説明

封着用ガラス

【課題】低温での信頼性に優れる封着性を維持しつつ、封着後のガラス(封着部)の耐候性を向上させた封着用ガラスを提供する。
【解決手段】封着用ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、30〜33%のP25と、63〜69%のSnOと、0〜3%のZnOと、0.1〜3%のWO3、TeO2、GeO2、Ga23、In23、La23、CaO、及びSrOからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むガラス組成物からなり、ガラス転移温度が250℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は封着用ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(Organic Electro−Luminescence Display:OELD)、電界放出ディスプレイ(Feild Emission Dysplay:FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)等の平板型ディスプレイ装置(FPD)、また照明用有機発光ダイオード(Organic Light Emittimg Diode:OLED)においては、表示素子や発光素子を形成した素子用ガラス基板と封止用ガラス基板とを対向配置し、これら2枚のガラス基板間を封着したガラスパッケージで素子を封止した構造が適用されている。色素増感型太陽電池のような太陽電池においても、2枚のガラス基板で太陽電池素子(色素増感型光電変換素子)を封止したガラスパッケージの適用が検討されている。
【0003】
2枚のガラス基板間を封着する材料としては、一般的に樹脂が用いられてきたが、有機EL(OEL)素子等は水分により劣化しやすいことから、耐湿性等に優れるガラス製封着材料の適用が進められている。ガラス製封着材料を電子デバイスの封着に適用する場合には、OEL素子等の電子素子部の特性劣化を抑制するために、低温での封着を可能にすることが求められる。低温封着用のガラス材料としては、例えば錫−リン酸系ガラスが知られている(特許文献1参照)。特許文献1には、25〜50モル%のP25、30〜70モル%のSnO、0〜15モル%のZnO等を含有し、SnOとZnOとのモル比がSnOの観点から5:1より大きい錫−リン酸系ガラスが記載されている。
【0004】
また、封着時におけるOEL素子等の電子素子部への熱的な悪影響を排除するために、レーザ光を用いて封止部のみを局所的に加熱して封着するレーザ封着技術の開発、実用化が進められている。レーザ封着に用いる材料としては、黒色のSnコロイドを含有させた封着用ガラス(特許文献2参照)が知られている。特許文献2には、25〜45モル%のP25、20〜40モル%のSnO、25〜50モル%のZnO等を含有する錫−リン酸系ガラスが記載されており、封着温度を低温化できる材料として注目されている。
【0005】
上述したような錫−リン酸系ガラスはガラス転移温度(Tg)が低く、封着温度を低温化できる材料として注目されているものの、必ずしも十分な耐候性が得られていないという難点を有している。従来の錫−リン酸系ガラスはガラスの安定性を高める成分としてZnOを含んでいるが、ZnOの配合量が多くなると焼成時にガラスが結晶化しやすくなり、封着性が低下してしまう。また、ZnOの配合量の増加はガラス転移温度(Tg)の上昇を招くおそれもある。このようなことから、ガラス転移温度(Tg)が低く、かつ耐候性に優れる封着用ガラスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−069672号公報
【特許文献2】特開2008−186697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低温での信頼性に優れる封着性を維持しつつ、封着後のガラスの耐候性を向上させた封着用ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の封着用ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、30〜33%のP25と、63〜69%のSnOと、0〜3%のZnOと、0.1〜3%のWO3、TeO2、GeO2、Ga23、In23、La23、CaO、及びSrOからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むガラス組成物からなり、ガラス転移温度が250℃以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の封着用ガラスによれば、低温で信頼性に優れる封着を実現した上で、封着後のガラス(封着部)の耐候性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態による電子デバイスを示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態による電子デバイスの製造工程を示す断面図である。
【図3】図2に示す電子デバイスの製造工程で使用する第1のガラス基板を示す平面図である。
【図4】図3のA−A線に沿った断面図である。
【図5】図2に示す電子デバイスの製造工程で使用する第2のガラス基板を示す平面図である。
【図6】図5のA−A線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。この実施形態の封着用ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、30〜33%のP25と、63〜69%のSnOと、0〜3%のZnOと、0.1〜3%のWO3、TeO2、GeO2、Ga23、In23、La23、CaO、及びSrOからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む錫−リン酸系ガラス組成物からなる。このような錫−リン酸系ガラス組成物からなる封着用ガラスは250℃以下のガラス転移温度(Tg)を有しており、これにより低温封着が可能となる。
【0012】
この実施形態の錫−リン酸系ガラス組成物において、P25とSnOは封着用ガラスの主成分を構成するものである。30〜33モル%のP25と63〜69モル%のSnOとからなる封着用ガラスはガラス転移温度(Tg)が低く、低温封着用のガラス材料として好適であるが、十分な耐候性を有する封着部を得ることができない。そこで、この実施形態の錫−リン酸系ガラス組成物は、WO3、TeO2、GeO2、Ga23、In23、La23、CaO、及びSrOからなる群より選ばれる少なくとも1種を0.1〜3モル%の範囲で含有させており、また必要に応じて3モル%以下のZnOを含有させている。
【0013】
WO3、TeO2、GeO2、Ga23、In23、La23、CaO、及びSrOからなる群より選ばれる少なくとも1種は、少量の配合でP25とSnOとからなるガラスの耐候性を向上させる効果を有している。従って、上記成分を封着用ガラス中に0.1モル%以上の範囲で含有させることによって、ガラスの耐候性を向上させつつ、ガラス転移温度(Tg)の上昇を抑制することができ、さらに焼成時における封着用ガラスの結晶化を抑制することが可能となる。ただし、上記成分の合計含有量が多すぎるとガラス転移温度(Tg)が上昇するため、上記成分の合計含有量は3モル%以下とする。
【0014】
この実施形態の錫−リン酸系ガラス組成物の各成分について詳述する。P25はガラス骨格を形成してガラスを安定化させる必須の成分であり、封着用ガラス中に30〜33モル%の範囲で含有させる。P25の含有量が30モル%未満であるとガラス転移温度(Tg)が高くなる。P25の含有量が33モル%を超えると環境(特に水分)に対する耐久性が低下する。ガラスの安定性や環境への耐久性等を考慮して、P25の含有量は特に31〜32.5モル%の範囲とすることが好ましい。
【0015】
SnOはガラスの軟化温度を低下させると共に、ガラスの流動性を向上させる必須の成分であり、封着用ガラス中に63〜69モル%の範囲で含有させる。SnOの含有量が63モル%未満であるとガラスの軟化温度が高くなり、封着工程におけるガラスの流動性が低下する。SnOの含有量が69モル%を超えるとガラス化が困難になる。SnOの含有量はP25との合計含有量が95〜99.5モル%の範囲となるように設定することがより好ましく、これによりガラス転移温度(Tg)が低下する。SnOの含有量はガラスの結晶性や流動性等を考慮して、特に65〜67モル%の範囲とすることが好ましい。
【0016】
ZnOはガラスの耐水性を向上させたり、また熱膨張係数を低下させる成分として含有させることができる。ただし、ZnOの含有量が多くなるとガラス転移温度(Tg)が上昇し、また焼成時に結晶化しやすくなるため、ZnOの含有量は0〜3モル%の範囲とする。ZnOの含有量が3モル%を超えるとガラス転移温度(Tg)が上昇すると共に、失透が発生しやすくなる。ZnOの含有量は2モル%以下とすることがより好ましい。
【0017】
WO3はガラスの結晶化を抑制しつつ、ガラスを安定化させる成分として、封着用ガラス中に3モル%以下の範囲で含有させることができる。WO3の含有量が3モル%を超えると、ガラスの軟化温度が高くなり、ガラス転移温度(Tg)が250℃を超えるおそれがあるため、低温での封着性が低下する。WO3の含有量は0.1〜2モル%の範囲とすることがより好ましく、特に1.5モル%以下とすることが好ましい。
【0018】
TeO2はガラスの結晶化を抑制しつつ、ガラスを安定化させる成分として、封着用ガラス中に3モル%以下の範囲で含有させることができる。TeO2の含有量が3モル%を超えると、ガラスの軟化温度が高くなり、ガラス転移温度(Tg)が例えば250℃を超えるおそれがあるため、低温での封着性が低下する。さらに、TeO2を含有させるとガラスが黒色化するため、レーザ光源から照射されるレーザ光や高輝度光源から照射される光ビーム等による封着に好適な封着用ガラスを提供することが可能となる。
【0019】
TeO2でガラスを黒色化する場合、ガラスの光吸収率を十分に向上させて光照射による加熱効率を高める上で、TeO2含有量は0.5モル%以上とすることが好ましい。TeO2の含有量は0.5〜2モル%の範囲とすることがより好ましく、これによりガラス転移温度(Tg)を低下させつつ、光吸収率が高い黒色ガラスを安定して得ることが可能となる。TeO2含有量は、特に0.5〜1.5モル%の範囲とすることが好ましい。
【0020】
GeO2はガラスの結晶化を抑制しつつ、ガラスを安定化させる成分として、封着用ガラス中に3モル%以下の範囲で含有させることができる。GeO2の含有量が3モル%を超えると、ガラスの軟化温度が高くなり、ガラス転移温度(Tg)が例えば250℃を超えるおそれがあるため、低温での封着性が低下する。GeO2の含有量は0.1〜2モル%の範囲とすることがより好ましく、特に1.5モル%以下とすることが好ましい。
【0021】
Ga23はガラスの結晶化を抑制しつつ、ガラスを安定化させる成分として、封着用ガラス中に3モル%以下の範囲で含有させることができる。Ga23は、特にガラスの耐候性の向上に有効な成分である。Ga23の含有量が3モル%を超えると、ガラスの軟化温度が高くなり、ガラス転移温度(Tg)が250℃を超えるおそれがあるため、低温での封着性が低下する。Ga23の含有量は0.1〜2モル%の範囲とすることがより好ましく、特に1.5モル%以下とすることが好ましい。
【0022】
In23はガラスの結晶化を抑制しつつ、ガラスの安定性や耐水性を向上させる成分として、封着用ガラス中に1モル%以下の範囲で含有させることができる。In23の含有量が1モル%を超えると、ガラスの軟化温度が高くなり、ガラス転移温度(Tg)が250℃を超えるおそれがある。In23の含有量は0.1〜1モル%の範囲とすることがより好ましく、特に0.5モル%以下とすることが好ましい。
【0023】
La23はガラスの結晶化を抑制しつつ、ガラスの安定性や耐水性を向上させる成分として、封着用ガラス中に3モル%以下の範囲で含有させることができる。La23の含有量が3モル%を超えると、ガラスの軟化温度が高くなり、ガラス転移温度(Tg)が250℃を超えるおそれがある。La23の含有量は0.1〜2モル%の範囲とすることがより好ましく、特に1.5モル%以下とすることが好ましい。
【0024】
CaOはガラスの安定性を高めつつ、ガラスの結晶化を抑制する成分として、封着用ガラス中に3モル%以下の範囲で含有させることができる。CaOの含有量が3モル%を超えるとガラスが不安定になる。CaOによる結晶化の抑制効果を得る上で、CaOの含有量は0.5モル%以上とすることが好ましい。CaOの含有量は0.5〜2モル%の範囲とすることがより好ましく、特に0.5〜1.5モル%の範囲とすることが好ましい。
【0025】
SrOはガラスの安定性を高めつつ、ガラスの結晶化を抑制する成分として、封着用ガラス中に3モル%以下の範囲で含有させることができる。SrOの含有量が3モル%を超えると、ガラスの軟化温度が高くなり、ガラス転移温度(Tg)が250℃を超えるおそれがある。SrOの含有量は0.5〜2モル%の範囲とすることがより好ましく、特に1.5モル%以下とすることが好ましい。
【0026】
この実施形態の錫−リン酸系ガラス組成物は、例えば0.1〜2%のWO3、0.5〜2%のTeO2、0.1〜2%のGeO2、0.1〜2%のGa23、0.1〜1%のIn23、0.1〜2%のLa23、0.5〜2%のCaO、及び0.5〜2%のSrOからなる群より選ばれる1種を含有するものである。これらの成分は単独で用いる場合に限らず、2種以上を複合して用いてもよい。その場合の含有量は合計量が0.1〜3モル%の範囲となるように設定する。上記成分の合計含有量が0.1モル%未満であると、P25とSnOとを主成分とするガラスの耐候性を十分に向上させることができず、また3モル%を超えるとガラス転移温度(Tg)が上昇して250℃を超えやすくなる。
【0027】
封着用ガラスとして用いる錫−リン酸系ガラス組成物は、上記した各成分から実質的になるものであるが、その目的を損なわない範囲でその他の成分、例えばMgO、Bi23、Y23、Gd23、Ce23、CeO2、TiO2、Ta25等を含有していてもよい。なお、封着用ガラスはPbOを実質的に含有しないことが好ましい。さらに、封着用ガラスはLi2O、Na2O、K2O等を実質的に含有しないことが好ましい。これらの化合物がガラス中に有意な量で存在すると、封着時に電子素子の電極や配線等にイオン拡散し、電子素子に劣化や特性低下が生じるおそれがある。
【0028】
上述した錫−リン酸系ガラス組成物からなる封着用ガラスによれば、主成分としての30〜33モル%のP25と63〜69モル%のSnOとに基づくガラス転移温度(Tg)、具体的に250℃以下のガラス転移温度(Tg)の上昇を抑制しつつ、ガラスの耐候性を向上させ、さらにガラスの結晶化を抑制することができる。従って、低温で結晶化させることなく封着することができ、その上で封着後のガラス(封着部)の耐候性を向上させた封着用ガラスを提供することが可能となる。すなわち、封着時の加熱温度の低下を実現した上で、封着信頼性と耐候性とに優れる封着部を得ることができる。
【0029】
この実施形態の封着用ガラスは、それをガラス化して鏡面研磨した厚さ2mmの板を、80℃、80%RHの環境に44時間放置した後に460nmの分光透過率を測定したとき、分光透過率の初期値に対する44時間後の分光透過率の割合が80%以上である耐候性を有することが好ましい。このような耐候性を満足させることによって、封着用ガラスを用いた封着した電子デバイス等の信頼性を高めることが可能となる。
【0030】
上述した実施形態の封着用ガラスは、例えばOELD、FED、PDP、LCD等のFPD、OEL素子(OLED)等の発光素子を使用した照明装置、色素増感型太陽電池のような太陽電池等の電子デバイスを構成するガラスパネル、MEMS(Micro Electro Mecanical System)や光デバイス等の電子部品のパッケージ、照明用バルブ、複層ガラスのようなガラス部材等の封着に適用することができる。図1は実施形態の封着用ガラスを使用した電子デバイスを示す図、図2は電子デバイスの製造工程を示す図、図3ないし図6はそれに用いるガラス基板の構成を示す図である。
【0031】
電子デバイス1は第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とを具備している。第1及び第2のガラス基板2、3は、例えば各種公知の組成を有するソーダライムガラスや無アルカリガラス等で構成される。ソーダライムガラスは80〜90×10-7/℃程度の熱膨張係数を有している。無アルカリガラスは35〜40×10-7/℃程度の熱膨張係数を有している。ただし、ガラス基板2、3の材質は特に限定されるものではない。
【0032】
第1のガラス基板2の表面2aとそれと対向する第2のガラス基板3の表面3aとの間には、電子デバイス1に応じた電子素子部(図示せず)が設けられる。電子素子部は、例えばOELDやOEL照明であればOEL素子、PDPであればプラズマ発光素子、LCDであれば液晶表示素子、太陽電池であれば色素増感型太陽電池素子(色素増感型光電変換部素子)等を備えている。表示素子、発光素子、色素増感型太陽電池素子等を備える電子素子部は各種公知の構造を有している。
【0033】
電子デバイス1における電子素子部は、第1及び第2のガラス基板2、3の表面2a、3aの少なくとも一方に形成された素子膜、電極膜、配線膜等により構成される。OELD、FED、PDP等においては、一方のガラス基板3(2)の表面3a(2a)に形成された素子構造体により電子素子部が構成される。この場合、他方のガラス基板2(3)は封止用基板となるが、フィルタ膜等が形成される場合もある。また、LCDや色素増感型太陽電池素子等においては、ガラス基板2、3の各表面2a、3aに素子構造を形成する素子膜、電極膜、配線膜等が形成され、これらにより電子素子部が構成される。
【0034】
電子デバイス1の作製に用いられる第1のガラス基板2の表面2aには、図3に示すように第1の封止領域4が設けられている。第2のガラス基板3の表面3aには、図5に示すように第1の封止領域4に対応する第2の封止領域5が設けられている。第1及び第2の封止領域4、5は封着層の形成領域(第2の封止領域5については封着材料層の形成領域)となる。第1及び第2の封止領域4、5で囲われた部分が素子領域となり、この素子領域に電子素子部が設けられる。
【0035】
第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とは、第1の封止領域4を有する表面2aと第2の封止領域5を有する表面3aとが対向するように、所定の間隙を持って配置されている。第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間の間隙は、封着層6で封止されている。封着層6は電子素子部を封止するように、第1のガラス基板2の封止領域4と第2のガラス基板3の封止領域5との間に形成されている。第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間に設けられる電子素子部は、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3と封着層6とで構成されたガラスパネルによって気密封止されている。
【0036】
封着層6は、第2のガラス基板3の封止領域5上に形成された封着材料層7を溶融・固化させることによって、第1のガラス基板2の封止領域4に固着させた溶融固着層からなるものである。電子デバイス1の作製に用いられる第2のガラス基板3の封止領域5には、図5及び図6に示すように枠状の封着材料層7が形成されている。第2のガラス基板3の封止領域5に形成された封着材料層7を加熱し、第1のガラス基板2の封止領域5に溶融固着させることによって、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間の空間(素子配置空間)を気密封止する封着層6が形成される。
【0037】
封着材料層7は、上述した実施形態の封着用ガラスを含有する封着材料の焼成層である。封着材料はその熱膨張率をガラス基板2、3の熱膨張率と整合させる上で、低膨張充填材を含有していてもよい。また、封着材料層7の加熱にレーザ光等による光加熱(局所加熱)を適用する場合、封着材料は顔料等の光吸収材を含有していてもよい。なお、TeO2を含む封着用ガラスを使用した場合には、ガラス自体が黒色であるため、光吸収材を含有させることなく、レーザ光等の光ビームによる加熱、溶融を実現することができる。
封着材料は低膨張充填材や光吸収材以外の添加材を必要に応じて含有していてもよい。
【0038】
低膨張充填材としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、コージェライト、ユークリプタイト、スポジュメン、リン酸ジルコニウム系化合物、酸化錫系化合物、及び石英固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。リン酸ジルコニウム系化合物としては、(ZrO)227、NaZr2(PO43、KZr2(PO43、Ca0.5Zr2(PO43、Na0.5Nb0.5Zr1.5(PO43、K0.5Nb0.5Zr1.5(PO43、Ca0.25Nb0.5Zr1.5(PO43、NbZr(PO43、Zr2(WO3)(PO42、これらの複合化合物が挙げられる。低膨張充填材とは封着材料の主成分である封着ガラスより低い熱膨張係数を有するものである。
【0039】
図1に示す電子デバイス1は、例えば以下のようにして作製される。まず、図2(a)に示すように、第1のガラス基板2と封着材料層7を有する第2のガラス基板3とを用意する。封着材料層7は、封着ガラスと低膨張充填材とを含有する封着材料をビヒクルと混合して封着材料ペーストを調製し、これを第2のガラス基板3の封止領域5に塗布した後に乾燥及び焼成することにより形成される。封着材料ペーストは、例えばスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷法を適用して第2の封止領域5上に塗布したり、あるいはディスペンサ等を用いて第2の封止領域5に沿って塗布する。
【0040】
上記した封着材料ペーストの塗布層を焼成して封着材料層7を形成する。焼成工程は、まず塗布層を封着材料の主成分である封着用ガラス(錫−リン酸系ガラス組成物)のガラス転移温度(Tg)以下の温度に加熱し、塗布層内のバインダ成分を除去した後、封着用ガラスの軟化温度以上の温度に加熱し、封着材料を溶融してガラス基板3に焼き付ける。このようにして、封着材料の焼成層からなる封着材料層7を形成する。
【0041】
次に、図2(b)に示すように、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3とを、それらの表面2a、3a同士が対向するように封着材料層7を介して積層する。次いで、図2(c)に示すように、封着材料層7を加熱して溶融させることによって、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3との間を封止する封着層6を形成する。封着材料層7の加熱は通常の加熱炉に限らず、レーザ光等の光ビームによる局所加熱を適用してもよい。その場合、光ビーム8は例えば枠状の封着材料層7に沿って走査しながら照射される。
【0042】
このようにして、第1のガラス基板2と第2のガラス基板3と封着層6とで構成したガラスパネルで電子素子部を気密封止した電子デバイス1を作製する。なお、実施形態の封着用ガラスは電子デバイス1の封着に限らず、電子部品のパッケージ、照明用バルブ、複層ガラスのようなガラス部材等の封着にも適用することが可能である。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の具体的な実施例及びその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではない。
【0044】
(実施例1〜8、比較例1〜4)
表1に示す組成となるように、Sn227、SnO、Zn(PO32、WO3、TeO2、GeO2、Ga23、In23、La23、Ca(PO32、及びSrCO3の各原料粉末を全成分の合計量が200gとなるように調合し、これら調合物を十分に混合した。各混合粉末を石英製のルツボに入れ、石英製の蓋をして950℃の電気炉で30分間溶融した。この後、蓋を外して融液をカーボン板上に流し出して急冷することによって、それぞれガラスを得た。以上の工程は全て乾燥窒素雰囲気のグローブボックス中で実施した。
【0045】
得られた各ガラスについて、ガラス転移温度(Tg)、結晶化ピーク温度(Tc)、耐候性を以下のようにして測定した。ガラス転移温度(Tg)及び結晶化ピーク温度(Tc)については、粉末状に加工したサンプル250mgを白金パンに充填し、示差熱分析装置(理学社製、製品名:Thermo Plus TG8110)により10℃/分の昇温速度で測定した。
【0046】
ガラスの耐候性は以下のようにして測定した。まず、各ガラスを2mmの厚さに加工し、表裏面を鏡面加工したサンプルを、80℃、80%RHの環境に44時間放置した後の変化を目視で確認した。目視による耐候性の評価結果を、◎:クリア(初期と変化なし)、○:ほぼクリア、△:クモリ、×:不透明、を基準として表1に示す。さらに、460nmの分光透過率を分光光度計(パーキンエルマー社製、製品名:ラムダ950)を用いて測定し、分光透過率の初期値T0に対する44時間後の分光透過率T1の割合を、[(T1/T0)×100(%)]の式に基づいて算出した。この値を表1に示す。なお、実施例2はガラスが黒色であるため、初期透過率が1%程度と低く、計算精度が低いため、「>90%」と記載した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかなように、実施例1〜8によるガラスはいずれもガラス転移温度(Tg)が250℃以下であり、また結晶化ピーク温度(Tc)も高いことが分かる。結晶化ピーク温度(Tc)とガラス転移温度(Tg)との差が大きいということは、封着時におけるガラスの結晶化を抑制できることを意味し、これにより健全な封着部を得ることが可能となる。また、実施例1〜8によるガラスは耐候性にも優れていることが分かる。なお、T1/T0比は目視による評価とよく一致しており、この値が大きいほど耐候性に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0049】
1…電子デバイス、2…第1のガラス基板、2a…第1の表面、3…第2のガラス基板、3a…第2の表面、4…第1の封止領域、5…第2の封止領域、6…封着層、7…封着材料層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で、30〜33%のP25と、63〜69%のSnOと、0〜3%のZnOと、0.1〜3%のWO3、TeO2、GeO2、Ga23、In23、La23、CaO、及びSrOからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むガラス組成物からなり、ガラス転移温度が250℃以下であることを特徴とする封着用ガラス。
【請求項2】
前記ガラス組成物のP25とSnOの合計含有量が、酸化物基準のモル%表示で95〜99.5%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の封着用ガラス。
【請求項3】
前記ガラス組成物のP25の含有量が、酸化物基準のモル%表示で31〜32.5%の範囲であることを特徴する請求項1又は2記載の封着用ガラス。
【請求項4】
前記ガラス組成物のSnOの含有量が、酸化物基準のモル%表示で65〜67%の範囲であることを特徴する請求項1乃至3のいずれか1項記載の封着用ガラス。
【請求項5】
前記ガラス組成物は酸化物基準のモル%表示で、0.1〜2%のWO3、0.5〜2%のTeO2、0.1〜2%のGeO2、0.1〜2%のGa23、0.1〜1%のIn23、0.1〜2%のLa23、0.5〜2%のCaO、及び0.5〜2%のSrOからなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の封着用ガラス。
【請求項6】
前記ガラス組成物をガラス化して鏡面研磨した厚さ2mmの板を、80℃、80%RHの環境に44時間放置した後に460nmの分光透過率を測定したとき、分光透過率の初期値に対する44時間後の分光透過率の割合が80%以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の封着用ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31001(P2012−31001A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170963(P2010−170963)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】