説明

導波路型可変光減衰器

【課題】従来の導波路型可変光減衰器は可変光減衰器の光減衰量を増やしたときに、光減衰器の偏波依存性が大きいという解決すべき点を有していた。
【解決手段】基板上に形成された導波路で構成される導波路型可変光減衰器において、前記可変光減衰器が、入力導波路、第1の光カプラ、第2の光カプラ、前記第1と第2の光カプラを結ぶ2本のアーム導波路、および出力導波路から構成されており、前記第1と第2の光カプラは前記2本のアーム導波路が近接する領域を含み構成される方向性結合器であって、特に、前記アーム導波路の長さを、使用光波長を導波路複屈折で割って求められるビート長の整数倍に設計する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上の光導波路で構成された導波路型可変光減衰器に関する。更に詳しく
は、本発明は、その構成要素である光カプラにおける導波路複屈折を一定の値以上に設定
して偏波モード結合を抑制するか、もしくはアーム導波路の長さを複屈折ビート長の整数
倍に設定することにより、偏波依存性を抑制した偏波無依存導波路型可変光減衰器に関す
る。
【背景技術】
【0002】
近年、通信容量の拡大のために複数の光波長を用いた光波長多重通信システム(WDM
システム)の開発が盛んである。光波長多重通信システムでは、非線形抑圧やクロストー
ク抑圧の観点から、各波長信号のレベルを等しくすることが求められる。現在、このレベ
ル等化のために導波路型可変光減衰器が広く用いられようとしている。導波路型可変光減
衰器は、アレイ化などの集積化が容易であるため、経済化や小型化の観点で、それ以外の
バルク型・磁気光学型・MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型可変光減衰器
よりも有利である。
【0003】
図面を用いて導波路型可変光減衰器の説明を行う。図8に従来の代表的な導波路型可変
光減衰器の平面図を示す。この導波路型可変光減衰器100は、入力導波路101a、1
01b、第1の光カプラ102、2本のアーム導波路103,104、それらアーム導波
路上に配置された位相制御器105、第2の光カプラ106、出力導波路107a、10
7b、および薄膜ヒータ108を有する。110は後述する応力解放溝である。
【0004】
図9は、上記の応力解放溝110が形成されていない従来例を想定した場合の図8のIX
−IX切断線に沿う拡大断面図である。図9に示すように、導波路型可変光減衰器100の
基板として熱伝導性に優れたシリコン基板109が使われ、埋め込まれた石英系導波路1
03,104の表面に薄膜ヒータ108が配置された構成となっている。
【0005】
その導波路型可変光減衰器100の動作原理を以下に簡単に説明する。入力導波路10
1aから入射された光は、第1の光カプラ102で2分岐されて2本のアーム導波路10
3,104に分かれる。そして、位相制御器105を具備したアーム導波路103,10
4を伝搬した光は再度第2の光カプラ106で合波されることにより互いに干渉して、互
いの位相が一致している場合にはクロスポート出力導波路107bに、互いの位相がπず
れている場合にはスルーポート出力導波路107aに、そして、その中間の状態の場合に
は互いの位相差に応じて両方の出力導波路107a,107bからそれぞれ光が出力され
る。第2の光カプラ106に入射するときの2つの光の位相関係は、アーム導波路104
に設けた位相制御器105で制御される。位相制御器105として、石英系導波路103
,104上に配置された薄膜ヒータ108からなる熱光学位相制御器がよく用いられる。
熱光学効果は、原理的には偏波依存性のない現象であるため、電気光学効果や光弾性効果
に比べて、偏波依存性が少ないという特徴を有している。
【0006】
上述のとおり、熱光学効果を用いた従来の導波路型可変光減衰器は、アレイ化など集積
化が容易であるため、電気光学効果や光弾性効果などの他技術を用いた可変光減衰器に比
べて、経済化・小型化の観点から有利である。
【0007】
しかしながら、実際には、熱光学効果を用いた従来の導波路型可変光減衰器は、可変光
減衰器の減衰量を増やしたときに、偏波依存性(polarization dependent loss :PDL
)が大きくなるという問題点を有していた。図9の断面構造を有する可変光減衰器の光減
衰量とPDLとの関係を図10に示す。図10に示すように、15dBの光減衰量におい
て4dB近くの大きなPDLが発生している。光減衰時のPDLが大きいということは、
光ファイバ中の偏波状態を規定しない現行の光通信システム運用上極めて大きな問題であ
り、これが導波路型可変光減衰器の普及を妨げている最大の原因であった。
【0008】
このように、従来の導波路型可変光減衰器は可変光減衰器の光減衰量を増やしたときに
、光減衰器の偏波依存性が大きいという解決すべき点を有していた。
【0009】
【非特許文献1】Y. Inoue et al.,"Polarization sensitivity of a silica waveguide thermo-optic phase shifter for planar lightwave circuits," IEEE Photon.Technol.Lett.,vol.4,no.1,pp.36-38,Jan.1992.
【非特許文献2】KIM et al.,"Limitation of PMD Compensation Due to Polarization-Dependent Loss in High-Speed Optical Transmission Links," IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 14, NO. 1, JANUARY 2002.
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、導波路型可変光減衰器の偏波依存性の問題を解消することにより、偏
波依存性の小さな導波路型可変光減衰器を提供することである。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様は、基板上に形成された導波路で構成さ
れる導波路型可変光減衰器において、前記可変光減衰器が、入力導波路、第1の光カプラ
、第2の光カプラ、前記第1と第2の光カプラを結ぶ2本のアーム導波路、および出力導
波路から構成されており、前記第1と第2の光カプラは前記2本のアーム導波路が近接す
る領域を含み構成される方向性結合器であって、特に、前記アーム導波路の長さが、使用光波長を導波路複屈折で割って求められるビート長の整数倍に設計されていることを特徴とする。
【0012】
また、好ましくは、前記2本のアーム導波路の少なくとも一方に位相制御器を具備して
おり、可変光減衰器もしくは光スイッチとして機能するとすることができる。
【0013】
また、好ましくは、前記基板がシリコン基板であり、前記導波路が石英系ガラス導波路
であるとすることができる。
【0014】
上記構成により、本発明によれば、光減衰時のPDL(偏波依存性)が小さな導波路型
可変光減衰器、光スイッチおよび、光フィルタを実現することが可能となる。この結果と
して、本発明によれば、小型で集積性に優れた導波路型可変光減衰器、光スイッチおよび
、光フィルタが実用的になり、そのため、本発明は、光波長多重通信システムの通信装置
等の経済化等に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態の導波路型可変光減衰器の構成を示す平面図 である。
【図2】図2は本発明の第1の実施形態の導波路型可変光減衰器の断面構造を拡大し て示す断面拡大図である。
【図3A】図3Aは本発明の第1の実施形態の導波路型可変光減衰器の導波路作製工 程を示す工程図である。
【図3B】図3Bは本発明の第1の実施形態の導波路型可変光減衰器の導波路作製工 程を示す工程図である。
【図3C】図3Cは本発明の第1の実施形態の導波路型可変光減衰器の導波路作製工 程を示す工程図である。
【図3D】図3Dは本発明の第1の実施形態の導波路型可変光減衰器の導波路作製工 程を示す工程図である。
【図3E】図3Eは本発明の第1の実施形態の導波路型可変光減衰器の導波路作製工 程を示す工程図である。
【図4】図4は導波路複屈折と方向性結合器クロスポートにおける偏波モード結合量 の関係を示す特性図である。
【図5】図5は本発明の第1の実施形態の導波路型可変光減衰器における光減衰量と 偏波依存損失(PDL)との関係を示す特性図である。
【図6】図6は本発明の第2の実施形態の可変光減衰器における光減衰量と偏波依存 損失(PDL)との関係を示す特性図である。
【図7】図7は本発明の第3の実施形態の導波路型可変光減衰器における光減衰量と 偏波依存損失(PDL)との関係を示す特性図である。
【図8】図8は従来技術による導波路型可変光減衰器の構成を示す平面図である。
【図9】図9は従来技術による導波路型可変光減衰器の断面構造を拡大して示す断面 拡大図である。
【図10】図10は従来技術の導波路型可変光減衰器における光減衰量と偏波依存損 失(PDL)との関係を示す特性図である。
【図11】図11は従来技術による応力解放溝付き導波路型可変光減衰器の断面構造 を拡大して示す断面拡大図である。
【図12】図12は従来技術の応力解放溝付き可変光減衰器における光減衰量と偏波 依存損失(PDL)との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(偏波依存性発生モデルと偏波依存性を抑圧するための必要条件)
具体的な本発明の実施形態を説明する前に、導波路型可変光減衰器の偏波依存性の原因
を解析した結果を述べる。
【0017】
石英系ガラス中の熱光学効果が基本的に偏波依存性を有しない現象であることは従来技
術の項に述べた。では何故、導波路型可変光減衰器が偏波依存性を有するかを、図8と図
9を用いて以下に説明する。偏波依存性の主たる原因としては次の2つが考えられる。1
つは、熱光学位相制御器105の偏波依存性であり、もう1つは光カプラ102,106
における偏波モード結合である。
【0018】
まず、前者の熱光学位相制御器105の偏波依存性についての報告が、非特許文献1に
なされている。その報告内容を簡単に説明すると、次の通りである。薄膜ヒータ108で
局所的に加熱された石英系導波路103,104は膨張しようとする。その場合、基板1
09と垂直な方向(図9の上方向)へは膨張することができるが、基板109と平行方向
(図9の横方向)へは、周囲を加熱されない石英系ガラス(クラッド)111で囲まれて
いるため、膨張することができない。この結果として、基板109の表面と平行方向に強
い圧縮応力が発生する。この圧縮応力は、光弾性効果のために導波路(コア)103,1
04の屈折率を増加させる。従って、薄膜ヒータ108の直下の導波路103,104は
、温度上昇に伴う熱光学効果とともに、局所的なガラスの熱膨張に起因する光弾性効果に
より屈折率が増加する。このため、熱光学効果自体には偏波依存性がないにかかわらず、
熱膨張で生じる応力に異方性があるため、光弾性効果による屈折率変化が偏波依存性を有
することとなる。
【0019】
この光弾性効果による熱光学位相制御器の偏波依存性は、図11に示すように、熱光学
位相制御器105(並びに薄膜ヒータ108)の両側に応力解放溝110を形成すること
で、ある程度抑制できる。図11に示す応力解放溝110を形成した可変光減衰器の光減
衰量とPDLとの関係を図12に示す。図9の断面構造の可変光減衰器では15dB減衰
時のPDLが3.8dBであったものが(図10を参照)、図11の応力解放溝付き可変
光減衰器では1.7dBと、PDLが半分以下の値に低減できている。しかしながら、1
5dB減衰時のPDLが1.7dBという値は、現行の光通信システムの運用上充分な値
ではなく、更なるPDLの抑圧が必要であった。本発明では、15dB減衰時のPDLが
、実際に現行の光通信システムの運用上必要な値と要求されている、0.5dB以下とな
ることを目標とした(非特許文献2)。
【0020】
薄膜ヒータ108の両側に配置した図11の応力解放溝110は、薄膜ヒータ108で
生じた熱が導波路以外の領域を加熱するのを抑制する断熱溝としての機能も有しているた
め、熱光学位相制御器の低消費電力化にも有効である。
【0021】
次に、光カプラの偏波モード結合による偏波依存性について説明する。ここでは、光カ
プラとして、図8に示すような、2本の導波路を近接して構成される方向性結合器102
,106を想定する。一般に、平面基板上の導波路では、擾乱が無い限り、偏波モード間
の結合は生じない。しかし、方向性結合器部ではコアが近接するため、コアを上部クラッ
ド層で埋め込む時に、その2つのコアがお互いに近づく方向に力を受ける。更に具体的に
は説明する以下のとおりである。火炎堆積法を用いて上部クラッドを形成するときに、ガ
ラス微粒子をコアの上や周囲に堆積した後に行う透明化熱処理の過程で、ガラス微粒子が
溶けて収縮しながらコアを覆う。ところが、2つのコアに挟まれた領域ではガラス微粒子
の供給が不足するため、ガラスが粗になり、2つのコアは両外側から内側に押される。こ
の圧力が導波路の光学主軸を傾けるため、偏波モード間の結合が生じる。そのため、方向
性結合器で結合したクロスポート光の一部が偏波モード結合を起こす。一方、2つのコア
が離れるに従い、光学主軸は元通り上下左右に戻るため、スルーポート光は偏波モード結
合を生じない。このような現象は、方向性結合器の場合に限らず、2本のアーム導波路が
近接する場合には必ず起こる。つまり、多モード干渉カプラや非対称X型分岐器において
も入出力端では、2本のアーム導波路が近接するため、偏波モード結合が起こる。次に、
光カプラにおける偏波モード結合が存在する場合の光の伝搬を解析する。この場合を、以
下、図8を用いて説明する。第1の入力導波路(入力ポート)101aから第1のアーム
導波路103を経て第1の出力導波路(出力ポート)107aに伝搬する光は次式(1)
に、第1の入力導波路101aから第2のアーム導波路104を経て第1の出力導波路1
07aに伝搬する光は次式(2)に、第1の入力導波路101aから第1のアーム導波路
103を経て第2の出力導波路107bに伝搬する光は次式(3)に、第1の入力導波路
101aから第2のアーム導波路104を経て第2の出力導波路107bに伝搬する光は
次式(4)に、それぞれ書き表される。
【0022】
但し、次式行列の第1行はTE成分を、第2行はTM成分を示す。またITE(TM)
:入力光のTE(TM)成分、κ:光カプラの結合効率、α:光カプラにおける光学主軸
の傾き、θ1(2)TE(TM):第1(2)のアーム導波路103,104におけるT
E(TM)成分の位相変化量と定義する。ここで、光カプラにおけるクロスポート偏波モ
ード結合量はsin2αで表される。
【0023】
【数1】

【0024】
【数2】

【0025】
【数3】

【0026】
【数4】

【0027】
第1の入力導波路101aから第1の出力導波路107aへのスルーポート出力は、上
式(1)と上式(2)の和をとって、次式(5)となる。
【0028】
【数5】

【0029】
上式(5)において、見通しをよくするために光カプラの結合率として次式(6)を仮
定する。
【0030】
【数6】

【0031】
スルーポート出力が最も減衰する条件は、2本のアーム導波路長が等しいときであるか
ら、その条件は次式(7)で表される。
【0032】
【数7】

【0033】
上式(5)に上式(6)と上式(7)を代入したとき、偏光状態に依存せずに常に上式
(5)=0が成り立つための条件を求める。これが偏波無依存条件となる。ここで偏光状
態に依存しないとはITEとITMの強度比および位相差に依存しないという意味である

【0034】
【数8】



【0035】
上式(8)から偏波無依存条件として次式(9)が導出される。但しmは整数である。
【0036】
【数9】



【0037】
ここで、第1のアーム導波路103における、アーム導波路の長さをL、使用波長をλ、TM光の実効屈折率をn1TM、TE光の実効屈折率をn1TE、導波路複屈折をBとおくと、θ1TM、θ1TMおよびBはそれぞれ次式(10)、(11)、(12)のように定義される。
【0038】
【数10】

【0039】
【数11】



【0040】
【数12】


これら式(10)、(11)を上記式(9)の下段の式(以下、第2式と称する)に代
入し、式(12)を適用すると、次式(13)が得られる。
【0041】
【数13】

【0042】
すなわち、上記式(9)、(13)から、光カプラにおける偏波モード結合(sin
2α)が0になるか、もしくはアーム導波路の長さ(L)が使用光波長(λ)を導波路複
屈折(B)で割って求められるビート長の整数倍(m)であればスルーポート出力の偏波
依存性は解消される。
【0043】
同様に、第1の入力導波路101aから第2の出力導波路107bへのクロスポート出
力は上式(3)と上式(4)の和をとって次式(14)となる。
【0044】
【数14】


【0045】
クロスポート出力が最も減衰する条件は、2本のアーム導波路長差が使用光波長の1/
2波長の場合である。この条件は次式(15)で表される。
【0046】
【数15】



【0047】
上式(14)に上式(15)を代入したとき、偏光状態に依存せずに常に上式(14)
=0が成り立つための条件を求める。これが偏波無依存条件となる。
【0048】
【数16】




【0049】
上式(16)から偏波無依存条件として次式(17)が導出される。
【0050】
【数17】


【0051】
上式(17)と上式(9)は等しい。したがって、上式(17)から上式(13)も得
られる。すなわち、光カプラにおける偏波モード結合(sin 2α)が0になるか、も
しくはアーム導波路の長さ(L)が使用光波長(λ)を導波路複屈折(B)で割って求め
られるビート長の整数倍(m)であればスルーポート出力およびクロスポート出力の偏波
依存性は解消される。
【0052】
以上の考察により、導波路型可変光減衰器および光スイッチの偏波依存性を抑圧するた
めの必要条件が求められる。
【0053】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[第1の実施形態]
図1に、本発明の第1の実施形態である導波路型可変光源衰器の構成を示す。この導波
路型可変光減衰器100は、入力導波路101a、第1の光カプラ102、2本のアーム
導波路103,104、それらアーム導波路上に配置された位相制御器105、第2の光
カプラ106、出力導波路107b、薄膜ヒータ108、および応力解放溝110を有す
る。本実施形態では、入力導波路101aに対してクロスポートに位置する導波路107
bを出力導波路として用いる。クロスポート出力を用いる理由は、第1および第2の光カ
プラ102,106として用いる方向性結合器を同一設計とした場合に、両者の結合率が
ほぼ等しくなり、その結果として、高い可変光減衰量が得られるためである。
【0054】
図2に図1のII-II切断線に沿う拡大断面図を示す。基本的な回路構成は従来技術に述
べた図11の構成と同じである。本実施形態と従来技術との相違点は、第1および第2の
光カプラを構成する方向性結合器102,106の導波路複屈折率の絶対値を3.5×1
−4以上に設定していることである。ここで、導波路複屈折Bは、式(12)で定義し
たように、TMモードの実効屈折率nTMとTEモードの実効屈折率nTEとの差(B=
TM−nTE)である。
【0055】
本実施形態の導波路作製工程を、図3A〜3Eの工程図を用いて簡単に説明する。シリ
コン基板109上に、火炎堆積法(FHD)でSiOを主成分にした下部クラッドガラ
ス微粒子301、SiOにGeOを添加したコアガラス微粒子302をそれぞれ堆積
する(図3A参照)。この段階では、ガラス微粒子301と302は、光を散乱するため
、白い膜に見える。
【0056】
その後、1,000℃以上の高温でガラスの透明化を行なう。ガラス微粒子301と3
02を表面に堆積したシリコン基板109を徐々に加熱していくと、ガラス微粒子が溶け
て、透明なガラス膜が形成される。この時に、下部クラッドガラス層303の厚さが30
μmなるように、またコアガラス層304の厚さが7μmなるように、ガラス微
粒子の堆積量をそれぞれ調整している(図3B参照)。
【0057】
引き続き、フォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング(RIE)によって、コ
アガラス層304のパターン化を行なう。これにより、下部クラッドガラス層303上に
コア305が形成される(図3C参照)。
【0058】
SiO上部クラッドガラス微粒子306を、火炎堆積法(FHD)により、下部クラ
ッドガラス層303とコア305の上部に堆積する(図3D参照)。
【0059】
最後に高温透明化を行ない、透明な上部クラッドガラス層307が形成された埋め込み
導波路を作製する(図3E参照)。上部クラッドガラス層307にはドーパントを添加す
ることでガラス転移温度を下げ、上部クラッドガラス層307の高温透明化の工程でコア
305が変形しないようにしている。なお、図3Eに示す上部クラッドガラス層(以下、
上部クラッド層と称する)307と下部クラッドガラス層(以下、下部クラッド層と称す
る)303が図2のクラッド111に対応し、コア305が図2の導波路(コア)103
,104に対応している。
【0060】
導波路複屈折は、コア305の縦横比や、基板109、コアガラス305、クラッドガ
ラス303,307等の熱膨張係数、およびこれらのガラスの軟化温度に依存する。その
ため、これらの値を適宜選ぶことにより導波路複屈折を制御することができる。
【0061】
導波路型可変光減衰器を作製するために、図3A〜3Eで説明した工程に加えて、上部
クラッド層307の表面へ図1と図2に図示した薄膜ヒータ108および配線電極を形成
し、更に熱光学位相制御器105で発生する熱応力による偏波依存性を抑制するために図
1と図2に図示した応力解放溝110を形成する。
【0062】
本発明の実施形態の具体例を説明する前に、先に論じた偏波依存性発生モデルを実証す
るために、まず方向性結合器部での偏波モード結合を評価した。また、その偏波モード結
合量が導波路複屈折に依存するのではないかという観点で、それら両者の相関関係を求め
た。方向性結合器部での偏波モード結合量と導波路複屈折の関係を図4に示す。ここで、
横軸は導波路複屈折を、縦軸は方向性結合器1段を透過した後のクロスポート出力におけ
る偏波モード結合量を示す。図4から、クロスポート出力における偏波モード結合量と導
波路複屈折との間に強い相関があることが分かる。この現象は、「モード結合量は結合を
起こす2モード(ここでは2つの偏波モード)間の伝搬定数差(導波路複屈折)に反比例
するため」であると解釈できる。また、図4において、同一の導波路複屈折に対して偏波
モード結合量がある程度ばらついているのは、偏波モード結合が様々な攪乱により変動す
るためと解釈できる。
【0063】
光カプラ102,106における偏波モード結合量、すなわち|sin2α|を−25
dB以下とすれば、上式(16)の左辺の値は最大でも入力レベルに対して−25dB以
下となる。言い換えれば、入力光の偏波に依存した光レベルは、入力レベルに対して−2
5dBである。したがって、光減衰量15dBでのPDLは次式(18)で求められるP
DL以下に抑圧できる。
【0064】
【数18】





すなわち、光源推量15dBでのPDLを0.5dB以下に抑圧できる。
【0065】
図4によると、導波路複屈折の絶対値を3.5×10−4以上に設定することで、偏波
モード結合量を−25dB以下にすることができる。すなわち、光減衰量15dBでのP
DLを0.5dB以下に抑圧できる。よって、本実施形態の特徴を、第1および第2の光
カプラ102,106の偏波モード結合量を−25dB以下にすることであり、更には第
1および第2の光カプラを構成する方向性結合器の導波路複屈折率(絶対値)を3.5×
10−4以上にすることができる。
【0066】
図5に、本発明の第1の実施形態として、実際に作製した導波路型可変光減衰器の減衰
量とPDLとの相関関係を示す。本実施形態では、後述の第3の実施形態との比較のため
に、敢えてアーム導波路長をビート長の整数倍の条件から最も離れている約2.5倍の1
1mmとした。
【0067】
実際に作製した導波路の複屈折は、別途セナルモン(Senarmont)測定系で求めたとこ
ろ3.5×10−4であった。このとき、図5に示すように、15dB減衰時のPDLは
0.4dBとなり、当初目標とした0.5dB以下を実現した。
【0068】
本実施形態では、図1と図2に図示され多デバイスを導波路型可変光減衰器として説明
を行っているが、第2の光カプラ106に入射するときの2つの光の位相差を0もしくは
πの2値で使用することにより、図1と図2に示すデバイスは光スイッチとしても利用で
きる。これと同様に、以下に述べる本発明の他の実施形態も光スイッチとしても利用でき
る。
【0069】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態は、上述の本発明の第1の実施形態と同じく、入力導波路に対
して、クロスポート出力を出力導波路として用いる可変光減衰器であり、その基本構成は
図1および図2と同じである。第1の実施形態と第2の実施形態の相違点は、第1の実施
形態の特徴が、「第1および第2の光カプラを構成する方向性結合器の導波路複屈折率の
絶対値を3.5×10−4以上に設定したこと」であったのに対して、第2の実施形態の
特徴は、「アーム導波路の長さを、使用光波長を導波路複屈折で割って求められるビート
長の整数倍に設定していること」である。
【0070】
第2の実施形態では、上式(17)の第2式の偏波依存条件に相当する。
【0071】
本実施形態で作製した導波路の複屈折は、1.2×10−4であった。この場合、導波
路複屈折で使用光波長1.55μm偏波が一回転するビート長は12.9mmと計算さ
れる。そこで、本実施形態では、アーム導波路104の長さをビート長に相当する12.
9mmと設計した。
【0072】
図6に、上記設計条件を適用して実際に作製した本実施形態の導波路型可変光減衰器の
減衰量とPDLとの相関関係を示す。図6から、15dB減衰時のPDLが0.9dBと
、従来例に比較すると小さな値に抑制できたことが分かる。
【0073】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態も、上述の本発明の第1と第2の実施形態と同じく、入力導波
路101aに対して、クロスポート出力107aを出力導波路として用いる可変光減衰器
である。その基本構成は図1および図2と同じである。第3の実施形態の特徴は、第1の
実施形態の特徴である「第1および第2の光カプラを構成する方向性結合器の導波路複屈
折率(絶対値)を3.5×10−4以上に設定したこと」と第2の実施形態の特徴である
「アーム導波路の長さを、使用光波長を導波路複屈折で割って求められるビート長の整数
倍に設定していること」の両方を兼ね備えていることである。
【0074】
実際に作製した導波路の複屈折は、3.5×10−4であった。アーム導波路の長さは
ビート長の3倍である13.3mmに設定した。
【0075】
図7に、実際に作製した第3の実施形態の導波路型可変光減衰器の減衰量とPDLとの
相関関係を示す。15dB減衰時のPDLは0.2dB、更に25dB減衰時でもPDL
は0.6dBと極めて小さい値に抑制できていることが分かる。このように、「第1およ
び第2の光カプラを構成する方向性結合器の導波路複屈折率(絶対値)を3.5×10
以上に設定すること」と「アーム導波路の長さを、使用光波長を導波路複屈折で割って
求められるビート長の整数倍に設定すること」は独立に設計できることなので、好ましく
は両者を同時に満足するよう可変光減衰器を作製することが好ましい。
【0076】
[その他の実施形態]
上記では、本発明の好適な実施形態を例示して説明したが、本発明の実施形態は上記例
示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内であれば、その構成部材等
の置換、変更、追加、個数の増減、形状の設計変更等の各種変形は、全て本発明の実施形
態に含まれる。
【0077】
例えば、上述の本発明の各実施形態では、作製法として火炎堆積法を想定しているが、
埋め込み導波路の作製法としては火炎堆積法以外にもCVD法(Chemical Vapor Deposit
ion)、VPE法(Vapor Phase Epitaxy)などの気相成長法や、スパッタ法などの物理堆
積法もあり、それら作製法を適用した場合においても本発明は有効である。
【0078】
また、上述の本発明の各実施形態では、光カプラとして方向性結合器を想定しているが
、多モード干渉型(Multi-Mode Interference)合分波器、非対称X型分岐器などにおい
てもコアが近接する領域において、偏波モード結合が発生し、本発明を構成する光カプラ
として有効である。つまり、光合分波器において偏波モード結合を生じる光カプラに対し
てはその形状に依存せずに有効である。
【0079】
また、上述の本発明の各実施形態では、シリコン基板上に形成した石英系ガラス導波路
を用いた光干渉計を示したが、その導波路材料がガラス以外の例えばポリイミド、シリコ
ーン(silicone)、半導体、LiNbOなどであっても本発明の上記の原理は適用可能
である。また、基板の材質もシリコンに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された導波路で構成される導波路型可変光減衰器において、
前記可変光減衰器が、入力導波路、第1の光カプラ、第2の光カプラ、前記第1と第2の光カプラを結ぶ2本のアーム導波路、および出力導波路から構成されており、前記第1と第2の光カプラはそれぞれ前記2本のアーム導波路が近接する領域を含み構成される方向性結合器であって、特に、
前記アーム導波路の長さが、使用光波長を導波路複屈折で割って求められるビート長の整数倍に設計されていることを特徴とする導波路型可変光減衰器。
【請求項2】
前記2本のアーム導波路の少なくとも一方に位相制御器を具備しており、可変光減衰器もしくは光スイッチとして機能することを特徴とする請求項1に記載の導波路型可変光減衰器。
【請求項3】
前記基板がシリコン基板であり、前記導波路が石英系ガラス導波路であることを特徴とする請求項1または2に記載の導波路型可変光減衰器。






【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−65187(P2011−65187A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280942(P2010−280942)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【分割の表示】特願2006−552984(P2006−552984)の分割
【原出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】