、[15]又は[16]に記載の共縮合体から選ばれる、何れかを用いたレドックス触媒
【発明の効果】
【0007】
本発明の多核錯体および該多核錯体を縮合して得られる縮合体ならびに該多核錯体を共縮合して共縮合体は、レドックス触媒として有用である。特に該縮合体と該共縮合は過酸化水素分解触媒として用いた場合、フリーラジカルの発生を抑制しつつ水と酸素に分解することが可能であり、これまで開示されている多核錯体触媒と異なり溶媒に不溶な不均一系触媒である。このような不均一系触媒は、反応系からの触媒分離回収や材料への複合化が容易であり、高分子電解質型燃料電池や水電解装置の劣化防止剤や、医農薬や食品の抗酸化剤などの用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好ましい実施形態を以下に示す。
【0009】
本発明の多核錯体は、複数の金属原子を含むものである。該金属原子は無電荷であっても、荷電しているイオンでもよい。
さらに、本発明の多核錯体は、前記の(i)〜(iv)の要件を満足する配位子Lを少なくとも1つ有する。
【0010】
本発明の多核錯体は、金属原子を複数有するが、該金属原子の個数は、2以上8以下が好ましく、2以上4以下がさらに好ましく、2つ又は3つであると特に好ましい。
一方、配位子Lは1つ以上を有するものであるが、該配位子Lの個数は、1以上6以下が好ましく、1以上3以下がさらに好ましく、1つ又は2つがとりわけ好ましく、1つが特に好ましい。
【0011】
該金属原子は、遷移金属原子から選ばれ、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。該遷移金属原子の具体例としては、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛からなる群から選ばれる第一遷移元素系列の遷移金属又は遷移金属イオン;イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン等を例示することができる。
好ましくは、前記の第一遷移元素系列の遷移金属原子;ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金から選ばれる遷移金属原子であり、
より好ましくは、第一遷移元素系列の遷移金属又は遷移金属イオン;ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ランタン、セリウム、サマリウム、ユウロピウム、イッテルビウム、ルテチウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金から選ばれる遷移金属又は遷移金属イオンであり、
さらに好ましくは、前記の第一遷移元素系列の遷移金属原子であり、
とりわけ好ましくはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅であり、中でもマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅から選ばれる遷移金属原子が特に好ましい。
【0012】
また、配位子Lは、上記要件(i)として、上記式(1)で表される1価の基及び/又は上記(2)で表される2価の基を少なくとも1つ有するものである。配位子Lは、これらの2種の基を併せ持っていてもよく、これらの基が複数ある場合は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0013】
式(1)で表される1価の基について説明する。
10は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表し、該アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロヘキシル基等、直鎖アルキル基、分岐アルキル基又はシクロアルキル基のアルキル基が例示される。また、これらのアルキル基に置換基を有していてもよく、ヒドロキシ基、メルカプト基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、ハロゲノ基(フルオロ基、クロロ基、ブロモ基又はヨード基)、アミノ基、炭素数1〜4程度のアルキルオキシ基等、を挙げることができ、アルキルオキシ基を置換基として有する場合、総炭素数が10以下になるように選ばれる。
炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基から選ばれ、これらに、前記のアルキル基と同様の置換基や、炭素数1〜4程度のアルキル基あるいは炭素数1〜4程度のアルコキシ基で置換されていてもよい。アルコキシ基若しくはアルキル基を置換基として有する場合、その総炭素数が10以下になるように選ばれる。
これらの例示の中でも、R10としてはメチル基、エチル基、ブチル基、フェニル基が好ましい。
一方、R20は水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜6のアシルオキシ基又は-O-P(O)(OR50)2(ここでR50は水素原子、1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す)で表される基から選ばれる基であり、炭素数1〜6のアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基が挙げられ、これらは前記アルキル基と同様の置換基を有していてもよい。アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基などが例示され、前記アルキル基の置換基として例示した置換基や、炭素数1〜4程度のアルキル基で置換されていてもよく、アルコキシ基若しくはアルキル基を置換基として有する場合は、その総炭素数が10以下になるようにする。
アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基などが例示され、前記アルキル基の置換基として例示した基や、炭素数1〜4程度のアルコキシ基あるいはアルキル基で置換されていてもよく、アルコキシ基若しくはアルキル基を置換基として有する場合は、その総炭素数が10以下になるようにする。
-O-P(O)(OR50)2[ただし、R50は前記と同義である]で表される基としては、リン酸エステル基、ジメチルホスフェート基、ジエチルホスフェート基などが例示される。
これらの例示の中でも、R20としては水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基、アセトキシ基が好ましく、水酸基、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0014】
式(1)中、nは1、2又は3であり、好ましくは2又は3であり、より好ましくは3である。
【0015】
前記式(1)で示される基の中で、好ましくは、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、トリブトキシシリル基、トリヘキシルオキシシリル基、トリフェノキシシリル基、トリトルイルオキシシリル基、トリナフチルオキシシリル基、トリアセトキシシリル基、トリプロピオニルオキシシリル基、トリブチリルオキシシリル基、トリピバロイルオキシシリル基、トリベンゾイルオキシシリル基を例示することができ、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、トリフェノキシシリル基、トリアセトキシシリル基がより好ましく、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基がさらに好ましく、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基がより好ましい。
また、上記に例示される基において、同一のSiに結合するアルコキシ基又はアリールオキシ基の一部が、空気中の水分によって加水分解され、シラノール基(R20の中で少なくとも1つが水酸基である基)となる場合もあるが、式(1)に示される、好ましい基としては、このように一部が加水分解された基や、全てのアルコキシ基又はアリールオキシ基部分が加水分解されたトリヒドロキシシリル基(−Si(OH)3)も含まれる。
【0016】
前記式(1)で示される基は、2価の連結基を併せ持つ下記式(1a)で示される基として、配位子L中に有していてもよい。

(式中、R10、R20及びnは式(1)と同等の定義であり、Aは2価の有機基を表す。)
式(1a)において、Aで表される2価の有機基としては、炭素数1〜16のアルキレン基、炭素数2〜60の2価の芳香族基(複素芳香族基を含む)等が挙げられ、これらの2価の基が連結された基でもよい。好ましい該連結基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基、トルイレン基、(1−メチル)エチレン基、(2−メチル)プロピレン基、(2,2−ジメチル)エチレン基、および下記の(1b)、(1c)、(1d)、又は(1e)で表される基が挙げられる。

【0017】
次に式(2)で表される2価の基について説明する。
式(2)中、R30は、前記式(1)のR10として例示した基が挙げられ、その好ましい例も同じである。R40としては前記式(1)のR20として例示した基が挙げられ、その好ましい例も同じである。
【0018】
式(2)中、mは1又は2であり、好ましくは2である。
【0019】
式(2)で表される2価の基として好ましくは、ジメトキシシリレン基、ジエトキシシリレン基、ジプロポキシシリレン基、ジブトキシシリレン基、ジヘキシルオキシシリレン基、ジフェノキシシリレン基、ジトルイルオキシシリレン基、ジナフチルオキシシリレン基、ジアセトキシシリレン基、ジプロピオニルオキシシリレン基、ジブチリルオキシシリレン基、ジピバロイルオキシシリレン基、ジベンゾイルオキシシリレン基が挙げられ、
さらに好ましくは、ジメトキシシリレン基、ジエトキシシリレン基、ジプロポキシシリレン基、ジフェノキシシリレン基、ジアセトキシシリレン基であり、特に好ましくは、ジメトキシシリレン基、ジエトキシシリレン基である。
また、上記に例示される基において、同一のSiに結合するアルコキシ基又はアリールオキシ基の一部が、空気中の水分によって加水分解され、シラノール基(R40の中で少なくとも1つが水酸基である基)となる場合もあるが、式(2)に示される、好ましい基としては、このように一部が加水分解された基や、全てのアルコキシ基又はアリールオキシ基部分が加水分解されたジヒドロキシシリレン基(−Si(OH)2−)も含まれる。
【0020】
配位子Lは、要件(ii)に記載のとおり、分子内に5個以上の配位原子を有する。ここで配位原子とは、「岩波 理化学辞典 第4版」(久保亮五他編、1991年1月10日発行、966頁、岩波書店)に記載のとおり、該金属原子の空軌道に電子を供与する非共有電子対を有し、金属原子と配位結合を生じる原子を示す。
前記配位子Lに存在する配位原子の好ましい個数は、5以上20以下であり、より好ましくは5以上12以下であり、さらに好ましくは、7以上10以下である。
また、本発明の多核錯体中の金属原子は、そのいずれもが配位子Lとの配位結合数が3以上であると好ましく、3以上20以下が好ましく、3以上7以下がより好ましく、4以上6以下がより好ましく、4もしくは5が特に好ましい。
【0021】
また、配位子Lは、前記配位原子の中から選ばれる少なくとも1つの配位原子が2つの金属原子に配位した配位原子であるか、あるいは前記配位原子から選ばれ、それぞれ異なる金属原子に配位する2つの配位原子をAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が1以上5以下となるような、AM1及びAM2の組合せを有することを必須要件とする。
ここで、1つの配位原子が2つの金属原子に配位するとは、該2つの金属原子が1つの配位原子で架橋された、いわゆる架橋配位していることを意味するものである。
また、それぞれ異なる金属原子に配位する、2つの配位原子をAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が1以上5以下となる、AM1及びAM2の組合せを有するものでもよい。このような、AM1とAM2が配位子L中にあれば、AM1と配位結合する金属原子をM1、AM2と配位結合する金属原子をM2としたとき、M1とM2が、多核金属錯体分子内で近接して位置され、触媒活性が優れたものを得ることができる。さらに、前記のAM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が4以下である組合せを有すると好ましく、3以下の組合せを有すると、より好ましく、2以下の組合せを有すると、さらに好ましく、1以下の組合せを有すると、とりわけ好ましい。
特に、配位子Lとしては、1つの配位原子で2つの金属原子と配位する架橋配位構造を形成できる配位原子を有すると好ましい。
【0022】
配位原子としては、炭素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子及び硫黄原子から選ばれる配位原子が好ましく、窒素原子、酸素原子、リン原子又は硫黄原子がより好ましく、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子がとりわけ好ましく、窒素原子又は酸素原子が特に好ましい。なお、複数の配位原子は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0023】
また、前記要件(iv)に示すように、配位子L自身、すなわち配位子Lとなりうる化合物は溶媒に可溶である。溶媒は特に限定されるものではないが、錯形成反応を円滑に生じさせ、多核錯体が容易に得られる溶媒が好ましい。
【0024】
さらに本発明の配位子L中の配位原子において、その中の1つの配位原子が、炭素−窒素二重結合上にある窒素原子であると好ましい。このような窒素原子を配位原子として含むと、レドックス触媒活性、特に過酸化物分解反応における触媒活性に優れるため、好ましい。
ここで、炭素−窒素二重結合上の窒素原子とは、ケトン化合物又はアルデヒド化合物のカルボニル基と、アミン化合物との縮合にて得られるイミノ基の窒素原子や、炭素−窒素二重結合を有する芳香族複素環の窒素原子が挙げられる。
【0025】
該炭素−窒素二重結合を有する芳香族複素環を配位子Lに有するとは、芳香族複素環分子、これらの芳香族複素環分子を含む縮合環分子から、水素原子を一つまたはそれ以上取り去って得られる1価以上の芳香族複素環基が配位子L中に存在することを意味する。
また、前記の芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
前記芳香族複素環分子とは、イミダゾ−ル、ピラゾ−ル、2H−1,2,3−トリアゾ−ル、1H−1,2,4−トリアゾ−ル、4H−1,2,4−トリアゾ−ル、1H−テトラゾ−ル、オキサゾ−ル、イソオキサゾ−ル、チアゾ−ル、イソチアゾ−ル、フラザン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1,3,5−トリアジン、1,3,4,5−テトラジン等の芳香族複素環分子が例示される。
また、前記縮合環分子としては、ベンゾイミダゾ−ル、1H−インダゾ−ル、ベンゾオキサゾ−ル、ベンゾチアゾ−ル、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キナゾリン、キノキサリン、フタラジン、1,8−ナフチリジン、プテリジン、フェナントリジン、1,10−フェナントロリン、プリン、プテリジン、ペリミジン等が例示される。
【0026】
前記に例示した芳香族複素環基の中でも、イミダゾ−ル、ピラゾ−ル、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾイミダゾ−ル、1H−インダゾ−ル、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、1,8−ナフチリジン、プリンの芳香族複素環分子又は縮合環分子から、水素原子を一つまたはそれ以上取り去って得られる1価以上の芳香族複素環基が好ましい。
【0027】
また、前記の芳香族複素環分子又は縮合環分子は1価の置換基を有していてもよく、その例として、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ニトロ基、ハロゲノ基(フルオロ基、クロロ基、ブロモ基又はヨード基)、カルバモイル基、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基(芳香族複素環基を含む)、前記アルキル基とオキシ基あるいはチオキシ基からなる、アルコキシ基又はアルキルチオキシ基、前記芳香族基と、オキシ基あるいはチオキシ基からなる、アリールオキシ基又はアリールチオキシ基、前記アルキル基又は前記芳香族基と。スルホニル基とからなるアルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基、前記アルキル基又は前記芳香族基とカルボニル基とからなる、アシル基又はアリールカルボニル基、前記アルキル基又は前記芳香族基と、オキシカルボニル基とからなるアルキルオキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基、前記アルキル基又は前記芳香族基を有していてもよいアミノ基、前記アルキル基又は前記芳香族基を有していてもよい酸アミド基、前記アルキル基及び/又は前記芳香族基を有していてもよいホスホリル基、前記アルキル基及び/又は前記芳香族基を有していてもよいチオホスホリル基、前記アルキル基及び/又は前記芳香族基を有するシリル基等が挙げられる。
【0028】
ここで、炭素数1〜50のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2,2−ジメチルブチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、イコシル基、トリアコンチル基、ペンタコンチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、アダマンチル基等の、直鎖アルキル基、分岐アルキル基又はシクロアルキル基などの、飽和炭化水素化合物から水素原子を一つ取り去って得られるアルキル基が挙げられる。
該アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜30のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜16のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。
【0029】
また、前記芳香族基(芳香族複素環基も包含する)の例としては、フェニル基、トルイル基、4−t−ブチルフェニル基、ナフチル基、フリル基、チオフェンイル基、ピロイル基、ピリジル基、フラザンイル基、オキサゾイル基、イミダゾイル基、ピラゾイル基、ピラジイル基、ピリミジイル基、ピリダジイル基、ベンゾイミダゾイル基、トリアジンイル基等、炭素数2〜60程度の芳香族化合物(芳香環複素環化合物も包含する)から水素原子を一つ取り去って得られる芳香族基が挙げられる。
該芳香族基としては、含有炭素数1〜30の芳香族基が好ましく、より好ましくは含有炭素数1〜16の芳香族基であり、さらに好ましくは含有炭素数1〜8の芳香族基である。
【0030】
さらに、前記の飽和炭化水素化合物又は芳香族化合物は、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、ハロゲノ基、又はシリル基(該シリル基には、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基から選ばれる基を3つ有する)を有していてもよく、さらには、上記式(1)で表される1価の基と上記式(2)で表される基とを併せて有していてもよい。
【0031】
本発明の多核錯体としては、前記配位子Lに加え、他の配位子を有していてもよい。他の配位子としてはイオン性でも電気的に中性の化合物でもよく、このような他の配位子を複数有する場合、これらの他の配位子は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0032】
前記他の配位子における電気的に中性の化合物としては、アンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、チアゾール、イソチアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、オキサミド、ジメチルグリオキシム、o―アミノフェノールなどの窒素原子含有化合物;水分子、フェノール、シュウ酸、カテコール、サリチル酸、フタル酸、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、ヘキサフルオロペンタンジオン、1,3−ジフェニルー1,3―プロパンジオン、2,2’−ビナフトールなどの酸素含有化合物;ジメチルスルホキシド、尿素などの硫黄含有化合物;1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−フェニレンビス(ジメチルホスフィン)などのリン含有化合物などが例示される。好ましくはアンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2´−ビピリジンN,N’−ジオキシド、オキサミド、ジメチルグリオキシム、o―アミノフェノール、水分子、フェノール、シュウ酸、カテコール、サリチル酸、フタル酸、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、ヘキサフルオロペンタンジオン、1,3−ジフェニルー1,3―プロパンジオン、2,2’−ビナフトールであり、より好ましくはアンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2´−ビピリジンN,N’−ジオキシド、o―アミノフェノール、フェノール、カテコール、サリチル酸、フタル酸、1,3−ジフェニルー1,3―プロパンジオン、2,2´−ビナフトール等が例示される。
【0033】
これらの中でも、電気的に中性な他の配位子としては、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、インドール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、フェニレンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2´−ビピリジンN,N´−ジオキシド、o―アミノフェノール、フェノールが好ましい。
【0034】
また、アニオン性を有する配位子としては、水酸化物イオン、ペルオキシド、スーパーオキシド、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオンなどのテトラアリールボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、水酸化物イオン、金属酸化物イオン、メトキサイドイオン、エトキサイドイオン等が挙げられる。好ましくは、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、水酸化物イオンが例示され、これらの中でも、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンが好ましい。
【0035】
さらに、前記アニオン性を有する配位子として例示したイオンは、本発明の多核金属錯体自体を電気的に中和する対イオンであってもよい。
【0036】
また、本発明の多核錯体は、電気的中性を保たせるようなカチオン性を有する対イオンとして持つ場合がある。カチオン性を有する対イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンなどのテトラアルキルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンなどのテトラアリールホスホニウムイオン等を例示され、具体的には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンであり、より好ましくはテトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンが挙げられる。
これらの中でも、カチオン性を有する対イオンとして、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンが好ましい。
なお、種々の対イオンを適宜使い分けることで、多核錯体の溶媒への溶解性や分散性などを調整することもできる。
【0037】
また、本発明の多核錯体は、分子量が6000以下であることが好ましい。このような分子量の範囲内であれば、多核錯体自体の合成が容易であるため好ましい。より好ましい分子量は5000以下であり、さらに好ましくは4000以下であり、特に好ましくは2000以下である。
さらに、多核錯体の分子量は、より低いほうが、後述する該多核錯体を縮合又は共縮合する際に、操作が簡便となるため好ましい。
【0038】
次に、本発明の多核錯体に係る配位子Lとして、好適な化合物について説明する。配位子Lは、前記のとおり、配位原子として炭素−窒素二重結合上の窒素原子を含むと、好ましく、特に該炭素−窒素二重結合上の窒素原子を、芳香族複素環基に有するものであると、さらに好ましい。
【0039】
このように、配位原子として炭素−窒素二重結合上の窒素原子を有する配位子Lは、文献(Anna L.Gavrilova and Brice Bosnich Chem.Rev.2004、104、349.)に記載された、Table 5(p.357)Ligand Number 52〜55、56a、56b、56c、57a、57b、57c、57d、58a、58b、58c、60;Table 7(p.360)中のLigand Number 73、74 ;Table 8(p.362)中のLigand Number 79、80、83、85 ;Table 9(p.364)中のLigand Number 90、91、92 ;Table 10(p.366)中のLigand Number 100〜111、113〜118;Table 11(p.370〜371)中のLigand Number 123〜132、134〜138、141〜147;Table 12(p.373)中のLigand Number 151、152、154〜157;Table 13(p.376)中のLigand Number 166、167;Table 14(p.377)中のLigand Number 174;Table 15(p.378)中のLigand Number 177の化合物中の水素原子を、上記式(1)で表される1価の基又は上記(1a)で表される1価の基に置換した化合物、あるいは上記の化合物中に上記(2)で表される2価の基を含む化合物等を例示することができる。
【0040】
上記の例示の中でも、とりわけ好ましい配位子Lとしては、炭素−窒素二重結合を含む芳香族複素環基をもつものが好ましく、上記文献中の、Table 5(p.357)Ligand Number 52〜55、56a、56b、56c、57a、57b、57c、57d、58a、58b、58c、60;Table 7(p.360)中のLigand Number 73、74 ;Table 8(p.362)中のLigand Number 79、80、83、85 ;Table 9(p.364)中のLigand Number 90、91、92 ;Table 10(p.366)中のLigand Number 100、101、106〜108、110、111、 113〜118;Table 11(p.370〜371)中のLigand Number 123、124、126、129、131、132、134〜138、141〜147;Table 12(p.373)中のLigand Number155〜157;Table 14(p.377)中のLigand Number 174;Table 15(p.378)中のLigand Number 177、179で表される化合物中の水素原子を、上記式(1)で表される1価の基又は上記(1a)で表される1価の基に置換した化合物、あるいは上記の化合物中に上記(2)で表される2価の基を含む化合物等を例示することができる。
【0041】
本発明の多核錯体における、配位子Lとしては、前記のような芳香族複素環基を有し、分子量が6000以下であると好ましく、このような観点を併せ、とりわけ、下記式(3)で示される化合物であると好ましい。
【0042】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4(以下、Ar1〜Ar4のように表わすこともある)はそれぞれ独立に芳香族複素環基を表し、R1、R2、R3、R4及びR5(以下、R1〜R5のように表すこともある)は2価の基を表し、Z1、Z2はそれぞれ独立に窒素原子又は3価の基を表す。Ar1〜Ar4、R1〜R5の中で少なくも1つに上記式(1)で示される1価の基及び/又は上記式(2)で示される2価の基を有する。)
【0043】
ここで、Ar1〜Ar4は前記に例示した芳香族複素環基が好ましく、例えば、イミダゾリル基、ピラゾリル基、2H−1,2,3−トリアゾリル基、1H−1,2,4−トリアゾリル基、4H−1,2,4−トリアゾリル基、1H−テトラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラジル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、1,3,5−トリアジリル基、1,3,4,5−テトラジリル基、ベンゾイミダゾイル基、1H−インダゾイル基、ベンゾオキサゾイル基、ベンゾチアゾイル基、キノリル基、イソキノリル基、シンノリル基、キナゾイル基、キノキサリル基、フタラジル基、1,8−ナフチリジル基、プテリジル基、カルバゾリル基、フェナントリジル基、1,10−フェナントロリル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基等を例示することができる。
また、これらの芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、前述のR20の置換基として例示で示した基と同様である。また、該置換基の置換位置や、数およびその組合せは任意である。また、該芳香族複素環基に、前記式(1)又は式(1a)で表される基が結合されていてもよく、前記式(2)で表される2価の基を有していてもよい。
【0044】
式(3)における芳香族複素環基Ar1〜Ar4として、好ましくは、ベンゾイミダゾイル基、ピリジル基、イミダゾイル基、、ピラゾイル基、オキサゾイル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、前記に例示したアルキル基を窒素上にもつN−アルキルベンゾイミダゾイル基、N−アルキルイミダゾイル基であり、
より好ましくは、ベンゾイミダゾイル基、ピリジル基、イミダゾイル基、ピラゾイル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、N−アルキルベンゾイミダゾイル基、N−アルキルイミダゾイル基であり、
さらにより好ましくは、ベンゾイミダゾイル基、N−アルキルベンゾイミダゾイル基、ピリジル基、イミダゾイル基、N−アルキルイミダゾイル基、ピラゾイル基であり、
特に好ましくは、ピリジル基、N−アルキルベンゾイミダゾイル基、N−アルキルイミダゾイル基である。
【0045】
また、R5は、配位原子又は配位原子を含む基を有していもよい2価の基であり、以下に示すアルキレン基、2価の芳香族基、及び2価のヘテロ原子を含む基から選ばれ、これらを任意につなぎ組み合わせた基でもよい。
【0046】
前記アルキレン基の例としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、オクタン、デカン、イコサン、トリアコンタン、ペンタコンタン、シクロヘプタン、シクロへキサン、アダマンタンなどの全炭素数1〜50程度の飽和炭化水素分子から水素原子を二つ取り去って得られるアルキレン基が挙げられる。
また、これらのアルキレン基は、任意の位置に置換基を有していてもよく、該置換基の数およびその組合せは任意であり、該置換基としては、前記の芳香族複素環分子又は縮合環分子の置換基の例示と同様なものを挙げることができる。
ここで、該アルキレン基としては、含有炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは含有炭素数1〜16であり、さらに好ましくは含有炭素数1〜8であり、特に好ましくは含有炭素数1〜4のアルキレン基である。
【0047】
また、前記2価の芳香族基の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ビフェニル、アセナフチレン、フェナレン、ピレン、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、1−ベンゾチオフェン、2−ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、カルバゾ−ル、キサンテン、キノリン、イソキノリン、4H−キノリジン、フェナントリジン、アクリジン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、プリン、プテリジン、ペリミジン、1,10−フェナントロリン、チアントレン、フェノキサチイン、フェノキサジン、フェノチアジン、フェナジン、フェナルサジンなどの芳香族化合物、複素環化合物又はこれらの化合物に置換基を有している化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基が挙げられる。
これらの中でも、好ましくは、ベンゼン、フェノール、p−クレゾール、ナフタレン、ビフェニル、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、1−ベンゾチオフェン、2−ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、カルバゾ−ル、キサンテン、キノリン、イソキノリン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、プリン、プテリジン、ペリミジンから選ばれる化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基であり、
より好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ピロール、ピリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドール、イソインドール、キノリン、イソキノリン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジンから選ばれる化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基であり、
さらに好ましくは、ベンゼン、フェノール、p−クレゾール、ナフタレン、ビフェニル、ピロール、ピリジン、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリダジン、インドール、イソインドール、キノリン、イソキノリン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジンから選ばれる化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基であり、
特に好ましくは、フェノール、p−クレゾール、ピリジン、ピラゾール、ピリダジン、1,8−ナフチリジン、1H−インダゾール、フタラジンから選ばれる化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基である。
これらの2価の芳香族基は、任意の位置に置換基を有していてもよく、該置換基の数およびその組合せは任意であり、該置換基としては、前記の芳香族複素環分子又は縮合環分子の置換基の例示と同様なものを挙げることができる。
【0048】
前記2価のヘテロ原子を含む基として、例えば以下の(E−1)〜(E−10)で示される基が挙げられる。

(式中、Ra、Re、Rf、Rgは炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基、炭素数1〜50のアルコキシ基、炭素数2〜60のアリールオキシ基、水酸基、又は水素原子を示す。Rbは炭素数1〜50のアルキル基、素数2〜60の芳香族基又は水素原子示し、Rd、Rcは炭素数1〜50のアルキル基又は炭素数2〜60の芳香族基を示す。)
【0049】
前記の例示の中でも、好ましくは、(E−1)、(E−2)、(E−3)、(E−4)、(E−5)、(E−7)、(E−8)、(E−10)であり、より好ましくは(E−1)、(E−2)、(E−4)、(E−7)、(E−10)であり、さらに好ましくは、(E−1)、(E−7)である。
【0050】
5は、その中に配位原子を含むと好ましい。該配位原子を含む官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、シアノ基、エーテル基、アシル基、エステル基、アミノ基、カルバモイル基、酸アミド基、ホスホリル基、チオホスホリル基、スルフィド基、スルホニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、インドリル基、イソインドリル基、カルバゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、キノキサリル基、キナゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基などが挙げられる。
好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、シアノ基、エーテル基、アシル基、アミノ基、ホスホリル基、チオホスホリル基、スルホニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、インドリル基、イソインドリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、キノキサリル基、キナゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、シアノ基、エーテル基、アシル基、アミノ基、ホスホリル基、スルホニル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリミジル基、ピリダジル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プテリジル基が挙げられる。とりわけ好ましいR5としては、下記に示す(R5−1)、(R5−2)、(R5−3)あるいは(R5−4)が例示でき、特に好ましくは(R5−1)である。


ここで、(R5−1)、(R5−2)における水酸基、(R5−3)のピラゾール環、(R5−4)のホスフィン酸基は、配位子として金属原子に配位する際に、プロトンを放出してアニオン性となることもある。
【0051】
式(3)中、R1〜R4は置換されてもよい2価の基であり、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。R1〜R4の例として、R5の例示で挙げた、前述のアルキレン基、2価の芳香族基、2価のヘテロ原子を含む有機基、及びこれらの基を任意につなぎ組み合わせた基と、同様なものを挙げることができる。R1〜R4として、好ましくはメチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、1,2−エチレン基、1,2−フェニレン基であり、より好ましくはメチレン基、1,2−エチレン基である。
【0052】
式(3)におけるZ1、Z2は窒素原子又は3価の有機基から選ばれ、3価の有機基としては例えば、下記の基が挙げられる。

(図中、Ra、Rcは、前記と同等の定義である。)
【0053】
とりわけ、Z1、Z2のどちらか一方が窒素原子であると好ましく、両方が窒素原子であると特に好ましい。具体的には前記式(3)で示される化合物が下記式(4)で示される化合物であると、配位子Lとして好ましい。

(式中、Ar1〜Ar4、R1〜R5は前記式(3)と同義であり、これらの中で少なくも1つに上記式(1)で示される1価の基及び/又は上記式(2)で示される2価の基を有する。)
【0054】
前記式(4)で示される化合物の中でも、下記式(4a)又は(5a)で示される化合物であると、さらに好ましい。


(式(4a)、(5a)中、R1〜R5は前記式(3)と同義である。X1、X2、X3及びX4(以下、X1〜X4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、窒素原子又はCHから選ばれる。Y1、Y2、Y3及びY4(以下、Y1〜Y4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基又は前記式(1)で表される基を含む基であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つは、前記の式(1)で表される基を含む基である。)
式(4a)又は式(4b)におけるY1〜Y4において、「式(1)で表される基を含む基」とは、式(1)で表される基自体であるか、又は前記式(1a)に表される基に代表される式(1)で表される基を含む、1価の基を示すものである。
【0055】
前記式(4a)又は式(5a)で示される化合物の中でも、下記式(4b)又は式(5b)で示される化合物は、製造上も容易であり、特に好ましい。


(式(4b)、(5b)中、X1〜X4、ならびにY1〜Y4は前記の式(4a)又は(5a)と同義である。Zは1もしくは2の整数を表す。N10、N20はR50と結合する窒素原子を表し、N30、N40、N50及びN60(以下、N30〜N60のように表すこともある)は、芳香族複素環基中の窒素原子を表す。R50は、N10とN20を結ぶ共有結合の最小値が2以上14以下である2価の基を表す。)
式(4b)又は式(5b)におけるY1〜Y4において、「式(1)で表される基を含む基」とは、式(1)で表される基自体であるか、又は前記式(1a)に表される基に代表される式(1)で表される基を含む、1価の基を示すものである。
【0056】
前記式(4b)又は式(4b)で示される化合物の中でも、下記式(4c)又は(5c)で示される化合物を配位子Lとして用いると、より安定な多核錯体を形成するため、特に好ましいものである。



(式(4c)、(5c)中、X1〜X4、Y1〜Y4は式(4a)、(5a)と同義であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つは、前記の式(1)で表される基を含む基である。)
【0057】
式(4c)又は式(5c)で示される化合物において、Y1〜Y4の中で少なくとも1つが前記式(1)で表される基を含む基である。
式(4c)又は式(5c)におけるY1〜Y4において、「式(1)で表される基を含む基」とは、式(1)で表される基自体であるか、又は前記式(1a)に表される基に代表される式(1)で表される基を含む、1価の基を示すものである。
ここで、Y1〜Y4の中で2つ以上が、上記式(1)で示される基を含む基であると好ましく、Y1〜Y4の中で2つ以上が、上記式(1)で示される基を含む基であると、さらに好ましく、Y1〜Y4が全て、上記式(1)で示される基を含む基であると、特に好ましい。
【0058】
先述の好ましい化合物を配位子Lとして有する錯体の合成法としては、種々の方法を用いることができる。その例として、主に以下の2つを挙げることができる。
第一の例として、一旦、炭素−炭素二重結合や炭素−炭素三重結合を有する基をもつ多核錯体を合成し、その後、該多核錯体中の炭素−炭素二重結合部位または炭素−炭素三重結合部位とヒドロシランとのヒドロシリル化反応により、上記式(1)または(2)で示される基を錯体に導入する合成法が挙げられる。具体例としては、後述する実施例に記載のMn−(bbpr−SiOR)−OTf、Mn−vb−(bbpr−CH2StSiOR)−vbSiOR、Co−(bbpr−CH2StSiOR)−BPh4、Ni−(bbpr−CH2StSiOR)−BPh4、Cu−(bbpr−CH2StSiOR)−BPh4、又はFe−(bbpr−CH2StSiOR)−BPh4の合成法が挙げられる。
【0059】
第二の例として、上記の配位子Lを与える化合物と、遷移金属化合物とを、溶媒中で混合する方法等を挙げることができる。配位子Lを与える化合物は、配位子Lの前駆体化合物または配位子化合物すなわち配位子Lそのものの構造で示される化合物が挙げられる。該遷移金属化合物は、該溶媒に可溶性のものが好ましい。好ましい配位子Lとしては、上記に例示されるようなものが挙げられる。好ましい該遷移金属化合物としては、溶媒に可溶性の遷移金属塩が挙げられる。該遷移金属塩中の好ましい遷移金属原子としては、上記に例示されるようなものが挙げられる。また、該錯体形成反応に、適当な塩を添加することで、錯体触媒中の対イオンを添加した塩に由来のものに変更することも可能である。好ましい添加塩は前述の好ましい対イオンを含むものである。
【0060】
上述のヒドロシリル化反応に用いられるヒドロシランとしては、トリクロロシランもしくは下記式(100)で示されるヒドロシランなどが挙げられる。トリクロロシランを用いた場合、ヒドロシリル化反応後に生成物をアルコリシスもしくは加水分解することで前記式(1)で示される基を多核錯体に導入することができる。
【0061】

(式中、R10、R20、nは前記式(1)と同義である。)
【0062】
式(100)で示されるヒドロシランについて、好ましくはnは2又は3であり、より好ましくは3である。
好ましいヒドロシランとしては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン、トリヘキシルオキシシラン、トリフェノキシシラン、トリトルイルオキシシラン、トリナフチルオキシシラン、トリアセトキシシラン、トリプロピオニルオキシシラン、トリブチリルオキシシラン、トリピバロイルオキシシラン、トリベンゾイルオキシシランを例示することができ、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリフェノキシシラン、トリアセトキシシランがより好ましく、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシランがさらに好ましく、トリメトキシシラン、トリエトキシシランがより好ましい。
【0063】
また、上記に例示されるヒドロシランにおいて、同一のSiに結合するクロロ基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基の一部が、空気中の水分などによって加水分解され、シラノール基となる場合もある。式(100)に示されるヒドロシランとしては、このように一部が加水分解されたものも含まれる。
【0064】
前述のヒドロシリル化反応では、反応を促進させる触媒を用いることが好ましい。触媒としては、文献(有機合成のための触媒反応103、第1版第1刷、檜山為次郎・野崎京子共著、東京化学同人、p114〜115)に記載のヘキサクロロ白金(IV)酸やKarstedt触媒等を例示することができる。
【0065】
前述のヒドロシリル化反応について、反応の雰囲気として空気中で行うことができるが、好ましくは窒素ガスやアルゴンガス等の不活性雰囲気下で行うのが好ましい。該ヒドロシリル反応は、無溶媒でも溶媒を用いてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒は脱水処理して用いるのが好ましい。この溶媒としては、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、これらから選ばれる2種以上の混合溶媒でもよい。
【0066】
前記の文献(Anna L.Gavrilova and Brice Bosnich Chem.Rev.2004、104、349.のLigand Number110(Table 10(p.366))に基づき、金属原子が2つの、好ましい多核錯体としては、例えば、式(6)で示される錯体が例示できる。

ここで、配位子L中、配位原子を含む芳香族複素環基(Ar1〜Ar4)として、ベンズイミダゾリル基を4つ有し、ベンズイミダゾリル基の中で1つの窒素原子が配位原子(N1、N2、N3及びN4と表す)として、M1又はM2に配位し(M1又はM2に結合する点線は配位結合を示す)、このベンズイミダゾリル基の他方の窒素原子には重合反応性を有するシリルアルキル基を有する。R1〜R4で示される連結基としてメチレン基、R5としては、アルコラート基を架橋配位原子(O1と表す)として有するトリメチレン基を有するものである。さらに配位子L以外の配位子として、酢酸イオンを有し(配位原子としてO2、O3を有する)、対イオンとして、トリフルオロメタンスルホン酸イオンを2分子有する。また、xは2又は3を示し、R60はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はフェニル基を表す。
なお、窒素配位原子、酸素配位原子に表記した数字は、後述の配位原子間の共有結合数を説明するにあたり、区別のために表記したものである。
【0067】
式(6)に示す錯体において、M1とM2にそれぞれ配位する配位原子間に存在する共有結合数を説明する。
式(6)の錯体では、M1−O1−M2間では、M1とM2が同一配位原子O1で配位しており、
1−O2−O3−M2間では、配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が2であり、
1−O1−N6−M2間とM2−O1−N5−M1間では、その配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が3であり、
1−N5−N6−M2間では、配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が4となる。
このような配位原子の組合せを有する多核錯体は、M1とM2が近接して存在する配位構造を有する多核錯体であり、このような多核錯体は触媒活性に富むため好ましい。
【0068】
本発明の多核錯体は、配位子Lの式(1)で表される基及び/又は式(2)で表される基を有するものであり、これらの基による縮合反応により、縮合体を得ることが可能となる。該縮合体も熱安定性に優れた触媒となりうるものである。
【0069】
また、該多核錯体は、1種類または複数種類の、式(1)で表される又は式(2)で表される基に対して、縮合反応を生じうるモノマーと共縮合することで共縮合体へと誘導することもでき、該共縮合体も熱安定性に優れた触媒となりうる。
共縮合は前述の多核錯体を少なくも1種類以上と、該モノマーを1種類以上とを共に縮合することで行われる。種々の該モノマーを組み合わせて、様々な多核錯体比、モノマー比で共縮合を行うことができる。ここで、該モノマーとしては、シラン化合物、金属アルコキシド化合物、金属水酸化物などの種々の化合物を用いることができる。
【0070】
シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;テトラフェノキシシラン等のテトラアリーロキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルケニルトリアルコキシシラン類;ビニルトリアセトキシシラン等のアルケニルトリアシロキシシラン類;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニル等のアリールトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン類;ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアリールジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等のトリアルキルモノアルコキシシラン類;トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等のトリアリールモノアルコキシシラン類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)クリロキシアルキルトリアルコキシシラン類;γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)クリロキシアルキルアルキルジアルコキシシラン類;3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等のシクロアルキルアルキルトリアルコキシシラン類;γ−グリシドキシプロピルトリメトシキシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトシキシランの如きグリコキシアルキルトリアルコキシシラン類;γ−グリシドキシプロピルメチルジエトシキシラン等のグリコキシアルキルアルキルジアルコキシシラン類;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲノアルキルトリアルコキシシラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトアルキルトリアルコキシシラン類;γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプトアルキルアルキルジアルコキシシラン類;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキルトリアルコキシシラン類;γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノアルキルアルキルジアルコキシシラン類;N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキルトリアルコキシシラン類;パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロブチルトリエトキシシラン等のパーフルオルアルキルトリアルコキシシラン類;3−パーフルオロエトキシプロピルトリメトキシシラン等のパーフルオルアルコキシアルキルトリアルコキシシラン類;ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジエトキシシラン等が挙げられる。
【0071】
また、前記シラン化合物として、前記に例示したシラン化合物の部分縮合物も用いることができる。このような部分縮合物としては、例えば、テトラアルコキシシラン類の部分縮合物、アルキルアルコキシシラン類の部分縮合物等が挙げられる。
【0072】
テトラアルコキシシラン類の部分縮合物は、一般に市販されている市販品を用いてもよく、例えば、コルコート社製の「エチルシリケート40」、「メチルシリケート51」、「メチルシリケート56」、多摩化学工業社製の「エチルシリケート40」、「エチルシリケート45」、などが挙げられる。また、アルキルアルコキシシラン類の部分縮合物の市販品としては、例えば、信越化学工業社製の「KC89」、「KR500」、「KR213」、東レ・ダウコーニング社製の「DC3037」、「SR2402」、東芝シリコーン社製の「TSR145」等が挙げられる。
【0073】
また、金属アルコキシドとしては、例えば、ニオブペンタエトキシド、マグネシウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、トリ−n−ブトキシアルミニウム、亜鉛ジプロポキシド、テトラ−iso−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、バリウムジエトキシド、バリウムジイソプロポキシド、トリエトキシボラン、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−iso−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、ランタントリプロポキシド、イットリウムトリプロポキシド、鉛ジイソプロポキシド等が挙げられる。
【0074】
さらに、金属水酸化物の例としては、前述のシラン化合物や金属アルコキシドを部分的に加水分解して得られる化合物等を挙げることができる。
【0075】
縮合性を有するモノマーとして好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニルが挙げられ、
より好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニルが挙げられ、
さらに好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、1、4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニルの如きアリールトリアルコキシシランが挙げられ、
特に好ましくは4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニルの如きアリールトリアルコキシシランである。
【0076】
縮合あるいは共縮合としては、無溶媒で行うこともできれば、反応溶媒を用いて行うこともできる。通常は反応溶媒の存在下に行われ、反応系は均一系でも不均一系でもよい。反応溶媒は特に限定されるものではないが、例えば、水、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。反応溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。中でも水は、前記の式(1)で表される基のSi−R20、又は式(2)で表される基のSi−R40を加水分解によりシラノール基(Si−OH)に転化させる効果を有し、該シラノール基は(共)縮合に係る反応活性を高めることができるので、(共)縮合反応を促進することができる。それゆえ、反応溶媒としては水を含む反応溶媒が好ましく、具体的には、水−テトラヒドロフラン、水−アセトニトリル、水−アセトン、水−メタノール、水−エタノール、水−イソプルパノール、水−エチレングリコール、水−(2−メトキシエタノール)、水−(1−メチル−2−ピロリジノン)、水−ジメチルホルムアミド、水−ジメチルスルホキシド、水−酢酸が好適である。
より好ましくは、水−テトラヒドロフラン、水−アセトニトリル、水−メタノール、水−エタノール、水−イソプルパノール、水−エチレングリコール、水−(2−メトキシエタノール)であり、
特に好ましくは、水−テトラヒドロフラン、水−アセトニトリル、水−メタノール、水−エタノールである。
【0077】
縮合あるいは共縮合の工程の一般的な手法としては、まず前記多核錯体を溶媒に分散させる。ここで、必要に応じて後述の縮合触媒や添加剤を併用してもよい。また、共縮合の場合は、ここに前述の共重合し得るモノマーも共存させておく。この多核錯体を含む混合物を攪拌し、縮合反応させる。この後、混合物から反応溶媒と揮発成分を乾燥除去することで縮合体あるいは共縮合体を得ることができる。この乾燥除去は減圧下で行ってもよい。
【0078】
前述の縮合あるいは共縮合の反応工程や、溶媒と揮発成分を乾燥除去する工程(乾燥工程)は加熱条件下で行うこともでき、このような加熱により、反応工程、乾燥工程の迅速化が可能である。加熱条件の上限温度としては、好ましくは300℃未満であり、より好ましくは、250℃未満であり、さらに好ましくは200℃未満であり、特に好ましくは150℃未満である。該加熱条件の下限温度は、用いた反応溶媒の種類や、用いた多核錯体や生成した(共)縮合体が分解等により損なわない範囲で適宜最適化できる。より好ましい加熱条件の温度としては、20℃以上300℃未満であり、さらに好ましくは40℃以上250℃未満であり、特に好ましくは60℃以上150℃未満であり、適用した多核錯体の構造が損なわれない温度範囲で適宜決定される。なお、「多核錯体の構造が損なわれる」とは、該多核錯体にある配位結合の全てが切断されることを意味する。
また、前述の縮合あるいは共縮合の反応工程や、溶媒と揮発成分を乾燥除去する工程は必要に応じて、減圧下あるいは加圧下で行ってもよい。
【0079】
前記の縮合あるいは共縮合には触媒(縮合触媒)を使用してもよい。使用可能な縮合触媒の例としては、以下の酸性化合物又は塩基性化合物を挙げることができる。
酸性化合物の例としては、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、ギ酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
また、塩基性化合物の例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ルビジウム、リン酸セシウム、アンモニア、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムブトキシド、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。
該縮合触媒としては塩基性化合物が好ましく、より好ましくは、前記の例示の中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジンであり、さらに好ましくは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、アンモニアであり、特に好ましくは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアである。
【0080】
また、縮合あるいは共縮合に適用可能な添加剤の例としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、含フッ素界面活性剤などの界面活性剤、レベリング剤、増粘剤、コルコート社製の「HAS1」、「HSA6」、東レ・ダウコーニング社製の「DC6−2230」、「SH6018」等のオルガノシラン類、金属アルコキシド類の加水分解物等の硬化助剤、各種カップリング剤等の接着助剤、染顔料、体質顔料等の着色剤、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等のコロイダル微粒子、酸化チタン、酸化錫、ATO、ITO等の金属酸化物ゾル、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、過酸化物、ジアゾ化合物等、各種の添加剤を挙げることができる。
【0081】
前記のようにして得られた多核錯体、該多核錯体を縮合して得られた縮合体又は該多核錯体と他のモノマーから得られた共縮合体は多核錯体自体のユニークな触媒能を有する不均一系触媒であり、レドックス触媒等に好適に用いることが可能となる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記の実施例において配位子になり得る多核錯体を単に「配位子」と略記することもある。
【0083】
製造例1[配位子の合成]
下記式(7)に示される化合物(以下、bbpr−allyl配位子と呼ぶ)をJ.Am.Chem.Soc.1984、106、pp4765−4772.に記載のHL-Et配位子に準拠して合成した。すなわち、2−ヒドロキシ−1,3−ジアミノプロパン四酢酸と、o−ジアミノベンゼンと反応させ、次いでアリルクロライドを用いることでアリル化し、bbpr−allyl配位子を収率71%で得た。1H−NMR(0.05%(v/v)TMS CDCl3溶液)を測定した結果、4〜6ppmのピークからアリル基が導入されたことを確認した。1H−NMRのチャートを図1に示す。

【0084】
実施例1[多核錯体の製造]
J.Am.Chem.Soc.1994、116、pp891−897に記載の方法に準拠して、多核錯体(以下、Mn−(bbpr−allyl)−OTfと呼ぶ)を合成した。すなわち、製造例1で得られたbbpr−allyl配位子を、酢酸中ナトリウムトリフレートと混合し、更に酢酸マンガン四水和物と混合することで、Mn−(bbpr−allyl)−OTfを得た(収率80%)。
元素分析Calcd for C51526Mn21092:C,49.52;H.4.24;N,11.32.Found:C,49.55;H,4.37;N,11.71.
【0085】
[ヒドロシリル化反応]
次いで、得られたMn−(bbpr−allyl)−OTf100mg(0.0808mmol)をエタノール(30ml)に溶解させた後、トリエトキシシラン(60μl、3.20×10-4mmol)とKarstedt触媒のキシレン溶液(0.1mol/L、3μl)を加え65℃にて、4日間攪拌した。反応後、溶媒を減圧除去することで下記式(8)で示されるMn−(bbpr−SiOR)−OTf(113mg)を得た。得られた多核錯体は、IRスペクトル及びラマンスペクトルより出発錯体のアリル基の消失と生成錯体へのシリル基の導入を同定した。
これらの反応操作は、グローブボックスおよびシュレンク技法を用いて窒素雰囲気下で行い、エタノールとトリエトキシシランはそれぞれマグネシウムで乾燥・蒸留したものを使用した。得られた錯体の元素分析を行ったところ、C、40.50;H、5.20;N、7.07;Mn、6.01であった。
なお、下記式(8)において「(CF3SO32」の表記は2当量のヘキサフルオロメチルスルホン酸イオンが対イオンとしてあることを表す。

(式中、Y100は下記に示すトリエトキシシリル基を含む基の何れかを示し、4つのY100は同一でも異なっていてもよい。)

【0086】
実施例2[共縮合体の製造1]
実施例1で得られたMn−(bbpr−SiOR)−OTf(99.2mg)をエタノール(800μl)に溶解させた後、1、4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン(210μl、5.29×10-4mol)を加え、そこに、水(70μl)と水酸化ナトリウムのエタノール溶液(1.01mol/L、760μl)からなる混合溶液を加えた。生成したゲルを水洗浄、次いで遠心分離した後、真空乾燥することでMn−(bbpr−SiOR)−OTfと1、4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼンが共縮合した共縮合体である(Mn−(bbpr−silox)−OTf/DSB)120mgを得た。なお、本例において用いたエタノールは全て乾燥蒸留を行ったものである。
得られた共縮合体のマンガン含有量の分析(ICP発光分析)を行ったところ、4.00重量%であった。
【0087】
実施例3[共縮合体の製造2]
実施例1で得られたMn−(bbpr−SiOR)−OTf(39.7mg)をエタノール(400μl)に溶解させた後、1、4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン(84μl、2.11×10-4mol)を加え、そこに、水(122μl)と水酸化リチウムのエタノール溶液(0.581mol/L、172μl)からなる混合溶液を加えた。生成したゲルを80℃下2時間乾燥した後、乳鉢で粉砕し、エタノール/水混合溶液(1/1(v/v))で洗浄、80℃下2時間真空乾燥することでMn−(bbpr−SiOR)−OTfと1、4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼンが共縮合した共縮合体(Mn−(bbpr−silox)−OTf/DSB)40.9mgを得た。なお、本例において用いたエタノールは全て乾燥蒸留を行ったものである。
得られた共縮合体のマンガン含有量の分析(ICP発光分析)を行ったところ、3.72重量%であった。
【0088】
実施例4[共縮合体の過酸化水素分解試験1]
実施例2で得られた(Mn−(bbpr−silox)−OTf/DSB)11.59mgを25ml二口フラスコに量り取った。ここに、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を酒石酸/酒石酸ナトリウム緩衝溶液(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0)に、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)を濃度21.1mg/mlとなるよう溶解させた溶液(1.00ml)を加え、次いでエチレングリコール(1.00ml)を加えて攪拌した。これを触媒混合溶液として用いた。
【0089】
この触媒混合溶液の入った二口フラスコの一方の口にセプタムを取り付け、もう一方の口をガスビュレットへ連結した。このフラスコを反応前熱処理として80℃下5分間攪拌した後、過酸化水素水溶液(11.4mol/l、0.20ml(2.28mmol))をシリンジで加え、80℃下20分間、過酸化水素分解反応を行った。発生する酸素をガスビュレットにより測定し、分解した過酸化水素を定量した。この後、反応溶液を水/アセトニトリル混合溶液(水:アセトニトリル=7:3(v/v))で溶液量が10.0mlになるよう希釈し、この溶液をシリンジフィルターで濾過した。この濾液をGPC測定(測定条件は後述の通りである)し、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量を求めた。さらに、試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量を銅条件にてGPC測定して比較することで、過酸化水素が1電子移動で生じるフリーラジカルによって、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)がどの程度低分子量化したか調べ、発生フリーラジカル量を見積もった。重量平均分子量結果を表1に示す。
【0090】
GPC(重量平均分子量測定)の分析条件
カラム :東ソー(株)製TSKgel α−M
(13μm、7.8mmφ×30cm)
カラム温度:40℃
移動相 :50mmol/l酢酸アンモニウム水溶液:CH3CN
=7:3(v/v)
流速 :0.6ml/min
検出器 :RI
注入量 :50μl
分子量算出:重量平均分子量はポリエチレンオキサイド換算値で求めた。
【0091】
さらに、上記過酸化水素分解実験で、発生した酸素をガスビュレットにより測定した実測の体積値を、下式により、水蒸気圧を考慮した0℃,101325Pa(760mmHg)下の条件に換算して求め、過酸化水素分解量を定量した。換算した発生酸素量の経時変化(図中、経過時間をtとする)を図2に示す。

(式中、P:大気圧(mmHg)、p:水の蒸気圧(mmHg)、t:温度(℃)、v:実測の発生気体体積(ml)、V:0℃、101325Pa(760mmHg)下の気体体積(ml)を示す。)
【0092】
実施例5[共縮合体の過酸化水素分解試験2]
実施例3で得られた(Mn−(bbpr−silox)−OTf/DSB)12.41mgを用いて、実施例4と同様に共縮合体の過酸化水素分解試験を行った。ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量結果を表1に、前記の方法で換算した発生酸素量の経時変化のグラフを図3に、それぞれ示す。
【0093】
【表1】

【0094】
図2および図3より、過酸化水素の分解に伴う酸素が経時的に発生することが判明し、本発明のこれらの不均一系触媒は過酸化水素の分解触媒活性を持つことが明らかとなった。
また、表1から、実施例4および実施例5の反応系にそれぞれ共存させたサンプルのポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量は、試験前の標品のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)のそれと比べ、ほぼ同程度の値であった。これより、本発明のこれらの不均一系触媒はフリーラジカルの発生を抑制して過酸化水素を分解していることがわかり、本発明の共縮合体は高い触媒選択性を有することが明らかとなった。
【0095】
実施例6[共縮合体の製造3]
Mn−(bbpr−SiOR)−OTf(60.0mg)をエタノール(12.0ml)、4、4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニル(145μl、3.17×10-4mol)、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム4.86mgを水142μlに溶解させたもの)を7日間攪拌混合した。生成したゲルを遠心分離し、エタノール洗浄、水洗浄した後、80℃で乾燥することで、Mn−(bbpr−SiOR)−OTfと4、4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニルが共縮合した共縮合体(Mn−(bbpr−silox)−OTf/DSbP)57.0mgを得た。
【0096】
製造例2[配位子の合成]
製造例1と同様に、J.Am.Chem. Soc.1984、106、pp4765−4772.に記載のHL-Et配位子の合成に準拠し、製造例1のアリルクロリドに代えて、4−クロロメチルスチレンを用いることで、下記式(9)で示されるbbpr−CH2Stを収率85%で得た。1H−NMR(0.05%(v/v)TMS CDCl3溶液)を測定した結果、5〜8ppmのピークから−CH2St基が導入されたことを確認した。1H−NMRのチャートを図4に示す。

【0097】
製造例3[多核錯体前駆体の合成]
フラスコにp-ビニル安息香酸 (10.1 g, 67.5 mmol)、水酸化ナトリウム水溶液 (10.2 g, 64.1 mmol)を量りとり、ここに水 140 mlを加え攪拌溶解させ、不溶成分を濾別し、p-ビニル安息香酸ナトリウム水溶液を調整した。別途フラスコに、Mn(SO4)・5H2O(7.74 g, 32.1 mmol)と水 50 mlとを量りとり、攪拌溶解させた。ここに前述のp-ビニル安息香酸ナトリウム水溶液を加え、室温下2時間攪拌した。生成した沈殿を濾取し、水洗浄、ether洗浄した後、減圧乾燥させることでp−ビニル安息香酸マンガン・4水和物の白色粉末を得た。収量5.87 g(13.9 mmol)43%。元素分析Calcd for C1822MnO8:C,51.32;H.5.26.Found:C,51.63;H,5.16.
【0098】
実施例7[多核錯体の製造]
フラスコにbbpr−CH2St(400 mg、 0.372 mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(43.2 mg、 0.335 mmol)を量りとり、ここにテトラヒドロフラン 54 mlを加え攪拌溶解させた。ここにp−ビニル安息香酸マンガン・4水和物 (313 mg、 0.744 mmol)を加え、室温下2時間攪拌した。この反応混合物を減圧下濃縮し、MeOHを加えて生成した沈殿を濾取し、水洗浄とエーテル洗浄を行なった後、減圧乾燥させることでベージュ色粉末の下記式(10)で示されるMn−vb−(bbpr−CH2St)−vbを得た。なお、括弧内の表記は、対イオンとしてあるビニル安息香酸イオンを表す。
収量122 mg。ESI MS[M−(p−ビニル安息香酸アニオン)]+=1477.4。

【0099】
[ヒドロシリル化反応]
次いで、得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−vb(105mg)をテトラヒドロフラン(30ml)に溶解させた後、トリエトキシシラン(167μl)とKarstedt触媒のキシレン溶液(3wt%、195μl)を加え室温にて、7日間攪拌した。反応後、溶媒を減圧除去することで下記式(11)で示されるMn−vb−(bbpr−CH2StSiOR)−vbとトリエトキシシランの反応生成物Mn−vb−(bbpr−CH2StSiOR)−vbSiOR 180mgを得た。得られた反応生成物は、IRスペクトルより生成錯体へのシリル基の導入を同定した。
これらの反応操作は、グローブボックスおよびシュレンク技法を用いて窒素雰囲気下で行い、テトラヒドロフランとトリエトキシシランはそれぞれマグネシウムで乾燥・蒸留したものを使用した。


(式中、Y200は下記に示すトリエトキシシリル基を含む基の何れかを示し、7つあるY200は同一でも異なっていてもよい。)


【0100】
実施例8[多核錯体の製造]
フラスコに製造例2で得たbbpr−CH2St(1.46g、1.36 mmol)、ジ(イソプロピル)エチルアミン(0.160g、1.24 mmol)、および酢酸コバルト・4水和物(0.686mg、2.75 mmol)をそれぞれ量り取り、ジメチルスルホキシド(50ml)に溶解させた。これを1時間攪拌した後、ナトリウムテトラフェニルボレート(0.941mg、 5.50 mmol)を加えて30分間攪拌した。この反応混合物に水を加えて生成した沈殿を濾取し、水洗浄と、エーテル洗浄をした後、真空乾燥することで下記式(12)で示されるCo−(bbpr−CH2St)−BPh4を得た。なお、式(12)において「(BPh42」の表記は、2当量のヘキサフェニルボロンイオンが対イオンとしてあることを示す。
収量2.48g (62%) 。ESI MS[M−(BPh4)]+= 1570.6。

【0101】
[ヒドロシリル化反応]
次いで、得られたCo−(bbpr−CH2St)−BPh4(105mg)をテトラヒドロフラン(30ml)に溶解させた後、トリエトキシシラン(96μl)とKarstedt触媒のキシレン溶液(3wt%、96μl)を加え室温にて、7日間攪拌した。反応後、溶媒を減圧除去することで下記式(13)で示されるCo−(bbpr−CH2StSiOR)−BPh4とトリエトキシシランの縮合物(220mg)を得た。得られた多核錯体は、IRスペクトルより生成錯体へのシリル基の導入を同定した。

これらの反応操作は、グローブボックスおよびシュレンク技法を用いて窒素雰囲気下で行い、テトラヒドロフランとトリエトキシシランはそれぞれマグネシウムで乾燥・蒸留したものを使用した。

(式中、Y200は下記に示すトリエトキシシリル基を含む基の何れかを示し、4つあるY200は同一でも異なっていてもよい。)

【0102】
実施例9[多核錯体の製造]
酢酸コバルト・4水和物(0.686mg、 2.75 mmol)の代わりに酢酸ニッケル・4水和物(0.687mg、 2.75 mmol)を用いて、実施例8の[多核錯体の製造]と同様に錯形成反応を行なうことで、下記式(14)で示されるNi−(bbpr−CH2St)−BPh4を得た。なお、式(14)において「(BPh42」の表記は、2当量のヘキサフェニルボレートイオンが対イオンとしてあることを示す。
収量2.55g (62%) 。ESI MS[M−(BPh4)]+= 1568.5。

【0103】
[ヒドロシリル化反応]
次いで、Co−(bbpr−CH2St)−BPh4のかわりにNi−(bbpr−CH2St)−BPh4(105mg)を用いて、実施例8の[ヒドロシリル化反応]と同様な反応を行ない、下記式(15)で示されるNi−(bbpr−CH2StSiOR)−BPh4とトリエトキシシランの反応物を得た(200mg)。得られた反応物は、IRスペクトルより生成錯体へのシリル基の導入を同定した。

(式中、Y200は下記に示すトリエトキシシリル基を含む基の何れかを示し、4つあるY200は同一でも異なっていてもよい。)


【0104】
実施例10[多核錯体の製造]
酢酸コバルト・4水和物(0.686mg、 2.75 mmol)の代わりに酢酸銅(II)・1水和物(0.549mg、 2.75 mmol)を用いて、実施例8の[多核錯体の製造]と同様に錯形成反応を行なうことで、下記式(16)で示されるCu−(bbpr−CH2St)−BPh4を得た。なお、式(16)において「(BPh42」の表記は、2当量のヘキサフェニルボレートイオンが対イオンとしてあることを示す。
収量2.39g (78%) 。

【0105】
[ヒドロシリル化反応]
次いで、Co−(bbpr−CH2St)−BPh4のかわりにCu−(bbpr−CH2St)−BPh4(101mg)を用いて、実施例8の[ヒドロシリル化反応]と同様な反応を行ない、下記式(17)で示されるCu−(bbpr−CH2StSiOR)−BPh4とトリエトキシシランの反応物を得た(178mg)。得られた反応物は、IRスペクトルより生成錯体へのシリル基の導入を同定した。

(式中、Y200は下記に示すトリエトキシシリル基を含む基の何れかを示し、4つあるY200は同一でも異なっていてもよい。)

【0106】
実施例11[多核錯体の製造]
酢酸コバルト・4水和物(0.686mg、 2.75 mmol)の代わりに塩化鉄(II)・4水和物(0.545mg、 2.77 mmol)を用いて、実施例8の[多核錯体の製造]と同様に錯形成反応を行なうことで、下記式(18)で示されるFe−(bbpr−CH2St)−BPh4を得た。なお、式(18)において「(BPh42」の表記は、2当量のヘキサフェニルボレートイオンが対イオンとしてあることを示す。
収量2.77g (62%) 。

【0107】
[ヒドロシリル化反応]
次いで、Co−(bbpr−CH2St)−BPh4のかわりにFe−(bbpr−CH2St)−BPh4(99.5mg)を用いて、実施例8の[ヒドロシリル化反応]と同様な反応を行ない、下記式(19)で示されるFe−(bbpr−CH2StSiOR)−BPh4とそのアルコキシシラン部位の部分縮合物を得た(122mg)。得られた多核錯体は、IRスペクトルより生成錯体へのシリル基の導入を同定した。


(式中、Y200は下記に示すトリエトキシシリル基を含む基の何れかを示し、4つあるY200は同一でも異なっていてもよい。)

【0108】
実施例12[多座配位子の製造]
bbpr−allyl(15mg)をアセトニトリル(40ml)と混合し、トリエトキシシラン(100μl)とKarstedt触媒のキシレン溶液(3wt%、1滴)を加え65℃にて、4日間攪拌した。反応後、溶媒を減圧除去することで下記式(20)を含むヒドロシリル化生成物bbpr−allylSiORを得た。
これらの反応操作は、グローブボックスおよびシュレンク技法を用いて窒素雰囲気下で行い、アセトニトリルとトリエトキシシランはそれぞれ水素化カルシウムとマグネシウムで乾燥・蒸留したものを使用した。
得られた該生成物について、1Hおよび13CNMRスペクトルより同定を行なった。すなわち、1HNMRでは、出発物のアリル基に由来するシグナル(4.5〜6.0ppm)の消失と生成物のY100に由来するシグナル(1.5ppm、0.6ppm)が観測された。13CNMRでも、出発物のアリル基に由来のシグナル(132ppm、116ppm)の消失と生成物のY100に由来するシグナル(14ppm、11ppm、8ppm、3ppm)が観測された。

(式中、Y100は下記に示すトリエトキシシリル基を含む基の何れかを示し、4つのY100は同一でも異なっていてもよい。

また、Y300は水素原子であるか、下記の何れかの基を示す)

【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】製造例1 bbpr−allyl配位子の1H−NMR分析チャート
【図2】実施例4における発生酸素量の経時変化
【図3】実施例5における発生酸素量の経時変化
【図4】製造例2 bbpr−CH2St配位子の1H−NMR分析チャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、下記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の要件を備える配位子Lを1つ以上と、複数の金属原子とを含む、多核錯体。
(i) 下記式(1)で示される1価の基及び/又は下記式(2)で示される2価の基を有すること。

[式中、R10及びR30は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表し、同一のSiに結合する複数のR10又はR30がある場合は、それらは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。R20及びR40は、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアシルオキシ基、又は-O-P(O)(OR50)2で表される基を表し(ここでR50は水素原子、1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、2つのR50は同じでも異なっていてもよい)、同一のSiに結合する複数のR20又はR40がある場合は、それらは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。nは1、2又は3であり、mは1又は2である。]
(ii) 金属原子と配位する配位原子を5個以上有すること。
(iii) 前記配位原子から選ばれる少なくとも1つの配位原子が2つの金属原子に配位した配位原子であること、又は前記配位原子から選ばれ、それぞれ異なる金属原子に配位する2つの配位原子をAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が1以上5以下となる、AM1及びAM2の組合せを有すること。
(iv) 配位子L自身が溶媒に可溶であること。
【請求項2】
配位子Lの配位原子が、窒素原子、酸素原子、リン原子又は硫黄原子である請求項1に記載の多核錯体。
【請求項3】
配位子Lの配位原子の中で少なくとも1つが、炭素−窒素二重結合上の窒素原子である請求項1又は2に記載の多核錯体。
【請求項4】
分子内に含まれる金属原子の総和が8以下である、請求項1〜3の何れかに記載の多核錯体。
【請求項5】
分子内に含まれる金属原子が、第一遷移元素系列の遷移金属原子である、請求項1〜4の何れかに記載の多核錯体。
【請求項6】
配位子Lが1つであり、且つ金属原子が2つである、請求項1〜5の何れかに記載の多核錯体。
【請求項7】
分子量が6000以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の多核錯体。
【請求項8】
下記式(3)で示される化合物。

(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4(以下、Ar1〜Ar4のように表わすこともある)はそれぞれ独立に芳香族複素環基を表し、R1、R2、R3、R4及びR5(以下、R1〜R5のように表すこともある)は2価の基を表し、Z1、Z2はそれぞれ独立に窒素原子又は3価の基を表す。Ar1〜Ar4、R1〜R5の中で少なくも1つに下記の式(1)で示される1価の基及び/又は上記式(2)で示される2価の基を有する。)

[式中、R10及びR30は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表し、同一のSiに結合する複数のR10又はR30がある場合は、それらは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。R20及びR40は、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアシルオキシ基、又は-O-P(O)(OR50)2で表される基を表し(ここでR50は水素原子、1〜10のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、2つのR50は同じでも異なっていてもよい)、同一のSiに結合する複数のR20又はR40がある場合は、それらは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。nは1、2又は3であり、mは1又は2である。]
【請求項9】
下記式(4a)又は(5a)で示される、請求項8記載の化合物。

(式(4a)、(5a)中、R1〜R5は前記式(3)と同義である。X1、X2、X3及びX4(以下、X1〜X4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、窒素原子又はCHから選ばれる。Y1、Y2、Y3及びY4(以下、Y1〜Y4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基又は前記式(1)で表される基を含む基であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つは、前記の式(1)で表される基を含む基である。)
【請求項10】
下記式(4b)又は(5b)で示される、請求項9記載の化合物。

(式(4b)、(5b)中、X1〜X4、ならびにY1〜Y4は前記の式(4a)又は(5a)と同義である。Zは1もしくは2の整数を表す。N10、N20はR50と結合する窒素原子を表し、N30、N40、N50及びN60(以下、N30〜N60のように表すこともある)は、芳香族複素環基中の窒素原子を表す。R50は、N10とN20を結ぶ共有結合の最小値が2以上14以下である2価の基を表す。)
【請求項11】
下記式(4c)又は(5c)で示される、請求項10記載の化合物。

(式(4c)、(5c)中、X1〜X4、Y1〜Y4は前記の式(4a)又は(5a)と同義であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つは、前記の式(1)で表される基を含む基である。)
【請求項12】
請求項8〜11の何れかに記載の化合物を配位子Lとして有する、請求項1〜7の何れかに記載の多核錯体。
【請求項13】
請求項1〜7又は請求項12に記載の多核錯体を縮合して得られる縮合体。
【請求項14】
縮合に係る反応温度が150℃未満である請求項13記載の縮合体。
【請求項15】
請求項1〜7又は請求項12に記載の多核錯体を1種以上と、該多核錯体と共縮合しうるモノマーとを、共縮合して得られる共縮合体。
【請求項16】
縮合に係る反応温度が150℃未満である請求項15記載の共縮合体。
【請求項17】
請求項1〜7又は請求項12の何れかに記載の多核錯体、請求項13又は14に記載の縮合体、請求項15又は16に記載の共縮合体から選ばれる、何れかを用いたレドックス触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−238604(P2007−238604A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26565(P2007−26565)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】