説明

容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法

【課題】 缶内容物充填後のレトルト熱殺菌処理時において,フィルムおよび着色接着剤の変色が生じず,外観の意匠性を維持することが可能な容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る容器用着色ラミネート金属板は,金属板10の片面または両面に,着色接着剤層22と,ポリエステル樹脂フィルム24を順次積層した複層樹脂フィルム20を被覆してなる容器用着色ラミネート金属板である。着色接着剤層22は,エポキシ樹脂を主成分とし,さらに,着色剤,高エーテル化アミノ樹脂およびブロックイソシアネート化合物を含む。ポリエステル樹脂フィルム24は,125℃における半結晶化時間が100秒以下であるポリエステル樹脂を主成分とし,ラミネート後フィルム外表面に複屈折0.04以上の領域が厚み方向に5μm以上存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法に関し,特に,平滑かつ光輝色の外観を有し,意匠性に優れる容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の容器用金属缶には塗装金属板が用いられていたが,塗装工程は複雑で生産性が低いばかりでなく,多量の溶剤を排出する問題があるため,最近では,熱可塑性樹脂フィルムを加熱した金属板に熱圧着させたラミネート金属板が用いられている。特に,ポリエステル樹脂フィルムラミネート金属板は,優れた経済性,食品衛生性および熱融着特性を有することから広く用いられるようになってきている。
【0003】
ところで,従来の塗装金属板を用いた缶詰などの容器用金属板は,母材である金属板の暗い色調を嫌って,ゴールドや白色等の塗装をし,意匠性を付与することが行われている。しかし,これらをラミネート金属板で代替しようとする場合には,顔料などの着色剤をラミネートフィルムに配合させることが困難である,という問題がある。
【0004】
ラミネートフィルムを着色する方法としては,フィルム樹脂中に顔料などの着色剤を添加して着色フィルムを製造する方法と,クリアーフィルムの後加工として着色剤を塗布して着色層を形成する方法とがある。ただし,前者のフィルム樹脂中に着色剤を添加する方法では,着色した原料樹脂の製造コストアップ,フィルム製造工程での色替えロスによる製造負担により,フィルム製造コストが大幅に上昇する。したがって,後者のクリアーフィルムの後加工として着色層を形成する方法が有利である。
【0005】
ラミネートフィルムの後加工として着色層を形成する方法には2種類の方法が考えられる。第1の方法は,着色層を最表層に設ける方法である。この場合には,顔料の剥離や色落ちなどの問題が発生する。一方,第2の方法は,フィルムと金属板との間に着色層を設ける方法である。第2の方法の場合には,通常,接着剤層中に着色剤を含有させて着色接着剤層を形成する。この方法によれば,フィルムと金属板との間に接着剤層を兼ねた着色層を設けることにより,製造工程を一部省略して製造コストを削減し,生産性を向上させることができる(例えば,特許文献1〜5を参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−256247号公報
【特許文献2】特開平4−266984号公報
【特許文献3】特開平8−199147号公報
【特許文献4】特開平10−183095号公報
【特許文献5】特開2002−206079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,上記特許文献1〜5に記載の接着剤層やフィルムを用いた場合は,缶内容物充填後のレトルト熱殺菌処理時に,接着剤やポリエステル樹脂フィルムが変色するレトルトブラッシングが発生するという問題があった。そのため,加工されたラミネート金属板は,意匠性の優れた外観を得ることができなかった。
【0008】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,缶内容物充填後のレトルト熱殺菌処理時において,フィルムおよび着色接着剤のレトルトブラッシングが生じず,外観の意匠性を維持することが可能な,新規かつ改良された容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ところで,着色接着剤のレトルトブラッシングは,従来の接着剤の硬化反応の速度が遅いため,ラミネート金属板製造において接着剤の熱硬化が不十分となり,缶内容物充填後のレトルト熱殺菌処理時に接着剤硬化反応が起こることによって発生すると考えられている。また,ポリエステル樹脂フィルムのレトルトブラッシングは,その結晶化速度が遅いことに起因することが知られている。さらに,外観の意匠性はラミネートロールの汚れや傷による凹凸が,ラミネート後フィルムに転写することによっても損なわれる。
【0010】
そこで,本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果,ラミネート工程での着色接着剤の硬化を促進させるとともに,フィルムとして結晶化速度の速いポリエステル樹脂を用いることで,着色接着剤およびフィルムのレトルトブラッシングを防止できることを見出した。
【0011】
さらに,ラミネート後のポリエステル樹脂フィルムには,複屈折が0.04以上であるポリエステル二軸配向結晶が多く存在する領域を,フィルム外表面から厚み方向に5μm以上存在させることにより硬いスキン層を形成させ,フィルム表面のラミネートロールの汚れや傷に対する転写耐性を改善でき,外観の意匠性を著しく向上させることができることを見出した。
【0012】
本発明は,上記知見に基づき完成されたものであり,本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)金属板の片面または両面に,着色接着剤層とポリエステル樹脂フィルムとを積層した複層樹脂フィルムを被覆してなる容器用着色ラミネート金属板であって,前記着色接着剤層は,エポキシ樹脂を主成分とし,さらに,着色剤,高エーテル化アミノ樹脂およびブロックイソシアネート化合物を含み,前記ポリエステル樹脂フィルムは,125℃における半結晶化時間が100秒以下であるポリエステル樹脂を主成分とすることを特徴とする,容器用着色ラミネート金属板。
(2)前記容器用着色ラミネート金属板のポリエステル樹脂フィルムには,複屈折が0.04以上である領域がフィルム外表面から厚み方向に5μm以上存在することを特徴とする,(1)に記載の容器用着色ラミネート金属板。
(3)前記ポリエステル樹脂は,エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂とからなることを特徴とする,(1)または(2)に記載の容器用着色ラミネート金属板。
(4)前記エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,前記ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂とは,80:20〜30:70の質量比で混合されていることを特徴とする,(3)に記載の容器用着色ラミネート金属板。
(5)前記ポリエステル樹脂フィルムの厚みは,8〜30μmであることを特徴とする,(1)〜(4)のいずれかに記載の容器用着色ラミネート金属板。
(6)前記着色接着剤層の前記エポキシ樹脂の数平均分子量が2000〜6000であることを特徴とする,(1)〜(5)のいずれかに記載の容器用着色ラミネートフィルム金属板。
(7)前記着色接着剤層は,前記エポキシ樹脂100質量部に対して,前記高エーテルアミノ樹脂を1〜10質量部,前記ブロックイソシアネート化合物を1〜10質量部を含有することを特徴とする,(1)〜(6)のいずれかに記載の容器用着色ラミネート金属板。
(8)前記着色接着剤層は,リン酸変性化合物とブロックフリーイソシアネート化合物のいずれか一方または双方をさらに含有することを特徴とする,(1)〜(7)のいずれかに記載の容器用着色ラミネート金属板。
(9)金属板の片面または両面に,ラミネートロールを用いて樹脂フィルムを熱圧着させるラミネート工程を含む容器用着色ラミネート金属板の製造方法において,前記樹脂フィルムは,(a)着色剤を含有する着色接着剤層と,(b)エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂との混合物を主成分とするポリエステル樹脂フィルムを積層した複層樹脂フィルムであり,前記ラミネート工程は,(A)前記ラミネートロール通過中の前記複層樹脂フィルムの前記金属板との接着面の温度を,前記ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂の融点以上の温度とし,かつ,前記ラミネートロールによる熱圧着時間を10〜80ミリ秒間とする条件で,前記複層樹脂フィルムの前記着色接着剤層側の面を前記金属板に熱圧着させる工程と,(B)前記ラミネートロール通過後の前記金属板の温度150℃以上で0.5〜30秒間熱処理する工程と,を含むことを特徴とする,容器用着色ラミネート金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,缶内容物充填後のレトルト熱殺菌処理時において,着色接着剤およびポリエステル樹脂フィルムのレトルトブラッシングを防止でき,外観の意匠性を維持することが可能な,容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法を提供することができる。
【0014】
また,本発明によれば,ラミネートロールの汚染や傷などにより,表面が荒れたラミネートロールの凹凸が,ラミネート後のフィルム表面に転写せず,平滑性を維持することが可能な,容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法を提供することができる。
【0015】
なお,本発明に係る容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法によれば,製缶材料として,優れたフィルム密着性,耐熱性,耐水性および経時安定性を保持することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
本発明に係る容器用着色ラミネート金属板は,金属板の片面または両面に,着色接着剤層とポリエステル樹脂フィルムとを積層した複層樹脂フィルムを被覆してなる。この複層樹脂フィルムにおいて,着色接着剤層は,エポキシ樹脂を主成分とし,さらに,着色剤,高エーテル化アミノ樹脂およびブロックイソシアネート化合物を含み,ポリエステル樹脂フィルムは,125℃における半結晶化時間が100秒以下であるポリエステル樹脂を主成分とする。
【0018】
基板となる金属板としては,缶用材料として広く使用されているアルミニウム板,軟鋼板,めっき鋼板等を用いることができ,特に,金属クロムとクロム水和酸化物とからなる表面処理鋼板,いわゆるTFS(Tin Free Steel)が最適である。TFSの金属クロム,クロム水和酸化物の付着量については,特に限定するものではないが,加工後の密着性や耐食性の点から,クロム換算で金属クロムを40〜500mg/m,クロム水和酸化物を8〜20mg/mの範囲で含むことが好ましい。
【0019】
(着色接着剤の構成)
一般に,缶用途では,意匠性も重要な要求特性となり,缶外面の色としては金色等の光輝色が好まれる傾向にある。金色等の光輝色は,光沢のある金属板上に,黄色顔料,赤色顔料で着色した透明フィルムをラミネートすることにより得られる。また,金色等の光輝色は,レトルト殺菌処理後にも変色しないことが要求される。
【0020】
しかし,上述したように,着色接着剤はレトルト処理で変色するレトルトブラッシングの問題が発生する場合がある。本発明者らは,この理由は,着色接着剤が,ラミネート工程での短時間熱処理では硬化が不十分であり,レトルト熱処理でも硬化反応が発生するためと考えている。すなわち,金色に着色された接着剤のレトルトブラッシングは,接着剤が残留溶剤および水分を含んだ状態で硬化したため,硬化接着剤層が部分的かつ不均一に膨張し,濁った褐色に変色したものと考えている。
【0021】
そこで,本発明に係る容器用着色ラミネート鋼板においては,着色接着剤のレトルトブラッシング対策として,上記着色接着剤層に含まれる接着剤として,ラミネート工程での短時間熱処理で硬化促進が可能な接着剤組成を採用している。
【0022】
以下,着色接着剤層について説明する。本発明に係る着色接着剤層の組成は,特定の数平均分子量を有するエポキシ樹脂,高エーテルアミノ樹脂,ブロックイソシアネート化合物を特定の配合比率で調整することにより,ラミネート工程での短時間の熱処理で硬化を促進させ,密着性,耐水性(耐レトルトブラッシング性),耐熱性,経時安定性および耐久性を発現させている。以下に,詳細に説明する。
【0023】
エポキシ樹脂は,例えば,数平均分子量2000〜6000のビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。特に,ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に使用できる。上記条件に当てはまるエポキシ樹脂として,商品名エピコート1007,エピコート1009,エピコート1010,EXA8435等がある。数種のエポキシ樹脂をその数平均分子量が2000〜6000となるように組み合わせて使用することはなんら差し支えない。詳細に説明すると,本発明に用いるエポキシ樹脂はビスフェノールA型ジグリシジルエーテル樹脂であり,リン酸系触媒またはアミノ系触媒など,酸またはアルカリ触媒の存在下で重合して得られる,分岐が少ないエポキシ樹脂が望ましい。また,ビスフェノールA型エポキシ樹脂をダイマー酸等で変性することも可能である。
【0024】
このエポキシ樹脂の数平均分子量が2000未満の場合は,ラミネート時の熱だけでは熱硬化が不十分であり,密着強度が弱く,熱水との接触に際して容易に密着界面で剥離する。数平均分子量が6000を超える場合は,接着剤としての物性は発現するが,接着剤粘度が高くなるため,フィルムへの塗布性能に問題がある。
【0025】
高エーテル化アミノ樹脂としては,完全アルキル型メラミン樹脂,完全アルキル型ベンゾグアナミン樹脂が好適に使用できる。好ましくは高度にメチル化されたヘキサメトキシメチル化メラミン樹脂が用いられる。入手可能な市販品としては,スーパーベッカミンL−105−60(大日本インキ化学製),サイメル303(三井サイテック製),サイメル300(三井サイテック製)等が挙げられる。
【0026】
数平均分子量2000〜6000のエポキシ樹脂100質量部に対する高エーテル化アミノ樹脂の配合量は1〜10質量部であることが好ましい。高エーテル化アミノ樹脂が1質量部未満の場合は,熱硬化反応が遅くなるため,ラミネート工程の熱処理だけでは十分な硬化反応が進行せず,接着剤のレトルトブラッシングが発生する場合がある。10質量部よりも多い場合は,熱硬化反応は十分に速くなるが,接着剤内部の応力が増大するため加工時の密着性が低下する。
【0027】
ブロックイソシアネート化合物としては,例えば,ヘキサメチレンジイソシアネート,イソプロピレンジイソシアネート,メチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物,イソホロンジイソシアネート,メチルシクロヘキサンジイソシアネート,リジンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート化合物,トリレンジイソシアネート,1,5−ナフチレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0028】
本発明に用いるイソシアネート化合物としては,上記の1種または2種以上のイソシアネートより得られる化合物(2量体,3量体,アダクト,ビューレット,プレポリマー等)も含まれる。
【0029】
特に,これらのイソシアネート化合物の中で,本発明に好適に用いられるものとしては,脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート化合物が適しており,さらにヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネートを特に好ましく用いることができる。
【0030】
ブロックイソシアネート化合物は,熱硬化反応にも寄与できるが,高エーテル化アミノ樹脂と併用した場合に硬化時の内部応力を低減させる効果がある。
【0031】
また,数平均分子量2000〜6000のエポキシ樹脂100質量部に対するブロックイソシアネート化合物の配合量は1〜10質量部であることが好ましい。ブロックイソシアネート化合物が1質量部よりも少ない場合は熱硬化が遅くなるだけでなく,加工性が低下する傾向にある。10質量部よりも多い場合では硬化過剰になり,やはり加工性が低下する。
【0032】
また,硬化を促進させるために各種公知の触媒を併用することができる。イソシアネート化合物の硬化触媒としては,ジブチルスズジラウレート,ジブチルスズジクロリド等の各種有機スズ化合物類,トリエチレンジアミン,トリエチルアミン等の各種アミン類が挙げられる。高エーテル化アミノ樹脂の硬化触媒としては,ドデシルベンゼンスルホン酸,パラトルエンスルホン酸等の酸触媒を用いることが望ましい。
【0033】
また,本発明に係る着色接着剤層には,リン酸変性化合物をさらに含んでいてもよい。かかるリン酸変性化合物としては,エポキシ樹脂をリン酸変性した化合物,エステル化合物等をリン酸変性した化合物を使用することができる。また,数平均分子量2000〜6000のエポキシ樹脂100質量部に対するリン酸変性化合物の配合量は0.1〜20質量部であることが好ましい。リン酸変性化合物の添加により金属板への接着力が大きく向上し,耐熱性,耐水性,硬化性,顔料分散性も向上させることができる。添加量0.1質量部より少ない場合は,上記性能の発現が小さく,20質量部よりも多い場合には接着剤全体の分子量低下に伴い,ラミネート時に接着剤内部で凝集破壊が起こり,密着強度が得られない場合がある。
【0034】
また,本発明に係る着色接着剤層には,上記組成の他にブロックフリーイソシアネート化合物を添加することができる。ブロックフリーイソシアネート化合物としては,ヘキサメチレンジイソシアネート,イソプロピレンジイソシアネート,メチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物,イソホロンジイソシアネート,メチルシクロヘキサンジイソシアネート,リジンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート化合物,トリレンジイソシアネート,1,5−ナフチレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物などが挙げられる。このうち,ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネートを特に好ましく用いることができる。
【0035】
ブロックフリーイソシアネート化合物は常温にて硬化が起こり,ラミネート前に接着剤を予備硬化させるために,ラミネート時の接着剤硬化を向上させることが可能である。
【0036】
ブロックフリーイソシアネート化合物は,数平均分子量が2000〜6000のエポキシ樹脂,高エーテルアミノ樹脂,ブロックイソシアネート化合物,リン酸変性化合物からなる着色接着剤の100質量部に対して,0.5〜20質量部の範囲で添加することが好ましい。0.5質量部未満では,常温硬化不足で分子量が上がらず,ラミネート時に接着剤内部で凝集破壊が起こり,接着強度が得られない場合があり,20質量部超では,常温硬化が進みすぎて,ラミネート時の接着剤流動が悪くなることによる密着強度低下が懸念されるため,好ましくない。
【0037】
本発明に係る着色接着剤層は,ポリエステル樹脂フィルムの着色のために使用するものであり,接着剤中に顔料を添加,分散して用いる。
【0038】
顔料には,無機顔料と有機顔料とがあるが,一般的に,無機顔料は,隠ぺい力および耐候性に優れるが,着色力に劣り,有機顔料は,着色力や鮮明な色味に優れるが,隠ぺい力および耐候性が比較的劣る傾向を有する。
【0039】
無機顔料としては,例えば,二酸化チタン,亜鉛華等の白色顔料,カーボンブラック,黒鉛等の黒色顔料,黄鉛,酸化鉄黄等の黄色顔料,鉛丹,べんがら等の赤色顔料,紺青,群青等の青色顔料,酸化クロム緑等の緑色顔料,アルミニウム・フレーク,マイカ・フレーク等のメタリック顔料などが挙げられる。
【0040】
有機顔料としては,例えば,黄色,赤色のアゾ系有機顔料,キナクリドン系有機顔料,青色,緑色のフタロシアニン系有機顔料等が挙げられる。
【0041】
缶詰用途においては,母材の金属板の暗い色調を嫌って金色や,清潔感を与える白色が好まれる。金色は,黄色,赤色のアゾ系有機顔料を添加した透明性の優れた着色接着剤を,ポリエステル樹脂フィルムに塗布し,下地金属板の光沢に重ね合わせることにより得られる。白色は,着色力および隠ぺい力に優れる二酸化チタンを添加した着色接着剤を用いることが好ましい。
【0042】
着色剤の添加は,着色ニーズに応じて任意に処方するが,本発明では,ラミネート工程での接着剤硬化によるレトルトブラッシング耐性を目的とするため,ポリエステル樹脂フィルムへの接着剤塗布量を必要最低限とし,硬化時間の削減を図る必要がある。そのため,着色剤の分散性,フィルムへの塗布性能を考慮した上で,着色剤添加濃度を最大とするように調整する。
【0043】
着色接着剤の塗布量は,0.5〜20.0g/mの範囲が好ましい。0.5g/m未満の場合は,フィルム表面を均一塗布することが困難となり,20.0g/mを超えると塗布工程での溶剤除去に時間を要し,生産性が著しく低下する。
【0044】
着色接着剤には,塗布後フィルムの対ブロッキング性,ハンドリング性を改善するために,シリカ,硫酸バリウム等の無機滑剤を添加することが好ましい。
【0045】
(ポリエステル樹脂フィルムの構成)
次に,缶内容物充填後のレトルト処理によっても優れた表面光沢と,高い透明度を保持する本発明に係るポリエステル樹脂フィルムについて説明する。
【0046】
ポリエステル樹脂フィルムが被覆された容器用着色フィルムラミネート金属板は,その缶体に内容物を充填した後に行われるレトルト熱処理において缶外面が変色するレトルトブラッシングが発生する場合がある。この現象は,金属板とのラミネートで融解したポリエステル分子が不均一に再結晶化して白濁するものである。
【0047】
本発明に係る容器用着色ラミネート金属板は,このレトルトブラッシングと,表面が荒れたラミネートロールの凹凸がラミネートされたフィルム表面に転写して外観不良を引き起こす問題を併せて解決する。
【0048】
上記ポリエステル樹脂としては,125℃における半結晶化時間が100秒以下であるポリエステル樹脂を主成分として用いる。このように,半結晶化時間を100秒以下とすることにより,125℃近傍の温度で行われるレトルト熱処理中にフィルム中のポリエステル融解分子が高速で微細結晶化して,色調を均一化するため,部分白濁のレトルトブラッシングを防止することができる。なお,ポリエステル樹脂の半結晶化時間は,融解分子の再結晶に要する時間を示し,半結晶化時間が短くなるほど結晶化速度が速くなることを示している。
【0049】
上記のような結晶化速度の速いポリエステル樹脂としては,例えば,エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂とからなる複合ポリエステル樹脂を主成分として使用することができる。
【0050】
これらのポリエステル樹脂は,化学構造が類似していることにより相溶性が良く,融点差が約30℃のため,酸化劣化が問題とならない温度で融解させ,微細かつ均一に混ざり合ったポリマーアロイとすることができる。
【0051】
また,上記ポリエステル樹脂の結晶化時間は,エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂とからなる複合ポリエステル樹脂の配合比を変化させることにより調節可能である。
【0052】
具体的には,ブチレンテレフタレートの比率を多くすると結晶化時間は速くなるが,エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂との配合比は,質量比で80:20〜30:70の範囲にするのが望ましい。
【0053】
その理由は,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂の配合比が80:20未満では,結晶化速度が遅くなるためレトルトブラッシングが発生し,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂の配合比が30:70を超えると二軸延伸フィルムの製膜が困難となるからである。
【0054】
また,本発明に係る容器用着色ラミネート金属板は,ラミネート後のポリエステル樹脂フィルムに,複屈折が0.04以上であるポリエステル二軸配向結晶が多く存在する領域を,フィルム外表面から厚み方向に5μm以上存在させることにより,硬いスキン層形成させ,フィルム表面のラミネートロールの汚れや傷に対する転写耐性を改善し,外観の意匠性を著しく向上させている。
【0055】
ラミネート後のポリエステル樹脂フィルムの複屈折0.04以上である領域が5μm未満では,ラミネート時のフィルム表面硬度が不足し,ラミロールの汚れや傷がフィルム表面に転写することによる外観不良が発生するため,好ましくない。
【0056】
一方,上述したように,本発明に係る着色接着剤層は,ラミネート工程での硬化を促進させることで,レトルトブラッシングを防止している。しかし,着色接着剤層の硬化による柔軟性の低下により,着色接着剤層と金属板との間のレトルト密着性の低下が発生し,高加工率の缶用途ではレトルト密着性不良が問題となる。
【0057】
かかるレトルト密着性不良は,接着剤と金属表面との界面剥離により発生する。すなわち,ラミネート後,製缶後のフィルムには加工歪が残っており,レトルト熱衝撃により密着力の弱い接着剤層と金属表面との界面剥離が発生する。
【0058】
このような問題を防止するためには,ポリエステル樹脂の融解を促進させ,ポリエステル二軸配向結晶を崩して無配向化させることにより,フィルム伸び率を上昇させて,加工性を改善することが好ましい。具体的には,ポリエステル樹脂フィルムの複屈折が0.04未満である領域が金属板との接触界面から4μm以上とすることが好ましい。
【0059】
ポリエステル樹脂フィルムの複屈折が0.04未満である領域が金属板との接触界面から4μm未満の場合には,ポリエステル樹脂の融解が十分でなく,ポリエステル二軸配向結晶が多く残っているため,フィルム柔軟性が悪く,高加工率の缶用途ではフィルム残留歪が大きくなり,レトルト熱衝撃により接着剤層と金属表面との界面剥離が発生するため,好ましくない。
【0060】
また,上記のような複屈折0.04以上の領域と,複屈折0.04未満の領域の厚みは,熱ラミネート条件による複層樹脂フィルムの融解状態により制御することができる。すなわち,フィルムの融解を大きくすると複屈折0.04未満の領域が厚くなり,その分複屈折0.04以上の領域が薄くなる。なお,通常の熱ラミネート条件では,着色接着剤層とポリエステル樹脂フィルムとの接触界面近傍に複屈折0.04未満が4μm以上形成される。
【0061】
一般に,二軸配向ポリエステル樹脂フィルムは,光学的に等方性ではなく,複屈折性を示す。上記ポリエステル樹脂フィルムの厚み方向の複屈折の値は,偏光顕微鏡を用いて,ラミネート金属板の金属板を除去した後のフィルム厚み方向のレタデーションを測定して求めることができる。
【0062】
直線偏光を二軸配向ポリエステル樹脂フィルムに入射すると,2つの主屈折率方向の直線偏光に分解され,高屈折率方向の光の振動が低屈折率方向の光の振動よりも遅くなる位相差:レタデーションを生じる。フィルム通過で発生するレタデーションRと,複屈折Δnとの関係は,フィルムの厚みをdとすると,下記式(1)で表される。
【0063】
Δn=R/d ・・・(1)
【0064】
次に,レタデーションの測定方法について説明する。単色光を偏光板を通過させることにより直線偏光とし,フィルムに入射する。直線偏光は,フィルム内でレタデーションが生じ,フィルム透過後,楕円偏光となる。楕円偏光は,セナルモン型コンペンセーターを通過させることにより,最初の直線偏光の振動方向に対してθの角度をもった直線偏光となる。このθを偏光板を回転させて測定する。レタデーションRとθとの関係は,λを単色光の波長とすると,下記式(2)で表される。
【0065】
R=λ・θ/180 ・・・(2)
【0066】
よって,複屈折Δnは,上記式(1),(2)より,下記式(3)で表されることとなる。
【0067】
Δn=(θ・λ/180)/d ・・・(3)
【0068】
なお,上記では,ポリエステル樹脂として単層のものについて説明したが,本発明に係るポリエステル樹脂は,2層以上のポリエステル樹脂層が積層された複層のものであってもよい。例えば,着色接着剤層上に積層するポリエステル樹脂として,上述した125℃における半結晶化時間が100秒以下であるポリエステル樹脂を主成分とする下層と,高融点(例えば,融点245℃以上)のポリエステル樹脂を主成分とする表層とからなる複層ポリエステル樹脂を使用しても良い。
【0069】
このような高融点のポリエステル樹脂を主成分とする表層は,熱ラミネート時に融解せず,二軸配向結晶を保持するための硬質であり,ラミネートロールの汚染や傷によるラミネートロール表面の凹凸が転写されない硬いスキン層の役割を果たす。したがって,このような表層を設けることにより,ラミネート後の平滑性による良好な外観を得ることができ,また,熱ラミネート時に融解しないことから,ラミネート操業の安定化をもたらすことができる。
【0070】
ただし,このように高融点ポリエステル樹脂を主成分とする表層を設けた場合には,表層の高融点ポリエステル樹脂の残留応力によってレトルト密着性が著しく低下してしまうため,下層に,上述したように,複屈折が0.04未満である領域が下層と着色接着剤層との界面から厚み方向に4μm以上存在するようにすることが好ましい。
【0071】
(ポリエステル樹脂の膜厚の説明)
ポリエステル樹脂フィルムの厚みは,容器外面の適用環境に応じて適宜設定するが,8〜30μmであることが好ましい。ポリエステル樹脂フィルムの厚みが8μm未満ではフィルムの生産性が低下し,またラミネート後の複屈折0.04以上の表面領域5μmを確保することが困難となり,ラミロール転写による外観不良が発生するため,好ましくない。フィルム厚みが30μmを超えると,原料コストが上昇して経済的でないばかりか,曲率の小さな曲げ加工性が悪化するため,好ましくない。
【0072】
また,ポリエステル樹脂には,必要に応じて,滑剤,酸化防止剤,熱安定化剤,紫外線吸収剤,可塑剤,帯電防止剤,結晶角剤等を配合してもよい。
【0073】
(ポリエステル樹脂フィルムの製造方法)
次に,本発明に係るポリエステル樹脂フィルムの製造方法について説明する。ポリエステル樹脂フィルムは,二軸延伸フィルムとして製造する。例えば,樹脂融点226〜256℃のPET(ポリエチレンテレフタレート)と220℃のPBT(ポリブチレンテレフタレート)とを混合したポリエステル樹脂を使用する場合は,これらの樹脂を押出機で融解混練してTダイでキャストフィルムとし,二軸延伸後,熱固定温度150〜210℃で熱処理して分子結晶化させ,原反フィルムを製造する。
【0074】
本発明に係る原反フィルムは,熱固定温度がポリエステル樹脂の融点より低いことが必須となる。ポリエステル樹脂の融点以上の熱固定温度で熱処理すると,基材であるポリエステル樹脂が融解するため,フィルムが製造できなくなる場合がある。
【0075】
上記ポリエステル樹脂フィルムは,缶内容物充填後のレトルト処理においても,表面平滑性,優れた表面光沢,及び高い透明性を保持することができる。本発明の金色等の光輝色を有するラミネート金属板は,このポリエステル樹脂フィルム面に着色接着剤を塗布して,高い透明性の着色フィルムとし,下地金属板の光沢に重ね合わせる事により得られる。すなわち,意匠性に優れた容器用着色ラミネート金属板を製造するためには,透明度の高いフィルムを用いることが好ましい。
【0076】
(複層樹脂フィルムの製造方法)
上述したような構成を有する着色接着剤層は,着色剤を含有する接着剤を希釈溶剤で希釈調合して,ロールコータ方式,ダイコータ方式,グラビア方式,グラビアオフセット方式,スプレー塗装方式等の塗装手段によりポリエステル樹脂フィルム面に塗布することにより形成することができる。その後,希釈溶剤を揮発,除去するために50〜180℃の温度で乾燥され,コイル状に巻き取られる。このようにして,本発明に係る複層樹脂フィルムが形成される。
【0077】
希釈溶剤としては,例えば,酢酸メチル,酢酸ブチル等のエステル系溶剤,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤,トルエン,キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤などを用いることができる。
【0078】
なお,プラスチックフィルムコータに比較して,鋼板用コータは設備費が嵩むので,接着層は鋼板に塗布するよりも,フィルムに塗布する方が有利である。本発明の着色接着剤を塗布した原反フィルムは,エポキシ樹脂の分子量,ブロックフリーイソシアネート化合物の処方と,上記塗工/乾燥条件によりタックフリーとなる様に製造されている。
【0079】
(缶内面側のフィルムの構成)
上述したように製造された複層樹脂フィルムは缶外面側に用いられるが,缶内面側に用いるフィルムの構成については任意に選択できる。例えば,ポリエステルやポリオレフィンフィルムを用い,これらのフィルムに必要に応じて滑剤,酸化防止剤,熱安定化剤,紫外線吸収剤,顔料,可塑剤,帯電防止剤,結晶角剤等を配合しても良い。
【0080】
内面フィルムを2層以上の複層フィルムとすることも可能であり,さらにフィルムの金属に接触する面に接着剤を塗布することもできる。内面フィルムの厚みは,6〜100μmが望ましく,その厚みの下限は缶内容物に対する耐食性により制約され,上限は経済性的制約を受ける。また,本発明の複層樹脂フィルムを片面にラミネートした金属板の非ラミネート面を塗装して,缶などの容器に適用することも可能である。
【0081】
(容器用着色ラミネート金属板の製造方法)
次に,図1に基づいて,本発明に係る容器用着色ラミネート金属板の製造方法について詳細に説明する。なお,図1は,本発明に係る容器用着色ラミネート金属板の製造装置の一例の概略的な構成を示す説明図である。
【0082】
本発明に係る容器用着色ラミネート金属板の製造方法は,ポリエステル樹脂フィルムの融点を超える温度に加熱された金属板の片面または両面に,ラミネートロールを用いて樹脂フィルムを熱圧着させるラミネート工程を含む。
【0083】
ここで,上記樹脂フィルムは,図1に示すような,着色剤を含有する着色接着剤層22と,エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂との混合物を主成分とするポリエステル樹脂フィルム24を積層した複層樹脂フィルム20である。
【0084】
上記ラミネート工程は,図1に示すように,金属板10をポリエステル樹脂24の融点を超える温度に加熱し,金属板10の一方の面(缶外面となる側)からラミネートロール42を用いて複層樹脂フィルム20を,金属板10の他方の面(缶内面となる側)からラミネートロール44を用いて缶内面用フィルム30を熱圧着することによりラミネートする。また,熱圧着時のニップ幅dは,例えば70mmであり,金属板10は,これを例えば,0.03秒で通過する。さらに,ラミネートロール42,44を通過したラミネート後の金属板は,ウォータークエンチ50内で冷却される。
【0085】
また,複層樹脂フィルム20の着色接着剤層22側の面を金属板10に熱圧着してラミネートするラミネート工程は,(A)ラミネートロール42,44通過中の複層樹脂フィルム20の金属板10との接着面の温度を,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂の融点以上の温度とし,かつ,ラミネートロール42,44による熱圧着時間を10〜80ミリ秒間とする条件で,複層樹脂フィルム20の着色接着剤層22側の面を金属板10に熱圧着させる工程と,(B)ラミネートロール42,44通過後の金属板10の温度150℃以上で0.5〜30秒間熱処理する工程と,を含む。以下,条件(A),(B)について,さらに詳細に説明する。
【0086】
まず,条件(A)中,金属板10の加熱温度に関する条件は,本発明に係る複層樹脂フィルム20を金属板10に熱圧着させるために必要な条件である。金属板10をブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂の融点以上に加熱することにより,ラミネート時にフィルムが融解し流動性が増すので,フィルムを介して軟化した着色接着剤層22を金属板10の表面に濡らして,金属板10との接触面積を増大させることにより,十分な密着力を得ることができる。
【0087】
エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂とを混合した複合ポリエステル樹脂は,微細かつ均一に混ざり合ったポリマーアロイを形成しており,低融点組成のブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂が融解することにより,樹脂が流動性を持つようになるため,良好な密着力を得ることができる。
【0088】
一方,ラミネートロール42,44通過中の金属板10の温度が,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂の融点未満である場合には,フィルムの融解が不十分となるため,金属板10の表面にフィルムを十分に濡らすことができず,密着力が不十分となる。
【0089】
なお,金属板10の加熱方法は,特に限定されず,例えば,熱風循環伝熱方式,抵抗加熱方式,ヒートロール伝熱方式,誘導加熱方式など,公知の方法を用いることができる。
【0090】
また,ラミネートロール42,44は冷却されており,その表面にポリエステル樹脂フィルムの表面(外表面)が接触することにより,フィルム外表面までの過融解を防止している。
【0091】
次に,条件(A)中,熱圧着時間に関する条件は,本発明に係る複層ポリエステル樹脂フィルム20の金属板10への十分な密着力を得るための必要条件である。圧着時間を10〜80msecとしたのは,圧着時間が10msec未満であると,接着面の温度がポリエステル樹脂24の融点以上であっても時間が短すぎるため十分な密着力を得難く,一方,圧着時間が80msecを超えると,ラミネート通板速度の低下によって生産性の低下につながるため,好ましくないからである。
【0092】
また,上記熱圧着の際の面圧は,1〜30kgf/cmであることが好ましい。面圧が1kgf/cmであると,圧着時間が上述したように短時間であり十分な密着力を得難いため,好ましくない。一方,面圧が30kgf/cmを超えると,容器用着色ラミネート金属板の性能上の不都合はないものの,ラミネートロール42,44にかかる力が大きく,設備的な強度が必要となり製造装置の大型化を招き不経済であるため,好ましくない。
【0093】
このように,熱圧着の条件(圧着時間,面圧)は,容器用着色ラミネート金属板の品質と経済性を両立する目的で総合的に決定される。
【0094】
また,上記ラミネート工程においては,雰囲気のクリーン度をクラス10000以下とすることが好ましい。ラミネート時に雰囲気中の異物が多いと,複層樹脂フィルム20または缶内面用フィルム30と金属板10との界面に異物が混入し,製缶加工時にフィルム欠陥を生じる原因となるためである。
【0095】
また,ラミネートロール42,44としては,例えば,クロムメッキロール,セラミックコーティングロール,ゴムライニングロールなど,様々なロールを選択することができ,特に限定はされないが,ロールニップ内のヒートクラウンや,温度のばらつきにより発生する金属板の形状不良を回避するという観点から,ゴムライニングロールを使用することが好ましい。
【0096】
また,ラミネートロール42,44通過後の容器用着色ラミネート金属板は,約200℃の高温であり,そのままコイルとして巻き取ると,コイルラップ間のフィルム融着やブロッキングが発生するため,例えばウォータークエンチ50等を用いて水冷等により冷却する必要がある。
【0097】
また,条件(B)で,ラミネートロール通過後のラミネート金属板温度150℃以上で0.5〜30秒間熱処理することは,着色接着剤の硬化のため必要となる。具体的には,この熱処理は,ラミネートニップ通過後ウォータークエンチによる冷却までの間に行われる。このように,ラミネートニップ通過後ウォータークエンチによる冷却までの間に,着色接着剤の硬化反応を進めておくことにより,レトルト熱処理時に着色接着剤の硬化反応が起こらないようにして,着色接着剤のレトルトブラッシングをより効果的に防止することができる。
【0098】
以上説明したような本発明に係る容器用着色ラミネート金属板の製造方法によれば,レトルトブラッシングを防止し,かつ,平滑性の優れた金色/光輝色等の着色外観と,厳しい加工用途でのフィルム密着性を有するラミネート金属板を提供することができる。
【実施例】
【0099】
以下,実施例により本発明をより具体的に説明するが,本発明は,下記実施例にのみ限定されるものではない。
【0100】
(容器用着色ラミネート鋼板の製造)
厚さ0.21mmのローモ板を,脱脂酸洗後,無水クロム酸とフッ化物を含むクロムめっき浴でクロムめっきし,中間リンス後,無水クロム酸とフッ化物を含む化成処理液で電解化成処理した金属板を基材とした。基材のクロムめっき量を,金属クロム付着量が100mg/m,クロム水和酸化物量が12mg/mとなるように調整した。
【0101】
PET/IA3とPBTの混合ポリエステル樹脂を,押出機で融解混連してTダイでキャストフィルムとし,二軸延伸後,熱固定温度170℃で熱処理することにより二軸配向結晶化して,試料用ポリエステル樹脂フィルムを製造した。試料用ポリエステル樹脂フィルムの組成は,下記表1に示した通りである。なお,PET/IA3とは,ポリエチレンテレフタレート97モル%/ポリエチレンイソフタレート3モル%の共重合ポリエステルを示している。
【0102】
製造した試料用ポリエステル樹脂フィルムについては,融点および半結晶化時間を測定した。測定結果を下記表1に示した。ここで,ポリエステル樹脂の融点は,Dupont Instrum 910 DSCを用いて,20℃/minの速度で昇温し,融解ピークを求めることにより測定した。また,ポリエステル樹脂の半結晶化時間は,(株)コタキ製作所のポリマー結晶化速度測定装置MK−701を用い,脱偏光法により測定した。
【0103】
次に,上記試料用ポリエステル樹脂フィルム面に,下記表1に示した組成を有する着色接着剤をロールコータで塗布厚み1.6μmに塗布した試料用複層樹脂フィルムを製造した。
【0104】
ここで,着色接着剤としては,エポキシ樹脂エピコート1004(数平均分子量1650,ジャパンエポキシレジン製),エピコート1007(数平均分子量2900,ジャパンエポキシレジン製),エピコート1009(数平均分子量3800,ジャパンエポキシレジン製),エピコート1010(数平均分子量5500,ジャパンエポキシレジン製)を使用した。
【0105】
また,高エーテル化アミノ樹脂としては,サイメル300(三井サイテック製),ブロックイソシアネート化合物はデスモジュールBL3475(住友バイエルウレタン製)を使用した。錫触媒はネオスタンU−200(日東化成製),酸触媒はネイキュア5225(KING INDUSTRIES製)を使用した。また,リン酸変性化合物としては,エピコート1007をリン酸を用いて酸価が3〜6(mgKOH/g)となる様に変性したものを使用した。また,ブロックフリーイソシアネート化合物としては,バーノックDN980(大日本インキ化学工業製)を使用した。また,顔料は,黄色,赤色のアゾ系有機顔料を使用した。また,主剤比較として,ポリエステル樹脂アロンメルトPES−360(数平均分子量20000,東亜合成製)を使用した。
【0106】
さらに,図1に示したような装置を用いて,基材となるクロムめっき鋼板を表1の温度に加熱し,その一方の面(缶外面側となる面)には,上記試料用複層樹脂フィルムを,他方の面(缶内面側となる面)には,缶内面用フィルムとしてPET/IA12:ポリエチレンテレフタレート88モル%/ポリエチレンイソフタレート12モル%の共重合ポリエステル樹脂フィルムをラミネートすることにより,容器用着色ラミネート鋼板を製造した。
【0107】
(容器用着色ラミネート鋼板の評価)
上述したように製造した容器用着色ラミネート鋼板について,フィルム外表面配向厚み,ラミネート後の表面性状,レトルト熱処理後の外観,およびDRD缶レトルト密着性を評価した結果について説明する。
【0108】
容器用着色ラミネート鋼板の評価は以下のようにして行った。
(1)フィルム外表面配向厚み
フィルム外表面配向厚みとは,ラミネート後フィルムのポリエステル二軸配向結晶が多く存在し,ラミネートロール通過中も硬いスキン層として働く領域の厚みを示すものであり,複屈折0.04以上を二軸配向結晶が多く残存している領域として,フィルム外表面からその厚みを測定した。具体的には,フィルムを厚み方向に薄膜スライスしたサンプルとし,偏光顕微鏡で位相角θ,複屈折分布を求めることにより測定した。
(2)ラミネート後の表面性状
ラミネートロールの汚れや傷による凹凸が,ラミネート後フィルムに転写することによって発生する外観不良を抑える転写耐性を評価した。具体的には,ラミネートロールのフッ素ゴム表面にサンドペーパー番手#600で傷付けした人工表面傷と,その傷のラミネート後フィルムの転写傷のRaを測定し,転写率を求めて転写耐性を評価した。
中心線平均粗さRaは,接触式3次元粗さ計を用い,0.8mmピッチで測定した。転写率は,ラミネートロール表面傷Raとラミネート後フィルムの転写傷Raとの比として求め,実用特性を考慮して,転写率60%以上の転写が大きいものを×,60%未満の転写が小さいものを○とした。
(3)レトルト熱処理後の外観
ラミネート金属板からΦ160mmの円板を打ち抜き,2段階の絞り加工で内径87mmのDRD缶(絞り缶)を得た。このDRD缶のフランジ部を幅2.5mmになる様にトリミングし,水を充填し,蓋を巻き締めた後,125℃で90分間のレトルト熱処理を行い,レトルト熱処理後の缶外観の変化を目視で判定した。具体的には,外観に変化が無かったものを○,僅かにレトルトブラッシングが発生したものを△,著しくレトルトブラッシングが発生したものを×とした。なお,レトルトブラッシングは,フィルムおよび着色接着剤の双方については,以下の外観評価で行った。
フィルムのレトルトブラッシングは,レトルト処理釜内で缶表面に蒸気が不均一に吹付けられ,ポリエステル融解分子の不均一再結晶化して,フィルム白濁として現われる。この場合は,金属板の金色表面を白濁フィルムで覆った外観不良となる。
着色接着剤のレトルトブラッシングは,レトルト処理時に接着剤が残留溶剤および水分を含んだ状態で硬化するため,硬化接着剤層が部分的かつ不均一に膨張し,金色が部分的に濁った褐色に変色する。この場合は,変色した金属板の上を透明フィルムが覆った外観不良となる。
(4)DRD缶レトルト密着性
(3)と同様に,製缶,フランジトリミングしたDRD缶を,125℃で90分間のレトルト熱処理し,レトルト熱処理後の缶のフランジ部のフィルム剥離を目視観察した。具体的には,フィルムの剥離が無かったものを○,フィルムの剥離があったものを×とした。
【0109】
上述したようにして行った容器用着色ラミネート鋼板の評価結果を下記表1に示した。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
実施例1〜3および比較例1は,ポリエステル樹脂フィルムのPETとPBTとの混合比を変化させたものである。PBTの比率が15%であり,ポリエステル樹脂フィルムの半結晶化時間が200秒と,本発明の範囲を外れる比較例1は,表1に示したように,フィルムのレトルトブラッシング発生が著しいということがわかった。すなわち,ポリエステル樹脂フィルムの125℃における半結晶化時間を100秒以下とすることにより,フィルムのレトルトブラッシングを防止できる,ということが示唆された。
【0113】
実施例4,5および比較例2は,ラミネート後フィルム外表面配向厚み,すなわち,複屈折が0.04以上の領域の厚みを変化させたものである。複屈折0.04以上の領域厚みが5μm未満(3μm)である比較例2は,ラミネート後フィルムの表面性状において,ラミネートロール表面傷の転写が大きく不良であることが確認された。すなわち,複屈折が0.04以上の領域の厚みを5μm以上とすることにより,ラミネートロールの汚染や傷などにより表面が荒れたラミネートロールの凹凸が,ラミネート後のフィルム表面に転写せずに平滑性を維持できる,ということが示唆された。
【0114】
実施例6,7および比較例3は,着色接着剤のエポキシ樹脂の数平均分子量を変化させたものである。エポキシ樹脂の分子量が1650と,本発明の範囲を外れる比較例3は,DRD缶レトルト密着性が劣ることが認められた。すなわち,着色接着剤層の主剤であるエポキシ樹脂の分子量を2000〜6000とすることにより,金属板と着色接着剤層との界面のレトルト密着性を向上させることができる,ということが示唆された。
【0115】
実施例8および比較例4,5は,高エーテル化アミノ樹脂の組成量を変化させたものである。高エーテル化アミノ樹脂を含まない比較例4は,着色接着剤の熱硬化反応速度が遅くなるため,ラミネート熱処理で十分硬化反応が進行せず,着色接着剤のレトルトブラッシングが発生した。高エーテル化アミノ樹脂の添加量が20質量部の比較例5は,ラミネートでの熱硬化は十分であるが,DRD缶レトルト密着性が劣ることが認められた。
【0116】
実施例9および比較例6,7は,ブロックフリーイソシアネート化合物の組成量を変化させたものである。ブロックフリーイソシアネート化合物を含まない比較例6は,着色接着剤のレトルトブラッシングは発生しないが,DRD缶レトルト密着性に劣ることがわかった。また,ブロックフリーイソシアネート化合物の添加量が20質量部の比較例7においても,DRD缶レトルト密着性の低下が認められた。
【0117】
これら実施例8,9および比較例4〜7の結果より,高エーテル化アミノ樹脂は,ラミネート工程時の接着剤の硬化促進に大きく寄与していることが示唆された。また,ブロックイソシアネート化合物は,高エーテル化アミノ樹脂と併用することにより,着色接着剤硬化時の内部応力を低減させる効果があることが示唆された。
【0118】
実施例10および比較例8は,ラミネートロール通過後からウォータークエンチで冷却されるまでの熱処理時間を変化させたものである。熱処理時間0.3秒の比較例8は,着色接着剤の硬化不足によりレトルトブラッシングが発生した。
【0119】
着色接着剤の主剤としてポリエステル樹脂を使用した比較例9は,ラミネート工程での着色接着剤の硬化不足によりレトルトブラッシングが発生した。このことから,エポキシ樹脂がラミネート工程時の接着剤硬化促進に大きく寄与していることが示唆された。
【0120】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は,容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法に適用可能であり,特に,平滑かつ光輝色の外観を有し,意匠性に優れる容器用着色ラミネート金属板およびその製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の一実施形態に係る容器用着色ラミネート金属板の製造装置の概略的な構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0123】
10 金属板
20 複層樹脂フィルム(缶外面用フィルム)
22 着色接着剤層
24 ポリエステル樹脂フィルム
30 缶内面用フィルム
42,44 ラミネートロール
50 ウォータークエンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の片面または両面に,着色接着剤層とポリエステル樹脂フィルムとを積層した複層樹脂フィルムを被覆してなる容器用着色ラミネート金属板であって:
前記着色接着剤層は,エポキシ樹脂を主成分とし,さらに,着色剤,高エーテル化アミノ樹脂およびブロックイソシアネート化合物を含み;
前記ポリエステル樹脂フィルムは,125℃における半結晶化時間が100秒以下であるポリエステル樹脂を主成分とする;
ことを特徴とする,容器用着色ラミネート金属板。
【請求項2】
前記容器用着色ラミネート金属板のポリエステル樹脂フィルムには,複屈折が0.04以上である領域がフィルム外表面から厚み方向に5μm以上存在することを特徴とする,請求項1に記載の容器用着色ラミネート金属板。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂は,エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂とからなることを特徴とする,請求項1または2に記載の容器用着色ラミネート金属板。
【請求項4】
前記エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,前記ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂とは,80:20〜30:70の質量比で混合されていることを特徴とする,請求項3に記載の容器用着色ラミネート金属板。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂フィルムの厚みは,8〜30μmであることを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載の容器用着色ラミネート金属板。
【請求項6】
前記着色接着剤層の前記エポキシ樹脂の数平均分子量が2000〜6000であることを特徴とする,請求項1〜5のいずれかに記載の容器用着色ラミネートフィルム金属板。
【請求項7】
前記着色接着剤層は,前記エポキシ樹脂100質量部に対して,前記高エーテルアミノ樹脂を1〜10質量部,前記ブロックイソシアネート化合物を1〜10質量部を含有することを特徴とする,請求項1〜6のいずれかに記載の容器用着色ラミネート金属板。
【請求項8】
前記着色接着剤層は,リン酸変性化合物とブロックフリーイソシアネート化合物のいずれか一方または双方をさらに含有することを特徴とする,請求項1〜7のいずれかに記載の容器用着色ラミネート金属板。
【請求項9】
金属板の片面または両面に,ラミネートロールを用いて樹脂フィルムを熱圧着させるラミネート工程を含む容器用着色ラミネート金属板の製造方法において:
前記樹脂フィルムは,(a)着色剤を含有する着色接着剤層と,(b)エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂と,ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂との混合物を主成分とするポリエステル樹脂フィルムを積層した複層樹脂フィルムであり,
前記ラミネート工程は,
(A)前記ラミネートロール通過中の前記複層樹脂フィルムの前記金属板との接着面の温度を,前記ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル樹脂の融点以上の温度とし,かつ,前記ラミネートロールによる熱圧着時間を10〜80ミリ秒間とする条件で,前記複層樹脂フィルムの前記着色接着剤層側の面を前記金属板に熱圧着させる工程と;
(B)前記ラミネートロール通過後の前記金属板の温度150℃以上で0.5〜30秒間熱処理する工程と;
を含むことを特徴とする,容器用着色ラミネート金属板の製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−185915(P2007−185915A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7464(P2006−7464)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】