説明

射出成形又は射出圧縮成形を用いて低減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置及び方法

本発明は、射出成形又は射出圧縮成形を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置及び方法に関する。本発明に係る装置は、キャビティを備える射出成形又は射出圧縮成形のための工具を備え、工具が、キャビティに隣接する壁領域と、キャビティ近位の壁領域に隣接するキャビティ遠位のボディとを備え、工具のボディが、温度Tに温度調整可能に、壁領域が、温度Tとは異なる温度Tに温度調整可能に形成されていることを特徴とする。本発明に係る方法では、工具のキャビティ近位の壁領域の温度Tを射出プロセス前及び/又は中に、プラスチック成形材料のビカット温度Tより高い値にもたらして維持し、このとき、温度Tが工具のボディの温度Tを上回るようにし、キャビティ近位の壁領域の温度Tをプラスチック成形材料の硬化中かつ離型前にプラスチック成形材料のビカット温度Tを下回る温度にもたらす。結果として、軽減されたひけを有する、光学レンズ等の厚肉のプラスチック成形体が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形法又は射出圧縮成形法を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置及び方法において、結果として得られるプラスチック成形部品が、従来慣用の装置及び方法と比較して低減された個数及び/又は程度のいわゆるひけ(Einfallstelle)を有する、射出成形法又は射出圧縮成形法を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置及び方法に関する。
【0002】
特に本発明は、3mmより大、有利には5mmより大、特に有利には8mmより大の壁厚さを有するプラスチック成形部品を製造するための装置及び方法において、プラスチック成形部品が熱可塑性の成形材料、有利にはPMMAから、射出成形法で得られるか、又は射出圧縮成形される、プラスチック成形部品を製造するための装置及び方法に関する。
【0003】
この種の厚肉のプラスチック成形部品は、例えば眼鏡用のプラスチックレンズである。その際、一般に、熱硬化性の注型材料(CR39)及び熱可塑性の成形材料が使用される。使用目的に応じて、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリルイミド、シクロ‐オレフィン‐コポリマー、ポリカーボネート又はコポリカーボネートが使用される。
【0004】
公知の方法において、均等な壁厚さのレンズブランクは、30秒未満のサイクル時間で製造され、通常、標準射出成形プロセスが使用される。成形材料は、充填期間において、小さく寸法取りされた通路を介して工具のキャビティ内に注入される。非晶質のプラスチックは、冷却期間において、10体積%以上までの範囲の高い密度低下を被るので、この材料収縮は、後続の保圧期間(Nachdruckphase)において、射出成形装置の射出ピストンによるプラスチック溶融物の補充により補償される。
【0005】
標準射出圧縮成形プロセスの場合は、標準射出成形法とは異なり、プラスチック材料が、第1の充填期間において、予め拡大されたキャビティに供給され、次にプラスチック成形材料が、軸方向の型締めにより圧縮成形される。第1の充填期間において予め拡大されたキャビティに供給される材料の質量は、後に取り出される部品の材料の質量に等しい。軸方向の工具の運動により、予め拡大されたキャビティは縮小され、キャビティの残りの充填が行われる。標準射出圧縮成形法は、材料収縮の結果として生じるひけを回避するために、簡単な光学部品のために使用される。
【0006】
しかし、同時に、プラスチック成形材料が最適なファウンテンフローでキャビティに流入可能なわけではないため、表面にマーキングが生じる恐れがある。低温の縁部層は、充填期間において移動不能である。工具温度をガラス転移温度近傍まで昇温することにより、低温の縁部層の発生は抑制される。しかし、このことから、サイクル時間の延長が生じる。
【0007】
ほぼ最適なファウンテンフローを保証するために、大きな部分ゲート(Teilanschnitt)が必要とされる。部分ゲートは、次にダストフリーに切断されなければならならず、かつ一般に光学部品を製造するためには使用できない。
【0008】
それにもかかわらず、厚肉のプラスチック成形部品、例えば光学レンズを熱可塑性の成形材料から、射出成形技術又は射出圧縮成形技術、例えばクローズ法(Schliesspraegen)、エクスパンション法(Expansionspraegen)又はシーケンシャル法(Sequentiellpraegen)を用いて製造する場合、いわゆる「ひけ」を回避するという課題に、主たる意義がある。厚肉の成形部品とは、一般に、少なくとも一箇所において少なくとも3mmの壁厚さを有する成形部品のことである。特に、成形部品が5mm、8mm又はそれ以上の厚さとなると、冷却及び離型後、「くぼんだ箇所(eingefallene Stelle)」が発見される。「くぼんだ箇所」とは、一般に、材料の増大した自由収縮(体積減少)が、過度に小さな材料厚さを有する欠陥に至る、完成した成形体の箇所のことである。この現象に対しては、確かに、理論上、スクリュー保圧の上昇により対応可能であるが、スクリュー保圧の上昇は、熱可塑性の材料の付加的なストレス負荷を結果的に生じ、場合によっては成形部品中の分子配向に導く場合がある。しかし、まさに光学用途のレンズ等の成形部品の場合、成形部品中の分子配向は極めて不都合である。それというのも、これにより、成形部品の光学的な品質が悪化してしまうからである。
【0009】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19913525号明細書(以下、刊行物1という)において、材料の体積減少を補償しながらプラスチック成形部品を賦形する方法が公知である。刊行物1によれば、キャビティ内の圧力下にある材料の、硬化又は冷却に基づく体積減少が、型中空室の、キャビティ内の圧力に応じた可逆の拡張により補償される方法が開示されている。この補償は、例えばキャビティ内に挿入される弾性部材の形態の、圧縮圧に応じた反力を発生する系の取り付けにより達成される。このような方法は、確かに、個別の事例では、収縮を減じるために適したものと見なされるが、複雑であり、射出成形又は射出圧縮成形の実際の使用において、これまで確立されてこなかった。
【0010】
厚肉の成形部品を製造するための別の提案は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第10048861号明細書(以下、刊行物2という)に看取可能である。刊行物2は、2工程で行われる、光学レンズ用の厚肉のブランクを製造する方法及び装置を開示している。第1の工程において、まず、薄いレンズを射出成形により製造し、この薄いレンズを、第2の製造工程において、プラスチック材料の供給によりその最終的な厚さに拡大する、すなわち「膨らませる」。こうして、厚肉の成形部品の表面品質を薄肉の成形部品の品質に近付けることが可能であるが、収縮の減少及び収縮に起因するひけの減少のために、第1の期間の後、又は第2の期間の後にも、刊行物2では、付加的な圧縮期間が必要である。これにより、分子配向の問題が保圧期間中やはり生じる。
【0011】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10114228号明細書(以下、刊行物3という)において、多重工具の個々のキャビティ間及び射出プロセスのサイクル毎の射出部品の収縮特性を均等化する方法が公知である。この公知の方法では、キャビティ内の温度及び/又は内圧を監視し、工具の温度調整によって、充填期間の終わりあるいはキャビティ内の最大圧力から射出サイクルの終わりまで、基準推移に適応させる。
【0012】
国際公開第2004/058476号パンフレット(以下、刊行物4という)は、射出部品の製造を調整する方法を開示している。刊行物4の提案は、工具の温度を調整するというものである。さらに、キャビティ及び/又は成形コアが直接加熱又は冷却される。刊行物4の基本思想は、キャビティ又は成形コア(=圧縮加工ラム)の温度を冷却回路を介して調整するだけでなく、加熱素子も用いて調整することである。キャビティ又は成形コアが、過度に低い温度を有していることが判ると、加熱素子をより高温に制御する。キャビティ内の温度又は成形コアの温度が過度に高い場合は、冷却回路内の循環を増大する。目的は、いずれにしても、キャビティ内の圧力状態及び温度状態を一定に維持することである。
【0013】
しかし、刊行物3及び刊行物4により提案される、射出成形プロセス時の工具温度の調整にも、改善の余地がある。刊行物3及び刊行物4に記載の温度調整は、比較的緩慢な反応を示す。さらに、常にキャビティ全体が温度調整されなければならず、このことは、サイクル時間に悪影響を及ぼす緩慢な反応に加え、エネルギコストの上昇も招く。
【0014】
本明細書に例示し議論した従来技術に鑑みて、本発明の課題は、簡単に形成されている、射出成形法又は射出圧縮成形法を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置を提供することである。
【0015】
さらに本発明の課題は、可及的簡単な手段で、しかしそれにもかかわらず可変に、プラスチック成形部品を有利には熱可塑性のプラスチックから比較的高い光学的な品質を備えて形成する装置を提供することである。
【0016】
本発明の別の課題は、射出成形又は射出圧縮成形時のサイクル時間の短縮を可能とする、厚肉の成形部品を製造するための装置を提供することである。
【0017】
さらに、このサイクル時間の短縮が、保圧期間の負担又は保圧期間の延長に至らないことが望ましい。
【0018】
本発明の別の課題は、迅速に、確実に、かつコスト面で効率的に、プラスチック体の製造を簡単な手段で可能とする、射出成形法又は射出圧縮成形法を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法を提供することである。
【0019】
方法に関して、やはり本発明の課題は、射出成形又は射出圧縮成形を、結果として得られるプラスチック成形部品が、従来慣用の装置及び方法と比較して、軽減された個数及び/又は程度のいわゆるひけを有するように構成することである。
【0020】
これらの課題、及び詳細には言明しないものの、従来技術について前置きとして述べた議論から容易に推定されるか、又は自明に導き出される別の課題は、請求項1のすべての発明特定事項を含む装置により解決される。すなわち、本発明に係る、結果として得られるプラスチック成形部品が個数及び/又は程度の観点で軽減されたひけを有する、射出成形又は射出圧縮成形を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置は、キャビティを備える射出成形又は射出圧縮成形のための工具を備え、該工具が、前記キャビティに隣接する壁領域と、該キャビティ近位の壁領域に隣接するキャビティ遠位のボディとを備え、前記工具の前記キャビティ遠位のボディは、温度Tに温度調整可能に、前記キャビティ近位の壁領域は、前記温度Tとは異なる温度Tに温度調整可能に形成されている、ことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る装置の有利な形態は、装置発明の独立請求項を引用する請求項に係る発明である。好ましい形態において、前記工具の前記キャビティ近位の壁領域は、鋼からなる交換可能なキャビティフレームである。好ましい形態において、前記工具の前記キャビティ近位の壁領域及び前記工具の前記キャビティ遠位のボディは、互いに分離された温度調整回路を有している。好ましい形態において、前記壁領域の厚さが、前記キャビティ遠位のボディ及び前記キャビティ近位の壁領域からなる前記工具の総厚さの約1/20〜1/4である。好ましい形態において、前記壁領域の厚さが、前記キャビティ遠位のボディ及び前記キャビティ近位の壁領域からなる前記工具の総厚さの約1/10〜1/5である。好ましい形態において、上述の装置は、射出成形のための装置である。好ましい形態において、上述の装置は、射出圧縮成形のための装置である。好ましい形態において、可動の成形コア又は圧縮成形ラムを備え、該成形コア又は該圧縮成形ラムが、個別に温度Tに温度調整可能に形成されている。
【0022】
方法に関して、方法発明の独立請求項の発明特定事項は、方法に関する発明の根底にある課題を解決する手段を提示している。方法の有利な態様は、方法発明の独立請求項に従属する請求項において保護される。すなわち、本発明に係る、射出成形又は射出圧縮成形を用いて個数及び/又は程度に関して軽減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法は、上述の装置を用意し、熱可塑性のプラスチック成形材料を流動性の状態で前記装置の前記工具内に射出し、射出したプラスチック成形材料を硬化し、硬化したプラスチック成形材料を離型する、射出成形又は射出圧縮成形を用いて個数及び/又は程度に関して軽減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法において、前記工具の前記キャビティ近位の壁領域の温度Tを射出プロセス前及び/又は中に前記プラスチック成形材料のビカット温度Tより高い値にもたらして維持し、このとき、前記温度Tが前記工具の前記ボディの温度Tを上回るようにし、前記キャビティ近位の壁領域の温度Tをプラスチック成形材料の硬化中かつ離型前にプラスチック成形材料のビカット温度Tを下回る温度にもたらす、ことを特徴とする。好ましくは、前記キャビティ近位の壁領域の温度Tと前記キャビティ遠位のボディの温度Tとの間の差ΔT21を20℃より大に設定する。好ましくは、前記キャビティ近位の壁領域の温度Tと前記キャビティ遠位のボディの温度Tとの間の差ΔT21を40℃より大に設定する。好ましくは、前記工具の前記キャビティ近位の壁領域を、液状の媒体により、抵抗加熱により又は誘導式に温度調整する。
【0023】
最後に、使用のカテゴリの請求項は、本発明に係る方法の使用、すなわち、5mmより大の壁厚さを有する厚肉の射出成形部品又は射出圧縮成形部品を製造するための上述の方法の使用、8mmより大の壁厚さを有する厚肉の射出成形部品又は射出圧縮成形部品を製造するための上述の方法の使用、PMMA成形部品を製造するための上述の方法の使用、光学レンズを製造するための上述の方法の使用を保護する。
【0024】
特に、射出成形又は射出圧縮成形を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置において、キャビティを備える射出成形又は射出圧縮成形のための工具を備え、
工具が、キャビティに隣接する壁領域と、キャビティ近位の壁領域に隣接するキャビティ遠位のボディとを備え、工具のボディが、温度Tに温度調整可能に、壁領域が、温度Tとは異なる温度Tに温度調整可能に形成されていることを特徴とする、射出成形又は射出圧縮成形を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置により、
公知の装置を改良し、厚肉のプラスチック成形部品の製造を合理化し、かつ結果として得られる成形体の物理的特性及び化学的特性に関して規格協会及び加工事業者により課される要求を十二分に満たすに至る。特に、結果として得られる成形体は、ひけの個数及び/又は程度に関して、公知の装置を使用したときに入手可能な成形体と比較して、明らかに低減されたレベルを示す。加えて、本発明により、多数の付加的な利点を実現可能である。
【0025】
利点を以下に列挙する:
→射出成形時又は射出圧縮成形時の最適なプロセス温度による短縮されたサイクル時間、
→成形部品内の収縮特性に関する最適なプロセス温度、
→壁厚さの相違を有する成形部品において、方法の有利な作用が、特に成形部品のより厚肉の壁領域に現れる点、
→均等に作用する圧力分布又は圧縮成形圧分布、及びこれによる成形部品のひけの回避又は低減、
→分子配向がより少ないか、又はまったくなく、これにより、例えばレンズの光学的な品質が改善される点、
→成形部品の優れた寸法安定性、
→早期に冷え固まる縁部層が発生しないため、より長くかつより効果的な圧縮期間。
【0026】
射出成形又は射出圧縮成形を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための本発明に係る装置は、キャビティを備える射出成形又は射出圧縮成形のための工具を有している。
【0027】
「射出成形又は射出圧縮成形のための工具」なる概念は、「射出成形工具」あるいは「射出圧縮成形工具」なる表現と同義と解されるべきである。以下では、特に断りがない限り、「工具」なる概念は、常に、射出成形工具及び射出圧縮成形工具を含む概念と解される。これらの概念は、当業者であれば自明である。
【0028】
本発明に係る装置の工具は、キャビティを有している。キャビティとは、本発明の範囲内において、射出成形プロセス時又は射出圧縮成形プロセス時に熱可塑性のプラスチックが充填される中空室と解される。本発明が唯一のキャビティを備える工具に限定されるものではないことは、自明である。本発明は、2以上のキャビティを備え、単数又は複数のパーティング面を備える工具を備える装置も包含する。
【0029】
本発明の意味において、工具は、とりわけ、キャビティに隣接する壁領域と、キャビティ近位の壁領域に隣接するキャビティ遠位のボディとを備えることを特徴とする。工具は、単数又は複数のキャビティを包囲している。キャビティから見て、工具の、キャビティに接続し、かつキャビティを画成する領域を、工具のキャビティ近位の領域と呼ぶ。さらに、工具の、キャビティの方向から見て工具のキャビティ近位の壁領域に接続するキャビティ遠位の領域は、工具のいわゆるボディ又はキャビティ遠位のボディである。工具のキャビティ近位の壁領域の肉厚又は厚さは、広い範囲にわたって変更可能である。工具のキャビティ遠位のボディの肉厚又は厚さも、広い範囲にわたって変更可能である。一般に、工具のキャビティ遠位の領域の厚さに対する工具のキャビティ近位の壁領域の厚さの比は、1:100〜2:1の範囲にある。この場合、1つの工具に関する比は、一定であってよい。しかし、1つの工具において、複数の箇所に、工具の特別な構造及び工具に対する特別なプロセス要求に応じて、異なる厚さ比があってもよい。
【0030】
本発明の範囲内において、工具のキャビティ近位の壁領域の厚さが、工具のキャビティ遠位のボディの厚さ以下であると有利であることが判っている。キャビティ近位の壁領域の厚さが、キャビティ遠位のボディと比較して可及的小さく形成されていると特に有利である。工具のキャビティ遠位のボディに対するキャビティ近位の壁領域の厚さの比に関して、1:2以下、有利には1:5以下、特に有利には1:10以下の範囲の値が特に実証されている。特に有利な本発明に係る装置では、上述の比は、1:8〜1:2、有利には1:10〜1:5、特に有利には1:20〜1:10の範囲にある。
【0031】
工具の総厚さ又は総肉厚に関して、工具のキャビティ近位の壁領域の厚さは、やはり広い範囲にわたって延在可能である。
【0032】
有利な形態において、本発明に係る装置は、壁領域の厚さが、キャビティ遠位のボディ及びキャビティ近位の壁領域からなる工具の総厚さの約1/20〜1/4であることを特徴とする。
【0033】
装置に関して、壁領域の厚さが、キャビティ遠位のボディ及びキャビティ近位の壁領域からなる工具の総厚さの約1/10〜1/5であるとさらに有利である。
【0034】
本発明に係る装置は、特に、工具のボディが温度Tに温度調整可能に、壁領域が温度Tとは異なる温度Tに温度調整可能に形成されていることを特徴とする。この構成は、有利には、工具の壁領域及びボディのそれぞれ異なる温度調整を、より厳密に言えば極めて短時間で可能とする。工具のボディ全体の温度特性の、従来技術の実際の使用において観察される比較的高い反応の遅れは、工具のキャビティ近位の壁領域と工具の残りのボディとの、別個の温度調整可能性に関して実施される結合解除により、明らかに軽減される。このことから結果的に、特に有利には、工具のキャビティ近位の領域におけるより高い温度設定の可能性が生じ、キャビティに供給されるプラスチック材料に最終的に作用する熱が、プラスチック材料のより高い温度を生じるという結果を伴う。工具の壁領域と工具の残りのボディとを温度調整可能性に関して切り離したことにより、工具のキャビティ近位の縁部領域が、従来慣用の装置の場合と比べて長い期間にわたって温度調整される可能性が生じ、ひけの個数及び程度、すなわち、ひけの強度が、従来慣用の装置と比較して軽減されるという結果を伴う。
【0035】
工具のキャビティ近位の壁領域と工具の残りのボディとは、温度調整可能性に関して互いにそれぞれ異なる形式で切り離される。例えば、工具のキャビティ近位の領域に特別なコーティングを設けることが可能である。このコーティングは、例えば抵抗加熱を介して制御可能であるか、又は誘導式に制御可能である。この場合、当業者にとって自体公知のコーティング材料、例えばサーモセラミックコーティング(thermokeramische Beschichtung)が使用可能である。ただし、既存の工具の事後的なコーティングは、若干手間を要する場合がある。
【0036】
それゆえ、本発明の意味で、工具のキャビティ近位の壁領域及び工具のキャビティ遠位のボディが、互いに分離された温度調整回路を有していると有利である。こうして、工具の壁領域と工具の残りのボディとの間の温度差は、迅速、簡単かつ有利な形式で実現される。
【0037】
両温度調整回路の制御は、種々異なる形式で実施可能である。既に述べた抵抗加熱を介した制御又は誘導式の制御の他に、温度を液状の媒体、例えば水、オイル又は蒸気により調整することも可能である。
【0038】
その点において、本発明の範囲内において、工具のキャビティ近位の壁領域が交換可能であると、特に有利であることが判っている。それゆえ、本発明に係る有利な装置は、有利には鋼からなる交換可能なキャビティフレームを有している。キャビティフレームは、工具中空室のインナーライニングである。インナーライニングは、交換可能に形成されており、工具ボディとキャビティとを互いに隔離する。交換可能なキャビティフレームの利点は、とりわけ、新しいキャビティ形状へのフレームの迅速かつ個別の適合可能性、及び迅速な交換可能性にある。このために、キャビティフレームを、温度特性に関して著しく低い反応遅れを有する材料から製造可能である。このような比較的高価な材料の使用は、ボディ全体と比較して比較的低い質量成分又は体積成分に限定されている。
【0039】
既述の通り、本発明に係る装置は、有利には射出成形のために適している。
【0040】
本発明に係る装置の別の有利な使用分野は、射出圧縮成形である。射出成形とは異なり、射出圧縮成形の装置は、付加的に、可動の成形コア又は圧縮成形ラムを有している。この場合、本発明の範囲内において、成形コア又は圧縮成形ラムが、個別に温度Tに温度調整可能に形成されていることは、特に有利であり、かつ好ましい。この態様は、特に、圧縮成形ラムを介して付加的にエネルギを、キャビティ内に存在する材料に加えるために利用可能であり、結果として得られる成形部品の品質がさらに向上可能であるという結果を伴う。有利な形態において、この思想は、成形コア又は圧縮成形ラムがサーモセラミックからなるコーティングを有するように実現される。
【0041】
発明の対象は、射出成形又は射出圧縮成形を用いて個数及び/又は程度に関して軽減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法であって、
‐上述の装置を用意し、
‐熱可塑性のプラスチック成形材料を流動性の状態で装置の工具内に射出し、
‐射出したプラスチック成形材料を硬化し、
‐硬化したプラスチック成形材料を離型する、
射出成形又は射出圧縮成形を用いて個数及び/又は程度に関して軽減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法において、
‐工具のキャビティ近位の壁領域の温度Tを射出プロセス前及び/又は中にプラスチック成形材料のビカット温度Tより高い値にもたらして維持し、このとき、温度Tが工具のボディの温度Tを上回るようにし、
‐キャビティ近位の壁領域の温度Tをプラスチック成形材料の硬化中かつ離型前にプラスチック成形材料のビカット温度Tを下回る温度にもたらす、
ことを特徴とする、射出成形又は射出圧縮成形を用いて個数及び/又は程度に関して軽減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法にも関する。
【0042】
本発明に係る方法によれば、成形部品の縁部領域をより高温に、かつ場合によってはより長く温度調整可能であり、保圧作用又は圧縮成形力がより長く維持可能であるという結果を伴う。
【0043】
ビカット温度Tとは、DIN EN ISO 306(従来:DIN 53460)に規定されるビカット軟化温度(VST=Vicat softening temperature)と解される。ビカット温度は、ニードル(1mmの円形の面積を有する。)を用いて測定される。ニードルには、10N(試験力A)又は50N(試験力B)の検査力が加えられる。3〜6.4mmの許容可能な厚さを有する検体は、50あるいは120K/hの所定の加熱値に曝される。侵入体が1mmの侵入深さに達したとき、VSTに到達する。周辺条件の変更により、4つのパラメータの組み合わせ、すなわち、VST/A50、VST/A120、VST/B50及びVST/B120が生じる。本発明の目的には、特に断りがない限り、VST/B50の方法が使用される。
【0044】
原則、本発明に係る方法では、工具のキャビティ近位の壁領域、特に有利には上述のキャビティフレームが、射出プロセス前及び/又は中に、適当な加熱により、工具の残りのボディの温度レベルと比較してより高い温度レベルに温度調整される。キャビティ近位の縁部領域、有利にはキャビティフレームの温度操作は、その際、有利には射出成形サイクル又は射出圧縮成形サイクルに関して周期的になされる。さらに、射出期間中、キャビティ近位の縁部領域、有利には交換可能なキャビティフレームの形態のキャビティ近位の縁部領域を、長い保圧又は圧縮成形圧を維持するために、射出されるプラスチック材料のビカット温度を上回る高い温度レベルにもたらすことが有利である。プラスチック溶融物の均質な硬化後、工具のキャビティ近位の壁領域を適当な冷却により再びプラスチック材料のビカット温度を下回る温度、すなわち離型温度にもたらす。
【0045】
既述の通り、本発明に係る方法の利点は、温度変化に関する工具の反応遅れを克服し、これにより、成形部品におけるより高い温度にかかわらず、かつより長い保圧作用又はより長い圧縮成形力の作用にかかわらず、高速のサイクル時間を実現可能とすることにある。この関連で、キャビティ近位の壁領域の温度レベルTと工具の残りのボディの温度レベルTとの間の差が可及的大きいと有利である。
【0046】
したがって、本発明に係る方法の特に有利な態様は、キャビティ近位の壁領域の温度Tと工具のキャビティ遠位のボディの温度Tとの間の差ΔT21を20℃より大に設定することを特徴とする。
【0047】
さらに有利な態様は、キャビティ近位の壁領域の温度Tと工具のキャビティ遠位のボディの温度Tとの間の差ΔT21を40℃より大に設定することを特徴とする。
【0048】
このような温度差は、特に有利に、完成した成形体のひけの低減を生じる。
【0049】
方法の別の有利な態様では、工具のキャビティ近位の壁領域を液状の媒体により、抵抗加熱により又は誘導式に温度調整する、特に有利には液状又はガス状の媒体、例えばオイル、水又は蒸気により温度調整する。
【0050】
本発明の原理は、公知の射出成形法及び射出圧縮成形法に適用される。ただし、特に有利な効果は、プラスチックから厚肉の成形体を製造する際に現れる。
【0051】
有利には、本発明に係る方法は、5mmより大の壁厚さを有する厚肉の射出成形部品又は射出圧縮成形部品を製造するために使用される。
【0052】
別の有利な使用は、8mmより大の壁厚さを有する厚肉の射出成形部品又は射出圧縮成形部品の製造を含む。
【0053】
本発明に係る方法は、熱可塑性のプラスチック、例えばポリスチレン、ポリカーボネート、コポリカーボネート、シクロ‐オレフィン‐コポリマー、ポリメチルメタクリルイミド又はポリアクリレート及びポリメタクリレートから成形部品を製造するために適している。特に有利な使用は、PMMA成形部品の製造に関し、殊に有利なのは、光学目的のレンズである。
【0054】
以下に、本発明について、実施の形態及び比較例を基に、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】キャビティフレームを備える工具を理想化及び概略化して示す断面図である。
【図2】本発明に係る装置の一実施の形態の部分断面図である。
【図3】低温のフレームに関する構造厚さ分布を示すグラフである。
【図4】高温のフレームに関する構造厚さ分布を示すグラフである。
【0056】
図1及び図2のための符号一覧
1 キャビティフレーム
2 キャビティ
3 工具
3a 可動の工具側
3b 固定の工具側
4 圧縮加工ラム
5 工具プレート。
【0057】
図1は、工具の原理的な断面図である。符号3は、射出成形のための工具を示している。工具3は、内部に中空室2を有している。中空室2は、キャビティ2とも呼ばれる。さらに、工具のキャビティ近位の壁領域1及びキャビティ遠位のボディ5も看取可能である。縁部領域1は、中空室2に隣接している。中空室2から外側に向かって、キャビティ近位の壁領域1には、工具3のキャビティ遠位のボディ5が接続している。工具のキャビティ近位の壁領域1と、キャビティ遠位の領域又はキャビティ遠位のボディ5とは、相俟って工具3のボディ全体を形成している。
【0058】
図2には、工具の構成部分として、プレート3a及び3bが看取される。この2つのプレートを備える工具では、キャビティ2がプレート3aに統合されている一方、プレート3bは、完成した射出成形部品の離型のために開放可能である。
【0059】
構成群3a内のキャビティ2が一種のフレーム1により包囲されていることが極めて良好に看取される。このキャビティフレーム1は、図示の実施の形態では交換可能に形成されており、個別に温度調整可能である。さらに、図2には、キャビティ内で成形材料を圧縮するために使用可能な圧縮成形ラム4が看取される。
【0060】
キャビティの背壁、すなわち、キャビティの、工具の構成群3bにより形成される画成部が、やはり個別に温度調整可能に形成されていてもよいことは自明である。しかし、この温度調整可能性は、本発明の有利な効果を達成するのに必須ではない。
【0061】
図3は、低温のフレームに関する構成部品厚さ分布を示している。図4は、高温のフレームに関する構成部品厚さ分布を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結果として得られるプラスチック成形部品が個数及び/又は程度の観点で軽減されたひけを有する、射出成形又は射出圧縮成形を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置において、
キャビティを備える射出成形又は射出圧縮成形のための工具を備え、
該工具が、前記キャビティに隣接する壁領域と、該キャビティ近位の壁領域に隣接するキャビティ遠位のボディとを備え、
前記工具の前記ボディは、温度Tに温度調整可能に、前記壁領域は、前記温度Tとは異なる温度Tに温度調整可能に形成されている、
ことを特徴とする、射出成形又は射出圧縮成形を用いて厚肉のプラスチック成形部品を製造するための装置。
【請求項2】
前記工具の前記キャビティ近位の壁領域は、鋼からなる交換可能なキャビティフレームである、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記工具の前記キャビティ近位の壁領域及び前記工具の前記キャビティ遠位のボディは、互いに分離された温度調整回路を有している、請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
前記壁領域の厚さが、前記キャビティ遠位のボディ及び前記キャビティ近位の壁領域からなる前記工具の総厚さの約1/20〜1/4である、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記壁領域の厚さが、前記キャビティ遠位のボディ及び前記キャビティ近位の壁領域からなる前記工具の総厚さの約1/10〜1/5である、請求項1から4までのいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
射出成形のための請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
射出圧縮成形のための請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
可動の成形コア又は圧縮成形ラムを備え、該成形コア又は該圧縮成形ラムが、個別に温度Tに温度調整可能に形成されている、請求項7記載の装置。
【請求項9】
射出成形又は射出圧縮成形を用いて個数及び/又は程度に関して軽減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法であって、
請求項1から8までのいずれか1項記載の装置を用意し、
熱可塑性のプラスチック成形材料を流動性の状態で前記装置の前記工具内に射出し、
射出したプラスチック成形材料を硬化し、
硬化したプラスチック成形材料を離型する、
射出成形又は射出圧縮成形を用いて個数及び/又は程度に関して軽減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法において、
前記工具の前記キャビティ近位の壁領域の温度Tを射出プロセス前及び/又は中に前記プラスチック成形材料のビカット温度Tより高い値にもたらして維持し、このとき、前記温度Tが前記工具の前記ボディの温度Tを上回るようにし、
前記キャビティ近位の壁領域の温度Tをプラスチック成形材料の硬化中かつ離型前にプラスチック成形材料のビカット温度Tを下回る温度にもたらす、
ことを特徴とする、射出成形又は射出圧縮成形を用いて個数及び/又は程度に関して軽減されたひけを有する厚肉のプラスチック成形部品を製造する方法。
【請求項10】
前記キャビティ近位の壁領域の温度Tと前記キャビティ遠位のボディの温度Tとの間の差ΔT21を20℃より大に設定する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記キャビティ近位の壁領域の温度Tと前記キャビティ遠位のボディの温度Tとの間の差ΔT21を40℃より大に設定する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記工具の前記キャビティ近位の壁領域を、液状の媒体により、抵抗加熱により又は誘導式に温度調整する、請求項9から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
5mmより大の壁厚さを有する厚肉の射出成形部品又は射出圧縮成形部品を製造するための、請求項9から12までのいずれか1項記載の方法の使用。
【請求項14】
8mmより大の壁厚さを有する厚肉の射出成形部品又は射出圧縮成形部品を製造するための請求項13記載の使用。
【請求項15】
PMMA成形部品を製造するための請求項13又は14記載の使用。
【請求項16】
光学レンズを製造するための請求項15記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−532777(P2012−532777A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519946(P2012−519946)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057097
【国際公開番号】WO2011/006704
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee, D−64293 Darmstadt, Germany
【Fターム(参考)】