説明

対象物の位置測定装置

【課題】簡素化・小型化しても高精度で距離を計測できる対象物の位置測定装置を提供する。
【解決手段】送信信号が反射器により反射され、直接波及び反射面で反射する反射波で伝搬し、合成波を離隔して設けられた2つの受信アンテナで受信し、2つの受信信号のうち大きな信号強度を有する受信信号を選択し利得制御部を介して出力する。位置演算回路300は、利得制御部の利得量に対する位相量が測定されてなる補正テーブルを用いて、受信信号から直交検波してなる直交ベースバンド信号に対して、利得量及び当該利得量に対応する位相量を補正し、これに基づいて距離を演算し、演算された距離及び選択された受信アンテナの情報に基づいて、2つの受信アンテナに対応して距離に対する合成波の受信位相を計算されてなる補正テーブルを用いて合成波の受信位相を得て補正された直交ベースバンド信号を再補正し、これに基づいて距離を再計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエレベータのかごなどの対象物の位置を測定するための距離及び速度の測定装置に関する。特に、エレベータのかごなどの対象物が階などの所定位置に位置したときだけでなく、常に当該対象物の位置を把握しておく運行管理システムにおいて適した対象物の位置測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術に係る対象物の位置測定装置としては、例えば、特許文献1に示す装置がある。測距方式としては、FM−CW方式(周波数変調−連続波信号方式)をベースとして、送信信号と反射物からの受信信号の差に基づくビート信号の周波数の値から距離や速度を算出している。
【0003】
また、従来技術に係る対象物の位置測定装置として、例えば、特許文献2に示す装置がある。測距方式としては、2周波方式をベースとして、異なる周波数の2つの送信信号の周波数の差の値と、反射物からのそれぞれの2つの受信信号の位相差の値から、距離を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−292529号公報。
【特許文献2】特開2003−222671号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の従来技術に係る対象物の位置測定装置は以上のように構成されているので、FM−CW方式固有の低高度領域で誤差が増える問題への対策のために、所定の高度に相当するビート信号と、これに対応する基準信号を用意し、これらの信号の位相比較を行って一致した場合に、ドップラシフト量をカウントして基準信号を補正することにより距離や速度を算出する。このため、基準信号の設定やカウントのタイミングにより回路規模が複雑となる課題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の従来技術に係る対象物の位置測定装置は以上のように構成されているので、異なる周波数の2つの送信信号の周波数差に応じた距離範囲が計測できる。具体的には1MHzの周波数差で150mの距離を計測できるが、測定距離範囲の拡張に伴い、2つの受信信号の位相差分解能の制約により測距誤差が増加する問題があった。
【0007】
本発明の目的は上記の課題を解決するために、FM−CW方式のような変復調回路、基準信号及びカウント回路等を排除して簡素化・小型化しても精度良く計測できる対象物の位置測定装置を提供することにある。
【0008】
また、本発明のもう1つの目的は、2周波方式をベースとしても、測定距離範囲の拡張に伴う計測誤差の増加を小さくすることができる対象物の位置測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る対象物の位置測定装置は、対象物が直線上でかつ当該直線に平行な反射面に沿って移動し、当該直線の一端に反射器が設けられ、上記対象物に設けられた対象物の位置測定装置であって、
少なくとも1つの周波数の送信信号を送信アンテナから上記反射器に向けて送信する送信手段と、
上記送信信号が上記反射器により反射された後、直接波及び上記反射面で反射する反射波で伝搬し、上記直接波及び上記反射波を含む合成波を、所定の距離だけ離隔して設けられた2つの受信アンテナで受信し、当該2つの受信アンテナで受信された2つの受信信号のうち大きな信号強度を有する受信信号を選択して出力するとともに、選択された受信信号に対応する選択された受信アンテナの情報を出力する受信手段と、
上記受信手段により受信された受信信号の信号レベルが一定となるように利得量及び位相量で利得制御する利得制御手段と、
上記利得制御された受信信号を、上記送信信号を局部発振信号として用いて直交ベースバンド信号に直交検波して出力する直交検波手段と、
上記直交検波手段からの直交ベースバンド信号に基づいて、上記対象物から上記反射器までの距離を演算する演算処理手段とを備え、
上記演算処理手段は、
(a)上記利得制御手段の利得量に対する位相量が予め測定されてなる第1の補正テーブルを格納する第1の記憶手段と、
(b)上記2つの受信アンテナに対応してそれぞれ計算され、上記距離に対する合成波の受信位相を予め計算されてなる第2の補正テーブルを格納する第2の記憶手段と、
(c)上記第1の補正テーブルを用いて、上記直交検波手段からの直交ベースバンド信号に対して、上記利得量及び当該利得量に対応する位相量を補正して補正された直交ベースバンド信号を計算し、上記補正された直交ベースバンド信号に基づいて上記距離を演算し、上記演算された距離及び上記選択された受信アンテナの情報に基づいて、上記第2の補正テーブルを用いて合成波の受信位相を得て、当該受信位相を用いて上記補正された直交ベースバンド信号を再補正し、上記再補正された直交ベースバンド信号に基づいて上記距離を再計算する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
従って、本発明に係る対象物の位置測定装置によれば、エレベータのかごなどの対象物の位置を従来技術に比較して高精度で測定することができ、ほとんど天候の影響を受けずに従来技術に比較して高精度で位置を測定できる。さらに、2つの受信アンテナを用いた空間ダイバーシティにより、距離方向に連続的な計測ができる。さらにまた、相対的な位置ではなく絶対的な位置を測定できるので、停電からの復旧時に、即座に当該対象物の位置を計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る対象物の位置測定装置1のブロック図である。
【図2】図1の対象物の位置測定装置1における電波伝搬経路を説明する説明図である。
【図3】図1の対象物の位置測定装置1において基準となる位置を求める方法を説明する波形図である。
【図4】図1の対象物の位置測定装置1において基準となる位置を求める際の、周波数差Δfに対して位相差で決まるアンビギティ(曖昧)を含まず一義的に決まる計測可能な最大距離Lmaxとそのときの距離分解能Ldとの関係を説明するためのグラフであって、(a)は送信信号の周波数差Δfが比較的小さい場合のグラフであり、(c)は送信信号の周波数差Δfが比較的大きい場合のグラフであり、(b)は送信信号の周波数差Δfがそれらの間の場合のグラフである。
【図5】図1の対象物の位置測定装置1において基準となる距離を測定後、対象物の移動時においては、直交ベースバンド信号I,Qの逆正接による位相量の変化と波長とを対応させて移動距離を算出する方法を説明するための説明図であって、(a)は直交ベースバンド信号I,Qの逆正接による位相量の変化を示す図であり、(b)は距離に対する位相量の変化を示す図である。
【図6】図1の対象物の位置測定装置1においてマルチパスによる合成波の距離に対する信号電力強度変化を示すグラフである。
【図7】図1の対象物の位置測定装置1におけるマルチパスによる合成波及び直接波の距離に対する受信位相の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態2に係る対象物の位置測定装置1aのブロック図である。
【図9】図8の2周波発振器101aの詳細構成を示すブロック図である。
【図10】図8の2直交検波器206Aの詳細構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る対象物の位置測定装置1の構成を示すブロック図である。本実施の形態において、対象物はエレベータのかごであり、図1において、対象物の位置測定装置1は、無線送信回路100と、無線受信回路200と、位置演算回路300を備えて構成される。ここで、無線送信回路100は、1周波発振器101と、分配器102と、増幅器103と、送信アンテナ104とを備えて構成される。また、無線受信回路200は、受信アンテナ201と、受信アンテナ202と、低雑音増幅器201A,202Aと、スイッチ203と、信号強度比較回路204と、利得制御部205と、1直交検波器206とを備えて構成される。さらに、位置演算回路300は、基準演算処理部301と、合成波位相補正部302と、利得位相補正部303と、演算処理部304とを備えて構成される。
【0013】
図2は図1の対象物の位置測定装置1における電波伝搬経路を説明する説明図であり、対象物の位置測定装置1をエレベータ塔400内のエレベータのかご410の上部に設けたときの電波伝搬経路を説明する説明図である。図2において、送信アンテナ104から放射された送信信号は、エレベータ塔400の塔頂部420に設けられた反射器420で反射された後、受信アンテナ201と受信アンテナ202で受信される。ここで、送信アンテナ104と各受信アンテナ201,202は、それらの開口面が同一平面上になりかつそれらの主ビーム方向が反射器420への方向となるように、エレベータのかご410上に設けられた対象物の位置測定装置1の上面上に設けられる。送信アンテナ104から反射器420を介して受信アンテナ201,202までの直接波の片道の距離をLとし、往復の距離を2Lとする。また、受信アンテナ201と受信アンテナ202は、エレベータ塔400内の一方の側壁面403からの水平方向の距離(アンテナ高さに対応する。)がそれぞれ距離h1と距離h2のごとく異なる距離に設けられ、電波伝搬におけるマルチパスによる受信信号強度がバースト的に低下する距離地点に対して、どちらかの受信アンテナ201,202では十分な受信信号強度が得られるように空間ダイバーシティが可能な設置を行う。なお、送信アンテナ104はエレベータ塔400内の一方の側壁面403からの水平方向の距離が距離h0となるように設けられている(h1<h0<h2)。図2において、一方の側壁面403での反射波を実線で示し、他方の側壁面404での反射波を破線で示している。ここで、送受信する電波は、垂直偏波、水平偏波、円偏波等のいずれでもよい。垂直偏波や水平偏波では、送信アンテナと受信アンテナで偏波面を揃える必要がある。但し、円偏波の場合は、送信アンテナと受信アンテナで偏波の回転方向を逆にする必要がある。
【0014】
次に、対象物の位置測定装置1の動作について以下に説明する。図2の無線送信回路100において、1周波発振器101は複数の周波数から予め設定した周波数f(例えば基準演算処理部301からの周波数指示信号Sfに基づいて設定される。)にステップ的に切り替えながら、同じく予め設定した振幅と位相を有する送信信号Stを発生して分配器102に出力する。なお、1周波発振器101は例えば図9のPLL回路115で構成され、これについては実施の形態2において詳述する。次いで、分配器102は入力される送信信号Stを2分配して、一方の送信信号Stを無線受信回路200の1直交検波器206に出力するとともに、他方の送信信号Stを電力増幅器103を介して送信アンテナ104に出力して送信アンテナ104から放射する。送信信号Stの周波数帯としては比較的高周波で高分解能が得られる24GHz帯を用いることができ、更なる高い周波数の60GHz又は77GHz帯のミリ波帯よりも構成要素を低コストで得られ、電波法令的にも利用可能な産業用周波数領域であり、欧州・北米・環太平洋の大部分で利用可能である。
【0015】
無線受信回路200において、エレベータの塔頂部402に設けられた反射器420により反射されて戻ってきた送信信号を受信アンテナ201と受信アンテナ202で受信する。受信アンテナ201で受信された受信信号は低雑音増幅器201Aを介して信号強度比較回路204に入力され、受信アンテナ202で受信された受信信号は低雑音増幅器202Aを介して信号強度比較回路204に入力される。信号強度比較回路204は、入力された2つの受信信号の信号強度を比較し、より大きな信号強度を有する受信信号を選択するようにスイッチ203を切り替えるとともに、より大きな信号強度を有する受信信号を受信したアンテナ情報を示すアンテナ選択信号Saを合成波位相補正部302に出力する。選択された受信信号Srは、エレベータ塔400内の反射器420からエレベータのかご410までの長距離から近距離までの種々の距離で移動するので広いダイナミックレンジを有しているので、例えばAGC(Automatic Gain Control)回路を含む利得制御部205により出力される受信信号Srの電力レベルが一定となるように電力制御を行った後、1直交検波器206に出力される。また、利得制御部205は、利得制御情報(利得量又は減衰量)に対応する、例えばAGC回路のAGC電圧を示すAGC電圧信号Svを利得位相補正部303に出力する。なお、利得制御部205内のAGC回路について、AGC電圧に対応する利得量(減衰量を含む)と位相量とが予め測定されて、補正テーブル303tとして利得位相補正部303内の記憶装置(例えばフラッシュメモリなどの記憶装置である。)に予め格納され、詳細後述する利得制御部205の利得量及び位相量の補正に用いる。
【0016】
次いで、1直交検波器206は、例えば図10の構成を有し(構成は図10を参照して実施の形態2において詳細後述する。)入力される受信信号に対して、分配器102からの送信信号を局部発振信号として用いて直交検波を行って直交ベースバンド信号I,Q(Si,Sq)を復調して位置演算回路300の基準演算処理部301に出力する。ここで、直交ベースバンド信号I,Q(Si,Sq)は、送信信号の0度成分を基準信号(局部発振信号)として直交検波して得られる受信信号のベースバンド信号I(Si)と、送信信号の90度成分を基準信号(局部発振信号)として直交検波して得られる受信信号のベースバンド信号Q(Sq)との2つの信号で構成される。各ベースバンド信号I,Q(Si,Sq)の各逆正接は受信信号の位相量に相当する。また、各ベースバンド信号I,Q(Si,Sq)の二乗和の平方根は受信信号の振幅に相当する。
【0017】
位置演算回路300において、基準演算処理部301は、送信信号の周波数が切り替えられたときの各周波数毎の2つのベースバンド信号I,Q(Si,Sq)を用いて、エレベータのかご410までの基準となる距離である位置情報を以下に説明するように演算して、演算結果を演算処理部304に出力する。
【0018】
図3は図1の対象物の位置測定装置1において基準となる位置を求める方法を説明する波形図である。上述のように送信アンテナ104、受信アンテナ201及び受信アンテナ202の開口面は同一平面にあるとすると、エレベータの塔頂部402の反射器420からアンテナ104,201,202の開口面までの片道の距離をLとし、送信信号の2つの周波数をf1とf2とし、このときの周波数差をΔf(=f1−f2)とし、2つの周波数f1,f2に対する片道の距離Lにおける位相差をΔφとし、電波伝搬速度をc(=3.0×10m/sec)とすると、次式(1)が成り立つ。
【0019】
【数1】

【0020】
従って、送信信号の周波数毎の2つのベースバンド信号1,Qから位相量θ、θを演算して求め、周波数差Δfに対する位相差Δφを求めることにより、片道の距離Lを算出することができる。
【0021】
図4は、図1の対象物の位置測定装置1において基準となる位置を求める際の、周波数差Δfに対して位相差Δφが0〜±π(ラジアン)で決まるアンビギティ(曖昧)を含まず一義的に決まる計測可能な最大距離Lmaxとそのときの距離分解能Ldとの関係を説明するためのグラフであって、(a)は送信信号の周波数差Δfが比較的小さい場合のグラフであり、(c)は送信信号の周波数差Δfが比較的大きい場合のグラフであり、(b)は送信信号の周波数差Δfがそれらの間の場合のグラフである。図4から明らかなように、周波数差Δfが大きいほど計測可能な最大距離Lmaxは短くなり、周波数差Δfが小さいほど計測可能な最大距離Lmaxは長くなる。また、1直交検波器206における性能として位相分解能が一定とすると、周波数差Δfが大きいほど距離分解能Ldは小さくなり、周波数差Δfが小さいほど距離分解能Ldは大きくなる。表1に、周波数差Δfと最大距離Lmax及び距離分解能Ld(位相分解能が1°の場合)の具体例を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
従って、対象物までの距離が不明の時には、まず、周波数差Δfが比較的小さい設定(計測可能な最大距離Lmaxが長く、距離分解能Ldが大きい)で計測し、順次、周波数差Δfが比較的大きい設定(計測可能な最大距離Lmaxが短く、距離分解能Ldが小さい)へと移行して計測を行う。ここで、周波数差Δfを大きくすると、計測可能な最大距離Lmaxが短くなり、実際の距離が計測可能な最大距離Lmaxを越えてアンビギティ(曖昧)を含むことが想定されるが、周波数差Δfに対応した計測可能な最大距離Lmaxは既知であるので、整数倍した計測可能な最大距離Lmaxを加算して補正を行うことにより、周波数差Δfが大きいときの距離分解能Ldが短い特徴を利用して、精度の高い計測を実現することができる。
【0024】
図5は、図1の対象物の位置測定装置1において基準となる距離を測定後、対象物の移動時においては、直交ベースバンド信号I,Q(Si,Sq)の各逆正接による位相量の変化と波長とを対応させて移動距離を算出する方法を説明するための説明図であって、(a)は直交ベースバンド信号I,Q(Si,Sq)の各逆正接による位相量の変化を示す図であり、(b)は距離に対する位相量の変化を示す図である。図5(b)において、501は基準位置での位相であり、502はかご410の位置での位相である。すなわち、図5は、エレベータのかご410までの基準となる距離(基準位置は、例えば、図2に示すように所定の階で着床しているときである。)を測定後、演算処理部304にて、対象物であるエレベータのかごの移動時においては、直交ベースバンド信号I,Q(Si,Sq)の各逆正接による位相量の変化と波長とを対応させて移動距離を算出する方法を説明するための説明図である。
【0025】
ここで、例えば、エレベータのかご410までの基準となる距離を測定したときのベースバンド信号を(I0,Q0)とし、移動後にサンプリングしたときのベースバンド信号を(I1,Q1)とすると、移動距離ΔLは次式(2)が成り立つ。エレベータのかご410が移動することにより位相量が−πから+πへと繰り返し変化し、これに応じて距離の変化が1波長分の距離(例えば、24.15GHzの場合の1波長は12.4mm)の整数倍に相当し、サンプリング周期に応じて1波長内の距離の算出や、サンプリング周期に応じた移動距離により速度の算出も可能である。また、任意のタイミングで基準となる距離を測定することや、対象物であるエレベータのかご410への着床センサ411(図2において、着床マーカー信号発生器412からの着床マーカー信号を受信して着床階情報を検出する。)からの階情報により、対象物の絶対位置を校正することができる。
【0026】
【数2】

【0027】
演算処理部304は、以下に示すように、合成波位相補正部302及び利得位相補正部303を用いて、距離演算結果に対して合成波位相及び利得位相の補正を行って補正後の距離の値を演算して位置情報として出力する。
【0028】
エレベータのかご410が長距離から近距離まで移動するので、広いダイナミックレンジを有する受信信号に対して利得制御部205にて適切な電力レベルに設定するに当たり、利得制御部205内の増幅器や減衰器のデバイス固有の特性に基づいて、利得位相補正部303の補正テーブル303tを参照してベースバンド信号I,Q(Si,Sq)を補正することにより、より正確な距離の値の算出を行う。すなわち、利得位相補正部303は、利得制御部206からのAGC電圧信号Svに基づいて、補正テーブル303tを参照することにより、利得量(減衰量を含む)に対応するAGC電圧に対応する利得量(減衰量を含む)及び位相量を得て、その補正情報を演算処理部304に出力する。これに応答して、ベースバンド信号I,Q(Si,Sq)の振幅及び位相を補正して距離を演算する。次いで、演算処理部304は、当該演算された距離に基づいて、以下に示すように、補正テーブル302tを用いて補正を行ってより正確な距離を演算して位置情報として出力する。
【0029】
図6は図1の対象物の位置測定装置1においてマルチパスによる合成波の距離に対する信号電力強度変化を示すグラフである。図6において、601はアンテナ高さ(本実施の形態においては、例えば図2のh1,h2に対応する。)が低いときの受信電力であり、602はアンテナ高さが高いときの受信電力であり、603はダイバーシティ処理後の受信電力である。ここで、例えば、直接波とエレベータ塔400の側壁面403又は404からの反射波による2つの経路のマルチパスにおける合成波は、受信電力をPrとし、送信電力をPtとし、送信アンテナ利得をGtとし、受信アンテナ利得をGrとし、直接波の送受アンテナ指向性をDdとし、間接波の送受アンテナ指向性Drとし、直接波の伝搬距離をr(=2L)、間接波の伝搬距離をrとし、エレベータ塔400の則壁面403,404の複素反射係数を(Γv)とし、k=2π/λとし、反射係数の位相遅れをΦとすると、次式が成り立つ。反射波が2つ以上の場合には、次式(3)中の括弧内第2項が相当する反射波の数だけ加算される。
【0030】
【数3】

【0031】
各受信アンテナ201,202においては、エレベータ塔400の各側壁面403,404からの距離が異なることにより、マルチパスによる受信信号強度がバースト的に低下する距離地点が変わるので、どちらかの受信アンテナ201,202では信号強度の大きな受信信号を得ることができて、距離の変化に対して連続的な計測が可能となる。受信アンテナ201,202の選択情報は信号強度比較回路204から合成波位相補正部302に送られる。
【0032】
図7は図1の対象物の位置測定装置1におけるマルチパスによる合成波701及び直接波702の距離に対する受信位相の変化を示すグラフである。図7の、距離に対する合成波701の受信位相のグラフは、上記式(3)の右辺の括弧内の複素数の虚数項から、受信アンテナ201,202毎に予め計算することができ、合成波位相補正部302内の記憶装置(例えばフラッシュメモリなどの記憶装置である。)に補正テーブル302tとして予め格納される。合成波位相補正部302は、信号強度比較回路204からのアンテナ選択信号Saに基づいて、選択された受信アンテナ201又は202に対応する補正テーブル302tを選択し、演算処理部304により利得位相補正部303による補正後の距離情報に応答して補正すべき受信位相の情報を演算処理部304に返信する。すなわち、演算処理部304は、合成波位相補正部302からの、選択された受信アンテナ201又は202に基づく補正すべき受信位相の情報に基づいて、直交検波されたベースバンド信号I,Q(Si,Sq)の位相を補正した後、より正確な距離を計算して位置情報として出力する。
【0033】
以上説明したように、実施の形態1に係る対象物の位置測定装置1によれば、位置演算回路300の基準演算処理部301は1直交検波器206からのベースバンド信号I,Q(Si,Sq)に基づいて基準の距離を演算して演算処理部304に出力し、演算処理部304は、合成波位相補正部302を用いて広いダイナミックレンジを有する受信信号に対する利得制御での利得及び位相の補正を行った後、利得位相補正部303を用いてマルチパスによる直接波に対する合成波の位相の補正を行うことにより、より正確な距離の値の算出を行う。従って、エレベータのかご410の位置を従来技術に比較して高精度で測定することができ、ほとんど天候の影響を受けずに従来技術に比較して高精度で位置を測定できる。さらに、2つの受信アンテナを用いた空間ダイバーシティにより、距離方向に連続的な計測ができる。さらにまた、相対的な位置ではなく絶対的な位置を測定できるので、エレベータ塔400の停電からの復旧時に、即座にエレベータのかご410の位置を計測できる。
【0034】
実施の形態2.
図8は本発明の実施の形態2に係る対象物の位置測定装置1aのブロック図である。図8において、本実施の形態に係る対象物の位置測定装置1aは、無線送信回路100aと、無線受信回路200aと、位置演算回路300aとを備えて構成される。ここで、無線送信回路100aは、2周波発振器101aと、分配器102aと、電力増幅器103と、送信アンテナ104とを備えて構成される。また、無線受信回路200aは、受信アンテナ201,202と、低雑音増幅器201A,202Aと、スイッチ203と、信号強度比較回路204と、利得制御部205と、2直交検波器206Aとを備えて構成される。さらに、位置演算回路300aは、基準演算処理部301aと、合成波位相補正部302と、利得位相補正部303と、演算処理部304とを備えて構成される。
【0035】
なお、図8において、図1と同一の符号を付したものは、同一又はこれに相当するものであり、このことは明細書の全文において共通することである。また、明細書全文に表れている構成要素の形容は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない
【0036】
本実施の形態においては、対象物の位置測定装置1aをエレベータ塔400内のエレベータのかご410に設定し、2つの周波数f1,f2(これらの周波数差Δfは周波数f1,f2に比較して十分に小さいものとする。例えば、周波数f1,f2が24GHz帯であるときは、周波数差Δfは1乃至数MHz程度である。)の送信信号を用いてエレベータのかご410の距離を測定することを特徴とし、ここで、2波の送信信号が同時に伝搬し、その経路は実施の形態1に係る図2と同様である。実施の形態2の構成及び動作について、実施の形態1のそれらとの相違点について以下に説明し、同様のものについては詳細説明を省略する。
【0037】
図8において、2周波発振器101aは、基準演算処理部301aからの2つの周波数指示信号Sf1,Sf2に基づいて2つの周波数f1,f2の送信信号St1,St2を発生して分配器102aに出力する。分配器102aは入力される送信信号St1,St2をそれぞれ2分配して電力増幅器103を介して送信アンテナ104に出力するとともに、2直交検波器206Aに出力する。送信アンテナ104から放射される2つの送信信号は実施の形態1と同様に伝搬伝搬して受信アンテナ201,202に受信される。受信アンテナ201,202はそれぞれ2つの送信信号を受信して低雑音増幅器201A,202Aを介してスイッチ203及び信号強度比較回路204に出力する。ここで、2つの送信信号St1,St2の周波数差Δfは、計測可能な最大距離と距離分解能を考慮して表1に示すような値に設定し、周波数差Δfが小さいので、信号レベル差は無視できる程度に小さいものとする。従って、信号強度比較回路204はいずれかの周波数f1又はf2の信号強度を検出して、実施の形態1と同様に、大きな信号強度を有する受信信号を選択するようにスイッチ203を切り替えかつ選択した受信信号の受信アンテナ201又は202の情報を示すアンテナ選択信号Saを合成波位相補正部302に出力する。スイッチ203から出力される受信信号Srは利得制御部205を介して2直交検波器206Aに出力される。
【0038】
図9は図8の2周波発振器101aの詳細構成を示すブロック図である。図9において、2周波発振器101aは、図1の1周波発振器101の周波数安定化を図るPLL(Phase Locked Loop)回路115をベースに、2波のコヒーレンシーと安定した周波数差を維持するために基準発振器110を共通に用いたPLL回路125との2重化方式を用いた回路である。ここで、PLL回路115は、基準発振器110と、位相検波器111と、ループフィルタである低域通過フィルタ112と、高周波の電圧制御発振器113と、分周器114とを備えて構成される。また、PLL回路125は、基準発振器110と、位相検波器121と、ループフィルタである低域通過フィルタ122と、高周波の電圧制御発振器123と、分周器124とを備えて構成される。なお、基準発振器110を共通に用いたPLL回路115,125は2重化まででなく、3重化以上の構成にしてもよく、多周波のデータを同時に取得することにより、基準となる位置の確定を速やかに行うことができる。PLL回路115,125の動作としては、比較的低く安定した周波数を有する基準発振器110からの信号と、高周波の電圧制御発振器113,123からの出力信号を分周して低い周波数とした信号とを位相検波し、差成分が無くなるようにループフィルタを介して高周波の電圧制御発振器113,123を駆動する。基準発振器110を共有してこのようなPLL回路115,125を2重化することにより、2波のコヒーレンシーと安定した周波数差を得ている。なお、基準発振器110の周波数をf0とすると、分周器114は、周波数指示信号Sf1に基づいて、f1=f0×Nとなる分周比Nを設定して入力信号を分周し、分周器124は、周波数指示信号Sf2に基づいて、f2=f0×Nとなる分周比Nを設定して入力信号を分周する。
【0039】
図10は図8の2直交検波器206Aの詳細構成を示すブロック図である。図10において、2直交検波器206Aは2個の1直交検波器206,206aを備えて構成される。ここで、1直交検波器206は、π/2移相器211と、2個の混合器212,213と、2個の低域通過フィルタ214,215とを備えて構成される。また、1直交検波器206aは、π/2移相器221と、2個の混合器222,223と、2個の低域通過フィルタ224,225とを備えて構成される。従って、2直交検波器206Aは、利得制御部205からの受信信号(2つの周波数f1,f2の周波数成分を有する。)から、2つの局部発振信号St1,St2を用いて、周波数f1のベースバンド信号I,Q(Si1,Sq1)と、周波数f2のベースバンド信号I,Q(Si2,Sq2)を直交検波して基準演算処理部301aに出力する。
【0040】
位置演算回路300aの基準演算処理部301aは、2波の送信信号St1,St2のそれぞれの周波数f1,f2に対応するベースバンド信号I,Q(Si1,Sq1)I,Q(Si2,Sq2)を用いて、実施の形態1と同様に、エレベータのかご410までの基準となる位置情報である距離を演算する。従って、実施の形態1と同様に、対象物までの距離が不明の時には、2波の周波数差Δfが比較的小さく計測可能な最大距離Lmax及び距離分解能Ldが比較的大きな設定から計測を開始し、順次、2波の周波数差Δfを大きくして計測可能な最大距離Lmax及び距離分解能Ldが比較的小さな設定へと移行する計測手順を行う。
【0041】
ここで、実施の形態1と同様に、周波数差Δfを大きくすると、計測可能な最大距離が小さくなり、実際の距離が計測可能な最大距離を越えてアンビギティ(曖昧)を含むことが想定されるが、周波数差Δfに対応した計測可能な最大距離は既知であるので、整数倍した計測可能な最大距離を加算して補正を行うことにより、周波数差Δfが大きいときの距離分解能が小さい特徴を利用して、従来技術に比較して高精度で計測を実現することができる。
【0042】
エレベータのかご410の移動時においては、実施の形態1に係る図5の説明と同様に、2波の各ベースバンド信号I,Q(Si1,Sq1)(Si2,Sq2)のどちらかを用いて、各逆正接による位相量の変化と波長とを対応させて移動距離を算出する。サンプリング周期に応じて1波長内の距離の算出や、サンプリング周期に応じた移動距離により速度の算出も可能である。また、任意のタイミングで基準となる距離を測定することや、対象物であるエレベータのかご410への着床センサ411からの階情報により、対象物の絶対位置を校正することができる。
【0043】
実施の形態2における対象物の位置測定装置1aにおけるマルチパスによる合成波の信号強度変化は、実施の形態1に係る図6の説明と同様に、各受信アンテナ201,202においては、エレベータ塔400の側壁面403,404からの距離が異なることにより、マルチパスによる2波の受信信号強度がバースト的に低下する距離地点が変わるので、どちらかのアンテナでは強度の大きな2波の信号を得ることができて、距離の変化に対して連続的な計測が可能となる。
【0044】
なお、演算処理部304は、実施の形態1と同様に、合成波位相補正部302及び利得位相補正部303を用いて演算結果の距離を補正する。
【0045】
以上説明したように、実施の形態2に係る対象物の位置測定装置1aによれば、実施の形態2に係る対象物の位置測定装置1と同様の作用効果を有する。また、2周波発振器101aは2個のPLL回路115,125を用いて構成することにより、2周波のコヒーレンシーと安定した周波数差を得て2つの送信信号を高精度で発生することができる。
【0046】
以上の実施の形態1,2においては、対象物がエレベータのかご410の場合について説明しているが、本発明はこれに限らず、対象物が直線上でかつ当該直線に平行な反射面に沿って移動し、当該直線の一端に反射器が設けられ、当該対象物に設けられた対象物の位置測定装置であって、送信アンテナからの送信信号が反射器に向けて放射された後、直接波及び上記反射面で反射する反射波で伝搬し、所定の距離だけ離隔して設けられた2つの受信アンテナで受信する場合に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明に係る対象物の位置測定装置によれば、エレベータのかごなどの対象物の位置を従来技術に比較して高精度で測定することができ、ほとんど天候の影響を受けずに従来技術に比較して高精度で位置を測定できる。さらに、2つの受信アンテナを用いた空間ダイバーシティにより、距離方向に連続的な計測ができる。さらにまた、相対的な位置ではなく絶対的な位置を測定できるので、停電からの復旧時に、即座に当該対象物の位置を計測できる。
【符号の説明】
【0048】
1,1a 対象物の位置測定装置、100,100a 無線送信回路、101 1周波発振器、101a 2周波発振器、102,102a 分配器、103 電力増幅器、104 送信アンテナ、110 基準発振器、111,121 位相検波器、112,122 低域通過フィルタ、113,123 電圧制御発振器、114,124 分周器、115,125 PLL回路、200,200a 無線受信回路、201,202 受信アンテナ、201A,202A 低雑音増幅器、203 スイッチ、204 信号強度比較回路、205 利得制御部、206,206a 1直交検波器、206A 2直交検波器、211,221 π/2移相器、212,213,222,223 混合器、214,215,224,225 低域通過フィルタ、300,300a 位置演算回路、301,301a 基準演算処理部、302 合成波位相補正部、302t 補正テーブル、303 利得位相補正部、303t 補正テーブル、304 演算処理部、400 エレベータ塔、401 底面、402 塔頂部、403,404 側壁面、410 エレベータのかご、420 反射器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物が直線上でかつ当該直線に平行な反射面に沿って移動し、当該直線の一端に反射器が設けられ、上記対象物に設けられた対象物の位置測定装置であって、
少なくとも1つの周波数の送信信号を送信アンテナから上記反射器に向けて送信する送信手段と、
上記送信信号が上記反射器により反射された後、直接波及び上記反射面で反射する反射波で伝搬し、上記直接波及び上記反射波を含む合成波を、所定の距離だけ離隔して設けられた2つの受信アンテナで受信し、当該2つの受信アンテナで受信された2つの受信信号のうち大きな信号強度を有する受信信号を選択して出力するとともに、選択された受信信号に対応する選択された受信アンテナの情報を出力する受信手段と、
上記受信手段により受信された受信信号の信号レベルが一定となるように利得量及び位相量で利得制御する利得制御手段と、
上記利得制御された受信信号を、上記送信信号を局部発振信号として用いて直交ベースバンド信号に直交検波して出力する直交検波手段と、
上記直交検波手段からの直交ベースバンド信号に基づいて、上記対象物から上記反射器までの距離を演算する演算処理手段とを備え、
上記演算処理手段は、
(a)上記利得制御手段の利得量に対する位相量が予め測定されてなる第1の補正テーブルを格納する第1の記憶手段と、
(b)上記2つの受信アンテナに対応してそれぞれ計算され、上記距離に対する合成波の受信位相を予め計算されてなる第2の補正テーブルを格納する第2の記憶手段と、
(c)上記第1の補正テーブルを用いて、上記直交検波手段からの直交ベースバンド信号に対して、上記利得量及び当該利得量に対応する位相量を補正して補正された直交ベースバンド信号を計算し、上記補正された直交ベースバンド信号に基づいて上記距離を演算し、上記演算された距離及び上記選択された受信アンテナの情報に基づいて、上記第2の補正テーブルを用いて合成波の受信位相を得て、当該受信位相を用いて上記補正された直交ベースバンド信号を再補正し、上記再補正された直交ベースバンド信号に基づいて上記距離を再計算する制御手段とを備えたことを特徴とする対象物の位置測定装置。
【請求項2】
上記対象物はエレベータのかごであり、上記反射器はエレベータの塔頂部に設けられ、上記反射面はエレベータ塔の側壁面であることを特徴とする請求項1記載の対象物の位置測定装置。
【請求項3】
上記送信手段は2つの周波数の送信信号を送信し、上記受信手段は2つの周波数の受信信号を受信し、上記直交検波手段は上記2つの周波数の受信信号を上記2つの周波数の送信信号を局部発振信号として用いて2つの直交ベースバンド信号に直交検波して出力し、上記演算処理手段は上記直交検波手段からの2つの直交ベースバンド信号のうちの1つに基づいて、上記対象物から上記反射器までの距離を演算することを特徴とする請求項1又は2記載の対象物の位置測定装置。
【請求項4】
上記送信手段は、2つの周波数の送信信号を発生する2つのPLL回路を含むことを特徴とする請求項3記載の対象物の位置測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−12984(P2011−12984A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154940(P2009−154940)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】