説明

安全に基づくエレベータ制御

複数のエレベータかごを制御する例示的な方法は、乗場において少なくとも1つのエレベータかごに関する安全侵害状態があることを確認することを含む。このエレベータは、上記の状態が解消されるまで上記の乗場からの移動が防止される。他のエレベータかごは、上記の状態が解消されるまで、上記の乗場へのおよび上記の乗場からのエレベータサービスを提供しないように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のエレベータかごの制御方法に関し、特に安全を確保するエレベータかごの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ装置は、ビル内の異なる階の間で乗客を搬送する便利な方法を提供する。多くの場合、エレベータがサービスを提供していればエレベータを利用する人に対する制限はあったとしても限られている。しかし、エレベータ装置の特定の制御が安全確保のために有効な場合もある。
【0003】
例えば、場所によっては、エレベータを使用してビルの特定領域または特定階床を出発することができる人を制限することが望ましい。一例として、病院が挙げられる。確実に親または他の許可された人のみが乳児を連れて帰ることができるように、病院の出生後の領域の安全を確保することが望まれるようになった。病院における他の例として、精神病の患者が適切な付き添いがない状態で特定の領域から出発してはならない階床がある。
【0004】
安全が確保された状態に関する他の状況もある。例えば、受刑者が出廷する必要がある場合である。このような人が、信頼のある適切な人の同行なく裁判所内で自由に移動することを防止することが望ましい。
【0005】
他の例は、許可された人のみが出入りできる会社内の立入禁止領域に関する。出入りを管理するためにエレベータが使用可能である。このような安全確保に関する問題が生じる状況に対処するために、エレベータ装置を制御することが有効である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
複数のエレベータかごの例示的な制御方法は、乗場において少なくとも1つのエレベータかごに関する安全侵害状態があることを確認することを含む。このエレベータかごは、上記の状態が解消されるまで上記の乗場からの移動が防止される。他のエレベータかごは、上記の状態が解消されるまで上記の乗場へまたは上記の乗場からのエレベータサービスを提供しないように制御される。
【0007】
例示的なエレベータ装置は、複数のエレベータかごを含む。制御装置が、乗場において少なくとも1つのエレベータかごに関する安全侵害状態があることを確認する。制御装置は、これに応じて上記の状態が解消されるまで、このエレベータかごが上記の乗場から移動するのを防ぐ。また、制御装置は、上記の状態が解消されるまで他のエレベータかごが上記の乗場へまたは上記の乗場からのエレベータサービスを提供しないように、他のエレベータかごを制御する指示を提供する。
【0008】
開示された実施例の種々の特徴および利点は、以下の実施形態から当業者に明らかとなる。詳細な説明に伴う図面は、以下に簡単に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例に従って設計された例示的なエレベータ装置の選択された部分を示す概略説明図である。
【図2】1つの例示的な方法の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、エレベータ装置20の選択された部分を概略的に示している。複数のエレベータかご22,24,26,28が、例えば、通常の状況で一般に知られている方法でエレベータサービスを提供するように対応する昇降路内で支持されている。図1の例では、エレベータかご22は、対応するビルの乗場30と他の場所との間でエレベータサービスを提供するように乗場30に停車している。エレベータかご24,28は、他の乗場32に停車している。この例では、エレベータかご26は、乗場34に停車している。図示の例では、各々のエレベータかごは、通常いずれの乗場30,32,34へもサービスを提供できる。
【0011】
例示的なエレベータ装置20は、例えば、エレベータかごの1つの不正な出入りまたは使用を含む安全侵害状態に対処するように設計されている。安全侵害状態は、人が適切な許可なくエレベータかごの1つを利用して特定の領域の出入りを試みた状態などである。特定の人や情報を保護するためなどに安全確保が要求される病院の出生後の場所、精神衛生施設、裁判所などの政府建物または民間企業などが該当する。
【0012】
人は乗場30においてホール呼びボタン36を使用してビルの他の階床へのサービスを要求できる。同様に、ホール呼びボタン38,40は、それぞれ乗場32,34からサービスを要求することを可能にする。
【0013】
図1の例では、センサ50が各々の乗場におけるそれぞれのエレベータかごの出入口と関連して設けられている。一例では、センサ50は、対応する周知のトリガ装置または信号装置を身につけたまたは携帯した人が対応するエレベータかごの敷居を横切ったときにその存在を感知可能な周知の装置を含む。例えば、受刑者が追跡装置を備えるつなぎ鎖を身につけている場合には、センサ50によって受刑者が乗場と1つのエレベータかごとの間の敷居を横切ったことが感知される。乳児または幼児が関連する信号装置を備える患者識別バンドを身につけている場合には、信号装置が対応するエレベータかごの敷居を横切ったことがセンサ50によって感知される。
【0014】
エレベータかごの各々の出入口(例えば、昇降路ドア)に関連する複数の表示器52が概略的に示されている。一例では、これらの表示器52は、対応するセンサ50が対応するエレベータかごの不正使用を感知した場合に、可視表示または可聴表示の少なくとも一方を提供する。
【0015】
説明のために、エレベータかご28に不正な出入りがあって安全侵害状態が発生したと仮定する。センサ50がドアが開いた状態で乗場32に位置するエレベータかご28への不正な出入りを感知し、対応する表示器52が安全侵害状態に関する表示を提供する。
【0016】
図1の例では、スイッチ54として概略的に示されている手動制御可能な装置によって、人がエレベータかご28の不正な出入りに関する指示を手動で提供することが可能となっている。例えば、乗場32のエレベータロビーを可視できるナースステーションの看護婦が、無許可の人がエレベータかご28に近づいたか入ったことを示すスイッチを操作できる。装置54の手動による作動は、センサ50の動作と組み合わせて使用可能である。
【0017】
安全侵害状態が感知されると、エレベータかご28の制御装置60によって、許可された人が通常のサービスモードで動作するように制御装置60をリセットするまで、エレベータかご28が乗場32から出発することが防止される。乗場32の階床を不正に出発しようと試みた人を捕らえることなどによって、安全侵害状態が解消されると、許可された人が制御装置60をリセットしてエレベータかご28の通常のサービス運転を再開することができる。しかし、安全侵害状態が存在するときは、エレベータ28が乗場32から移動することが防止される。このような制御は、例えば、ある領域から人が不正に出発または連れ去られることを防ぐのを容易にする。
【0018】
一例では、安全侵害状態に関連するエレベータかごのドアは、この状態が解消するまで開いた状態に保たれる。
【0019】
安全侵害状態が確認されると、制御装置60はかご28の運転を制御するだけではない。この例では、制御装置60は、他のエレベータかご26,24,22の運転をそれぞれ制御する制御装置62,64,66に指示を提供する。この例では、他のエレベータかごは、安全侵害状態が確認された乗場32以外のビル内の種々の階床間で乗客サービスを提供するように運転を継続することができる。例えば、エレベータかご22は、乗場32に停車せずに乗場30,34の間を移動するように制御装置66によって制御される。同様に、エレベータ26は、乗場32以外の種々の乗場に移動可能となっている。このような制御は、安全侵害状態の確認によってエレベータかご28の運転が休止されたために、人が他のエレベータかごを使用することを防止する。
【0020】
この例では、エレベータかご24は、安全侵害状態が発生した乗場32と同じ乗場に停車している。一例では、エレベータかご24は、安全侵害状態が解消されるまで乗場から出発することが防止される。安全侵害状態が感知されたときに、乗場32においてエレベータかご24のドアが開いていれば、ドアは開いたままとなるように制御され、エレベータかご24は乗場32にとどまるように制御される。しかし、エレベータかご24のドアが閉じていれば、かごが乗場32から出発して他の乗場間でエレベータサービスを提供することが許可される場合もある。
【0021】
制御装置62,64,66は、安全侵害状態の指示に応答して通常のサービスモードから安全侵害状態サービスモードに移行し、安全侵害状態がどこで発生したかの指示に基づいてエレベータかごの使用を制限する。例えば、制御装置60は、かご28の位置を知っているかこれを求め、安全侵害状態に関する通信の一環として位置の指示を他の制御装置に提供する。
【0022】
図示の例では、安全侵害状態においては、ホール呼びボタン36,38,40も安全モードで制御される。一例では、ホール呼びボタン38のホール呼び機能は、乗場32で安全侵害状態が検知されると無効になる。これにより、乗場32で安全侵害状態があると確認されると、ホール呼びに応答して乗場32に他のエレベータかごが停車するよう割当てられることが防止される。ホール呼びボタン36,40は、対応する乗場で人がサービスを要求することができるように機能を保持しうる。制御装置62,64,66は、対応するエレベータかごがこのようなサービス要求に応答するか否かを適切に制御する。
【0023】
図1の例では、各々のエレベータかごは、人が特定の行先階へのサービスを要求することを可能にするかご操作盤68をかごの内部に含む。安全侵害状態では、例示的なかご操作盤68は、通常動作モードに比べてかご操作盤の機能が限定された安全動作モードに入る。例えば、乗場32において安全侵害状態が有効なときには、いずれのかご操作盤68も、乗場32へのサービス要求を許可しない。
【0024】
図1の例は、スイッチ70として概略的に示したオーバーライド装置を含み、許可された人は、このオーバーライド装置によって制御装置60,62,64,66が提供する安全機能を無効にし、1つまたは複数のエレベータかごの運転を制御して許可された人が安全侵害状態に対処するのを補助することができる。例えば、許可された人は、かご操作盤の制限された機能を無効にして、いずれかのエレベータかごで安全侵害状態に対処可能な乗場32などに移動することができる。図1には1つのオーバーライド装置70しか示されていないが、エレベータ装置の他の構成要素に関連して複数のこのような装置を有利に配置することができる。制御装置60〜66は、適切なオーバーライド信号を提供するノートパソコンや携帯電話などの携帯機器の通信に応答するように設けられる場合もある。
【0025】
制御装置60〜66と例示的なエレベータ装置20の他の構成要素との間の通信は、有線接続または無線通信などで行われる。種々の装置の間の具体的な通信リンクは図示していない。当業者であれば、本明細書を参照すれば開示された例の安全機能を実現するために適切な通信機構をどのように構成して特定の必要性を満たせばよいか分かるであろう。
【0026】
図2は、1つの例示的な方法の概要を示すフローチャート80である。82では、乗場において少なくとも1つのエレベータかごに関する安全状態の侵害を確認する。84では、上記の状態が解消されるまで上記のエレベータかごが乗場から出発することを防ぐ。一例では、上記のエレベータかごは、ドアが開いた状態で乗場にとどまる。86では、上記の状態が解消されるまで他のエレベータかごが上記の乗場にサービスを提供することが防止される。当該乗場にエレベータかごが既に停車している場合には、そのかごは当該乗場にとどまる。当該乗場にないかごは、上述のように他の乗場の間でサービスを継続して提供することが許可される。
【0027】
対応するエレベータかごが安全侵害状態に関係している場合に、いずれの制御装置60〜66も主制御装置として動作可能である。特定の状態が解消されるまで全てのエレベータかごが安全モードで動作するように、いずれかの制御装置は他の制御装置に指示を提供できる。安全侵害状態がどこで発生し、応答するエレベータかごがどこに位置しているかに応じて、それぞれの制御装置は安全侵害状態にどのように応答するかを判断し、これに従って動作する。各々の制御装置60〜66は、ほとんどの状況で通常の運転機能を実現し、安全侵害状態が存在する場合には安全運転機能を実現するように、適切なパラメータで個々にプログラムされている。
【0028】
上述の例では、個々の制御装置は互いに通信を行う。他の例では、主出発管理制御装置が各々のかごの動作を直接または制御装置への適切な信号によって命令する。開示された実施例における種々のエレベータ制御機能は、特定のエレベータ装置の必要性および構成に応じて、複数の制御装置または単一の制御装置で調整可能である。
【0029】
上述の説明は、例示的なものであり、限定的なものではない。開示された実施例の変更や改良は当業者には明らかであり、本発明の趣旨から必ずしも逸脱するものではない。本発明に与えられる法的保護の範囲は、以下の請求項の検討のみによって判断される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエレベータかごの制御方法であって、
乗場において少なくとも1つのエレベータかごに関する安全侵害状態があることを確認し、
前記安全侵害状態が解消されるまで、前記少なくとも1つのエレベータかごが前記乗場から移動するのを防ぎ、
前記安全侵害状態が解消されるまで、前記複数のエレベータかごのうちの他のエレベータかごが前記乗場へまたは前記乗場からのエレベータサービスを提供しないように、これらのエレベータかごを制御するステップをそれぞれ含むことを特徴とするエレベータかごの制御方法。
【請求項2】
ドアが開いた状態で前記乗場に位置する他のエレベータかごがあれば、前記安全侵害状態が解消されるまでこのエレベータが前記階床にとどまるように制御することを含むことを特徴とする請求項1記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項3】
前記乗場に位置しない他のエレベータかごが、前記安全侵害状態が解消されるまで前記乗場に停車しないように制御することを含むことを特徴とする請求項1記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項4】
前記複数のエレベータかごのうちの他のエレベータかごにそれぞれ関連する制御装置に確認された安全侵害状態の指示を通信することを含むことを特徴とする請求項1記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項5】
前記制御装置が通常の運転状態に戻るように、続いて、前記安全侵害状態が解消されたことの指示を通信することを含むことを特徴とする請求項4記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項6】
乗場において確認された安全侵害状態に応じて、前記乗場におけるホール呼び機能を無効にすることを含むことを特徴とする請求項1記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項7】
確認された安全侵害状態において、他のエレベータかごで前記乗場に関するサービス呼びが登録されるのを防ぐように、これらの他のエレベータかごの各々におけるかご呼び機能を無効にすることを含むことを特徴とする請求項1記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項8】
前記複数のエレベータかごのうちの選択された1つのエレベータかごの制御装置を選択的に無効にし、前記安全侵害状態において許可された人が前記選択されたエレベータかごを前記乗場に向かわせることを可能にすることを含むことを特徴とする請求項1記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項9】
前記乗場における前記少なくとも1つのエレベータかごの不正アクセスを感知することを含むことを特徴とする請求項1記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項10】
手動でアクセス可能な安全装置から安全侵害状態の指示を受け取ることを含むことを特徴とする請求項1記載のエレベータかごの制御方法。
【請求項11】
複数のエレベータかごと、
乗場において少なくとも1つのエレベータかごに関する安全侵害状態があることを確認し、これに応じて前記安全侵害状態が解消されるまで前記少なくとも1つのエレベータかごが前記乗場から移動するのを防ぐとともに、前記安全侵害状態が解消されるまで前記複数のエレベータかごのうちの他のエレベータかごが前記乗場へまたは前記乗場からのエレベータサービスを提供しないようにこれらのエレベータかごを制御する指示を提供する制御装置と、を有することを特徴とするエレベータ装置。
【請求項12】
ドアが開いた状態で前記乗場に位置する他のエレベータかごがあれば、このエレベータかごは前記安全侵害状態が解消されるまで前記乗場にとどまることを特徴とする請求項11記載のエレベータ装置。
【請求項13】
前記乗場に位置しない他のエレベータかごは、前記安全侵害状態が解消されるまで前記乗場への停車が防止されることを特徴とする請求項11記載のエレベータ装置。
【請求項14】
前記エレベータかごの1つとそれぞれ関連して設けられた複数の制御装置を有し、これらの制御装置は、各々の制御装置が確認された安全侵害状態の指示を受け取るように他の制御装置に指示を提供することを特徴とする請求項11記載のエレベータ装置。
【請求項15】
少なくとも1つの制御装置は、続いて、前記安全侵害状態が解消されたことの指示を他の制御装置に通信し、各々の制御装置はこれに応じて通常の運転状態に戻ることを特徴とする請求項14記載のエレベータ装置。
【請求項16】
前記乗場に設けられた少なくとも1つのホール呼び設備を有し、このホール呼び設備は、前記乗場においてエレベータサービスを要求するホール呼び機能を実行するように構成されているとともに、該ホール呼び設備のホール呼び機能は、前記乗場において確認された安全侵害状態に応じて無効となることを特徴とする請求項11記載のエレベータ装置。
【請求項17】
前記複数のエレベータかごの各々の内部に設けられたかご操作盤を有し、各々のかご操作盤のかご呼び機能は、確認された安全侵害状態において他のエレベータかごの各々において前記乗場に関するサービス呼びの登録を防ぐように無効となることを特徴とする請求項11記載のエレベータ装置。
【請求項18】
前記複数のエレベータかごのうちの選択されたエレベータかごの制御装置を選択的に無効にし、安全侵害状態において許可された人が選択されたエレベータかごを前記乗場に向かわせることを可能にする少なくとも1つのオーバーライドスイッチを有することを特徴とする請求項11記載のエレベータ装置。
【請求項19】
前記乗場における前記少なくとも1つのエレベータかごの不正アクセスを検知する少なくとも1つのセンサを有することを特徴とする請求項11記載のエレベータ装置。
【請求項20】
前記制御装置に安全侵害状態の指示を提供するように構成された手動でアクセス可能な安全装置を有することを特徴とする請求項11記載のエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−526872(P2011−526872A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516251(P2011−516251)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/068706
【国際公開番号】WO2010/002378
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】