説明

安定型産業廃棄物最終処分場からの滲出水中の毒性物質除去方法

【課題】
安定型処分場より滲出する水に溶解または分散する毒性物質を安価に除去する方法を提供する。
【解決手段】
滲出水を処理する工程が(1)滲出水のPH6〜10にあることを確定あるいは調節する工程と(2)鉄イオン濃度を調整し、これを滲出水に溶かして水酸化第2鉄コロイド粒子を発生させる工程と(3)陰イオン吸着剤や中性吸着剤で吸着処理する工程と(4)陽イオン交換性を持つろ材を用いたろ過処理工程との少なくとも4種の工程で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定型処分場より滲出する水(以降滲出水と略称)中に溶解または分散する毒性物質の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の処理及び清掃についての法律の制定以降、安定型産業廃棄物最終処分場へ埋め込み出来る廃棄物は5種類に定められている。すなわちこの処分場に埋め込み可能な廃
棄物として、廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスや陶磁器くず、建設廃材に限られている。廃掃法の平成4年執行の改定法にもとずく最終処分場の利用実績が増加するに従って数年〜10年以上 経過した処分場からは硫化水素等の有害ガスのみでなく滲出水にウラン,鉛,ヒ素、カドミウムマンガンの滲出が起りつつある。このような処理場では滲出水を調整池等で集め、この水をばつき処理,活性汚泥処理,膜分離処理を施すことによって重金層類やCOD,BOD成分の除去を試み、環境基準値以下の濃度に低下させて河川等に流入している。
【0003】
廃棄物中の毒性物質に対するこれまでの対策は固体状態にある廃棄物に対しては毒性物質を不溶化する技術、たとえば(1)硫化鉄や硫化第2鉄やカルシウム化合物を添加し
て不溶化する技術(特許文献1〜5),(2)あるPH条件に調整し、反応性物質を添加し化学反応により水不溶化に変化させる技術(特権文献6.7),(3)アルカリ性物質を添加して加熱する技術(特許文献8)があり、毒性物質を除去する技術と加熱方法がある(特許文献9,10)
一方、水中に溶解した毒性物質については吸着とろ過による技術が提案されている。(特許文献11.12)これらの技術では滲出水中の毒性物質の除去に適用しても除去効果は充分でない。たとえば滲出水中のヒ素の除去技能は水溶液のPHに依存して大きく変動する。
【0004】
【特許文献1】特開 2004−74051号
【特許文献2】特開 平成7−185034号
【特許文献3】特開 平成10−137716号
【特許文献4】特開 2001−121109号
【特許文献5】特開 2001−121131号
【特許文献6】特開 2004−89850号
【特許文献7】特開 2001−121132号
【特許文献8】特開 2003−190917号
【特許文献9】特開 2003−245642号
【特許文献10】特開 2003−200149号
【特許文献11】特開 平成7−246390号
【特許文献12】特開 2005−13976号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では安定型産業廃棄物最終処分場からの滲出水に処理対象を限定し、この滲出水中の毒性物質を除去する。この水中の毒性物質の濃度は一般に低く、また処理対象とする滲出水の量は多い。したがって多量の稀薄濃度の毒性物質の水溶液を処理するのに適した処理方法でなくてはならない。また滲出水は通常アルカリ性で(PH表示で7.5〜8.5)あり、この条件で除去しなくてはならない。また処理方法としては処分場埋立地に直接処理工程の一部を施しても問題はなく、また処理によって新たに生じるものが直接埋立地に投入できるものが望ましい。また処理に必要とする資材やエネルギーが極小化されていることが必要である。
本発明は上記の課題を解決する方法を提示することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴は安定型の産業廃棄物最終処分場で生じる滲出水を対象としてい
る点である。本来、該処分場に埋立てが許可されているのは背景技術の項で述べた5種類であり、これらの物体から毒性物質が溶出することは原理上考えにくい。しかし現象には建築廃材中の種々の無機物質、プラスチックから有機可塑剤、たとえばゴム負腹部より無生地有機物質である添加剤等が酸性雨等によって溶出するまた石こうや硫酸塩や有機物の存在により還元雰囲気下では微生物により硫化水素が発生する。これらの特性を考慮して本発明方法の有効性が発揮される。たとえば滲出水はアルカリ側にありPH表示で7.5
〜9.0で埋立した土中ではPHが11になる場合もある。アルカリ性であることを考慮した処理方法である。また滲出水中には多種類の陽イオンと陰イオンとが共存しているため、一種類の吸着剤処理では毒性物質の濃度を環境基準以下にすることがむつかしく複数の処理工程が必要である。
【0007】
本発明の第2の特徴は処理剤の水溶液のPHを5〜10に調整する点にある。滲出水のPHがこの範囲であれば特別な添加剤を加えたり調整する必要なくそのまま滲出水を用いる。もしPH<5であれば炭酸カルシウム,生石灰あるいは苛性ソーダあるいは消石灰を加えてPHを5以上にする。PH>10であれば塩化第2鉄等の塩酸塩または塩酸を加えてPHを10以下にする。次の工程を考慮し、さらにこの処理によって生じる化合物を処分場へ埋立てることが可能にするために硫酸塩または硫酸によるPH調整はさけるべきである。PH<5では次の工程である鉄イオン濃度を高めてもコロイド粒子が形成しにくく、また水中に溶解している鉄イオン濃度を高くなり、鉄イオンは最終工程まで高濃度で存在することになる。一方PH>10では水酸化鉄コロイド粒子の陰イオン吸着性が消失し、特にAsO3イオンを吸着しなくなる。
【0008】
本発明の第3の特徴は所定濃度鉄イオンを添加し、水酸化鉄エロイドを作製する点にある。生成した水酸化鉄コロイドによって滲出水中の陰イオンは吸着し、沈殿となる。この際鉄イオンとして第3価の鉄イオンであれば水酸化鉄エロイドの発生量が多く好ましい。第2価の鉄イオンの場合、溶存する酵素によって徐々に酸化され、その結果徐々に水酸化鉄コロイド粒子は発生するので、該コロイド粒子を水溶液全体で均等に発生させる目的の場合には好ましいが次の処理ことができる。工程への時間が短い場合には第3価の鉄イオンがコロイドを多量に発生させる点で優れる。爆気処理で溶解する2価の鉄イオンを3価にすることができる。除去対象としてヒ素の場合には鉄イオンとしては塩化第二鉄あるいは塩化第一鉄の水溶液を用いると生成した水酸化鉄コロイド粒子は正に荷電し、陰イオン状態にあるヒ素の化合物を吸着しつつ沈殿するのでPH5〜10の範囲内でのヒ素の除去が容易となる。塩化第二鉄を添加する前の溶液のPHが7〜10で、添加後PHが5〜7になるのが陰イオン吸着のためには好ましい。
【0009】
本発明の第4の特徴は陰イオン吸着性を持つ吸着剤と有機性物質を吸着する中性吸着剤による吸着処理工程を持つ点である。陰イオン吸着性の吸着剤は水溶液のPHが6以下では一般に有効に機能すると考えられているか、特に前記の第3の特徴を持つ系ではPHが6〜10の範囲でも吸着性を保持している。中性吸着剤の例として活性炭があり、この吸着剤はPHとして4〜12の広い範囲で有機物の吸着性が優れる。処理後の吸着剤も処分場に埋立てられる点と安価である点から粘土系の吸着剤あるいは活性アルミナが好ましい。粘土系の吸着剤として特に活性白土,酸性白土,セピオライト,アタバルジャイトおよびこれらの混合物が陰イオン吸着性に優れる。
【0010】
本発明の第5の特徴は陽イオン交換性を持つろ材でのろ過工程を持つ点にある。このろ材によって大きな径をもつ沈殿物や分散粒子のみならず吸着剤や正に荷電している小粒子も除去できる。特に水酸化鉄コロイド粒子の除去およびPH>7の条件下での重金属陽イオンの除去に効果を示す。これらの機能を持ち安価でかつ取扱いが容易な素材として酸化処理した再生セルロース不織布特に長繊維不織布が良い。PH<7の場合にはナイロン不織布を併用する。。陽イオン交換機能を消失し、かつ目詰りした不織布は焼却あるいは酸処理により再生利用も容易である。特に長繊維でかつ接着剤を使用していない銅安法再生セルロース不織布が適しており、酸化処理によってイオン交換容量が0.1〜1ミリ当量/gの範囲の酸化処理物が良い。0.1ミリ当量/g以下の交換容量では吸着性能が不十分であり1ミリ当量/を超えると不織布の力学的性質が著しく低下する。
【0011】
特徴第2〜第5のそれぞれの工程のすべてが常に必要と考えるべきではない。滲出水の性質が明らかであれば、一部の工程を省略することも可能である。たとえば滲出水のPHが既に6〜10の範囲内にあればPH調整工程は不要である。またたとえば埋立てた土の中に鉄イオンをあらかじめ散布していれば鉄イオンの添加量はわずかで良い。また陰イオン吸着性の吸着剤を埋立て時に混入させてあれば該吸着剤での処理は必ずしも必要ではない。ただしそれぞれの工程の順序についてはPH調整工程の後に鉄イオン添加工程が、あるいはその逆順の工程を先に実施し、その後に(3)工程を、この工程の後にろ過工程がくるような工程の組立てが、ろ液の清浄度および毒性物質除去性能から望ましい。さらに陰イオン吸着性吸着剤による吸着処理工程は鉄イオン添加後、水酸化鉄コロイド粒子の生成後におくのが特に除去すべき毒性物質としてヒ素が含まれる場合望ましい。滲出水中には2価の鉄イオンが含まれる場合が多い。この場合には(2)工程あるいは(1)工程の中に爆気処理を加え鉄イオンをすべて3価に酸化させることにより最終の放出水中の鉄イオン濃度を極小化できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1の方法により、安定型産廃最終処分場を悩ます滲出水中の毒性物質を安価に確実に除去できる。しかも本方法で利用した吸着剤等の処理物質はそのまま最終処分場の土として安定な形での処分あるいは焼却処分も可能である。請求項第2項の方法
では上記の効果をさらに強め、特に毒性物質として陰イオン性のヒ素にも効果がある。PHが7以上のアルカリ性の水溶液に対しても鉄イオンから生じる水酸化鉄コロイド粒子が
陰イオンと結合し、さらに沈殿して毒性物質を水に不溶化する。請求項第3項の方法により、より安価に除去性能も高まる。請求項4項の方法により処理後の水溶液中からヒ素を
ほぼ検出限界以下まで低下させることができる。また溶解している鉄イオンをすべて3価に酸化していれば溶解している3価の鉄イオン量もPH=6においても1ppm以下にすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に本発明方法実施する際の典型的な形態を示す。液中のBODやCODの成分を除去するのに活性炭が通常用いられる。図1には活性炭を併用している場合について、本発明方法を実施について示す。貯留槽を大きく3つの部分で分け、滲出水の流入口付近を1,流出口を3,そのほかの部分を2で示している。滲出水が流入口4より貯留槽内に入る滲出水のPHが5〜10の間にあればPH調整は必要ない。もし該PHが5未満であれば苛性ソーダあるいは生石灰等のアルカリ水溶液を注入口6よりも一定量注ぎ、PHをほぼ8付近にする。逆にPHが10を超えておれば酸を注入する。2も槽内には注入口7を通して塩化第2鉄の1重量%の水溶液を散布する。この際塩化第2鉄の散布量としては1×10−2重量%になるように散布液量を調整する。散布後の水溶液のPHは約6である。水酸化鉄のコロイド粒子が発生し、これらの粒子が次第に沈殿する。槽3の溶液中はほとんど水酸化鉄粒子は存在していない。槽3中の水溶液をポンプ8により吸着処理槽Bへ下部より入る。
【0014】
吸着処理槽Bの下部には砕石11が積み重なり,その上部に種々の吸着剤の混合物12を充填している。吸着剤として活性炭,活性白土,セピオライトあるいは活性アルミナ等の混合物を用いる。混合組成は滲出水の組成によって考える。CODやBODが高い場合には活性炭の比率を高める。毒性の金属イオンが正荷電を持つことが予測されれば活性白土や酸性白土の比率を高める。吸着層12の上部には酸化処理再生セルロース不織布13を設置し、液中の吸着剤あるいは重金属陽イオン成分を吸着除去する。該再生セルロース不織布の陽イオンと交換容量としては0.3ミリ当量/gで再生セルロースとしては長繊維銅安法再生セルロースである。ナイロン系の不織布を併用し酸性となった場合の水溶液中での重金属の陰イオンを吸着させる。
【実施例】
【0015】
酸化ヒ素AS2O3を水に溶解しヒ素濃度0.071ppmの25℃水溶液を作成した。この水溶液のPHは7.10であった。この水溶液に苛性ソーダ水溶液を加えPH=10.0に調整した。この水溶液中に塩化第2鉄水溶液(濃度1重量%)を加えて塩化第2鉄濃度として100ppmにするとPHは6.5となり水酸化第2鉄のコロイド粒子が多量に発生する。該コロイド粒子を含む水溶液を酸化処理して陽イオン交換容量0.1ミリ当量/gのベンベルグ不織布(目付け100g/平方メートル)を用いて膜間差圧0.02気圧下でろ過する。ろ液は透明でコロイド粒子はほとんど見当たらない。ろ液のPHは7.0でろ液中のヒ素濃度は検出限界以下(0.0〜0.5ppm)であった。
(比較例)
【0016】
実施例において採用した硫化ヒ素の水溶液のPHを苛性ソーダを用いて12.0に調整した。該水溶液に対する処理条件を実施例と同様にした際に得られた水溶液中のヒ素濃度は0.067PPmであった。また比較例と同様の実験で吸着剤のみを活性炭あるいは活性白土にした場合の水溶液中のヒ素濃度はそれぞれ0.028ppmあるいは0.043ppmであった。この比較例によりPHの制御が重要であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を実施する際の典型的な装置である。
【符号の説明】
【0018】
A;調整池または貯留槽,B;吸着処理用タンク
1;滲出水の入口部でPH調整用部屋,2;塩化第2鉄水溶液を散布後の沈殿作成部屋,3;吸着処理用部屋,入口4;滲出水入口,5;滲出水出口,6;PH調整用溶剤注入口,7;塩化第2鉄水溶液散布口,8;3中の水溶液を吸着処理用タンクへ輸送するための送液ポンプ,9;吸着処理用タンクへの流入用チューブおよび該タンクからの流出チューブ,10;不織布の支持体(メッシュ),11;砕石(バラス),12;吸着剤,13;酸化処理再生セルロース不織布



【特許請求の範囲】
【請求項1】
滲出水の処理により滲出水中の毒性物質を除去する工程において(1)滲出水のPHが5を越えかつ10未満の水溶液であることを調節する工程と,(2)鉄イオン濃度を調整し、これを滲出水に添加し水酸化鉄コロイドを作製する工程と,(3)陰イオン吸着性吸着剤あるいは中性の吸着剤による吸着処理工程と,(4)陽イオン交換性を有するろ材でろ過する工程で構成されることを特徴とする滲出水中の毒性物質の除去方法。
【請求項2】
特許請求の範囲第1項において鉄イオンとしては第3価の鉄イオンであり、吸着剤とし
て粘土系吸着剤,活性アルミナと中性吸着剤であり、ろ材として酸化処理した再生セルロース不織布またはナイロン系不織布であることを特徴とする毒性物質の除去方法。
【請求項3】
第1及び第2項において工程の順序として(1)及び(2)工程の後に(3)工程で最終的に(4)工程の順で処理することを特徴とする毒性物質の除去方法。
【請求項4】
第1,第2,及び第3項において除去すべき毒性物質がヒ素である場合、鉄イオンは塩化第二鉄,塩化第一鉄の水溶液で調整し、吸着剤として活性白土,酸性白土,セピオライト,アメバルンライト、活性炭単独またはそれらの混合物であり、陽イオン交換性を持つろ材としてイオン交換容量0.1ミリ当量/g〜1ミリ当量/gの酸化処理した銅安法再生セルロース不織布であることを特徴とする毒性物質の除去方法



【図1】
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【公開番号】特開2007−21350(P2007−21350A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206288(P2005−206288)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(501367200)
【Fターム(参考)】