説明

多重成形品及び検出センサ

【課題】マーキング時における品質の低下を防ぐことが可能な多重成形品及び検出センサを提供する。
【解決手段】近接センサ10は、カーボンブラックを含有した合成樹脂材からなる樹脂ベース部41に重ねて、光透過性を有する合成樹脂材からなる光透過部42A,42B,42Cが一体に成形されてなるケース40を備えている。光透過部42Bの表面には、レーザ光が照射されることによりマーキングが施される。樹脂ベース部41は、熱拡散性材料を含有しており、これによりマーキング時にレーザ光の照射による熱が拡散される。このため、発熱によって樹脂ベース部41に発泡や溶融が生じることが防止され、品質の低下を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重成形品及び検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近接センサなどの検出センサとして、発光素子を用いて動作状態を表示するものがある。例えば、特許文献1に記載のものでは、回路基板を包囲する樹脂製のケースの一部に半透明部分を設け、回路基板上に設けられた発光素子をその半透明部分を通して外部から視認できるようにしている。また、このケースは、不透明の樹脂により一次成形された樹脂ベース部に重ねて、半透明の樹脂からなる光透過部を二次成形することで製造されている。
【特許文献1】特開2006−73282公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記検出センサのケースは、樹脂ベース部の外面に光透過部が重なった箇所を備えており、その箇所において光透過部の表面にレーザ光が照射されることにより、製品の型番等のマーキングが施されている。このようなマーキングを行う際には、レーザ光が半透明の光透過部を通過してその奥側の樹脂ベース部に到達することがある。すると、樹脂ベース部が特にカーボンブラックを含有した黒色の材料からなる場合には、樹脂ベース部にレーザ光のエネルギーが吸収されて、樹脂ベース部が発泡したり、溶融したりして、見た目の品質が低下してしまうという問題があった。
【0004】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、マーキング時における品質の低下を防ぐことが可能な多重成形品及び検出センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明に係る多重成形品は、カーボンブラックを含有した合成樹脂材料からなり先に成形された樹脂ベース部に重ねて、合成樹脂材料からなり光透過性を有する光透過部が一体成形された多重成形品であって、前記光透過部の表面にレーザ光が照射されることによりマーキングが施されるマーキング部を備えたものにおいて、前記樹脂ベース部は、レーザ光の照射により発生した熱を拡散させる熱拡散性材料を含有しているところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記熱拡散性材料は、金属粒子からなるところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記熱拡散性材料は、酸化チタンであるところに特徴を有する。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のものにおいて、熱拡散性材料は、前記樹脂ベース部のうち前記マーキング部に対応する箇所に部分的に含有されているところに特徴を有する。
【0009】
請求項5の発明は、検出回路を有する検出部と、請求項1から請求項4のいずれかに記載の多重成形品とを備え、前記樹脂ベース部が前記検出部のうち少なくとも前記検出回路を覆う形態であるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
<請求項1の発明>
樹脂ベース部が熱拡散性材料を含有することにより、マーキング時にレーザ光の照射による熱が拡散される。このため、発熱によって樹脂ベース部に発泡や溶融が生じることが防止され、品質の低下を防ぐことができる。
【0011】
<請求項2の発明>
熱拡散性材料として金属粒子を用いることにより、樹脂ベース部が熱伝導性に優れたものになり、レーザ光の照射により発生した熱が効率よく拡散される。
【0012】
<請求項3の発明>
熱拡散性材料が酸化チタンの金属粒子からなるため、樹脂ベース部が熱伝導性に優れたものになり、また、レーザ光を拡散させる効果も得ることができる。これにより、レーザ光の照射による温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0013】
<請求項4の発明>
樹脂ベース部のうちマーキング部に対応する箇所のみを熱拡散性材料を含んだ材料で形成し、その他の部位を熱拡散性材料を含まない材料により形成することで、材料コストを抑えることができる。
【0014】
<請求項5の発明>
樹脂ベース部が検出回路を覆うため、検出回路から発生した熱を効率良く逃がすことができ、検出センサの温度上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1〜図6によって説明する。
【0016】
1.近接センサの構成
本実施形態の近接センサ10(本発明の「検出センサ」に相当)は、後述する検出コイル11を構成要素とするLC並列回路13を発振回路14によって発振させ、その発振振幅変化に基づき例えば金属製ワークの接近やその有無を判別するものである。
【0017】
(1)近接センサの回路構成
図1には、近接センサ10の回路構成が示されている。検出コイル11及びコンデンサ12からなるLC並列回路13は、発振回路14によって発振状態に維持されることで、検出コイル11から交流磁界H(検出領域H)を発生する。この発振状態で金属製ワークが接近すると、検出コイル11の磁気エネルギーが吸収され、これに応じてLC並列回路13の振幅電圧が変化(例えば減少)する。検出回路15は、例えばLC並列回路13の振幅電圧を所定の検出用閾値と大小比較し、この比較結果に基づき検出動作を行う。本実施形態では、検出動作として、LC並列回路13の振幅電圧が上記検出用閾値を下回ったときに、動作表示灯としての検出用発光素子16(例えば緑色に発光する発光ダイオード)を発光させるとともに、出力回路17を介して検出信号を外部に出力する。
【0018】
また、検出回路15は、LC並列回路13の振幅電圧を上記検出用閾値よりも高い安定確認用閾値とも比較し、上記検出動作時においてLC並列回路13の振幅電圧がこの安定確認用閾値を上回らなくなったときに安定確認用発光素子18(例えば赤色に発光する発光ダイオード)を発光させるようになっている。また、図1中の符号20,21は、本近接センサ10に電源を供給するための電源端子及びグランド端子であり、符号22は出力回路17からの上記検出信号を外部機器に出力する出力端子である。また、符号23は、発振回路14に連なり上記LC並列回路13の振幅電圧を調整するための感度調整回路19に与える制御信号を外部機器から入力するための入力端子である。
【0019】
(2)近接センサの構造
図2は、近接センサ10の上面図であり、図3は、近接センサ10の底面図である。両図に示すように、近接センサ10は、全体として直方体状をなし、その直方体に対応した長方形上の回路基板31(本発明の「検出部」に相当)が合成樹脂製のケース40内に収容されている。回路基板31には、その長手方向の先端(図2で紙面左方向)寄りの位置に上記検出コイル11が搭載されており、基端部には、上記各端子20〜23が配された接続端子部34が設けられている。そして、ここに外部機器に連なる信号ケーブル32の各信号線が接続されている。
【0020】
また、回路基板31の中央よりやや基端側の位置には、近接センサ10を所定の位置に取り付けるための取付ネジが挿通される円筒状のスリーブ33が上下面を貫通するように埋設されている。なお、上記検出コイル11と各端子20〜23との間の回路パターンに上記発振回路14、検出回路15、出力回路17及び感度調整回路19が搭載されている。また、上記検出用発光素子16及び安定確認用発光素子18は、図3に示すように、回路基板31の裏面の先端部に並んで設けられている。
【0021】
ケース40(本発明の「多重成形品」に相当)は、一次成形される樹脂ベース部41と、二次成形され3つに分割して設けられた光透過部42A,42B,42Cとからなり、回路基板31と一体的に形成されている。樹脂ベース部41は、カーボンブラックを主成分として含有した黒色で不透明の合成樹脂材よりなり、回路基板31における検出回路15を含む大部分の領域を包囲している。光透過部42A,42B,42Cは、光透過性(透明あるいは半透明)の合成樹脂材よりなる。
【0022】
光透過部42Aは、回路基板31の裏面先端部を覆うように設けられ、この光透過部42Aを介して外部から検出用発光素子16及び安定確認用発光素子18の発光状態を視認することができるようにされている。また、光透過部42Cは、回路基板31の接続端子部34を包囲するように設けられ、この光透過部42Cを介して外部から信号ケーブル32の接続状態を確認できるようにされている。また、光透過部42Bは、回路基板31の中央において両側面と上面とを覆っており、その上面部分が樹脂ベース部41の上面に重なる形態でマーキング部43(図6を併せて参照)を構成している。このマーキング部43には、レーザ光の照射により、型番等の文字や記号・図形など(図では「ABC」の文字)の印字が施されている。
【0023】
樹脂ベース部41を構成する合成樹脂材としては、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネートなどが用いられる。また、樹脂ベース部41は、カーボンブラックと、レーザ光の照射による熱を拡散させるための熱拡散性材料とを含有している。この熱拡散性材料には、照射されるレーザ光を拡散させる性質を有するものと、熱伝導性を向上させる性質を有するものとが含まれる。具体的には、アクリルビーズ、ガラスビーズ、ポリエチレンビーズ、フッ素化樹脂ビーズなどの有機微粒子、あるいは、シリカ(コロイダルシリカ)、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機微粒子などが使用でき、さらには、金属粒子、例えば酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化鉛などの酸化金属の金属粒子を用いることが好ましい。また、これらの材料を単独、あるいは二種以上を混合して用いることも可能である。これらのうち、特に酸化チタンの金属粒子を用いることが望ましく、これにより樹脂ベース部41が熱伝導性に優れたものになり、また、レーザ光を拡散させる効果も得ることができる。
【0024】
光透過部42A,42B,42Cを構成する合成樹脂材としては、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレートなどが用いられる。また、光透過部42A,42B,42Cは、レーザ光を吸収し加熱されることにより変色又は脱色する添加物として、カーボンブラック、群青などを含有している。これらの含有量は、カーボンブラックが0.0045重量%、群青が0.03重量%程度である。
【0025】
2.近接センサの製造方法
(1)第1工程
次に、近接センサ10の製造方法について、図4から図6を参照しつつ説明する。
まず、図4に示すように、回路基板31に、検出コイル11や、検出用発光素子16及び安定確認用発光素子18などの各種の電子部品を半田付けにより実装する。そして、回路基板31に形成された貫通孔31aにスリーブ33を嵌合させる。
【0026】
次いで、図5に示すように、回路基板31の周囲に、不透明の合成樹脂材により樹脂ベース部41を一体的に成形する。この樹脂ベース部41は、検出コイル11を覆う部分が上方に突出し、側方から見て略L字状の形状をなす。
【0027】
(2)第2工程
ここで、検出コイル11を覆う樹脂ベース部41の肉厚がばらついたり、成形圧力によって検出コイル11の特性が変化したりするので、検出感度の調整が必要となる。そこで、所定の測定機器によって出力端子22からの検出信号レベルに基づき近接センサ10の検出感度を測定するとともに、電源端子20とグランド端子21との間に電圧を印加しつつ入力端子23を介して感度調整回路19に所定の制御信号を与えることで、検出感度が所望の値になるように調整を行う。
【0028】
(3)第3工程
検出感度の調整が完了すると、次に、接続端子部34の電源端子20、グランド端子21及び出力端子22に上記信号ケーブル32の各信号線を半田付けする。続いて、樹脂ベース部41に重ねて、半透明の合成樹脂材により光透過部42A,42B,42Cを一括して一体的に成形する。これにより、図6に示すように、上記検出用発光素子16及び安定確認用発光素子18がそれらの光を透過可能な半透明の光透過部42Aによって覆われる。また、信号ケーブル32の端部が光透過部42Cによって近接センサ10に対して一体的に保持される。
【0029】
(4)マーキング工程
次に、マーキング部43にレーザ光を照射することによりマーキング(発色印字)を行う。レーザ光としては、可視波長から赤外波長のレーザ光、例えば1.06μmのYAGレーザなどが用いられる。なお、レーザ光としては、これに限らず、光透過部42Bの表面にレーザ光が照射されたときに、光透過部42Bにそのエネルギーが十分に吸収され、確実に印字が行われるような波長のレーザ光が光透過部42Bの材質に応じて選定される。このレーザ光がマーキング部43における光透過部42Bの表面に照射されると、照射された箇所が白色に変色して所定の文字・記号・図形等が印字される。このとき、照射されたレーザ光の一部が光透過部42Bを通過してマーキング部43の樹脂ベース部41上に到達することがあるが、樹脂ベース部41が熱拡散性材料を含有するために、レーザ光のエネルギーを吸収することによる温度上昇が抑えられ、樹脂ベース部41に発泡や溶融が生じることが防止される。
【0030】
3.本実施形態の効果
(1)樹脂ベース部41が熱拡散性材料を含有することにより、マーキング時にレーザ光の照射による熱が拡散される。このため、発熱によって樹脂ベース部41に発泡や溶融が生じることが防止され、品質の低下を防ぐことができる。
(2)熱拡散性材料として金属粒子を用いることにより、樹脂ベース部41が熱伝導性に優れたものになり、レーザ光の照射により発生した熱が効率よく拡散される。
【0031】
(3)熱拡散性材料が酸化チタンの金属粒子からなるため、樹脂ベース部41が熱伝導性に優れたものになり、また、レーザ光を拡散させる効果も得ることができる。これにより、レーザ光の照射による温度上昇をより効果的に抑制することができる。
(4)樹脂ベース部41が検出回路15を覆うため、検出回路15から発生した熱を効率良く逃がすことができ、近接センサ10の温度上昇を抑えることができる。
【0032】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、樹脂ベース部41の全体を熱拡散性材料を含んだ一種類の材料により形成したが、本発明によれば、樹脂ベース部41のうちマーキング部43に対応する箇所のみを熱拡散性材料を含んだ材料で形成し、その他の部位を熱拡散性材料を含まない材料により形成しても良い。つまり、樹脂ベース部41のうち熱拡散性材料を含む部分及び熱拡散性材料を含まない部分の一方を一次成形して、他方を二次成形し、その後、光透過部42A,42B,42Cを三次成形することで、ケース40を形成する。これにより、材料コストを抑えることができる。
(2)上記実施形態では、本発明の検出センサとして近接センサを例に挙げて説明したが。これに限らず、例えば超音波センサなど、他の種類の検出センサにも本発明を適用することができる。
(3)検出感度の調整方法としては、上記実施形態のように検出感度調整回路を用いたものに限らず、例えば、レーザ光を使って感度調整用抵抗素子をトリミングする、いわゆるレーザトリミング方法などを用いても良い。また、本発明は、検出感度を調整する機能を備えていない検出センサにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態1に係る近接センサのブロック図
【図2】近接センサの上面図
【図3】近接センサの底面図
【図4】成形前の回路基板を示す側面図
【図5】一次成形後の回路基板を示す側面図
【図6】二次成形後の回路基板を示す側面図
【符号の説明】
【0034】
10…近接センサ(検出センサ)
15…検出回路
31…回路基板(検出部)
40…ケース(多重成形品)
41…樹脂ベース部
42A,42B,42C…光透過部
43…マーキング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを含有した合成樹脂材料からなり先に成形された樹脂ベース部に重ねて、合成樹脂材料からなり光透過性を有する光透過部が一体成形された多重成形品であって、
前記光透過部の表面にレーザ光が照射されることによりマーキングが施されるマーキング部を備えたものにおいて、
前記樹脂ベース部は、レーザ光の照射により発生した熱を拡散させる熱拡散性材料を含有していることを特徴とする多重成形品。
【請求項2】
前記熱拡散性材料は、金属粒子からなることを特徴とする請求項1に記載の多重成形品。
【請求項3】
前記熱拡散性材料は、酸化チタンであることを特徴とする請求項2に記載の多重成形品。
【請求項4】
熱拡散性材料は、前記樹脂ベース部のうち前記マーキング部に対応する箇所に部分的に含有されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の多重成形品。
【請求項5】
検出回路を有する検出部と、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の多重成形品とを備え、
前記樹脂ベース部が前記検出部のうち少なくとも前記検出回路を覆う形態であることを特徴とする検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−80366(P2008−80366A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262992(P2006−262992)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000106221)サンクス株式会社 (578)
【Fターム(参考)】