説明

太陽電池モジュール及びその製造方法

【課題】内部抵抗を増大させずに逆電子移動を抑制して、発電効率を高めた太陽電池モジュールを提供すること。
【解決手段】本発明の太陽電池モジュールは、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、少なくとも一部に電解質層を介して前記第一電極と対向して配される第二電極とを備え、前記第一電極を設ける第一基材もしくは前記第二電極を設ける第二基材は、隣接するユニットセル間を分離する隔壁部を有する太陽電池モジュールであって、前記第一基材は、前記隔壁部間をなす領域において、透明導電膜からなる第一導電層と酸化スズ膜からなる第二導電層が順に重ねて配されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池をはじめとする湿式太陽電池(以下、DSC(Dye-Sensitized Solar Cell) と略記する。)のユニットセルを直列接続してなる太陽電池モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DSCを大型化する方法としては、セル内に配線を施して内部抵抗を下げることで電流を得る方法と、基板内でセルを分割し、それぞれのセルを直列に接続することで高電圧低電流のモジュールとする方法がある。このうち、後者のように単一の基板内に直列DSCモジュールを形成する方法としては、電流の経路形状から名付けられたZ型、W型と呼ばれるモジュールが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このZ型、W型と呼ばれるモジュールは、例えば、図5及び図6にそれぞれ示すように、何れも基材101と透明導電層102と半導体層103からなる三層構造の透明基板を光が入射する側の作用極(窓側電極)108とし、一方、透明導電層102を塗布した基材101を対極109として、この作用極108と対極109とで電解質層(電解液もしくは電解質ゲル)105を挟み込んだ構造をしている。
【0004】
そして、Z型のモジュールは図5に示すように、隔壁106で分割された各セル110a,b,c…を、作用極108はいずれか一方側に、対極109は他方側となるようにそれぞれ分けて配置するとともに、隣接する各セル110a,b,c…の作用極108と対極109とをセル間接続部材107を用いて繋ぎ合わせて電気接続した構造をしている。
【0005】
一方、W型のモジュールは、図6に示すように、隔壁106で分割された各セル110a,b,c…を隣接する作用極108と対極109とが交互になるように配置して裏面入射可能とするとともに、隣り合う一対のセル110a,110b,110c…の作用極108と対極109とを同一基材101上に設けて接続した構造をしている。
【0006】
このうちZ型のモジュールは、W型のモジュールのように光電変換効率の劣る裏面入射となるユニットセルが存在しないことから、W型モジュールに比べてモジュール単位での発電効率の向上が図れる。しかしながら、Z型のモジュールは、作用極と対極とを接続する構成が複雑となることから、製造時の作業性が低く、また多くの製造工程も要するので、製造コストが嵩む等の問題がある。
【0007】
Z型のモジュールにおいて良好な特性を得る方法としては、例えば、作用極と対極との間に、オレフィン樹脂からなる絶縁性材料中に導電剤を含んだ導電性材料を設け、両極間を電気的に接続するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、Z型のモジュールからさらに進んだ構造として、一つの基板上にユニットセルを並べて配し、隣接するユニットセル同士を電気的に接続してなるモノシリック型モジュールを実現しようとするアイデアも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
発電効率の面で有利なZ型モジュールを作製する場合、基板上に多くのユニットセルを並べて配し、それぞれ隣接したセルの作用極と対極とを接続部材を用いて直列に接続しなければならないが、接続に用いる領域は非発電領域となるため、極力狭くする必要がある。また、電解液が隣接するユニットセル間を往来しないように、ユニットセル間の分離性に優れた構造の開発が期待されている。
【0009】
そこで、いずれか一方の電極(対極または作用極)を設けた基材に、隣接するユニットセル間を分離する隔壁部を備えた構成を有するモジュールを考案し、本発明者らは先に出願をしている(特許文献4参照)。
【0010】
図7に作用極に隔壁部を設けた例を示すように、このモジュールは、隣接するユニットセル120間を分離する隔壁部121を備えた透明部材からなる第一基材122と、第一電極として機能する導電層123と、導電層上に設けた多孔質酸化物半導体層124とからなる構造体を、光が入射する側の窓極(作用極)基板125とする。一方、第二基材126と第二電極として機能する導電層127と、電極部材128とからなる構造体を、対極基板129とする。そして、窓極基板125と対極基板129との間に電解質層130(電解液もしくは電解質ゲル)を設けてなる。また、窓極基板125の導電層123は一端が隔壁部121の頂面まで延び、この頂面において対極基板129との間に導電性接着部材131を設けることによって間接接続するように構成されたものである。
【0011】
この構成によれば、従来に比べて隣接するユニットセル間の構成が簡単となり、ひいては組立の容易性を格段と向上させることが可能となる。しかも、上記隔壁部を利用して隣接するユニットセル同士を接続するものであるので、隔壁部の厚みを調整するだけで、ユニットセル同士の接続に用いられて非発電領域となる部分を極力狭めた構成とすることができる。
【0012】
ところで、このようなモジュールに用いられている基材として、ITOを成膜したプラスチック基板が広く用いられている。プラスチック基板を用いた色素増感型太陽電池の窓側電極において、プラスチック基板上に低温成膜した非晶質〜微結晶のITO透明導電膜と電解液との間では、逆電子移動が起きやすい[図7(b)]。その結果、内部抵抗要素Rshの低下による形状因子FF低下が原因となり発電効率が低下してしまう。
内部抵抗要素Rshの向上策として、TiOなどからなる逆電子移動層を成膜することが報告されている[図7(c)]が、この場合、セル間接続抵抗が高くなり、結果として、内部抵抗要素Rsの増加による形状因子FFの低下が原因となり、発電効率が低下してしまう。
【特許文献1】特開平8−306399号公報
【特許文献2】特開2005−93252号公報
【特許文献3】特開2004−303463号公報
【特許文献4】特願2005−190247
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、内部抵抗を増大させずに逆電子移動を抑制して、発電効率を高めた太陽電池モジュールを提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、低温成膜のプロセス条件においても、内部抵抗を増大させずに逆電子移動を抑制して、発電効率を高めた太陽電池モジュールを得ることができる太陽電池モジュールの製造方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に記載の太陽電池モジュールは、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、少なくとも一部に電解質層を介して前記第一電極と対向して配される第二電極とを備え、前記第一電極を設ける第一基材もしくは前記第二電極を設ける第二基材は、隣接するユニットセル間を分離する隔壁部を有する太陽電池モジュールであって、前記第一基材は、前記隔壁部間をなす領域において、透明導電膜からなる第一導電層と酸化スズ膜からなる第二導電層が順に重ねて配されていることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の太陽電池モジュールは、請求項1において、前記第一導電層は、その一端が、前記隔壁部の一方の側面とこれに連なる頂面の両方、もしくは前記隔壁部に対向する領域、を覆うように延設されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の太陽電池モジュールの製造方法は、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、少なくとも一部に電解質層を介して前記第一電極と対向して配される第二電極とを備え、前記第一電極を設ける第一基材もしくは前記第二電極を設ける第二基材は、隣接するユニットセル間を分離する隔壁部を有する太陽電池モジュールであって、前記第一基材は、前記隔壁部間をなす領域において、透明導電膜からなる第一導電層と酸化スズ膜からなる第二導電層が順に重ねて配されている太陽電池モジュールの製造方法であって、前記第二導電層は200℃以下で形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、窓極として機能する第一電極において、隔壁部間をなす領域において、透明導電膜からなる第一導電層と酸化スズ膜からなる第二導電層が順に重ねて配することで、内部抵抗を増大させずに逆電子移動を抑制することができる。これにより発電効率を高めた太陽電池モジュールを提供することができる。
また、本発明では、前記第二導電層として酸化スズ膜を200℃以下の温度で形成することにより、内部抵抗を増大させずに逆電子移動を抑制できる被膜とすることができる。ゆえに、本発明は、低温成膜が求められるプラスチック基板などの上に、発電効率を高めた太陽電池モジュールを構築可能な製造方法をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る太陽電池モジュールの一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る太陽電池モジュールの一実施形態を示す概略断面図であり、隔壁部を窓極基板側に配置した例である。
本実施形態に係る太陽電池モジュール1は、隣接するユニットセル20間を分離する隔壁部21を備えた透明部材からなる第一基材2と、第一電極として機能する、透明導電膜からなる第一導電層3および酸化スズ膜からなる第二導電層4と、酸化スズ膜上に設けた多孔質酸化物半導体層5とからなる構造体を、光が入射する側の窓極(作用極)基板6とする。一方、第二基材7と第二電極として機能する第三導電層8と、電極部材9とからなる構造体を、対極基板10とする。そして、窓極基板6と対極基板10との間に電解質層11(電解液もしくは電解質ゲル)を設けてなる。
【0018】
また、本発明の太陽電池モジュール1においては、各ユニットセルごとに、窓極基板6の第一導電層3はその一端が隔壁部21の頂面まで延び、この頂面において、隣接するユニットセルの対極基板10を構成する第三導電層8(又は電極部材9)との間に設けられた導電性接着部材13によって電気的にも機械的にも接合されるように構成されている。
【0019】
そして、本発明の太陽電池モジュール1は、前記第一基材2は、前記隔壁部21の間をなす領域すなわち凹部底面上に透明導電膜からなる第一導電層3を備え、さらに該第一導電層3上に酸化スズ膜からなる第二導電層4が重ねて配されていることを特徴とする。これにより内部抵抗を増大させずに逆電子移動を抑制することができる。その結果、発電効率を高めた太陽電池モジュールを提供することができる。
【0020】
第一導電層3をなすITO導電層は従来から利用されてはいるが、低温で成膜したアモルファス〜微結晶のITO導電層は、電解液に対して逆電子移動を起こしやすく、色素増感型太陽電池に用いると形状因子FFが低下する傾向があった。色素増感型太陽電池において導電層に起因する形状因子FF低下を解決する手法には、導電層上に酸化チタンや酸化ニオブをコーティングする例が知られているが、いずれも高温で焼成するタイプの色素増感型太陽電池に対するもので、プラスチック基板を用いた場合は効果が再現できない。おそらく、コーティングした層がアモルファス状態になっていることが原因と思われる。本発明者らは、種々材料を検討した結果、コーティング層を低温で焼成する場合には特に酸化スズ(TO)コーティングが優れていることを初めて見いだした。これに基づき、本発明をを考案するに至った。
【0021】
本発明に係る酸化スズ膜からなる第二導電層4は、スパッタ法など、200℃以下の低温成膜が可能な方法で成膜されていることが好ましい。
上記の方法で成膜した酸化スズ膜は導電性が低いため、酸化チタン等からなる多孔質酸化物半導体層からの集電程度の電流密度には使用できるが、隣接セルと接続するための隔壁部21のように電流が集中する箇所には使用できない。そのため隔壁部21を避けてパターニングし、隔壁部21の頂面では直接、第一導電層3が、対極基板10を構成する第三導電層8(又は電極部材9)と触れる構造とする必要がある。
【0022】
なお、本発明に係る[ITO(アモルファス)/TO(アモルファス)]複合膜と良く似た構成である[ITO(結晶)/FTO(フッ素をドープしたTO:結晶)]複合膜は特願2003−009758に、[ITO(結晶)/TO(結晶)]複合膜は特開平05−294673号公報に、それぞれ例示されてはいるが、いずれも耐熱性向上を目指したもので、色素増感型太陽電池に適用した際の形状因子向上効果は謳われていない。
【0023】
第一基材2は、表面に導電材料からなる膜(層)を形成することにより電気を通す導電性を有し、光透過性の高い透明な部材であれば何でも良く、特に制限されない。この第一基材2としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等のプラスチックを用いることができる。
【0024】
隣接するユニットセル20間を分離する隔壁部21は、本実施形態の場合、第一基材2と一体化されており、例えば、第一基材2の表面に凹凸加工を施すことで形成することができる。この凹凸加工は、第一基材2としてガラス板を用いた場合、エッチング法等を用いることで行なうことができる。また、第一基材2がプラスチックである場合は、射出成形や切削法ダイスタンプ法等簡便な方法で凹凸加工を施すことができる。しかも、第一基材2にプラスチックを用いた場合、経済的に、軽量なモジュールを得ることができる。
このように、第一基材2に凹凸加工を施し、隔壁部21を第一基材2と一体化して形成することで、両極基板を接着する導電性接着部材12と電解質層11との接触面積が低減し、セルの耐薬品性が向上するとともに、暗電流の問題が起こりにくいものとなる。
【0025】
また、第一基材2は途中熱プレスの工程を経ることから、このときに用いるプラスチックは例えば、ポリカーボネートやポリアリレート等、耐熱温度が130℃以上を有するエンジニアリングプラスチックが望ましい。
【0026】
第一導電層3は、第一基材2上に形成された導電材料からなる導電性の膜であり、例えば、スズ添加インジウム(ITO)が好ましい。第一導電層3が第一基材2上に形成される場合、光透過率の高いものが好適である。
【0027】
また、第一導電層3は、隔壁部21の一方の側面とこれに連なる頂面のみを覆うように設けられ、隣接する位置にあるセル構造体を直列に繋ぎ合わせるセル間接続部材として作用する。したがって、本実施形態の場合、第一導電層3をそのまま利用して窓極と対極とを電気的に接続可能とする構成となっている。
そして、第一基材2上に光透過率の高い透明な第一導電層3を形成することにより、窓極(作用極)基板とする。
【0028】
多孔質酸化物半導体層5は、酸化スズ膜からなる第二導電層4の上に設けられており、その表面には増感色素が担持されている。多孔質酸化物半導体層5を形成する半導体としては特に限定されず、通常、光電変換素子用の多孔質酸化物半導体を形成するのに用いられるものであれば、いかなるものでも用いることができる。このような半導体としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)などを用いることができる。
【0029】
多孔質酸化物半導体層5を形成する方法としては、例えば、市販の酸化物半導体微粒子を所望の分散媒に分散させた分散液、あるいは、ゾル−ゲル法により調製できるコロイド溶液を、必要に応じて所望の添加剤を添加した後、スクリーンプリント法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スプレー塗布法など公知の塗布方法により塗布した後、この溶媒を加熱処理により除去して空隙を形成させ多孔質化する方法などを適用することができる。
【0030】
増感色素としては、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを配位子に含むルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニンなどの含金属錯体、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などを適用することができ、これらの中から、用途、使用半導体に適した挙動を示すものを特に限定なく選ぶことができる。
【0031】
一方、第二基材7は、その内面に第二電極として機能する第三導電層8を設けることにより導電性を備え、光透過性の高い部材である必要はなく、特に制限されない。この第二基材7としては、ガラス板を使用するのが一般的であるが、ガラス板以外にも、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等のプラスチック、酸化チタンやアルミナ等のセラミックスを用いることができる。中でも、第二基材7としては、熱膨張に起因した反りの発生を抑えるために、窓極を構成する第一基材2と同じ材料またはほぼ同じ熱膨張率の材料が好ましい。なお、第二基材7の内面に設けられる導電層としては、上述した導電層と同様の部材が用いられる。
【0032】
また、電極部材9は、窓極との間で起電力を生じさせる電極であり、例えば、化学的に安定な白金やカーボンが好適に用いられる。電極部材9の形成方法に関しては、例えば、電極部材9が白金からなる場合、スパッタ法や蒸着法といった真空成膜法、基板表面に塩化白金酸溶液等の含白金溶液を塗布後に熱処理を加える湿式成膜法等を用いて行なうことができる。
【0033】
また、電解質層11をなす電解液は、電解質が液中で解離して陽イオンと陰イオンを生じ電導性を有する溶液をいう。この電解液としては、例えば、酸化還元対を含む有機溶媒や、イオン液体(室温溶融塩)等を用いることができる。
酸化還元対も特に限定されるものではないが、例えばヨウ素/ヨウ化物イオン、臭素/臭化物イオン等を選ぶことができ、前者であればヨウ化物塩(リチウム塩、四級化イミダゾリウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等を単独、あるいは複合して用いることができる)とヨウ素を単独、あるいは複合して添加することにより与えることができる
【0034】
有機溶媒としては、アセトニトリルやメトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等を用いた揮発性電解液が例示される。
また、イオン液体としては、例えば、四級化イミダゾリウム誘導体、四級化ピリジニウム誘導体、四級化アンモニウム誘導体といった四級化された窒素原子を有する化合物をカチオンとしたものがある。
【0035】
また、このような電解液を適当なゲル化剤、充填剤を導入することにより流動性を抑えて擬似固体化したもの、いわゆるゲル電解質を電解質層11として用いても構わない。
電解液には、更に必要に応じてリチウム塩やtert-ブチルピリジン等種々の添加物を加えても構わない。更に、このような電解液と同様に電荷輸送能力を有する高分子固体電解質等を電解質層11として用いても構わない。
【0036】
導電性接着部材12は、加熱加圧することで接合する異方性導電接着剤が好適である。異方性導電接着剤は、接着・導電・絶縁という3つの機能を兼ね備えた接続材料であって、熱圧着することにより、その厚み方向には導通性、面方向には絶縁性という電気的異方性をもつ。この導電性接着部材12としては、例えば、ペースト状のACP(Anisotropic Conductive Paste)等が挙げられる。また、導電性を向上させるために、金属導線を異方性接着剤と組み合わせることも有効である。なお、金属導線と組み合わせて利用する場合は、異方性導電接着剤に代えて、絶縁性接着部材であるNCP(Non Conductive Paste)やNCF(Non Conductive Film) を用いてもよい。
【0037】
そして、窓極基板6と対極基板10とを、窓極基板6に設けた多孔質酸化物半導体層5と、対極基板10に設けた電極部材9とが向かい合うように配置し、窓極基板6の隔壁部21の頂面に設けられた第一導電層3と対極基板10の第三導電層8(又は電極部材9)との間に導電性接着部材12を配して間接接続して熱プレスにより貼り合せする。
その後、セル内に電解液を注入して封止することにより、図1に示すような、ユニットセル20を直列接続してなる太陽電池モジュール1とする。
【0038】
以下では、本発明に係る太陽電池モジュール1の製造方法の一例について説明する。
図2は、太陽電池モジュール1を構成する窓極(作用極)基板6を作製する工程を順に示す概略断面図であり、図3は、太陽電池モジュール1における対極基板10を作製する工程を順に示す概略断面図である。そして、図4は、本発明に係る太陽電池モジュール1の製造例を示す概略断面図である。
【0039】
まず、窓極(作用極)の作製方法について図2に基づき説明する。
図2(a)に示すように、凹凸加工を施すことが可能な第一基材2を準備する。第一基材2は、汎用のガラス板でも差し支えないが、凹凸加工が施しやすく、経済的で、軽量なモジュールを得ることができる樹脂板(プラスチック板)が好ましい。
【0040】
次に、図2(b)に示すように、この第一基材2の一方の面に凹凸加工を施し、凹部21と凸部(以下、隔壁部21と呼ぶ)を形成する。これにより、この凸部は、第一基材2と一体化されたものとなり、隣接するユニットセル20間を分離する隔壁部21として機能する。凹凸加工の方法としては、例えば、射出成形や切削法、ダイスタンプ法等の簡便な方法が挙げられる。
【0041】
そして、この凹部21の深さ(すなわち、凸部の高さ)は、板間距離の関係から、100μm以下、多孔質酸化物層の厚さ以上が好ましい。凹部21の深さが100μm以上であると、電解質層11が厚すぎて内部抵抗が大きくなり好ましくなく、一方、多孔質酸化物層の厚さより凹部21の深さが浅いと、対極とぶつかってしまい両極間に多孔質酸化物層が収納されないためである。
【0042】
次いで、図2(c)に示すように、凹凸加工が施された第一基材2の表面上に透明な導電膜からなる第一導電層3を設ける。第一導電層3の形成方法としては、第一導電層3を構成する材料に応じて公知の方法を用いて行なえばよく、例えば、スパッタ法やCVD法(気相成長法)、SPD法(スプレー熱分解堆積法)、蒸着法等により、スズ添加酸化インジウム(ITO)等の酸化物半導体からなる薄膜を形成する。この第一導電層3は、厚すぎると光透過性が劣り、一方、薄すぎると導電性が損なわれるので、例えばITO膜の場合、光透過性と導電性の両方を考慮して、0.030μm〜1μm程度の膜厚にするとよい。
【0043】
引き続き、図2(c)に示すように、この成膜された第一導電層3の上に、レジスト(不図示)をスクリーン印刷法等により形成し、このレジストをマスクとして第一導電層3の一部を除去する。その後、レジストを除去することにより、凹凸加工が施された第一基材2の一面上に、その一端が隔壁部21の一方の側面とこれに連なる頂面を覆うように第一導電層3を作製する。これにより、窓極用の導電性基板が得られる。
【0044】
さらに、図2(d)に示すように、窓極用の導電性基板において、前記隔壁部21をなす凹部底面上に形成された第一導電層3上に、酸化スズ膜からなる第二導電層4を重ねて形成する。この第二導電層4は、厚すぎると導電性が損なわれ、一方、薄すぎると逆電流防止の効果が十分に得られないので、例えばSnO膜の場合、5nm〜100nm程度の膜厚にするとよい。
【0045】
ここで本発明では、前記第二導電層4を、スパッタ法など、200℃以下での低温成膜が可能な方法で成膜することを特徴とする。これにより酸化スズ膜4を内部抵抗を増大させずに逆電子移動を抑制できる被膜とすることができる。
200℃以下の比較的低温で成膜された酸化スズ膜からなる第二導電層4は導電性が低いため、酸化チタン電極からの集電程度の電流密度には使用できるが、隣接セルと接続するための隔壁部21のように電流が集中する箇所には使用できない。そのため隔壁部21を避けてパターニングする必要がある。
【0046】
さらに、図2(e)に示すように、酸化スズ膜からなる第二導電層4上に、多孔質酸化物半導体層5を形成する。多孔質酸化物半導体層5の形成方法としては、例えば、二酸化チタン(TiO)の粉末を分散媒と混ぜてペーストを調製し、これをスクリーン印刷法やインクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法等により導電層上に塗布し、焼成する。そして、この多孔質酸化物半導体層5は、1μm〜20μm程度に形成する。
【0047】
そして、図2(e)に示すように、多孔質酸化物半導体層5の粒子間に、増感色素を担持させることで、窓極基板6を構成する。増感色素の担持は、例えば、多孔質酸化物半導体層5が形成された導電性基板を色素液に浸漬することでなし得る。
【0048】
次に、対極基板10の作製方法について図3に基づき説明する。
図3(a)に示すように、プラスチックよりなる第二基材7を準備し、この第二基材7の一面に第三導電層8を設ける。第三導電層8の形成方法としては、第一基材2の場合と同様に、第三導電層8の材料に応じて公知の方法を用いて行なえばよく、例えば、スパッタ法や蒸着法等により、スズ添加酸化インジウム(ITO)等の酸化物半導体からなる薄膜を形成する。この導電層8は、厚すぎると光透過性が劣り、一方、薄すぎると導電性が損なわれるので、例えばITO膜の場合、光透過性と導電性の両方を考慮して、0.030μm〜2μm程度の膜厚にするとよい。
【0049】
引き続き、図3(b)に示すように、この成膜された第三導電層8の上に、レジスト(不図示)をスクリーン印刷法等により形成し、このレジストをマスクとして第三導電層8の一部を除去する。その後、レジストを除去することにより、所望の形状をしたユニットセルパターンをなす第三導電層8を作製する。これにより、対極用の導電性基板が得られる。
【0050】
次いで、図3(c)に示すように、対極用の導電性基板において、パターン化された第三導電層8の上に、予め剥離可能なレジストαをスクリーン印刷法等により形成した後、第三導電層8およびレジストを覆うように電極部材9を形成する。この電極部材9としては、例えば白金やカーボンを用いることができ、スパッタ法や蒸着法といった真空成膜法によって形成できるほか、基板表面に塩化白金溶液等の含白金溶液を塗布後に熱処理を加える湿式成膜法等によって形成してもよい。この電極部材9の厚さは、0.01μm〜5μm程度が好ましい。0.01μmより薄いと電極の実効面積が不足となり、5μmを越えると成膜コストが過大となることから好ましくない。
【0051】
その後、第二基材7から、レジストαと一緒に、その上に位置する電極部材9の一部を剥離することにより除去する。これにより、図3(d)に示した構成の対極基板10を得る。
【0052】
そして図4(a)に示すように、図2(e)に示した窓極基板6と図3(d)に示した対極基板10とを、窓極基板6に設けた多孔質酸化物半導体層5と対極基板10に設けた電極部材9とが向かい合うように配置し、窓極基板6の隔壁部21の頂面に設けられた第一導電層3と対極基板10の第三導電層8(または電極部材9)との間、導電性接着部材12を配して間接接続して熱プレスにより貼り合せする(図4(b)参照)。
【0053】
その後、セル内に電解液を注入して封止することにより、図1に示すような、ユニットセル20を直列接続してなる太陽電池モジュール1とする。
このようにして得られた太陽電池モジュール1は、窓極基板において、隔壁部間をなす凹部底面上に形成された透明導電膜からなる第一導電層3に、酸化スズ膜からなる第二導電層4を重ねて配することで、内部抵抗を増大させずに逆電子移動を抑制することができる。その結果、発電効率が向上したものとなる。
【0054】
以上、本発明の太陽電池モジュールについて説明してきたが、本発明は上記の例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更が可能である。
たとえば、図1には隔壁部を窓極基板側に配置した太陽電池モジュールの一実施形態を示したが、図示はしないが、隔壁部を対極基板側に配置してもよく、このような配置においても上述した本発明の作用・効果は得られる。ただし、隔壁部を対極基板側に配置する場合、前記第一導電層は、その一端が、前記隔壁部に対向する領域を覆うように延設される点が、図1の配置例とは異なる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、色素増感型太陽電池をはじめとする湿式太陽電池のユニットセルを直列接続してなる太陽電池モジュールおよびその製造方法に広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図2】窓極(作用極)基板を作製する工程を示す概略断面図である。
【図3】対極基板を作製する工程を示す概略断面図である。
【図4】太陽電池モジュールの製造例を示す概略断面図である。
【図5】従来のZ型太陽電池モジュールの構造例を示す概略断面図である。
【図6】従来のW型太陽電池モジュールの構造例を示す概略断面図である。
【図7】従来の太陽電池モジュールの構造例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 太陽電池モジュール、2 第一基材、3 第一導電層(第一電極)、4 第二導電層(酸化スズ膜)、5 多孔質酸化物半導体層、6 窓極(作用極)基板、7 第二基材、8 第三導電層(第二電極)、9 電極部材、10 対極基板、11 電解質層、12 導電性接着部材、20 ユニットセル、21 隔壁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、少なくとも一部に電解質層を介して前記第一電極と対向して配される第二電極とを備え、
前記第一電極を設ける第一基材もしくは前記第二電極を設ける第二基材は、隣接するユニットセル間を分離する隔壁部を有する太陽電池モジュールであって、
前記第一基材は、前記隔壁部間をなす領域において、透明導電膜からなる第一導電層と酸化スズ膜からなる第二導電層が順に重ねて配されていることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記第一導電層は、その一端が、前記隔壁部の一方の側面とこれに連なる頂面の両方、もしくは前記隔壁部に対向する領域、を覆うように延設されていることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、少なくとも一部に電解質層を介して前記第一電極と対向して配される第二電極とを備え、
前記第一電極を設ける第一基材もしくは前記第二電極を設ける第二基材は、隣接するユニットセル間を分離する隔壁部を有する太陽電池モジュールであって、
前記第一基材は、前記隔壁部間をなす領域において、透明導電膜からなる第一導電層と酸化スズ膜からなる第二導電層が順に重ねて配されている太陽電池モジュールの製造方法であって、
前記第二導電層は200℃以下で形成されることを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−65999(P2008−65999A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239498(P2006−239498)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽光発電技術研究開発革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発 大面積・集積型色素増感太陽電池の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】