説明

射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる射出発泡成形体

【課題】 流動性、発泡性に優れ、その射出発泡成形性に影響することなく大型金型による成形が可能な射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物および該樹脂組成物からなる表面性優れた射出発泡成形体を提供すること。
【解決手段】 メルトフローレートが10g/10分以上50g/10分未満、メルトテンションが2cN以上、かつ歪硬化性を示す改質ポリプロピレン系樹脂、ポリオレフィンワックス、発泡剤からなる射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物および該樹脂組成物からなる射出発泡成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物およびそれを用いた射出発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂の射出成形において、軽量化、コストダウン、成形体の反り・ヒケ防止を目的に発泡を行ういわゆる射出発泡成形が従来から行われてきた。ポリプロピレン系樹脂を高発泡化させる技術としては、型開き可能に保持された金型の空間内に発泡剤を含む樹脂を射出成形した後、金型を開くことにより前記空間を拡大して樹脂を発泡させるいわゆるコアバック法(Moving Cavity法)がある。
【0003】
一般に、射出発泡成形に用いる樹脂の特性としては、金型内の隅々まで樹脂が充填されるための流動性とその後、発泡するための発泡性が要求される。
【0004】
通常の線状ポリプロピレン系樹脂は結晶性でメルトテンション(溶融張力)が低いため、気泡が破壊されやすい。その結果、成形体表面にシルバーストリークと呼ばれる外観不良が発生しやすく、さらには内部にボイドが発生しやすく、発泡倍率を高くすることが困難であった。なお、ここでいうボイドとは内部の気泡が連通化するなどして生じる粗大な気泡で、実質その径が1.5mmを越える気泡のことをいう。
【0005】
ポリプロピレン系樹脂のメルトテンションを高める方法として、例えば、架橋剤やシラングラフト熱可塑性樹脂を添加する(特許文献1、2)、無架橋のポリプロピレン系樹脂に放射線照射することで長鎖分岐を導入する方法(特許文献3)などが提案されている。確かに、この方法により高発泡倍率の発泡成形体が得られるものの、溶融時の粘度が上がりすぎ、射出成形が困難となるとともに、得られた成形体の表面性が悪くなる場合があった。特に、大型金型による成形では流動性が不足していわゆるショートショットになる等、この傾向は顕著に見られた。大型金型を用いて射出成形するには、より良好な流動性が求められる。
【0006】
上記流動性を改善するのには、流動性向上剤などの加工助剤を使用することが挙げられる。熱可塑性樹脂にポリオレフィンワックスを適用した技術としては特許文献4、5が挙げられる。特許文献4には、熱可塑性樹脂にポリオレフィンワックスと発泡剤を使用した例が開示されているが、当該文献に記載されている発泡体は発泡シートであり、本発明の射出発泡成形体に要求される樹脂特性とは全く異なり、樹脂の流動性を改善されたものではない。また、特許文献5には、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、均一なセル径を得るための成核剤としてポリオレフィンワックスが使用されることが開示されている。
【0007】
以上のように、熱可塑性樹脂にポリオレフィンワックスを添加した例は報告されているが、射出発泡成形体に適した、流動性と発泡性が両立した樹脂組成物はなく、とりわけ特に大型金型において、発泡性を維持した上、さらに良好な流動性を持って射出発泡成形体を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開昭61−152754号公報
【特許文献2】特開平7−109372号公報
【特許文献3】特開昭62−121704号公報
【特許文献4】特開2004−59867号公報
【特許文献5】特開2005−325361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、流動性、発泡性に優れ、とりわけ大型金型による成形が可能な射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物および該樹脂組成物からなる表面性優れた射出発泡成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の改質ポリプロピレン系樹脂、ポリオレフィンワックスおよび発泡剤からなる射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明の第1は、(a)メルトフローレートが10g/10分以上50g/10分未満、メルトテンションが2cN以上、かつ歪硬化性を示す改質ポリプロピレン系樹脂、(b)ポリオレフィンワックス、および(c)発泡剤、からなる射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【0011】
好ましい態様としては、
(1)前記改質ポリプロピレン系樹脂が、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合して得られたものであること、
(2)前記ポリオレフィンワックスが、メタロセン系触媒を用いて製造されたポリエチレンワックスであること、
(3)前記ポリエチレンワックスが、数平均分子量が1000〜5000、密度が870〜960kg/m3、融点が80〜140℃であること、
を特徴とする前記記載の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【0012】
本発明の第2は、前記記載の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、流動性、発泡性に優れるため、とりわけ大型金型による成形が可能となる。そして、該樹脂組成物からなる射出発泡成形体は、高発泡倍率で表面性が良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物の特徴は、特定のメルトフローレートおよびメルトテンションをもつ改質ポリプロピレン系樹脂と、特定のポリオレフィンワックスを使用することである。
【0016】
本発明で使用する改質ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレートが10g/10分以上50g/10分未満、好ましくは15g/10分以上40g/10分以下であり、メルトテンションが2cN以上、好ましくは5cN以上で、かつ歪硬化性を示すものである。メルトフローレートが10g/10分以上50g/10分未満であると、高発泡倍率であり気泡が均一の発泡成形体が得られる。また、メルトテンションが2cN以上の場合には、発泡倍率が2倍以上あり、均一微細な気泡の発泡成形体が得られる。
【0017】
メルトフローレートとは、ASTM D−1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重下で測定したものを言い、メルトテンションとは、メルトテンション測定用アタッチメントを付けたキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、230℃でφ1mm、長さ10mmの孔を有するダイスから、ピストン降下速度10mm/分で降下させたストランドを1m/分で引き取り、安定後に40m/分2で引き取り速度を増加させたとき、破断したときのロードセル付きプーリーの引き取り荷重を言う。
【0018】
歪硬化性とは、溶融物の延伸歪みの増加に伴い粘度が上昇することとして定義され、通常は特開昭62−121704号公報に記載の方法、すなわち市販のレオメーターにより測定した伸長粘度と時間の関係をプロットすることで判定することができる。また、例えばメルトテンション測定時の溶融ストランドの破断挙動からも歪硬化性を判定できる。すなわち、引き取り速度を増加させたときに急激にメルトテンションが増加し、切断に至るときは歪硬化性を示す場合である。改質ポリプロピレン系樹脂が歪硬化性を示し、メルトテンションが高い場合に発泡倍率が2倍以上の高発泡倍率の発泡成形体が得られ、射出成形時の溶融樹脂流動先端部で破泡しやすくなることによっておこるシルバーストリークが出にくくなる等の理由から表面平滑性に優れた発泡成形体が得られる。
【0019】
このような改質ポリプロピレン系樹脂の製法としては、例えば線状ポリプロピレン系樹脂に放射線を照射するか、または線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合するなどの方法が挙げられる。これらの方法によって得られた改質ポリプロピレン系樹脂は、分岐構造あるいは高分子量成分を含有する。これらの中で、本発明においては、線状ポリプロピレン樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂が、高価な設備を必要としないことにより安価に製造できる点から好ましい。また、本発明の効果が損なわれない範囲で、コストおよび流動性の向上を鑑み、前記改質ポリプロピレン系樹脂に、汎用の線状ポリプロピレン樹脂を使用して希釈してもよい。
【0020】
この改質ポリプロピレン系樹脂の製造に用いられる原料のポリプロピレン系樹脂は、線状の分子構造を有している線状ポリプロピレン系樹脂であり、通常の重合方法、例えば担体に担持させた遷移金属化合物と有機金属化合物から得られる触媒系(例えばチーグラー・ナッタ触媒)の存在下の重合で得られる。具体的には、プロピレンの単独重合体、ブロック共重合体およびランダム共重合体であって、結晶性の重合体があげられる。プロピレンの共重合体としては、プロピレンを75重量%以上含有しているものが、ポリプロピレン系樹脂の特徴である結晶性、剛性、耐薬品性などが保持されている点で好ましい。共重合可能なα−オレフィンは、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などが挙げられる。これらのうち、エチレン、1−ブテンが耐寒脆性向上、安価等という点で好ましい。
【0021】
これら単量体を重合させた線状プロピレン系樹脂としては、具体的には、プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンランダムコポリマー、プロピレン−エチレンブロックコポリマー等挙げられるが、中でも、射出発泡成形体に耐衝撃性を付与しやすいという点から、プロピレン−エチレンブロックコポリマーを使用することが好ましい。
【0022】
また使用する線状ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレートが30g/10分以上60g/10分以下であることが好ましい。当該範囲であると、メルトフローレートが10g/10分以上50g/10分未満の改質ポリプロピレン系樹脂が得やすい。
【0023】
前記共役ジエン化合物としては例えばブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンなどがあげられるが、これらを単独または組み合わせ使用してもよい。これらの中では、ブタジエン、イソプレンが安価で取り扱いやすく、反応が均一に進みやすい点からとくに好ましい。
【0024】
前記共役ジエン化合物の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下が好ましく、0.05重量部以上5重量部以下がさらに好ましい。0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また20重量部を越える添加量においては効果が飽和してしまい、経済的でない場合がある。
【0025】
前記共役ジエン化合物と共重合可能な単量体、たとえば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなどを併用してもよい。
【0026】
ラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物、アゾ化合物などが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂や前記共役ジエン化合物からの水素引き抜き能を有するものが好ましく、一般にケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどの有機過酸化物が挙げられる。これらのうち、とくに水素引き抜き能が高いものが好ましく、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンなどのジアルキルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの1種または2種以上が挙げられる。
【0027】
ラジカル重合開始剤の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下が好ましく、0.05重量部以上2重量部以下がさらに好ましい。0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また10重量部を越える添加量では、改質の効果が飽和してしまい経済的でない場合がある。
【0028】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を溶融混合させるための装置としては、ロール、コニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機などの混練機、2軸表面更新機、2軸多円板装置などの横型撹拌機、ダブルヘリカルリボン撹拌機などの縦型撹拌機、などが挙げられる。これらのうち、混練機を使用することが好ましく、とくに押出機が生産性の点から好ましい。
【0029】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を混合、混練(撹拌)する順序、方法にはとくに制限はない。線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤をドライブレンドしたのち溶融混練(撹拌)してもよいし、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練(撹拌)したのち、共役ジエン化合物あるいはラジカル開始剤を同時にあるいは別々に、一括してあるいは分割して混合してもよい。混練(撹拌)機の温度は130〜300℃が、線状ポリプロピレン系樹脂が溶融し、かつ熱分解しないという点で好ましい。またその時間は一般に1〜60分が好ましい。このようにして、本発明に用いる改質ポリプロピレン系樹脂を製造することができる。改質ポリプロピレン系樹脂の形状、大きさに制限はなく、ペレット状でもよい。
【0030】
ワックスとは、一般的に、常温で固体であり、80〜120℃で、低粘度の液体となるものであり、本発明で使用するポリオレフィンワックスは、炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなるワックスをいい、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックス等が代表的に挙げられる。ここでα−オレフィンとしては、炭素原子数3のプロピレン、炭素原子数4の1−ブテン、炭素原子数5の1−ペンテン、炭素原子数8の1−オクテンなどが挙げられ、好ましくは炭素原子数3〜12のα−オレフィンであり、より好ましくはプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンである。
【0031】
ポリオレフィンワックスの製造には、公知の方法が用いられるが、例えば、周期表第4族から選ばれる遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウムオキシ化合物および/またはイオン化イオン性化合物とからなるメタロセン系触媒を用いて製造される。
【0032】
中でも、エチレン単独重合体またはエチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体といった、エチレン単量体を含んでなるポリエチレンワックスを使用することが好ましく、ポリエチレンワックスの中でも、メタロセン系触媒を用いて製造されたものを使用することが好ましい。
【0033】
前記ポリエチレンワックスは、数平均分子量が1000〜5000であることが好ましく、さらに好ましくは2000〜4000である。密度が870〜960kg/m3であることが好ましく、融点が80〜140℃であることが好ましく、さらに好ましくは融点が90〜120℃の範囲にある。前記を満たすポリエチレンワックスを使用すれば、流動性の改良効果が大きく、表面外観良好な成形体が得られる傾向にある。
【0034】
本発明で使用する射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、改質ポリプロピレン系樹脂、およびポリオレフィンワックスと発泡剤を混合することで得ることが出来る。
【0035】
本発明で使用する改質ポリプロピレン系樹脂、およびポリオレフィンワックスの混合割合は、合計100重量部中、ポリオレフィンワックスが、3重量部以上20重量部以下であることが好ましく、さらに好ましくは4重量部以上10重量部以下である。前記配合量であれば、均一微細な気泡を有する、発泡倍率が2倍以上の発泡成形体が得られる傾向にある。また、薄肉部分を有する成形でショートショットが起こらず、連続して安定した生産が行える。
【0036】
改質ポリプロピレン系樹脂とポリオレフィンワックスの混合方法は特に限定はなく、公知の方法で行うことが出来、例えば、ペレット状の樹脂をブレンダー、ミキサー等を用いてドライブレンドする、溶融混合する、溶剤に溶解して混合する等の方法が挙げられる。本発明においてはドライブレンドした上で射出発泡成形に供する方法が、熱履歴が少なくて済み、メルトテンションの低下が少なくなる為好ましい。
【0037】
射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、射出成形機へ供給され、金型に射出して発泡成形に供される。改質ポリプロピレン系樹脂とポリオレフィンワックスの混合物に発泡剤を含有させて、射出成形機に供給してもよいし、改質ポリプロピレン系樹脂とポリオレフィンワックスの混合物を射出成形機に供給した後、発泡剤を添加してもよい。
【0038】
本発明で使用できる発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤など射出発泡成形に通常使用できるものであればとくに制限はない。化学発泡剤は、前記樹脂と予め混合してから射出成形機に供給され、シリンダ内で分解して炭酸ガス等の気体を発生するものである。化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系化学発泡剤があげられる。物理発泡剤は、成形機のシリンダ内の溶融樹脂にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能するものである。物理発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスがあげられる。これらは単独または2種以上混合して使用してよい。
【0039】
これらの発泡剤の中では、通常の射出成形機が安全に使用でき、均一微細な気泡が得られやすいものとして、化学発泡剤としては無機系化学発泡剤、物理発泡剤としては窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスが好ましい。これらの発泡剤には、発泡成形体の気泡を安定的に均一微細にするために必要に応じて、例えばクエン酸のような有機酸等の発泡助剤やタルク、炭酸リチウムのような無機微粒子等の造核剤を添加してもよい。通常、上記無機系化学発泡剤は取扱性、貯蔵安定性、ポリプロピレン系樹脂への分散性の点から、10〜50重量%濃度のポリオレフィン系樹脂のマスターバッチとして使用されるのが好ましい。
【0040】
上記発泡剤の使用量は、最終製品の発泡倍率と発泡剤の種類や成形時の樹脂温度によって適宜設定すればよい。例えば、通常、無機系化学発泡剤の場合は、本発明の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物100重量部中、好ましくは、0.5重量部以上20重量部以下、さらに好ましくは1重量部以上10重量部以下の範囲で使用される。この範囲で使用することにより、経済的に発泡倍率が2倍以上、且つ均一微細気泡の発泡成形体が得られやすい。
【0041】
さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、架橋剤、連鎖移動剤、核剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を併用してもよい。必要に応じて用いられるこれらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用されるのはもちろんであるが、本発明の改質ポリプロピレン系樹脂とポリオレフィンワックスの混合物100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上10重量部以下使用される。
【0042】
次に射出発泡成形の方法について具体的に説明する。射出発泡成形方法自体は公知の方法が適用でき、ポリプロピレン系樹脂のMFR、発泡剤の種類、成形機の種類あるいは金型の形状によって適宜成形条件を調整すればよい。通常、ポリプロピレン系樹脂の場合は樹脂温度170〜250℃、金型温度10〜100℃、成形サイクル1〜60分、射出速度10〜300mm/秒、射出圧10〜200MPa等の条件で行われる。また、金型内で発泡させる方法としては種々有るが、なかでも固定型と任意の位置に前進および後退が可能な可動型とから構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)が、表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が均一微細気泡になりやすく、軽量性に優れた発泡成形体が得られやすいことから好ましい。可動型を後退させる方法としては、一段階で行ってもよいし、二段階以上の多段階で行ってもよく、後退させる速度も適宜調整してもよい。
【0043】
このようにして本発明の射出発泡成形体を得ることが出来る。
【0044】
本発明の射出発泡成形体の発泡倍率は、好ましくは2倍以上10倍以下、さらに好ましくは2.5倍以上6倍以下である。発泡倍率が2倍未満では軽量性が得られ難く、10倍を越える場合には剛性の低下が著しくなる傾向がある。なお、発泡倍率は、射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物に発泡剤を添加しない以外は射出発泡成形体と同条件で射出成形した非発泡成形体との比重の比から得られた値である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0046】
実施例および比較例において、各種の評価方法に用いられた試験法および判定基準は次の通りである。
【0047】
(1)メルトフローレート:ASTM1238に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定した。
【0048】
(2)メルトテンション:メルトテンション測定用アタッチメントを付けたキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用した。230℃でφ1mm、長さ10mmの孔を有するダイスから、ピストン降下速度10mm/分で降下させたストランドを1m/分で引き取り、安定後に40m/分2で引き取り速度を増加させたとき、破断したときのロードセル付きプーリーの引き取り荷重をメルトテンションとした。
【0049】
(3)歪硬化性:上記メルトテンション測定時、引き取り速度を増加させたときに急激に引き取り荷重が増加し、破断に至った場合を「歪硬化性を示す」、そうでない場合を「歪硬化性を示さない」とした。
【0050】
(4)射出充填性:連続して20ショット成形したときにショートショットになった個数(不良個数)を求めて、次の3段階で評価した。
不良個数が0個・・・・・・・○
不良個数が1〜2個・・・・・△
不良個数が3個以上・・・・・×
【0051】
(5)表面外観:発泡成形体の表面外観の程度を次の3段階で評価した。
金型転写性がよく、光沢(つや)のあるもの・・・・○
金型転写性はよいが、光沢(つや)のないもの・・・△
金型転写性が悪く、光沢(つや)のないもの・・・・×
【0052】
(6)発泡倍率:発泡成形体の底面部から表面の非発泡層も含めた試片を切り出し、別途作製した肉厚3mmの非発泡成形体(参考例1)の底面部との比重の比から求めた。
【0053】
(7)内部ボイド:発泡成形体の底面部を厚み方向に切断した断面を観察し、発泡層中の大きさ1mm以上の気泡の有無をしらべた。
内部ボイドがないもの・・・・・○
有るもの・・・・・・・・・・・×
【0054】
(8)流動性:樹脂温度200℃、背圧5MPaで前記発泡剤を含まない樹脂組成物を溶融混練した後、30℃に設定された、キャビティクリアランスが2mm、幅20mm、最大流動長が2000mmのバーフロー金型を使用し、射出速度60mm/秒、射出圧70MPaで射出充填して取出した射出成形体の流動長を測定した。また、比較例(ポリオレフィンワックスを含まない)に対する流動性向上率を求めた。
【0055】
次に、実施例、比較例で使用したポリプロピレン系樹脂、発泡剤を以下に示す。
【0056】
(A)改質ポリプロピレン系樹脂
MP−1:線状ポリプロピレン系樹脂としてメルトフローレート50g/10分のポリプロピレン・ホモポリマー100重量部と、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.7重量部の混合物を、ホッパーから50kg/時で45mmφ二軸押出機(L/D=40)に供給してシリンダ温度200℃で溶融混練し、途中に設けた圧入部よりイソプレンモノマーを定量ポンプを用いて0.5kg/時の速度で供給し、ストランドを水冷、細断することにより得た改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート14g/10分、メルトテンション5cN、歪硬化性を示す)
(B)ポリオレフィンワックス
分子量2900、密度912kg/m3、軟化点104.5℃、融点102℃である、メタロセン系触媒から製造したポリエチレンワックス(三井化学製エクセレックス30200BT)
(C)発泡剤
B−1:化学発泡剤マスターバッチ(永和化成製ポリスレンEE275、分解ガス量40ml/g)
(実施例1、2)
改質ポリプロピレン系樹脂、ポリオレフィンワックスを表1に示す組成比で、かつ、射出発泡用ポリプロピレン系樹脂組成物中、発泡剤を7.5重量部となるように加えてドライブレンドし、射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0057】
【表1】

宇部興産機械(株)製「MD350S−IIIDP型」(シャットオフノズル仕様)の射出成形機で、樹脂温度200℃、背圧5MPaで前記発泡剤を含む樹脂組成物を溶融混練した後、30℃に設定された、φ2mmのピンゲートを有し、固定型と前進および後退が可能な可動型とから構成される、縦330mm×横230mm×高さ100mmの箱形状のキャビティ(立壁部:傾斜10度、クリアランス3mm、底面部:クリアランスt0=1.5mm)を有する金型中に、射出速度100mm/秒で射出充填した。射出充填完了後に、底面部の発泡倍率が3倍になるように可動型を後退させて、キャビティ内の樹脂を発泡させた。発泡完了後60秒間冷却してから発泡成形体を取り出した。得られた発泡成形体の物性評価を表2に示す。
【0058】
【表2】

本発明の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は流動性に優れていることから、流動性向上率は9〜18%であり、連続成形時のショートショットが起こりにくく、射出充填性が良好であった。また、発泡成形体の底面部の発泡倍率は3倍であり、高発泡倍率のものが、表面に光沢(つや)があり表面外観良好であった。
【0059】
(比較例1)
ポリオレフィンワックスを使用しなかった以外は、実施例1、2と同様にして実施した。結果を表2に示す。実施例と比較して、流動性および表面外観が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の射出発泡用ポリプロピレン系樹脂組成物は、溶融時の流動性が高く、且つ、メルトテンションも高いため、該樹脂組成物を使用することにより、高発泡倍率で軽量性に優れ、表面外観良好な大型の射出発泡体が得られる。本発明は、ラゲージボックス、コンソールボックス、ツールボックス等の自動車内装材をはじめ、食品包装用容器、家電ハウジング、日用雑貨品のボックス類等に広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)メルトフローレートが10g/10分以上50g/10分未満、メルトテンションが2cN以上、かつ歪硬化性を示す改質ポリプロピレン系樹脂、(b)ポリオレフィンワックス、および(c)発泡剤、からなる射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記改質ポリプロピレン系樹脂が、線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合して得られたものであることを特徴とする請求項1記載の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィンワックスが、メタロセン系触媒を用いて製造されたポリエチレンワックスであることを特徴とする請求項2記載の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエチレンワックスが、数平均分子量が1000〜5000、密度が870〜960kg/m3、融点が80〜140℃であることを特徴とする請求項1〜3何れか一項に記載の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4何れか一項に記載の射出発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体。

【公開番号】特開2008−101060(P2008−101060A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282827(P2006−282827)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】