説明

天然繊維補強樹脂材とその製造方法

【課題】環境影響負荷を低減できる天然繊維を使用し、軽量かつ高剛性で、しかも成形不良が抑制されて面品質に優れた天然繊維補強樹脂材とその製造方法を提供する。
【解決手段】第1の天然繊維12を含有する補強層20と第1の天然繊維22を含有する補強層30を有し、上部に形成された補強層20と下部に形成された補強層30の間に、第1の天然繊維2および第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高い第2の天然繊維3を含有する中間層10が介在されて、中間層10と補強層20,30が、発泡性樹脂1,11,21によって一体に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高剛性かつ面品質に優れた天然繊維補強樹脂材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば、自動車や鉄道車両、船舶、航空機等の内装材として、優れた耐熱性と耐衝撃性を有する、ポリプロピレンをはじめとした石油系樹脂からなる内装材が広く採用されている。
【0003】
ところで、現在、自動車産業においては、環境影響負荷を低減できる車両としてハイブリッド自動車や電気自動車が注目されており、その一層の小型化、軽量化、高性能化を目指した開発が自動車メーカー各社、自動車関連メーカー各社で日々進められている。その一つが、モーターや燃料電池といった電動化技術の開発であり、他の一つは、車両全般に目を向けた環境に優しい車両の開発であって、二酸化炭素排出量削減や石油資源からの脱却をもたらす環境材料の適用である。
【0004】
環境材料の適用に関しては、たとえばケナフ等の天然繊維を含有する樹脂材を挙げることができる。天然繊維を含有する樹脂材は、樹脂材を焼却する際の二酸化炭素排出量が、もととなる植物の成長過程で吸収する二酸化炭素の量で相殺される(「カーボン・ニュートラル」の概念)ことから、一般に石油系樹脂と比較して20〜40%ほどの二酸化炭素排出量を削減することができる。また、ケナフを含有したドアトリム基材は、従来のポリプロピレンを使用した基材と比較して20〜30%の軽量化が図られることから、車両の燃費向上と、それに伴う二酸化炭素排出量の削減効果の向上にも繋がる。また、石油由来の材料価格が中長期的にも上昇していくことが予想され、石油系樹脂の今後の価格高騰も予想されることから、安定的な栽培と供給が可能な天然繊維(ケナフ等)を含有する樹脂材の開発が進められている。
【0005】
ここで、図5を参照して、上記する従来の天然繊維を含有する天然繊維補強樹脂材を説明する。同図において、樹脂材Pはその内部に天然繊維aを略均一に含有し、発泡性樹脂bによって一体とされているものである。
【0006】
しかし、樹脂材Pの内部には、天然繊維aの間に空気Aを含んだ領域が存在し、樹脂材の剛性が不均一となって、剛性が低下する要因となり得る。また、天然繊維補強樹脂材は一般に天然繊維のプレス加工によって製造されるため、射出成型による製造が可能な石油系樹脂と比較して歩留まりが低下し、製品コストの高騰の要因となっている。さらに、従来の天然繊維補強樹脂材はその表面に繊維が露出して表面が平滑でなく、面品質が不均一となり得る。したがって、車両の燃費向上に繋がる車両全体の軽量化に寄与でき、板厚の増加を抑制しつつ高い剛性を有し、面品質に優れた天然繊維補強樹脂材の開発が必要である。
【0007】
上記する課題に対して、高い剛性や優れた面品質を実現するための天然繊維補強樹脂材が特許文献1〜3に開示されている。特許文献1に開示の天然繊維補強樹脂材は、樹脂材の表面に一般に提供される補強材としてのガラス繊維を要しない、単層の天然繊維補強成形品であり、ポリイソシアネートと処方されたポリオール成分をウレタン成形機による混合工程を経ることなく別々に塗布することで、当該成形品が高い剛性を有するものである。また、特許文献2に開示の樹脂材は、天然繊維からなる繊維マット間に、当該繊維マットの天然繊維よりも細径の繊維からなる不織布を挟んでニードルパンチした積層体を、バインダー樹脂で一体に成形したものである。細径の繊維からなる不織布をニードルパンチすることで、各繊維マット中の繊維を確実に交絡させることができ、繊維マットに直線状で太い天然繊維を使用しても、当該細径の繊維がこれに絡みついて上下方向の引張り強度が増加し、加熱プレスして成形する際に生じ得る透けや切れの発生を抑制できる。また、特許文献3に開示の樹脂材は、表面層の繊維の繊維径が基体層の繊維の繊維径よりも小さい2層構造の天然繊維補強樹脂材である。上記する成形時の透けや切れといった成形不良を抑制するために繊維の含有率を抑制する手法が考えられているが、特許文献3に開示の樹脂材は、繊維の含有率を低下させることなく、基体層の相対的に粗い繊維によって充分な剛性を得て加圧することにより、表面層の細かい繊維によって平滑な表面を形成することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−047433号公報
【特許文献2】特開2008−272938号公報
【特許文献3】特開2004−284246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示の天然繊維補強樹脂材においては、高い剛性を得るために全体密度を高める必要があり、その使用量が増加することから、車両の軽量化に寄与し難く、面品質を向上させることもできない。また、特許文献2に開示の天然繊維補強樹脂材においては、引張り強度が増加して面品質が向上するものの、最終的に求められる、曲げ剛性等を達成するために当該繊維マットを複数枚積層する必要がある。また、特許文献3に開示の天然繊維補強樹脂材においては、平滑な表面を形成して優れた面品質を有するものの、高い剛性を得るために基体層の密度を高める必要が生じ得ることから、車両の軽量化に寄与し難い。
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、環境影響負荷を低減できる天然繊維を補強材として使用し、もって重量の増加を抑制しながら剛性も高く、成形不良を抑制して面品質に優れた天然繊維補強樹脂材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による天然繊維補強樹脂材は、少なくとも、第1の天然繊維を含有する補強層の間に、該第1の天然繊維および該第1の天然繊維と剛性が異なる第2の天然繊維を含有する中間層が介在されている天然繊維補強樹脂材であって、前記第2の天然繊維が、前記第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高く、前記補強層と前記中間層が発泡性樹脂によって一体に形成されてなるものである。
【0012】
ここで、本発明の天然繊維は、木本類や草本類の天然植物から得られるものである。木本類として、スギやヒノキ等の針葉樹、シイ、柿、桜等の広葉樹、および熱帯樹を挙げることができる。また、草本類としては良質の繊維として知られる靭皮植物が好ましく、たとえば、ケナフ、ラミー、ローゼル、リネン(亜麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、竹、ヤシ、パーム、コウゾ、ワラ、バガス等を挙げることができる。
【0013】
そして、本発明の第1の天然繊維としてはケナフを挙げることができる。ケナフはアオイ科ハイビスカス属の一年草植物で、熱帯地方や温帯地方での成長が極めて早く、栽培が容易で二毛作も可能であり、一般の植物よりも2〜5倍の二酸化炭素を吸収し、たとえば杉に対しては7倍もの二酸化炭素吸収量があることから、カーボンニュートラルの概念からも好ましい植物である。
【0014】
また、本発明の第2の天然繊維としては竹やパームを挙げることができる。竹はイネ科の植物であり、パームはヤシ科の植物であり、ともに他の植物と比較して高剛性かつ高弾性であることから、第2の天然繊維として好ましい植物である。
【0015】
また、本発明の発泡性樹脂材としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂をはじめとする、任意の樹脂材料を使用することができる。
【0016】
本発明の天然繊維補強樹脂材は、中間層が第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高い第2の天然繊維を含有していることで、加圧成形の際に当該中間層の剛性が高くなり、中間層の両面に配された補強層の加圧効果が高まることから、第1の天然繊維を有する補強層の密度が増加し、その剛性が増加して、天然繊維補強樹脂材の高剛性化と軽量化の双方を実現することができる。
【0017】
また、天然繊維補強樹脂材の加圧効果が高まることで、中間層および補強層の接合強度が増加し、成形型からの脱型の際に生じ得る透けや切れといった成形不良を抑制でき、補強層の優れた面品質を保証することができる。
【0018】
本発明の天然繊維補強樹脂材の他の実施の形態は、前記第2の天然繊維が、前記第1の天然繊維に比して相対的に大きな繊維径を有するものである。
【0019】
本実施の形態によれば、中間層において相対的に細い天然繊維が交絡して天然繊維間の距離が狭くなり、一体成形に使用される発泡性樹脂が天然繊維間に含浸し難い場合と比較して、相対的に太い天然繊維が高い剛性を有することから、天然繊維密度を抑制して天然繊維同士の間隔を確保できる。したがって、発泡性樹脂が高温雰囲気下で加圧成形される際に天然繊維の間に含浸しやすくなり、加圧成形前の天然繊維補強樹脂材形成用の積層体の各層に存在している空気を外部に押し出して排除することができ、天然繊維補強樹脂材の剛性が均一となって、その剛性の増加に繋がる。
【0020】
また、本発明の天然繊維補強樹脂材の製造方法は、少なくとも、第1の天然繊維を含有する補強層の間に、前記第1の天然繊維および前記第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高い第2の天然繊維を含有し、発泡性樹脂材を含浸させた中間層を介在させて、積層体を形成する第1の工程と、前記積層体を高温雰囲気下で加圧し、前記補強層と前記中間層を前記発泡性樹脂によって一体とする第2の工程からなるものである。
【0021】
本発明の製造方法によれば、第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高い第2の天然繊維を含有し、発泡性樹脂を含浸させた中間層を、補強層の間に介在させて積層体を形成し、それを高温雰囲気下で加圧して発泡性樹脂を発泡させるものである。したがって、発泡性樹脂が中間層から補強層へ発泡しながら含浸する際に、加圧加工前に中間層や補強層に存在している空気をその外部に押し出しながら発泡性樹脂の発泡がおこなわれ、中間層と補強層の積層体が全体として一体化される。そのため、加圧成形前の積層体に存在している空気を一層排除することができ、天然繊維補強樹脂材の剛性を更に向上できる。
【0022】
なお、中間層に発泡性樹脂材を含浸させる形態に加えて、天然繊維補強樹脂材の上下面、すなわち、補強層における中間層と接触する面と反対側の面に発泡性樹脂材を含浸させて、高温雰囲気下で加圧して一体とすることも可能であるが、前者の方が、補強層に存在している空気を排除できることから好ましい。
【0023】
本発明の天然繊維補強樹脂材は、中間層が第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高い第2の天然繊維を含有していることで、加圧成形において当該中間層の剛性が高くなり、中間層の両面に配された補強層の加圧効果が高まることから、軽量で高い剛性を有し、成形不良が抑制されて面品質に優れた天然繊維補強樹脂材となる。また、本発明の天然繊維補強樹脂材の製造方法により、加圧加工前の積層体の内部に存在している空気を排除できることから、更に高い剛性と優れた面品質を保証することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の天然繊維補強樹脂材とその製造方法によれば、環境影響負荷を低減できる天然繊維を使用し、高剛性の中間層によってその全体の剛性が高められ、さらに天然繊維補強樹脂材の内部の空気量が抑制されている。したがって、軽量かつ高剛性であり、しかも成形型からの優れた脱型性によって成形不良が抑制され、もって面品質に優れた天然繊維補強樹脂材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の天然繊維補強樹脂材を示した模式図である。
【図2】本発明の天然繊維補強樹脂材を製造する工程を説明する図であって、成形型に積層体を設置する工程を説明した図である。
【図3】図2に続いて、天然繊維補強樹脂材を製造する工程を説明する図であって、積層体を加圧する工程を説明した図である。
【図4】図3に続いて、天然繊維補強樹脂材を製造する工程を説明する図であって、積層体を加圧する工程を説明した図である。
【図5】従来構造の天然繊維補強樹脂材を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の天然繊維補強樹脂材の一実施の形態を示した図であり、図2〜4は、図1で示す天然繊維補強樹脂材を製造する工程を示した図である。
【0027】
図1で示す天然繊維補強樹脂材100は、第1の天然繊維12を含有する補強層20と第1の天然繊維22を含有する補強層30を有し、上部に形成された補強層20と下部に形成された補強層30の間に、第1の天然繊維2および第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高い第2の天然繊維3を含有する中間層10が介在されている。そして、中間層10と補強層20,30が、発泡性樹脂1,11,21によって一体に形成されて、その大略が構成されている。ここで、中間層10と補強層20,30は発泡性樹脂によって一体化されているが、構成を明瞭とするために、後述する加圧工程前の積層体における中間層10の上面4と下面5を境界面とし、中間層10の上面4より上方の発泡性樹脂を補強層20の発泡性樹脂11とし、中間層10の下面5より下方の発泡性樹脂を補強層30の発泡性樹脂21とし、上面4と下面5の間の発泡性樹脂材を中間層10の発泡性樹脂1とする。
【0028】
図示する中間層10と補強層20,30の厚みの比率は所望の剛性等に基づいて変更することが可能であるが、中間層の厚さを全体の厚さの1/3以上、すなわち上下に配された補強層の厚さ以上とすることで、加圧成形の際に発生する加圧力に対して十分な剛性を有することとなり、補強層に対する加圧効果を向上できることから好ましい。
【0029】
次に、図2〜4を参照して、本発明の天然繊維補強樹脂材を製造する工程を説明する。
【0030】
まず、図2で示す固定型S1と可動型S2とからなる成形型(金型)を用意し、第1の天然繊維22Aを含有する補強層30Aと、第1の天然繊維2Aと第2の天然繊維3Aを含有する中間層10Aと、第1の天然繊維12Aを含有する補強層20Aを、その構成部材の順に固定型S1に載置して、天然繊維の積層体100Aを形成する。
【0031】
ここで、中間層10Aと補強層20A,30Aは加圧前の状態であることから、図示するそれぞれの厚みは最終成形品の厚みより厚い。
【0032】
また、中間層10Aには、たとえばスプレー等で予めその上面4Aおよび下面5Aに発泡性樹脂1Aa,1Abが塗布されており、それらが中間層10Aの内部に向かって浸透している。また、中間層10A内部の層1Acや補強層20A,30Aの内部の層11A,21Aは、その天然繊維の間に発泡性樹脂が含浸せず、空気Aを含んだ領域となっている。
【0033】
次いで、図3で示すように、高温雰囲気下において、可動型S2が固定型S1の方向に下降し、可動型S2によって積層体100Bが加圧される。
【0034】
高温雰囲気下での加圧により、発泡性樹脂が発泡しながら天然繊維間に含浸することとなり、中間層10Bの内部へ発泡性樹脂1Ba,1Bbが発泡しながら含浸し、さらに中間層10Bの上面4Bおよび下面5Bを介して発泡性樹脂が発泡しながら補強層20B,30Bへも含浸して、その内部に発泡性樹脂11Ba,21Baが形成される。
【0035】
上記する加圧により積層体100Bの厚さは所望の厚さまで圧縮されると同時に、発泡性樹脂が中間層10Bや補強層20B,30Bへ含浸することで、中間層10B内部の層1Bcや補強層20B,30Bの内部の層11Bb,21Bbに存在している空気Aはその外部へ押し出されて、加圧工程前に積層体100B内部に存在している空気が積層体100Bから排除されることとなる。
【0036】
そして、図4で示すように、発泡しながら含浸した発泡性樹脂が中間層10Cの内部を満たし、補強層20C,30Cに発泡しながら含浸した発泡性樹脂が補強層20Cの上面13Cおよび補強層30Cの下面23Cに到達して、中間層10Cと補強層20C,30Cが発泡した発泡性樹脂体で一体化される。そして、型全体が常温とされ、可動型S1が上昇して脱型準備に入り、天然繊維補強樹脂材100Cが脱型される。
【0037】
脱型後の天然繊維補強樹脂材100Cに対し、不図示のプレスカッターやウォーターカッターを使用して、所望の製品形状に合わせてその端部等を裁断する。また、形成された天然繊維補強樹脂材の端部を覆うように、意匠面に配する表皮材を天然繊維補強樹脂材の裏面まで巻き込むことで、天然繊維補強樹脂材の端部処理を行うこともできる。
【0038】
ここで、予め準備される中間層10Aには、その上面4Aのみ、もしくは下面5Aのみに発泡性樹脂が塗布され、高温雰囲気下での加圧工程において、その発泡性樹脂が中間層の内部で上方から下方へ、もしくは下方から上方へ向かって含浸する形態であってもよい。
【0039】
上記する形態によれば、中間層において発泡性樹脂が一方向にのみ発泡しながら含浸していくことで、中間層に存在している空気を一層排除できるとともに、中間層を一方向に含浸する発泡性樹脂が、中間層の第2の天然繊維を積層体の上下方向へ配向させる効果が高まり、加圧工程において、上下方向の加圧力に対する中間層の剛性が一層増加して、補強層の加圧効果を高めることができる。
【0040】
また、上記する実施の形態において、予め準備される中間層10Aには、その上面4Aおよび下面5Aに発泡性樹脂1Aa,1Abが塗布され、それらが中間層の内部および補強層に含浸される形態としたが、加圧工程の前の準備段階において、中間層全体に発泡性樹脂を含浸させて、高温雰囲気下の加圧工程でそれらが補強層にのみ発泡しながら含浸される形態であってもよい。なお、中間層においては準備段階で含浸した発泡性樹脂が高温雰囲気下の加圧工程で発泡して形成されるものである。
【0041】
上記する形態によれば、準備段階において中間層の空気を排除でき、中間層の発泡性樹脂が、積層体の中心からその上面または下面方向に向かって発泡しながら含浸できることから、中間層の第2の天然繊維をその含浸方向、すなわち積層体の上下方向へ配向させる効果が高まり、加圧工程において、上下方向の加圧力に対する中間層の剛性が一層増加し、補強層の加圧効果を高めることができる。
【0042】
さらに、予め中間層10Aの上面4Aおよび下面5Aに塗布される発泡性樹脂1Aa,1Abが、加圧によって中間層10Aおよび補強層20A,30Aのいずれか、または積層体100A全体に含浸し、その後、発泡性樹脂が発泡して積層体が一体化する形態であってもよい。
【0043】
なお、本発明の天然繊維補強樹脂材は3層構造に限定されず、たとえば4層以上の積層構造において、その積層体の上下面に対応する層以外の層に、相対的に高剛性の天然樹脂材を含有する形態であってもよい。また、上記する4層以上の積層体の内部の層のいずれか、または内部の複数の層に予め発泡性樹脂を含浸させて、その積層体を高温雰囲気下で加圧して一体とする形態であってもよい。
【0044】
また、適用する製品に応じて、上記する工程を経て製造された天然繊維補強樹脂材の意匠面となる面に、表皮材が接着剤等で接着されるものである。たとえば天然繊維補強樹脂材が車両の天井に適用される際には、たとえばトリッコット素材やジャージ素材等の表皮材が意匠面となる面に接着剤で接着される。その場合においても、天然繊維補強樹脂材の補強層の面品質が優れていることで、一層優れた意匠面を提供できるものである。
【0045】
[天然繊維補強樹脂材の曲げ特性を評価するための曲げ試験とその結果]
本発明者等は、図1で示す実施の形態に関するテストピース(以下、「実施例」という)を製作し、曲げ試験を実施して曲げ弾性率と曲げ強度を測定した。また、図5で示す従来構造を有する、実施例と比較するためのテストピース(以下、「比較例」という)を製作し、実施例と同一の曲げ試験によって、実施例との曲げ特性の比較をおこなった。
【0046】
なお、本発明における曲げ試験は、「JIS K 7171 プラスチック−曲げ特性の試験方法」に基づき、テストピースの寸法を幅50mm×長さ150mm×板厚3mmとし、曲げスパンを100mmとして曲げ試験機に設置し、試験速度を毎分50mmに設定して、常温雰囲気下で実施された。
【0047】
上記する実施例は以下に述べる手順に基づいて製作された。まず、単位面積重量200g/m2のケナフ繊維を含有する補強層を型内に設置し、その上に、単位面積重量200g/m2のケナフおよび竹繊維を含有する中間層(重量比率が1:1である)に住化バイエルウレタン製のウレタン樹脂を単位面積重量600g/m2でスプレー塗布したものを積層し、さらに、その上に、単位面積重量200g/m2のケナフ繊維を含有する補強層を積層した。その後、その積層体を130℃の雰囲気下で1分間加熱しながら、板厚が3mmになるまで加圧成形して、単位面積重量1200g/m2の天然繊維補強樹脂材が製作され、曲げ試験機に設置するための寸法に裁断して実施例が製作された。
【0048】
また、比較例は、単位面積重量750g/m2のケナフ繊維を含有する層に、住化バイエルウレタン製のウレタン樹脂を単位面積重量750g/m2でスプレー塗布したものを型内に設置し、130℃の雰囲気下で1分間加熱しながら、板厚が3mmになるように加圧成形して、単位面積重量1500g/m2の天然繊維樹脂材が製作され、曲げ試験機に設置するための寸法に裁断して比較例が製作された。
【0049】
そして、上記するテストピースの曲げ試験を行った結果、比較例においては、曲げ弾性率が35MPa、曲げ強度が40MPaである一方で、実施例においては、曲げ弾性率が40MPa、曲げ強度が46MPaであり、実施例は比較例に対して重量が20%軽減されているのも関わらず、曲げ弾性率と曲強度が共に約15%向上していることが実証された。
【0050】
この実験結果より、本実施例の天然繊維補強樹脂材においては、従来構造の比較例に対して、軽量かつ高い曲げ特性を有することが実証された。
【0051】
また、上記する実施例と比較例の面品質を比較した結果、実施例のほうが表面の仕上がりが良好で均一な面を呈しており、優れた面品質を有していることが実証された。
【0052】
このように、軽量で高剛性、かつ面品質に優れた天然繊維補強樹脂材は、環境影響負荷を低減できる車両等への適用に最適である。
【0053】
また、本発明の天然繊維補強樹脂材は、車両のドアトリム基材、インナーパネル、ピラーガーニッシュ、リアパッケージ、天井基材、衝撃吸収材、吸音材等の内装品や外板基材等の外装材に加えて、壁材、床材、床下衝撃吸収材、断熱材等の建材や、スピーカーボックス、吸音材等の機器材にも広く適用できる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1,11,21…発泡性樹脂、2,12,22…第1の天然繊維、3…第2の天然繊維、4…中間層の上面、5…中間層の下面、10…中間層、20,30…補強層、100…天然繊維補強樹脂材、S1…固定型、S2…可動型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第1の天然繊維を含有する補強層の間に、該第1の天然繊維および該第1の天然繊維と剛性が異なる第2の天然繊維を含有する中間層が介在されている天然繊維補強樹脂材であって、
前記第2の天然繊維が、前記第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高く、
前記補強層と前記中間層が発泡性樹脂によって一体に形成されてなる天然繊維補強樹脂材。
【請求項2】
前記第2の天然繊維が、前記第1の天然繊維に比して相対的に大きな繊維径を有する、請求項1に記載の天然繊維補強樹脂材。
【請求項3】
前記第2の天然繊維が竹またはパームからなる、請求項1または2に記載の天然繊維補強樹脂材。
【請求項4】
少なくとも、第1の天然繊維を含有する補強層の間に、前記第1の天然繊維および前記第1の天然繊維に比して相対的に剛性が高い第2の天然繊維を含有し、発泡性樹脂を含浸させた中間層を介在させて、積層体を形成する第1の工程、
前記積層体を高温雰囲気下で加圧し、前記補強層と前記中間層を前記発泡性樹脂によって一体とする第2の工程からなる天然繊維補強樹脂材の製造方法。
【請求項5】
前記第2の天然繊維が、前記第1の天然繊維に比して相対的に大きな繊維径を有する、請求項4に記載の天然繊維補強樹脂材の製造方法。
【請求項6】
前記第2の天然繊維が竹またはパームからなる、請求項4または5に記載の天然繊維補強樹脂材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−201038(P2011−201038A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68007(P2010−68007)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】