説明

子癇前症または子癇の診断方法および治療方法

本明細書に開示されているのは、子癇前症または子癇を診断するための方法である。また本明細書に開示されているのは、VEGFまたはPlGFレベルを増加させる化合物、またはsFlt−1レベルを減少させる化合物を使用する、子癇前症または子癇を治療するための方法である。sFlt−1に対するVEGFまたはPlGFの結合を阻害する化合物もまた、子癇前症または子癇の治療のために本明細書に開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に、本発明は、子癇前症または子癇を有する被験者の検出および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
子癇前症とは、妊娠の5〜10%に影響し、母体および胎児に相当な罹患率および死亡率をもたらす、高血圧症、浮腫および蛋白尿症の症候群である。子癇前症は、年当たり世界中で少なくとも20,000人の母体死亡の原因である。子癇前症の症状は典型的には、妊娠20週後に現れ、通常、女性の血圧および尿の日常的モニタリングにより検出される。しかしながら、これらのモニタリング法は、有効な治療が利用できる場合は被験者または発育している胎児の危険性を減少させる、初期段階での症候群の診断には無効である。
【0003】
現在、子癇前症のための療法は知られていない。子癇前症は中程度から生命を脅かすまでの重度で変化しうる。子癇前症の軽度型はベッドでの療養および頻繁なモニタリングにより治療することが可能である。中程度から重度の場合、入院が推奨され、発作を予防するため血圧投薬もしくは抗痙攣薬投薬が処方される。状態が母親および子供の生命を脅かすまでになった場合は、妊娠が終結され、そして子供は早期に分娩される。
【0004】
適切な胎児および胎盤の発育は、いくつかの成長因子により仲介される。これらの成長因子の1つは血管内皮成長因子(VEGF)である。VEGFは内皮細胞特異的マイトジェン(血管形成誘導剤)、および血管透過性のメディエーターである。VEGFはまた、糸球体係蹄修復に重要であることが示されている。VEGFは、多くの異なった組織から得られた内皮細胞中で区別的に発現される、2つの相同的膜貫通型チロシンキナーゼレセプターであるfms様チロシンキナーゼ(Flt−1)およびキナーゼドメインレセプター(KDR)の1つへホモ2量体として結合する。Flt−1は、胎盤形成に寄与する栄養膜細胞層(trophoblast)細胞で高度に発現されるが、KDRは発現されない。胎盤成長因子(PlGF)は、胎盤発育にも関与しているVEGFファミリーメンバーである。PlGFは栄養膜細胞層および合胞体栄養細胞(syncytiotrophoblast)により発現され、内皮細胞の増殖、移動および活性化を誘導することが可能である。PlGFはホモ2量体としてFlt−1レセプターへ結合するが、KDRレセプターには結合しない。PlGFおよびVEGFの両方が、胎盤の発育に決定的である、分裂促進活性および血管形成に寄与している。
【0005】
最近、Flt−1レセプターの可溶型(sFlt−1)がヒト臍帯静脈内皮細胞の培養培地で同定され、続いてインビボ発現が胎盤組織中で示された。sFlt−1はFlt−1レセプターのスプライス変異体であり、それは膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインが欠失している。sFlt−1はVEGFへ高親和性で結合するが、内皮細胞の有糸分裂誘発は刺激しない。sFlt−1は、VEGFシグナル伝達経路を下方制御するための「生理学的シンク(sink)」として働くと信じられている。それ故、sFlt−1レベルの制御は、VEGFおよびVEGFシグナル伝達経路を変調するために作用する。VEGFおよびPlGFシグナル伝達経路の注意深い制御は、発育している胎盤における栄養膜細胞層細胞による適切な増殖、移動および血管形成を維持するために決定的である。子癇前症の危険があるかまたは有している被験者を、特に最も重度な症状の発症前に、正確に診断する方法が必要とされている。治療もまた必要とされている。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
我々は、症状の発現に先立って、子癇前症および子癇を診断し、有効に治療するための手段を発見した。
【0007】
遺伝子発現分析を使用して、我々は、sFlt−1レベルが子癇前症に罹患する妊娠女性から得た胎盤組織試料で顕著に上昇していることを発見した。sFlt−1は、「生理学的シンク」として作用することによりVEGFおよびPlGFに拮抗することが知られており、子癇前症または子癇の女性において、sFlt−1は、胎盤のこれら必須の血管形成因子および分裂促進因子の必要量を枯渇させることができる。過剰のsFlt−1はまた、血液脳関門を維持する内皮細胞および/または脳脈絡叢を区画している内皮細胞を破壊することにより子癇へと導き、こうして子癇において観察される脳浮腫および発作をもたらす。本発明においては、上昇したsFlt−1の影響を押しとどめることにより、子癇前症または子癇を治療または予防するため、VEGFおよびPlGFのレベルを増加させる化合物を被験者に投与する。加えて、sFlt−1へのVEGFまたはPlGFの結合を競合的に阻害するため、sFlt−1へ方向付けられた抗体を使用し、それにより、遊離のVEGFおよびPlGFのレベルを増加させる。sFlt−1レベルを減少させるため、RNA干渉およびアンチセンス核酸塩基オリゴマーも使用する。最後に、本発明は、子癇前症または子癇の早期診断および管理、またはそれらの素因のための検出手段として、sFlt−1、VEGFおよびPlGFの使用およびモニタリングを提供する。
【0008】
従って、1つに側面において、本発明は、被験者へsFlt−1に結合可能な化合物を投与することにより、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防する方法を提供し、その投与は、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分な時間および量である。
【0009】
関連する側面において、本発明は、被験者へsFlt−1に結合可能な、成長因子のレベルを増加させる化合物(例えば、ニコチン、テオフィリン、アデノシン、ニフェジピン、ミノキシジルまたは硫酸マグネシウム)を投与することにより、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防する方法を提供し、その投与は、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分な時間および量である。
【0010】
他の関連する側面において、本発明は、被験者へ精製sFlt−1抗体またはその抗原結合断片を、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分な時間および量で投与することにより、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防する方法を提供する。
【0011】
さらに他の関連した側面において、本発明は、被験者へsFlt−1核酸配列の少なくとも一部と相補的なアンチセンス核酸塩基オリゴマーを投与することにより、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防する方法を提供し、その投与は被験者の子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分である。1つの態様において、アンチセンス核酸塩基オリゴマーは長さ8〜30ヌクレオチドである。
【0012】
他の関連した側面において、本発明は、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防する方法を提供する。本方法は、sFlt−1核酸配列の少なくとも一部を含有する2本鎖RNA(dsRNA)を被験者に投与する工程を含み、その投与は被験者の子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分である。1つの態様において、2本鎖RNAは長さ19〜25ヌクレオチドの、短鎖干渉RNA(siRNA)へプロセッシングされる。
【0013】
上記側面の多様な態様において、候補化合物は、VEGF189、VEGF121またはVEGF165などの全てのアイソフォームを含む血管内皮成長因子(VEGF);全てのアイソフォームを含む胎盤成長因子(PlGF);またはそれらの断片、のような成長因子である。好ましい態様において、候補化合物はsFlt−1を結合させる抗体である。上記側面の他の態様において、方法は抗高血圧化合物を被験者に投与することをさらに含む。上記側面のさらに他の態様において、被験者は妊娠したヒト、産後のヒト、または非ヒト(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコ)である。
【0014】
他の側面において、本発明は子癇前症または子癇を治療または予防する方法を提供する。本方法は、そのような治療を必要とする被験者に、VEGFまたはPlGFのポリペプチドを含む有効量の医薬組成物を投与することを含む。1つの態様において、組成物はVEGFポリペプチドを含有する。他の態様において、組成物はPlGFポリペプチドを含有する。
【0015】
関連する側面において、本発明は子癇前症または子癇を治療または予防する方法を提供する。この方法は、そのような治療を必要とする被験者に、VEGFまたはPlGFをコードする核酸分子を含む有効量の医薬組成物を投与することを含む。1つの態様において、組成物はVEGF核酸分子を含有する。他の態様において、組成物はPlGF核酸分子を含有する。
【0016】
他の関連した側面において、本発明は、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防する方法を提供する。本方法は、sFlt−1ポリペプチドへの成長因子の結合を阻害する化合物(例えば、化学化合物、ポリペプチド、ペプチド、抗体またはその断片)を被験者に投与する工程を含み、その投与は被験者の子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分である。1つの態様において、化合物はsFlt−1へ結合し、成長因子の結合を阻止する。
【0017】
上記側面の多様な態様において、方法は抗高血圧化合物(例えば、アデノシン、ニフェジピン、ミノキシジルおよび硫酸マグネシウム)を被験者に投与する工程をさらに含む。上記側面の他の態様において、被験者は妊娠したヒト、産後のヒト、または非ヒト(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコ)である。
【0018】
他の側面において、本発明は、被験者が、子癇前症若しくは子癇を有しているか、または発現する傾向を有していると診断する方法を提供し、本方法は被験者から得た試料中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドのレベルを測定することを含む。
【0019】
関連する側面において、本発明は、被験者から得た試料中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドのうち少なくとも2つのレベルを測定し、1つの測定基準を使用してFlt−1、VEGFまたはPlGFのレベル間の関係を計算することにより、子癇前症若しくは子癇を有しているか、または発現する傾向を有していると被験者を診断する方法を提供し、ここにおいて、基準に対する被験者試料の変化で、被験者における子癇前症または子癇を診断する。1つの態様において、測定基準は子癇前症抗血管形成指標(PAAI):[sFlt−1/VEGF+PlGF]であり、ここにおいて、PAAIは抗血管形成活性の指標として使用される。1つの態様において、20より大きなPAAIは子癇前症または子癇を暗示する。他の態様において、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドのレベルは、ELISAのような免疫学的アッセイにより測定される。
【0020】
上記側面の多様な態様において、試料は血清または尿のような体液である。1つの態様において、2ng/mlより高いsFlt−1レベルは子癇前症または子癇を暗示する。上記側面の好ましい態様において、測定されたsFlt−1ポリペプチドレベルは、遊離の、結合した、または全体のsFlt−1ポリペプチドのレベルである。上記側面の他の好ましい態様において、VEGFまたはPlGFのレベルは、遊離のVEGFまたはPlGFのレベルである。
【0021】
他の側面において、本発明は、子癇前症若しくは子癇を有しているか、または発現する傾向を有していると被験者を診断する方法を提供する。この方法は、被験者から得た試料中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFの核酸分子レベルを測定し、基準試料と比較することを含み、ここにおいて、レベルの変化で、被験者における子癇前症若しくは子癇を診断し、または子癇前症若しくは子癇を発現する傾向を診断する。
【0022】
他の側面において、本発明は、子癇前症若しくは子癇を有しているか、または発現する傾向を有していると被験者を診断する方法を提供する。この方法は、被験者中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFの遺伝子の核酸配列を決定し、基準配列と比較することを含み、ここにおいて、被験者における遺伝子産物のレベルを変える、被験者の核酸配列の変化から、子癇前症若しくは子癇を有しているか、または子癇前症若しくは子癇を発現する傾向がある被験者を診断する。1つの態様において、変化は核酸配列における遺伝子多型である。
【0023】
上記側面の多様な態様において、試料は、sFlt−1、VEGFまたはPlGFを正常に検出可能な被験者の体液である(例えば、尿、羊水、血清、血漿または脳脊髄液)。さらなる態様において、試料は組織または細胞である。非限定的な例には、胎盤組織又は胎盤細胞、内皮細胞、および白血球(例えば単球)が含まれる。上記側面の他の態様において、被験者は、妊娠していないヒト、妊娠したヒトまたは産後のヒトである。上記側面の他の態様において、被験者は非ヒト(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコ)である。上記側面の他の態様において、測定されるレベルの少なくとも1つはsFLt−1(遊離、結合または全体)レベルである。上記側面の他の態様において、VEGFレベルが測定される場合、sFlt−1またはPlGFのレベルも測定される。上記側面の多様な態様において、基準に対する、sFlt−1の核酸またはポリペプチドのレベル増加は、子癇前症または子癇の診断指標である。上記側面の他の態様において、基準に対する、遊離のVEGFポリペプチドまたはVEGF核酸のレベルの減少は、子癇前症または子癇の診断指標である。上記側面の他の態様において、基準に対する、遊離のPlGFポリペプチドまたはPlGF核酸のレベルの減少は、子癇前症または子癇の診断指標である。
【0024】
上記側面のさらなる態様において、レベルは2回以上の機会に測定され、測定間のレベルの変化が、子癇前症または子癇の診断指標である。1つの好ましい態様において、sFlt−1レベルが第1の測定から次の測定にかけて増加する。他の好ましい態様において、VEGFまたはPlGFのレベルが、第1の測定から次の測定にかけて減少する。
【0025】
他の側面において、本発明は、sFlt−1、VEGFおよびPlGFの核酸分子、またはそれに相補的な配列、またはその任意の組み合わせから成る群より選択される、核酸配列またはその断片を含む、被験者の子癇前症または子癇を診断するための診断キットを提供する。好ましい態様において、キットは、sFlt−1、VEGFまたはPlGFの核酸分子検出のための少なくとも2つのプローブを含む。
【0026】
関連する側面において、本発明は、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチド、およびそれらの任意の組み合わせを検出する手段を含む、被験者の子癇前症または子癇を診断するためのキットを提供する。1つの態様において、検出する手段は、免疫学的アッセイ、酵素的アッセイおよび比色分析アッセイから成る群より選択される。上記側面の他の態様において、キットは妊娠した被験者または妊娠していない被験者において、子癇前症または子癇が発現する傾向を診断する。上記側面の好ましい態様において、キットはsFlt−1またはPlGFを検出する。上記側面の他の好ましい態様において、キットがVEGFを検出する場合、sFlt−1またはPlGFも検出される。
【0027】
他の側面において、本発明は、子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定する方法を提供し、本方法は、sFlt−1、VEGFまたはPlGFの核酸分子を発現する細胞と候補化合物とを接触させ、候補化合物を接触させた細胞中の核酸分子の発現レベルと、候補化合物が接触していない対照細胞中の発現レベルを比較することを含み、sFlt−1、VEGFまたはPlGFの核酸分子の発現における変化で、候補化合物を子癇前症または子癇を改善させる化合物として同定する。
【0028】
1つの態様において、変化はsFlt−1レベルの減少である。他の態様において、変化はVEGFまたはPlGFのレベルの増加である。他の態様において、変化は転写または翻訳におけるものである。他の態様において、本方法がVEGFの発現を増加させる候補化合物を同定する場合、候補化合物はまた、PlGFの発現を増加させるか、またはsFlt−1の発現を減少させる。
【0029】
他の側面において、本発明は、医薬として受容可能な坦体に処方された、VEGFまたはPlGFのポリペプチド、またはその一部を含む医薬組成物を提供する。
関連する側面において、本発明は、医薬として受容可能な坦体に処方された、PlGF核酸分子またはその一部を含む医薬組成物を提供する。1つの態様において、組成物はさらにVEGF核酸分子またはその一部を含有する。
【0030】
他の側面において、本発明は、sFlt−1を特異的に結合させる、精製された抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を提供する。1つの好ましい態様において、抗体は、sFlt−1への成長因子の結合を妨げる。他の態様において、抗体はモノクローナル抗体である。他の好ましい態様において、抗体またはその抗原結合断片はヒト抗体またはヒト化抗体である。他の態様において、抗体はFc部分を欠失している。さらに他の態様において、抗体はF(ab’)2構造、Fab構造またはFv構造である。他の態様において、抗体またはその抗原結合断片は医薬として受容可能な坦体中に存在している。
【0031】
他の側面において、本発明は、子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定する方法を提供する。この方法は、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドを発現する細胞と候補化合物とを接触させ、候補化合物を接触させた細胞中のポリペプチド発現レベルと、候補化合物が接触していない対照細胞中のポリペプチド発現レベルとを比較することを含み、ここにおいて、sFlt−1、VEGFまたはPlGのポリペプチドの発現における変化で、候補化合物を子癇前症または子癇を改善させる化合物として同定する。1つの態様において、発現の変化は、免疫学的アッセイ、酵素的アッセイまたはイムノアッセイを使用してアッセイされる。1つの態様において、発現の変化はsFlt−1レベルの減少である。他の態様において、発現の変化はVEGFまたはPlGFのレベルの増加である。
【0032】
他の側面において、本発明は、子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定する方法を提供する。本方法は、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドを発現する細胞と候補化合物とを接触させ、候補化合物を接触させた細胞中のポリペプチドの生物活性と、候補化合物が接触していない対照細胞中のポリペプチドの生物活性とを比較することを含み、ここにおいて、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドの生物活性における増加で、候補化合物を子癇前症または子癇を改善させる化合物として同定する。1つの態様において、生物活性の増加は、免疫学的アッセイ、酵素的アッセイまたはイムノアッセイを使用してアッセイされる。1つの態様において、発現の変化はsFlt−1活性の減少である。他の態様において、発現の変化はVEGFまたはPlGFの活性の増加である。
【0033】
他の側面において、本発明は、子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定する方法を提供する。本方法は、候補化合物存在下でsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合を検出することを含み、ここにおいて、候補化合物非存在下でのsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合に対する結合の減少で、候補化合物を子癇前症または子癇を改善させる化合物として同定する。1つの態様において、成長因子はVEGFである。1つの態様において、成長因子はPlGFである。
【0034】
他の側面において、本発明は、sFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合を妨げる、ポリペプチドまたはその断片を同定する方法を提供する。本方法は、候補ポリペプチド存在下でsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合を検出することを含み、ここにおいて、候補ポリペプチド非存在下でのsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合に対する結合の減少で、候補ポリペプチドをsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合を妨げるポリペプチドとして同定する。1つの態様において、成長因子はVEGFである。1つの態様において、成長因子はPlGFである。
【0035】
他の側面において、本発明は、sFlt−1ポリペプチドと候補化合物との結合を検出することを含む、子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定する方法を提供し、ここにおいて、sFlt−1ポリペプチドを結合させる化合物は子癇前症または子癇を改善させる。
【0036】
関連する側面において、本発明は、前記側面に従って同定された化合物を提供し、その化合物はsFlt−1を特異的に結合させ、sFlt−1ポリペプチドのVEGFまたはPlGFへの結合を妨げるポリペプチドである。1つの好ましい態様において、ポリぺプチドは抗体である。他の好ましい態様において、ポリペプチドは、sFlt−1、VEGFまたはPlGFの断片である。
【0037】
上記側面の好ましい態様において、子癇前症または子癇を改善させる化合物は、sFlt−1の発現レベルまたは生物活性を減少させる。上記側面の好ましい態様において、子癇前症または子癇を改善させる化合物は、VEGFまたはPlGFの発現レベルまたは生物活性を増加させる。
【0038】
本発明の目的のため、次の略語および用語を以下に定義する。
「変化」とは、前記のような公知の方法の標準技術により検出される、遺伝子またはポリペプチドの発現レベルにおける変化(増加または減少)を意味している。本明細書において、増加または減少とは、発現レベルの10%の変化、好ましくは25%の変化、より好ましくは40%の変化、最も好ましくは50%以上の発現レベルの変化を含んでいる。
【0039】
「変化」は、本発明の任意のポリペプチド(例えば、sFlt−1、VEGFまたはPlGF)の生物活性における変化(増加または減少)も示すことができる。PlGFまたはVEGFの生物活性の例には、イムノアッセイ、リガンド結合アッセイまたはスキャッチャードプロット分析により測定されるようなレセプターへの結合、BrdU標識、細胞計数実験または3H−チミジン取り込みなどのDNA合成の定量的アッセイにより測定されるような細胞増殖または遊走の誘導が含まれる。sFlt−1の生物活性の例には、イムノアッセイ、リガンド結合アッセイまたはスキャッチャードプロット分析により測定されるようなPlGFおよびVEGFへの結合が含まれる。各々のポリペプチドの生物活性のさらなる例は、本明細書に記載されている。本明細書において、増加または減少とは、生物活性の10%の変化、好ましくは25%の変化、より好ましくは40%の変化、最も好ましくは50%以上の生物活性の変化を含んでいる。
【0040】
「アンチセンス核酸塩基オリゴマー」とは、長さにかかわらず、sFlt−1遺伝子のコード鎖またはmRNAに相補的である核酸塩基オリゴマーを意味している。「核酸塩基オリゴマー」とは、連鎖基により共に連結された、少なくとも8核酸塩基、好ましくは少なくとも12塩基、最も好ましくは少なくとも16塩基の鎖を含む化合物を意味している。この定義には、修飾および未修飾の、天然および非天然のオリゴヌクレオチド、ならびにプロテイン核酸、ロックされた(locked)核酸およびアラビノ核酸のようなオリゴヌクレオチド模倣体が含まれる。本明細書に援用される、米国特許出願第20030114412号および第20030114407号に記載されているものを含む、多数の核酸塩基および連鎖基を、本発明の核酸塩基オリゴマーに用いることができる。核酸塩基オリゴマーは、翻訳開始部位および終止部位を標的とすることもできる。好ましくは、アンチセンス核酸塩基オリゴマーは約8〜30ヌクレオチドを含む。アンチセンス核酸塩基オリゴマーは、sFlt−1 mRNAまたはDNAに相補的である、少なくとも40、60、85、120以上の連続したヌクレオチドを含有することもでき、完全長mRNAまたは遺伝子と同じくらい長くてもよい。
【0041】
「化合物」とは、小分子化学化合物、抗体、核酸分子またはポリペプチド、またはそれらの断片を意味している。
「キメラ抗体」とは、他のタンパク質(典型的には免疫グロブリン定常ドメイン)の少なくとも一部に連結された抗体分子の少なくとも抗原結合部分を含むポリペプチドを意味している。
【0042】
「2本鎖RNA(dsRNA)」とは、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含むリボ核酸分子を意味している。dsRNAは典型的には、RNA干渉を仲介するために使用される。
【0043】
「発現」とは、公知の方法の標準技術による遺伝子またはポリペプチドの検出を意味している。例えば、ポリペプチド発現はウェスタンブロッティングにより検出されることが多く、DNA発現はサザンブロッティングまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により検出されることが多く、そしてRNA発現はノーザンブロッティング、PCRまたはRNAse保護アッセイにより検出されることが多い。
【0044】
「断片」とは、ポリペプチドまたは核酸分子の一部を意味している。この部分は、好ましくは、基準核酸分子またはポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%または60%を含んでいる。断片は、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100、200、300、400、500、600、700、800、900または1000のヌクレオチドまたはアミノ酸を含有することができる。
【0045】
「相同的」とは、公知の遺伝子またはタンパク質配列に対し、比較配列の長さについて少なくとも30%相同性、より好ましくは40%、50%、60%、70%、80%、最も好ましくは90%以上の相同性を有する、遺伝子またはタンパク質配列を意味している。「相同的」タンパク質は、比較タンパク質の少なくとも1つの生物活性を有することもできる。ポリペプチドに関し、比較配列の長さは、一般的に少なくとも16アミノ酸、好ましくは少なくとも20アミノ酸、より好ましくは少なくとも25アミノ酸、最も好ましくは35アミノ酸以上であろう。核酸に関し、比較配列の長さは、一般的に少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは少なくとも60ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも75ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも110ヌクレオチドであろう。「相同性」とは、抗体を産生するために使用されるエピトープと、抗体が方向付けられるタンパク質またはその断片との実質的類似性を指すこともできる。この場合、相同性とは、問題とするタンパク質を特異的に認識可能な抗体の産生を惹起するのに十分な類似性を指している。
【0046】
「ヒト化抗体」とは、前もって決定された抗原へ結合可能である、免疫グロブリンアミノ酸配列変異体またはその断片を意味している。通常、抗体は軽鎖及び少なくとも重鎖の可変ドメインを含有するであろう。抗体は、重鎖のCH1、ヒンジ、CH2、CH3またはCH4領域を含むこともできる。ヒト化抗体は、実質的にヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有しているフレームワーク領域(FR)および実質的に非ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列(「移入(import)」配列)を有している相補性決定領域を含む。
【0047】
一般に、ヒト化抗体は、非ヒトである起源から導入される1つ以上のアミノ酸残基を有している。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fabc、Fv)の実質的に全てを含み、全てまたは実質的に全てのCDR領域が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てまたは実質的に全てのFR領域がヒト免疫グロブリン共通配列のものであろう。ヒト化抗体は最適には、少なくとも免疫グロブリン定常領域(Fc)の部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのものを含むであろう。
【0048】
「相補性決定領域(CDR)」とは、免疫グロブリン軽鎖および重鎖内の可変領域における、3つの超可変配列を意味している。
「フレームワーク領域(FR)」とは、免疫グロブリン軽鎖および重鎖の3つの超可変配列(CDR)の両側に位置しているアミノ酸配列を意味している。
【0049】
ヒト化抗体のFR領域およびCDR領域は、親配列へ正確に対応している必要はなく、例えば、移入CDRまたは共通FRは、その部位でのCDRまたはFR残基が共通にも移入抗体にも対応しないように、少なくとも1つの残基での置換、挿入または欠失により突然変異誘発することができる。しかしながら、そのような突然変異は、広範囲ではないであろう。通常、少なくとも75%、好ましくは90%、最も好ましくは少なくとも95%のヒト化抗体残基が、親FRおよびCDR配列のものに対応するであろう。
【0050】
「ハイブリダイズ」とは、多様なストリンジェンシー条件下、相補的ポリヌクレオチド配列またはその一部間で2本鎖分子を形成する対を意味している。(例えば、WahlおよびBerger(1987)Methods Enzymol.152:399;Kimmel、Methods Enzymol.152:507、1987を参照されたい。)例えば、ストリンジェントな塩濃度は通常、約750mM NaClおよび75mMクエン酸3ナトリウム未満、好ましくは約500mM NaClおよび50mMクエン酸3ナトリウム未満、最も好ましくは約250mM NaClおよび25mMクエン酸3ナトリウム未満であろう。低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、有機溶媒、例えば、ホルムアミド非存在下で得ることができ、一方、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、少なくとも約35%ホルムアミド、最も好ましくは少なくとも約50%ホルムアミド存在下で得ることができる。ストリンジェントな温度条件は通常、少なくとも約30℃、より好ましくは少なくとも約37℃、最も好ましくは少なくとも約42℃の温度を含んでいる。ハイブリダイゼーション時間、界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、および坦体DNAの包含または排除のように、さらなるパラメーターを変化させることは、当業者には周知である。多様なレベルのストリンジェンシーは、必要とされるこれらの多様な条件を組み合わせることにより達成される。好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは、750mM NaCl、75mMクエン酸3ナトリウムおよび1%SDS中、30℃にて起こるであろう。より好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは、500mM NaCl、50mMクエン酸3ナトリウム、1%SDS、35%ホルムアミドおよび100μg/ml変性サケ精子DNA(ssDNA)中、37℃にて起こるであろう。最も好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは、250mM NaCl、25mMクエン酸3ナトリウム、1%SDS、50%ホルムアミドおよび200μg/ml ssDNA中、42℃にて起こるであろう。これらの条件に対する有用な変形が、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0051】
ほとんどの応用において、ハイブリダイゼーションに続く洗浄工程もストリンジェンシーを変化させるであろう。洗浄ストリンジェンシー条件は、塩濃度および温度により決定することが可能である。前記のように、洗浄ストリンジェンシーは、塩濃度を減少させることにより、または温度を上昇させることにより増加させることが可能である。例えば、洗浄工程のためのストリンジェントな塩濃度は、好ましくは約30mM NaClおよび3mMクエン酸3ナトリウム未満、最も好ましくは約15mM NaClおよび1.5mMクエン酸3ナトリウム未満であろう。洗浄工程のためのストリンジェントな温度条件は通常、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約42℃、最も好ましくは少なくとも約68℃の温度を含んでいるであろう。好ましい態様において、洗浄工程は30mM NaCl、3mMクエン酸3ナトリウムおよび0.1%SDS中、25℃にて行われるであろう。より好ましい態様において、洗浄工程は15mM NaCl、1.5mMクエン酸3ナトリウムおよび0.1%SDS中、42℃にて行われるであろう。最も好ましい態様において、洗浄工程は15mM NaCl、1.5mMクエン酸3ナトリウムおよび0.1%SDS中、68℃にて行われるであろう。これらの条件に対するさらなる変形が、当業者には容易に明らかになるであろう。ハイブリダイゼーション技術は当業者には周知であり、そして、例えば、BentonおよびDavis(Science 196:180、1977);GrunsteinおよびHogness(Proc.Natl.Acad.Sci.、USA 72:3961、1975);Ausubelら、(Current Protocols in Molecular Biology、Wiley Interscience、ニューヨーク、2001);BergerおよびKimmel(Guide to Molecular Cloning Techniques、1987、Academic Press、ニューヨーク);ならびにSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨークに記載されている。
【0052】
「子宮内成長遅延(IUGR)」とは、胎児の在胎齢に対して予想される胎児体重の10パーセントより軽い出生時体重を生じる症候群を意味している。低出生時体重に対する現在の世界保健機構基準は、人種、出産経歴および乳児の性による在胎齢のための出生時体重の米国表(ZhangおよびBowes、Obstet.Gynecol.86:200−208、1995)によると、2,500gm(5ポンド6オンス)未満、または在胎齢の100分の10以下である。これらの低出生体重乳児も、「在胎齢より小さい(SGA)」と呼ばれる。子癇前症は、IUGRまたはSGAに関連していることが知られている状態である。
【0053】
「測定基準」とは、1つの測定を意味している。測定基準は、例えば、目的のポリペプチドまたは核酸分子のレベルを比較するために使用することができる。測定基準の例には、数学式、または比のようなアルゴリズムが含まれるが、それらに限定されるわけではない。使用されるべき測定基準は、子癇前症または子癇を有している被験者または正常対照被験者におけるsFlt−1、VEGFまたはPlGFのレベル間を最もよく区別するものである。使用される測定基準に依存して、子癇または子癇前症の診断指標は、(例えば、子癇前症または子癇を有していない対照被験者からの)基準値より有意に上または下であることができる。
【0054】
sFlt−1レベルは、遊離の、結合した(即ち、成長因子へ結合した)または全体のsFlt−1(遊離+結合)の量を測定することにより測定される。VEGFまたはPlGFのレベルは、遊離VEGFまたは遊離PlGF(即ち、sFlt−1へ結していない)の量を測定することにより決定される。測定基準の1つの例は、子癇前症抗血管形成指標(PAAI)とも呼ばれる、[sFlt−1/(VEGF+PlGF)]である。
【0055】
「子癇前症抗血管形成指標(PAAI)」とは、抗血管形成活性の指標として使用される、sFlt−1/VEGF+PlGFの比を意味している。20より大きなPAAIは、子癇前症、または子癇前症の危険性の指標であると考えられている。
【0056】
「機能可能なように連結された」とは、遺伝子および制御配列が、適切な分子(例えば、転写活性化因子タンパク質)が制御配列に結合される場合に、遺伝子発現を可能にするように接続されていることを意味している。
【0057】
「医薬として受容可能な坦体」とは、処置される哺乳動物に生理学的に受容可能であり、一方、ともに投与される化合物の療法特性を保持する坦体を意味している。医薬として受容可能な坦体物質の1つの例は生理食塩水である。他の医薬として受容可能な坦体およびその処方は当業者に公知であり、例えば、Remington‘s Pharmaceutical Sciences、(第20版)、編者、A.Gennaro、2000、Lippincott、Williams&Wilkins、フィラデルフィア、PAに記載されている。
【0058】
「胎盤成長因子(PlGF)」とは、GenBank受入番号P49763により定義されるタンパク質と相同的であり、PlGF生物活性を有する哺乳動物成長因子を意味している。PlGFは、VEGFファミリーに属するグリコシル化ホモダイマーであり、代替的なスプライシング機構を通して2つの異なったアイソフォームで見出すことが可能である。PlGFは胎盤中の細胞−または合胞体栄養細胞により発現され、PlGF生物活性には、増殖、遊走の誘導、および内皮細胞、特に栄養膜細胞層細胞の活性化が含まれる。
【0059】
「子癇前症」とは、タンパク尿または浮腫、またはその両方を伴う高血圧、腎糸球体不全、脳浮腫、肝臓浮腫、または妊娠または最近の妊娠の影響による血液凝固異常により特徴付けられる多システム障害を意味している。子癇前症は一般に、妊娠期間の20週目より後に発現する。子癇前症は一般的に、以下の症状のいくつかの組合わせとして定義される:(1)妊娠20週後に収縮期血圧(BP)>140mmHgおよび拡張期BP>90mmHg(一般に4〜168時間あけて2回測定される)、(2)新規タンパク尿発症(尿分析の尿試験紙で1+、24時間尿採取で>300mgのタンパク質、またはタンパク質/クレアチニン比>0.3を有している1回無作為尿試料)、ならびに(3)産後12週までの高血圧およびタンパク尿の回復。重度子癇前症は一般的に以下のように定義される:(1)拡張期BP>110mmHg(一般に4〜168時間あけて2回測定される)、または(2)24時間尿採取における3.5g以上のタンパク質の測定、または尿試験紙で少なくとも3+タンパク質を示す2回無作為尿検体により特徴付けられるタンパク尿。子癇前症において、一般に、高血圧およびタンパク尿は互いに7日以内に発症する。重度子癇前症において、重度高血圧、重度タンパク尿およびHELLP症候群(溶血、上昇した肝臓酵素、低血小板)または子癇は、同時かまたは1度に1つの症状のみで発症しうる。時折、重度子癇前症はてんかんの発現をもたらすことがありうる。この症候群の重度の型は「子癇」と称されている。子癇は、肝臓(例えば、肝細胞損傷、門脈周囲壊死)および中枢神経系(例えば、脳浮腫および脳溢血)のようないくつかの臓器または組織の機能不全または損傷も含んでいる。てんかんの病因は、脳浮腫および腎臓における小血管の局所的攣縮発症の2次的なものであると考えられている。
【0060】
「タンパク質」または「ポリペプチド」または「ポリペプチド断片」とは、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)に関わらず、全てまたは一部が天然のポリペプチドまたはペプチドで構成されているか、または非天然のポリペプチドまたはペプチドで構成されている、2つより多くのアミノ酸鎖を意味している。
【0061】
「減少または阻害する」とは、RNA干渉に使用されるアンチセンス核酸塩基オリゴマーまたはdsRNAで処理されていない試料と比較して、前述のアッセイ(「発現」参照)により検出されたタンパク質または核酸のレベルが、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の全体の減少を起こす能力を意味している。
【0062】
「短鎖干渉RNA(siRNA)」とは、分解されるべき標的遺伝子またはmRNAを同定するために使用される、好ましくは長さ10ヌクレオチドより長い、より好ましくは長さ15ヌクレオチドより長い、最も好ましくは長さ19ヌクレオチドより長い、単離dsRNAを意味している。19〜25ヌクレオチドの範囲が、siRNAの最も好ましいサイズである。siRNAは、siRNA2本鎖の両方の鎖が単一RNA分子内に含まれている、短いヘアピンRNAも含むことが可能である。siRNAはdsRNAの任意の形態(より長いdsRNAのタンパク質分解的切断生成物、部分的に精製したRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え的に製造されたRNA)、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変により、天然のRNAとは異なった改変RNAを含んでいる。こうした改変は、21〜23ntRNAの末端または内部などへ(RNAの1つ以上のヌクレオチドで)、非ヌクレオチド物質を付加することを含むことが可能である。好ましい態様において、RNA分子は3’ヒドロキシル基を含有する。本発明のRNA分子中のヌクレオチドは、非天然ヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを含めた非標準ヌクレオチドを含むことも可能である。集合的に、全てのこのような改変RNAはRNA類似体と称される。本発明のsiRNAは、RNA干渉(RNAi)を仲介する能力を有する、天然RNAに十分に類似していることのみを必要とする。本明細書において、RNAiは、細胞または生体内への短鎖干渉RNAまたはdsRNAの導入を通した、特異的mRNA分子のATP依存性標的化切断および分解を指している。本明細書において、「RNAiを仲介する」とは、どのRNAが分解されるべきかを区別または同定する能力を指している。
【0063】
「可溶性Flt−1(sFlt−1)」(VEGF−R1としても知られている)とは、GenBank受入番号U01134により定義されるタンパク質と相同的であり、sFlt−1生物活性を有する、Flt−1レセプターの可溶型を意味している。sFlt−1ポリペプチドの生物活性は、標準法を使用して、例えば、VEGFへのsFlt−1の結合をアッセイすることにより、アッセイすることができる。sFlt−1は、Flt−1レセプターの膜貫通ドメインおよび細胞質チロシンキナーゼドメインを欠失している。sFlt−1は高親和性でVEGFおよびPlGFへ結合できるが、増殖および血管形成は誘導できず、それ故、Flt−1およびKDRレセプターとは機能的に異なっている。sFlt−1は、最初、ヒト臍帯内皮細胞から精製され、その後、インビボで栄養膜細胞層細胞により産生されることが示された。本明細書において、sFlt−1は任意のsFlt−1ファミリーメンバーおよびアイソフォームを含んでいる。
【0064】
「特異的に結合する」とは、本発明のポリペプチドを認識し、結合させる化合物または抗体を意味するが、本発明のポリペプチドを天然に含んでいる試料、例えば、生物学的試料中の他の分子は実質的に認識も結合もしないことを意味している。1つの例において、sFlt−1を特異的に結合させる抗体は、Flt−1を結合させない。
【0065】
「被験者」とは、限定するわけではないが、ヒト、またはウシ、ウマ、イヌ、ヒツジまたはネコのごとき非ヒト哺乳動物を含めた哺乳動物を意味している。妊娠、産後および非妊娠哺乳動物がこの定義に含まれている。
【0066】
「実質的に同一」とは、例えば、1つのアミノ酸を同じクラスの別のもの(例えば、グリシンの代わりにバリン、リジンの代わりにアルギニンなど)で置換した保存的アミノ酸置換、またはタンパク質の機能を破壊しないアミノ酸配列位置にある1つ以上の非保存的置換、欠失または挿入のみにより異なっているアミノ酸配列を意味している。好ましくは、アミノ酸配列は少なくとも70%、より好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90%、他のアミノ酸配列と相同的である。同一性を決定するための方法は、公に利用可能なコンピュータープログラムが利用できる。2つの配列間の同一性を決定するためのコンピュータープログラム法には、限定されるものではないが、GCGプログラムパッケージ(Devereuxら、Nucleic Acids Research 12:387、1984)、BLASTP、BLASTNおよびFASTA(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403(1990)が含まれる。周知のSmith Watermanアルゴリズムもまた同一性を決定するために使用できる。BLASTプログラムは、NCBIおよび他の供給源から公に入手可能である(BLASTマニュアル、Altschulら、NCBI NLM NIH、ベセスダ、MD 20894;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/のBLAST 2.0)。これらのソフトウェアープログラムは、多様な置換、欠失および他の修飾に対する相同性の程度を割り当てることにより、類似の配列をマッチさせる。保存的置換は典型的には以下のグループ内の置換を含んでいる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0067】
「子癇前症の症状」とは、以下の症状を意味している:(1)妊娠20週後に収縮期血圧(BP)>140mmHgおよび拡張期BP>90mmHg、(2)新規タンパク尿発症(尿分析の尿試験紙で1+、24時間尿採取で>300mgのタンパク質、または無作為尿のタンパク質/クレアチニン比>0.3)、ならびに(3)産後12週までの高血圧およびタンパク尿の回復。子癇前症の症状は、腎機能不全および糸球体内皮症または肥大を含むことも可能である。「子癇の症状」とは、妊娠、または最近の妊娠の影響による以下の症状の発現を意味している:てんかん、昏睡、血小板減少、肝浮腫、肺浮腫および脳浮腫。
【0068】
「治療量」とは、子癇前症または子癇に罹患する患者に投与された場合、本明細書に記載されたような子癇前症または子癇の症状の定性的または定量的減少を起こすのに十分な量を意味している。「治療量」は、子癇前症または子癇に罹患する患者に投与された場合、本明細書に記載されたアッセイにより測定されるような、sFlt−1発現レベルの減少、またはVEGFもしくはPlGFの発現レベルの増加を起こすのに十分な量を意味することも可能である。
【0069】
「治療する」とは、予防目的および/または治療目的のために、化合物または医薬組成物を投与することを意味している。「疾患を治療する」、または「治療上の処置」への使用とは、被験者の状態を改善するため、すでに疾患を患う被験者への投与処置を指している。好ましくは、以下に記載した特徴的症状の同定、または本明細書に記載した診断方法の使用に基づいて、被験者は子癇前症または子癇を患っていると診断される。「疾患を予防する」とは、病気ではないが、特定の疾患を発症しやすい、または発症する危険性のある被験者の予防的処置を指している。好ましくは、被験者は、本明細書に記載した診断法を使用して、子癇前症または子癇を発症する危険性があると決定される。それ故、特許請求の範囲および態様において、治療とは、治療目的または予防目的のための哺乳動物への投与である。
【0070】
「栄養膜細胞層」とは、子宮粘膜を浸食する芽細胞を覆っている外胚葉系中胚葉細胞層を意味しており、それを通って胎児が母から栄養分を受け取っている;細胞は胎盤の形成に寄与している。
【0071】
「血管内皮成長因子(VEGF)」とは、米国特許第5,332,671号;第5,240,848号;第5,194,596号;およびCharnock−Jonesら(Biol.Reproduction、48:1120−1128、1993)に定義されている成長因子に相同的な哺乳動物成長因子を意味しており、VEGF生物活性を有している。VEGFはグリコシル化ホモダイマーとして存在し、代替的にスプライスされた少なくとも4つの異なったアイソフォームを含んでいる。天然VEGFの生物活性には、血管内皮細胞または臍静脈内皮細胞の選択的増殖の促進、および血管形成の誘導が含まれる。本明細書において、VEGFは、任意のVEGFファミリーメンバーまたはアイソフォームを含んでいる(例えば、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−E、VEGF189、VEGF165またはVEGF121)。好ましくは、VEGFはVEGF121またはVEGF165アイソフォームであり(Tischerら、J.Biol.Chem.266、11947−11954、1991;Neufedら、Cancer Metastasis 15:153−158、1996)、それは本明細書に援用される米国特許第6,447,768号;第5,219,739号;および第5,194,596号に記載されている。Gilleら(J.Biol.Chem.276:3222−323、2001)に記載されているKDR選択的VEGFおよびFlt−1選択的VEGFのようなVEGFの突然変異形も含まれる。ヒトVEGFが好ましいが、本発明はヒト型に限定されるものではなく、VEGFの他の動物型(例えば、マウス、ラット、イヌまたはニワトリ)を含むことが可能である。
【0072】
「ベクター」とは、通常プラスミドまたはバクテリオファージ由来のDNA分子を意味し、その中へDNA断片を挿入またはクローン化することができる。組換えベクターは、1つ以上の独特の制限部位を含有し、クローン化配列が複製可能であるように、決められた宿主または媒体生物体中で自律増殖可能であることができる。ベクターは、受容体細胞内へのトランスフェクションでRNAが発現されるように、遺伝子またはコード領域に機能可能なように連結されたプロモーターを含有する。
【0073】
本発明の他の特徴および利点は、以下の好ましい態様についての説明から、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
詳細な説明
我々は、子癇前症女性から採取された血清試料中で、sFlt−1レベルが上昇していることを発見した。sFlt−1はVEGFおよびPlGFへ高親和性で結合し、これらの成長因子の分裂促進活性および血管形成活性を阻止する。それ故、sFlt−1は子癇前症の優れた診断マーカーであり、VEGFおよびPlGFは子癇前症を治療するために使用できる。さらに、精製されたVEGFまたはPlGFへのsFlt−1の結合を妨害する治療剤、または生物学的に活性なVEGFまたはPlGFのレベルを増加させる薬剤が、被験者の子癇前症または子癇を治療または予防するために使用することが可能であることを発見した。そのような薬剤には、限定されるわけではないが、sFlt−1に対する抗体、sFlt−1レベルを減少させるアンチセンスまたはRNAiのためのオリゴヌクレオチド、VEGFまたはPlGFのレベルを増加させる化合物、sFlt−1に結合し、成長因子結合部位を遮断する小分子が含まれる。本発明はまた、成長因子レベルを測定するための方法も特徴としている;本方法は、子癇前症の早期検出、または子癇前症もしくは子癇の発現する危険性増加を診断する道具として使用することが可能である。
【0075】
本明細書に提示する詳細な説明は具体的にはsFlt−1、VEGFまたはPlGFを指すが、当業者には、詳細な説明が、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのファミリーメンバー、アイソフォームおよび/または変異体、ならびにsFlt−1に結合することが示された成長因子にも応用できることが明らかであろう。以下の実施例は、本発明の例示が目的であり、限定されるものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0076】
子癇前症を有する妊娠女性におけるsFlt−1 mRNAおよびタンパク質のレベル増加。
子癇前症において病理的役割を果たしている新規分泌因子を同定するため、アフィメトリックスU95Aマイクロアレイチップを使用し、子癇前症を有する女性および有しない女性からの胎盤組織の遺伝子発現プロファイリングを実施した。子癇前症を有する女性において、sFlt−1遺伝子が上方制御されていたことを発見した。
【0077】
子癇前症におけるsFlt−1の上方制御を確認するため、正常圧妊娠女性と比較して、子癇前症妊娠女性における、胎盤sFlt−1 mRNAレベルを分析するためのノーザンブロット(図1A)およびsFlt−1の血清タンパク質レベルを測定するためのELISAアッセイ(図1B)を実施した。子癇前症は(1)妊娠20週後の収縮期血圧(BP)>140mmHgおよび拡張期BP>90mmHg、(2)新規タンパク尿発症(尿分析の尿試験紙で1+、24時間尿採取で>300mgのタンパク質、または無作為尿のタンパク質/クレアチニン比>0.3)、および(3)産後12週までの高血圧およびタンパク尿の回復、として定義されている。潜在的高血圧、タンパク尿または腎疾患を有する患者は除外した。患者は、腎炎範囲のタンパク尿(24時間尿採取で>3gのタンパク質、または尿タンパク質/クレアチニン比が0.3より大きい)の存在の有無に基づいて、軽度および重度の子癇前症に分割した。軽度子癇前症群における平均尿タンパク質/クレアチニン比は0.94±0.2であり、重度子癇前症群は7.8±2.1であった。種々の群の平均在胎齢は以下の通りである:正常38.8±0.2週、軽度子癇前症34±1.2週、重度子癇前症31.3±0.6週、および早期29.5±2.0週。胎盤試料は、出産後直ちに得た。各々の胎盤から4つの無作為試料を採取し、RNAlater安定化溶液(アンビオン、オースチン、TX)に入れ、−70℃で保存した。RNA単離は、Qiagen RNAeasy Maxi Kit(キアゲン、バレンシア、CA)を使用して実施した。
【0078】
正常圧妊娠女性と比較し、子癇前症妊娠女性において、胎盤sFlt−1 mRNAおよび母体血清sFlt−1タンパク質の増加を検出した。sFlt−1の平均血清レベルは、対照妊娠女性と比較して、重度子癇前症患者ではほぼ4倍高かった。この効果が子癇前症例の早期の在胎齢によるものであった可能性を除外するため、他の理由で早産した、在胎期間的に一致した正常圧女性(在胎齢23〜36週)におけるsFlt−1レベルも測定し、正常圧満期妊娠と比較してこの群に有意差がないことを見出した。ノーザンブロットに使用されたプローブはPCR反応によって得たものであり、pUC118ヒトflt−1 cDNAからのコード領域中の500bp断片、および規格化対照として使用されたGAPDH cDNAを含む。
【0079】
正常妊娠においては、胎盤により分泌されるプロ血管形成因子と抗血管形成因子の間に平衡が存在し、それは適切な胎盤発育に必要である。子癇前症においては、sFlt−1の産生増加、並びにVEGFおよびPlGFの産生減少が、平衡を抗血管形成へ移動させることを仮説として設けた。純抗血管形成活性に取り組むため、VEGFおよびPlGFの血清レベルを測定し、VEGFおよびPlGFの血清レベルが、以前に記載されているように(Tidwellら、Am.J.Obstet.Gynecol.、184:1267−1272、2001)、子癇前症を有する患者では、正常対照患者と比較してより低いことがわかった(平均PlGF、235.3±45.3pg/ml対464±116.6pg/ml)。純抗血管形成活性の指標として、抗血管形成指標またはPAAIにsFlt−1、VEGFおよびPlGFのレベルを取り込んだとき、正常患者から子癇前症を明らかに分離できたこと、そしてPAAIは子癇前症の重症度に相関しているようであることを見出した(図1C)。このPAAIは妊娠女性における子癇前症検出のための診断道具として使用することができる。
【実施例2】
【0080】
子癇前症を有する女性からの血清は、インビトロ内皮管アッセイにおいて血管形成を阻害する。
子癇前症を有する患者における過剰の循環sFlt−1は内皮機能不全を起こし、抗血管形成状態へ導くということを仮説として設けた。これに取り組むため、血管形成のインビトロモデルとして内皮管アッセイを使用した。成長因子低下マトリゲル(7mg/mL、Collaborative Biomedical Products、ベッドフォード、MA)を、前もって冷却した48ウェル細胞培養プレートのウェルへ加え(100μl/ウェル)、37℃で25〜30分インキュベートして重合させた。継代3〜5のヒト臍静脈内皮細胞(300μlの血清を含まない内皮細胞基本培地中30,000+、Clonetics、ウォーカースヴィル、MD)を10%患者血清で処理し、マトリゲル被覆ウェル上に置き、37℃で12〜16時間インキュベートした。次に管形成を、4倍での逆位相差顕微鏡(ニコン社、東京、日本)を通して評価し、Simple PCIイメージングソフトウェアーを使用して定量的に分析した(管領域および全長)。
【0081】
管形成アッセイの条件は、正常ヒト臍静脈内皮細胞が外来性のVEGFのような成長因子存在下でのみ管を形成するように調節された。これらの条件下、正常圧女性からの血清が、規則的な管様構造を形成するように内皮細胞を誘導する一方、子癇前症を有する女性からの血清が管形成を阻害したことを見出した(図2)。注目に値するのは、産後48時間までにこの抗血管形成効果が消滅したことであり、子癇前症患者からの血清で注目された管の阻害は、おそらく胎盤から放出された循環因子によるものであったことを示唆している。sFlt−1を正常圧血清に、子癇前症を有する患者で観察された量と類似の用量で添加した場合、管形成は起こらず、子癇前症女性からの血清で観察された効果を模倣している。外来性VEGFおよびPlGFを、子癇前症血清を使用しているアッセイへ添加した場合、管形成が復活した(図2)。組換えヒトVEGF、ヒトVEGFおよびヒトFlt−1Fcを、これらのアッセイに使用した。これらの結果は、子癇前症血清の抗血管形成特性は、内在性sFlt−1によるVEGFおよびPlGFの拮抗作用によるものであったことを示唆している。これらの結果はまた、精製VEGFおよび/またはPlGFの添加は、子癇前症状態を逆行させ、または和らげることが可能であり、そして治療的に使用することが可能であることも示唆している。
【実施例3】
【0082】
sFlt−1は腎微小血管のVEGFおよびPlGFに誘導される血管拡張を抑制する。
血管収縮を引き起こすsFlt−1の役割を、インビトロ微小血管反応性実験を使用して決定した。微小血管反応性実験は、ラット腎微小血管を使用して以前に記載されているように行った(Satoら、J.Surg.Res.、90:138−143、2000)。腎臓動脈微小血管(内径70〜170μm)を、10倍〜60倍の切開用顕微鏡(オリンパス光学、東京、日本)を使用して、ラット腎臓から切開した。単離された微小血管チャンバーに微小血管を置き、直径30〜60μmの2重のガラスマイクロメスピペットでカニューレ処置し、10−0ナイロン単一繊維縫い糸(Ethicon、サマヴィル、NJ)で確保した。37℃に温め、酸素を含ませた(95%酸素および5%二酸化炭素)クレブス緩衝液を、血管チャンバーおよび総計100mlの溶液を含有する貯蔵器を通して連続的に循環させた。血管は、クレブス緩衝液を満たしたビューレットマノメーターを使用して、流動していない状態で40mmHgまで加圧した。ビデオカメラへ連結した倒立顕微鏡(40倍〜200倍;オリンパスCK2、オリンパス光学)を使用し、血管像を白黒テレビジョンモニター上へ投影した。電子次元分析器(Living System Instrumentation、バーリントン、VT)を、内部管腔直径を測定するために使用した。測定はストリップチャート記録器(Graphtec、アーヴィン、CA)で記録した。血管は、介入に先立って少なくとも30分間微小血管チャンバーに浸しておいた。全ての実験群において、腎臓微小血管の弛緩応答は、U46619(トロンボキサンアゴニスト)で微小血管を膨張圧40mmHgでのベースライン直径の40〜60%へ前収縮させた後に試験した。定常状態へ達したら、VEGF、PlGFおよびsFlt−1のごとき種々の試薬への応答を試験した。組換えラットVEGF、マウスPlGFおよびマウスFlt−1Fcをこれらのアッセイで使用した。全ての薬剤は管腔外から適用した。応答が安定化したとき(通常、薬剤が投与されて2〜3分)に測定を行った。1〜4回の介入を各々の血管へ実施した。血管をクレブス緩衝液で洗浄し、介入の間に薬剤を含まないクレブス緩衝液中で20〜30分間平衡化させた。
【0083】
sFlt−1単独では有意な血管収縮を起こさないが、それはVEGFまたはPlGFにより誘導される血管拡張における用量応答性増加を阻止することを観察した(図3A)。さらに、妊娠で観察される生理学的レベルでVEGFおよびPlGFが有意な用量応答性動脈弛緩を誘導すること、そしてこの効果は、重度の子癇前症女性において観察される濃度である10ng/ml sFlt−1の添加により阻止されたことを観察した(図3B)。この結果は、子癇前症を有する患者で循環しているsFlt−1が血管弛緩に対抗し、これ故に高血圧へ寄与していることを示唆した。これらの結果は、sFlt−1が、高血圧を含む子癇前症の臨床的および病理学的症状の多くに関係しているという結論を支持している。例えば、方向付けられた抗体の使用を通したsFlt−1の抑制は、子癇前症におけるこのタンパク質の効果を取り消すことができ、そしてそのようなsFlt−1阻害剤は治療剤として使用できる可能性がある。
【実施例4】
【0084】
子癇前症動物モデルにおけるsFlt−1の効果。
前記の結果に基づき、外来性sFlt−1の添加が、動物モデルにおいて高血圧およびタンパク尿を引き起こすであろうという仮説を設けた。sFlt−1を発現するアデノウイルスは、有意な抗腫瘍活性に関連した、持続性の全身性sFlt−1レベルを生じることが示されている(Kuoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98:4605−4610、2001)。マウスsFlt−1をコードしているこの組換えアデノウイルスを、妊娠8〜9日の妊娠Sprague−Dawleyラットの尾静脈内へ注射した。等量の、マウスFcおよびsFlk1−Fc(マウスVEGFレセプター1 Flk1外部ドメインとFcタンパク質との融合タンパク質)をコードしているアデノウイルスを対照として使用した。Flk1はVEGFへ結合するが、PlGFへは結合しないことが示されている。それゆえ、sFlk1−Fcを、sFlt−1の抗VEGF活性と抗PlGF活性との識別を助けるための対照として選択した。
【0085】
妊娠および非妊娠Sprague−Dawleyラットに、尾静脈注射により、Ad Fc、Ad sFlt−1またはAd sFlk−1Fcを1×109pfuを注射した。これらのアデノウイルスは以前に記載されており(Kuoら、前記文献)、Harvard Vector Core Laboratoryにて発生させた。妊娠ラットは、妊娠8〜9日(第2期初期)にアデノウイルスを注射し、妊娠16〜17日(第3期初期)に血圧を測定した。非妊娠動物においては、アデノウイルス注射8日後にBPを測定した。BPはペントバルビタールナトリウム(60mg/kg、i.p.)で麻酔した後にラットで測定した。頸動脈を分離し、圧力変換器(Millar Instruments、ヒューストン、TX)へ連結された、3−Fr高フィデリティーマイクロチップカテーテルでカニューレ処置した。Millar Mikro−Tipカテーテルを動脈内へ進め、血圧を記録した。血圧および心拍数はチャートストリップレコーダー(モデル56−1X 40−006158、Gould Instrument Systems、クリーブランド、OH)により記録し、10分間を平均した。血液、組織および尿試料は、麻酔前に得た。尿アルブミンは標準尿試験紙で測定し、そして、別の文献(Cohenら、Kidney Intl.、45:1673−1679、1994)に記載されているような競合的酵素連結イムノアッセイ(ELISA)により定量した。尿クレアチニンは、ピクリン酸比色法キット(シグマ、セントルイス、MO)により測定した。子癇前症の天然の病態を模倣するため、妊娠第3期初期に動脈内血圧を測定した。これらの実験はまた、sFlt−1の効果が、胎盤への効果を通した直接的または間接的なものであるかどうかを決定するため、非妊娠メスSprague−Dawleyラットにおいても実施した。血圧測定日のsFlt−1全身レベルは、ウェスタンブロット分析により、BP測定日の種々のsFlt−1処理動物において25〜350ng/mLの範囲であることを確認した。異なった実験群における高血圧およびタンパク尿が表1に示されている。
【0086】
【表1】

【0087】
sFlt−1で処理した妊娠ラットは、Fc対照と比較して、有意な高血圧およびネフローゼ範囲のアルブミン尿を有していた。sFlt−1が投与された非妊娠ラットもまた高血圧およびタンパク尿を発症した。注目すべきは、sFlk−Fc処理非妊娠ラットは高血圧およびタンパク尿を発症したが、sFlk−Fc処理妊娠ラットは発症しなかったことである。それ故、妊娠において、おそらく高レベルのPlGFが存在するため、VEGFの拮抗作用単独では子癇前症を引き起こすには不十分である。非妊娠ラットにおいては、PlGFが実質的に存在しない場合、VEGFの拮抗作用単独でも前/抗血管形成平衡を破壊するのに十分であり、子癇前症に関連する病態と類似した腎病態を引き起こす。全てのsFlt−1処理ラットで観察された腎病変を試験するために多様な染色技術を使用した(図4)。ラットから採取された腎臓はブアン溶液で固定し、切片にしてH&EおよびPAS染色で染色した。電子顕微鏡のためには、腎組織をグルタルアルデヒドで固定し、アラルダイト−エポン混合物に包理し、そして超薄腎臓切片(1μm)を切断し、トルエンブルーで染色し、そして色々の倍率で、Zeiss EM10を使用して評価した。糸球体内のフィブリン沈着のための免疫蛍光は、ポリクローナル抗フィブリン抗体(ICN、スイス)を使用して行われた。全体的および散在的糸球体内皮症は、sFlt−1処理ラットで普遍的に観察される腎病変であった。毛管内細胞の膨潤および肥大による毛細血管係蹄の閉塞を伴う糸球体拡大を検出した。糸球体内皮細胞中に、多数の明らかなタンパク質再吸収小滴が観察された。分節性糸球体硬化症は観察されなかった。糸球体内に、フィブリンの分離された「2重輪郭」および巣状沈着が見られた。有意なメサンギウム中間挿入が存在しないフィブリン沈着のこの発見は、ヒト疾患の分娩前段階に典型的と記載されているものに類似している(Kincaid−Smith、Am.J.Kidney Dis.、17:144−148、1991)。フィブリンのための免疫蛍光は、sFlt−1処理動物の糸球体内でのフィブリン沈着の病巣を示したが、Fc処理動物では示さなかった。sFlk1処理非妊娠ラットは同一の病変を発現した。実際、sFlk1をsFlt−1と同一のレベルで使用した場合、sFlt−1に対して拮抗するための循環前血管形成分子がより少ないので、非妊娠ラットにおいて腎損傷はより重度であった。これらの結果は、上昇したレベルのsFlt−1が、子癇前症に関連する糸球体内皮症の原因であり得ること、しかし、糸球体変化は非妊娠ならびに妊娠ラットで検出されるため、この効果は胎盤と無関係であることを示唆した。これらの結果はまた、高血圧およびタンパク尿がsFlt−1処理非妊娠マウスで発生したが、PlGFレベルが高いsFlt−1処理妊娠マウスでは発生しないので、VEGFとPlGFの拮抗作用が子癇前症の病理学において重要であることも示唆している。
【0088】
本明細書で作製された動物モデルは、新規治療化合物を試験するための実験動物としても使用することが可能である。可能性がある治療化合物の効能、ならびに薬理学および毒性を、この動物モデルを使用して研究することが可能である。
【実施例5】
【0089】
子癇動物モデルにおけるsFlt−1の効果。
妊娠第2期初期の妊娠ラットに外来性sFlt−1を注射した。次にその第3期初期の間、ラットの子癇発現をモニターし、試験した。子癇検出のために使用した試験には、浮腫発現のためのラット脳のMRI、てんかん発現のためのラット脳のEEG、および特異的内皮マーカーを使用した、内皮損傷が血液脳関門および脈絡叢に沿って発現したかどうかを決定するためのラット脳の組織学を含むことができる。
【0090】
本明細書で作製された動物モデルは、新規治療化合物を試験するための実験動物としても使用することが可能である。可能性がある治療化合物の効能、ならびに薬理学および毒性を、この動物モデルを使用して研究することが可能である。
【実施例6】
【0091】
尿中のPlGF/クレアチニン比は子癇前症の診断となるものである。
尿試料は妊娠期間16週の10人の女性から得られた(5人正常、4人軽度子癇前症、および1人重度子癇前症)。これらの試料はマサチューセッツ総合病院のRavi Thadhani博士から提供された。正常妊娠女性に対する平均尿遊離PlGF/クレアチニン比(クレアチニンmg当たりのpg PlGF)は78±10.7であり、4人の軽度子癇前症は33±5.0であり、そして1人の重度子癇前症患者では17であった。それ故、尿中のクレアチニンに対するPlGFの比の変化は、患者の子癇前症のための診断指標として有用である。
【実施例7】
【0092】
女性の子癇前症および子癇の診断指標としてのsFlt−1およびPlGFのタンパク質レベル。
この研究のためには、正常圧および子癇前症妊娠における循環sFlt−1、遊離PlGFおよび遊離VEGFの妊娠パターンを分析するため、カルシウムによる子癇前症予防研究の試行からの記録として保存された試料を使用した。カルシウムによる子癇前症予防研究またはCPEPは、子癇前症の発現率および重度に対する2gの基本的カルシウムまたはプラセボの毎日の補充の影響を評価するため、1992〜1995年の期間に実施された、無作為化2重盲検臨床試行である(Levineら、N.Engl.J.Med.377:69−76、1997;Levineら、Control Clin.Trials 17:442−469、1996)。健康で、単生児を有する未産女性が、妊娠13〜21週の間に、5カ所の関与している米国医科センターで登録され、そして共通のプロトコールおよび同一のデータ収集様式を使用して産後24時間まで追跡した。登録時には、全てのCPEP参与者は<135/85mmHgの血圧を有しており、そしてだれも腎機能不全またはタンパク尿を有していなかった。在胎齢は超音波試験により決定した。血清検体は、試行での登録前(13〜21週)、26〜29週、まだ妊娠している場合は36週、そして高血圧またはタンパク尿に気付いたときに、参与者から得られた。「エンドポイント検体」とは、別の所に記載してあるように(Levineら、1996、上記文献)、子癇前症症状および徴候の発症時またはその後、しかし分娩および出産前に得られた検体である。CPEP試行からの保存された血液試料は、NIHのRichard Levine博士との共同研究を通して得られた。
参与者
完全な結果情報、<22週で得られた血清試料、および男性生産児を有する被験者を選択した。4,589人のCPEP参与者の内、追跡調査が失われた235人、20週より前に妊娠が終結した21人、母親または出生時結果データがなくなった13人、喫煙履歴がない4人、チャート検査チームにより高血圧が確かめられなかった9人、および死産の32人を除外し、適切な情報および出産を有する4,257人が残った。これらの内、2,156人が男の乳児を有していた。その乳児が染色体異常を有していた1人の女性、妊娠性高血圧の381人、およびベースライン血清検体がない43人を除外すると、1,731人の女性が残った。これらの内、175人が子癇前症を発症し、そして1,556人が妊娠を通じて正常圧でとどまっていた。
【0093】
カルシウム補充は、子癇前症の危険性および重度には何の影響もなく、そして前および抗血管形成分子の濃度に関連していなかったので、症例および対照はCPEP処置に関係なく選択した。各々の子癇前症症例に対し、1つの正常圧対照は、登録現場、最初の血清検体を採取した在胎齢(1週間以内)、および−70℃での冷凍保存時間(12ヶ月以内)が一致するように選択した。分娩前に得られた657の血清検体全てから、120の一致した対(「症例」および「対照」)を、無作為に分析のために選んだ(下記表2)。最初の血清検体採取時の平均在胎齢は症例および対照で、各々112.8日および13日であった;平均冷凍保存継続時間は9.35年および9.39年であった。
【0094】
【表2】

【0095】
この研究のため、高血圧は、4〜168時間あけた2つの機会に少なくとも拡張期血圧90mmHgとして定義された。重度高血圧は、4〜168時間あけた2つの機会に、または女性が抗高血圧治療を受けている場合は1つの機会に、少なくとも拡張期血圧90mmHgとして定義された。タンパク尿は、24時間尿採取でタンパク質300mg以上、尿試験紙により少なくとも1+タンパク質を含んでいる4〜168時間あけた2つの無作為尿検体、少なくともタンパク質/クレアチニン比0.35を有する1回無作為尿検体、または尿試験紙により少なくとも2+タンパク質を含んでいる1回無作為尿検体、として定義された。重度タンパク尿は、少なくとも3.5gのタンパク質を含んでいる24時間尿採取試料により、または尿試験紙により少なくとも3+タンパク質を含んでいる2回無作為尿検体により診断した。子癇前症は、互いに7日以内に起こっている高血圧およびタンパク尿として定義した;重度子癇前症は、重度高血圧、重度タンパク尿、HELLP症候群(溶血、肝臓酵素上昇、低血小板)、または子癇を有する子癇前症として定義した。子癇前症の発症は最初の上昇した血圧の検出時点であり、または尿試料中のタンパク尿は子癇前症の診断を導いている。
【0096】
在胎齢に比して小さい(SGA)とは、人種、出産経歴および乳児の性による在胎齢のための出生時体重の米国表(ZhangおよびBowes、1995、上記文献)に従って、在胎齢について100分の10より軽い出生時体重として定義した。
方法
アッセイはBeth Israel Deaconess Medical Centerにおいて、患者の診断およびその他の関連情報を何も知らされていない実験室職員により実行された。検体は分析のため無作為に指図した。ヒトsFlt−1、遊離PlGFおよび遊離VEGFのための酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)は、R&D Systems(ミネアポリス、MN)から購入したキットを使用し、製造者の指示に従って実施した。−70℃で保存されていた血清試料の一部を室温で融解し、BSA/トリス−緩衝液で希釈し、sFlt−1、PlGFまたはVEGFに対して方向付けられた捕捉抗体で前もって被覆された96ウェルプレート中で、2時間インキュベートした。次にウェルを3回洗浄し、過酸化水素およびテトラメチルベンジジンを含有する基質溶液と20分インキュベートし、そして反応を2N硫酸で停止させた。光学密度を450nmで測定した(波長補正550nm)。全てのアッセイは2重に実施した。タンパク質濃度は、既知濃度の各々の組換えタンパク質から誘導される標準曲線を使用して計算した。2回の実験間の相違が25%を超えていたらアッセイを繰り返し、元々の結果は廃棄した。アッセイはsFlt−1、PlGFおよびVEGFに対して5、7および5pg/mlの感度を有しており、sFlt−1に対して7.6%および3.3%、PlGFに対して11.2%および5.4%、およびVEGFに対して7.3%および5.4%のアッセイ間およびアッセイ内変動係数を有していた。
統計分析
χ2検定およびt検定を、母親または乳児特性の分析に使用し、各々カテゴリーまたは連続変数を比較した。濃度の算術平均値が本文および図に与えられているが、特に示さない限り、統計試験は対数変換後に実施した。調整は、対数変換した濃度に対するロジェスティック回帰を使用して実施した。
結果
120症例の内、80は軽度、40は重度(HELLP症候群3および子癇3を含む)の子癇前症を発症した。症例患者は対照患者よりも小さく、より高い肥満度指数を有しており、そしてより高いベースライン血圧であった(表2)。加えて、より多くの比率の症例患者は、早期産または在胎齢に比して小さい(SGA)乳児によって複雑にされた妊娠であった。症例患者は本研究に対し、2.9血清検体の平均で寄与した;対照、2.6検体。
【0097】
最初に、活動性疾患時の子癇前症を有する患者において、sFlt−1、PlGFおよびVEGFが、このCPEP研究群からの妊娠期間が一致した対照と比較して変化していることを確認した。確立された臨床子癇前症の時点で採取された検体(エンドポイント検体)は、以前に公表された報告(Maynardら、J.Clin.Invest.111:649−658、2003)と類似して、一致した在胎齢を有する対照と比較して劇的に増加したsFlt−1レベル、減少したPlGFレベルおよび減少したVEGFレベルを有していた(23の在胎齢一致対において、症例および対照に対し、各々、4382対1643pg/ml sFlt−1、p<0.0001;137対669pg/ml PlGF、p<0.0001;および6.41対13.86pg/ml VEGF、p=0.06)
sFlt−1、PlGFおよびVEGFレベルの妊娠期間パターンを調べるため、種々の在胎齢領域内の、症例患者および対照から得られた血清検体から、sFlt−1、PlGFおよびVEGFの循環濃度を測定した。子癇前症120人および対照女性120人に対するsFlt−1タンパク質の妊娠期間パターンが図5Aに示されている。対照患者におけるsFlt−1レベルは33〜36週までは一定に保たれており、その後分娩および出産まで、週当たり約145pg/mlで上昇した。臨床症状前の症例患者間では、sFlt−1はより急勾配の上昇で、21〜24週で上昇し始めるようであり、29〜32週で対照とは統計的に有意に異なっている(図5A)。全体的に、臨床症状発症前に測定された症例と対照患者との相違は、妊娠中期で17%(p<0.05)であった。エンドポイント検体は、疾患以前に採取された検体と比較して有意に上昇していた。臨床症状発症に先立ったsFlt−1上昇の機構を調べるため、全ての子癇前症でのsFlt−1濃度を、子癇前症の発症以前の週についてプロットした(図5B)。症例患者からの検体中の平均sFlt−1濃度を、子癇前症発症前の完了した週についてプロットした。子癇前症前5週から始まり、sFlt−1濃度は疾患発症前1週まで実質的に上昇し、その時点でエンドポイント検体に観察される濃度に到達した。子癇前症前4、3、2および1週における増加は、平均在胎齢におけるわずかな変化と共に起こり、進行している在胎齢に伴って増加する第3期後期によっては説明することができない。子癇前症前8〜6週から5週で、sFlt−1は962pg/ml増加し、一方、平均在胎齢は31日上昇した。sFlt−1におけるこの増加の約3分の1は、進行している妊娠期間へ帰することができない。子癇前症の発症前≦5週に得られた検体を除いた後の、対照および症例において、sFlt−1の在胎齢によるグラフを作った場合、実質的相違は観察されなかった(図5C)。これらのデータは、子癇前症発症前の症例患者におけるより高いsFlt−1濃度は、臨床疾患の発症前5週以内の、sFlt−1の急な上昇によるものであることを示唆している。
【0098】
次に、図6Aに示したように、同一患者群のPlGFタンパク質の妊娠パターンをプロットした。対照PlGFタンパク質濃度は最初の2つの三半期間に上昇し(29〜32週でピーク)、そして妊娠後期の間に低下した。子癇前症前の症例患者の間のPlGFタンパク質濃度は類似の妊娠パターンに従ったが、13〜16週からは対照よりも有意に低かった。全体的に、臨床症状の発症前に測定された症例と対照患者とのPlGFの相違は、妊娠中期で35%(p<0.0001)であった。子癇前症発症前の症例のPlGFレベルが、子癇前症前の週により(図6B)、および検体を除去した後の在胎齢子癇前症前<5週の検体を除いた後の在胎齢により(図6C)、描かれてある。子癇前症発症より前の1週までに、濃度は、子癇前症発症後に観察された濃度に達した(図6B)。対照と比較して、症例患者のPlGFレベルは、出産前5週および3週のより実質的減少を伴って、出産から遠く離れて穏やかに減少した。対照患者の濃度は出産前17〜15週から3週にかけて高く維持され、その後劇的に低下した。子癇前症前<5週に得られた献体を除いたPlGFレベルを示しているグラフは、対照と比較して、妊娠29〜32週では症例におけるより小さな減少を、そして33〜36週での症例患者から得られた検体中では少しも変わっていなかった(図6C)。このことは、疾患より前の週におけるPlGF濃度の低下が、疾患の発症時(または図6Aに示されたエンドポイント検体)に注目されるPlGFの劇的な低レベルの原因であることを示唆している。
【0099】
妊娠を通したVEGF濃度は非常に低く、37〜41週での症例患者における有意な減少を除いて、対照および症例で類似していた。子癇前症前5週間に得られた検体を除いた症例において、23〜32週での平均VEGF濃度は、対照とは有意に異なっていない(11.6対12.8pg/ml)のに対し、出産前≦5週の検体を含む症例中の濃度は異なっていた(5.1対12.8pg/ml、p<0.01)。33〜41週において、子癇前症前>5週または≦5週のVEGF濃度は、各々対照より高いかまたは低かったが(11.2pg/mlおよび8.3対9.7pg/ml)、これらの差は有意ではなかった。
【0100】
図7は23〜32週(図7A)および33〜41週(図7B)での、子癇前症状態および重度による、sFlt−1およびPlGFを示している。グラフは、子癇前症発症前のsFlt−1増加およびPlGF減少は、疾患重度、発症時期、およびSGA乳児の存在に関連していることを示している。23〜32週では、子癇前症の発症前のSGAを有する症例患者におけるsFlt−1およびPlGFは、各々、SGAを有する対照患者の対応する濃度より、有意により高いかまたはより低かった。さらに、早期産した対照患者との比較において、早期産の症例患者はより高いsFlt−1および有意に低いPlGFを有していた。
【0101】
次に、子癇前症発現の危険性がある女性を同定するために、第1期のPlGFおよび/またはsFlt−1の循環濃度が使用できるかどうかを決定した。8〜20週では、在胎齢、肥満度指数およびsFlt−1を調節した後、対照値分布の最も低い四分位置にPlGFを有する症例患者は、3つのより高い四分位置にPlGFを有する場合と比較して、<34週での子癇前症がほぼ12倍増加した危険性を有していた(オッズ比[OR]11.7、p<0.05)(表3)。最も低い四分位置における<34週での子癇前症の危険性は、最も高い四分位置と比較すると、ほぼ16倍に増加した(OR 15.8、p<0.01)
【0102】
【表3】

【0103】
これらの結果は、sFlt−1レベルが子癇前症症状の発症前約5週に劇的に上昇し始めることを示している。sFlt−1の上昇と平行して、遊離PlGFおよび遊離VEGFレベルは低下し、PlGFおよびVEGFの減少は、少なくとも部分的にはsFlt−1による拮抗作用によるものであり、そしてPlGFおよびVEGFの胎盤での産生の減少によるものではないであろう。3つの子癇前症サブグループ−重度子癇前症、疾患の早期発症、およびSGA乳児−は、対照または軽度子癇前症を有する女性よりも、23〜32週および33〜41週で、より高いsFlt−1およびより低いPlGF濃度を有していた。また、子癇前症を発現すると運命付けられている女性間で、第2期初期に遊離PlGFの小さいがしかし有意な減少が始まっていることも示された。これらの結果は、PlGFレベルの減少は、早期発症子癇前症の有用な前兆であることができることを示している。
【0104】
本明細書において初めて、正常妊娠におけるsFlt−1の妊娠パターンが記述され、妊娠を通しての比較的安定なレベル、続いて33〜36週に始まる定常的な増加が観察された。この上昇は、他の研究者による正常妊娠(Torryら、J.Soc.Gynecol.Invest.10:178−188、1998;Taylorら、Am.J.Obstet.Gynecol.188:177−182、2003)、および本明細書における結果で観察されたPlGFの妊娠後期での低下に対応している。時間的関連は、sFlt−1がPlGF ELISA測定を妨害するという知見(Maynardら、上記文献)と共にして、妊娠後期間の遊離PlGFの低下が、sFlt−1レベルの上昇によるものであり得ることを示唆している。胎児の要求の増加とともに胎盤成長が速度を保つことが必要とされる第1期および第2期の間、PlGF濃度は高く、そしてsFlt−1濃度は低く、比較的に前血管形成状態を作り出している。胎盤血管成長が平静化および停止されることが必要であろう妊娠後期は、抗血管形成性sFlt−1の上昇および結果としてのPlGFの減少がある。子癇前症を有する女性において、sFlt−1上昇は妊娠初期、症状発症前約5週、平均して約29〜32週に始まる。それ故、子癇前症においては、抗血管形成「ブレーキ(brake)」があまりに早くおよびあまりに強く適用されるため、胎盤成長を阻止する、正常生理学的プロセスの誇張を生じる。子癇前症を特徴付ける病理学的胎盤変化が妊娠初期(10〜14週)、sFlt−1の劇的上昇のかなり前に起こることは明白なようである。生じた胎盤虚血それ自身が、sFlt−1産生を促進することができ、最終的にsFlt−1バースト(burst)を引き起こす。
【0105】
臨床症状発現前5週で見られる大きな相違に加え、子癇前症を発現すると運命付けられている女性は、早くも妊娠13〜16週に、小さいがしかし統計的に有意な遊離PlGFの減少を示した。このPlGFの低下は、一般的に、sFlt−1レベルの相反する増加を伴ってはいなかった。しかしながら、統計的に有意ではないが、第1期の症例において、sFlt−1レベルがわずかに高い傾向があった(例えば、17〜20週期間で、症例の平均sFlt−1レベルは、対照の795.25pg/mlに対して865.77であった)。妊娠初期におけるこのPlGFの減少は、子癇前症またはSGAのごとき条件に歩み寄った、妊娠におけるPlGFのより少ない胎盤産生を反映しているのかもしれない。重要なことは、SGAにより複雑化された子癇前症を有する患者において、疾患発現より前に、sFlt−1上昇およびPlGF低下において、統計的に有意な増加が観察されたことである。子癇前症においてPlGFの胎盤産生に変化がないこと、そして胎盤における局所sFlt−1レベルの上昇が、循環遊離PlGFの減少に寄与できることも可能である。このことは、免疫組織化学により測定された胎盤PlGFは、子癇前症において変化しないという発見に支えられている(Zhouら、Am.J.Pathol.160:1405−1423、2002)。
【0106】
要約すると、sFlt−1は、臨床疾患の少なくとも5週前に、子癇前症において上昇し始め、それは循環遊離PlGFおよびVEGFの減少を伴うことが示された。第1期の間に減少したPlGFは、子癇前症の前兆として働くことができ、そして上昇したsFlt−1は臨床疾患が近い前兆として働くことができる。このデータは、sFlt−1単独で齧歯類において子癇前症様症状を誘導することが示されている前記動物研究と共に、子癇前症の病理学におけるsFlt−1の可能な病原学的役割を示唆している。対照におけるSGA乳児および早期産の我々の限定されたデータは、SGA乳児を有する子癇前症妊娠で観察されたタンパク質レベルの増加した変化は、症例患者と比較して、子癇前症が存在しない場合の子宮内成長制限または早期産のみによる相違よりもより実質的であることを示唆している。
診断
本発明は、子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する傾向を検出するための診断を特色としている。VEGF、PlGFまたはsFlt−1のレベル(遊離または全体のレベル)を被験者試料で測定し、そして子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する傾向の指標として使用する。
【0107】
1つの態様において、少なくとも2つのタンパク質のレベル間における関係が子癇前症または子癇の指標であるかどうかを決定するために、測定基準を使用する。標準的方法を、尿、血清、血漿、唾液、羊水または脳脊髄液を含むがこれらに限定されない任意の体液中の、VEGF、PlGFまたはsFlt−1のポリペプチドレベルを測定するために使用することができる。そのような方法には、イムノアッセイ、ELISA、VEGF、PlGFまたはsFlt−1に方向付けられた抗体を使用するウェスタンブロット、およびOngら(Obstet.Gynecol.、98:608−611、2001)およびSuら(Obstet.Gynecol.、97:898−904、2001)により記載されている定量的酵素イムノアッセイ技術が含まれる。ELISAアッセイはVEGF、PlGFまたはsFlt−1のレベルを測定するために好ましい方法である。2ng/mlを超えるsFlt−1の血清レベルは、子癇前症の陽性指標と考えられる。さらに、正常レベルに関して、VEGF、PlGFまたはsFlt−1のレベルの検出可能な変化は、子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する傾向の指標である。好ましくはsFlt−1を測定し、より好ましくはVEGFおよびPlGFの測定がこの測定と組み合わされ、最も好ましくは3つ全てのタンパク質(またはタンパク質レベルの指標としてのmRNAレベル)を測定する。
【0108】
他の態様において、PAAI(sFlt−1/VEGF+PlGF)を、子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する傾向を診断するものである抗血管形成指標として使用する。PAAIが20を超えている場合は、被験者は子癇前症を有しているか、またはそれを発現する差し迫った恐れがあると考えられる。PAAI(sFlt−1/VEGF+PlGF)比は、診断指標として使用することができる有用な測定基準の1例にすぎない。本発明を限定することを意図していない。実質的には、正常対照に関して、子癇を有する被験者における抗血管形成指標の変化を検出する任意の測定基準を、診断指標として使用することができる。
【0109】
特定の核酸またはポリペプチドの発現レベルは、特定の疾患状態(例えば、子癇前症または子癇)と相関させることができ、それ故、診断において有用である。sFlt−1、PlGFまたはVEGFの核酸配列に由来するオリゴヌクレオチドまたはより長い断片は、発現をモニターするだけでなく、状態を発現する素因の指標である、sFlt−1、PlGFまたはVEGFの核酸分子中の遺伝子変異、突然変異または多型を有している被験者を同定するためにも使用することができる。そのような多型は当業者には公知であり、Parryら(Eur.J Immunogenet.26:321−3、1999)により記載されている。そのような遺伝子変化は、プロモーター配列、読み取り枠、イントロン配列、またはsFlt−1遺伝子の非翻訳3’領域に存在することができる。遺伝子変化に関する情報は、子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する傾向を有する被験者を診断するために使用することが可能である。本明細書を通して注目されるように、sFlt−1、VEGFおよび/またはPlGFの生物活性レベルにおける特定の変化は、子癇前症もしくは子癇、またはその素因の見込みと相関させることができる。その結果、既定の突然変異を検出すると、当業者は次に、突然変異が子癇前症もしくは子癇を起こすかまたは見込みを増加させるかどうかを決定するため、タンパク質の生物活性の1つ以上の測定基準をアッセイすることが可能である。
【0110】
1つの態様において、子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する傾向を有している被験者は、sFlt−1をコードする核酸の発現増加、またはPlGFもしくはVEGFのレベルの改変を示すであろう。そのような改変を検出するための方法は、本技術分野では標準であり、Ausubelら、上記文献、に説明されている。1つの例において、sFlt−1、PlGFまたはVEGF mRNAレベルを検出するため、ノーザンブロッティングまたはリアルタイムPCRを使用する。
【0111】
他の態様において、ゲノム配列または密接に関連した分子を含む、sFlt−1核酸分子を検出可能なPCRプローブとのハイブリダイゼーションを、子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する危険性を有する被験者から誘導された核酸配列へハイブリダイズさせるために使用することができる。プローブが高度に特異的な領域(例えば、5’制御領域)から作製されても、より低い特異性領域(例えば、保存モチーフ)から作製されても、プローブの特異性、およびハイブリダイゼーションまたは増幅のストリンジェンシー(最高、高、中、または低)が、プローブが天然に存在する配列、対立変異体または他の関連する配列へハイブリダイズするかどうかを決定する。ハイブリダイゼーション技術は、sFlt−1核酸分子中の子癇前症または子癇を指し示している突然変異を同定するために使用することができ、またはsFlt−1ポリペプチドをコードしている遺伝子の発現レベルをモニターするために使用することができる(例えば、ノーザン分析により、Ausubelら、上記文献)。
【0112】
さらに他の態様において、sFlt−1、VEGFまたはPlGFの核酸分子配列の直接分析により、子癇前症または子癇を発現する傾向についてヒトを診断することができる。
【0113】
子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する傾向を有する被験者は、sFlt−1ポリペプチドの発現増加を示すであろう。sFlt−1ポリペプチドを特異的に結合する抗体を、子癇前症または子癇を診断するために、またはそのような状態を発現する危険性がある被験者を同定するために使用することができる。免疫学的方法(ELISAおよびRIAのような)を含む、そのようなポリペプチドの発現における変化を測定するための多様なプロトコールが知られており、子癇前症または子癇、またはそのような状態を発現する危険性を診断するための基礎を提供する。再び、本ポリペプチドのレベルにおける増加は、子癇前症、子癇またはそのような状態を発現する傾向を有している被験者の診断となるものである。
【0114】
1つの態様において、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドまたは核酸、またはその任意の組み合わせのレベルを、少なくとも2つの異なった時点で測定し、時間を通して、正常基準レベルと比較したレベルの改変を、子癇前症または子癇、またはそのような状態を発現する傾向の指標として使用する。
【0115】
子癇前症または子癇、またはそのような状態を発現する傾向を有する被験者の体液中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFのレベルは、正常対照のsFlt−1、VEGFまたはPlGFのレベルに対して、最少でわずか10%、20%、30%または40%、または最大で50%、60%、70%、80%または90%ほど変化することができる。子癇前症または子癇、またはそのような状態を発現する傾向を有する被験者の体液中に存在しているsFlt−1レベルは、正常対照被験者のレベルに対して、1.5倍、2倍、3倍、4倍または最大で10倍以上増加することができる。
【0116】
1つの態様において、体液(例えば、尿、血清、血漿、羊水)の被験者試料を、子癇前症症状の発症前の妊娠初期に採取する。他の例において、試料は子癇前症症状の発症前の妊娠初期に採取された組織または細胞であることが可能である。非制限的例には、胎盤組織、内皮細胞および単球のごとき白血球が含まれる。ヒトにおいて、例えば、妊娠の第1期、第2期または第3期の間に、妊娠女性の前肘静脈から母親血液血清試料を採取する。好ましくは、アッセイを第1期の間に(例えば、4、6、8、10または12週に)、または第2期の間に(例えば、14、16、18、20、22または24週に)実行する。そのようなアッセイはまた、第2期の終わりに、または第3期の始めに(28週付近)にも実施することができる。sFlt−1、VEGFまたはPlGFのレベルをこの期間に2回測定するのが好ましい。産後子癇前症または子癇の診断のため、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのアッセイを産後に実行することができる。
【0117】
1つの特別な例において、連続的血液試料を妊娠間に採取することができ、可溶性sFlt−1のレベルをELISAにより決定した。この技術を使用する1つの研究において、sFlt−1をコードしている代替的にスプライスされたmRNAが栄養膜細胞層により高く発現され、そしてタンパク質は、妊娠女性の血漿中に容易に検出可能であった。sFlt−1のレベルは、20〜36週の間の妊娠期間に約3倍増加することが観察された。レベルは、引き続いて子癇前症を発現するように進行した、危険性が高い女性において有意により高いことが観察された(Charnock−Jonesら、J.Soc.Gynecol.Investig.10(2):230、2003)。
【0118】
獣医学実行において、アッセイは妊娠間の任意の時間に実行することができるが、好ましくは、妊娠の初期、子癇前症症状の発症より前に実施する。妊娠の期間が種間で広範囲に変化するとすれば、アッセイの時期は獣医師により決定されるであろうが、しかし一般的には、ヒト妊娠間のアッセイの時期に対応しているであろう。
【0119】
本明細書に記載した診断法は、個々に、または子癇前症または子癇の存在、重度または発症の推定時期のより正確な診断のための、本明細書に記載した他の診断法と組み合わせて使用することが可能である。加えて、本明細書に記載した診断法は、子癇前症または子癇の存在、重度または発症の推定時期の正確な診断のために有用であると決定されている他の診断法と組み合わせて使用することが可能である。
【0120】
本明細書に記載した診断法はまた、被験者における子癇前症または子癇をモニターおよび管理するためにも使用することが可能である。1つの例において、被験者が10ng/mLの血清sFlt−1タンパク質レベル、および100pg/mLの遊離PlGFの血清レベルを有していると決定された場合、VEGFを、血清PlGFレベルが約400pg/mLへ上昇するまで投与することができる。この態様において、sFlt−1、PlGFおよびVEGF、またはこれらの任意のものおよび全て、のレベルを、疾患を診断するのみでなく、子癇前症または子癇の治療および管理をモニタリングする方法として、繰り返し測定する。
診断キット
本発明はまた、診断試験キットも提供する。例えば、診断試験キットはsFlt−1、VEGFまたはPlGFに対する抗体、および抗体およびsFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチド間の結合を検出する、そしてより好ましくは評価するための手段を含むことができる。検出のためには、抗体およびsFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチド間の結合後に、基質へ結合された標識の量を決定することにより、sFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチド−抗体相互作用が証明できるように、抗体かまたはsFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチドが標識され、そして抗体かまたはsFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチドが基質−結合されている。通常のELISAは、抗体−基質相互作用を検出するための、普通に当該技術分野で知られている方法であり、本発明のキットと共に提供することが可能である。sFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチドは、事実上、尿、血清、血漿、唾液、羊水または脳脊髄液を含む(限定されるわけではない)任意の体液で検出することが可能である。正常対照中に存在するレベルのごとき基準に対する、sFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチドのレベルの変化を決定するキットは、本発明の方法における診断キットとして有用である。
スクリーニングアッセイ
前に議論したように、sFlt−1核酸またはポリペプチドの発現は、子癇前症または子癇、またはそのような状態を発現する傾向を有している被験者において増加している。これらの発見に基づいて、本発明の組成物は、その発現が子癇前症または子癇を有する被験者において変化している、sFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチドまたは核酸分子の発現を変調する、候補化合物の高スループット、低コストスクリーニングに有用である。
【0121】
sFlt−1、VEGFまたはPlGF核酸分子の発現を変化させる新規候補化合物を同定するためのスクリーニングアッセイを実施するために、かなり多数の方法が利用可能である。1つの作業例において、候補化合物を多様な濃度で、sFlt−1、VEGFまたはPlGF核酸配列を発現している培養細胞の培養培地へ加える。遺伝子発現を、例えば、ハイブリダイゼーションプローブとして、核酸分子から調製された適切な断片を使用する、マイクロアレイ、ノーザンブロット分析(Ausubelら、上記文献)、またはRT−PCRにより測定する。候補化合物存在下での遺伝子発現のレベルを、候補化合物を欠く、対照培養培地で測定されたレベルと比較する。VEGFまたはPlGF遺伝子、核酸分子またはポリペプチドの発現の増加、またはsFlt−1遺伝子、核酸分子またはポリペプチドの発現の減少のごとき変化を促進する化合物、またはその機能的均等物は、本発明において有用であると考えられる;そのような分子は、例えば、被験者における子癇前症または子癇を治療するための治療剤として使用することができる。
【0122】
他の作業例において、候補化合物の効果は、sFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチドに対して特異的な抗体を用いるウェスタンブロッティングまたは免疫沈降のごとき、同一の一般法および標準免疫学的技術を使用して、ポリペプチド産生のレベルで測定することができる。例えば、イムノアッセイを、生物体における本発明のポリペプチドの少なくとも1つの発現を検出またはモニターするために使用することができる。そのようなポリペプチドへ結合することが可能であるポリクローナルまたはモノクローナル抗体(前に説明したように製造される)を、ポリペプチドのレベルを測定するため、標準イムノアッセイ様式(例えば、ELISA、ウェスタンブロットまたはRIAアッセイ)で使用することができる。いくつかの態様において、VEGFまたはPlGFポリペプチドの発現または生物活性の増加、またはsFlt−1ポリペプチドの発現または生物活性の減少のごとき変化を促進する化合物は特に有用であると考えられる。再び、そのような分子は、例えば、被験者における子癇前症または子癇、または子癇前症または子癇の症状を遅延、改善または治療するための治療剤として使用することができる。
【0123】
さらに他の作業例において、候補化合物を、sFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチドへ特異的に結合する化合物としてスクリーニングすることができる。そのような候補化合物の有効性は、そのようなポリペプチドまたはその機能的均等物と相互作用するその能力に依存している。そのような相互作用は、かなり多数の標準結合技術および機能性アッセイ(例えば、Ausubelらにより記載されているアッセイ、上記文献)を使用して容易にアッセイすることが可能である。1つの態様において、候補化合物を、本発明のポリペプチドへ特異的に結合するその能力について、インビトロで試験することができる。他の態様において、候補化合物を、sFlt−1ポリペプチドおよびVEGFまたはPlGFのごとき成長因子の結合を減少させることにより、sFlt−1ポリペプチドの生物活性を減少させる、その能力について試験する。
【0124】
他の作業例において、sFlt−1、VEGFまたはPlGF核酸は、検出可能なレポーターとの転写または翻訳融合物として発現され、そして誘導可能なプロモーターのごとき異種プロモーターの制御下の単離された細胞(例えば、哺乳動物または昆虫細胞)中で発現される。融合タンパク質を発現している細胞を次ぎに、候補化合物と接触させ、その細胞中の検出可能レポーターの発現を、非処理対照細胞中の検出可能なレポーターの発現と比較する。sFlt−1検出可能レポーターの発現を減少させる、またはVEGFまたはPlGF検出可能レポーターの発現を増加させる候補化合物は、子癇前症または子癇の治療のために有用な化合物である。好ましい態様において、候補化合物は核酸へ融合されたレポーター遺伝子または核酸の発現を変化させる。
【0125】
1つの特別な作業例において、sFlt−1ポリペプチドへ結合する候補化合物は、クロマトグラフィーに基づいた技術を使用して同定することができる。例えば、本発明の組換えポリペプチドを、ポリペプチドを発現するように工学処理された細胞(例えば、前記のように)から、標準技術により精製することができ、そしてカラム上に固定化することができる。候補化合物の溶液はカラムを通過させ、sFlt−1ポリペプチドに対して特異的な化合物が、ポリペプチドへ結合するその能力に基づいて同定され、カラムへ固定化される。化合物を単離するためには、カラムを洗浄して非特異的結合分子を除去し、そして次ぎに目的の化合物を放出させ、そして採集する。ポリペプチドマイクロアレイに結合されている化合物を単離するため、類似の方法を使用することができる。この方法(または任意の他の適切な方法)により単離された化合物は、必要に応じ、さらに精製することができる(例えば、高速液体クロマトグラフィーにより)。加えて、これらの候補化合物は、sFlt−1ポリペプチドの活性を減少させる、またはVEGFシグナル伝達経路の活性を増加させるその能力を試験することができる(例えば、前記のように)。この方法により単離された化合物はまた、例えば、ヒト被験者における子癇前症または子癇を治療するための治療剤として使用することもできる。10mM以下の親和定数で、本発明のポリペプチドへ結合すると同定された化合物は、本発明に特に有用であると考えられる。もしくは、任意のインビボタンパク質相互作用検出システム、例えば、二−ハイブリッドアッセイを、本発明のポリペプチドへ結合する化合物またはタンパク質を同定するために利用することができる。
【0126】
可能なアンタゴニストには、sFlt−1核酸配列またはsFlt−1ポリペプチドへ結合する、有機分子、ペプチド、ペプチド模倣物、ポリペプチド、核酸および抗体が含まれる。
【0127】
sFlt−1 DNA配列はまた、子癇前症または子癇の治療のための、治療化合物の発見および発生に使用することもできる。コードされているタンパク質は、発現すると同時に、薬剤のスクリーニングのための標的として使用することができる。加えて、コードされているタンパク質のアミノ末端領域、または各々のmRNAのシャイン−ダルガルノまたは他の翻訳促進配列をコードしているDNA配列は、sFlt−1コード配列の発現を減少させる配列を構築するために使用することが可能である。そのような配列は標準技術により単離することができる(Ausubelら、上記文献)。
【0128】
随意に、前記のアッセイで同定された化合物は、sFlt−1の生物活性を減少させる、またはVEGFシグナル伝達経路の活性を増加させる化合物のためのアッセイに有用であると確認することができる。
【0129】
本発明の小分子の分子量は、好ましくは2,000ダルトン以下、より好ましくは300〜1,000ダルトン、最も好ましくは400〜700ダルトンである。これらの小分子は有機分子であることが好ましい。
VEGFシグナル伝達経路を標的とした治療剤
VEGFは、血管形成、血管透過性亢進および血管拡張を刺激する、強力な内皮細胞特異的分裂促進因子である。VEGFに対し3つのチロシンキナーゼシグナル伝達レセプターが同定されている。VEGF−レセプター結合は、ホスホリパーゼCγ1のチロシンリン酸化を生じるシグナル伝達カスケードの引き金を引き、イノシトール1,4,5−三リン酸の細胞内レベルの増加およびカルシウムの細胞内レベルの増加を導き、それは一酸化窒素合成酵素を活性化して一酸化窒素(NO)を産生する。NO形成は、血管平滑筋細胞および内皮細胞内のグアニレートシクラーゼを活性化し、cGMP産生を起こす。このNO/cGMPカスケードは、VEGFの血管活性効果を仲介すると考えられている。VEGFの血管活性効果の仲介に関与していると思われる他の経路は、プロスタサイクリン放出経路である。VEGFは、MARKカスケードの開始の結果として、ホスホリパーゼA2の活性化を経るPGI2産生を誘導する。
【0130】
VEGFレベルの増加は、子癇前症または子癇の治療のために有用である。VEGFシグナル伝達経路、VEGFシグナル伝達経路の成分を標的とし、VEGFシグナル伝達経路の活性を促進する治療化合物もまた、子癇前症または子癇の治療のために有用である。そのような化合物には、シルデナフィル、フローラン、レモジュリンおよびトラクリールのごときプロスタサイクリン類似物が含まれる。
試験化合物および抽出物
一般に、sFlt−1ポリペプチドの活性を減少させ、またはVEGFまたはPlGFの活性を増加させることが可能な化合物は、当該技術分野で公知の方法に従って、天然物または合成(または半合成)両方の抽出物または化学ライブラリーの大きなライブラリーから、またはポリペプチドまたは核酸のライブラリーから同定する。薬剤発見および開発の当業者は、試験抽出物または化合物の正確な起源は、本発明のスクリーニング手法には決定的ではないことを理解するであろう。スクリーニングに使用された化合物は既知の化合物を含むことができる(例えば、他の疾患または障害に使用された公知の治療剤)。もしくは、事実上、かなり多数の未知の化学抽出物または化合物を、本明細書に記載した方法を使用してスクリーニングすることが可能である。そのような抽出物または化合物の例には、限定するわけではないが、植物、真菌、原核動物または動物に基づいた抽出物、発酵ブロスおよび合成化合物、ならびに存在している化合物の修飾が含まれる。多数の方法もまた、糖類、脂質、ペプチドおよび核酸に基づいた化合物を含む、しかし限定されるわけではない、かなり多数の化学化合物の無作為または方向付けられた合成(例えば、半合成または全合成)を生じるために利用可能である。合成化合物ライブラリーはBrandon Associates(メリマック、NH)およびAldrich Chemical(ミルウォーキー、WI)から商業的に入手可能である。もしくは、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形での、天然化合物のライブラリーは、Biotics(サセックス、英国)、Xenova(スラウ、英国)、Harbor Branch Oceangraphics Institute(Ft.ピアス、FL)およびPharmaMar、U.S.A.(ケンブリッジ、MA)を含む多数の供給元から商業的に入手可能である。加えて、天然におよび合成的に製造されたライブラリーを、所望により、当該技術分野で知られている方法に従って、例えば、標準的抽出および分画法により製造する。さらに、所望により、ライブラリーまたは化合物は、標準的な化学的、物理的または生化学的方法を使用して容易に修飾される。
【0131】
加えて、薬剤発見および開発の当業者は、脱複製(例えば、分類学的脱複製、生物学的脱複製および化学的脱複製、またはその任意の組み合わせ)、または、その脱皮攪乱活性がすでに知られている物質の複製または反復物の除去のための方法を、いつでも可能なときに用いねばならないことを容易に理解するであろう。
【0132】
粗抽出物がsFlt−1ポリペプチドの活性を減少させる、またはsFlt−1ポリペプチドへ結合することが見出された場合、さらなる陽性導出抽出物の分画が、観察された効果の原因となる化学成分を単離するために必要である。それ故、抽出、分画および精製プロセスの到達点は、sFlt−1ポリペプチドの活性を減少させる、粗抽出物内の化学実体の注意深い特徴付けおよび同定である。そのような不均一抽出物の分画および精製のための方法は、当該技術分野で知られている。所望により、ヒト子癇前症または子癇の治療のための治療剤として有用であると示された化合物を、当該技術分野で知られている方法に従って化学的に修飾する。
治療剤
本発明は、被験者における被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するための方法を特色としている。好ましくは、治療剤を子癇前症または子癇の治療または予防のために妊娠の間に、または産後子癇前症または子癇を治療するために妊娠の後に投与する。投与のための技術および用量は、化合物の型(抗体、アンチセンス、核酸ベクターなど)に依存して変化し、当業者にはよく知られているか、または容易に決定される。
【0133】
本発明の治療化合物は、医薬として受容可能な希釈剤、坦体または賦形剤と、単一剤形で投与することができる。投与は、非経口、静脈内、皮下、経口または羊水内への直接注射による局所であることができる。連続的注入による静脈内搬送が、本発明の治療化合物を投与するために好ましい方法である。
【0134】
組成物は、ピル剤、錠剤、カプセル剤、液体または経口投与のための持続放出性錠剤;または静脈内、皮下または非経口投与のための液体;または局所投与のためのポリマーまたは他の持続放出性媒体であることが可能である。
【0135】
処方を作製するために当該技術分野で周知の方法は、例えば、「Remington:製剤の科学及び実践」(第20版、A.R.Gennaro A.R.編、2000、Lippincott Williams&Wilkins、フィラデルフィア、PA)にみられる。非経口投与のための処方は、例えば、賦形剤、滅菌水、食塩水、ポリエチレングリコールのごときポリアルキレングリコール、植物起源の油または水素化ナフタレンを含むことができる。生体適合性、生分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーを、化合物の放出を制御するために使用することができる。ナノ粒子処方(例えば、生分解性ナノ粒子、固体液体ナノ粒子、リポソーム)を、化合物の生体分布を制御するために使用することができる。他の潜在的に有用な非経口搬送システムには、エチレン−ビニル酢酸コポリマー粒子、浸透圧ポンプ、移植可能な注入システムおよびリポソームが含まれる。処方中の化合物の濃度は、投与されるべき薬剤の用量および投与経路を含む、多くの因子の依存して変化する。
【0136】
化合物は随意に、医薬産業で普通に使用されている、非毒性酸付加塩または金属複合体のごとき医薬として受容可能な塩として投与することができる。酸付加塩の例には、酢酸、乳酸、パモ酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、安息香酸、パルミチン酸、スベリン酸、サリチル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸またはトリフルオロ酢酸などのごとき有機酸;タンニン酸、カルボキシメチルセルロースなどのごとき重合体酸;および塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などのごとき無機酸が含まれる。金属複合体には亜鉛、鉄などが含まれる。
【0137】
経口使用のための処方には、非毒性の医薬として受容可能な賦形剤と混合された活性成分を含んでいる錠剤が含まれる。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤または充填剤(例えば、ショ糖およびソルビトール)、平滑剤、滑走剤、および抗粘着剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、シリカ、硬化植物油またはタルク)であることができる。
【0138】
経口使用のための処方はまた、咀しゃく錠として、または活性成分が不活性固形希釈剤と混合されている硬ゼラチンカプセルとして、または活性成分が水または油性媒質と混合されている軟ゼラチンカプセルとしても提供することができる。
【0139】
用量および化合物の投与時期は、被験者の全体の健康度および子癇前症の症状の重度を含む、多様な臨床因子に依存する。一般に、子癇前症または子癇前症を発現する傾向が検出されたら、状態のさらなる進行を治療または予防するために、精製したタンパク質の連続的注入を使用する。治療は1〜100日、より好ましくは1〜60日、最も好ましくは1〜20日の時間範囲の期間、または妊娠の完了まで続けることが可能である。用量は、各々の化合物および状態の重度に依存して変化し、1〜500ng/mLのVEGFまたはPlGF、またはその両方、好ましくは1〜100ng/mL、より好ましくは5〜50ng/mL、最も好ましくは5〜10ng/mLのVEGFまたはPlGF、またはその両方、の範囲の定常状態血液血清濃度を達成するまで滴定する。
VEGFまたはPlGFタンパク質発現を増加させる方法
本発明は、子癇前症または子癇と診断された被験者における、VEGFおよびPIGFのレベルを増加させるための方法を特色としている。増加したVEGFまたはPlGFのレベルは、なかでも、以下に記載されたいくつかの異なった方法論を使用して達成することが可能である。
精製されたタンパク質
本発明の好ましい態様において、VEGFまたはPlGFまたはその両方の精製された形を、子癇前症または子癇を治療または予防するために被験者に投与する。
【0140】
精製されたVEGFまたはPlGF様タンパク質には、VEGFまたは血管形成を誘導可能な、または血管内皮細胞または臍帯静脈内皮細胞の選択的増殖を促進することが可能である、任意のVEGFファミリーメンバーのアミノ酸配列と相同的である、より好ましくは同一であるアミノ酸配列を有する任意のタンパク質が含まれる。精製されたVEGF化合物の例は、Genentech、Inc.(サンフランシスコ、CA)からのヒト組換えVEGFである。
【0141】
精製されたPlGFまたはPlGF様タンパク質には、PlGFまたは血管形成を誘導可能な、または血管内皮細胞または臍帯静脈内皮細胞の選択的増殖を促進することが可能である、任意のPlGFファミリーメンバーのアミノ酸配列と相同的である、より好ましくは同一であるアミノ酸配列を有する任意のタンパク質が含まれる。商業的に入手可能な精製されたPlGFの例はR&D Systems(カタログ番号264−PG、R&D Systems、ミネアポリス、MN)からのヒト組換えPlGFである。ThromboGenics Ltdもまた、虚血性発作の治療のためのPlGFの精製形を開発している;多分、PlGFのこの形は、本発明に記載されている応用に有効であろう。
VEGFまたはPlGF活性を増加させる治療化合物
本発明は、被験者の子癇前症の治療または予防のための、VEGFまたはPlGFの血液血清レベル、またはこれらのポリペプチドの生物活性を刺激または増加させることが知られている化合物の使用を提供する。これらの化合物は、単独でも、または前記の精製タンパク質または本明細書に記載したVEGFまたはPlGFタンパク質レベルを増加させるために使用された、任意の他の方法と組み合わせて使用することができる。
【0142】
VEGF産生を刺激することが示された化合物の例はニコチンである。喫煙は、妊娠女性およびその発育している胎児の全体の健康に対する多くの危険性を提起しているが、ニコチンそれ自身は巻きタバコより安全であると信じられており、高リスクの被験者に対する短期間治療のために使用することが可能である。例には、SmithKline Beechamにより製造された店頭用ニコチンガム製品であるNicorette(ニコチン ポラクリレックス)およびHoechst Marion Roussel Inc.(以前はMarion Merrell Dow)により製造された店頭用ニコチンパッチであるNicoDerm CQ、が含まれる。タバコを経て搬送されたニコチンは、患者が本発明の方法を使用してまだ診断されていない場合、本発明の方法から特に排除した。
【0143】
ニコチンは、子癇前症または子癇の診断後、パッチかまたはガムを使用して投与した。用量は、状態の重度および被験者の全体の健康に依存して変化した。一般に、5〜500ng/mL、より好ましくは5〜100ng/mL、および最も好ましくは50〜100ng/mLの範囲のニコチン血清レベルを達成するように、製造者の指示に従った。
【0144】
テオフィリンは、子癇前症または子癇を治療または予防するために使用することが可能な、追加の化合物の他の例である。テオフィリンは気管支拡張剤であり、喘息の治療のためにしばしば使用され、多くのブランド名(例えば、Aerolate Sr、Asmalix、Elxophyllinなど)ならびにジェネリック医薬品として入手可能である。投与法および用量は、各々の製造者で変化し、被験者の全体の健康および状態の重度に基づいて選択する。一般に、日用量は、1〜500mg、より好ましくは100〜400mg、および最も好ましくは250〜350mgの範囲であり、5〜50μg/mLのテオフィリンの血清レベルを達成するため、1日2回与える。
【0145】
アデノシンは、子癇前症または子癇を治療または予防するために使用することが可能な、追加の化合物の他の例である。アデノシン(藤沢薬品)は通常、抗高血圧薬として使用されている。投与法および用量は、各々の製造者で変化し、被験者の全体の健康および状態の重度に基づいて選択する。一般に、1日2回与えられ、50mg/kgの日用量がアデノシンに典型的である。
【0146】
ニフェジピンは、子癇前症または子癇を治療または予防するために使用することが可能な、追加の化合物の他の例である。ニフェジピン(バイエル薬品)は通常、抗高血圧薬として使用されている。投与法および用量は、各々の製造者で変化し、被験者の全体の健康および状態の重度に基づいて選択する。一般に、経口または皮下で1日2回与えられ、1〜2mg/kgの日用量がニフェジピンに典型的である。
【0147】
ミノキシジルは、子癇前症または子癇を治療または予防するために使用することが可能な、追加の化合物の他の例である。ミノキシジル(ファイザー社)は通常、抗高血圧薬として使用されている。投与法および用量は、各々の製造者で変化し、被験者の全体の健康および状態の重度に基づいて選択する。一般に、経口または皮下で1日2回与えられ、0.25〜1.0mg/kgの日用量がミノキシジルに典型的である。
【0148】
硫酸マグネシウムは、子癇前症または子癇を治療または予防するために使用することが可能な、追加の化合物の他の例である。硫酸マグネシウムはジェネリック医薬品であり、典型的には抗高血圧薬として使用されている。投与法および用量は、各々の製造者で変化し、被験者の全体の健康および状態の重度に基づいて選択する。一般に、4時間ごとに静脈内へ与えられ、1〜2gmの日用量が、硫酸マグネシウムの典型的用量である。
【0149】
VEGFまたはPlGFの血清レベルを増加させることが可能な化合物の使用に加え、本発明は、VEGFまたはPlGFに方向付けられた化合物と組み合わせて使用される、慢性高血圧薬物療法の使用を提供する。妊娠の間に、高血圧の治療のために使用される薬物療法には、メチルドーパ、ヒドララジン塩酸塩またはラベタロールが含まれる。これらの薬物療法の各々に対し、投与様式および用量は、医者により、そして製造者の指示により決定される。
治療核酸
最近の研究は、血管損傷の部位への、VEGFのごとき内皮細胞分裂促進因子を発現可能な核酸(DNAまたはRNA)の搬送は、損傷された血管の増殖および再内皮細胞化を誘導するであろうことを示している。本発明は血管損傷には関係していないが、これらの研究で使用されたVEGFおよびPIGFのごとき、内皮細胞分裂促進因子をコードしている核酸の搬送のための技術はまた、本発明でも使用することが可能である。これらの技術は、米国特許第5,830,879号および第6,258,787号に記載されており、それらは本明細書において援用される。
【0150】
本発明において核酸とは、VEGFまたはPIGF、または任意のVEGFまたはPIGFファミリーメンバーをコードしている、ゲノムDNA、cDNAおよびmRNAを含む任意の核酸(DNAまたはRNA)であることができる。核酸はまた、sFlt−1レセプターへ結合することが示されているタンパク質をコードする、任意の核酸も含んでいる。所望のタンパク質をコードしている核酸は、当該技術分野での日常的な方法、例えば、組換えDNA、PCR増幅、を使用して得ることができる。
sFlt−1発現を阻害する治療核酸
本発明はまた、直接的にsFlt−1 mRNAの発現を下方制御するための、アンチセンス核酸塩基オリゴマーの使用も特色としている。相補的核酸配列(センスまたはコード鎖)への結合により、アンチセンス核酸塩基オリゴマーは、たぶん、RNAseHによるRNA鎖の酵素的切断を通して、タンパク質発現を阻害できる。好ましくは、アンチセンス核酸塩基オリゴマーは、過剰なレベルのsFlt−1を発現する細胞中で、sFlt−1タンパク質発現を減少させることが可能である。好ましくは、sFlt−1タンパク質発現の減少は、対照オリゴヌクレオチドで処理した細胞と比較して少なくとも10%、より好ましくは25%、最も好ましくは50%以上である。アンチセンス核酸塩基オリゴマーを選択し、調製するための方法は、当該技術分野では周知である。VEGF発現を下方制御するためのアンチセンス核酸塩基オリゴマーの使用例は、本明細書において援用される米国特許第6,410,322号を参照されたい。タンパク質発現のレベルをアッセイするための方法も、当該技術分野ではよく知られており、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、およびELISAが含まれる。
【0151】
本発明はまた、sFlt−1の発現を阻害するための、RNA干渉(RNAi)も特色としている。RNA干渉(RNAi)は最近発見された翻訳後遺伝子サイレンシング(PTGS)の機構であり、そこでは、目的の遺伝子またはmRNAに対応する2本鎖RNA(dsRNA)が生物体内へ導入され、対応するmRNAの分解が生じる。RNAi反応において、dsRNA分子のセンスおよびアンチセンス鎖の両方が、21〜23ヌクレオチド(nt)長の範囲の、および2−ヌクレオチド3’尾部を有している、小さなRNA断片またはセグメントへプロセシングされる。もしくは、21〜23nt長であり、および2−ヌクレオチド3’尾部を有する合成dsRNAが合成でき、精製でき、および反応で使用できる。これら21〜23ntのdsRNAは「ガイドRNA」または「短干渉RNA」(siRNA)として知られている。
【0152】
siRNA2重鎖は次ぎに、複合体内のsiRNAと相同性を有している内因性mRNAを標的化しおよび破壊するタンパク質により組み立てられている、ヌクレアーゼ複合体へ結合させる。複合体内のタンパク質の同一性は不明なままであるが、複合体の機能は、siRNAの1つの鎖および内因性mRNA間の塩基対形成相互作用を通して、相同的mRNA分子を標的化することである。mRNAは次ぎに、siRNAの3’末端から、約12ntに切断され、分解される。この方法において、特異的遺伝子を標的化しおよび破壊することができ、それにより標的化遺伝子からのタンパク質発現の喪失を生じる。
【0153】
dsRNAの特別の要求および修飾は、PCT出願WO01/75164号(本明細書において援用される)に記載されている。dsRNA分子はその長さを変化することが可能であるが、典型的には(2’−デオキシ)チミジンかまたはウラシルの、特徴的2−から3−ヌクレオチド3’オーバーハング末端を有する21〜23ヌクレオチドdsRNAである、siRNA分子を使用することが最も好ましい。siRNAは典型的には、3’ヒドロキシル基を含んでなる。1本鎖siRNAならびにdsRNAの平滑末端形もまた使用することが可能である。RNAの安定性をさらに促進するため、3’オーバーハングを分解に対して安定化することが可能である。そのような態様の1つにおいて、RNAは、アデノシンまたはグアノシンのごときプリンヌクレオチドを含むことにより安定化される。もしくは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば、(2’−デオキシ)チミジンによるウリジン2−ヌクレオチドオーバーハングの置換、が許容され、そしてRNAiの効率には影響しない。2’ヒドロキシル基の不在は、組織培養培地における、オーバーハングのヌクレアーゼ耐性を有意に促進する。
【0154】
もしくは、siRNAを、PCT出願WO01/75164号(本明細書において援用される)に示された方法を使用して、またはElbashirら(Genes&Dev.、15:188−200、2001)により記載されているRNAおよびdsRNAアニーリング法のインビトロ転写のための標準法を使用して調製することが可能である。siRNAはまた、Elbashirらにより記載されているように、標的遺伝子の配列に対応するdsRNAを、dsRNAが約21〜約23ヌクレオチドのsiRNAを発生するようにプロセッシングされる条件下、シンチウム胚盤葉ショウジョウバエ胎児からの無細胞ショウジョウバエ溶解物中でインキュベートし、次ぎに当業者には既知の技術を使用して単離することによっても得られる。例えば、21〜23nt RNAを分離するためにゲル電気泳動を使用でき、そしてRNAをゲルスライスから溶出することが可能である。加えて、クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)、グリセロール濃度勾配遠心分離、および抗体を用いるアフィニティー精製を、21〜23ntのRNAを単離するために使用することが可能である。
【0155】
本発明において、dsRNA(またはsiRNA)はsFlt−1 mRNAのmRNA配列と相補的であり、そしてsFlt−1の発現を減少または阻害することが可能である。好ましくは、sFlt−1タンパク質発現の減少は、対照dsRNAまたはsiRNAで処理した細胞と比較して少なくとも10%、より好ましくは25%、最も好ましくは少なくとも50%である。タンパク質発現のレベルをアッセイするための方法も、当該技術分野ではよく知られており、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、およびELISAが含まれる。
【0156】
本発明において、使用された核酸は、核酸の安定性または機能を任意の方法で促進する修飾を含んでいる。例としては、リン酸主鎖、ヌクレオチド間結合または糖部分への修飾が含まれる。
【0157】
sFlt−1結合タンパク質をコードしている核酸の操作および取り扱いを単純化するため、核酸を、好ましくは、プロモーターに機能可能であるように連結されたカセット内へ挿入する。プロモーターは、所望の宿主細胞中で、sFlt−1結合タンパク質の発現を駆動可能でなければならない。適切なプロモーターの選択は、容易に達成することが可能である。好ましくは、高発現プロモーターを使用する。適したプロモーターの例は、763−塩基対サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターである。ラウス肉腫ウイルス(RSV)(Davisら、Hum.Gene Ther.4:151−159、1993)およびマウス乳腺癌ウイルス(MMTV)プロモーターもまた使用することができる。ある種のタンパク質は、その天然のプロモーターを使用して発現することが可能である。発現を促進できる他の要素も含むことができる(例えば、エンハンサーまたはtar遺伝子またはtar要素のごとき高レベルの発現を生じるシステム)。組換えベクターは、pUC118、pBR322、または、例えば、大腸菌の複製開始点を含む、他の公知のプラスミドベクターのごときプラスミドベクターであることが可能である(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory press、1989、を参照されたい)。プラスミドベクターはまた、マーカーポリペプチドが処理されている生物体の代謝に不利に影響しないとしたら、アンピシリン耐性のためのβラクタマーゼ遺伝子のごとき選択可能マーカーを含むことができる。カセットは、PCT出願WO95/22618に開示されているシステムのごとき、合成搬送システム中の核酸結合部分へ結合させることも可能である。
【0158】
核酸は、用いられたベクターに適した任意の手段により細胞内へ導入することが可能である。多くのそのような方法が当該技術分野では周知である(Sambrookら、上記文献、およびWatsonら、「組換えDNA」、12章、第2版、Scientific American Books、1992)。組換えベクターは、リン酸カルシウム沈降、エレクトロポレーション、リポソーム仲介導入、遺伝子銃、マイクロインジェクション、ウイルスカプシド仲介導入、ポリブレン仲介導入またはプロトプラスト融合のごとき方法により導入することが可能である。リポソーム調製、標的化および内容物搬送のための方法についての総説としては、ManninoおよびGould−Fogerite、(Bio Techniques、6:682−690、1988)、FelgnerおよびHolm、(Bethesda Res.Lab.Focus、11:21、1989)およびMaurer(Bethesda Res.Lab.Focus、11:25、1989)を参照されたい。
【0159】
組換えベクター(プラスミドベクターかまたはウイルスベクター)の導入は、羊水内への直接注射または静脈内搬送を通して達成することが可能である。
アデノウイルスまたはアデノ関連ベクター(AAV)を使用する遺伝子導入も使用することが可能である。アデノウイルスは大多数の動物種に存在し、非常に病原性ではなく、分裂している、および静止状態の細胞中で等しくよく複製することが可能である。一般的規則として、遺伝子導入に使用されるアデノウイルスは、ウイルス複製に必要とされる1つ以上の遺伝子を欠失している。VEGF、PlGFまたは任意のsFlt−1結合タンパク質の搬送に使用される複製欠陥組換えアデノウイルスベクターは、当該技術分野で公知の技術に従って製造することが可能である(Quantinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:2581−2584、1992;Stratford−Perricadetら、J.Clin.Invest.、90:626−630、1992;およびRosenfeldら、Cell、68:143−155、1992、を参照されたい)。子宮内遺伝子治療の使用の例としては、米国特許第6,399,585号を参照されたい。
【0160】
哺乳動物細胞内への、dsRNAまたはオリゴヌクレオチドのトランスフェクションまたは導入には、多様な方法が利用可能である。例えば、TransIT−TKO(登録商標)(Mirus、カタログ番号MIR 2150)、Transmessenger(登録商標)(キアゲン、カタログ番号301525)およびOligofectamine(登録商標)(インビトロジェン、カタログ番号MIR 12252−011)を含む、しかし限定されるわけではない、いくつかの商業的に入手可能なトランスフェクション試薬が存在する。各々のトランスフェクション試薬のプロトコールは、製造元から入手可能である。
【0161】
導入されたら、損傷の部位で、VEGF、PlGFまたは任意の他のsFlt−1結合タンパク質の血液血清レベルを増加させるのに十分な期間、細胞により核酸が発現される。核酸を含んでいるベクターは通常、細胞のゲノム内へ取り込まれないので、目的のタンパク質の発現は限られた時間しか起こらない。典型的には、タンパク質は治療レベルで、約2日〜数週間、好ましくは約1〜2週間、発現される。DNAの再適用が、治療タンパク質の発現の追加期間を提供するために利用できる。哺乳動物における血管疾患の治療のためにVEGFを使用する、遺伝子治療の最近の例をDeodatoら(Gene Ther.、9:777−785、2002);Isnerら(Human Gene Ther.、12:1593−1594、2001);Laiら(Gene Ther.、9:804−813、2002)にみることができ;そしてFreedmanおよびIsner(Ann.Intern.Med.、136:54−71、2002)およびIsner JM(Nature、415:234−239、2002)により概説されている。
遺伝子およびタンパク質発現のためのアッセイ
以下の方法は、タンパク質または遺伝子発現を評価するため、およびVEGF、PlGFまたは任意の他のsFlt−1結合タンパク質レベルを増加させるための、またはsFlt−1タンパク質レベルを減少させるための、任意の前記方法の効率を決定するために使用することが可能である。
【0162】
被験者からの血液血漿の、VEGF、PlGFまたはsFlt−1へ結合することが知られている任意のタンパク質リガンドのレベルを測定する。タンパク質の血清レベルを測定するために使用された方法には、ELISA、ウェスタンブロッティングまたは特異的抗体を使用するイムノアッセイが含まれる。加えて、被験者の血液が、抗血管形成状態から前血管形成状態へ変換されたかどうかを決定するために、インビトロ血管形成アッセイを実施することが可能である。そのようなアッセイは前記実施例2に記載されている。陽性結果とは、VEGF、PlGFまたはsFlt−1へ結合することが知られている任意のタンパク質リガンドの、少なくとも20%、好ましくは30%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも60%の増加と考えられる。陽性結果とはまた、インビトロ血管形成アッセイを使用する、抗血管形成状態から前血管形成状態への変換と考えられる。
【0163】
遺伝子発現をアッセイするための、いくつかの当該技術分野で知られている方法が存在する。いくつかの例は、被験者の血液試料からのRNAの調製、ノーザンブロッティングのためのRNAの使用、PCRに基づいた増幅、またはRNAse保護アッセイを含んでいる。
治療処置のための抗体の使用
子癇前症を患った妊娠女性から採った血清試料中に観察される、sFlt−1の上昇したレベルは、sFlt−1が、機能性VEGFおよびPlGFの栄養膜細胞層および母親内皮細胞へ結合し、および枯渇させるための「生理学的シンク」として働いていることを示唆している。sFlt−1へ結合し、そしてVEGFまたはPlGF結合を阻止する、抗体のごとき化合物の使用は、遊離VEGFまたはPlGFの増加を生み出すことにより、子癇前症または子癇を予防または治療することができる。そのような増加は、胎盤発育および胎児栄養状態に、および全身的な母親内皮細胞の健康に必要とされる、栄養膜細胞層細胞の増殖、遊走および血管形成における増進を許容する。
【0164】
本発明は、sFlt−1のリガンド結合ドメインへ特異的に結合する抗体を提供する。抗体は、sFlt−1を阻害するために使用され、そして、最も有効な機構は、VEGFまたはPlGFのための結合部位の直接ブロッキングであると信じられているけれども、他の機構を除外することはできない。治療目的のための抗体の調製および使用は、米国特許第6,054,297号;第5,821,337号;第6,365,157号;および第6,165,464号を含むいくつかの特許に記載されており、それらは本明細書において援用される。抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよい;モノクローナル抗体が好ましい。
【0165】
モノクローナル抗体、特にマウスを含む齧歯動物に由来するモノクローナル抗体は、多様な疾患の治療に使用されてきた;しかしながら、迅速なクリアランスおよび治療の有効性の減少を起こす、ヒト抗マウス免疫グロブリン応答の誘導を含む、それらの使用の制限が存在する。例えば、齧歯動物モノクローナル抗体の臨床使用における主たる制限は、治療間の抗グロブリン応答である(Millerら、Blood、62:988−995、1983;Schroffら、Cancer Res.、45:879−885、1985)。
【0166】
この問題を克服するために、動物抗原結合可変領域がヒト定常ドメインへカップルされた、「キメラ」抗体を構築することが試みられた(米国特許第4,816,567号;Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851−6855、1984;Boulianneら、Nature、312:643−646、1984;Neubergerら、Nature、314:268−270、1985)。そのようなキメラ抗体の製造および使用が以下に説明されている。
【0167】
sFlt−1に対する競合的阻害は、子癇前症または子癇の予防および治療に有用である。sFlt−1へ方向付けられた抗体は、sFlt−1へのVEGFまたはPlGFの結合を遮断し、VEGFまたはPlGFレベルの増加を生じる。そのような増加は、内皮細胞不全の救出、および前血管形成/抗血管形成因子の平衡の血管形成へ向かった移行を生じる。
【0168】
本発明のモノクローナル抗体のカクテルは、子癇前症または子癇に対する有効な治療として使用することが可能である。カクテルは、少なくて2、3または4の異なった抗体、多くて6、8または10の異なった抗体を含むことができる。加えて、本発明の抗体は、抗高血圧薬(例えば、メチルドーパ、ヒドララジン塩酸塩またはラベタロール)、または子癇前症、子癇または子癇前症または子癇に関係する症状を治療するために使用される他の薬物と組み合わせることが可能である。
抗体の調製
sFlt−1レセプターへ特異的に結合するモノクローナル抗体は、当該技術分野で公知の方法により製造することができる。これらの方法には、KohlerおよびMilstein(Nature、256:495−497、1975)およびCampbell(Burdonら編、生化学と分子生物学の実験室技術、第13巻、Elsevier Science Publishers、アムステルダム、1985、中の「モノクローナル抗体技術、齧歯動物およびヒトハイブリドーマの製造および特徴付け」)により記載されている免疫学的方法、ならびに、Huseら(Science、246、1275−1281、1989)により記載されている組換えDNA法が含まれる。
【0169】
モノクローナル抗体は、培養ハイブリドーマ細胞の上清から、またはマウス内へのハイブリドーマ細胞の腹膜内接種により誘導された腹水から調製することができる。最初にKohlerおよびMilstein(Eur.J.Immunol、6、511−519、1976)により記載されたハイブリドーマ技術が、多くの特異的抗原に対して高レベルのモノクローナル抗体を分泌する、ハイブリッド細胞株を産生するために広く応用されてきた。
【0170】
宿主動物の免疫化の経路およびスケジュールまたはそれらからの培養抗体産生細胞は、一般的に、抗体刺激および産生のための確立されたおよび慣習的な技術が守られる。典型的には、マウスが試験動物として使用されるけれども、ヒト被験者を含む哺乳動物被験者またはそれらからの抗体産生細胞が、ヒトを含む哺乳動物ハイブリッド細胞株産生の基盤として働くように、本発明の方法に従って操作することが可能である。
【0171】
免疫化後、多量のモノクローナル抗体を産生するため、免疫リンパ球を骨髄腫細胞と融合させて、培養および無限に継代培養できるハイブリッド細胞株を発生させる。本発明の目的のためには、融合に選択された免疫リンパ球は、リンパ球およびその正常に分化した子孫であり、免疫化動物からのリンパ節組織かまたは脾臓組織から採られた。脾臓細胞は、マウス系に関して、抗体産生細胞のより濃縮されたおよび都合のよい供給源であるので、脾臓細胞の使用が好ましい。骨髄腫細胞は、融合したハイブリッドの連続的繁殖の基盤を提供する。骨髄腫細胞は形質細胞に由来する腫瘍細胞である。マウス骨髄腫細胞は、例えば、American Type Culture Collection(ATCC;マナッサス、VA)から得ることが可能である。ヒト骨髄腫およびマウス−ヒト異種骨髄腫細胞株も記載されている(Kozborら、J.Immunol.、133:3001−3005、1984;Brodeurら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、Marcel Dekker、Inc.、ニューヨーク、pp.51−63、1987)。
【0172】
ハイブリッド細胞株は細胞培養培地中、インビトロで維持することが可能である。ハイブリドーマ細胞株が確立されたら、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地のごとき、多様な栄養的に適切な培地で維持することが可能である。さらに、ハイブリッド細胞株は、液体窒素下での凍結および貯蔵を含む、かなり多数の都合のよい方法で貯蔵および保存することが可能である。凍結細胞株は復活でき、そしてモノクローナル抗体の合成および分泌を回復して無限に培養することが可能である。分泌された抗体は、沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどのごとき常法により、組織培養上清から回収する。
【0173】
抗体は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギおよびヒトを含む、任意の哺乳動物で調製することができる。抗体は、以下の免疫グロブリンクラスの1つのメンバーであることができる:IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE、およびそのサブクラス、および好ましくはIgG抗体。
【0174】
モノクローナル抗体を産生するための好ましい動物がマウスである場合、本発明はそのように限定されるわけではない;実際に、ヒト抗体を使用することができ、そして好ましいと証明することができる。そのような抗体は、ヒトハイブリドーマを使用して得ることが可能である(Coleら、「モノクローナル抗体及びがん治療」、Alan R.Liss Inc.、p.77−96、1985)。本発明において、適切な抗原特異性のマウス抗体分子からの遺伝子と共にヒト抗体分子からの遺伝子をスプライシングすることによる、キメラ抗体の産生のために開発された技術を使用することが可能である(Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.81、6851−6855、1984;Neubergerら、Nature 312、604−608、1984;Takedaら、Nature 314、452−454、1985);そのような抗体は本発明の範囲内であり、以下に説明されている。
【0175】
細胞融合技術に代わる他の方法として、エプスタイン−バーウイルス(EBV)不死化B細胞を、本発明のモノクローナル抗体を産生するために使用する(Crawford D.ら、J.of Gen.Virol.、64:697−700、1983;KozborおよびRoder、J.Immunol.、4:1275−1280、1981;Kozborら、Methods in Enzymology、121:120−140、1986)。一般に、本方法は、適した起源(一般には感染細胞株)からエプスタイン−バーウイルスを単離し、そして標的抗体分泌細胞を、ウイルスを含んでいる上清に暴露する。細胞を洗浄し、適切な細胞培養培地で培養する。続いて、細胞培養物に存在するウイルスで形質転換された細胞は、エプスタイン−バーウイルス核抗原の存在で同定することが可能であり、そして形質転換された抗体分泌細胞は、当該技術分野で知られている標準法を使用して同定することが可能である。組換えDNAのごとき、モノクローナル抗体を産生するための他の方法もまた本発明の範囲内に含まれている。
sFlt−1免疫原の調製
sFlt−1はそれ自身でも免疫原として使用することができ、または坦体タンパク質またはセファロースビーズのごとき他の物質へ結合させることもできる。sFlt−1は、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC;Kendallら、Biochem.Biophys.Res.Comm.、226:324−328、1996)のごとき内因性タンパク質を発現することが知られている細胞から精製することができる。加えて、sFlt−1またはその一部をコードする核酸分子を、標準組換えDNA技術を使用して、宿主細胞で発現するための既知のベクター内へ挿入することが可能である。sFlt−1発現のために適した宿主細胞には、バキュロウイルス細胞(例えば、Sf9細胞)、細菌細胞(例えば、大腸菌)および哺乳動物細胞(例えば、NIH3T3細胞)が含まれる。
【0176】
加えて、免疫原として、ペプチドを合成および使用することが可能である。ペプチドに対する抗体を作製するための方法は、よく知られており、そして一般的に、血清アルブミンのごとき適した坦体分子へのペプチドのカップリングを必要とする。ペプチドは、GenBank寄託番号U01134に対応するsFlt−1アミノ酸配列の任意の一部と実質的に同一である任意のアミノ酸配列を含んでいる。ペプチドは任意の長さ、好ましくは10アミノ酸以上、より好ましくは25アミノ酸以上、最も好ましくは40、50、60、70、80または100アミノ酸以上であることが可能である。好ましくは、アミノ酸配列は少なくとも60%、より好ましくは85%、最も好ましくは95%、U01134の配列と同一である。ペプチドは商業的に得ることもできるし、または、例えば、Merrifield固相法(Science、232:341−347、1985)のごとき当該技術分野ではよく知られている技術を使用して作製することも可能である。この方法は、Biosearth 9500自動化ペプチド合成機のごとき商業的に入手可能な合成機を使用することができ、ブロックされたアミノ酸の切断はフッ化水素で達成され、そしてペプチドは15〜20μm Vydac C4 PrepPAKカラム上、Waters Delta Prep 3000装置を使用する、分取HPLCにより精製する。
抗体の機能的均等物
本発明はまた、本明細書に記載されているような抗体の機能的均等物も含んでいる。機能的均等物には、本発明の抗体の可変または高頻度可変領域のアミノ酸配列と、実質的に同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。機能的均等物は、抗体の結合特性に匹敵する特性を有しており、そして、例えば、キメラ化、ヒト化および単鎖抗体ならびにその断片を含んでいる。そのような機能的均等物を製造する方法は、PCT出願WO93/21319号;欧州特許出願第239,400号;PCT出願WO89/09622号;欧州特許出願第338,745号;欧州特許出願第332424号;および米国特許第4,816,567に開示されており、その各々が本明細書において援用される。
【0177】
キメラ化抗体は好ましくは、ヒト抗体から実質的にまたは排他的に誘導された定常領域、およびヒト以外の哺乳動物からの可変領域の配列から実質的にまたは排他的に誘導された可変領域を有している。そのようなヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最少配列を含む、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2または抗体の他の抗原結合サブ配列)である。非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野ではよく知られている(総説として、VaswaniおよびHamilton、Ann Allergy Asthma Immunol.、81:105−119、1998およびCarter、Nature Reviews Cancer、1:118−129、2001、を参照されたい)。一般に、ヒト化抗体は、非ヒトである起源から、その中に導入された1つ以上のアミノ酸残基を有している。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば移入された残基と称され、それは典型的には移入可変ドメインからとられる。ヒト化は、齧歯動物CDRまたは他のCDR配列を、ヒト抗体の対応する配列で置換することにより、本質的に当該技術分野で既知の方法に従って実行することが可能である(Jonesら、Nature、321:522−525、1986;Riechmannら、Nature、332:323−329、1988;およびVerhoeyenら、Science、239:1534−1536 1988)。従って、そのようなヒト化抗体はキメラ抗体であり、ここにおいて、実質上、無傷のヒト可変ドメインより少ない部分が、非ヒト種からの対応する配列で置換されている(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)。実際、ヒト化抗体は典型的には、いくつかのCDR残基およびあるいはいくつかのFR残基が、齧歯動物抗体中の類似の部位からの残基で置換されているヒト抗体である(Presta、Curr.Op.Struct.Biol.、2:593−596、1992)。
【0178】
ヒト化抗体を調製する追加の方法は、本明細書において援用される米国特許第5,821,337号および第6,054,297号、ならびにCarter(上記文献)に見ることができる。ヒト化抗体はIgM、IgG、IgD、IgAおよびIgEを含む免疫グロブリンの任意のクラス、およびIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む任意のアイソタイプから選択される。本発明におけるごとく、細胞毒性活性が必要とされない場合、定常領域ドメインは好ましくはIgG2クラスである。ヒト化抗体は、1つ以上のクラスまたはアイソタイプからの配列を含んでなることができ、所望のエフェクター機能を最適にするための特定の定常ドメインを選択することは、当業者の範囲内である。
【0179】
ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリー(Marksら、J.Mol.Biol.、222:581−597、1991およびWinterら、Annu.Rev.Immunol.、12:433−455、1994)を含む、当該技術分野で知られている多様な技術を使用して製造することが可能である。Coleら、およびBoernerらの技術もまたヒトモノクローナル抗体の製造に有用である(Coleら、上記文献;Boernerら、J.Immunol.、147:86−95、1991)。
【0180】
ヒト以外の適した哺乳動物には、モノクローナル抗体を作製することができる任意の哺乳動物が含まれる。ヒト以外の哺乳動物の例には、例えば、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ヤギまたは霊長類が含まれ;マウスが好ましい。
【0181】
抗体の機能的均等物には、単鎖抗体(scFvs)としても知られている、単鎖抗体断片も含まれる。単鎖抗体断片は、典型的には、抗原またはレセプターを結合する組換えポリペプチドである;これらの断片は、1つ以上の相互接続されたリンカーを有するまたは有していない、少なくとも1つの抗体可変軽鎖配列(VL)の断片へ繋ぎ止められた、少なくとも1つの抗体可変重鎖アミノ酸配列(VH)の断片を含んでいる。そのようなリンカーは、単鎖断片が誘導された全抗体の標的分子結合特異性を維持するように、ひとたびそれらが連結されると、VLおよびVHドメインの適切な3次元折り畳みが起こることを確実にするように選択された、短い、可動性のペプチドであることができる。一般に、VLまたはVH配列のカルボキシル末端は、そのようなペプチドリンカーにより、相補的VLまたはVH配列のアミノ末端へ共有結合で連結されている。単鎖抗体断片は、分子クローニング、抗体ファージディスプレイライブラリーまたは類似の技術により発生させることが可能である。これらのタンパク質は、真核生物細胞かまたは細菌を含む原核生物細胞中で産生することが可能である。
【0182】
単鎖抗体断片は、本明細書に記載した全抗体の少なくとも1つの可変領域またはCDRを有しているが、これらの抗体の定常領域のいくつかまたは全部を欠失している。これらの定常領域は抗原結合には必要ではないが、全抗体の構造の主たる部分を構成している。単鎖抗体断片はそれ故、定常領域の一部または全部を含んでいる抗体の使用に関連した、いくつかの問題を克服することができる。例えば、単鎖抗体断片は、望まれない生物学的分子および重鎖定常領域間の相互作用、または他の求められていない生物活性が取り除かれる傾向がある。さらに、単鎖抗体断片は全抗体よりもかなり小さく、それ故、全抗体よりも大きな毛細血管透過性を有しており、単鎖抗体断片が局在化するのを可能にし、そしてより効率的に標的抗原結合部位へ結合する。また、抗体断片は、原核生物細胞中で比較的大規模に産生することが可能であり、それ故その産生を容易にする。さらに、比較的小さなサイズの単鎖抗体断片は、全抗体よりもレシピエントの免疫応答を誘発し難くしている。
【0183】
機能的均等物はさらに、全抗体の結合特性と同一のまたは匹敵する結合特性を有する抗体の断片を含んでいる。そのような断片は、Fab断片またはF(ab’)2断片の1つまたは両方を含むことができる。好ましくは、抗体断片は全抗体の6つ全てのCDR含んでいるけれども、3つ、4つまたは5つのCDRのごとく、そのような領域全てを含んでいない断片もまた機能的である。
【0184】
さらに、機能的均等物は、以下の免疫グロブリンクラスの、任意の1つのメンバーでもよく、または組み合わせてもよい:IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE、またはそのサブクラス。
抗体の機能的均等物の調製
抗体の均等物は、当該技術分野で知られている方法により調製される。例えば、抗体の断片は、全抗体から酵素的に調製することができる。好ましくは、抗体の均等物は、そのような均等物をコードしているDNAから調製される。抗体の断片をコードしているDNAは、完全長抗体をコードしているDNAの所望の部分を除いた全てを除去することにより調製することができる。
【0185】
キメラ化抗体をコードしているDNAは、実質的にまたは排他的にヒト定常領域をコードしているDNA、およびヒト以外の哺乳動物の可変領域の配列から実質的にまたは排他的に誘導された可変領域をコードしているDNAを組換えることにより調製することができる。ヒト化抗体をコードしているDNAは、対応するヒト抗体領域から実質的にまたは排他的に誘導された定常領域およびCDR以外の可変領域をコードしているDNA、およびヒト以外の哺乳動物から実質的にまたは排他的に誘導されたCDRをコードしているDNAを組換えることにより調製することができる。
【0186】
抗体の断片をコードするDNA分子の適した供給源には、完全長抗体を発現する、ハイブリドーマのごとき細胞が含まれる。断片はそれ自身で抗体均等物として使用することもでき、若しくは、前記のように均等物内へ組換えることもできる。
【0187】
この節で記載されたDNA除去および組換えは、前に掲げた公開特許出願に記載されている方法のごとき、既知の方法により実行することができる。
抗体スクリーニングおよび選択
モノクローナル抗体は、標準の当該技術分野で知られている方法を使用して単離および精製する。例えば、抗体は、sFlt−1ペプチド抗原に対するELISAまたはウェスタンブロット分析のごとき、標準の当該技術分野で知られている方法を使用してスクリーニングすることが可能である。そのような技術の例は、本明細書において援用される米国特許第6,365,157号の実施例IIおよびIIIに記載されている。
抗体の治療的使用
子癇前症または子癇の治療または予防のためにインビボで使用される場合、本発明の抗体を、被験者に治療的に有効量で投与する。好ましくは、抗体は非経口で、または連続的注入により静脈内で投与する。用量および投与計画は、疾患の重度、および被験者の全体の健康度に依存する。投与される抗体の量は、典型的には約0.01〜約10mg/kg被験者体重、の範囲である。
【0188】
非経口投与には、抗体は、医薬として受容可能な非経口媒体に会合した単一用量注入可能形(溶液、懸濁液、乳濁液)に処方する。そのような媒体は、本質的に非毒性および非治療的である。そのような媒体の例は、水、食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液および5%ヒト血清アルブミンである。固定油およびオレイン酸エチルのごとき非水媒体もまた使用することができる。リポソームは坦体として使用することができる。媒体は、等張性および化学的安定性を促進する物質、例えば、緩衝液および保存剤のごとき添加物を少量含むことができる。抗体は典型的には、そのような媒体に、約1mg/ml〜10mg/mlの濃度で処方する。
sFlt−1を阻害する治療化合物
子癇前症、子癇を有している、またはそのような状態を発現する傾向を有している被験者において、sFlt−1のレベルが増加しているとすると、sFlt−1ポリペプチドまたは核酸分子の発現を減少させる任意の剤は、本発明の方法に有用である。そのような剤には、VEGFまたはPlGFへのsFlt−1結合を破壊できる小分子、アンチセンス核酸塩基オリゴマー、およびRNA干渉を仲介するために使用されるdsRNAが含まれる。
組み合わせ治療
随意に、子癇前症または子癇治療剤は、任意の他の標準子癇前症または子癇治療と組み合わせて投与することができる;そのような方法は当業者には知られており、そして本明細書に記載されている。本発明の子癇前症または子癇治療剤は、VEGF経路の活性を増加させる任意の化合物と組み合わせて投与することができる。内因性VEGF産生も誘導する剤の非制限例には、ニコチン、ミノキシジル、ニフィデピン、アデノシン、硫酸マグネシウムおよびテオフィリンが含まれる。1つの態様において、PlGFタンパク質を、前に掲げた内因性VEGF産生を誘導する剤の任意のものと組み合わせて使用することが可能である。
被験者モニタリング
子癇前症、子癇、またはそのような状態を発現する傾向を有している被験者の疾患状態または治療は、本発明の方法および組成物を使用してモニターすることが可能である。1つの態様において、尿、血漿、羊水またはCSFのごとき体液中に存在するsFlt−1、VEGFまたはPlGFポリペプチドの発現をモニターする。そのようなモニタリングは、例えば、被験者における特定の薬剤の有効性を評価すること、または疾患進行を評価することにおいて有用であることができる。sFlt−1核酸分子またはポリペプチドの発現を減少させる、またはVEGFまたはPlGF核酸分子またはポリペプチドの発現を増加させる治療剤が、本発明において特に有用であるとみなされた。
他の態様
前記の説明から、多様な使用および条件に適応させるため、本明細書に記載した本発明に、変更および修飾を行うことができることは明白である。そのような態様もまた、別記の特許請求の範囲内である。
【0189】
本明細書で言及する全ての刊行物は、各々の刊行物または特許出願が特別におよび個々に本明細書に援用されることが示されているのと同じ程度で、本明細書に援用される。加えて、2003年3月3日提出の米国仮出願第60/451796号、2002年7月19日提出の第60/397,481号、および2003年5月2日提出の第60/467,390号は、その全体が本明細書において援用される。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】図1は、子癇前症におけるsFlt−1のmRNAおよびタンパク質の発現を示している。図1Aは、ノーザンブロット分析により決定された、子癇前症の3人の患者(P1、P2、P3)および3人の正常圧出産期妊娠者(N1、N2、N3)からの胎盤sFlt−1のmRNA発現を示している。より高いバンド(7.5kb)は完全長flt−1 mRNAであり、より低く、より豊富なバンド(3.4kb)は代替的にスプライスされたsFlt−1 mRNAである。GAPDHが対照として含まれており、そして矢じりは28S RNAを示している。患者P1およびP2は重度の子癇前症を患っており、患者P3は軽度の子癇前症を患っていた。図1Bは軽度子癇前症患者(軽度PE)、重度子癇前症患者(重度PE)、および出産期の正常圧妊娠女性(対照)からの血清中のsFlt−1レベルを示すグラフである。sFlt−1レベルは、市販のキット(R&D Systems、ミネアポリス、MN)を使用して、sFlt−1に対して実行されるELISAにより測定した。他の理由のために早産した患者(早期)が、在胎齢特異的変化を除外するための追加の対照として含まれている。試験された患者数はX軸の括弧に示されている。試料は、分娩前(t=0)および分娩後48時間(t=48)に回集した。図1Cは、図1Bで説明した全ての患者に対して、ELISAにより決定された分娩時点(t=0)での抗血管形成指標比(PAAI=sFlt−1/(VEGF+PlGF))を示すグラフである。
【図2】図2A〜2Fは、子癇前症における過剰sFlt−1の抗血管形成効果を示す顕微鏡写真である。内皮管アッセイは、4人の正常妊娠対照および4人の子癇前症患者からの血清を使用して実施された。1人の正常対照および1人の子癇前症患者からの代表的実験が示されている。図2A、2Bおよび2Cは、正常患者からの血清を使用して実施されたアッセイを示しており、一方、図2D、2Eおよび2Fは、子癇前症患者からの血清を使用して実施されたアッセイを示している。図2Aにおいてはt=0(出産期の正常妊娠女性からの10%血清);図2Bにおいてはt=48(分娩後48時間の正常妊娠女性からの10%血清);図2Cにおいてはt=0+外来sFlt−1(10ng/ml);図2Dにおいてはt=0(分娩前の子癇前症女性からの10%血清);図2Eにおいてはt=48(分娩後48時間の子癇前症女性からの10%血清);および図2Fにおいてはt=0+外来VEGF(10ng/ml)+PlGF(10ng/ml)。管アッセイを定量し、平均管長±SEMが、各々のパネルの下にピクセルで示されている。
【図3】図3Aおよび3Bは、腎微小血管のVEGFおよびPlGFにより誘導される血管拡張の、sFlt−1による阻害を示すグラフである。図3Aは、sFlt−1(S)、VEGF(V)、PlGF(P)に対するラット腎細動脈の弛緩応答の増加が、3つの異なった用量で測定されたことを示している。V+およびP+は、100ng/mlのsFlt−1存在下での、個々の試薬の血管拡張応答を表している。全ての実験は6つの異なった切開ラット腎微小血管で実施され、データは、平均±SEMで示されている。*は、個々の試薬単独と比較して、p<0.01の統計的有意性を表している。図3Bは、生理学的用量での弛緩応答の増加を示している:VEGF 100pg/ml(V)、PlGF 500pg/ml(P)、sFlt−1 10ng/ml(S)、VEGF(100pg/ml)+PlGF 500pg/ml(V+P)またはVEGF(100pg/ml)+PlGF 500pg/ml+sFlt−1 10ng/ml(V+P+S)。全ての実験は6つの異なった切開ラット腎微小血管で実施され、データは、平均±SEMで示されている。*は、V+Pと比較して、p<0.05の統計的有意性を表している。
【図4A】図4Aは、糸球体内皮症のsFlt−1による誘導を示している。図4Aは、糸球体肥大および細胞質膨張を有するsFlt−1処置動物における毛細管閉塞のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を対照と比較して示す顕微鏡写真である。泡状細胞質を有する「糸球体内皮症」は、sFlt−1処置動物において、過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色で示されている。全ての光学顕微鏡写真は、60倍の原拡大率で撮影した。
【図4B】図4Bは、糸球体内皮症のsFlt−1による誘導を示している。図4Bは、毛管内細胞の細胞質膨潤を確認する、sFlt−1処置糸球体の電子顕微鏡写真である。フィブリン写真のための免疫蛍光(IF)は40倍で撮影し、EM写真は2400倍の原拡大率で撮影した。全ての図を同一拡大率で再現した。
【図5】図5A〜5Cは、在胎齢に対する、子癇前症発症前および発症後に測定されたsFlt−1レベルを示している。図5Aは、正常圧対照(細線に白三角)、子癇前症発症前の症例(黒丸)、および分娩開始前4〜5週以内の在胎齢時期の子癇前症発症後−「エンドポイント」検体−の症例(黒四角)に関し、平均血清濃度をpg/mlで示すグラフである。ブラケットは平均の標準誤差を示している。アスタリスクは、対数変換後の、同一在胎齢時期内の対照検体に対する有意差を示している:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。図5Bは、子癇前症前数週間の間隔内での子癇前症発症前および発症後の症例におけるsFlt−1の平均血清濃度をpg/mlで示すグラフである。PEは、43のエンドポイント検体(子癇前症の発症時点またはその後に得られた)の算術平均を示している。平均在胎齢(日)が各々の時間間隔の下に括弧で示されている。水平線はエンドポイント検体におけるレベルを示している。垂直線は、子癇前症前≦5週の期間の境界を画している。図5Cは、在胎齢時期に対する、正常圧対照、および子癇前症の発症5週間以内に得られた検体を除いた後の子癇前症前の症例のsFlt−1の平均血清濃度をpg/mlで示すグラフである。有意差はない。
【図6】図6A〜6Cは、在胎齢に対する、子癇前症前および後のPlGFレベルを示している。図6Aは、分娩および出産の前に得られた全検体におけるPlGFレベルを示すグラフである。ブラケットは平均の標準誤差を示している。アスタリスクは、対数変換後の、同一間隔内の対照検体に対する有意差を示している:**p<0.01、***p<0.001。図6Bは、子癇前症前数週間の間隔内での子癇前症の発症前および発症後におけるPlGFの平均血清濃度をpg/mlで示すグラフである。PEは、43のエンドポイント検体(子癇前症の発症時点またはその後に得られた)の算術平均を示している。平均在胎齢(日)が各々の時間間隔の下に括弧で示されている。水平線はエンドポイント検体におけるレベルを示している。垂直線は、子癇前症前≦5週の期間の境界を画している。図6Cは、在胎齢時期に対する、正常圧対照、および子癇前症発症例のPlGFの平均血清濃度をpg/mlで示すグラフである。
【図7】図7Aおよび7Bは、子癇前症の状態および重度に対する、sFlt−1およびPlGFのレベルを示している。図7Aは、対照、および軽度子癇前症例(臨床疾患発症前)、重度子癇前症例、発症<37週の子癇前症例、在胎齢に比して小さい(SGA)児を有する子癇前症例、および発症<34週の子癇前症例における、妊娠23〜32週でのsFlt−1(黒棒)およびPlGF(白棒)の算術平均血清濃度を示すグラフである。検体数は各々のカラム対の下に記録されている。在胎齢および肥満度指数の調整は有意水準に影響しない少しの変化しか与えなかった。図7Bは、対照、および軽度子癇前症例(臨床疾患発症前)、重度子癇前症例、発症<37週の子癇前症例、およびSGA児を有する子癇前症例における、妊娠33〜41週でのsFlt−1(黒棒)およびPlGF(白棒)の算術平均血清濃度を示すグラフである。検体数は各々のカラム対の下に記録されている。在胎齢および肥満度指数の調整は有意水準に影響しない少しの変化しか与えなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するための方法であって、被験者に可溶性Flt−1レセプター(sFlt−1)へ結合可能な化合物を投与する工程を含み、投与は被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分な時間および量である、前記方法。
【請求項2】
被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するための方法であって、被験者にsFlt−1へ結合可能な成長因子のレベルを増加させる化合物を投与する工程を含み、投与は被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分な時間および量である、前記方法。
【請求項3】
化合物がニコチンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
化合物がテオフィリンである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
化合物が、アデノシン、ニフェジピンおよびミノキシジルから成る群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
化合物が、精製されたsFlt−1抗体またはsFlt−1抗原結合断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するための方法であって、被験者にsFlt−1核酸配列の少なくとも一部と相補的なアンチセンス核酸塩基オリゴマーを投与する工程を含み、投与は被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分である、前記方法。
【請求項8】
アンチセンス核酸塩基オリゴマーが長さ8〜30ヌクレオチドである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するための方法であって、被験者にsFlt−1核酸配列の少なくとも一部を含む2本鎖RNAを投与する工程を含み、投与は被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分である、前記方法。
【請求項10】
2本鎖RNAが長さ19〜25ヌクレオチドの小さな干渉RNA(siRNA)へプロセッシングされる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
化合物が成長因子である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
成長因子が血管内皮成長因子(VEGF)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
成長因子がVEGF121である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
成長因子がVEGF165である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
成長因子が胎盤成長因子(PlGF)である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
被験者に抗高血圧化合物を投与する工程をさらに含む、請求項1、2、7または9に記載の方法。
【請求項17】
被験者が妊娠したヒトである、請求項1、2、7または9に記載の方法。
【請求項18】
被験者が産後のヒトである、請求項1、2、7または9に記載の方法。
【請求項19】
被験者が非ヒトである、請求項1、2、7または9に記載の方法。
【請求項20】
被験者が、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコから成る群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
子癇前症または子癇を治療または予防するための方法であって、そのような治療を必要とする被験者に、VEGFまたはPlGFのポリペプチドを含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項22】
組成物がVEGFポリペプチドを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
組成物がPlGFポリペプチドを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
子癇前症または子癇を治療または予防するための方法であって、そのような治療を必要とする被験者に、VEGFまたはPlGFをコードする核酸分子を含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項25】
組成物がVEGF核酸分子を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
組成物がPlGF核酸分子を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するための方法であって、被験者にsFlt−1ポリペプチドへの成長因子の結合を阻害する化合物を投与する工程を含み、投与は被験者における子癇前症または子癇を治療または予防するのに十分である、前記方法。
【請求項28】
化合物がsFlt−1へ結合し、成長因子の結合をブロックする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
被験者に抗高血圧化合物を投与する工程をさらに含む、請求項21、24または27に記載の方法。
【請求項30】
被験者が妊娠したヒトである、請求項21、24または27に記載の方法。
【請求項31】
被験者が産後のヒトである、請求項21、24または27に記載の方法。
【請求項32】
被験者が非ヒトである、請求項21、24または27に記載の方法。
【請求項33】
被験者が、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコから成る群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
子癇前症若しくは子癇を有している、または発現する傾向を有していると被験者を診断するための方法であって、被験者から得た試料中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドレベルを測定することを含む、前記方法。
【請求項35】
被験者から得た試料中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドのうち少なくとも2つのレベルを測定し、1つの測定基準を使用してsFlt−1、VEGFまたはPlGFのレベル間の関係を計算することにより、子癇前症若しくは子癇を有しているか、または発現する傾向を有していると被験者を診断するための方法であって、基準試料に対する被験者試料中のレベル間の関係における変化で、被験者における子癇前症若しくは子癇、または子癇前症若しくは子癇を発現する傾向を診断する、前記方法。
【請求項36】
測定基準が子癇前症抗血管形成指標(PAAI):[sFlt−1/VEGF+PlGF]である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
20より大きなPAAI値が子癇前症または子癇の診断指標である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
免疫学的アッセイを使用して測定される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項39】
免疫学的アッセイがELISAである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
試料が血清である、請求項34または35に記載の方法。
【請求項41】
2ng/mlより高いsFlt−1のレベルが子癇前症または子癇の診断指標である、請求項34または35に記載の方法。
【請求項42】
sFlt−1のレベルが遊離の、結合したまたは全体のsFlt−1のレベルである、請求項34または35に記載の方法。
【請求項43】
VEGFまたはPlGFのレベルが遊離のVEGFまたはPlGFのレベルである、請求項34または35に記載の方法。
【請求項44】
子癇前症若しくは子癇を有しているか、または発現する傾向を有していると被験者を診断するための方法であって、被験者から得た試料中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFの核酸分子レベルを測定し、それを基準試料と比較することを含み、レベルの変化で被験者における子癇前症若しくは子癇を診断するか、または子癇前症若しくは子癇を発現する傾向を診断する、前記方法。
【請求項45】
子癇前症若しくは子癇を有している、または発現する傾向を有していると被験者を診断するための方法であって、被験者から得た試料中のsFlt−1、VEGFまたはPlGFの遺伝子の核酸配列を決定し、それを基準配列と比較することを含み、被験者中の遺伝子産物の発現レベルを変える変化である被験者の核酸配列における変化で、子癇前症若しくは子癇を有しているか、または子癇前症若しくは子癇を発現する傾向を有する被験者を診断する、前記方法。
【請求項46】
試料が、sFlt−1、VEGFまたはPlGFを正常に検出可能である被験者の体液である、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項47】
体液が、尿、羊水、血清、血漿または脳脊髄液から成る群より選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
試料が細胞である、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項49】
細胞が内皮細胞である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
細胞が白血球である、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
細胞が単球である、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
細胞が胎盤由来の細胞である、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
試料が組織である、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項54】
組織が胎盤組織である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
被験者が妊娠していないヒトであり、子癇前症または子癇を発現する傾向を診断する、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項56】
被験者が妊娠したヒトである、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項57】
被験者が産後のヒトである、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項58】
被験者が非ヒトである、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項59】
被験者が、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコから成る群より選択される非ヒトである、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項60】
測定されるレベルの少なくとも1つがsFlt−1のレベルである、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項61】
VEGFのレベルが測定される場合、sFlt−1またはPlGFのレベルも測定される、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項62】
基準に対するsFlt−1核酸またはポリペプチドのレベルにおける増加が、子癇前症または子癇の診断指標である、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項63】
基準に対する遊離VEGF核酸またはポリペプチドのレベルにおける減少が、子癇前症または子癇の診断指標である、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項64】
基準に対する遊離PlGF核酸またはポリペプチドのレベルにおける減少が、子癇前症または子癇の診断指標である、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項65】
レベルを測定することが、2回以上の機会に行われ、測定間のレベルの変化が子癇前症または子癇の診断指標である、請求項34、35、44または45に記載の方法。
【請求項66】
被験者における子癇前症または子癇を診断するためのキットであって、sFlt−1、VEGFおよびPlGFの核酸分子若しくはその相補的配列、またはその任意の組み合わせから成る群より選択される核酸配列を含む、前記キット。
【請求項67】
核酸配列が、核酸分子の検出のための少なくとも2つの核酸プローブを含む、請求項66に記載のキット。
【請求項68】
被験者における子癇前症または子癇を診断するためのキットであって、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチド、またはその任意の組み合わせを検出する手段を含む、前記キット。
【請求項69】
検出する手段が、免疫学的アッセイ、酵素的アッセイおよび比色分析アッセイから成る群より選択される、請求項68に記載のキット。
【請求項70】
妊娠または非妊娠被験者における子癇前症または子癇を発現する傾向を診断する、請求項66または68に記載のキット。
【請求項71】
sFlt−1を検出する、請求項66または68に記載のキット。
【請求項72】
PlGFを検出する、請求項66または68に記載のキット。
【請求項73】
VEGFを検出する場合、sFlt−1またはPlGFも検出される、請求項66または68に記載のキット。
【請求項74】
子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定するための方法であって、sFlt−1、VEGFまたはPlGFの核酸分子を発現する細胞と候補化合物とを接触させ、候補化合物と接触させた細胞中の核酸分子発現レベルと、候補化合物と接触させていない対照細胞中の発現レベルとを比較することを含み、sFlt−1、VEGFまたはPlGFの核酸分子の発現における変化で、候補化合物が子癇前症または子癇を改善させる化合物であると同定する、前記方法。
【請求項75】
変化がsFlt−1レベルの減少である、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
変化がVEGFまたはPlGFのレベルの増加である、請求項74に記載の方法。
【請求項77】
発現における変化が転写における変化である、請求項74に記載の方法。
【請求項78】
発現における変化が翻訳における変化である、請求項74に記載の方法。
【請求項79】
医薬として受容可能な担体に処方された、VEGFまたはPlGFのポリペプチドまたはその一部、および高血圧を低下させる化合物を含む医薬組成物。
【請求項80】
妊娠哺乳動物への投与に適した医薬として受容可能な担体に処方された、PlGF核酸分子またはその一部を含む医薬組成物。
【請求項81】
VEGF核酸分子またはその一部をさらに含む、請求項79に記載の組成物。
【請求項82】
sFlt−1を特異的に結合させる、精製された抗体またはその抗原結合断片を含む組成物。
【請求項83】
抗体または抗原結合断片が、sFlt−1への成長因子の結合を妨げる、請求項82に記載の組成物。
【請求項84】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項82に記載の組成物。
【請求項85】
抗体またはその抗原結合断片がヒト抗体またはヒト化抗体である、請求項82に記載の組成物。
【請求項86】
抗体がFc部分を欠失している、請求項82に記載の組成物。
【請求項87】
抗体がF(ab’)2構造、Fab構造、又はFv構造である、請求項82に記載の組成物。
【請求項88】
抗体またはその抗原結合断片が、医薬として受容可能な担体中に存在している、請求項82に記載の組成物。
【請求項89】
子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定するための方法であって、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドを発現する細胞と候補化合物とを接触させ、候補化合物と接触させた細胞中のポリペプチド発現レベルと、候補化合物と接触させていない対照細胞中のポリペプチド発現レベルとを比較することを含み、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチド発現における変化で、候補化合物が子癇前症または子癇を改善させる化合物であると同定する、前記方法。
【請求項90】
発現における変化が、免疫学的アッセイ、酵素的アッセイまたはイムノアッセイを使用してアッセイされる、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
発現における変化がsFlt−1レベルの減少である、請求項89に記載の方法。
【請求項92】
発現における変化がVEGFまたはPlGFのレベルの増加である、請求項89に記載の方法。
【請求項93】
子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定するための方法であって、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドを発現する細胞と候補化合物とを接触させ、候補化合物と接触させた細胞中のポリペプチドの生物活性と、候補化合物と接触させていない対照細胞中の生物活性のレベルとを比較することを含み、sFlt−1、VEGFまたはPlGFのポリペプチドの生物活性における変化で、候補化合物が子癇前症または子癇を改善させる化合物であると同定する、前記方法。
【請求項94】
生物活性における変化がsFlt−1活性の減少である、請求項93に記載の方法。
【請求項95】
生物活性における変化がVEGFまたはPlGFの活性の減少である、請求項93に記載の方法。
【請求項96】
生物活性における変化が、免疫学的アッセイ、酵素的アッセイまたはイムノアッセイを使用してアッセイされる、請求項93に記載の方法。
【請求項97】
子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定するための方法であって、候補化合物存在下でsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合を検出することを含み、候補化合物非存在下でのsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合に対する結合の減少で、候補化合物が子癇前症または子癇を改善させる化合物であると同定する、前記方法。
【請求項98】
sFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合を妨げるポリペプチドまたはその断片を同定するための方法であって、候補ポリペプチド存在下でsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合を検出することを含み、候補ポリペプチド非存在下でのsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合に対する結合の減少で、候補ポリペプチドがsFlt−1ポリペプチドと成長因子との結合を妨げるポリペプチドであると同定する、前記方法。
【請求項99】
成長因子がVEGFである、請求項97または98に記載の方法。
【請求項100】
成長因子がPlGFである、請求項97または98に記載の方法。
【請求項101】
子癇前症または子癇を改善させる化合物を同定するための方法であって、sFlt−1ポリペプチドと候補化合物との結合を検出することを含み、sFlt−1ポリペプチドを結合させる化合物は子癇前症または子癇を改善させる、前記方法。
【請求項102】
請求項101に記載の方法に従って同定された化合物であって、sFlt−1ポリペプチドを特異的に結合させ、sFlt−1ポリペプチドがVEGFまたはPlGFを結合させることを妨げるポリペプチドを含む、前記化合物。
【請求項103】
ポリペプチドが抗体である、請求項102に記載の化合物。
【請求項104】
ポリペプチドがsFlt−1、VEGFまたはPlGFの断片である、請求項102に記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−511615(P2006−511615A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505542(P2005−505542)
【出願日】平成15年7月21日(2003.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2003/022892
【国際公開番号】WO2004/008946
【国際公開日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【出願人】(505023559)ベス・イスラエル・ディーコニス・メディカル・センター (4)
【Fターム(参考)】