説明

対物レンズの製造方法

【課題】従来の成形方法では、微細な回折構造を有する対物レンズを安定して成形することができなかった。
【解決手段】青色レーザを用いた光ピックアップ装置に搭載され、表面に微細構造を有する対物レンズの製造方法であって、二酸化炭素の含浸率が0.5〜1.5wt%の樹脂材料を射出成形装置に供給する供給工程と、前記供給された樹脂材料を金型内に射出し、レンズ形状に成形する成形工程と、を備える。このような構成により、微細構造を有する対物レンズを安定して成形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズの製造方法に関し、特に熱可塑性樹脂の射出成形において、樹脂の金型キャビティへの充填を容易にし、金型表面状態を成形品表面に高度に転写する製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形法を用いて熱可塑性樹脂を成形する際、樹脂中に二酸化炭素を含浸させることで樹脂の流動性を高める技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、樹脂成形体Wの表層の全部又は一部に二酸化炭素を含浸させる含浸工程と、前記含浸工程において二酸化炭素が含浸された領域に、所定のパターンを有する金型を押し付けて、そのパターンを転写する転写工程と、を有し、前記含浸工程及び前記転写工程において、前記樹脂成形体Wの温度、前記樹脂成形体Wに含浸させる二酸化炭素の温度、又は前記金型の温度の少なくとも1つを、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満にしていることを特徴とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−137033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂中に二酸化炭素等の炭酸ガスを含浸させる場合、成形品によって求められる寸法精度や表面の転写率等が異なるため、成形品に応じて炭酸ガスの含浸率等を調整する必要がある。特に、青色レーザを用いた光ピックアップ用対物レンズでは、表面の微細加工を高い精度で転写する必要がある。
【0006】
しかし、特許文献1では、青色レーザを用いた光ピックアップ用対物レンズに関しては特に検討されていなかった。
【0007】
そこで本発明は、光学面に微細構造が形成された対物レンズの転写性を向上させる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の製造方法は、青色レーザを用いた光ピックアップ装置に搭載され、表面に微細構造を有する対物レンズの製造方法であって、二酸化炭素の含浸率が0.5〜1.5wt%の樹脂材料を射出成形装置に供給する供給工程と、前記供給された樹脂材料を金型内に射出し、レンズ形状に成形する成形工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、光学面に微細構造が形成された対物レンズの転写性を上げることができる。その結果、所望の光学特性を実現する対物レンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る射出成形システムを示す概略構成図
【図2】(a)実施形態に係る対物レンズを示す概略図(b)実施形態に係る対物レンズの部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本実施形態の射出成形システムを示す概略図である。本実施形態の射出成形システムは、成形装置10と、混合装置20と、含浸装置30と、乾燥装置40とで構成される。
【0012】
乾燥装置40は、樹脂ペレット50を乾燥させるための装置である。含浸装置30にて含浸材51を作製する際には、樹脂ペレット50はあらかじめ乾燥装置40で乾燥される。
【0013】
含浸装置30は、樹脂ペレット50に二酸化炭素等の炭酸ガスを含浸させる装置であり、炭酸ガスが貯蔵されたボンベ31と、容器32とを備える。含浸させる条件は、樹脂ペレット50の種類、処理量、容器の温度、容器32内の圧力等に応じて含浸処理にかかる時間を適宜設定できる。
【0014】
混合装置20は、樹脂ペレット50と、樹脂ペレット50に二酸化炭素が含浸された含浸材51とを混合する装置である。混合装置20にて、樹脂ペレット50と含浸材51が所定の分量に秤量され、混練される。所定量で混合された樹脂ペレット50および含浸材51は、低温保管部22にて保管される。樹脂ペレット50と含浸材51とを混合することで、目的とする樹脂材料の含浸率に調整する。含浸率の好ましい範囲は、0.5〜1.5%である。樹脂材料がヒンダードアミン化合物を含むシクロオレフィン系樹脂材料の場合は、含浸率を1.0〜1.5%とするのが好ましい。また、樹脂材料がヒンダードアミン化合物および蛍光増白剤を含むシクロオレフィン系樹脂材料の場合は、含浸率を0.5〜1.0%とするのが好ましい。
【0015】
混合装置20で混合された樹脂ペレット50および含浸材51は、ホッパー12を介して、シリンダー13内に供給される。シリンダー13内に供給される量は、供給制御部11により制御される。具体的には、混合された樹脂ペレット50および含浸材51は、成形に必要な量が所定時間ごとにシリンダー13に供給されるよう、供給制御部11により制御される。樹脂ペレット50および含浸材51は、シリンダー13の内部に設けられたスクリューにて計量、加熱混練、溶融された後、スクリュー先端のノズルと接続された成形金型14内に射出される。成形金型14を保圧、冷却することでレンズが成形される。その後、成形金型14を開き、成形されたレンズが取り出される。
【0016】
図2を用いて、本実施形態で成形される対物レンズについて説明する。対物レンズ100は、波長400nm近傍の光を光ディスクの情報記録面上に集光しスポットを形成する。対物レンズ100の開口数(NA)は、0.85以上である。
【0017】
図2(a)に示すように対物レンズ100は、両凸形状であり、第1光学面101と第2光学面102を備える。第1光学面101には、ピッチが5μm以下の鋸歯形状の回折構造103が形成されている。この回折構造103は、鋸歯形状だけでなく、階段形状の回折構造であってもよい。また、鋸歯形状の回折構造と階段形状の回折構造が同一面上に形成され構成であってもよい。この階段形状は、位相段差形状やバイナリー形状と称されることもある。第1光学面101および第2光学面102は非球面形状である。第1光学面101における光軸近傍の曲率半径は、1.0mm以下である。このような、ピッチが5μm以下の微細構造や曲率半径が比較的小さな対物レンズであっても、上述した含浸率で成形することにより、金型の転写性を向上させることができる。その結果、所望の光学特性を実現する対物レンズを得ることができる。
【0018】
また、対物レンズ100は図2(b)に示すように、第1光学面101と光軸Xに垂直な線分Lとで規定される傾斜角度θが55°以上に設定されている。このように傾斜角度が大きな対物レンズであっても、上述した含浸率で成形することにより、金型の転写性を向上させることができる。その結果、所望の光学特性を得ることができる対物レンズを得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0020】
(実施例1−1)
本実施例では、対物レンズの樹脂材料として、ヒンダードアミン化合物を含むシクロオレフィン系樹脂材料である日本ゼオン製ZEONEX340Rを用いた。本実施例では、二酸化炭素の含浸率が1wt%の樹脂材料を用いて、対物レンズの成形を行った。
【0021】
本実施例の対物レンズの成形において、一回当たりの樹脂材料の使用量は約2gであり、一度の成形で4個のレンズが成形できる。まず、成形機1台の生産数に見合う樹脂の使用量に対応した樹脂ペレット50を乾燥装置40で乾燥させた。本実施例では成形回数120回分に相当する約240gの樹脂ペレット50を金属性の受け皿に入れ、乾燥装置40にて、100℃で3時間放置して乾燥させた。その後、乾燥させた樹脂ペレット50を含浸装置30の容器内に入れ、ふたをして密閉し、ボンベ31から二酸化炭素を容器32内に供給した。本実施例では、2MPaで12時間かけて二酸化炭素を樹脂ペレット50内に含浸させた。このときの含浸率は2%であった。含浸率は、含浸後の樹脂材料の重量と含浸前の樹脂材料の重量との差分を求め、その差分を含浸後の樹脂材料の重量で割ることで求めた。
【0022】
その後、含浸材51を混合装置20の混合部21上部に設けた、投入口から全量を投入した。含浸率2wt%の含浸材51と、バージン材である樹脂ペレット50を混ぜて希釈混合して含浸率が1wt%となるようにした。混練後の樹脂材料は、混合装置下部の低温保管部22に移して保管した。低温保管部22は-5℃に保たれており、二酸化炭素が、含浸材51から放出する速度を制御する効果がある。次に、低温保管部22から搬送路を通して供給制御部11へ一定量を搬送した。本実施例では、240g全量を一度に搬送せず、60gづつを4回に分けて搬送した。なお、搬送路から自動供給する方法以外に、低温保管部から手作業で容器に移して、供給制御部11へ移しても良い。供給制御部11に一旦保管された樹脂材料は、ホッパー12を介して成形装置10に一定量を供給される。しかし、ホッパー12の温度が70度程度になっているため、長時間含浸材51を停留させると、二酸化炭素の放出が多くなり、所望の含浸率と違った状態になる。従ってその後射出成形して得られる対物レンズの形状転写状態が不良となってしまう。このため、供給制御部11からホッパー12に供給される樹脂材料は、成形装置10のシリンダー13で溶融する樹脂の許容量と同等分だけ供給する。具体的には、1回の成形で使用する樹脂材料2gとし、成形回数10回分に相当する20gの樹脂材料を供給した。そして、10回の成形が終了する前に次の10回分の量の樹脂材料をホッパー12に供給した。ホッパー12からシリンダー13に移動した樹脂材料は、溶融状態となる。シリンダーは、外部にバンドヒーターが設置してあり、所望の温度に昇温が可能である。一旦溶融すると、シリンダー内では、二酸化炭素は超臨界状態となるため、含浸材の中から二酸化炭素は放出されず、一定の含浸率となる。本実施例では、シリンダー温度は、260度程度に設定した。ただし、シリンダー13の先端部の温度は、溶融した樹脂材料がシリンダー13の先端部からたれるのを防止するため、240度とした。そして、シリンダー13で溶融された樹脂材料を、125度に温度管理された金型14内に射出し、シリンダー13からの保圧力で一定時間保持し、成形型14を閉じた状態で40sec間維持した。その後、成形型14を開いて、成形品を取り出した。成形したレンズの性能を評価した結果、透過波面のトータル収差スペック40mλ以下に対して25mλであり、青色光の回折効率は61%と所望の60%を超える結果であり、光学特性を満足するものであった。
【0023】
(実施例1−2)
含浸材の製造方法は、実施例1−1と同様にして行った。まず、含浸装置30で含浸率2wt%の含浸材を作成し、その後、混合装置で1.3wt%に希釈した。そして、成形装置10の供給制御部11を介して含浸率1.3wt%の樹脂材料を成形装置10に供給して射出成形を行い、レンズを得た。成形された対物レンズの光学特性を調べたところ、透過波面収差は平均20mλであり、回折効率62%であり、良好な結果であった。
【0024】
(実施例1−3)
含浸材の製造方法は、実施例1−1と同様にして行った。まず、含浸装置で含浸率2wt%の含浸材を作成し、その後、混合装置20で1.5wt%に希釈した。そして、成形装置10の供給制御部11を介して含浸率1.3wt%の樹脂材料を成形装置10に供給して、射出成形を行い、レンズを得た。成形されたレンズの光学特性を調べたところ、透過波面収差は平均23mλであり、回折効率は64%であり、良好な結果であった。
【0025】
(比較例1−1)
含浸材の製造方法は、実施例1−1と同様にして行った。まず、含浸装置20で含浸率1wt%の含浸材を作成し、その後、混合装置20で0.8wt%に希釈した。そして、成形装置10の供給制御部11を介して含浸率0.8wt%の樹脂材料を成形装置10に供給して、射出成形を行い、レンズを得た。成形されたレンズの光学特性を調べたところ、透過波面収差は平均23mλで良好な結果だったが、回折効率は57%であり所望の回折効率を得ることができなかった。回折構造の形状転写性と回折効率は相関があることがわかっている。含浸率0.8wt%のとき、溶融状態の樹脂材料は、Tg(カ゛ラス点移転温度)が樹脂材料の元の値とさほど変わらない状態であり、流動性も、二酸化炭素が含浸される前の樹脂材料とほとんど違いの無い流動性であった。そのため、レンズ表面の回折構造の先端部分に樹脂材料が十分入り込むことなく、冷却されたため、回折効率が悪かったと考えられる。
【0026】
(比較例1−2)
含浸材の製造方法は、実施例1−1と同様にして行った。まず、含浸装置20で含浸率2wt%の含浸材を作成し、その後、混合装置20で1.7wt%に希釈した。そして、成形装置10の供給制御部11を介して含浸率1.7wt%の樹脂材料を成形装置10に供給して、射出成形を行い、レンズを得た。成形されたレンズの光学特性を調べたところ、透過波面収差は平均50mλであり、回折効率50%であった。含浸率1.7wt%のとき、溶融状態の樹脂材料中には、過剰に二酸化炭素が溶融している。そのため、射出、冷却工程において、余分な二酸化炭素がレンズ表面から成形型14内に放出される過程で凝集し、発泡状態となってレンズ表面に残留してしまったため、レンズ性能が得られなかったと考えられる。
【0027】
(実施例2−1)
本実施例では、対物レンズの樹脂材料として、ヒンダードアミン化合物および蛍光像増白材を含む樹脂材料である日本ゼオン製ZEONEX350Rを用いた点で実施例1−1と異なる。本実施例では、実施例1−1と同様の方法を用いて含浸率1.0wt%の樹脂材料を作成した。含浸率1.0wt%の樹脂材料を実施例1−1と同様の条件で成形した。成形されたレンズの光学特性を調べたところ、良好な結果であった。
【0028】
(実施例2−2)
含浸材の製造方法は、実施例2−1と同様にして行った。まず、含浸装置20で含浸率1.0wt%の含浸材を作成し、その後、混合装置30で0.5wt%に希釈した。そして、成形装置10の供給制御部11を介して含浸率0.5wt%の樹脂材料を供給して、射出成形を行い、レンズを得た。成形されたレンズの光学特性を調べたところ、透過波面収差は平均22mλであり、回折効率は62%であり良好な結果であった。
【0029】
(比較例2−1)
含浸材の製造方法は、実施例2−1と同様にして行った。まず、含浸装置20で含浸率2.0wt%の含浸材を作成し、その後、混合装置30で1.5wt%に希釈した。そして、成形装置10の供給制御部11を介して含浸率0.5wt%の樹脂材料を供給して、射出成形を行い、レンズを得た。成形されたレンズの光学特性を調べたところ、透過波面収差は平均60mλであり、回折効率62%であった。含浸率が高いため、比較例1−2と同様に発泡現象が発生し、収差が不良となったと考えられる。
【0030】
(比較例2−2)
含浸材の製造方法は、実施例2−1と同様にして行った。まず、含浸装置20で含浸率1.0wt%の含浸材を作成し、その後、混合装置30で0.4wt%に希釈した。そして、成形装置10の供給制御部11を介して含浸率0.4wt%の樹脂材料を供給して、射出成形を行い、レンズを得た。成形されたレンズの光学特性を調べたところ、透過波面収差は平均25mλであり、回折効率55%であった。含浸率が低いために比較例1−1と同様に、回折効率が不良となったと考えられる。
【0031】
以上から、ヒンダードアミン化合物を含むシクロオレフィン系樹脂材料(ZEONEX340R)と、ヒンダードアミン化合物および蛍光増白剤を含むシクロオレフィン系樹脂材料(ZEONEX350R)とで二酸化炭素の含浸率の適正範囲が異なることがわかった。具体的には、ヒンダードアミン化合物を含むシクロオレフィン系樹脂材料(ZEONEX340R)では、含浸率が1.0〜1.5wt%の範囲であれば良好な光学特性を得ることがわかった。また、ヒンダードアミン化合物および蛍光増白剤を含むシクロオレフィン系樹脂材料(ZEONEX350R)では、含浸率が0.5〜1.0wt%の範囲であれば良好な光学特性を得ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、樹脂の射出成形において、金型表面状態を成形品表面に高度に転写する製造法などに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0033】
10 成形装置
11 供給制御部
12 ホッパー
13 シリンダー
14 成形金型
20 混合装置
21 混練部
22 低温保管部
30 含浸装置
31 ボンベ
32 容器
40 乾燥装置
50 樹脂ペレット
51 含浸材
100 対物レンズ
101 第1光学面
102 第2光学面
103 回折構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色レーザを用いた光ピックアップ装置に搭載され、表面に微細構造を有する対物レンズの製造方法であって、
二酸化炭素の含浸率が0.5〜1.5wt%の樹脂材料を射出成形装置に供給する供給工程と、
前記供給された樹脂材料を金型内に射出し、レンズ形状に成形する成形工程と、
を備える、対物レンズの製造方法。
【請求項2】
前記対物レンズは、開口数が0.85以上である、
請求項1に記載の対物レンズの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂材料は、ヒンダードアミン化合物を含むシクロオレフィン系樹脂材料であり、
前記含浸率は、1.0〜1.5wt%である、
請求項1に記載の対物レンズの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂材料は、ヒンダードアミン化合物及び蛍光増白剤を含有したシクロオレフィン系樹脂材料であり、
前記含浸率は、0.5〜1.0wt%である、
請求項1に記載の対物レンズの製造方法。
【請求項5】
前記対物レンズは、前記微細構造が形成された光学面を備えており、
前記光学面の曲率半径が1.0mm以下である、
請求項1に記載の対物レンズの製造方法。
【請求項6】
前記微細構造が形成された面と光軸に垂直な線分とで規定される傾斜角が55度以上である、
請求項1に記載の対物レンズの製造方法。
【請求項7】
前記微細構造は、ピッチが5μm以下の回折構造である、
請求項1に記載の対物レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−125926(P2012−125926A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276537(P2010−276537)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】