説明

射出成形金型装置

【課題】流動規制部が樹脂の流れを制限することで充填末端部を制御でき、強いウェルドラインの発生を抑え、製品外観面に充填末端部が発生することを防止する。
【解決手段】枠状部2を有する成形品1が成形されるときに、枠状部2の任意の一辺にある最後に樹脂が充填される位置(充填末端部)を中心とし、その一辺の長手方向で左右にそれぞれ樹脂の流動規制部20を構成する。この流動規制部20の形状は3次元形状であり、流動規制部20により充填末端部近傍での正面(Z)、左側面(X)、下側面(Y)方向の樹脂の流動を制御する。流動規制部20は成形品1の外観面に露出することのないように構成される。この構成により外観品質の良好な成形品1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂射出成形において高品位な外観を要する外装筐体部品を成形する射出成形金型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の樹脂射出成形における高品位な外観を要する外装筐体部品を成形するための射出成形金型装置としては、成形品が成形されるときに図9に示すような最後に樹脂が充填される位置近傍に、樹脂の流動規制部20を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。図9は特許文献1に記載された従来の流動規制部を有するディスクカートリッジを示す斜視図で、図10はシャッタの拡大斜視図、図11(a)はシャッタの正面図、(b)はB−B線の断面図である。
【0003】
図11(a),(b)において、シャッタ34の成形時に長方形の開口の右下部から流動規制部20に到達した樹脂は、流動規制部20で流路断面積が絞られ、流れの先端が固化し流れが止まる。その後、開口の左側から回り込んだ樹脂が前記流動規制部20に到達し、充填が完了する。これにより最後に樹脂が充填される位置のバラツキを意図的に制御するものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−278270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成における図12(a)に示すような製品では、流動規制部20を設けそれによって金型内の成形空間の流路断面積を絞り、片側からの樹脂の流れを止めるため、樹脂の流動を止めた側のフローフロント(流動先端部)では、もう一方から流れてくる樹脂のフローフロントより先に冷却固化を始める。そのため、樹脂の会合部分では強いウェルドラインが発生するという課題を有している。ウェルドラインとは、2つ以上のフローフロントが会合した場所に発生するVノッチ状や糸状の細い線状痕をいう。
【0006】
また、図12(b)で示す成形品形状の−Y方向と+Z方向の面が製品外観面で、流動規制部20で片側からの樹脂の流れが止められるため、充填末端部が流動規制部20により流路断面積を絞られた流動規制部20の上部35になり、前述したウェルドラインが製品外観面(流動規制部の上部35)に発生し外観不良となる課題を有している。
【0007】
さらに、図13(a),(b)で示すように、この流動規制部20の形状自体が、製品の外観面に露出されてしまい製品の外観を損ねるという課題も有している。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、流動規制部の形状が製品の外観面に露出されることなく、また、樹脂の流れを止めることなく制限することで充填末端部を制御するため、強いウェルドラインの発生を抑え、製品の外観面に樹脂の充填末端部が発生することを防止する射出成形金型装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載した射出成形金型装置は、成形品に有する枠状部の任意の一辺にある充填末端部を中心として左右にそれぞれ1つ以上設けた樹脂の流動規制部を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載した発明は、請求項1の射出成形金型装置において、流動規制部が、枠状部の長手方向の中心より内周側に偏って配置されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載した発明は、請求項1,2の射出成形金型装置において、流動規制部が、枠状部の短手方向の断面が台形形状であって、金型の分割面と台形形状の斜面とのなす角度が、内周側の斜面が外周側の斜面より大きく設定されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載した発明は、請求項1〜3の射出成形金型装置において、流動規制部が、成形空間を形成する金型部品と別部品で構成され、流動規制部と金型部品とは部品材質が異なり、かつ部品材質の熱伝導率は、流動規制部の方が金型部品より大きいことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載した発明は、請求項1〜4の射出成形金型装置において、流動規制部それぞれの上部に配置され樹脂の流れを分断する抜き曲げ形状の連結開口穴と、充填末端部の上部に配置される連結穴を有し、樹脂に挟み込まれて成形品と一体なるインサート部品を備え、連結開口穴と連結穴により充填末端部への樹脂の流れを創出することを特徴とする。
【0014】
前記構成によれば、枠状部を有する成形品の任意の一辺にある充填末端部を中心とし、その左右それぞれに成形品の外観面に露出することのない流動規制部を構成し、樹脂の流れを制限することで充填末端部の制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形品が成形されるときに最後に樹脂が充填される位置を意図的に制御し、強いウェルドラインの発生を抑え、かつ流動規制部の形状が成形品の外観面に露出することなく、成形品の充填末端部を非外観面にずらし、外観品質の良好な成形品を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1における成形品の構成を示す図
【図2】図1の成形品の(a)は陰線を破線で示す図、(b)は流動規制部の拡大斜視図
【図3】図1の成形品のC−C線の断面図
【図4】本実施の形態1における充填末端部の樹脂流動の工程(a)〜(e)を示すフロー図
【図5】本発明の実施の形態2における金型部品の構成を示す図
【図6】本実施の形態2における充填末端部の樹脂流動の工程(a)〜(e)を示すフロー図
【図7】本発明の実施の形態3における(a)は枠状部内にインサート部品を有する成形品を示す図、(b)は流動規制部近傍の拡大斜視図、(c)はインサート部品の拡大斜視図
【図8】本実施の形態3における充填末端部の樹脂流動の工程(a)〜(e)のフロー図である。
【図9】従来の成形品のディスクカートリッジを示す斜視図
【図10】ディスクカートリッジのシャッタの拡大斜視図
【図11】(a)はシャッタの正面図、(b)はB−B線の断面図
【図12】従来の成形品の(a)は斜視図、(b)は流動規制部の拡大斜視図
【図13】図12の成形品で(a)は流動規制部の正面図、(b)はA−A線の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における成形品の構成を示した図である。図1において、1は成形品、2は成形品1に含まれる枠状部、3は成形品1のゲート部、4は成形品1に含まれる開口、5は成形品1の相手部品である。また図2(a)は図1の成形品の陰線を破線で示し、20は流動規制部で、(b)は流動規制部の拡大斜視図、図3は図1のC−C線の断面図を示す。
【0019】
図2(a),(b)において、枠状部2を有する成形品1が成形されるときに、枠状部2の任意の一辺にある最後に樹脂が充填される位置(以後、充填末端部とする)を中心とし、その一辺の長手方向で左右にそれぞれ樹脂の流動規制部20を構成するようにしている。この流動規制部20の形状は3次元形状であることが好ましく、後述する充填末端部近傍での正面(Z)、左側面(X)、下側面(Y)方向の樹脂の流動を制御する役割を果たしている。また、流動規制部20は成形品1の外観面に露出することのないように構成される。最終の充填末端部は図3(a),(b)に示すように成形品1の枠状部2の開口4側(内周)で、成形品1の−Z側である成形品1の非外観面に充填末端部6の位置を制御することが最も望ましい。
【0020】
図2(b)において−Z方向から見たものが正面方向で、正面方向から見ると流動規制部20の形状は逆三角形状をなしている。これにより、枠状部2の外周側が内周側よりも樹脂の流路が広くなるため、その部分から先に樹脂が流れるため、充填末端部を成形品外観として目立ちにくい枠状部2の内周側に移動させる役割を果たしている。
【0021】
また、図2(b)でX方向から見たものが左側面方向で、枠状部2の短手方向左側面方向(枠状部2の短手方向)から見ると流動規制部20の形状は台形形状をなしている。この台形形状それぞれの斜面が金型の分割面となす角度で、枠状部2外周側の斜面の勾配は、枠状部2内周側の斜面の勾配より小さく設定されており、台形形状自体も枠状部2の長手方向の中心より枠状部2内周側に偏った位置に配置されている。これにより、枠状部2の外周側でかつ成形品1の+Z方向の樹脂の流路が広くなるため、その部分から先に樹脂が流れ、充填末端部を成形品外観として目立ちにくい枠状部2の内周側に移動させると共に成形品1の−Z側に移動させる役割を果たしている。
【0022】
また、図2(b)をY方向から見たものが下側面方向で、下側面方向から見ると流動規制部20の形状は三角形状をなしている。これにより、樹脂の流れが成形品1の+Z方向に規制され、充填末端部を成形品外観として目立ちにくい成形品1の−Z側に移動させる役割を果たしている。
【0023】
図3(a),(b)において、成形品1の−Z側付近には分割線7(金型の分割面)があり、流動規制部20により成形品1の−Z側に移動された充填末端部6を狙って金型の分割面にエアベントを例えば、深さ10μm、幅4mm、ランド2mm程度設けることで、充填末端部6から成形空間内の空気と、樹脂から発生したガスが効率的に排出され効率のよい成形が可能となる。
【0024】
図4は本実施の形態1における充填末端部の樹脂流動の工程(a)〜(e)のフロー図である。充填末端部6での正面、左側面、下側面の各方向の樹脂流動について、図2(a),(b)、図4を参照しながら説明する。
【0025】
図4において、工程(a)〜(e)は充填末端部の正面、左側面、下側面方向での樹脂の流れを時系列で表している。
【0026】
ゲート部3より射出された樹脂は成形空間を流れ、流動規制部20を有する充填末端部6に到達する。
【0027】
図4の工程(a)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側から充填末端部6に向け進行していく。左側面方向のD−D断面には樹脂のフローフロントはまだ到達していない。
【0028】
図4の工程(b)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側からおのおのの流動規制部20と接触する。
【0029】
正面方向では、流動規制部20の逆三角形状により枠状部2の内周側の流路断面積が制限される。枠状部2の外周側も、流動規制部20により一旦は流路断面積が制限されるが、その後、制限は緩んでいくため、流動規制部20に接触した樹脂のフローフロントは流路断面積が広く流れやすい枠状部2の外周側を先行して進行していく。
【0030】
下側面方向では、流動規制部20の三角形状により成形品1の+Z方向に流路が規制される。そのため、流動規制部20に接触した樹脂のフローフロントは流動規制部20の形状に沿って流れ、成形品1の+Z方向に進行していく。
【0031】
左側面方向のD−D断面には樹脂のフローフロントはまだ到達していない。
【0032】
図4の工程(c)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側からおのおのの流動規制部20の形状を越えて進行していく。
【0033】
正面方向では、工程(b)で現れた現象がさらに顕著に発生する。流動規制部20により流路断面積を制限された、枠状部2の内周側の樹脂の流れは流路断面積が広く流れやすい枠状部2の外周側の流れに比べ遅れ、逆に流動規制部20の逆三角形状の頂点を越え、流路断面積が広がっていく枠状部2の外周側の流れは速まる。
【0034】
下側面方向では、樹脂のフローフロントが流動規制部20の三角形状の頂点を越え、流路断面積が広がっていく。そのため、成形品1の+Z方向側の流れが先行して進行していく。
【0035】
左側面方向のD−D断面には樹脂のフローフロントはまだ到達していない。
【0036】
図4の工程(d)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側から充填末端部6付近で会合する。
【0037】
正面方向では、枠状部2の外周側の流れが内周側より先行して流れ、D−D断面で左右両側の樹脂のフローフロントが枠状部2の外周側から内周側に向けて会合していく。会合した樹脂は枠状部2の外周側から内周側へ進む流れへと方向を変え進行していく。
【0038】
下側面方向では、先行している成形品1の+Z方向の流れが進行し、D−D断面で左右両側の樹脂のフローフロントが成形品1の+Z方向から−Z方向に向けて会合していく。会合した樹脂は成形品1の+Z方向から−Z方向に進む流れへと方向を変え進行していく。
【0039】
左側面方向では、枠状部2の外周側で成形品1の+Z方向から樹脂が充填され、枠状部2の内周側で成形品1の−Z方向に向けて進行していく。
【0040】
図4の工程(e)では、正面,下側面,左側面方向共に樹脂の充填は完了する。
【0041】
正面方向では、枠状部2の内周側でD−D断面の位置が最終の充填末端部6となり樹脂の充填を完了する。
【0042】
下側面方向では、成形品1の−Z方向でD−D断面の位置が最終の充填末端部6となり樹脂の充填を完了する。
【0043】
左側面方向では、枠状部2の内周側で成形品1の−Z方向でD−D断面の位置が最終の充填末端部6となり樹脂の充填を完了する。
【0044】
このような樹脂の流れを流動規制部20により創出することにより充填末端部6を制御するため、強いウェルドラインの発生を抑え、成形品1の外観面に樹脂充填末端部6が発生することを防止することが可能となる。
【0045】
(実施の形態2)
図5は本発明の実施の形態2における金型部品の構成を示した図である。
【0046】
図5において、8は成形空間を形成する金型部品の上型、9は成形空間を形成する金型部品の下型、10は流動規制部品である。
【0047】
図6は本実施の形態2における充填末端部の樹脂流動の工程(a)〜(e)のフロー図である。図6において、図4と同じ構成要素については同じ符号を用い、重複する説明を省略する。
【0048】
図5において、実施の形態1で示した流動規制部20は、成形空間を形成する金型部品の上型8と下型9とは別部品(流動規制部品10)で構成されている。流動規制部品10の材質の熱伝導率をA、成形空間を形成する金型部品の上型8と下型9の材質の熱伝導率をそれぞれB,Cとしたとき、A>B、A>Cとなる材質にする。
【0049】
例として、流動規制部品10の材質を銅(20℃における熱伝導率は372W/mk),上型8,下型9の材質を炭素鋼(20℃における熱伝導率は53W/mk)とすると、流動規制部品10を炭素鋼で作った場合と比較すると約7倍の冷却効果が得られる。係る構成によれば、高効率の熱交換により樹脂の流動制御をより確実に行うことができる。
【0050】
図6における工程(a)〜(e)は、充填末端部6の正面,左側面,下側面方向での樹脂の流れを時系列で表している。
【0051】
図6の工程(a)〜(e)の各工程での樹脂の流れは、基本的に実施の形態1における図4の工程(a)〜(e)の各工程での樹脂の流れとほぼ同様となるため図4の流れと異なる部分についてだけを説明する。
【0052】
図6の工程(b)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側からおのおのの流動規制部品10と接触する。流動規制部品10は上型8と下型9の材質よりも熱伝導率が高い材質で作られているため、流動規制部品10に接触した高温の樹脂は、流動規制部品10との接触面で、高効率な熱交換を行う。これにより、流動規制部品10と接触した樹脂のフローフロントは上型8や下型9と接触した樹脂のフローフロントよりも、材質の熱伝導率分だけ早く冷却固化されるため、この部分の樹脂の流れは遅くなる。
【0053】
正面方向では、流動規制部品10と接触する部分の樹脂の流れが遅れ、枠状部2の外周側の樹脂の流れがより確実に先行して進行していく。
【0054】
下側面方向では、正面方向と同様に流動規制部品10と接触する部分の樹脂の流れが遅れ、成形品1の+Z方向の樹脂の流れがより確実に先行して進行していく。
【0055】
図6の工程(c)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側からおのおのの流動規制部品10の形状を越えて進行していく。流動規制部品10と接触した部分の樹脂は高効率な熱交換を行い、冷却固化が促進されるため流速が遅くなる。そのため、図6の工程(c)での樹脂の流れは、実施の形態1における図4の工程(c)よりも、さらに顕著な樹脂の流れとなる。
【0056】
このような樹脂の流れを流動規制部品10により創出することにより実施の形態1より、より確実に成形品1の外観面に樹脂の充填末端部6が発生することを防止することが可能となる。
【0057】
(実施の形態3)
図7(a)は本発明の実施の形態3における枠状部内にインサート部品を有する成形品を示す図、図7(b)は流動規制部近傍の拡大斜視図、図7(c)はインサート部品の拡大斜視図、図8は本実施の形態3における充填末端部の樹脂流動の工程(a)〜(e)のフロー図である。
【0058】
図7(a)に示すように、実施の形態1における成形品1に有する枠状部2内の開口4がインサート部品11で構成されている。図7(b)に示すように、インサート部品11は枠状部2の樹脂に挟み込まれる形で成形品12と一体となっている。また図7(c)に示すように、インサート部品11には樹脂の流動を誘導する抜き曲げ形状13と、連結穴14と抜き曲げ形状13を打ち抜いて作成するときにできる連結開口穴15を有している。
【0059】
図8において、図4,6と同じ構成要素については同じ符号を用い、重複する説明を省略する。工程(a)〜(e)は充填末端部6の正面,左側面,下側面方向での樹脂の流れを時系列で表している。
【0060】
図7に示すゲート部3より射出された樹脂は成形空間を流れ、インサート部品11で区切られた+Z方向と−Z方向の2つの成形空間を流れながら流動規制部20を有する充填末端部6に到達する。
【0061】
図8の工程(a)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側から充填末端部6に向け進行していく。左側面方向のF−F断面には樹脂のフローフロントはまだ到達していない。
【0062】
図11の工程(b)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側からおのおのの流動規制部20,抜き曲げ形状13と接触する。
【0063】
正面方向では、+Z方向の成形空間は、充填末端部6に向け進行していく。
【0064】
−Z方向の成形空間では、前述の実施の形態1における図4の工程(b)の正面方向の流れとほぼ同様となる。
【0065】
下側面方向では、+Z方向の成形空間は、インサート部品11の抜き曲げ形状13と接触する。インサート部品11の抜き曲げ形状13は、この抜き曲げ形状13を打ち抜いて作成するときにできる+Z方向と−Z方向の成形空間をつなげる連結開口穴15を有している。この連結開口穴15より、+Z方向の成形空間を流れる樹脂のフローフロントは−Z方向の成形空間に流れ込もうとするが、−Z方向の成形空間からも+Z方向の成形空間に樹脂が流れ込んでくるためこの連結開口穴15の位置で+Z方向の樹脂と−Z方向の樹脂のフローフロントが会合する。
【0066】
−Z方向の成形空間は、流動規制部20の三角形状により成形品12の+Z方向に流路が規制される。そのため、流動規制部20に接触した樹脂のフローフロントは流動規制部20の形状に沿って流れ、成形品12の+Z方向に進行していく。しかし、流動規制部20の頂点付近には、インサート部品11の抜き曲げ形状13と+Z方向と−Z方向の成形空間をつなぐ連結開口穴15があり、抜き曲げ形状13により+Z方向の成形空間に流れ込む樹脂と−Z方向の成形空間に流れ込む樹脂の流れに分断される。
【0067】
左側面方向のF−F断面には樹脂のフローフロントはまだ到達していない。
【0068】
図8の工程(c)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側からおのおのの流動規制部20,抜き曲げ形状13の形状を越えて進行していく。
【0069】
正面方向では、+Z方向の成形空間は、充填末端部6付近のF−F断面で左右方向からの樹脂のフローフロント同士が会合する。
【0070】
−Z方向の成形空間は、実施の形態1における図4の工程(c)の正面方向の流れとほぼ同様となる。
【0071】
下側面方向では、+Z方向の成形空間は、インサート部品11の抜き曲げ形状13により分断された−Z方向の樹脂が連結開口穴15を介して流れ込んでくる。これにより+Z方向の成形空間を流れる樹脂の流れは、成形品12の+Z方向の部分が先行して流れ、充填末端部6付近のF−F断面で左右方向からの樹脂のフローフロントは成形品12の+Z方向の部分から会合する。
【0072】
−Z方向の成形空間は、インサート部品11の抜き曲げ形状13により流れが分断されるものの、その後は、実施の形態1における図4の工程(c)の下側面方向の流れとほぼ同様となる。
【0073】
左側面方向のF−F断面は、成形品12の+Z方向から樹脂が充填され、成形品12の−Z方向に向けて流れは進行していく。
【0074】
図8の工程(d)では、正面,下側面方向で樹脂のフローフロントは左右両側から充填末端部6付近で会合する。
【0075】
正面方向では、+Z方向の成形空間は、F−F断面の位置で樹脂の充填が完了する。
【0076】
−Z方向の成形空間は、実施の形態1における図4の工程(d)の正面方向の流れとほぼ同様となる。
【0077】
下側面方向では、+Z方向の成形空間は樹脂の充填が完了し、左右方向の樹脂の会合部分にある連結穴14から−Z方向に向けて樹脂が流れ込む。−Z方向は、左右両側の先行している成形品12の+Z方向の樹脂のフローフロントと、インサート部品11の連結穴14を介して−Z方向の成形空間に流れ込む樹脂のフローフロントが、充填末端部6付近で成形品12の+Z方向から−Z方向に向けて会合していく。会合した樹脂は成形品12の+Z方向から−Z方向に進む流れへと方向を変え進行していく。
【0078】
左側面方向のF−F断面は、成形品12の+Z方向から、成形品12の−Z方向に向けて流れが進行し、+Z方向の成形空間が充填された後、インサート部品11の連結穴14を介して、−Z方向の成形空間へと、成形品12の+Z方向から、成形品12の−Z方向に向けて進行していく。
【0079】
図8の工程(e)では、正面,下側面,左側面方向共に樹脂の充填は完了する。
【0080】
正面方向では、+Z方向の成形空間はF−F断面の位置で樹脂の充填が完了する。
【0081】
−Z方向の成形空間は、枠状部2の内周側でF−F断面の位置が最終の充填末端部6となり樹脂の充填を完了する。
【0082】
下側面方向では、+Z方向の成形空間は樹脂の充填が完了し、左右方向の樹脂の会合部分にある連結穴14から−Z方向に向けて樹脂が流れ込む。
【0083】
−Z方向の成形空間は、左右方向からの樹脂のフローフロントと+Z方向からの樹脂のフローフロントが充填末端部6付近で会合し成形品12の−Z方向でF−F断面の位置が最終充填末端部6となり樹脂の充填を完了する。
【0084】
左側面方向では、枠状部2の内周側で成形品12の−Z方向でF−F断面の位置が最終の充填末端部6となり樹脂の充填を完了する。
【0085】
インサート部品11があっても、このような樹脂の流れを流動規制部20とインサート部品11により創出することで、充填末端部6を制御するため、強いウェルドラインの発生を抑え、成形品12の外観面に樹脂の充填末端部6が発生することを防止することが可能となる。
【0086】
以上、本発明をいくつかの実施の形態例を用いて説明したが、本発明の主旨を実現する具体的な構造は他に多く考えられ、当該業種に属する者にとって変形は容易であるがそれらは本発明から逸脱するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る射出成形金型装置は、樹脂成形品の樹脂の充填末端部の位置制御を可能とし、樹脂の射出成形金型装置において有効である。
【符号の説明】
【0088】
1,12 成形品
2 枠状部
3 ゲート部
4 開口
5 相手部品
6 充填末端部
7 分割線
8 上型
9 下型
10 流動規制部品
11 インサート部品
13 抜き曲げ形状
14 連結穴
15 連結開口穴
20 流動規制部
34 シャッタ
35 上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品に有する枠状部の任意の一辺にある充填末端部を中心として左右にそれぞれ1つ以上設けた樹脂の流動規制部とを備えたことを特徴とする射出成形金型装置。
【請求項2】
前記流動規制部が、前記枠状部の長手方向の中心より内周側に偏って配置されていることを特徴とする請求項1記載の射出成形金型装置。
【請求項3】
前記流動規制部が、前記枠状部の短手方向の断面が台形形状であって、金型の分割面と前記台形形状の斜面とのなす角度が、内周側の斜面が外周側の斜面より大きく設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の射出成形金型装置。
【請求項4】
前記流動規制部が、成形空間を形成する金型部品と別部品で構成され、前記流動規制部と前記金型部品とは部品材質が異なり、かつ前記部品材質の熱伝導率は、前記流動規制部の方が前記金型部品より大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の射出成形金型装置。
【請求項5】
前記流動規制部それぞれの上部に配置され樹脂の流れを分断する抜き曲げ形状の連結開口穴と、前記充填末端部の上部に配置される連結穴を有し、前記樹脂に挟み込まれて成形品と一体なるインサート部品を備え、前記連結開口穴と前記連結穴により前記充填末端部への樹脂の流れを創出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の射出成形金型装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−274439(P2010−274439A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126236(P2009−126236)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】