説明

導電ペーストおよび多層回路基板

【課題】 焼成後においてビア周辺のクラック発生をなくすことのできる導電ペーストおよび多層回路基板を提供する。
【解決手段】 LTCC多層回路基板におけるビアに充填する導電ペーストにおいて、その銀含有量を85〜90重量%、銀粒径を3〜5μm、有機ビヒクルを10〜15重量パーセントの組成とする。こうすることで、ペースト充填の際に未充填の不良が発生することがなく、また、焼成後においてもビア31周辺におけるクラック33の発生もなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子機器等の製造に使用する導電ペーストおよび多層回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高機能化に伴い高性能の回路基板も要求され、その回路基板の多層化に適したものとして低温焼結型同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co−fired Ceramics)多層回路基板がある。このような多層回路基板は、各層間に配置した内部配線と、これら層間の内部配線を電気的に接続するビアホール導体とから構成されている。低温焼結型同時焼成セラミックス多層回路基板では、LTCC層間の導通をとるためにビアを設けている。
【0003】
セラミックス多層回路基板は、ビアホールとなる貫通孔を形成したセラミックグリーンシートと配線層とを交互に積層し、そのビアホールに、内部配線を電気的に導通させるために、例えば銀(Ag)あるいは銀とパラジウム等を主成分とするペーストを充填した後、焼成してなるものである。
【0004】
ところが従来の積層基板では、グリーンシートとペーストの成分である銀との熱収縮率の違いから、基板の焼成過程において基板表層の素体部分にクラックが発生するという問題があった。そこで、このような問題を解決するため、例えば、特許文献1には、ペーストに使用する導体を多孔質状(偏平状)の粉末にして、急激な温度変化に起因する応力を緩和し、セラミック部分と導体部分におけるクラックの発生を防ぐ技術が開示されている。
【0005】
一方、特許文献2に記載の積層型部品の製造においては、スルーホールに充填するペースト中の金属の焼成収縮率を小さくすることで、焼成工程における金属の収縮、膨張によるグリーンシートの変形を抑止している。
【0006】
【特許文献1】特公平5−30317号公報
【特許文献2】特開平5−144341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術では、導体ペーストに用いる偏平状粉末を得るため、球状粉末等にボールミル等で機械的力を加えて砕いたり、あるいは延ばす必要があり、基板作成の前段階に工程が複雑になるだけでなく、部品コストの上昇につながるという問題がある。また、特許文献2に記載の方法においても、使用する金属(銀等)の粒子径が小さいため、原材料の加工上の困難性を回避できないという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、充填不良がなく、焼成後、ビア周辺におけるクラックの発生をなくすことができる導電ペーストを提供することである。
【0009】
また、本発明の目的は、焼成後のビア周辺にクラックの発生がない多層回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として、例えば、以下の構成を備える。すなわち、本発明は多層回路基板の貫通ビアに充填する導電ペーストであって、金属含有量が85乃至90重量パーセント、前記金属の粒径が3乃至5μm、有機ビヒクルが10乃至15重量パーセントの組成を有し、焼成収縮率が8乃至10パーセントであることを特徴とする。
【0011】
例えば、前記金属は銀であることを特徴とする。また、例えば、焼成温度が800乃至900℃であることを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決する他の手段として、本発明は、例えば、以下の構成を備える。すなわち、本発明は複数の貫通ビアが形成された多層回路基板であって、前記貫通ビアに銀含有量が85乃至90重量パーセント、銀粒径が3乃至5μm、有機ビヒクルが10乃至15重量パーセントの組成を有する導電ペーストを充填してなり、前記導電ペーストの焼成収縮率が8乃至10パーセントであることを特徴とする。
【0013】
例えば、焼成温度が800乃至900℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板の焼成後において、そのビア周辺にクラックの発生をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面および表を参照して、本発明に係る実施の形態例を詳細に説明する。図1は、本実施の形態例におけるセラミックス多層回路基板(LTCC多層回路基板)の製造工程を示すフローチャートである。最初に図1のステップS1で、セラミックグリーンシートを作製する。ここでは、例えば、アルミナ−ガラス系絶縁セラミックス粉末と、結合剤、可塑剤、溶剤等を含む一般的な有機ビヒクルを混合してなるスラリーを用いて、ドクターブレード装置によって、所定厚のグリーンシートに製膜する。
【0016】
ステップS2において、セラミックグリーンシート上に所定の穴径を有するビア(貫通ビア)を形成する。これらのビアは、例えば、打抜き型やパンチングマシーンを用いて開ける。続くステップS3で、これらのビアに後述する導電材料からなるペーストをスクリーン印刷によって充填する。そして、ステップS5では、配線印刷(内部電極パターンの印刷)を行い、ステップS7で、セラミックグリーンシートを積層する。その後、ステップS9で、積層したシートを焼成する。
【0017】
本実施の形態例に係るLTCC多層回路基板では、ビア部分には、導電材料として銀を用いた導電ペーストを充填する。この導電ペーストは、銀含有量が85〜90重量%で、その銀粒径は3〜5μmであり、有機ビヒクルが10〜15重量パーセントからなる組成を有する。また、ペーストの粘度は、300〜500Pa・sである。
【0018】
樹脂と溶剤からなる有機ビヒクルに使用する溶剤としては、例えば、テルペン系溶剤、エステルアルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤等を、単独で、あるいは組み合わせて使用することができる。より具体的には、例えば、テルピネオール、ジヒドロターピネオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、テキサノール、キシレン、イソプロピルベンゼン、トルエン、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテル等があるが、本実施の形態例に係る導電ペーストでは、テキサノールあるいはテルピネオールを用いる。
【0019】
また、有機ビヒクルに使用する樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、アルキッド系樹脂等を、単独で、あるいは組み合わせて使用することができる。より具体的には、例えば、エチルセルロース、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等を挙げることができるが、本実施の形態例では、エチルセルロース樹脂、アクリル樹脂、あるいはポリビニルブチラール樹脂を用いる。
【0020】
本実施の形態例に係るLTCC多層回路基板では、上記の導電ペーストを用いることで、その導電ペーストとセラミックグリーンシートの収縮挙動のマッチングがとれ、この組成を満たさないペーストは、(1)後述するように、ビア周辺部にクラックが生じて基板としての信頼性に影響を与えることになる、(2)ビア上部に凹凸が生じて平面にならなくなる、(3)ビア導体が断線して、接続の信頼性が低下する、等の不具合が生じる。
【0021】
より詳細には、導電ペーストにおける銀含有量が85〜90重量%を下回ると、基板上部のビアに凹みが生じて平面にならなくなる。また、ビアの充填密度が低下してビア導体が断線し、結果として接続信頼性が低下する。逆に導電ペーストが、これらの規格を上回ると、ペースト粘度の増加によりビアへの充填が困難となる。
【0022】
一方、銀粒径が3〜5μmを下回ると、収縮開始温度がセラミックグリーンシートからずれるため収縮挙動マッチングがとれない。逆に銀粒径が3〜5μmを上回ると、ビア径がφ0.12程度の小さいビアでは、ペーストを充填するときに未充填の不良が発生する。
【0023】
ここで、導電ペーストとセラミックグリーンシートの収縮挙動のマッチングについて説明する。銀とシートのマッチングとは、図2に示すTMA(Thermo Mechanical Analyzer:試料の熱膨張や収縮による寸法変化を調べる装置)曲線において、シートの収縮率の±5%以内(例えば、収縮率が10%であれば、5〜15%の範囲)に導体ペーストの収縮率が入ることをいう。そこで、材料の収縮する温度範囲を300〜800℃と定めた。また、収縮率が10%を超える温度を「収縮開始温度」とし、シートの収縮開始温度から±30℃以内に導体ペーストの収縮開始温度が入る場合をマッチングがとれたという。
【0024】
次に、本実施の形態例に係る回路基板の実験結果について、データやグラフ等を参照して詳細に説明する。表1は、本実施の形態例に係る回路基板の実施例および比較例について得られた結果を示している。
【0025】
これらの実施例等において試料となるセラミックグリーンシートは、そのシート厚が128μmであり、メカパンチで穴径φ0.12mm,φ0.25mm,φ0.45mmの3種類のビアを開け、それらのビアに電極ペーストを充填した。ここでは、これらのグリーンシートを5層積層した。その後、積層シートを焼成し、顕微鏡を使用して、得られた試料におけるクラックの有無を評価した。なお、焼成温度は800〜900℃、焼成時間は10分〜2時間の範囲にあることが好ましい。
【0026】
【表1】

【0027】
表1において、*印を付したものが比較例(試料番号1〜5,10〜13)であり、太字は実施例(試料番号6〜9)である。なお、比較例のうち、穴径φ0.12mm,φ0.25mm,φ0.45mmのいずれのビアにも電極ペーストを充填できなかったもの、あるいは充填不良となったものについては、表1に示していない。
【0028】
表1に示す実施例は、ビアに充填する導電ペーストの銀含有量が85〜90重量%、銀粒径が3〜5μmであり、有機ビヒクルが10〜15重量パーセントからなる組成を有する。また、これらの試料の焼成収縮率は8〜10%であり、ビア充填性にも問題はなく、穴径φ0.12mm,φ0.25mm,φ0.45mmのいずれのビアにおいてもビアクラックの発生はなかった(クラック発生率は0%)。よって、シートとのマッチングも良好であった。
【0029】
一方、これらの実施例に対して比較例に係る導電ペーストは、その銀含有量や銀粒径のいずれか、あるいは両方が上記の範囲外にあり、焼成収縮率も上記の範囲外にある。そのため、穴径φ0.12mm,φ0.25mm,φ0.45mmの全部、あるいはいずれかのビアにおいて、図3に示すように、基板30に形成したビア31の周辺にクラック33が発生した。例えば、試料番号1の場合、すべての穴径のビアでクラックが発生したが、試料番号10〜13では、穴径φ0.45mmのビアにおいてのみクラックが発生した。
【0030】
以上説明したように、本実施の形態例によれば、LTCC多層回路基板におけるビアに充填する導電ペーストについて、その銀含有量を85〜90重量%、銀粒径を3〜5μmとすることで、ペースト充填の際に未充填の不良が発生することもなく、焼成後においてもビア周辺におけるクラックの発生をなくすことができる。
【0031】
例えば、ビアの穴径をφ0.12mm,φ0.25mm,φ0.45mmとした場合、いずれにおいてもビア充填性に問題が発生せず、しかも焼成収縮率を8〜10%の範囲に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態例に係るセラミックス多層回路基板の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】実施例のTMA曲線を示す図である。
【図3】ビア周辺におけるクラックの発生例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
30 基板
31 ビア
33 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層回路基板の貫通ビアに充填する導電ペーストであって、金属含有量が85乃至90重量パーセント、前記金属の粒径が3乃至5μm、有機ビヒクルが10乃至15重量パーセントの組成を有し、焼成収縮率が8乃至10パーセントであることを特徴とする導電ペースト。
【請求項2】
前記金属は銀であることを特徴とする請求項1記載の導電ペースト。
【請求項3】
焼成温度が800乃至900℃であることを特徴とする請求項1または2記載の導電ペースト。
【請求項4】
複数の貫通ビアが形成された多層回路基板であって、前記貫通ビアに銀含有量が85乃至90重量パーセント、銀粒径が3乃至5μm、有機ビヒクルが10乃至15重量パーセントの組成を有する導電ペーストを充填してなり、前記導電ペーストの焼成収縮率が8乃至10パーセントであることを特徴とする多層回路基板。
【請求項5】
焼成温度が800乃至900℃であることを特徴とする請求項4記載の多層回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−261146(P2006−261146A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72211(P2005−72211)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000105350)コーア株式会社 (201)
【Fターム(参考)】