説明

容量性負荷駆動回路および流体噴射装置

【課題】変調信号のオンデューティー比が上限付近の状態が継続しても、D級増幅器を正
常に動作させて駆動信号を出力が可能とする。
【解決手段】駆動波形信号から生成した変調信号を電力増幅した後、平滑化することによ
って駆動信号を生成する。変調信号を電力増幅するデジタル電力増幅器では、電源とグラ
ンドとの間で2つのNチャンネル(以下ch)MOSFETをプッシュ・プル接続し、更
に、電源側のNchMOSFETに対して並列にPchMOSFETを接続する。こうす
れば、電源側のNchMOSFETをONにするためのブートストラップコンデンサーに
蓄えられた電荷が不足してNchMOSFETをONにすることができない場合でも、P
chMOSFETをONにすることで電力増幅を行うことができ、駆動信号を出力するこ
とが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動信号を出力することによって電気的な負荷を駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるD級増幅器では、電源とグランドとの間で、二つのMOSFETをプッシュ・
プル接続しておき、二つのMOSFETの間の電圧を引き出して平滑フィルターに入力し
た後、駆動信号として外部に出力する技術が用いられている。電源側のMOSFETをO
N(導通状態)として、グランド側のMOSFETをOFF(切断状態)とすれば、平滑
フィルターには電源の電圧が入力され、逆に、電源側のMOSFETをOFFとして、グ
ランド側のMOSFETをONとすれば、平滑フィルターにはグランドの電圧が入力され
る。従って、出力しようとする駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス変調して、得
られた変調信号に基づいて二つのMOSFETを駆動すれば、変調信号を電力増幅した電
力増幅変調信号を生成することができる。そして、この電力増幅変調信号を平滑フィルタ
ーで平滑化することで、駆動波形信号に対応する駆動信号を出力することができる。また
、この技術を利用して容量成分を有する電気負荷(容量性負荷)を駆動する技術も提案さ
れている(特許文献1)。
【0003】
ここで、MOSFETには、PchMOSFETと、NchMOSFETとが存在する
が、D級増幅器にはNchMOSFETが使用される。これは、電力損失が少ないという
D級増幅器の特長を活かす観点からは、導通状態での抵抗(オン抵抗)の少ないNchM
OSFETの方が、オン抵抗の大きいPchMOSFETよりも適しているためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−96364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、NchMOSFETを用いてD級増幅器を構成した場合、電源側のMOSFE
Tが稀にしかOFFにならない状態が継続すると、MOSFETをONの状態にすること
ができなくなり、その結果、D級増幅器が正常に動作しなくなって、駆動信号を出力する
ことができなくなるという問題があった。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになさ
れたものであり、電源側のMOSFETが稀にしかOFFにならない状態が継続しても、
D級増幅器を正常に動作させて、駆動信号を出力することが可能な技術の提供を目的とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の容量性負荷駆動回路は次の
構成を採用した。すなわち、
駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、
前記電力増幅変調信号を平滑化することによって駆動信号を生成する平滑フィルターと
を備え、
前記デジタル電力増幅器は、
第1の電圧発生源と、
前記第1の電圧発生源と直列接続される第1のスイッチと、
前記第1のスイッチと直列接続される第2のスイッチと、
前記第2のスイッチと直列接続され、前記第1の電圧発生源が発生させる電圧よりも
低い電圧を発生させる第2の電圧発生源と、
前記変調信号に基づいて前記第1および第2のスイッチを駆動するスイッチ駆動回路

を備え、
前記スイッチ駆動回路は、前記第2のスイッチがONの期間中に電流を蓄えるブートス
トラップコンデンサーを搭載し、前記第1のスイッチをONにする場合には、該ブートス
トラップコンデンサーに蓄えられた電流を該第1のスイッチに供給することによって前記
第1のスイッチをONにしており、
前記第1のスイッチには、NチャンネルMOSFETによるスイッチと、Pチャンネル
MOSFETによるスイッチとが並列に接続されていることを要旨とする。
【0008】
こうした構成を有する本発明の容量性負荷駆動回路においては、駆動波形信号発生回路
が発生した駆動波形信号を、変調回路で変調信号に変換した後、デジタル電力増幅器で電
力増幅して電力増幅変調信号を生成する。そして、この電力増幅変調信号を平滑フィルタ
ーで平滑化することによって駆動信号を生成する。デジタル電力増幅器には、第1の電圧
発生源と、第1の電圧発生源と直列接続される第1のスイッチと、第1のスイッチと直列
接続される第2のスイッチと、第2のスイッチと直列接続されて第1の電圧発生源が発生
させる電圧よりも低い電圧を発生させる第2の電圧発生源と、変調信号に基づいて第1お
よび第2のスイッチを駆動するスイッチ駆動回路とが設けられている。また、スイッチ駆
動回路には、第2のスイッチがONの期間中に電流を蓄えるブートストラップコンデンサ
ーが搭載されている。第1のスイッチをONにする場合には、ブートストラップコンデン
サーに蓄えられた電流を第1のスイッチに供給することによって、第1のスイッチがON
にされる。そして、第1のスイッチは、NチャンネルMOSFETによるスイッチに加え
て、PチャンネルMOSFETによるスイッチが並列に接続されている。
【0009】
このため、ブートストラップコンデンサーに十分な電流が蓄えられていないため、第1
のスイッチを構成するNチャンネルMOSFETによるスイッチをONにすることができ
ない場合でも、このNチャンネルMOSFETのスイッチには、PチャンネルMOSFE
Tによるスイッチが並列に接続されており、このPチャンネルMOSFETによるスイッ
チをONにすることができる。その結果、変調信号をデジタル電力増幅器で電力増幅する
ことが可能となり、駆動波形信号に応じた駆動信号を出力することが可能となる。また、
NチャンネルMOSFETによるスイッチと、PチャンネルMOSFETによるスイッチ
とが並列に接続されているので、合成抵抗が小さくなって、PチャンネルMOSFETの
オン抵抗がNチャンネルMOSFETに比べて大きいことが問題となることもない。
【0010】
また、上述した本発明の容量性負荷駆動回路においては、ブートストラップコンデンサ
ーに蓄えられている電圧を検出し、検出した電圧に応じて、NチャンネルMOSFETに
よるスイッチ、またはPチャンネルMOSFETによるスイッチを駆動するようにしても
よい。
【0011】
NチャンネルMOSFETによるスイッチと、PチャンネルMOSFETによるスイッ
チとを共に駆動したのでは、何れか一方を駆動する場合よりも電力を消費する。そこで、
ブートストラップコンデンサーに蓄えられている電圧を検出して、その電圧が、Nチャン
ネルMOSFETによるスイッチを駆動可能な電圧であった場合には、NチャンネルMO
SFETによるスイッチを駆動し、それ以外の場合は、PチャンネルMOSFETによる
スイッチを駆動する。こうすれば、ブートストラップコンデンサーに蓄えられている電圧
に応じて、NチャンネルMOSFETによるスイッチを駆動する場合と、PチャンネルM
OSFETによるスイッチを駆動する場合とを切り換えることができるので、スイッチを
駆動するための電力損失を抑制することが可能となる。
【0012】
また、上述した本発明の容量性負荷駆動回路においては、NチャンネルMOSFETに
よるスイッチ、またはPチャンネルMOSFETによるスイッチの何れを駆動するかを、
駆動波形信号に基づいて切り換えても良い。
【0013】
ブートストラップコンデンサーに蓄えられている電圧が不足するか否かは、駆動波形信
号に基づいて予め判断することができる。従って、NチャンネルMOSFETによるスイ
ッチを駆動する場合と、PチャンネルMOSFETによるスイッチを駆動する場合とを、
駆動波形信号に基づいて切り換えてやれば、二つのスイッチを共に駆動する必要がないの
で、スイッチを駆動するための電力損失を抑制することができる。また、ブートストラッ
プコンデンサーに蓄えられている電圧を検出する必要もないので、簡単な回路構成で実現
することが可能となる。
【0014】
また、上述した本発明の容量性負荷駆動回路では、変調信号のオンデューティー比が上
限付近となるような状態が継続しても、変調信号を正常に電力増幅して、駆動信号を出力
することができる。従って、上述した本発明の容量性負荷駆動回路は、以下のような流体
噴射装置に好適に適用することができる。すなわち、流体を供給する流体供給手段(供給
ポンプなど)と、流体供給手段から供給された流体が流入する流体室と、容量性負荷であ
るアクチュエーターと、流体室に流入された流体を噴射する噴射ノズルとを有する脈動発
生部とを備え、駆動信号をアクチュエーターに印加することによって、流体室内の流体を
噴射ノズルからパルス状に噴射する流体噴射装置で、駆動信号を発生する容量性負荷駆動
回路として好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施例の容量性負荷駆動回路を搭載した流体噴射装置の構成を示した説明図である。
【図2】第1実施例の容量性負荷駆動回路の回路構成を示した説明図である。
【図3】第1実施例のデジタル電力増幅器の詳細な構成を示した回路図である。
【図4】第1実施例のスイッチ駆動回路の詳細な構成を示した回路図である。
【図5】電源側に接続されたNチャンネルMOSFETをスイッチ駆動回路が駆動する動作を示した説明図である。
【図6】電源側に接続されたNチャンネルMOSFETが正常に動作できなくなる条件を例示した説明図である。
【図7】第2実施例のスイッチ駆動回路の詳細な構成を示した回路図である。
【図8】第3実施例の容量性負荷駆動回路の構成を示した回路図である。
【図9】第3実施例の容量性負荷駆動回路に搭載されたスイッチ選択回路が選択信号を出力する処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.第1実施例:
A−1.全体構成:
A−2.容量性負荷駆動回路の構成:
A−3.第1実施例のデジタル電力増幅器:
A−4.第1実施例のデジタル電力増幅器の動作:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
【0017】
A.第1実施例 :
A−1.全体構成 :
図1は、第1実施例の容量性負荷駆動回路200を搭載した流体噴射装置100の構成
を示した説明図である。図示されているように流体噴射装置100は、大きく分けると、
液体を噴射するための脈動発生部110と、脈動発生部110に向けて流体を供給する流
体供給手段120(供給ポンプ)と、脈動発生部110および流体供給手段120の動作
を制御する制御部130などから構成されている。流体噴射装置100は、パルス状の液
体を脈動発生部110から噴射することによって、生体組織を切除または切開することに
使用する手術具としてのウォータージェットメスの一例である。
【0018】
脈動発生部110は、金属製の第2ケース113に、同じく金属製の第1ケース114
を重ねた構造となっており、第2ケース113の前面には円管形状の流体噴射管112が
立設され、流体噴射管112の先端にはノズル111が挿着されている。第2ケース11
3と第1ケース114との合わせ面には、薄い円板形状の流体室115が形成されており
、流体室115は、流体噴射管112を介してノズル111に接続されている。また、第
1ケース114の内部には、積層型の圧電素子116が設けられている。脈動発生部11
0と制御部130とは配線ケーブル150によって接続されており、制御部130内の容
量性負荷駆動回路200からは、配線ケーブル150を介して駆動信号が圧電素子116
に供給される。また、配線ケーブル150はコネクターによって脈動発生部110に取り
付けられている。
【0019】
流体供給手段120は、噴射しようとする流体(水、生理食塩水、薬液など)が貯めら
れた流体容器123から、第1接続チューブ121を介して流体を吸い上げた後、第2接
続チューブ122を介して脈動発生部110の流体室115内に供給する。このため、流
体室115は流体で満たされた状態となっている。そして、制御部130から駆動信号を
圧電素子116に印加すると、圧電素子116が伸張して流体室115が押し縮められ、
その結果、流体室115内に充満していた流体が、ノズル111からパルス状に噴射され
る。圧電素子116の伸張量は、駆動信号として印加される電圧に依存する。また、駆動
信号は、制御部130内に搭載された容量性負荷駆動回路200によって生成されている

【0020】
A−2.容量性負荷駆動回路構成の概要 :
図2は、制御部130に搭載された容量性負荷駆動回路200の回路構成を示した説明
図である。図示されているように容量性負荷駆動回路200は、駆動信号の基準となる駆
動波形信号(以下、WCOM)を出力する駆動波形信号発生回路210と、WCOMをパ
ルス変調して変調信号(以下、MCOM)に変換する変調回路230と、変調回路230
からのMCOMをデジタル的に電力増幅して電力増幅変調信号(以下、ACOM)を生成
するデジタル電力増幅器240と、デジタル電力増幅器240からACOMを受け取って
変調成分を取り除いて、駆動信号(以下、COM)として脈動発生部110の圧電素子1
16に供給する平滑フィルター250とを備えている。
【0021】
このうち、駆動波形信号発生回路210は、WCOMのデータを記憶した波形メモリー
や、D/A変換器を備えており、波形メモリーから読み出したデータをD/A変換器でア
ナログ信号に変換することによって、WCOM(駆動波形信号)を生成する。変調回路2
30には、一定周期(変調周期)の三角波を発生する三角波発生器が搭載されており、駆
動波形信号発生回路210から受け取ったWCOMを三角波と比較することによって、パ
ルス波状のMCOM(変調信号)を生成(パルス変調)する。たとえばWCOMの方が三
角波よりも大きい期間では高電圧状態(出力が「H」)となり、WCOMの方が三角波よ
りも小さい期間では低電圧状態(出力が「L」)となるようなMCOMが出力される。尚
、MCOMが「H」となる時間比率は、「デューティー比(あるいはオンデューティー比
)」と呼ばれる。
【0022】
変調回路230によって得られたMCOMは、デジタル電力増幅器240によって電力
増幅される。詳細な構成については後述するが、デジタル電力増幅器240には電源が搭
載されている。そして、MCOMの入力が「H」の場合には、電源とデジタル電力増幅器
240の出力とが、デジタル電力増幅器240の内部で接続されて、電源の電圧がデジタ
ル電力増幅器240の出力として出力され、また、MCOMの入力が「L」の場合には、
グランドとデジタル電力増幅器240の出力とが、デジタル電力増幅器240の内部で接
続されて、グランドの電圧がデジタル電力増幅器240の出力として出力される。その結
果、MCOMが、MCOMが「H」の時には電源の電圧となり、MCOMが「L」の時に
はグランドの電圧となるパルス状の信号に電力増幅される。こうして電力増幅されたAC
OM(電力増幅変調信号)は、LC回路によって構成される平滑フィルター250を通す
ことによってCOM(駆動信号)に変換され、圧電素子116に印加される。
【0023】
A−3.第1実施例のデジタル電力増幅器 :
図3は、第1実施例のデジタル電力増幅器240の内部構成を示した回路図である。図
示されるように、第1実施例のデジタル電力増幅器240には、電源Vddと、二つのN
チャンネルMOSFET(図3では、FET1、FET3と表示)と、一つのPチャンネ
ルMOSFET(図3では、FET2と表示)、これらMOSFETを駆動するスイッチ
駆動回路242とが搭載されている。三つのMOSFETのうち、FET1およびFET
3は、電源Vddとグランドとの間でプッシュ・プル接続されている。すなわち、電源V
ddにはFET1のドレイン電極(図中でDと表示)が接続されており、FET1のソー
ス電極(図中でSと表示)にはFET3のドレイン電極が接続されている。そして、FE
T3のソース電極はグランドに接続されている。そして、FET1のソース電極と、FE
T3のドレイン電極とが接続されている部分の電圧が、ACOMとして出力される。
【0024】
また、PチャンネルMOSFETであるFET2は、ソース電極が電源Vddに接続さ
れ、ドレイン電極がACOMの出力ラインに接続されている。従って、FET1に対して
、FET2が並列に接続された状態となっている。更に、FET1、FET2、FET3
のゲート電極は、スイッチ駆動回路242に接続されている。尚、本実施例では、FET
1が本発明の「第1のスイッチ」に対応し、FET2が本発明の「第2のスイッチ」に対
応する。また、FET1はNチャンネルMOSFETであり、FET2はPチャンネルM
OSFETであるから、FET1は本発明の「NチャンネルMOSDETによるスイッチ
」にも対応し、FET2は本発明の「PチャンネルMOSDETによるスイッチ」にも対
応している。更に、電源Vddが本発明の「第1の電圧発生源」に対応し、グランドが本
発明の「第2の電圧発生源」に対応する。
【0025】
図4は、第1実施例のスイッチ駆動回路242の構成を示した回路図である。尚、第1
実施例のデジタル電力増幅器240は、一般的なデジタル電力増幅器240の電源Vdd
側のFET1に対して、FET2が並列に接続された構成となっている。このことと対応
して第1実施例のスイッチ駆動回路242は、一般的なデジタル電力増幅器240のスイ
ッチ駆動回路に対して、FET2を駆動するための回路部分(図4中では242bと表示
)が追加されたものとなっている。尚、FET1を駆動するための回路部分(図4中では
242aと表示)は、一般的なデジタル電力増幅器240のスイッチ駆動回路で用いられ
ているものと同様である。また、スイッチ駆動回路242の中でFET3を駆動するため
の回路部分は本発明との関連性が低いため、図示が省略されている。このような構成を有
する本実施例のデジタル電力増幅器240は、次のように動作する。
【0026】
A−4.第1実施例のデジタル電力増幅器の動作 :
先ず始めに、デジタル電力増幅器240のスイッチ駆動回路242がFET1を駆動す
る動作(従って、図4中で242aと表示した部分の動作)について説明する。図5(a
)には、MCOMの出力が「L」の場合が示されている。MCOMが「L」の場合は、電
源Vdd側に接続されたFET1(およびFET2)がOFFとなり、グランド側に接続
されたFET2がONとなる。その結果、デジタル電力増幅器240からはグランドの電
圧がACOMとして出力される。
【0027】
ここで、図5(a)に示されるように、FET1を駆動するための回路部分242aに
はコンデンサーBSCが搭載されている。このコンデンサーBSCは、一方の端子がAC
OMの出力ラインに接続されており、他方の端子がスイッチ駆動回路242の駆動用電源
に接続されている。従って、図5(a)に示されるように、MCOMの出力が「L」にな
ってACOMの出力がグランドの電圧になると、コンデンサーBSCの両端子間に駆動用
電源の電圧が加わることになって、コンデンサーBSCが充電される。その後、図5(b
)に示されるように、MCOMの出力が「H」になると、コンデンサーBSCに蓄えられ
ていた電圧がFET1のゲート電極に印加され、その分だけ、FET1のソース電極より
もゲート電極の方が電位が高くなり、その結果、FET1がONになる。尚、このような
コンデンサーBSCはブートストラップコンデンサーと呼ばれる。ブートストラップコン
デンサーを用いれば、駆動用電源の他に、FET1のゲート電極用の電源を用いなくても
、FET1をONの状態にすることができる。
【0028】
しかし、コンデンサーBSCを用いてFET1を駆動した場合、FET1がONの状態
を続けているとコンデンサーBSCに蓄えられていた電荷が漏れ出して、コンデンサーB
SCの両端子間の電圧(従って、FET1のソース電極とゲート電極との電位差)が少し
ずつ低下していく。その結果、最終的にはFET1をONの状態に維持しておくことがで
きなくなる。
【0029】
たとえば、駆動波形信号発生回路210が上限付近のWCOMを出力する場合、変調回
路230から出力されるMCOMは、オンデューティー比がたいへんに高い(Hとなる時
間頻度がたとえば95%以上の)MCOMとなる。このようなMCOMを受け取った場合
、図6に例示したように、デジタル電力増幅器240の電源Vdd側のFET1は、ほと
んど常にONの状態となり、OFFの状態には極稀にしか切り換わらない。逆に、デジタ
ル電力増幅器240のグランド側のFET3は、ほとんど常にOFFの状態となり、ON
の状態には極稀にしか切り換わらない。
【0030】
前述したようにコンデンサーBSCは、FET1がOFFで、FET3がONの状態の
時に充電されるから、図6に示したような状態でデジタル電力増幅器240を動作させて
いると、コンデンサーBSCに蓄えられた電圧が次第に低下して、FET1をONにする
ことができなくなる。その結果、デジタル電力増幅器240でMCOMを電力増幅するこ
とができなくなって、圧電素子116を駆動することができなくなる。もちろん、コンデ
ンサーBSCの代わりに、別途用意した電源を用いてFET1を駆動すれば、こうした問
題の発生を回避することができる。しかし、駆動用電源の他に、FET1を駆動するため
の電源を別途用意するのでは、スイッチ駆動回路242の回路サイズが大きくなり、また
回路の製造コストが増加してしまう。
【0031】
これに対して第1実施例のデジタル電力増幅器240では、図3を用いて前述したよう
に、FET1に対して並列にFET2が接続されている。また、FET1はNチャンネル
MOSFETが用いられるのに対して、FET2はPチャンネルMOSFETが用いられ
ている。周知のようにPチャンネルMOSFETは、ソース電極と比較してゲート電極の
電位が一定電圧よりも低くなるとONになる。従って、コンデンサーBSCのようなブー
トストラップコンデンサーを用いなくてもONにすることができる。このため、図6に例
示したように、MCOMが、たいへんにオンデューティー比が高い(たとえば95%以上
の)状態が長く継続するような信号であり、FET1がONにならなくなった場合でも、
FET2がONになる。その結果、デジタル電力増幅器240でMCOMを電力増幅する
ことができ、圧電素子116を駆動することができる。
【0032】
もちろん、FET2は、NチャンネルMOSFETよりもオン抵抗の大きなPチャンネ
ルMOSFETである。しかし、図3に示されるように、FET2はFET1と並列に接
続されており、FET2が単独でONの状態になるのは、図6を用いて前述したような特
殊な状況に過ぎない。このため、ほとんどの場合は、FET1とFET2とは共にONの
状態となるので、FET2のオン抵抗が大きいことが原因で、デジタル電力増幅器240
での電力損失が増加することはない。
【0033】
B.第2実施例 :
上述した第1実施例では、FET1およびFET2が、並行して駆動されているものと
して説明した。しかし、FET1とFET2とを並行して駆動するためには、FET1を
単独で駆動する場合よりも多くの電力が必要となる。そこで、FET1を正常に駆動する
ことができる間はFET2は駆動せず、FET1を正常に駆動することが困難になった場
合にだけ、FET2を駆動するようにしても良い。以下では、このような第2実施例につ
いて説明する。尚、第2実施例では、特に言及しない構成については、前述した第1実施
例と同様である。そして、前述した第1実施例と同様な構成については、同じ番号を付す
ことによって、詳細な説明を省略する。
【0034】
図7は、第2実施例のデジタル電力増幅器240に搭載されたスイッチ駆動回路342
の回路図である。第2実施例のスイッチ駆動回路342では、コンデンサーBSCの両端
子間の電圧が抵抗によって分圧された後に、オペアンプOP1に入力されており、オペア
ンプOP1は、入力された電圧の電圧差をオペアンプOP2に出力する。オペアンプOP
2は、オペアンプOP1から入力された電圧差を、閾値の電圧Vrefと比較して、電圧
差が電圧Vrefよりも大きければ「H」の信号を出力し、電圧差が電圧Vrefよりも
小さければ「L」の信号を出力する。このオペアンプOP2の出力は、スイッチSW1お
よびスイッチSW2に接続されている。このうち、スイッチSW1には、オペアンプOP
2の出力がそのまま接続され、スイッチSW2には、インバーターで反転された後に接続
されている。
【0035】
このような第2実施例のスイッチ駆動回路342では、オペアンプOP1から出力され
る電圧差が、閾値の電圧Vrefよりも大きい間は、スイッチSW1がONとなり、スイ
ッチSW2がOFFとなる。また、オペアンプOP1からの電圧差が、閾値の電圧Vre
fよりも小さくなると、スイッチSW1がOFFとなり、スイッチSW2がONとなる。
そこで、コンデンサーBSCの端子間電圧が、FET1をONにするための電圧に対して
若干の余裕を持たせた電圧よりも低くなった時に、オペアンプOP2の出力が「L」とな
るような電圧に、閾値の電圧Vrefを設定しておく。こうすれば、コンデンサーBSC
に十分な電圧が蓄えられている間は、スイッチSW1がONになるのでFET1が駆動さ
れ、コンデンサーBSCの電圧が低下してきたら、スイッチSW2がONになるのでFE
T2が駆動されるようになる。その結果、コンデンサーBSCに蓄えられている電圧に応
じて、FET1を駆動する場合と、FET2を駆動する場合とを切り換えることができる
ので、スイッチ駆動回路342を駆動するための電力を抑制することが可能となる。
【0036】
C.第3実施例 :
また、上述した第2実施例のスイッチ駆動回路342では、二つのオペアンプが必要と
なる。しかし、次のようにすれば、FET1を駆動する場合とFET2を駆動する場合と
を、オペアンプを用いることなく切り換えることが可能となる。以下では、このような第
3実施例について説明する。尚、第3実施例においても、特に言及しない構成については
、前述した第1実施例あるいは第2実施例と同様である。そして、前述した第1実施例あ
るいは第2実施例と同様な構成については、同じ番号を付すことによって、詳細な説明を
省略する。
【0037】
図8は、第3実施例の容量性負荷駆動回路200の一部を示した説明図である。図示さ
れるように、第3実施例の容量性負荷駆動回路200では、変調回路230から出力され
たMCOMが、FET1を駆動するための信号(FET1駆動用MCOM)と、FET2
を駆動するための信号(FET2駆動用MCOM)と、FET3を駆動するための信号(
FET3駆動用MCOM)とに分けてデジタル電力増幅器240に供給される。このうち
、FET1駆動用のMCOMは、スイッチSW1を介してデジタル電力増幅器240に接
続されており、FET2駆動用のMCOMは、スイッチSW2を介してデジタル電力増幅
器240に接続されている。
【0038】
更に、第3実施例の容量性負荷駆動回路200には、スイッチ選択回路235が搭載さ
れている。詳細には後述するが、スイッチ選択回路235は駆動波形信号発生回路210
からのWCOMを受け取ると、FET1選択信号あるいはFET2選択信号を出力する。
そして、FET1選択信号が出力された場合には、スイッチSW1がONになって、FE
T1駆動用のMCOMとFET3駆動用のMCOMとがデジタル電力増幅器240に供給
される。その結果、デジタル電力増幅器240では、FET1およびFET3を用いて電
力増幅が行われる。また、スイッチ選択回路235からFET2選択信号が出力された場
合には、スイッチSW2がONになり、FET2駆動用のMCOMとFET3駆動用のM
COMとがデジタル電力増幅器240に供給される。その結果、デジタル電力増幅器24
0では、FET2およびFET3を用いて電力増幅が行われる。尚、第3実施例のスイッ
チ選択回路235は、本発明における「決定手段」に対応する。
【0039】
図9は、第3実施例のスイッチ選択回路235が選択信号を出力するために行う選択信
号出力処理のフローチャートである。選択信号出力処理では、先ず始めに、駆動波形信号
発生回路210から出力されたWCOM(駆動波形信号)の読み込みを行う(ステップS
100)。続いて、読み込んだWCOMから、MCOMのオンデューティー比を算出する
(ステップS102)。MCOMのオンデューティー比は、デジタル電力増幅器240の
電源Vddの電圧をVddとすると、MCOMの電圧値をVddで除算することによって
算出することができる。尚、オンデューティー比をパーセント表示する場合は、除算した
値に対して、更に100を乗算すればよい。
【0040】
次に、算出したオンデューティー比が、所定の閾値(たとえば95%)以上か否かを判
断する(ステップS104)。その結果、算出したオンデューティー比が閾値よりも小さ
い場合は(ステップS104:no)、FET1選択信号を出力する(ステップS106
)。これに対して、算出したオンデューティー比が閾値以上であった場合は(ステップS
104:yes)、FET2選択信号を出力する(ステップS108)。こうして、FE
T1選択信号あるいはFET2選択信号の何れかを出力したら、処理の先頭に戻って、再
びWCOMを読み込んだ後(ステップS100)、上述した続く一連の処理を行う。
【0041】
図5を用いて前述したように、スイッチ駆動回路242に搭載されたコンデンサーBS
Cは、FET1がOFFで、FET2がONの状態にならないと充電されない。また逆に
、FET1がONで、FET2がOFFの間は、少しずつ放電する。従って、MCOMの
オンデューティー比があまりに高くなると、コンデンサーBSCが放電する時間(すなわ
ち、FET1がONで、FET2がOFFとなっている時間)に対して、コンデンサーB
SCに充電される時間(すなわち、FET1がOFFで、FET2がONとなっている時
間)が短くなり過ぎて、コンデンサーBSCに蓄えられた電圧が低下し、FET1をON
にすることができなくなる。しかし、上述した第3実施例では、MCOMのオンデューテ
ィー比が閾値の値(たとえば95%)よりも大きくなると、FET2選択信号が出力され
るので、FET1が駆動される状態からFET2が駆動される状態に切り換わる。そして
、前述したようにFET2はPチャンネルMOSFETを用いて構成されており、コンデ
ンサーBSCのようなブートストラップコンデンサーを用いなくても駆動することができ
る。このため、MCOMのオンデューティー比が上限付近となるような場合でも、デジタ
ル電力増幅器240で電力増幅を行って、圧電素子116を適切に駆動することが可能と
なる。
【0042】
また、上述した第3実施例では、駆動波形信号発生回路210が出力するWCOMに基
づいてMCOMのオンデューティー比を算出し、その値に基づいて、FET1を駆動する
場合(FET1選択信号を出力する場合)と、FET2を駆動する場合(FET2選択信
号を出力する場合)とを切り換えている。このため、前述した第2実施例のように、コン
デンサーBSCの端子間電圧を検出する必要がなく、また、オペアンプを搭載する必要も
ない。
【0043】
尚、上述した第3実施例では、WCOMをMCOMのオンデューティー比に一旦変換し
、得られたオンデューティー比を閾値と比較することとしていた。しかし、前述したよう
に、WCOMと、MCOMのオンデューティー比とは一対一に対応しており、オンデュー
ティー比が閾値を超えることになるようなWCOMの値は予め求めておくことができる。
そこで、この値を閾値として記憶しておき、この閾値とWCOMとを比較してもよい。そ
して、WCOMが、この閾値よりも小さい場合は、FET1選択信号を出力し、逆にWC
OMがこの閾値よりも大きい場合は、FET2選択信号を出力するようにしてもよい。
【0044】
上述した第2実施例、第3実施例では、スイッチ1とスイッチ2とが排他的に切り替え
られる例を示したが、BSCの端子間電圧が十分高い場合はスイッチ1とスイッチ2とを
共に駆動しても良い。スイッチ1とスイッチ2とが共にONしている状態は、スイッチ1
とスイッチ2のオン抵抗が並列に並べられているのと等価であるため、スイッチ1とスイ
ッチ2を共にオンしている際の合成抵抗は、スイッチ1、スイッチ2のオン抵抗よりも低
い。このため、負荷に大電流を流す場合には、デジタル電力増幅器240での電力損失が
下がるので、より好適である。
【0045】
以上、各種実施例の容量性負荷駆動回路200について説明したが、本発明は上記すべ
ての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実
施することが可能である。例えば、容量性負荷にパルス状の電圧を印加する場合は、平滑
フィルター250を必須構成とすることなく、本発明の容量性負荷駆動回路200を好適
に用いることができる。また、平滑フィルター250のL成分やC成分として、回路配線
パターンや回路素子の寄生インダクタンスや寄生容量を用いることにより、平滑フィルタ
ーを必須構成としないこともできる。
【0046】
また、好適に適用することができる一例として、インクジェットプリンターでインクを
噴射する噴射ノズルは、アクチュエーターとして圧電素子を利用しているので、噴射ノズ
ルの圧電素子を駆動する容量性負荷駆動回路200としても好適に適用することができる
。あるいは、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに用いる流体噴射
装置など、医療機器を含む様々な電子機器を駆動するための容量性負荷駆動回路に対して
も、本発明の容量性負荷駆動回路200を好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
100…流体噴射装置、 110…脈動発生部、 111…ノズル、
112…流体噴射管、 113…第2ケース、 114…第1ケース、
115…流体室、 116…圧電素子、 120…流体供給手段、
121…第1接続チューブ、 122…第2接続チューブ、 123…流体容器、
130…制御部、 150…配線ケーブル、
200…容量性負荷駆動回路、 210…駆動波形信号発生回路、
230…変調回路、 235…スイッチ選択回路、 240…デジタル電力増幅器、
242…スイッチ駆動回路、 250…平滑フィルター、 342…スイッチ駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、
前記電力増幅変調信号を平滑化することによって駆動信号を生成する平滑フィルターと
を備え、
前記デジタル電力増幅器は、
第1の電圧発生源と、
前記第1の電圧発生源と直列接続される第1のスイッチと、
前記第1のスイッチと直列接続される第2のスイッチと、
前記第2のスイッチと直列接続され、前記第1の電圧発生源が発生させる電圧よりも
低い電圧を発生させる第2の電圧発生源と、
前記変調信号に基づいて前記第1および第2のスイッチを駆動するスイッチ駆動回路

を備え、
前記スイッチ駆動回路は、前記第2のスイッチがONの期間中に電流を蓄えるブートス
トラップコンデンサーを搭載し、前記第1のスイッチをONにする場合には、該ブートス
トラップコンデンサーに蓄えられた電流を該第1のスイッチに供給することによって前記
第1のスイッチをONにしており、
前記第1のスイッチには、NチャンネルMOSFETによるスイッチと、Pチャンネル
MOSFETによるスイッチとが並列に接続されている
容量性負荷駆動回路。
【請求項2】
請求項1に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記スイッチ駆動回路は、前記ブートストラップコンデンサーに蓄えられている電圧を
検出し、該検出した電圧に応じて、前記NチャンネルMOSFETによるスイッチ、また
は前記PチャンネルMOSFETによるスイッチを駆動する
容量性負荷駆動回路。
【請求項3】
請求項1に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記NチャンネルMOSFETによるスイッチ、または前記PチャンネルMOSFET
によるスイッチの何れを駆動するかを、前記駆動波形信号に基づいて決定する決定手段を
備え、
前記スイッチ駆動回路は、前記決定手段が決定した結果に基づいて、前記Nチャンネル
MOSFETによるスイッチ、または前記PチャンネルMOSFETによるスイッチを駆
動する
容量性負荷駆動回路。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路と、
流体を供給する流体供給手段と、
前記流体供給手段から供給された流体が流入する流体室と、前記容量性負荷であるアク
チュエーターと、前記流体室に流入された流体を噴射する噴射ノズルとを有する脈動発生
部と
を備え、
前記容量性負荷駆動回路から出力される駆動信号が前記アクチュエーターに印加される
ことによって、前記流体室に流入された流体が前記噴射ノズルからパルス状に噴射される
流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−222717(P2012−222717A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88911(P2011−88911)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】