説明

多段圧延機のワイピング装置およびその運転方法

【課題】圧延速度を加減速しても圧延材にスリップ傷を発生させず、かつワイピングロールの不具合によって圧延材を蛇行させたり、圧延材エッジ通過部に損傷を与えてワイピング効果を低下させることのない多段圧延機のワイピング装置およびその運転方法を提供する。
【解決手段】圧延油を付与しつつ圧延材1を圧延した後に、前記圧延材1上の圧延油を除去しながら巻き取る多段圧延機のワイピング装置であって、前記多段圧延機4と圧延油を除去する第1のワイピング装置5,5aとの間に、前記圧延材1の上下に対向して配置された一対のローラ7,7aからなるピンチローラ型の第2のワイピング装置6,6aを設けるとともに、この第2のワイピング装置6,6aの一対のローラ7,7aが、低慣性材料からなる内層とその外周を覆う金属製外筒とを有する複層構造からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延綱帯等の圧延材に圧延油を付与した後に、前記圧延材上の圧延油を除去しながら巻き取る多段圧延機のワイピング装置およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯等の圧延材を圧延する際には、圧延油をロールバイト部分に供給する。そして、この圧延油の一部は鋼帯表面に付着したままとなるため、そのままの状態で鋼帯を巻き取ると鋼帯に横滑りが生じる。また、上記圧延油は付着したままで回収されないため、圧延油の原単位を悪化させる一因となる。
【0003】
このため、リバース圧延機の入出側やタンデム圧延機の出側等には、通常、鋼帯表面に付着している圧延油や冷却水を拭き取り除去するためのワイピング装置が設けられている。一般に使用されている上記ワイピング装置としては、例えば、ロール式のワイピング装置とパッド式のワイピング装置がある。
【0004】
前記ロール式のワイピング装置は、搬送される鋼帯の上下に対向して設けられた各ワイピングロールを鋼帯表面に押し付けてこの鋼帯を挟み込み、鋼帯の圧延速度に合わせて上下各ワイピングロールを回転させることによって、鋼帯表面の圧延油等を拭き取り除去するものである。
【0005】
従来例に係るこのようなロール式のワイピング手段について、所謂ロールレベラー型ワイパーの概略を示す説明図である図7を用いて説明する。本従来例に係るロールレベラー型ワイパー35は、圧延鋼帯31の下面に当接させる1本の金属製小径ロール32と、前記圧延鋼帯31の上面に当接させる2本の金属製小径ロール33,34とを、圧延鋼帯31の長手方向に千鳥状に配列し、かつ前記各ロール32,33,34の変形を防止するためのバックアップロール32a,33a,34aからなる(特許文献1参照)。
【0006】
このロールレベラー型ワイパー35は、鋼帯31の板厚が薄くなってくると、鋼帯31にかかる張力が減少するため、ロール面への接触圧力が小さくなってワイピング性能が悪化するとともに、ロール32,33,34と鋼帯31間にスリップが発生し、両者に擦過傷を生じる。良好なワイピング状態を保持するためには、鋼帯圧延速度を制限する必要がある。
【0007】
また、上記パッド式のワイピング手段では、パッドを擦過させながら鋼帯表面に付着した圧延油を拭き取るため、前記ロール式に比べて鋼帯に擦過傷を付け易く、表面品質の厳しい鋼帯には使用できないという問題がある。
【0008】
これらロール式およびパッド式の問題点を改善するため提案されている従来例に係るワイピング手段について、その実施例を示す概略図である図8を用いて以下説明する。このワイピング方法は、冷間圧延ライン中に、ロールレベラー型ワイパー45とピンチロール型ワイパー47とを直列に配置し、板厚1mm以上の圧延鋼帯41は前記ロールレベラー型ワイパー45へ通板させ、板厚1mm未満の圧延鋼帯41は前記ピンチロール型ワイパー47へ通板させるようにした圧延鋼帯41における圧延油のワイピング方法である(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭61−140318号公報
【特許文献1】特開平5−76922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来例に係るワイピング方法によれば、ロールレベラー型ワイパー45とピンチロール型ワイパー47とを直列に配置してあるから、板厚1mm以上の圧延鋼帯41は前記ロールレベラー型ワイパー45へ通板させ、板厚1mm未満の圧延鋼帯は前記ピンチロール型ワイパー47へ通板させることによって、全ての板厚の圧延鋼帯41において圧延の高速化と良好なワイピングが行えると記載されている。
【0010】
しかしながら、前記ピンチロール型ワイパー47においては、圧延材をロール間で挟み込んで圧延油を拭い取るため、前記圧延材とロールの接触は避けることができず、スリップ傷が発生するということの他、下記のような問題点を有している。
(1)加減速時の圧延材およびローラ表面のスリップ傷発生
(2)樹脂系ロールの軸方向線圧差発生による圧延材の蛇行発生
(3)樹脂系ロールの圧延材エッジ通過損傷によるワイピング効果低下
【0011】
上記3点の問題点について、以下詳細に説明する。先ず、第(1)項の問題点は、圧延時の圧延材圧延速度を加減速した時、圧延材速度にピンチロールが追従せずにスリップを生じ、圧延材およびローラ表面にスリップ傷が発生する問題である。このような傷の発生した鋼帯は、それ自体不良品となったり、二次加工で傷発生部に鍍金が付与できず欠陥となって顕在化したりする。また、ローラ表面に付与された傷が大きいと、圧延時に鋼帯に転写され同様な品質問題を生ずる。
【0012】
また、前記ピンチロール型ワイパー用のローラには、樹脂系ローラが用いられることが多々ある。このような樹脂系ローラを採用する目的は、圧延油の付与前後でローラ面摩擦係数の変化を低減するためや、多孔質樹脂ローラを構成してローラ内を真空化し圧延油を吸引除去するためであるが、次のような問題点を有している。即ち、第(2)項の問題点として、膨潤や摩耗により軸方向にロール径差が発生し両ロール間の軸方向線圧差を生じる結果、圧延材が蛇行する。
【0013】
更に、この樹脂系ロールは、第(3)項の問題点として、前記圧延材の幅が狭い場合、そのエッジ通過部の損傷によりその部分での油膜が厚くなり、仕上げワイパーでのワイピング効果が低下する問題点がある。
【0014】
従って、本発明の目的は、圧延速度を加減速しても圧延材にスリップ傷を発生させず、かつワイピングロールの不具合によって圧延材を蛇行させたり、圧延材エッジ通過部に損傷を与えてワイピング効果を低下させることのない多段圧延機のワイピング装置およびその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る多段圧延機のワイピング装置が採用した手段は、圧延油を付与しつつ圧延材を圧延した後に、前記圧延材上の圧延油を除去しながら巻き取る多段圧延機のワイピング装置であって、前記多段圧延機と圧延油を除去する第1のワイピング装置との間に、前記圧延材の上下に対向して配置された一対のローラからなるピンチローラ型の第2のワイピング装置を設けるとともに、この第2のワイピング装置の一対のローラが、低慣性材料からなる内層とその外周を覆う金属製外筒とを有する複層構造であることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項2に係る多段圧延機のワイピング装置が採用した手段は、請求項1に記載の多段圧延機のワイピング装置において、前記第2のワイピング装置が前記圧延材とローラ間の圧力を調整するローラ圧力調整手段を備えていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の請求項3に係る多段圧延機のワイピング装置が採用した手段は、請求項1または2に記載の多段圧延機のワイピング装置において、前記第2のワイピング装置のローラを構成する低慣性材料が、繊維強化複合材料であることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の請求項4に係る多段圧延機のワイピング装置の運転方法によれば、請求項2に記載の多段圧延機のワイピング装置の運転方法において、前記ローラ圧力調整手段によって、ヘルツの公式から求められる次式(1)の最大ローラ接触面圧P[MPa]が、10MPa以下となるように調整して運転することを特徴とするものである。
=4.099×√{qE(r+r)/r} (1)
ここで、q:ローラ単位長さ当りの線荷重[kgf/mm],
E:ローラの縦弾性係数[kgf/mm],
,r:ピンチローラ各々の半径[mm]
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1に係る多段圧延機のワイピング装置によれば、圧延油を付与しつつ圧延材を圧延した後に、前記圧延材上の圧延油を除去しながら巻き取る多段圧延機のワイピング装置であって、前記多段圧延機と圧延油を除去する第1のワイピング装置との間に、前記圧延材の上下に対向して配置された一対のローラからなる第2のワイピング装置を設けたものである。
【0020】
同時に、この第2のワイピング装置のローラが、低慣性材料からなる内層とその外周を覆う金属製外筒とを有する複層構造としたので、圧延速度への追従性が向上し圧延材のスリップ傷発生を緩和できる。また、樹脂系ローラの欠点である軸方向線圧差発生による圧延材の蛇行を防止できる。更に、圧延材エッジ通過部の損傷を防ぎ、ワイピング効果の低下を防止できる。
【0021】
一方、本発明の請求項2に多段圧延機のワイピング装置によれば、前記第2のワイピング装置が、前記圧延材とローラ間の圧力を調整するローラ圧力調整手段を備えているので、このローラ圧力調整手段によって前記ローラと圧延材との隙間を流体潤滑状態となるよう調整することによって、圧延材に引っ掻き傷が発生する恐れがなくなる。
【0022】
また、本発明の請求項3に係る多段圧延機のワイピング装置によれば、前記第2のワイピング装置のローラを構成する低慣性材料が繊維強化複合材料であるので、強化繊維の物理的特性によって、樹脂系ローラの欠点であるローラの膨張や摩耗に伴う軸方向線圧差の発生を防止できる。また、併せて、ローラの外層は金属製外筒とした複層構造であるため圧延材エッジ通過によるローラ面の損傷を防止できる。
【0023】
本発明の請求項4に係る多段圧延機のワイピング装置の運転方法によれば、前記ローラ圧力調整手段によって、ヘルツの公式から求められる次式(1)の最大ローラ接触面圧P[MPa]が、10MPa以下となるように調整して運転するので、圧延材とローラ間が油膜の介在した状流体潤滑状態に保持され、圧延材にローラ接触傷を発生させる恐れがなくなる。
=4.099×√{qE(r+r)/r} (1)
ここで、q:ローラ単位長さ当りの線荷重[kgf/mm],
E:ローラの縦弾性係数[kgf/mm],
,r:ピンチローラ各々の半径[mm]
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
先ず、本発明の実施の形態1に係る多段圧延機のワイピング装置の概要について、圧延設備の全体構成図である図1を用いて以下に説明する。
【0025】
図1は、圧延材1を図面上左右何れの方向にも搬送可能なリバース式多段圧延機の全体構成を示し、符号4が多段圧延機である。即ち、圧延材1が巻取リール3aから繰り出されて図面上右方向に搬送され、巻取リール3により巻取られつつ圧延されるときは、デフレクタロール2aを介して多段圧延機4に導入されて、圧延油を付与されつつ圧延処理される。
【0026】
そして、その後、第2のワイピング装置6により、圧延材1に付着した圧延油が前処理として除去され、更に、第1のワイピング装置5により、圧延材1上に残存する圧延油が本格除去処理される。このとき、前記多段圧延機4より上流側の第1のワイピング装置5aおよび第2のワイピング装置6aのローラ等圧延油除去手段は、後述するように、圧延材1への接触を回避し、圧延材1へは何らの作用もしないよう調整される。
【0027】
また逆に、圧延材1が巻取リール3から繰り出され、巻取リール3aの巻取によって図面上左方向に搬送されつつ圧延されるときは、デフレクタロール2を介して多段圧延機4で圧延油を付与されつつ圧延された後、第2のワイピング装置6aにより圧延材1に付着した圧延油が前処理として除去され、更に、第1のワイピング装置5aにより、圧延材1上に残存する圧延油が本格除去処理される。
【0028】
このときは、多段圧延機4より上流側の第1のワイピング装置5および第2のワイピング装置6のローラ等圧延油除去手段は、上記と同様、圧延材1への接触を回避し、圧延材1へは何の作用もしないよう調整されるのである。前記第1のワイピング装置5および5aは、圧延材1に付与された圧延油を本格的に除去するためのロールレベラー型ワイパーやパッド式ワイパー等を用いることができる。
【0029】
一方、前記第2のワイピング装置6および6aは、夫々多段圧延機4と前記第1のワイピング装置5および多段圧延機4と前記第1のワイピング装置5aとの間にあって、前記圧延材1の上下に対向して各々配置された一対のローラ7および7aからなるピンチローラ型ワイピング装置であるのが好ましい。
【0030】
そして、この第2のワイピング装置6および6aは、前記第1のワイピング装置5および5aの前処理として、圧延油除去機能を補完するものである。従って、前記第1のワイピング装置5および5aの負担を軽減して、油切り効果を向上させることを目的としている。
【0031】
即ち、前記第2のワイピング装置6および6aがない場合には、前記第1のワイピング装置5および5aのみで圧延材上に残存する圧延油を除去しなければならず、前記第1のワイピング装置5および5aへの負担が非常に大きくなって、除去し切れなかった圧延油が圧延材上に残留することになる。
【0032】
これに対し、前記第2のワイピング装置6および6aによって圧延油を粗取りすることができれば、前記第1のワイピング装置5および5aへの負担が軽くなるばかりでなく、除去し切れずに圧延油が圧延材1上に残留するような問題点を解消し得る。
【0033】
尚、図1に示したリバース式圧延機の場合は、双方向圧延のため、多段圧延機4の両側に前記第1のワイピング装置5,5aおよび第2のワイピング装置6,6aを設けているが、一方向圧延のみの多段圧延機4のワイピング装置の場合は、圧延材搬送方向の多段圧延機4後流側のワイピング装置のみを設ければ足りる。
【0034】
次に、本発明の実施の形態1に係る多段圧延機のワイピング装置とその運転方法について、ピンチローラ型ワイピング装置の模式的立断面を示した図2、図2のA−A矢視を模式的横断面で示した図3を用いて以下に説明する。
【0035】
このピンチローラ型ワイピング装置10は、圧延材1の上下に対向して配置された一対のローラ11を有し、このローラ11は駆動源を持たないフリーローラである上ローラ11aと下ローラ11bとで構成されている。そして、前記下ローラ11aは軸受13bを介して下フレーム12bに固定されている。
【0036】
前記下フレーム12bは、架台16に取り付けられた軸14を上下にスライドできるよう構成され、下ローラ11bのローラ面が圧延材のパスラインより少し低い程度の高さ位置になるよう、軸14に取り付けられたストッパー15bで固定される。
【0037】
一方、上ローラ11aは、軸受13aに取り付けられ、後述するローラ圧力調整手段17aを介して上フレーム12aに固定されている。前記上フレーム12aは、下フレーム12bと同様に、前記軸14を上下にスライドできるよう構成され、ストッパー15aで適当な高さに固定される。
【0038】
そして、前記上フレーム12aは、下フレーム12bにその一端を固定され、上フレーム12aに他端を固定されたローラ開閉手段17bによって、自重によりストッパー15aで位置決めされている高さより上方に持ち上げることが可能なように構成されている。
【0039】
更に、前記上フレーム12aにはローラ圧力調整手段17aの一端が固定され、このローラ圧力調節手段17aの他端は、上ローラ11aの軸受13aに固定されている。尚、前記ローラ開閉手段17bやローラ圧力調整手段17aには、油圧シリンダーやエアシリンダーを適用することができる。
【0040】
即ち、前記ローラ開閉手段17bにより上フレーム12aを持ち上げることによって、上ローラ11aと下ローラ11bとのローラ間を、開閉することができる。前記ローラ開閉手段17bが開作動したときは、上ローラ11aが持ち上げられ、上下ローラ11a,11bともパスラインから退避し圧延材1に接触しない。圧延材1を通板させたり、このワイピング装置10を使用しないときは、このような開状態にする。そして、ワイピング時は、圧延開始前に上下ローラ11a,11bを閉状態にする。
【0041】
そして、本発明に係る多段圧延機のワイピング装置10の運転方法は、このようなローラ圧力調整手段17aによって、ヘルツの公式から求められる次式(1)の最大ローラ接触面圧P[MPa]が、10MPa以下となるように調整して運転するのが好ましい。前記最大ローラ接触面圧Pを10MPa以下とすれば、圧延材とローラ間が油膜の介在した流体潤滑状態に保持され、圧延材にローラ接触傷を発生させる恐れがなくなるからである。
【0042】
=4.099×√{qE(r+r)/r} (1)
ここで、q:ローラ単位長さ当りの線荷重[kgf/mm],
E:ローラの縦弾性係数[kgf/mm],
,r:ピンチローラ各々の半径[mm]
上式(1)において、記号√は{ }で示した括弧内の式の平方根を示す。また、qの値は、前記ローラ圧力調節手段17aを駆動させる流体の作動圧から換算して求めることができる。
【0043】
次に、流体潤滑の作用について、図3のX部上半面を拡大して示した概念図である図4を用いて以下説明する。図4は、一点鎖線で示す圧延材1の板厚中心より上半面のみを表示しており、圧延材1と上ローラ11aとの間に油膜20が形成された流体潤滑状態であることを示している。
【0044】
即ち、今、ローラ表面粗度をRa、圧延材表面粗度をRaとすれば、圧延材1と上ローラ11aとで形成される油膜厚さDとの間に、次式(2)の関係が成立した状態にある。
D>Ra+Ra (2)
【0045】
このような流体潤滑状態では、ローラ表面粗度Raと圧延材表面粗度Raの和より、油膜厚さDの方が大きいのであるから、上ローラ11aが圧延材1に接触して傷付けることがない。同様に、下ローラ11bと圧延材1との間においても、(2)式の関係が成立するので、下ローラ11bが圧延材1に接触して傷付けることもない。
【0046】
この場合、前記ローラ11aおよび11bは、ローラ断面を示す模式的断面図である図5のように、低慣性材料からなる内層S2とその外周を覆う金属製外筒S1とで構成される複層構造からなるものが好ましい。更に、前記低慣性材料としては、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を樹脂で接着した繊維強化複合材料であるのが好ましい。
【0047】
因みに、通常の圧延装置に用いられる金属ローラは、中心部が中空の炭素鋼等の金属から構成されるので、多大な重量となる。その結果、慣性が大きくなるため、圧延速度の変化に追随することができないという欠点を有する。
【0048】
一方、樹脂ローラは、S1が樹脂製の外筒、S2が炭素鋼等の金属からなる二層構造であるが、図示しない軸部も炭素鋼等の金属を使用しているため、相当な重量を有することとなる。その結果、前記金属ローラと同様、結果的に慣性が大きくなって、圧延速度の変化に追随することができないという欠点を有している。
【0049】
本発明に係る多段圧延機のワイピング装置は、上述したように、前記ローラが、低慣性材料からなる内層S2とその外周を覆う金属製外筒S1とで構成される複層構造とすることによってローラの軽量化が図れ、その結果、低慣性のローラ構成とすることにより、圧延材の圧延速度の変化に追随することができる。
【0050】
次に、本発明の実施の形態2に係る多段圧延機のワイピング装置について、多段圧延機に付帯されたクリッピングローラの配置を変更して、第2のワイピング装置として転用することを示す全体構成図である図6を用いて以下に説明する。尚、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、第2のワイピング装置が、図1に示したように独立した装置でない所に相違がありその他は同構成であるから、上記実施の形態1と同一のものに同一符号を付して、その相違する点について以下説明する。
【0051】
即ち、本発明の実施の形態2に係る多段圧延機のワイピング装置は、図6(a)に示した多段圧延機4に付帯された圧延材のしわ取り用のクリッピングローラ21のローラ配置を変更して、図6(b)に示すような一対の上下ローラ11a,11bからなるピンチローラ11として構成される。
【0052】
更に、図2,3を用いて説明したように、前記上下ローラ11a,11bを開閉するためのローラ開閉手段や、前記上下ローラ11a,11b間の接触面圧を調整するためのローラ圧力調整手段を、この多段圧延機4に付帯させることもできる。
【0053】
そして、圧延材1搬送方向を、図6(a)に示す元もとの図面上左方向から、図6(b)の如く右方向に変更するとともに、第1のワイピング装置5aを多段圧延機4の下流側に配置し直したものである。
【0054】
このような対応を図ることによって、前記多段圧延機4の圧延部と圧延油を除去する第1のワイピング装置5aとの間に、前記圧延材1の上下に対向して配置されたピンチローラ型の第2のワイピング装置を、前記多段圧延機4に付帯させて設け、本発明に係るワイピング装置およびその運転方法を、既存の圧延装置を利用して実施することもできる。
【0055】
以上、本発明に係る多段圧延機のワイピング装置およびその運転方法によれば、前記多段圧延機と圧延油を除去する第1のワイピング装置との間に、圧延材の上下に対向して配置された一対のローラからなる第2のワイピング装置を設けるとともに、この第2のワイピング装置のローラが、低慣性材料からなる内層とその外周を覆う金属製外筒とを有する複層構造としたので、圧延速度への追従性が向上し圧延材のスリップ傷発生を緩和することができる。
【0056】
また、前記低慣性材料を、炭素繊維やガラス繊維等によって強化された繊維強化材料とすることによって、ローラの軽量化に伴う慣性の低減が図られるとともに、金属製外筒とすることにより外径の膨潤や摩耗が抑制されるので、樹脂系ローラの欠点である軸方向線圧差発生による圧延材の蛇行を防止できる。
【0057】
また、前記第2のワイピング装置が、前記圧延材とローラ間の圧力を調整するローラ圧力調整手段を備えているので、このローラ圧力調整手段によって、前述した式(1)の最大ローラ接触面圧Pが10MPa以下となるように調整して運転することにより、圧延材とローラ間が油膜の介在した流体潤滑状態に保持され、圧延材にローラ接触傷を発生させる恐れがなくなる。
<実施例>
【0058】
次に、図1に示したような同一の圧延ラインを用い、第2のワイピング装置のローラとして、本発明に係る複層構造のローラ、金属ローラおよび樹脂ローラに順次取り替えて、下記共通条件にて圧延材を圧延テストしたテスト結果について述べる。
【0059】
共通条件
・圧延機 :ワークロール胴長650mm 12段圧延機
・圧延材 :厚さ0.05mm、幅550mmのステンレス鋼
・圧延速度 :200〜300m/min.
【0060】
上記テストにおいて、第2のワイピング装置用ローラとして、炭素繊維強化樹脂を低慣性材料として構成した本発明に係るローラを使用した場合を実施例−1,2、前記第2のワイピング装置用ローラとして、金属ローラまたは樹脂ローラを使用した場合を比較例−1〜4とし、各々圧延材や前記ローラへの傷発生の有無、圧延材の蛇行および圧延材エッジ通過損傷の有無について確認した結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例−1は、式(1)で計算される最大ローラ接触面圧Pを8MPaの流体潤滑状態として圧延テストした結果であり、実施例−2は、前記最大ローラ接触面圧Pを12MPaの境界潤滑状態として圧延テストした結果を示している。
【0063】
そして、炭素繊維強化樹脂を低慣性材料として構成した本発明に係るローラを用いたこれらの実施例のうち、最大ローラ接触面圧Pが10MPa以下の流体潤滑状態にある前記実施例−1においては、全ての評価項目において特に不具合の発生は認められなかった。一方、10MPa以上の境界潤滑状態として圧延テストした実施例−2においては、前記ローラと圧延材間の金属接触に起因する圧延材の接触傷の発生が認められた。
【0064】
次に、金属ローラを使用した比較例−1および2においては、ローラの膨潤による圧延材の蛇行や表面硬度不足による圧延材エッジ通過損傷は生じなかったものの、ローラ接触面圧の大小に関係なく圧延材表面にスリップ傷が発生した。これは、金属ローラが重いため、結果的に慣性が大きくなり、加減速された圧延材の上記搬送条件に追従できなかったことによる。
【0065】
更に、樹脂ローラを使用した比較例−3および4においては、樹脂部の膨潤により軸方向の線圧差が発生する結果、圧延材の蛇行を生じるとともに、圧延材によるエッジ通過損傷がローラ表面に発生した。
【0066】
以上説明したように、本発明に係る多段圧延機のワイピング装置によれば、前記多段圧延機と圧延油を除去する第1のワイピング装置との間に、圧延材の上下に対向して配置された一対のローラからなる第2のワイピング装置を設けるとともに、この第2のワイピング装置のローラが、低慣性材料からなる内層とその外周を覆う金属製外筒とを有する複層構造としたので、圧延速度への追従性が向上し圧延材のスリップ傷発生を緩和することができる。また、樹脂系ローラの欠点である軸方向線圧差発生による圧延材の蛇行を防止できる。
【0067】
また、前記第2のワイピング装置の運転方法によれば、このワイピング装置が圧延材とローラ間の圧力を調整するローラ圧力調整手段を備えているので、このローラ圧力調整手段によって、前述した式(1)から求められる最大ローラ接触面圧Pが10MPa以下となるように調整して運転することにより、圧延材とローラ間が油膜の介在した状流体潤滑状態に保持され、圧延材にローラ接触傷を発生させる恐れがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態1に係る多段圧延機のワイピング装置の概要を説明するための圧延設備の全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る多段圧延機のワイピング装置とその運転方法について説明するための、ピンチローラ型ワイピング装置の模式的立断面である。
【図3】図2のA−A矢視を示す模式的横断面図である。
【図4】図3のX部上半面を拡大して示した概念図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る多段圧延機のワイピング装置のローラ断面を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る多段圧延機のワイピング装置とその運転方法を説明するための、多段圧延機に付帯されたクリッピングローラの配置を変更して第2のワイピング装置として転用することを示す全体構成図である。
【図7】従来例に係るロールレベラー型ワイパーの概略を示す説明図である。
【図8】従来例に係るワイピング手段の実施例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0069】
S1…外筒,S2…内層,
1…圧延材,
2,2a…デフレクタロール, 3,3a…巻取リール,
4…多段圧延機,
5,5a…第1のワイピング装置, 6,6a,10…第2のワイピング装置,
7,7a…ピンチローラ,
11…ピンチローラ,11a…上ローラ,11b…下ローラ,
12a…,上フレーム,12b…下フレーム,
13a,13b…軸受, 14…軸,
15a,15b…ストッパー, 16…架台,
17a…ローラ圧力調整手段,
17b…ローラ開閉手段,
20…油膜, 21…クリッピングローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延油を付与しつつ圧延材を圧延した後に、前記圧延材上の圧延油を除去しながら巻き取る多段圧延機のワイピング装置であって、前記多段圧延機と圧延油を除去する第1のワイピング装置との間に、前記圧延材の上下に対向して配置された一対のローラからなるピンチローラ型の第2のワイピング装置を設けるとともに、この第2のワイピング装置の一対のローラが、低慣性材料からなる内層とその外周を覆う金属製外筒とを有する複層構造であることを特徴とする多段圧延機のワイピング装置。
【請求項2】
前記第2のワイピング装置が、前記圧延材とローラ間の圧力を調整するローラ圧力調整手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の多段圧延機のワイピング装置。
【請求項3】
前記第2のワイピング装置のローラを構成する低慣性材料が、繊維強化複合材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の多段圧延機のワイピング装置。
【請求項4】
前記ローラ圧力調整手段によって、ヘルツの公式から求められる次式(1)の最大ローラ接触面圧P[MPa]が、10MPa以下となるように調整して運転することを特徴とする請求項2に記載の多段圧延機のワイピング装置の運転方法。
=4.099×√{qE(r+r)/r} (1)
ここで、q:ローラ単位長さ当りの線荷重[kgf/mm],
E:ローラの縦弾性係数[kgf/mm],
,r:ピンチローラ各々の半径[mm]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−160369(P2007−160369A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362179(P2005−362179)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】